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65名無しさん@お腹いっぱい。

 さすがにまずいと判断した先生や他の生徒に止められて、そのまま私は職員室に運ばれ
た。男子は顔を少しすりむいていた。
 四時を過ぎたころ、父が慌てて駆け込んできた。そのまま相手の親子と対談だ。
「本当に申し訳ありません。うちの娘がおたくの坊ちゃんにケガを負わせたとかで」
「ちょっと、私、悪くないもん!」
「由美、黙ってなさい」
 初めて見る威圧的な目にたじろいだ。私はもうなにも言えなくなった。
 その後パパは必死で謝り続け、なんとか相手を納得させた。誰も彼が死者を冒涜した事
実には触れなかった。

 蒸し暑い中、私たちは夕日に照らされ、二つの長い影を並べて歩いていた。
「ねぇ、私も悪かったけど、彼だって悪いのよ。死んだママをバカにしたんだもん! そ
れに……パパのことも、バカにされて……悔しかったの!」
 黙々と歩いているうちにどうしても我慢できなくなってそう言った。
「わかってる」
 パパはいつもの優しいパパに戻っていた。
「わかってるよ。パパはいつでも由美の味方だからな」
 そっと私の肩に手をおき、そう呟くと、それきり私たちはまた黙って歩き出した。線香
の香りが私たちをやわらかく包んでいた。

 部屋は少し薄暗くなっていた。パパはいつものようにベランダに向かった。
「おい! 由美、ちょっと来てみろよ!」
 妙に浮ついた、興奮した声でいきなり呼びつけてくる。
「なーにー?」
 その暑苦しい口調に、少し面倒だと思いながらベランダに向かう。
「見てみろっ! 咲いてるぞ、ヒマワリ!」
 父が横にのくと、そこには太陽の花がその名の通り、太陽のように咲き誇っていた。
「どうだ! 立派なもんだろ!」
 こくこくと頷き、低く歓声を上げていると、パパが部屋から椅子を持ってきて、勧めて
くる。
「ほれ、ちょっとここ座ってみろ」
「う、うん……」
 夕陽を覆い、雄々しく立ち誇るヒマワリを眺めながら、二人椅子に腰かける。
「なぁ、由美」
「うん?」
「父さんと母さんの話、してもいいか?」
「うん、別にいいよ」
 本当は聞きたくて仕方なかったくらいだ。
「父さんと母さんはな、同じ小学校だったんだ。それで二年生の時にヒマワリを校庭で育
ててたんだな。夏休みにもう入ってたよな、確か。たまたま父さんと母さんが水やりの当
番になった日があってな、その日父さん、遅刻しちゃたんだよ」
「パパ、最低」
「はは、本当にそうだな。でな、父さんは慌てて花壇のところに行ったんだ。そしたら母
さんは太陽を浴びてキラキラきらめくヒマワリの中を縫ってホースで水をやってたんだ」
 パパはその時のことをうっとり思い出して目を輝かせている。
「本当に母さんは美しかった。水のシャワーが虹のアーチを作って、その中で母さんは笑っ
ていた。父さんは妖精がいるのかと思っちゃったよ。それが父さんの恋の始まりかな」
「うそ〜、小二からママのこと好きだったの?」
「あぁ、そうさ、でも父さんもまだ幼くてどうすりゃいいのかわかんなかったんだな。小
学校の間は告白なんてできなかったよ」
「ふふっ、パパらしいね」
「おい、それはどういう意味だ、由美ぃ〜?」
 両方のほっぺたを引っ張ってくる。
「い、いったいよ〜」
「ははっ、ごめんごめん。中学になると周りに付き合ってる奴が出てきてな、それを見て
ると父さんもやる気が出てきてな、クラスで一番可愛い母さんにアタックしたんだ」
「それで、それで?」
 思わず身を乗り出して話の続きをせかす。