http://mimizun.com/log/2ch/peko/1274869145/
「聞きしに勝る、とはこの事か……」
“ツンデレにしてヤンデレ”。噂に聞く彼女の二つ名は、傍で聞く分には
荒唐無稽なで笑ってしまいそうなものだった。当事者でなかった頃の俺も、
確かに笑っていた覚えがある。
彼女は別に、好きになった男以外には人畜無害だ。むしろ、アネゴ肌で
面倒見がよく、同性異性問わずに人気はある。
だがその一方で、好きになった男には……ご覧の通り、というわけだ。
それが噂などではなく、真実に相違いないと、俺は身をもって味合わっていた。
今にして思えば彼女に全く寄り付こうとしない男共が何人かいたが、
あいつらは彼女の“被害者”だったんだな……何があったのか聞こうと
しても口を割らずにただ黙って首を振るばかりだったが……。
……という事はつまり、今回の被害者……彼女に好かれた男は、俺、
という事、だよな? ……うわー、マジかよ、ホントにマジかよー!
「……あ、あのさ、三枝」
「あたしの事は由枝って呼びなさい!」
「は、はい……由枝、さん」
「さんづけ無しで!」
「ゆ、由枝」
「……はぁ?」
俺が名前を呼ぶと、彼女はうっとりと瞳を細め、どこか遠くを見つめ始めた。
「……ど、どうかした?」
「あ? ん……あ、ああ、べ、別にアンタに名前で呼んでもらったのが
嬉しかったとか、そんな事無いんだからねっ!」
「そ、そうですか……」
その割には満面の笑みなんだが……これがツンデレ分か。彼女の整った、
ともすればモデルにすらなれそうな――そのためにはもう少しタッパがいるか――
顔でそんな表情をされると、なんだかこっちもまんざらではない気分に
なってきてしまう。
「さて、それじゃあ、せっかくあたしの家に来たんだし、お茶くらいはご馳走して
あげるわよ。別に、アンタにお茶飲ませてあげたいから出すんじゃないわよ。
礼儀として出すだけだから、勘違いしないでねっ!」
こうやって椅子にふんじばられて、額から血を垂れ流してる状況じゃなきゃ、
思わず惚れてしまいかねないくらい、今の彼女は可愛い。快活で、気風のいい
普段の姿からは想像できない、照れて顔を赤らめた姿は、同級生として
とても新鮮だった。
「……ヤバイ、ちょっといいかも」
だが、俺はそんな自分の考えが甘かった事を、即座に思い知らされる事になる。
「待った? まあ、少しくらい待つわよね、せっかくお茶出してあげようって言うんだから」
「あ、いや、別に待っては……え?」
「はい。その格好じゃ飲めないだろうし、飲ませてあげるわね。も、もちろん、
仕方なく飲ませてあげてるんだから、勘違いはしないでちょうだい」