北京春秋
誘拐犯は誰だ
中国の都会で誘拐犯が多いことは新聞などで知っていたが、身近な人の身に
同様の事件が起きるとショックが大きい。
友人宅に通う広西チワン族自治区出身の家政婦さんのめいが、広州に出稼ぎに
行ってまもなく誘拐された。男から「七千元(約九万円)用意しろ」と電話が
あり、両親が半分くらいの金をなんとかかき集めたころ、本人から電話があった。
「あれから何百人もの男に暴行された。もう元の体に戻れない。無駄な金を払
わないで。私は死んだものと忘れてください」。広州警察に届けると「この手
の誘拐は多すぎて手が回らない」。
都会で働くという千歳一遇のチャンスに有頂天になっている農村少女が
かっこうの餌食だという。保守的な彼女らは最初に激しい性的暴力を受けると、
故郷や家族に顔向けできないと帰りたがらなくなる。それが狙いだ。
中国全体で売春婦は約千二百万人。自分から選んでその道に入ったかのように
見えても、実は誘拐されだまされてきた女性は多い。
五月、上海にやってきた日本人ツアー客約二十人がまたしても集団買春で捕まった。
起訴されなかった、と関係者は胸をなでおろしていたが、私はやはりその人たちに
言いたかった。あなた方は少女の誘拐に加担したかもしれないのだ、と。
(福島香織)
産経新聞 平成16年7月20日(火)