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77名無しさん@お腹いっぱい。
 奴の名は、宇宙(スペース)☆カジキ!
 俺たち無限の海を行く船乗りにとっちゃ、厄介な敵さ。
 なんせ奴らは速い。常時亜光速を可能とした船なんざ、今の時代にも数える
程しか存在してねえ。せいぜい、帝国宇宙軍旗艦だったり、共和国側の最新艦
くれえのもんだろうし、実際にその速度を出した事は、どちらもまだねえだろう。
光の速さに等しい速度ってのは、そのくらい扱いづれえ。
 なのに奴らは、常に亜光速を維持し、この宇宙(うみ)を我が物顔で行きやがる。
宇宙広しと言えども、亜光速を可能にした“生物”ってのは、恐らく宇宙☆カジキ
くらいのもんだろうな。まったくいまいましいったらありゃしねえ。俺らは道具使って
もカジキ以下かっての!
 でまあ、そんなぶっとばしてやがるから、こっちに――俺らの大事な大事な
船にぶち当たってきやがる事もあるわけさ。ま、こんだけだだっ広い宇宙じゃ、
ホントに稀にしか起こらない事故だけどな。
 ……俺は、一度奴らに腹をぶち抜かれた船を見た事がある。その瞬間を、だ。
 最初は、何か穴が開くんだよ。奴ら、鼻っ柱にやけに硬え、のこぎりみたいな
角持ってやがるし、身体自体がべらぼーに硬え。その身体で体当たりされる
わけだから、船の横っ腹なんざ一発なわけさ。余りの速さゆえに、奴ら自体を
肉眼で捉える事はできねえ。だから、いきなりボコッと穴が開いたように見える
……というわけだ。
 そして、次の瞬間、ドカーン! ……となる、と。亜光速で、ま、地球の
海を行くのと同じ程度の重さとはいえ、暦とした質量のある物体が突っ込んで、
突き抜けていくわけだ。その衝撃は船なんざ軽くぶっ飛ばして余りある。
 まったく、ゾッとしたね。何が起こったのかわかんないうちに、奴らに一発
喰らったらお陀仏って事になっちまうんだからよぉ。
 でもまあ、そうやって何隻も沈められるがままだたわけじゃない。俺たちは
あいつらには無い武器って奴がある。わかるか?
 脳味噌だよ。ようは、奴らは考えねえ。俺たちは考える。その差があるから、
俺たちは奴らと戦えるってこった。
 とはいえ、考えたのは俺じゃねえんだけどな。ガハハハハハッ!
「船長、2距離単位に、反応有ります」
「おおっと、おいでなすったか。丁度いいな」
 俺たちの探査計は、奴らの姿を捉える事ができるようになった。ま、言っても
相手は亜光速なわけだし、余裕なんざ二、三分程度しかねえ。でも、つい最近
までは、何が起こったかもいわからずに沈んでた船が、敵影を捉えられるように
なっただけでも随分な進歩、って奴だ。
 ましてや……俺たち人間は、その二、三分で奴らをどうにかしてしまう策を
編み出しちまってるんだから、そりゃま、世の中から戦争が絶えねえってのも
わからんではないってもんだ。どんどん新しいもん考えたら、どんどん使い
たくなるのが人のサガって奴だからな。結果、戦争は終わらねえ、と。まったく、
出来の悪い笑い話だぜ。それもブラックジョークだ。
「右舷に展開。ガツンとかましてやれ」
「アイサー」
 俺の合図と共に、奴がやってくる、俺の船の右側に、それが展開される。
「生き物だったら……」
 そして次の瞬間、遮光器が必要な程の閃光が、シールドされた窓越しに、
艦橋の俺たちを照らし出す。
「……衝撃喰らったら、あわ食って進路変える……全く、よく考えるもんだぜ」
 宇宙という空間で生きる、常識外の宇宙☆カジキであっても、でかい音に
よく似た、でかい衝撃はを食らわされれば、泡を食って進路を変える。それは、
奴が、規格外ではあっても生き物であるという証であり、同時に俺たち人間に
しかつけない弱点でもあった――ってところか。
「しかしまあ……厄介な奴だな」
 それだけの衝撃を与えられたというのに、宇宙☆カジキはひるんで方向を変えた
だけで、再び亜光速で“泳ぎ”始め、あっという間に探査計でも捉えられなくなる。
「地球の海じゃ、奴らみたいなのを大竿で一本釣りしてたって聞くがな……」
「まさか、都市伝説でしょう」
 探査計に映らなくなった奴の、その目にも止まらぬ姿を思い浮かべながら、
俺はいつか釣ってみてえもんだな、とそんな事を思って、遠く向こう、奴が見えなく
なった方向を、じっと見つめていた――