砂漠と水

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509シリウス ◆qS5Y1mPhJ2

ふうっ、やっと書けますよ・・・
「KEMANAI」についての感想、つけ加えて書きます。

ハードなバイオレンス・シーンがいくつかあるにも拘らず、殺戮の残虐さを
さほど感じさせないのは、ペンのタッチに負うところが大きいのでしょう。
戦艦やメカなど無機質なものを描いていても、どことなく線にぬくもりがあり、
素朴なあたたかさを感じます。
丸味を帯びたやわらかな線。定規を使わずフリー・ハンドで描かれた線たち。
それでいて、デッサンはしっかりと正確になされていて、押えるところは
ちゃんと押えています。
軍服や皮手袋に丹念に描き込まれた襞。覆われた手袋の中には男の人の大きくて
ちょっと無骨な手が息づいているのがわかる。
彼の無骨な手はある時はメカを正確に操縦し、またある時は激情のままに
刀を振り落とし、また別の時には恋人の髪を撫で、やさしく抱擁するのだろうか?
ここに描かれた男の手は、そんな想像力を掻き立てる手だ。

また、とりわけ印象的なのは彼女の眼。
全体のペンタッチがやわらかい中、彼女の瞳だけは極めて硬質な強い線で
くっきりと描かれる。凛とした強い光を放ち、射抜くようなまなざしで。
彼女のまなざしは邪悪なものの前でも一歩も怯まない、真正面から対峙する
気概を感じさせる。彼女の強さはもう失うべきものが何もないところから生ずる
のだろうか? それとも、たとえプログラムだけになっても彼女にささやきかける
正義という名のゴーストの強靭さゆえだろうか?
510シリウス ◆qS5Y1mPhJ2 :2006/12/15(金) 13:04:33

これはひとりの男の復讐の物語。
自分の身体を失わせ、恋人を死に追いやった邪悪な敵を倒す物語。

彼女との出逢い。(P18〜20)
初めて逢ったとき、彼女は恥ずかしそうに木陰からそっと彼を覗いていた。
顔を半分だけ出して、はにかみながら。。。
彼もまた、言葉もなく彼女を見つめた。ひたすら見つめつづけた。
……ふたりが無言で見つめあって、どのくらいの時が経ったのだろう?
彼女は少しずつ顔を覗かせ、その全貌を彼に見せた。
美しい! 彼女の周りだけ空気が澄んでいる。
その清浄な空気のなかで、ひときわ凛と美しく輝く瞳が彼を瞬時にとらえた。

彼女との初めての出逢いのシーンは、藤村の「初恋」をほうふつさせますね。
「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり」――「初恋」・若菜集より
http://www.komorebi.org/book/da1001/hatukoi.htm

ふたりで過ごす楽しいひとときは、敵の襲撃で一変する。
彼女は死に、彼は身体を失った。。。
今、彼は復讐のためだけに生きている。彼女のために。
511シリウス ◆qS5Y1mPhJ2 :2006/12/15(金) 13:05:48

ところで――。
宇宙船から救出された犬のような動物とは“ゴースト・ドッグ”でしょうかね?
ゴースト・ドッグとは、「イノセント」でのバトーの相棒のような存在?
最初、このゴースト・ドッグは身体のない彼の相棒なのかなあ? と思いつつ
読んでいったのですが、わたしの誤読かもしれませんが、途中で、
彼=ゴースト・ドッグであるような気がしました。
57ページ目、敵兵を倒したあと、ゴースト・ドッグの背後に影のようにぬっと立つ
彼の姿が描かれていますね。
あるがままの姿を写し出すのが「影」ならば、ゴースト・ドッグの正体は彼、
ということになるのではないかと。
身体を失った彼の真の姿とはゴースト・ドッグであり、それは通常は影として
描かれる。なぜなら、文字通り彼は身体がないのだから。

彼こそまさに「我思う、ゆえに我なし」――『謎の男トマ』の典型とでもいうべきか。
奴に対する復讐の怨念、思考はあっても、身体は存在しない。
512シリウス ◆qS5Y1mPhJ2 :2006/12/15(金) 13:06:20

邪悪極まる《奴》と対決する姿勢は、彼と彼女とでは著しく異なる。
彼はほとんど無言のまま、銃に対抗するように刀を抜いて殺陣を繰り返す。
刀は銃より強し。
銃は立て続けに連発できるという利点があるが、その分「気合い」に欠ける。
刀は瞬発力で勝負する。迫力があるのだ。

彼女は動くことはせず、まなざしと言葉で挑む。
相手を見据え、いかに奴が邪悪で醜悪であるかを、言葉で思い知らせる。
戦闘相手の腐肉を喰らい、臣下の脳髄を貪る行為のおぞましさを
たたきつける。
76ページの彼女のまなざしは、威厳に満ちていて迫力がありますね。
「葉隠」ふうにいうならば、死人(しびと)の眼をした凄みを帯びた彼女には
誰も敵わない。勝てない。
彼女と奴の対決とは、いってみれば互いのゴーストとの闘いでしょうか。
彼女が正義、善である光の象徴ならば、奴は邪悪な闇の象徴。
闇は光を何よりも恐れる。なぜなら、「闇は光に勝たない」から。永遠に。
513シリウス ◆qS5Y1mPhJ2 :2006/12/15(金) 13:07:11

奴がどんなに権力を持っていても、邪悪な奴のゴーストは脆弱だ。
闇にほんの少しでも光が差し込めば、一瞬のうちに奴は消滅する。
光は闇が濃ければ濃いほどに、威力を発し、増大していくから。
闇が光にとって代わられるのは、光が強いからではなく、
光は人々に望まれるから。
光と闇とでは最後にどちらがより強く渇望されるのか?
人は誰しも生きている以上、悪感情からは逃れられないけど、
悪い感情のままに行動したとき、胸の奥にちくりと痛みが走らないだろうか?
悪い感情のままに暴言を吐いたとき、舌が苦くならないだろうか?
胸の奥に走る痛みに対して自覚がある人は、最終的には光を求めるのだろう。

77ページ。奴は彼女の“邪悪”という言葉に反応して汚物を吐き出す。
奴の内部には汚いものがいっぱい詰まっている。
そして、吐き出した己れの汚物に埋もれて自滅するだろう。
奴にふさわしい最期だ。
514シリウス ◆qS5Y1mPhJ2 :2006/12/15(金) 13:07:57

ラスト近くの、78〜79ページ。
奴の顔のクローズアップ。とりわけ、奴の眼に注目。
片方は爛れて奴のこころと同様に醜く歪んで垂れ下がっている。
もう一方の義眼は何も映さないブラックホールそのものだ。
義眼の奥に広がるのは漆黒の闇だけ……。
奴は気づいているだろうか?
その漆黒の闇は自らつくりだしたものであることを。
奴は知っているだろうか?
その闇に奴自身が呑み込まれてしまうことを。
闇は、闇をつくりだしたものさえも消滅させてしまうことを。

奴が自滅したのを見届けて、彼は静かに飛び立つ。
今度こそほんとうに「死ぬ」ために……。

――武士道とは死ぬことと見つけたり――。
彼が死んだあとも、彼のサムライ魂は朽ち果てることなく、
永遠に飛翔しつづけるのだろう。
浮遊する彼の魂を次にキャッチするのは誰だろう……?
515シリウス ◆qS5Y1mPhJ2 :2006/12/15(金) 13:08:34

☆☆わたしの好きなシーン☆☆

♪出逢い♪ (18〜20ページ)


ゞ.ヾ* ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノ
,,ゞ.ヾ* ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノ
,,ゞ.ヾ* ゚*。ゞヾ:ゞヾ ノノ ゞヾ゚*。ゞヾ:ゞ ノ

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516シリウス ◆qS5Y1mPhJ2 :2006/12/15(金) 13:09:22

#刀での戦闘#(54、56、57ページ)

  ∧__∧    /
  (`・ω・´)  /
  ノ^ yヽ、っ
 ヽ,ノ==l ノ
  /  l|
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#彼女の怒りの瞳#(75、76ページ)
(AAだとちょっと迫力に欠けますが・・・)

    ハ,,,_,ハ 
   ミ: `A´ ミ  
   ミ っ c ,ミ'   
    ''u''゙u"  


あなたの本が読めてとてもとてもうれしかったです♪ よい週末を♪