>>1はこの妻の真心が救いになり、教誨師の指導でそれまで捨てバチな態度が変わった。人一倍子ぼんのうな
>>1は、一人息子の将来について「死刑囚の子供としていじけないように育ててもらいたい」と妻に頼み、信仰へと一歩踏み込んだ。
それからは、落ち着いた生活ぶりになり、熱心な読書と反省の日々は暴行殺人鬼を人間
>>1に変えていった。
「被害者からみれば、私は八つ裂きにされても当然でしょう」と心の余裕も出来た。
同年10月5日午前7時、
>>1は、「所長さんがお呼びだよ、
>>1」という看守の普段と違う緊張に震えた声に、全てを察した。
>>1は房内をきれいに掃除、この日のために用意してあった新しい下着と下帯に着替え、紺縞あわせの獄衣に着直した。編み笠をかぶり、特別通用門をくぐって刑場へと向かった。
そぼふる秋雨をながめ、教誨師に「こういう落ち着いた日に死ねるのは幸福だ」と言った。
午前9時25分、所長よりおごそかに執行の言い渡しがあった。
「何か遺言はないか・・・」との所長の問いかけに、
>>1は毛筆を取った。便箋2枚に走り書きの遺言をしたためた。
<自分は荘厳な気持ちですべてを清算し、静かな気持ちで死んで行きます。長い間、お世話になった人々によろしくお伝え下さい。家族の者もどうぞ天命を完うしてください>
>>1は覚悟ができたのか、すっかり諦めきった淡々とした表情。関係者はその従容とした態度に胸が打たれた。
出された供物のマンジュウを3つ名残り惜しそうにゆっくり食べた。
再び、筆をとり辞世の句を書いた。
亡きみ霊、赦し給へし過去の罪、今日の死を待ち、深く果てなん
「もうほかに、何か言い残すことや欲しいものはないか」所長が最後の慈悲を示した。
「タバコを1本喫わせて下さい」
>>1は差し出された「ひかり」を胸の奥まで吸い込んだ。
やがて落ち付いた態度で死刑台に上り、午前9時50分、死刑が執行された。44歳だった。