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52名無しさん@お腹いっぱい。
「夢じゃないよ、現実。わかるでしょ?」
奈美はテーブルの位置を戻し、小物を片付け、それからナイフを置いた。
「説明……してくれるか?」
「そうだね、まぁいいかな。さっきの男はね、ブラックホールなの」
「話が見えない」
「だよね……。そうだな、じゃあさ、ブラックホールって知ってる?」
「……宇宙にある、何でも吸い込む黒い……穴?」
「なんだ、よくわかってないんだね」
奈美は笑って、それからソファーに腰掛けた。空いている隣をぽんぽんと手で
叩く。座れということか。俺は奈美の隣に腰掛けた。
「さっきの男は太陽の質量の10倍くらいのブラックホールから生じたの。 
 知ってる?このくらいの規模だとね、恒星の進化の最終段階、って言っても
 いいくらいなの。わかる?進化の最終段階だよ?」
奈美が俺の目を見据えて大真面目な顔で語っている。頭が奈美の話についていけなかった
が、俺は必死に頭を回転させた。からかっているわけではないことくらい、雰囲気と状況
でわかる。
「光ですら逃げ出すことができない、圧倒的な重力を持った究極の天体……であるはず
なのよ、本当はね」
奈美が静かに笑った。
「でも、そんな究極であるはずの天体も、ホワイトホールの存在によって底の破けたバケ
ツみたいに何でも抜け落ちてしまう欠陥品になってしまう」
なかなか先の見えない話に俺は苛立ってきた。奈美のことは何でも理解しているはずだ
った。なのに、この、蚊帳の外に追いやられていたかのような疎外感は何だろう。
俺の知らないところで、何が進行していたのだろう。奈美は、何者なんだ。
「そんな宇宙の話が、一体何だって言うんだ。俺達には関係のないことだろう!」
俺は声を荒立てしまった。気づけば立ち上がり、ソファーに腰掛ける奈美を見下ろす格好
になっている。
「わからないかな、私がホワイトホールなのよ。彼ら、つまりブラックホールを、不完全
なものにしてしまうお邪魔虫ってわけね、向こうから見れば」
奈美を俺を見上げて、事も無げに言った。一瞬、頭が真っ白になる。
血痕も死体も消え、日常を取り戻しつつあるこの部屋に、沈黙が流れた。
「何なんだよ、それ……。わけが、わからない……」
これが何かの冗談だったら、俺はどれだけ救われただろう。でも、目の前で血だらけの
人間が砂になり消え去る現象を見てしまった。現実から逃げるわけにはいかない。