>>366 原典は、
Peter Aczel, ``Frege structures and the notions of proposition, truth
and set'' in J. Barwise et al. (eds.), _The Kleene Symposium_ (North-Holland, 1980).
です。フレーゲ構造というのは Aczel が概念記法をパラドクスを逃れた仕方
で再構成してつくったもので、
・ラムダ計算のモデル
・その部分集合である「命題」の集合
・そのまた部分集合である「真なる命題」の集合
を定めることによってつくられる、数学的構造のことです。すると、この構造
をモデルとする形式的体系を構成してやることができて、その体系は概念記法
を現代的なしかたで再構成したものとみなすことができます。(つづく)
(つづき)体系の中身は、ラムダ計算の言語に、推論ができるように論理定項
が入ってるというものなんだけど、ラムダ計算にただ論理定項を加えただけだ
と、概念記法のようにパラドクスが起きてしまいます。なので、フレーゲ構造
の体系においては「命題を表現するターム」とそうでないタームとを構文論的
に区別して、証明中には命題を表現するタームのみがあらわれるようにしてパ
ラドクスをブロックし てます。(ラッセル・パラドクスを導くために必要とな
る、
(λx. ┐xx)(λx. ┐xx)
のようなタームは、フレーゲ構造においては命題とは認められないので、そも
そも証明中に登場することができない。)
概念記法の矛盾した原因というと、これまでは素朴に集合論的枠組で考えて、
第五公理だけに問題があるかのような議論がなされてきたけど、概念記法の内
容をより忠実に反映しているフレーゲ構造をもとに矛盾の原因を分析してみる
と、そんなに単純な話ではなく、第五公理そのものに問題があるとはいえなく
なる、というのが『思想』の津留論文の要旨です。
フレーゲ構造の実際に中身についてはAczelの原論文にあたられるのが一番だと
思いますが、オンラインで入手できるものだと、たとえば
Fairouz Kamareddine, ``Set theory and nominalisation I'' (1992)
Available from:
http://www.macs.hw.ac.uk/~fairouz/papers/ に解説があります。また、フレーゲ構造は、計算機科学の分野でプログラムの
形式的開発のための枠組として応用されているらしく(私も詳しくは知らない)、
その方面からの解説が、
林晋・小林聡、『構成的プログラミングの基礎』(遊星社、1991年)
にあります。