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「なんで僕はこんな所で寝ているんだろう……」
病室のベッドの上で、窓の向こうに広がる夕空を見つめながら、そう悔しそうに呟いたカズの体は、思わず目を背けたくなるほど弱り、また精神的にも衰弱していた。
世界規模の大きな大会を前に、見舞いに来たヒロとノリは、以前よりも病状の悪化が明らかなカズの様子を見て、動揺するとともに、残された時間が僅かしかないことを感じとる。
「大丈夫よカズ、すぐにまた飛べるようになるわ」
「そうだよ、弱気になってたら治るのも遅くなるじゃないか」
二人は努めて明るく振舞い、なんとか元気付けようとした。ぎこちない笑顔なのが自分でもわかる。
「そうだね、ありがと。大会、頑張ってね」
カズはそんな二人に応えて、弱々しくではあるが笑ってみせる。
「必ずメダルを持ってくるからね、一番良い色のやつ」と、ノリ。
「だからお前も頑張れよ、そして今度は三人で表彰台に上がろう」ヒロはカズの手を取り、力強く握り合った。
しかしそれから数日後。大会前日でホテルに滞在していたヒロたちのもとへ、カズの訃報が本人の書いた手紙と共に届いた。
泣き崩れるノリと他のメンバー達。ヒロは手紙を握り締め、ただ震えた。悲しくて、悔しくて、ぶつけようのない憤りが涙になって溢れた。
「もう一度、三人で飛べなかったのは残念だけど
でも、これからは、いつだって空で待ってる」
手紙にはそれだけが、力無くたどたどしい筆跡で綴られていた。
大会当日、チームは見るも無残に惨敗し、カズとの約束は果たされなかった。
繰り返す。何度も、練習を繰り返して、ひたすらチームの完成度を高めてきた。
あの時果たせなかった約束を今度こそ果たす。その思いが、あの日から二年越しの大会の今日。今から演技に挑むヒロを燃やしていた。同様にノリも、他のメンバーも気合が入っている。
ヒロは静まっている機内で、押し黙ったまま、飛ぶときには常に持っているカズの手紙を広げる。
「いよいよだね」
隣にいたノリも、そこに書かれたカズの想いをじっと見つめる。
ポイント到着の合図があり、チームはジャンプのスタンバイに入った。入念に再点検をして、皆が声を掛け合い、互いを励ましあう。