第1話「上見て暮らすな下見て暮らせ」
バレンタインデーにチョコでなくシチューを持ってきた女、今西響子(仲間由紀恵)と付き合い始め
た大学生の神代辰吾(伊藤英明)。タッパに溢れんばかりのシチューを持ってきた姿があまりに
おかしかったからか、それとも響子のちょっと影のある仕草に魅かれたのか、それは本人にもよく
分からなかった。
ある日、辰吾は交通事故に巻き込まれてしまう。
病院で意識を取り戻した辰吾の前には妹の千草(宮地真緒)と響子、そしてもう1人・・・黒い帽子を
かぶり、背中に黒い羽をつけ、大きな鎌を持った女性(山口智子)が・・・。
「あの・・・どちらさまで?」
「わたしは死神death!! ・・ってわたしが見えるんdeathか??」
死神と名乗った、どうみてもただのコスプレ女に事故後で意識が混濁する辰吾は「ああ、ついにお迎え
がきたのか・・」と妙に納得して目を閉じた。
「・・・もう! お兄ちゃん!! いつもボーッとして上ばっかり見てるから車に轢かれちゃうんだよ!!」
耳元で大きな声が聞こえ、骨が折れんばかりに体を揺すられる。妹の千草だ。千草の声にはっきりと
意識を取り戻す辰吾。目の前にはやはり死神が立っていた。
「なあ千草・・・あれなんだけど・・・」死神を指差す辰吾。
「なに? 頭打っておかしくなっちゃった???」困惑する千草。
「普通の人にはわたしは見えないdeath!!」
『です』に変なアクセントをつけて喋る死神は人差し指を辰吾の方に向けて『チッチッチ』と舌を鳴らす。
「まあ安心するdeath! わたしが迎えに来たのはあなたじゃないdeath! わたしのお客さんはこちら
death!!」
死神の鎌が響子の首筋にあてられ鈍い光を放った・・・。
次回 >> 第2話「彼女の背中にジッパーが」
第2話「彼女の背中にジッパーが」
「やめろ!」
辰吾は叫んだ。今意識を取り戻したとは思えないほどの声で。
すると鎌は、死神は動きを止めた。そして、不思議な顔で言った。
「何故death?何故止めるのdeath?」
相変わらずの妙なアクセントに閉口しながら、辰吾は言った。
「好きだからだよ」
突然の辰吾の言葉に呆然とする一同を見ながら、ああ、こいつは俺しか見えてないのか、じゃあ俺ははたからみれば変人なわけだ、
などと思いながら、辰吾は続ける。「好き奴には死んで欲しくない。当たり前の事だろ」
そして辰吾は自分の台詞に照れて黙った。沈黙。それを破ったのは死神。
「分からないdeath」死神の、辰吾を見つめる目が真剣さを増す。
「分からないdeath」さらに、増す。
その時、慌しい足音が聞こえ、果たして病室のドアが開いた。
「辰吾、ちゃんと生きてるー?」
入ってきたのは同級生の高野慶子(深津絵里)だった。
「ホントだらしないんだから、あんたは」
「…お前は相変わらずタイミング悪いな」
「は?何が――」
次の瞬間、信じられない出来事が辰吾を襲った。
死神が慶子の後ろに素早く回り、その鎌を振り下ろしたのだ。
今度は止める間も無い。辰吾は目を瞑る。だが、すぐに開く。
そこにあったのは、これまた信じられない光景だった。
慶子の背中が開いていた。といっても、血やら臓器やらは出ていない。でも、確かに開いている。
背中に一本線が入り、そこがジッパーのようになっていて、今まさに死神がそれに入ろうとしていた。
もうここまでくると声は出ない。辰吾は再び目を瞑った。
「辰吾」
呼びかける声は死神の声。辰吾は静かに目を開けた。慶子がいた。
「こんにちわdeath」
目の前が真っ暗になった、気がした。
次回 >> 第3話「やさしく脱がして」
第3話「やさしく脱がして」
「うわぁぁ〜〜〜!」不条理な出来事に錯乱した辰吾は慶子に飛びかった。
「高野ぉ〜、今助けてやるからな」
辰吾は慶子の背後に回る。さっき空いたはずの穴は痕跡すら残っていない。それでも辰吾は慶子の
中に入ったであろう死神を取り出そうと慶子の服をたくし上げ背中をあらわにしようとする。
「なにするdeath! だめdeath! エッチdeath! もっとやさしくするdeath!!」
慶子?が叫び声を上げる。
「お兄ちゃんのバカぁあ!!!!」
辰吾の行動を見かねた千草が、横にあった洗面器で思いっきり辰吾の頭を叩く。気絶する辰吾。
今西響子は一連の騒動に動じることもなく、部屋の片隅でりんごをむいていた。
「てへ! うさぎちゃんだぞ〜。一人じゃ寂しいよね? 今、友達も作ってあげるからねぇ〜」
* * *
「辰吾ぉぉ! 無事か? 死んだか? 死んだな!? 大丈夫だ、安心しろ! お前が死んでも
千草さんは俺が命をかけて守るからな! 辰吾ぉぉ! 死んだか?」
けたたましく病室のドアを蹴破って入ってきたのは「自称」日本一熱い男、山本正義(山田孝之)。
辰吾の大学の友人で千草に猛烈なアタックをしている男だ。千草は見向きもしていないのだが…。
「千草さ〜ん!! ご無事ですか!!!!」
「出ていけ〜〜〜〜〜〜!!!」
千草の逆鱗に触れ退散する正義。
正義の蹴破ったドアの下敷きになる慶子(死神)。
今西響子は相変わらずりんごをむいていた。すでにシルバニア・ファミリーと張り合えるぐらいの
りんごのうさぎ達が出来上がっていた。
* * *
「・・・・さん・・・・・辰吾さん・・・・・・大丈夫?」
辰吾はようやく目を覚ました。目の前には響子がりんご(うさぎ仕様)を両手に持って立っていた。
「ああ、なんだ夢か・・・」辰吾は響子の手からりんごを食べさせてもらいながらそう思った。
「辰吾さん、大丈夫・・です・・か?」うつろな辰吾に響子が話しかける。
「です・・か・・・・・・・・です?・・・・・death??? ・・・・・・で〜〜〜〜す!!!!!!!」
突然、辰吾はベッドから飛び起きて響子に掴みかかった。
「お兄ちゃんのバカ! お兄ちゃんのバカ! お兄ちゃんのバカぁぁぁあああああ!!!!!!」
千草はベッドの下にあった一斗缶で辰吾を叩きまくった。
意識を失いながら辰吾は死神の声を聞いた。
「なかよくするdeath! しばらく一緒にいるんdeathから・・・・・」
次回 >> 第4話「練り物中心の晩ご飯」
第4話「練り物中心の晩ご飯」
病院で大騒ぎしたため辰吾への面会を打ち切られ、千草たちは渋々帰ることになった。
「落ち着け落ち着け、よ〜し、深呼吸だ! 吸ってぇ〜吐いてぇ〜〜〜吸ってぇ〜吐いてぇ〜〜
吸ってぇ〜〜吸ってぇ〜〜吸ってぇ〜〜吸ってぇ〜〜〜〜ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!!!!!」
辰吾が一人上手をやっていると目の前にどこから忍び込んだのか慶子(死神)が現れた。
「おかしいdeath!! でれないdeath!!」
辰吾をからかうために慶子の中に入ったはいいが、ドアの下敷きになったショックで出れなく
なったらしい。
「これじゃ仕事ができないdeath! 部長に叱られるdeath!!」
どうやら慶子から抜け出さないと死神としての仕事、響子を殺すことはできないらしい。
ちょっと安堵する辰吾。しかし、響子は死ななくても慶子がこのままでもまずい。
「まあ、人間の中に入っていられるのは1週間death、それがすぎれば自動的にでられるはずdeath!
だからそれまであなたが面倒をみるdeath!!」
なぜ自分の恋人を殺そうとする死神の面倒をみなくてはならないのか・・・しかし慶子も放っておけない。
それよりもあのうるさい千草をどう説得して慶子をここにおけばいいのか・・・それ以上に響子は
許してくれるのだろうか・・・・様々な事を考えすぎて気持ちが悪くなる辰吾であった。
「助けて辰吾・・・あなたが好きなの・・・どうしようもなく好きなの・・・・・」
「こら死神!! 卑怯な手段を使うな!!」
「ちがいま〜す。これはこの人のほんとの気持ちdeath!!」
「えっ!? 」
夕飯が運ばれてきた。外傷だけで特に病院食の必要のない辰吾の食事。そこには山盛りのハート型の
さつまあげがのっていた。どうやら響子が病院に手をまわしたらしい。片側に「辰吾」、もう一方に
「響子」と焼印が圧してある。どうみても手作りだ。
「やっぱ、裏切れないよなぁ〜〜〜」
響子の想いを感じながらシミジミと手にしたさつまあげを見る辰吾。
「さつまあげdeath! だいこーーぶつdeath!! よこすdeath!! ハグハグハグ・・・バクバクバク・・・・・・
パクパク・・・・・・まずいdeath! 毒でも入っているかのようdeath!!」
「全部食ってから言うなぁ!!」
辰吾は自分の手に残った最後のさつまあげを口に運んだ。
「もぐもぐ・・・・ウッ! うまいじゃん!!」
次回 >> 第5話「サイズが2倍に」
第5話「サイズが2倍に」
翌朝、千草は響子と一緒に病院にいくため響子の家を訪ねる。
特に恭子と仲が良いわけではない。ただ、なぜか響子の単独行動を阻止したかった。
響子の家は古びた洋館で、なにかひんやりとした雰囲気を持っている。
呼び鈴を押しても返事がないので千草は横に周った。そこは何かの倉庫のようだった。
半開きの扉から中をうかがうと、そこでは響子が変なまじないを唱えながら、なにか怪しい
ものをこねていた。響子は自分の指を剃刀で切ると、その血を練り物の中へ垂らした。
怪しい光景に足がすくむ千草。千草の存在に気づいた響子はゆっくりと千草に近づいてくる。
響子は千草の額に指を突き立てた・・・
「〜エロエロエッサイム・エロエロエロポン・・・・・あなたは今のことを忘れる。次に目を開けたときあなたは
何も覚えていない〜エロエロエクザイル・エロエロエロポン」
・・・やがて千草は目を開けた
「あれ? あたしどうしたんだろ?」
「どうしたの千草さん? さあ病院にいきましょ」
「はい。あれ? それってもしかしてお弁当ですか?」
「ええ・・・」
「かぁ〜〜〜、お兄ちゃんにはもったいないよなぁ〜〜〜ハハハ」
そういいながら千草は、自分が作った弁当をかばんの奥に押し込むのであった。
* * * *
病院。辰吾の横でポテチをつまみながら朝のワイドショーをみている慶子(死神)。
テレビの司会者の髪の毛の生え際が不自然だとか喚いている。まるっきり主婦だ。
「おい、死神。なんで響子は死ななければいけないんだ!」辰吾がポテチを取り上げて質問する。
「そんなこと教えられないdeath。死神にも守秘義務があるdeath! 契約death!!」
「契約?? なんだよ契約って?」
「契約は契約death! 彼女は我々と契約を結んだdeath、それでわたしは代金を取りにきたdeath!!」
「なんだそれは! 響子はお前に何を頼んだんだ!!」
慶子(死神)の首を絞める辰吾。
「NO! チョークチョーク!! そんなことされたら・・・出ちゃうdeath!!」
「なんだ? なにが出るんだ!?」
さらに激しく慶子(死神)の首を絞める辰吾。
「出ちゃう! 出ちゃう!・・・本音が・・・・でちゃう・・・ガクッ・・・」
突然うなだれる慶子(死神)。しまったやり過ぎたか、と慌てた辰吾が慶子(死神)の肩を揺する。
すると慶子はその手を跳ねのけてベッドの上で辰吾に馬乗りになる。
「おかしいわ! おかしいわよ!!」
それはまさしく慶子の声だった。死神に乗り移られる前の・・・
「だってそうでしょ? おかしいでしょ? 辰吾! あんたさ、あたしの事が好きだったんじゃないの?
そりゃあさ、確かにあたし達、スキだ・・・とか、愛してる・・・とか確かめあったことなんてなかったけどさ、
いつも一緒にいたし、買い物にも行くし、映画も一緒に見るし、ご飯も一緒だし、まぁ、あの小姑の
ような妹がおまけでくっついてくることも多いけど、これって付き合ってるて事なんじゃないの??
手だって、つないだことあったじゃん・・・1回だけだけど・・・・キスもさ・・・ニアミスならあったじゃない!
あたしさ、この自然な雰囲気がいいって、そう思ってたわけ! それが、それが! な〜〜〜によ!
あの響子とかいう女! バレンタインにシチューなんて持ってきちゃってさ!
あんただってあれもらった後、大爆笑してたじゃない! 変な女にひっかかっちゃた、ぐらい言ってた
じゃない! あたしの手作りチョコに大袈裟にびっくりしてくれたじゃん! そりゃあ、まあ、あれだ、
あのチョコが・・・失敗作だったことは認めるわよ。砂糖と間違えて塩をいれるなんてお約束かましたのは
謝るわよ! ええ、ごめんなさい、す・い・ま・せ・ん・で・し・た!! なに? あのシチューがそんな
においしかったの?? 次の日になったら、今までのことはぜ〜〜〜んぶイニシャライズして〜〜平然と
あの女と付き合い始めるってどういうことよ!! あたしに何の断りもしないでさ!! あんな事されたら
辰吾と付き合ってるのはあたしよ、とか言って出て行ったらあたしがバカみたいじゃない! そうでしょ?
あの女のどこがいいのよ? そりゃあ、ちょっとは、美人?とか思うけど、貧乳じゃん! 胸ならあたしの
方があるわよぉ! ほら! 触っていいのよ、辰吾! あんたにならいくらだって触らしてあげるわよ。
ホラホラ! いつだってあたしは準備万端だったのよ? 知ってた? 下着だっておニューをたくさん
揃えたんだから! あんたの好きな水色で準備してたのに! この鈍感男! なによなによなによ!!!
言いなさいよ! 白状しなさい! あの女とはもうやったの? どこまでやったの? あんな事とか、
そんな事とかやっちゃたわけ? 言え! 言え! このやろ〜〜〜〜〜!!!!」
「慶子・・・・・・・・く、く、苦しいって!!」
「ハァハァゼイゼイ・・・」慶子は辰吾の首を絞めていた手を離した。「だから出ちゃうって言ったdeath!!」
「ふざけんなよ、この死神が! 下手な芝居しやがって!」
「ほんとdeath。今のはこの体の持ち主の本音death! まあいつもより2倍ほど多く出してみましたけど」
「長いんだよ! でも・・・そうだよな・・・俺・・・慶子のこと好きだったような・・・そうじゃないような・・・
あれ? なんだろ?? この頭の中にかかる霧のようなものは?」
ドサッ!!
千草はショックでバックを落とした。ベッドの上で辰吾の上に馬乗りになっている慶子(死神)を見たからだ。
「お兄ちゃんの〜〜〜〜バカ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
泣きながら病室を飛び出す千草。響子はゆっくりと近づいてくるといきなり慶子(死神)をベッドの下に
突き落とした。
「いや、響子、あの、これは違うの、誤解、誤解だよ」
「はい、朝食もってきました。食べてください」
「は、は、はい・・・」
響子の静かな口調におされる辰吾。お弁当は竹輪だった。通常よりサイズが2倍ほどでかい。
響子は無言の圧力で辰吾の口に竹輪を詰め込む。
「ハグハグ・・・う、うまい! やっぱり響子の料理は最高だよ!」
「そう。よかった。」
「ハグハグ・・・う、うまい! 響子、好きだよ! 愛してるよ!!!」
ベッドの下に転がった慶子(死神)は下から、そ〜と手を伸ばして響子が持ってきた竹輪をつまみ食いする。
「この竹輪・・・まずいdeath!!」
次回 >> 第6話「人にやらしく」
「千草さ〜ん!!!!!!」
「お兄ちゃんーーーー!!!!!!」
「うるせえーーーーー!!!!!!」
正義を追い払ったり、千草と言い合ったりと何かと騒がしい病室だが、辰吾はそんな毎日に少し充実感を感じていた
だが、響子や慶子(死神)の事を考えると憂鬱な気持ちになり、響子が作る料理も美味しく感じられなくなるのだった…。
* * *
うるさい正義をいつものように追い払った辰吾は、一息つこうと一人屋上にあがる。
「あーあ、俺これからどうなるんだろう」
煙草の煙を吐き出し、ふと夜空を見上げる。広がる夜空。あの向こうにはあの世があるのかもな。
すると浮かぶ死神の姿。続いて慶子、響子、千草、正義…はすぐにかき消す。
「ホントわけわかんねえよなあ」
などと、煙と愚痴とを交互に吐き出していると、いつの間にか後ろに人が立っていた。
「辰吾」
「その声は……慶子か?」
「…うん」
「ホントに、慶子か?」
「本当よ!」
「…ったく、なんでこんな確認作業しなきゃいけないんだよ、めんどくせえ」
「辰吾」
「何だ?」
「私の気持ち…聞いてくれる?」
「…ああ」
本当は嫌というほど聞いたのだが、それを言うわけにもいくまい。辰吾は慶子に背を向ける。
「私、辰吾の事…」
次の言葉を待つ辰吾。好き。その言葉はやはり重いのか、慶子は黙り込む。
しばしの沈黙の後、辰吾は覚悟を決めた。
「慶子、お前の気持ち――」
「タイムオーバーdeath!時間切れdeath!!」
「てめえ、邪魔すんじゃねえよ!!!」
「うるさいdeath!うるさいdeath!!」
「ああ、もう!俺、病室戻る!」
「待つdeath!」
「あーあ、俺これからどうなるんだろう」
本日二度目の台詞を口にし、辰吾はベッドに寝転がる。するとベッドの片隅に置いてあったある物が目に入った。
「…これ、コンドームじゃねえか!畜生、正義だな!こんな物置いてきやがったのは!」
辰吾はコンドームを投げ捨てた。バシッ。めんこのような音をたて、コンドームが床に落ちる。
「誰よ、こんな時間に騒いでるのは」
病室のドアが開き、看護婦(猫背椿)が入ってきた。コンドームは運悪く、彼女の足元へ。
「何よこれ!いやらしい!」
「あ、いや、これは…僕のじゃない…death」
次回 >> 第7話「お味噌汁の具論争」
425 :
名無し職人:04/02/25 02:00
第7話「お味噌汁の具論争」
「看護婦さん、お詫びというわけではないんですけど、これ・・・」
辰吾は響子がくれた差し入れの『かまぼこ』を出した。放っておくと死神がマズイマズイと言い
ながらも全部食べてしまうので隠しておいたのだ。
「あら! ダメよ・・・こういうことは規則で禁止されてるんだから・・・みんなには内緒よ。パクッ」
「ねえ看護婦さん。俺、全然元気なんですけど、まだ退院できないんですか?」
「モグモグ、そりはいんりょうれんれいのしりがらいとらめね、りいりっけんらいらとみってた・・・ウッ!!」
「はぁ?? 食いながら喋られてもわかんないですよ。ね、おいしいでしょ?」
「グハァァァァ!! あんたこれ! 毒でも入ってるんじゃない? 相当マズイわよ!!」
「え????」
* * *
「はい、どうぞ。今日はお味噌汁を作ってみたんだけど・・・」
夕方、いつものように響子が辰吾の食事を持ってきた。千草はまだ学校から帰ってきていない。
味噌汁の具は・・・やはり「かまぼこ」と「さつまあげ」だった。そういえば、響子からもらった
バレンタインのシチューの中に肉ではない、何かプニプニした食感のものがあったことを辰吾は
思い出し、味噌汁をしげしげと見つめた。
ドタドタドタドタ!!!!
けたたましい足音がしたかと思うと、千草が息を切らして病室に入ってきた、かと思うと辰吾の
ベッドの裏に隠れてしまう。またか、辰吾はこの後に『確実に』起こる事を思って頭が痛くなった。
「ち〜ぐ〜さ〜さ〜〜〜ん!!! この俺のパッションを〜〜〜受け止めてくれ〜〜!!」
ドアを蹴破って正義が飛び込んできた。毎度のことだ。いつもなら千草のカウンターパンチに撃退
されるところだが、今日はあまりの傍若無人ぶりに遂にキレた看護婦さんに延髄蹴りを食らった。
廊下で看護婦さんに説教される響子と千草。病室でふんぞり返っている正義。あまりに理不尽な
図式だがこの熱血バカに何を説教しても通じないことを看護婦さんはこの数日で嫌という程思い
知ったのだ。
「おお! 辰吾!! そ、それは! その味噌汁はもしや千草さんの手作りかぁぁ!!」
辰吾がそれを否定する間もなく正義は味噌汁を奪い取る。
「さすが千草さん! 味噌汁の具にかまぼこなんて、くぅぅ〜〜〜俺への愛情が溢れているzeee!!!
そうだよな、やっぱ味噌汁にはかまぼことさつまあげ! 決まりだzeeee!!!」
呆れる辰吾。いったいどうやったらこんな勘違い男が生命の神秘をくぐりぬけて生まれるのか?
「正義! いい加減にしろよ。だいたい・・・味噌汁の具は大根と油揚げに決まってるだろ!」
「ぬぅわんだぁぁとぉぉ!! きさま! 千草さんの味噌汁にケチをつける気か!」
「だからそれは違・・・」
「千草さん! 男・山本正義、謹んであなたの愛情のこもったこの味噌汁をいただきます! ズズズ
・・・・・・・・・・・・・・・グッ!!!・・・・・・マ・マズイ・・・・・・マジデ・・・・マズイ・・・・・・・・いや、そんな事はない。千草さんの
味噌汁がマズイはずなんかない! そうだ、これは俺のパッションが足りないんだ! ウオオオ!!」
正義は病室内をのた打ち回りながら味噌汁を飲み干すとそのまま倒れた。そこにやっと説教から解放
された響子と千草が戻ってきた。すると、倒れていた正義が起き上がり二人にむかって走り出した。
「ええい! 性懲りもなく!!」千草がパンチを放つ。当然、自分に向かってくると思っていた千草の
拳は空を切る。正義は・・・響子に抱きついていた。
「響子さぁ〜ん! 響子さぁ〜ん! 好きだ! 大好きだぁ!! 俺の全てを奪ってくれぇぇ!!!」
凍りつく病室。辰吾の疑念は確信に変わった。響子に抱きついている正義を蹴り飛ばし響子の胸ぐらを
掴むとかまぼこを口に押し付けた。
「響子! 食えよ! 食ってみろよ!!」
「し、辰吾さん・・・」
「おまえ何をした? 死神と何を契約した! 言ってみろ!!!」
怒りに震える辰吾を見て、千草は初めて自分の兄を「こわい」と思った・・・。
次回 >> 第8話「青い目の刺客」
第8話「青い目の刺客」
「…あ、あれは、間違いなのよ」
「間違い?間違いって何が間違いなんだよ!」
辰吾は激しく問い詰める。それこそ周りの目などお構い無しに。
「…私じゃないのよ、人違いなのよ」
「人違い?」
「そう、人違いよ。私死神となんて契約してないわ。ていうか、するわけないでしょ、そんな事!
何なのよ、死神って!何で私が死ななきゃならないのよ!ふざけないで!」
いつになく興奮する響子に思わず怯む辰吾。余計訳が分からなくなる千草達。失神中の正義。
「ひと…ちがい?」
振り向くと慶子(死神)が青い顔で立っていた。
「人違い…deathか?人違いなのdeathか?」
死神は呟くようにそう言うと突然走り出し、病室を出て行った。
「待て!」
「は!俺は一体何を…」
「あ、起きたの正義」
「千草さん!!大好きだーーーーー!!!!!」
「いきなりすぎるわ!!!」
正義はまたしても病室の床に崩れていった。
そんな混乱の中響子は一人意味深な表情を浮かべていたのだが、それに気付くものは誰一人としていなかった。
* * *
辰吾は屋上に辿り着いた。死神は…いた。手摺に背中を預け、思い詰めた顔で空を見上げている。
「おい!」
辰吾が声をかけたその時、死神の後ろのあたりに1つの光が現れた。光の球体だ。
それはゆっくりと空を移動し、死神の前に降り立った。死神の顔がさっと青くなる。
徐々にそれは光を散らしていき、やがてそこに人が出現した。青い、鋭い目をした男(上川隆也)だ。
「ぶ、部長!」
この不可思議な状況を、とりあえず辰吾は見守る事にした…。
次回 >> 第9話「衝撃!彼女はスナイパー」
第9話「衝撃!彼女はスナイパー」
部長「メンドメッサ・ミャサノバ・バイエール・ウンディエート・バラホバ・ウ・ディンエ!!
このバカものが!! きさまはいつになったらまともな仕事ができるのだ!!」
辰吾「おまえ・・・そんな名前だったのかよ」
死神「そうdeath! わたしのなまえはメンドメッサ・ミャサノバ・バイエール・ウン(ガキィィ!)
・・・・ひたかんら(舌噛んだ)・・・」
辰吾「自分の名前もいえねぇのか!」
部長「まったく・・・きさまのお陰で私が専務に怒られたのだぞ! ちょっと来い! まずは
お仕置きだ! こめかみをゲンコツでグリグリしてくれる!」
そう言って死神に手を伸ばす部長。しかし、その手はスルリと死神の体をすり抜ける。
部長「・・・・・・きさま! なんで人間の体の中になど入っているか! 死神が現世の肉体に触れない
と知っての所業か。えええい、いまいましい奴め!」
「千草さぁぁ〜〜ん!! ま〜〜〜いラ〜〜ヴ!!!」
屋上に千草を探して正義が飛びこんできた。正義には死神の部長は見えない。相変わらず騒ぎまくる
正義をみて、部長は手をポンと叩き、「ひらめいた!」のポーズをとると、正義の後ろに近づき、
死神が慶子にしたように背中のジッパーを開けて、正義の中に潜り込んだ。
部長「ふっふっふっ! さあこれでお前をおもいっきり殴れるぞ! 覚悟しろ!」
そういって「戦いのポーズ」をとった正義(部長)は背後に迫る危機に気づいていなかった。
「正義ぃぃ!! このばかぁぁああ!!」
それは千草だった。正義のバカ騒ぎでまた看護婦に怒られた千草の怒りの鉄拳が正義(部長)の
後頭部にめり込む。
バタンとその場に倒れる正義(部長)・・・・・・・。しかし、すぐに立ち直ると千草の手をとった。
正義(部長)「これは美しいお嬢さん。あなたのような方に握りこぶしは似合いません。しかし、
あなたの様な方になら私はいつだってこの頭を差し出しましょう! それであなたの心の傷が癒える
のなら、私はいつだって地獄の業火の風呂に入ってみせますよ」
千草「ちょ、ちょっと。正義? あんたなんか変よ??」
正義(部長)「何をおっしゃいます。男は・・・綺麗な女性の前ではいつでも狂ってしまうものです。
そう・・・あなたは罪なお方だ」
千草「き、き、き、気持ち悪い〜〜〜〜〜!!」
逃げていく千草。千草の後姿をいとおしく見つめていた正義(部長)は慶子(死神)に向き直り、
いよいよお仕置きをしようと近づく。逃げる慶子(死神)はつまずいて転んでしまう。その拍子に
死神の本体(山口智子)が慶子から滑り出すようにでてきた。
死神「でれたdeath! でれたdeath!! さすが部長death!!」
正義(部長)「きっさま〜〜!! いちいちしゃらくさい真似を! それならこっちもこの体から
出て・・・・・・・出て・・・あれ?・・・出・・・・出れない・・・・・・」
千草に殴られたショックで正義の体から出られなくなる部長。いいかげん死神への怒りも失せて
しまい、書類を渡して仕事の話を始めた。
正義(部長)「だから間違いなんだよ。おまえのターゲットはこっちだったの。でも、これは
キャンセルになって、こっちの仕事になったんだけど、それもまたキャンセルになって、それで・・・
アイタタタ!!」
いつの間にか千草が戻ってきて正義(部長)の耳を引っ張り上げる。看護婦に土下座して謝まるんだと
正義(部長)は連れて行かれてしまう。
死神「部長・・・行っちゃったdeath。まあいいdeath。さっさと仕事を済ますdeath」
辰吾「お、おい! 仕事ってまさか・・・・」一連の出来事から取り残されていた辰吾が死神に掴みかか
ろうとするが、慶子から抜け出した死神には触れることができない。
死神「ふんふんふん・・・death!death!!death!!!」
死神は鼻歌を歌いながらトレードマークの鎌を分解し始めた。刃の部分が取れると、それをしまい、
柄が4つに分かれなにかパズルのように組み立てた。出来上がったのは・・・・ライフルだった。
死神「それじゃあいくdeath!!」
死神はライフルの銃口をゆっくりと・・・・辰吾に向けた。
辰吾「・・・・・・え!? 俺なの!!!!」
次回 >> 第10話「標的に永遠の安らぎを」
434 :
名無し職人:04/03/13 17:51
第10話「標的に永遠の安らぎを」
「標的に永遠の安らぎを・・・・アーメン・・・death!」
なんで死神がキリスト教?などという突っ込みをいれる余裕はもう辰吾にはなかった。死神の向けた
冷たい銃口は間違いなく辰吾の心臓を狙っている。辰吾は脱兎のごとく逃げ出した。追う死神。
「う、う、う〜〜ん」辰吾と死神がいなくなった後、ようやく慶子が目を覚ました。もちろん、
それまでの経緯など覚えていない。ドタドタドタ!そこに凄まじい勢いで駆け込んできたのは正義
(部長)だった。
「今、ここにバカがいなかった!?!?」
「バカって・・・・・・・辰吾のこと??」
「ばかやろう!そいつがバカだ!追え〜〜〜〜!!」いきなり慶子の腕をつかみ死神をおいかける
正義(部長)。「絶対あいつは勘違いしてるぞ! やば〜〜い〜〜〜!!」
その後に正義を追いかけてきた千草がやってきた。正義が慶子の手を引いて階段を降りてくるところで
すれ違う。あまりの正義の勢いにくるっと1回転する千草。「ゴラぁぁ!正義!!まだ終わってないぞ!」
千草は2人を追いかけた。
* * *
本来の姿に戻った死神は軽々と空を飛び、病院の裏庭に辰吾を追い詰めた。
「と、と、と、とにかく落ち着け! な、な、な、なんで俺なんだよ!」
「成仏するdeath!」ジリっと歩み寄る死神。
「落ち着こう、な? 話せばわかる。そうだ!深呼吸しよう! すって〜、はいて〜〜、すって〜〜〜
はいて〜〜〜、すって〜〜〜〜、すって〜〜〜〜、すって〜〜〜〜〜すって〜〜〜〜〜〜!!」
辰吾・死神「ゲホッゲホッゲホッゲホッゲホッ!!」
・・・・・
「こんなんじゃ納得いかないよ! おまえと契約したのは響子じゃなかったのかよ??」
「それはキャンセルになったと部長がいったdeath! だからそのまえの本来の目的をはたすdeath!」
「本来ってなんだよ!わかんないよ! とにかく深呼吸だ!いくぞ・・・・」
435 :
名無し職人:04/03/13 17:53
・・・・・
「ゲホッゲホッゲホッ!! と、とにかくさ、響子は契約したんだろ? 惚れ薬を作るまじないとか
なんとか。それで俺を惚れさせたんだろ? だんだん頭が晴れてきたんだ。分かるんだよ! 俺は
ほんとは誰が好きだったのかって」
「ゲェ〜ホッゲェ〜ホッゲェ〜ホッ!! 惚れ薬なんてしらないdeath! 死神は生と死をあつかう仕事
death!」
「じゃあ!じゃあ響子は何を契約したんだ!」
「そ、それは・・・」
「よ〜し!もう1回深呼吸だ!!」
「や、やめるdeath!! 喉が痛いdeath!! 彼女は自分の命と引きかえに生き返らせたんdeath!!」
「生き返らせた? 誰を・・・??」
* * *
看護婦室。正義と千草に説教の最中に逃げられた看護婦さんはやれやれといった表情で席に座った。
「まったく、903号室は困ったもんだわ。でもあの神代辰吾さんってダンプに轢かれたのに、元気よね〜。
ここに運ばれてきたときにはもう心臓止まってたのに、元気よね〜。死亡確認をした後に突然息を吹き
かえしたのに、・・・元気よね〜。そりゃ院長先生も特異な症例として研究したくもなるわね〜。
まあ、わたしにはどうでもいいことなんだけど、不思議よね〜。」
次回 >> 第11話「大学に潜む罠」
次回 >> 第11話「大学に潜む罠」
辰吾は混乱する頭を揺さぶり必死に考えた。今の状況。響子の事。恵子の事。死神。
一体いつ始まったのだ、こんな馬鹿げた事が。一体どうすればいいのだ、これから。訳が分からない。
更に混乱する頭は、辰吾に1つの記憶を思い出させた。それは辰吾が響子と出会う半年前の出来事だった…。
* * *
辰吾は友人の正義や龍二(速水もこみち)、そして慶子などと毎日遊びほうけては、単位を取るのに必死になっていた。
そんなある日、辰吾は大学からの帰り道一匹の犬を見つけた。柴犬。首輪に『タツ』と書かれている事から誰かの飼い犬だという事は分かった。
ほっとけと言う正義や龍二を尻目に、辰吾は自分の名前に似たその犬を抱き上げた。「ワン」タツは弱弱しく鳴いた。
「きっと飼い主の人が探してるわ」と慶子が言った。確かに今頃飼い主は血眼になって探しているかもしれない。それこそ今にも泣きそうな顔で。
しかし犬はよく見ると体中傷だらけだった。多分事故にでも遭ったのだろう、足は折れているようにも見えた。ほっとけない。辰吾はとりあえず犬を病院に連れて帰行く事にした。
タツは予想通り足の骨が折れていた。医者(小林薫)の話では、さっきまで歩いていたのが不思議なくらいだという。
診察に慶子が立ち会っている間、辰吾達三人は犬の今後について話し合った。
「飼い犬だからなあ、俺たちにできることは限られてくるよな」
「だよな。飼うわけにはいかないし、かといってほっとくわけにもいかないし。どうすればいいんだか…」
「飼い主を探すのが一番だと思うけど、どうやって探すかねえ」
途方にくれる野郎三人。そこに慶子が医者とともに現れた。
「聞いて!この人が飼い主探しに一役買ってくれるってさ!」
「ホントですか!」辰吾は思わず大声をあげた。
「ええ。私もこの犬にはどこかほっとけない雰囲気を感じるんです。それに、ここなら色々と情報も入ってくるでしょうし」
「そうですか!ありがとうございます、先生!」
「いえいえ。では、この犬は私が預からせてもらいます。情報が入ったら伝えますので」
「はい!」
かくして犬は医者のもとに預けられたのだが、その後辰吾達に犬の情報はなかなか入ってこなかった。
最初のうちは犬の事を心配していた辰吾達だったが、日が経つにつれて犬の事は徐々に頭から消えていき、やがてそれは頭の片隅に追いやられていった。
そして年が上げ、そろそろ二月に入るという頃、やっと医者から連絡があった。飼い主が見つかったのだという。
だが医者が言うには、飼い主は犬を引き取ると名前も言わずにすぐ立ち去ってしまったのだという。ただ、「タツを助けてくれたのは誰ですか?」とだけ聞いて。
辰吾は少し不気味に思ったが、その思いもまたすぐに消えていった。大学生活は忙しかった。割合的には遊びのほうが大半を占めていたのだけれど。
その後、辰吾は不思議な現象に襲われた。犬の報告を受けてから、学食の味がどうもおかしいのだ。明らかに不味い。しかも、自分だけ。正義や龍二からは気のせいだと言われたが、それは気のせいで片付けられるレベルではなかった。
ある時は醤油ラーメンを吐き、ある時は味噌カレーを吐いた。そしてまたある時は塩ラーメンを吐いた。俺がラーメンを食いすぎなのが悪いのかと思ったが、それはうどんでも同じだった。
苦しい日々だったが、辰吾はその度に慶子に介抱された。「もうこれっきりにしてよ」と言う慶子の顔は嬉しそうだった。今思えばの話だが。
そして2月14日。あの運命のバレンタインデーが訪れた。
* * *
「響子はまさかあの時の!」
「訳の分からないことを言うなdeath!さあ、潔く成仏するdeath!!!」
銃口の位置は揺るがない。辰吾はいつかのように目を閉じた。
次回 >> 最終話「あいつとか気安く呼ぶな」
最終話「あいつとか気安く呼ぶな」
辰吾が死神に撃たれる寸前、やっと追いついてきた正義(部長)は叫んだ。
「い、いかん! だ〜いピ〜〜ンチ!!」
正義(部長)は慶子の手を離すと背中を向けて首筋の辺りを指差して叩けと言った。
ジッパーがかんで出られないからそこを叩けと慶子に言うが、慶子がそれを理解できるわけもなかった。
ポカンとしている慶子の後ろから千草が追いかけてきた。正義(部長)は「ひらめいた」のポーズをとって、
突進してきた千草を抱きとめるといきなり千草の唇を奪った。
「は〜いハニー。どうしたんだい?」
「・・・・・こ、こ、こ、この強姦魔ぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!」千草の鉄拳が飛ぶ。正義(部長)はその
鉄拳を首筋に浴びてぶっ飛ばされる。その拍子に本来の部長が正義の体からすべり出してた。
「ふう。やっと出れたな。コラぁ! やめんか! 誤解だ! やめろと言っておるのだ、メンドメッサ・
ミャサノバ・バイエール・ウンデ(ガキィ!!)・・・し、したかんら(舌噛んだ)」
「発射death!」
ついに死神のライフルから銃弾(のようなもの)が発射された。それは正確に辰吾の心臓を射抜いた・・・
と思った瞬間、辰吾の前に別の影が滑り込む。それは・・・響子だった。響子は死神の弾に撃たれ、
辰吾にもたれかかるように倒れた。
「きょ、響子! 響子ぉぉ〜〜〜!!」
「はずしたdeath! よ〜しもう一発!!」
「いい加減にせんか!」部長の蹴りが死神に炸裂&頭グリグリ攻撃。
倒れた響子は辰吾の頬に手をあて、かすれるような声で言った。
「ごめん・・・なさい・・・。ちょっとの間でも・・・一緒に・・・いたかったの・・・優しくされたかったの・・・・」
響子の体は霧のように弾け飛び、その後には・・・以前、辰吾が助けたあの犬の姿があった。そして、
それもすぐに霧となって消えていった・・・。
死神の頭をグリグリしながら部長が言う。
「まあ、結果オーライか・・・。ほら見ろメンドメッサ・ミャサノバ以下略! きさまは犬と契約したんだぞ!
犬と人間の魂を交換してどうする! ど・う・し・てお前はそんなにバカなんだ!!」
「いたいdeath! 部長〜〜〜。しらないdeath! 契約したときは人間だったんdeath!」
「(グリグリ)だからそれは契約によってこの者は人間になっていたんだ。3か月間、人間になる契約を
していたのだ」
「その契約した死神は??」
「あ〜〜、それは〜〜〜、ボソボソ(私だ)」
「は?」
「あ〜〜(グリグリ)うるさいうるさい!! さぁ帰って始末書を書くんだ(グリグリ)」
「あ、あの〜〜〜」放心していた辰吾はようやく正気を取り戻した。
「コホン。まあ本来、君は我々が迎えにくるべきところだったのだが、このバカのせいで生き返って
しまったわけだが・・・、まあ、あれだ。こちらにも落ち度があったということで・・・。このことはお互い
不問に付すということにしておこう。な? それではさらばだ。」
死神たちは空へと消えていった。
辰吾は響子のぬくもりがまだ残る手をじっとみつめていた。涙が流れた。慶子が近づいてきてそっと
抱きしめてくれた。
* * *
「拝啓。おやじ、おふくろへ。元気ですか? こちらは、まあいろいろあったけど、とりあえず元気です。
前から言われていた件だけど、大学を出たらやっぱりそっちに行こうと思います。千草も大学はそっち
で行ってもいいといってるし(頭がついていけるのか心配ではあるけれど)、来年からはみんなで揃って
暮らすほうがいいと思うので。いつか、この1週間で何があったのかゆっくりと話そうと思います。今は、
ちょっと・・・整理がつかないから。それにしても、『あいつ』みたいな『バカ』が、人の死をどうこうしている
かと思うと、不安というか・・・アホらしいというか。ああ、それから・・・会わせたい人がいるんだ、とっても
大事な・・・・」
自室で辰吾はフゥと溜息をつくと書きかけの手紙をクシャクシャと丸めてゴミ箱に捨てた。
「あら? どうしたの? 続きは??」
後ろから慶子が辰吾の肩に手を回して耳元で囁く。
「覗くなよ。こういう事は、直接言った方がいいんだよ、きっと・・・。」
「フフフ・・・。『あいつ』か。・・・・あ・い・つ・・・・・、とか気安く呼ぶな!!〜〜〜〜death!!!!」
「!?」その声を聞いて飛びのく辰吾。それはとても聞き覚えのある語尾だった。慶子の中に、また
『あいつ』が入っているのだ。
「お、おまえ! 何しにきた〜〜〜!!」
「仕事death! 仕事death!! ちゃんと働かないと『課長』に怒られるdeath! 頭グリグリされるdeath!」
「な、なにぃ??」
「む? ここじゃないdeath! となりdeath!!」
慶子(死神)は勢いよく辰吾の部屋を飛び出し、隣の千草の部屋へと入っていく。辰吾が追いかける。
千草の部屋に入ると・・・千草は部屋の床に魔方陣を描き呪文を唱えていた・・・・。
「エコエコアザラクエコエコエコロジー、あたしの大好きなお兄ちゃんが・・・いつまでもあたしだけの物でありますように・・・・
彼女の手料理なんてまずくて食べられなくなっちゃいますように・・・もう誰の目にも触れさせず・・・
一生、今のままの姿で・・・ずっと・・・永遠にあたしと二人だけでいてくれますように・・・
エコエコアザラクエコエコタイヨウエネルギージカハツデン・・・・ついでにあの熱血バカに死を・・・」
「契約するdeath!!契約するdeath!! ここにハンコを押すdeath! なければボインでもいいdeath!」
慶子(死神)に追いついた辰吾は後ろから羽交い絞めにして叫んだ。
「させるかぁ〜〜〜!! 千草! やめろ〜〜やめるんだ〜〜〜〜!!」
「千草さぁ〜〜ん! ファイヤ〜〜〜!!」正義が窓をぶち割って飛び込んできた・・・・。
春の日を浴びてぬるんだ水たまりが、暴れまわる阿呆どもをいつまでも映していた。
END