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それから数週間後、少女はまだ魔術庁の自室に居た。結婚式はもうすでに盛大に行ったが、そのおかげで急な日程になってしまった。
そして職務の引継ぎや残務処理が片付かず、まだ退職するにできなかったのだ。
「師匠、新婚なのですから今日はもう終えられてはどうですか?」
夕方、白髪の老婆が少女を気づかって言った。
「かまわぬ。それよりもなるべく早く残りの仕事を終わらせて、心置きなく夫に付きっきりで居られるようにしたいのじゃ。」
目標ができたことで仕事にも精が出るのだろう。話しながらも少女はすさまじいペースで書類をさばいていた。
「そうですか。しかし、師匠はもはや王妃なのですからくれぐれもご自愛下さいませ。」
「分かっておる。いずれは子も成さねばならぬ身じゃからの。体を壊すようなマネはできぬ。」
少女はそう言って、うれしそうに自分のお腹を撫でて見せた。
「師匠、つかぬことをお伺いしますが…」
「なんじゃ?」
ご機嫌な少女の様子とは裏腹に、老婆は少し険しい表情に変わっていた。
「初潮はきておられますか?」
「ショ…チョウ…なんじゃそれは?」
少女はまるで異国の食べ物の名前でも聞いたような、まるでちんぷんかんぷんな顔をしていた。その様子に、老婆は頭を抱える。
「な、なんじゃとぉ!? それでは、わらわは子を成せぬというのか。」
小一時間ほど説明を受けてから、少女は叫んだ。
「残念ながら、その通りでございます。」
呆然と立ちつくす少女に対し、老婆はごく冷静に答える。
「子は産めなくても、陛下が師匠を愛していることは変わりません。安心して―」
だが、少女は老婆の言葉をさえぎってまたも叫んだ。
「解呪をする!」
「師匠、ヤケになってはいけませぬ!」
老婆は少女を止めようと腕をつかんだ。自分の言葉で彼女に死なれてはたまらない。
「こら、勘違いするな。わらわは当分は死ぬつもりはない。」
「そんな嘘を。師匠が解呪をしてしまえば命はないことぐらい、私にもわかります。」
「違う! 解呪と同時に復元も行うつもりじゃ。」
それを言われて、老婆は動きを止めた。
「き…強制解呪と同時に復元…ですか? それができれば前代未聞の超魔法ですよ?」
「わらわは天才じゃ、出来ないことはない! …たぶん。」
「国王陛下が生きているうちに間に合いますかね?」
老婆は不安げに少女に問いかけた。
「ならば、あやつもしばらく不老不死にしてくれるわ!」
「ああ、やっぱりヤケなのですね。」
そう言って老婆は肩をすくめるのだった。