●○● Aquirax: 浅田彰 part11●○●

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石原慎太郎――作家と政治家

石原慎太郎の『太陽の季節』(新潮文庫)を実際に読んだことのある人は意外に少ないのではないかと思う。
ぜひ読むべきだ――いかにひどい小説であるか知るために。
高校生のボクサー竜哉は、勃起したペニスで障子を突き破るという蛮行で女性への欲望を表出し
(時代錯誤としか言いようのないTVドラマ化でこの悪名高い場面を演じさせられた滝沢秀明は本当に気の毒だった)、相手の英子は読んでいた本を投げつけておきながら、結局は求めに応ずる。
こうして始まった関係の帰結は、妊娠、そして中絶手術の失敗による死だ。
英子の葬式にやってきた竜哉は、「馬鹿野郎っ!」と叫んで焼香のための香炉を遺影に叩きつける。
作家は、ハンドバッグを投げつけるシーンと香炉を叩きつけるシーンが呼応して「決まったぜ」と思っているのかもしれないが、どちらも許容範囲を超えて悪趣味というだけだ。
これが書かれた時代にはこういう生々しい欲望と行動の直接性が新奇に映ったのかもしれないにせよ、いま読むと村上春樹ならずとも「やれやれ」と言いたくなる。
この小説は1955年に文學界新人賞、翌年に芥川賞を獲得したが、いま文學界新人賞の選考委員を務める私なら、絶対に受賞に反対しただろう。
その石原慎太郎の初期の小説を集めた短編集『完全な遊戯』の増補版が新潮文庫から出た。
これがまたすごい。
たとえば、冒頭の「完全な遊戯」では、二人の若者が精神障害のあるらしい娘をクルマに連れ込んで強姦し、
さらに家族の別荘に監禁して、他の五人の仲間ともども何度となく強姦したあげく、売春婦として売り飛ばそうとし、結局は海に突き落として殺してしまう。
そのすべてが、利害とも善悪とも関係のない「完全な遊戯」としてなされる、というわけだ。