http://mimizun.com/log/2ch/peko/1274869145/
「うむ、でもまあ結構腕を上げたようじゃの」
仰向けに倒れた豪を見下ろす武桜の背後に、月の出た夜空が見えた。
「……そりゃどーも」
ダメージと全身疲労で動けない豪としては、声を出すのが精一杯だ。
こうしていると、初めての対戦を思い出す。
ただし、場所は酒精と煙草の臭いが立ち込める地下クラブ。
持っていた異能の力で増長していた豪(自分)という違いはあるけれど。
豪の回想に構わず武桜は言葉を続ける。
「とはいえ、我の修行の成果でないのが腹立たしいがの。腕を上げたいなら、
賭博試合などせず道場に日参すればよいものを」
何だか少し拗ねているようだった。
しかし、豪にだって退けない理由が存在する。
「そういう訳にはいかないんだよ……」
「む」
「いくら実年齢ん百歳の仙女様っつっても、小さい女の子相手に毎回毎回ボコ
にされるなんて男の沽券に関わる問題なんだって」
「は」
武桜の口元が緩んだ。。
「なるほどの。よかろ。そういう事ならば師匠は許すのじゃ」
「そりゃよかった」
「ただし、今度からそのクラブへは我も連れて行く事を命ずる」
「何ぃ!?」
これまでのダメージすら忘れて、豪は衝撃のあまり身体を起こした。
だが、武桜は平然としたモノだった。
「当たり前じゃ。弟子のゆくところ師匠あり。大体、現場におらねば指導もま
まならんではないか」
「いやあのちょっと待ってくれ、師匠。つまり、その、俺のセコンドにつくと?
」
「無論じゃ! 我を誰だと思っておる。豪の師匠じゃぞ?」
「うー」
豪は頭を抱えた。
今日の教室の比ではない騒動になるのは、目に見えていた。というか、今後
歓楽街を歩けなくなる可能性に大ピンチである。
そんな豪の苦悩をよそに、武桜は気楽なモノだった。
「心配するでない。我とてお主の懸念ぐらい察しておる。この外見はその気に
なれば自由自在なのじゃ」
「は!? 初耳だぞ、それ!?」
武桜の身体(ちんちくりん)を上から下へと眺めやり、豪は半信半疑に眉を
しかめた。
「うむ、言ってないからの。この姿はコンパクトで動きやすいし、気の消費も
少なくてすむ。何より電車や映画が子供料金なのじゃ」
「……せこい仙人もいたモノだ」
「という訳で、クラブに行く時には大きければいいのじゃな。ちなみにその為
には気を溜め練らねばならんのじゃが」
轟、と桜色の気が武桜から発生した。
しかし、その気は戦意昂ぶる闘気の類ではなく。
「……師匠、なんかすげーやな予感がするんだけど」
尻餅をついたまま、豪は本能が告げる悪寒に、武桜から距離を取ろうとする。
「ふふふ、豪、房中術という気の移動法を知っておるか。あ、こら待つのじゃ!
ちょっと接吻するだけじゃというのに!」