俺たちの超サバイバル日記

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189底名無し沼さん
うう・・・釣りヲタはゆっくりと、のたうつように体を回しながら周囲を見渡した。
誰も居ない。クマも。
あの時、クマの右拳がえぐるように胸元にかかり、すんでの所でかわしたつもりが、
胸元で何かが爆発したような感じがして吹き飛ばされた。
一瞬で熱い奔流が胸元と腰椎に向かって突き抜けて意識を失ったのだ。
今は肺が裂けたように小刻みに、浅くしか呼吸ができない。
呼吸をするたびに激痛が全身を走り、腕一本動かすのでさえ困難だ。
さらに、先ほどのクマの手から放たれた熱がまだ残っているのか、頭がぼうっとし
ている。
クマを前にしたとき、釣りヲタはいくつかのオプションを持っていた。
@ルアーを高圧線に投げて引っ掛け、ロッドをクマに絡ませる一相地絡電撃作戦。
Aミツバチに似たフライを投げ(バスちゃうやん)、あたかもそこにハチミツ一
杯の蜂の巣が有ると見せかける、ハニーハニー作戦。
B二刀のロッドでクマの目を突き、一刀で脚を払い、もう一刀で脇から心の臓を
貫く剣豪作戦。
C二刀のロッドをクルクル回してクマを幻惑するジャグラー作戦。
D隊長を殺るために先端に毒を塗っておいたスペシャルロッドを伸縮させてクマ
を突く、毒針蜂の一刺しなんちゃてビリヤード作戦。
Eクマの加えた腕を針で引っ掛け、これでクマを操る傀儡作戦。
「あ、この手も有った、ロッドを献上して謝るゴメンナサイ作戦」
しかし所詮はヲタはヲタだった。自分を取り巻く現実も、メディアを通して得られ
た薄っぺらな知識のフィルターを通した戯画としか捉えられなかった。ヒーローは
誰でもなれるほど安っぽいものでは無かったし、追い詰められても開放されるよう
な自分の潜在能力などは最初から無かった。そもそもそんな行動力も無かった。
中学のとき、初めてのイジメに合ったときに気付くべきだった。すぐに登校拒否、
一日中釣りをして、大検通って大学入って、出あったのは昔の苛めっ子に似ている
が、頭の足りない隊長で、こいつは上目遣いでちょっと見てやればご機嫌になるよ
うな奴だった。何も変わっていなかった。忘れていた。考えもしなかった。
「としゆき・・・副隊長・・・チョッパー・・・大穴・・・猿・・・ひろし・・・逃げろ。バラバラに
なるな。力を合わせろ。」
隊長以外の全員の名前を絞るように呟き、釣りヲタは祈った。すべては遅すぎた。
満天の星空が涙でゆがむ。
「あるー日、森の中、クマさんに、出あった・・・」
釣りヲタは再び気を失うまで口ずさんでいた。

8−1=7人:チーム壊滅まで残り30時間27分