「652」 フランス構造主義(ポスト・モダン派)を1997年に襲った巨大な学問スキャンダ
ルがあった。その時に書かれた「きみはソーカル事件を知っているか?」(堀茂樹氏筆)を転載して、
5年前に思想・学問業界で何が起きていたのかを追跡してゆく。副島隆彦 2005.4.3
http://www.snsi-j.jp/boyakif/wd200504.html#0301 米国では近年いわゆる「カルチュラル・スタディーズ」が隆盛であることはつとに知られている。
わが国にもどんどん浸透してきているこの知的流派を代表する人文科学誌の一つに『ソーシャル・
テキスト』というのがある。され、この『ソーシャル・テキスト』の1996年春・夏号に、「境界線
を侵犯すること――量子引力の変形解釈学へ向けて――」という謎めいたタイトルの、長大かつ難
解な寄稿論文が掲載された。
内容はというと、世間で大雑把にポスト・モダン思想と見做されている哲学者や精神分析家の文献、
とりわけカルチュラル・スタディーズを実践する米国知識人のあいだで絶大なプレステージを有す
るフランス人現代思想家ラカン、ジル・ドゥルーズ、リオタール等の文献からの引用をふんだんに
散りばめつつ、自然科学の領域においてまで客観的な外界や普遍的な真実の存在を否定し、認識論
上のラディカルな相対主義を標傍するものだった。
曰く、「物理学的『現実』は社会的『現実』と同様に、基本的に、言語学的・社会的構築物である」
……。著者はアラン・ソーカル、ニューヨーク大学の若き物理学教授であった。
ところが、ほんの数週間後、別の雑誌誌上でA・ソーカル本人が驚くべき告白をした。『ソーシ
ャル・テキスト』に受け入れられた彼の論文はカルチュラル・スタディーズ系の学者の言説のパロ
ディであり、その中身たるや、物理を専攻する学生なら誰でもすぐに指摘できるような数学・物理
学上のでたらめの数々と、生半可な科学知識からの短絡的一般化とをつなぎ合わせた粗雑なパッチ
ワークにすぎない、と。