人はなぜ人を殺してはいけないのだろう?

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575430 (引用文)
『 道徳が有効であるためには、それは神聖にして不可侵のものでなければならない。
だから、なぜ悪いことをしてはいけないのか、なぜ道徳的でなければならないのか、
といった問いに「かくかくしかじかのため」といった明快で単純な答えはあっては
ならないのである。そんなものはすぐにかんたんに論駁されてしまうからだ。今日、
意外なことだが、道徳の権威を守る唯一の砦は哲学である。道徳が哲学的に基礎づけ
られると言いたいのではない。道徳系譜学的知見をも越えて、道徳についてどこまで
も真剣に哲学し続けるという意志だけが、唯一、道徳の権威を保持しうるのである。
それは、はるかなむかしにあのソクラテスが考え出し、今日まで受け継がれてきた
道徳擁護の特殊な、しかし究極的な方法である。そこでは道徳はどこまでも疑われて
よい。いや、どこまでも徹底的に疑われなければならない。その疑いを真剣に受け
止め、さらにそれについてどこまでも考え続けようとすることによってのみ、その
意志の真摯さによってのみ、道徳の権威は保ち続けられるのである。
 だから、もしいま、十三歳の中学生に「なぜ人を殺してはいけないのか、そもそも
なぜ悪いことをしてはいけないのか」と本気で問われたなら、「道徳的に」(原文は
傍点強調)正しい唯一の答えは「それについていっしょに哲学しよう」である。
それ以外の答えはまやかしである。」』