スピノザ

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18妄想小説
 ひどく蒸し暑い日の紅時、夕食を終えた私はデザートに台湾産のバナナを
食べることにしました。バナナの皮をもむくと、そこには体長10cm程の
スピノザがたたずんでいました。彼は遠い目をして言いました。
「定義 1。自己原因とはその本質が存在を含むもの、あるいはその本性が
 存在するとしか考えられえないもの、と解する」

 私はバナナをごみ箱に放り投げ、何気なくテレビを観ました。
そこにはスピノザが写っていました。彼はカメラ目線で語りました。
「定理 7。実体の本性には存在することが属する」

 私はリモコンでテレビの電源を切りました。待機電力は 4Whです。
ふと、リモコンに目をやると、ボタンの一つ一つがスピノザの顔になっている
ことが分かりました。彼らは声を揃えて言いました。
「定理11。神、あるいはおのおのが永遠・無限の本質を表現する無限に多くの
 属性から成っている実体、は必然的に存在する」

 私はリモコンを水槽に沈め、虚空を見やりました。どうやらスピノザはいない
ようです。しかし、空間を見つめているうちに、私は空中に漂うチリが全て
スピノザであることを知りました。彼らは微かな声で呟きました。
「定理14。神のほかにはいかなる実体も存しえずまた考えられない」

 私はもしやと思い、近くの鏡を覗き込みました。そこに写っていたものは、
まぎれもなくスピノザの姿でした。彼は…、そして私は叫びました。
「神、即ち自然!」