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近代哲学と現代哲学の分水嶺としてのヘーゲルは、それまでのデカルトから
カントまでの伝統的な推論形式の解体という点において、ベートーヴェンの
作曲語法の発展の経過と類似性がある。特に中期から後期にかけての作品群は
それまでのウィーン古典派音楽の持つ節度を保った様式の解体、特に線の持続
としての旋律の解体が顕著である。
ニーチェは実のところ中期ベートーヴェンの作品群以降に出現した前期ロマン
派から19世紀晩年における現代音楽の最初の鶏鳴までに出現した雑多な
作曲語法の混成群であり、しかもニーチェ自身の語法は秩序あるかつての古典
的形式の持つ集中力を再び復活させる必要性に否応無しに迫られるほどの
放縦と分裂を促進させた。(思考そのものの危機)
20世紀初頭からのある種の前衛音楽は厳格で堅牢な作曲語法の極端なまでの
徹底により、中・後期ベートーヴェン以降に解体の進んだ秩序ある形式を
再び集約した。しかもかつての無邪気で豊穣な様式美はもはやそこには見出
されない。現代音楽に至って、音楽は歴史感覚の激しい訓練の末についには
極度に無性格で純度の高い「香り付き精製エタノール」となったのである。