【東日本】〓SoftBank 新スパボ一括購入専用スレ 4

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486非通知さん
 こうなったら、とにかく、キヌ子を最大限に利用し活用し、一日五千円を与える他は、パン一かけら、水一ぱいも饗応(きょうおう)せず、思い切り酷使しなければ、損だ。
温情は大の禁物、わが身の破滅。
 キヌ子に殴られ、ぎゃっという奇妙な悲鳴を挙げても、田島は、しかし、そのキヌ子の怪力を逆に利用する術(すべ)を発見した。
 彼のいわゆる愛人たちの中のひとりに、水原ケイ子という、まだ三十前の、あまり上手(じょうず)でない洋画家がいた。
田園調布のアパートの二部屋を借りて、一つは居間、一つはアトリエに使っていて、田島は、その水原さんが或る画家の紹介状を持って、「オベリスク」に、さし画でもカットでも何でも描かせてほしいと顔を赤らめ、
おどおどしながら申し出たのを可愛く思い、わずかずつ彼女の生計を助けてやる事にしたのである。
物腰がやわらかで、無口で、そうして、ひどい泣き虫の女であった。けれども、吠(ほ)え狂うような、はしたない泣き方などは決してしない。
童女のような可憐な泣き方なので、まんざらでない。
 しかし、たった一つ非常な難点があった。彼女には、兄があった。
永く満洲で軍隊生活をして、小さい時からの乱暴者の由で、骨組もなかなか頑丈(がんじょう)の大男らしく、
彼は、はじめてその話をケイ子から聞かされた時には、実に、いやあな気持がした。
どうも、この、恋人の兄の軍曹(ぐんそう)とか伍長(ごちょう)とかいうものは、ファウストの昔から、色男にとって甚だ不吉な存在だという事になっている。
 その兄が、最近、シベリヤ方面から引揚げて来て、そうして、ケイ子の居間に、頑張っているらしいのである。