●○● Aquirax: 浅田彰 part10●○●

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239はっく
動物化する少女漫画とテレビドラマ

「追っかけ」と称する女子高生たちが修学旅行の途中わざわざ
勤務先の大学まで押しかけてきて、留守中の研究室に佐々木倫子
の「動物のお医者さん」を何冊か置いていくという出来事があ
った。
連載中のマンガが何冊か単行本化され、ジベリアン・ハスキー
のブームが始まった頃のことだから、もうずいぶん昔の話だ。
それを読んで、動物たちがいかにも表情豊かに描かれる反面、
主人公のハムテルこと公輝や親友の二階堂(いずれも獣医学部
の学生)といった登場人物たちがみな人形のようにぎこちなく
見える、そのギャップに興味をもった。
その「動物化するお医者さん」をテレビドラマ化するというの
だから、大胆な企画というべきだろう。
前に取り上げた「西洋骨董洋菓子店」(よしながふみ原作)の
例でもわかるように、少女マンガをドラマ化するのは難しい。
ましてや、人間的な動物と非人間的な人間の出てくる少女マン
ガをどうやってドラマ化しようというのだろうか。
実のところ、演出家や俳優たちはけっこう健闘してはいる。
吉沢悠のハムテルはなかなかのはまり役だ(というか演技らし
い演技をしないのが役柄に合っている)。
他方、要潤は二階堂を演ずるには男っぽすぎる(「ヒーロー」出
身の若手俳優にネズミを恐がる獣医学生を演じさせるのが無理
なのだ)。
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だが、周囲の奇人たちに関しては、キャスティングも演出もそ
れなりに巧妙だ。
そしてなにより、こわい顔をしたシベリアン・ハスキーのチョ
ビを初め、動物たちが実に「芸達者」で、ドラマとしてそこそこ
楽しめるのだ。
とはいえ、4月に始まったドラマが5月に入っても視聴者に飽き
られずに好調を維持できるかといえば、なかなか難しいところ
だろう。
他方、やはり少女マンガをTVドラマ化した「きみはペット」
(小川弥生原作)の方は、依然として快調に進んでいる。
主人公のキャリア・ウーマン(小雪)は、自意識過剰からくる
突っ張りゆえに恋人とうまくいかない。
そんな彼女が、雨の夜、ダンボール箱に入って怪我と高熱で震
えていた少年(松本潤)を拾ってきて、ペットとして(ただし性
関係なしで)飼うようになる。
「ペットになるなら部屋に置いてあげる」といえばさすがに帰る
だろうと思ったら、「ペットになる」といわれて引っ込みがつか
なくなり(つまらないプライドを平然と投げ捨てるところが彼の
強みだ)、だんだん情が移ってくるというわけだ。
小雪の突っ張りの演技はさすがに生硬すぎるものの、松本潤は暑
くるしくも愛くるしいペットをなかなかチャーミングに演じてい
る。「動物のお医者さん」に出てくる動物たち以上に表情豊かだと
いえば、ちょっと変だろうか。(ついでに、松本潤と同じ「嵐」の
二宮和也が主演している蜷川幸雄監督の「青の炎」に触れておこう。
これは純粋に「アイドル映画」として見ればなかなかよくできた作
品だ。
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まず、二宮和也が、母と妹を守るために殺人を犯してしまう17歳の
少年を演じ、最初のほうで台詞に難があったりするものの、全体と
して、追い詰められた少年の切なさをよく体現している。
さらに、ガールフレンド役の松浦亜弥の鋭い目線は端倪すべから
ざるもので、原作ではつまらない少女でしかない役にただならな
ぬ存在感を与えている。
だが、邦題が似ているというだけであえて比較するなら、ジャ・
ジャンクー監督の「青の稲妻」の、悲劇さえ不可能な荒廃に比べる
と、「青の炎」は、豊かな社会の子供達の悲劇ごっこに見えかねな
い。
他方、「君はペット」の、ありえなくはないはずなのに何となく
ありそうなアクチュアリティに比べると、それはいかにも古め
かしく見えてしまうのだ。
家族の敵に立ち向かう二宮和也より、年上の女性のペットに徹す
る松本潤のほうが「今風」に見えるのだから、なんとも倒錯的な社
会ではある。)
ところで、ありえない仮定だが、私がもしキャリア・ウーマンだ
ったとしたら、いかに内心の寂しさを癒すためであれ、ここまで
手のかかるうるさいペットに煩わされるのは御免だ。
そういえば、研修中のホテルマン役の吉沢悠が部屋中を完璧に整
理し、トイレット・ペーパーまで三角折にしている(「普通やり
ません?やりません?」)というレオパレスのCMがあったけれど
、ああいうペットなら便利ではないだろうか。

引用者注…端倪すべからず=推測できない、計り知れない