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俺は軌道エレベータに乗っていた
貸切だから独りだ
完成から二年、10万キロ上空の宇宙ステーションまでノンストップで
連れてってくれる時代の申し子
俺は銀色のアタッシュケース二つを持ってそれに乗り込んでいた
X線透視装置に偽の画像を送るフェイク・アタッシュ
その中身はついこの間出来上がったばかりの反物質爆弾と
それを月まで運ぶロケットエンジンだった
人類は宇宙への階段を手にしても未だに国と国で小競り合い 脅し合い
核を持つだの持たないだの撃つだの撃たないだの
その他もろもろをやめずにいた
力なき正義は空しい
子供の頃聞いたその言葉を真に受けて 俺は必死で力を追い求め
その結果を今世界に教えようとしている
俺は月を憎んでいた
女をその体に縛り付ける冷たい女神
きみ と しもべ をよりわける鎖
偉いやつとそうでないやつ
人々を思い通りに動かして己の金を貯めこむやつ
そいつのために時にはくたばるまで働かされるやつ
その二つの生き方を選り分けて押し付けるのが
月の勤めなのだと思っていた
俺は 使う使われるという人の生き方が嫌いだった
その元となる月を壊す
そのつもりでここまで昇ってきた
>417さんは、何方ですか?
俺は緊急脱出用の宇宙服を着込むと
エアロックの非常ボタンを押した
警報が鳴る
この後は時間がない
急いでミサイルを取り出すと
虚空の宇宙空間にそれを据え付けた
音もなくミサイルは月へ向けて飛んでいった
今頃俺のばらまいたコンピュータ・ウィルスが犯行声明を世界中に
伝えている頃だろう
妬み・嫉みが生まれるほど 異なる暮らしをすべきではない
家の周りに壁を作らなければ盗人を招き寄せてしまう城みたいな家に
人は住むべきではない
俺はマジでそう思っていた
核はもう時代遅れだ
俺は平和主義を正義としてこの技術を生み出した
だから人を殺したりはしない
しかし 俺が憎んでいる月を 壊させてもらう
話の半ばですけど、俺は今までの書き込んできた俺と同じ俺です>どなた
俺、SF好きなんですよ…今まで思いつかなかったんで書かなかっただけで
続けまーす
エレベータが止まった
そりゃそうだろう
しかし俺のしようとしていることはもう止められない
すべての軍備を廃止し世界統一を受諾するという回答がない限り
月は無くなるのだ
安いものじゃないか
どうせこの短い間に答えをまとめきれるはずもない
さよなら悪しき女神
女は解き放たれるのかな?その体に背負わされた重荷から
そこまでは俺にはわからない
ただ俺のまぶたに浮かぶのは
遠い昔 遠い遠い昔 少女たちが月を見上げて 変わっていく体に
静かに涙を流している そんな姿だ
俺は静かにモニターに映し出される月の画像を見つめていた
?
何かが向かってくる…月から…なんだ?
人?いや…
俺は急いで画像を最大ズームした
「!!!!!!」
なんてこった!巨大ロボット!!!!
「お〜い…嘘だろ…」
そんなものが、月に?誰か乗っているのか?つうか、かっこいいぞ!
あれ壊しちゃいけないだろ!
そして俺はハッっとした
あれが、正しいのか?俺が、間違っているのか?
あれが俺の企みを叩き潰しに来たのか?
誰かが乗っているかもしれない!人を殺したら俺は俺を正しいと思えなくなる!
月を憎むのは間違っていたのか?
俺は急いで爆破解除コードを打ち込んだ…しくじったんだ…
でも、これは俺の考えが足りなかったからだ…何年ブタ箱入りかな…
「!!!!!!」
アラームが俺のコンピュータからけたたましく鳴り響いた
解除できない!?
俺は繰り返しコードを打ち込んだ!!
エラーがいくらやっても表示される!!
「やばい!」
俺は、ミサイルのコントロールが効くかどうか確かめた
有難い!それは動く!出来るだけ遠くへ…!!誰もいないところへ…!!
そして
真夏の太陽
どころではない輝きが、静かに地球の夜を照らした
下を見ると、地球に夜が無くなっていた
そして、それほど経たないうちに宇宙は元通りの静けさを取り戻した
「ばか!」
俺はいきなりコンピュータのスピーカに叱られた
あら お前の声じゃん よう 十年ぶり
「あたしの結婚資金がパーよ!!!!!」
「?何怒ってんだ?てか、お前、何をしたの?」
「あんたが何をしたの、よ!世界中をびびらせて何様のつもり?ええ、
確かに今の光はものすごかったわよ、こっち夜だけど昼みたいになったわよ、
で、月をぶっ壊すつもりだったんでしょ、月が壊れたら地球がどうなっちゃうか
ちょっとでも考えたの?」
「いや、俺は月が嫌いで…」
「あんたが半月前『シュート・ザ・ムーン』のビデオ送りつけてきたんで
ピンときたのよ!あんた何か下らないことしようとしてるって!ばか!大
ばか!月がなくなれば潮の満ち引きも無くなっちゃうのよ!?」
「月が無くなれば女だって解き放たれるんだ…」
といい終わらないうちに、
「あんた生物学者じゃないでしょ!?どこにそんな妄想の科学的根拠が
あんのよ!!!!!!」
そこでやっと俺は判った
「なんだ、あのロボットお前の差し金かぁ」
「やっと判ったのね」
すこし優しい声がした
「まだトップシークレットの技術で立体映像のプレゼントよ!…でも、
騙されてくれてよかった…」
声が涙ぐんだ
「すごいな、そんなに金、貯めてたのか」
「あなたの家に警察が踏み込んだのがあなたがそれに乗っちゃってから
だから全部あたしのアイデアとあたしの負担よ!それまで誰も相手にして
くれなかったし!お金よ!お金を使うしかなかったのよ!」
「…お前も偉いな。そこまでするこた、なかったんじゃないか?」
「………」
「え?」
「…何か、26歳までにでかいことをしてって言ったの、あたしだし…」
消え入りそうな声で、お前は言った
「もう、とっくに過ぎちゃったけどな」
「…ぁのね…」
お前はもっと消え入りそうな声で言った
「ん?」
「…誰にも言わないでね?」
「ああ」
「……ちょっとだけ、嬉しぃ…」
「そか。報われるよ、それだけで」
「……ぅん……」
で、俺は精神病院に入れられ、裁判を待つ身になった
お前は一回だけ、面会に来た
「しかし、ビデオ一つで何から何まで見通すなんて、お前も悟りが
激しすぎだな。可笑しいよ」
お前は頬を膨らませた
「…って……もん!」
「え?」
「…だって、あなたの…おんな、だもん!」
「…まだ、独りだったのか…」
「だって」
「ん」
「悔しいんだもん。さっさと誰かに乗り換えて、あなたに『ああ、あいつも…』
って思われるの」
「ん。…俺も、そう思ってる」
「…言わなくてもわかってる」
「そか」
「…ね、隣の国が徴兵制やめて自衛隊化したのよ?そのかわり反物質
エネルギーのノウハウをこっちから輸出するんだって」
「ふうん」
「なんだ、張り合いない」
「もう俺はやるこたやったし」
「…やっぱ、小物ね」
俺は驚くほどその時かっとなった そして、あわてて頭を冷やした
「…たく、お前は俺をのせるのがまじ上手いよ」
「…長い仲じゃん」
「離れてたけどな。会いもしないで」
「恋ってそういうものじゃないの?」
俺は笑った
「そうだったら、いいな」
これにはお前が怒った
「ねぇ、別れる?」
「いやいやいやいや」
俺はぶるんぶるんと首を振った
「時間です」
そこでそう告げられた
「もう来ないよ。出てきて。いつでもいいから」
「ああ。よくわかんないけどな」
その通り、よくわかんないうちに俺は無罪となり、通院を条件に監視つきの
生活を許された
で、俺はお前と二人でロケットをかっぱらって地球を飛び出すわけだけど…
それはまた、違う物語