http://mimizun.com/log/2ch/peko/1274869145/

このエントリーをはてなブックマークに追加
70名無しさん@お腹いっぱい。


「俺のしょーらいのゆめは、おばけになることです!」
 耳を疑った。まさか、自分の教え子が、そのような発言をするなんて。
しかも喜色満面、えらく楽しそうにそう言い切ったのだから。
 今日は参観日。宿題だった、将来の夢を発表してもらう時間に、いつも
元気がいいクラスの人気者のヒロシ君がそんな事を言い出した。
 教室にいる親御さん達も、彼の言葉にざわついている。
「お、おばけ? おばけになりたいの、ヒロシ君は?」
「うん、おばけになるんだ、俺!」
 ……落ち着け。落ち着け私。きっと、彼にも何か考えがあっての事に
違いない。ましてや彼は子供だ。突拍子も無い発想で言っているのだと
しても、ちゃんと話を聞けば理解できるかもしれない。最初から否定して
かかってしまっては駄目だ。まずは話を聞こう――
「ひ、ヒロシ君は、どうしておばけになりたいのかなー?」
「おばけって、この世にみれんをのこした人がなるんでしょー?」
「そ、そうだねー。よく知ってるわね、ヒロシ君はー」
「だから俺、死んだらみれんがのこるくらい、すっごい楽しいじんせーを
 生きてやって、それで、しょうらいはおばけになるんだ!」
 ……何という事だ。おばけに、幽霊になって化けて出るという事を、これだけ
ポジティブに捉える事ができるなんて。私は目からうろこが落ちる思いだった。
「ずるーい、ヒロシくん! あたしだっておばけになりたいー!」
「ぼくだってー!」
 もっともっと味わっていたいと、化けて出てきてしまうくらいに楽しい人生。
 その意味を、何となく理解したのか、教室のあちこちからそんな声が上がる。
「はーい、皆、ちょっと待ってねー。皆、お化けになるには楽しい人生を
 送らなきゃ駄目だ、って事はわかるかなー」
『はーい』
「楽しい人生を送るには、お化けになる前にならなきゃいけない、それになれたら
 楽しいだろうなって思える、そんなお仕事があると思うの。先生、それをヒロシ君にも、
 皆にも聞かせてもらいたいなー」
「俺のじんせいせっけー、そんなに聞きたいのかせんせー」
「うん、聞かせて。きっと聞かせてもらえたら先生も楽しくなれると思うから、ね?」
 教室内で事態を見守る親御さんたちには、なにやら難しい顔をしている人も
ちらほら見受けられる。でも、そんなに難しく考える事は無いんじゃないかと、
そう私は思う。
 この子たちなら、きっと、これから先も、絶対大丈夫。
 そんな確信にも似た思いが私の顔をほころばせる。
「さ、ヒロシ君……それから、皆も、聞かせてもらえるかな?」
『はーい!』