1 :
底名無し沼さん:
山頂まで残り200メートル。
そこで立ち尽くす。
「はぁ」
ため息と共に空を仰ぐ。
その先に山頂はあった。
誰が好んで、あんな場所に鎖を据えたのか。
長い鎖場が、悪夢のように延びていた。
「はぁ…」
別のため息。俺のよりかは小さく、短かかった。
隣を見てみる。
そこに同じように立ち尽くす女の子がいた。
同じ登山客。けど、山に似つかわしくない顔だった。
短い髪が、肩のすぐ上で風にそよいでいる。
「この山は、好きですか」
「え…?」
いや、俺に訊いているのではなかった。
「わたしはとってもとっても好きです。
でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。
地形とか、植生とか、ぜんぶ。
…ぜんぶ、変わらずにはいられないです」
2 :
底名無し沼さん:2008/12/21(日) 13:56:22
たどたどしく、ひとり言を続ける。
「それでも、この場所が好きでいられますか」
「わたしは…」
「見つければいいだけだろ」
「えっ…?」
驚いて、俺の顔を見る。
「次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。
あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか? 違うだろ」
そう。
何も知らなかった無垢な頃。
誰にでもある。
「ほら、いこうぜ」
俺たちは登り始める。
長い、長い鎖場を。