489 :
異邦人さん:
「田舎のばあちゃんが倒れた。今すぐ行かなきゃならない。金貸してくれ」
こんなことを職場のほぼ全員に触れ回っていた。
さすが大阪の悪徳業者だけあって誰も聞く耳持たない。そこで奴は俺に目をつけた。
当然だったかも知れない。世間知らずの田舎者で気弱そうで断れない性格……これでカモられない訳がない。
「ばあちゃん倒れてん。頼む金貸してくれ」
「いや、今俺金ないし」
「マジで行かなあかんねん。今から銀行連れてったるわ」
こんな具合に、無理矢理車に乗せて銀行の前までくる。相手は巨漢の元ボクサーで右翼893である。
「でもほんとに俺金ないから」
「早よ下ろしてきてや」
もう何と言うか、自分が今金を巻き上げているという罪悪感が微塵も感じられないのだ。
これがやくざの手口かなどと思いながら、4万くらい下ろして彼に貸した。
返ってくるとは到底思えなかったが、相手はモンスターだ。下手なことを言ったら治療費の方が高く付くかも知れない。
だが奴の横暴はまだまだこれだけでは終らなかった。
当時俺は会社の寮に住んでいた。口下手なためさっぱり売り上げが上がらず辞めることにした。
当然寮は出なければならないだろう。そう思っていると、奴が「そんならうち住んだらええやん」という。
奴は倉庫の2階を改造して彼女と同棲していた。そんなところにお邪魔するのも悪いと思ったのだが、
奴の強引な口調に負けて、とりあえずそこに泊まった。
後日社長に退社の旨を伝えると、「お前は大阪出てきて行くとこあれへんのやし、そのまま住んでもええで」とのことだった。
住むところの心配など全くする必要はなかったのだ。だがこれもまた後の災いの元となるなんて思いもしなかった。
奴が地方の客に惚れて、その女の子が大阪に遊びにくるという。当然彼女にバレるとまずい。
だからお前の部屋を貸してくれというのだ。
何度も繰り返すが奴は巨漢のボクサーで右翼でやくざである。化け物である。
こっちは170cmの57kg、かなうはずがない。渋々奴に鍵を渡した。
そして奴は女と遊び呆けている間、俺は奴の倉庫でなぜか奴の彼女と一緒に過ごした。
もちろん何もしていない。出来るはずがない。やったら殺される。