自由意志と因果法則をめぐるパラドクス??

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177名無しやろー
 参考までに。

 量子論のトピックで、モール『人間の自由と生物学的本性』(1984)をテキトーに要約して
みる。「2 “量子力学への追随”によって解決する試みの批判」の部分ね:

(1) ボルンの定式化:
 「粒子の運動は確率法則に従い、確率は因果法則とどこまでも一致する、つまり、それは
シュレーディンガー波動法的式に従えば決定論的である」というボルンの定式化は広く普及
した。

(2) ヨルダンの理論(1932):
 微視領域では、因果性原理の厳密な妥当性は確証されない(ハイゼンベルク不確定性原理
の帰結)。ヨルダンは、ここから、認識論的な疑念を抱かずに、特定の素粒子のプロセスは
因果性を持たないとした。以下、ヨルダンの主張である。生きた生物は1個の電気的な増幅
器と類似した仕方で働く。特定の原子的レヴェルでの反応の「非因果性」が増幅され、巨視
的にも有効な非因果性が生じ得る。人間の身体の諸反応を支配するそうした事象は、様々な
意味で、原子的領域に至るまで多様な自由を持っており、決定論的な因果性に最早従属しな
い。ここで、原子物理学における諸々の経験によって、意思の自由の否認は論駁された。

(3) ヨルダンの問題:
 ヨルダンの問題とは、因果性からは解放されるだろうが「盲目的偶然性」からは解放され
ないという点にある。ヨルダンの見方では、「自由な」決断は、物理的には因果的な、従っ
て偶然的な微視的プロセスによって支配され、この微視的プロセスが生物の巨視的領域でも
増幅するとされる。しかし、そこからは、「自由」や「責任原理」や倫理学のために何らか
を得ることはできない。寧ろ全てが失われる。ヨルダンは、我々を因果性から救ってくれる
が、それによって我々は偶然的な非因果性に委ねられてしまう。これでは一難去ってまた一
難と言わねばならない。

(4) プランクの提言:
 既にプランクは、ヨルダン以前にこう述べている。最近若干の著名な物理学者は、意志の
自由を救うために因果法則を犠牲にしなければならないと考え、不確定性を因果法則の突破
物として導入することに、何らの疑念も抱いていない。だが彼らは、盲目的偶然の仮定が道
徳的な責任感情と一体どのようにして結び付くのかについて、説明を疎かにしている。
178名無しやろー:01/12/01 12:03
(5) ビュニングのヨルダン批判(1943):
 ビュニングは、生命過程とその制御との基礎をなすのは、偶然的な恣意性ではなく、厳密
で一義的なシステムの組織性と秩序を含む厖大な機能的な豊かさであると考えた。ここで、
次のようにヨルダンを批判する。もしも物理的な非因果性が生きたシステムにおいて増幅さ
れ、本質的役割を果たすことになれば、生物における偶然とは考えられない秩序は妨害され
、致命的な結果が生ずるであろう。だが、そうならない以上、物理的な非因果性は、生物的
な制御においては何ら本質的なものではない。
 補:我々は今日(個々の個体ではなく)個体群に関する生物統計の言明が、「認識論的に見
れば」全体として古典的力学の範囲に含まれることを知っている。大きな数の場合、生物統
計の「予測」は厳密かつ一義的である。このような厳密な統計の中では、生物学的出来事に
とって微視的領域で要請される非因果性は重要なものとはなり得ない。

(6) ヨーナスの問題:
 ヨーナスは、著書『主観性の力か無力か』で、ハイゼンベルク不確定性原理を援用してい
る。しかし、「精神的自発性と機械論的因果性の間の矛盾を量子論的に克服する」試みは、
疑わしい。第1にヨーナスやその仲間が想定しているような、量子力学の「統計的」解釈は
主観的であり、何ら拘束性を持たないからである。
 「量子論に追随しつつ」生命現象における強い因果的決定論を弱めようというヨーナスの
野心的試みは、以上(5)までの中の異議に対する有効な答えとはなっていない。「量子物理
学では、自然の力学と意識の影響との間に明白な矛盾はない」というヨーナスの結論は、ヨ
ルダンの考え同様に説得力に乏しい。「人間の脳は量子力学的な不確定性が脳の決定可能性
に与える自由な領域を享受し得るだろう」というヨーナスの希望的観測は、物質から精神へ
の移行を概念的に捉える「いかなるモデルも視野に入れていない」限り、曖昧模糊としたま
までる。ポパーとエックルスの共著『自我とその脳』も、この問題に関しては1歩も前進し
ていない。
 ヨーナスの著書によって、ヨーナスとは逆に、量子物理学の認識論的な問題(コペンハー
ゲン解釈)に依拠しては心身問題を解決できないと確信することになる。我々の倫理的な行
為は結局のところ人を欺く見せ掛けのものに過ぎないのではないかという疑問は、依然とし
て残る。