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声帯が潰されたかのような気がした。全身の血の気はひき、部屋に漂う血の香りに
吐きそうになる。奈美は……奈美は何をやったんだ。いや、答えは出ている。
俺はそっと奈美の顔に目をやった。奈美の口元から、小さくフーっと溜息が漏れた。
「バレちゃったか……。こんなに早くバレるはずじゃ、なかったのにな」
「何を……言っているんだ」
俺は目を背けたくなる気持ちを抑え、うずくまる男を静かに見た。
腹の辺りから大量に出血したようで、男の倒れている辺りは血で真っ赤に染まっていた。
もう死んでいるのか、うめき声もあげていない。
その男の顔は(うつむいていてはっきりとは見えないが)とてつもなく美しい男だった。
芸能人でもそうそういないだろうという、20歳くらいの中性的な顔立ち。
恋愛関係のもつれか。俺とっさにそう思った。こんな状況なのに、いや、こんな状況
だからなのか、俺の頭は妙に冴えていた。
「奈美、警察に行こう」
「……いや」
「奈美!」
「あのね、信じられないと思うけど、この人、人間じゃないのよ」
奈美は男にちらりと視線をやり、言った。今まで見せたこともない、冷たい表情で。
「そんなことはない。この男がどんな奴だったかは知らない。でも、人間じゃない奴
なんて……殺してもいい奴なんていない!」
俺がそう言うと、奈美は薄く笑った。
「まぁ、信じてもらえないよね。あと15分……、ううん、10分くらい待って」
「……自首は早い方がいい」
「わかったから、とりあえず10分くらい待ってて。今、お茶出すから」
「こんな部屋でくつろげるわけないだろ」
俺は改めて部屋を見渡した。奈美と男は揉み合ったのか、テーブルの位置はずれていて、
小物が部屋に散乱している。
「こういうのは早い方がいいんだ、早く警察……に……?」
俺は目を奪われた。男の足が、さらさらと消えてなくなる砂のように、形を失っていく。
足先、ひざ、大腿部、腰……、次々と溶けてなくなっていく。
「な……なんだこれは?」
「ん?あれ、もう来たのかな?」
そう言って奈美は台所から戻ってきて顔を覗かせた。そしてくすりと笑った。
「だから言ったでしょ?これは人間じゃないって。自首する必要もないよね?」
奈美がそう言ったときには、男の胸部、いや、鎖骨の辺りまでが消え去っていた。
気づけば、俺の足元にこびりついていた血痕も消えていた。
「これは、夢か……?」