情況からの発言 14
客:吉本逝去からはぼ一ヶ月過ぎて、文芸雑誌や書評新聞での追悼もかなり出揃った感もあるけ
ど。目についたところから挙げていくか。まず『週刊読書人』での大西巨人「吉本隆明君のこと」から
行くか。これは特に際立った論評はなかった感があるな。
主:一級品の作品とか評価はするものの、また、自分と大まかに言って立場の違いはなかった、互い
に認めあっていた、とかが言えることの殆んどで。あとこのインタビュー読んで分かったんだが、
大西巨人は結局『新日本文学』などから完全に切れてることはなかった。内と外との境界線に位置
してる人だったんだな、て分かった気がする。批判もあるし、喧嘩もするんだけど、でも切れてる
わけじゃなく、そのつもりもない。組織に居ながら改善していくことが本当と考えている。そうい
うタイプと思うな。ただ本当に境界線上にいるから、関係ないようにも見えるんだろうけど、実は
それほど離れているわけでもない。理想の前衛党の在り方をまだ考えている人じゃないか。そうい
う意味じゃ晩年の埴谷雄高の立場に近いんじゃ、て思うけども。埴谷も良い論文書いてるけど、
でも理想の前衛党という観念を捨てきることはできなかった。大西巨人のここでの吉本への評価
はだから、いくぶん複雑な心境が混じってるし、苦さが入ってくる。その力量を認めながら、でも
どっかで、吉本はやりすぎ。て感じてる。それはこのインタビューから漂ってくる。だから吉本よ
りも花田の方に共感もするわけだ。花田も吉本を跳ね返りの反共と見なしていたわけだから。そ
こまでは大西は言わないにしてもね。花田に同情してる節があるだろう。ああいうのを相手にして
大変だったな、みたいな(笑)吉本という題材を語らせることで大西の滲み出る本音を出させたと
いう意味では面白いインタビューじゃないかね。