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はっきりしたな、と医院の廊下で京也は呟いた。
あの蝙蝠が所属する組織が自爆テロを首謀した。その目的は、多量の血により魔界の扉を開き、この世界に妖魔を召喚する事。
前回の戦いで自分は羽蠍(ハネサソリ)を仕留め切れなかった。奴はまた来る。それを考えると、待合室に転がったまま放ったらかしの雑誌など些細な事だった。ちなみに雑誌にはこう記述がある。
▽カツオダシでベースを作る
▽豚肉を入れてじっくり煮込む
▽醤油、みりんで味付け
▽麺茹でて皿に
ネギ入れろよ、ネギ 肉汁うどんはつけめんだから間違えんなよ
仮面ライダーネメシス三杯目「×(バツ)・×・関東うどん誕生!」
香の匂いがきつい暗闇。甲高い声の男は仮面ライダーに敗れた人間蝙蝠の戒名を紙に書き付け、それを燃やし、その灰を正体不明の立像へ捧げる。これが彼ら式の供養らしい。
「久々ですな…仮面ライダーへの怨念を込めて同士の戒名を書くのも」
男は、六十年以上前に自分たちを襲った悲劇を回想し、拳を握りしめた。
昭和二十年九月十五日、東京。終戦を迎えて丁度一月が経っていた。
そこで一人の少女が周囲の人だかりに監視の目を光らせている。彼女の家は下宿屋。辛うじて空襲から焼け残り、それなりに蓄えも残っている。これを盗みに来ようとする輩が多いのだ。
とにかく今この国には物資が無いのだから、泥棒の気持ちも分からんではない。ないが、こちらも食っていかねばならない。自分たちは文字通り明日の飯にも事欠いている。
だから少女は客の動向を逐一注視している。そんな少女に一人のイケてる戦争帰りが話しかける。
「ね、美月屋ってこちら?連絡してた卜部ですけど」
店に入るやその青年、卜部武政は異様な勢いですいとんを食らう。
この宿は一階が食堂になっているため、飯だけ漁りに来る者も多い。その青年、卜部武政は髭を剃って身だしなみを整えればまあまあハイカラと思えた。
「キツネうどん食べたいんだけど」
「あればわたしが食べてますから」
無茶をぬかす武政と軽く流す店の看板娘=美月キヌ。武政は一つ笑い、懐からずり落ちそうな「勾玉」をそっと直した。
暗闇。香の匂いがきつい。そこに甲高い男の声が響いた。
「皆さん!我らへの従属を無視した結果、やはり日本は敗戦を迎えました。今こそ、大和の覇権を我らのものに!」