世に謂うところのローマ字入力のメリットというと、
使用するキーの数が少ないので、習得しやすい。
英文タイプも同時に習得できる。
QWERTY配列を使うので、機械を選ばない。
といったあたりでしょうか。まず、このへんを潰しておきましょうね。
1.使用するキーの数が少ないので、習得しやすい。
これ、「バカの強弁が通用しちゃうとどうなるか」という見本みたいな論拠ですよね。一言で反論するならば、
「カナの数だけ操作を覚えなきゃ叩けねえだろうが、そりゃ」。はいおしまい。
詳説すべき最大の問題点は、「初心者に対して不親切の極み」だということですね(「習得」が命題にされているのだから、
初心者対応であるのは明白ですね)。
実際のところ僕もローマ字入力を使えますが(それなりに速いほうだとは思う)、たとえばそこのあなた、
「か」という文字を入力する際に、「これはKの次にAだ」なんて考えてます? 違うでしょ? 「か」を入力する際には、
勝手に指が「K→A」と動く。そうでなければ、つまり「K」と「A」を分けて考えているうちは、打鍵はものすごく遅い。
原稿を電算化する場合にも、自分の考えを文章として表現する場合にも、使い物にはならない。なんとなれば、まず打鍵が遅い、そして打鍵するまでの思考に夾雑物が混じるから。ここまで宜しいか。
宜しいことにして、と。つまり、「ローマ字入力が習得しやすい」のは、「キーボードの位置を覚えるまで」であって、
その後の「「か」を見ると指が「K→A」と動く」とか「スムーズな入力ができる」という段階に至れば、もう無駄なだけ。
人によってはまずローマ字の表記法から覚えなければならないという、本末転倒を絵に描いて額に入れたみたような状況が出来するわけで。
ここで得られる結論とは、「ローマ字よりもカナのほうがマシ」ということ。後で下のほうに詳しく書きますけどね、
どうしたって、「か」をすんなり「K→A」と叩けるようになるよりは、「か」は「か」と書いてあるキーから入力したほうが合理的じゃないですか。
そうでしょう?
2.英文タイプも同時に習得できる。
これ、「バカの強弁が通用しちゃうとどうなるか」という見本みたいな論拠ですよね。
まず一つ目の反論として、上とダブりますが、ある程度スムースに叩けるようになった時点で、
ローマ字入力と英文の配置とは関係なくなります。「か」は「K+A」ではなくて、
「「K」の次に「A」を叩くと「か」が入力される」ということを体得してこその入力作業なんだから。
二つ目。
「英文タイプが叩ける」ということは即ち「ある程度は英文が読める」ということでしょう?
じゃあローマ字で「コンピュータ」とか「ソーホー」とか「ラジオ」とか入力してみてくださいよ。
ふつうに考えて、最初に思いつく文字列は「computer」とか「SOHO」とか「radio」とかでしょう?
そこを抑えて、「KONPYU-TA」とか「SO-HO-」とか「RAZIO」とかと叩いているということは、
控え目に言っても「ローマ字入力と英文タイプの間に相関はない」と言える。さらに言うなら、
英文タイプの学習を阻害する危険性もある。
もっと言うなら、ローマ字入力で使用するキーの数は英文タイプで使うものより少ないよ。
ついでに、「X」とか「L」とかも使っちゃうのだから、既に「ローマ字」ですらないぞ。
3.QWERTY配列を使うので、機械を選ばない。
いったい何台の機械を使いこなしているというのだろうか(笑)。
もとより特殊例があることは否定しないが、この論拠が真っ直ぐにその特殊例を指していることも指摘しておく。
先に書いたが、入力の効率化の要諦は「タイピング」と「辞書の扱い」だ。つまり、タイピングがいかに効率化されても、
辞書の扱いがスカタンであるならば、結果的にはスカタンな入力結果が得られる。
つまり、上の謂は「私は入力の効率化を考えていない」というのと同義なわけだから、
相手にするほうが間違っている(入力環境を個人的に入れ替えて使っているという人もいるだろうけれども、そういう人はこんなことは言わない)。
だいたい、JISカナでいいじゃん、そんなの。
というわけで3つ潰したところで、本格的にローマ字をやっつけに行きましょうか。
あのね、
ローマ字入力だと打鍵数が一倍半になるんだから、
効率悪いのし。
バカでも判る理屈ではあろう。
文献によって1.6倍とも1.7倍とも言われているが、少なくとも子音と母音を分けて叩いている以上、ローマ字入力のほうがカナ入力よりも打鍵数が多いのは自明でしょう。
仮に彼我の打鍵数の差を(遠慮して)1.5倍とするならば、
カナ入力者の打鍵音を
「かったかったかったかった」
であるとき、
ローマ字入力者の
「かたかたかたかたかたかた」
と入力速度は同じ。
MIDIは鳴りますか? 打鍵音のサンプルをお手軽に作ってみたので、ちょっと聴いてみてください。
まずこれ→「かったかったかったかった」(2拍3連で平均化してみましたが)。
そしてこれ→「かたかたかたかたかたかた」。
ついでに並べて弾いてみました。なんかアフリカっぽいなあ(笑)。
さて、あからさまに後者(高い音)のほうが打鍵そのものは速いわけですが、前者がカナ入力、後者がローマ字入力である場合には、カナ文字列の入力速度は同じです(あるいは前者のほうが速い)。
つまり、ローマ字入力は労多くして功少なし。平たくいうとムダな動きが多いわけです。
そして、打鍵数が1.5倍であるならば、打鍵ミスの割合も1.5倍になる。ものの道理というやつですね。繰り返すが、
「余分な手間をかけたうえに、ミスも増える」のがローマ字入力なわけです。
算数は苦手なんですけど、計算してみましょうか。
カナ入力の場合を「1」としてローマ字入力にかかる手間を計算すると、
x(ローマ字入力の手間)
=1×1.5(「カナ入力に比しての打鍵数」)
+1×1.5(「標準的なキーボードを使った場合の誤打鍵率」)
=1.5(「カナ入力打鍵数」+「誤打鍵率」)
合ってるかな。
まあ「無駄なことをしているよな、ローマ字入力は」と思っていただければだいたいOK。文句があるなら、
ローマ字で速い人を連れてきなさい、勝負するから。
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ながながと書いてますけどね、書かなきゃいけないだろう動機もあるわけですわ。
いちばん腹が立つのは「僕はローマ字入力に馴れてるから」とか言ってくれちゃう輩ですね。
馴れてりゃどんだけ速いのかと思ったら、10分で500字だって(笑)。それ、ぜんぜん馴れてない。
最初に覚えた方式にしがみついてるだけ(笑)。いいよ、期待しないから。
それで、そうやって「僕はこれでいいんだ」とかいう奴に限って、初心者の皆さんにローマ字入力を薦めたりするんだこれが。
ふざけんな、タイピング未経験者に対してこそ、カナ入力を薦めなくてどうする。
そしてその無責任な薦めに従った無垢な初心者が、「先輩にこう言われたから」ちゅうて無批判にローマ字入力を使い、
後輩に対して無責任にローマ字入力を薦めていく。結果として、非効率的で非能率的な入力方法が日本を席捲することになってしまった。
そりゃ、「自転車入門者」に「三輪車を薦める」のが悪いとは言いません。
問題なのは、それが「降りられない三輪車」であること。
三輪車に馴れちゃった人が、「俺は三輪車のままでいいんだ」と言ってるのが現状でしょう。
ローマ字入力でも困ってない。
俺は自分の考えを文章にするだけだから、速い必要はない。
遅くちゃいけないんですか?
いろいろあるけれども、「速いに越したことはない」というテーゼにまともに応えていただいたことはありませんな。つまり、「向上心のない奴に用はない」のよ、俺は。
最低限、あなたがローマ字入力から脱する必要はないけど、人に薦めるのはやめて。頼むから。
それと、あなたがローマ字入力にはまってるのは構わないけれども、「いつの日にかカナ入力に移行したい」という動機がこれだけあることは覚えておいてくださいね。あなたは単に移行するのがめんどくさいだけなのだから。
http://nicola.sunicom.co.jp/thumb4_1.html ■打鍵数と入力速度比較
右のグラフは、(社)日本能率協会が3つの入力方式(親指シフト、JIS、ローマ字入力)について行った「打鍵数」と「入力速度」の比較です。
※実験内容は、朝日新聞の「天声人語」(約700文字前後)をキーボード経験3カ月以内の10〜50代の男女18人で調査。
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