ダーウィンの危険な思想

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 以上のように考えると、「ダーウィンの危険な思想」は、つまるところ、この世のデザインはどんなものも、いかなる先在的精神の存在に訴えなくとも、
もっぱらアルゴリズムのプロセスを通じてただの素材とある種の秩序だけから生ずることができるのだと主張することによって、ヨーロッパ的思考の伝統的構造を震撼させて、
これを根本から解体してしまう力を秘めていることがわかってくる。
いうまでもなく、いと高きところにあって万物を創造したのだとされる造物主「神」への信仰と、神の生命と精神を直々に吹き込まれて天地を統べるべくこの世にひとり神の子として誕生したのだとされる、
唯一例外の霊的存在「人間」への特別の思い入れが、この危険な思想の到来とともに、一挙に崩れる恐れが生じたのである。
 けれどもデネットの真意は、ダーウィニズムの脅威を強調することで、これへの嫌悪や反撥を徒にあおろうとしたり、ニーチェ的な情熱をもって西洋の伝統的人間観の崩壊を促進させようとしたりする点にあるのではない。
デネットの真意は、むしろ学者、宗教家、一般市民を含めた数々の反ダーウィニストや自称ダーウィニストたちのなかに見られる、不徹底で混乱したダーウィン解釈を徹底して正すことによって、
「ダーウィンの危険な思想」のはらんでいる建設的価値を人々に直視させ、この思想の善用をはかることで、すでに死に体に陥っている西洋の伝統的人間観を、より自由で希望に満ちたものとして蘇生させようとする点にあるのだと言ってよい。
                                              「監訳者あとがき」より