http://mimizun.com/log/2ch/peko/1274869145/

このエントリーをはてなブックマークに追加
205名無しさん@お腹いっぱい。

 終業のチャイムが高らかに鳴った。
 ここ、春星高校2年4組でも担任の白河百合香(しらかわ ゆりか)が生徒
への伝達事項を終え、いつもの温和な表情を浮かべたまま軽く手を叩いた。
「はい、本日のホームルームはここまでです。皆さん、気をつけて――」
 ――唐突に、勢いよく前の扉が開いた。
「豪、修行の時間じゃ! 帰るぞ!」
 満面の笑みで元気いっぱいに吼えたのは、髪をツインテールに括った矢絣(
やがすり)の着物に袴姿の幼女だった。
 ちなみに豪、と呼ばれ顔を引きつらせたのは、教室の中ほどにいた男子生徒、
木島豪(きじま ごう)である。短く刈り上げた髪の下にある、ギョロリとし
た眼が印象的な少年だ。捲り上げられた袖から覗く腕っ節はいかにも屈強そう
だ。
 そして豪の後ろの席にいた癖っ毛茶髪の女悪友・伊達有紗(だて ありさ)
が、勢いよく立ち上がった。
「おーっと! ここで小さな乱入者の登場! 愛の干渉者は果たして何者か!
 さあ! 事件の中心注目の的、木島豪君コメントをどうぞ! ――って、あ
ら?」
 マイクを突き出した有紗の前の席は、既に空だった。
「豪ちんは?」
 近くにいた眼鏡の男子生徒に尋ねてみる。
 彼は開いている窓を指さした。
「木島なら、たった今窓から飛び降りてったぞ」
「逃がすか!」
 袴姿の幼女は勢いよく跳躍すると、尋常ではない速度で生徒達の机の上を駆
け抜け、そのまま豪を追って窓から飛び降りた。
 なお、ここ、二年生の教室は三階にある。
 有紗は窓際の席に駆け寄ると、大きく身を乗り出した。
「愛の逃避行!? それとも心中か! 禁断の愛に狂った少年の末路やいかに!
 アタシ、伊達有紗は引き続き、調査を続行しようと思います!」
 本気で飛び降りようとする有紗を必死で制したのは、先ほど声を掛けられた
眼鏡の男子生徒だった。
「待て! ここは三階だ!」
「……えーと」
 彼の名前を思い出せない有紗であった。
「増田だ! いい加減、名字だけでも覚えやがれ!」
「むむ、増田欲求不満? いくら彼女が胸ないからってそんなに強く揉まなく
ても」
 特に手を払いのけようとしない有紗に、逆に男子生徒――増田卓(ますだ 
たく)の方が顔を赤らめ退いた。
「っ!? も、揉んでねえし、そもそも小星は彼女じゃねえ!」
 その卓に後ろから襲いかかったのは、小柄な少女だ。薬師寺小星(やくしじ
 こぼし)、卓の幼馴染みである。
「お返しにタックンの胸も揉んでみよう!」
「揉むなーっ!!」
「……今日もクラスは平和ねえ」
 騒々しい教室の光景を、ニコニコと眺める白河百合香であった。


 そしてその教室から十数メートル下の地面。
 木島豪は、うつぶせで車に轢かれた蛙のようになっていた。