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異邦人さん:
そんなこんなで女の子も帰り、俺は元の部屋に戻った。鍵だけがなぜか奴の手元にある。
返そうともしないしそれどころか人の部屋に堂々と鍵を使って入ってくる。
公私混同、自分と他人との垣根がない、お前のものは俺のもの……。
そんな特徴がまるでかの国の人そのものだが、当時はそんな知識などなかった。
とにかく、鍵を返してもらわなければならない。
こんな当たり前なことが難しかった。当時出来た彼女に鍵を渡すから返して欲しい、そう言うことにした。
だが奴は「じゃああとで合鍵作ってや」という。もう訳が分からない。なぜ合鍵を作る必要がある?
「やっぱりこんな風に合鍵持ってると、何かとトラブルの元になるし」
「なんでトラブルになんねん。お前人を泥棒扱いするんか! 今まで誰の金で飲み食いしてきてん」
俺は唖然とした。第一お前最初に俺から金ふんだくっただろと。
軒を貸して母屋を取られる、まさにそれだった。そこからはファビョる一方で話など通じない。
携帯で怒鳴り散らしながらマンションのオートロックをすり抜ける。
あれほど無意味な防犯設備もないのではないか。誰かが入室するのを待っていればあっさりと入れるのだから。
そして怒り頂点に達したモンスターがドア一枚隔てた向こうにいる。
「早よ開けろや。何してんねん。こんなドア壊そう思ったらなんぼでも壊せんねんで」
まるで借金の取り立てみたいな勢いでドアを蹴りまくる。奴ならほんとに破壊しかねないと思った。
「うるさいで。喧嘩なら外でやってや」隣の部屋のおっさんが言う。
「すんません。すぐ済みますから」奴がすっとぼけた声で言うと再びドアを蹴る。蹴りまくる。
渋々チェーンをかけてドアを開けた。
「何やねん。チェーン外せや。引き千切るぞ」
他人から見ればなんて臆病な奴だと思うかも知れない。
だがあの手の輩は実際目の当たりにしないと怖さが分からない。
今にも人を殺しそうな剣幕に負けて俺はチェーンを外した。
今まで友達付き合いしてきたんだ、話せば分かってくれる……。
そんな甘っちょろいことを考えていた俺を、奴は部屋に入るなり殴り倒した。