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85名無しさん@お腹いっぱい。

「じゃどーなのだわ、じゃどーなのだわーっ!!」
「いーじゃないのよーッ!!」
俺にとって朝とは爽やかなものじゃあない。
「あさごはんはおこめのごはんとおみそしるなのーっ!」
「私はプリン一個で十分だからいいのっ!」
朝とは戦場だ。朝の食卓は激戦区だ。もっとも朝以外の時間は違うのかと聞かれれば、朝以外も戦場ですと答えざるを得ないが。
「つべこべいわずにたべるのかしらーっ!」
「食べないったら食べないーッ!!」
やれやれ。
俺はちりめんじゃこに醤油をたらし、ご飯に乗せて一気にかきこんだ。

「どうぞ」
ふすまを叩く音に返事をすると、カタっと音を立てて開いた。
振り向かない。ブスっとした顔を見せたくないんだもん。
やれやれって声が今にも聞こえてきそうな雰囲気だ。でもユウくんは何も言わずにコトっと机に何かを置いたようだった。
なんだろう。ちょっとだけ横目で見る。
お皿に乗った、おにぎりが二つ。添えられた玉子焼きはちょっと焦げていた。
「わたし、食べないもん」
ユウくんはベッドに腰掛けてきた。何も言わずにトスっと座る。寝そべる私のすぐ脇に。
「昨日な」
ぶっきらぼうなユウくんの声。
「夕方のニュースでやってたんだ。ダイエットのし過ぎで酷くやせ細った女の人の特集」
言いたいことはわかる。でも、私痩せたいんだもん。
「あんな風になってほしくないんだよな俺も、アイツもさ」」
えっ? と思わず顔を上げてしまった。
ユウくんも、妹ちゃんも?
「お前、最近は朝も昼も晩もプリン一個とか牛乳一杯とかそんなもんだったろ。あいつ、昨日のニュース見てとうとう心配と不安が頂点になっちまったんらしいんだよな」
「妹ちゃんが心配……してくれてたの?」
あったりまえだろ、とユウくんは言った。強くもなく、大きな声でもなく──ただ、当たり前だろと自然に告げてくれた。
「おねえちゃんがほねほねろっくになっちゃうよーってな」
ポンっとユウくんの手の平が私の頭を撫でる。
「だからさ、ちっちゃい子を泣かすんじゃねぇぞ。ほら」
そう言ってユウくんは机の上のお皿を顎でさした。ユウくんが作ったにしてはいびつな形のおにぎりと少し焦げてる玉子焼き。
「あ……」
ユウくんがベッドから立ち上がった。
「じゃあな、食べてみて美味しかったら美味しい、微妙だったら微妙だってはっきり言ってやるんだぞ」
「美味しいよ!」
私は最後まで聞かずに答えていた。
「美味しくないはず、ないよ」
そっか、とユウくんは笑ってくれた。廊下に出るユウくん。閉じたふすまの向こう側でトタトタトタと駆け寄る小さな足音。
私は机の上のおにぎりに手をのばす。
それは、カップのプリンなんかより、ずっとずっと美味しかった。