2 :
爆音で名前が聞こえません:2008/11/30(日) 10:27:04 ID:njVj+Z+IO
そんな事より今日俺が
オネショした件について考えてほしい
まぁ昨日飲み過ぎたのよ
そんでさっきまでぐっすり寝てたのよ
トイレでおしっこしてる夢見たのよ
そしたら便器からあふれてきたのよ
そこでハッと起きたんだけど、時すでにお寿司
チョロチョロやってもた
正直自分でドン引きですよ
2ゲットォォォォォォォォォォォォォォ
新スレ立て乙でした。
これまでに書いたものが消えてしまうことになるので、
いつも保管して下さってるまとめサイトの人のありがたみを強く感じます。
本当にお疲れ様です。
また、M氏と旅人氏の投下に対する感想は前スレに書かせてもらいましたが、
どちらもとても面白かったです。
続きに期待してますね。
では、早速ですが「トップランカー殺人事件」の続きです。
〜〜〜 「トップランカー殺人事件」前スレまでのあらすじ 〜〜〜
beatmaniaIIDXのトップランカー、BOLCEが殺された。
無残にも絞殺された上、IIDXの筐体から首吊りにされて。
早速捜査に乗り出した盛岡警察署捜査一課の乙下と空気は、
現場に残されたダイイングメッセージや証言の不自然さから、
同じくIIDXのトップランカーであり第一発見者の1046に対して強い疑いを持つ。
しかし、1046にはe-AMUSEMENT PASSを使った鉄壁のアリバイがあった。
果たして1046はクロなのかシロなのか、
もしクロだとすれば一体どんなトリックを使ってこの犯行を成立させたのか。
乙下と空気は様々な方向から推理を繰り広げるが、
一向に進展はなく泥沼にはまりかけていた。
そんな乙下と空気の前に、一人の少女が現れる。
(※前スレまでに投稿した本文は
>>1の臨時まとめWikiで読むことが出来ます)
その少女は白いブラウスにチェックのスカートという身なりだった。
靴下は紺のハイソックス、胸元にはリボン。
要約すれば、女子高生だ。
乙下の感覚で「女子高生」と言えば、
カラフルな髪の毛とバサバサのつけ睫毛で街を闊歩し、
暇さえあればケータイ電話をいじり倒しているイメージだった。
実際はそうでない女の子も多数存在しているのだろうが、
職業柄これまでに乙下が相手にしてきた、
言い換えればこれまでに乙下が補導をしてきた田舎の女子高生とは
大概がそんな生き物だ。
ところが今シルバーの前に立っている彼女は
長い黒髪と白い肌のコントラストが映えており、
その自然な顔立ちの表面に異物感は露ほども感じられない。
ツヤのある革製の黒いカバンを両手で持っている。
今時の女子高生がよく持ち歩いているナイロン製のスクールバッグではなく、
昔ながらの学生カバンであり、それが彼女自身にどこか古風な印象を与えた。
スカートも極端に短くしているわけではなく、
不必要に自分の素肌を衆目に晒していない。
まるで学校のパンフレットからそのまま抜け出てきたかのような、
優等生タイプの装いだった。
加えて不動で直立しているものだから、
そのまま制服販売店でマネキンの仕事が
務まってしまうのではないかと思わせるほどだった。
そんな彼女へ近付いた乙下が最初にとった行動は、
とても可愛らしい女の子だと見とれることでもなく、
どうしてこんな場所に一人で立っているのかと疑問を差し挟むことでもなく、
実に刑事らしい真っ当な職務遂行であった。
「学校は?」
前置きもせず声をかけた乙下に、少女は振り向いた。
間近で見ると、やはりその表情には陰があることに気付く。
その一方で彼女の目に何か揺るぎの無い決意が
こもっているようにも見えたのは、
徹底して表情を変えようとしないからだろうか。
「今は授業の時間でしょ。
君、どこの学校?ちょっと学生証見せてよ」
乙下は変に不審がられないよう、
警察手帳を胸のポケットからチラリと覗かせた。
逆に畏縮されても困るので、すぐに引っ込める。
しかし驚いたことに、
少女はまるで名刺を差し出して自己紹介をするかのような自然さで
学生証を乙下へ手渡してきたのだった。
その限りなく従順な態度に、乙下は気後れしてしまいそうになる。
プラスチックの学生証には、冬服のブレザーを着てはいるが
間違いなく彼女本人の写真が貼り付けられていた。
その隣には「盛岡中央女子高等学校 一年三組 円樹 杏子」の文字が
エンボス加工されている。
小さく印刷された振り仮名を頼りに、乙下は名前を読み上げた。
「ツブラギ アンコちゃん……でいいのかな?」
「はい、ツブラギ アンコと言います」
円樹杏子はわざわざ名乗り直し、軽くお辞儀をした。
しとやかで品のある声だが
まだ子供っぽさが中に残る、そんな声だった。
「真っ昼間からこんなとこいちゃダメっすよ。
それに、いつまで待っててもこのゲーセンは開かないからね」
空気は面白いことを言ったつもりなのか、続けて一人で愛想笑いをしている。
その声はいつもに比べて明らかに気取ったものだった。
本当に分かりやすいヤツだな、と
乙下は鼻の下を伸ばしている空気を横目で冷ややかに見た。
だがと言うべきかやはりと言うべきか、杏子は表情を変えずに言う。
「すみません。今日はちょっと用事があったもので」
「どんな用事?」
「貴方が来るのを待ってました」
「……何言ってんの?」
思わず乙下は声に出してしまった。
冗談にもほどがある。
だが杏子の視線は真剣そのものであり、
乙下の目をじっと捕らえたまま外そうとしない。
どうしていいのか分からず、先に目を逸らしたのは乙下の方だった。
突きつけるように学生証を返し、
「おかしなこと言ってないでさっさと学校行きなさい!」
と盛岡中央女子高の方角へ手をかざした。
すると、杏子はまたも従順に
「貴方がそう言うのなら学校行きます」
とだけ言い残し、乙下の示した方角へ歩き始めるのだった。
わけも分からずに乙下と空気は顔を見合わせ、互いに目を瞬き合うしかない。
「ポスターに注意して下さい」
唐突にそう聞こえ、二人は声のした方へ一斉に顔を向けた。
どうやら杏子が去り際に発した声らしいのだが、
すでに彼女は背中を向け、
長い髪を左右に揺らしながらこの場を離れていくところだった。
乙下と空気はまたも顔を見合わせてしまう。
「何だって?ポスター?」
「……に注意しろ、って言いましたね」
「どういうこと?」
「こっちが聞きたいっすよ」
空気は呆れ顔で万歳をしてみせた。
「あの娘、可愛いんだけどなんか変ですね」
「お前に言われるくらいだから相当だな」
「どういう意味っすか!」
威勢のいい空気を適当になだめすかしつつ、
乙下はつい一分前まで杏子が立っていた場所に移動し、
つい一分前まで杏子が見ていた方向へ体を向けた。
ガラス窓の外装を通して、暗いシルバーの店内にうっすらと扉が見える。
見覚えのある扉だった。
「デラ部屋だ」
今乙下が立っている場所と方向は、
デラ部屋を真正面に見据えるための場所と方向だったのだ。
「あの娘、ずっとデラ部屋を見てたんだ」
空気は乙下の真似をして隣に立ち、店内の様子を探った。
ガラス窓に映り込んだ空気の顔が頷く。
「あの娘、もしかして死んだBOLCEの友達だったんじゃないっすか?」
「俺も同じこと考えてた」
今更ながら、杏子の暗く無表情な顔色が
悲しみに満ちたものだったように思えてくる。
彼女は何時間もここに立ち尽くしながら、
BOLCEの死と向き合っていたのだろうか。
それともBOLCEの死と向き合うことが出来ず、
ともすればあの部屋からひょっこりと
BOLCEが姿を現すことでも期待していたのだろうか。
「だからボク達を待ってたのかなぁ」
「まさか」
そうは言ったものの、杏子の真剣な眼差しは乙下の瞼に焼き付いてしまい、
空気の発言があながち的外れではないように思えて仕方ないのだった。
to be continued! ⇒
今週はここまでです。
全然関係ない話ですが、
先日TROOPERSの最終WEEKLY RANKING(課題曲:MENDES)の舞台で
DOLCE氏と1048氏が一点を争う名勝負を繰り広げました。
俺が元ネタにさせてもらってる二人のトップランカーが
こうして現役で活躍している姿を見ると、なんとも嬉しい気持ちになります。
勝手に元ネタに使っておいてなんですけど(笑)
このお二人に最大限のリスペクトを捧げつつ、物語は佳境に入っていきます。
ではまた来週。
>>9 乙です。
そろそろ話も核心に迫っていくのかな?
続きを楽しみにしております。
新スレの書き込み具合が少ないな。
もう少し書き込みが無いと、落ちる危険性があるんだったっけ…?
>>9 乙です!
犯人は誰なのかがますます分からなくなってきましたw
続きを楽しみにしています!
>>10 そういえばルールありましたね
どれくらい書き込めば安全だったっけ?
>>とまと氏
少女がポンポン答えをくれるかと思いきや、なかなかの不思議少女っぷりですね
ポスターがどう繋がるのか気になる所です、早く続きが見たくてしょうがない(笑)
「この子上手いよ」
後ろからいつもとは違うしっかりとした友人の声が聞こえた
俺は振り向いて友人を睨みつけた、どうしてこいつまで俺をバカにする様な事を言うんだ
しかしそんなイラつきも友人の顔を見た瞬間に凍りついた
さっきまでカルマのアドバンスで醜態を見せていた情けない表情はそこにはなかった
自分の好敵手を眺めるような熱い視線を少女へと向けていた
その少女はと言うと、恋は臆病の赤を選択……赤?
「おいおい、俺がさっきやってたのと同じじゃねぇか。こんなガキに出来る訳ねーじゃねーか」
演奏が始まる、あれいつのまにスピードを5.0倍にしたんだ?
少女はまるで優しくキスするかの様にスティックを軽くふわりと叩いた
そしてハイハットの連打の部分すら優しい叩き方でサラサラと切る事なく繋いでいった
足も軽やかに小鳥がさえずるかの如くトントントンと踏み鳴らしていった
切れろ、切れろ、切れろ、どうして繋がる、さっさと切れろ!!!!!友人が見てるだろうが!!!
涙目になりながら、ただコンボが切れる事だけを祈った。
しかし叶って欲しくない事に限って簡単に叶ってしまうのが現実
少女は最後まで柔らかいイメージを兼ね備えつつ、息を切らす事もなくSSというランクを叩き出した
もう俺が先程の様に友人をバカにしながらプレイできる日は来ないだろう
「……気にするなよ。お前も上手いけどあの子が上手すぎたんだよ」
友人は俺の肩をポンっと叩いて真剣な顔をしていた
こいつが……俺に……気にするな……だと!?
「何様のつもりだてめぇ!!!!!!!!!!」
友人の胸倉を掴んで精一杯大きな声を上げてわめいた。それでも怒りは治まってくれない
「カルマのアドバンスで死んでる様なカスが俺に慰めの言葉なんて、言える訳ねーだろ!!」
「……落ち着けよ、俺は──」
「うるせぇ!!!見てるだけでイライラするんだよ、お前の下手糞プレイはよ!!!」
俺は友人が決して嫌いではなかった、ただドラムマニアでは俺が優位なのは揺るぎがない事実
ドラムマニアでは俺がこいつよりは上なんだ、こいつが俺とドラムマニアで横に並んでるかの様な台詞には我慢ならない
そして少女にあれだけの大口を叩いたのに、負けてしまった、そんな事が俺を冷たく、つまらなくしていった
「一ついい事教えといてあげる」
熱くなった俺を少女の声が一気に冷ました、いつのまにか100円を消化していたらしい
「貴方が下手糞って言ってるその人、ドラムマニアのランカーって事知ってる?」
「……は?」
頭の中が一瞬停止した
「その人、深夜辺りになるとふらっとここのゲームセンターに来て高難易度の曲を高達成率でクリアして帰っていくのよ」
「……もういいじゃないか、黙れよ」
友人は心底腹が立っているような声を出した
こいつもこんな声が出せるんだ……と話の流れについていけない出来損ないの頭を使ってぼんやりと考えた
「君はこいつより上手かった、もうそれでいいじゃないか。これ以上こいつのプライドを傷つけるのがそんなに楽しいのか?」
「私だってそいつになんて興味ないわよ、興味があるのは貴方」
もう俺はこいつらの蚊帳の外の存在でしかなかった
「貴方がこんな奴に言いたい放題言われて、わざとらしく下手糞なプレイを演じ続けてる事に同じランカーとして腹が立つのよ」
友人は俺にだけ聞こえるように帰ろう、と囁いた
「ははは、こいつがドラムマニアのランカー様だと?それもわざと下手糞なプレイを演じているだと??」
自分のバッグの中からマイスティックを取り出し、友人に無理やり掴ませた
「それなら今から腕前を見てやる、おい?そこの子が言う本気とやらを俺に見せてみろよ」
友人はスティックを掴みつつもやる気がありません、とでも言う様に腕をダラリと重力にまかせてダラリとさしている
もう俺は後ろには退けなかった、これ以上馬鹿にされてたまるか
「いいか?本気でやれよ?手なんて抜きやがったら俺達は友達じゃねーからな?友達が友達を偽るなんて事しねーよな??」
俺は自分の財布の中から100円を機械の中に入れた、もう友人も引き下がれないと悟ったかドラムマニアの椅子に座る。
これがお望みかよ?そう思って少女を見るとちゃっかり椅子に座って、いつのまにか買ってきたドデカミンを飲んでいた
友人を見るとコナミの赤いカードを差し込んで暗証番号を打ち込んでいる
あいつ、カードなんて持っていやがったのか……知らなかった……
「ふふ、やっとここまできた甲斐があったってものね」
少女を見ると心底満足そうにニコニコしていた
「さて〜〜1曲目はカルマのアドバンスかな〜〜クリアできるかな〜〜100円もったいなかったかな〜〜」
俺は、10代の女の子が嫌ううざい男ベスト10にでも入れそうなキャラクターを演じていた
しかしそんなうざ男(略)も長くは続かない
「彼、1曲目はあさきの曲を選ぶわ」
「えっ、どうしてぇ〜??(笑)」
「彼、根っからの"あさきすと"よ?」
友人は1曲目にAgnus Deiの赤を選んだ
そして小気味がよいシンバルとハイハットの音が奏でられたのだった
17 :
M:2008/12/04(木) 00:12:23 ID:7CXFVRwL0
あ、名前付け忘れてましたけどMです
新スレになったという事で前スレで書かしてもらっていた話の続きを書きました
自分のプレイに自信のある男には、自分よりも格段に下手なプレイヤーはモチベーションを上げるだけの、ただの餌なのです
これは少し性格の歪んだ自己中心的な男と友人、そして二人の関係を変えてしまう少女のお話です
軽くあらすじ書きましたが最初に書いとくべきでした、すいません
>>17 投下乙です!
ところでこれ、続くんですかね?
なるべくなら投下後、続くかどうかも書いて貰えると嬉しいです。
20 :
M:2008/12/06(土) 04:38:37 ID:UNKcXbzg0
>>18 ありがとう、頑張って書いていくね
>>19 申し訳ない、これから気をつけます
ちなみに続きます
あぁ酔っ払った…いい気持ち…おやすみ…
沈んできたので、ageておく。
22 :
旅人:2008/12/10(水) 23:19:47 ID:qAap6DMs0
亀ですがとまと氏もM氏も乙です!
新キャラの女子高生の杏子の言うポスターって、あのポスターなのでしょうか?
続きが本当に気になりますね。楽しみに待ってます。
M氏の話の主人公、こんなこと言っちゃアレですが「ざまぁwww」って思っちゃいました。
書いてて自分がサイテーな人間じゃないかと感じてきています。続きを楽しみに待ってます。
今晩は、10月末にGFDM MPSを購入した旅人です。一か月も前の話ですね。
MPGも持っている事には持っているのですが、タイピやりたいがために買いました。ただの衝動買いです。
一ヶ月で「たまゆら黄Gデキネ」→「たまゆら黄G70%ktkr!」という成長(?)を遂げましたが、
ホームのギタドラが消えてました。あの日涙を流していたのは言うまでもありません。
いよいよ小暮と町田が語ってきた白壁占拠事件も終わり、
次に語るのは誰かというもうじきバレる謎を含みつつ、第四章 An Usual Dayがスタートします。
この話は基本一人称です。
ですが、実験的な事もやっているのでただの一人称には終わりません。と思っています。
第一〜第三章まではシリアス+独りよがりなギャグ&音ゲーネタが中心でした。
この章では完璧に音ゲーのみを焦点にセットしてあります。良くも悪くも正真正銘の音ゲー小説となると思います。
ならないかもしれませんが…それでは、本編スタート。
23 :
旅人:2008/12/10(水) 23:22:10 ID:qAap6DMs0
う〜ん、あの小暮って探偵さんが発言し終わってから、何かムード重いな…
よし、ここは他愛のない話でもして場を普通に盛り上げようか。そうしよう、そうしよう。
「あのさ」
「どうしたの?ゆうさん」
「先日の…いや、俺の話なんだけど、喋っていい?」
「良いに決まっているじゃないですか。聞かせて下さいよ」
俺の話なんだけどさ。
―はい。
今俺って、いわゆるあのー、逆玉の輿結婚をしているんだよね。
―へぇ、逆玉!羨ましいですねぇ。
―小暮君何言ってるの!あ、お気になさらずに続きを。
別に大丈夫ですよ、全然気にしてないですから。
俺、ゆうと別れてからさ、平田町に行ったのよ。
んで、まぁ、飛行機とか車とか電車とかをさ、そんなの一切使わない一人旅している以上さ、
どうしても服とかボロボロになったりするでしょ。いや、まぁ、なるんだけどね。
で、町の人達から変な目で見られるわけさ。
「何あの人!?」とか「うわ、汚ぇカッコしてるぜw」とか言われたりもするのよ。
もうお前らの代わり映えのしねぇテンプレみたいな言葉なんか受けても傷つかないもんねー!
なんてさ、そんな虚勢を心の中で張ってさ、どっか泊めてくれると事かねぇかな…って思いながら町を歩いてた。
したらさ、何か前から黒光りの高級車がやってきたのよ。
―ゆうさん、それって○ムジン?
あ〜、何かちょっと違ったっぽい。車の事はあまり詳しくないから、分かんなかった。
兎に角さ、その黒の高級車が俺の脇に止まって、後ろの席に座っていた美人さんが俺に言ってきたのさ。
―何て言ったんです?
「汚らわしい」とか「はよこの町から出ておゆき!」とかでもなかった。
「今晩、私の家にお泊めしましょうか?」………彼女はそう言ったのさ。
24 :
旅人:2008/12/10(水) 23:24:54 ID:qAap6DMs0
で、俺はすぐにそのまま「ハイ!有難う御座います!」なんて言える人間じゃねぇからさ、
最初は断ったんだよ。でもな、彼女のお爺さんが珍しいもの好きで、
「貴方みたいな旅の原点に立ち返っている人の話を聞かせてあげたら、お爺さまが喜ぶと思うわ」
なんて言うからね、分かりましたって言ってその高級車に乗ったってお話。そんだけ。
―え、続きは?
―そこで終わりじゃないですよね?
―えー、これでお終い?
―坂野さん、お願いしますよぉ…
はい、皆様の要望により第二話スタート。
でさ、彼女…佐藤加奈っていうんだ。加奈さんのっつーか佐藤家の豪邸に高級車で運ばれてさ、
それでまぁ、おもてなしをうけたわけ。久しぶりにシャワー浴びたり、まともなもの食べたりとかね。
とりあえず夜までは佐藤邸の中でうろうろしていた。別に寝てても良かったんだけどさ。
で、二つの町で連続して金持ちの家に泊まれるなんて奇跡じゃね?とか思ってたらもう夜よ。
平田町に着いたのが昼の三時くらいだったから、まぁ当然っちゃ当然よ。季節柄、夜になるのも早いしさ。
で、豪勢な夕食が出てきたんだな。ゆうの家にお世話になった時と同じくらい豪華だったな。
それで加奈さんのお爺さん、雄三さんと夕食を取ったんだ。
何故、俺が旅をするのか。旅はどんな風に進むのか。旅をした中で一番印象深かった事は何か。
まぁそんな事を聞かれながらね、鶏肉食って答えたんだ。
雄三さんは、旅のきっかけとゆうとの出会いや出来事、思い出を話していた時、妙に表情がキラついていたんだ。
ここで、だ。一体どうして雄三さんの表情がキラついていたのだろうか?…ハイ、町田さん。
―うーん、分からない。雄三さんの気を引く話だって事は予測がつくけど…
……もしかして、雄三さんは音ゲーマーなのかな?
いきなり答えが出ちゃったなー。そうなんだよね、雄三さんは現在進行形で音ゲーやってらっしゃるのさ。
でも、昔のビーマニみたいな渋めの曲が好きみたいなんだよね。うん、それは何となく分かる。
それは置いといて、それから色々あって加奈さんと結婚、今に至る…ってわけ。
―ゆうさん、逆玉の経緯語ってないですよ。
―気になるなー、かなり気になるなー。優ちゃん、そう思わない?
―思います…そこのところ聞きたいですよね、町田さん?
―すっごく気になるー!聞かせて!
まぁそれは、また別の機会にね?語るには長すぎるから。
だからね、昨日のゲーセン話でもしてお茶を濁そうかなと思うんだ。悪いけど、それで勘弁してくれ。
―分かりました。皆さんもそれでいいですよね?
―承知いたしましたー。
―そっちも気になる…それでいいです。ハイ。
―ゲーセン話か…どんなのだろうね?
25 :
旅人:2008/12/10(水) 23:28:15 ID:qAap6DMs0
いや、そんなに期待されてもさぁ。
ただのフツーのゲーセン話だから。そんなに期待するほど面白くもないと思うよ?
それでも聞きたいって言うんなら第三話スタートなんだけどね。
…え?聞きたい?よし、それじゃあ第三話スタートだ。
まぁとりあえず職を探したんだ。したら、××商事のガードマンになってね。
旅しているうちに体は鍛えられていたから、まぁピッタリの職かなとは思うけど。
まぁあのよくありがちな「後継ぎがいないから婿が欲しい」みたいな、
そういうアレで加奈さんとは結婚したわけじゃないからね。うん。
それは関係なかった。兎に角、ガードマン仲間の近藤って人と友達になったわけだ。
経緯は…音ゲーが好きだったんだよ。近藤って人もさ、特にDDRが好きなんだってさ。
DDRが好きな理由は、体全体を動かせるからだってさ。
指先だけ動かすIIDXや上半身しか使わないギタドラやポップンはあまり好きじゃないみたいだ。
で、好きな音ゲー曲は何よって聞いたらこう返してきたなぁ…
「俺が好きな音ゲー曲を一曲挙げろ?うーん…
えー…あー…悩むな………うぅん、うん、『Colors (radio edit)』かな…
for EXTREMEもいいと思うけど、デラの6thの(radio edit)の方がいいわ」
だってさ。んで、それ、思いっきりデラの曲じゃねぇかって言ったらさ、
「機種とか関係なくね?良曲はどんどん移植されていっていいと思うね。
Corolrs然り、murmur twins然り、V然り…DDR以外あんまりやらないけど、
BEMANIシリーズの音ゲが良曲を共有するってのはいい事だと思うよ」
だって。良い事言うよコイツと思ってね、そんで彼と彼の友人さんとで
あ〜、平田町の一番大きな「クリア」ってゲーセンで遊ぼうぜみたいな約束をしたわけだよ。
それが、昨日の18日の話な訳さ。
時間が飛んで、昨日ね。やっと昨日の話が出来るわ。
なんかなぁ、人と話をするっていうか、自分が伝えたい事って上手く伝えられないんだよ。
だから、小暮さんとか町田さんとかさ、スゲーって思うんだよな。
―いえ、そうでもないですよ。僕だって結構話すの苦手ですよ。
―友人の間なら口が上手く動くんですけどねー、いや、ここにいる人が友達じゃないって意味じゃないですよ?
そうだよ町田さん、ここに居るのはみんな仲間なんだ。
音ゲーという媒介を通した友達なんだ。
いや、何か熱くなっちまった。ちょっと脱線しちゃったな。
で、話を戻そう。平田町のそのクリアってゲーセンでさ、近藤とその友人さん、変な名前の人なんだよね。
「園田友仁」だって。近藤は園田の事を「ユージン」って呼ぶんだけどね。関係ないね、うん。
…悪い、トイレってどこだっけ?ゆうン家は久しぶりにお邪魔したから、何の部屋がどこにあるか忘れちゃったんだよ。
―談話室を出て左に曲がって、つきあたったらそこを右に行けばありますよ。
おぉ、そうか!ありがとう、すぐに戻ってくるから!
26 :
旅人:2008/12/10(水) 23:35:00 ID:qAap6DMs0
いかがでしたでしょうか?これにてみんパテ第四章「An Usual Day」の投下はここで一旦終了です。
現在、細々と書き溜めております。ので、投下がこれまで以上に遅くなるかと思います。
楽しみにしていらっしゃる人には申し訳ありませんが、
出来るだけ早く次が投下できるように努力したいと思います。
それではこれで。次回をお楽しみに。
作品に対する感想、作者へのご意見など、気軽にどうぞ。
(実は今日、前スレに「埋めネタ」なるものを書かせて頂きました。
前スレにも書いていますが、みんパテのプロローグに「第六回目のネットラジオの放送」
がどうこうというのを書きましたので、じゃあその内容をと思い、放送内容を埋めネタとして
書かせて頂きました。という訳ですので、前スレを見てみてください。それではこれにて)
>旅人さん
前の話とは雰囲気が変わりましたね〜
ゲーセン話期待してます
前スレの話も見てきますね〜
旅人氏乙
ゲーセンを介しての人々のかかわりじっくり楽しみたいと思います
29 :
旅人:2008/12/13(土) 00:35:10 ID:Qlmbyc6m0
>>27さん、
>>28さん
応援ありがとうございます。
期待通りのものが書けたかどうか分からないですが、
とりあえずこの章も次の章もその次のものと頑張っていきたいと思います。
今晩は、コンチェは出来てカゴノトリが出来ない旅人です。
勿論、IIDXの話です。これがギタドラの話だと言えば100%あり得ませんからね。
カゴノトリの最後の超超簡単が見切れないんですよねぇ…いつかは出来るようになると思うのですが。
さて、第四章の続きを投下させて頂きます。
>>28さんの言葉に心動かされ、かなーり手抜き気味だった第四章に一レス分が追加されました。
この一レス追加分に、かなりアホな話を追加しておきました。
作者がゲーセンで他人と交流をした事がないから、こんなのが出来ましたと先に言い訳させて下さい。
最近、期待されているものに対して、ちゃんと応えられなければいけないんじゃないかなぁと思います。
応えられる応えられないは置いといて、姿勢が大事じゃないかと。大事なのはattitudeなんですよ。
姿勢と言えば、正座をして背筋を伸ばさないと。脚短くなるけど。そういうわけで、本編スタートです。
30 :
旅人:2008/12/13(土) 00:39:28 ID:Qlmbyc6m0
いやぁみんなごめんね話の途中に。とりあえず続きだな。うん、話すか。
俺と近藤とユージンでさ、夜中にクリアに行ったのよ。
あそこは24時間体制のゲーセンだからね。だから色んな人が多い。
チャラチャラした若い兄ちゃん達とかさ、ちょっとヤバめの人とか、俺みたいな人とか。
でもさ、マナーは良いんだよ。ゆうはさ、仕事で全国各地のゲーセンに行くんだろ?
―はい。
それでさ、平田町のクリアってゲーセンがどうとかって聞かないよな?悪い意味で。
―そうですね。っていうかそのゲーセン、初めて知りました。
そっか、まぁな。ここからあまり遊びに行くような所じゃないからな…
でだ、俺達は最初思い思いに遊ぼうぜって事になって、色々遊んでたんだよ。
でも、やっぱ皆がやるのは音ゲーなんだよな。俺はポップン、近藤はDDR、ユージンはデラよ。
そう、ユージンは、アレ何だっけ…そうそうDJTではSP九段でDP五段なんだよね。
EMPから段位はあまり拘ってないみたい。それに彼はあまりゲーセンに行かないみたいだから。
んで三十分位してから一回集まってギタドラやろーぜって話になった。
クリアってゲーセンな…ゆうのゲーセン、名前なんだっけ?
―「ピース」です。
そうそう、ピースだよピース。ピースにもあるよな、「セッション専用台」ってやつ。
―えぇ。お客さんは結構来てくださるので、順番待ちの人の事を考えてみると、
学校帰りの学生さんやカップルさんが「セッションしたい」オーラみたいなものを発しているって分かったんです。
名前はテキトーに付けましたけど。で、試しにGF筐体一台とDM筐体一台を間引きして、
そしてセッション専用って張り出して、説明文をつけてですね…あ、だめだ。うまく話せないや。
つまるところ、人気はあったのでこのまま続けていく価値はあるなと思いました。
ギタドラって、一人でやるよりセッションの方が楽しいですからね。
変なプレッシャーを背負う時もありますが、楽しいって気持ちの方で相殺できますから。
あぁごめんなさい。続きをどうぞ。
いやいや、いいよ別に。全然気にしてない。
兎に角、そのセッション専用台で三人で遊んだわけな。
んで、ユージン、近藤、俺の順番で選曲したわけだ。
俺がDMで二人がGFな。近藤がベース担当だったかな。「男ならベース」とか言ってるアホだもん。
まぁアホは言い過ぎかも分からんけどね。んで、まぁ、話の続きだ。うん。
31 :
旅人:2008/12/13(土) 00:44:05 ID:Qlmbyc6m0
俺ら三人はそんなに力量差があるわけじゃないから、気軽に選曲できる訳さ。
だから、ユージンがほらアレは「たまゆら」…でいいんだっけ?
―佐々木さんの曲ですか?そうですよ。
おぉゆう、ありがとう。んでさ、それ選曲して…ユージンが緑G、近藤が緑B、俺が緑を選ぶ…みたいなね。
一曲目はそうでさ、なんかユージン、家で結構練習してたみたい。アッサリS取ってた。
―凄いですねぇ。SP幾らか知らないですけど、僕は出ませんよ。出てもAが精一杯ですね。
―坂野さん、そのユージンさんは実は結構上手いんじゃないんですか?
いや、アイツ曰くね、
「コツさえ掴めば何とかなる」
だってさ。コツが掴めてクリアできるなら苦労しねーってな。
そうそう、余談っていうか蛇足なんだけどさ、ユージン、タイピ緑はクリアーは出来るって。
これにもコツがあるらしいんだけど、奴が言うには
「緑B譜面でオルタのタイミングを掴んで、
緑Gではそのタイミングに倣って運指を頑張ればクリアーは出来る」
らしいよ。まぁ、皆には関係のない話だろうけど。
だって、皆上手いじゃん?そういう意味で関係ないって言ったんだけどね、誤解させたのなら謝るわ、ゴメン。
…で、近藤が二曲目選んでさ。アイツ「からふるぱすてる」選びやがったの。
俺が「お前嫌がらせかよ」って言った。ムビがムビだしさ。曲が曲だしさ。俺はああいうの嫌いなんだよな。
多分、曲の好みは雄三さんと似通ってるのかもなぁ…
そんで近藤はね、クリアーした後に俺にこう言ったのよ。
「こういうのもたまには良いじゃねぇか。いや、………何か後悔してきた」
お前後悔してんじゃねーかよってな。アハハ、ダメだ、思い出し笑いしちまった。
もう気まずいムードみたいなアレがさ、もう漂う漂う。だめだね、うん。
もうこういう系統の曲は選ばないようにしようやってなって、俺の選曲ね。
―ゆうさんの事だから「murmur twins (guitar pop ver.)でも選んだんじゃないですか?
―あー!多分そうだよ!ゆうの言う通りだよ!
前にネットラジオの収録の時言っていたでしょ、
「僕には二人の恩人がいて、そのうち一人が murmur twinsが好きなんです」って。ねぇ?
たはは、お見通しって訳かい。
まぁねぇ。近藤もユージンもこの曲は好きだって言うからね。
murmur twins、2chの音ゲー板の「IIDXの好きな曲BEST5を書くスレ」でも
途中集計で第二位だからね、んで一位が蠍火。…俺は眼鏡のおじさんスゲーなーって思うんだよ。
32 :
旅人:2008/12/13(土) 00:48:37 ID:Qlmbyc6m0
―そうですね。眼鏡のおじさんは凄いですよね。
―私、オバクラが一番好きかなー。Spicaも好きだけど、オバクラよ。
―僕はgardenですね。LLPも好きですけど、やっぱgardenですよ。
―ハピスカで提供した曲なら、私はgardenよりLLPが好きかなぁ…
―いやいや、DDの玄武名義で出したGanymedeが僕は一番好きですね。
―実はね、皆murmur twinsが一番好きなんじゃないかと思うんですよ。
―次点でsmileね。いや、私は一番好きなのはsmileなんだけどね。
―町田さん、物はハッキリと言って下さいよ。一番好きなのはオバクラなの?smileなの?
(ゆうと町田さんと小暮さんが一気に喋り出したなぁ…眼鏡スゲー。
おや、加瀬の優ちゃんが一言も喋ってない。どうしたのかな…?
まぁ、話の続きをしようか……)
で、皆さん注目注目ー。最終話の始まりはじまりー。
まぁもう、ね?ネタが尽きちゃったわけよ。まぁ勘弁して頂戴ね。
で、エクストラを出して、エクストラ曲をやるかーってなるかと思うでしょ?
―まぁ、普通はなるんじゃないんですか?
ところが、そうなると俺達は普通じゃなかったってことになるなぁ。
俺が「明鏡止水やろーぜ!」って言えば近藤は「空言!空言の海やろうぜ!」って言うし、
ユージンなんて「カゴノトリ、カゴノトリやろーや」って言うからね。
俺たちゃどれだけトモスケさんが大好きなのよってね。
じゃあ仕方ねぇから、じゃんけんして選曲権を決めようぜって話になって、
さぁーいしょーはグー、じゃーんけーんホイ。三人とも違う手を出してさ。あいこよあいこ。
んで、あーいこーでしょっ、あーいこーでしょっ、あーいこーでしょって何時までもやってたのさ。
俺が「お前ら、いい加減負けろや!」って言えば二人は口揃えて、
「うるせぇ、空言(カゴノトリ)やらせろや!」
ってキレたからね。迷惑もいいとこの客だったかな。
多分、ゆうがいたらフルボッコにされていたと思うね。うん、反省していますよ、ええ。
―それはいいんですけど、殴り合いの喧嘩にはならなかったんですよね?
勿論そんなわけないじゃないか。大の大人三人がゲームの選曲権がどーのこーので血を見るなんてダセェ。本当にダセェ。
まぁね、選曲時間が残り五秒切ったあたりから、
「明鏡(空言)(カゴノトリ)ーーーーーー!!!!!!」
って言いながら皆自分のやりたい曲を選ぼうとして必死さ。
選曲カーソルもメチャクチャカシャコシャなってて、時間切れになって選曲されたのが…何だと思う?
―知りませんて。ヒントも無しに分かる訳ないじゃないですか。
アレよ、アレ。「Concertino in Blue」だよ。コンチェだよ。
折しも、皆して難易度をEXTに合わせていたからね…ま、どうなったかなんて、聞かなくても分かるよね……………
33 :
旅人:2008/12/13(土) 00:52:57 ID:Qlmbyc6m0
そして話は飛ぶけどさ、三人並んで帰る時に話をしていたんだけど……
………何か二人さ、同時に咳きこんだんだよな。ゲフンゴフンって。
― ……え?
いや、そんなに怖い顔をするなよ、ゆう。マジで怖いって。
二人とも風邪をひいてたっぽくてな?何か一週間くらい前から具合が悪いっぽくて。
お前大丈夫かよって言ったら、大丈夫って二人は返したんだけどな。
―そういえば、町田さんは何時からでしたっけ?
あの、風邪気味がどうこうっていうのは。
―四日前くらいに「平和のラヂオ」の収録をやって、次の日に白壁襲撃事件、
その三日前…大体一週間ぐらい前かな。今では大体治ってきたけど。
― …………?
―どうしたのよゆう。本当に怖い顔して。
本当、パラハデのムービーの人の顔みたいよ。
―大丈夫ですよ。本当、大丈夫です。
それじゃゆうさん、続きを。
いや、これで終わりなんだ。
―え?
終わりなんだよ。この話。
だから言ったろ?オチもないし面白くもなんともないって。
―言ったかもしれませんけど…これってアリ?
多分アリだよ。かなり強引だけどな…ごめん、悪かったわ。
…じゃあ、次は誰の話が聞けるのかなぁ〜。ってかもう10:12か。早いな…
坂野の話が終わった。何の変哲も面白味もないものであったが、
このどうでもいい話は先の小暮のシリアスで非現実的な話がもたらした、
誰もが避けたがる重苦しい雰囲気を払拭した。その事は確かだった。
――そして、次の語り手が口を開く。
「―――今日、NO.9と会ったんですよ」
34 :
旅人:2008/12/13(土) 00:57:44 ID:Qlmbyc6m0
いかがでしたでしょうか?これにてみんパテ第四章「An Usual Day」は終了です。
誠に勝手ながら、短めにこの章は終わらせて頂きました。
「ただのゲーセン話+αでいこう」というのが、第四章のコンセプトでした、というのが理由です。
まぁあの、第三章とは違う意味で現実離れしたエピソードを盛り込めたので、
僕個人としては良い感じじゃないかと思うのですが、皆さんの目から見ると「まだまだ」かなと思う所もあるのです。
そういえば前スレの埋めネタのタイトルをつけ忘れていました。
「平和のラヂオ第六回目放送内容(不完全収録ver.)」というのがタイトルです。
漢字ばっかりなタイトルを見て、とあるEMP新曲のタイトルを連想させる事が出来れば勝ちかと思っています。
不完全収録ver.と言うからには完全収録ver.もあるのかと期待する人もいるかもしれませんが、
今のところ完全収録ver.を書く予定はありません。要望があれば書きます。。
というか、松木と町田の会話の内容を考えるのって、結構悩むんですよね。キャラが誰でもそうなのですが…
という訳ですので本日はこれにて。ある程度書き溜めたら次を投下するので、
その時まではさようならという事です。それじゃ、おやすみなさい…
>>34 乙
コンチェ赤オワタwww
次が楽しみです♪
NO9がどう関わるのか
乙
じゃんけんしまくってたらそりゃ時間なくなるよ
37 :
爆音で名前が聞こえません:2008/12/16(火) 01:29:49 ID:LUx4ZiKq0
沈んでるのでとりあえずageときますね。
38 :
旅人:2008/12/18(木) 01:16:18 ID:U2MyOVIG0
今晩は、CSDDのSP十段に受かった旅人です。いやぁ、めでてぇ。
ラストのAAは気合で乗り切らないとだめですね。残りゲージ10%とかね。もうギリギリですね。
その後調子にのって皆伝やってみたら、quellに食われました。面白くも何ともねぇな。
今投下からみんパテ第五章「邂逅」が始まります。
第二、第三章と比べると短いお話になりますが、あの二つの章が長すぎたんだ、という事にしてください。
元々、第四章や第五章がデフォな感じで書いていこうとは思っていたので。
そういう訳で本編スタートです。どうぞ。
(すごーく亀ですが、返答のレスをしたいと思います。本当にごめんなさい。
前スレの
>>411さん、先に埋めネタ投下しちゃいましてすみません。
何かネタが思いつきましたら、是非発表してくれると嬉しいです。
>>とまと氏
偉そうな態度云々は全然気にしてないですよ。
相談にのってくれるって言うんなら、もしその時が来たら宜しくお願いしますね)
39 :
旅人:2008/12/18(木) 01:20:18 ID:U2MyOVIG0
「実は僕、今日、NO.9さんとお会いしました」
出し抜けに松木が言った。松木以外の四人が一斉に松木に注目する。
四人の中でも一番驚いていたのは小暮だった。
それはそうだろう。自分の目の前で死んだ人物に会ったなどと言うのだから。
「え…本当なんですか?」
「はい。でも、小暮さんの話に出てきた彼ではなく、
狩りプレーヤー狩りの方のNO.9さんですよ」
松木がそう言った途端、四人の顔から緊張の色が消えた。
だが、一瞬の間が空くとすぐに四人の顔に驚きの表情が浮かぶ。
「何!?狩りプレーヤー狩りの方のだって!?」
「本当ですかゆうさん!」
「あ〜っ!一度9ちゃんとはポップンで手合せをお願いしたいと思っていたのよ〜!」
「…皆さん、私にも分かるように説明してくれませんか?」
松木が、坂野が、小暮が、町田が加瀬の方を「エーッ!」と叫びながら注視する。
四人から見つめられる加瀬は、気まずそうな顔を浮かべていった。
えーとね、と言って解説役を買って出たのは町田だった。
信じられないかもしれないけどね、と前置きしてから狩りプレーヤー狩りのNO.9について解説をする。
「ポップンとギタドラ、あれに全国対戦があるのって知ってる?」
「一応は」
「まぁめんどいから熱帯って言うけど…上級者が初心者と戦ったらどうなると思う?」
「上級者の人が勝ちますよね?普通なら」
「そう。そんな行為を『狩り』って言うの。ポップンよりギタドラの方が酷いって聞くけどね。
まぁそれは置いといて、その9ちゃん、NO.9って人はポップンのIRでも上位の方に名を連ねる人なの。
何かのコースで私、9ちゃんに負けていた事もあったわ…
だから、一回対戦してみたいなって純粋に思ったりもしたんだけど。
それも置いといて、まぁあの、狩りプレーヤーをそんな圧倒的な実力で捻じ伏せる人なのよ。
でも、その行為自体も『狩り』だし、自分の実力より下の部屋に入った時点で『狩り』だからね……」
「ダークヒーローって奴ですね?」
「まぁそんな感じ。多分…」
でもね、と小暮がそこに割り込んで話を始める。
「ダークヒーローって言ったけど、そんなもんじゃないと思うよ。
ただの狩り師じゃないかって、僕は思うんだけどね」
「でも、ハムラビ法典…」
「そんなの関係ねぇ、って古いのかな…あの人は好きなんだけどね。
いや、そんな話じゃなくて、狩りしている以上はNO.9も一狩りプレーヤーなんだって事を言いたいのさ
そんな奴にヒーローとかって言う必要はないと思うんだよ」
40 :
旅人:2008/12/18(木) 01:24:22 ID:U2MyOVIG0
皆さん、僕が話をしてもいいですか?」
松木が話を続ける三人に問いかけ、すんませんと三人は返して松木の方を見た。
「…ありがとうございます。それじゃ、今日の朝の出来事から話しますね……」
08/12/19。11:23。
松木はピース店内の作業を監督していた。
広いドーム状の店内の中央の飲食エリアに
演説台を設置している女性店員の店内修飾の手伝いをし、
「あ、脚立に乗ってる平川さん、大丈夫?怪我しないようにね!」
などと言いながら電飾を飾っていく。
作業は朝の10時から始められ、終了予定時刻が正午ちょうど、
パーティー開催予定時刻が昼の1時であった。パーティーが終わるのは5時。
夜の9時から、直接コンタクトを取って招待状を渡した人達が来る誕生日パーティーが始まる。
11:48。ピース店内の修飾点検が始まった。
飲食エリアを中心とする天井から電飾で形成される
燈、赤、青、緑、黄色の光の太い筋がクモの巣のように広がっていく。
クモの巣、と表現するのは言い方が悪いかもしれない。放射状に、というのが正しい言い方だろう。
天井に広がってゆく五色の光を見て、松木がwow!と言い、店内の飾り付けを終えた従業員に告げる。
「皆さん、お疲れ様です!それじゃあ12:40にスタッフルームで待ち合わせましょう!」
分かりましたー!と松木の方を見る従業員全員が返答、
それから散り散りになって思い思いの行動を取る。大半は昼食をとっていた。
松木がそれを見ながらさーて僕もカロリーメ○トを…と思っていたところ、
多田が彼の肩越しに呼び掛け、大変ですよと前置きしてから言う。
「今、ゆうさんにお会いしたいと言う人がいるんすよ」
41 :
旅人:2008/12/18(木) 01:27:09 ID:U2MyOVIG0
「…あの有名な『NO.9』を名乗る若者です。
どうしてもゆうさんに会って渡したい物があると言ってるんすよ」
「NO.9?ポップンで狩りプレーヤーを狩ってる、あの?」
「そうっすよ。いま、エントランス前で待たせていますが…」
分かった、会いに行く。そう残して松木は駆け足で外へと向かった。
季節柄、ピース店外エントランス前は気温が低かった。
畜生、上着を持ってくればよかったな、とエントランス前で立っている
黒のロングコートを着込んだ来客…NO.9を見ながら松木は思った。
しかし、このままでも別に風邪は引かないだろうと松木は判断し、NO.9を名乗る少年に声をかける。
「今日は。えーっと…NO.9さん?」
「そうだ。松木ゆう、だな?」
「(態度でけぇ…)そうですけど」
「俺はアンタの言うように、NO.9ってもんだ。
よろしくな、ゆう」
NO.9はそう言うと、松木に右手を差し出した。
松木も右手を差し出し、握手をする。
NO.9は握った右手をグッと握り、笑みを浮かべた。
「光栄だよ、まさかあの松木ゆうと握手が出来るなんて」
「僕も光栄ですね。ダークヒーロー気取りのランカー級狩りプレーヤーと握手できるなんて」
「ランカー級、というのは大げさだな。 まぁ、アンタも知っているだろう、
あの『町田彩』の記録を一度抜いた事はあるが…自分をランカーだと思った事はないね」
「そんなら上出来ですよ。一度でも町田さんを負かすなんて」
「ほう、まさかアンタからお褒めの言葉を頂けるとは。
てっきり『狩りプレーヤー風情が、許せねぇ』とでも言うのかと思ったよ」
「今のところ、僕には君を止める意味がないと思うんだ。
狩りしてるとはいえ、有意義な狩りをしていると思う。
DDSC(Distorted superiority complex)は、今までの君からは感じられないと思うから」
「歪んだ優越感、って言いたいようだな。
大丈夫だ。そんなクソみたいな優越感を得るために狩りをしているってわけじゃないから」
二人は握る手を緩め、握手を止めた。
それからフフッとどこか自嘲気味にNO.9は微笑し、それから独り言を言うように言った。
「ちょっとした復讐のため、だな。そのために俺はハンターをハンティングしている」
42 :
旅人:2008/12/18(木) 01:29:53 ID:U2MyOVIG0
いかがでしたでしょうか?これにて、みんパテ第五章「邂逅」の投下は一旦ストップです。
「次回、NO.9のハンティングをする理由が明らかに!」
というのがキャッチコピーでしょうか。松木とNO.9という二大主人公
(ごめんなさい。僕の中ではそういう位置づけなんです)
の出会いを描いてみてぇという願望が、この章の骨組みでした。脆く儚い骨組みだと思います。
現在、最終章を書いている途中です。
この章のテーマは、今の自分には重すぎて扱えないものだと感じています。
このテーマを間違って扱い、そしてダメな作品に仕上げているかもしれません。
そうであったなら、投下後に容赦なく批判を受けてもいいと覚悟をしています。
とはいえ、まだ先の話なんですけどね。というわけでもう寝ます。おやすみなさい。
そういえば、皆さん忙しいのでしょうかね?
僕以外の作者さんの動きが止まっているようですが……大丈夫なのでしょうか?
旅人氏乙
最終章書いているという事はそうとう重い結末も考えられるんですよね
44 :
旅人:2008/12/19(金) 01:55:06 ID:7cG59img0
>>43さん
そうですね、結末の方はノーコメントとさせて頂きますが、
最終章は「闇」をテーマにして書かせて頂いています。
あらゆるものが持ち得る「闇」という要素。
それについて最終章のパーソナリティーが近づいていく、という感じになっています。
今晩は、旅人です。
今日は僕の誕生日、という事で「誕生日記念」ということで投下したいと思います。
作中に「12/19は松木ゆうの誕生日」と書きましたが、それが理由なんです。
それでは本編スタートです。どうぞ。
45 :
旅人:2008/12/19(金) 01:58:02 ID:7cG59img0
「復讐?」
「そうだ。俺は…いや、ここで話すのもなんだ、アレだろ?
今から上着を取ってきて、二人きりになれる場所を教えてほしい。ダメか?」
いいですよ、と松木は返し、それからピース店内へと引き返した。
NO.9はその後ろ姿を見て、複雑な表情を浮かべていた。
松木は白のロングコート、白のマフラーを身につけてNO.9の前に現れた。
白を基調にコーディネートされた松木の服装を見て、NO.9が評価をつけ始める。
「中々、良い服を着るんだな。金持ちは違うってとこか」
「いいえ。そういうのじゃありませんよ。
所で…良い場所があります。ピースまで来るのに坂道を登ったでしょう?」
「あぁ。タクシーで来たんだがな」
「二人で坂道を上に歩いて行きましょう。
歩いて行くと、あまり人気のない公園があります。
そこでなら話したくもない事も話せるでしょうし、渡したい物も渡せるでしょう?」
悪いな、気ぃ使わせてもらって。そう言ってNO.9は坂道を歩き始めた。
風になびく黒コートを見送りつつ、松木はNO.9の後を追うようにして坂道を歩いて行った。
そこまで語り終えた松木は、一旦テーブルに置かれてある飲み物を一口飲む。
その様子を見ながら、坂野が松木に言う。
「ゆう、NO.9の言った『復讐』って、どういう意味なんだよ?」
「……正直、話は現実離れしすぎていますよ。
まぁあんな事がないとゲームがらみで復讐、なんて考えないでしょう?」
「だが、復讐なんて………彼、ポップンしかやらないんだっけ?」
「えぇ。他のもやってみたらいいのにと思うんですけどね。
そんな事じゃなくて、彼は…NO.9は物凄い恨みを持っている。
狩りプレーヤー、多人数プレーっていうか和尚、代行スキル上げ…」
「不正に怒りを感じてるって言うんなら、ゆうとは通づる所もあるんじゃないの?」
「そうですね。僕と彼は似ている、と思うところもあります」
さて、そろそろ話の続きと行きましょうかと松木が言い、
もう一口だけ飲み物に口をつけてから話の続きをし始めた。
46 :
旅人:2008/12/19(金) 02:01:20 ID:7cG59img0
名がない公園。そこに二人の少年がいた。
一人は全国のゲーセンの治安の改善を使命と考える善良そのものな少年。
もう一人は全国にはこびる、絶対数は少ないが確実に存在する
癌細胞のような狩りプレーヤーを狩っていく事を復讐を理由に遂行していく少年。
前者が白のロングコートと白いマフラー、後者が黒のロングコートを着ているのは、
そんな事情をどことなく影響を受けているようにも見える。
二人は赤いブランコの前に置かれたベンチに座り、空を仰いだ。
寒空。一片の雲のない青空。ふと、白いコートを着た少年の脳裏にある曲の歌詞が浮かぶ。
「In the blue, I'm thinking of blue Oh, I was a fool to let you walk away …」
Colorsか?と黒いコートの少年、NO.9が白いコートの少年、松木ゆうに問いかける。
「えぇ。何となく口ずさんでみました」
「歌、上手いんだな」
「ありがとうございます」
「…あの曲のあの歌詞、アンタはどう受け止める?」
「……よく分からないけど、悲しい歌だと思います」
「俺の見解をいって良いか?」
「えぇ、どうぞ」
「……一人の人がいるんだ。
とっても悲しみにくれた、そんな人だ。まぁ主人公としよう。
その人には『ある人』っていう大切な人がいた。
だが、そのある人が死ぬか何かして主人公の前から去ってしまうんだ。
主人公は『自分がどうにかしていれば、あの人が私の前から
消える事はなかったかもしれない。私はなんて馬鹿だったのだろうか』と思う」
「…ある人との思い出を色をなぞらえて思い出していく。
ムービーを見れば分かるが、赤、オレンジ、緑、黄色って順にな。
そして主人公は思う。『私はあなたがいなければ独りぼっちだ。
青い世界とあなたがいなければ独りぼっちだ』とね。
そして、ある人が主人公の前から消えるとこに行きついて、
主人公は青い世界の中で独り、孤独に生きていく………そんなところだと思う」
9ちゃん、文学少年なのねぇ。そう町田が言った。
人それぞれに解釈の違いはあるんだなぁ、と小暮が引き継ぐ。
松木は、今日の出来事を思い返してか、少しばかり目に涙を浮かべていた。
47 :
旅人:2008/12/19(金) 02:04:15 ID:7cG59img0
「……そういう解釈、僕はちょっと嫌いですね。
悲しい歌なんだからそうなるのも仕方ないんですけど。
………孤独って、味わった人にしか分かりませんよ、ホントの話」
「アンタも、自分は独りだって感じた事があるのか?」
「えぇ。それはいずれ自分のブログにでも書こうかと思います」
「それはどうかと思うな。
いっそ自分の自伝でも書いて出版してみればどうだ?」
「ハハ、まだ二十歳にもなってないんですよ?
おっさんって呼ばれる年になったら考えてみます」
「そうか……ところで、さっきの続きなんだが」
「はい」
「俺なりのColorsの解釈をさっき喋った。
これは、俺が復讐心を持つきっかけになったのを暗示しているように自分で思えてくる」
「復讐、ですものね。何か大事なものを失った。
その位しか理由になるものはないでしょう。
ライバルを殺そうとしたって、そんなのは意味がないですから」
「だな。それには同意できる。
そんな事は全く意味がない。意味がない…………」
そう言ってから、NO.9はふぅ、とため息をついてから続けた。
「話が飛ぶかもしれないが……俺には姉貴がいたんだ」
「いた?」
「死んだんだ。一年前に」
「すみません…」
「別に謝る事じゃない。気にするな。
……姉貴を殺したあいつが憎い。それだけだ」
「殺されたんですか?」
「あぁ。姉貴の友人だった女だ。
姉貴も音ゲーマーだった。その友人もだ。
二人はIIDXを通して友人になった。ライバル登録をして、
お互いにスコアを競ったりもしていたそうだ。まぁ、フツーの音ゲー友達ってとこだ。
ゲーセン行って帰ってきて、思い出話を語る姉貴の幸せそうな顔が忘れられない。
……だがある日、姉貴は見てしまったんだ。パンドラの箱を見てしまった。」
「何をですか?」
「その友人が、彼女の友人と共にDP和尚をやっている所をだ。
姉貴はDPもやっていてな。あの日の数日前にこう言っていたのを今でも覚えている。
『あの子、急にDPのスコアが上がっていくのよ。変だと思わない?』って言うんだ。
冗談みたいな話だが、姉貴は和尚なんて行為を全く知らなかったんだ。根が善良だったんだ。
『DP覚醒!とかそんなんじゃね?』って返しておいたんだ、その時。
……和尚をやっているんじゃねぇかとは思っていたんだが………」
48 :
旅人:2008/12/19(金) 02:07:22 ID:7cG59img0
そこで松木は、二つの異変に気がついた。
一つは地面が暗くなったこと。どこからか雲が湧いて出てきたかのように現れ、
そしてさらさらと雪が降りだしてきたのだ。
いきなり過ぎやしないか?と松木は誰に言うでもなく呟き、もう一つの異変に気づく。
NO.9の両手が、微量ながらも血が出るほどに強烈に握りしめられていたのだ。
そんな痛みは微塵も気に入らないのか、怒りを押し殺しながらNO.9が続ける。
「姉貴は友人の和尚プレーが終わった後、友人をひっぱたいたそうだ。
アンタなんかもう友達じゃない。アンタは軽蔑に値する。そう残して出て行ったそうだ。
3日位経って、姉貴は通学するのに乗る電車に撥ねられて死んだ。
駅のプラットフォームは人込みって言葉で表せない程混んでいたから、
誰かが人ごみに紛れて姉貴を突き飛ばして電車に撥ね飛ばさせるなんて簡単に出来る。
俺はその知らせを聞いて直感した。姉貴が死んだのは姉貴の友人が絡んでいると」
「で、実際そうだった、と」
「友人はあっさり白状したよ。私が殺したんだ、って。
姉貴を殺った理由がな、コレ、今でも笑えるわ。
例えるなら、マラソンで目の前にいる選手がどうしても抜けません。
それなら私は拳銃でその選手を撃ちます。脚ではなく、頭を。って感じだ。
つまるところ、アイツは姉貴が自分より上手いからって、そんな理由で殺したって事だ」
松木はこの話が嘘のように感じていた。
IIDXのライバル機能。REDの頃から搭載されたシステム。盛り下がってきた人気を上げた立役者。
それが、人を殺す動機を作った?そんな馬鹿な。あり得ない。あり得ないだろうよ、こんな話は?
「気がついたら俺は、姉貴の友人が血だまりの中でぶっ倒れているのを見た。
俺に右手には、たぶん家から持ちだしたんだろうな、ナイフが握られていた。
なんでそんな物を持っていたか分からねぇが、無意識の内に殺意が宿っていたんだろうと思う。
その瞬間から…俺は犯罪者ってわけだ。そして、ある決意を固めたんだよ。
『人間的に腐っている奴を叩きのめしていく。どんな手段を用いても、叩きのめす』ってな」
「一人殺せば何人も同じって思っていないでしょうね?」
「思っちゃいない。どんな手段っても、殺しはいれていないんだ、その手段から。
だから、間接的に叩きのめす事にした。それが『ハンティング』を始めるきっかけって訳だ」
「…孤独になった主人公は悲しみにくれて……ですね?」
「そういうこった。まぁ、これが言いたくてアンタに会いに来たわけじゃねぇんだが」
本命はこっちさ。そう言ってNO.9がコートのポケットからお守りを出す。
「これだ」
「お守り…ですか?」
「あぁ。俺が持っていても仕方がないんでな。人殺しが持っていてもご利益はなさそうだし。
で…アンタはどうする。俺を通報するか?それともしないのか?」
49 :
旅人:2008/12/19(金) 02:10:25 ID:7cG59img0
松木はその問いに答えるのに少々時間を要した。
常識で考えるなら今ここで実力行使、NO.9をのめして警察を通報するのが一番だ。
だが、松木はそれをしたくなかった。いけない事とは分かっているが、
自分にこんな話をしたのは他でもない、何故自分が狩りをするのか、
DDSCの為に狩りをしていないんだ、という証明をしてもらうためなのではないだろうか?
「僕は、通報しません」
「何故だ」
「あなたを捕まえてもらっちゃ、僕が退屈します。
それに、このお守りを頂きましたし。ね?」
ね?じゃあねぇだろ…とNO.9が呟く。適当な言い訳だが、
あの時の松木にはこんな言い訳しか思いつかなかったのだ。
ふぅ、と松木が息を吐く。白くが白く上り、空を舞ってゆく。
「じゃ、俺は帰る。
これで多分、お互い合う事もないだろう」
「そうですね。じゃあもう一度握手しましょう」
松木が言って、NO.9が笑って、二人は名がない公園で別れの握手を交わした………
そうだ、松木がそう言ってから坂道を下ってゆくNO.9の背中に問いを投げかける。
「お姉さんの友人の和尚の相手、その人はどうしたんですか?」
あぁ、そいつかとNO.9は振り向かずに松木に言い、そして問いに答えた。
「潰した」
「え?」
「何、ハンマーで顔面を、とかいう話じゃねぇよ。
兎に角俺は、その殺しでもう人は殺さないって決めた。
……奴はポップンの熱帯の狩りプレーヤーだった。
だから、俺は熱帯で潰したんだ。そいつを。姉貴を殺した仲間を」
「ナンバーn」
「俺は、奴の同族を全部狩るまで、狩りはやめない。それだけは覚えておいてくれ」
50 :
旅人:2008/12/19(金) 02:14:01 ID:7cG59img0
「あまり良い話じゃないですよね」
いきなり批判の言葉を松木に浴びせたのは加瀬だった。
そうだね、と松木が返す。彼の視界の端に入っている古時計は10:36を示している。
チラっと古時計が指し示す時刻を見、松木は加瀬にこう言う。
「最後は、君の話になりそうです。
どんな話でもいいです。良くない話でも何でもいい。何か話して下さい」
そう言う松木に加瀬が見せたその表情は、とてもネガティブなもので満ちていた。
51 :
旅人:2008/12/19(金) 02:18:16 ID:7cG59img0
いかがでしたでしょうか?これにて第五章「邂逅」は終了です。
NO.9の言う「復讐」の理由、今思い返してみると現実味がないですね。
和尚を注意されて人を殺すとかね。現実だったらあり得ない話ですから。
まぁでも「真実は小説よりも奇なり」という言葉(これでいいのかな?)があるように、
こんな動機でもいいんじゃないかと思います。
さて、最終章のパーソナリティーはもう確定してしまいました。
期待のルーキー、加瀬優ですね。(期待の云々も、僕の中での位置づけです)
彼女がどんな話をして最終章を〆るか。ご期待下さい。
(どうでもいい話ですが、昨日ではなく今日、CSDJT特別版を送ってもらうように注文しました。
何でだよってそりゃ、誕生日プレゼントですよ。For me. By Iって感じですね。
そう言えば、12/19ってACDJTの稼働日でしたっけ。何やら運命を感じてきた僕は、
頭の螺子が数本、あさっての方向へ飛んで行ってしまったのかもしれません)
>>45-51 乙
友達が悪いことしたからあの人を殺しましたってのがありえなくもないからね
スクイズ(school days)とか
最近仕事で忙しい上に風邪気味のとまとです。
しかし、今日こそは書くぞ……。
こんばんは。
日をまたいでしまいましたが、予告通り続きを投稿できそうです。
週刊連載のつもりなのに休みが多くてすみません。
こうなると旅人氏のような若い(かどうかは知らないけどw)パワーが凄いと心から思いますね。
俺が休んでる間にどんどん話を進めるんだもん、素晴らしい勢いです。
最終章も楽しみにしてますね。
M氏も長いこと来られてないみたいですが、続き待ってます。
実は糞野郎の主人公に一部共感してしまう自分を否めません(笑)
彼がこの後どんな風に自我と向き合っていくのか知りたいです。
それでは、トップランカー殺人事件を再開します。
少しこってりな内容ですが、よろしくお願いします。
乙下は空気の提案により、盛岡警察署捜査一課のオフィスへ戻って来た。
空気曰く、AKIRA YAMAOKAコースの件でどうしても調べたいことがあるらしい。
どのみち乙下が考えても埒の明かないことだ。
「餅は餅屋」のことわざに従い、乙下は快諾した。
空気は早速自デスクのノートPCに向かい、どこかへメールを書き始めている。
IIDXの運指を彷彿とさせる軽やかなタイピングに精を出す空気。
その隣で、乙下はデスクワークに取りかかることにした。
昨日から事件の捜査に掛かりきりだったため、雑務の処理が遅れている。
空気が調べものをしている間にこれらを片付けてしまい、
すっきりとした心持ちでまた捜査に専念したかった。
とは言ったものの、今すべき雑務はおしなべてルーチンワークの類であり、
乙下の思考回路は暇を持て余していた。
暇は退屈へ、退屈は眠気へと形を変え、時間をかけて少しずつ乙下の意識を浸食する。
乙下は何度も目薬を差して睡魔に抵抗するが、
やがて心地良いまどろみの中へ落ちて行くのを止められない。
乙下は夢を見た。
BOLCEと1046が向かい合って座っている。
体は向かい合っているが、
二人とも下を向いており、顔を見合わせていない。
1046はたがが外れたように泣きじゃくっていた。
顔をくしゃくしゃにして、動物のような声を上げて。
その嗚咽の合間に、日本語らしき言葉が挟まれる。
「本当は殺したくなんてなかったんだよ。
分かってくれ、本当なんだ」
理性を失っている1046とは対照的に、BOLCEは表情なくただ俯いている。
「分かってるよ。僕は君のことを恨んじゃいない。
全部僕のせいだったんだ」
「そうだよ、全部お前のせいじゃねーか!
俺は悪くない、俺は悪くない、俺は悪くないんだ」
BOLCEは眉一つ動かさず、悟ったように話す。
「そうだ。1046は悪くない。
悪いのは僕だ。
僕は殺されたって文句を言えない」
その言葉を聞いた1046は、我に返ったように顔を上げた。
そしてどうにか嗚咽を喉の奥に押さえ込み、
ひくひくと小刻みに震える呼吸に遮られつつも、言った。
「BOLCE、ごめんよ……」
オトゲ先輩、と呼ばれて乙下は現実に引き戻された。
見ると、隣のデスクで作業をしていた空気が
椅子に座ったまま乙下へ声を掛けたようだった。
「どうしたんすか、難しそうな顔して」
空気は乙下が居眠りしていたことに気付いていない様子だった。
だらしなく頭や体を揺らさずに済んだのが幸いしたのか、
目を閉じて何か考え事をしていると勘違いされたのだろう。
乙下は慌てずに時計と自分の感覚を確認し、
うたた寝していたのがほんの一分程度の時間だと知った。
まだぼうっとピンボケ状態の視界に、
その一分で見た奇妙な夢の映像が残滓のようにこびり付いていた。
「1046がBOLCEを殺したのは、やむを得ない理由からだった」。
そんな仮説を立てた乙下の無意識下で、
どうやら想像上の1046とBOLCEが勝手に一人歩きを始めたらしい。
乙下はおかしな幻覚を拭い去るようなつもりで、
大きく伸びをしながら目をこすった。
急速に視界がクリアになる。
そうしてからあらためて空気を見ると、
彼はいつもの得意気な微笑を浮かべている。
「何か進展があったみたいだな」
「はい、1046の意図が分かったんすよ。
彼の言う通り、AKIRA YAMAOKAコースが
1046のアリバイをより確かなものにしていたんです」
言いながら空気はノートPCの画面に目を移した。
「まずはこれを見て下さい」
乙下が画面を覗くと、ちょうどブラウザが起動されるところだった。
空気はブックマークの中から「DJ TROOPERS公式スペシャルサイト」を選ぶと、
見慣れたロゴや深緑色のイメージカラーと共に、バンダナ男の鋭い視線が現れた。
どうして仕事で使うノートPCのブックマークにこんなサイトが
登録されているのか不思議でならないが、乙下は敢えて何も言わない。
空気はサイトのメニューから「INTERNET RANKING」を選び、
さらにいくつかあるコースの中から
「MILITARY SPLASH」「SINGLE PLAY ANOTHER」と書かれたバナーをクリックした。
ランカー達の名前が次々と表示されていく。
左から順位、DJ NAME、県名、スコア、店舗名、日時と情報が並び、
人によってはコメントも入力されている。
この「MILITARY SPLASHコース」においては
DJ BOLCEがトップへ座しており、その下にDJ 1046の名前が位置していた。
二人の名前がランキングの頂上に並ぶこの風景は、
IIDX界においてはさながら
朝に東から上った太陽が夕方に西へ沈むことのような、
自然で疑いようのない構図なのかも知れない。
「で、これがどうかしたの?」
「EXPERTコースとか段位認定とかWEEKLY RANKINGの課題曲とか、
そういうのをプレイするとスコア・店舗名・日時なんかのデータが
まとめて保存されるんすよ。
例えばIR開催期間中にEXPERTの表コースをプレイすると、
こんな風に公式サイトのランキングへ掲載されます。
IRが終わった後でもプレイデータの保存はきちんとされてるんで、
表コースの自己べストスコアは
携帯サイトの『DJ data』から閲覧することができるわけっすね」
空気はそこまで説明すると、一つ呼吸を置いてから、ゆっくりと尋ねた。
「ではここでクイズっす。
今言ったように表コースのスコアは必ずサーバーへ保存されますが、
裏コースのスコアは保存されるのでしょうか?
それともどこかに消えてしまうのでしょうか?」
幼稚園のお遊戯じゃあるまいし、と乙下は馬鹿馬鹿しくも感じたが、
空気に試されているような気がしてしまい、
とりあえずは「クイズ」に乗ってみることにする。
乙下は午前中のABCでの出来事を思い返す。
空気がAKIRA YAMAOKAコースをプレイした後、
IIDXのモニタは「今回のスコアを登録しますか?」と問いかけてきた。
そして空気が「はい」を選択すると、順位と登録者数が表示された記憶がある。
と言うことは。
「答えは『保存される』。
みんなのデータが保存されてなきゃ、
順位や登録者数の表示なんてできるわけない」
空気は満足そうに含み笑いをした。
「さすがはオトゲ先輩、正解っす。
ボクもそう思って、昨日と同じようにコナミへ問い合わせてみたんですよ。
するとです、やはりEXPERTコースのプレイデータは
最終的に『はい』さえ選べば、裏表関係なく保存されていることが分かりました」
そう告げるや否や、空気はA4用紙一枚の印刷物を乙下へ差し出した。
昨日空気が作成した報告書と似た体裁で、文書の最初に
「beatmaniaIIDX15 DJTROOPERS EXPERT MODE DATABASE
ID = 4649-5963; DATE = 08/07/16 の検索結果」と書かれており、
続いてアルファベットと数字と記号の細かな組み合わせが羅列されていた。
COURSE = "AKIRA YAMAOKA", DIFFICULTY = HYPER, TIME = 10:39, SCORE = 7269;
COURSE = "AKIRA YAMAOKA", DIFFICULTY = HYPER, TIME = 10:52, SCORE = 7275;
COURSE = "AKIRA YAMAOKA", DIFFICULTY = HYPER, TIME = 11:03, SCORE = 7278;
COURSE = "AKIRA YAMAOKA", DIFFICULTY = HYPER, TIME = 11:16, SCORE = 7272;
COURSE = "AKIRA YAMAOKA", DIFFICULTY = HYPER, TIME = 11:29, SCORE = 7278;
COURSE = "AKIRA YAMAOKA", DIFFICULTY = HYPER, TIME = 11:42, SCORE = 7277;
COURSE = "AKIRA YAMAOKA", DIFFICULTY = HYPER, TIME = 11:55, SCORE = 7280;
「なるほど、これがその保存されていた
一昨日の1046によるAKIRA YAMAOKAコースのプレイデータってわけだな」
色眼鏡を掛けずにこのデータを読み取ると、
1046は一昨日の午前中の間ずっとAKIRA YAMAOKAコースの
HYPER譜面でスコアアタックをしていた、ということになるのだろう。
彼の証言と一致している。
乙下はこの履歴に不自然な点はないか念入りにチェックしようと試みたが、
すぐ観念して空気に助けを求めた。
「あのさ、ちょっとよく分かんないんだけど。
どうしてこの履歴が1046のアリバイと繋がるわけ?」
「すんません、このままじゃちょっと分かりにくかったっすね」
空気は乙下の手から紙を奪い取ってデスクに置いたかと思うと、
「簡単な話っすよ。『スコアが高過ぎる』ってことっす」
とだけ言ってから、赤いボールペンで次々と新しい情報を書き加えていった。
AKIRA YAMAOKAコース(HYPER)
@昭和企業戦士荒山課長 → 752個
Aライオン好き → 600個
Bシステムロマンス → 901個
Cマチ子の唄 → 662個
Dヨシダさん → 728個
総ノート数 → 3643個
EXスコア理論値 → 3643×2 = 7286点
TIME = 10:39, SCORE = 7269;(MAX-17)
TIME = 10:52, SCORE = 7275;(MAX-11)
TIME = 11:03, SCORE = 7278;(MAX-8)
TIME = 11:16, SCORE = 7272;(MAX-14)
TIME = 11:29, SCORE = 7278;(MAX-8)
TIME = 11:42, SCORE = 7277;(MAX-9)
TIME = 11:55, SCORE = 7280;(MAX-6)
空気は一度も手を止めずにここまで書ききった。
「お前、こういう計算と記憶力は大したもんだよな」
「こんなのただの引き算じゃないっすか。
それより見て下さい、これどう思います?」
どうもこうもない。
理論値マイナス一桁など、文字通り桁違いの高得点ではないか。
しかし乙下は自分のレベルと差があり過ぎるため、
これらのスコアにどういった評価を下せば良いのか判断がつかず、
ただ口をつぐむことしかできない。
そんな乙下の横で、
空気は最初から回答を待つ気などなかったかのように解説を加えた。
「この日1046は朝からずっとAKIRA YAMAOKAコースのHYPER譜面をプレイしてました。
最初のプレイからいきなり理論値17点落ち。
そこからもどんどん記録を伸ばし続けて、
最終的には理論値6点落ちまで詰めちゃいました」
「ごめん、一応聞くんだけど、これって凄くスゴいことなんだよな?」
「凄くスゴいなんてもんじゃないっす。
ノート数が3684個あって、黄グレが6個しか出てないんすよ。
こんな人知を越えたスコアを出せるプレイヤーなんて、1046以外にいますか」
「待て、あれならどうだ?
『和尚』って言うんだっけ、
そこそこ上手い人が数人がかりで協力してプレイすれば
1046並のスコア出せちゃったりしないの?」
「ないない」
乙下はほとんど思いつきで喋ったが、
検討の余地すら与えられず一笑に付されてしまった。
素人発言だったらしい。
「もしこれが高難度曲のフルコンボとかDPとかだったら
多人数による不正スコアって可能性もあるんすけどねぇ。
山岡コースのHYPERは☆6〜9の簡易譜面でして、
この程度の難易度のスコア勝負となると
人数が多いことは大して有利に働かないんす。
ましてや簡易譜面が得意な1046とためを張るスコアを出すなんて、
例えそこらの皆伝が100人がかりで挑んでもまず無理っすね」
鍵盤と皿の担当を除いた残りの92人はどんな役割なんだ、と
突っ込みたいのをぐっと堪え、乙下は考えをまとめた。
「ってことはつまりだ。
『1046は一昨日の午前中の間、ずっとABCでデラをプレイしていた』。
これはもう絶対に動かしようのない決定事項ってことになるんだな」
「悔しいけどそうなってしまうっすね」
「でも逆に言えば、コースのプレイ記録が
残っていたのは11:55までなんだろ?
これ以降に関しては、1046本人がプレイしていたとは限らないよな」
「まぁ、それはそうなんすよねー」
乙下は少し拍子抜けをした。
確かに、1046が11:55までABCに居続けたことは認めざるを得ない。
しかしそれ以降はスコアの記録がないのだから、
別の人間が1046とすり替わっていた可能性は捨てられないではないか。
つまり、共犯者がいた可能性は必ずしもゼロではないのだ。
1046が「共犯者がいないことを100%証明できる」などと
大それたことを言うものだから
一体どれほどの証拠が飛び出して来るのかと
乙下は身構えていたのだが、どうということはなかった。
100%どころか、てんで証明できていない。
その事実に突き当たったとき、乙下は違和感を感じずにいられなかった。
「……何かおかしいな」
乙下は胸の前で腕を組み、眠りから覚めた脳細胞を総動員して考える。
なぜ1046は「共犯者がいないことを100%証明できる」などという
はったりを口にしたのか。
それが乙下には分からなかった。
例えばだが、もし12:09〜12:20のプレイ記録にも
普通のプレイヤーには逆立ちしても出すことができないような
高スコアの記録が残っていたとしたら、また話は別だ。
何せ、その場合1046は12:20までABCにいなければならないのだ。
それからシルバーに移動してBOLCEを殺害し、
12:35までにまたABCへ舞い戻って監視カメラに映り込む必要がある。
芸能人ばりの過密スケジュールだ。
これだと1046一人にかかる負担が大き過ぎるため、
仮に共犯者の協力があったとしても現実的に犯行は難しくなる。
「共犯者がいたとしても、1046による犯行はほぼ不可能」ということは、言い換えれば
「共犯者など存在していないし、そもそも1046は犯人ではない」という結論を意味する。
つまり1046の言う通り、AKIRA YAMAOKAコースが1046の新たなアリバイを証明し、
同時に共犯者の不在も証明することになる。
そうなれば、さすがに乙下も1046への疑いを晴らしていたかも知れない。
だが、実際にはそうならなかった。
AKIRA YAMAOKAコースによる1046のアリバイは11:55までだった。
11:55〜12:20は共犯者が身代わりとなってIIDXをプレイし、
その間1046は悠々とシルバーへ移動しつつ犯行の準備をする。
そんな可能性がしっかりと残されてしまっているのだ。
にも関わらず、1046はどんなつもりで
「共犯者がいないことを100%証明できる」と言い切ったのか。
それとも、乙下や空気には考えつかなかった別の意味合いが
このプレイデータには含まれているのだろうか。
乙下にはそれが分からなかった。
「分かったぁぁぁ!」
空気が吠えた。
一目見て彼の様子が尋常ではないと分かった。
口をポカンと開け、一方でそれに負けないくらい目を大きく見開いている。
かと思えば、両手で髪の毛を掻き毟りながら
法律で禁じられている薬の中毒者のような恍惚の表情へシフトさせた。
「分かりました、分かりましたよオトゲ先輩!
ボク分かっちゃいましたフヒヒヒ」
「落ち着けバカ」
乙下は空気の手首を掴み上げ、人体の構造上正しくない方向へ捻った。
空気は一転して悶絶し、じたばたと全身で白旗を上げているので、解放してやる。
手加減したとは言え空気を黙らせるには十分な効果を発揮したかと思いきや、
空気はまるでバネのように元の顔つきへ戻っていた。
「分かったんすよ、オトゲ先輩。
共犯者の正体が今はっきりと分かりました!」
興奮冷めやらぬ空気は、舌を噛みそうなほどの勢いで捲し立てている。
仕方がない。
乙下は諦めて、未曾有のテンションに取り憑かれた空気に付き合うことにする。
「えーと、空気君。
本当に共犯者の正体が分かったの?」
「分かりました!」
空気はAKIRA YAMAOKAコースのスコアデータを眺めながら、揚々とした口調で話す。
「よく考えたら、このスコアを出すことができるのは
1046だけじゃないんすよ」
「1046以外に?こんなスコアを出せる人間がいるのか?」
「います。
1046どころか、BOLCEでさえ太刀打ちできなかった、
紛れもなく世界最強のランカーがいるんです。
ボクは今の今まですっかり忘れてました……あの伝説のランカーの存在を。
共犯者はヤツしか考えられません」
乙下は固唾を呑んだ。
「そ、そんなに上手いのか、そいつは」
「ええ。BOLCEや1046が表の世界のトップなら、
ヤツはまさに裏世界のトップと言えますね」
「誰だ?そいつは誰なんだ、勿体ぶらずに教えろ」
空気は共犯者と思しき人物であるにも関わらず、
どこか誇らしげにその名を告げた。
「彼の名前は『DJ AUTO』」
to be continued! ⇒
今週はここまでです。
しばらく休んだ分、今週は密度が濃くなりました。
読むのも大変だったと思います。読んでくれた皆さんありがとうお疲れ様。
来週は一つの節目になる展開を考えています。
この作品を手がけた当初からずっと書くのを楽しみにしていたシーンですので、
必ず休まずにお届けしたいと思ってます。
それでは。
恒例のage
とまと氏お疲れさまです。
更新ずっと待ってました。
次楽しみにしています
66 :
旅人:2008/12/27(土) 00:29:10 ID:95dED3JC0
>>とまと氏
亀ながらだけど乙!楽しく読ませて頂きました!
まさかAUTOさんが登場しようとは思わなんだ。来週を楽しみに待ってます!
今晩は、CSDJTを満喫している旅人です。CSDDでいけたんだ、楽勝に今作のSP十段いけるだろと思って挑戦したら、
「三曲目と四曲目が黒穴メンメル、黒穴ウーバーって何事だー!」と叫びながらガシャーンしました。
いよいよ、みんパテ最終章が始まります。
この章の話の基になるテーマを扱う資格がない、という旨の事を書きこんだと思うのですが、
僕自身の年齢が結構若く(関係ないけど、dormirのくりむさんより年下だと断言できます)、
人生経験がこのスレ内の誰よりも乏しいと思うのです。つまり、僕は青二才って事です。
今回のテーマを題材にしてこんな話を書きたいな、と思う事はしばしばあったのですが、
どうにか自分の理性でその創作本能(?)を押さえつけていました。
ですが、理性のブレーキはオンボロになったようで、保証期間も過ぎていて修理にだせず、
かくして「闇」をテーマにした、凄く暗く陰惨として憂鬱な物語が出来ました。
それほどの表現をするほどこの話が上手く作れた、という気持ちはあまりません。誇大広告です。
でも、音ゲーを愛する若造がこんな事を思っているんだ、という事を感じて頂ければ。
そんな僕の気持ちを最終章で感じ取ってくれれば、これ以上の喜びは無いと思います。
グダグダとした前書きで申し訳ありませんが、これから本編が始まります。
67 :
旅人:2008/12/27(土) 00:32:38 ID:95dED3JC0
これまでのあらすじ
12/19の夜、松木ゆうの豪邸に四人の男女が集まった。
彼らは松木の誕生日パーティーに招待されていて、四人と松木はパーティをする。
松木が招待した人とは、ネット上で有名な私立探偵「小暮正俊」と、
全ての音ゲーにおいて超人的能力を発揮する「町田彩」、また、松木と交流のある「坂野ゆう」だった。
松木にある種の憧れを抱く「加瀬優」は、招待状こそ持ってはいなかったが
松木が承諾したので、彼女もパーティーに参加するのであった。
松木と四人はいろんな話をし始める。
小暮と町田は、3日前に起きた「白壁襲撃事件」について。
坂野は昨日の話である「どうでもいいゲーセン話」を。
松木は今日の出来事の「狩りプレーヤー狩りのNO.9と話した事」を。
そして、最後を〆るのは招待状のない少女、加瀬だった。
彼女は松木に促されて、ネガティブフェイスで淡々と語り始める。
その内容は、今日の昼の事、松木の経営するゲーセン「ピース」に行くまでの事だった………
68 :
旅人:2008/12/27(土) 00:36:18 ID:95dED3JC0
08/12/3
加瀬は自宅でピースのHPを見ていた。
ピース店内の画像と文による紹介、従業員の紹介、設置しているゲームの紹介…
あらゆる面において分かりやすく、且つ「来てみようかな」と思わせるに十分なそのサイトの、
そのトップページに「緊急告知」なるものが張り出されていた。
長ったらしい文、つまりは長文を読むのは加瀬は得意ではなかったが、
要約するとこうなる、というのは分かった。
「12/19日は松木ゆうの誕生日だ。
その記念にゲーセン『ピース』の無料開放、イベントを開催する」
加瀬は、松木に対して色々と興味を持っていた。
自分は友人からの言葉で、音ゲー界にロクでもない奴が少なからずいる事を知った。
そんな奴らをどうにかしようと頑張る人として、松木は加瀬の脳内に留まっている。
そんな人と話が出来れば。話なんか出来なくても、せめてどんな人なのかは知っておきたい。
この機会を逃すともう二度とその姿を見る事はないのだろう。とは思わないが
会える機会を逃すというのも馬鹿な話だ。例えるならこんな感じだろう。
「あなたの目の前に一億円があります。あらゆる意味で全く汚れていないお金です。
あなたには、このお金をあなたが持ってって良い権利があります。どうしますか?」
私ならそれを受け取る。誰かにくれてやる必要はない。加瀬は自問自答してから、
ピースのある港町へどうやって行くかをネットを使って調べ始めた………
08/12/18
加瀬はその日の夜、夕食の席で彼女の両親を驚かせた。
いきなり、隣県の港町にあるゲーセンに行きたいと言い出したからだ。
それも、たった一人で行かせてくれと言うのだから、両親の驚きは倍に跳ね上がっただろう。
…一人娘を簡単に一人で泊まりがけの旅に出してよいのだろうか?どう考えても危ないわ……
加瀬の母親はそう考えていた。今の世の中、もう何が起きてもおかしくない。不安すぎる。
だが、加瀬の父親はそれを、いいんじゃないの、という言葉で返した。母親がお父さん!と非難めいた声をかける。
しかし、それを無視するかのように加瀬の父親が続ける。
「優。自分がやりたいと思った事はやってみるべきだ。
後悔するようなことがあっちゃあ、ずーっとそれに苦しむかも分からないからな。
まぁ電車賃なら父さんと母さんが出す。お前のお小遣いじゃ往復分の金なんて出せないだろ?
それと、向こうでバニラソフトクリーム食いたくなったら自分で買えよ?その位なら出せるだろ?」
69 :
旅人:2008/12/27(土) 00:39:58 ID:95dED3JC0
08/12/19
赤い上着と赤いマフラーを巻いた加瀬は、
自分が住む町にある駅のプラットフォームに立っていた。
―白線の内側。危険ですので白線より前に立たないようお願いします。
電車が到着したのは9:18だった。ダイヤに若干の遅れが見られるが、
あの港町には12:30に着く。13:00五分前にピース前に行けるように間に合えば良いのだ。
加瀬は全三車両あるうちの第二車両に乗り、それから指定されている席に座った。
電車の進行方向から見て右側の窓際。それが加瀬の席だった。
見慣れない景色が高速で流れ去ってゆくのを見ながら、加瀬は期待に胸を膨らませていた。
松木ゆう。19歳の少年。いや、青年と言うべきなのだろうか?
言葉の境界線はあいまいだ。…自分に調べる気がないだけか。
兎に角、彼がどんな人物なのか、いや、彼がどんな表情を見せるのか。それが気になる。
あのパーティー、途中で松木と色んなゲームで対戦するというコーナーが終盤で設けられていたはずだ。
松木も音ゲーをやるし、その腕前も中々のものだというらしい。
七夕に私の決意を誓ってから約半年。私のポップンの腕は彼と同じ位の所に追い付いたと思う。
もし、もう音ゲーをやる気がないのならIIDXの専コンとソフトを送って欲しい。
そんな旨の手紙を友人に送り、そして彼女から一通の手紙と、CSHS、DD、GOLDと改造済み専コンが送られた。
あの手紙には「仇を討って!」としか書かれていなかった。
力強く。力強く、彼女の怨念が宿っているかのようだった。
ゴメン。別に仇を取るとかそんなんじゃないんだ。私はあんな奴らが大っ嫌いだから、
私は奴らより上の土俵に立って、奴らを見下したいだけなんだ。…仇討とか、そんなのじゃない。
同日 10:36。
いつの間にか眠ってしまっていた加瀬は、電車が停止したと同時に目が覚めた。
そして、見知らぬ男が加瀬の前の席に座った。服装は今どきの若者風だが、
加瀬には彼が口ずさんでいたのが特異なものだと思えた。
「テッテレレーレーレッレッレー、テッテレレーレーレッレッレー、テッテレレーレーレッレーレーレーテーレレレテレレテーレッレー……」
この感じ、このリズム、この抑揚は…次の瞬間、加瀬は思わず口を開いていた。
「sigsigですか?」
男はオッ!?と声をあげ、それからそうだけどよ、と返す。
加瀬は自分が意識しないで次から次へと口が回っていくのに戸惑っていた。
「あの、あなたは音ゲーマーなんですか?」
「だったら何だよ」
「いえ、私も音ゲーマーなので……そんだけです」
「ネェちゃんさ、ちょっと俺の話を聞いてくれないか?」
いきなり過ぎる。ねぇ乗客の皆さん、ナンパにしてはすごい勢いですよね?
加瀬はそんなふざけた事を思いながら、なんでしょうか?と返して男の言葉を待つ。
「ネェちゃんは『音 ゲ ー が 終 わ る』と思うか?」
70 :
旅人:2008/12/27(土) 00:44:12 ID:95dED3JC0
「は?」
「そのまんまの意味だ。音ゲーは終わると思うかって聞いてるんだ」
音楽ゲームの終焉。そのジャンルを名乗るゲームの終焉。
考えてもいなかった事だ、と加瀬は思った。そんな事、一度も考えた事がない。
「……分かりません」
「どうして?」
「考えた事がないからです」
それは本当なのだ。一度も、そんなネガティブな方向へと考えた事はない。
いつまでも、いつまでもこのジャンルは続いてゆく。加瀬はそう信じて疑わなかったのだ。
だが、そんな自分が幼稚だったのではないかと彼女は感じ始めた。
そうだ。何故、松木ゆうは何でも屋を始めたと述べていただろうか。
ゲーセンの治安を良くするため、とかなんとかそういう理由だったはずだ。
今のゲーセンの治安は全体で見れば悪いとは言えないとは思うのだが。
だが、数が少なかれど松木にはそんな「悪」を許す事が出来ない事情があると述べている。
その事情こそ明かされていないが、明かされていないからこそその内容に真実味が沸く。
何か計り知れない事情が彼にはある。私が七夕に誓ったその事情よりも重い事情を彼は背負っている。
それだけは確かに言える。
「そんな事を考えていなかった私は幼稚だと思います。
…確かに今、音ゲーマーのみならず頭のおかしい人がゲーセンに蔓延っている。
数こそは少ないけど、そこに居るのは確かなんです」
「じゃあ、そいつらをどうにかすると音ゲーは終わらず済む、と?」
「はい」
加瀬の返答に男が大笑いした。
それは嘲った笑いではなく、心から面白いと思っている笑いだった、と加瀬は感じた。
笑いが止み、それから男が加瀬に言う。
「じゃ、ネェちゃんはメーカー側に問題があるとは思わないって事?」
71 :
旅人:2008/12/27(土) 00:46:13 ID:95dED3JC0
いかがでしたでしょうか?これにてみんパテ最終章「音ゲー終焉論」の投下は一旦ストップです。
そう、サブタイが「音ゲー終焉論」です。
自分でこんなの考え付いておいてですが、正直言ってぞっとします。
だから、僕みたいな若造がこんな思いテーマを扱える訳がない。
扱ってどんなに自己満足のいくものを書いたとしても、読み手側に受け入れてもらえる訳がない。
でも、たとえ誰にも受け入れてもらえなくても、
僕の提唱する「音ゲー終焉論」を目に入れて貰えれば。それだけで十分なんです。
次回、僕の思う闇の部分に物語は突入します。その時まで、さよならです。
旅人氏乙
これまでに5鍵とかDDRの一時稼動中断等を経験してるけど
最近はどのシリーズも終わらせないように頑張ってるからね
新規は考えるようになると怖くなるような気にもなるよね
旅人さん乙
音ゲーの終焉か難しいな
音ゲーマーとしては続いて欲しいけどね
まとめWikiを更新しました。
ここまで投稿された分を、
>>67-70を除いて全て保管してあります。
なお、今回除外した部分は次回更新時に保管しますので。
今年最後のWiki更新となりますね。
職人の皆様、来年も更なる作品を期待しております。
そして、願わくば新規の方々が増えることを。
それでは皆様、良いお年を。
75 :
旅人:2008/12/31(水) 00:45:46 ID:VZJSu9Br0
今晩は、せっかくまとめさんがまとめて下さった後、
そして、もうすぐ新年だと言うのに投下するとか、もうかなり空気の読めてない旅人です。
もう本当に、まとめさん乙です。そして空気読めてなくてすみません。
新規の書き手さんが増えてくれたら嬉しいなって、僕も願ってます。
みんパテ最終章「音ゲー終焉論」の第二回目の投下です。
これから、僕の考える「音ゲーが抱える闇」について触れられていきます。
残念ながら、僕の文才の無さが僕の考える闇を十分に伝える邪魔をしていると思います。
簡潔に、分かりやすく、たった5レスで僕の考える闇を伝えるというのは大変失礼な事かもしれません。
ですが、その5レスで表現される闇は多分きっと皆様の考えている所とかぶる所があると思います。
作者も自分と同じ事を心配しているんだ、と捉えてくださったら嬉しいです。それでは本編をどうぞ。
76 :
旅人:2008/12/31(水) 00:50:16 ID:VZJSu9Br0
「メーカーに問題…?」
「今挙げるとするならコナミだな。
自社の名前を間違えたあたりからおかしいとは思わないか?コンマイとかコマニとか」
「人間、誰だって間違いはしますよ」
「でもよ、有り得ねぇだろ。常識的に考えてよ」
確かにそうだろう、と加瀬は思った。
自社の名前を間違えるという事は、自分の名前を間違えるような事なのだ。
ヘロー、マイネームイズ「ユー・カサー」
オゥ、ソーリー、アイミスドマイネーム。ソーリーソーリー。
アーハァー、ユゥアネームイズ「コンマイ」…?オーケー、アイガッティド。
「それに、生き残るためとはいえ路線を切り替えてしまった。
今の音ゲーは何なんだよ?吐き気のする路線でもう気が狂っちまいそうだぜ」
「……ヲタ、廃人仕様って奴ですね?」
「そう。それに腐女子も追加しておいてくれ。
数は少ないながらも、確かに存在する気違いじみたヤロー共の事だな。
そんな奴らを対象にしてしまったと言っても過言じゃない、
そんな今のコンマイ製音ゲーに価値はあると思うか?」
「ない、とは思いません」
どうしてだ、と男はまるで面接官が質問をするかのように問いかけた。
それは…と加瀬はためてから答えを返す。
「私がヲタ、廃人、腐女子、その他諸々の気違いグループじゃないって証明できませんが……
今の音ゲーだって『楽しい』と思うんです。
ポップンならボタンを叩いて演奏して『楽しい』
IIDXだってそんな事をやったり、ライバルの記録を打ち破って『楽しい』
ギタドラとDDRはやった事がないけど、それでも『楽しそう』だって思うんです」
「楽しそう、楽しい……それこそが音ゲーをやる原動力だ。
だが、ネェちゃんの意見は、半ば先にあげた気違い共と共通してしまっている部分がある」
え?と加瀬は間抜けな声を出してしまった。
自分では正論を言ったつもりなのだが、それが半分ダメだというのだ。
………何がだ、何がいけない?
77 :
旅人:2008/12/31(水) 00:53:46 ID:VZJSu9Br0
「ネェちゃんは楽しいから音ゲーをやるって言ったか」
「はい」
「それは素晴らしい意見だ、と俺は思う」
しかし、男はだがと前置きしてから続ける。
「さっきも言ったように、それだと気違い共と半分に通った答えになる」
「それはどうしてですか?」
揚げ足を取るようで悪いが、と男は断りを入れて、
それから流れ去りゆく外の景色を窓越しに見ながら言った。
「狩りが『楽しい』からそうする。
代行が『楽しい』からそうする。
自分より実力の低い人を見下すのが『楽しい』からそうする。
『あぁっ、俺の○○が出ているムービーの曲!○○萌えぇ〜』
とキャラクターのみを見て『楽しい』からそうする。
又はこうだな。
『私の××様が!××様ー!』とその××がムービーに登場するから、
その事のみが『楽しい』と感じるからそうする」
「あ………」
「な?揚げ足取っているようで悪いけど、ネェちゃんの言う事はこう言う事だ。
その『楽しい』からって理由は、理由になれない」
だが、と男は一旦そこで区切りを入れてから続けた。
「コンマイ、おっとコナミだな。失礼。
あの会社は普通の人間を対象とした路線を見捨てた。
まぁ、利益がどったらこったらってのを求める企業としては当然だよな。
金払いの良いヲタとかを狙えるだけ狙う。どんどん搾取してゆく。
そのためのフィギュアだったり、何だったり……だろ?」
78 :
旅人:2008/12/31(水) 00:57:07 ID:VZJSu9Br0
加瀬は、男にそう言われてみると
彼の言う事がどんどん当て嵌まってゆく気がしてならなかった。
それが真実というのなら、コナミは気違い共の肩を持っている、という事のなのだろうか?
「まぁそういう訳で、
音ゲー人口、その層とかは基本的に狭まってきたわけだ。
ほら、IIDXの新作、あれなんかそうじゃねぇか」
「EMPですか?」
「そうだよ。製品版のポスターはまだ許せるが、
ロケテ版のポスター、あれを見た時には正直言って引いたね。
もう本格的に終わりが来たな、と」
「でも、ポスターの絵は変わりましたよ。キャラは同じらしいですけど」
「そうだな。ポスター云々は置いておこう。
だが、だ。俺には一つ問題があるような気がする」
ポスター云々、売り出しのスタンス、対象とするターゲット層が云々という話をした後、
この男は一体何を駄目な点として挙げるのだろう?加瀬はもう、男が何を言うのか、それに興味津々だった。
「『新曲』に問題がある」
そこまで加瀬が語って、四人の聞き手はこんな表情を浮かべていた。
「あぁ、何となく分かる。正直言って『新曲』には色々と不満点がある」
加瀬は、あの時まではそんな考え方を持つことは無かったと話し、
それから、電車の中で男と語った音ゲー終焉論の続きを語り始める。
79 :
旅人:2008/12/31(水) 01:00:30 ID:VZJSu9Br0
男は「新曲に問題がある」と言ってから、しばらく外の風景を眺めていた。
加瀬は何か面白いものでもあるのかと思って男の視線の先を追ったが、
先程から代わり映えのしない、うっすらと雪が積もるだけの平野が広がっていただけだった。
「アルバムからの移植。名曲のダメremix、評価を下すに値しない新曲」
不意に、男はそれだけを言った。
加瀬は男の方に向き直り、男の言葉の続きを待った。
数十秒してから、男が言葉を纏める時間が過ぎてから、男が前置きしてから語りだした。
「単純に俺の好みの問題かもしれない。いや、単純に俺の好みの話をする。
もしかしたら、いや絶対に、ネェちゃんから反論を受けるかもとも思っている」
「いいですよ。続けて下さい」
「B4U(BEMANI FOR YOU MIX)、thunder HOUSE NATION Remix、
CaptiVate2〜覚醒〜、V2、数えたらキリは無い、いや、数えたらキリはあるが、ここで止めておこうか」
「…嫌いな曲を挙げたんですか?」
「そうだ。最初の二つはただの原曲破壊だ、と俺は思うな。
三つ目に挙げたのは、これは題を『Anisakis2』にして良かったんじゃねぇかとも思っている。
V2は嫌いではない。ゲーム用にして短くしてしまったのが如何なものかと思っているだけだけどね」
「………」
「下手な新作を出すと、新規のも既存プレーヤーも去っていく。
今回の解禁作業も、俺個人の意見を言わせてもらえば……駄目だ」
加瀬はただ、沈黙していた。
言われてみると、EMPには否定的な意見が多い。ような気がする。
Anisakis2。確かそんな言葉をどこかで見たような気がする。
覚醒はAnisakisと同じような曲調をしている事からついた名前だった、だろうか?
その沈黙を男が破る。さらなる否定を、開かれた男の口は放つ。
「2chの音ゲー板ってあるじゃん」
「はい」
「あれ、何で音ゲー板って出来たんだと思う?」
話のベクトルが変わった。だけど、終末点は同じ。
―終点「音ゲーの終焉」です。繰り返します。「音ゲーの終焉」です…
そんな気が加瀬にはした。あまりにも強大な違和感、と言えばいいのか。
加瀬にはこの男が発する言葉から生まれる重圧が何なのか、よく分からなかった。
80 :
旅人:2008/12/31(水) 01:04:20 ID:VZJSu9Br0
「アケ板からの隔離だ。多分、音ゲー人口が多かったんだな、当時は。
まぁ、当時の人間じゃねぇから良く分からねぇんだけどよ」
へぇ、と加瀬は相槌を打ち、ところが、と男は続けた。
「これが何かの運命だと思える。
さっきも言った言葉だったと思うけど……
『第二のVIP』と形容されるまでの糞スレ乱立が目立つ。
悲しい事だが、民度が低いって事だな、音ゲー板は腐った場所ともいえるんだ。
それはつまるところ、音ゲーマーの頭がダメになっているという事を意味する。
もちろん全員が全員、ではないけどな。
名前は…あぁ言うだけでもアレだから、ハッキリ言って吐き気がするぜ。
まぁ、いいコテも居るっちゃいるんだが、クソコテの方が割合多いよな」
「そうですね。っていうか、あの板に良コテなんて居ましたっけ?」
「そりゃあネェちゃんが気付かないだけさ。
つまり、だ。音ゲーマーは頭がおかしくなってしまうって事が言えそうだって事だ。
近い将来、婦女暴行や殺人事件、テロを起こすかもしれない。
現にどっかの馬鹿がギタフリの筐体をぶっ壊したって事件があっただろ?
ランカークラスの腕前だか何だか知らないが、これだけは言えるよなぁ」
それって何ですか?と加瀬は男に聞いた。
男は「ちょっと頭使ってみれば分かるぜ」と前置きし、目線を窓に移してから言った。
「『上 級 者 で あ る 人 間 が 問題、事件を引き起こす割合が高い』って事だ。
その筐体破壊の他にも、どんな音ゲーでも上級者が初心・中級者を迫害しているって聞くだろ?」
「……それ、私の友達がやられたって聞きました。私の友達も迫害されたというか、何というか」
それなんだよ、と男はそう言って加瀬の方を見た。
「そうやってプレイヤーサイドの問題で音ゲーの終焉が見えてくるって訳だ」
「そんな、どうしてですか?」
「今のままじゃプレイヤーが足らないんだよ。
メーカーとしてはプレイヤーの数を増やしたいのに、
その起爆剤、デトネイターとなるチュートリアル要素にも力を入れているのにさ。
手先指先足先が器用なだけの大馬鹿が、それを台無しにしているのさ」
81 :
旅人:2008/12/31(水) 01:07:52 ID:VZJSu9Br0
いかがでしたでしょうか?これにてみんパテ最終章「音ゲー終焉論」の投下はストップです。
今回の投下分には、自分が思っている事をぶちまけさせて頂きました。
見返してみると結構的外れな事を言っていたり、
自分勝手な理由で「もうこのままだったら音ゲー終わっちゃうからな!もうお終いだから!」
と喚いているように思えます。本当に申し訳ない。
前々から、闇が云々終焉が云々と言っていましたが、
言ってみれば何の事は無い、かなり単純な事なんです。
その単純さの片鱗が、ここにきてようやく現れました。
「音ゲー終焉論」って何なんだ!?マジ気になるんですけどー!
と期待していた方がいれば、この場で謝らせて下さい。本当に申し訳ありません。
(そうなんです、所詮、若造の言うことなんざこの程度なんです……)
まぁ、闇っていうか黒っていう色を作る方法って、
確か光の三原色を全部0にすれば黒になるんです。単純ですよね?
そう、単純なのにも理由があるんです。単純な事が一番大事なんだと僕は思います。
次回の投下で最終章は終わりを迎えます。
それは「みんなのパーティー」が終わりを迎える事を意味しています。
ちょっとしんみりしている僕ですが、この話は今日の夜に完結させようと思います。
相変わらず空気を読めてなくてすみません。
まぁ、それまではまた、その時までさよならって事です。では。
82 :
旅人:2009/01/01(木) 00:36:56 ID:JcO3fZpx0
今晩は、旅人です。やっぱり年末年始ですからね、誰からも反応がないや。
えー、もうじき新年であります。
クリスマスからもう何日立ったんだろう。
スーッと消え入るように月日が経って、新年を迎えて。
トラブルに巻き込まれないように気をつけたい。
ラララララーと鼻歌を歌って今日も一日楽しくやりたい。
出会いがしらの車の衝突に気をつけて、
現実逃避なんて馬鹿らしいことをやめにして。一日一日を楽しくやりたい。
スマイル片手に今日を生きたい。
ルールを守って皆と笑っていたい。
良き人と善き人が巡り合って、その善が皆に伝わればいい。
そんなわけで本編スタートです。
(すごーく亀ですが、
>>72さんと
>>73さんへ。
僕はこの作品の中でこのままだと音ゲーは終わってしまうのではないか?と警鐘を鳴らしました。
しかし、それだけに留まらない作品にしようと考えていたので、それがこの投下につながると思います。
少しは期待しててもいいですよ、多分。僕、アンハッピーエンドって嫌いですから)
83 :
旅人:2009/01/01(木) 00:40:21 ID:JcO3fZpx0
つまり、と松木が言って加瀬の話を止める。
「君…ごめん、優ちゃんって呼んでいい?あと、少しフランクな感じでもいいかな?」
「いいですよ。でも、自分を呼んでいるようで嫌じゃないですか?」
「それは本人のみぞ知る……全然そんな気にはならないから、大丈夫ですよ。
優ちゃんと話していた男性は次の二つに音ゲーが終わる要素を並ばせたんだよね?
『プレイヤーサイド』と『メーカーサイド』の二つの駄目な部分、
言いかえると闇の部分、それこそが音ゲーを終焉へ導いてしまうものだと」
「はい」
「メーカーサイドには次の問題点があるんだよね。えっと……
『利益のみを追求していく姿勢の末に、
狭まってゆくターゲット層と彼らに対する音ゲーの売り出し方、
後は新曲のクオリティ低下と誤字脱字をどうにかせい』って感じかな」
「概ねそんな感じです」
「良かった。じゃあ、プレイヤーサイドの方の問題点は……
『プレイヤーのモラルの低下。
安易な厨曲に対する異様な食い付き具合。
音ゲー関連のキャラ等に対する異常な憧れ』……そんな感じかな」
「多分、それで合っていますよ」
やっぱり闇の部分なんだなぁと松木は言ってため息をついた。
坂野が「さっきから闇、闇って何だよ」と松木に聞く。
松木はあぁそれはですねと前置きしてから、一度天井を見て言う。
「一番『闇』を感じ取れるのはプレイヤーサイドですよ。
メーカーの方なんて、内部事情も分からないのに彼是言えないですよ。
だから、同じ立場に立つプレイヤーサイドのほうが闇を感じ取りやすい」
「だからぁ、その闇ってのは一体なんn」
「人なら全員が持ち合わせている『黒い心』ですよ。
これを音ゲーで代表するなら、そうですね……言っていても気分が悪いですが、
例を上げるなら『見下し』とか『代行』に『和尚』とかですね。
それをやろうって気にさせる動機を作るキッカケって言えばいいのかな。
悪い事、ルール違反だって事は知っているはずなのに、やろうとする。
これ、音ゲーのみならず色んな事にも応用が利きますよね?
……つまり、人間なんて皆が皆、同じなんです。
秘めているものが表に出ているか出ていないか、暴走しているかしていないか。
それが、プレイヤーの質を決めるんです。腕前で判断できない、人間の差を」
84 :
旅人:2009/01/01(木) 00:46:50 ID:JcO3fZpx0
(すみません、
>>82の三行目に誤りがありました。「えー、もう新年であります」と訂正させて頂きます)
松木はそこまで言って、息を吸うために少し間を開けた。
その僅かな間、時間にして0,1秒もあるかないかのタイミングで加瀬が割り込んだ。
「でも!」
「え?」
「でも、音ゲーを終わらせないように松木さんは頑張っているんですよね?
メーカーサイドの問題までは手が出せないにしても、
プレイヤーサイドの方は干渉して、改善できるんですよね!?」
「いや、僕は力不足だ。頑張っても頑張っても、湧いて出てくるように
そんな問題ばっかりが発生する。埒が明かないんだ。
でも、僕だけじゃなくて、まともなプレイヤーさんが行動を目立たないにしても
起こしてくれていると信じているよ。
誰もが『闇』を抱えている。でも、それを『光』にする事だって出来るはずだ」
やっぱり!加瀬はそう叫んだ。
「やっぱりそうなんですよ!あの男の人も、似たような事を言っていたんです!」
08/12/19 11:13
松木の住む港町へと走る電車の第二車両。
そこの適当な窓際の席に一人の赤いマフラーが特徴的な少女、加瀬優と
現代の若者を代表するようなファッションの若い男が向かい合わせで座っていた。
二人は37分間ずっと同じ話題で話をしていた。
「音ゲー終焉論」
これが二人の話題だった。このお題からは、強烈に暗いイメージが感じ取れる。
そんな話をしているものだからこの二人の周りだけ、
窓際にもかかわらず光の量が少ないと感じるのは…近くに座る第三者の目の錯覚に違いなかった。
85 :
旅人:2009/01/01(木) 00:50:06 ID:JcO3fZpx0
しばらくの間、二人の間を沈黙が支配した。
加瀬は、この沈黙が支配していた時間の中である事を思いついた。
―私たちが今話しているのは、
明るく希望に満ち溢れた未来とかについての話じゃない。
それとは全く正反対の、暗く絶望に満ちた闇について話している。
確かに、このままだと音ゲーは終わる。
それは同時に、私から逆襲のチャンスを奪う事になる。
誰よりも上手くなりたい。ランカー級の腕前とは言わなくても、
最低、そこらで調子に乗っている指先足先が器用なだけの糞野郎共を
問答無用でぶっ潰すだけの実力つけたい。無理かもしれないが、成し遂げなければならない。
だが、そのチャンスが失われるとすれば。
私の誓いは果たせなくなる。そう、果 た せ な く な る のだ。
目に見えないタイムリミット。全てにまとわりつくアルファとオメガ。
………そう、始 ま り と 終 わ り だ。
始まりはちょいと調べれば誰にだってわかる。だが、終わりは?
万物に言える事が一つだけある。終わりは、その時が来るまで誰も知らない。
終わりはもう、すぐそこまで来ているのかもしれない。
全ての音ゲーが次回作で「FINAL」のサブタイを冠するのか、
それとも今作が最終作になるのか。色々と悪い想像を働かせるとあり得ない話ではない。
しかし、ここで一つ疑念を抱く事がある。
終わりの時を、オメガの到来を遠ざける事は出来ないのだろうか。
ちょうど、同極の磁石が反発してくっつかないようにオメガを遠ざける事は?
もしかしたら、その道はあるかもしれない。
だが決して楽な道ではないだろう。九十九折りの上りの坂道かもしれない。
いばらの道かもしれない。地面に棘の生えた道かもしれない。分からない。
ただ、たった一つだけ言えそうだ。
……そう簡単に音ゲーは終わらせないように出来るんじゃないか?私たちの手で?
86 :
旅人:2009/01/01(木) 00:54:34 ID:JcO3fZpx0
「私、思うんです」
加瀬はそう言って沈黙を打ち破った。
男は何を?と聞いて、加瀬はそれにすっと息を吸ってから答えた。
「光があるから闇が生まれる。闇があるから光が生まれる」
「………誰かの受け売りか?なぁネェちゃんよ?」
「台詞自体はそうかもしれません。でも、私はこの言葉を信じます。
光があるから闇が広がる。闇があるから光が輝く」
ハハァ、と男は感心したように言って頷き、そして言った。
「どういう意味でその言葉を言っているか、教えてくれよ」
「始まりがある以上終わりがある。これは、どの物事においても共通しています」
「そうだな」
「私は、その終わりを遠ざける事は出来ても回避する事は出来ないと思います。
でも、それを遠ざけて時間を稼ぐというのはとてもいい事だと思うんです」
「ほうほう。それには俺も同意だ」
「…光と闇はお互いに人を引き付ける力を持っていると思います」
「で?次は?」
あー、それは……と加瀬は言葉を探しながら窓を眺めた。
言葉が浮かんでこない。でも、意思ははっきりしている。それを伝える。
「人は、光を嫌うんじゃないかと思うんです」
「そりゃまたどうして?」
「そうじゃないと、色んな事件が起きる理由が無くなるんです。
『人は堕落する生き物』だとも言われている位です、そうなんです。
自分一人じゃあの人を越せない。だから第三者の手を借りて、和尚をしてあの人の記録を抜く。
自分一人じゃ目標を達成できない。だから上手い人の手を借りて代行してもらう。
自分一人じゃ目前の敵を倒せない。だから仲間とつるんで多人数熱帯をする。
…全部、堕落しきった人間の取る行動だと思います」
「ハハァ、読めてきたぞ、ネェちゃんの言う事が。
つまり何だ、人は堕落して、色んな事件を起こしてくのが当然だって言うのか」
「はい」
加瀬の答えに、男はハァーッとため息をついてから加瀬に言った。
「んじゃ何だ、このまま音ゲーは終わるんですっていうのがネェちゃんの下す結論か」
87 :
旅人:2009/01/01(木) 00:59:32 ID:JcO3fZpx0
「いいえ、そうとは言っていません」
「だったら、一体どういうつもりなんだよ」
「闇に囚われた人達を、一生懸命に光に満ちた場所へ連れて行く人がいます」
「………アイツか?」
男の目を見ながら話す加瀬は、男の確かめるかのような口調の言葉に頷いて続けた。
「そうです。松木ゆうさんですよ。
私が代表する人物が、松木さんなんです。
全国のゲーセンを飛び回って、色々と問題を解決していく。
地道ながらも、私たちがまとめ上げたプレイヤーサイドの問題を
減少させていっている立役者ですよ、彼は」
「いいカッコがしたいだけとも取れるぜ」
「例えそうだとしても。
彼に触発されて、マナー等を守らせるように動く人々が出てきたら、
闇に堕ちた人々を光に照らして救おうとする人が出てくれば、
たぶんきっと絶対、闇から光が生まれると思うんです」
男は加瀬の言葉を聞いてフリーズしていた。
それが一瞬の間なのか、それとも永遠の時の話なのか、加瀬には分からなかった。
だが実際に男が硬直して黙していたのは1秒もなかった。
一瞬フリーズしていた男の唇が動く。その動きは、どこか震えていた。
「…れだ」
「え?」
「それだ、それだ、それだよそれそれ、それなんだよネェちゃん!」
そう男は発狂したかのように叫んだ。
加瀬はびっくりした様子で、止めて下さい!と男に制止をかける。
しかし、男は興奮冷め止まぬといった様子で加瀬に言った。
「これは俺も同じような事を思っていてね。
光があるから闇がある。なら、闇の中に光を探し出すきっかけがある筈だって」
「じゃあ、それじゃ…」
音ゲーは終わらない!と言おうとした加瀬の口の少し前に、
男はすっと自分の右手の平を差し出した。そして続けていく。
「でも、松木のほかにそんな動きを見せている人を見た事がない。
ネェちゃんの言う事は合っているが、それだけじゃあ闇から光は見いだせない」
88 :
旅人:2009/01/01(木) 01:02:08 ID:JcO3fZpx0
「もっと強い光を、太陽かクエーサーのような凄く光る物が必要なんだ」
男はそう言って、加瀬を見ていた目線を車両の廊下へと移した。
「松木は頑張ってると思うよ。
でも、皆が一つにならないと。
彼一人が頑張っても駄目だと俺は思う」
「皆は一人の為に、一人は皆の為に?」
「三銃士か…そんなんだと思うぜ。あの話は知らないけど」
「多くの人が意識向上の意思を持てば、松木さんは太陽やクエーサーになれるんですか?」
だろうな、と男は加瀬に目線を映しながら答えた。
そして少し押し黙ってから加瀬に、
「そうなれば、音ゲーの危機は遠ざかる。
早く多くの人と少数の馬鹿が、そんま単純な事に気づいてくれればいいんだ」
今まで会話をした中で、一番優しい声で男は独り言のように言った。
「光も闇も、人を惹きつける。
双方にはそれぞれの魅力がある。
だけど闇の魅力は、殆どがマナーやルール違反となる。
逆に光の魅力は、少々苦痛になる事もあるけど人を正しく導く」
松木は、加瀬が喋り終わってからそう言った。
加瀬は松木の方を向いて頷き、そして口を開く。
「やっぱり、松木さんは私の言いたい事が分かっているんですね?」
「大体ね。でも、細かい一致は無いと思うよ、僕は。だから保証は出来ないけど。
……やっぱり、闇を晴らす方法なんて簡単なんだと僕は思うよ。
だってさ…『皆 で マ ナ ー や ル ー ル を 守 る』だけなんだから!」
89 :
旅人:2009/01/01(木) 01:06:40 ID:JcO3fZpx0
OPEN THE EXTRA CHAPTER !!!!
「-truth express- Apocalipse's EVE」
(エクストラチャプター「Apocalipse's EVE」出現条件
1. 一度張った伏線を全く回収しないこと。
2.最終章と言いながらも全く物語としてピリオドが打たれていないこと。
3.物語内の時間が 08/12/20 0:00 を切っていないこと。
4.加瀬優が語り終えた物語内の時間が 08/12/19 23:10 をオーバーしていないこと。
5.作者がまだまだ書き足りないと思うこと。
この五つの条件を同時に満たすと、エクストラチャプター「Apocalipse's EVE」が出現)
90 :
旅人:2009/01/01(木) 01:15:03 ID:JcO3fZpx0
いかがでしたでしょうか?これにてみんパテ最終章「音ゲー終焉論」は完結、
そしてエクストラチャプター「Apocalipse's EVE」が次回投下されます。
つまるところ、僕が「音ゲー終焉論」で言いたかった事とは…
今のままの状態が続いていくと、いつかは音ゲーが消えて無くなってしまうかもしれない。
でも、皆が協力してどうにかすればその時は遠ざかってゆく。
そんなクサい主張を僕はこの最終章に込めたわけです。音ゲー終焉論なんてサブタイは、少々大き過ぎたかも知れません。
そしてちょっとした裏話でも。
元々はアポカリ(あ、略しちゃった)が最終章だったのですが、この構想を練った後に
次のおまけのような話が浮かんだので「んじゃあこうしてみよう」と気まぐれでこういう形をとりました。
という事は、このエクストラチャプターが投下し終わった後には……という事です。
まだまだみんパテは終わらない!という事で、皆様の変わりなき応援をよろしくお願いします。
(作者、または作品に意見や感想があれば、お気軽にどうぞ。そしてそれは、いつまでも変わりません)
旅人氏の主張見させてもらいました
この辺は難しいと思う
どの小説とかでも始まりと終の関係についていろいろと考えてるシーンは多いけど
偏った主張に信じることってできるものなのか迷います
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
年末年始バタバタしており少し遅れましたが、続き投稿します。
>旅人さん
ちと極論じゃないかなぁと俺は感じましたね。
別に俺は新曲に問題があるとはあまり思わないし、
ましてや上級者が事件を起こすとか完璧に偏見なのでは……?(汗)
そんな根拠がない個人の主観で音ゲーの終焉とか言われてもピンと来ませんでした。
まぁ、一つの意見として受け取っていただければ^^;
では、続きを書きていきますね。
「DJオート?」
「はい。彼が世界最強のデラプレイヤーっす」
そいつは何者だ。
どこに住んでいるんだ。
どれくらい上手いんだ。
いや、でもおかしいじゃないか、
世界一デラが上手いのはBOLCEじゃなかったのか。
とりとめのない疑問が乙下の口から続け様に溢れ出す。
対する空気は、乙下をいさめるかのように左右の手の平を胸の前に突き出して言った。
「この動画を見てもらえれば分かります」
空気は有名な動画サイトをブラウザで開き、
検索フォームへ「DJ AUTO VS DJ BOLCE」と打ち込んだ。
そして検索結果の中から
「beatmaniaIIDX13 DistorteD - 嘆きの樹 "DJ AUTO vs DJ BOLCE" 」
と名前がついた動画へのリンクをクリックすると、
画面が切り替わり、データのバッファリングが始まった。
「仕事中に動画サイトかよ、いい度胸だな」
「すぐ終わりますって」
背中に荒山課長をはじめとする捜査一課員の冷ややかな視線が
突き刺さっているように感じ、心が痛まないでもない。
しかし空気と行動を共にすると一事が万事この調子なので、
乙下はいちいち気にしていられない。
そんな自分の免疫力に半ば呆れつつ、乙下は質問した。
「『AUTOバーサスBOLCE』か。
そのAUTOってヤツがBOLCEと二人プレイで
スコアを競ってる動画ってとこか?」
「少し違います。
これは、DJ AUTOがライバル表示をDJ BOLCEにして
プレイしているところの動画なんすよ」
「え。それじゃ、AUTOはBOLCEの自己ベストと戦うってことだろ?
本当に勝てるのかよ」
「勝てる勝てないなんてレベルの話じゃないっす。
見てて下さい、DJ AUTOはBOLCEを完膚無きまでに叩きのめします」
そこでバッファリングが終了し、動画がスタートした。
オブジェレーン、「EXTRA STAGE 嘆きの樹」のタイトル、スコアグラフ。
見慣れたIIDXのゲーム画面だ。
筐体やプレイヤーの姿が見えず、
純粋なゲーム画面のみが映し出されているところを見ると、
どうやらライン出力の映像を録画したものらしいことが分かる。
グラフィックの雰囲気が乙下の知っているものといささか異なっているが、
動画の名称にある「beatmaniaIIDX13 DistorteD」を見て、
これは前々回のバージョンの画面なのだなと一人で納得をする。
画面右にはDJ BOLCEの自己ベストを示す棒グラフが高々と隆起している。
グラフはMAXとAAAのおおよそ中間地点まで伸びており、
そのスコアがいかに規格外であるかは、乙下にも想像することができた。
しかしそれよりも乙下が気になったのは、中央のグラフが表示されておらず、
代わりに「FIRST TRY」のレイヤーが点滅していることだった。
「ちょっと待てよ。まさかこいつ、初見でBOLCEの自己ベに挑むつもりなのか?」
「まぁそんなとこっすね」
すでにイントロの不気味な鐘の音が流れ始めている。
嵐の前の静けさ、と言うべき六小節を挟み、
満を持して登場した青と白のオブジェが判定ラインと重なって爆ぜる。
次から次へと爆ぜる。
パーフェクトな演奏だった。
もしこれが本物の楽器の演奏であれば、
軽々しく「パーフェクト」などという評価はできないだろう。
芸術に正解や百点満点などないのだから。
だがこれは音楽ゲームだ。
定められたボタンを定められたタイミングで叩くことが
唯一の正義であるこの世界で、
彼は定められたボタンを定められたタイミングで叩き続けている以上、
パーフェクトいう評価は過大でも過小でもない、
DJ AUTOに対する最も適正な評価だった。
すなわち、DJ AUTOはJUST GREAT以外の判定を一切出していないのだ。
最初はBOLCEも負けていなかった。
事実、イントロを抜けるまではたった2点のリードを許しただけであった。
ところがそのしぶとい食らいつきも空しく、
楽曲のメインフレーズに入った辺りから差が開き始めた。
BOLCEとのスコア差を示す数字はただの一度も減少に転じることなく、
ひたすら素直に上方向へ累積していく。
1000コンボを超え、その勝敗がもはや決定的になった頃、乙下はようやく気付いた。
「おい、空気」
「なんすか?」
「これさすがにおかしいだろ」
「何が?」
「何がじゃなくてさ。
これ、ピカグレ以外の判定が一回も出てねーぞ。
本当にプレイしてるの人間か?」
空気は耐えかねたように、盛大に吹き出した。
「あははは、こんなの人間にできるわけないじゃないっすか、あははははは」
「……」
「DJ AUTOってのは、家庭用でのオートプレイ機能の擬人化なんすよ。
それを先輩ったら真に受けちゃって、あっははは」
画面では4000点対3787点でDJ AUTOに軍配が上がったところだった。
何のことはない。
つまりこれは理論値を出して勝利したDJ AUTOの活躍ではなく、
理論値マイナス213点にまで迫ったBOLCEの健闘を称えるための動画だったわけだ。
乙下はその大きい右手で、空気の額をハンドボールのように掴んだ。
力の限り握力をかける。
こめかみの奥にある骨が軋む。
「いてててててて、オトゲ先輩タイムタイム、いてててててて」
「空気君はそんなに死にたいんだね。今、楽にしてあげるからね」
「あいてててて、すんません、冗談が過ぎました!」
「こんの野郎、人が真面目に聞いてれば。
バカだった、お前の話を真面目に聞いた俺がバカだった。
死ね。血反吐を吐いて死んでしまえ」
「聞いて下さい、ボクも半分は真面目に話してるんすよ!
もしかしたら1046はDJ AUTOを人為的に作り出したんじゃないかって言いたかったんす!」
乙下は手の力を緩めた。
「何だって?」
「だから、1046は作ったんすよ。『DJ AUTOを機械的に作った』んです」
乙下は一度緩めた握力を、わずかにだが再び強めた。
「空気お前、今度は真面目な話だろうな?」
「誓います」
乙下が手を放すと、空気は摩擦熱で火傷するのではないかと
心配になるほどの勢いでこめかみをさすりながら言った。
「オトゲ先輩、RPGのゲームってやったことあります?」
「RPGって、ドラゴンクエストとかファイナルファンタジーとかだよな。
古いのなら学生の頃にやったけど」
「ズルしてレベルを上げる方法とか流行ったでしょ。
セロハンテープでコントローラーのボタンを固定して、自動的に経験値を稼いだり」
「あぁ、そんなことやってる友達もいたな」
「基本的な考え方はそれですよ。
要するに、似たような原理で筐体の前にいなくても
ゲームを高スコアで進行させることができればアリバイになるわけでしょ」
「似たような原理っつってもさ、
Aボタン押しっぱなしにしてスライム倒すのとはわけが違うだろ」
「ええ。ですので、少しは込み入った仕掛けにする必要があります。
でもロボット工学的に考えれば、そこまで難しい仕掛けは要らないんすよ」
ロボット工学という畑違いの言葉が飛び出した。
乙下はどうもイメージが湧かない。
「ロボットって、本田のASIMOみたいな?」
「普通の人はロボットっていうと発想がそっちに行っちゃいそうですけど、
本来は決められた通りに自動で動いて
人の代わりに仕事をする装置のことを指す場合が多いです。
まぁ自動車を組み立てる機械とかっすね」
「へぇ、詳しいな」
「だってボク学生の頃は電子工作が趣味でしたもん」
空気の意外な一面だった。
「それで考えたんです。
1046の共犯者は、もしかしてIIDXロボットだったんじゃないか、って」
「またバカなことを言い出す」
「いや、あり得ますって。
普通に考えれば理論値マイナス6点だなんて
常識外れのスコアを出せる人間は1046以外にいません。
でも機械なら出せる」
乙下は半信半疑だ。
「まぁ現代の科学技術をもってすれば
そんなバカみたいな目的のロボットだって作れないこともないんだろうけどさ。
でも1046みたいな一般人に簡単に作れるもんかね」
「作れるっすよ」
乙下の反論に怯むどころか、空気はしれっと言ってのけた。
「逆に、IIDXロボットなんて簡単に作れる部類っすよ。
ロボットは仕事内容が複雑になればなるほど設計も複雑で難解になるんすけど、
じゃぁ『IIDXをプレイする』って仕事は複雑ですか?」
「……いや、すごく単純だ」
乙下は今の質問で少し理解できた気がした。
画面に現れたオブジェに従って、ボタンを叩く。
もしくはスクラッチを回す。
やるべきことはそれだけなのだ。
むしろこうした単純作業は、人間よりも機械が得意とする分野だろう。
他のあらゆるゲームと比較しても、
IIDXはロボット向きのゲームと言えるのかも知れない。
「簡単に説明します」
空気は急に生き生きとした目つきになり、
デスク上に散らばった書類の一枚を裏返して、
顔に似合わず小綺麗にまとまった図を描きながら解説を始めた。
「いいですか。
あらゆる動きは『水平運動』と『回転運動』の組み合わせで再現できるんです。
水平運動は例えばシリンダを、
回転運動は例えばモーターを使えば実現できます。
IIDXに当てはめれば、鍵盤を叩く動きが水平運動で
スクラッチを回す動きが回転運動ってことっすよね。
どちらも大きな出力は要らないんで、
小型・低電圧で動くアクチュエータの部品を探してくればOKっす。
次に、オブジェの認識は光学センサを使います。
オブジェの色に反応してトランジスタのスイッチがONになるような
センサを画面に8個取り付けるわけっすね。
んで、それぞれのセンサ出力に合わせて
鍵盤やスクラッチを動かすための機構部へ電圧をかけるための電子回路を組みます。
まぁ、秋葉原で売ってる汎用のICとかコンデンサを組み合わせれば十分。
ちなみに、スクラッチを回すモーターだけはちょっとだけ制御に工夫が要ると思います。
押し押しで反応しない速さの連皿が来るとコンボが切れちゃうので、
モーターをリバーシブル仕様にしておいて
正転と逆転を交互に繰り返す制御にすべきっすよね。
これでIIDXロボット、名付けて『DJ AUTO』の完成!」
空気が流暢な説明を終えてペンを机に置くと、
そこには「DJ AUTO」の設計図が見事に出来上がっていた。
乙下は説明のほとんどを左の耳から右の耳へ垂れ流してはいたが、
空気の無駄に詳しい工学的な知識に敬意を表して言った。
「……さっぱり分かんないけど、分かった。
お前みたいなバカでも作れろうと思えば作れるってことなんだな」
「バカは余計っすよ!
でも、本当にこの程度のロボットなら、ヤル気さえあれば誰でも作れます」
乙下は設計図を手にして、まじまじと見入った。
様々な記号と線が織りなす幾何学模様。
見ようによって乱雑にも系統立っているようにも感じる。
これらが筋肉と神経、あるいは脳細胞とシナプスの繋がりのような役目を果たし、
人間の代わりにIIDXをプレイするのだろうか。
乙下はそんなDJ AUTOの姿が未だ上手く想像できないことにやきもきしながらも、
空気のアイデアを踏まえて事件を考察した。
「つまり1046のアリバイトリックの正体はこのロボットで、
自分の身代わりにABCでデラをプレイさせてたって言いたいわけだな」
「そうそう、そういうことっす。
このロボットなら1046クラスのスコアを出すのも楽勝だから、
別にランカーの共犯者を連れて来なくたって済むんです」
「……いや、でもさ。さすがにバレるだろ?」
綻びの数が多過ぎて、どこから指摘してやれば良いのか乙下は迷ってしまう。
「店員に見られたら?」
「筐体はカーテンに囲まれてるから大丈夫っす」
「足がないのにプレイ音だけ聞こえたら不自然だろ。幽霊じゃあるまいし」
「マネキンでも置いとけば大丈夫っす」
「もし他の客が来たらどうすんの?」
「他の客が来ないように、ABCの入り口に『準備中』の札をかければ大丈夫っす」
「お前の頭、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫っす」
乙下はもう言葉が出なかった。
果たしてこの男は頭が良いのか、それとも悪いのか。
そんな審議が乙下の頭の中で執り行われたが、
後者が真であるという判決に傾かざるを得ないほどに
空気はまたもずれたことを口走り始めた。
「しかしですね。二、三点ほど問題もあるんすよ」
「二、三点ね。あくまで二、三点なのね」
「さっきの仕組みだけだと、
選曲画面とかカード出し入れの動きには対応してないんすよ。
これも実装しようとするとロボット自体がかなり大掛かりになっちゃうんすよねぇ」
「はいはい、そうだね」
乙下はいらいらしながら空返事をする。
「あとですね、このやり方だと困ったことに
トップランカークラスを超えて、あらゆる曲で理論値が出ちゃうんすよね。
だから人間らしさを演出するために、
たまに黄グレを出すように乱数処理してやらないといけないんすよ」
「あっそう」
「最後にこれが一番の問題点なんすけど、
ほら、デラってギタドラと違って
BPMによってオブジェの速さが変わるじゃないっすか。
だから曲が変わる度にセンサの位置を人間が調整するか、
BPMの表示を読み込んで出力のタイミングを精密に制御する仕掛けが必要なんすよ。
『DJ AUTOソフラン対応版』ってとこっすね。
でも、これ実現しようとしたら半端じゃなく大変」
「へぇー」
「うーん、これらを総合的に考えると、
やっぱりロボットをアリバイトリックに使うのは無理があるっすね」
乙下は全身の関節を使って、力の限り空気の頭頂を引っぱたいた。
中身が空っぽだからなのか、パァン、と抜けるように爽快な音が捜査一課に響き渡る。
「最初に気付けバカ。
あー損した。真面目に聞いてホント損した。
もうお前いいよ、もう来なくていいよ。
喜べ。明日からずっと日曜日だぞ」
「いやしかしですね、DJ AUTOは」
「うるさい黙れ」
乙下は倒れ込むように自分の椅子へ座った。
背もたれの上辺に後頭部を乗せて、部屋の天井と向き合う。
その体勢は酷使した体に心地良く、
疲労が椅子に染み出して地面に流し込まれていくかのような感覚だった。
ただ蛍光灯の眩しさだけが目に負担を感じさせるので、
乙下は右手をかざして光を遮ろうとする。
そうして、右手にはDJ AUTOの設計図を持ったままであることに気付く。
「ったく、何がDJ AUTOだよ」
乙下は蛍光灯の光を透かして設計図を眺めた。
つい先ほどよりも模様が複雑になっているように思えて一瞬目を見張ったが、
すぐに設計図の裏面、つまりは書類本来の表面の文字が
透けて見えているだけだと察した。
迂闊な空気のことだ。
大事な書類の裏に落書きをしたのではあるまいかと心配になりめくってみる。
すると、それは見覚えのある報告書だった。
「DJ BOLCE e-AMUSEMENT PASS使用履歴」。
昨日空気が作った丸秘ファイルの一ページだ。
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:10, END = 10:20;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:21, END = 10:32;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:33, END = 10:44;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:44, END = 10:56;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:57, END = 11:08;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:09, END = 11:20;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:21, END = 11:31;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:32, END = 11:43;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:43, END = 11:54;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:55, END = 12:06;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:19, END = 12:30;
CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:30, END = 12:40;
乙下の胸が急激にざわつく。
「……見落としてた」
「何がっすか」
さすがの空気も乙下に容赦なくこき下ろされたのが応えたのか、
虫の居所が悪そうな様子の返事を寄越してくる。
だが、空気のご機嫌を窺っている場合ではなかった。
「大変なことを見落としてた。
俺は一昨日の1046の行動にばかり気を取られて、肝心なことを見落としてた」
「肝心なことって?」
「殺される前のBOLCEの行動だよ」
乙下は書類をデスクに叩きつけ、ある一箇所をボールペンで囲った。
思わず筆圧が強くなってしまい、インクが太い曲線を形成して紙面に滲む。
START = 11:55, END = 12:06;
START = 12:19, END = 12:30;
「ここだ」
「12:06〜12:19の間、BOLCEはデラをプレイしていない……?」
「あぁ。この時間、不自然な行動を取っていたのは1046だけじゃなかった。
BOLCEもだったんだ。
それまで一分以上の間隔を空けないでプレイしていたはずのBOLCEが、
ここで突然13分の休憩を挟んでいる。
これはどういうことだ?」
何か。
重要な何かをこの手に掴んだ、乙下はそんな気になった。
乙下は掴んだ何かの正体を懸命に探る。
しかし、その何かは煙のように形が崩れ、
するりと乙下の手を離れて、もう届かない場所へと逃げていく。
待ってくれ。
後一歩なんだ、待ってくれ。
その時、すっかり聞き馴染んだメロディが
署内のスピーカーからゆるやかに流れてきた。
交響曲第9番ニ短調OP.125。
通称「第九」。
午後五時の知らせ。
このメロディが踏み台となった。
踏み台は乙下の背を一段だけ高くし、
乙下が掴み損ねかけた何かへ再び手を届かせる手助けをした。
乙下はそれをがっちりと捕まえた。
もう手放すものかと誓った。
「……そういうことだったのか」
乙下の中で、1046によって築かれた鉄壁の一部が崩れる。
その隙間から、堰き止められていた真実という名の水が、怒涛の勢いで流れ出す。
そして真実の分子は真実の分子同士で有機的に繋がり合い、
ジグゾーパズルのように一枚の絵を作り出そうとしていた。
その絵はまだ全容を見せない。
必要なピースはまだ揃わない。
だが、確かに絵の一部は姿を見せた。
描かれたモチーフが何なのかを判別できるくらいには。
乙下はその絵を見て、背筋を凍らせた。
真実を探り当てた興奮と歓びは立ち所に消え失せた。
「1046のヤツ、とんでもないことを考えやがる」
空気が恐る恐る口を挟んだ。
「先輩。もしかして、分かったんすか……?」
その言葉を受けた乙下は、確信を持ってはっきりと告げた。
「あぁ。まだ全部じゃないが、分かった。
やはりこの事件は1046単独による犯行だ。
共犯者なんていなかった。
1046は1046にしか成し得ない悪魔めいたトリックを使って、
たった一人でこの犯罪を仕立て上げたんだ」
to be continued! ⇒
つーワケで、次回から解答編みたいな感じになっていきますよ。
ちなみに、DJ AUTOは本当に作れるはずだと俺は思ってます。
作中に書いた原理をそのまま使えますが、お金はかかるでしょうね。
(少なく見積もっても数十万円〜百万円ほど予算が必要なんじゃないだろうか…)
誰か作ってくれたら面白いんだけどな(笑)
それではまた。
102 :
旅人:2009/01/04(日) 01:05:19 ID:EiF2kfec0
>>とまと氏
乙です!あぁ、流石にAUTOさんを使って…っていうのはないのか……
ロボットAUTOさん、僕も見てみたいです。
次からやっと謎が明らかになるそうなので、一層楽しみになってきました!次も楽しみにしてます!
今晩は、もうみんパテのお話は全部書き終えました、旅人です
前書きですが、自分の中でもう一度まとめた自分なりの考えを主張したいと思います。
「旅人」という個人としての僕が今作品に込めたメッセージは、
あくまで個人の主張であり、そしてガキの言う戯言であり、
キチガイが発する奇声であり、知識人ぶった馬鹿が流す極論、ノイズ、ゴミなんです。
その為、僕以外の人が見るとトンデモな意見にしか見えない。
正直、僕も「あぁ、なんで自分はこんなトンデモでアホでゴミみたいな事を書いていたんだろう」
と思っています。もう遅い事ですが、この話を書き、投下したことを後悔しています。
しかし、敢えて僕は「ですが」と言わせて貰います。
ハッキリした形を持たないにしても、僕は音ゲーを終わらせる要因がプレイヤー側にあると思っています。
例えば「新曲」の話とかはあくまで僕一個人の意見であり、
「それは全員に通用する」と思って書いたのか?と問われると応答に困ります。単なるエゴです。
でも、確かにたぶんきっと必ず、どこかに音ゲーが終わる要因があって、
そしてそれは僕たちが協力したら必ずそれは消え失せる。そう思っています。
いつか僕が成長して。
そして僕の中でハッキリと意思が固まったら。
その時がいつになるかは分かりませんが、その時はもう一度、ほんのもう一度だけ、
「一個人の主張」を小説という形を取って書かせて欲しいと願います。
それまでは、今までの通りに当たり障りのない小説を書くつもりです。
いや、元々みんパテはエンターテイメント小説な感じのを目指して書いていました。
そのための第一〜第五章でしたが、途中から脱線して最終章が生まれました。
今考えてみると、とても無茶な脱線だったんじゃないかと思います。ただのエゴ丸出しです
…僕は人を楽しませる事をしたかった。お笑いとかは無理だから、別の方法で何かできないか。
考えてゆくと、僕はその欲求を満たす手段を「小説」にした。だから今、暇な時に色々書いている。
ある時は合点のゆく、ある時は没になる、そんな作品を生み出し、ここで投下させて頂いている。
長ったらしいものを書いて、そしてそれをもってして感謝の意を表せないか。
それが、僕がこの話を書いたキッカケです。
だから、僕はこのおまけに全てをかけました。
いや、全然そんなにかけてはいません。かなり誇張しました。すみません。
まぁあの、これまでに謎(って言うの?)をかけてきた部分が一気に明らかになるという事で。それで勘弁して下さい。
というわけで、エクストラチャプター「Apocalypse's EVE」スタートです。
(たった今、重大なミスに気づいた…
>>89と
>>90、Apocalipse'sじゃなくてApocalypse'sだった……皆さん、すみません)
103 :
旅人:2009/01/04(日) 01:08:33 ID:EiF2kfec0
08/12/19 23:06
加瀬の話が終わり、彼女と松木はしばらく語り合った。
それから松木は、内線電話で誕生日ケーキを持ってくるようにとお手伝いさんに頼んだ。
数分もしない内に、町田が先日松木邸に届いた CS beatmania IIDX 15 DJ TROOPERSの
特別版の箱を発見、有無を言わせず遊ばせてー!とPS2を起動、
ディスクをセットして専コンを繋ぎ、最初の登録画面で
DJ NAMEを「IIDX 15」にしてFREEモードを選んだ。
さてそうして、ケーキが届くまでに町田は松木ら四人を前に自分のプレーを披露した。
一曲目に「TROOPERS」(A)。デスボイスと重低音なギター、スクラッチと
特徴の多いこの曲を難なくクリア、総BP数は10にも満たなかった。蛇足だが、djlevelはAAAだった。
次に選曲画面を見ると、「TROOPERS」のすぐ隣に同名の曲の色の違う難易度が追加されていた。
黒い赤。あ、この難易度は何と呼べばいいんだ?と松木が思っている中、
「わぁ、何これ!面白そうだからやってみよっと」
そう言った町田が二曲目に「TROOPERS」(A+)を選曲した。
A譜面とは比べ物にならない程スクラッチが大量に配置され、
より曲に対する演奏感が増したと言えるこの譜面を、またしても町田は難なく捌く。
「スクラッチ面白ーい!キュキュキュカキュキュキュカキュキュキュキュ……」
と言いながら、所々ミスをするものの、町田の両手はしっかりとスクラッチを回して鍵盤を叩いていく。
「ち、ぎ、り、だっせーい!」という空耳と同時に曲は終了、またもAAAで町田はクリアしていった。
町田が三曲目に「MENDES」(A)を選曲した後、
談話室のドアがコンコンとノックされて、多田が蕎麦屋な格好をして現れた。
その所以で、右手に乗せられている高級料理店で見るような銀のプレートと銀の蓋が、
まるで蕎麦屋の人がざる蕎麦を積んで運んでくるかのように見えた。
町田の打鍵音とMENDESが流れる談話室の中で
多田がテーブルの真ん中にプレートを置き、それから蓋を取る。
果たして、そこにプレートの上に上がっていたのは大きなホールケーキと、
こじんまりとしたざる蕎麦が人数分積み重なっていた。
つゆはセルフサービスなのか、ペットボトルに詰められ、小さな椀が人数分備えられていた。
「これがホントの麺です、なんつってな!アハハハハハ」
多田は誰にもうける事の無かった渾身のギャグを放った後、恥ずかしそうに去っていった。
104 :
旅人:2009/01/04(日) 01:12:12 ID:EiF2kfec0
「それじゃ、皆さんでいきましょうか。…せーのっ」
町田が演奏を終えた所で松木が四人にそう声をかけた。次には
「「「「「頂きまーす!!」」」」」
と五人が同時に言い、そしてケーキとざる蕎麦を食べ始めた。
皆が皆、一様に美味い、美味い麺です、ケーキ美味エエエェェェ!!
などと感想を述べたり叫んだりしながら、それでも楽しそうに食事を取っていた。
小暮が、松木が少し変だと感じてケーキを口に入れてそれを流し込んでから言う。
「松木さん」
「え、何です?」
「蕎麦、食べないんですk」
言い終える前に小暮は前のめりになって倒れた。
松木を除く三人がそれに驚き、そして次の瞬間には小暮と同じように前につんのめって倒れた。
その光景を、松木は黙って見降ろしていた。
「すみません、こうするより他は無いんです。
必ず、皆さんだけは助けます…他の人たちも……多田君!」
独り言を言っていたかと思われた松木が多田を呼び出し、
談話室の前に待機していた蕎麦屋スタイルの多田が談話室に入ってくる。
松木は多田(蕎麦屋スタァイウ)にすぐさま命令を出す。
「皆に特効薬を。後、アレは出来てる?車の用意は?」
「大丈夫です。アレの用意も、車の用意も。薬は四人に無理やり飲み込ませます」
分かった、とだけ返した松木は多田を談話室に残し、廊下へ出た。
そのまま玄関の方へ歩き、そして出迎えていた執事石坂が、
ゆう様と言いながら黒い艶々したロングコートを差し出した。
「石坂さん、これの用意はもう出来ている?」
「えぇ。このコートも、車のエンジンもおかけしました。ではどうぞ、行ってらっしゃいませ」
105 :
旅人:2009/01/04(日) 01:19:02 ID:EiF2kfec0
何で、どうしてこんなに眠いんだ…?何で皆がぶっ倒れているんだ?
松木さん、すみませんって何だ?皆さんだけは助けるって、どういう事だ……?
………後を、追わなく、ちゃ…………
松木が玄関で黒く艶やかとしたロングブーツを履いた時、
彼の後ろで立っているはずの石坂が驚いた声を上げた。
松木がそれに驚きながら振り向くと、そこには居るはずのない人物が立っていた。
「探偵さん…」
「食べ物に何を仕込んだ?
アンタはケーキを食ってはいたが、蕎麦は食わなかったな……
眠り薬でも入れたか?クソ、頭がガンガンする…眠い………」
小暮が左手で壁に手をつきながら松木に言った。
松木は驚きと賞賛の二つの表情を顔に浮かべながら、
マフィアが拳銃を取り出すような仕草をし、
小暮の予想通り、右手に拳銃を握ってその銃口を小暮に向けながら言う。
「すみません。タイムリミットはもう一時間を切りました。
後30分と少ししかない。急ぐので、眠ってください」
何、と弱い声で返答した小暮は次の瞬間右の腿を押さえていた。
ガァッ!と苦痛を叫び、それから両膝をついて手をつかずに小暮はドサッと床に倒れこんだ。
松木の左手はトリガーを引いていた。
だが、その銃からは炎も煙も銃声も出ていない。
「サプレッサー付き麻酔銃、思っていたよりいい感じだ」
「お褒めの言葉を頂き、有り難く存じます。
この者の処置は私に任せ、ゆう様は早くお行きになってください」
分かった、と残して松木が玄関から出て言った後。
そこには老紳士石坂と、彼に支えられて何処かへ運ばれてゆく探偵小暮の姿のみがあった。
106 :
旅人:2009/01/04(日) 01:21:02 ID:EiF2kfec0
08/12/19 23:14
松木は自分の車を高速で走らせていた。
交通量の少ない山道をビュンビュン飛ばす松木は、一瞬だけある事を思い返していた。
一週間前から知った「ある計画」の存在を知るきっかけから、
松木は走馬灯のように記憶をフラッシュバックさせていた…………
一週間前の出来事だった。
その日は町田さんと共に「平和のラヂオ」の収録をしたのだった。
町田さんがせき込みながらも収録を頑張ってくださった事が、今でも鮮明に記憶している。
駅まで僕が送った後、その後の事だったと思う。見知らぬ男が僕に声をかけてきたのだ。
僕にはそっちの気が毛頭も無いので、無言でその場を去ろうとした。だが、
「松木さんよぉ、とんでもない情報が手に入ったんですわ」
と男が言ったのだ。僕は思わず振り向きざまに「どんな?」と尋ねてしまった。
聞いて驚かないでくだせぇよ、と男は前置きしてから言った。
「ここじゃ話せねぇんで、どこか人気のない場所で……」
「じゃ、僕の家に来てください。僕の部屋なら気楽に話せると思いますよ」
107 :
旅人:2009/01/04(日) 01:25:06 ID:EiF2kfec0
僕と男は数十分後には僕の部屋に居た。
僕が椅子を差し出して座るように勧め、
そして男が座った後に僕は別のイスに座った。
男は信じてくれようもありませんがね、と前置きしてから言った。
「聞きましたよ、今日のネットラジオ。
『平和のラヂオ第六回目』、いい話でしたねぇ。
あっしはあの町田彩さんのファンでねぇ…
顔立ちはまぁまぁだし、音ゲーはどれをプレーしてもとても上手い。理想のタイプですわ」
「……それが『とんでもない情報』なんですか?」
「今のはカットしておいてくだせぇ。
………一週間後に自分が死ぬと聞いたら、どうしますかねぇ?」
「ぇ…あ――はい、分からないですね、その時にならないと」
やっぱりそう言うとあっしは思ってたんですよ!と男が愉快そうに笑った。
そして男は笑い顔のまま、僕に向けてとんでもない事を言い放った。
「その時ですから、答えられますでしょ」
「………からかうのもいい加減n…」
松木さん、と男は力強い口調で言った。
「これまでに、風邪のような症状を出した事は?」
「無いですよ」
「じゃ、激しい咳は?」
「いいえ」
「そんだったら、最後にゲーセンで音ゲーをしたのはいつですかねぇ?」
「ついさっき、ピースで。町田さんとIIDX勝負を。
言うまでもないですけど、負けました」
んな馬鹿な、と男は吃驚した様子で呟いた。
その後に抗体がどうとかこうとかと勝手に独りごちていたから、僕は男に聞いた。
「抗体?新種のウイルスでも現れたって言うんですか?」
何気ない一言だった。巷では新型インフルエンザが多数の死者を云々と聞いていたので、
その情報が僕の頭に作用してこんな事を言わせたのだと思う。
でもあの男は、全身から怒気を放出させながら僕に叫んだ。
108 :
旅人:2009/01/04(日) 01:30:08 ID:EiF2kfec0
「新種のウイルスゥ?!そんなもんじゃねぇんですわ!
アレはどんなもんでも太刀打ちできねぇんですわ!
一種の限定されたバイオハザードを起こすだけの威力があるんですわ!」
バイオハザード。生物災害。レベル4。僕の頭の中にはこの三つの単語が瞬時に浮かんで消えていった。
そして、僕は直ぐに事の重大さに気がついた。
「バイオハザードが起きる!?一体どういう事ですか!!?」
「落ち着いてくだせぇ、松木さん。
………これから話すのはすべて真実です。落ち着いて聞いてくだせぇ」
僕が分かりましたと返すと、
男は一度天井の明りを見てから僕に目線を移して言った。
「『大富豪』って団体を知ってますか?」
「いいえ、初耳です」
「どんな団体だと思います?」
「さぁ。金持ちの集まりじゃないってのは推測がつきますけど」
「流石は松木さん、頭の方も鋭いねぇ。
………大富豪ってのは、国が運営している殺し屋組織の名前ですわ」
一瞬、ほんの一瞬だけ僕は自分の耳を疑った。
「国 が 運 営 し て い る」 殺し屋組織?
おいおい何だよ、フィクションワールドでもあるまいし。
混乱していた僕に、男の止めの一撃が入った。
「信じらんねぇのも無理はねぇと思います。
でもさっき言ったはずです。これから話すのは本当の事だと」
「……国営の殺し屋組織って言いましたっけ。
なんで国がそんな事をしなきゃいけないんですか」
「そりゃあ、私立のがあれば国立のだってあるんじゃないすかねぇ。
ま、確実に殺しを依頼するなら国立か、
それとも社会的立場がかなり上の人間専用のものなのか…」
「国立の殺し屋組織なら個人情報を守ってもらえる、
とかそんなメリットとかあるんでしょうか……?」
でも、二つばかりはっきりしている事があるんですわ。
そう言った男は僕の目を見つめながら真剣な口調で言った。
「一つ。彼らのコードネームはトランプの番号なんですわ。
NO.4、NO,8みたいな感じですわ。
でも、Jから始まる記号からは、その記号の呼び名がコードネームらしいんす。
ジャック、クイーン、キング、エース、そしてジョーカー」
「じゃ、2の数字の人のコードネームは?」
「NO.2ですわ」
「へぇ、ザ・セカンドとかいうカッコいいものかと思ってました」
あんな奴らにカッコよさを求めるなんて、やっぱ変わってるねぇと男は独りごち、
それから二つ目を、それは僕にとって衝撃的な情報だったそれを言った。
「大富豪の奴らは皆、超 能 力 の よ う な 能 力を有しているんですわ」
109 :
旅人:2009/01/04(日) 01:34:37 ID:EiF2kfec0
そこで、松木の記憶のフラッシュバックが解けた。
それと同時に、松木は車を路肩駐車させて車道へ飛び出していく。
そのまま松木は車から見て右手に、つまりは木々が生い茂る山を駆け上がっていった。
暗闇の中、雪や茂みに足を引っ掛けながらも松木は走り続けた。
山中で松木はハッ、ハッと荒く息をしていた。彼は自分の体力に相当の自信を持っていたのだが、
100M走をするかのようなペースで走り続けているのだから無理はない。
それでも、松木には全速力で走らなければ理由があった。
……このままだと、皆死んでしまうから。
この身がどうなろうとも、皆が助かればそれでいい。
08/12/17
あれは昼頃だっただろうか。
僕の信頼できる人間で構成した情報収集隊「アンドロメダ」が、
ピース店内で人気のない所でモップをかけている僕に報告しにきた。
姓を羽田という女性がそのアンドロメダのリーダーであるのだが、彼女が僕に言うには、
「大富豪がどのようにして音ゲーマーを殺すのか、そのメカニズムが分かった」らしかった。
こう言っては不謹慎だが、僕はとても興味を覚えていた。
一体どのようにして、全国に沢山存在する音ゲーマーを選別して殺すのだろうか。
その事が僕の頭から離れなかった。国立の殺し屋組織にしか出来ない方法があるというのだろうか。
その答えは、意外にもあっさりしたものだった。
その方法と手段。まず手段の方から伝えられた。「行脚」。これが手段だと羽田は言った。
そして方法。あの変な男から「生物災害を引き起こすレベルの云々」とは聞いていたが……
「全 国 各 地 の ゲ ー セ ン を ウ イ ル ス を ば ら 撒 き つ つ 行 脚 す る」
何という事だ、と僕は思った。そして、もう残された時間が二日しかないと知り、絶望した。
110 :
旅人:2009/01/04(日) 01:39:52 ID:EiF2kfec0
残り時間はたった二日。被害は全国規模。結果は大量死。
しかしどうにも出来ない。出来ないのだ。たった二日で何をやれと?
そんな感じにどうする事も出来ないという絶望に打ちひしがれていた僕に、羽田は優しく言った。
「大丈夫です。ゆう様ならどうにか出来ます」
「どうにかって…奴らはどういう風にしてかは知らないけど、
全国にウイルスをばら撒いたんだろ?」
「えぇ。我々アンドロメダが調べたところ、音ゲーマーのみ感染するようです。
人体を調べ上げて音ゲーマーだと判断した後、感染症状を引き起こして
ある時間になると発症、心臓マヒを起こさせる殺人ウイルス。
そんなウイルスが全国のゲーセンの音ゲー筐体の
イーパス読み取り装置から検出されてきています」
羽田の言葉を聞いて、僕の中で大富豪の手口が読めてきた。
その仮説を羽田に聞いてもらう事にした。あまり自信は無かったけど。
「………大富豪のメンバーが行脚して音ゲーをプレーする。
でも、その時使っていたイーパスにはウイルスが付着していた。
そんな事とはつゆ知らず、別の音ゲーマーが汚染された読み取り装置を使って
音ゲーをプレーする。プレー終了後に排出されたイーパスを媒介として、その音ゲーマーが感染する…?」
概ねその通りです、と羽田は言った。そして深刻な面持ちで続けた。
「そのウイルス『アポカリプス』はもう、殆どの音ゲーマーに感染しているでしょう。
先に言った感染症状、兆候とも言いますが、それは『激しい咳を繰り返す』事なんです。
もう、あの町田って人も感染しています。そうとしか考えられません」
「そうか、僕にはそんな症状が出ていない……
だからあの男、抗体がどうとかって言っていたんだ………」
残念な事に、と僕が一人合点している所に羽田が割り込んだ。
「アポカリプスの発症は、ある時間で一斉に起きるようプログラムされているようです」
「さっきから聞いていると、まるであのゲームに出てきたウイルスみたいだね?」
「何のゲームかは存じ上げませんが…
遺伝子的殺人ウイルス、みたいな名称が合うのでしょうかね」
「あのゲームでは殺人ウイルスとかそんな位置づけだったから、それでいいんじゃない?
それより、どうにかしてこのアポカリプスの発症を抑える方法は無いの?
町田さんと収録した後、家に通した情報屋にどうにかするって約束しちゃったんだけど」
うーん、と羽田は考えてくれた。僕も必死に頭を働かせたが、なにも名案は浮かばない。
「八方塞がり‐もう、何も見えない‐ ダメダメ人間 松木ゆう」 なんて考えて思考が逸れた時――
111 :
旅人:2009/01/04(日) 01:44:21 ID:EiF2kfec0
「ァァアアアアアアア!!!!!」
いつも物静かな女性だなぁと思っていた羽田が、突然吠えた。
「ウイルスプログラム!人体限定の!プログラムウイルス!」
「ちょっ、どうしたの羽田さん!落ち着いて!」
「分かりましたよ!」
「何が!」
僕がそう叫んで羽田を黙らせ、一度息をさせてから発言させた。
「アポカリプス発症を阻止する方法、見つけました!」
そういう訳で、松木ゆうは山の木々が開けた場所で息を荒くしながら立っていた。
全ては、アポカリプス発症を阻止するため。
全ては、何の罪のない音ゲーマー(一部を除く)を死なせないため。
全ては、もしかすると最後になるかもしれない友人たちとの思い出作りのため。
全ては、そういうのをひっくるめて自分のため。
松木が傍らの木に手をついて休息をとりつつ、
マナーモードにしている携帯電話で現在時刻を確かめる。
「11:34……もう、二十分と少ししかないのか………」
松木は、二日前の羽田との会話を思い出していた。
彼女がアンドロメダで調べ上げた事とは、
音ゲーマー殺害の方法と手段と、それがいつ決行されるかという事だった。
松木の脳内で羽田の言葉が再生される。
「アポカリプスが発症する時間は、08/12/20 0:00です………」
アポカリプスの発症、(ほぼ)全ての音ゲーマーの終わりがやってくる時間が、もうすぐそこまで近づいている……
112 :
旅人:2009/01/04(日) 02:05:19 ID:EiF2kfec0
羽田と話した日。
羽田をリーダーとする情報収集隊「アンドロメダ」が
得た情報を分析すると、アポカリプスの発症を抑えるカギが見つかった。
アポカリプスは先進的な殺人ウイルスだ。だが、先進的すぎたのが弱点だった。
殺人ウイルスが人体に感染、そのウイルスが遺伝子的に色々と感染者を判断、
殺害すべきターゲットだと認定した時には既に感染者は死亡している…
これが、殺人ウイルスの常識というかそんなようなアレだ。
だが、アポカリプスは遺伝子的な情報のみで音ゲーマーかどうかを判断できない。
その為にイーパス読み取り装置を媒介装置とし、イーパスを媒介として感染させる。
この時、全く無関係の第三者が感染しても死亡しないような配慮が施されている。
神を信ずる者が救われ、そうでないものが死ぬ。
まさに、アポカリプスという殺人ウイルスはその名を冠するに相応しいのだ。
そこを松木達は弱点と見た。
アンドロメダの調べによると、大富豪からコナミのサーバーに対する
ハッキングのようなものが随時行われているらしいのだ。
それが、アポカリプスが人間の選定を行い、そしてその役目を果たすキーとなっている。
普通、管理者が気づきそうなものなのだが……と羽田は言っていたが、
それは企業名誤植を続けるあの会社なら不思議ではないと松木は思った。
そして思って、ごめんなさいごめんなさいと目に見えない相手に謝罪していた。
つまり、大富豪のアジトにはコナミのサーバーにハッキングを仕掛ける装置があって、
そしてそれを破壊すればアポカリプスは発症しない。それがアポカリプスを止める唯一の方法なのだ。
(という仮説で、実際のところどうやってアポカリプスを制御しているかは知らない。
本当にハッキングによる制御なのか、それとも別の方法で制御しているのか。
それは分からないが、兎に角、アポカリプスは制御されたウイルスだという事は分かった。
この一歩は小さな一歩かもしれないが、松木達にしてみれば大きな一歩だった)
――そして松木は、意外にも自宅から近い山奥の地中に構えられた大富豪のアジトを見降ろしている。
アンドロメダの調べによる情報は、パーティーで小暮が言っていた事と被る所もあった。
数字とJからKまでのコードネームのメンバーは「錯覚」という超能力という事を、
Aと2のコードネームのメンバーは「変容」という超能力という事を、
そして、ジョーカーが使う超能力の名前と内容が一切分からないという事が分かったのだ。
うん、それで十分。あの時にNO.9から渡されたお守りもある。錯覚対策は十分。
そうだ、もうあの時にはNO.9は人の形をした何者かだった。
何故か分かる。そう、意味も理由もないのに、何故か、直感的に。
それに、僕の体に先天的にあるという「A-ウイルス抗体」を使用した特効薬をあの四人に飲ませた。
副作用として、激しい睡魔と軽い記憶喪失を引き起こす代物なんだけど。
でも、あの四人にだけは死んで欲しくない。差別するようで悪いけど、それはこれからの行動で示す。
―――必ず、全ての音ゲーマーを救う。大富豪だか何だか知らないけど、必ず潰す。
何が神の裁きだ、一体何様のつもりなんだ。大富豪も………彼らにそんな依頼をした奴も――
113 :
旅人:2009/01/04(日) 02:11:45 ID:EiF2kfec0
いかがでしたでしょうか?これにてエクストラチャプター「Apocalypse's EVE」は終了です。
エクストラがあるという事は、その次もあるという事です。つまり、あと一つです。
もうじき完成するので、もう少し付き合って頂けたらと思います。
Q.なんで殺人ウイルスの名前が「アポカリプス」なの?」
A. えーと、大富豪がこの依頼の為に作った
殺人ウイルスをアポカリプスと名付けた理由についてお答えします。
僕はアポカリプスと言えば、
あの魔の十六分と常盤さんを思い出すのですが、それは全く関係ないです。
「(あくまで限定的な)大惨事」という意味で大富豪は名付け、松木たちもそう呼んでいます。
Q.何で羽田がリーダーの情報収集隊の名前が「アンドロメダ」なの?
A.このネーミングの着想はIIDX REDのアンドロからきています。
あの曲のムービーは、消えた敵を探す主人公を描いたものだったと思うのですが(うろ覚えだなー)
そこから「んじゃ、アンドロメダでいいや」と思いました。ただそんだけです。
次回で本当に終わるって言ったし、意味のない自己満足のQ&Aもやったので、
もう書き残す事は無いのですが、もう少しだけ。
次回は今までとは違う方向性でいこうと思います。
まだ表現していない方向性は色々あるのですが、
そのうちの一つを選んで書こうと思います。
その為に人の小説を読んで勉強したり、その為に時間をかけたり。
また懲りずに僕は物を書いてそれをここに投下する。それだけです。
最後に。最後の短い一つのお話が投下されるまで、その時までさよならです。
(意味が分からない、矛盾している、説明不足だ、
と思われるところがあれば、ガンガン質問してください。その他ご意見感想なども楽しみに待ってます)
このシリーズももう大詰めですね
あとはもう少し主人公サイドと敵サイドの駆け引きを見たかったけど
新年初age
116 :
旅人:2009/01/08(木) 01:20:19 ID:7xt8iWxB0
今晩は、旅人です。
>>114さんのお言葉を頂き、アッサリな感じにするつもりだった
ワンモアエクストラチャプター「Hopeful Dawn」の内容がいくらか増えました。
これにより二回に分けて投下って事になります。宜しくお願いします。
ワンモアの裏話です。
実は前々から予定していたプロットと、考え直したプロットでは全然違う仕上がりになりました。
例えるなら、アッサリした味噌ラーメンと、こってりした味噌ラーメンくらい違うと思います。
どうでもいいですが、僕はこってりな味噌ラーメンが好きです。
松木側と大富豪側の駆け引きが見たいという
>>114さんの声にお応えして、
ちょっとだけ松木の20日に近づく19日の活躍を描いてみました。
期待されていた駆け引きがどうとか……
というものとは随分かけ離れたものになるかもしれません。いや、かけ離しました。
生憎、心理戦がどうだとかそういうのは苦手なんです。頭悪いんですよね、僕。
クロスワードの時は胃がキリキリしたというのは嘘ですが、結構悩みました。
あの時はもう、知恵熱出そうでしたよ。いや、全くの嘘ですけどね。
という訳で、ワンモアエクストラチャプターが解禁、
その前編といえる内容が今から投下されます。それではどうぞ。
(前の投下の時に言うのを忘れていたので今言わせて頂きます。
新年あけました。おめでとうございました。今年もよろしくお願いします)
117 :
旅人:2009/01/08(木) 01:24:14 ID:7xt8iWxB0
08/12/20 07:12
町田は自分の住むボロアパートの自室で目を覚ました。
自分は寝床を用意した覚えがないのだが、何故か自分は布団に入っていた。
――昨日は私飲み過ぎたかしら?いや、いつもの人達とは飲みに行く約束をしてないし…
不可思議を感じつつも、町田は仕事に行くために起き上がる。
そしてそそくさと着替えや外出の準備を始めていった。
同日、07:15
加瀬は狸の湯の宿泊施設の部屋で目を覚ました。
松木ゆうの主宰する「ピース」で行われるタダゲーパーティーに行くつもりが、
憧れに近い感情を持つ松木を一目見ようとして電車に乗ったつもりが、だ。
――どうして私、狸の湯に泊っているんだろう?
起き上がって布団を退け、それから起き上がった加瀬はカバンから財布の中身を確認する事した。
何かの犯罪に巻き込まれたのかもしれない、と思った加瀬は財布を調べようと思い立ったのだ。
すると、財布には両親がくれた電車賃と宿泊費の他に、
小さなメッセージカードと付随して五千円札が二枚ついていた。
加瀬が訝しげにメッセージカードを見ると、こんな事が書いてあった。
「すみません。ここの宿泊費をあなたの財布に残しておきました。
それを罪滅ぼしとさせて下さい。 by M.Y」
誰よこれ。そう加瀬は呟いてから部屋の片づけをして、それから部屋から出ていった。
118 :
旅人:2009/01/08(木) 01:28:24 ID:7xt8iWxB0
同日 6:42
坂野が目を覚ますと、そこには見慣れた天蓋があった。
隣には加奈が静かな寝息を立てて寝ているのが見えた。
背中全体から受ける柔らかい感覚と辺りを見回して得た情報を基にすると、
どうやらここは自分の家の寝室だという事が分かった。
だが、坂野の思考は別の方向にも向いていた。
何故、昨日の記憶がすっぽり抜け落ちたのか?
―二日前か、近藤とユージンとゲーセンに行って遊んだのは。
二人は何か、無理して来てくれていたみたいだけど、大丈夫だろうか?
それより、何で昨日の事が全く思いだせないんだ…?
まぁいいか、と呟いて坂野はベッドから降り、そしてそのまま外へ散歩に行った。
同日 8:23
「あのー!すみませーん!」
小暮はそんな女性の声で目を覚ました。今自分がいる場所は自分の事務所で、
客は何でインターホンを使わないんだろうと疑問を持つと
そういえばインターホンが無いんだったと一人合点し、そして立ち上がる。
そして小暮は、自分が寝間着姿ではなくいつもの普段の格好をしている事に気づき
何とも言えない違和感を感じながらはいはいはいと玄関に向かう。
はーいはいはいと言いながら玄関のドアを開けると、
「すみません、これ、先月の月謝です。
息子に持たせたのですが、渡していなかったようで…本当、申し訳ありません!」
必死になって謝ってくる中年の女性が目に入った。
あ、この人○×君のお母さんか、と小暮は分かった。
母親を落ち着かせてから月謝を受け取り、それから母親を送ってから事務所に戻る。
一つ、疑問に思った事があった。昨日の記憶がすっぽり抜け落ちているのだ。
昨日は、確か大事な用があってちょっと遠い所、多分港町にでも行くつもりだったのだろうが…
―いや、まだ白壁占拠事件の取り調べとかが続いてるし、
そろそろ署の方に行かないと。田中刑事や中井刑事、大変だろうな……
119 :
旅人:2009/01/08(木) 01:33:32 ID:7xt8iWxB0
08/12/20 0:00
20日の地方新聞紙の一面を飾った記事。
某県某区の港町の近くにある山が、突如爆発したという事件について。
その事件に僕、松木ゆうが大きく関わっているという事はごく少数しか知らない。
アンドロメダの得た情報を基に、僕たちは作戦を練りに練って
音ゲーマー殺人ウイルス「アポカリプス」を止めるために僕はその山に行った。
山の頂上。そこがアポカリプスを開発、散布した組織「大富豪」のアジトだった。
大富豪を構成するメンバーにはある共通点がある。
それは「全員が死者で構成されている」という事だった。
実際、ゾンビが大富豪のメンバーとして動いている訳ではない。
あくまで「戸籍上」とか「そもそもそんな人は存在しない」とか。
そういう意味での死者であって、そして彼らが死のうとどうという事は無いのだ。
…国立の殺し屋組織「大富豪」は、手駒を失っても痛くも痒くも無いように組織されていた。
僕は19日の23:40に大富豪のアジトに潜入した。
アポカリプスは制御されていないと機能しないウイルスというのは分かっていた。
だから、アポカリプスの弱点を突き、発症を防ぐ。
つまり僕が大富豪に潜入した目的は、アポカリプス制御装置を破壊するためだった。
それが見つからなかった場合の策として、僕の仲間が提案したものがある。
僕の着ていた、何の変哲のない黒のロングコートだった。
だが、それはちょっとした武器庫となっているのが特徴だ。
僕が腕を離れている敵に突き出せば、コートの腕から極薄の刃が飛び出す。
コートの中には麻酔銃が一挺と、実弾を装填している拳銃が二挺。
マガジンだってちゃんとコート裏に大量にある。弾切れの心配は皆無だった。
そして、このコートの最大の特徴があった。それも二つ。
一つは、どんな衝撃にも耐えられるように作られてある事。
流石にロケットランチャーの直撃は防げないだろうけど、拳銃の弾くらいなら平気で受け止められる。
もう一つは、広範囲に置いて高威力の爆発を生むことが出来る事。
アンドロメダの調べでは大富豪のアジトの詳細も分かっていた。
それを基に書きだした地図を見る限りでは、このコートの爆発でアジトを吹き飛ばす事が確実に出来る。
120 :
旅人:2009/01/08(木) 01:36:16 ID:7xt8iWxB0
残り20分でアポカリプス制御装置を探し出し、
探し出せなかったらコートを爆発させてアジトから抜け出す。
それが、僕とアンドロメダのメンバーで考えた作戦だった。
もし見つかって戦闘にでもなったとしても、
先に言ったとおり彼らは死者なのだから、殺しても問題は無い。
一つだけあるとすれば、殺人のショックに僕がどれだけ耐えれるだろうかという事だけだ。
結果、僕は人を一人殺した。そして、そのショックに耐えきった。
そうでなければ、12月20日にこんな日記を書く事は出来ない。
人を殺した事の自分へのショックを耐えれたのは何故か、と思う。
言い方は悪いが、死んでも何の痕跡も残らない人間を殺したからか、
それとも、殺人という行為の重さが分からないのかはよく分からない。
分からないからこそ、僕は僕じゃないような錯覚を感じるのだ。
潜入、と書いた。
つまり、たった一つの例外を除いて僕は潜入から脱出まで誰にも見つかっていない。
その点では、フィクションに存在するアノ人と肩を並べる事が出来るかもしれない。
ただ一人、僕が見つかってしまった人。それは………
大富豪のアジト。それは山中に埋められてるようにして建てられている。
それは、高さ3000メートル、半径1キロメートル位の円筒状の構造である。
その最下層に松木は潜入、アポカリプスを制御していると予測される
コンピューターを探していた時、松木はとても広い場所に出ていた。
121 :
旅人:2009/01/08(木) 01:42:30 ID:7xt8iWxB0
そこは「白を基調とした半円球型のドーム」と表現できる。
何もない、ただ広いだけの空間。
静寂のみが広がり、響くのは一人の人間の心臓の鼓動のみ。
松木は無意識の裡に両手をスーツの中に突っ込み、
実弾を装填している二挺の拳銃に手をかけ、抜き出した。
それに応じるようにドームの頂点から穴が開いた。
同時に、緋色のコートにサングラスの男がその穴から落ちてゆく。
頭から落ちてゆくかと思われた男は、
突如その姿を消したかと思えば既に、松木の後ろに立っていた。
(コイツ、人間じゃない。小暮さんの言っていたジョーカーって奴か?)
松木は気配で男の位置を感じ取って、そして驚きを隠しながら言った。
「……アンタがジョーカーか?」
「松木ゆうだな。いつもとは口調が怖いじゃないか。おぉ、怖い怖い」
ジョーカーのふざけた返答に構わず、松木はすっと両腕を後ろに伸ばした。
次の瞬間、バァン!という銃声と、空薬莢が排出されて白い床に落ちて音が響いた。
それから、松木は後ろに180度振り向きながら二挺拳銃を連射した。
常識的に考えると、松木の初撃でもうジョーカーはダメージを負い、
そして動きが鈍った瞬間に連射を喰らい、鮮血をまき散らしながら死んでいくはずだった。
「現実は、そうは上手くいかないものだ」
声は松木の頭上からした。松木の左腕が脊髄反射に近い動きで
天井を示し、車線上に敵を捉えていたが、
その前には彼の体は吹き飛んでいた。蹴るか何かされて強い衝撃を受けたのだ。
グフッと松木は苦痛の声を上げ、両足で着地した後に
ジョーカーがいるはずの場所を見るが、どこにも彼の姿は無い。
――緋色のコート。サングラス。目立つ要因ばかり揃っているのに、何故だ?何故見えない?!――
122 :
旅人:2009/01/08(木) 01:50:02 ID:7xt8iWxB0
狼狽する松木の周り、誰もいない白い空間全体にジョーカーの声が響く。
「そういう事もあるさ、松木」
松木の耳にそんな声が入って、そして彼は左に向いて連射、
続いてバラバラの方向に向けながら二挺拳銃を撃ち続けた。
数秒後、カチッと両の拳銃が音をたてて弾丸が飛ばなくなった。
その時、ジョーカーが松木の目の前に現れて力を溜めるような体勢をとった。
――奴は何か不可思議な力で必殺の技を繰り出し、
僕を殺そうとするだろう。でも、それが、それこそが――――
「命取りなんだ!!!!」
松木はそう吠えると両手を軽くシェイクしながらジョーカーに突っ込んだ。
ジョーカーの体は金色のオーラのような霧のような変なものにに包まれ始めている。
その殺気立った顔は、その瞬間でほんの少しだけ、怯みの顔に変わった。
松木の両手に握る拳銃のグリップ部分、
その一番下のマガジン換装部に鈍く光る刃が現れていたからだ。
松木は雄たけびを上げながらジョーカーに斬りかかり、
その胸を裂き、その腹を裂き、そして両肩を裂いた。
グワッとジョーカーは苦痛を上げ、そして数歩後ろによろめいた。
松木はそこで両腕をバッとジョーカーに突き出し、そして勝利を確信した。
松木の考案したこの戦闘用コートには、
腕が急に何処かへ伸びると、コートの腕部分から刃が飛び出す仕組みになっている。
その刃は極薄で極小であるが、人一人を殺すのには何の不自由もない。
その理由は、この刃の飛び出し機構にある。
しかし、今重要なのは松木とジョーカーの繰り広げる戦闘の行方だ。
結果、松木はそこで勝利をものにする事は出来なかった。
またもジョーカーは姿を消し、松木が放った二つの刃を回避したのだ。
ここで、松木は焦燥の念に駆られる。
果たして、僕に勝ち目はあるのだろうか。こんな化け物相手に勝てるだろうか。
もう時間は少ない。あと十分程度しか残されていないはずだ。
そうなると、僕はあと三分程度でジョーカーを倒し、
そして全力でこのアジトから逃げ出さなければ死んでしまう。
最悪、ジョーカーを倒す事も出来ず、アポカリプス制御装置にもたどり着けないとなると…
そこで松木は目の前にいる(とはいえ見えないのだが)敵を倒す事に専念した。
そんな最悪なシナリオを考えてどうする。松木は一瞬だけ思考をそらした自分を責め、
そして拳銃のリロードを行いながら一つの妙案を思いついた。
これが通じなければ、絶対にジョーカーを倒す事は出来ない。松木は強くそう思った。
123 :
旅人:2009/01/08(木) 01:56:59 ID:7xt8iWxB0
音楽ゲームには「ステルス」というオプションがある。
その名の通り、ノーツやらオブジェやらチップやらバーやら矢印やらが見えなくなるのだ。
擬似的にステルスを作り出す事も可能だが、
それをやるのは本当にごく僅かな人だけかもしれない。
GAMBOL、という曲を知っているだろうか。
曲がカッコいい、ムービーが実写である…という事を言いたいのではない。
判定の厳しさ。それもこの曲の特徴だ。
ジャストグレートか、それともミス扱いか。そのどちらかにしかならないのだ。
音ゲー的に松木が12月19日の23:48から行っていた戦闘を説明すると、
ステルスとGAMBOL(A)判定を複合してMENDES(A+)プレーするようなものなのだ。
そんな事はそこらの皆伝でも町田でも有名なランカーでも出来っこないだろう。
だが、次元は違うがそれに近いような状態の戦闘を、松木はその時間に繰り広げていたのだ。
「畜生、穴冥ハードやった方が簡単じゃねぇか?」
ポツリと松木が誰に言うでもなく呟き、そして、
「いや、どっちも無理ゲーだな。
穴冥ハードも、ジョーカーを倒すのも………」
そう言った時である。松木の脳に二つの情報が入った。
一つは、タタタタタタタタタ……と細かい音が小さいながらも立て続けに聞こえる事。
もう一つは、松木の視界に赤い線がビュッっと走って見えた事だった。
―――何だ今のは、幻聴と幻覚だと?いやいあ、そこまで参っちゃいないはずだ―――
松木は自分を奮い起こして周囲を確認しなおす。
すると、白い半球型のドーム全体に赤い線がヒュッ、ヒュッっと走っているのが見えた。
「まさか、これは……!」
松木の頭が、一万ピースのジクソーパズルの絵を一気に復元させるような
幻覚を起こしながら、次第にジョーカーの一部分について理解を示してきた。
―――考えが正しければ。この勝負、僕が貰った……!―――
124 :
旅人:2009/01/08(木) 02:01:52 ID:7xt8iWxB0
いかがでしたでしょうか。
松木ゆうとジョーカーの戦いは一体どのような顛末を迎えるのでしょうか?
いや、もう、結果は分かりますけどその中身がね、気になると思うんですよ。
え?思わない?そういう人がいれば謝ります。本当に申し訳ない。
また、裏話です。
「作中にどうにかして音ゲー要素を入れなければ、ただの低級なバトル小説になってしまう!」
と焦って書いた描写がありました。
…ステルス+穴ガンボル判定+黒MENDES。
どうなのでしょうか。アリなんでしょうか。
これってAUTOさんしか出来ないんでしょうか?
僕は、人間は頑張れば不可能はないと思いますので、
サドプラ限界まで下げて、穴ガンボル判定にして、そして黒麺をプレーするのを
誰かやってくれねぇかなと思います。お前がやれ?黒麺出す実力すらないので無理です。
それでは、次回でみんパテは終わりです。
今は次回作のプロットを練っている最中です。
そちらの方にも期待しつつ、みんパテ最終回を期待して下さい。
(っても、それだけのもの書いてないですけどね。それでは、その時までさよならです)
ジョーカーだからギタドラのjoker使っても良いとは思ったけどあえてやめておく
最後の結末はどうなるのだろうか
126 :
旅人:2009/01/10(土) 01:55:03 ID:Has3JDcX0
今晩は、旅人です。
やっと、9月あたりから不定期連載の形を取って
投下させて頂きました「みんなのパーティー」は、今から投下する
ワンモアエキストラチャプター「Hopeful Dawn」の後編を持って完結します。
いやもう、結果というか結末は分かってはいるのですが。
多分、皆様があまり望んでいないような後付けのエンディングになる感じですが。
そんなんでも、泣いても笑っても最終回。という事で、本編をどうぞ。
(裏話とかはあとがきの方でやります。
>>125さんの指摘するジョーカーの由来云々についても
色々書きましたので、 本編終了後のあとがきをお楽しみください)
127 :
旅人:2009/01/10(土) 01:58:45 ID:Has3JDcX0
それから松木は機を窺った。
自分の目の前に赤い線が走るタイミング。そして、自分のタイミング。
その二つが合わさった時、自分が勝ち相手は死ぬ。
強く松木はそう確信していた。
自分は勝ってこの巨悪を打倒し、そして神の裁きを食い止める。
この二点は絶対に成し遂げられる。根拠はないが、それは絶対、成し遂げられる。
23:53:27。
大富豪のアジトの最深部の一室で行われていた戦闘が終了した。
その一分前に松木は右手の銃を二発、左手の銃を三発発砲した。
彼が放ち飛翔する弾丸は、ジョーカーの右肩と左の腹と両腿とそして左手に命中。
ジョーカーの動きが一瞬止まり、そしてその一瞬に松木の飛び蹴りがジョーカーに炸裂した。
ゲバッと変な声を出してジョーカーは吹き飛び、そしてそのままの着地を許されなかった。
松木の右足の靴が飛び、ジョーカーの腹に深く突き立った。
それによって更に飛び蹴りによる幅跳びの記録を伸ばしたジョーカーは
右足で着地、その足を軸にするようにして一度ターンし、松木の方を見た。
そこには誰もいなかった。
松木はただの人間だから、音速超過のスピードを得られる訳がない。
ましてや、彼もまたジョーカーと同じタイミングで着地したはずなのだ。
自分と相手の力を理解しているジョーカーがそんな思考を巡らしていると、
「やっぱスゲーね。アンタの持つ能力は」
自分の後ろに松木がいる、とジョーカーは声の発信源の位置で理解した。
さっきからおかしかった、とジョーカーは後悔に近い思いで今までを振り返る。
松木の言った、ジョーカーがという能力。それがジョーカーがジョーカーたる所以である。
想いを実現する能力。姿を消したいと願えば姿を消す事が出来る。
空を飛びたいと願えば空を跳べるし、音速超過のスピードで走りたいと願えばそのスピードで走れる。
圧倒的な強さを誇るこの能力があるからこそ、ジョーカーは大富豪のリーダーでいれたのだ。
3〜kの「錯覚」、A〜2の「変容」、そしてジョーカーの「イマジン」。
松木が小暮から聞いた話と微妙にズレがあるのは、
大富豪のメンバーには正確に伝わっていないからだった。
兎に角、この三つの能力と能力者が存在するから、大富豪は大富豪でいられた。
128 :
旅人:2009/01/10(土) 02:04:16 ID:Has3JDcX0
………一体、何故だ?
あの松木とかいう侵入者は「イマジン」を使っている。何故だ?
普通、突然変異を起こした人間のごく僅かでなければ、
「錯覚」を始めとする能力を扱えないのだ。
どうでもいいが、そう考えると、自分のようなイマジン使いはかなりの希少価値があると思う。
イマジン使いが、指定した人間をその生涯が終わるまで、
錯覚限定で使えるようにすることは出来るのだが、
ジョーカーは松木にそれをかけた覚えはないし、
もしかけていたとしても、錯覚でも変容でもなくイマジンを使うなんて出来っこない。
「何でって顔しているだろうなぁ!」
後ろに立つ松木が、威勢良く大きな声を上げた。
「それはな、アンタのとこの新入りが、
僕にある物をプレゼントしたからだよ!」
大富豪の新入り。自分が殺したNO.9の埋め合わせ。
アポカリプス回避を条件にこちらに引きこみ、錯覚を使えるようにした少年……
「………山崎、か」
「へぇ、NO.9の本名は山崎っていうのか。初めて知ったな。
彼が渡してくれたんだ。『錯覚無効化』の力が込められた符が入っているお守りをな」
「まさか、お前はその符を……!」
「そういう事だ。錯覚持ちに当たったとしても僕ならどうにか出来る。
それを知ったんだ。この場所でな……大変感謝しているよ。
そう、その力を転換して、自分の命を削ってまでそれを加味し、
変容よりも一つ上の能力を数分だけ使えるようにする。
……それを今、ついさっきまでやっていたんだよ」
驚いた。まさか、符を使いこなすとは。
そんな事が出来る奴は数が少ないのに、一体何処で伝授されたのだろうか?
そんなジョーカーの疑問に答えるつもりは無かっただろうが、松木は言った。
「いやぁ、こればっかりは師匠に感謝しないと。
符っていう物はあまり数が少ないそうなんでね。一発勝負だったが、イメトレ通りだった」
129 :
旅人:2009/01/10(土) 02:08:11 ID:Has3JDcX0
それから、白いドームは戦闘終了の時が来るまで
色んな擬音が飛び交う戦場となった。
ドーム内で戦闘をしている二人は音速超過の速度で動いているために
常人では何が起こっているか分からないし、見えたとしても解説なんか出来っこない。
だから、ここでどんな攻防が繰り広げられたかは割愛させて頂こう。
ただ、決定打となった攻撃がどんなものであったか、
そして、それが誰が放ったものであるかは書き記そう。
――松木の放った一発の銃弾、ジョーカーの腹をコートごと貫通――
その結果。最後まで立っていたのは松木で、最後に倒れたのはジョーカーだった。
双方血まみれになって息を荒くし、松木は肩を激しく上下させながらも、
ゆっくりと静かに銃口をジョーカーへと向ける。
二発の銃声。松木の両手に握られる拳銃の銃口から
煙が上がり、それと同時にジョーカーの叫び声がドーム中に響き渡った。
ジョーカーの両腿から、赤黒いくどろどろとした液体がとめどなく溢れていく。
もう、ジョーカーはイマジンをもってしても止血をする事や動く事は叶わなかった。
それは、彼が生を望んでいないからだと松木は悟った。
死を間近にした大富豪最強の切り札、ジョーカー。
その彼が、口から血を流しながらも松木に言った。
「どうか…」
「あ?命乞いか、オイ」
「最後に、一分弱くらい、語る時間をくれ」
ジョーカーの頼みに、松木は無言で首肯した。
ジョーカーの顔が幾分か緩み、そして松木にとっては衝撃的だったろう事実を言った。
130 :
旅人:2009/01/10(土) 02:15:09 ID:Has3JDcX0
「依頼主の事についてだ……あと、A-ウイルスの事について」
「まずは前者の方から聞かせてもらおうか」
「分かった。松木、お前は二ヶ月前の事件を覚えているか?
……ただのコンビニ強盗だ。たった一人、死者を出した事を除いて」
「あの事件か。その事件とアポカリプスに何の繋がりがある?」
フフフ、とジョーカーは謎めいた笑みを浮かべた。
それから仰向けにドサッと倒れ、顔をしかめてから続けた。
ジョーカーの背中から赤い液がじわっと広がり、そして白い床を汚す。
時間が経つにつれ、ジョーカーの体はぶるぶると寒さに震えるように小刻みに動いてきた事に松木は気づいた。
「殺された人質の女性の、その兄がこの依頼を持ちかけたんだよ」
って事は…と松木は思わず言い、そして黙った。
次に何という言葉が続くのか、それはもう分かり切っているからだ。
「ま、そういう事だ。
次に、A−ウイルスの事についてだな。
あれの開発は大富豪が主立ってやっていたが、力添えをしたのは依頼主だ。
依頼主は薬品会社のちょっと偉い研究員でな?
だから、ちょっと危ない裏の薬とかも作る。
殺人ウイルス何て物騒な代物を作るのも、依頼主にとってはお茶の子さいさいだろうよ」
「……何かどっかで似たような話を聞いたような気がするな」
「気のせいだ。気にするな。
兎に角、依頼主が原型となるウイルスを作り、大富豪がその制御をしている。
あともう何分かでA−ウイルスは発症、大量の死人を作り上げるだろう」
だがな、とジョーカーは話を切った。
ほんの数秒間を開けてから。松木にとって信じられない事を言いだした。
「俺は、依頼主のような動機で殺しを依頼されるのが大嫌いでね。
『○○が何々をしたから恨みを持った。○○と同じような奴が憎い』ってそんな短絡的な動機がな」
「アンタ、本当に殺し屋かよ」
「それも国が認めた、な。褒めてくれよ」
「断る」
「つれねぇなぁ……そういう訳で俺は、依頼主の事が嫌いだったからさ、
制御装置の位置を教えようかと思ったのによ……教えてやんねーぞ、松木」
131 :
旅人:2009/01/10(土) 02:22:12 ID:Has3JDcX0
その言葉を聞いた瞬間、松木の顔が変わった。
必死の形相で松木はジョーカーの肩を揺らし、そして強請るようにして聞き出す。
「どこだ!?どこにあるか言え!!」
「そう慌てるな。お前のすぐ近くに居るだろ」
その時。松木の中のジクソーパズルのピースが完全に埋まった。
同時に、彼の脳裏に王様ドッジボールという競技名がよぎった。
ドッジボールの試合が始まる前に、予めそれぞれのチームで王を決める。
勝利条件は敵チームの王を殺す事。敗北条件は自チームの王が殺される事。
松木はジョーカーに言った。それも、不可思議なものを見るような眼で、そして声で。
「お前が、アポカリプスの制御装置…?」
「昔はただ、イマジンが使えるだけの殺し屋だったんだがよ、
最近になって、頭の中にインプラントを組み込まれてな。
最強はお前だから、お前が『コントローラー』になれって話だったぜ」
まぁ、一般人に殺されかけるような最強だがね………
そう自嘲気味にジョーカーは言い、そして気が狂ったかのように笑った。
その姿を見て、松木は今までの熱が冷めたような口調で、止めの一撃を入れる前に言った。
「美しく、儚く散りな」
08/12/19 23:53:27
シンプルな銃声。空を舞う鮮血。一度だけ跳ねる緋色のコートを着た、もう動かない体。
大富豪のアジト、最深部の白い半球状のドームの部屋に、その情報が生まれた。
もう一つ、新たな情報がそこで生まれる。
両手に煙を上げる銃を握る男が、着ていた黒いコートを脱いで死体の顔に被せた。
コートを丁寧に被せた男は、作業が終わると同時に走り去ろうとしたが、直ぐに立ち止まった。
何故なら、男が作り上げた死体が喋ったからである。
「松木よぉ、ちょっと待てや」
「いい加減死んでください。四分後にそのコートであなたを爆殺しますから、それで死んでください」
「分かっている。だが、もう死んでいるからな、それは無駄というものだ。
ただ、ただ一つ伝えたい事があってな。それを言わせてくれ」
「どうぞ」
「その爆発で、大富豪はメンバー一人を除いて消滅するだろう。
生き残るメンバーとは誰か、知りたいか?」
「察しはついています」
「そうか。……お前が知っているNO.9。奴に『9』の数字を与えた」
「…前の『9』を殺しておいて、よくもそんな事が出来ますね。……それでは失礼」
男は言って、それから大富豪のアジトを抜け出した。
そして日付が変わった瞬間、その日の地方新聞紙の一面を飾る記事のネタになった大爆発が起きた。
132 :
旅人:2009/01/10(土) 02:26:09 ID:Has3JDcX0
そうして今、僕は自室でこの日記を書いている。
空を見上げると、日付が変わる前に起きた出来事が
まるで無視されているかのように、晴々と青空が広がっているのが見える。
青空というものは僕の心を癒すためにあるようなものだと、思いあがってみよう。
そうそう、これが書き終わったらピースの店内清掃だ。
昨日の掃除だけでは、まだ汚い所があるかもしれない。
色んなゲーセンを見て回って思ったのが、店内が綺麗かどうかという事が
ゲーセンの未来を左右するのではないかという事だ。
綺麗なトイレと汚いトイレ。
「どちらでも、好きな方に入れますよ」と言われれば、僕は迷わず綺麗な方を選ぶと思う。
多分、ゲーセンも同じだ。だから、店内清掃には力を入れている。
よし、もう時間だし、これで日記はお終い。
一週間に一度つけているから、三日坊主じゃあないと思う。偉いと思うんだけどなぁ…
そういえば、あの四人は大丈夫かな?
まだ、送りに行った人達が帰ってきていないから、どうなんだろう……
08/12/20 09:30
開店予定時刻通りにピースが開店した。だが、開店早々から客は来ない。
いくら土曜日とはいえ、開店直後に常連さんが来る訳がない。
それは、アポカリプスが発生したかどうかが分からないという事だ。
発生したら大きなニュースになるはずだから、ネットを使えば即判明するが、松木は怖かったのだ。
――もし、アポカリプスが発症していたら?その時は僕は僕を僕ではないように思って僕を恨んで――
「あ、松木さん!おはようございます!」
一人の女性客がモップをかける松木に挨拶をした。
同じく「おはようございます」と返した松木がその女性を見ると、いつもの常連さんだった。
確か彼女は、いつもポップンをやっている………
「あの!」松木の口から思わず声が出た。常連の女性が振り返る。
「お体、大丈夫ですか?」
「え?えぇ、大丈夫ですよ。風邪なんか引いていないですし。平気ですよ」
そう言って女性はイーパスと100円硬貨をポップン筐体に入れた。そしてテンキーを叩いていく。
モップを動かす手を止めてその姿を見つめる松木の顔には―――
―――戦いが終わった後の戦士が見せるような、そんな安らかな表情が浮かんでいた。
133 :
旅人:2009/01/10(土) 02:32:12 ID:Has3JDcX0
「みんなのパーティー」は、この時間を持って完結しました。
このスレの皆様、そして板中の人々に。僕の文章を目に入れて頂いた人全員に。
これまでありがとうございます。そして、これからも宜しくお願いします。
裏話です。少なくとも、みんパテに関しての裏話という意味ならこれで最後です。
実は、約三か月の未来を読み取ろうとも考えていましたが、
僕に未来を読み取れるわけがなく、EMP稼働とかCSDJTの仕様等を理解するために
予定より大幅に遅れた完結となったのです。あー、超能力が欲しいなぁ………
ジョーカーとかNO.9とか、名前は一体何処から取ったのよという事について。
ジョーカーは
>>125氏の言うとおりに、ギタドラjokerを元にしても良かったのですが、
何せその曲の存在を知ったのが昨年10月半ばで、
もうその頃にはこの話の大筋が出来上がっていたので、このジョーカーのままになりました。
では、みんパテのジョーカーの名前は一体何が由来になっているのか?
その答えはIIDXの「A」にあります。
ジョーカーの容姿は、あのレイヤーの人をイメージしていたのですが、
それを丸々描写しないで(っていうかしたら大変だw)、
それとは全くかけ離れてしまいました。グラサン+緋色のコートって何wって感じです。
NO.9の方ですが、「最強」という称号があれば、彼に相応しいだろうと思ったフィクションキャラ(?)です。
音ゲーとは全く違うジャンルの別のゲームから、
とあるロボットゲームからNO.9の名前のヒントを頂きました。
というより、丸々パクっているかもしれないんです。あのゲームの名前、知っている人ってここにいるかな…?
あのゲーム、持っている人いますでしょうかね?対戦が熱いんですよねぇ。ホント、燃えますよ。アレ。
そういう訳で、敵サイドの主要メンバーの名前の由来が語り終わったので、
そろそろこの後書きも終わりにしようと思います。
最後の話題。次回作ですね。ま、テーマは以下に。
「一、IIDXのDP指南。二、のほほんとしたもの。三、『旅人さんの話』の過去の話」
えー、皆様にこの三つのテーマから選んでいただいて、
その総数が多いテーマに沿って書いて投下するって考えてみたんですけど、どうでしょうか?
このスレに人はあまりいないからアレなんですけど、
協力してやんよ、という方がいらっしゃったら、是非、お願いします。
(本当に最後です。作者や作品に対する意見、質問、批評などがあれば宜しくお願いします。
書き手って、そういうのも楽しみだと思うので。僕はそういうのが好きなので、どうか、是非。
っていうか、まとめウィキのコメント機能、あまり使われていないような…
そちらの方でコメントを……って、どうでしょう?そうじゃないと、あまりにも寂しくないですか?)
次回は1希望
>旅人さん
乙です。
やはり本人が書きたいものを書くのが一番かと。
でもまぁ、音ゲーの創作スレだから音ゲーの話がいいんじゃないですかねw
さて、トプラン殺人事件続きです。
シルバーの店内は夕暮れ時独特の赤黒さで塗り潰されていた。
乙下が蛍光灯のスイッチを入れると、空間は一斉に本来の色を取り戻したが、
その中でゲームのディスプレイだけが墨汁を流し込んだかのように暗いままである。
「ゲームが動いてないゲーセンって、こんなにも印象が違うんすねぇ」
静まり返った店内に、空気の感慨深げな声がほんの少しこだまする。
それは空気の発言が現実に即していることを裏付けているようでもあった。
平常通りであればゲームが奏でる音楽と客のざわめきで賑わっていたはずのこの空間が、
今はまるでNEMESISの中間地点のような静謐さを湛えているのだ。
乙下はその中をゆっくりと移動し、店のカウンターの内側入る。
カウンターの上には帳簿や筆記用具、
そして電話機等が雑然と散らばっていたが、
それらに紛れて置かれている一冊のノートに乙下は注目した。
「デラ部屋予約ノート」と表紙にマジックで書いてある。
乙下は1046から聞いたデラ部屋にまつわるルールを思い出した。
シルバーではIIDXのタイムレンタルサービスが実施されていること。
平日の開店から夕方16:00までの間だけだが、
一人一時間400円を支払えばフリープレイモードで遊べること。
そして、予約状況はカウンターにあるノートで閲覧できること。
乙下はノートを開いてみた。
中には様々な名前が様々な筆跡で並んでいるのかと予想したが、
ほとんどがBOLCEと1046の名前で占められていた。
そりゃそうだよな、乙下は思い直す。
平日の昼間、普通の人間はゲームに興じるほど暇ではない。
ページをめくっていくと、7月16日に行き当たった。
「7月16日(水)10:00〜16:00 BOLCE」と小綺麗な筆跡で書いてある。
1046や店長の証言通り、BOLCEは事件のあった日中、デラ部屋を予約していた。
17日以降も数日間はBOLCEと1046の予約が入っていたが、
残念ながらこのスケジュールが守られることはもうないだろう。
その後にひたすら続く白紙のページ達は、
さながら突然奪われたBOLCEの未来を彷彿とさせた。
乙下はちょっぴり気がふさがってしまい、ため息をつきながらノートを閉じた。
BOLCEの無念をぼんやりと想像していると、
ふと壁に貼られた何枚ものポスターの内の、ある一枚が目に入った。
「ビデオゲームのように熱く。
メダルゲームのように大きく。
プライズゲームのように明るく。
アミューズメント・シルバー 店長 神崎誠一」
少し黄ばんだポスターには、そう書かれていた。
どうやら店長の直筆らしく、毛筆による荒々しい字体には
彼の猪突猛進的な性格が滲み出ているように見える。
書かれている言葉はシルバーの経営方針なのか、
それとも店長の人生におけるモットーなのか。
どちらにせよゲームを喩えにしてそれを語る辺りに
彼の遊び心が見え隠れしており、とても微笑ましい。
だが乙下は、そのポスターに対して一箇所だけ違和感を覚えた。
「空気。あのポスター、どこかおかしくない?」
「明らかにおかしいっすね。
今時音ゲーを仲間外れにするなんて」
「バカ、そんなことどうだっていいんだよ。
上手く言えないんだけど、何かが不自然な気がするんだよな……。
他に気付くことないか?」
「うーん。しいて言うなら、貼ってある高さが他と違いますね」
「高さか」
空気の言うことは間違っていなかった。
他のポスター達は、内容についてはゲームの宣伝や飲酒運転撲滅の啓蒙、
そして未成年の入店時刻に関する条例告知などバラエティーに富んでいたが、
皆一様に人間の目線の高さに合わせて壁に貼られている。
ところが、店長の格言だけは目線より数段高い場所へ貼り付けられていた。
そのため他のポスターとの差別化がなされており、
見上げると少々首が疲れる高さに配置されているにも関わらず、
なかなかに目立っている。
だからこそ、他のポスターより先駆けて乙下の目に入ったとも言える。
なぜ店長はわざわざあの高さにポスターを貼ったのか。
乙下がその答えに辿り着くのに、時間は要らなかった。
それどころかその答えは瞬間接着剤のように、
外へ飛び出した途端にある二つの事実をピタリと繋ぎ合わせた。
「はは、なるほどね。
やっぱり俺の推理に間違いはなかったようだ」
「ちょ、オトゲ先輩ってば、早くその推理ってのを聞かせて下さいよ!
もうさっきから気になってしょうがないじゃないっすか」
「すまんすまん、どうしても現場で確認したいことがあったんだ。
これから順を追って説明してやる」
乙下はせわしない空気をカウンターの中へ手招きした。
カウンターの片隅に置かれた、何の変哲もない古い電話機。
店長を追い詰めるきっかけとなった、曰く付きの電話機。
その電話機の前に空気を立たせてから、乙下は口を開いた。
「まず最初に、『1046はどこから脅迫電話をかけたのか』だ。
1046は今お前の立っている場所にいた店長の姿を監視していた。
逆に言えば、理屈の上ではお前の立っている場所からも
1046のいた場所を見ることができるはずだろ?」
「まぁそのはずですよね」
空気はきょろきょろと周囲を見回していたが、
やがて窓の外のある一点を、目を凝らして見つめ始めた。
「通りの向かい側のビル。
あのビルの二階からなら、何とかこっちを見られそうっすよ。
他にここを監視できそう場所は……うん、見当たらないっすね」
「と思うだろ。
店長もそう思って、向かいのビルへ忍び込んで犯人の姿を探したらしいが、
残念ながら犯人の影も形もなかった」
「それじゃ、監視カメラみたいなものを仕掛けて、
どこか遠くの場所からここを監視してたとか?」
「バカ、どうしてお前はいちいちそっちに発想が行くんだよ。
そんなことをしなくたって、打って付けの場所がある」
言いながら乙下は懐から携帯電話を取り出し、空気へコールした。
突然の出来事に、空気はおろおろとした様子で電話に出る。
「もしもし。オトゲ先輩、何の真似っすか?」
『もしもし。オトゲ先輩、何の真似っすか?』
左の耳が空気の肉声を拾い、
僅かな時間差を経て、今度は右の耳が携帯電話からの声をそれぞれ拾った。
「今、お前には俺の声が二重になって聞こえるだろ」
「そりゃそうっすよ」
『そりゃそうっすよ』
「昨日の夕方、これと同じようなことが起こった。
思い出せるか?」
「そう言えば……午後五時、ボクが署に戻って来た時?」
『そう言えば……午後五時、ボクが署に戻って来た時?』
乙下は携帯電話を切り、懐に仕舞いながら頷いた。
昨日の夕方、空気に電話をかけた乙下の耳には、
第九のメロディが輪唱となって聞こえた。
片方は、捜査一課のスピーカーが奏でる第九。
もう片方は、空気との電話の向こう側から聞こえる第九。
「だから俺は、お前がすぐ近くにいるって分かったんだ。
今日そのことを思い出した時、一気に謎が解けた。
店長のあの不可解な証言の謎が解けたんだ」
「不可解な証言?」
「店長は言ったんだ。
脅迫電話の最中、『犯人の存在を近くに感じた』ってね。
最初は彼が何を言ってるのかよく分からなかったが、
つまりはこれと同じ現象だったんじゃないか?」
店長には電話の向こう側から、1046の声以外の音も聞こえていたとしたら。
その音が、店長の周囲でなっている音と同じものだったとしたら。
つまり、シルバーというゲームセンターが生み出す独特の喧騒が、
周囲の空間と受話器の両方から重なって聞こえてきていたのだとしたら。
例えば、これが静かな署内に流れる第九のような
耳に明瞭なメロディであれば、
店長も「犯人は近くにいる」とすぐに気付くことができただろう。
しかし、喧騒はあくまで喧騒でしかない。
ゲームのBGMと客のざわめきが組み合わさった、混沌としたノイズだ。
ゆえに店長は、そのノイズが輪唱を奏でていることを
はっきりと意識することができなかった。
ましてや、1046はボイスチェンジャーを用いて声の高さを変えていた。
当然背景の音の高さも変わってしまうので、
輪唱に気付くことはますます困難になる。
だが店長の無意識下では、感覚の奥底では、それに気付いていた。
その結果として、「犯人の存在を近くに感じた」というあやふやな印象だけが
店長の意識に残ったのではないだろうか。
この仮定が正しいとすると。
「それじゃ、店長と1046は同じ場所にいたってことになっちゃうじゃないっすか!」
「そう。1046はシルバーの店内から電話をかけたんだ」
「まさか。店内だったらすぐ見つかっちゃうに決まってるじゃないっすか」
「ところがそうでもない。灯台もと暗し、ってヤツだな」
乙下は同じフロアの、ある一室の前まで移動した。
同時に、空気が背後から声を上げる。
「デラ部屋?」
乙下がドアを開けると、血生臭さが鼻をついた。ように感じた。
それはおそらく気のせいで、BOLCEの死体はもうここにはない。
あるのはモニタのガラスが粉々に砕けたIIDX筐体と、
順番待ち用のベンチ、そして、IIDXのポスターが一枚だけ。
四方に飛び散ったガラスの破片の一部には
BOLCEの血痕がこびり付いてはいたが、もちろんすでに乾ききっている。
ポスターはデラ部屋の壁の高い位置に貼られている。
乙下はおもむろにベンチの端に手をかけ、ポスターの真下へと移動させた。
そして土足でベンチを踏み台にし、
DJ TROOPERSのポスターに描かれたバンダナ男と
至近距離で向き合う格好となった。
「そう言えば昔、こんな映画があったっけなぁ」
乙下は半分独り言のつもりで呟きながら、豪快にポスターを剥がす。
ビッと音を立て、画鋲で打ち付けられた四隅が勢い良く破れた。
「あああ!」
背後の空気は、先ほどとは比べ物にならないほどの音量で
たまげたような叫び声を上げた。
ポスターの裏側の壁に、五百円玉ほどの径の小さな「穴」が空いていた。
きちんとした工具で空けられた様子はなく、
子供がイタズラで指を突っ込んだ障子紙のように、不揃いの輪郭を持った穴だった。
見たところ、デラ部屋の壁は薄い石膏ボードで
梁と防音材を挟み込む構造となっており、厚さは5cm程度。
その薄い壁を、小さな穴が貫通しているのだ。
ただし壁の向こう側にも何かが貼られているらしく、
穴を覗き込んでもそこには暗闇しかない。
「もしかして、もしかしてこの位置って」
空気はバタバタと足音を立ててデラ部屋を出て行った。
足音はデラ部屋の外周に沿って移動し、
壁を通して乙下のいる場所の反対側で立ち止まった。
それから空気はゆっくりと時間をかけて、
それこそ乙下が勝手にシルバーのポスターを破ってしまったことに対し
反省を促しているのかと思わせるほど丁寧に、
壁の向こう側に貼られた何かをどかす。
すると暗闇は一気に明るくなり、「景色」がひらけた。
カウンターの内部。
ギターフリークスの筐体。
店舗の出入り口。
全てが鮮明だった。
一般的な視力の人間が店内を監視するには、十分過ぎるほど。
かと思うと、一転して穴が黒と白の同心円状の物体に覆われた。
よく見るとそれは空気の目である。
薄い壁の小さな穴を通し、乙下と空気は互いに片目で見つめ合った。
「オトゲ先輩、これ、さっきのポスターっす!
穴のこちら側は、さっきの店長の直筆ポスターで塞がれていました」
空気の声は穴を通し、ほとんどくぐもることなく乙下のいるデラ部屋へと流れ込んでくる。
「やっぱりな」
「こ、これ、一体どういうことなんすか?」
「1046がシルバーの店内から電話をかけたとすると、
身を隠せる場所として真っ先に思いつくのがデラ部屋だった。
物陰に隠れるのは限度ってもんがあるし、
トイレには誰かが入って来るかも知れない。
けど、デラ部屋ならレンタル中は誰も中に入って来ないからな。
で、もし本当に1046がデラ部屋から脅迫電話をかけていたとしたら、
店内を監視するための『隙間』が絶対にあるはずだと俺は考えた。
それを確かめたかったからわざわざここまで来たんだが、
どうやらその甲斐があったようだ」
どんな理由があったのかは知らないが、
元々デラ部屋の壁には穴が空いていた。
店長はその穴をポスターを使って隠していた。
カウンター側の壁からは店長の直筆ポスターを貼って、
デラ部屋側の壁からはIIDXのポスターを貼って。
穴の存在に気付いていた1046は、これを今回の犯行に利用することを決めた。
おそらくは事件の前日、もしくは当日の朝、
1046は店長や他の客の目を盗んで
カウンター側のポスターの配置を横へずらした。
穴がポスターに隠されないギリギリの位置までずらしたのだ。
穴の大きさは五百円玉程度の小さなもの。
長期間そのままならいずれ見つかってしまうだろうが、
一日の間だけなら誰にも気付かれずにやり過ごせる可能性は高い。
そして7月16日の午前、1046は今さっき乙下がそうしたように、
ベンチを踏み台にしてポスターを剥がす。
かくしてデラ部屋は、
シルバーの中にありながらシルバーとは隔絶された、
それでいて店長のいるカウンター付近を自由に監視できる絶好の隠れ家となる。
1046はデラ部屋に身を潜め、そこから僅か十メートルも離れていない
シルバーのカウンターにある電話機へと、脅迫電話をかけたのだ。
「んなバカな……あり得ないっすよ!」
空気が壁の向こう側で声を張り上げた。
穴からは片目しか見えないものの、
すっかり動転した空気の表情が乙下の目に浮かぶ。
「だって、デラ部屋をレンタルしてたのは1046じゃなくてBOLCEっすよ?
午前中の間はBOLCEがずっといたんすよ?
BOLCEの目の前で脅迫電話なんかかけたら、
いくら親友とは言え不審がられるに決まってるじゃないっすか。
それにアリバイは?アリバイはどうなるんすか!?
脅迫電話のあった時間のいずれも、1046はABCでデラをプレイしてたんすよ。
しかも、午前中はAKIRA YAMAOKAコースで
人間離れした超高スコアを残してたじゃないっすか。
だからオトゲ先輩も認めてたんですよね、
『1046が午前中の間ずっとABCでデラをプレイしていたことは、
動かしようのない事実だ』って」
空気は勢い込んで喋り、それから建屋内の酸素を
全部使い切ってしまいそうなほど、ぜぇぜぇと呼吸を荒げた。
対する乙下は落ち着き払って言った。
「それは間違いだった」
「え?」
「奇しくもさっきお前自身が言っただろう。
『よく考えたら、このスコアを出すことができるのは1046だけじゃない』って」
「それはDJ AUTOの例え話で、現実にそんな人は存在しないっすよ」
「いや、一人だけ。たった一人だけいるだろ」
「……あ」
空気の片目が真円に近いくらいに、丸く大きく見開いた。
「あぁぁ、まさか、そういうことなんすか……!?」
「そう。AKIRA YAMAOKAコースで理論値マイナス一桁にまで迫る
あの超人的なスコアを出せる人物が、1046以外にいるとすれば」
乙下と空気の声が重なり合い、一人の人物の名前を呼んだ。
「BOLCEだ」
7月16日水曜日の午前中。
イーパスの履歴上、BOLCEはシルバーに、1046はABCにいたことになっている。
しかしそれは全くの「逆」だった。
「あの日、1046はシルバーにいた。そしてABCにいたのはBOLCEだったんだ」
それが乙下の辿り着いた真実だった。
to be continued! ⇒
今週はここまでです。
来週もお楽しみに。
とまと氏乙です!
続きがすごい気になります。
お待ちしてます!
144 :
旅人:2009/01/13(火) 00:04:31 ID:Pjf6q3Xq0
>>とまと氏
乙です!まさかの展開で驚きました!
でも、冒頭でちゃんと匂わせているんでしたね。あぁ、すっかり忘れていた……
後はもう、ズバズバ謎が解き明かされるんだろうなぁと思うと、
続きが気になって仕方ないですね。続き待ってます!
今晩は、告知も兼ねてやってきた旅人です。
前回のあとがきでやった集計をここで打ち切らせてもらいます。
結果は、一のIIDXのDP指南でした。これ、結構ハードルが高いと思います。
僕のDPの腕前はACDJTで五段、CSHS〜DJTで七段という
人にものを教えるには微妙だなぁと痛感せざるを得ないもので、
しかも、僕のやってきたDP練習法が、
お金をケチってあまり実用的ではない方法をとっていたと自分で気づいたので、
オイオイ、このお題で大丈夫かよ?と思ったのですが、
そこはどうにか、別の話も織り込んで誤魔化し、
さらに、お題となるDP指南も基礎基本をフューチャリングしていきゃ
どーにかなるという思いで、現在執筆(?)させて頂いてます。
とりあえず、二月の初めのあたりから投下する予定でいます。
そういう事で、あまり良い作品とは呼べないかもしれないけど、
とりあえず旅人のDP指南ってどんなんだろーって
感じで期待してくれていたら嬉しいです。それではその時まで!さよなら!
145 :
「100秒」:2009/01/15(木) 01:26:09 ID:AMhh5TYbO
クオリティが高い中稚拙なものですが書いたんで投下します。
ドラマニものです。
「うわ、ツいてねぇ・・・」
ドラムマニアのバトルモードに興じていた彼は画面に表示された対戦相手の名前を見るなり肩を落とした。
無理もない、彼は現在9連勝中、後一勝でレアな連勝称号が得れる、
というところで現れたのが彼のスキルポイントより200以上も高い、
いわゆる、“ランカー”と称されるようなプレイヤーだったからだ。
やれやれ、と彼がとった選択はこの勝負はどう足掻いたって勝ち目がない、
だから未だクリア出来ていない曲を選んで練習のつもりで臨もう、というものだった。
途中でゲージが空になろうが最後までプレイ出来るというバトルモードにおける利点の一つを活かそうとしたわけである。
146 :
「100秒」:2009/01/15(木) 01:29:22 ID:AMhh5TYbO
さて。
「・・・・・・出会いのリーズンなんかいらねぇっての」
バトル開始直前、選曲表示画面を見て彼は今度は思わず苦笑した。
99 The Least 100sec
99 The Least 100sec
―――お互い、同じ選曲。
兎を殺すライオンの如く手を緩める気は微塵もないのか、
とランカーである対戦相手の選んだ彼が未だクリア出来てない曲の名と彼の持ちキャラであるちびすけを見ながら彼は思った。
と、そんなこんなでバトルが始まった。
―――と、その時だった。
147 :
「100秒」:2009/01/15(木) 01:35:56 ID:AMhh5TYbO
ごおおおおおっ・・・・・・・・・
―――地震。それも相当大きな。
「うわあああ!!!」「きゃあああああ!」
「ぎゃああっあっ足があ!!」「アッー!お、俺の全一がアッー!」
―――阿鼻叫喚。店内は瞬く間に地獄と化した。
DDR超発狂をこなすが如く踊り狂うゲーム機とそして人―――・・・・・・
・・・・・・―――時間としては一分弱といったところだろうか、
とにかく揺れが完全に収まったことを確認すると、
彼は揺れに身を委ねてダイブしたUFOキャッチャーの中から這い出た。
ダイブした時に割れたガラスで腕を多少切ったが幸い彼の負った傷はそれだけだった。
いたたた・・・、と呻きながらも立ち上がり、そしてその時。
―――フルコンボ!
システムボイス。それが何のだかはあまりに明確だった。
148 :
「100秒」:2009/01/15(木) 01:39:26 ID:AMhh5TYbO
「はは・・・バクったか」
横倒しになりながらも依然稼働し続けているドラムマニア。
画面にはバトル終了後のリザルトが表示されており、
自身のは当たり前だが2曲ともE、そして相手のは―――2曲ともSSだった。
なんだそりゃ。多人数か、と驚愕を越えて一瞬訝しげ、しかし次の瞬間、彼は息を呑んだ。
リザルト表示画面からバトル階層の現在地表示画面に移る刹那のことだった。
149 :
「100秒」:2009/01/15(木) 01:43:33 ID:AMhh5TYbO
『俺でもフルコン出来たんだ!クリアくらい赤ネなら余裕だぜ、頑張れよ!』
手紙系のアイテムを装備している場合、
リザルト表示画面が移り変わる際に手紙ごとに決められているメッセージが一瞬表示される。しかし無論―――
このようなメッセージが表示されるアイテムなど存在しない。
しばらく画面を凝視しながら周りの惨状なんのその固まっていた彼だが、
『緊急速報です。只今関東地方で震度8の巨大地震が発生しました。震源地は新宿、新宿―――』
ゲーセンのすぐ外、商店街にある音声設備から聞こえてくる緊急アナウンス。
新宿。
彼にとってその地名は新鮮なものだった。
何故なら―――
「ははは・・・ここよりひどい揺れの中で繋いだってか・・・・・・」
リザルト画面、プレイヤー名の下に表示される都道府県名と所属ゲーセン名。
対戦相手のそれには――――
東京都 レジャーランド新宿
と表示されていたのだから。
150 :
「100秒」:2009/01/15(木) 01:47:09 ID:AMhh5TYbO
それから半年後。
「うおっ100秒クリアしたのかよ!すげえなオイ・・・」
「5回に1回越せるかどうかってレベルだがな」
そこには、The Least 100secにクリアマークを点した彼の姿があった。
あの地震の後の2ch音ゲ板のギタドラランカースレの書き込みで彼は、
彼の対戦相手だったランカーがあの地震で死んだことを知った。
震源地から100キロ以上も離れていた彼のゲーセンであの様だった、
震源地にあったゲーセンでまともにプレイ、ましてやフルコンなど出来るはずがない―――。
しかし彼は、あのスコアはバグでもなんでもなく、確かにあのランカーが出したものだとなんとなく感じていた。
151 :
「100秒」:2009/01/15(木) 01:51:14 ID:AMhh5TYbO
あのランカーはあの日、あの地震の中で、もう自分は助からないだろうと悟ったのだろう、
だからこそ、偶然か必然か選んだ曲、The Least 100sec―――自身の残り僅かな100秒を全うし、
そして決してプログラムされていないランカー自身のメッセージをランカーの最期の対戦相手だった彼に送ったのだろう。
燦然と輝くThe Least 100secのクリアマークを見る度に、彼はそんな事を思った。
(終)
以上です。
こんなでも面白いなと感じてくれる人がいたら幸いです。
面白かったです。
短い中にきちんと起承転結があり、
しかも意外性と感動もあるので読後感が良いですね。
「残りの人生の僅かな100秒」と「楽曲としての100秒」が重なっていることもまた
音ゲー小説的にすごく味があって好きです。
全然関係ないんですが、
これに触発されて俺も「子供の落書き帳」をネタに
一つSSを考えついたので、いずれ投下したいな(笑)
久しぶりの新規さんですね。
この調子で増えていくといいなあ。
という訳で定期age
>>「アッー!お、俺の全一がアッー!」
たまげたなぁ
ポップンの100秒に「残された100秒に?は何を託すのか」っていうのがあったな確か
?の部分は忘れたし、あってるかどうかも忘れたが
158 :
旅人:2009/01/16(金) 01:33:09 ID:58Ks8zJO0
>>145-152と
>>157さん
乙です!とても面白かったです!
何がどう面白いって感じたのかは、どうしても上手く言えないんですけどね。ごめんなさい。
「最期の100秒」か……良い響きです、うん。その発想が欲しいです。
やっぱ、新規さんが増えるって嬉しいですね。僕も頑張ろう。
今晩は、この話を書くにあたってDPに熱が入ってきた旅人です。
今夜から「旅人的ガイドライン 〜IIDXDP ver.〜」
を細々と投下していこうと思います。
多分、そんなに長くはならないと思います。
二ヶ月くらいに渡って不定期連載の形をとらせて頂く
予定でありますので、そこの所をご了承ください。
そういう訳で、本編スタートです。どーぞ。
>>156さん
あれは確か、?の所には「ピアニスト」が入ってたような気がします。
いや、結構うろ覚えなんですけどね。間違ってたらごめんなさい。
159 :
旅人:2009/01/16(金) 01:37:01 ID:58Ks8zJO0
2009/1/9
その日の早朝、音安市で大きな事件が起きた。
何者かの手によって、ある一軒のボロアパートが爆破、壊滅したのだ。
幸いな事に、同アパートの201号室のみが
爆破されたようで、大々的な被害は出ていない。
不幸中の幸いは続き、201号室の住人は
その時には外出中で、アパートが爆破された時
「デカイ音だねぇ」としか思わなかったらしい。
どうでもいい事だが、その住人が帰ると当人は絶叫したそうだ。
そのアパートは一見古びた建物にしか見えないが、
201号室の住人がある方面で有名な人物だったので、その建物は広く市内に知られていた。
だからこそ、その日の地方紙の一面にドーンと大々的に書かれているのだ。
そのアパートの201号室に住む住人は、町田彩という女性だった。
音安市に住み、そして音楽ゲームと呼ばれるジャンルのゲームを愛好する人々なら
知らない者はいない、とまで断言できるほどのローカルな有名人である。
そんな彼女は、フリーターとゲームギャンブルをやって生計を立てていた。
ゲームギャンブル、というイベントが同市のゲームセンター「パレス」で行われる。
毎週木曜日の深夜から数時間かけてそのイベントは開催され、その認知度は高い。
音ゲーのみならず、格ゲーやら何やら対戦できるゲームを極めた人々がゲームをし、
彼らには倍率が与えられ、観客はプレイヤー達にベットし、そして一喜一憂する。
町田はプレイヤーとして参加したり、観客側としてプレイヤーの眼をもってして賭けたりしていた。
9日の早朝まで彼女はゲームに参加、ヘトヘトになりながらも家路に着くと、
既にアパートは爆破されて壊滅したのを見、一度夢だと思って頬をひっぱたいて
もう一度壊滅したアパートの姿を見て「アエエエエエエ〜〜!!!??」と絶叫したのだ。
町田は警察の事情聴取を受けた。
自分に恨みを持っている人間はいるか?等の質問を受けていたが、
ロクに寝ていない町田には、それは眠りへと誘う子守唄のように聞こえていたかもしれない。
事情聴取を終えた町田は、署の玄関前に立っていた。
署に行く前に連絡を取っていた友人、小暮正俊の迎えを待っていたのだ。
町田が待ってから約五分。一台のタクシーが町田の目の前で止まった。
その後部座席には、心配そうな顔で町田を見つめる小暮が座っていた。
160 :
旅人:2009/01/16(金) 01:39:40 ID:58Ks8zJO0
タクシー車内で、小暮と運転手と話していた町田は、
小暮の探偵事務所兼私塾兼自宅の前でタクシーが止まったのに気がついた。
二人はタクシーから降り、タクシー代は小暮が払った。
それから、小暮は町田を事務所へ案内し、中は汚いと宣言してから事務所に上がらせた。
「うっわ、汚いねー」
「そんなストレートに言われると傷つきます」
事務所の中で一番大きな部屋に二人はいた。
そこには、ホワイトボードと事務机が数個あり、
その机の上には学習用の小暮自作プリントが散らばっていた。
ブラインドを常時閉じているため、部屋の中は暗い。
部屋の隅に溜まるホコリ等とそれらの要素が相乗して、
この部屋をとても汚いと評価させる程に悪影響を及ぼしている。
「ってかさぁ、小暮君さぁ」
汚い汚いと連呼していた町田が、不意に小暮に言った。
「何ですか?」
「何で私、ここに居るの?」
アハハ、そんな事ですかぁと小暮は笑った。
町田は怪訝そうな表情で小暮を見つめ、どういうつもり?と半ば脅し気味で迫った。
その気迫に押されながらも、小暮は町田の顔をしっかり見て言った。
「町田さんのアパートが爆破されましたよね?」
「うん」
「町田さんは今まで、あそこに住んでいましたよね?」
「うん」
「じゃ、これからどこで生活するんですか?」
あ、と町田は始めてそれに気づいたような声を上げた。
それから、先刻とは違うアプローチで小暮に迫った。
今にも消え入りそうな、しかし意志のはっきりした声で町田は言う。
「これからどうしよう、ねぇ小暮君!?」
「何ですか?」
「私、住む家が無くなっちゃったよぉ!!」
そう言って焦る町田を見て、小暮は「全く、この人は…」と言わんばかりのあきれた表情を見せた。
その顔を見た町田が、焦りの感情を怒りに変えて小暮にぶつけた。
161 :
旅人:2009/01/16(金) 01:42:25 ID:58Ks8zJO0
「何あきれたような顔をしているのよ!少しは心配してよ!」
いや、だから…と小暮は町田をなだめすかしてから言う。
「住む家が無くなっちゃっただろうから、
僕の家に泊まらせてあげようかなって。そんだけです」
町田は一瞬、小暮が何を言ったかを理解できないようだった。
そこにもう一度、小暮が町田に繰り返して言う。
「だから、町田さんが住むところ無くなりましたよね?
そうしたら、僕が町田さんの手助けをしない訳がないじゃないですか」
その言葉を聞いた町田は、一種の感動を覚えていた。
ありがとう、と半泣きで言う町田。すぐにその場から崩れ落ちる。
床に乱雑と散らばった資料に数滴の涙が染みていく。
事務所に、町田の嗚咽が響き渡っていく。
そんな一種のいい感じの空気を、小暮はぶち壊した。
「ただし、条件があります。IIDXのDPの手ほどきというか何というか。
それを教えてくれるって言うんなら、僕の家に泊めていいですよ」
「え?うん、いいよ…何ともまぁ、良心的な条件ねぇ…ありがとう…」
泣きながら言ったそれが、町田の答えだった。
こうして、その日から小暮と町田はしばらくの間、小暮の自宅で共に暮らす事となった。
そしてその条件として、町田は小暮にIIDXDPの基礎基本を教えるのだが、これは次回の話である。
162 :
旅人:2009/01/16(金) 01:45:00 ID:58Ks8zJO0
いかがでしたでしょうか?これにて今夜の投下は終了です。
え?短いよバカ?すみません、キリの良い所で一回切ろうと思っていたので……
是非、次回を楽しみに待って頂けたらと思います。
物語は二つの方向に向けて加速していくと思われるので、ご期待下さい。
いい加減に新キャラとか出したいなぁとは思うんです。
三人のゆうとか、小暮探偵とか、音ゲーマー町田とか、
その他諸々の人々と全く接点のない人を、新たに登場させたいなとは思うんです。
でもそれは「みんパテ」の核となった
アポカリプスウイルスにまつわる松木の話の完結編を書いてから、と思っています。
このDP話と並行して書いているので、これが終わったら次はそちらをと考えています。
こちらを疎かにしないように努力を続けるつもりなので、
どうか皆様、是非ともご期待下さい。それでは次に会う時まで、さよなら!
物語ってのは同じ人物ばかりだとやっぱりやりづらくなるのかな
新キャラが出てくることでまた新しい展開も見えてくるはず?
164 :
旅人:2009/01/18(日) 01:15:42 ID:9/v7/heb0
>>163さん
>物語ってのは同じ人物ばかりだとやっぱりやりづらくなるのかな
いえいえ、そんな事はございません。むしろ、僕にとっては好都合です。色んな意味で。
ただ、同じ登場人物ばかりでは読者さんが飽きるかなーと思っていたので、
そういう旨を前回のあとがきで書かせてもらったのです。
既存のキャラが出てきている話に新キャラを、というのも僕は考えています。
そこら辺は、このDP話が終わった後の話にご期待して頂けたらと願っています。
今晩は、旅人です。
暇を見てはCSDDR EXTREMEの解禁作業に勤しんで踊っているのですが、
全解禁の道は遠いです。syncが解禁されたのでモチベは保たれているんですけどね。
という訳で、今日は第二回目の投下となります。よろしくお願いします。
165 :
旅人:2009/01/18(日) 01:21:47 ID:9/v7/heb0
小暮は早速、涙目になった町田を
自分の部屋に案内し、教えを乞う事にしていた。
言うまでもなく、小暮の自室は汚い。
ただ、事務所よりキレイなのが救いだといえよう。
そんな汚い部屋で町田は、
小暮の用意した環境にがっかりしていたようだった。
「ねぇ」
「はい」
「IIDX専コンとポプコンってどういう了見?」
「すみません、お金が無くて……」
んじゃあ仕方がないね、と町田は言ってから、
小暮の所持しているIIDXのCS作品を物色していた。
「HS、DD、GOLD、DJT……へぇ、最新作で揃えているのね。……あれREDは?」
「まだ買ってませんよ」
「murmur twinsが収録されているよね?アレ」
「確かそうだったかと。SPAが難しいと思いませんか?」
「基本階段譜面だから、固定でどうにかごり押せばいいよ。
そうそう、あの曲に乱掛けたら私が承知しないからね」
「誰に言ってるんですか?」
「小暮君と向こうの世界の人達によ。
……乱なんてかけたら、あの曲の特徴が殺されちゃうもの。
昔一度、SPHに乱掛けて、私すっごく後悔した時があったわ」
何で後悔したんですか?と小暮が町田に聞いた。
町田は、この分からず屋!それでも探偵?!と半ば怒鳴って答える。
「譜面が面白くないのよ!曲は順次進行の旋律なのに、
叩かせる譜面は乱打って全っ然面白くなくなるのよ!!」
「まぁまぁ落ち着いて。良く分かりましたからキレないで下さい」
小暮は町田をなだめすかして、○ッキー持ってきますよと言って自室を出た。
背を向け部屋を出る小暮に、町田は一つ頼みごとをした。
「あ、コー○があったら持ってきてー」
先程までのキレっぷりはどこへやら。いつもの天然が入った町田の声だった。
小暮は「町田さんってホント、分からない人だなぁ」と胸の内で思い、
「○ーラは無いです。代わりといっちゃなんですが、ポ○リならあるので持ってきますね」
と返事をしてから部屋を出ていった。
166 :
旅人:2009/01/18(日) 01:26:36 ID:9/v7/heb0
古びたトレーのような板の上に、小暮は飲み物やら菓子やら乗せて自室に戻っていた。
小暮が扉を開けると、町田は早速部屋にあるPS2を起動、
既にDDのディスクをセットしていたところだった。後は読み込みを待つだけだった。
不意に、一つだけいい?と町田が小暮に言った。
「何がですか?」
「IIDXもDDRもそうなんだけど、SPとDPは全く別のゲームになるわ。
SPなら出来るのに、出来るのにーって思っちゃ駄目よ」
心得ました、と小暮が答えて町田がセットしたコントローラを見る。
1PサイドにIIDX専コン、2Pサイドにポプコンが配置されていた。
「そうそう。これから鍵盤の言い方を教えるね。
その左の…うん1P側の1鍵が1、2鍵が2。そこまでは同じよ。
で、ポプコンの左白が8、左黄が9、左緑が10…って呼ぶね。
どうでもいいけど、これは公式サイトと同じ呼び方のはずだよ」
「オーケイです。で、一つ質問」
「どーぞ」
「2P側のスクラッチってどうやって取ればいいんですか?皿が無いじゃないですか」
あーそうだったそうだった、と棒読み口調で町田は言い、
それから、DPとは少し違う話をした。
「小暮君って、IIDXがポプコンでもプレー出来るって知らない?」
「えぇ!?初めて知りましたよそれ!
あ、そうじゃないとこんなセッティングはしないですよね…」
「ASつけたり…とか思ってた?
ポプコンの一番端の黄と白のボタンを押せば、スクラッチが取れるよ。
でも、一つだけ縛りをつけさせてね」
縛り?と小暮はオウム返しをしながら、○カリの入ったコップを口に付けた。
町田がそれに倣って、もう一つのコップに口をつけてから話す。
「ポプコンの仕様なんだけど、連皿も一つのボタンを縦連していけば処理出来ちゃうの。
完璧に皿を回しているように、とまでは求めないけど、皿を取る時は交互にボタンを押してね」
167 :
旅人:2009/01/18(日) 01:32:32 ID:9/v7/heb0
「へぇ、縦連で連皿が処理出来るんですか…
(デジタンクとかどうなるんだ、⇒Amix(A)みたいになるんだろうか……)
分かりました。その縛り、お受け致しましょう」
何畏まっちゃってるのよもう、と町田が居心地悪そうに言い、
それからIIDX専コンのスタートボタンを押し、モード選択の画面に移行した。
残念な事に、と町田が何の前触れなく言った。
「ACもCSもなんだけど、DPってビギナーもチュートリアルも無いのよ」
「え、そうなんですか?」
「私は、それがDP人口が少ない理由だと思うんだけどね…
まぁ、最初は段位認定から始めちゃった方が良いわ」
「どうしてですか?まず、フリーで簡単な曲からの方が…」
「段位ゲージならある程度のミスは許されるじゃない。
最初なんて、どこにボタンがあるか分からなくて困るよ。
小暮君、SPを最初にやった時の事を思い出して。あまり上手く出来なかったよね?」
「そりゃ、誰だってそうでしょうよ」
「それと同じ。いきなり難度が低い曲をやっても、ろくにクリアーは出来ないよ。
だから、段位認定で少し感覚を掴もう?それからフリーで色々やっていこうよ。
そうそう、ACなら尚更よ。頑張れば三曲プレー出来る保証がある段位認定の方を選んだ方がいいよ」
そういやそうですね、と小暮は言い、それから段位認定を選んでDOUBLEに合わせて白鍵を押した。
少しの読み込みの時間が経って。
あれ?と小暮は間抜けな声を出した。
「いきなり五級からですか?七級は?六級は?」
「無いの。仕様だね、残念ながら」
「これ、大丈夫ですか?いきなり五級ですよ五級。無理ですよ」
そういう小暮の顔には、幾ばくか怯えの表情が見え隠れしていた。
ふと、小暮の視界の端にとある物が目に入った。
それは、何の変哲もないただの壁がけ時計だった。それは10:38を示していた。
168 :
旅人:2009/01/18(日) 01:40:54 ID:9/v7/heb0
09/1/9 10:38
全ては計画通り。何の支障もきたしていない。
手始めに、この市で最強のIIDXerの女を爆殺した。順調だ。
この調子で、名高いプレイヤー達を殺していけばいい。
全ては高みへ上り詰めるために。鮭が川を上り龍になるように。
その為に、その為だけに、奴らは死ねば良いのだ。
「あのねぇ、大丈夫よ。
あるはずのないB譜面が一曲目と二曲目にあるから」
「そうなんですか?っていうか曲順教えて下さいよ。町田さんなら分かるでしょ?」
「あれは確か…ミューゼ(B)とジェネラル(B)でしょ、後はアイワズ(N)だったような気がする」
よーしそれなら、と小暮は意気込んで、カーソルを五級に合わせて白鍵を押した。
読み込みが始まり、DPプレー画面が表示される。その時、小暮の頭に一つ疑問が浮かんだ。
「そういや、ハイスピってどうすれば…?」
「良く気づいたねぇ、流石は探偵といったところかな。
いつもSPでつけるハイスピ値の−1.0か−1.5位でいいよ。
サドプラをつけてなかったらの話だけどね」
それなら問題なし、と小暮は返してハイスピ調整をする。
そして、一曲目の「Attack the music」(B)がスタートした。
いつも小暮がプレーする時よりゆっくり落ちてくる
オブジェに小暮は戸惑いながらも、懸命に鍵盤(ボタン)を押す(叩く)。
SPでの経験が活きたのか、直ぐに両手バラバラの固定の形を取った。
流石に易しい譜面なので、ワンパターン化するのはどうしても避けられないのだが、
DP初体験の小暮にとってこれは好都合だった。脳に余裕が生まれ、そのスペースが思考を始める。
余裕が生まれた頭で別の固定パターンも構築していく。と、視覚からの情報が警報を発した。
ワンパターンで降ってきていた譜面が、別の形を取ったのだ。
曲が進行する以上、それはどうしても避けられないことであり当然の事だが、小暮は焦った。
鍵盤を押す。しかし、鍵盤と鍵盤の間に指を突く。僕の指はもう、突き指寸前だ。
169 :
旅人:2009/01/18(日) 01:46:46 ID:9/v7/heb0
どうにか、小暮は一曲目をクリアーする事は出来た。
ゲージがボロボロだったので、お世辞にも良いプレーとは言えないが、仕方無い。
流れる歓声を鍵盤を押して止めた小暮は、町田に向き直って言った。
「これ、難しいですよ。鍵盤の位置が全然掴めない。
鍵盤と鍵盤の間に指がぶつかるんですよ。突き指するかと思いました」
「大丈夫大丈夫。私もそうだった。だから、小暮君も出来るよ」
二曲目の「General Relativity」(B)も、
小暮はゲージをどうにか保った形でクリアーしていた。
「ヤバいヤバい、ポプコンの縛り解かないと落ちますって。次で」
「うーん、無理。頑張って。
えーと、次はアイワズ(N)だけど……さっきまでの二曲とは密度がちょっと濃いかな。
あの曲を覚えているなら話は早いけど、ピアノで階段めいた所をやらせるからね」
はぁ?階段?いやいや無理無理無理……
そううろたえる小暮に「I Was The One」(N)の譜面は牙を剥いた。
この曲は、とてもピアノの美しい曲である。
小暮はSPならば完璧に、難易度を問わず抜けられる実力を持っている。
だが、これはDP。片手でバラバラの事をやるというのは結構難しい事なのだ。
美しいピアノは変なピアノと化し、その後のメロディーも幾分か変である。
だが、小暮はゲージが20%を切ろうが変な曲になっていようが、それを気にしてなかった。
画面の中で降り続けるオブジェ。それを見切ろうと全身の力をプレーに傾けていた。
約一分と少しに渡る小暮の戦いは終わった。
勝利の女神は小暮に微笑み、そして祝福を受けている小暮に町田は言った。
「おめでとう!初DPにしては良くやったよ、うん」
「ありがとう。そうだ、ニュース見ていいですか?」
ま、休憩って事で。そう町田は言って飲み食いを始めた。
小暮はTVのリモコンを手にし、そしてチャンネルを変え始める。
ある局のニュース番組をTVが写したところで、小暮は縦連のような動きをしていた指を止めた。
その時、その番組で流れていたニュースは、つい先ほど届いた情報らしい。
なんと、音安市の紅葉町で火事が起きたというのだ。
中継リポーターがその家から離れた所で何かを言っていたが、
それを見た町田の叫びで何を言っているかは分からなかった。
「あぁ、あの家は、あの家は……」
段々と力を失う町田の声、消え入りそうな声で、町田は何やらぶつぶつ言い始めた………
170 :
旅人:2009/01/18(日) 01:51:37 ID:9/v7/heb0
いかがでしたでしょうか?これにて今夜の投下は終了です。
今回、色々と謎を提示してみました。
とはいえ、謎を解くヒントを提示する気はありません。
最後の最後まで、読者さんが色々予想してくれればなー
と僕は思うのです。そういうのも、一つの楽しみ方なんじゃないかと思います。
そういうアレなので、もう時間も時間なので、おやすみ!
(最初の方に町田が言っていた「乱をつけると譜面が面白くなくなる」
という事について。このテの話題は必ず荒れるのが相場ですが、
僕のスタンスは「別に正規だろうと乱だろうとどうでもいい」です。
だから、正規最高乱最低という事を言いたいのではないという事をご理解ください。
でも、こんなセリフや展開をやったという事について謝りたいと思います。
もしご気分を悪くされたのなら、本当に申し訳ありませんでした。今後とも注意していきます)
ちなみにごり押しでやると乱かけたらずたずたになったりする
寄生虫穴正規だとボーダあたりだけど乱かけたら平均BP300回以上とか…
数日前「100秒」を書いた者です。
今回は短編ではなく中編となります。
面白いと感じて頂けたら幸いです。
@イントロダクション
『余命、あと一週間』
病弱ながらにドラマニを楽しむ少年に告げられた非情の宣告。
少年はうなだれるも悔いなく残りの生を全うし往くために、
『不敗神話』のドラマニ称号を冥土の土産として取得することを決意。
即ち――――
『バトル最上階層であるSSクラスにて10連勝する』
Sクラス常駐、武器曲C重視でなんとかSSに居られる腕前の赤ネームの少年が挑む最期の闘い。
少年は不敗神話をそのカードネームに冠し遺すことが出来るのか?
最も天―――overthereに近いクラスでの少年のラストバトルが、今、始まる――――
先天的に心臓に病を抱えている少年がいた。
病院で寝たきり、とまではいかないが、
激しい運動を禁じられていて、
小学生の頃などは外で遊び回る同級生達を羨みながら独り漫画やらパソコンやらを嗜むしかない自分を呪っていた。
しかし、そんな彼に転機が訪れた。
とある年の誕生日に親から貰ったプレゼント。
遊び盛りなのに満足に身体を動かせない我が子を思い、あまり身体に負担が掛からず且つ適度に全身を使うゲームを彼の親は贈ったのである。
プレステ2のゲームで、専用コントローラーも用いるそのゲームの名を――――
ドラムマニア。縮めて、ドラマニ、と、いった。
彼は瞬く間にドラマニの虜となった。
動かすのは両腕と右脚だけ、それも椅子に座ったままでだったが、
それでも流れる音楽に合わせて踏み、叩く、という動作は胸の奥底より刻まれるビートと相まって確かに彼の全身を奮わせていた。
やがて彼はゲームセンターにもドラマニがあり、
また楽器メーカーでおなじみのYAMAHA製のエレドラを用いたコントローラーでもってプレイ出来ることを知った。
そしてついにゲーセンデビューを果たし、
生まれて此の方ずっと続いている定期的通院という彼のライフルーチンにゲーセン通いが加わった。
それから月日が流れ、彼のスキルポイントが上級プレイヤーとしての第一歩となる1300に到達した時だった。
――――移り変わったネームカラーと同じ色のものを口から大量に吐き、救急車で病院に運ばれ、そして、
『余命一週間』と宣告されたのは。
今日は以上です。
書き忘れましたが、
>>173、
>>174は、
@プロローグとなります。
続きは後日投下します。
>>175 乙です。
何だか悲壮感漂う雰囲気になりそうな予感。
そしてage
やっと今回分書き終わった……。
もう遅いので、明日推敲して投下します。
ああ、明日も朝から仕事なのに(涙)
>>175 何やら壮大なストーリーの始まりの予感!
マジで楽しみにしてます。
>>旅人さん
乙です。
やっぱりただのDP指南じゃ終わらないってわけですね。
あ、もう一言
>移り変わったネームカラーと同じ色のものを口から大量に吐き
こういう表現好きだなぁ。そんだけw
皆さんお疲れ様です。
先日まとめWikiを更新しました。
最近開始された、物語途中の話はまだ未掲載ですのでご了承を。
新規の方も入ってきましたね。
もっと気軽に話を投下していく方が増えないかな。
>まとめの人
大変お疲れ様でした。
いつもいつも感謝していますよ!
それでは、トップランカー殺人事件の続きを発表します。
今回も難産だった……
いよいよ外が暗くなってきた。
少なくとも、シルバーへ足を踏み入れた時に
店内を染め上げていた赤黒さは、もう行方をくらましてしまった。
もしかすると乙下が少しだけ目を離した隙に、
赤は黒に飲み込まれてしまったのかも知れない。
絶滅危惧種のように心許ない量の赤を孕んで、
盛岡市は今、夜を迎えようとしている。
一方で事件は今、夜明けを迎えつつあった。
空が真実の光で白んでくる気配を肌で感じながら、
乙下はシルバーのカウンターに肘をついている。
少し離れて空気はドラムマニアの椅子に座っていた。
空気は子供のように、足で地面を蹴って椅子ごと回転している。
動きだけをみればのろのろとしたろくろのようだが、
空気は顔に険しさを浮かべており、
その造形は風流な工芸品の持つ高尚さから遠くかけ離れていた。
「そろそろ理解できたかー?」
乙下の呼びかけに対し、空気は回転したままの状態でたどたどしく応答する。
「えーと、だから、つまり、一昨日の午前中にABCで山岡コースをプレイしていたのは
1046じゃなくて、『1046のカードを使ったBOLCE』だった、ってことっすね」
「そ。逆にシルバーにいたのは、『BOLCEのカードを使った1046』だった」
空気の口調は腫れ物に触るかのように覚束なく、
乙下に向かって喋っていると言うよりかは、
自分自身の情報整理が主たる目的のようだった。
そんな空気のために、乙下は補足してやる。
「BOLCEはもちろんこの事件の被害者だ。
だがある意味では、『BOLCEがこの事件の共犯者だった』。
そう考えれば分かりやすい」
「BOLCEが共犯者!?」
「だってそうだろ。
BOLCEは1046の身代わりにIIDXをプレイした。
結果だけを見れば、BOLCEは1046のアリバイを作る手助けをしていたことになる」
乙下は元々この事件に共犯者がいるとは考えていなかった。
大まかに言えば理由は二つ。
犯人にとって、事件の真相を知る人物が
自分以外に存在することは大変にリスキーなことである。
なので犯人は共犯者を雇いたがらないはずだった。
もう一つの理由が、共犯者がいるとすればその人物は
ランカークラスの腕前を持つIIDXプレイヤーであるのが第一条件だったこと。
そうでなければAKIRA YAMAOKAコースで理論値マイナス一桁などという
驚愕のスコアを出すことはできなかったはずだし、
耳でプレイヤーの腕前を判別できるABC店員の証言とも矛盾する。
しかし、それほどの腕前を持つ人間は絶対的に希少であり、
都合良く共犯者として雇える可能性は非常に低い。
だが1046は、『BOLCEを共犯者として利用する』という
奇想天外なトリックを使うことで、これらの問題をクリアした。
どうせこれから殺してしまう人間なのだから、今後口を割らないことは100%保証される。
そして1046と同等の腕前を持つBOLCEは、
身代わりにIIDXをプレイさせる人材としてはこれ以上ないほどに適任だった。
何せ黙っていても圧倒的なスコアを叩き出して、
1046のアリバイを勝手に確保してくれるのだから。
こうして1046は「被害者=共犯者」という盲点を巧みに突くことで、
完全犯罪を成立させようとしたのだ。
「ここに来て、ようやく脅迫・誘拐事件の動機がはっきりしたな。
1046はBOLCEによって捏造されたアリバイを有効活用するために、
『前もって別の事件を起こす必要性』があったんだ」
1046が店長の息子を誘拐し、
店長に対して脅迫電話をかけた理由。
それは、BOLCE殺害の下準備だったのだ。
1046はBOLCEのIIDXプレイを利用して、
「午前の間はABCにいたはず」というアリバイを捏造する。
そしてその時間帯に脅迫事件を起こせば、
アリバイに守られた1046は容疑から外れることができる。
その上で本当の目的であるBOLCE殺害を実行すれば、
「状況的に脅迫犯と殺人犯は同一人物」かつ
「1046は脅迫犯ではない」の二つの前提から、
三段論法的に「1046は殺人犯ではない」の誤答を誘引できる。
実際、この誤答が鉄壁のアリバイの一枚として
乙下の前に長らく立ち塞がっていたことは否定できない。
また、1046は「本来自分がいるはずの空間にBOLCEを置いた」だけでなく、
「本来BOLCEがいるはずの空間に自分を置いた」点も計算の内だった。
大胆にも同じ店内の、しかもBOLCEがいたはずのデラ部屋を拠点として
事件を起こすことで、警察を真相から巧妙に遠ざけていたのだろう。
シルバー脅迫事件には、こうした何重もの意味合いが織り込まれていたのだ。
乙下はそこまでを空気に説明してから、
屈伏するようにカウンターに両手をつき、俯き加減にぼやいた。
「ったく、1046には恐れ入ったよ。
まさか殺す目的とする人間さえ殺しの手段として利用するなんて。
悪魔の所業としか思えない」
いつの間にやら椅子の回転を止めて乙下の説明にじっと耳を傾けていた空気は、
話の切りが良いタイミングを今か今かと待ち侘びていたかのように立ち上がり、
腹を空かせた野良犬を思わせる勢いで乙下に駆け寄った。
「スゲー、スゲェェェー!スゲスゲー、スゲスゲヴォーーー!!!」
耳障りこの上ない叫びが乙下の不快指数を急激に高めたが、
どうやらこれが空気にとっての最大級の賛辞らしいことはよく伝わった。
だが乙下は、カウンターの反対側で
鼻の穴を広げながら迫ってくる空気に対し、謙遜ではなしに言うのだった。
「いや、本当にすごいのは1046の方だ。
こんなトリックを成立させることができるのは
世界中のどこを探したって1046ただ一人なんだから。
BOLCEを身代わりに使うのは
BOLCEとほぼ同じデラの腕前を持っているからこそできることだし、
それに、こうしてBOLCEを意のままに操るなんて芸当は
よほど親しい間柄じゃないと無理なはずだろ。
ま、今となっちゃどんな理由をつけて
BOLCEを口車に乗せたのかなんて知る由もないけどな」
「いやいや。仮にそうだとしても、普通はこんなトリック解けやしないっすよ。
オトゲ先輩ってばよく気付けたっすねー」
「俺だってまさかBOLCEと1046が入れ替わっていただなんて考えもしなかったさ。
でも、こいつをきっかけに道が開けた」
そう言って乙下は、ポケットから四ツ折りに畳んだ用紙を取り出した。
それはA4用紙二枚の印刷物を重ねて折られたものであり、
一枚目が「DJ 1046 e-AMUSEMENT PASS使用履歴」、
二枚目が「DJ BOLCE e-AMUSEMENT PASS使用履歴」だった。
乙下がそれらをカウンターの上に並べると、
空気は品定めをするように二枚の文書を交互に見比べ始める。
乙下はその中の一点を指差した。
START = 11:55, END = 12:06;
START = 12:19, END = 12:30;
それは「DJ BOLCE e-AMUSEMENT PASS使用履歴」の中で、
先ほど捜査一課にいる時、乙下自身がボールペンで強く囲んだ箇所だった。
「ここ、さっきオトゲ先輩が気にしてた部分っすね」
「あぁ。はたから見ればそれまで間を空けずにプレイしまくってたはずのBOLCEが、
突然13分の休憩を挟んだようにしか見えない。
だが、果たしてこれは本当に『休憩』だったのか?
そう考え出した時、真実が見え始めた」
乙下はボールペンで囲まれた二行の右に、
平仮名の「く」のような記号を書いてから、コメントを付け加えた。
START = 11:55, END = 12:06;
< この間に二回目の脅迫電話(12:15〜12:18)
< 店長がBOLCEと最後の会話を交わす(12:18〜12:19)
START = 12:19, END = 12:30;
「この日、店長はBOLCEの姿を二度目撃した。
最初に見たのは朝の10:00、開店と同時に来店したBOLCEの姿だ。
次に見たのは正午過ぎ、二回目の脅迫電話が終わった後の話だ。
その電話の時刻はお前が調べてくれたんだよな?」
「ええ、今オトゲ先輩が書いたように、電話がかかってきたのが12:15。
電話が終わったのは12:18っすね」
「その直後、店長は犯人を探し出すべく店を飛び出そうとした。
ちょうどその時にデラ部屋の前でBOLCEと鉢合わせして、最後の会話を交わしたんだ。
と言うことは、店長とBOLCEが出くわした時刻もほぼ12:18だった、ってことになる」
「それがどうしたんすか?」
「この時刻、BOLCEはなぜデラ部屋の前にいたと思う?」
「なぜって言われても」
空気はうーんと唸りながら腕を組み、顔を天井に向けた。
手入れのされていない鼻の穴の中がよく見えるのを鬱陶しく思い、
乙下は空気が考えなくても済むよう話を先に進めることにする。
「もっと分かりやすく言おう。
BOLCEがデラ部屋の前にいる時と場合は二種類しかない。
『デラ部屋を出てどこかへ行こうとしていた時』と、
『どこかから来てデラ部屋へ入ろうとしていた時』の二種類だ。
この場合はどっちだ?」
「あ、そうか。BOLCEは別の場所からデラ部屋へ来たところだったんだ。
つまり、この時ABCからシルバーに戻って来たんすね」
「ご名答。BOLCEは開店からずっとデラ部屋に籠っているふりをしつつ、
本当は店長の目を盗んでずっとABCへ行ってたんだ。
そして12:18になってようやくシルバーへ戻って来た。
そう考えれば全ての筋が通る」
「なるほど−……うーん、でもなぁ」
ほんの一分前は有頂天だった空気の表情に翳りが見えた。
この移ろいやすさはまるで山の天気だ。
「こうして二つのイーパス履歴を並べて見ると、
色々とおかしな点が見えてくるんすけど」
「そうかな」
「そうっすよ。
何て言うか、こう、辻褄が合わないように思えるんですけど」
「どの辺が?」
「どの辺もこの辺も、全体的にっすよ」
「だから具体的に言ってみろってば」
空気は上目遣いで乙下を一瞥した。
「あの、間違ってること言ってたら恥ずかしいんで、
ちょっとずつ整理しながら話しますよ」
「どうぞ」
乙下が許諾すると、
空気は大袈裟だが特に意味のない身振り手振りと共に話し始めた。
「一昨日の午前中、1046はシルバーのデラ部屋にいて、
そこから店長に脅迫電話をかけた」
「うん」
「一方、BOLCEはABCにいた」
「うん」
「BOLCEは12:18にシルバーへ戻って来た」
「うん」
「1046はデラ部屋に戻って来たBOLCEを殺害した」
「うん」
「それから、ABCへ戻った」
「うん」
「だとしたら、こういうことになりますよね」
「うん?」
空気はカウンターに置かれていたボールペンを握り、
ぎこちない粘土細工のように、二枚のタイムテーブルへコメントを付加していった。
@ABC筐体(※1046のカード)
START = 10:27, END = 10:39; ←BOLCEのプレイ(山岡コース MAX-17)
START = 10:40, END = 10:52; ←BOLCEのプレイ(山岡コース MAX-11)
START = 10:52, END = 11:03; ←BOLCEのプレイ(山岡コース MAX-8)
START = 11:04, END = 11:16; ←BOLCEのプレイ(山岡コース MAX-14)
START = 11:17, END = 11:29; ←BOLCEのプレイ(山岡コース MAX-8)
START = 11:30, END = 11:42; ←BOLCEのプレイ(山岡コース MAX-9)
START = 11:43, END = 11:55; ←BOLCEのプレイ(山岡コース MAX-6)
START = 12:00, END = 12:02; ←BOLCEのプレイ(プレイ時間2分???)
START = 12:03, END = 12:09; ←BOLCEのプレイ(プレイ時間6分???)
START = 12:09, END = 12:20; ←誰のプレイ???
< 1046が監視カメラに映る(12:35)
START = 12:37, END = 12:48; ←1046のプレイ
START = 12:49, END = 13:01; ←1046のプレイ
START = 13:02, END = 13:13; ←1046のプレイ
START = 13:14, END = 13:25; ←1046のプレイ(このプレイ中に三回目の脅迫電話)
@シルバー筐体(※BOLCEのカード)
START = 10:10, END = 10:20; ←1046のプレイ
START = 10:21, END = 10:32; ←1046のプレイ
START = 10:33, END = 10:44; ←1046のプレイ
START = 10:44, END = 10:56; ←1046のプレイ
START = 11:57, END = 11:08; ←1046のプレイ
START = 11:09, END = 11:20; ←1046のプレイ(このプレイ中に一回目の脅迫電話)
START = 11:21, END = 11:31; ←1046のプレイ
START = 11:32, END = 11:43; ←1046のプレイ
START = 11:43, END = 11:54; ←1046のプレイ
< この間に二回目の脅迫電話(12:15〜12:18)
< 店長がBOLCEと最後の会話を交わす(12:18〜12:19)
START = 12:19, END = 12:30; ←BOLCE?1046?(このプレイ中にBOLCE殺害???)
START = 12:30, END = 12:40; ←誰のプレイ???
< 誰がBOLCEのイーパスを財布に入れた???
書き終えた空気はボールペンを置き、
ふぅ、と一仕事こなしたと言わんばかりの唇の尖らせ方で一息ついた。
「このクエスチョンマークをつけたところが、
辻褄が合わないと思った部分っす」
「ほう」
「上から順番に見てみますと、
まずはABCの12:00〜12:02と12:03〜12:09のところっす。
ここ、時刻的にはBOLCEがシルバーに戻る直前のプレイっすよね。
どうしてここだけ他と比べて妙に短いんでしょう?」
「一曲目HARD落ちしたとか、FREEモードを選んだとかかな」
「それじゃ、1046の作り話と丸っきり一緒じゃないっすか」
「んー。実を言うとこればっかりは俺もまだよく分かってないんだよね。
けどさ、ただ単に不自然ってだけで
別にこれは辻褄が合わないって話じゃないでしょ」
ここで空気は居住まいを正した。
「問題はこの次からっすよ。
ABCでの12:09〜12:20。
これは一体誰のプレイなんすか?
BOLCEは12:18の時点でもうシルバーに到着してたんだから、まずあり得ないっすよね。
1046は12:15〜12:18の間、デラ部屋で店長のことを監視しながら
脅迫電話をかけてたんだから、やっぱりあり得ない。
だとすれば、この時ABCでプレイしてたのは、一体どこの誰なんすか?」
「……」
「次はもっとおかしいんす。
シルバーでBOLCEカードに記録された12:19〜12:30。
このプレイを始めたのがBOLCEなのか1046なのか、それは分かりません。
けど、1046が犯人だとすれば、BOLCEはこのプレイ中に殺されていなきゃ理屈が通らない。
だって、1046がABCへ12:35までに戻るためには、
遅くとも12:30にはシルバーを出発しなきゃいけないんですから。
だとすれば、1046はどうやってデラをプレイしながらBOLCEを殺害したんすか?
いくらトップランカーだからって、
デラをプレイしながら人殺しなんてできっこないっすよね」
「……」
「一番辻褄が合わないのが最後っすよ。
今言ったように、1046が12:35に監視カメラへ映るためには
どう頑張っても12:30にはシルバーを出発しなきゃならない。
じゃぁ、12:30〜12:40のプレイをしたのは、一体どこの誰なんすか?
ついでに、誰がいつどうやってBOLCEのイーパスを財布に戻したのか……
その謎もまだ解けてないっすよ」
「……まぁね」
乙下は寝息を立てるように静かに、そして自然に言った。
「そうなんだ、そこがポイントなんだ。
『いつ、誰が、どうやってBOLCEのイーパスを財布に戻したのか』。
そもそも『12:30〜12:40にBOLCEのカードでデラをプレイしたのは誰だったのか』。
これらは今回の事件における最大の謎と言ってもいいと思う」
「オトゲ先輩、焦らさないで教えて下さい。
もうこの謎も解けたんでしょ?」
「いや。まだ解けてない」
「へ?」
空気が絶句した。
よほど失意の底に墜ちたのか、
その刹那、空気の頬が若干痩けてしまったようにさえも見えた。
そんな空気の七変化を心の隅っこで楽しみながら、
乙下は「安心しろ」と言い聞かせた。
「まだ完全には解けてないだけ。
俺にはこの謎の真相がほとんど見えてる」
「ちょ、オトゲ先輩ってば脅かさないで下さいよ!」
「ごめんごめん。
ま、これもちょっとしたトリックだ。
極めてシンプルだが、それでいて大胆な発想のトリックなんだ。
まったくもって1046のヤツにはしてやられたよ……。
あいつ、犯罪者としての才能もランカークラスなのかもな」
空気はこの日一番の声量を携えて乙下ににじり寄った。
「教えて下さい!
1046はどうやって、この単独犯では実現不可能なはずの
タイムテーブルを単独犯で作り上げたんすか!?
教えて下さいよ!」
「ゆっくり説明してやるからとりあえず落ち着けって。
つまりね、簡単に言えばイーパスってのはさ……」
「うんうん」
「……」
「……うん?」
「……」
「……オトゲ先輩?」
乙下の視界の片端が、何者かの顔を捉えた。
いや逆だ。
何者かの視界が、乙下の顔を捕らえたのだ。
その強い意志を含んだ視線の存在を、乙下は嗅ぎ取った。
と言うよりもむしろ、嗅ぎ取らされた。
なぜだか乙下はそんな風に感じた。
「……どうしたんすか?」
「誰かいる」
乙下は気を張り、ガラス越しに外へ向かって目を凝らす。
徐々に暗くなりつつあった先刻とは一転して、外は明るかった。
アーケードにぶら下がった電灯達が目を覚ましたのだろう。
負けずに蛍光灯で明るく照らされたシルバーの店内が、
巨大の鏡のような窓ガラスへ映り込んでおり、外の様子が把握しづらい。
まるで照明を隠れ蓑にして何者かが息を潜めているような、矛盾めいた光景だった。
だから咄嗟には気付けなかったが、
よく見ればその儚げなシルエットは女性のものであり、
その物言わぬ顔つきは昼間目にしたあの少女のものに違いなかった。
「円樹杏子」
いつからそこにいたのだろう。
昼と同じ場所に、昼と同じ服装を着て、昼と同じ姿勢で佇んでいる。
なぜ杏子がここにいて、こちらを見つめているのか。
そんなことは乙下に想像さえもつかなかったが、
ただ一つ確信したのは、杏子には夜が似合っているという
どうしようもなく場違いな雑感だった。
昼と夜の狭間と呼ぶに相応しいこの寸刻、
「逢魔が時」という不吉な言葉が乙下の頭に陣取っていた。
to be continued! ⇒
今週はここまでです。
内容が入り組み過ぎててごめんなさい。許して。
ではまた来週。
更新来たーw
192 :
旅人:2009/01/30(金) 01:45:54 ID:ozJbf7IZ0
>>175さん
おおぉ、余命一週間とは……考えてみるとあまりにも短い。
どんな話か気になる…楽しみに待ってます!
>>とまとさん
亀ながら乙!事件の全貌が半分くらい見えてきて、
やっと謎が解明されるのかと思ったり、まだ終わって欲しくないなぁとか思ったり。
そんなジレンマを抱えつつも、次回を楽しみにしています!
今晩は、長らくお待たせしまして申し訳ありません、旅人です。
最近、音ゲーとは全く関係のないゲームソフトを購入いたしまして、
不覚にもそれにどっぷりハマってしまいました。そういう事情背景がありました。すみません。
いやぁ、空を飛ぶって気持ちがいいなぁなんて思うのです。相手の戦闘機を倒したりとかね。ホント楽しい。
タイトルは明言しませんが、結構有名なタイトルだと思います。
オープニングが元になったネタ等も相当数あると聞き及んだりしていますが……
やはり、このタイトルの一番良い所はフラメンコとかスパニッシュなギターが……
すみません、前書きには全然関係ないので、さっさと前書きらしい前書きをば。
今回、かなりお待たせしてしまった割には、結構短めの投下になります。
不定期連載の形を云々と言っていましたが、これはねぇわと自分でも思います。
本当に申し訳ない、と謝りつつも早速本編スタートです。どーぞ。
193 :
旅人:2009/01/30(金) 01:51:11 ID:ozJbf7IZ0
09/1/9 10:45
音安市警察署、捜査一課の一室で
一人の男が深い悲しみの顔を浮かべていた。
自分のデスクに突っ伏し、顔を上げる事なくただ一人で泣いていた。
中井和という名前の刑事は、その日に起きた
ある事件を知ってから、その顔に悲しみを消す事は無かった。
音安市のツートップの音ゲーマーと言われていた
二人の人間が命を狙われ、そして一人が焼殺されたのだ。
生きている方の人間は、前に白壁占拠事件を共に協力して、
そして解決した小暮正俊という名の探偵の家で保護されていると聞いて安心はしたが、
もう一人の放火された方の人間、中林卓の名前を思い出す度にこう思うのだ。
「なんで、どうして惜しい人間ばかりが消えていくのだろう」と。
中井と行動を共にする事が多い田中刑事は、
未だに失意のどん底につっ立っている中井刑事を見て言った。
「なぁ、お前が嘆き悲しんだからって、
あの中林ってプレーヤーが蘇ったり浮かばれたりすると思ってんのかよ」
「そうは言うけどおめぇ…グスッ、あの中林が……ズズッ、
どうして放火なんてされなきゃ………」
埒が明かないな、とあきれた田中は泣き顔の中井の左手を取り、
そして強引に椅子から立ちあがらせた。ナニズンダヨ、と中井が弱々しくも反抗したので、
「お前、自分の職業分かってる?警察だよ警察。お前がその放火魔を捕まえろよ。
そうだ、これを弔い合戦だと思え。そしたらやる気は粕程でも出るだろ」
と田中は言い放った。一瞬だけ、中井の体が止まった。その一瞬だけ、彼の呼吸が止まった。
そして次の瞬間が訪れた時、中井は短く咆哮、そして
「絶対に、絶対に中林をぶっ殺した奴を捕まえてやる!そして殺す!!!」
中井はそう宣言するかのように叫んで捜査一課を出て行った。
田中はその背中を見送ってから携帯電話を取り出した。そして、何度かボタンを押してコールする。
「さーて、我らが救世主に連絡だ……
決して俺の頭が弱いわけじゃないんだがね。それだと刑事になれないから……お、元気だったか………」
194 :
旅人:2009/01/30(金) 01:56:12 ID:ozJbf7IZ0
「あ、刑事さん?おはようございます」
小暮にTVを見せて欲しいと町田が頼み込み、
彼女が泣き顔で食い入るようにモニターを見つめていた時、
小暮の携帯電話が震えた。小暮は上のように答え、そして相手の答えを待つ。
「あぁ、ちょっとな……
私的な調査依頼の名目って事で、一つ頼みたい事があるんだが」
あぁ、と小暮は思った。多分、田中刑事は自分にこんな依頼を頼む気なのだ。
「今、ニュースで流れているんですけど…
『独身男性の家で火事、中林卓さん焼死』ってやつですか?」
「あぁ。中井の野郎、あれを殺しだっていってきかねぇ。
全くうるさいったらありゃしねぇんだが、俺もこの火事は誰かがやったものだと思う」
「どうしてですか?」
「聞いたら笑うかも知れねぇが………笑うなよ?」
何を笑うっていうんですか、言って下さいよ。
そう言って、小暮は服のポケットからボールペンとメモ帳を取り出した。
そして、どんなことでも書けるようにした状態で小暮は言う。
「で、何ですか?刑事さんの気になる事って?」
「まず最初に。家を爆破されたのは…町田彩ったか?」
「えぇ」
「聞かなくても分かるが、彼女は何が得意だった?」
「音ゲーですよ。どの機種も得意とします」
「そうだったな。じゃ、焼け死んだ中林は?」
「彼は…IIDX専門の音ゲーマーです。
前に彼のプレーを見た事があるのですが、
町田さんと同レベル位だったかな……
そうそう、町田さんから紹介されたんですよ。
とっても感じのいい人でした。恨みを持たれるようには見えないんですが……」
195 :
旅人:2009/01/30(金) 02:01:20 ID:ozJbf7IZ0
そういう人間がだなぁ…と田中は呟くように言った。
それを聞き取れなかった小暮が「何て言いました?」と返すが、それを無視して田中は言う。
「大抵、人は何かを得意とする。
それを突き詰めていくと、その分野のピラミッドの頂点に立つ」
「まぁ…言いたい事は分かりますけど。もう少し分かりやすく言いましょうよ」
「そうだな、いや、アンタなら分かりやすいと思ったんだが…
兎に角、俺が言いたい事ってのは、羨望を集める存在は同時に
妬みを抱かれる存在だってことさ。人間って奴の心理上、それは避けられない」
「でしょうね。で、それがこれとどう関係すると思っているんですか?」
「町田のアパートを爆破したのも、中林の家に放火したのも同じ奴じゃないか思うんだよ。
そう、犯人は音ゲープレーヤー、恐らくはIIDXerが疑わしい。
それも、かなり上手いプレーヤー。しかし、町田や中林のレベルには達する事の出来ない奴が容疑者だ」
自分の思った通りだ。そう小暮は思った。
何となく、仮説の一つとして「音ゲーマー説」を、
小暮は先のニュースを見た時から作り上げていたのだ。
他にも「無差別殺人説」や「(音ゲーマー以外の)怨恨による殺人説」
を考えていたが、それよりは「音ゲーマー説」が一番しっくりくる、と小暮は思った。
だが、ここで小暮が「いやぁ自分も同じ事を考えていたんですよね」何て言おうものなら
田中に嫌われるのではないか。そう思って小暮は「流石は田中刑事!」と答えた。
「流石って程のもんじゃないさ。
それに、これは仮説の一つでしかない。
ただ、この仮説が一番しっくりくるってだけだな、うん」
「それじゃ、この事件の捜査はどうするんですか?」
「そうだな…中林って奴がどんな奴だったかを調べる必要がある」
「タクシーで町田さんを送りましょうか?」
「その必要はない。その気になったら俺がそっちに出向く」
「分かりました」と小暮が答えると、田中は「じゃ、また連絡する」と残して電話を切った。
さて、小暮正俊は探偵としてこの二つの事件に挑む事になった。
果たして、彼は田中からの依頼を達成する事は出来るのか?そして、DPはどれだけ上達するのか?
この後、小暮は一人でDPをやりつつ事件について推理していくのだが、これは次回の話である。
196 :
旅人:2009/01/30(金) 02:02:57 ID:ozJbf7IZ0
いかがでしたでしょうか?これにて今投下は終了させて頂きます。
今作品の核というかコンセプトというか、そういうものになっているのは
「DPの楽しさ、触れ方の提示」と「トンデモな奇抜感溢れるストーリー」の融合です。
比率としては 3:7 か 2:8 になる予定ではいるのですが、
DPの楽しさを十分伝えられれば、と思います。
次回予告ではなく次回作予告なんかやってみよっかなーと思うのでやらせて頂きます。
前々からぼんやりと、これまでにない大作を考えていたのですが、
どういうストーリー展開にしよっかなーとアレコレ迷っていて、それで書けなかったのですが、
前書きに言った「あのゲーム」のストーリー展開、手法などに感銘を受けまして、
「この作品はこれで行こう!」と思い立って、まだ書いてはいないのですが
頭の中では「こういう流れで行こう」とは考えております。
っても、この「旅人的ガイドライン 〜IIDXDP ver〜」
が完結しない事にはどうしようもないので。
それが終わってからのお楽しみになりそうです。
それでは、今日はこの辺で。また!
乙
ホームのゲーセン新作入れたらダブル封印しやがった…
定期
199 :
旅人:2009/02/06(金) 00:39:44 ID:Y2SNETyZ0
今晩は、旅人です。
「旅人的ガイドライン 〜IIDXDP ver〜」は転機を迎えそうです。
小暮のDPの件と、爆破、放火魔の事件も大きな一歩を踏み出します。
さて、それぞれの話がどういった方向に進んでいくか。
これより本編スタートです。どうぞ。
(
>>197さん
え、ダブル封印ってどういう事なんですか?
ご愁傷様って事は分かるのですが、もしよろしければ、詳細をお教え頂けますか?)
200 :
旅人:2009/02/06(金) 00:47:03 ID:Y2SNETyZ0
田中刑事との通話を終えた小暮は
まだTVの前で泣き続けている町田のそばに寄って言った。
「町田さん」
「何…?ごめん、今は一人にさせて。
後で小暮君の部屋に行ってDPは教えるから」
「それはありがたいですけど、
僕の言いたい事は全く違います」
小暮は強く、右手を胸に当てて言った。
彼がきちんとしたスーツを着ていたなら、
それはまるで英国紳士のように見えただろう。
そんな事を無視しながら泣いている、
そんな町田を見ながら小暮は続ける。
「僕が放火魔を捕まえます。だから、泣かないでください」
「グスッ、卓さんはちょっと抜けている所があるの。
多分火の消し忘れとかだったんだわ。グスッ、そうに決まってる」
「どうしてそう言い切れるんです」
「だって、小暮君だって分かっているでしょう!?
卓さんは悪者じゃなかった!誰からも好かれるいい人だったのよ!」
それはそうですが、と小暮は半歩下がりながら言った。
町田の剣幕に圧されたのだ、と彼は思いながら町田の言葉を待つ。
「どうしてそんな人を殺す必要があるっていうの!?
いいえ、絶対にないわ、ないったらない!!!」
町田はそう叫ぶと、両手で拳を作って床に叩きつけた。
拳が床に叩きつけられた直後、「ドン」としょぼいキック音が部屋に響く。
一瞬怯んだ小暮は、すっかり興奮しきっている町田をなだめるようにして言う。
「町田さん、僕はあなたのアパートを爆破した奴と中林さんの家を燃やしたと
仮定する人物を同一のものとして見ています。何故だか分かりますか?」
「何よ。知らないわよ。大体、殺されるってのがおかしいのy…」
「十中八九、これは殺しです。町田さん、あなたも殺されかけたんですよ。
少しはそう、自覚、自覚して下さいよ。命を狙われたのは中林さんだけじゃないんだ。
そしてあなただけでもない。これからも、殺しは続きます」
小暮はそう断言するかのように言って、町田を黙らせた。
ホントに?と町田が目で小暮に問いかけた。小暮はそれを無言の首肯で返し、逆に聞いた。
「……町田さんと中林さんの共通点は何でしょうか?」
201 :
旅人:2009/02/06(金) 00:54:53 ID:Y2SNETyZ0
「………音ゲーが上手いって事かな」
その通り。そう小暮は言いながら授業用のホワイトボードの前に立った。
黒いペンを持ってそのキャップを外し、いいですかと前置きしてから言った。
「6:00、町田さんは自分の家が爆破されました。
そして10:38に中林さんの家が燃やされました。
中林さんの職業って、確か画家だったような気がするんですよ」
「うん、そうだけど……それで?」
「町田さん、いつも何時くらいに起きていますか?」
「大体朝の七時かな。それから、いつも行ってる仕事場とかに行くよ」
「はいはいはい」とか「ふんふんふん」とか言いながら、
小暮は町田から得た情報をホワイトボードに書きなぐっていく。
書きなぐられた情報でホワイトボード一面が黒くなると、
小暮はそれを回転、裏面を使って今度は縦線を引き、
下に矢印となるように線の終端に三角形をとりつけた。
そして「6:00 町田さんのアパート爆破」などとこの事件について書き込み、
そして時間も書きいれていく。小暮は、この事件の流れを一度図にして表そうとしたのだ。
「何それ?」
「つまり、犯人は町田さんや中林さんの事をよく知っていた人物です。
町田さんを殺すためには、朝の七時までに事を起こせばよいですよね?」
「え?うん、まぁそうだろうと思うけど、それを私に答えさせる?」
町田は非難するかのように小暮に言った。
「すみません」と小暮は返してから「どうしても」と前置きして続ける。
「どうしても、犯行のタイムリミットを考えたかったんです。
そういえば、中林さんは毎日ゲーセンに通うような人じゃなかったですよね?」
「卓さんは……そうね、確証は取れないけど、週に一度くらいしか行かないって。
卓さんが自分でそう言っていたわ。今となってはホントかどうかも分からないけど」
それで十分です、と小暮は返しながら「10:38 中林さん焼殺」と書いた置いた所に「←確定」
と書き足し、それから町田に言った。
「じゃあ僕、DPやってますね」
「は?」
「こういうのは、遊びながら考えた方が推理が進むんです。
もっとも、僕だけなんでしょうけどね。こういうのって……」
202 :
旅人:2009/02/06(金) 01:11:09 ID:Y2SNETyZ0
それから、小暮は一人自室に戻って遊んでいた。
起動しっぱなしのCSDDのデモを切り、そしてフリーモードを選択、
プレースタイルをDPのものにして選曲画面に移行した。
「さて、lv1の曲からやっつけるか……」
そう呟きながら、小暮はIP側のIIDX専コンのターンテーブルを回しながら
各lvフォルダまでカーソルを移動し、そして衝撃を受けた。
「一曲しかない……だと………?」
そう、CSDDにはDPNのlv1の曲は一曲しかない。そう、たったの一曲。
そして、白鍵を押してフォルダを開いた小暮に深い絶望が襲いかかった。
「アイワズ(N)……だと………?
ボロボロにやられた、あのアイワズ(N)だと…………?」
畜生、と小暮は心の中で悪態をついた。
「新規のDPプレイヤーが増えないんですって。どう思う?」
いつの日だったか、町田が小暮にそう意見を求めてきたことを思い出した。
あの時は曖昧な答えしか出せなかったが、今なら明確な答えを返す事が出来るだろう。
小暮はすぅっ、と一度深く息を吸って、心の中で盛大に叫んだ。
「滅茶苦茶敷居が高いじゃねーか!!!これなら新規DPerが増えなくて当然だろーが畜生!!!!!」
203 :
旅人:2009/02/06(金) 01:15:15 ID:Y2SNETyZ0
だが、小暮はそこでへこたれるような人間ではなかった。
ある程度不可能な事はあるかもしれないが、
この程度なら不可能と呼べる程度ではないのだ。
その程度のものなら、努力と経験を積んでいけば
誰もが必ず突破できるものなのだ、そうに決まっている……
小暮はそう考え、そしてフリーモードを終了し、
もう一度段位認定を選んでDP五級を受ける事にした……
田中は一人でパレス店内にいた。
このゲームセンターの常連は、
皆がそろってこの店の事を「白壁」と呼んでいる。
だが、田中はこの店の事を「白壁」と呼ぶことに抵抗があった。
何か理由があって、という訳ではないのだが、とにかく、そういう事なのだ。
田中は今日に起きた二つの事件を担当する事になったのだが、
相棒の中井がいない事に妙な違和感を覚えていた。
中井なりに事件を調べようとしているのだろう、と田中は考え、
白壁に足を運べば中井に会えるだろうという期待を少しだけ抱いて入店したのだが、
どこにも中井らしき人物を見つける事が出来なかった。
仕方なく、田中は本来の目的である聞き込みを初めていった。
手当たり次第に中林の事を尋ねていくが、返ってくる返答は妙なものばかりだった。
「中林?誰のことっすか?」
「DJ MACHI並みにIIDXが上手い男?知らないです、ハイ」
「というか、それほどの実力者なら『白壁』の常連で
知らないって奴はいないですよ。でも、そんな奴は知りません」
皆が皆、中林の事を「知らない」と言うのだ。変だ。そう田中は素直に感じた。
そこで田中は、静かな外に戻って小暮に電話をかけた。
何度目かのコールで小暮の応答の声が返ってくる。
田中はすぐに町田に代わるように言い、少ししてから応対する人間の声が女の物になった。
「あの…どなたですか?」
「田中です。町田彩さんですね?…俺の事を覚えていますか?」
田中にしては珍しい口調だ、と小暮は漏れる彼の声を聞いて思った。
しばらく間が空き、田中の耳に「あっ!」と何かに気づくような声が聞こえた。
それから、その女の声が田中に言った。
204 :
旅人:2009/02/06(金) 01:21:32 ID:Y2SNETyZ0
「田中刑事さんだ〜。どうしたんですか?」
「死んだ中林卓の事で聞きたいのですが」
まさに単刀直入。田中は先程ようやく落ち着きを見せた
町田の心を無視するかのようにそれだけを訊ねた。
次に、少しばかり震えが入った町田の声が田中の耳に入る。
「……なんですか?」
「彼のDJ NAMEを知っていますか?」
「そんな事ですか、えっと…『NAKTAK』です。
それが卓さんのDJ NAMEでした……」
「そうですか、ご協力ありがとうございます。
もしかしたら、またお電話させて頂くかもしれません。
その時はまた、ご協力をお願いします」
そう言って田中が通話を切ろうとした時、町田が何かを言っているのに彼は気がついた。
「絶対、卓さんを殺した奴を捕まえてください。
私、どうしてもそいつにビンタた食らわせてやらないと気が済まないんです」
「……犯人は絶対に捕まえます。約束します……では」
田中はまた白壁店内に戻っていた。
何故、先程の聞きこみは無駄に終わってしまったのか。
答えは簡単だ。「白壁」内では本名を言っても通じないのが殆どなのだろうからだ。
憶測の域を出ないが、これ位しか可能性が無いのだ。田中はこれに賭けるしかなかった。
「すみません、もう一度お聞きしたいのですが」
「刑事さん?言いましたよね?中林卓なんて奴は知らないって」
「その名前では知らないだけなんじゃないんですか?」
「は?どういう意味ですか、それ」
「そのまんまの意味だよ。知ってんだろ?『NAKTAK』って奴。どうだ?」
「『NAKTAK』……誰ですか、それ」
田中は自分の耳を疑った。今、この聞き込み対象は何を言った?
「何て言いました?」
「誰ですか?って聞いているんですが、マジで誰ですか?」
その言葉を聞いた瞬間、田中の全身の力が一瞬、
ほんの一瞬だけ抜けていったのは、田中しか分からなかった…………
205 :
旅人:2009/02/06(金) 01:24:32 ID:Y2SNETyZ0
いかがでしたでしょうか?これにて今投下は終了です。
ミステリー色にするつもりは無かったのですが、ちょっとだけその面が出ました。
別に、どっかの天才的な犯罪者が巧妙なトリックを云々……
というものは無いです。だって僕、頭悪いし。
そんな大それたこと、一生を使っても何も思い浮かばないと思います。
次回予告です。
DP篇は、ようやく僕がやりたかった段階の所に差し掛かります。
殺人事件篇は、少しは謎が明かされるんじゃないかと思います。
まぁ、予定は未定なので、この予告の通りになる保証はないんですけどね!
それではこれにて!さよなら!次回をお楽しみに!
>>205 乙でした。
ここまで読んでみた感想ですけど、正直どっちつかず感が拭えませんな。
片方の要素が時たま邪魔に感じることがありますね…
次回を期待しています。
>>205 乙
後小暮さんも乙でありますw
僕もDPは小暮さんと同じですたw
頑張れば二段は取れると思うので頑張れ小暮さん〜
ダブル封印ってのは
シングル1クレで
ダブルが2クレかかることになったてことだす
新作になるとこういうこと多いから若干困る
つまりDPが1クレで出来るようになるのはダブル解禁っていうの?
自分の最寄りがそれなんだけど
>>208-209さん
封印がどうこうというのは
ジョイント設定か非ジョイント設定ってことですか…
今まで聞いたことのない言葉だから、凄く違和感バリバリですね。
ともあれ、モヤモヤした疑問が晴れ、清々したところであります、旅人です。
名前欄には書いてないけど、本人です。
次回投下はいつやるぞ、という予告をしに来ました。
投下時刻は明日の夜の12時頃になりそうです。
そうそう、非ジョイントでも1クレでフリーと段位が出来るって知ってました?
僕は数日前に初めて知りました。はぁ、今まで何クレ無駄に使ってきたんだろう……
次回投下を楽しみにしてくれたら幸いです。それではこれにて失礼しましたー。
211 :
旅人:2009/02/11(水) 00:14:42 ID:Ie6QYJw10
凄く気分が沈んでいるんです。
何があったんだと問われても、それはあなたも知っている事である。
そうとしか返せません。それ程、凄く気分が沈んでいるんです。
輝き、そして煌めきを失くしてしまったモノに一体何が残るんだろう。
ちょっとだけ、そんな意味の分からない事を考えてしまいました。
すみません、この場でこんな事を書くつもりではなかったのですが……
予告通り、投下にやってきた旅人です。
気分が沈んでいますが、投下が出来ないほどではないので
予告通りにやってきました。
ちょっと今回は短めなので、ガッカリされるかもしれません。
それでも、少しだけでも話は進めたい。
勝手にそう思うので、これから本編です。
212 :
旅人:2009/02/11(水) 00:16:07 ID:Ie6QYJw10
田中刑事が捜査に行き詰ってショックを受けていた頃、
小暮は二度目のCSDD段位認定DP五級をクリアーしていた。
まだ指がどのように動けばこのボタンを押せる(叩ける)と完全に
理解したわけではないが、何となくの感覚を掴んでいる、と小暮は確信していた。
小暮はもう一度段位認定DP五級を選択し、
その感覚を確固たるものにしようと考えた。
そうすればある程度の実力が一気に付くだろうと、小暮は何となく感づいていたのだった。
小暮はプレーをしている途中、二つの事件について自分なりの推理を働かせていた。
何故、町田と中林が狙われなければならなくなったのか。
それは本当に音ゲーが上手いからという単純な動機なのだろうか。
ただただ狂気にまかせ、行き当たりばったりに犯罪を起こしているのか。
小暮は分からない、と素直に受け入れた。
無理に考えるより、しばらく時間を置いてそれから長考すれば良い。
AA(SPH)をノマゲクリアした時だって、一旦時間を置いてから…では無かっただろうか。
兎に角、今はアイワズ(DPN)を、
段位ゲージがほぼフルに近い状態でクリアーする事が小暮の目標だった。
三度目のDP五級。もう小暮の指はDPをするのに十分慣れ切っていた。
だから、その目標は簡単に達成できたし、達成率も急激に上がったのだった。
よし、と小暮が小さく呟くと同時に彼の耳に別の人の声が聞こえた。
「小暮君おめでと〜。五級で指を慣らしていたの?」
町田の声だった。彼女の眼には、自分が持っていた目的など簡単に映るらしい。
小暮は怖い怖い、と思いながらゆっくり振り返り、口を開いた。
「はい、でもこれで、アイワズ(DPN)はノマゲでもクリアできるんじゃないかと」
「そだねー。じゃ、四級や三級やってみて。
今の小暮君なら、経過を問わなければクリアー出来るはずだよ」
町田はそう言うと、小暮の右斜め後ろに座った。
オーケイです、と小暮は答え、そして段位認定DP四級をプレーした……
213 :
旅人:2009/02/11(水) 00:35:45 ID:Ie6QYJw10
十分後。小暮の事務所には、すでにDPlv3の曲を
フリーモードで選曲している事務所の主の姿があった。
DP四級をプレーした小暮は、五級とほぼ変わらない達成率を叩き出し、
町田から「フリー行ってみよー!」の指示を受けて、今に至っていた。
lv3フォルダにノマゲランプを灯らせた小暮は、次にlv4フォルダの征服に乗り出した。
だが、これから彼を襲う悲劇が幕を上げる事となる―――
lv4の曲も数曲クリアー出来てきた小暮には
すっかり調子に乗っていた節があった。もう怖いものなし。
lv4曲も、ちょっと手ごたえがあるというだけで、結構簡単にクリアー出来てしまう。
選曲画面で小暮がカーソルを移動、それを合わせた曲名を見た町田は
一瞬にして表情を変えた。その曲はやっちゃいけない、と町田は思い、そして口を開いた。
「ダメ、その曲はダメ。絶対にクリアー出来ないよ、それは」
「え?いやいや、大丈夫大丈夫。こんなの楽勝にクリア出来ますよ!」
小暮、白鍵を押す。キュイイイィィィンン、タアアァンン…
曲決定時の効果音が流れるとともに、その曲名が表示される。
「quell -the seventh slave-」
214 :
旅人:2009/02/11(水) 00:43:20 ID:Ie6QYJw10
町田は思っている。その曲はCSDDの中のDPでのlv4曲の中でも最難ではないかと。
小暮は思っている。その曲はどうせ大した事のないlv4曲なのだろうと。
「quell -the seventh slave-」(以下、クエル)の譜面は
どう見てもlv4曲のそれではないと町田は思っていた。
最初はまだいい。叩くノーツが少ないのだから。
だが「ダダダダダダダダダダダダダダダーン」という
ムービーが赤基調のパート(町田はよしくんパートと呼ぶ)
に入る前のドラムのような音が、その間隔を狭めていきつつ
クレッシェンドしていくその場面まで曲が進んでいくと、
SPN,Hでは何と言う事のない譜面が高速で流れていたが、DPでは話が違う。
町田はその最初の難関を見切る事が出来るが、
いきなり物量攻めしてきたその譜面に対し、小暮はどうする事も出来なかった。
一気にゲージが2%まで減らされる。小暮が今まで浮かべていた笑みなど、とうに吹き飛んでいた。
よしくんパートの譜面もlv4か?と町田は疑問に思う。
そう、クエル(DPN)で回復が出来る場所は
一番最初かムービーが青基調になり、強烈な光が溢れ出すパート(町田はタカパートと呼ぶ)
の最初くらいしかないのだ。よしくんパートとラストパートが全く見切れないのでは、
もし見切れていても押す技術が無いのであれば、クエル(DPN)をクリアーする事は不可能なのだ。
二分後、ブーイングをしているTVの前に、落ち込んでいる小暮が座っていた。
両手を床につき、先程までの調子の良さは何処かへ消えてしまっていた。
そうしてすっかりしょぼくれている小暮に町田が言った。
「小暮君……あれは詐欺曲だよ。大丈夫、AA(DPN)位のムズさだから」
「そうは言っても…なんでスタッフはこれをlv4にしたんだろう……」
全くだ、と町田は思った。
もう少し考えて難易度表記をしっかりとやって欲しいなぁ。
もうちょっとプレイヤー達の声を聞けば、詐欺逆詐欺も無くなると思うんだけど……
後はホラ、チュートリアルやビギナーモードもDPに対応出来たら
敷居はグッと低くなるし、どうなんだろうか?皆はそう思わないかな?どうなんだろうね。
215 :
旅人:2009/02/11(水) 00:44:41 ID:Ie6QYJw10
いかがでしたでしょうか?これにて今投下は終了です。
皆さんの意見が分かれるようなネタだったのではないだろうか、
僕は今回の投下分の話をそう考えています。
クエル(DPN)って、よしくんパートに入る前から詐欺曲の匂いぷんぷんで…
DPやりたての頃に幾度となく2%落ちした思い出があります。
でも、SPがある程度上手かったら、
DPで指の配置を何となくで覚えていけば
急激に成長しますよ。ソースは僕ですが。
ただ、7鍵と8鍵の同時押しとかで
「あれ?」ってなったりするのは、この時期にはまだ見られると思いますし、
それはまだまだDPに慣れていない証拠だと思います。
プレー回数を増やすことがDP上達の秘訣です。
最後の方で町田が誰かに問いかけている場面ですが、
それは読者さん方に問いかけているとか、小暮に問いかけているとか、
それとも別の人物に問いを投げかけているのかというのは決めていません。
ただ、DPの敷居をもっと低くすれば、チュートやビギナーがあれば
プレー人口が増えるのになぁとは、僕は結構思ったりするところであります。
次回、果たして小暮はクエル(DPN)をクリアー出来るのでしょうか?
次はそこの所に注目してくれたら嬉しいです。それではこれにて。また会う時まで!
旅人氏乙です!
気分が沈んでるのにちゃんと投下するなんて偉いね
っていうかまだまだ小説書いてた事に感動した!
俺もここに某作品を投下してて、いつか続き書きたいって思って一年経過しちまった/(^o^)\
俺も母親そろそろヤバイ&両親離婚して以来音信不通だった親父が去年死んだいたと最近生き別れた兄貴と再会して気分が沈みまくりんぐだけど、お互い頑張ろうぜ!\(^o^)/
そろそろageとく。
こんばんは。
トップランカー殺人事件の続きだよ!
たまには読んでね!w
>旅人さん
マイケル氏逝去のニュースで沈んでいるとお見受けした。
冥福を祈りましょうぜ…。
DPの敷居が高いのは同意ですが、
ジョイント設定もなく無理皿のオンパレードだった昔に比べりゃ
だいぶマシにはなったと思いますよ。
あの頃はもうなんか、修行僧のような気持ちでDPやってたなw
>216
なんという波瀾万丈な人生。
勝手ながら、その経験を糧に続きを書いてもらえるのを楽しみにしてますよ。
それでは、続きです。
乙下は「営業停止中」の貼り紙が貼られたガラス戸を開き、
シルバーの外に出て、制服姿の杏子の正面に立った。
七月ながら、北緯40度に迫る盛岡市の宵の口は蒸し暑さを感じさせない。
乙下と杏子の間に横たわるのはそんな清涼感を含む空気層だけであり、
ガラス越しにではなく見る杏子の眼差しは、
やはり乙下に対して何らかの強い意志を込めて放たれているように思えた。
杏子の白い肌は人工的な街の灯に照らされてますます白くなり、
長い髪が持つ黒さはと言えば、街を満遍なく
覆い尽そうとしている漆黒の闇と比べても遜色のないほどだった。
こうして彼女の白さと黒さを際立たせるからこそ、
杏子には夜が似合うという考えが浮かんだのだろうか。
夜を着こなしている。
乙下はそんな風にも感じた。
「学校には行きました」
杏子は唐突に言った。
学校はちゃんと行ったのか、と今まさに切り出そうとしていた乙下は、
出鼻を挫かれたような気持ちになる。
変に偉ぶる様子もなく、
事実のみを淡々と報告しているような口振りだったので、なおさらだった。
「こんな時間にどうした?」
「貴方に会いに来ました」
杏子は昼間と同じ場所で、昼間と同じ発言をした。
冗談みたいな内容だったが、
冗談などではないと目が代弁していた。
だから昼間のように軽くあしらう気はもう失せていたが、
不可解な相手であることに変わりはない。
乙下は相手の出方を窺いながら聞いた。
「俺に何の用なの?」
「私に、BOLCEさんを殺した犯人を捕まえる手助けをさせて下さい」
出方を窺うどころの話ではない。
単刀直入だった。
半ば想像していたものに近い答えだったとは言え、
余りにも単刀直入なその発言は、乙下を困惑させるに十分な威力を持っていた。
乙下の斜め後ろで一連のやり取りを見ていた空気が、
警戒した表情でそっと耳打ちをする。
「オトゲ先輩、やっぱりこの娘ちょっと変ですよ。
あんま相手にしない方がいいんじゃないっすか?」
「いや、話だけは聞こう」
乙下は警察手帳をポケットから取り出し、杏子に見せた。
本日二回目の行動である。
「とりあえず自己紹介しとこうか。
盛岡警察署捜査一課の乙下圭司だ。
こっちは……空気って呼べばいいよ」
「クウキさん。
風変わりなお名前ですね」
「あだ名っすよ、あだ名。
おっしゃる通り変なあだ名で困ってるんです。
名付け親は一体どんなセンスしてるんだか」
空気が横目でチラリと視線を送ってきたが、乙下は相手にしない。
杏子は杏子で、特に気の利いたリアクションなどはしなかった。
そんな杏子に対し乙下は、なかなか見所があると勝手に好感を抱いた。
「私は円樹杏子と言います。
職業は占い師です」
杏子が名乗るのはやはり本日二回目の行動だったが、
「占い師」という発言は間違いなく一回目だ。
言うことの一つ一つに戸惑わされるばかりで、
乙下はなかなかペースを掴めない。
「いや、君学生でしょ。
今日生徒手帳見せてくれたよね。
つーか、どっからどう見ても女子高生でしょ」
「学生は社会的な職業です」
沈黙が訪れた。
二の句が続かないところを見ると、
これで説明は終わりなのだろうか。
乙下ははやる気持ちを抑え、
子供をあやす時のような若干わざとらしい口調になりながら問い質す。
「えーと、学生が社会的な職業なら、
それじゃ占い師は何的な職業なの?」
「人間には二つの職業があるんです。
一つは社会的な職業で、
もう一つは生まれながらに定められた役割という意味での職業です」
「……その役割が、君の場合は占い師なんだ」
「そうです」
杏子はまるで今日の天気を口にするかのように
力みなく自然体で言い切るものだから、
乙下は「あ、そうなんだ」と納得してしまいそうになる。
そんな自分を、もう一人の自分がかろうじて押さえ込んだ。
一方で、空気はより一層警戒心を強めているようだった。
「先輩、やっぱこの娘ほんまもんっすよ!
関わらない方がいいって」
空気は杏子に聞こえないよう押し殺した声で忠告してくる。
乙下はそんな空気の気持ちが分からないでもない。
現実に今日の昼間は、乙下自身が彼女に対して
けんもほろろな態度をとったばかりだったはずだ。
だが杏子はたった今、はっきりと生前のBOLCEとの関わりを示した。
なおかつ、事件の解決を望んでいる。
そうした以上、乙下には杏子の存在をないがしろに扱うことはできなかった。
「君はBOLCEの友達だったんだね」
「そんなところです」
杏子はやや曖昧に肯定した。
その反応からすると、もしやBOLCEと杏子は
恋仲だったのではないかと勘繰ってしまう。
だがそれを追求するのも不躾に思い、乙下は気にも留めない素振りを決め込む。
「私、BOLCEさんと同じゲームで遊んでいました。
それでこのゲームセンターで知り合ったんです」
「と言うことは、君もデラのプレイヤーなの?」
「ちっとも上手にできないんですけど、一応そうです。
その様子だとご存じなのでしょうけど、
BOLCEさんは物凄くIIDXが上手くて、とても尊敬していました。
よく上達のためのアドバイスをしてもらったりもしました」
デラという俗称を用いる乙下とは対照的に、
杏子は律儀にもツーディーエックスと発音した。
知り合って間もないが、いかにも杏子らしいと乙下は思う。
「私、BOLCEさんが殺されて悲しかったです。
悔しかったです。
犯人を許せないと思いました。
犯人を捕まえたいし、できれば呪い殺したいです」
呪い殺したい。
そう無表情で話す杏子に、乙下は戦慄を覚えた。
悲しみとも怒りともつかないその顔の奥にある感情が読めないからなのか。
杏子の顔から表情を奪ってしまうほどまでに
悲しみや怒りが臨界点を突破している可能性におののいたのか。
単純に、かくも無表情のまま恨み辛みを語れてしまう杏子の底知れなさが不気味だったのか。
乙下の鼓動が加速度を伴う。
「でも私にそんな力はありません。
だから、私は私の進むべき道を占いました。
その結果、BOLCEさんが殺されたこの場所に導かれたんです」
「それで君は今日、ずっとここに立っていたんだ」
「はい。今日は朝からここで待っていました。
そして貴方に出会った。
貴方が警察の人であると知って、私は確信しました。
貴方はBOLCEさんを殺した犯人を追っていて、
私は貴方を手助けするためにここへ導かれたのだと」
「……そうだったんだ」
乙下は占いというオカルトじみたものは一切信用していなかった。
しかし杏子の行動原理は占いを基軸としており、
彼女はそこに何の疑いも持ち合わせていない。
果たして、自分達の間に対話は成立するのだろうか。
そんな心配事はあったが、
ただ事実として確かに乙下はBOLCEを殺した犯人を追っている人物であり、
かつ杏子は占いを頼りに乙下の元へ辿り着いたということになる。
「君の言う通り、俺がこの事件の担当だよ。
手助けしてくれるっていうその気持ちはありがたいんだけど、
君みたいな未成年を巻き込むわけにはいかないな」
「お願いします。必ずお役に立てます」
「そう言われても」
「お願いします」
「けどさ」
「お願いします」
杏子は巨木のようだった。
表情も語調も変えず、ただただ頼み込む。
一寸たりともぶれることのない突き刺すような瞳には、
決して曲がることのない意志が乗り移っていた。
引く気配はまるでない。
下手に泣き落とされたり色仕掛けをされるよりも、
よほど厄介な相手だと乙下は痛感した。
「一緒に捜査をさせてくれなくても構わないんです。
私の知っていることなら何でも話しますので、
私を情報源として利用して下さい」
杏子は自分を物のように言う。
「知っていることって、何か知ってるわけ?」
「いえ。事件については何も知りません」
「じゃ、駄目じゃん」
「事件については何も知りません。
ですけど、私は誰よりもBOLCEさんのことを知っています。
きっとBOLCEさんよりもBOLCEさんのことを知っています」
杏子は照れもせずに断言した。
恋仲にあったのか否かはさておくとしても、
もはやBOLCEに特別な感情を抱いていたことを告白したのと同義ではないだろうか。
「BOLCEさんがどんな人で、どんな生活を送っていたのか。
きっと捜査の手掛かりになります」
「それはまぁ、そうかも分からんけどね」
「それだけじゃありません。
占いで手助けすることもできます。
今日のラッキーアイテムを占います」
「そいつは間に合ってる」
乙下は吹き出しそうになるのを堪えながら即答した。
これほどまで浮世離れした雰囲気の杏子が
ラッキーアイテムなどという俗っぽい横文字を使った上に、
それが捜査の手助けになると本気で信じているらしいことが妙に可笑しかったからだ。
しかしいくら何でも神頼みに走るほど落ちぶれるつもりは毛頭ない。
ところが、次の杏子の言葉に乙下は耳を疑った。
「今日の貴方のラッキーアイテムはポスターです」
「……おい、何て言った?」
「今日の貴方のラッキーアイテムは、ポスターです」
意表を衝かれた乙下は、空気と目を見合わせた。
空気はすでに呆気に取られ、口をあんぐりと開いている。
「君、なんでそれを……?」
「今日の貴方のラッキーアイテムを占いました。
その結果です」
「占いって、真面目に言ってるの?
君は本当に占い師だって言いたいわけ?」
「そうですけど」
「マジかよ」
肝が潰れそうなほどの喫驚の中で、乙下は認めざるを得なかった。
これは断じて後出しジャンケンなどではないと。
そう。
すっかり忘れていたが、昼間、杏子はポスターと言った。
ポスターに注意しろと言った。
乙下が事件におけるポスターの重要性に気付く前の時点で、
杏子はポスターに注意しろと、そう言ったのだ。
だがさすがに占いという非科学的なものを信用するわけにはいかない。
信用して良いはずがない。
とすると、杏子がポスターに着目したことは偶然なのか。
それとも。
乙下はあらためて杏子を眺めた。
杏子はきょとんとしている。
自分が胡散臭く扱われていそうな雰囲気など
微塵も感じ取っていないようだった。
良くも悪くも、彼女の純粋さが滲み出ている。
嘘や悪巧みがあるようには到底思えない。
少なくとも乙下にはそう見えた。
だがそれは乙下の主観だ。
杏子が嘘をついていないとは、確実には言い切れない。
ただ間違いがないのは、
彼女は何らかの強固な意志を持って行動していること。
乙下はその確信に至っていた。
であれば、少しばかり気は引けるが、取るべき選択肢は一つに決まっていた。
「決してその占いとやらを当てにするって意味じゃないんだけど」
乙下は頭を掻きながら前置きをし、それから意を決して言い放った。
「せっかくだから君のご厚意に甘えようかな」
「ちょっと、オトゲ先輩!?」
杏子よりも先に、空気が食ってかかった。
「正気っすか?
占いなんて、本気で本気にしてんすか?」
「だから、占いを当てにしてるわけじゃないっつってんだろ」
「じゃぁどうして。
この娘の協力なんかなくなって、
事件はもうほとんど終わりが見えてるじゃないっすか」
乙下は煩わしくなりながらも、核心的な部分は伏せつつ説明する。
「終わりが見えてるだけで、終わりではないだろ。
俺達は今、アイツが犯人であり得る可能性を見出したに過ぎないんだよ。
『アイツが犯人である証拠』と『アイツがBOLCEを殺害した動機』。
これを暴いて、ようやくこの事件は終わりを迎えるんだ。
そのためにはBOLCEの身近にいた人物の協力が必須だってこと、
お前には納得できないのか?」
「……」
空気は不服そうにそっぽを向いたが、
その行為はつまり異を唱えることができないことを物語ってもいた。
それを見届けた乙下は杏子に向き直り、
軽い調子で挨拶をするように片手を上げた。
「ってわけでよろしくね、杏子ちゃん」
杏子はにこりともせずに頷く。
to be continued! ⇒
今週はここまでです。
長かった第三話も、次回でようやく終わりです。
それでは。
>>225 毎回欠かさず読んでますぜ!
次で三話が終了ですか。
Wiki見るとえらい長さになってますなー
正直、糸口を掴んだ辺りの箇所から次回までを
第四話としても良かったような気もしますが。
何はともあれ、次回を楽しみにしております。
227 :
旅人:2009/02/15(日) 23:08:39 ID:S8iSwL+g0
>>216さん
もうここが一種の生きがいみたいになっちゃって。ネタが尽きる事がないので、
ポンポン話が浮かんじゃって。だから、もう一年もここでお世話になっちゃってるんですよねぇ…
それにしても凄い人生を送ってらっしゃいますね。僕は耐えられそうもないです。
勝手で悪いんですけど、その続編を楽しみに待ってます。
>>とまとさん
やっと第三話にピリオドが!
変わってるなぁと思ってた杏子さんが、まさか仲間になるとは思わなかった。
次回から第四話ですね!楽しみにしてます!
今晩は、旅人です。
もうこの話も中盤に差し掛かってきました。
しかし、まだまだ最後の方をどう〆るかをハッキリ決めておりません。ヤバい…
元々、DPだけじゃ面白味も何にもねぇと勝手に思って
それで事件の話も織り交ぜながらやっていって、僕独自の味が出せれば……
と思って書かせて頂いておりました。
別のスレとかで、DPの解説は僕以上に上手に丁寧にやっておられる
というのは知っていますし、だからこのままじゃ僕の負けだ、と勝手に思ったので、
無茶だなぁと自分で思いつつもこんなスタイルでストーリーは進んでいきました。
例によってぶっ飛んだ設定やストーリー展開が目白押しになるかもしれません。
でも、まだそこまでは差し掛かってはございません。ので、安心して本編をご覧下さい。どぞー。
228 :
旅人:2009/02/15(日) 23:14:20 ID:S8iSwL+g0
小暮が落ち込んでからは、何故か町田がCSDDで遊んでいた。
彼女はデモンストレーションと称し、落ち込んでしまった
小暮から二つのコントローラーを半ば奪うようにして遊びだしたのだ。
彼女曰く「後ろからずっと見てるだけなんてヤダヤダ」という事らしい。
小暮としては「うん、もう、ちょっとだけ休もう、うん」と考えているので
そこのあたりはどうでもいいようだった。
だが、そのどうでもいいという感情はすぐに吹き飛ぶことになる。
町田が「Go beyond!」(SPA)をHARDオプションを付けて
プレーしていたその時に、小暮の携帯に着信音が鳴ったのだ。
その着信音は田中から電話が来た時に鳴るように設定されているので、
画面を見ずとも小暮は誰から電話が来たのかを知る事が出来た。
「へいへい、あー面倒くさい…」と独り言を呟きながら、小暮は携帯電話を開いて応対した。
「はいもしもし」
「中林についてなんだが……変な事が分かった」
「変な事?何でしょうか」
「パレスに…いや、白壁って言った方がいいか?」
「出来れば。でも、そんなに無理して言う必要はないですよ」
「いや、白壁と呼ぼう。んでだ。ちょっと前に白壁に聞きこみに行ったんだよ」
「あぁ、だから中林さんのDJ NAMEを聞いたんですね?」
「そうなんだが…中林のDJ NAMEは『NAKTAK』で合っているんだよな?」
「えぇ。『NAKTAK』で合ってますよ」
「おかしいんだよ。お前、町田と同レベルの…とか言ってたろ」
「はい、それはもう凄くて凄くて」
「それはいいんだ。それだけ上手いんなら、結構有名だよな?
だから、ランカーの名が広く知れ渡ったり…だよな」
「そうですよね。でも……」
229 :
旅人:2009/02/15(日) 23:21:09 ID:S8iSwL+g0
小暮はそこで言葉を濁した。そこで、田中が続きを言うように言う。
「でも、何だよ」
「『仙人』って知ってますか?」
「中国のアレか?霞食って生きるとかいう馬鹿げたアレか?」
「えぇ。馬鹿げてるかはよく分かんないですけど。
ともかく、『仙人』という言葉は用語としてちゃんと音ゲー界にある…はずです」
「それってどういう意味だ?」と田中は間髪入れずに聞いた。
「確かな意味は忘れたのですが」と前置きを入れてから小暮は答える。
「滅茶苦茶上手いんですけど、IRに参加しないので無名のプレイヤーになっている、
そんな感じの人だったんじゃないかな…大体、そういう意味です」
「ははぁ、なるほど。
中林って奴は『仙人』と呼ばれるプレイヤーって事だ。
だったら、白壁の聞きこみの反応も少しは納得できるな」
「それは…知らない、とか言われたんですか?」
「あぁ。知らないの一点張りでな。どういう事かと悩んでいたんだが、
『仙人』か……それなら説明がつけられるかもしれない」
「それは良かった……(ヤッターアナゴビヨナンクリデケター)」
「うん?近くに彼女が…町田がいるのか?」
「え、えぇ…(マチダサン、モウスコシシズカニシテクダサイヨ、ダイジナハナシヲシテイルノニ…)
(エー、ナニィー?ケイジサンナノ?カワラセテー)ちょっ、何するんですか!」
「お、おい、小暮?おーい、どうしたんだよ」
通話している相手の様子が異常に変わったらしいのを聞き、
田中は少しびくついた。一体何が起きたのか。それはすぐに明かされた。
「もしもーし、刑事さん?」
「あ、町田さんでいらっしゃいましたか」
電話口の向こう側では、町田が田中と話をしたいために
彼女が小暮の携帯電話を強奪していたという事件が起きていた。
ただそれだけの話だった。だが、町田は罪悪感を抱くこともなく話を続ける。
230 :
旅人:2009/02/15(日) 23:27:48 ID:S8iSwL+g0
「確かに、中林さんは『仙人』でした。
段位も取っていなかったんじゃないかな、
『高難度なんて、たまにやる位が丁度良いんだ』って言ってました」
「いい言葉ですね。機会があったら俺も使おうっと……
いやいや、そうではなくて。
あなたが被害者と始めて出会った場所を教えて欲しいのですが」
「始めて出会った、うーん……
そうだ、あそこだ。刑事さん、幸空町の『プル』って名前の小さなゲーセンです」
「幸空町の、『プル』ですね。
分かりました。捜査のご協力、ありがとうございます。
そうだ、小暮さんに代わって頂きたいのですが……」
「ちょっと待ってて下さい」と町田は言い、
すぐに携帯電話を持ち主の元につき返した。
持ち主、つまりは小暮の事だが、彼は携帯電話を耳にあてた。
「で、行くんですか?」
「そうだ。今から行ってみようと思う。
そっちはそっちで事件解決を目指してくれ。それじゃあな」
田中がそう言うと通話はすぐに切れた。
小暮は携帯電話をたたみ、そしてごろんと横になった。そして、
「あーあー、事件解決なんて、そうそう上手く行くもんじゃないんだよなぁ…
面倒くさいよなぁ………何で探偵なんかになろうとしたんだろ。フツーの仕事がしてぇよぉ……」
とやる気ゼロの呟きを残して眠りについた。
寝ちゃったよ、と町田は思わず突っ込み、そしてある物を探した。
この部屋は少々寒い。小暮が風邪をひかないようにしてやらねばなるまい。
そう思った町田は、押し入れから毛布を一枚見つけ、それを小暮の体にそっとかけてやった。
231 :
旅人:2009/02/15(日) 23:30:30 ID:S8iSwL+g0
それから町田は、裏が白いチラシとサインペンを見つけ、
何かを黙々と書いていった。その時の彼女の目は真剣そのものであった。
約十分後、町田はため息をつくと同時に後ろから床に倒れた。
仰向けに寝る格好になった彼女の視界に、小さな壁がけ時計が目に入った。
あ、と彼女の口から洩れる。次に、彼女はゆっくりと起き上がって
チラシの裏にまた何かを書きこんで、それから外出の準備をして外へ出ていった。
何時の間に寝てたんだろ…と思いつつ小暮が目覚めると、
身に覚えのない布団が自分の身にかけられているのに気づいた。
そして、町田に礼を言おうとして彼女の姿を探したが、
事務所の中には町田の姿が無かった。どこを探しても町田の姿は見つからなかった。
小暮はため息をつきつつ自室に戻っていった。
一体何を考えてんだろ、あの人…と思いつつ床に座る小暮の目に何かが止まった。
それは何の変哲の無チラシだった。そう、ただのチラシだった。
小暮はそれを裏を上にし、そしてその裏に何かが書き込まれているのを見つけ、
彼は無意識のうちにそれを黙読していた。
「目指せ!クエルDPNノマゲクリア!!
まず、手持ちのCS作品のDPlv3曲を全部プレーしよう。
それでDPの経験を積むんだ。何事も経験が大事だから!
次にlv4。クリア出来ないものもあるかもしれないけど、
いちいち落ち込んでいたらキリがないよ!頑張れ!!
そうそう、GOLDからはDPerには嬉しい仕様が追加されているよ。
それはプレーして自分で見つけてみてね!
それでは、昼食の準備に行ってきます。
カップ麺二つ買ってくるから、それまで待っててね!」
カップ麺か、と小暮は笑った。
次に、自分も人の事を言えないやと彼は反省した。
自分も昼食は「いい○も」見ながらコンビニ弁当で良いや、と思っていたので。
そう思った小暮は、次にチラシの裏に書かれていた指令に従う事にした。
「さてさて、判定の悪いハピスカは置いといて…先にゴールドから攻めるか」
そんな独り言を言いながら、彼は自室へと戻っていった。
それから数十秒後、小暮の自室は輝きが溢れるバブリーな雰囲気に満たされていった………
232 :
旅人:2009/02/15(日) 23:35:45 ID:S8iSwL+g0
いかがでしたでしょうか?これにて今投下は終了です。
色んな事に言えると思うのですが、何事も経験の積み重ねが大事です。
それはゲームにおいても同じで、さらにはDPにも言えると思います。
次回予告です。
今回は事件篇な雰囲気で進みましたが、
次回も事件篇をメインに進めたいと思っています。
予告にもなってねぇ予告ですが、これにておさらば!また会う時まで!
(ちょっと不安な事がありまして……
本編中に「仙人」という言葉が出しましたが、
これって現実に音ゲー用語として存在したか?と思いまして。
それで皆さんにお聞きしたいのですが…
「仙人」って現実に存在する用語ですか?それとも僕が創作してしまった単語でしょうか?
あともう一つだけ。ここで書き手として活躍している方にお聞きしたいのですが、
自分が○○[丸はここで使っている名義に変換して下さい]であると
職場やホームのゲーセンの常連さん達に知られていたりしますか?
もしよろしければ、是非これに答えてくれれば嬉しいです。単なる好奇心からの質問ですが…)
旅人氏って、もしかして高校生以下の学生?
作品や前書き、後書きを読んでいるとイカニモな空気が伝わってくるんだが…
後、普通2chでのコテ名なんて周りに公言するようなものでも無いと思う。
大体物書きとして活動している人間は、そのままの名前でこういう場所に書いたりする事なぞ極めて稀だろうし。
そもそも、そういう人達は同じ2chでも然るべき板でやっているしね。
それから、文中の意味での仙人というのは初めて聞いたな。
個人的にもその言葉が存在するのかは気になる。
234 :
旅人:2009/02/16(月) 07:17:14 ID:M/pxTPdy0
>>233さん
すみません、その予想は当たっちゃってます。
皆さんと比べると、僕はまだまだ子供です。
それでも、皆さんから応援を頂けたらと思っています。
勝手ですみませんが、これが僕の正直な気持ちです。
この質問の意図は、実は僕が旅人であるという事を
ホームの常連さん達に知られているんじゃないんだろうか。
そう恐れを抱いたので、知られているのはデフォなのか?と
知りたくてさせて頂きました。
よくよく考えてみたら、そんなの大っぴらにする人なんているわけないじゃないか
と自己解決してしまって。何のために質問したんだよと。
それでも、レスを下さった
>>233さんに感謝します。本当にありがとう。
やっぱ仙人は僕の創作した単語だったか…
現実にその言葉が存在しなければ、僕オリジナルの単語として
捉えて頂ければと思っています。朝っぱらから長文失礼しました。
俺もそんな悩みを持てるくらい有名になりたいぜ
旅人氏は投下後のレスに幼さが目立つ気がする。
自己主張が強い、とそれらのレス読んでいつも思ってた。
ここは小説投稿サイトではなく2chのいちスレッドなんだからもう少しそこらへんは自重した方がいいのでは。
反面文章構成力は他のSSとかと比べても全然遜色ないと言えるから(話の構成力は少し難がある奴も・・・)、
とにかくもうちょっと客観視出来ればさらに読者もいい印象持つようになると思う。
以上一読者のありのままの感想。
237 :
旅人:2009/02/18(水) 22:54:42 ID:RqaGG1Dz0
>>とまとさん
すみません、
>>234のように思った原因は僕の被害妄想です。
不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。
>>236さん
恥ずべき汚点の指摘とアドバイスをありがとうございます。
これからの活動で、頂いたものを活用できるように頑張ります。
僕の振る舞いで、スレに嫌な雰囲気を漂わせてしまった事を深く反省しています。
お詫びの仕様がないと思うのですが、これからの活動をもってお詫びとしたいと思います。
謝罪になっていないのは承知ですが、僕に出来る事はこれくらいしかありません。
本当に申し訳ありませんでした。以後、このような事がないように自重するよう心がけます。
まぁまぁ、旅人の人の文体と態度は最初からこうだったじゃないか。
239 :
旅人:2009/02/21(土) 01:20:57 ID:/Td24u0G0
>>238さん
でも、僕のその態度がいけないと自分でも思うんです。
文体はすぐに変えられないだろうけど、態度なら変えられる。
そう考えています。これからもよろしくお願いします。
今晩は、旅人です。
不定期連載させて頂いております、
全然面白くもない話を投下にきました。
毎度毎度、色々と拙いですが、本編をよろしくお願いします。
240 :
旅人:2009/02/21(土) 01:23:48 ID:/Td24u0G0
音安市幸空町12丁目に、田中が目指していた場所があった。
プルという名前のゲーセンだった。外見は小さな洋食屋といったふうである。
中でナポリタンでも食うか…と思ったらここゲーセンかよ、
と間違えて入店した客の為にか、そこでは洋食屋もやっていた。
そう、プルという店はゲーセンと洋食屋が合体した店なのだ。
だからここには5鍵ビーマニがあったりする。貴重だな、と田中は思った。
IIDX筐体もあるが、今プレイヤーの手によって演奏される曲は音量が小さかった。
そういう筐体設定らしい。打鍵音も小さいことから、プレイヤーの心づかいが感じられる。
こういう店にはこれ位の曲の音量と打鍵音が丁度良い。
余談だが、プレイヤーが演奏している曲がwith you…
である事は田中には分からなかったが、
冥や嘆きの樹とか天空脳番長(ryとか、
そんな曲であるよりはこの曲がこの場所に似合っている、と田中は感じた。
プルで食べ物を頼むには、まずそのカウンターに行かなければならないらしい。
「いらっしゃいませー」と出迎えられないし、
「そちらの席にお座り下さい」とも言われないし、
「ご注文はいかがですかー」とも聞かれない。
ふーん、と田中は心の中で呟き、そしてカウンターの方へ歩く。
カウンターの向かいに立つバーテンダーのような
制服を着た従業員の男がようやく口を開いた。
「いらっしゃいませ、席はご自由にどうぞ。
ご注文はテーブルの上にありますボタンを押していただければ…」
「いや、すみませんね。そういう事じゃなくて…」
田中は男の発言を遮って言い、直ぐに次の行動を起こした。
胸ポケットに手を伸ばし、そこから掴み出されたものを見、男性は表情を変えた。
「いやぁこういう者なんですけどね。はい」
「…警察がこの店に何か用ですか?」
「そんな警戒しないでも。ちょっと話を聞きたくてですね……」
「話?」
「ええ。すぐ終わりますよ。
ここに中林卓、いや『NAKTAK』っていう名前で通っている人って、
もしかしてこの店の常連だったりしますか?」
241 :
旅人:2009/02/21(土) 01:38:22 ID:/Td24u0G0
「そうですねぇ、いつもここには遊びに来てくれていました」
「常連って訳だ……彼について、何か知っている事をお聞かせ下さい」
そうですねぇ、と男性は考え、そして答えた。
「卓さんはいつもあのゲームで遊んでいました」
「いつもデラで…あ、続きをどうぞ」
「五鍵のビーマニも遊んでいました。
でも、どのゲームでも卓さんが選んでいた曲って、
落ち着いた感じのものばかりだったんです。ハウスだとか、そういうのかな」
「へぇ…滅茶苦茶上手いって聞いたんですけど、それは?」
「一度、こちらの方にお客さんがいない時に何か協奏曲のような……
ピアノ協奏曲なのかな。それを演奏していた事があったんです」
「ピアノ協奏曲……あ、何だっけあの曲名。いいや、続けてください」
「こちらで遠目に見ても、いつもプレーしている曲とは
降ってくる物の数が異常に多いっていうのは分かりました。
あれが一体どれだけ難しいのかというのは、よく分からないのですが……
それが最後の曲だったらしくて、クリアーしたんですよね。
それで、卓さんは言ったんです。エンディング曲を流している筐体を背にして、
こちらにつかつかと歩み寄ってきてこう言ったんです。
『いやぁごめんなさい、五月蝿かったでしょう?
失礼を承知で頼みたいのですが、こっちの方にお客さんがいない時……
たまにああいうのやっていいですか?滅茶苦茶ムズイ曲、たまにやりたくなるんですよ』って」
これで田中の頭の中で、少しだけ中林卓という人物の人間性が掴めてきた。
確かにあのピアノ協奏曲、H,A譜面共にかなりヤバい譜面だったような気がするその曲を、
恐らくはA譜面の同曲をクリアー出来る腕前を持ちながら
場の雰囲気に合わせた選曲が出来る人間。それが中林卓だったのだ。
確かにいい奴だ、と田中はそう思った。
242 :
旅人:2009/02/21(土) 01:48:37 ID:/Td24u0G0
その頃、町田は最寄りの大手スーパーで
買い物をするために外を歩いていた。
「うーん、帰ったら何を教えようかな…
多分経験は十分に積んでると思うから、
思い切ってAA(DPN)トライさせてみよっかな。
指を開いて同時押しってどれだけ難しいか体験させないと……
無理皿曲っていうか、旧曲はあまり触れないようにして。
血涙(DPN)も片手でオルガンを弾かせるから、
あれも結構ショッキングかも……革命の比じゃないと思うけど」
そんな事を呟きつつ歩いていたため、
近くをすれ違う人々が変な目で彼女を振り返って見つめたりしていたが、
そんなことは彼女にとってお構いなしのことだった。
ただ、一人だけ反応の違った人物がいた。
黒いパーカーを着こみ、丸い銀縁眼鏡をかけた若い男だった。
その男は町田の顔を見るなり、驚いた様子で彼女に尋ねた。
「あ、あの……」
「何?何か顔についてます?」
「いいえ、あの、あなたは、あの町田、町田彩さんですか?」
「うん。そうだけど、それが?」
「いえ、すみません」と男は残して足を早めて去っていった。
町田は怪訝そうな表情を浮かべ、直ぐにそれを消して目的地へと歩いていった。
243 :
旅人:2009/02/21(土) 01:55:26 ID:/Td24u0G0
あの女!あの女は生きていたのか!
何という事だ。確かに部屋を爆破させたじゃないか!
何故生きているんだ?奴は不死身なのか!?
いや、そんな事はあり得ない。奴はゾンビか?それもあり得ない。
ただ一つ分かっている事は、この雌龍を殺さなければならないという事だ。
そうして鯉である俺が龍になる!龍になるんだ―――――!!!
町田の全身に怖気が走った。
いや、何者かの尋常ではない殺気を全身で感じ取ったと言った方がいい。
それで彼女は、次の瞬間には走りだしていた。
だが、どれだけ逃げ走っても殺気はぐんぐん迫ってくる。
殺気を放っている人間がどんどん近付いてきているのだ。
町田は殺されると怯えながらも、
後ろに本当に人がいるのかどうか疑問に思ってしまった。
右足、左足、右足。そこで彼女は左足を前に出しながら振り向いた。
………それが彼女の運のツキだった。
244 :
旅人:2009/02/21(土) 01:56:04 ID:/Td24u0G0
これにて今回の投下は終了です。
あと、2か3回程度の投下でこの話は終了します。
次回予告です。
DP要素は一切なし。アクション要素たっぷりな感じになります。
それではこの辺で。また会う時まで!
そろそろageる時期
246 :
旅人:2009/02/25(水) 00:07:52 ID:WXUYmR9Q0
今晩は、旅人です。
投下後の反響が全く無い…って事は僕は嫌われてるのでしょうか。
とりあえず、何があってもこの話は完結に持ち込みます。
謝らなければならない事が一つ。
次回予告で書いた事は、今回で実現しません。
「アクション〜」と書いたのは全く出てこないという事です。嘘っぱちです。
ガッカリされたかもしれませんが、本編を宜しくお願いします。
ここで物語は一旦まき戻る。
中林卓が爆殺された事が報道された時に。
09/1/9 10:45
音安市警察署、捜査一課の一室で
一人の男が深い悲しみの顔を浮かべていた。
自分のデスクに突っ伏し、顔を上げる事なくただ一人で泣いていた。
中井和という名前の刑事は、その日に起きた
ある事件を知ってから、その顔に悲しみを消す事は無かった。
音安市のツートップの音ゲーマーと言われていた
二人の人間が命を狙われ、そして一人が焼殺されたのだ。
生きている方の人間は、前に白壁占拠事件を共に協力して、
そして解決した小暮正俊という名の探偵の家で保護されていると聞いて安心はしたが、
もう一人の放火された方の人間、中林卓の名前を思い出す度にこう思うのだ。
「なんで、どうして惜しい人間ばかりが消えていくのだろう」と。
中井と行動を共にする事が多い田中刑事は、
未だに失意のどん底につっ立っている中井刑事を見て言った。
「なぁ、お前が嘆き悲しんだからって、
あの中林ってプレーヤーが蘇ったり浮かばれたりすると思ってんのかよ」
「そうは言うけどおめぇ…グスッ、あの中林が……ズズッ、
どうして放火なんてされなきゃ………」
埒が明かないな、とあきれた田中は泣き顔の中井の左手を取り、
そして強引に椅子から立ちあがらせた。ナニズンダヨ、と中井が弱々しくも反抗したので、
「お前、自分の職業分かってる?警察だよ警察。お前がその放火魔を捕まえろよ。
そうだ、これを弔い合戦だと思え。そしたらやる気は粕程でも出るだろ」
と田中は言い放った。一瞬だけ、中井の体が止まった。その一瞬だけ、彼の呼吸が止まった。
そして次の瞬間が訪れた時、中井は短く咆哮、そして
「絶対に、絶対に中林をぶっ殺した奴を捕まえてやる!そして殺す!!!」
中井はそう宣言するかのように叫んで捜査一課を出て行った。
中井はこの事件をアパート爆破事件と関係があると踏んでいた。
虫の知らせとか第六感が働いたとでもいうのか、
とにかく中井は町田が危ないと考えたのだ。
次に殺されるのは、恐らくはこの市で三番目にIIDXが上手い奴だ。
これまでの犯人の殺しの予定を書きこんだリストを考えてみると、
この市の中で一番トップ記録を持つ町田が最初に、
二番目が町田に次ぐトップスコアを記録した「TAK-0」だろう。
中林が主に「TAK-0」という名前でプレーしているのを
彼と交友関係にあった中井は知っていた。
何故中林は「NAKTAK」と「TAK-0」を使い分けたのか。
理由は簡単だった。中林には目立ちたい願望と地味に生きたい願望があったのだ。
中林は人の集まらない時間帯を狙って
「TAK-0」としてスコアを上げる事が好きだった。
同時に「NAKTAK」として場に溶け込むことも好きだった。
今になって思えば、奴は良く分からない人間だった。
中井はそう思い、そしてそんな人間の命を奪った犯人に対する怒りを燃やしていった。
そうして、小暮の探偵事務所の前で中井は張りこんだのだ。
彼が危惧したのは、犯人が町田を殺し損ねたのを知り、再び彼女を殺しにかかる事だった。
考えたくもないが、もしそうなるとあの探偵に事を任せるのは厳しい所がある。
中井はそう考え、あらかじめ買っておいたコーラと肉まんを口に入れながら
事務所の前で張り込みを続けていた。
そして、中井がいい○もが始まるまで三十分くらい前かぁと思った時、
その時点での時刻は11:27だったのだが、事務所から誰かが出てきたのだ。
「おいおい、マジかよ・・・・・・」
中井はその人間―にこやかな笑顔を浮かべながらどこかへ出かけていく町田―
を見てそう呟かざるを得なかった。最悪の状況の成立、フェーズワン終了。
くそったれが、と中井は誰に対してか悪態をつきながら町田を車で尾行し始めた。
町田は一体どこへ向かっているのか。
中井にはそれはさっぱり分からなかったが、
危険であるという事は十分分かっていた。
車を走らせていくうち、近くにバス停がある事に中井は気がついた。
ここから市街地へ向かうバスが停まるはずだと中井は連想し、
続いて町田はこれに乗って白壁に行くのだろうかと予測を立てた。
だが、この予測は別の形を伴って当たった。
町田の後方から全速力で走る眼鏡の男が、振り返った彼女の腹に何かを押しこんだのだ。
まさか、と中井は思った。あれが犯人で、町田は奴に刺されてしまったのか?
中井の嫌な想像は少し結果を違えて現実となっていった。
町田はゆっくりながらも振り返っている事から、
そして出血が認められなかった事から、町田は刺されていない事が分かった。
それから良さ過ぎるタイミングでバスがバス停に停まった。
眼鏡男は町田の腰に右手に持つ何かを押しつけ、町田は怯えきった表情でバスに乗り込み、
その後ろに男も続いていき、彼をこのバス停最後の乗車客としたバスは発進していった。
これを見た中井は、直ぐに田中に連絡を入れた。
これは何かヤバい感じがする。眼鏡男が放つ異様な殺気を感じ取った中井はそう思ったからだ。
「あい、こちら田中」
「中井だ。この一連の事件の犯人を見つけた」
「何だって?」
「犯人を見つけた。多分、銃か何かで町田に脅しをかけている」
「何、町田が!?どうして彼女は外に出ているんだ!」
「知るかよ!そんなもん探偵に文句言っとけ!
それよりな、あの犯人と町田、市街地行きのバスに乗り込んだぞ!!」
「それが、中井が最後に言った事なんだよ探偵!」
「すみません、ちょっと疲れて寝ちゃってまして」
「馬鹿!ゲームやって寝オチかよ、冗談も大概にしておけよ!」
田中の運転する覆面パトカー車内で、田中と小暮はこんなやり取りをしていた。
中井からの連絡を受けた田中は、すぐにプルを出て事務所へと急ぎ、
事の顛末を何故かチラシの裏を眺めていた小暮に
話して聞かせて彼を同行させているのだ。
猛スピードでパトカーを運転する田中が半分叫びながら小暮に言う。
「で、奴の狙いは何だと思っているんだ!?」
「うーん、バス会社に連絡を入れるでもなし、警察にもノーコンタクト……
うわっ、もう少しスピード落としましょうよ……
とにかく、お金目当てではないって事はハッキリしてます」
「そんなの俺でも察しが付く!探偵、何か考えろ!!」
「町田さんが乗せられたバスは、大桟冥橋を渡って駅前に行く……
その途中に何かあったかな……刑事さん」
「あぁ!?何だよ!?」
「あのバスが大桟冥橋を通過して、それから駅前まで途中に何か大きな建物って…」
「馬鹿か!?」と田中は大声で小暮に返した。
そして同じボリュームで田中はその問いに答える。
「パレスがあるだろ!」
「パレス…?パレスってなんでしたっけ?」
「阿呆!お前らが『白壁』とか言ってるゲーセンだろうが!!」
その答えを聞いた小暮の脳内は、凄まじいスピードで犯人の思考を推理していった。
犯人は何故、姿を現して町田を拉致してバスに乗り込んだのか。
犯人は何故、市街地へ向かうバスに乗り込んだのか。
犯人は何故、複数のルートが用意されているバスの内の白壁を通るバスを選んだのか。
犯人は何故、町田や中林といった音ゲーが滅茶苦茶上手い人間を殺そうとしたのか。
小暮は、その脳で一瞬の内に答えを導き出した。
その脳の働きをもってすれば、穴冥だって難クリ出来る。小暮はふと思考を逸らした。
いかがでしたでしょうか。これにて今投下は終了です。
改めて
>>1のスレのルールを見て、一つ訂正させて頂いた所があります。
名前欄の所にタイトルを書くという事をすっかり忘れていました。
今までこれに気付かなくて、本当に申し訳ありませんでした。
そうそう、残りどのくらいでこの話が終わるかが決定しました。
あと二回の投下を持ってこの話は完結します。
次回予告と次回作予告です。
次回、探偵と刑事二人がバスジャックされたバスを追って
色々やらかしていきます。
次回作の方ですが、これは別の話を書こうと思い立ったので、
今まで打ち立ててきた構想はバッサリ切り捨てました。
僕らしい作品になっていくんじゃないかと自分でも思うので、
是非お楽しみいただけたらと思います。
それではこれにて!また会う時まで!
>>251 ここは過疎ってるから、感想レスが付かないことは珍しくない。
ネガティブな思考に傾く前に、作品を作り上げる事が一番大事。
前に誰かがレスしてたけど、そういう反応が幼いって取られるのよ。
ここは文章を投下する場所。
ならばストイックに投下し続けるのが一番だと思うんだが。
もちろん感想を貰えるに越したことはないから、レスが少ないならそれをバネにして、
レスをせざるを得ない位良いものを作ってやる位の気概で。
長文失礼。
前から思ってたけどトップランカー殺人事件に影響され過ぎでしょう
そろそろ
Wikiを更新しました。
ここまでの投下作品は全て保管完了しております。
事情で、しばらく保管作業ができなかったのは痛かったですね…
何だかんだで投下が長期間途切れないというのは、喜ばしい事だと思いますね。
スレを見ている人も、実は結構いそうですし。
新しい風が入るのは、やはり良いですね。
256 :
爆音で名前が聞こえません:2009/03/07(土) 08:27:56 ID:eAsmGT5hO
あげとくよ
仕事がクソ忙しくてなかなか続きを書けず、難儀しとります。
Wikiの管理人さんもお忙しい中のまとめ作業お疲れ様です。
お互い頑張りましょう。
それでは続きです。
「悪いっすけど、正直ボクは反対です」
空気はにこりともしないどころか、敵意を剥き出しにして言った。
先ほどまでは杏子に聞こえないよう気遣いながら話していたはずだったのに、
その反動なのか、今は聞こえよがしに声を大きくしている。
そんな空気の不機嫌さが伝染したように、乙下もうっすらと腹立たしくなる。
「お前さっきから何なんだよ。
別にいいじゃねーか、協力してくれるって言ってんだから協力してもらおうぜ。
お前だって事件を解決させたいだろ?」
「させたいから言ってるんすよ。
この娘、明らかに怪しいじゃないっすか」
「お前なぁ」
乙下は杏子が動じていないか気になり、彼女の顔色をそれとなく確かめた。
幸い杏子は顔を曇らせるでもなくただ黙って聞いているが、
だとしても内心では傷ついているかも分からない。
しかし、空気はかまけずに暴言を続けた。
「この娘、事件に関係してるんじゃないっすかね。
そうだ、きっとそうっすよ。
そうじゃなかったらポスターのこと知ってるわけないし」
「空気お前、いい加減にしとけよ。
相手は女の子だぞ?
言っていいことと悪いことがあんだろが。
大体な、俺達にはもう犯人の目星がついてるじゃねーかよ。
だったらこの娘を疑う余地はねーだろ?
少しは考えてものを言えよ」
乙下は声を荒立てた。
そして責め立てるように強くねめつけると、空気は怯んだように目線をかわす。
ところがそれでも空気は懲りないのか、挑発的な態度を崩すことはなかった。
「じゃ、なんですか。
この娘の言ってることがホントだとして、
事件担当のボク達と出会ったのは偶然ってことっすか?」
「……それは、占いが当たったから出会えたんじゃねーの?」
「よく言いますね、そんなの自分が一番信じてないくせに。
この娘、最初からボク達が事件担当だと知ってて近付いてきたんすよ。
そうに決まってます。
多分この娘はボク達に疑いを晴らさせるために送り出されたアイツの手先なんすよ。
あの色男のことだし、何でも言いなりになる女の一人や二人くらい
いてもおかしくないんじゃないっすかね」
「空気ぃ!!」
乙下は怒りに身を任せて怒鳴った。
空気は痙攣したようにビクッと体を震わせて、ようやく口を閉じた。
さすがに効いたのだろう。
まだ何か言いたげではあったが、空気の体からふてぶてしさが抜けていき、
いつもの気弱そうな青年の面構えが戻ってくるのが分かった。
「シルバーの片付けと消灯、それと戸締まりをしてこい。
その間に少し頭を冷やせ」
空気は乙下と杏子、それぞれの表情を一瞬ずつ盗み見るようにしてから、
蚊の飛ぶようなか細い声で「はい」とだけ返事をして、踵を返した。
肩を落とした丸い背中が、ゆっくりとシルバーの中へ消えていく。
乙下は腰に手を当てて俯き、大きく息を吐いた。
それを合図に、周辺の緊張したムードが一斉に弛緩したようだった。
そうしてから乙下は上体を起こして杏子に向かい、
素早く顔の正面で両手を合わせた。
「ごめん、本っ当にごめん!」
乙下は平謝りした。
「もう、部下の非礼をなんて詫びたらいいやら。
とにかく悪かった。
でもおかしいなあ、
アイツ普段はあんなひねくれたこと言うヤツじゃないんだ。
今日はどうしちゃったんだか」
乙下は杏子への申し訳なさでいっぱいになりながらも、
すかさず言い訳のように空気のフォローをした。
決して部下の失態に対する苦情を危ぶんだからではない。
純粋に、言葉通りの疑問だった。
普段の空気なら、あのような悪態をつくはずがないのだ。
ましてや年端もいかない女の子に対して。
ところが、悪態をつかれた当の本人はどうやら痛くも痒くもないのか、
「いえ、別に気にしていません」
と相も変わらず人形のように表情を変えないまま告げ、シルバーの方を見入っていた。
この冷静さだ。
それに比べて、部下の豹変ぶりに幾分かうろたえてしまった乙下は、
自分の至らなさが不甲斐ない。
「空気さんは、貴方のことが大好きなんだと思います」
ワンテンポおいて放り出された杏子の言葉に、乙下はぎょっとした。
「だから、空気さんは私のことが嫌いなんです」
「ちょっと、それ何の話?」
「分かりませんか?」
「分かりません」
乙下は分からないから分からないと言っただけなのだが、
杏子の口調がどこか非難めいた意味合いを伴っているような気がして、後ろめたくなる。
「空気さんは貴方のことが大好きで尊敬しているから、
貴方の隣で貴方の手助けをしたいんです。
貴方と二人で仕事に取り組みたかったんです。
そこに私が割って入ろうとしたのが、
あまり面白くなかったんだと思うんです」
「いやいや、空気に限ってそりゃないって。
いつもあいつがどんだけ俺に無礼な振る舞いばかりしてるか知ってる?」
そう否みつつも、乙下は空気に慕われている実感が間違いなくあった。
しかしまさか、女子高生に嫉妬するほどまでに愛されていたとすれば
気恥ずかしいやらむず痒いやら、あるいは気色悪いやら、である。
「私、同じような立場にいたからよく分かるんです」
「同じような立場?」
「私もBOLCEさんのことを尊敬していて、いつも隣にいたかった。
けど、BOLCEさんの隣にいたのは私じゃなく1046さんだったから」
興味深い一言だった。
「トシロウって、同じデラのランカーの1046のことだよね?」
「はい。あの二人は本当に仲が良かったんです。
毎日のようにスコアを競ったり、運指の方法について議論したりしてました。
私も1046さんくらい上手くなればBOLCEさんに見てもらえると思って、
一所懸命練習したんですけど……上手くなる前に、
見てもらえるようになる前に、BOLCEさんは死んじゃった」
「……1046も相当上手いからねぇ。
彼に追い付くのは、一筋縄じゃいかないよ」
的外れな受け答えであることは重々承知していた。
だが、今の乙下にはこの程度のことを冗談めかして言うのが精一杯だった。
慰めの言葉をかけるだけなら容易いが、きっと意味はない。
BOLCEさんは死んじゃった。
淡々とした物言いとは裏腹に、一文字一文字が重い。
その重さの前で、一体どんな言葉が意味を成すというのだろう。
言葉じゃ駄目なのだとすれば、行動しかない。
杏子を受け入れることが、今の乙下にできる最善の手の差し伸べ方だった。
「杏子ちゃん。
明日は土曜日だから、学校は休みだよね。
早速だけど、もし良ければ話を聞かせてもらっていいかい?」
「喜んで」
杏子がようやく口元を緩めて笑顔を見せた。
そんな気がした。
しかしその瞬間、煌々と照っていたシルバーの照明が消えたため、
乙下の視界は急にぼやけてしまい、
杏子の笑顔が現実のものだったのかどうか、はっきりとした確信には至らなかった。
「片付けが終わったみたいだな。
そろそろ空気が戻って来るから、その前に帰った方がいい。
今日はもう顔を合わせない方がいいだろ?」
「分かりました」
目はすぐに慣れたが、
すでに杏子の顔は元の無表情な状態に戻ってしまっていた。
もしくは、笑顔など最初から気のせいだったのか。
そのどちらなのかは分からないが、
一回り暗くなった場所で杏子の姿を見た乙下は思った。
夜が似合う杏子は確かに占い師らしくもあるし、
占い師を自称する杏子にはやはり夜が似合う。
乙下は杏子と連絡先を交換しながら、そんな符合を楽しんでいた。
「それじゃ、明日はよろしくね」
乙下はすっかり場を締めくくるつもりで手を振ったが、
杏子は帰ろうとせず、乙下のことを射抜くように見ている。
まだ何か聞きたいことでもあるのか、と尋ねようとした途端、
杏子は聞きたいことを尋ねてきた。
「あまり関係ないんですけど、
どうして空気さんを『空気』と呼んでるんですか?」
「なんだ、そんなことかよ」
乙下は腰が砕けた。
しかし、杏子の素朴な疑問は、乙下の荒んだ心に一吹きの涼しげな風を運んだ。
「理由は三つあってな。
まず空気を読めないから。
それと、空気みたいにいてもいなくても誰も気付かないから」
「もう一つは?」
「……もう一つはね、話すと長くなるから、また今度ね」
「気になります」
「大した理由じゃないから気にすんなって。
はいはい、空気が戻って来ちゃうから今日は帰りな」
乙下は杏子の後ろ手に回り、強引に背中を押した。
すると、若干その足取りは重そうだったが、
杏子はようやく盛岡駅の方角に向かってのろのろと歩き始めるのだった。
杏子は一度乙下を振り返って会釈したが、
それ以降は脇目もふらずに進み、
やがてアーケードの終端にまで差し掛かると、夜の黒の中にすっと溶けてしまった。
to be continued! ⇒
今回はここまでです。
また来週。
263 :
2-387:2009/03/12(木) 01:04:27 ID:mXyupyvs0
>>262 お疲れ様です。
いよいよ話も解決編に向けて動き出しましたねー
次回も楽しみにしています。
さて、久しぶりに投下したいと思います。
今回も短い話ですので、ゆるりと読んで頂ければ幸いです。
264 :
Silent:2009/03/12(木) 01:06:29 ID:mXyupyvs0
とある日曜日の夜、一人の女子が自分の部屋の隅でうずくまっていた。
その女の子は涙を流し、嗚咽を漏らしながら泣いている。
この日、彼女は一つの大きなものを失った。
そして…大きな絶望感に襲われていた。
これからどうすればいいのか、どう過ごしていけばいいのか。
不安と絶望が一度に押し寄せた今の状況に、彼女はただ泣くしかなかった…
◆
この日の昼、彼女はゲームセンターで友人達と音楽ゲームで遊んでいた。
いつも通り、IIDXやDDR・ポップンで楽しく遊んでいたのだが…
ξ゚听)ξ「よし、ちょっとリベンジ行ってくるわね!」
( ^ω^)「お、もしやさっき落ちてたSense2007に挑戦する気かお?」
ξ゚听)ξ「もちろんよ! さっきは逆ボーダーだったし、もう一度やれば…!」
('A`)「ハードで逃げるという方法は取らんの?」
ξ゚听)ξ「私はハードクリアランプを極力点けたくないの!」
('A`)「あ、さいですか…」
意気揚々とIIDXの筐体ステージへと上がるツン。
先程チャレンジして、見事に落ちたSence2007(H)にリベンジを果たそうと息巻いていた。
フリーモードを選び、Sence2007を選曲するツン。
曲が始まり、順調にグルーヴゲージを伸ばしていく。
ξ゚听)ξ(さて、真ん中のここで予行練習…)
( ^ω^)「おお、殆ど減らずに抜けたお!
この調子なら最後の部分も問題なく行けるかも…」
道中にある、ラストとほぼ変わらない譜面。
ここを問題無く捌けるならば、ラストもまず安定できる…
筈なのだが、意外とラスト目前という事で焦って落とす人も多い。
ツンはその後もゲージを落とす事無くプレーしていき、いよいよ問題のラスト部分。
ξ゚听)ξ(行ける、これなら…!)
そしてまさに最後の一小節へと突入した瞬間…
彼女の身に、ある変化が起こった。
ξ;゚听)ξ(……え?)
( ^ω^)「お、おおお! これなら…!」
('A`)「行ける! 行けえぇぇ!!」
そして曲が終了。
画面にはSTAGE CLEARの文字が表示された。
…だが、ツンはクリアした事へのリアクションも無く、ただその場に立ち尽くしていた。
265 :
Silent:2009/03/12(木) 01:10:11 ID:mXyupyvs0
( ^ω^)「おめでとうだお! ツン、見事にリベンジ達成したじゃないかお!」
('A`)「いやー、最後で崩れるんじゃないかとハラハラしてたんだが…心配無かったなー」
ξ゚听)ξ「………」
友人二人がツンに激励の言葉をかける。
しかし、その言葉にさえ彼女は全く反応を見せず、立ち尽くしたままだった。
('A`)「…ツン? おい、どうし…」
ξ;゚听)ξ「……何で……これ…まさか……そんな……」
声を発すると同時に、ツンの体が震え始めた。
ゲーム画面は既に選曲画面へと移行している。
だが、そんな事は関係無いかのように、ツンは急に異様な行動に出た。
…自分の側頭部を平手で叩き始めたのだ。
( ;゚ω゚)「な、何してるんだお、ツン!」
(;'A`)「どうしたんだよ一体! おいやめろ、やめろって!」
ブーンとドクオはツンの腕を無理矢理押さえ込み、異様な行動を続ける彼女を必死に止めた。
ツンの顔には数分前のにこやかな表情が消えており、顔面蒼白状態になっている。
それを確認したブーンとドクオは、只事では無い事が起きた事を悟った。
…しかし、その理由を聞こうとしてもツンは全く答えを返さない。
ブーンとドクオの二人に緊張が走る。
(;'A`)「なあ、答えろよツン! 一体どうしたん…」
ξ;゚听)ξ「……聞こえない……何で…どうして聞こえないの……?」
( ;゚ω゚)「…え…?」
二人はツンが発した言葉に耳を疑った。
『聞こえない』…確かに彼女はそう言葉を発した。
その言葉の意味は、考えるまでも無く…
(;'A`)「ツン…まさか、耳が聞こえなくなったのか…?」
ξ;゚听)ξ「どうして……何でなのよ……!」
ドクオが問いかけた言葉に全く反応せず、ただパニック状態に陥り続けるツン。
この様子を見て、二人はツンの状況を完全に理解した。
('A`)「ブーン、何か書くものと紙無いか!?」
( ^ω^)「わかった、ちょっとゲーセンの人に頼んで貰ってくるお!」
言うやいなや、すぐにゲームセンターのカウンターへと走っていったブーン。
一方ドクオは、パニック状態のツンを落ち着かせようとなだめ続けた。
('A`)(…ツンが急に妙な行動をしたからどうしたんだと思ったが…
まさかこんな事になってるとはな…)
266 :
Silent:2009/03/12(木) 01:15:30 ID:mXyupyvs0
先ほどのツンの異様な行動は、恐らく耳の異常に気が付いての確認に加え、
パニック状態に陥った事からの行動だったのだろう。
ドクオはツンの背中を撫でて落ち着かせようと試みるが、なかなか元の状態には戻らない。
状況が状況だけに、当然であるとも言えるが…
程無くして、ブーンがA4コピー紙数枚とシャープペンシルを持って戻ってきた。
( ^ω^)「お待たせ、店員さんから紙を貰ってきたお!」
('A`)「サンキュー、それじゃ早速…」
ブーンから紙を受け取ったドクオは、すぐに文面を書き始めた。
ドクオ自身も、ツンの状況を知って軽いパニック状態になっていたが、
あくまで冷静に『伝えるべき事』を吟味し、紙に文を綴っていく。
ブーンは既にゲームオーバーになっている筐体から、ツンのパスを回収。
そしてドクオは、文面を綴った紙をツンに見せて『筆談』を開始した。
('A`)『ツン、今耳が聞こえなくなってるんだよな?
どういう状態になっているのか、話してくれ』
ξ゚听)ξ「…微妙にノイズが聞こえてくるような感じで、殆ど何もわからないの。
鼓膜に振動が伝わってくるのがわかる分、何だか変な感じで…」
('A`)『成程な。まあ…とりあえず病院へ行こう。
たった今なったばかりだから、もしかしたら治るかもしれないからな。
何でも早めに治療を受けるのが一番だ』
ξ゚听)ξ「…うん…」
ツンは様々な音が渦巻く『普段の状態』から、急に音の無い世界に放り込まれた。
その時の衝撃たるや、想像を超えるものであっただろう。
自分自身が普段『あって当然』と思っているものが急に消える。
これは実に恐ろしい事だが、普段そのような事を考えている者は殆どいないだろう。
その分、その状況へと突き落とされた時の精神的ダメージは計り知れない。
ブーン達はツンの心理状態を気遣いつつ、ゲームセンターを出て病院へと歩いていった。
267 :
Silent:2009/03/12(木) 01:18:44 ID:mXyupyvs0
◆
病院へ入った後、ツンは検査を受ける事になった。
検査を受けている間にブーンはツンの家へと連絡をし、ドクオは医師からの説明を受けていた。
('A`)「ツンは一体どうなってしまったんですか?
あんないきなり耳が聞こえなくなるって事あるんですかね…?」
( ><)「検査の結果が出るまで何とも言えませんが、中途失聴というのは普通にある症状です。
主にストレスや大きい音による耳へのダメージ、ウイルス等によっても引き起こされるんですよ」
(;'A`)「う、そうなんですか?
てことは、俺なんかも普通に聴力を失う危険性があるって事か…」
話を聞いているうちに、少し恐怖感を感じたドクオ。
正直聞かなきゃよかった…そんな思いが、ドクオの頭をよぎった。
( ><)「そうです、失聴は他人事ではないんですよ。
…話を戻しますが、失聴には伝音性と感音性、そしてこの二つが混ざった混合性というものがあります。
簡単に言いますと、内耳までに問題があるか、内耳より奥に問題があるかという事です」
('A`)「内耳って確か、音を聞く為に一番重要な部分でしたよね?」
( ><)「ええ、私達は内耳の働きによって初めて音を聞く事ができるんですよ。
もちろん耳の一番奥にある為、そこに音を伝える外耳と中耳がきちんと働いていないといけませんがね」
('A`)「…あ、つまり『外耳や中耳に問題があるか、音を伝える神経に問題があるか』という違いですか?」
( ><)「その通りです」
普段こういう事について非常に苦手意識を持つドクオだが、今回はきちんと話を理解しようとしていた。
何せ普段から仲の良い友人がこんな事態になってしまったのだ。
ドクオは自分自身も、なるべく症状についての知識をつけておこうと考えていたのだった。
それは、他ならぬ友人のツンの為だった。
( ><)「例えば伝音性の障害だった場合、補聴器で音を大きくして内耳まで届かせれば聞こえるようにはなります。
やっかいなのは感音性の方で、こちらは神経に関わっているので大掛かりな治療が必要なんですよ。
今回はいきなり聞こえなくなったという事ですが、正直それだけではどちらかの特定はできません。
やはり検査の結果を待ってみないと…」
('A`)「…そうですか…」
医者の説明を聞いたものの、不安要素が積もるばかり。
もし混合性だったら最悪の結果だ。
なるべくならば、伝音性の障害であってほしい…
祈りにも似た気持ちで、ただドクオはツンの検査結果を待ち続けた。
( ^ω^)「ドクオ、ツンの家には連絡入れておいたお。
多分後十数分で到着すると思うお」
('A`)「ああ、わかった。
…そろそろ検査結果も出る頃じゃないかな。
願わくば…悪い結果じゃない事を祈るぜ…」
( -ω-)「………」
268 :
Silent:2009/03/12(木) 01:22:19 ID:mXyupyvs0
約十分後、検査室からツンが出てきた。
ツンのもとへと駆け寄る二人。
だが彼女の表情は、相も変わらず沈んだままだった。
丁度その時、ツンの母親も病院へと駆けつけた。
ツンに声をかけるものの、何を言っているのかわからないという反応を返される。
母親は、目の前の信じられない現実に絶望したような表情になった。
慌ててドクオがフォローするも、到底そのショックを和らげられるものではない。
二人を心配するブーン達。
それに加え、先程の医師からの説明が頭の中で回り続ける。
思考がどんどんネガティブな方向へと傾き始めた二人に、後から出てきた医師が声をかけた。
( ,,゚Д゚)「そのまま三番の診察室へお入り下さい。
検査結果をご報告致します」
言われるままに診察室へと移動した四人。
そこで聞かされた結果は、四人を落胆させるものだった…
◆
J( 'ー`)し「…複合性聴覚障害ですって…!?」
( ,,゚Д゚)「はい、ツンさんの検査結果ですが…
伝音経路(外耳・中耳)は殆ど機能していませんし、聴覚神経の働きが著しく低下しています。
とはいえ、こうしていきなり聴覚に重度の障害が起こる事は珍しいんです。
大体のケースでは、ある程度の初期症状が出てくるものなのですが…」
呆然とするブーンとドクオ。
最もなってほしくない結果になってしまった…その事実が、全員に重く圧し掛かる。
医師は、更に話を続けていく。
( ,,゚Д゚)「ツンさんの場合、原因の特定が難しいんです。
中途失聴は過度のストレスが原因だったり、大きな音による耳へのダメージ、
またウイルス等による障害のケースもあるのですが…
調べたところ、そのどれでも無いようなんです」
(;'A`)「そ、それじゃあ…一体原因は何なんですか?」
( ,,゚Д゚)「今のところ不明、としか…
実は中途失聴というのは、原因不明のものも多いんですよ。
ツンさんの場合、まさにそのケースになってしまったとしか…」
J( 'ー`)し「そんな…」
ツンへの説明とドクオ達への説明を交互に続けていく医師。
ツンの表情も、ますます暗くなってくる。
厄介な状態と知らされてしまっては、無理も無い事だが…
( ,,゚Д゚)「後、治療についてなのですが…
ご本人の同意等もありますし、治療法をこれから説明致しますので…」
( ^ω^)「あ、それじゃあ僕らは部屋の外に出ていますね」
この辺りまで来ると、流石に赤の他人が同席している訳にもいかない。
そう考えたブーン達は、診察室前で待つ事にした。
269 :
Silent:2009/03/12(木) 01:26:01 ID:mXyupyvs0
◆
診察室前の長椅子に座り、ツン達が出てくるのを待つ二人。
相変わらず二人の表情は暗いままだった。
( ^ω^)「…なあドクオ、治療方法がどうのとか言ってたけど…
耳を治すのって、そんなに複雑な事をやるのかお?」
('A`)「聞きかじりな知識で悪いけど、確か音を聴こえるようにするのは
補聴器を使ったり、人工内耳を付けたりする必要があるんだったかな。
特にツンの場合は複合性と言ってたし、両方付ける必要があるのかも…」
( ;゚ω゚)「…それって、もしかして手術が必要なのかお!?」
('A`)「人口内耳を付けるんだったら、その必要があるだろうな…
ツンがそれをよしとするかどうか、そこが問題なんだろうけど…」
そんな事を話していた直後、診察室からツン親子が出てきた。
ツンは微妙にうつむき加減のまま、黙り続けている。
やはりショックがまだ続いているのだろう。
J( 'ー`)し「二人とも、本当にありがとうございます。
すぐにこの子を病院に連れて行ってくれて、連絡まで頂いて…」
( -ω-)「いえ、そんな…」
J( 'ー`)し「…またしばらくしたら、遊んでやってくださいね」
('A`)「はい…」
わずかな言葉を交わした後、ツンの母親はブーン達に頭を下げた。
ツンもわずかに頭を下げた後、二人で病院を後にした。
('A`)「…俺達も帰るか」
( -ω-)「……うん」
楽しく遊んでいただけなのに、まさかこんな事になるとは…
これまでの事が夢か幻だったら良いのに。
そんな思いが、ブーン達の頭に浮かんでは消えていった。
現実というものは、時に信じられないものや事柄を突きつける。
頭ではわかっているつもりでも、いざその時が来るとこれだけの混乱を生むものとは…
如何に自分達が頭の中だけでわかったつもりになっていたのか、それを実感した二人だった。
270 :
Silent:2009/03/12(木) 01:30:00 ID:mXyupyvs0
◆
翌日から、ツンは学校を休んだ。
欠席理由は風邪という事で届けられていたが…これは、ツンの母親によるものだった。
やはり、事実をそのまま学校側へと届けるのは勇気が出なかったのだろう。
休みは長期に渡り、結局その週にツンが出てくることは無かった。
…そして土曜日、ツンが聴力を失って六日目…
( ^ω^)「…ん、メール…誰からだお?」
休日をだらだらと過ごしていたブーンに、一通のメールが届いた。
差出人は…ツンだった。
( ^ω^)「ツンからだお!
何々…『予定が空いていたら、うちに来てくれない?』かお…」
元々休日に予定などある筈も無いブーン。
メールを読み終わってすぐ、ブーンは自転車に跨ってツンの家へと飛ばした。
途中で同じくツンに呼ばれたドクオと合流し、目的地へと急ぐ二人。
二人とも一週間休み続けたツンが心配だったのだ。
ツンの家に到着し、インターホンを押すブーン。
中から出てきたのは、ツンの母親だった。
J( 'ー`)し「まあ、ブーン君にドクオ君…いらっしゃい。
遊びに来てくれたの?」
( ^ω^)「ええ、ツンから遊びに来ないかって誘いが来まして」
J( 'ー`)し「あの子が……そう、来てくれてありがとう。
ツンは今、自分の部屋にいるわ。
もし良ければ…元気付けてやってちょうだい」
('A`)「…やっぱりまだ、元気無い状態なんですか?」
J( 'ー`)し「多少良くはなったんだけど…やっぱり、ショックはなかなか抜けないものね」
('A`)「…そうですか…」
やはり、まだ心の状態は芳しくないらしい。
そのまま家に上げてもらったものの、ブーンとドクオに迷いが生じていた。
落ち込んでいるであろうツンに対して、どのような顔をしてツンと対面しようか…
結論が出ないまま、二人はツンの部屋の扉を開けた。
しかし部屋へと入ったその直後…二人にとって意外な表情が見え、そして久しぶりな声が聞こえてきた。
ξ゚听)ξ「いらっしゃい、ブーンにドクオ」
そこには、『笑顔の』ツンがいた。
その表情を見て、安堵感に包まれる二人。
一週間前の痛烈な表情が脳裏に焼きついていた二人にとって、これほど安心するものはなかっただろう。
271 :
Silent:2009/03/12(木) 01:34:27 ID:mXyupyvs0
( ^ω^)「おお…いつものツンだお!」
('A`)「良かったよ、心配してたんだぜ?
あ、普通に会話してるけどもしかして…音、聞こえるようにな…」
ξ゚听)ξ「ごめんね、実は私…聴こえないままなんだ。
悪いんだけど、また筆談でお願いできるかな?」
(;'A`)「……あ、ああ……」
だが、彼女の聴覚はそのままだった。
一度は安堵した二人だったが、またすぐに現実へと戻された。
そして三人は一週間前のあの日と同じように、声と文字での会話を始める。
ξ゚听)ξ「来てくれてありがと。
何ていうか…迷惑かけちゃったね」
('A`)『何言ってんだよ、友達だったら当然だろ?
あれで迷惑だってんなら、普段からツンには迷惑かけられっぱなしだぜ?』
ξ゚听)ξ「ちょっと、それどういう意味よ!
…なんてね、本当に…ありがとう…」
優しい表情になり、言葉を続けるツン。
その表情を見て、ブーン達の緊張も少しずつ解けていく。
そんな二人の様子を察知したツンは、自分の耳について少しずつ語り始めた。
ξ゚听)ξ「あれからもう一度耳の検査をしたんだけどね…
どうも私、補聴器や人工内耳を付けても聞き取りにくい状態のままなんだって。
その説明を受けて…それならいっそ、このままで良いって思ったんだ」
( ^ω^)『どうしてだお? 少しでも改善されるなら、処置を受けた方が良いんじゃ…』
ξ゚听)ξ「…私ね、耳が聞こえなくなった日…ずっと泣いてたんだ」
ツンがいつもと違う表情になり、静かに語り始めた。
ブーン達は鉛筆を一度手元へ置き、その言葉へと静かに耳を傾ける。
ξ゚听)ξ「泣いても叫んでも、物にあたっても…何も聞こえない。
自分の声さえわからないし、すぐそばで物が落ちても、はっきりと認識できない。
悲しいときにいつも聴いていたCDを再生しても、何の音が出ているのかさっぱり。
聞こえるのは…微かなノイズだけ」
すぐ近くにあったテレビ台の扉を開き、ブーン達に見せるツン。
そこには、DVDプレーヤーやゲーム機、そして音楽ゲームの専用コントローラ等が置いてあった。
ξ゚听)ξ「DVDや普通のゲームなんかは、見るだけでも結構楽しめるんだけどね。
一番大好きだった音ゲーは…正直、もう楽しめなくなっちゃった」
どこか悲しげな表情で、台の扉を閉めるツン。
そして彼女はそのままの姿勢で、更に話を続けていく。
272 :
Silent:2009/03/12(木) 01:37:25 ID:mXyupyvs0
ξ゚听)ξ「音が無い音ゲーって、こんなにも面白くなくなるんだね。
あれだけ楽しんでいたゲームなのに…今はもう、やる気が殆ど無いんだ。
それに…もう音楽が聴けないっていうのも…
例え治療……しても…せいぜい一部の音…が…多少聞こえるだけだって……」
話しているツンの声が、段々と震えてくる。
それに伴って、表情も徐々に崩れてきた。
ξ;凵G)ξ「音が聞こえないっていうのが…こんなに辛いなんて思わなかった…
お父さんや…お母さんの声も聞けないし…ブーンやドクオの声だって…
何も…何も……!」
これまで堪えていた思いが吹き出し、ツンは涙を流し始めた。
最初にブーン達に見せた笑顔、それは二人に心配をかけさせまいとしたツンの心配りだったのだ。
だが、二人を相手に心の内を話しているうちに…塞き止めていた思いは決壊した。
音が無くなった悲しみは、わずか一週間で消えるはずも無かったのだ。
嗚咽を洩らしながら泣き続けるツン。
その時、ブーンとドクオの二人はツンの肩にそれぞれ手を乗せた。
あくまで優しく、包み込むように。
それに気付いたツンは、顔を上げて二人の顔をゆっくりと見る。
そこには友人として…いや、親友としての優しい顔をした二人がいた。
ドクオは優しく微笑み、ツンに紙を手渡す。
そこには、二人からのメッセージが書かれていた。
('A`)『一人で抱え込むなよ。
ツンには頼りになる両親がいるし、大切な友人もいるだろ?』
( ^ω^)『僕達じゃ頼りにならないかもしれないけど、心の支えの足しにはなれると思うお。
それに…音楽は聴くだけのものじゃないお。
現にさっき、ツンは音楽を楽しんでいたお!』
この文章を見て、ツンは不思議そうに二人を見上げる。
ブーンのメッセージが、不可解な内容だったからだ。
ξ;凵G)ξ「私が音楽を楽しんでいたって…どういう事?」
その言葉を受けて、ブーンはすぐに紙へ文章を書き足した。
そこには、こう書いてあった。
( ^ω^)『最近無意識に始めたものだと思うんだけど、部屋に入ってきた時ツンは指をリズム良く動かしていたお。
多分、頭の中で再生していた音楽に合わせて指を動かしていたんじゃないかお?』
ξ;凵G)ξ「…あ…」
その行為は、確かに耳が聞こえていた頃にはやっていなかった。
音が聞こえなくなり、ツンは無意識に『リズム』を求めていたのだった。
ツンは確かに記憶にある音楽を、寂しさを紛らわす為に頭の中で再生していた。
…確かに、音が聞こえなくてもツンは『音楽を楽しんでいた』のだった。
273 :
Silent:2009/03/12(木) 01:43:11 ID:VlalL5710
('A`)『ツンがこれから、音が聞こえなくなった事に対してどう向き合っていくか…
それはツン自身が答えを出さなくちゃいけない。
答えを出すまでは、じっくり時間をかけて悩みまくれ。
そして答えが無事出たら、ブーンも俺も最大限のフォローはしていくぜ。』
ξ゚听)ξ「うん…ありがとう…」
音楽は耳だけに頼るものじゃない…
そんなブーンの一言が、微かだがツンの心に響いた。
途中で音を無くしてしまった人間は、そう簡単に『自分は耳が聞こえない』と割り切ることができない。
ツン自身は比較的早く障害認識をしたものの、そこからの絶望感に囚われ続けていた。
音楽を心から愛していたからこそ、その絶望は深いものだったのかもしれない。
しかし友人であるブーン達に悩みを打ち明け、そして友人からのフォローを受けたことで
ツンの心に一筋の希望が差し込んだ。
そしてそれは、自分自身の新しい人生へと向き合う覚悟を決めた瞬間でもあった。
ξ゚听)ξ「…二人とも、ありがとう。
私…ようやく決心がついた。
いつまでもこのまま止まってちゃ…何にもならないもんね…」
ブーンとドクオは、その言葉に笑顔で頷き返した。
そしてツンも…笑顔を二人に返した。
長い暗闇から、ようやく抜け出すことができたツン。
彼女は今確かに、新しい人生に向けての第一歩を踏み出した…
◆
一ヵ月後、ブーンとドクオは相変わらずゲームセンターで音楽ゲームを楽しんでいた。
以前と唯一違いがあるところといえば、ツンがいない事…
あれからツンは、音楽ゲーム目当てにゲームセンターへ行くことはなくなった。
ブーン達と遊ぶ頻度は減っていないが、ゲームセンターで遊ぶ事は殆ど無くなったのだった。
(´・ω・`)「…何だかツンが居ないと寂しいものがあるね。
音が聞こえなくなった…か…
あれだけ好きだった音楽が聴けなくなって、寂しいんじゃないかなあ…」
( ^ω^)「いや、ツンは今でも音楽をきちんと楽しんでるお」
(´・ω・`)「え?」
('A`)「ブーンの言っている事は本当だぜ。
ツンは今でも、ちゃんと音楽を楽しむ日々を送ってる」
(´・ω・`)「え、でも確かにツンは耳が聞こえなくなったって…ど、どういう事だい?」
('A`)「はは、つまりな…」
同時刻、ツンは自分の部屋で趣味の絵を描いていた。
少しずつ出来上がっていく絵。
それは、屋外でライブをする人達の絵だった。
ξ゚听)ξ「ふんふん、ふふん…♪」
自分自身にも聞こえぬ、鼻歌を歌いながら絵を仕上げていく。
あれからツンは、音楽をモチーフとした絵を描き続けていた。
やはりあれだけ愛していた音楽から完全に離れることはできない。
だが、自分は耳で音を楽しむことが難しい。
ならばどうするか…そう考えたツンが取ったのが、『音楽を形として残す』事だった。
音楽を演奏するときの躍動感、そして興奮。
それらを全て、一枚の絵に残してみよう…
そう考えて、ツンは筆をとったのだった。
('A`)「あいつは確かに、音楽を心から楽しんでいるよ」
最後の一筆を書き終え、静かに鉛筆を筆入れに置いたツン。
その顔には、良い音楽を聴いた後の満足感を受けたような笑みが浮かんでいた。
274 :
2-387:2009/03/12(木) 01:45:48 ID:VlalL5710
以上です。
途中で規制に引っかかったので、接続切り替えしました…
ちなみに耳が聞こえない人でも、ドラム等で音楽活動をしている方はいます。
鼓膜に届く振動等を頼りにしながら叩く、と聞いた事がありますね。
それでは、お目汚し失礼致しました。
乙!
かなり久しぶりだぜ!
俺も難聴でいつ聞こえなくなるからわからんから覚悟しとかなきゃな
乙!懐かしいな。こういう小説は嬉しいよ
また来てくれ
>2-387さん
新作お疲れ様でした。
とても良かったです!
医学的な考察を交えて執筆しているのがすごく臨場感ありました。
エフェクター全上げでバリバリ音出してプレイするのも考え物なのかなぁ(汗)
こんばんわ、久々に週間連載のペースを取り戻せたとまとです。
今回はいつもと少し作品の雰囲気が違いますが、よろしくお願いします。
「空気、いるんだろ?」
杏子の後ろ姿が完全に見えなくなったことを確認してから、
乙下はどこに向かってというわけでもなく声をかけた。
すると、空気はシルバーとその隣の建物の間に存在する
僅か一メートルほどの細い路地から、恐る恐る顔を出した。
どうやらシルバーの裏口を施錠した後、杏子が帰るまでそこで待っていたらしい。
空気なりに気を遣ったのだろうか。
空気は随分と磨り減った顔つきをしており、
別に亡霊を見たことはないのだが、まるで亡霊のようだと乙下は勝手に思った。
乙下は取り憑かれる覚悟で、亡霊に接近する。
「まだ機嫌悪いのか?」
「別に」
「あっそ」
「先輩こそ怒ってるでしょう」
「別に」
「あっそ」
不意に訪れた沈黙が気まずかった。
何を話そうかと迷いあぐねた挙げ句にようやく口から出た言葉は、
「空気」
「オトゲ先輩」
と出会い頭にぶつかった。
それがまた妙な気まずさを新たに生むのだった。
「何だよ」
「先輩こそ何すか」
先を譲られた乙下は、仕切り直すつもりで深呼吸をして、それから話し始めた。
「気持ちは分かるよ。
確かにお前の言う通り、彼女は怪しいのかも知れない。
けど俺は、そのリスクを承知の上で彼女に協力してもらうことにしたんだ」
「どうしてわざわざリスクを負うんすか」
「彼女の目を見てると、軽い気持ちで俺達に近付いたとは思えない。
良くも悪くも、何らかの強い意志を持っているみたいなんだ。
だとすれば、どっちに転んでも俺達に損はない。
本当に俺達に協力したいのなら、しめたもんだ。
惜しみなく協力してもらうさ。
で、もしお前の言うように彼女が1046の手先だとすれば、これまたしめたもんだ。
俺を罠にはめるつもりなのか知らんが、見破って逆に情報を引っ張り出してやる」
「オトゲ先輩らしいっすよ。
ボクさすがにそこまでは考えてなかったです。はは」
空気が力なく笑った。
つられて乙下も軽く微笑んだ。
「なーんて言ってみたけど、俺は杏子ちゃんに裏があるなんて思っちゃいない。
もし本当に1046の手先だとして、
この真夏の真っ昼間に外で何時間も立って待ち伏せる必要ある?」
1046は乙下の職場も連絡先も知っている。
杏子を乙下と引き合わせるだけなら、いくらでもやりようはあるはずなのだ。
「じゃ、あの娘がボク達に出会えたのは偶然?
それとも、まさかまた占いが当たったとか言い出すんすか?」
「別に占いや偶然に頼らなくたって問題ないんだよ。
まだ事件が起きて二日しか経ってないんだから、
シルバーの前でずっと待ってりゃ担当の刑事が現れることくらい想像つくだろ。
実際、杏子ちゃんはそうやって俺達に出会えたわけだし」
「……それもそうっすね」
乙下は敢えて口には出さなかったが、
杏子が本物の占い師なのだとしたら面白い、という感情も心のどこかで湧いていた。
そうでなければポスターが事件の鍵となることを知っていた説明がつかないし、
何より彼女独特の神秘的な雰囲気がそう思わせるのだ。
もちろん本気ではないし、空気には口が裂けても言えない。
「まぁそんなわけで、杏子ちゃんにはそこまで目くじら立てなくたっていいのさ。
なのに、お前ときたら」
「……」
黙りこくる空気と面と向かわずに済むよう、
乙下はシルバーの建屋の外壁に寄りかかって、
ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「空気。今日のお前はどうしたんだ?
女の子相手にあんな酷いこと言うヤツじゃなかったろ。
どっちかっつーとお前、女の子には媚びへつらうタイプだろうが」
乙下は柔らかい物腰で、撫でつけるように言った。
鞭をふるった後に飴を与えるような、人心掌握術を意識したわけではない。
単純に、空気があんなにも豹変した理由を知りたかった。
「……すみませんでした」
空気はうやうやしく頭を下げて謝った。
乙下の知る限り、大変に珍しいことだった。
「相手はまだ高校生の女の子なのに、
ボク、傷つけるようなこと言っちゃいましたね」
「俺はいいから、今度杏子ちゃんに会ったら謝ってやれよ」
「はい」
「大丈夫だ。そんなに怒ってなかったから。
きちんと謝れば許してもらえるよ」
「は……い」
空気はかすれたような声で返事をした。
そして話すべきことを慎重に取捨選択するかのように、
もごもごと口を動かしては、また言葉を飲み込んでを繰り返す。
乙下はひんやりとした壁の感触を背中で感じながら、
逡巡する空気の姿を斜め後ろから見守った。
「あの娘、昔のボクと同じ顔だったんです」
空気はやっとのことで言った。
胸につかえていた言葉を体の外へ逃がすようでもあった。
「もしかしたら誰かに聞いたことあるかも知れませんけど、
ボク、ずっと一人で育ったんです。
まだ小さい頃に母親は病気で死んじゃったし、父親も事故で亡くしました」
「……そうだったのか」
なんとなく今初めて聞いたようなふりをしたが、
その話は空気が部下になって間もなく、荒山課長から聞いた覚えがある。
ただ、過去の悲しい事情を詮索したところで、誰も何も得はない。
そう考えていた乙下は、空気に余計な探りを入れないまま今に至っていた。
「親が死んだ頃のことはよく覚えてます。
悲しくて、どうしようもなくて、いっそのこと
ボクも死のうかなって……結構腐ってたっすね。
あの頃の鏡の中にいたボクは、ちょうどあんな顔でした」
空気は盛岡駅の方向、つまり杏子が消えていった方向を物憂げに見やった。
「あんな顔」がどんな顔を指しているのか空気は具体的に明示しなかったが、
一切の感情を無理やりに押し殺してしまった、
まるで人形のような杏子の顔つきのことを言っているのだろうと察しがついた。
彼女の陰を帯びた無表情さは、悲しみの抑圧という名の防衛機制が働いた結果なのだろうか。
「だから、あの娘も心底悲しくて仕方ないんだと思うんすよ。
ボクにはそれが分かる。
1046の手先だなんて、本気で疑ってるわけじゃないんです。
ただ、ヤケになってた昔の自分を思い出しちゃって、
すごく気分悪くて、それでなんだか、あの娘に当たり散らしちゃったんです。
なのに、ボクは」
「分かった。
分かったから、もういいよ」
空気は歯を食い縛り、眉間に皺を寄せて、
それはこれまで乙下に見せたことのない激情であった。
程なくして、空気はぽつりと呟いた。
「大切な人を奪われた顔なんて、もう見たくないんす」
「俺もだよ」
「オトゲ先輩。この事件、必ず解決させましょう」
「そうだな」
空気が何度か鼻をすする。
その音を聞いて乙下は思い出すのだ。
空気と出会った、あの真冬の日のことを。
〜〜〜 第四話 三つの理由 〜〜〜
1.空気が読めない。
2.空気のように、いてもいなくても誰も気付かない。
そんな彼を乙下が「空気」と呼ぶようになるまで時間はかからなかった。
高校卒業と同時に警察学校へ入学し、十ヶ月間の研修を終えた空気が
乙下の部下として盛岡警察署の捜査一課に配属されたのは、半年近く前の話だった。
空気と初めて会った真冬の日のことを、乙下は今でも鮮烈に覚えている。
「俺は乙下圭司。よろしくな」
「音ゲー刑事!?ぎゃはははすげー、先輩その名前最高っす!」
底抜けに非常識な態度を前にして、乙下は怒りを通り越し唖然となった。
背丈は乙下より高いものの、今にも折れそうなほど細い二の腕と
猫背がちな姿勢、そして不健康に青白い肌。
総じてとても警察官とは思えない弱々しい風貌であった。
風邪の流行っている季節ではあったが、
鼻を何度も何度もすする音と仕草が子供染みており、いちいち癇に障った。
どこかの引き篭もりをそのまま連れて来たのではなかろうか。
そんな風に疑いたくなるほどみすぼらしい彼が、
乙下に対して意味の分からない発言をぶちまけ、腹を抱えて笑っているのだ。
警察官になって十年強、初めて持つ部下に心を躍らせていた乙下の落胆は激しかった。
組織の長である荒山課長に対して
「まるで昭和企業戦士みたいな名前っすね」
と遠慮なく吹き出した瞬間が、記念すべき空気への初鉄拳制裁であった。
配属されたその日にぶん殴る上司とぶん殴られる部下。
パワーハラスメントという単語が一般的になった
この現代において、よもやの出来事である。
空気が呻きながらコブのできた頭を冷やしに行っている間、
乙下は荒山課長から密かに事情を聞かされた。
「乙下君、気持ちは分かるけど、ほどほどにしといてあげなよ。
彼ね、小さい頃に両親を亡くしてるみたいなんだ。
それでちょいとばかり性格的に難ありなところがあるんだけど、
意外と能力自体は高いっぽいんだ。
どうか我慢して、一緒にやってってくれよ」
「でも、物事には限度ってもんがあります。
彼だってもう子供じゃないんですよ?
配属初日にあんな無礼な態度をとるなんて許せません」
「そこを君がこれから育てるんじゃないか」
「私が、ですか……」
「ところで昭和企業戦士って何なんだろね。
私は公務員だし、警察官になった頃はもう平成になってたんだけどな。あははは」
そう冷静に述懐する荒山課長は実に大人だと、乙下は感心したものである。
同時に、「俺には荷が重い」と半ば捨て鉢な気分にもなっていた。
しかし、寒風吹きすさぶその夜の帰り道、乙下の空気に対する印象は大きく変わる。
「オトゲ先輩。ボクは先輩みたいな人と初めて会いました」
俺もお前みたいなイカれた野郎と会ったのは初めてだ、というニュアンスで
乙下は返答をしたが、空気は構わず自分の言いたいことを言うだけだった。
「音ゲー刑事ですよ音ゲー刑事!
そんな素晴らしい名前を持つなんて、これは神様のイタズラっす。
運命の巡り合わせっす。
先輩、音ゲーやりましょうよ音ゲー!」
「うるせーなあ。さっきから何なの、そのオトゲーってのは」
「よし、百聞は一見にしかず。
今から音ゲーやりに行きましょう」
「俺にはそんな暇ねーんだよ。行きたきゃ勝手に行ってろバカ」
「ああ、そんなこと言わないで。
お願いです。一生のお願いですから、
騙されたと思って、一クレだけでいいからボクに付き合って下さい!」
出会ったその日に一生のお願いときたものだ。
言葉の軽さに呆れ返りながらも、
初めての部下のために精一杯の譲歩をした乙下は、
空気に引き摺られてやって来た建物へ足を踏み入れた途端に
「やはり騙された」と落ち込んだ。
「おいおい、いい歳こいてゲームセンターはないだろ」
「ボクはまだ十代です」
「俺はもう三十代だ」
息の詰まる人込みと、目の眩むネオンと、耳に障る雑音。
その中を縫って、空気はすいすいと歩いていく。
慣れない乙下は付いていくのがやっとだった。
どうせならこのままはぐれたことにして帰ろうかな、と
悪い考えが頭をよぎったその時、空気が前方に指を差しながら叫んだ。
「あれあれ!オトゲ先輩あれっすよ」
乙下の前に現れた圧倒的なフォルム。
それを目にした時、世界は切り替わった。
ゲームセンターに足を踏み入れている気恥ずかしさも、
周囲のけたたましさに煽られて込み上げていた不快感も、
さざ波のように流れ消えてしまった。
beatmaniaIIDX15 DJ TROOPERS。
そのメタリックな外観による存在感は、
確実にその他のゲーム達と一線を画していた。
何をどうして遊ぶゲームなのか、
それは見当もつかなかったが、ただ乙下は心の奥底がうずいているのを自覚していた。
「これが音楽ゲーム。略して音ゲーっす」
空気がおもむろに財布から100円玉と赤いカードを取り出し、
フロアより一段高いステージの上に移動した。
そして100円玉を筐体のコイン挿入口に落下させると、
馴染みのない、それでいて心躍る曲調の音楽が
スピーカーから迫り来るかのように響き出した。
そこからの十分間は、乙下が生まれて初めて目にする世界だった。
高速で雹のように降りかかる無数の青と白と赤の塊は、
ライン上で爆ぜると同時に音符へと形を変えて、
モニタを取り囲むように取り付けられた複数台のスピーカーから溢れる。
モニタ中央で躍動する色鮮やかな映像が、音符の疾走感に拍車をかける。
光と音は一体となって乙下の目と耳まで届き、体内で魂の震えへと形を変える。
それは、煩わしい日常を軽く飛び越えさせてくれる未知のエネルギーそのものであった。
空気は酷い猫背の姿勢でモニタを凝視しつつ、目にも止まらぬ速さで指を動かし続けていた。
その珍妙極まりない光景を見ただけで、
ゲームと縁遠い乙下でも「ルール」を把握するに至るのは容易だった。
青白赤の落ちてきた通りに叩いたり回したりすれば、曲が完成する。
それだけに違いなかった。
シンプル過ぎるほどシンプルな反面、乙下は一つの疑問を抱えた。
かつて、プレイ中の人間に話しかけるのは
御法度だと知らなかった乙下は、ごく自然にその疑問を口にしていた。
「お前これ、覚えてるんだろ?」
「いえ、見て叩いてるんすよ」
「嘘だ」
「不思議とみんなそう言うんすよね。
でもマジな話、ボクは見て反応して叩いてるんすよ」
それが嘘でないとすれば、空気の動体視力は異常としか呼べないほど、
同じ人間のそれを遥かに凌駕している。
そのように乙下は驚き入っていた。
後から思えば、大いなる勘違いだ。
真に異常とまで呼べる領域の人間は、
まだまだこんなものではないことをいずれ乙下は知ることになる。
が、音ゲーのことを何も知らなかった当時の乙下には、
ゲームを終えて清々しい顔つきでステージから下りて来た空気が眩しかった。
「さ、今度はオトゲ先輩の番っすよ」
「無理無理!俺にはこんなの無理無理無理」
乙下はすっかり怖じ気づいていたが、
第一声はあくまで「やりたくない」ではなく「無理」だった。
つまり、できるならやってみたかった。
すでに興味津々だったのだ。
そんな乙下の心情を見抜いていたのかどうかは分からないが、
空気はいなすように言ってみせた。
「大丈夫ですって、最初からあんな難しい譜面やらせるわけないでしょ。
入門者向けの簡単なモードがちゃんと用意されてますから、
オトゲ先輩にはまずそれをやってもらいます」
「本当か?俺でも大丈夫か?」
「絶対大丈夫。ボクを信用できないんすか?」
信用できるわけもなかったが、
とにかく乙下は空気の指示に従って100円を支払い、
覚束ない手つきでボタンを操作していった。
やがて画面に現れた外国人風の男性が、意気揚々と話しかけてきた。
『やぁ。俺の名前はマイケル・ア・ラ・モード。
beatmaniaIIDXはじめての君、こんにちは!
今日は俺と一緒に楽しくSTUDYしていこうぜ!よろしくな』
こうして乙下のIIDXライフは幕を開けた。
昼は乙下が空気に仕事を教え、
夜は乙下が空気にIIDXを教わる。
そんな奇妙な師弟関係が育まれる中で、
これまで仕事一筋だった乙下はすっかりIIDXの魅力に取り憑かれていった。
「これで名実共に音ゲー刑事ですね」とにやける空気の魂胆に
まんまと嵌まってしまったと言えなくもないが、
楽しめる趣味が一つ増えたのだから仕方ないとかぶりを振る毎日である。
一方、これまでゲーム一筋だったと思われる空気は、
予想以上に仕事に対して熱心だった。
持ち前の空気の読めなさが働いて空回りすることもしばしばあったし、
無礼な態度や言葉遣いは何度注意しても直りはしなかったが、
彼の人一倍強い正義感は本物だった。
その証拠に、事件で傷ついた誰かを目にする度、
空気はさも自分のことのように心を痛めるのだ。
そしてこれ以上誰も傷つかないようにと、
事件の解決に向けて誰よりも迅速なフットワークを披露するのだった。
結果が伴っているかどうかはさておき、だが。
それまでの乙下は仕事を生活の手段と割り切り、
ドライに目の前の事件を片付けていくことに終始していた。
しかし空気と過ごす内に、乙下は変わりつつあった。
乙下の中に存在し得なかったある種の情熱。
それは音楽に合わせてボタンを叩く心地よさとセットで、
空気から教わった大切なものだった。
空気と出会って約半年後の夏の日。
ある事件を通して知り合った少女に、乙下はこう指摘されることになる。
「貴方が空気さんを『空気』と呼ぶ三つ目の理由が分かりました。
『それでも生きていくのに必要だから』でしょう?」
乙下は否定しなかった。
――次回、真相を暴きかけて一息つこうとした乙下に、新たな謎が襲い来る――
〜〜〜 第五話 dj Remo-con 〜〜〜
to be continued! ⇒
今週はここまでです。
長かった第三話と打って変わって短い第四話でした。
第五話ではまた伏線を回収しながら謎を解き明かしていきますので、
楽しんでいただければ幸いです。
それではまた来週。
荒山課長っすかwww
空気に意外な過去があったとは
乙!
dj Remo-conとはw
まだ謎が来るのか!楽しみすぐる
乙下!
>>289です読み間違えた、謎解きね。
これ以上謎は出ないよな、ごめん。
こんばんは。
今週から第五話ですよろしく。
>>288 読んでくれてありがとうございます。
実は荒山課長は、地味に何度か登場しているんですよw
>>289-290 すんません、実はまだもうちょっとだけ謎が出ます。
懲りずに付き合っていただければ嬉しいです。
それでは、トップランカー殺人事件の続きです。
事件発生から三晩開けた7月19日の土曜日、朝10:00。
杏子は約束の時間ちょうどに約束の喫茶店へ現れた。
今日の杏子は私服だ。
裾が短めのデニムのパンツとピンクのキャミソールを合わせ、
その上に黒い薄手のカーディガンを羽織っている。
無難で派手さはないが、落ち着いた気質の杏子によく似合っていた。
化粧っ気がない割に大人っぽく見えるのも、
一つ一つの所作が落ち着き払っているからだろう。
杏子は店内を見回し、乙下の姿を見つけると、
その場で一度会釈をしてから乙下の座る二人掛けのテーブル席へと近付いて来た。
「おはよう。せっかくの休みなのに、朝早くからどうもね」
「いいんです。私が言い出したことですから」
「まぁとりあえず座りなよ。何飲む?」
乙下の真向かいの席に腰掛けた杏子は、メニューではなく乙下の目を見つめた。
その顔は昨晩よりも強張っている感がある。
理由はすぐ明らかになった。
「BOLCEさんを殺したのは誰なんですか?」
世間話のせの字もないまま、唐突に切り出された質問。
出鼻からこれを聞こうと身構えていたのだろう。
さすがの乙下も、つられてつい顔を強張らせてしまう。
「教えて下さい。
BOLCEさんを殺した犯人が誰なのか、もう大体分かってるんですよね?」
まさしくその通りですとは言わなかったが、まさしくその通りだった。
思い返せば、昨夜杏子の目の前で
『もう犯人の目星がついてる』やら
『アイツが犯人である証拠を暴く』やらと喋っていたのは、他ならぬ乙下自身だ。
杏子が聞きたがるのも無理はない。
だが、変に先入観を与えてしまう前に、まず杏子から聞いておきたかった。
「逆に聞かせてほしいんだけど、
杏子ちゃんには何か心当たりがないかい?
BOLCEを殺したいほど恨んでいた人物とか、
BOLCEが何かおかしな行動をとってた時がなかったかとか、後は例えば」
「ありません」
杏子は乙下の質問を、気持ち良いほどの一刀両断で遮った。
「BOLCEさんは神様なんですよ」
ホトケ様の間違いじゃなくて?と笑えない冗談を思いつくが、
杏子が真顔なので、乙下はおくびにも出さない。
よく空気が偉業を称えたり幸運を喜ぶ意味合いで
「神降臨キター」などと気軽に口走るが、杏子の言葉にそんな軽薄さはなかった。
むしろ、どこか妄執的な新興宗教を思わせる重々しさを感じ、乙下は薄ら寒くなった。
杏子がBOLCEに抱いていた特別な感情とは、
恋や愛といった生半可な呼び方でくくれてしまう類のものではないのかも知れない。
「IIDXにおけるBOLCEさんの凄さはご存じかと思います。
あらゆる曲で全一かそれに近いスコアを
軽々と出せるプレイヤーは、きっと全宇宙で彼だけです」
杏子は何食わぬ顔で母集団に宇宙人を含めて語った。
占いに呪いに、神様に宇宙人。
杏子の持つ世界観には節操がない。
「それだけでも素晴らしい話なのですけど、
BOLCEさんが神様たる所以は、その精神性にありました」
「精神性?」
「誰かを傷つけるような行動はしない。
誰かが傷つけられていれば、身を挺して守る。
誰かが悲しんでいれば、一緒に悲しんで悲しみを和らげる。
誰かが喜んでいれば、一緒に喜んで喜びを増やす。
BOLCEさんが持っていたのはIIDXの才能だけではありません。
人々を幸せにする才能もあったのです」
冷めた様子の杏子も、この時ばかりはやや饒舌になった。
「BOLCEさんは身体能力も精神性も、
同じ人間とは思えないほど卓越していました。
同じ人間じゃないとすれば何なのかと言えば、
それは神様なのではないかと、そんな風に思いますよね」
「うん、立派な人間だったんだね」
「ですから、BOLCEさんが殺されるべき理由など何一つとしてありはしないのです」
乙下は胸中複雑になった。
さり気なく挟んだ皮肉がなかったことにされたのも原因の一つだが、
主な原因はもう一方にあった。
それは、BOLCEが殺害された動機が相も変わらず不明瞭のままだったことだ。
表現は違えど、BOLCEの周囲の人々はみんな口を揃えて語る。
BOLCEのIIDXの腕前がいかに凄まじかったか。
BOLCEの人格がいかに優れていたか。
そして、BOLCEが殺されていかに悲しんでいるか。
杏子も店長も、1046でさえも同じなのだ。
生前のBOLCEがいかに慕われていたかが伝わってくる。
では、なぜBOLCEは殺されたのだろうか。
完全にブラックボックス化された疑問が乙下を悩ませる。
そして、杏子もまたその疑問に手足をからめ捕られているようだった。
「BOLCEさんに殺される理由がない以上、
彼は無差別殺人に巻き込まれた……私はそう結論付けていました。
ですが、昨夜の貴方と空気さんの会話を聞いて驚きました。
貴方はBOLCEさんの身近にいた誰かを疑っている様子でしたので」
杏子の意見が的確過ぎて、乙下は赤面しそうになる。
ただの突飛な女の子かと思えば、ことのほか鋭い洞察力を持っているらしい。
占い師を自称するだけのことはある。
「私は一晩かけてもう一度じっくり考えてみました。
占いもしてみました。
ですが、どう考えても、どう占っても、
犯人がBOLCEさんの身近にいた人物という可能性が見えてこないんです。
だから教えて下さい。
BOLCEさんを殺したのは誰なんですか?教えて下さい」
杏子はいくらか前のめりになって、先ほどと同じ質問を繰り返した。
目は瞬き一つせず、乙下のどんな仕草も見逃すまいとする意志が表れているようだった。
そんな杏子を見て、これ以上引っ張れないと判断した乙下は、
自分でも意外なほど淡泊に打ち明けた。
「1046」
時間が止まった。
杏子は人形というより、もはや石像のようにその場で固まっている。
ただしその表情は、明らかにこれまでと比べて異質だった。
大きく見開いた目の中で、小さく収縮した瞳孔。
居場所をなくしたように半開きになった唇。
それは、杏子が初めて見せる人間らしいそわついた反応だった。
無言で見つめ合う乙下と杏子の間に、若い女性の店員が割って入った。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
杏子の前に水の入ったグラスが置かれ、カタンと音を立てる。
杏子はそのグラスを店員の目の前で掴み上げ、
水を一気に飲み干したかと思うと、叩きつけるようにグラスを置いた。
店員が置いたときの音よりも一回り大きく、かつ低い音が響く。
店員は罰が悪そうな顔でおどおどしている。
見かねた乙下は助け船を出すように
「コーヒーお願いします」とだけ注文して、彼女をその場から立ち去らせた。
杏子は大きく息を吸って、吐いて、もう一度息を吸って、それから言った。
「1046さんって、まさかあの1046さん?」
「うん。その1046さん」
どの1046さんなのか示し合わせたわけでもなく、
こそあど言葉だらけの二人の会話は十分に意志の疎通を為し遂げた。
「あり得ません」
「なんで?」
「だって、1046さんって、あの1046さんでしょう?」
「だからその1046さんだってば」
「……あり得ません」
前のめりになっていた杏子は、ふと放心したように肩肘の力を抜き、
椅子の背もたれに重心を預けた。
「あり得ません。
他の人ならまだしも、1046さんだけは絶対にあり得ません。
私がどんなに、どんなに頑張っても
あの二人の絆には入り込めなかったんですよ?」
「そんな二人だからこそ、二人にしか分からない事情があったのかも知れない」
「それでも、1046さんがBOLCEさんを殺すだなんて……考えられません」
それっきり杏子はうつむいてしまった。
時折何事かをブツブツとつぶやいたり、首を横に振ったりしている。
考えを整理しているのだろう。
だが杏子の脳髄はオーバーワークをきたしたらしく、やがて乙下に助けを求めてきた。
「理由は?
1046さんを犯人だと疑うなら、それ相応の理由があるんですよね?」
「あるよ」
杏子は数秒ほど目を閉じ、ゆっくり肩を上下させてから、キッと乙下を見定めた。
「聞かせて下さい」
角を立てるような鋭い目つきに、乙下は気圧されそうになる。
そこには女子高生とは思えない迫力があった。
「聞いたら戻れなくなるぞ。いいのか?」
「念を押してどうするんですか?」
「いい度胸だ」
杏子の瞳が揺らいでいないことを確かめてから、乙下は事件と捜査の経緯を説明した。
誘拐された息子を救うため、店長が銀行強盗をしでかし、逮捕されたこと。
その間、シルバーのデラ部屋でBOLCEが殺され、無残にも首吊りにされたこと。
いくつかの手掛かりから、乙下が1046に強い疑いを持ち始めたこと。
1046には鉄壁のアリバイがあったこと。
乙下と空気による懸命の推理が、1046のアリバイ偽装トリックを解明しつつあること。
大変に長い話だったが、乙下はゆっくりと丁寧に説明した。
杏子の理解を助けるため、メモ帳のページを破っては図や表を描いた。
時間が経過し、いつしかテーブルは二つの空のコーヒーカップと、
何枚ものメモ帳の切れ端で埋め尽くされていた。
「……つーわけでね、BOLCEがシルバーにいて、
1046がABCにいたという思い込みがそもそもの間違いだったのさ。
実際は、シルバーにいたのが1046で、ABCにいたのはBOLCEだったってこと」
「つまり、1046さんが使ったのはBOLCEさんのイーパスで、
BOLCEさんが使ったのは1046さんのイーパスだったわけですね」
「そうそう。さすが、理解が早いね」
これはお世辞ではなかった。
杏子の理解の早さは特筆すべきものがある。
まさに「一を聞いて十を知る」を体現していた。
おかげで乙下はストレスを溜めることなく、説明のほとんどを終えようとしていた。
いつもいつもストレスの素を運びこんでくる誰かとは違う。
そんな風に乙下がしみじみ感心していると、杏子が首を傾げながら口を開いた。
「でも、それだけじゃ全部は説明がつきませんよね。
やっぱり、どう考えても1046さん単独では頭数が足りません」
「と言うのは?」
乙下は試すように杏子へ先を促した。
「例えばですけど、一番問題なのが
『シルバーで12:30〜12:40にBOLCEさんのイーパスでIIDXをプレイしたのは誰だったのか』。
『いつ、誰が、どうやってBOLCEさんのイーパスをBOLCEさんの財布に戻したのか』。
この二点です。
まず、BOLCEさんのわけはありません。
この時点ですでに殺されているはずですから。
1046さんのわけもありません。
1046さんは12:35の時点で遠く離れたABCの監視カメラに映っていたはずです。
BOLCEさんでも1046さんでもないとすれば、一体どこの誰なんですか?」
「本当に君は理解が早い」
乙下は満足して頷いた。
それは昨日、空気が口にした疑問と同じ内容だった。
「杏子ちゃんの言う通り、その二つの謎はこの事件を解くための
最も大きい鍵と言っていいと思う。
まだ説明できてないことは何点かあるけど、
まずもってこの二つの謎がクリアにならないことには話が進まないからね」
「その口振りからすると、貴方にはもうこの謎が解けてるんですか?」
「そこなんだけど、実は空気が今……」
ピピピピ。
乙下の携帯電話が色気のないデフォルトの着信音を発した。
「お、噂をすればだな……もしもし」
『分かりました!やっぱオトゲ先輩の言ってた通りでした』
度外れに威勢のいい空気の声が、乙下の耳をつんざいた。
挨拶はおろか、名を名乗ることさえ忘れるほど興奮している。
『調べてみてビックリしましたよ、まさかあんな方法があるなんて……完全に盲点でした』
「一体どんな方法だったんだ?」
『いいっすか、まず……』
乙下は空気からの報告を、スラスラとメモ帳に書き留めた。
内容は至って単純明快であり、
一分もかからずに全てを聞き終えることができた。
『以上っす。
思いのほか簡単なトリックで驚いてますよ。
ボクも試しにやってみたから間違いないっす』
「OK、俺もこれから試してみるわ。ありがとな」
『それと先輩、もう一つ』
「何だ?」
『BOLCEの検死結果が出たみたいっすよ。
報告書が署に届いてました』
「分かった。そっちも後で目を通しておくわ」
乙下は通話を終了させ、
待ちかねていたように杏子へ微笑みかけた。
「お待たせ。謎は解けたよ」
「謎って、もしかして」
「うん、さっき言ってた二つの謎だよ。
実を言うと、今日は朝から空気に『あること』を調べてもらってたんだけど、
アイツ意外に早く調べ終えてくれた」
「それじゃまさか」
乙下はテーブルに散らばった紙を束ねて、
強引にポケットへ突っ込みながら立ち上がった。
「これから実際にゲーセンで再現してやるよ。
7月16日の12:30、シルバーのデラ部屋で何が起きたのか。
そして、1046がどんなトリックを使って
あの不可思議なアリバイを作り上げたのかをな」
to be continued! ⇒
今週はここまでです。
しつこいようですが、もう一度だけ。
『シルバーで12:30〜12:40にBOLCEのイーパスでIIDXをプレイしたのは誰だったのか?』
『いつ、誰が、どうやってBOLCEのイーパスをBOLCEの財布に戻したのか?』
次回、これらのトリックが明らかになります。
もし良ければ考えてみて下さい。
それではまた来週。
そろそろage
>>298 乙!ようやく次回で種明かしですか…
思いのほか簡単なトリックってヒントは出てるのに全然分かんない。
次回楽しみに待ってます!
301 :
旅人:2009/03/26(木) 00:22:09 ID:yVYIh3D/0
>>252さん
自分がいかに愚かであったか、身に染みて分かりました。ありがとうございます。
これからはストイックで、客観的に物事を見たり書いたりできるような、
そんな書き手を目指していこうと思います。
>>253さん
自分でもそう思います。正直、とても恥ずかしいです。
書き手が独自性を失ったらそこでお終いだと思うので、
そうはならないように努力を続けていこうと思います。
>>とまとさん
謝らなければならない事があります。
名前欄のタイトルの書き方をそのままパクってしまった事です。
今となっては、どうしてこんな事をしたんだと後悔しています。
本当に申し訳ありませんでした。
今までの主張の流れと違いますが、どうしても言いたいので。
近日の投下、乙です!次回の種明かしの回を楽しみにしています!
>>2-387さん
かなり亀ですが、乙です!
語彙が貧弱なので上手く感想は書けませんが、嬉しい気分になれました!
今晩は、旅人です。
今まで書き込みをしなかったのは規制に巻き込まれたからです。
創作に嫌になったり、自信を失ったりという事はありません。
規制で生まれた時間を創作に使ったり自問自答に使ったりして、
ありがたい事に無事にこの時を迎えています。
それでは、長時間の投下になりますが「旅人的ガイドライン 〜IIDXDP ver.〜」をお楽しみください。
302 :
旅人:2009/03/26(木) 00:31:26 ID:yVYIh3D/0
田中の運転する覆面パトカーは、
あと3キロで大桟冥橋にたどり着くであろう所まで到達していた。
交差点を乱暴に左折した田中は、ハンドルを戻しながら小暮に訊ねた。
訊ねたというよりは、怒鳴ったと書くべきなのだろうが、とりあえず訊ねた、としておこう。
「おい、何か奴の動機は分からないか!?」
「ちょっと前に考えつきました。
多分、犯人の動機はこれで当たっているかと思います」
「言ってみてくれ!」
「犯人は町田さんと中林さんを殺そうとしました。
現に中林さんは奴の手にかかって死んでしまいました」
「そうだな。それで?」
「それで、二人の共通点といったら
『音ゲーが上手い』って事だけです。それも、この市で指折りのレベルの」
「言いたい事は分かる。で、続きは!?」
「犯人も滅茶苦茶上手いんだと思うんです。
でも、二人と比べれば全然まだまだな………そんなレベルのプレイヤーだと推測します。
大体のIIDXプレーヤーは公式の方でライバル登録をしたりしています。
僕も、多分刑事さんもCSでやった事はあるんじゃないんですか?」
田中はうーんと唸りながら、走行している道と橋に続く道とが交差する交差点を右折した。
そしてハンドルを回しながら田中が答える。
「やった事はあるぞ!中井のメモカと俺のメモカでデータ交換とか、
ディスクに入ってる同段位のプレーヤーをライバル登録したりとか!!」
「じゃあどうしてライバル登録したんですか?」
「どうしてって、やっちゃいけねぇのかよ!」
「ダメだなんて言ってませんよ!少し冷静になりましょう、スピード落として!
で、何でライバル登録をしようと思ったんですか?その理由は?」
(名前欄、旅人じゃなくて旅人的(ryだった…以降修正します。ひとつ前のは脳内修正してください)
「……競争の場で誰かに勝つってのは嬉しい事だ。
負けるのは悔しい事なんだけどな」
「それですよ、それ。
ライバル登録をする理由ってのは大抵の人がそうのはずです。
大多数のIIDXプレーヤーが登録をするのは、
目標を位置づけたり、友人知人に勝って喜んだりしたいからだと思うんです。
でも、あまりに目標が高いと……
例えば、トプランの人をライバルにするのってどう思いますか?」
「本当に奴らをライバル登録する奴なんてあまりいないんじゃねぇか?」
「どうしてですか?」
「そりゃあお前、奴らがあのゲームの世界においては神にも等しいからだろ!?」
「そうですよね。そうなんです。
殺された中林さん、殺されかけている町田さん。
二人とも、その域の一歩手前までは近づいていたんです。
よく、『誰でも良いから殺したくなった』とかいうふざけた動機で人が死んだりします。
でも犯人はそういう動機で動いていたはずなのに、狙うのは弱者ばかりなんです。
そうですよね?そういう人たちが怖いお兄さんを刺したりしたって聞いた事がありますか?」
「無いな!今のところは!」
「そうでしょう。そういう人たちは弱者しか狙えない。
これをこの事件にトレースしてみましょう。
犯人はトプランでも殺してりゃよかったんです」
そう言った小暮に鬼のような形相をした田中の視線がずぶずぶと突き刺さった。
「…言い方が悪かったです。すみません。
でも、奴は町田さんと中林さんを殺しにかかった。
奴の中では『弱者』のカテゴリーに入っていた二人は狙われてしまった。
これが、僕の考える犯人の動機です」
小暮は残り300mの所まで迫ってきた大桟冥橋を見つめながら、
その口調に若干の怒気を孕ませながら言った。
覆面パトカーが大桟冥橋を走行している時、
小暮は自分の上着から拳銃の形をした黒い物体を取り出した。
田中がそれを横目でちらっと見て、それから聞いた。
「おい、そりゃ何だ。俺はここでお前を逮捕しなきゃいけないのか?」
「いいえ、その必要はありません。これの名前は……
『黒イカ墨発射装置』です。20回撃てます」
「そんな事を聞いているんじゃねぇよ。
お前そんなもん作ってどうする気だったんだ?」
「誰かに襲われた時に便利じゃないですか。最近物騒ですし。今が物騒だけど。
ってアレ、中井さんの車じゃないですか?そうじゃないっすか?」
「そうだな。あれは中井の……って、アイツ何やってるんだ!?」
前方を走る中井の車がいきなりスピードをあげ、
その前方を走るバスの横についたのだ。
運転席の横にまでつけた中井は、運転席から上がった短い炎が出ると同時に
車をバスの中腹のあたりに減速して移動させた。
「アイツ、まさか運転席に飛び込むつもりじゃなかったんだろうな!?
やめてくれよ、オイ…これはアクション映画でも何でもないんだぞ!」
「もし彼がそうしようとしているのなら……刑事さん、窓開けて!」
小暮が田中にそう指示し、理由を訊ねる声と共に助手席の窓が開いた。
窓から入る寒い空気をまともに受けながらも小暮は答えた。
「中井さんのバス突入を支援します」
「馬鹿か?!お前、ホントは馬鹿だったのか!?」
「頭はまともなつもりです。
この方法だったら町田さんを始めとする乗客全員の命は危ないのも承知です!
でも、奴の狙いは本当はそこにはないんです!
町田さんの命には用があるでしょうが、他の乗客の命には用は無いはずです!」
「お前、何を言ってるんだよ!?」
「この橋を渡りきった先、そこに建っている建物に奴は用があるんです!
その言葉を受けた田中は、まさか、と呟いてから言った。
「奴の狙いは……嘘だろ、オイ………」
「僕と刑事さんの予想が正しければ……奴はあのバスを白壁に突っ込ませる気でしょう」
それから数秒の沈黙が流れた。
現実味を帯びない犯人の動機、これからの行動。
トプランは殺せないからその一歩手前の奴を殺す。
さらに一歩手前の奴も、将来有望な奴も殺す。
殺して殺して殺しまくって、犯人は恐らく三番手あたりに上手い奴になる。
そんな馬鹿げた話があったとしたら笑うだろう。
だが、そんな馬鹿げたといって笑った話が、今こうして現実として起きている。
人間は狂う事も狂わない事も出来る。どちらかを選ぶのは自由だ。小暮はそう強く感じた。
沈黙を破ったのは、無線から流れる中井の声だった。
「おい、田中!遅いぞ、何やってんの!」
「何をやってるって、お前こそ何やってんだよ!」
「犯人を一刻も早く捕まえる!その為にだなぁ……」
そこで、小暮が田中の手から無線機を奪って会話に割り込んだ。
「中井さん?」
「おぉ、探偵じゃねえか!どうした?あまり時間はないんだがな!」
「僕がこれから、バスのフロントガラス、左サイドの窓以外に細工します」
「細工って、一体何をするつもりだよ?」
「お楽しみです…刑事さん、バスに近づいて!」
おう、と田中が返して彼の運転する覆面パトカーが加速した。
一気にバスの後ろまでに詰めよったパトカーの助手席から、小暮が半身を乗り出していた。
「これで……当たれ!」
ドゥーイ!と銃声替わりの声ネタが響いたと同時に、
小暮の手に握られている黒い拳銃から墨が勢いよく発射された。
隅はバスのバックガラスを黒くし、犯人の視界を後方に少しだけ狭めさせた。
「いいぞ探偵、その調子でバスの右側の窓を全部黒で塗り尽くすんだ!」
中井が車を減速させて小暮の近くまで寄ってから無線で言った。
小暮は無言で中井に頷き、そして田中に近寄るように指示した。
「刑事さん、近くに寄せて!」
「オーライ、任せとけ!」
田中がそう返すと同時に覆面パトカーが
中井がやったのと同じようにバスに近づいていった。
小暮が『黒イカ墨発射装置』を撃ってバスの窓を黒くしていく。
十三回目のドゥーイ!が響き終わったと同時にバスの運転席から腕が伸び、
その先についている手が握っている黒光りする物が火を噴いた。
ビャウン!と轟音が響いたと同時に小暮は一旦身を車内に戻し、
轟音、いや銃声が鳴り響き終わったと同時にまた半身を車外に出した。
小暮の銃が二十回目にドゥーイ!と響き終わった後、
バスの右半分からは乗客らの姿が全く見えなくなった。
体を車内に戻している小暮がそれを見、我ながらすごいなぁと思っていると、
「よぉ探偵、まだ生きてるか?大丈夫か?何回か撃たれていただろ?」
中井から無線が入った。小暮が「応答します」と言ってから中井に言う。
「これで右半分の視界は奪いました。
後は中井さん、よろしくお願いします」
「オーケー、任せておけ。町田は絶対に助けてやるからな!」
中井はそう言うと通信を切り、そして再びバスの運転席へと近づいていった。
それから、中井がバスの前まで車を動かしてフロントガラスから侵入、
中井の車はそのトランク部がバスのフロントガラスに直撃、
もはや運転されていないただの障害物となった中井の車は
ガガガガガという擬音と共にバスの頭で動かされていた。
その後、二発銃声がバス車内から響いた。
小暮は何があったのかとバスを注視するが、
自分が窓を黒く塗りつぶしてしまったために中の様子を見る事が出来ない。
田中は心配そうにしている小暮に言った。
「大丈夫だ。奴は死なん」
「でも、さっき……」
「大丈夫だ。奴は死なん」
田中は二度同じ事を言って、そしてもう一度だけ、
今度は自分に言い聞かせるようにして呟いた。
二発、銃声がバス車内から響いた。
町田の顔、首、肩、まとめると全身が血を浴びていた。
突然バスの右側の窓が黒くなり、そして右側の窓が全て黒くなると
バスのフロントガラスから男が侵入した。
そして町田を羽交い絞めにしていた眼鏡男が
クレイジーな不法乗車をした男に向かって発砲した。
一発目は当たらなかった。眼鏡男の銃を握る右手が震えていたからだ。
それを見た男がにやりと笑い、眼鏡男(と町田)との距離を一気に詰めた。
男の突進は速かった。まるで、神速――
――銃弾も避ける事が出来たら、男は正真正銘の神であった。
だが彼は神ではない。人間だった。
眼鏡男の放った銃弾は凶弾へと変わった。
男の腹から赤い液が飛び散った。
次の瞬間、眼鏡男と彼が羽交い締めにしていた町田の二人に
ダッシュしていった男はその動きを止める。
男の上着の腹の部分に穴が空き、そしてその穴から大量の血が噴き出る。
男の体から噴き出す血は瞬く間にバスを朱に染めていく。赫く、染まっていく。
町田はその光景を呆然と見つめている。
全てがスローモーションで流れる。彼女にかかる男の血も同様に流れる。
男は何の抵抗も無くうつ伏せのまま床に吸い込まれるようにして倒れていく。
それを町田は周りの乗客の悲鳴を聞きながら呆然と見つめ、
次の瞬間にはその両眼に憤怒の炎を燃やしていく。
「でやあぁぁ!!!!」
町田はあらん限りに叫びながら両の肘で眼鏡男の腹を殴った。
あぶっ、と眼鏡男は呻きながらよろめき、次に拳銃を町田に向ける。
町田はしゃがみながら左足を軸に右足を突き出し、眼鏡男の右脛を蹴った。
あでっ!と眼鏡男は両眼に狂気を宿らせながら一歩後退した。
距離が空くと、飛び道具を持っている眼鏡男の方が有利になる。
町田は左足一本で床を蹴るという無茶な行動を起こしてでも、
眼鏡男に接近しなければ殺されてしまう。
その事を十分理解していた町田は、軸にしていた左足を蹴って眼鏡男に近づいた。
一瞬狼狽した眼鏡男は銃を構える両手を町田に突き出したが、それが運のツキだった。
「やあああああぁぁぁ!!!」
町田の気合の叫びと共に、彼女の両手が銃口が向けられている拳銃に伸びる。
銃身を手に取った町田はそれをバスの天井に向け、自分への脅威を消失させる。
次の瞬間、眼鏡男のトリガーにかかった人差し指は引かれ、鉛玉が一発天井を突き破った。
もう一度バス車内から銃声が響いた時、
小暮は何かが物凄いスピードで天井を破ったのを見た。
自分の脳が結構なペースで回転しているから、あんなものが見えたのだろうと小暮は思った。
それから三十秒が経ち、バスはようやく停止した。
大桟冥橋の路肩に駐車した田中は小暮を連れ立ってバスの前へと歩く。
「うわ、中井さんの車、もう駄目だなぁ」
「あーあ、アイツ、絶対後悔してるぜ」
そんな事を二人は言い合いながら、運転手がまだ狼狽していてか、
全く開く事のないバスの扉から乗車するのを諦め、中井と同じように乗車した。
二人は考えたくなかった光景を目にした。
バス車内が血に染まっている。通路が血の海と化している。
そして、車内の通路、血の海に誰かがうつ伏せで倒れている。
「町田さ…」と小暮は言いかけ、そして倒れている人物が違う事に気がついた。
「おい………オイ!!」
田中がそう叫んで血の海に沈む誰かに走って近づいた。
そして、彼がそれが誰であったのかを確認した後、小暮に向き直って叫んだ。
「探偵、大至急救急車を呼べ!!!」
310 :
旅人:2009/03/26(木) 01:27:16 ID:yVYIh3D/0
いかがでしたでしょうか?
これにて最終回の一歩手前のお話は終了です。
これで本作品のもう一つの面である「殺人篇」が完結しました。
残すは本作品の本質である「DP篇」です。
小暮は一体この短期間でどれだけDPの腕前を上げる事が出来たのか?
そこの所に注目していただけると嬉しいです。
今日の次の深夜に最終回を投下します。
諸事情により予告通り投下できないかもしれませんが、予めご了承ください。
僕はよく、まとめwikiで今まで書いた作品の話の流れを再確認するのですが、
そこで本作品で11作目を迎えた事に気が付きました。
次は12作目になって前々から言っていた新作が…と思っていたのですが、
この作品、12作目として出すのは、僕個人として納得のいかない部分があるのです。
だから、12作目はちょっとした短編になります。
新作、新作だー!と言っていたものはその次になります。
引き延ばして本当に申し訳ありません。短編共々ご期待下さい。
さてそんな告知も済んだ所で、ここで失礼させて頂きます。ありがとうございました!
(まとめさんへ。wiki内での注約、本当にありがとうございます。
これからもご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします)
311 :
旅人:2009/03/27(金) 01:04:08 ID:sc7zk7A70
今晩は、旅人です。予告通りじゃないけど、最終回投下に来ました。
いよいよ「旅人的ガイドライン 〜IIDXDP ver.〜」が最終回となります。
前回では「事件篇」に終止符が打たれました。
最終回では「DP篇」に終止符が打たれます。
やっとこんなつまらない話が完結するのだ、と思うと
変な達成感が心を満たしていきますね。
それでは、最終回をお楽しみください。どうぞ!
事件は解決した。最悪の形をとって。
不幸中の幸いといえば、中井と町田が生きていたくらいのものだ。
中井の方は重傷であったが、どうにか一命は取り留めたらしい。
後で小暮がバス乗客に聞かされた事だが、
町田は物凄い格闘で犯人をノックアウトしたそうだ。
音ゲーをやって高難易度曲をメインにプレーする人なら、
なにかしら得意な事があっても不思議ではない。
小暮は中井が手術を受けている間、待合室でそう考えていた。
夜になった。
小暮と町田は一度事務所に戻り、
そしてタクシーを使ってある所へ移動した。
法定速度を遵守するタクシーの中で町田が小暮に言う。
「ねぇ、小暮君」
「何ですか」
「あの人…どうして中林さんを殺したのか、分かる気がする」
「どうしてですか?」
町田はそこで一つ間を置いてから、そして一言前置きをいれてから話す。
「こういう女だったんだ、って軽蔑するかもしれないけど」
「内容によりけりです。でも町田さんを軽蔑なんてしません」
「優しいんだかそうじゃないんだか……
私も今ほど上手くない時ね、滅茶苦茶スコアを取ってる人が憎くて憎くてたまらなかった。
『こんな奴らの命とスコアデータさえ消えれば、私が一位に近づくのに』って」
「僕も、犯人はそう思っていたんじゃないかと思います。
今の町田さんなら分かりますけど、そんなの、ちゃんちゃらおかしいんですよ」
小暮がそう言うと、町田がうつむいて小さく何かを言った。
運転手も小暮も彼女が何を言ったか分からなかった。
だが、確かに町田の唇は「ごめんなさい」と言っていた。
小暮と町田を乗せたタクシーは白壁の前で止まった。
眼鏡男にバスを突っ込まされ、
更なる惨劇を生み出す場となるはずだったそこは相変わらず平和だった。
二人は入店し、プレーされていないIIDX筐体の前に立つ。
小暮がお立ち台に上がり、町田が筐体横に立っている。
「あ、あの人…」
「彩ちゃんの彼氏?」
「いや、小暮探偵…?」
「遊びに来たのかな…」
小暮がイーパスを入れ、コインを入れている時に
彼の後ろでは人が集まっていた。
既にこのあたりでは、先のバスジャック事件が
中井の件を伏せられて知れ渡っているのだ。
そして、その解決に導いた中心人物が小暮だという噂も出回っているのだった。
「う…ちょっと緊張ものですね」
「大丈夫。小暮君にギャラリーがつくのは意外だけど、
まぁかぼちゃだと思えば。そう思っちゃえばオーケイよ!」
なんてベタな自己暗示なんだ、と小暮は思いながら
プレーモード選択でダブルプレーを選んだ。
「おぉ、DPだぜDP」
「探偵さん上手いのかな」
「いやぁ、まだ初段レベルにもなってないでしょ」
「まぁとにかく見物しましょ」
小暮の後ろで沢山のかぼちゃが、白壁内全体に響き渡る爆音の中で口々に言った。
だが、彼らの声は混ざり合って誰一人正確に聞きとる事は出来なかった。
聖徳太子でも聞き取るのは無理なんじゃないかな。ふと小暮はそう思った。
小暮はもう既に何をプレーするかは決めていた。
スタンダードを迷わず選択、そして真っ先にQRSTフォルダを開く。
「一体何やるんだ?」
「QQQ?いや、あれはムリだろー」
「おっ、Sの所で……おぉ、spica(N)だー!」
そう、小暮が一曲目に選んだ曲はそれだった。
この曲はN,H,A譜面で曲が変わる。
同曲の作曲者が得意とするところだ。
難易度の問題や、たまにはN譜面のゆったりしたピアノを聴きたい
という願いがあって小暮はこの曲、そしてこの譜面を選んだ。
そういう訳で、小暮はDP専用スタンダードポジションを取った。
「1,2,4,6,7,に左手の小、薬、中、人、親で…
8,9,11,13,14で右手の親、人、中、薬、小。ハイスピはいつもより1,0だけマイナスにして…」
小暮は心の中で呟きながら曲名表示の画面でハイスピを調整、
そして両手を開いて彼はスタンダードポジションをもう一度取った。
spica(DPN)はとても叩きやすい譜面構成となっている。
DP慣れした人なら初見クリアーは容易に達成できるだろう。
無理皿も無く、DP初心者にお勧めな譜面を持つこの曲を小暮はクリアーした。
「おっ、クリアーしたぞ!」
「Aだ!A出してる!」
「SPの経験が活きたんだな…
って、次は8thフォルダを開いたぜ!」
「何をやるんだ?ンメエェモリイィィズか?」
「違うだろ……あれ、lv5なんだぜ?…お、カーソルが止まった」
「え、murmur twins(N)か!?」
「spicaでA出したからって、murmur twinsはどうなんだ?」
「一応あれ、lv5なんだぞ。まさかの二曲目落ちか?」
小暮は後ろの声々を無視してオプションでハイスピを調整、
それから一瞬だけ躊躇って白鍵を押した。
quellで落ちてしまった小暮だが、あれから譜面認識力は高まっていた。
同時押しも殆どなく、ただただリズムとピアノを叩かせる譜面は
一種のパターンのような物を作りあげ、曲をよく聞きこんでいる小暮には
次の譜面がある程度予測出来たりしていた。
一曲目のspica同様、murmur twinsもN,H,A譜面で曲が変わる。
B譜面でも曲が変わると小暮は聞いた事があったが、
残念ながら彼はそのバージョンを聞いた事は無かった。
N譜面はリズム等は変わらないものの、ピアノのメロディーラインが
譜面に直すと易しいものになっている。16分階段などは存在しないのだ。
まったりと曲を楽しむ分には最適の難易度と言えよう。
小暮は余裕をもってプレーする事が出来た。
約二分後に筐体から歓声が上がっている事も、当然の帰結というわけだ。
「おぉ、次は何を選ぶんだ?」
「フォルダは……GOLD?」
「スタダDPのエクストラ条件はlv7曲をノマゲクリアだから……
lv7曲ったらheaven aboveか?」
「いや、探偵さん、レザクラに合わせてないか!?」
一人のギャラリーが(聞こえてないにしろ、小暮にとっては一つのかぼちゃだ)
選曲画面を見てびっくりした声を上げた。
「いやいや、そんなに慌てる事はねぇ」
「どうして?」
「レザクラ……LASER CRUSTER(DPN)の譜面は、
人によりけりだろうけどlv7程度の難度に感じる人がいるって聞いた」
「そうそう。あれはlv8かどうかは怪しいって俺も思ってたんだよな……」
「案外、昔のlv7表記の方が合っているかも分からないような気がするんだが…」
「それでもlv8に格上げしたんだ、探偵さん、頑張ってエクストラを出してほしいな」
LASER CRUSTER(DPN)が小暮にファイナルステージで選曲された。
先にギャラリー達が「lv8かどうかは疑問」と述べていたが、
それについては個人が実際にプレーして
体感難易度を確かめるしかその判断はつかないだろう。
小暮はCSGOLDにて譜面は触れていて、
「明らかに他のlv8譜面と比べると易しい」と感じていた。
懸念されるのは中盤あたりのパートで、
そこだけが妙にミスを誘発する地帯となっていた。
ちゃんとした実力のあるプレーヤーなら何て事は無いのだろうが、
まだまだDP歴一日未満の彼にとっては脅威以外の何物でもなかった。
曲が始まった。小暮は所々コンボを切りながらもゲージを伸ばしていく。
最初の盛り上がりでは一度ゲージが80%を越えるが、
しかし中盤に差し掛かっていくとゲージは徐々に減少していく。
「あー、やっぱりそこか……」
「俺もそこで…そこが正念場だ、頑張ってくれ…!」
ギャラリー達の祈りが小暮に伝わったか、
ゲージ減少のペースが緩やかになっていった。
そして曲は最もゲージの稼ぎどころとなる最後の盛り上がりへと展開する。
「残りゲージは48%…イケる、イケるぞおぉ!!!」
「こりゃクリア出来たな!やったな!!」
ギャラリー達の顔にそんな文字が浮かび上がった。
そんな事は全く知らない小暮はクリアーを賭けて一心に鍵盤を叩いていく。
最後のノーツを処理し、リザルト画面に移行すると、
筐体は小暮を歓声で包んだ。同時にギャラリー達も歓声を上げる。
小暮は小さくガッツポーズをし、そしてエクストラステージの選曲に入った。
最後の選曲は「rainbow rainbow」(DPN)であった。
最高にハッピーな気分にさせてくれるこの曲であるが、
譜面上恐れられることが一つあった。
対称譜面、という用語がある。
SPを例にとって説明すると、1鍵と7鍵の同時押しの次に
2鍵と6鍵の同時押し、そして3鍵と5鍵の同時押し…といったように
文字通りシンメトリーとなっている譜面である。
こういった譜面構成上、シンメトリーが好きな人には
ビジュアルは最高にイカしている譜面だと思われるかもしれないが、
実はこの対象譜面、DP歴が浅い人間だと泥沼にはまる恐れがあるのだ。
そう、小暮を襲った悲劇は最後の最後で起きた。
頭に良く残るメロディーが終わって「レインボゥ」と女性の声が響いて曲は終了する。
小暮はちゃんと1P側、2P側にひとつづつノーツが降る
大規模なシンメトリーを成す譜面を捌いていた。
が、最後の最後で小暮はイージーミスを犯してしまったのだ。
よくDP歴の浅い人間に見られる事だ。鍵盤と鍵盤の間に指を突き立ててしまう
という事がよく起こると言われている。
小暮も例外ではなかった。逆ボーダー落ちした彼はがっくりとうなだれ、
排出されたイーパスを取ってふらふらと外へ出ていった。
まだまだ寒さの残る季節。息を吐けばそこに白く跡が残る。
小暮は長い溜息をついた。その分だけ長く細い煙が上っていく。
そして、小暮は上って消えていく自分の息を見上げながら叫んだ。
「チックショ――!!!肝心なところでイージーミスかよ、うわああぁぁーー!!!!」
この日、白壁で小暮正俊のIIDXDPでのACデビューを目撃した人々は一つの教訓を得た。
「どんなゲームでも一番怖いのは、
プレー中のくしゃみでも、ちょっかいをかけられることでもない。
プレー上一番怖いもの、それは己が犯すイージーミスなのだ」
そんな事を大きな筆で書かれた大きな紙が
白壁店内で展示されている、という話を小暮は町田から聞き、
わけの分からない事を叫んで顔を赤くしたそうな。
318 :
旅人:2009/03/27(金) 01:49:25 ID:sc7zk7A70
いかがでしたでしょうか?これにて本作品は完結しました。
これまで本作品を読んで頂き、本当にありがとうございます。
クオリティが低けれども、これからも宜しくお願いします。
最後に。これを書いていて思った事が一つ。
やっぱり指南系って、上手い人が書かなきゃ駄目だなぁと痛感しました。
今までのを読み返したら、指南でも何でもねぇやアハハハハ……
と自嘲気味の笑いが止まりませんでした。
だから、僕は僕の書きたい物を書く事にします。
それではまた、近いうちに短編の方を投下させて頂きます。
これで失礼します。ご愛読ありがとうございました。
音ゲプレイ中の描写は面白かったし上手いと思ったけど物語としては正直微妙だったかな
てかまとめの氏の作品色々読んだけど短編はタイムマシン以外はどれも面白いね。
特に独白とNO9は秀逸だった。
逆にやっぱ長編の奴はイマイチだったような
全体を通せば音ゲ問題が主であるってわかるんだけど無関係な描写が多すぎてだらけた感があった
以上ありのままの感想
320 :
旅人:2009/04/05(日) 00:56:31 ID:tlnxBaj10
>>319さん
感想ありがとうございます!
独白は個人的にすべったかなぁと思っていたんですが、
楽しんでくれたようで本当にありがとうございます。
長編の方もアドバイスを下さって本当にありがたいのですが、
次の長編の執筆がもう半分以上進んでいて、もう手直しできない状況に……
すみません、また駄文と付き合ってやって下さい。申し訳ありません。
今晩は、旅人です。
二つばかりお知らせしたい事があります。
一つは、これから投下させて頂きます短編「Journey to mind」のことです。
今作品が「あるテーマを元に物語が構築、音ゲー要素はおまけ」
というスタンスを取っているということです。
特に今投下分は音ゲー小説でも何でもねぇじゃん、とお思いになられるでしょう。
何せ、音ゲー要素がちっとも含まれていないのですから。本当に申し訳なく思っております。
次の長編も似たようなスタンスで執筆させて頂いていますが、
スタンスのテストとも言える今作品の反響次第で長編のスタンスを崩すかというと
僕は決してそんな気は無いのです。というか手遅れなんです。すみません。
身勝手な我儘である事は理解していますが、全く音ゲー小説でないわけではないと思っています。
ちゃんと「音ゲーを交えて」話は進んでいくので、
ここにはギリギリ投下できるものになったと思います。
もう一つのお知らせです。この短編「Journey to mind」の後に控える
長編の投下完了をもって、僕は長い間活動を休止します。
お知らせも終わったので、それでは「Journey to mind」をお楽しみください。
人は孤独を嫌う傾向にある。
それとは別に、他人との関わり合いを捨てる者もいる。
人の心に同じ色は無い。
同じ人の心など存在しない。
人の心を理解する心の色は無い。
しかし、己の心を眠らせる心の色はある。
同時に、人の心を目覚めさせる心の色もある。
「2月16日深夜、×▽高校の生徒の河合純一(16)が同高校の屋上からの
飛び降り自殺した事件について新たな情報が判明されました。
彼は同級生からの陰湿ないじめを受けていた事を
手記として残していた、という事が判明したのです――」
×▽…って俺の通う学校じゃねぇか。
深夜って事はだ、一応警備態勢が敷かれているはずなのに
どうして生徒が学校の中に居られるんだ…?
とまぁそんな疑問は置いとこう。
今の俺にとって重要なのは、寝坊して登校時間に余裕がなくなったという事だ。
えーと、今の時間が7:50で、登校時間が8:20だから…あーもう面倒くせえ。
漫画でよくあるように口に食パン一枚咥えて登校するしかねぇか、
ああ、もう、学校なんかなければいいのに。
制服に大急ぎで着替え、そして俺は本当にパンを咥え、
具合が悪いと言って寝込んでいる母親に向けて出発する旨の事を告げた。
しかし、口にパンを咥えているが災いし、
俺はただ意味の通っていない事を口走っていた。
家を出て、それから二十分間俺は走った。
ペースとしては100m徒競争の勢いの四分の一程度だ。
小走りって言った方が早いんだろうな。
とにかく、俺はそんな感じで、
滑りやすくなった地面に気をつけながら走って学校に着いた。
うぃー、と教室内にいる全員に聞こえるくらいの声量で、
挨拶とは言えない挨拶をその場にいた全員にする。
午前中の授業が終わった。
中々にどうでもいいお話をしてくれた先生方に感謝しつつ、
だいぶ具合が悪いらしい母親が作ってくれた弁当を片手に屋上へと上がった。
階段を上っていく途中、俺は休み時間の間に聞いた
同級生の他愛のない会話を思い出した。
「おい、河合の野郎が死んだって聞いたんだけど」
「3組の?あぁ、あのブサイク野郎の事?」
「そうそう。あいつ、結構いじめられていたよな」
「そうだったなぁ…河合の顔を見る度イライラしていたから、
自殺だったっけ?本当に死んでくれてありがとうって感じだな」
どうでもいい話だった。
普通の感性とやらを持つ人間ならば、奴らに怒りを感じるのかもしれない。
だが、俺はそんな感情を持つ心が無い。
心はとうに何処かへ旅立っていた。だから、俺は一人が好きなんだろう。
屋上のドアを開ける。二月の冷たい風が顔を殴ってきた。
冷たい。し、痛い。二つの苦痛を受けながら、俺はいつも弁当を食べている場所へ歩を進める。
「誰か、アイツに花を持ってきた奴っているか?」
「いやいや、んな奴なんかいねーだろ」
「んだな。いてもいなくてもどうでもいい奴だったし」
ふと、同級生たちの(心ある人間なら)心無い言葉を思い出した。
あ、俺も花なんて持っていないや。いやぁ悪いね、河合順平(16)とやら……
「なんだ、お花を持ってきてくれたわけじゃないんだ…」
誰かが俺の頭の中に直接語りかけてきた。
いや、そんな表現をするのはおかしいとは思うが、そうとしか表現できない。
誰だ、と無駄だと分かってはいるものの、俺は姿なき声に問いかけた。
「いや、分からないの?僕が」
「大体見当はつくんだが…お前、河合順平の幽霊なんです、とか言わないよな?」
「御名答!そう、死んで新しくデビューしました、河合順平です!」
「叫ぶな、頭がぐらぐらする。
くそ、今まで一度も幽霊とコンタクトを取った事は無かったのに…
まさかよぉ、お前をいじめていた奴全員を
呪い殺しにきた、とかぬかすんじゃねぇよな?」
実は俺はそれが心配だった。
昔見た小説か映画か何かで、そういう展開の話を知っているからだ。
河合順平を名乗る超自然生命体は、おい、ドラムロールでもやってやろうか?
と言ってしまいそうなほど長い時間の間を置いてから言った。
「いいえ、そんな事は決してないですよ。
僕をいじめてくれる事で、誰かが鬱憤を晴らせれれば、それでいいんです」
「お前、相当のドMなんだな…」
「そういうのとは少し違うんだけど」
いやいや、同じじゃねぇかと俺は言いそうになって口をつぐんだ。
この超自然生命体は一体どうして死んでしまったのか、それを俺は聞きたかった。
「なぁ河合とやら」
「え?河合ですけど」
「お前の姿を見た事も聞いた事も、そんな覚えは殆どないんだが、
どうしてお前死んじまったんだ?
先に断ったけど、俺とおまえの間には接点は無い。
こんな事を聞いても無駄だって分かってるから、答えなくてもいいんだが、教えてくれよ」
俺は聞きたい事を聞いた。
超自然生命体は即答した。ツー言えばカーと返す、とはまさしくその事のように。
何を言っているんだこいつ。
今まで超自然(ryって言ってたけど
これじゃ頭のいっちゃった変人幽霊河合って名前が似つかわしいぜ。
「前々から思ってたんだけどさ」
「もういい黙れお前。興味も失せたし黙って飯食わせろボケ」
「あぁ酷い、ボケって言った奴がボケなんだよチクショー!」
「お前、そんなんだから生前いじめられたんじゃねぇのか…?」
それだけ言って、俺は弁当の封を解き始める。
が、変人幽霊はしつこく俺の意識に語りかけてきた。
「ね、今まで何かに本気になった事ってないでしょ」
言葉はそれだけだった。見透かされた気分になった。
事実、幽霊の言った事は本当だからだ。
俺はこれまで生きた中で、何かに本気になって取り組んだ記憶が無い。
自慢になるが、俺は大抵の事を殆どそつなくこなす事が出来る。
いや、そつなくというレベルではない。平均より上の結果を出せてしまうのだ。
そう、簡単に言えば、俺は「天才」なのだ。
それも、どの分野においても、俺が他人に引けを取った事は全く無い。完璧超人とはまさに俺の事。
「そうだな。で、それがどうしたんだ?え?いい加減に黙ってくれよ」
「そうもいかない。僕が成仏しないで現世にとどまり続けている理由は…
そう、未練は……君の事が心配で心配で。だからあの世にも行けやしない」
「へぇ、ご心配どーも。
さっさと成仏して、さっさとここから出ていってくれ」
俺はそう言って白飯を口の中に入れた。
何度か咀嚼し、そしてのどに流し込む。
そうしている中でも、河合はまだ俺の意識から出ていってくれなかった。
「僕は君に、生きるって事がどれだけ素晴らしいかを伝えたいんだ」
「そうかいそうかい。そんな事は自殺した奴に言われたかねぇな」
俺はそう言って次の一口を口に放り込んだ。
しかし、何度言っても河合は俺に語りかける事を止めようとしなかった。
「だから、君は――」
「うっせえな!黙って弁当食わせろ死に損ないが!!」
俺が怒鳴ったのが効いたのか、河合はしばらくの間黙りこんだ。
それからしばらくの間が終わり、そして俺の食事の邪魔をし始める。
「――君、本当は孤独だろう?」
「あ?」
「分かるんだよ。君と僕は同じ匂いがする」
「うっせえ!!さっさとどこかへ行っちまえ!!!」
「何においても優等生の君。何においても劣等生の僕。
背反しているようで、僕らの孤独という本質は変わらない」
「黙れ黙れ黙れ!!!黙って飯を食わせろって言ってるのが分からねぇのか!!!!」
「似通っているからこそ、霊感のない君に僕の声が聞こえる。
それが証拠なんだ、僕たちが同じ匂いがするっていう」
「うああああああああ!!!!!!いい加減にしろおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
俺は怒り狂っていた。
何?優等生と劣等生が同じ?孤独という点で共通?
どう考えても180°立場が違う。それが奴には分からないときている。
おまけに奴は俺の食事の邪魔をしている。それが非常に腹が立った。
「君は全然カッコよくない」
「黙れって言ってるだろ!!!!!」
「何かに本気になって打ちこんでいる人はカッコいい。
たとえその人がどんな醜態晒していたとしても、その姿はカッコいいんだよ」
「だああぁぁまあぁぁあれえぇぇぇえええええ!!!!!!!!!!!」
奴が何を言っているか、もう何も聞こえてはいなかった。
ただ俺の頭にあったのは、異常なほど膨れ上がった怒りの感情だけだった。
「それじゃあちょっと強引だけど…『Journey to mind』しようか」
俺の耳に自分の怒声以外に河合の落ち着いた声が聞こえ、
次の瞬間には、俺の視界がどこまでも広がる青空から何も無い白い空間へと移った。
326 :
旅人:2009/04/05(日) 01:45:33 ID:tlnxBaj10
いかがでしたでしょうか?これにて前半部分の投下が終了しました。
いや、本当にもう、前半部分に音ゲーのおの字も入らない出来栄えで
申し訳ないとしかコメントできないのですが、
後半部分にはちゃんと音ゲー小説らしくなっていきますので、それで勘弁して下さい。
今作品の執筆中、改めて「音ゲーを交えて」小説を書く事の難しさを痛感しました。
数日経ったら後半部分の投下に来るので、その時はよろしくお願いします。
今回はここまでお読み頂き、ありがとうございました。失礼しました。
旅人さんへ
『Journey to mind』前半面白かったです。後半お待ちしています。
失礼ながら、今までどうにも執筆者コメントで引っかかって読もうと思わなかったのですが、これから楽しみにさせて頂きたく思います。
>旅人さん
乙でした。
ウィルス事件の話の時も思ったけど、やはり
>>319氏の言うように
あちこち話が飛んで焦点が定まらないのが問題だと思うのです。
(世の中にはオムニバス形式の物語ってのはいっぱいあるけど、
最終的には複数の話が一本に繋がるから読者はカタルシスを覚えるわけで……)
その点、今回の短編はテーマが一貫してそうなので期待しとります。
じゃぁお前はどうなんだと言われたら返す言葉もないんですけど(汗)、
一応トップランカー殺人事件の続きを投下いたします。
BOLCEの一日はIIDXで始まり、IIDXで終わる。
朝起床すると、まずはCS。
定番の練習曲として親しまれている「quaser」と「AA」をプレイし、
指が温まったところで「嘆きの樹」と「冥」をプレイする。
朝一番からいきなり全力疾走をするように見えるかも知れないが、
BOLCEにとっては一般人で言うところのラジオ体操と
同じ次元のウォーミングアップらしい。
また、ここでのプレイ結果はその日の体調を測るバロメーターとしても利用される。
35.0〜42.0℃の狭いレンジしか持たない体温計よりも、
0〜4000点の広いレンジを持つEXスコアを材料に体調管理をした方が、よほど信頼性が高い。
BOLCEはそう信じていた。
朝食はきちんと食べる。
IIDXをプレイするためのエネルギー源を摂取しなければならないからだ。
特に、オブジェに対する反応速度を速めるためには脳へ糖分を供給してやる必要がある。
そのため炭水化物を主食とし、意識的に血糖値を高める。
朝食後の行動は日によってまちまちだ。
シルバーへ行く日もあれば、ABCやその他のゲームセンターに出かける日もある。
体調が芳しくなければ、家にこもってトレーニングに徹する場合もある。
プレイ内容の方針も日によってまちまちであり、
積極的にスコア更新を狙ったり、スパランや片手プレイで地力上げを図ったり、
気分転換にDPをプレイしたり、譜面研究に勤しんだりと、やるべきことはいくらでもある。
ただし、夕方になると必ずシルバーへ行く。
この行動は毎日共通していた。
夕方のシルバーに行くと、大概1046と会えるからだ。
互いの成果を報告し合う。
運指の方法について議論を交わす。
二人プレイでスコアを競う。
1046と共にするあらゆる行動がBOLCEのモチベーションを高めることに繋がるのだ。
もちろん、店長や他の常連仲間と会って交流を深めるという目的もある。
夜はまかない付きのアルバイト。
飲食店のホールスタッフとして真面目に働く。
仕事の最中も手が塞がっていない限りは常に指を動かし、
筋肉と神経の鍛錬を決して怠らない。
帰宅するともう深夜だ。
就寝の準備を済ませてからインターネットで情報収集をする。
コナミの公式サイト、IIDX関連情報サイト、2ちゃんねるの音ゲー板。
ブックマークを順番に覗き、めぼしい情報は見逃さない。
動画サイトで自分以外のランカーによるプレイ動画がアップされていないかもチェックする。
その姿勢は謙虚そのものであり、
例え格下の相手でも自分にないものを持っているとなれば、
貪欲に取り入れるつもりで注意深く鑑賞する。
最後に軽くCSをプレイ。
リラックスした状態で眠りにつくため、この時ばかりは好きな曲を自由にプレイする。
下手にスコアやコンボを狙うと、体が緊張して安眠の妨げになるからである。
布団に入った後は意識が消え入るまでイメージトレーニングだ。
冥の低速や嘆きのデニム等、難所を綺麗に抜けるイメージを
何度も繰り返し思い描きながら、深い眠りに落ちていく――。
「……なんつーか、壮絶な日常だね」
語彙の乏しい乙下が発した、精一杯の感想だった。
BOLCEは普段どんな生活を送っていたのか。
喫茶店を出てゲームセンターへ向かう途中、
乙下は右隣を並んで歩く杏子へ、軽い気持ちでその質問を投げかけた。
だが杏子の口から語られたBOLCEの日常は、乙下の想像を超えた凄まじいものであった。
365日、朝から晩まで「IIDXの上達」というただ一点のみを目的として行動する。
これではまるで悟りを開くことに心血を注ぐ修行僧ではないか。
「今の話が本当なら、BOLCEはデラに人生かけてたようなもんじゃないか」
「そうです。本人もよく言っていました。
『俺はIIDXのためだけに生きている』と」
24歳男性の人生観としては、さすがに問題ありのような気がした。
乙下は眉をひそめかけたが、死人の生き方を批判しても仕方がないと思い直す。
「彼、他のことには興味なかったわけ?
そろそろ定職に就こうとか、可愛い彼女を作ろうとかさ」
「なかったです。
フリーターを続けていた理由も
『正社員になったら拘束時間が増えてIIDXができなくなるから』。
……恋愛に興味を示さなかった理由も同じです」
杏子はまるで自分のことのように断定口調で話す。
しかしその声は、尻すぼみに小さくなったのが印象的だった。
見ると、杏子はかすかに伏し目がちになり、右耳にかかった長い黒髪をかき上げていた。
それは杏子にしては十分に大きいリアクションであり、
乙下を否応なしにやるせなくさせるのだった。
一体BOLCEはどういうつもりだったのだろうか。
これだけ多くの人に慕われていたBOLCEだ。
杏子に限らずとも、恋人を作るチャンスはいくらでもあったはずだ。
同時に、尋常ではないほど器用にIIDXをこなすBOLCEは、
決して要領が悪かったわけではなさそうだ。
フリーターなどに甘んじずとも、条件の良い仕事があったのではないか。
だがBOLCEはそれらに一切脇目を振ることなく、ただただIIDXの技術を磨いた。
全国トップの腕前になってもなおそのスタンスを堅持し続けた彼は、
果たしてどこを目指して走っていたのだろう。
「見えてきましたね」
杏子の声で乙下は我に返った。
前方にゲームセンターABCの看板が見える。
いつの間にやら目的地は目前だった。
ここまで来て、ふと乙下は足を止めた。
「あ、やばい」
釣られて、杏子も足を止めて振り返る。
「どうしたんですか?」
「1046だよ。のこのことABCに二人で顔を出して、1046に出くわしたら嫌だな。
アイツ昨日もここに来てたし、今日もいるかも知れない」
「問題ないです。1046さんはいません」
杏子は迷わずにさっさと歩みを進めた。
乙下は引っ張られるようにして杏子の後を追う。
「ちょっと、どうして言い切れるんだよ。
また得意の占いか?」
「いえ。1046さんがいるなら自転車もあります。
外に自転車がないので、1046さんもいません」
言われて乙下は納得した。
確かに、1046はいつもマウンテンバイクを交通手段として行動していた。
ABCの入口を担う地下への階段の周囲に、
1046の所有物らしきマウンテンバイクはどこにも見当たらない。
「ちなみに、BOLCEさんはどんな時も徒歩で行動します。
ですので、BOLCEさんはいてもおかしくないです」
「……いるといいね」
そんな悲しい冗談を無感情を装って言う杏子が不憫だった。
階段を下りると、急に辺りは夜になった。
時刻も天気も無関係な地下空間、ゲームセンターABCだ。
土曜日ということもあってか、ABCの店内には昨日と異なり何人かの客がいた。
彼らは夢中でディスプレイを凝視し、
レバーへあてがった左手とボタンへあてがった右手を小刻みに震わせている。
量産されたロボットを思わせる、画一的な動きだった。
そんな中で、唯一ロボット達と違う動きをする人間がいた。
灰皿のある場所を転々とし、吸い殻を集めるその男は、
「耳でIIDXの腕前を聞き分ける」という天才的な能力を持つあの店員だった。
彼は乙下の姿を認めると、にこりと微笑んで声をかけてきた。
「あ、刑事さん。また何か調べものですか?」
「連日お邪魔しちゃって申し訳ないね。
また今日もちょっとだけデラで試したいことがあってさ」
「今なら誰もいないんでちょうどいいですよ。
ところで刑事さんったらー」
店員はおどけた調子で言ったかと思うと、
白い歯を見せながら突然乙下に顔を近付け、耳打ちをした。
「後ろの可愛い女の子、未成年ですよね。
さすがにまずいんじゃないですか?」
「そんな関係じゃないっつーの」
「あははは、冗談冗談」
品のない冗談の割に品の良い笑い方をして、
彼は再び吸い殻集めの旅に戻って行く。
その後ろ姿を、杏子はきょとんと眺めていた。
「彼、なんて?」
「なんでもないよ。
君みたいな女の子がこんないかがわしいゲーセンに出入りして、
気分悪くしたりしないか心配だったんだって」
乙下は咄嗟に話を作ってみせた。
「いかがわしいですか?
私はこのゲームセンターの雰囲気、結構気に入ってますけど」
杏子は気分を悪くするどころか、
ごく平然とした足取りでIIDX筐体の方へ向かって歩いた。
その後を追いながら乙下は思った。
この娘は夜が似合うばかりでなく、暗闇が好きなのかも知れない。
杏子はすでにIIDX筐体の前に立ち、乙下を待ち構えている。
乙下が来るのを、と言うよりかは、乙下が説明するのを待ち構えている。
それを悟った乙下は杏子の期待に添うつもりで、
懐からイーパスと100円玉、さらに携帯電話を取り出した。
「さて、種明かしの時間だ」
乙下は照明映り込み防止用のカーテンを全開にしてからステージに上り、
100円玉とイーパスを筐体に押し込んだ。
BGMが一変し、画面は四桁の暗証番号の入力を促してくる。
そこで乙下は暗証番号をすぐ入力せず、携帯電話のメニュー画面を操作した。
「最近の携帯電話って便利だよね。
ストップウォッチまでついてるんだもん」
「ストップウォッチ、ですか?」
不思議がる杏子をさておき、乙下は携帯電話上で
ストップウォッチのアプリを起動してから、イーパスの暗証番号を入力した。
「確認しました」のメッセージが出現し、DJ OTOGEの各種プレイデータが並ぶ。
そのタイミングで、乙下は計測を開始した。
「はいスタート」
「スタートって、一体何を計ってるんですか?」
「見たまんま、デラのプレイ時間を計ってるんだよ」
「はぁ……」
21秒経過。
乙下は一切ボタン類に手を触れなかったため、
プレイデータ画面はタイムアップとなり、自動的に次へと進んだ。
画面には「プレーモードを選択してください」のメッセージが新たに表示され、
シングルプレイかダブルプレイかを問いかけてくる。
「まず最初の問題。
『12:30〜12:40にBOLCEのイーパスでIIDXをプレイしたのは誰だったのか』。
ここから考えていこう。
その前に一つ思い出して欲しいんだけど、
この時点でシルバーのデラ筐体はどういう状態だったか覚えてるかい?」
「確か、モニタのガラスが割れて粉々になってたんですよね」
「その通り。
ってことはだよ、なんかおかしくない?」
42秒経過。
画面はタイムアップとなり、自動的にシングルプレイが選択された。
「モニタを見ることができないのに、
この人物はどうやってデラをプレイしたんだと思う?」
「……そう言われれば……確かに、モニタがなければまともなプレイなんてできっこない」
50秒経過。
画面はゲームモードの選択を迫ってくる。
カーソルは段位認定モードに合わせられている。
乙下の最後に選んだモードが段位認定だったからだろう。
三日前の夕方、空気と一緒に遊んだ時だ。
「つまりね、こういうことなんだ。
12:30の時点でこのモニタはぶっ壊れた状態だったんだから、
まともにデラをプレイするなんて、誰にもできなかった。
逆に言えば、12:30〜12:40にシルバーでデラをプレイしていた人物なんて、
最初からいなかったんだよ」
「最初からいなかったって、どういうことですか?
だって、その時刻にBOLCEさんのカードで
何者かがプレイした記録が、コナミのサーバーに残ってたんですよね。
これはどう説明をつけるんですか?」
「こう説明をつける」
モード選択画面がタイムアップになる寸前、
乙下は素早くターンテーブルに手を伸ばし、最左端のモードを選択した。
1分11秒経過。
筐体から派手な効果音が鳴り渡り、そのモードの始まりを告げた。
「……チュートリアル!?」
「これが一つ目のトリックの種明かしだ。
1046は12:30、BOLCEのカードを筐体に挿入して、そのまま現場を立ち去った。
後は自動的にチュートリアルモードが始まり、
『ボタンに一切触れることなく約10分間のプレイ記録を残せる』。
10分もの間、あたかもそこにプレイヤーがいたかのように見せかけて、ね」
「まさか、そんな方法があったなんて」
1分39秒経過。
自動的に「#01 基本の遊び方」が選択され、
画面にはTシャツにサングラスというラフな格好をした
マイケル・ア・ラ・モードが登場した。
『やぁ。俺の名前はマイケル・ア・ラ・モード。
beatmaniaIIDXはじめての君、こんにちは!
今日は俺と一緒に楽しくSTUDYしていこうぜ!よろしくな』
「12:30にチュートリアルをスタートさせた1046は全速力でABCに向かう。
自転車で走れば5分でABCまで行けることは、空気が実証済みだ。
つまり、1046が12:35にABCの監視カメラへ映り込むことは、十分に可能だったんだ」
「……信じられない」
『このゲームは7つの鍵盤と1つのターンテーブルを使って、
ビートを刻んでいくゲームなんだ!』
一時は無表情の権化かと思われた杏子も、驚きを隠しきれず唖然としていた。
その向かい側で、IIDXのルールを懇切丁寧に説明するマイケルの声が高らかに響く。
7月16日の12:30にも、マイケルはやはりIIDXのルールを説明していたのだろう。
恐れ多くも、全国最高峰の腕前を持つBOLCEの首吊り死体に向かって……。
to be continued! ⇒
すみません、本当はもっと書きたかったんですけど
筆がなかなか進まず、中途半端ながら今週はここまでです。
来週はもう一つの謎の種明かしと
トリックの詳しい説明をしていきますので、
楽しんでもらえれば嬉しいです。
それではおやすみなさい。
336 :
旅人:2009/04/07(火) 23:43:52 ID:NbpNE+jp0
>>とまとさん
乙です!チュートリアルのトリックには脱帽しました。
アレは中々考え付くものじゃないですよ。びっくりするしかなかったです。
来週の謎の種明かしとトリックの説明に期待してます!
そして、アドバイスを頂きありがとうございました!
今晩は、旅人です。
今投下で完結する短編「Journey to mind」ですが、
ようやく音ゲーのおの字がつく程度の音ゲーの絡みが入ってきます。
それでは「journey to mind」本編の投下となります。どうぞ。
何も無い白い空間。そこでは天も地も右も左も分からなくなっていた。
俺の体が浮いているのか立っているのかさえも分からなかったのだ。
「さてと」いつの間にか目の前に現れた同年代の少年が言った。
かなりの不細工な面構えをしてやがる。これが河合の顔か。不細工だな。
「ようこそ、君の心へ」
「訳わかんねー事ぬかしてんじゃねえぞオラアァ!!」
「まぁまぁ落ち着いて。ちょっとここで君に説明をしておかないと」
その言葉を聞き、俺は怒り狂った心を静める事が出来た。
しかしまだ俺の吐く息は荒く、顔の表情筋が緊張を続けている。
「君は僕と同じになった」
「あ?死んだって言いてえのか」
「違う違う。エクトプラズムというか、君は魂だけ抜け出たんだ」
「ほほぅ。じゃ、一体ここはどこなんだ?」
「だから言ったじゃないか。君の心だよ」
「俺の心?そいつはおかしいぜ」
「どうして?」
「今、俺はお前に途轍もない怒りを感じている。
弁当を黙って食わせなかったからな、食事の邪魔をされるのが一番嫌なんだ。
それと、訳のわかんねぇ事を聞かされるのもな」
「でも、君の心は白一色で、何も物が無い。
普通は何かの象徴になる物が置いてあったりするんだ、心の中にはね。
けれども君の心の中には白一色の空間しかない。
君の心がからっぽだ、何事にも一生懸命うちこんだことも無い……
その証拠がこれなんだ。分かるかい?」
俺は瞬時に河合の言わんとする事を理解した。
どうやら俺の心には何も無いようで、
だから今まで何かに熱心になった事は無いという証拠と成り得ているのだ、ということだ。
というように俺は河合に言ってやった。
すると河合は凄い、とだけ言って俺に背を向けて話し始めた。
「さ、今の君を周りの人間はどう思っているのか、それを見に行こう」
「何を言っている?」
「僕は人の心に侵入する事が出来る。
だから君の意識に介入して意思疎通が出来るんだ。便利でしょ?」
「俺としては有難迷惑なんだが」
「まぁまぁそう言わずに。そうだね、誰の心が知りたい?」
河合は俺にそう聞いてきた。俺はしばし逡巡し、そして口を開いた。
「早瀬一太郎」
俺は適当に友人の名前を挙げた。
「早瀬って言えば、君と同じ学級の人だよね。友達?」
「そうだ。あー、ところでお前よ、
どうやって人の心とやらを覗くんだよ。俺にはそんな事出来ないぞ」
「大丈夫。僕の手を握って、目を瞑っていて」
俺は河合の言う通りにし、
河合に「目を開けて」と言われてそうした。
空気抵抗も何らかの衝撃も無かった。
何の刺激も受けることなく、俺は心を覗いているらしかった。
視界は一つの部屋を捉えていた。
小さなちゃぶ台、その上に乗っているみかん。
大きなテレビにはPS2が接続されている。五つのパッドを埋め込んでいる
やたらデカイ箱に長方形型のマットが一つ接続されている
コントローラーらしき物体が、そのPS2に接続されていた。ドラムのような形だ、と直感した。
大きなテレビのモニターは誰かの視界を映している、
そんな印象を与えるカメラワークで撮影された映像を流していた。
「これ、早瀬君の視界だよ」
「じゃ、これから聞こえる音はアイツが聞いている音って事だな?」
河合は小さく首肯し、そしてテレビのリモコンを手に取って
音量のレベルを上げた。次第に音が部屋中に大きく響き渡っていく。
テレビが映している映像には、俺の知り合いの川田、安川が映っていた。
左に座っているのが川田、右に映っているのが安川だ。
どうやら教室で三人揃って昼飯を食べているらしい。
机の上に弁当を置いて、その前に自分の席を移動させ、そこに二人は座っていた。
川田が俺に向き直って、いやこれは早瀬に向き直ったのだと錯覚を打ち消しながら
俺は川田の喋った言葉をスピーカーから聞いた。
「そういえばよ、早瀬、ドラマニのSPはいくつになった?」
「いやぁ、600から上がらん。川田は、そろそろ九段取れそうかい?」
「いんやぁ駄目だわ。どう頑張ってもデプストで躓く。
前にB4Uリミまで行ったけどよ、アレは鬼門だな。安川は?」
「九段かぁ…あれね、ムンチャの二重階段でいつもやられるねぇ」
「お前そこまで行けんのかよ、すげぇな」
「いやいや、そんなにおだてるなよ。
川田、デプストで躓くんだったら、縦連を鍛えてみたらどうだ?
意味の分からない会話だった。ドラマニ?SPが600から上がらない?
九段?B4Uリミ?デプスト?ムンチャ?二重階段?縦連?おいおい、お前ら、日本語を話せよ。
懐かしいなぁ、君以外の心残りと言えば、
最後に蠍火あたりでもプレーしたかった位かなぁ」
河合までもが変な事を口走り始めた。
「おいおい、俺にも分かるように説明してくれ。
あいつらが何を話してるのか、お前は知っているんだろ?」
俺は堪え切れなくなって、堪らず口からそんな言葉がこぼれた。
首を縦に振った河合は、簡潔にあの三人の会話の内容を説明した。
「早瀬君達は音楽ゲーム、略して音ゲーっていうジャンルのゲームをやっているんだ」
「初めて耳にしたぜ、そんなジャンル」
「どっかのデパートや大型スーパーとかに置いてある
『太鼓の達人』ってゲームもそのジャンルのそれに位置付けられるんだ。
でも、三人はコナミのBEMANIシリーズの方が好きみたいだね」
「そう思う理由を詳しく」
「彼らの口から太鼓のたの字も聞こえないからだよ。
BEMANIシリーズってのには、『ポップンミュージック』『ビートマニアIIDX』や
『ギターフリークス』『ドラムマニア』『ダンスダンスレボリューション』とか、
最近では『ユビート』って物もある。生憎、生前は筐体は見た事がないけどね」
「早瀬達はその……音ゲーの中のBEMANIシリーズの作品について話をしていたわけだな?」
「そういう事。流石は天才、話の理解が早くて助かる。
んで、会話の内容は……SPって言うのは、どこぞのVIPの護衛の人々の事じゃなくて
スキルポイントっていう、ギターフリークスとドラムm…」
「ドラマニだな?あいつらの会話を聞けば大体の略称とかは分かる」
「それは凄いなぁ…僕にもそういう勘の鋭さが欲しかった。羨ましいよ。
話を戻すけど、そのSPっていうのはプレーを重ねるごとに加算されて、
その個人の腕前を表す事が出来るんだ」
「大体理解出来てきた。じゃあその、段位って何なんだ?」
「それはビートマニアIIDX、略して弐寺とか、デラとか、まんまだけどIIDXとか
そういう呼び名が主流だけど、僕はIIDXで通しているんだけど関係ないね。
そのIIDXのモードの一つで段位認定ってあるんだけど、よくあるでしょ?剣道○段とか」
「あぁ、そういうことか。段位認定ってモードでプレイヤーの腕前に
あなたは○段ですとか○級ですとかって格付けされるんだな?」
「大体そんなとこだね。川田君も安川君も、シングルプレー九段で苦戦しているみたい」
「それをクリアしないと、シングル九段が取れないんだな?」
そういうことー、と河合は答え、そしてテレビの前から離れた。
そして空間の隅にあった冷蔵庫に近づき、その取っ手に手をかけていた。
「その冷蔵庫、一体何が入っているんだ?」
俺は河合にそう聞いた。ここが何処かの誰かのアパートの一室なら
食材やら何やらが入っていてそうだが、ここは河合に言わせると
早瀬の心の中のようらしいから、当然、中に入っている物も
ただの野菜やら飲料やらではないはずだ、と俺は思った。
河合は自分だけが中身を見えるように戸を開き、そして閉めて言った。
「ちょっとショックを受けるかもしれないけど、見たい?」
「プライバシーの侵害にはならないはずだ。見る」
俺はそう言って立ち上がり、河合が近くで佇む冷蔵庫の前に立った。
河合が「アユレディ?」と言ってから冷蔵庫の戸が開けられた。
どす黒い何かの塊だった。小さめの漬物石のようだ。
それは俺に向けて敵意を投げかけているように思えた。
思わず身震いをしてしまう。そんな俺に河合が言う。
「これが、早瀬君の君に対する本音だよ。触ってみる?」
なんと河合は臆せず黒の塊に手を近づけ、そして触った。
こみ上げる吐き気。しかしそれを押さえつけ、
好奇の欲を増長させてそれを相殺させながら俺は塊に触れた。
酷い負の感情だった。
人間なら誰もが持っている負の感情。怒り。妬み。恨み。
早瀬のそれは全て俺に向けられていた。
塊に触れてそれが分かった。
不思議な体験だった。
まるでエスパーが人の心を読むかのように、俺は早瀬の感情を完全に読み取る事が出来たのだ。
早瀬が俺に対する感情には、殆ど友好的なものは無かった。俺には負の感情しか向けられていない。
河合の言ったとおり、俺は少しばかりのショックを受け、そして手を塊から離した。
「どうして自分は努力しても追い付けないのか。
どうして自分は才能というものがないのか。
どうして自分は何においても劣ってしまうのか。
…全部、とはいっても彼が君に向けている負の感情を、
早瀬君の心を全部、君は知ったよね?」
「嘘だ、これは…嘘だ。
アイツは…早瀬は、俺にそんな感情を持つわけがない」
「どうしてそう言い切れるの」
「そこに意味がない。そんなのに意味はない」
俺はそう言って一歩後ずさった。
そこまで俺が否定するのにはもう一つ理由があった。
早瀬は、そんな醜い嫉妬なんてするような奴じゃないからだ。
「でもね」
やめろ、口を開くな。
「これは真実なんだ。本当の事なんだよ」
その言葉を聞いて、俺は心を深く抉り取られたような気がした。
その時、俺は河合の言う「Journey to mind」という行為をさせられた直後に見た、
自分の心とやらを思い出して吹き出してしまった。
心にショックを受けた?ふざけるなよ、俺の心には何も無かったじゃないか。
……自分に嫌な感情を向けられているってことが、これほどにも辛いとは。
気がつくと、俺は早瀬の心ではなく自分の心に戻っていた。
相変わらず何も無い光景。しかしそこには一つだけ変化があった。
「色が……俺の心が彩られてる?」
最初に俺の心を見たとき、その時の俺の心は白一面だったはずだ。
天も地も右も左も、自分が浮いているのか立っているのかさえも分からなくなる光景だったはずだ。
だが、今の俺の心には白以外の沢山の色で彩られた三次元の空間が確かに存在した。
早瀬の心のように、色々なものは置いていなかったが、確かに変化が起きていた。
俺に、変化が起きたとでもいうのだろうか。
「君の心が変わった。少しだけ人間らしくなったんだ」
「……何が、一体どういう風にだよ」
俺が河合に問うと、先に早瀬の事を話題にした。
「早瀬君が君に対して抱いている感情が
負のものだけではないという事を言っていなかったよね?」
「そうだったのか?」
俺はちょっとだけ驚いた。
さっきの流れからすれば、早瀬は俺の事が大嫌いなのではなかったのだろうか?
「まぁ、ちょっと醜い理由だけど、確かに早瀬君は君の事が嫌いだよ。
でもね、自分のテリトリーで戦えば勝てるかもしれないって思っているんだ」
「どういう意味だよ」
「SP600まで行かなくても、初めてドラマニをプレーしている
早瀬君位の実力のプレーヤーの姿を見れば、結構驚くんじゃないかな。
『こいつすげぇ、出来るんじゃん、マジすげぇ』みたいな感じでさ。
多分君もそう思うと僕は思うよ。
話を戻そう。早瀬君は本当は君とぶつかり合いたいんだ。
学校の成績で優劣を決めるんじゃなく、
彼の得意な分野で、それも君がその分野で成長してから対決したいんだ」
つまり、早瀬はあいつがやっているあのゲームを俺にもやって欲しい、と。
その理由は、あいつが得意とする分野で俺と勝負をしたいからだと。
でも変な騎士道精神が働いて、俺が成長するまでの猶予期間を与えようとしている、と。
「早瀬の心、良く分かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。あ、そうそう、言い忘れていた」
「何を?」
「何事であっても、その人が一心に夢中で何かに頑張っている姿はカッコいいよ」
「それ、いつだったか忘れたけど、お前が言っていたのを聞いたような…」
「あの時の君の状態なら、聞こえていないと思ったんだけど。
…どんな醜態を晒しても、人が何かに夢中になって全力で頑張る姿はカッコいいよ。
だから、生前に早瀬君がゲーセンでドラマニをプレーしていたのを見た事があったんだけど、
あの時の彼はとてもカッコよかった。どんなイケメンも相手にならないくらいにね」
「それで、何を言いたいんだ?」
俺は河合の長い口上を聞いてやった後に聞いた。
河合は「だから」と前置きし、少しの間を開けて言った。
「だから、君もカッコよくなってよ!」
河合が叫んだ瞬間、一気に河合の姿がぼやけていく。
「もう、僕の心残りは無いよ。安心して昇天できる」
「ちょっと待てよ、オイ、待てったら!」
気がつけば、俺は学校の屋上にいた。
広げられた俺の弁当が二月の冷たい風にさらされているのを見て
慌てて俺は弁当を急ピッチで食べていく。
最後の一口を食べ終えたその時、視界上方に違和感を感じ、俺は空を見上げた。
今にも雪が降ってきそうな空模様だった。
そんな空の一点に小さな青空を見せる穴が開いた。
その穴から雲があり得ないスピードで輪が広がっていくように拡散、
太陽の光を俺の全身に浴びせるような空へと変貌していった。
そんな空の中、俺は一人の少年らしき影が
遠い空で浮き上がっていくのを見た。俺は、その影は河合だと確信した。
きっと河合は心残りを、あいつが言うには俺の事を解決したから、
もう心おきなく昇天していったのだろう。きっとそうなのだろう。
あれから数日が経ち、土曜日になった。
学校は休みになり、俺はある物を買いに外へ出ていった。
早瀬達の会話を聞く限り、土曜日か日曜日の近場のゲーセンで
彼らは一緒に遊ぶらしい。とは言っても、本当に一緒に遊ぶわけではないようだが。
河合から伝えられた、早瀬からの挑戦状。
それを受けるために、まずは立ち寄らねばならない店がある。
楽器屋だ。ギターやらピアノやらフルートやらリコーダーやらエトセトラ。
どんな楽器も大体のものは揃えてある優良店だ。いや、それが普通なのか?
それは俺には分からない。知ろうとする気も起きない。
とりあえず入店。二階建てのその店で、俺はある物を注文していた。
「この店、用紙にどんなデザインの絵を描いて出せば
アレに描いてやるって宣伝してたけど、どんなもんかな……」
お待たせしました、とレジで俺の応対に応じていた店員が言った。
「お客さまのデザインネーム『Joueney to mind』の塗装が済んだ商品でございます」
そう店員が言い、俺は袋を受け取った。
袋の中には俺がオーダーメイドする際に、拙いながらも色鉛筆等で
着色したデザイン案の用紙が入っていた。
俺が買った商品はドラム用スティック。デザインネームは『Journey to mind』。
肝心の塗装は、どこまでも広がる青空をイメージした青と白。俺のイメージ通りの出来栄えだ。
俺の心に色を取り戻した河合に捧ぐために、そして訪れるであろう早瀬との対決のために。
そのために俺はこのスティックを買った。少しばかり出費が痛かったが、気にしては無い。
この二つの目的のためなら、この程度の額は安すぎるものだ。
サァいくか、早瀬達がいるであろうゲーセンに。
河合、カッコよく決めてやるから、上からちゃんと見ていてくれよ。
344 :
旅人:2009/04/08(水) 00:37:04 ID:ascsRb9q0
いかがでしたでしょうか?これにて「Journey to mind」は完結しました。
今作のテーマは「一生懸命に頑張ってる人ってかっこいい」というものでした。
が、そんな描写を殆どしておらず、このテーマを十分に伝える事が
出来なかった事を後悔していますし、申し訳ないとも思っています。
言い訳ですが、もう一つのテーマに「心の成長」というものがあります。
前半と後半では主人公の態度というか考え方というか、
そういうのが変わったように描写しています。(一応、そのつもりです)
主人公の心が変わり、その後の行動が人間らしくなった証拠になる。
そう僕は考えて書いていたのですが、文才が無いために十分に伝わらなかったと思うので、
この言い訳をもってそこの所の解説とさせていただきます。
という訳で、ここであとがきを終わります。
それではこれにて。おやすみなさい。
そろそろageる時期
とまと氏乙
そうか…DJTはマイケル目当てにチュートリアルやってたのに忘れてたよ
10分もやらせてくれるんだなぁ
ゆっくりで良いので続き待ってるぜ。
おやすみなさい
遅くなりましたが、Wiki更新完了しました。
投下された皆様、お疲れ様でした。
またいくつか途中でストップしている作品があるのが少し残念ですね…
いつか戻ってきて、続きを投下してくれる事を願っております。
348 :
旅人:2009/04/18(土) 00:01:43 ID:Y+iEHG1c0
>>まとめさん
更新乙です!毎度、本当にありがとうございます!
今晩は、旅人です。
これより「carnival (re-construction ver)」を投下します。
本作の全設定の持つ性質を考慮し、あえて強く主張させて頂きます。
「今作品における全ての設定は
現実に存在する全てのものと一切関係ありません」ということです。
小説ってそういうもののはずなのですが、個人的にそう前置きしておきたかったので。
ぐだぐだになりましたが、本編をお楽しみください。どうぞ。
それは人が生まれし時より存在していた
それはある時をもって姿を現す
それが現れた時人の世は無限の円環を断ち切られる
時は未来。世界は一度崩壊し、そして再生された。
2870年の事であるそれは、世界中の誰もが知っていた。
World Organization System (世界組織機構。通称WOS)と呼ばれる統治組織が、
九つに分かれてしまった大陸を統治していた。
WOSは世界復興の為に活動した団体が前身であるが、
それはあまり重要な事ではない。少なくとも、この物語を語る上では。
これを読むのは一体、どれだけ時が過ぎた時代に生きる者なのだろうか。
それとも時の流れに逆らい、過去の人間の目によって読まれていくのだろうか。
それすらも、この真実をレポートのような物語形式に変換して歪曲し、
それでも本質を継承していく事のみを第一に考える私にとっては重要な事ではない。
重要なのは、多くの人々にこの真実が伝えられていくかという事だ。
物語が始まる時間は……そう、この世界において
第九大陸レイヴンと呼ばれる北方に位置する大陸を治めるWOSの支部が財政難に陥り、
その救済策としてWOS本部があるプロジェクトを立ち上げた瞬間、が正しいだろう。
結果、それは順調に進んでいった。
レイヴンの経済は安定し、そこで暮らす人々の生活も豊かになった。
そして、プロジェクトはそれの最も大きな段階に移行していった。
「BEMANI追体験プロジェクト #■■.」
BEMANI追体験プロジェクトと呼ばれたそれの過去最大の段階は、
レイヴン大陸の最東端に巨大遊園地を建造する事であった。
carnival (re-construction ver.)
phase 1 -preparation- start.
BEMANI追体験プロジェクトとはどういったものなのか、
これを読む人が知らないと仮定した上で説明しておこう。
私としても、これは物語の核の一つになる要素であるから、
物語が物語として始まる前に大雑把にでも説明したい思いはある。
2987年、レイヴン大陸にある遺跡、
通称「平和」と呼ばれる場所で重大な発掘が行われた。
約千年もの前の機械が発掘され、そしてそれは電源を供給されると稼働したのだ。
今となっては古めかしいコンピューターによって動いているそれだったが、
この知らせを知ったWOSレイヴン支部の役人達は、これに可能性を感じた。
行き詰まって後退を始めたこの大陸の景気を回復させる可能性をである。
役人達はこの事を、彼らが立案した計画を添えて報告した。
彼らが調べてみたところ、この機械は娯楽のために作られたものである事が分かった。
…ただの娯楽用機械では無い事は分かっていた。
この時代において、このジャンルのゲーム、即ち「音楽ゲーム」と呼ばれるものは
誰もが全く思いつかなかったものであるのだから。
役人達はこの未知の娯楽がもたらす愉しみに景気回復の糸口をつかんだ。
このゲームはあまりに面白い。これでお金を取れば、かなりの収益が見込める……
彼らはそう考え、そのゲームの歴史について十分下調べをした上で、
この荒唐無稽な計画を立案したのだった。
WOS本部は駄目元でこれを認可、直ぐにレイヴン支部は
このゲームの発売元である会社が呼称していたシリーズ総称「BEMANI」の名を冠して
「BEMANI追体験プロジェクト」を発足させた。
残念な事に、民衆の認知度、注目度はプロジェクト発足当初は低かった。
だが、口コミなどでゲームやプロジェクトの人気はじわじわと広がっていき、
「beatmania」という名称のゲームは、第二段階である「beatmania UDX」へとステップアップするなど
本当に音楽ゲームの歴史を辿るようにして新作を出していけるまでになったのである。
2999年元日、WOSレイヴン支部は本部と共同で、
大きな公共事業をおこす事を全世界に向けて発表した。
もはや音楽ゲームは、いや、民衆の言葉を借りると音ゲーと呼ばれる娯楽は、
レイヴン大陸のものだけではなくなった。全世界が熱狂する娯楽へと発展していたのだ。
2005年9月7日に稼働を開始したとされている
「ポップンミュージック」という名の音ゲーの新作「カーニバル」に因んで、
大規模な遊園地「carnival」を建造する事が公共事業の内容だった。
これはポップンは勿論のこと、他のBEMANIシリーズから
「beatmania IIDX」「GuitarFreaks」「DrumMania」「Dance Dance Revolution」
の四つの作品がモチーフとされていくと発表した事は
全世界の音ゲーファン達を熱狂させた。
実はこのカーニバル建造、「BEMANI EXPO」という、
DDRを除いた四作品で開催された一種のお祭りがあった事実を元にしているという事らしい。
どういう事かというと、これは実際にあった「BEMANI EXPO」をDDRも含めて再現し、
同時に「トップランカー決定戦」も再現、開催するという計画を統合した結果、
じゃあ遊園地とか造っちゃう?という感じのノリでカーニバル建造の話は進められたらしい。
しかし、この時代の歴史の表舞台に「BEMANI EXPO」という言葉は出ていない。
開園は2999年12月19日を予定され、カーニバル建造は同年2月1日に工事が着工した。
レイヴン大陸第十地区という、同大陸最東端の地に位置する大きな四つの無人島が
カーニバルが造られる場所となったのだが、その理由ともう一つ解説をしなければならない。
先に解説の方を始めよう。
世界中の大陸が九つになってしまった事は書いたつもりだ。
だが、大陸を区分けする「地区」については全く触れていなかった。
これより、それについて解説を始めようと思う。
鳥の名を冠する九大陸は、それぞれ十の地区に区分けされる。
西から東へ、日付変更線のようなカクカクの九つの線が各大陸ごとに引かれている。
勿論、この線は目に見えるものではない。一応、念のため。
さて、なぜレイヴン大陸第十地区がカーニバル建造予定地となったか。
その理由を説明しなければならないのだが、
これには少しだけ変なところがあるかもしれない。
だが、私はこの世界の創造主でも何でもない。
文句があるならばそいつに言ってくれ、と前置きした所で説明しよう。
そこの一部地域だけ、気温が氷点下より下がらない。
それどころか、北国だというのに冬の季節になっても気温は最高で15℃はマークする。
これはどういう事を意味するのかというと、北国らしくない気候だという事だ。
よって、南方に住む寒さに弱い人々でもそこで活動する事は容易だという事になる。
それは全世界から客を呼びやすい条件を揃えた、という事である。
この時代において、音ゲー発祥の地であるレイヴン大陸は
音ゲーマーなら誰もが訪れたいと願う場所であるため、
そのブランド力のようなものも牽引力となって、客を呼び込み易くなるのだ。
さらに、この気候は大きなプラスとなる。
一体どれだけの人々がこの地に殺到するのか。
それを考えると、レイヴン大陸に住む人々は頬を緩めるのだった。
時は流れ、12月20日。
この物語の主人公は考えた。
「うぅ、寒い……」
その人物は古ぼけた「和」と呼ばれる様式の家に住んでいた。
その髪は漆黒にして腰に届くまでに長く、顔立ちは並より上と呼べるような少女が、
かなり古ぼけた薄い布団にうずくまっていた。
時刻は朝の6時。外気温は氷点下を下回り、古い家屋の中も当然のことながら寒い。
少女が薄い布団に包まってうずくまっているのも道理だ。
だが、時間は待ってくれない。
今日は冬休みが始まって間もないとはいえ、膨大なノルマを消化させなければならない。
でないと、五日後に行けるはずの所へ行けなくなるのだ。
そうは思っても、少女の体は寒さに震えるのみで何も行動を起こせなかった。
凍死はしないだろうが、結構危険な状態だった。
しかし、そんな彼女を助けようとする者はいなかった。
そう、この家には少女一人のみが住んでいる。
両親はすでにこの世を去ってしまっているが、
少女は長年の思い出が詰まったこの古い家に住み続けている。
だが、そこで暮らす日々は非常に耐えがたいものであった。
そんな彼女に救いの手は全く無いのか。
いや、無い訳が無いのだ。世の中には数が少ないながらも早死にする者がいる。
「善人」と呼ばれる種類の人間だ。
紺色のコートを着ていて、ニット帽で隠れて分からないものの、
金色の短い髪を持つ善人が彼女の家の戸を叩き、
それから「上がるよー!」と断りを入れて家に入っていく。
善人はこの家には何度も来ているのでこの家の見取り図は分かっていた。
直ぐに少女が震えている寝室にたどり着き、
カタツムリのように丸まっている布団に向け、湯気を立てている金属缶を差し出した。
「はい、あたたかいコーヒー。さ、これを飲んで起きて!」
その声に反応したカタツムリは、スッと手を伸ばしてスッとそれを引っ込めた。
そして缶が開けられる音が布団の中で響き、嚥下の音が続いた。そして、
「いっきかえったああぁぁ!!!!!!」
とカタツムリが大音声で叫び、布団を難なく撥ね飛ばし(当然だ。それは軽いのだから)、
そして善人に向き直って言った。
「クーリー、毎度毎度本当にありがとう!!」
クーリーと呼ばれた善人はいいや、と返し、
寝室を立ち去りながら少女に言った。
「それより、外出の準備をして。
早く僕の家で宿題を終わらせなきゃ、カーニバルへ行けないからさ!」
時はまき戻って一日前。12月19日。
少女はクーリーの家(正しくは豪邸だ)にいた。
それは彼女にとって珍しい事でも何でもなかった。
少女は幼い頃からクーリーと彼の両親にお世話になっていたのだから。
少女の両親は死んでしまっていた、と書いた。
それは変えようがない事実である事だが、私には苦しく感じられる。
それはさておき、少女の父親がクーリーの父親と友人関係にあった事で、
少女はクーリーの家で養女として生活していくこととなった。
その暮らしは良いものだった。
当時はまだBEMANI追体験プロジェクトによる景気回復が無かった
レイヴン暗黒時代と呼ばれる時期においても、クーリーの家は裕福そのものだった。
そんな所で暮らすのだから、生活環境が悪いなんてことは無い。
だが、少女はそんな所で暮らしていく事に言いようのない申し訳なさを感じていたのだ。
私の調べによると、約千年前にあった日本という島国が敷いていた教育体制と、
この時代の教育体制は全く同一のものであるという事が分かった。
小学校と呼ばれる学校で6年間、そして中学校と呼ばれる学校で3年間学ぶ。
合わせて9年間に及ぶ義務教育は、日本でもこの世界でも同じなのだ。
その後も同じである。
義務教育ではない高等学校で3年間学ぶか、そのまま就職するのか。
高等学校を卒業した後は進学するのか、それとも就職か。道は多様である。
それがどうしたんだと思われるだろうが、
少女の話をする上で説明しておかねばならなかったのだという事をご理解いただきたい。
少女は9年間の義務教育を終えた後、一人暮らしを始めた。
幼少期を過ごした古ぼけた家に住み、
高等学校に通学するという少女の願いをクーリーの両親は認めた。
しかし、少女には生活する力が無かった。
アルバイトをして少々のお金を得ても、
その時にはすっかり回復しきっていた景気は少女を助けなかった。
そうして少女は、週に何度かクーリーの家で夕食を頂くという生活を送っていた。
悪く言えば半パラサイト状態という言葉が適切であろうが、
少女の来訪をクーリー達は心から喜んで迎え入れてくれたのだった。
やっと12月19日の話をする事が出来る。
もう学校は冬季長期休暇期間、俗に言う冬休みに入っていた。
クーリーは少女に自分の家で宿題をこなそう、と誘っていて、
少女もそれを受け入れたため、二人はクーリーの自室でノルマをこなしていていたのだ。
休憩時、クーリーが少女にあるものを見せた。
「そうだ、誕生日プレゼントを見せようと思っていたんだ」
「え?嬉しいなぁ。なになに?どんなの?」
クーリーが見せたものは、一台のPCのモニターが映し出すあるサイトである。
「カーニバル公式サイト」をクーリーは少女に見せたのだ。
クーリーが本当に見せたかったのは、
そのトップページを下にスクロールしていくと現れる告知であった。
「12月25日、カーニバルで発生する料金、入園料などはすべて無料になります」
そんな馬鹿な、と少女はその告知を見て思った。
だが、これはWOSが言っているのも同然の事であり、それが嘘をつくとは思えない。
少女はクーリーの家で音ゲーに触れ、そのファンとなっていたために
カーニバルへ行きたいとは常々思ってはいたのだが、
まさか全額無料キャンペーンというものが開催されるとは思ってもいなかった。
クーリーは、これが昨日発表された事を言い、
そして一緒に行こうと誘ったのだ。少女はこれを断る理由は無かった。
というよりは少女が彼に一緒に行こうと誘おうとしていたのだが、
「って事で。ユール、一緒に行こうよ。カーニバルへ」
クーリーが先に誘いの言葉を述べたので、
「よし、決まりだね!じゃあそれまでに宿題を終わらせよう!」
ユールと呼ばれた少女はそう返した。
356 :
旅人:2009/04/18(土) 01:09:17 ID:rJD1y9Og0
いかかでしたでしょうか?これにて今投下は終了です。
西暦3000年が舞台で、大きい陸地が9つしかなくなって、
その中でも一番貧乏な陸地の経済が音ゲーで回復して
このノリで音ゲー絡みの巨大遊園地を造っちまおう!
というあまりにも荒唐無稽なストーリーの始まりでした。
これから先の話の展開も、でたらめなものになっていきそうです。
これからは、出来れば週に一度のペースで、
出来なければ隔週に一度のペースで投下していこうと思います。
こんな出来の悪い作者の書く、出来の悪い作品ですが、どうかよろしくお願いします。
それではこれにて。おやすみなさい。
(まとめさんへ。
我儘を言って申し訳ないのですが、まとめて頂く際にお願いがあります。
この長ったらしいタイトルの後に、第○章とつけるのではなく
Phase ○-サブタイ-という感じに見出しをつけて頂けないでしょうか?
carnival (re-construction ver) Phase 1
みたいな感じでお願いしたいのですが…
どうかこの我儘を聞き届けてやってくれたら嬉しいです)
遠い未来での音ゲー話とは面白い話だw
展開を楽しみにしてるぜ〜
これは期待
期待その2
360 :
爆音で名前が聞こえません:2009/04/18(土) 23:24:34 ID:4RBhaUjR0
期待その3
>旅人さん
じゃ、期待その4でw
実際面白い試みだと思いますので、頑張って下さい!
ちなみに設定が12月20日であることから、
これまでの話と何らかの関連があると俺は深読みしたがどうなるかな。
>まとめさん
毎度お疲れ様です。
そんな中わがままを言ってしまい大変申し訳ないのですが、
第146〜148回は第四話ではなく第三話の位置づけで書いたつもりでした。
お時間があるときで構いませんので、いずれ修正いただけると嬉しく思います。
それでは、トップランカー殺人事件の続きを投稿して参ります。
今回は長く複雑な話なので、何日かに分けて適度な文量ずつお届けします。
「このトリックにさえ気が付けば、
実はほとんど全ての謎に説明がつけられるんだよ」
乙下は内ポケットをまさぐり、折り畳まれた二枚の紙を取り出した。
一昨日から数え切れないほど睨めっこし合った二枚の紙。
BOLCEと1046のイーパス使用履歴だ。
乙下は杏子が見やすいように、
IIDXのターンテーブルをテーブル代わりにして、二枚を並べて広げた。
あらためて見るとボロボロだ。
210×297mmの紙面全域で皺とメモ書きがせめぎ合っているその様は、
二日前に印刷されたばかりとは思えない汚れ方だった。
だが、これでようやく決着がつく。
乙下はマイケルに負けないよう、声のボリュームをめいっぱいに張り上げて説明を始めた。
「上から順番に見て行こう」
杏子がこくりと頷いた。
「7月16日の朝10:00。
BOLCEはシルバーに来店して店長に挨拶した後、デラ部屋に入る。
そして早速デラのプレイを開始した……と思わせて、
実際は密かに1046と入れ替わっていた。
1046はBOLCEのイーパスを使い、デラをプレイし続ける」
言いながら、乙下は履歴の関係する部分、すなわち
START = 10:10, END = 10:20;
START = 10:21, END = 10:32;
START = 10:33, END = 10:44;
START = 10:44, END = 10:56;
START = 11:57, END = 11:08;
START = 11:09, END = 11:20;
と印字された箇所を指でなぞった。
「さて、ここで一回目の脅迫電話だ」
乙下は「START = 11:09, END = 11:20;」の行で一度指を止めた。
「一回目の電話の時刻は11:10〜11:15。
しかし、履歴上1046はその間もずっとデラをプレイしていたことになっている。
では『どうやってデラをプレイしながら脅迫電話をかけたのか』?
もう分かるよね」
「1046さんはここでもチュートリアルを使ったんですね」
「はい。そういうこと」
11:09にゲームスタートした1046は、
モード選択画面でチュートリアルを選んだ。
これにより11:20までの間は、デラをそっちのけにして自由に行動できるようになる。
あとはポスターの裏にあった節穴を通して
店内の様子を覗き見しながら、店長へ脅迫電話をかけたのだ。
「ちなみに」
乙下はエフェクトボタンを押した。
エフェクタがONになり、マイケルの声が一回り大きくなる。
「この時、デラ部屋の中はマイケルのむさ苦しい声で充満していた。
つまり、もしマイケルの声を店長に聞かれたら、
脅迫電話がデラ部屋からかけられていることに気付かれる危険もあった。
そこで1046は」
IIDX筐体のコントロールパネルの中央奥に位置する、5つのフェーダー。
乙下は「VEFX」と記された左端のフェーダーに手をかけ、下まで下げた。
続いて、「low-EQ」「hi-EQ」「filter」と、順番に下げていく。
「音が」
杏子が口を開くと同時に、乙下は右端のフェーダー「play volume」を下げ終えた。
「消えた?」
かしましく響いていたマイケルによるゲーム説明とキャッチーなBGMは、
ほぼ無音と呼んで差し支えないほどまでに小さくすぼまった。
さながら無声映画のワンシーンのように
陽気な顔で口をパクパクさせているマイケルが、乙下にはどこか滑稽に見えた。
「普通にプレイしてるだけじゃなかなか気付かないんだけど、
エフェクタをつけた状態でフェーダーを全部下げると
ほとんどの音を消してしまうことができるんだ」
「……全然知りませんでした。
だって私、音がよく聞こえるように
いつも全部上げきってプレイしてばかりいました」
「そういう人は結構多いと思う。
でも見ての通り、このフェーダーは音量を下げる目的にも使える。
おそらく1046はこの機能を利用して、
デラ部屋を静かな状態にしてから脅迫電話をかけたんじゃないかな。
ま、偉そうに言ってる俺も、さっき空気に教えてもらって初めて知ったんだけどね」
乙下はそこまで説明してから、
イーパス使用履歴の続きを再び指でなぞった。
START = 11:21, END = 11:31;
START = 11:32, END = 11:43;
START = 11:43, END = 11:54;
START = 11:55, END = 12:06;
「11:21、1046は通常のプレイに戻る。
そして12:06にデラを一時中断し、12:15に店長へ二度目の脅迫電話をかけた」
「でも……」
「でも?」
杏子は自信なさげに疑問を口にする。
「1046さん、どうして今度はチュートリアルを選ばなかったのでしょうか?
一回目と同じようにチュートリアルを選んでから電話をかければ、
12:06〜12:19に不自然なインターバルを作らずに済んだのに」
もっともな疑問だった。
「それについては、多分こういうことだと思う。
この時の1046は『ある理由でチュートリアルを選ぶことができなかった』」
「ある理由?」
乙下は相も変わらず口パクを続けているマイケルを指差して言った。
「ご覧の通り、チュートリアルを使えばいくら放置しても
10分間は確実にゲームオーバーを迎えずに済む。
しかし、逆を言えば『10分間は絶対にゲームを終わらせることができない』。
1046にとって、このチュートリアルの性質は
メリットであると同時にデメリットでもあったんだ」
to be continued! ⇒
今日はここまでとします。
また明日か明後日に続きを持ってきます。
いやしかし、謎解き編は書いてて楽しいのですが同時に大変難しく、
頭を抱えながらやっとります。
それではおやすみなさい。
続きです。
「どうしてデメリットになるんですか?」
「店長に見られる危険があったからだよ。
もしデラ部屋に店長が入って来てしまったらどう思われる?
いるはずのBOLCEがいなくて、いないはずの1046がいる。
しかもトップランカーの1046が初心者用のチュートリアルをプレイしている。
明らかにおかしい。
この不自然な光景を店長に見られることは疑惑を生むきっかけになるから、
1046にとってどうしても避けたい出来事だったんだ。
しかし、一度チュートリアルを選んでしまうと
10分経たないことにはゲームを終わることさえできない。
だから1046はそのリスクを避けるために、
敢えてチュートリアルを選ばなかったんだと思うな」
「ちょっと待って下さい。その話は変です」
杏子は冷徹に異議を唱えた。
「デラ部屋に店長さんが入って来る危険があるのは、
一回目の脅迫電話の時も同じじゃないですか?」
「そう見えて、実は一回目の電話と二回目の電話では状況が随分異なる。
一回目の電話の後は、店長がデラ部屋へ入る理由がない。
しかし二回目の電話の後は、
『危険が迫っていることをBOLCEに伝える』目的でデラ部屋へ入る可能性が出てくる」
店長からの事情聴取によれば、1046は二回目の脅迫電話の中で
「一億円を払わなければお前の息子だけでなく、シルバー常連客の命も追加でいただく」
と脅しつけた。
客想いである店長の性格を利用するために必要な言葉だったのだろう。
ただし、この一言は1046にとって諸刃の剣でもあった。
この事件において1046は、「デラ部屋の密室性」を利用している。
BOLCEが真剣にスコアアタックをしていると思い込んでいる店長や他の常連客は、
BOLCEの邪魔にならないように、よほどのことがない限りは
勝手にデラ部屋へ入り込むような真似をしない。
それを知っていた1046は、デラ部屋を外から切り離された密室空間と見なし、
ここを拠点として犯行に挑んだ。
だが、二回目の電話で「常連客の命もいただく」という脅し文句を聞かされた店長は、
BOLCEを避難させるためにデラ部屋へ立ち入って来るかも知れない。
そこで1046は一計を案じた。
「店長をデラ部屋へ入って来させないためにはどうすればいいか?
簡単なことだ、『デラ部屋の外でBOLCEと会うように仕組めばいい』」
「と言うことは、あの時BOLCEさんと店長さんが会ったのは偶然じゃなかったんですか?」
「そう考えれば辻褄が合う。
1046はBOLCEを言いくるめて、二回目の脅迫電話の直後、
つまり12:18ちょうどにBOLCEをシルバーへ戻って来させた……そんなとこじゃないかな」
「理屈は一応分かりました。ですけど、そう上手くいくでしょうか?
1046さんがいくら巧妙に二人の行動を誘導していたとしても、
ちょっとした時間のズレで二人はすれ違ってしまうかも知れません」
「杏子ちゃんの言う通りだよ。
だからこそ、もし店長がデラ部屋へ入って来ても言い逃れできるように、
1046は保険として敢えてチュートリアルを選ばなかった。
いや、選べなかったと言ってもいい」
だが、結果は1046の目論見通りとなった。
店長とBOLCEは12:18にデラ部屋の前で遭遇して最後の会話を交わし、
そのまま店長はデラ部屋へ入ることなく、犯人を探して外に走り去った。
1046の心配は杞憂に終わったのだ。
「さて次に進む前に、今度はBOLCEの行動をトレースしてみよう」
乙下はもう一枚のイーパス使用履歴に目を向けた。
「一旦話を朝10:00に戻すよ。
1046と入れ替わったBOLCEは、シルバーからABCへ移動する。
ABCに着いたBOLCEは店員の目を盗んでデラの筐体に入り、
中からカーテンを閉めてしまう。
これで外からは誰がプレイしているのかが分からなくなる。
そうしてからBOLCEは、1046のイーパスを使ってデラをプレイし始めた」
乙下は先ほどと同じく、履歴の関係する部分、すなわち
START = 10:27, END = 10:39;(山岡コース MAX-17)
START = 10:40, END = 10:52;(山岡コース MAX-11)
START = 10:52, END = 11:03;(山岡コース MAX-8)
START = 11:04, END = 11:16;(山岡コース MAX-14)
START = 11:17, END = 11:29;(山岡コース MAX-8)
START = 11:30, END = 11:42;(山岡コース MAX-9)
START = 11:43, END = 11:55;(山岡コース MAX-6)
と印字及びメモ書きされた箇所を指でなぞった。
「BOLCEは1046の指示に従って、10:27〜11:55の間
延々とAKIRA YAMAOKAコースのスコアアタックをし続けた」
「……」
「さて、次が問題だ」
START = 12:00, END = 12:02;
START = 12:03, END = 12:09;
START = 12:09, END = 12:20;
「BOLCEは12:18にシルバーへ戻るよう、1046から指示を受けていた。
ってことは、遅くとも12:13にはABCを出発しなきゃならなかったんだ。
では12:09〜12:20の間にABCでデラをプレイしたのは、一体誰だったのか?」
「これもチュートリアルのトリックですね」
「うん、もう簡単だよね。
BOLCEは12:09に1046のイーパスを筐体に挿入して
チュートリアルを選び、そのままABCを出たってわけだ。
耳の良いあの店員がマイケルの声に気付かなかったことから考えると、
おそらくこの時のBOLCEもフェーダーを下げることで
筐体から出る音を消してたんだろうな」
今にして思えば、直前のBOLCEのプレイ履歴が不自然に短いのも、
12:18ジャストでシルバーへ到着することをターゲットに
微調整をしていたと考えれば、一応の説明がつくのではないだろうか。
とその時、不意に乙下の目の前でIIDXの画面が切り替わった。
マイケルはどこかへ姿を消し、
代わりに「AMBIENT」のジャンル名と
「Tangerine Stream」の曲名、続いて「dj TAKA」の名前が表示された。
携帯電話のストップウォッチを見ると、6分25秒が経過していた。
ここからは実際のプレイを通してマイケルに教わったことを実践することになる。
物凄い遅さでオブジェが降って来た。
今はフェーダーを下げている上に
オブジェを叩くプレイヤーもいないため、音色はほとんど聞こえない。
だが、乙下の頭の中には自然とピアノの美しい旋律が流れた。
「Tangerine Stream」は乙下が初めてプレイしたIIDXの曲であり、
頭の中で自由に再生できるようになるほど何度も聞いた曲でもあったからだ。
乙下はこの曲が好きだった。
どこか切なくも爽やかなメロディは、
生きる喜びそのものを表現しているかのように輝いている。
だからこそ、乙下は話を先に進めるのが辛かった。
乙下はBOLCEのイーパス使用履歴に目を戻し、
BOLCEにとっての生きる喜びが永遠に失われた時刻が記された行へ、そっと指を当てた。
START = 12:19, END = 12:30;
START = 12:30, END = 12:40;
「……12:19。
1046とBOLCEはデラ部屋で合流した。
1046はBOLCEのイーパスを筐体へ挿入し、またもチュートリアルを選んだ。
これで12:30までは放っておいてもゲームオーバーにならない。
その時間を利用して」
「1046さんはBOLCEさんを殺した」
杏子が割り込んだ。
「そして1046さんはBOLCEさんの死体を、IIDXの筐体に吊した。
そういうことなのでしょう?」
乙下が最も言いづらかった部分を、杏子はさらりと代弁した。
乙下の苦しい気持ちを察したのだろうか。
それとも、受け入れがたい事実を自分の口から発することで、
なんとか心の不協和を落ち着かせようと試みたのだろうか。
あるいは、BOLCEの死という一大事を
所詮は第三者の乙下の口から簡単に語って欲しくなかったのかも知れない。
いずれにせよ、杏子は頑なに表情を崩そうとはせず、
それがますます乙下を胸苦しくさせるのだった。
「そうなんだ。時間は約10分。
BOLCEをあんな目に遭わせて、さらに金庫から200万円を奪う。
厳しいスケジュールだが、準備次第では可能な範囲だろう」
口にしながら、乙下はあらためてこの不幸な出来事の果てしなさを心に抱いた。
24年間をかけて色濃く染め上げられたBOLCEという人物の人格は、
たった10分、たった一プレイの時間を経ただけで、この世界から消えて無くなったのだ。
「それから先はさっきも言った通り。
12:30に1046はBOLCEのイーパスをもう一度筐体に挿入して、現場を立ち去った。
後は自動的にチュートリアルモードが選択され、
ボタンに一切触れることなく約10分のプレイ記録を残せる」
IIDXのモード選択画面は親切に設計されており、
『カーソルの初期位置は前回プレイしたモードに自動で合わせられている』。
1046はその機能さえも上手に活用した。
つまり、1046はわざわざチュートリアルを選ぶ手間を省き、
本来モードの選択までに要する数十秒の時間さえも節約することができた。
こうして1046はたった5分という短い時間を最大限有効に活用し、
シルバーからABCへ移動することに成功したのだ。
「この方法を使って、1046はまんまと12:35の時点で
ABCの監視カメラに映り込んでみせたってわけさ」
乙下は1046のイーパス使用履歴の残りの部分へ指を持って行き、
滑り落ちるようにして一気になぞった。
START = 12:37, END = 12:48;
START = 12:49, END = 13:01;
START = 13:02, END = 13:13;
START = 13:14, END = 13:25;
……
「ABCのトイレから出た1046は、12:37以降夕方までひたすらデラをプレイした。
その間、三回目の脅迫電話を13:18にかけることになるが、
おそらく1046はまたも懲りずにフェーダーを下げてチュートリアルを選んだんだろうな。
そうすれば1046は電話に集中できるし、
店長やABCの店員に音が漏れることもない」
「……最初から最後まで、チュートリアルだらけだったんですね」
一方で、乙下と杏子の目の前で繰り広げられている
チュートリアルの実験も終盤に差し掛かっていた。
画面は「Tangerine Stream」が終了し、リザルトへ移行したところだった。
全オブジェがPOOR判定というある意味で気持ちの良いリザルトである。
チュートリアルモードなら何個オブジェを見逃しても
決してゲームオーバーにならないことを、この時乙下は身をもって理解した。
8分14秒経過。
チュートリアルの締め括りとして、二つ目の練習曲「Darling my LUV」が始まった。
それを見た乙下も、推理の締め括りに取り掛かるべく口を開いた。
「これで残る謎は一つ。
『いつ、誰が、どうやってBOLCEのイーパスを財布に戻したのか』?
このトリックを解き明かしてみせよう」
to be continued! ⇒
続きます。
今日も張り切って参ります。
「その謎についてなんですけど、貴方がどんな風に推理したのか、
もしかしたらおおよその見当がついたかも知れません」
「え、マジで?分かっちゃった?」
杏子は乙下の意表を衝くようなことを言い出した。
雰囲気からすると、占いではなさそうだ。
「よく考えてみれば、1046さんがBOLCEさんのイーパスを
財布に戻すチャンスは、たった一回だけ存在します」
「言ってみて」
「おそらくBOLCEさんが殺されたずっと後の、夕方16:00過ぎ。
つまり、1046さんがBOLCEさんの遺体を『発見』した時です」
「へぇ、これは驚いた」
乙下は杏子の推理に興味を抱いた。
一字一句を聞き逃すまいと、神経を耳に集中させる。
「1046さんは大声で叫び、BOLCEさんが死んでいることを周囲に知らせたんでしたね。
しかし実はその前に、筐体にささったままになっていた
BOLCEさんのイーパスを抜き取って、財布の中へ戻す作業を実行していた。
こうすることで、1046さんは鉄壁のアリバイを確保したのでは?」
「なるほど」
杏子はすました顔と口調で推理を続ける。
「思えば1046さんがわざわざ自分から第一発見者になったのも、
その作業を実行するチャンスを作るため。
16:00にシルバーへ戻って来たのは、
ちょうどデラ部屋のタイムレンタルサービスが終わる時刻だったからです。
なにしろ1046さんは他のお客さんがBOLCEさんの遺体を見つけてしまうより先に
デラ部屋へ入らなければならなかったのですから。
貴方の辿り着いたトリックの答えは、概ねこんな感じではないですか?」
乙下は杏子の頭の回転の速さにすっかり感心してしまい、
拍手喝采を浴びせたい気分になった。
「すごい、よく一人でそこまで考えついたね」
にもかかわらず乙下が拍手喝采を浴びせなかったのは。
「いやしかし、非常に申し訳ないんだけど……残念ながら不正解」
「違うんですか?」
杏子は落胆するでもなく機嫌を損ねるでもなく、
ただ素直に意外そうな声で聞き返した。
なので乙下も鼻をあかすような言い方にならないよう、ソフトに話して聞かせる。
「目の付け所はすごくいい。
俺自身、最初は杏子ちゃんと同じように考えたんだよね。
だけど困ったことに、シルバー常連客の目撃証言がそのアイデアの邪魔をした。
『1046が16:00過ぎにシルバーへやって来たので少し会話をした』。
『その後、1046がデラ部屋へ入った行ったと思った矢先、大声で叫び始めた』。
『何事かと思って部屋を覗くと、BOLCEが首を吊って死んでいた』。
この証言からすると、1046がデラ部屋で細工をする時間はほとんどなかったことになる」
筐体のカードリーダーに挟まっているBOLCEのイーパスを抜き取り、
BOLCEのトートバッグから財布を取り出し、イーパスを入れ、また財布をバッグに戻す。
これら全ての手順において、指紋を残さないよう注意しながら実行する。
どんなに手際良く進めても、10秒は要する作業だ。
ところが1046は、10秒どころかデラ部屋へ足を踏み入れた途端に叫び声を上げ、
BOLCEが死んでいることを周囲の人々に知らせた。
結論としては、杏子の推理した方法で
1046がBOLCEのイーパスを財布に戻すことは、実現不可能だったということだ。
「ですが……1046さんがBOLCEさんのイーパスを
財布に戻すチャンスは、どう考えてもこの時しかありません。
他に考えられる可能性と言えば、やはり誰か共犯者がいたくらいしか」
「いや。共犯者なんていないし、
実を言えばチャンスは他にもあったんだよ。
最初で最後、たった一回きりのチャンスだけどね。
1046はあるトリックを使ってそのチャンスを作り出し、
まるで手品みたいにBOLCEのイーパスを財布に戻してみせたんだ」
「分からない。
一体どんなトリックがあるって言うつも……」
「お、時間だ!」
ようやくチュートリアルが終わり、
画面にはDJ OTOGEの各種プレイデータが表示された。
八桁のIIDX ID、岩手県の登録エリア、SP三段の段位、約3,000のDJポイント。
IIDXをプレイする度に必ず最後に見せられる、お馴染みのデータ保存画面だ。
乙下は携帯電話のボタンに指をかけ、身構える。
モニタ下部に位置するメッセージが
現在進行形の「データを保存しています」から
過去形の「保存に成功しました」へ切り替わり、
カードリーダーからイーパスが排出される。
その瞬間を狙い、乙下はストップウォッチを止めた。
「よし、やっと計り終わった。
えーと、実験の結果は『10分40秒』。
なかなかいい結果だな」
チュートリアルが開始されてから終了するまでの時間は10分40秒と判明した。
一方、1046とBOLCEのイーパス使用履歴の中で
乙下がチュートリアルだと見込んだプレイは、いずれも10分〜11分。
これなら辻褄が合う。
「さて実験も終わったことだし、
杏子ちゃんにちょっと面白いものを披露して差し上げよう」
「面白いもの?」
乙下は杏子ににんまりと微笑みかけて言った。
「手品だよ。1046が仕掛けた、BOLCEのイーパスを財布に戻すための手品」
to be continued! ⇒
明日も張り切って参ります。
>>376 怒涛の投下ラッシュですなー
続きを期待して待っております。
>>377 応援ありがとうございます。
話がややこしくて申し訳ありませんが、
もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。
では、続きを書いていきます。
GAME OVER。
八文字のアルファベットが画面に大きく登場し、
それとセットで金属的な効果音がスピーカーから鳴り響く。
約10分ほど続いた無音状態から一転して突然発音されたため、
乙下は少しだけびっくりしたが、集中力は乱さなかった。
排出されたばかりのイーパスに軽く右手を添えて、
いつでもカードリーダーへ再挿入できる体勢をとる。
乙下はそのまま、じっと時機をうかがった。
やがてGAME OVERの文字は薄らでいき、画面は電源が切れてしまったかのように暗転した。
スタートだ。
「……1」
もし空気の言ったことが本当なら、
「……2」
このタイミングでイーパスを挿入すれば、
「……3」
1046が事件当日に使ったトリックを再現できるはずだ。
画面はまだ真っ暗のままだったが、乙下は三つ数えるのと同時に
イーパスをカードリーダーへぐっと押し込んだ。
その一瞬で、乙下はすでに「手品」の成功を確信した。
右手に感じる感触が、明らかに普段のそれと異なっていたからだ。
「どうやら上手くいった」
乙下のイーパスは無事に認識され、
画面はオープニングムービーを再生する暇もなく
暗証番号の入力画面に切り替わった。
「結論を言おう。
こいつはとんでもなく単純なトリックだ。
1046は『暗証番号を打ち込むと同時にイーパスをカードリーダーから取り出した』。
そしてイーパスをBOLCEの財布に入れてから、デラ部屋を立ち去ったんだ」
杏子は表情を変えずに、首の角度だけを傾けた。
「ちょっと待って下さい、一体何を言っているんですか?
取り出すもなにも、イーパスはゲームが終わるまで取り出せませんよね?」
「そう思うだろ。ところがだ」
乙下は右手をイーパスの縁に触れたまま、左手で四桁の暗証番号を打ち込む。
次の瞬間。
「……え?うそでしょう!?」
イーパスは乙下の右手によって、いとも簡単にカードリーダーから引き抜かれた。
さすがの杏子も得体の知れない物を見るような
怪訝な目つきになり、声を上げて驚いている。
対する乙下はイタズラをするように片笑みながら、
杏子の目の前で指に挟んだイーパスをヒラヒラとはためかせた。
「取り出せるんだな、これが」
「そんなはずは……」
杏子は乙下の手からイーパスを奪い取り、
もう一方のカードリーダーに勢いよく差し込んだ。
「カチャ」と微かな機械音が聞こえて、イーパスは中に吸い込まれた。
杏子はイーパスを引き抜こうと試行錯誤をしたが、
ものの30秒ともたずに諦めてしまうのだった。
カードリーダーの中のイーパスはがっちりと固定され、
容易に取り出せはしないことが自明であると悟ったらしい。
杏子は狐につままれたような顔で乙下と向き合った。
「どうやって?
どうやってイーパスを取り出したんですか?
まさか力ずくなんて言いませんよね」
「言わんって。
これはちょっとしたバグの一種らしくてね。
GAME OVER直後の暗転から約三秒後にイーパスを入れると、
なぜかカードリーダーの中で固定されないまま認証が始まっちゃうんだ。
どうしてそういうバグが発生したのかは知らないけど、事実としてこの方法を使えば
『ゲーム開始早々にイーパスを抜き取れる』ってことになるわけよ(※注2)」
「すごい……。こんなシステム上の盲点があったんですね」
杏子は目を見張って言った。
※注2:
この裏技は、現在のe-AMUSEMENT PASSシステムが初めて導入された
IIDX13 DistorteD以来、修正されずに残っているものである。
通常イーパスをカードリーダーに入れると
「カチャ」という機械音と共に内部で固定されてしまうが、
本文で述べたようなタイミングで挿入すると
逆にイーパスへバネのような斥力が奥から働いて、
カードリーダーから外に出ようとする方向に力がかかる。
(乙下の感じた「普段と異なる感触」の正体はこの斥力)
この状態でデータの読み込みをさせれば、
イーパスを手元に置いたまま通常通りのプレイをすることができてしまうのである。
なお、イーパスを入れるタイミングが早すぎるとシステムエラーが起こり、
場合によっては筐体を再起動させなくては復旧できないため、注意が必要である。
また、IIDX16 EMPRESSでは処理がわずかに速くなったらしく、
暗転後から数えて約2秒のタイミングでイーパスを挿入すると上手くいくようだ。
「すると、1046さんがBOLCEさんのイーパスを財布に戻したのは」
「そう。12:30のプレイ開始直後だ。
1046はこのトリックを使ってイーパスを取り出し、
BOLCEの財布に入れてから、全速力でABCに向かって自転車を走らせた」
12:30の時点でデラ部屋のIIDX筐体はモニタが粉々に破壊されていた。
よって、暗転のタイミングを「目」で確認することはできない。
だが、1046には「耳」がある。
GAME OVERと同時に流れる効果音を聞けば、
イーパスを入れるタイミングを掴むことは可能だったはずだ。
ましてや1046はIIDXのトップランカー。
「音をトリガーとして正確なタイミングで体を動かす」ことに関しては
他の誰よりも長けていると言える。
これは1046にとってたった一回きり、最初で最後のチャンスだった。
とは言え、トップランカーの彼がこのチャンスを
100%に近い確率でものにすることは、決して困難な話ではなかったのだ。
「これで1046のアリバイは完全に崩れた」
to be continued! ⇒
連続更新はここで一旦区切りまして、続きはまた来週から始めます。
今回の更新で物語は一つのクライマックスを迎えましたが、
事件はまだもう少し続きます。
ちなみに、あの裏技はタイミング外すと本当にシステムエラー起きるから
あんまりオススメしません!どうなっても知らないよ!w
ちなみに俺はこの物語を製作するにあたり、かなりの回数の実験をしました。
地元のゲーセンの店員さん、何度も迷惑かけて本当にごめんなさい……(汗)
それではまた。
検証も含めて乙w
そんな事が出来るとは知らなかった
おおお。そんなことが出来るんですか。初めて知りました。
ただただ感嘆です。
そして検証乙でしたw
385 :
旅人:2009/04/28(火) 23:35:14 ID:4lOzH6iy0
とまとさん乙!イーパスのバグなんて知らなかったです。
検証の方も乙でした。次回を心から楽しみに待ってます。
今晩は、旅人です。
皆さんはこの作品に期待されているようですが、本当の話、そんなに大したものじゃないです。
まぁどんなものかなって程度の期待でお願いします。
とまとさんのようにこれまでの作品と繋がりがあると
考えておられる方もいるでしょうが、それについてはノーコメントで。
今はまだそこについて言及できません。すみません。
これから投下を開始します。本編をお楽しみください。どうぞ。
(
>>356なのですが、西暦3000年ではなく西暦2999年です。間抜けなミスでした。
もうすぐ三度目のミレニアムだわーいという感じです。肝心な設定をミスってすみません)
2999年12月25日 08:00
黒のロングコートと暗めの色の服と動きやすい黒のズボンで自身をコーディネートしたユールは
最寄りの駅である第五地区駅前で(ユールの住む地区は第五地区。地区分けの関係上、レイヴン大陸の真ん中に近い)
友人、いや親友といっても差し支えのないほどに
交友を深めた同年代の人物、クーリーを待っていた。
彼とはこの時刻に駅前の水を噴かない噴水の近くで待ち合わせていたのだが、
駅前はかつてないほどに人であふれかえった。
いや、そんな表現では到底表現しきれないほどの人々で埋め尽くされていた。
異常な人口密度の地帯の真っただ中で
ユールがクーリーを見つけられないのも当然のことだった。
そこで彼女は、クーリーからプレゼントされたある物をコートのポケットから取り出した。
マルチ・パーパース・デバイス、通称MPDと呼ばれる小型の携帯型端末である。
(余談だが、「携帯電話」という名前で約千年前から似たようなものは存在していた。
MPDはそれを進化、発展させたものと言えるだろう)
ちなみに、クーリーの家がユールのMPDの発生する料金を支払う事になっていた。
クーリーの家の両親が支払うと彼らが申し出たからだ。
彼女はそれを知っていたために長時間の通話は控える傾向にあった。
故に彼女は「駅前の『サイ』って喫茶店の前にいるから!」とクーリーに伝える
つもりだった。が、すぐに彼女に起きた出会いが通話を許さなかった。
「あ、ユーじゃん!学校の終わりの日以来だね。久しぶりー」
そんな風にユールは話しかけられた。
しかしそこら中で発せられるざわめき声という大きなノイズでその声はかき消され、
ユールの耳には何も入らなかった。そして、すぐに彼女の左肩に誰かの小さな手がのった。
それで初めてユールは誰かの接近に気づいた。
驚いて振り返り(その時見知らぬ数人の体に何度かぶつかった)、
そして接近したのは誰かを知った。
「何だ、キリーかぁ」
キリーと呼ばれたユールと同年代の少女―ベージュ色のコートを着込み
下は季節柄似合わない、緑の生地に白のラインが走ったスカートを履いている―が、
「何だ、ってなによ。失礼しちゃうわよね」
つん、と擬音が聞こえそうなほどあからさまに不機嫌な態度を取った。
ユールはそれを見てすぐさま言い訳を述べた。
「これだけ人が多いから、痴漢かな…って思ってびっくりしたのよ」
「ユーみたいな奴に近づく奴はいないって」
「それって酷い!」ユールはそう抗議した。
キリーは不平を洩らすユールに向かって後付けの言葉を入れた。
「ユーにちょっかい出してボコボコにされるって知ったら、
どんな奴でも逃げ出すでしょうね。
でも、黙ってればユーは可愛いんだから。」
「なによ。黙ってればってなによ」
「そのまんまの意味じゃない。…ん?あぁ……」
「何?どうしたの?」
そこでキリーは間を置いた。何秒か二人の周りで人々が駅へ進んでいくと、
キリーが何かに気づいたような表情を浮かべ、そして、
「彼だけは特別。大事にしなさいよ」
それだけを言うと、キリーは人ごみの中に紛れていった。
もう後ろ姿も見えないキリーを見送っていると、また背後から伸びる、
今度は大きな手がユールの右肩を掴んだ。
ユーリは今度こそ痴漢に違いないと
直感に近い思考で考え、すっと腰を落とすようにして頭を下げた。
肩に乗っていた手はするりと落ちるように外れ、
右足を軸にバックターン、風を後ろに感じながら
顔を見る事もなく痴漢と思しき人物の顎を見ないで狙って強烈なアッパーをお見舞いした。
「おぶわぁ!?」
この時、ユールの放ったアッパーは並みの女性が出すものに比べたら
その数段上の威力をもっていたと思われる。
痴漢(とユールは思っている)がこんな声を上げたのも無理は無い。
しかし、この声を聞いてユールの全身からさっと血が引いた。
「クーリー!?」
ユールは反射的にそう叫んでいた。彼女の渾身の一撃をもらったクーリーと思しき人物は、
「うぅ、痛い……痴漢だとかとか勘違いしたんじゃないよね?」
確かに顎をさすっているクーリーだった。
ユールはすぐに頭を下げつつ謝罪の言葉を述べ、
クーリーは仕方がない、と答えて彼女を許した。
それから二人は、一旦数十分だけ間を置いてから次の電車に乗る事に決めた。
駅前でこれだけの混みようだ。圧死者がでてもおかしくはない。
それがどれだけ確率が低いものとしても、可能性があるならば避けよう。
二人は話し合った末にそこへ行き着き、
そして「サイ」で時間を潰すことにしたのだった。
表にはあれだけ人がいるというのに、サイの店内は人が殆どいなかった。
この時代としては珍しい木造建築物で、大体のものが木で出来ている。
醸し出す雰囲気は古き良き時代の喫茶店と言った所だ。
閑古鳥が鳴いている喫茶店としてとして有名なスポットなのだが、
まさかこんな時にも閑古鳥が鳴いているとはユールは思いもよらなかっただろう。
なにはともあれ、二人は出入り口を開けるとカランコロンとなる鈴の音を聞きながら
カウンター席に座り、年配のマスターにオーダーした。
「僕は…今日のおすすめのコーヒーで。ユールは?」
「私は、そうね………私も今日のおすすめで」
マスターはそれを聞いて静かに小さく頭を動かし、
承認の意を表してから奥へと消えていった。
二人が店内で話をしながら注文したものを待っていると、
何か変な色の液体が、恐らくは何かの飲み物なのだろうがあまり口をつけたくない色をした
それが入っているグラスが二人に渡された。
まずクーリーが一口飲み、意外に美味い事を言うとユールも口をつけた。
しかし彼女は無言でクーリーに自分のグラスを渡した。
それからマスターに手を合わせて頭を深々と下げ、マスターはやっぱりといった表情を見せた。
それから一分程度が過ぎたあたりの事だ。
二人の後ろでカランコロンと出入り口の戸が開くと同時に鈴が鳴った。
(余談だが、この時代において、戸に鈴をつけるというのは古い風習だった)
クーリーが後ろを振り返ると、彼の浮かべる表情は笑みへと変わっていった。
「よぅ、アルベルトにアリス。君たちもカーニバルへ行くのかい?」
ユールも後ろを振り返り、そして出入り口の前で立っている二人の人間を見た。
一人は赤いコートを、もう一人は生地の厚い赤いワンピースを着ていた。
「あぁ、そのつもりだったんだが…」
「表はあれだけ人がいたでしょ?だから時間を置こうと思ったんだ。
あ、ユーじゃん。ユーもカーニバルに行くの?」
一人は背の高い少年。もう一人は背の低い少女。
だが、二人は長さに違いこそはあるものの、茶色の髪を持ち、そして同じ顔をしていた。
「そうだよアリス。クーリーと一緒に行くんだ」
ユールは背の低い茶髪の少女をアリスと呼んだ。
すると、アリスと同じ色の髪を持ち、同じ顔を持った少年が、
アリスとは一卵性双生児の弟にあたるアルベルトがユールに言った。
「クーリーと一緒か。よかったなクーリー。こんな美人ちゃんと一緒になれて」
ユールの事を「美人ちゃん」と呼んだアルベルトはクーリーの隣に座り、
クーリーとユールのコーヒーを出してきたマスターに
「ブラック。とことん苦いやつ。姉貴にはオレンジジュースを」
とだけ注文を述べた。
マスターはまた小さく頭を下げ、奥へと引っ込んでいった。
「カーニバル、楽しみだよね」
出し抜けにアリスがユールに言った。
「え?うん、そうだね」
「だよね。ユーは何の音ゲーやってたんだっけ?」
「一通りはやってたかな。一番得意なものとかも無いけど。
アリスは弟さんと一緒にギタフリだったっけ?」
「うん。アルがベースで私がオープン。
いやぁ、今から何があるのか楽しみでしょうがないわ」
アリスはそう言って会話を断ち、そして両手を組んで伸びをした。
その時、マスターがブラックコーヒーとオレンジジュースを持って奥から出てきた。
彼はまずアルベルトに、そしてアリスに注文されたものを渡し、そして、
「皆はカーニバルへ行かれるのかな?」
不意にマスターは四人の客にそう尋ねた。四人は一斉に顔を上げ、マスターの顔を見ながら頷いた。
391 :
旅人:2009/04/29(水) 00:21:55 ID:iHNRvRFF0
いかがでしたでしょうか?これにて今日の投下は終了です。
今回で登場人物の半数程度は登場しました。
次回もよろしくお願いします。それではおやすみなさい。
そう言えば、そろそろ次スレを立てる時期だと思うのですが
そこのところはどうしましょう?
日本ぽくない場所での音ゲ話ね
斬新ではあるな
期待
新スレは明日辺り立ててみます。
投下する人が少ない分、立てるタイミングを間違えると即DAT行きしそうなので…
今さっき新スレを立ててみました。
無事に新スレが立てられたので、一応報告しておきます。
とりあえずこっちはどうする?
埋めるか?
まだまとめられていない作品があるし、保守しておく。
ついでに一旦age
保守
こちらの投下作品の保管は完了致しました。
Wikiの更新が遅くなり、申し訳ありませんでした。