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95名無しさん@お腹いっぱい。


働けど働けど我が暮らし楽にならざり……、
「ユウくーん、新しいの頼んでー!」
じっと手をみる……。
「おーにーいーちゃーん、わたしもおかわりかしらー!」
俺は激怒した。
「お前らちょっとは自重しろ」

事は昨日の夜にさかのぼる。
「なんだって? 食べ放題?」
「そうなのー、くろうし・くろぶた──」
「──蟹しゃぶ食べ放題のお店がオープンしたのっ!!」
俺は二人の顔をじっと、まじまじと、なめるように見かえす。
「やだ、そんなにみつめられたらはずかしい☆きゃっ!」
そして手元の雑誌に目を落とした。おっ、期待の新作ゲームForza Motorsport3とFIFA10がいよいよ発売日決定か。これはすぐにでも予約せねば。
「もぉー、ユウくんノリ悪〜い」
「おーにーいーちゃーん」
まったくこういう時だけは仲の良い二人だ。開店の広告が新聞の折込にでも入っていたんだろうな、普段新聞なんか見ないくせにこういうのだけは見逃さない。
まさに動物的な勘というやつなのだろうか。
「やっぱさ、夏はさっぱりしていてパワーのつく物食べたいよねー」
「まっくろくろうしたべたいな〜☆」
「黒豚のしゃぶしゃぶって重たくなくって、いくらでも入るって杏子ちゃんが言ってたんだよね〜」
「かにさんばりばりたべたいな〜☆」
おまえは殻ごとばりばり貪るつもりか。
「ねぇ〜、蟹だよ? 食べ放題なんだよ?」
「けがに、かにかま、わたりがに〜! ずわいがにもたべたいな〜!」
やれやれ。
「普通食べ放題の店の蟹はタラバガニだけだよ。他の種類の蟹は大抵別料金なんだから食べれないし、第一今は夏だから蟹のシーズンじゃ……」
「でもっ! 牛・豚・蟹っ!」
「たべほうだいなのかしらっ!」
どうやら論理的思考さえ失われ、もはや飢えた亡者のようになってしまっているようだ。
ならば、それならば、言ってわからぬ愚か者であれば身体に言って聞かせるしかあるまい。
「はい、ゲーム機」
さっと渡されたゲーム機のパッドを俺は顔を?でいっぱいにしながら受け取った。
「どう言っても納得しないんなら、ゲームで勝負つけて身体で思い知らさせるしかないな、でしょ?」
「くっくっく、ふごうりにみをゆだねてこそぎゃんぶるかしらー」
やれやれ! この俺にゲームで挑み、ゲームで無理を通そうとはな。
「いいだろう、俺をなめた罪……それはこの世で最も重い実刑、情緒酌量の余地無し」

で、俺は大いに負けた訳だ。あっけなく。
「黒牛・黒豚・蟹サイコー☆」
「あぁん☆ これがぷろれたりあーとのらくえんってやつかしらー!」
あぁ、ケガニ頼みやがった。ていうか、超特上黒牛ってなんだよ! どっちも食べ放題プランのメニュー外じゃないかっ!
「だって」
「いっかいしょうぶを」
「負けに負けての」
「さんかいしょうぶ」
「これで負けたら」
「なにたのんでもよしっていったのは」
……そうだよ、俺だよ! 俺は目の前に転がった蟹の脚を取って二人を見つめた。さぞ恨めしげな視線に見えることだろう。食い物に夢中でこっち見てないけど。
蟹の足を銃のように構えて俺は二人に狙いを定める。
「蟹光線発射! ビーっ!」
もちろん光線は出なかったし、二人も「やられたー」などと言って倒れたりはしない。
どうやら、ゲームの予約は止めといた方がよさそうだな、と俺は一人ぼやくのだった。