東浩紀302──アニマル批評家列伝

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142第三の波平 ◆JXLBbnYqTY
■セカイ系権力の誕生とパンデミック世界の到来


ミクロな転移点

だれにも転移点というのがある。自らはコントロールできず気になってしかたがなく、価値
観の基準になってしまう。このどうにもならなさ故に反抗的にふるまってしまいがちな愛憎
のつながりである。たとえば子にとっての親。ときに反抗期をすぎ大人になる過程では親は
強力な転移点になる。自立した社会生活の中でさまざまな場面で親のまなざしを感じ、判
断基準となり浮上する。しかし直接、親から価値を押しつけられることには反抗する。それ
は親を排除するのではなく、すでに内面化されついてまわるまなざしからの圧力への抵抗
であるわかっている。だからこそ「自我理想」とのギャップに苦しむ。

このような転移点は親だけではない。たとえばライバルという存在はあからさまな対抗心で
はなくても、さまざまな価値の判断場面で、彼ならばどうする、彼にはじないように、などの
ように知らず知らずに考えてしまっている。あるいは彼の行動の一喜一憂が気になる。ひと
は生きていくなかで、誰もが転移点とつながり、しばられている。ボクがミクロなコンテクスト
というとき、このような卑近な転移点との関係のなかで価値を獲得する状況をいう。