ふうっ、やっと書けますよ・・・
「KEMANAI」についての感想、つけ加えて書きます。
ハードなバイオレンス・シーンがいくつかあるにも拘らず、殺戮の残虐さを
さほど感じさせないのは、ペンのタッチに負うところが大きいのでしょう。
戦艦やメカなど無機質なものを描いていても、どことなく線にぬくもりがあり、
素朴なあたたかさを感じます。
丸味を帯びたやわらかな線。定規を使わずフリー・ハンドで描かれた線たち。
それでいて、デッサンはしっかりと正確になされていて、押えるところは
ちゃんと押えています。
軍服や皮手袋に丹念に描き込まれた襞。覆われた手袋の中には男の人の大きくて
ちょっと無骨な手が息づいているのがわかる。
彼の無骨な手はある時はメカを正確に操縦し、またある時は激情のままに
刀を振り落とし、また別の時には恋人の髪を撫で、やさしく抱擁するのだろうか?
ここに描かれた男の手は、そんな想像力を掻き立てる手だ。
また、とりわけ印象的なのは彼女の眼。
全体のペンタッチがやわらかい中、彼女の瞳だけは極めて硬質な強い線で
くっきりと描かれる。凛とした強い光を放ち、射抜くようなまなざしで。
彼女のまなざしは邪悪なものの前でも一歩も怯まない、真正面から対峙する
気概を感じさせる。彼女の強さはもう失うべきものが何もないところから生ずる
のだろうか? それとも、たとえプログラムだけになっても彼女にささやきかける
正義という名のゴーストの強靭さゆえだろうか?
これはひとりの男の復讐の物語。
自分の身体を失わせ、恋人を死に追いやった邪悪な敵を倒す物語。
彼女との出逢い。(P18〜20)
初めて逢ったとき、彼女は恥ずかしそうに木陰からそっと彼を覗いていた。
顔を半分だけ出して、はにかみながら。。。
彼もまた、言葉もなく彼女を見つめた。ひたすら見つめつづけた。
……ふたりが無言で見つめあって、どのくらいの時が経ったのだろう?
彼女は少しずつ顔を覗かせ、その全貌を彼に見せた。
美しい! 彼女の周りだけ空気が澄んでいる。
その清浄な空気のなかで、ひときわ凛と美しく輝く瞳が彼を瞬時にとらえた。
彼女との初めての出逢いのシーンは、藤村の「初恋」をほうふつさせますね。
「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり」――「初恋」・若菜集より
http://www.komorebi.org/book/da1001/hatukoi.htm ふたりで過ごす楽しいひとときは、敵の襲撃で一変する。
彼女は死に、彼は身体を失った。。。
今、彼は復讐のためだけに生きている。彼女のために。
ところで――。
宇宙船から救出された犬のような動物とは“ゴースト・ドッグ”でしょうかね?
ゴースト・ドッグとは、「イノセント」でのバトーの相棒のような存在?
最初、このゴースト・ドッグは身体のない彼の相棒なのかなあ? と思いつつ
読んでいったのですが、わたしの誤読かもしれませんが、途中で、
彼=ゴースト・ドッグであるような気がしました。
57ページ目、敵兵を倒したあと、ゴースト・ドッグの背後に影のようにぬっと立つ
彼の姿が描かれていますね。
あるがままの姿を写し出すのが「影」ならば、ゴースト・ドッグの正体は彼、
ということになるのではないかと。
身体を失った彼の真の姿とはゴースト・ドッグであり、それは通常は影として
描かれる。なぜなら、文字通り彼は身体がないのだから。
彼こそまさに「我思う、ゆえに我なし」――『謎の男トマ』の典型とでもいうべきか。
奴に対する復讐の怨念、思考はあっても、身体は存在しない。
邪悪極まる《奴》と対決する姿勢は、彼と彼女とでは著しく異なる。
彼はほとんど無言のまま、銃に対抗するように刀を抜いて殺陣を繰り返す。
刀は銃より強し。
銃は立て続けに連発できるという利点があるが、その分「気合い」に欠ける。
刀は瞬発力で勝負する。迫力があるのだ。
彼女は動くことはせず、まなざしと言葉で挑む。
相手を見据え、いかに奴が邪悪で醜悪であるかを、言葉で思い知らせる。
戦闘相手の腐肉を喰らい、臣下の脳髄を貪る行為のおぞましさを
たたきつける。
76ページの彼女のまなざしは、威厳に満ちていて迫力がありますね。
「葉隠」ふうにいうならば、死人(しびと)の眼をした凄みを帯びた彼女には
誰も敵わない。勝てない。
彼女と奴の対決とは、いってみれば互いのゴーストとの闘いでしょうか。
彼女が正義、善である光の象徴ならば、奴は邪悪な闇の象徴。
闇は光を何よりも恐れる。なぜなら、「闇は光に勝たない」から。永遠に。
奴がどんなに権力を持っていても、邪悪な奴のゴーストは脆弱だ。
闇にほんの少しでも光が差し込めば、一瞬のうちに奴は消滅する。
光は闇が濃ければ濃いほどに、威力を発し、増大していくから。
闇が光にとって代わられるのは、光が強いからではなく、
光は人々に望まれるから。
光と闇とでは最後にどちらがより強く渇望されるのか?
人は誰しも生きている以上、悪感情からは逃れられないけど、
悪い感情のままに行動したとき、胸の奥にちくりと痛みが走らないだろうか?
悪い感情のままに暴言を吐いたとき、舌が苦くならないだろうか?
胸の奥に走る痛みに対して自覚がある人は、最終的には光を求めるのだろう。
77ページ。奴は彼女の“邪悪”という言葉に反応して汚物を吐き出す。
奴の内部には汚いものがいっぱい詰まっている。
そして、吐き出した己れの汚物に埋もれて自滅するだろう。
奴にふさわしい最期だ。
ラスト近くの、78〜79ページ。
奴の顔のクローズアップ。とりわけ、奴の眼に注目。
片方は爛れて奴のこころと同様に醜く歪んで垂れ下がっている。
もう一方の義眼は何も映さないブラックホールそのものだ。
義眼の奥に広がるのは漆黒の闇だけ……。
奴は気づいているだろうか?
その漆黒の闇は自らつくりだしたものであることを。
奴は知っているだろうか?
その闇に奴自身が呑み込まれてしまうことを。
闇は、闇をつくりだしたものさえも消滅させてしまうことを。
奴が自滅したのを見届けて、彼は静かに飛び立つ。
今度こそほんとうに「死ぬ」ために……。
――武士道とは死ぬことと見つけたり――。
彼が死んだあとも、彼のサムライ魂は朽ち果てることなく、
永遠に飛翔しつづけるのだろう。
浮遊する彼の魂を次にキャッチするのは誰だろう……?
☆☆わたしの好きなシーン☆☆
♪出逢い♪ (18〜20ページ)
ゞ.ヾ* ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノ
,,ゞ.ヾ* ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノ
,,ゞ.ヾ* ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ゚*。ゞヾ:ゞ ノ
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#刀での戦闘#(54、56、57ページ)
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ノ^ yヽ、っ
ヽ,ノ==l ノ
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#彼女の怒りの瞳#(75、76ページ)
(AAだとちょっと迫力に欠けますが・・・)
ハ,,,_,ハ
ミ: `A´ ミ
ミ っ c ,ミ'
''u''゙u"
あなたの本が読めてとてもとてもうれしかったです♪ よい週末を♪