【ヤスヒロ】CR戦国乙女 〜乙女武将との日々〜 第4.5章
「あ、あなたは…!」
「やぁケンシン、相変わらず元気そうだ」
「なんだ?ケンシンそいつと知り合いなのか?」
「…生徒会の副会長よ」
「な、なにぃーっ!?」
副会長、と呼ばれた女生徒は掛けているメガネを指でクイッと直し、うやうやしくお辞儀をした。
「後ろの奴らは私を知らんだろう。私は明智ミツヒデ…只今紹介にあずかったが生徒会で副会長をやらせてもらっている、以後お見知りおきを…」
「生徒会ってことは…!お前らが剣道部に妨害を!」
「妨害、とは聞こえが悪いな。あれはただの会長の戯れだ、お前らにはそれにつきあってもらっただけのことさ」
「…いくら会長でも、そんなことが許されるはずがないわ!」
「そうだ!ケンシンそいつをぶん殴ってさっさと進むぞ!」
「ぶん殴る?ふふ、面白い。さぁケンシン、私を殴るならさっさと近寄ってくるがいい」
ミツヒデは頬を差し出して挑発する。
だが、ケンシンは一行に動かない…いや、動けないのだ。
「くっ…」
「先輩はさっきの液体で動けないようだな。一体なんなのだあれは…」
「せっかくだ、この房の説明をしてやろう」
ミツヒデがパチンと指を鳴らすと、ケンシンの頭上で何かが動く音がした。
一同がそこに視線をやると、大きな水槽が設置されていた。中には何やら水のような液体が入っているようだ。
「その水槽の中身は濃硫酸だ」
「な、なにっ!?ふざけんな、死んじまうじゃねぇか!!」
「冗談だよ冗談。中身はペペローションだ。そしてケンシンの足元の液体もペペローション…うかつに動けばどうなるかわかるだろう?」
つまり、ケンシンが動けずにいるのは、滑って転んでローションまみれになるのを避けているという事か。
女子高生にローション…なんて素晴…けしからんトラップなのだ。
俺としては、ケンシンには勇気を持って動いて欲しい!それで転んでも仕方が無い!仕方が無いんだ…っ!!
「元はこの垂溶房は私の管轄ではないのだが、お前らがどれだけのものか確かめたくて、私自らやってきたというわけだ」
ミツヒデがスッと横へずれると、奥には蝋燭が静かに燃えている…その上にはロープ。
すでに炎はロープを焦がし始めている。ロープの先には…。
「そしてその水槽は、あのロープが切れると中身がぶちまけられる仕掛けになっているそうだ。ふふ、随分な仕掛けだな」
「あんな遠くにあっては、消しようがないではないか」
「つまり、動かねばじきにローションまみれ、動いてもローションまみれは必須ということだ。さぁどう切り抜けるかな?」
── 某室
「オッス!失礼します!」
数人の女生徒が、5人がかりで運ぶほどの巨大な徳利を持って登場し、先ほどの巨大な女生徒のグラスに注ぐ。
「ミツヒデか…あ奴はドクガンテツと違って程を知らぬからな。本来の目的を忘れなければよいが…」
── 垂溶房
「先輩…頑張って…」
「いやぁ楽勝じゃねーの?」
「どういう意味だ?武田先輩」
「まぁ見てなって」
いやに自信たっぷりだな武田は。それだけ上杉を信頼しているということなのか。
「だが、私はそれを待てるほど人間が出来ていないのでな」
ミツヒデが何やら構え始めた。そして何かを投げつけるような動きを見せた瞬間 ──
ケンシンから声が漏れる。
「い、いたッ…!」
「先輩!」
「ふふ、お前の気の強い顔が歪むのを見ると、とても気分が高揚するよ……はぁっ!」
「痛っ!くっ…」
ケンシンが痛がるたびに、足元のローションに何かがポツンと落ちる。あれは…画鋲?
「あ、あれが世に聞く朱雀鋲爆砕…!」
「なにぃ、知っているのかマサムネーっ!」
『朱雀鋲爆砕』 戦国武術400年の歴史を誇る、本能寺教体拳最大の秘技とされている。
無数の鋲を敵に投げつけ殲滅する技で、かつてはクナイを投げていた。体得できたのはほんの数人と言われている。
その技の特性から大量の鋲を持つ必要があったが、大量生産のため多くの鋲が質の悪い鋼(はがね)で出来ていたことから
駄目鋼(だめがね)と揶揄されることもあった。現代でもこれに似た技を使う者をダメガネと呼ぶのは、この名残である。
── 民明書房刊「強カワ眼鏡大百科」より
ケンシンは落ちた画鋲を拾って拭い、蝋燭へ向かって同じようにして投げつけた。だが、外れてしまった…。
「なるほど、私の画鋲を使う事を思いついたか。だが、この朱雀鋲爆砕は一朝一夕で扱える技では無い…はぁっ!」
「きゃあっ!」
さらに数発の画鋲がケンシンを襲う。
「さぁ、倒れこめば楽になるぞ!そして屈辱にまみれた顔を私に見せてくれ!」
「くそ…!なんて奴だ、あの副会長は。このままでは先輩は…」
「安心しろよ、マサムネ。よく見てみろよケンシンの顔を」
「えっ…?笑っている…」
ガードをした腕の隙間から見えるケンシンの口は確かに、わずかに口角が上がっている。
「ふん、あまりに絶望的な状況になって気でも触れたか?笑っていられるのも今のうちだ」
「ふふ…充電完了ってとこかしらね…」
「…なんだと?」
「充電とはな。どこぞの桃太郎侍みたく般若ゲージでも溜めていたのか?」
「あなたを倒すための怒りのゲージよ!」
ケンシンはガードを解き、ミツヒデを睨みつけた。
「ふん、動けない状態で良く言う…。それにそろそろ上の水槽も落ちる頃会いだ」
「なめないで、こんなものいつでも動けたわ」
そう言って一歩踏み出すケンシン。
まるで氷の上を踊るがごとく、前後左右にブレることなく滑っている。一回転までして見せた。
「ふん…何故かは知らぬが、随分と慣れているようだな…だが、その前に我が奥義を持ってお前を倒す!でやぁっ!」
「もう通用しないわ!」
ケンシンは足元のローションを一掬いすると、投げられた画鋲に向けて一閃。
画鋲はローションにまみれてその場に落ちてしまった。
「な、なにぃっ!?」
「マッハローション!」
ケンシンは右と左両方で掬ったローションを、まずは左手でミツヒデへと投げつける。
「きゃぁっ!」
眼鏡や顔にかかり、驚いたミツヒデはローションに足を取られ、ついに倒れてしまった。
そしてさらに1回転したケンシンは右手で思い切り奥の蝋燭へ向けて飛ばす。
果たして、見事ローションは蝋燭へと命中!火は消え、ロープもぎりぎり残る形となった。
それをローションまみれになりながら見ていたミツヒデは、肩を落とした。
「くっ…不覚…!」
「YOU'RE NOT MY MATCH.(勝利は我が手中にあり!)」
ぺぺローションwww
ブレードさん、どんだけ男塾好きなんだW
嫁へのダメガネ呼ばわりは、民明書房が元凶だったのか・・・
ちょっと大河内民明丸に抗議しに行くから、ローションまみれの嫁は連れて行きますね
「ふふふ…油断したようだ…。まさかこれほどとはな」
「副会長…これ以上は無意味です。私たちを先へ行かせてください」
ミツヒデはゆっくり立ち上がり、メガネをなおす。
すっかりローションまみれになってしまったミツヒデは、非常にエロい。
ところどころ透ける肌やブラがたまらんぜ!ひゃっほう!
「先生…目が怖いです…」
「はっ…!俺とした事が!決してそんな目で見ているわけじゃないんだ、信じてくれ!」
「信じろというのは無理な話だな」
「やっぱり変態教師だな!」
「うわーん!」
「このままでは私のメンツに関わる!貴様も道連れだケンシン!」
「くっ…!」
ミツヒデがケンシンに近寄ろうとした次の瞬間、どこからかスピーカーに乗せて声が届いた。
『ミツヒデ、何を後輩相手に熱くなっておる…この場は貴様の負けじゃ。さぁ行けぃ剣道部共、いよいよ鎮邪禁直廊最後の房じゃ』
「この声は…!わ、わかりましたノブナガ様…」
ミツヒデは後ろへ向かい、ローションの上を渡るための板を取りだした。
「ついていたなケンシン…ノブナガ様のお言葉とあらば仕方あるまい。次に会うときは容赦はせん」
「…覚えておきます」
ついに鎮邪禁直廊最後の門まで辿り着いた。
ここさえ突破すれば、学年委員の織田ノブナガとやらとご対面だ。
そしてその先には、生徒会長斎藤ムラサメ…決着の時は着々と近づいている。
「いやぁ、さっすがケンシンだな!ローションプレイならお手の…もがもが」
「な、なんのことかしらね!さぁ行きましょう、最後の房よ!」
「「「???」」」
1年組は何の事かわかっていないようだが…俺には少しわかる気がする。
この二人前々から思っていたけど、かなり怪しい関係だな!既にローションを使う域まで達しているとは。
いやはや、女子高ってすごいところだなぁ…。
そんなお喋りをしつつ、最後の房へ入るための扉までやってきた。
「これが最後の関門か。まったくノブナガってのは何様かは知らねぇけど、随分ともったいつけたことしてくれるぜ。
なっしゃぁ!いよいよ真打ちのご登場だ!今度こそオレの出番だ!」
ドカァン!
シンゲンは扉を勢いよく開け、中へと飛び込んだ。
「ん〜?ここも特に何も…」
ガシャァン!
再び鉄格子が閉まり、分断される形となってしまった。
「ま〜た鉄格子か。あちらさんも念入りだなぁ」
シンゲンは鉄格子をポンと触ろうとしたが、その時、シンゲンに電流走る──!
バチィッ!
「ってぇ!こ、これは…!む、誰だ!」
シンゲンが振り返ると、奥の方から誰かが姿を現した。
見た目は普通の女生徒だが、ムチを持ち、更に頭に角か何かがある…コスプレ?
「お仕置きの時間よ」
「お仕置き?へん、そんなもんこっちは慣れっこだ!お前は誰だ!」
「私は女色ディーノ…かわいがってあげるわ」
「お手柔らかに頼むぜ…!」
何だか随分な色者が出てきたな。
今までは足ツボ地獄にローション地獄…今度はどういう仕掛けがあるのだろうか。
「ちなみにこの紫電房は壁や鉄格子から静電気が発生するようになっているわ…。
さぁこちらまで来なさい、我らが筆頭はこの房の次の大広間でお待ちかねよ」
「気を付けてねシンゲン…何があるかわからないわ」
「楽勝楽勝、あのSMねぇちゃんにちょっとあいさつしてくるぜ」
シンゲンは相手に向かい歩き始めた。
「何が紫電房だよ、壁や柵に静電気があったってどうってことねぇじゃんか」
「ふふふ、そうかしら…?じゃあこれならどう?」
ディーノは壁にあるつまみのようなものを横へ回した。
すると突然、シンゲンが歩いていた床が音を立てて動き始めた!
「うわっ!この床、ルームランナーみたく後ろに下がってく!くっそおお!」
「シンゲン!走って!」
シンゲンは急いで走り出した。しかし、いくら進んでも中々前には進まない。
「ふふ、気分はどう?あなたを全国一のランナーに調教してあげる…。今は高校女子800mの平均速度になっているわ」
「うりゃああ!!」
さすがに平均タイム程度の早さならシンゲンも大丈夫そうだが…。
ローファーってのがきつそうだ。そして制服であるがゆえに…パンチラの危険も!
「へっ、こ、こんくらいなら大したことないぜ!」
「なかなかやるようね。じゃあしばらく走っていてもらいましょうか」
「な、なんだと?」
ディーノは、走るシンゲンをじっと見つめたまんまだ…。
そんなこんなで5分程経ってしまった。さすがにシンゲンも急に走り続けるのは堪えるのか、息も切れ切れだ。
「はぁ…はぁ…くっそぉ…はぁ…いつまで…はぁ…走ってれば…」
「すっごくいい…」
「…はぁ…はぁ…あぁん?」
突然ディーノはスイッチを切った。
走りからようやく解放されたシンゲンは、その場にへたりこんだ。
「だぁー!きっつ!はぁはぁ…」
「汗いっぱいかいちゃって…素敵よ…私好み」
「はぁ?お、おまえまさか…女色って…」
「その通り!」
そう叫んでディーノは持っていたムチを振るうと、シンゲンの首に巻き付けた。
「う、うわっ!何すんだ、離せ!」
「もっとあたい好みになってもらうわ」
「しまった!解けない…!」
「こっちにおいで!」
ディーノは巻き付けた鞭をひっぱり、シンゲンを自分の元へと引き寄せた。
上杉がヤバイ形相で睨んでる…そりゃぁなぁ…。
「言うとおりにしてくれればいいのに…」
「や、み、見るなぁ…」
「楽にしてあげる…」
どんどん二人の顔の距離が狭まっていく…。
上杉がまるで鬼の形相です。怖いです。
「やめ…」
あぁ、もうこのままでは…ディーノに武田が籠絡されてしまう。
「シンゲーーーン!!」
おぉ、上杉の魂の叫びが。
「やめろって!」
「はっ!」
「…言ってるだろーーーっ!!!」
「フラれるなんてーー!!」
テンテンテテン
「討ち取ったり!」
ここで桃キュンがwww
まさか…剣つながり!?
ケンシン・シンゲンのローションプレイ…(;*´Д`) ハァハァ
想像してたら何かムラムラしてきたw
ドクガンテツや女色ディーノたんは、やっぱ眼帯に呼ばれるSU4忍者なんじゃろか・・?
>>153 ご名答です、彼女らをイメージしてもらえると幸いです
「ふぅ、危なかった…ケンシンが叫んでくれなかったら、オレあいつに唇奪われるとこだったよ」
「よかった、シンゲン…本当に…」
鉄格子を挟んで、まるで映画のワンシーンのように見つめ合う二人。
ただ一つ違うのは、二人とも女性だということだが…それはこの際オッケーである。そういうのも俺は大好きだ。
すると突然余韻に浸る間もなく、間を挟んでいた鉄格子が天井へ上がっていく。
ついに最後の房もクリアしたのだ。残すは学年委員との対面…。
奥の方で扉が開く音がし、間もなく3年と思しき生徒がやってきて、中へ入るように促した。
「よくぞ鎮邪禁直廊を突破した、剣道部ども!さぁこの封印塔次の間で3年生筆頭がお待ちかねだ!」
「へっへへ、恥丘の境目がパックリ口を開けたってか」
「いよいよ学年委員とやらにお目にかかれるな」
「……」
その時、扉に向かって走る一つの影が…あれはヒデヨシか!?
「おいヒデヨシ!」
「みんなゴメンなさい!」
ヒデヨシは扉の先へと走りこみ、扉を閉めてしまった。
「クソッ、鍵もかかってる!ヒデヨシ、開けろ!何でお前一人でいくんだ!」
「ごめんなさい…アタシ個人のことで皆を巻き添えにすることはできないの…!織田ノブナガのことはアタシが一番良く知ってる…。
馬鹿な女だと笑ってもいい…だけどこればかりは後に引けないの。さようなら、みんな…」
「ヒデヨシーッ!あの娘刺し違えるつもりよ!ヒデヨシー!!」
なぜか武田と上杉とヒデヨシは大盛り上がりだが、刺し違えるってなんだよ…。
マンガの読み過ぎではないだろうか。マサムネ、イエヤスも隣で呆れ顔だ。
(これでよかったんだよね…これで…)
「今生の別れは済んだか、猿よ」
「織田ノブナガ…!」
ヒデヨシが振り返ると、そこにはゆうに10mを超える巨大女が。
「久しぶりじゃのう、猿。まさかこの学校にお前が来るとは思わんかったぞ」
「アタシもアナタがいるとは思わなかった。だけど好都合ってことだよね、これでアナタに復讐できる!」
「ほう…勇ましい事じゃ。お前らは手を出すな、ワシが直々に葬り去ってくれよう」
「織田ノブナガ、覚悟ーっ!」
────────────────────────
「くそー!だ、だめだ、なんて頑丈な扉なんだ!」
「死なないで、ヒデヨシ ──!」
床に座り、イエヤスが何故か持ってきていた水筒でお茶を頂く。どうやら遠足的感覚でいたため、持って来たらしい。
2年生コンビは未だ扉と格闘中。死なないで、という言葉が飛び出すほどの大熱演だ。
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ヒデヨシが飛びかかろうとすると、ノブナガの指がヌゥと出てきてその突進を弾き飛ばす。
「キャァ!」
「どうじゃ、苦しかろう悔しかろう。お前はワシの身体に傷一つつけることもできんのじゃ。地獄で後悔するがよい!
この室生高三年筆頭織田ノブナガに牙をむいたということをのう!どりゃぁ!」
「きゃああああ!!!!!」
────────────────────────
「な、なんだ今の叫び声は!」
「まさかヒデヨシの身に何かが!早く開けて助けないと!」
「…あの…先輩…それ押すんじゃなくて引く扉です…」
「それを早く言え!」
ガラガラガラ
扉を開けると、そこには巨大なノブナガに掴まれ、息も絶え絶えなヒデヨシが。
「…先輩…みんな…」
「ヒデヨシーーッ!!」
「な、なんて巨大な奴なんだ…!ゼントラーディじゃあるまいし…」
「よく見ておくがよい。このワシに牙をむけた愚か者の最期をの」
ノブナガはヒデヨシを床に落とすと、その拳をヒデヨシへ向けて振り下ろした──!
「やめろーっ!!」
シンゲンが叫ぶと同時に、ケンシンはノブナガへ何かを投げつけた。
その瞬間ノブナガの腕が止まり、シンゲンが間一髪ヒデヨシを救い出す。
「む…画鋲か」
先ほどの画鋲を念のため持っていたようだ。
さすが上杉、用意がいいな。しかし、なんだこの規格外の女は…。あれ?どっかで見たような…。
「先輩…」
パチンッ!ケンシンはヒデヨシの頬を叩いた。
「馬鹿っ…!何でかは知らないけど、勝手な真似をしちゃだめでしょ!剣道部の皆が付いてるんだから…」
「うっ…ごめんなさい…っ」
「しかし、あいつとどんな因縁があるんだ?ヒデヨシ」
「…近所のお姉ちゃんで、アタシちっちゃい頃いじめられてたの…」
「そんな壮絶な過去が…!わかったわ、ヒデヨシ。あなたの無念、私が晴らすわ!」
付いてけません、この人たち。それより、でけぇよこの女。
「ほう、剣道部部長で生徒会役員で二年生筆頭の上杉ケンシンか。ワシに楯つく罪は重いぞ。
しかし素手では相手にならんから、これをくれてやろう」
ノブナガが投げてよこしたのは竹刀だ。随分優しいな。
「そして、お主がそれを使うなら、ワシも使わねばなるまい…このキセルを」
自分で渡しておいて何を言っているんだ。そしてこれまたバカでかいキセル。
キセル…タバコ…あっ!!思い出した、こいつ…!
「さすがは二年生筆頭。猿のように無暗に突っ込んではこないようじゃな。貴様にはこのワシの強さも恐ろしさもわかるらしい」
「えぇ、それにもうひとつ分かっているわ。人を人とも思わない残虐さも…!てぇい!」
ケンシンの放った太刀筋を、あの図体でヒラリとかわす。
それに合わせ、キセルがケンシンめがけて襲ってくるが、なんとか竹刀で受け止める。
「なんて人…あんな巨大なキセルを苦も無く振り回して」
「このキセルから逃れることはできんのじゃ」
再び振り下ろされるキセルを逃れ、ケンシンはノブナガの足元へとダッシュする。
「うまいぞケンシン!奴の懐に入り込んだ!」
「胴ぉぉぉぉ!!!」
「良い太刀筋じゃが、その程度では通用せん」
ノブナガは指で竹刀を受け止め、竹刀ごとケンシンを吹き飛ばす。
「きゃぁっ!…くっ、やるわね…」
「すげぇ、あいつバカでかいだけじゃなくあの図体でかなりの素早さだ」
「…せん…ぱい…頑張って…」
「…ヒデヨシ、見ててね。てやあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ケンシンが起き上がり、ノブナガへ渾身の一撃!
しかしそれをキセルで合わせるノブナガ。そしてケンシンの竹刀は無情にも折れてしまう。
「やべぇ、ケンシンの竹刀が折られた!」
「これで最期じゃ。死ねぇぇい!!」
── が、ケンシンへ向けて振り下ろしたキセルは途中で柄の部分が折れてしまった。
「…!!」
「ふふ、あなたのキセルも見かけほどではないようね…!」
「見事じゃ」
ノブナガは後ろにある大きな椅子にドカッと座り、笑みを浮かべた。
「よかろう。これでこそワシが呼んだ甲斐があるというもの。ここはこれまでじゃ。貴様らには相応しい死に場所を用意しておる」
「…どういう意味?素手ではあなたを倒せないと思っているの?」
「待てーっ!」
突然、横の扉から声がした。この声は聞き覚えがある…あのお方だ。
「それは我から説明しよう」
「…理事長!」
扉から現れたのは、我らが理事長室生オウガイ。
理事長が何故ここに?確か手を貸してくれるのは、場所を教えるだけだったはずじゃぁ…。
「あいかわらずやってるな、ノブナガ」
「オウガイ…お前もな」
随分親しげに話すんだな、あの二人は。…って気づいたらノブナガが普通の人間サイズに!
落ちてるキセルも普通の大きさだ。ヒデヨシの怪我もよく見ればタンコブ一つだ。これが闘気のなせる業か…すげぇぜ!
「理事長、これは一体…?」
「ヤスヒロ、まずはこの鎮邪禁直廊を無事通り抜けた事を褒めてやろう。無論、お前たち剣道部もだ」
「はぁ…」
「全てはお主らの力を試すためじゃ。そして見事、お主らはこのワシやオウガイに認められたという事じゃ」
つまり全ては理事長の手の上で踊らされてたという事か。
「そして、この私にも認められたという事よ」
「あっ!お前は…」
理事長の出てきた扉から現れたのは、まぎれもない張本人、生徒会長だ。
「斎藤!理事長から聞いたぞ、お前…」
「無粋な事言わないの。それに、私が何もしなくても結果は一緒よ。これは3日前全校生徒に取ったアンケートなんだけど、
剣道部に入りたいという生徒は残り0…つまり、手詰まりだったわけ」
いつのまにそんなアンケートを…。それじゃあこの剣道部はどうなるんだ。
「心配そうな顔をしておるな。だがその心配も無用だ」
「どういうことです?理事長」
理事長がノブナガへ目をやると、ノブナガは軽く頷いた。
「…ミツヒデ!」
「はっ」
さっきの副会長がノブナガの横に現れた。いつの間に…そして制服も無事だ…着替えたのだろうか。
「このワシと、ミツヒデ。今日付けで剣道部に入部してやろう、ありがたく思うがよい、はっはっはぁ!」
「な、なんだってーー!?」
「既に我が入部手続きをとっておいた。フッフフ、我が室生高校理事長、室生オウガイである」
「な、なんだってーー!?」
一挙に二人加入!これで部員集めの心配はなくなるわけだが…問題が一つある。いや、たくさんあると思うが、とりあえず一つ。
「その前に、織田ノブナガ…君に聞いておきたい事がある」
「なんじゃ、藪から棒に」
「俺は入学式の日に、体育館横で君を見かけた。目も合った。覚えてるか?」
「あぁ…おったな。ひょろい男がこの学校に何用かと思ったが、お前だったか」
「この場でハッキリさせておきたい…煙草を吸っていただろう?だとしたら、君を部に入れるわけにはいかない!」
我ながらビシッと決まった。理事長の前だし、言い逃れはできないだろう。
いくら人数が揃ったとはいえ、不祥事で休部なんてのはゴメンだ。
「あぁ、あれはシナモンスティックじゃ、ほれ」
そう言って取りだしたのは、煙草のように見えるシナモンスティック。
「ほ、ほんとにシナモンスティック…で、でも煙を吐いてたぞ!?」
「あの時は恥ずかしながら童心に帰ってドライアイスを、口に入れて遊んでたのじゃ、ほれ」
そう言って取りだしたのは、ピンク色のプラスチックスプーン。
「ほ、ほんとに31…」
「というわけでワシは潔白じゃ。他に何か聞いておきたいことはあるか?」
「…カレーとか作れる?」
「作れぬ。食い逃げはするがな、はっはっはぁ!」
そうだったのか…!なら彼女は潔白だ。喜んで部に迎え入れよう!
──喜んでいるヤスヒロの後ろで、怪訝そうな部員達。
「…なぁ、とんとん拍子に話進んでるけど、あれ絶対嘘だよなぁ?」
「ん〜、でも信じてあげるしかないんじゃない?」
「不安要素は沢山あるが、部員が揃ったことは確かだな。後は大会で勝てばいいのだろう」
ヒデヨシ「う〜っ、だって一つ屋根の下っていうだけであたしにとっては大きなハンデなんですからぁ〜!!」
ケンシン「ハンデって…」
ケンゾウ「じゃあお前、オレの妹にでもなるか?」
ケンシン「ちょ、ちょっとケンゾウ!?」
ケンゾウ「な〜んて、冗談…」
ヒデヨシ「ええ〜っ!?それは困ります〜っ!!」
ケンゾウ「…は?困る?」
ヒデヨシ「だってだって〜、妹になってしまったら、あたし先輩のお嫁さんになれないじゃないですかぁ〜!!」
ケンゾウ「…は、はぁ…、そういうモンなわけ?」
ヒデヨシ「はい、そういうモンです!」
ケンシン「(このコもシンゲンに負けないくらいのぶっ飛んだ思考回路の持ち主ね…)」
イエヤス「………ケンゾウお兄ちゃん(ぼそっ)」
ケンゾウ「…徳川、今何か言ったか?」
イエヤス「…いえ、何でもありません」
シンゲン「そういえばケンゾウ、お前さっきムラサメ先生に豪快に絞められてたけど、いったい何したんだ?」
ケンゾウ「(ぎくっ)え、え〜と、それはその…」
イエヤス「…授業そっちのけで先輩方のブルマ姿に見とれていました」
ケンゾウ「ちょ、と、徳川!」
ケンシン「ケンゾウ…(じとぉ〜)」
ケンゾウ「ご、誤解だって!アレはたまたま姉さんたちの姿が目に入っただけで…」
イエヤス「そしてずっと鼻の下を伸ばしていました」
ケンシン「ふ〜ん…」
イエヤス「そしたら今度はムラサメ先生がケンゾウさんに色仕掛けを始めました。
(声真似)『先生のブルマ姿じゃ萌えないかしら?それとも、素肌にYシャツ姿の方が萌えちゃう?
なんだったら、バニー姿であなたを悩殺してあげてもよくってよ?』って…」
ケンゾウ「頼むから話すなら誇張しないで本当のことを話してくれ。さっきから姉さんの視線が冷たすぎて怖い…」
イエヤス「…というのは冗談です」
ケンゾウ「…心臓に悪い冗談はやめてくれ…」
イエヤス「…ちょっとだけ意地悪してみました」
ケンゾウ「徳川、お前いったいオレに何の恨みがあるんだよ…?」
「さて、これで晴れて部員は揃ったわけだが、後は大会で8位以内入賞だったな」
理事長が前に出る。
その通り、まだうかれるには早い。春季の大会で勝つという条件も残っているのだ。
「実はその大会の方も我が既に登録準備を済ませておる」
「え、もうですか?てことは部員が揃うのを予見して…?」
「さぁ、な。細かい事は気にせんほうがいい」
やはりこのお方には敵わない。とてつもない器だ。
「大会名は──『天挑五輪全国高等学校剣道大武會』だ!」
「…ちょっといいですか?そんな大会聞いたことないのですが」
「『天挑五輪全国高等学校剣道大武會』…噂には聞いていたが、まさか本当に実在するとは…」
「し、知っているのかマサムネーっ!」
『天挑五輪全国高等学校剣道大武會』
高校剣道の三大大会、玉竜旗・インターハイ・選抜の他に存在する、もう一つの全国大会である。
その始まりは玉竜旗と同じく1916年から行われており「夏の玉竜旗、春の天挑五輪」とも言われている。
4年に一度だけ開かれ、全国の高校から多くの学生が集まりその腕を競い合う、最強の高校を決める大会である。
主催者、スポンサーなどは一切秘密で謎のベールに包まれた本大会は、4年に一度という期間のおかげで在学中に
大会に出れない生徒もおり、わざと留年をする者が後を絶たないという壮絶、熾烈な歴史もある。
── 民明書房刊「まよひなき剣の道」より
「そ、そんな大会があったなんて…!」
「お主たちは運よくその4年周期に当たったというわけだ。心して挑むがいい」
「ですが、いきなりそんな全国大会で8位以内入賞だなんて無茶ですよ!初心者もいるわけですし、地方大会から順に…」
「黙っておれば廃部だったのだ。大会を決める権利ぐらいは譲歩してもらいたいものだ、違うか?」
「ぐぬぬ…」
「なぁに、ワシらが入れば地獄鎌…いや、鬼に金棒よ!」
織田と明智…この二人の実力は定かではないが、本当に頼りになるのだろうか?
「ふぅん…あの『天挑五輪』に出るんだ…。面白そうね、私も入部するわ」
「えぇっ!?会長もですか…!?」
「あらケンシン、なにか不満でも?」
「い、いいえ!とんでもないです。そりゃ会長が入ってくれれば百人力ですが…」
ここでまさかまさかの生徒会長参戦。
元は敵対していた相手が仲間になっていくという王道的な展開ではあるが…。
そんな百人力って言うほど彼女はすごいのか?だとしたらパーフェクト超人すぎる。
「上杉…ちょっといいか?」
「何ですか?」
「斎藤…生徒会長は剣道の経験あるのか?」
「会長は薙刀の有段者なんですよ。全国優勝もしたことありますし、剣道も同じくらい強いんです」
「へぇ〜、薙刀…」
薙刀を振るう彼女を想像してみる。…確かにサマになる、というか強カッコイイ。
本当に欠点一つ見当たらないなあいつは…。
「決まりね…オウガイ、私の手続きも一緒にお願いね」
「委細承知…といきたいが、あいつのことはいいのか?頼まれた事とまるで真逆の結果になるが」
「来年の会長の座でもチラつかせればアホ面して喜ぶわよ、どうせ」
「…まぁそうだろうな。分かった、お主の手続きもしておこう」
さて、部員が揃ったからには今日から練習をしていきたいところだ。合計で7名か。
とりあえずは織田と明智、そして斎藤の実力の見極め、ヒデヨシ、武田の育成か。
俺はとりあえずヒデヨシの元へ。
「ヒデヨシ、怪我は大丈夫か?」
「うん、もう全然大丈夫!それよりよかったね先生、部員が揃って。アタシも試合に出れるように頑張る!」
「そうだな、秋には3年がいなくなるわけだから、お前やマサムネがしっかり頑張っていくんだぞ」
思わず頭をナデナデしてしまう。セクハラと取られてもおかしくはないが、ヒデヨシは笑顔で抵抗もしない。素直な娘だ。
あほの子キャラとはいえヨシモーだけがハブられててちょっとカワイソス…(´・ω・`)
ガンガレヨシモー
hoshu
すると、いきなり空いている方の腕に衝撃が走った。
「ふぅん、もう手付けちゃってるんだ。名前で呼んじゃって、随分仲がいいのね?」
「ば、ばか!そんなんじゃない…って、抱きつくな、離せ!」
「何言ってるのよ…密室で二人で過ごした仲じゃない…」
「え…そ、そうなんですか、先生…」
「ち、違う!誤解だ、こいつが勝手にそう言ってるだけで──」
悪夢再来だ。この調子でしばらく付き合わされるのを考えると疲れてくる。
「この娘は名前で呼んで、私はこいつなんだ。すっごい差ね。部内でそういうの、よくないんじゃなくて?」
「あ、そうそう!オレも気になってた。一年だけ名前で呼ぶのってなんか変だろ」
武田が急に声を上げた。というより、俺と斎藤がくっついている周りにいつのまにか全員集まっている。慌てて腕を振りほどく。
「やっぱ部活なんだから、仲良くやろうぜ。大体、先生はそんな厳しく指導できるような威厳なんか無いんだしさ!」
「まぁ、確かにそんな柄ではないようじゃのう。ならワシの事も名前で呼んでもらおうか。名字で呼ばれる時は大抵教師に小言を言われる
時ばかりで、辟易としてるのじゃ」
「ふむ。ならば私も名前で呼んでくれて構わぬぞ」
「私は…どっちでもいいかな…」
「ふふ、特別に許可してあげるわ。こんなサービス滅多にしないんだから」
というわけで全員を名前で呼ぶことになった。
目指していたのは規律を重んじる厳粛な剣道部ではあったが、武田…シンゲンの言うとおり、俺にはそんな威厳はないし。
それに、今はそういうの流行らないしな、しかも女子高だし。のびのび育てていくか。
「話は色々とまとまったようだな?」
「オウガイ…」
「我を名前で呼ぶのは許可しておらん。次、口にしたらその首どうなっているかわからぬぞ」
「し、し、失礼しました!!」
目がマジだった。怖かったぁ〜。
「さて、意外と早く終わったようだな。今はちょうど昼休みになろうとしている時間だ」
時計を見ると、確かにそんな時間だ。意外と経っているもんだな。
「では、各々教室に戻るがいい」
「あ〜あ、またあの長い廊下通るのかよ」
「お主たちは、この3年の棟に来るのにはあの直廊を通るしかないと思っているようだが…
別に通らなくてもそこの扉が1,2年の新校舎に繋がっている」
「な、何だって!?」
「そして3年に自治権があるような気がしていたが、別にそんな事は無い」
「そうですか」
────────────────────────────────
色々あったけど、無事部員は揃った。今日の放課後から早速本格指導が始まる。
俺達の勇気が全国を制すると信じて…!
「ウオオオいくぞオオオ!」
ご愛読ありがとうございました!
「最終回じゃないぞよ、もうちっとだけ続くんじゃ」
今日は土曜日なので早めに授業が終わる。その分練習にあてられるからありがたいことだ。
そう思って道場へ来たのだが…
「…これだけ?」
全員集まっているかと思いきや、1年生の3人しかいない。
ノブナガやムラサメみたいなマイペース人間が遅れてくるのはまだしも、ケンシンまで?
「おおかた掃除当番にでもなっているのではないか?」
「ん〜、まぁそれもそっか。もうちょい待ってみるか…じゃあその間に、マサムネ」
「なんだ」
「ヒデヨシに、竹刀の持ち方とか振り方とか軽く教えといてもらえるか?ヒデヨシもそろそろ素振りとかしてみたいだろ?」
「うん!やっぱ剣道部だもん、竹刀振りたかったんだ!」
上機嫌のヒデヨシ。まずはやっぱり剣道の楽しさを知るところからだな。
技術的なことはマサムネに任せておけばいいとして…。
「さて、今度はイエヤスだな。イエヤス、剣道のルールはわかるか?」
「…細かい所までは自信ありませんが、大体は…本読んで覚えました…」
「おぉ、熱心だなぁ偉いぞ〜」
ナデナデ
「…ぽっ」
「…ハッ、また無意識にやってしまった!いや、その、決して子供扱いしてるとかそういうことじゃなくて…!」
「大丈夫です…嫌いじゃないですから…」
「そ、そうか?じゃあまずは剣道のルール…そして一番大事な礼儀、これを教えておくか。スコアの書き方とかもな」
「はい」
ヒデヨシが竹刀を取りに行って戻ってくると、ちょうどヤスヒロがイエヤスの頭を撫でているところだった。
その光景を見た瞬間、胸の奥の方がモヤモヤとした霧に覆われる…そんな気持ちになった。
頭撫でてくれるの、アタシだけだと思ってた…。特別だと思ってたのにな。
「どうした?ヒデヨシ」
「え、ん〜ん、なんでもない!」
「…そうか。ではまず基本の握り方からだ。握りはこう…」
「えっと、こう?」
「うむ。そしたら親指と人差し指以外の指で握る事を意識して──」
……うん、やってるな。これこそが部活のあるべき姿だ。互いに切磋琢磨して己を高めていく。
やっと、やっとここまで来れたんだ。そう考えると感慨深いものがある。
「…先生?」
「あぁ、ごめんごめん。えっとな、さっきも言った礼儀ってのが剣道のルールの中で大事なことで──」
ガラガラッ!
「遅れました〜」
「すまんのう。掃除が長引いてしまったのじゃ」
入ってきたのはシンゲンとノブナガ。どうやら来る途中で一緒になったらしい。
しかし何でこの2人なんだ?言っちゃなんだけど、他の3人よりルーズな感じがする組み合わせだ。
「シンゲ〜ン、ケンシンはどうしたんだ?同じクラスだろ、確か」
「あぁ、ケンシンは生徒会の集まりがあるらしいぜ。だから会長と副会長も揃って遅れるってさ」
「なるほどね…」
よくよく考えればうちには生徒会役員が3人いて、しかも会長と副会長までいるんだもんな。
全員揃う機会が減るかもしれないが、毎日集まりがあるわけじゃないし大丈夫だろう。
「それじゃあ着替えてきてくれ、始めるから。あとの3人は合流次第だ」
「う〜い」
「ヤスヒロよ、ワシの着替えはあるのか?」
「あ〜、多分更衣室に適当なサイズのがあるんじゃないかな?今日は悪いがそれで。シンゲンが選んであげてくれ」
「おっけ〜」
思い切り名前で呼ばれた気がするけど、もう別にどうでもいいや。ムラサメにも呼ばれてるし。
年下に呼び捨てにされることぐらい、へっちゃらさ…ぐすん。
──更衣室
「ん〜、先輩ならこのサイズかなぁ」
「しかし散らかっておるのう。それに臭いぞ」
「へ〜い、そのうち掃除するんで…」
着替え始める2人。シンゲンはワクワクしていた。また部活ができる…。
一度は廃部かと諦めたが、やはり剣道は好きになっていたしツラい気持ちもあった。
それがこうして再び練習が始まり、何よりそれに伴うケンシンの喜ぶ顔が一番の馳走であった。
と、そんなことを考えていると視界の端になにやら…そちらを向いてみると──
ボヨンボヨン
(でけー…)
「何じゃ、何を見ておる」
「い、いや、なんでもないっす…」
「フッフフ、お主の事はムラサメから聞いておる。相当な乳好きなようじゃのう…触ってみるか?」
「えぇっ!?いやいや、そんな…」
「遠慮することはないぞ、ワシもこれは相当な物じゃと自負しておるからのう、ほれほれ」
「押っ忍!武田シンゲン触らせていただきます!では失礼して…」
ムニュ。す、すげー…!張りと弾力の絶妙な割合…しかもスベスベしつつしっとりと手に張り付くきめ細やかな肌…。
ケンシンよりデカイ…手からこぼれ落ちそうな重量感…これはもしかするとケンシンに並ぶ勢いかも ───。
「シンゲンよ」
「え?なんすか──んんっ!?」
顔をあげると同時に唐突に合わせられる唇と唇。シンゲンにとってはケンシン以外の同姓との初めてのキス…。
何故か抵抗できない。胸のすごさに酔っていたせいなのかもしれない。
少し間をおいて、シンゲンは我に返り後ろに倒れこんで、尻もちをついた。
「な…なっ、なにすんだいきなり!」
「はっはっはぁ!シンゲンよ、お主は面白い奴じゃのう」
笑いながら、さっさと袴に着替えていくノブナガ。
シンゲンは尻もちをついたまましばらく動けなかった。着替えるノブナガを見ている事しかできなかった。
「お主さえよければ、ワシの愛人にしてやってもいいぞ」
「あ、愛人って…!バカにしてんのか!?そ、それにいきなりキ、キスするなんてっ──!!」
「お主は察するにそっち側じゃろ?なら何も問題はないはずじゃ」
「…だからって…」
「答えはそのうち聞いておこう。では先に行ってるぞ」
着替え終えたノブナガは笑いながら更衣室を出て行った。
後に残されたシンゲンは茫然としていた。
ケンシン以外との初めてのキス…。しかも唐突に、強引に──そのうえ愛人契約!!まで。
怒ってもいい…そのはずなのに…怒りの感情は少しはあるものの表に出てこず、何故か胸はドキドキしっぱなしだ。
どうしちゃったんだよオレ…くそぉ…ケンシン…。
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更衣室から出てきたノブナガに俺は早速声をかける。
「ノブナガ、聞きそびれてたんだけど剣道の経験は…?」
「んなもん無い」
「えぇっ!?」
「しかし、封印塔でのワシの実力を見ておるはずじゃ」
確かにあのときは、キセル一本で竹刀のケンシンを圧倒していた。
経験無しであの実力という事は、我流は無型って事なのかな…?まぁ底力があるならいいけどさ。
これは一応基本から教えていった方がいいかもしれない。それと、一番大事な礼儀もな。
うはっw ケンシンの居ぬ回り間に。w
ミスったw
「居ぬ間に」だ。
俺、ノブ様の愛人になる為今日から女になる!
そして女になったらノブ様の乳を揉むんだ
続いてシンゲンが更衣室から現れたが…足取りが何だかフラフラしている。
先ほどまでの元気はどこへやら、といった感じである。
「シンゲン?元気ないようだけど、何かあったのか?」
「いや、なんでもないすよー…」
どう見ても何でもないはずがない返事だ。まぁ大方ケンシンがいなくて淋しいウサギになっているのかもしれない。
ケンシンが来れば少しは元気を取り戻すだろう。
「まぁいいや、それじゃぁ……お〜い、始めるぞ〜集合〜」
ヒデヨシとマサムネを呼び寄せ、本格的な剣道部としての稽古が始まった。
── 生徒会室
長机が凹の形で並べられている生徒会室内では、定例委員会が始まろうとしていた。
2年A組とB組は席が隣同士だ。B組の席に座っているのはもちろん上杉ケンシン。
そのケンシンの横顔を横眼でチラチラ窺っている、黒髪ロングの清楚そうなA組の役員…今川ヨシモトである。
ケンシンも、ヨシモトの執拗なまでのチラ見に気づいており、いい加減嫌になってきたので聞いてみることにした。
「ヨシモト…私の顔に何かついてる?」
「そんなベタな聞き方しなくても結構…あなたをガン見してますわ、そして疑問に思う事がありますの」
「疑問…?」
「確か今日の放課後が期限切れのはずですのに、どうしてあなたが平気な顔していられるのかってことですわ」
「期限切れ…あぁ…」
ここまで言われてようやく気が付いた。ヨシモトの言っているのは剣道部の事なのだろうと。
「あぁ…って。わかりましたわ…廃部になったショックで呆けてますのね…まっ、無理もありませんわね」
頬に手を添え、満面の笑みのヨシモト。なるほど、勝利宣言がしたかったわけね。
「そうねー…私もアナタの喜ぶ顔が好きだから見てみたかったんだけど、そうもいかなくなっちゃったのよ」
少し意地悪な事を言ってみる。ヨシモトの反応は予想通りの驚いた顔。
「い、一体何を言って…」
「ごめんなさいね、ヨシモト。弓道部に道場をあげるのはもう少し先になっちゃったみたい」
「う、うう嘘ですわっ!そんなはずがありませんわ!」
立ち上がり叫ぶヨシモト。周りの役員も驚いている。
「落ち付きなさいよ…。ちゃんと理事長の前で揃った報告もしてるし、出場する大会も決まったわ」
「そんな…!ワタクシはちゃんと会長に…!」
「会長に…何?」
「あ…な、なんでもありませんわ!」
「ちなみに、その会長も入ってくれたのよ、剣道部に」
「えぇぇっ!?そんな馬鹿な話があるわけありませんわ!あの会長がそんな──」
「私がどうかして?」
生徒会室の扉が開いて、生徒会会長ムラサメが現れた。後ろにはミツヒデも続いている。
「会長!ワタクシがお願いした件はどうなりましたの!」
「あぁあれのこと?ごめんなさいね、ダメになっちゃった」
「そ、そんな…!ワタクシの命をかけた室生高名物、鬼達磨刺青や血誓痕生、血闘援が無駄に…!」
ヨシモトが袖をまくると、片目の達磨の刺青と、弓道部員全員の名前を彫った傷跡が…!!
きっと胸にも『闘』の字があるのだろう。
「大体にして、鬼達磨刺青も血誓痕生も使い所が間違っているのよ。それに、シールでしょう?それ」
「あ、あら、バレてましたの…?」
「そんなもの私に通じるわけないでしょう?まぁ面白そうだったから多少は願いを聞き入れはしたけどね。
だからあなたは、私に文句を言える立場ではないわ」
「うぅ…そんなぁ…」
???「わんわん!」
ケンゾウ「お、何だこの白い犬は?しかも二足歩行で兜なんか被って…」
ヒデヨシ「あ〜、オウガイ先生のペットのシロですよ。たまに迷い込んでくるんです」
ケンシン「そういえばオウガイ先生の家って学校のすぐ近くって言ってたわね」
ケンゾウ「放し飼いにしてるのかあの人は…」
ヒデヨシ「それに、兜だけじゃなくて野球やアメフトのヘルメットを被ることもあるらしいですよ」
ケンゾウ「あの先生の趣味っていまいちよくわからん…」
シロ「くぅ〜ん…(ケンゾウの制服のポケットに鼻を近づける)」
ケンゾウ「なんだこいつ、ポケットには……あ、そういえばさっきマサムネさんたちからもらったクッキーが入ってたっけ…」
シンゲン「お、何でケンゾウがマサムネからクッキーなんてもらってるんだ?」
ケンゾウ「(ポケットからクッキーの入った包み紙を取り出す)さっきマサムネさんたちのクラスで
調理実習があってそのときにもらったんだけど…」
シロ「わお〜ん!(ケンゾウからクッキーの入った包み紙を奪い取る))」
ケンゾウ「おわっ!」
シンゲン「あ、こら!それはオレのクッキーだぞ!!」
ケンゾウ「いや、オレがもらったんですけど…(ん?あの包み紙は…)」
シロ「(ばくばくばくばくばくばくばくばく)」
シンゲン「こらー!オレのクッキーを勝手に食べるなー!!」
ケンゾウ「いや、だからそれは…」
ケンシン「…というか、犬と対等に張り合ってどうする気よ…」
シンゲン「うぅ〜、だってぇ〜…」
ケンゾウ「大丈夫ですよシンゲンさん。今の包み紙はミツヒデさんからもらったやつです。
マサムネさんからもらったクッキーはここに…(ポケットからもう1つ包み紙を取り出す)
シンゲン「へ?何でミツヒデからももらってるんだ?」
ケンゾウ「さっき言ったでしょ?『マサムネさんたち』からって…」
ケンシン「ケンゾウ、あなたがマサムネたちからクッキーをもらうまでの経緯を姉さんに聞かせてくれるかしら?」
ケンゾウ「姉さん、顔が少し怖いんですけど…」
「ですが、何も会長が剣道部に入る事はありませんのでは!?どうしてお入りになったのですか!」
「面白そうだったからよ。出る大会にも興味があったし…何か文句があって?」
「な、ないですわ…」
「そう。なら、この話はそれで決着ね。それじゃあ委員会始めるわよ、席に着きなさい」
さすがは会長…ヨシモトを強引に押し込めたわ。
私も何で会長が部に入ったのかは分からないけど、とっても頼りになる人だから、ありがたいことだわ。
「じゃあまずは各部の予算編成から…剣道部は去年の10倍に引き上げます」
「「「「えぇぇぇぇぇっっ!?!?!?」」」」
「予算の文句は、私に言いなさい!」
──────────────────────────
「会長…会長!」
ケンシンは前を歩くムラサメに駆け寄って行った。生徒会が終わり、解散した直後であった。
「なぁに?ケンシン」
「あんな強引に予算引き上げたら、さすがにマズイんじゃないですか?」
「あら、私が今まで間違った判断をしてきたことがあって?」
言われてみれば、思い当たらない。だが、今回のアレは流石にどこの部からも反感を買うのは火を見るより明らかだ。
「でも…」
「問題ない。各部との交渉事は私が行う。会長の手を煩わせる事も無いさ」
後ろから声が飛ぶ。声の主は副会長ミツヒデ…ケンシンはちょっと後ずさりしてしまった。
「なんだ?もしかして、先ほどの垂溶房でのことを引きずっているのか?」
「い、いえ、そういうわけでは…」
「あれはお前たちをやる気にさせるための演技、ジョークだよ。本気にされたら私が困るな、ふふ」
「それより、お前のあのローションの慣れっぷりのほうが私にとっては充分驚きに値するが?」
「な、なんのことですかね!?あっ、それよりみんなが待ってるから急いで道場に行きましょう!お先に失礼します!」
脱兎のごとくケンシンは駈け出して行った。
2人はヤレヤレ、といった感じで3年の教室へと戻っていった。
─── 道場
「じゃあ次は、2人で組んでストレッチだ。え〜っと、身長的に…シンゲンとノ──」
「あ!マサムネ、組もうぜ!」
「え?あぁ構わぬが…っていきなりやるな!いたた!」
さっきまで一人ストレッチの時はあんなに元気がなかったのに、急にシンゲンのやる気が出たな。
身長的にノブナガと組ませたかったが、まぁ仕方ない。
「う〜んいいや、じゃあノブナガとヒデヨシ組んでくれ」
「ほれ、猿。こんかい」
「アタシ猿じゃないもん!もうそんな昔みたく子供扱いしないでよね!」
「まだまだ子供に見えるがのう?」
ノブナガはヒデヨシの胸をジロジロと見る。ヒデヨシは慌てて、手で隠した。
「う、うっさい!ウシ乳おばけのくせに!」
「ほう…よう言うた。ではストレッチ始めようかのう…?ふん!」
ギリギリッ……
「いだだだだ!」
「おいおい、お前たち真面目にやれよ…」
まったくこいつらは…本当に扱いに苦労するなぁ。
みんながみんなケンシンみたく真面目ならどんなに楽だろうか。
保守はまかせろー!(バリバリ
やめて!
単行本派だったので、昨日遂に戦国乙女の漫画を読めました。
オウガイとムラサメが気持ちいいくらいに悪役で、それが普通なんだよなぁと改めて思いました(´ω`)
シロ「(けぷっ)くぅ〜ん…」
シンゲン「ああっ!クッキー全部食いやがった!!」
ケンゾウ「食欲旺盛な犬だなあ…」
シロ「くぅ〜〜〜…」
ケンゾウ「ん?なんだか様子がおかしいな」
ケンシン「変な呻き声を上げてるわね…」
シロ「オオオオオオオオ……」
シンゲン「お、これが世に聞く『真・オウガイ無双』ってやつか?」
ケンゾウ「何の話ですか!?」
シロ「くっぺくっぺ!!くっぷるぴっぱーーー!!!!(←ここだけ林原○ぐみボイスで脳内再生すべし)」
(ばひゅーーーーーーーーーーん)
ヒデヨシ「ありゃりゃ、そのまますごい勢いでどっか行っちゃった…」
ケンゾウ「ミツヒデさん、いったい中に何を入れたんだ?」
ケンシン「あとで問い詰めなきゃね」
ケンゾウ「まあ、あの犬に毒見をしてもらったと思えばいいか。さて、それじゃあマサムネさんのクッキーを…」
シンゲン「(ばくばくばくばく…ごっくん)ぷはー、ご馳さまー!いやあ、実に美味いクッキーだったぜ☆」
ケンゾウ「ああっ!いつの間にか全部食べてるし!!」
シンゲン「あ…、わりいわりい。いや、つい…」
ケンゾウ「仕方ないや、後で正直にマサムネさんに言おう。シンゲンさんに食われちゃいましたって…」
ケンシン「そうね、シンゲンが絡んでいるならマサムネも納得するでしょうね…」
シンゲン「あ〜、ひっでー言い方!」
ケンシン「ところでケンゾウ、マサムネたちからクッキーをもらうまでの経緯、そろそろ話してもらえるかしら?」
ケンゾウ「姉さん、まだ引っ張るのか…」
そっか、乙女たちは真・オウガイ無双を喰らうことは無いから、噂で耳にするだけなのかw
あ、今頃になってシンゲンのセリフで誤字発見。
ご馳さまー→ご馳走さまー
なかなかネタを書く暇がなくてスマソw
「それじゃあ次は…ノブナガとヒデヨシの素振りチェックをするから、シンゲンとマサムネは切り返しでもしててくれ」
「わかりました」
奥で2人の切り返しの声が響く中、まずはヒデヨシのチェック。先ほどマサムネから教わっていたので、形はできているようだ。
次はノブナガ…おっ、意外に出来ている。
「鉄パイプとさほど変わらんようじゃな」
「そ、そうですか…。じゃあ2人ともお互いに向かい合って相手のフォームをチェックしながら素振り50本だ」
「は〜い!」
その間に俺はイエヤスに基本ルールやノートのつけ方、練習の種類などを教えていく。
そんなこんなで時間が経つうちに、ケンシンが道場に入ってきた。遅れてムラサメ、ミツヒデもやってきた。
これでSUPERドキドキチャンス全員集合!だ。
3人が着替えてきたので、一旦全員を集合させる。
「今日から、新・室生高校剣道部のスタートだ。天挑五輪大会ベスト8を目指して、力を合わせて頑張って行こう!」
『お〜〜!!』
──────────────────────────
さて、ノブナガが初心者だがそこそこやれるという事は分かった。
後は残りの二人の強さを知っておかなければならないのだが…。
「え、ミツヒデは剣道をやっていたのか?」
「あぁ。といっても中学までだが…それなりに心得はある」
これは朗報。そしてムラサメは前評判通りどうやら強いらしい。
まずは2人の実力をはかるため、試合を行う事にした。そうだなぁ、組み合わせは…。
ミツヒデ−ケンシン ムラサメ−マサムネ でいいだろう。
ヒデヨシとノブナガ、さらにイエヤスのためにも、上級の試合というものを見せておこう。
まずは第一試合、ミツヒデとケンシン、垂溶房でも闘った2人の因縁の対決が始まる。
ほしゅ
確か、去年のヤスヒロはオウガイとイッツバーニンクリスマスだったな。
もうあれから一年経ったのか…早いもんだ。
ほしゅ