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いつしか少女は、今まであえて避けてきたある魔法の研究を始めていた。
「おや師匠、その本は?」
白髪の老婆―少女の弟子の一人が目ざとくそれを見つけた。
「『強制解呪』ですか。そのような魔法を使うのですか?」
強制解呪とは、永続効果のある呪文を問答無用で解除する魔法であるが、滅多に使われることが無い。
通常、永続効果のある呪文には解呪呪文と復元呪文が仕込んであって強制的に解呪をする必要がない。
しかも強制解呪をした場合、呪文の対象に予期しない影響を残すことがあり、「元の状態に戻す」という
解呪本来の目的が果たせないことが多いのだ。
「ああ。やっかいな呪文でな。解呪呪文も復元呪文も無い上に、効果が強力で物理的な作用にまで深く影響しておる。
強制解呪でもなみのやり方では解けまい。」
少女は本のページをめくりながら、弟子には目も向けずに答えた。
「物理的作用を及ぼしている呪文を強制解呪ですか。
そんなことをすれば呪文の対象はただではすまないのではありませんか?」
「うむ。おそらくは、破壊されてしまうじゃろうな。」
弟子を気にする様子も無く、少女は本を読み進める。
「一体何を解呪するのですか?」
「不老不死の呪いじゃ。」
こともなげに少女は言った。
「師匠、まさか、自分自身にそれをするおつもりで!?」
「ああ。その通りじゃ。」
「そんな…なにも、自ら死を選ぶ必要はないのではありませんか?」
少女は、本を読むのがひと段落すると、ようやく老婆の方を向いた。
「いや、こういう事は決心したらなるべく早くせねばならぬ。決意が鈍るからな。
そのように目的も無く生き続けてしまった魔法使いの末路は悲惨なものじゃ。」
―自分は今まで生きてきて、目的はあったのだろうか。
少女は、自分の言葉にふと考えた。
あの青年と一緒に旅に出たときは、彼の不思議な魅力にひかれていた。
いつも危ない橋をわたってばっかりで見ていられなかったが、だからこそ離れられなかった。
いつも大きく出て虚勢ばかりだったが、なぜか彼が出来るといえばなんでも出来そうな気がした。
そして、いつまでも傍にいたいと思った。
時が過ぎ、青年は結婚して国王になった。少女は王国を支える一人として彼が死ぬまで
仕え続けたのだから、ある意味ずっと傍に居た。しかし、何かが違うという思いが絶えなかった。
今になって、少女は思う。自分はあの青年に恋していたのだと。だが、少女は永遠に子供である。
その想いはかなうはずがない。それに気付いていながら、少女は満たされぬ思いと未練に引きずられ、
数百年も生きてしまったのだ。
その、未練を断ち切れなかった理由の一つが、あの青年の子孫―王族たちが彼の面影を残していたからだ。
特に、今の国王などは見た目だけならうり二つだった。