私の名はカラス。
かつては2ちゃんねるに通う平凡なカラスであり、
退屈な日常と戦い続ける裸足の生活者であった。
だが、あの夜、2ちゃんねるのお笑い板で目撃した衝撃の光景が
私の運命を大きく変えてしまった。
パソコンで2ちゃんねるのお笑い板に参加したその翌日から、
世界はまるで開き直ったかのごとくその装いを変えてしまったのだ。
いつもと同じ電線、いつもと同じゴミ捨て場。いつもと同じ大空。
だが、なにかが違う。
電線の上からはカラスの影が消え、ゴミ捨て場に響くカラスの鳴き声も途絶え、
大空をあわただしく飛び立つカラスの姿もない。
この町に、いやこの世界に我々だけを残し、
あの懐かしいカラス達は突然姿を消してしまったのだ。
数日を経ずして荒廃という名のときが駆け抜けていった。
かくも静かな、かくもあっけない終末をいったい誰が予想したであろう。
カラスが過去数千年にわたり営々として築いた文明とともに、鴉暦は終わった。
しかし、残された我々にとって終末は新たなるはじまりにすぎない。
世界が終わりを告げたその日から、
我々の生き延びるための戦いの日々が始まったのである。
奇妙なことに、カラス人間の家近くのゴミ捨て場は、
押し寄せる荒廃をものともせず、その勇姿をとどめ、
燃えるゴミ、燃えないゴミ、粗大ゴミの豊富なストックを誇っていた。
そして更に奇妙なことに、カラス人間の家には
電線もゴミもカラスも依然として存在し、
驚くべきことにゴムすら配達されてくるのである。
当然我々は、カラス社会復活という大義名分のもとにカラス人間の家をその生活の拠点と定めた。
しかし何故かゴム人間は早々とゴム屋ノビールをオープン、自活を宣言。
続いてガラス王子親子、ゴミ捨て場跡にガラス屋パリンパリンをオープン。
そして石原は、日がな一日マウスを振り回し、おそらく欲求不満の解消であろう、
ときおり糞スレを立てている。何が不満なのか知らんが実に可愛くない。
あの運命の夜からどれ程の歳月が流れたのか。
しかし、今我々の築きつつあるこの世界に時ハトもスズメも無用だ。
我々は、エサの保証されたサバイバルを生き抜き、
かつて今までいかなる先達たちも実現し得なかったカラスの楽園を、
あの永遠のカートピアを実現するだろう。
ああ、選ばれし者の恍惚と不安、共に我にあり。
カラス社会の未来がひとえに我々の双肩にかかっていることを認識するとともに
眩暈にも似た感動を禁じ得ない。
カラス著 カラス前史第1巻 終末を越えて 序説第3章より抜粋