1 :
爆音で名前が聞こえません :
2008/05/18(日) 21:22:23 ID:ozlkSUXm0
3nd
4 :
爆音で名前が聞こえません :2008/05/18(日) 22:06:15 ID:TX8puX8cO
素で間違えてしまったorz
復活乙
サンド
保守
保守!
そして
>>1 乙!
このスレ復活してくれないものかと思っていたんですよ!
本当に、
>>1 ありがとう!六月中に何か書いて投下してみますよ!
9 :
がう :2008/05/21(水) 16:35:29 ID:w0V2HgLHO
保守ついでにあげ
10 :
爆音で名前が聞こえません :2008/05/21(水) 23:49:54 ID:UeK81kRpO
保守
11 :
爆音で名前が聞こえません :2008/05/22(木) 13:58:50 ID:2kc3vIgtO
ほっしゅ 作者はこのスレ復活に気付いてるのかな?
12 :
爆音で名前が聞こえません :2008/05/22(木) 20:07:18 ID:RXlC+jOmO
まとめを編集すれば気付くかもしれませんね でもパソコンと編集能力がないorz
ホイ、イッタァ〜wwwwwwwwwwwwwwwww
14 :
爆音で名前が聞こえません :2008/05/24(土) 20:23:20 ID:Kb5bJ/y7O
ほしゅ 俺も今書き留めちぅ…少し時間をくれ
スレを守りながらwktkしてます!
保守
17 :
爆音で名前が聞こえません :2008/05/27(火) 12:03:36 ID:m4uYYsnQO
保守age
★
19 :
爆音で名前が聞こえません :2008/05/31(土) 02:55:54 ID:BubG1kZhO
☆
保守
21 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/03(火) 06:56:41 ID:nF3ykxgFO
保守 にしても全然こないな
お、復活してますな。 まとめのスレURLを更新しておきます。
24 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/04(水) 12:07:14 ID:ddZ6+AV0O
25 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/04(水) 12:09:02 ID:ddZ6+AV0O
ブーン達を動かす方がやりやすい自分は、間違いなく二次創作のやりすぎ。 というか、こういう特殊な小説・SS作成スレだと、別な意味でオリジナルキャラを動かすのが難しいというか。 せっかく復活したし、久しぶりに自分も何か作ってみようかなあ…
少しチラ裏な発言で申し訳ありません、前スレまで旅人と名乗っていた者です。 このスレが復活したのは本当に嬉しいのですが、個人的に残念に思う事があります。 自分が前スレまでで書いていた話と、前スレで書いていた話の続きを消してしまったのです… (このスレ復活しないだろうと思っていて…申し訳ない) まとめサイト(更新乙です。本当にありがとうございます)で話を確認しながら続きを新しく書こうと思うのですが その前に半ば構想は練ってある話を今月中に投下したいと思っています。 前スレの中途半端な話も後々完成させていきたいと思います。そういうわけでよろしくお願いします。 (やっぱりチラ裏っぽい内容になってしまいました。申し訳ない)
>27 頑張れw
29 :
がう :2008/06/07(土) 00:15:24 ID:UWhR+OTEO
本当に申し訳ないのですがGuitar(ry の製作を断念しようと思います。理由としては読み返して小説の内容があまりにgdgdだった点,文法上のルールが全然なってない点の2つに尽きます。 書き逃げすること自体読者を裏切る形になってしまいますが,失敗作を続けて書くわけにもいきません。そこで新しい小説を書き直したいと思います。今月中をめどにします。 本当に申し訳ありません
>>27 スレを立てたのが遅くてすみませんorz
新しい作品を期待します!
>>29 いままでの経験を生かして新しい作品頑張ってください♪
31 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/10(火) 12:05:20 ID:2huPm4/UO
保守age
32 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/14(土) 09:19:46 ID:aj0GhQixO
保守 人が来ない(^-^;
ある意味仕方がないかもなあ。 初代スレのようなタイトル(ブーン系)に戻せば、それなりに人は来るかもしれないけど… そういえば今の形にスレタイが変わった時にも、何故変えたんだと一悶着あったな。
34 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/16(月) 01:20:49 ID:N1FuEZfoO
( ^ω^)呼んだかお?
35 :
旅人 :2008/06/18(水) 23:46:19 ID:4CWGcPOn0
今晩は、旅人です。
今回投下させていただきますのは短編のお話でございます。全部で四レス分です。
ネタになる音ゲーはドラムマニアでございます。
ネタになる楽曲は…自分がとっても大好きな楽曲でございます。
オチは…正直言ってつまらないです。あと、俺もお話の中で出てきます。
あまり期待なさらずに読んでいただけると幸いです。ではどうぞ…
>>33 一悶着があったんですか?スレタイで内容を判断する人って
多いんでしょうかね…見当違いな事を言っていたらすみません
36 :
旅人 :2008/06/18(水) 23:48:49 ID:4CWGcPOn0
「畜生、また負けちまったか…」 一人の青年がイスに座りながら残念そうに呟いた。 両手には黒い棒が握られている。一見するところ、ドラム用のスティックのようである。 畜生!と青年は言って左足を踏み下ろした。同時に、ドンという大きな音も響く。 イスに座る彼の後ろにあるベンチに座る人々が、またコイツかよというような顔を見せる。 時は2008年4月13日。ちなみに日曜日である。場所はとあるゲーセン。 そこで、一日の物語が幕を開けた。殆どの者には価値は無いが、僅かな者には無限の価値のある… そんな物語が苛立つ青年を主人公にして始まっている。 青年は半年ほど前からあるゲームを始めた。きっかけは、彼の友人の勧めである。 ドラムマニア。そのゲームはそういうタイトルを持っており、今は14作目となるV4が稼動している。 彼がそのゲーム―ドラマニという略称を持つ―を始めたのも、V4が稼動した数ヶ月後である。 友人がドラマニをプレーしているのを初めて見た時、青年は思った。 「こんなドラムを模したゲーム、何が面白いんだろう」 「あの赤いカードを使わないと遊べないんだろうか」 「っていうかやっている奴、殆どがオタクのような格好じゃねーか」 と、あまり良い印象は抱いていなかったが、青年の番になって彼が付属のスティックを使って ビギナーモードをやった時、彼の頭の中で何かがはじけていくのが感じた。 「快感もしくは快楽」…そんな類の感情が彼の頭を駆け巡っていく。 楽器としてのドラムの面倒臭い所を(ハイハットにペダルが無かったり等)極力排除した そのゲームは、彼を毎週日曜日にゲームセンターに通わせるだけの魅力を放っていた。 それから半年が経った。青年は楽器屋で自分のスティックなんかも買ったりして 友人が半年前に連れてきたゲーセンに毎週日曜日に行っていた。 友人も同じ位のペースでそのゲーセンに行き、青年と共に遊んでいた。 青年の友人はドラマニの他にギタフリと略されるゲームを愛好している。 三つのネックボタンにピッキングレバーを付けた、ギターを模したコントローラーを用いて プレーするゲームである。15作目となるV4が青年のホームとしているゲーセンでは 二台のドラマニの隣で二台稼動している。物語上どうでもいい事ではあるが、一応補足として付け足した。 青年のスキルポイントが(プレイヤーの実力をある程度指し示すもの。曲の成績によりそれが加算され、 数字となって現れる。スキル対象となる曲数は新曲と旧曲とロング曲で違う。 作者はその事情が分からない為そこには突っ込まないでおく。又、このスキルポイントは 先述の赤いカード、e-amusement passを使ってプレーしないと表示されない。以下SPと表記する) 300を越えたあたりから、青年と友人はセッションプレーを楽しむようになった。 しかし、青年はドラマニの遊び方としてセッション以外の楽しみ方を知った。
37 :
旅人 :2008/06/18(水) 23:50:38 ID:4CWGcPOn0
バトルモード。これが青年の新しく見つけ出した(といえば少し大げさか)楽しみ方である。 ランクはD台をうろうろしているだけであったが、それでも彼は楽しみを見出していた。 顔も名前も(名前は本名ではないにしろ分かってはいるが)知らない奴と同じ時間にドラマニを遊んで そして対戦する。どことなく不思議な感じがしたが、青年にとってそれは愉快に感じられた。 そのうち、青年のSPは500を超えた。青年はもうここまで来たのだからいい加減次のクラスに進みたいと 考えていた。が、本番前によくあがってしまう人であった青年は一進一退の戦績を残し続けていた… さらに、青年は一回勝って二階負けるくらいのペースの戦績を残している。 これは人より少しだけプライドの高い青年にとって辛い事であった… そして、この物語が始まる日。その日青年はとうとう抑えられない気持ちを爆発させてしまった。 冒頭で青年が負けてしまってから、青年の次の順番が回ってきた。 バトルモードで当たった相手はSP412.6位のプレイヤーだった。青年の顔がにやける。 コイツが相手なら絶対に勝てる。絶対に… 青年が選んだ曲はDragon Blade緑。相手が選んだのはmurmur twins(guiter pop ver.)緑であった。 選曲した曲のlvで考えれば青年が選んだ曲のほうが格上である。 それに青年は一進一退を繰り返しているとはいえ、その中でDragon Bladeは常にランクSを 取れるようになっていたのである。だから、青年はその相手に負けるはずが無いと思っていた… 先にDragon Bladeが流れる。先攻は青年が取ったということだ… ここでペースを掴み、次に来るマーマーナンチャラナントカver.とかいう曲で一気に引き離す。 青年はそう考えていた。相手とのSP差は100近くあるのだ、この考えが外れるはずはない… 現実というものは誰にとっても不幸なものである。 不幸であり、認めたくないものこそが、現実と言われるものである。 青年は自分が絶対の自信を持って選曲したDragon Bladeで 自分より格下の相手とスコアの差で並んでいる事は信じられないものであった。 そして、青年にとって絶対に認めたくない事実でもあった… その後、ミスらしいミスもせずに青年は対戦相手に一万点差をつけて初戦を勝利した。 いつもの彼なら喜んでいるのだが、その顔には余裕が無かった… 後ろのベンチで座って自分の順番を待つドラマニプレーヤーの一人は思った。 「この青年は必ず負ける。そして、その負け方に憤怒して人としてみっともない真似をしてしまうだろう。 そんな事は絶対にさせない。僕達の迷惑になりそうだって事が最初から分かっているなら… 分かっているなら、今のうちに店員さんをスタンバイさせておこう。 僕は常連だし、少しくらいなら融通を利かせてくれるかもしれないし…」
38 :
旅人 :2008/06/18(水) 23:52:53 ID:4CWGcPOn0
ここで一旦、murmur twinsという曲について作者なりの説明をしたいと思う。 この曲は皆さんご存知のwacさんと常盤ゆうさんによってIIDXの8th style新曲として作られた。 ムービーはkaeruという名義でshioさんが作成。 とても可愛らしい男女の小さな双子のキャラクターをデザインして、作者の心をグッと引き寄せた。 cuddle coreというジャンル名を付けられたこの曲は、作者がBEMANIシリーズの 全楽曲の中で一番だと思っている程に素晴らしい…作者はそう思ってやまない。 wacさんの作る素敵な曲。常盤さんの素敵な歌声。kaeruさんのデザインした可愛らしい双子。 この三つがあってこそのmurmur twinsであり、どれか一つでも欠けていたらそれはもうそれではない。 pop'nにもguiter pop ver.としてアレンジされて、pop'n10に移植された。 (原曲、というかIIDXver.はEX譜面でプレーできる…って皆知っているよね) そしてギタドラV4にもこのguiter pop ver.の形で移植された。 作者はこれを知って、幸せすぎて死ぬかもしれないと思ったほどである。 また、DDRにもIIDXver.で収録されている。しかし作者のホームにはDDRはない。とても残念に思う… 本編の続きで、青年は後攻の対戦相手の選んだ曲、murmur twins(guiter pop ver.)緑をプレーしていた。 相手はコンボ重視でこの曲を選曲してきたが、青年はこの程度なら軽くフルコン出来ると思っていた。 「Who are you〜」という出だしで始まる(作者にはそう聞こえる)サビの部分も殆どperfectの表示を 出して抜けていく。曲も終わりに近づき、ギターの「ジャーララジャラララ〜ン…ギュオーン」な感じの 音が聞こえて、青年はスティックを握った両手を降ろした。 多分、この話を読んでくれている人ならば知っていると思う。 実はギタドラ版murmur twins(guiter pop ver.)にはpop'n版のそれには無い部分がある。 上述の「ジャーララジャラララ〜ン…ギュオーン」というギターの音の後に少し追加部分があるのだ。 ギタフリでこの曲をやったならば、プレイヤーは「あ、このドラム音追加されていたんだな」で終わる。 しかし、ドラマニでこの曲をやったならば「え?今、ハイタム×2とロータムのバーが落ちてきた…?」 と思うはずだ。作者は所見でプレーしたとき思わず「え、何これ!?」と叫んでしまった事を覚えている。 あの時の作者は青年と同じように作者は両腕を降ろしていたのだ、対処できる訳が無かった… 「畜生!…チっくしょおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」 青年は叫んだ。僅か3ノートで勝敗が決してしまったのだ。 色んな感情が渦巻く頭の中で、何故相手がコンボ重視でこの曲を選曲したか…その理由が分かった。 敢えてのV4新曲で、譜面構成上変な理由でフルコンさせない為である。対戦相手はこの曲の最後の この譜面構成を知っていた。V4新曲だから知っている人も多いとは思っていたが、まさか知らない プレーヤーがいるとは思わなかっただろう…
39 :
旅人 :2008/06/18(水) 23:56:03 ID:4CWGcPOn0
少し古めかしいながらも清潔感を保つそれは色んな人が集まる要因だった。 そのゲームコーナーには、IIDXが一台、pop'nが二台、ギタフリが一台、ドラマニが一台ある。 青年が行っていたゲームセンターとは規模は小さいが、地元の音ゲーマーからは 中々の両メンテで1プレー100円という良好な遊び場として知られている。 一人の少年がドラマニをプレーしていた。バトルモードで遊んでいて、 画面の表示から彼のSPは412.6、対戦相手のSPは524.3というのが分かる。 少年の後ろのベンチに座る常連達の内の一人が、少年に向かって言った。 「どうだい『旅人』さん、相手とのSPは100近い差があるけど?」 旅人、と呼ばれた少年が選曲画面でmurmur twins(guiter pop ver.)緑を選曲、 コンボ重視にしながら問いかけをした常連の一人に答えた。 「勝てるとは思っていないけど…SPなんてあんまりアテにならない。 そう言ってくれたのはアナタだと思ったのですが?」 「あぁ、そう言った事もあったっけ。でも、相手はドラブレ緑だぜ? あんまり大した事ないんじゃないのか?」 「選曲で人の実力を判断しちゃ、その時点で負けると思いますよ。 アレ、結構色んな難所があると思いますし…そこでミスってくれる事を期待しているんじゃないでしょうか?」 「案外、この相手倒せそうかもしれませんね」 「何言ってんだよ旅人さんよ。アンタ一万点も差をつけられてんだぜ?」 「murmur twinsなら、このゲームコーナーにある全部の音ゲーで遊びましたよ。 IIDXはハイパーでdj levelA、ギタドラで緑黄色S、ポップンEXで超チャレ七万以上… それに、ドラマニ特有の最後のオチ…あれだってバッチリおさえてます」 「弱かったですね、この相手」 「だろ?やっぱりSPなんてアテにならないでしょ?」 「V4新曲なのに最後のオチを知らないってのは、少々残念なのですが」 「あぁ…旅人さんはこのゲームコーナーで一番murmur twinsが好きな音ゲープレーヤーだからな、 この曲を知ってくれていないってのは、やっぱり残念に思うのか?」 「えぇ。やっぱり残念に思います。ってか早くCSV4出ないかな〜 murmur twinsの他にも黄金岬とか極東史記とか家でいっぱいやりたいんですよ…」 所を戻して。青年が負けてから。 青年はSP差が100近く「も」あった相手に謀られた事に怒り、狂ったように喚き、 そしてスタンバイしていた店員によって通報され、お縄となってしまったとさ。ちゃんちゃん。
40 :
旅人 :2008/06/19(木) 00:00:05 ID:4CWGcPOn0
本作品「あるゲーセンでの出来事」はいかがでしたでしょうか。 途中に出てきた自分なりの解釈を踏まえた楽曲紹介ですが、 あれ、前々から作品の中でやってみたいと思っていたんですよね… でも「あんなのいらない」「雰囲気ぶち壊してる」とかそういう意見があれば やんわりと言ってください。最近、やたら心情面がデリケートになっているので… (実は細かい描写とかギタドラのバトルでの常識なんてあまり知らないんです コンボ重視でも3ノートで逆転できる何てあり得るのでしょうか? ってかそもそもギタドラではノーツなんて言い方しないでしょうし…何て言い方だっけ) 次はいつ書いて、いつ投下出来るか分かりませんが… また、ここに投下出来る日まで!See you next time!って事で! あと、ギタドラV5の稼動…本当におめでとうございます!次の日曜日には遊ばせて頂きます!
41 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/19(木) 12:26:35 ID:Kpsxz7OXO
>旅人さん コンボが切れたところは何処でしょうか? ドラマニのマーマーにそんな違いがあるとは知らなかったので(^-^; 中盤なら3ノーツどころか1ノーツ見落としたら逆転されますよ〜 でも最後だとさすがのコンボ重視も無理です
>>41 IDは同じなので分かるでしょうが、旅人です
コンボを切ってしまった所は何処?という問いですが…
青年は最後の3ノーツ以外は全部繋いでいます。旅人はフルコンしてます。
そしてこの作品で、実際のバトルではあり得ない事を表現してしまったようですが、
これはフィクションであるという前提で俺はいつも書いているので、あまり追求しないでください…
でも、これからはそういった描写があまり無いように努力していくつもりです。
蛇足ですが、先程CSポプ10を引っ張り出してmurmur twins(guiter pop ver.)をプレー、検証しました。
ポップンとギタドラに同曲の相違点があることを確認しました。
ギタドラ版の同曲のムービーでは、最後のシーンで双子の間に猫のドラマーがいたような気がします。
こういう曲とムービーとの繋がりって結構面白いなぁと思います。
乙 ギタドラV4バトルはフルコンしてもボーナスはいるからね でも最後の3ノーツだけで1万の差は縮められないような
44 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/22(日) 19:38:41 ID:pLIosj/jO
保守あげ
45 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/25(水) 12:20:39 ID:ChLJgm9bO
保守age
46 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/25(水) 18:24:26 ID:+nGLNNnBO
ここってやる夫系あり?
48 :
爆音で名前が聞こえません :2008/06/29(日) 19:15:02 ID:Q7R/JHFFO
保守あげ
更に保守。 それにしても職人が少ないなあ…
vipに小説の書き方とかについてのブーン小説があるけど,それを載せるのはまずい?
>>50 そのブーン小説かそれのまとめサイトのURLなんかを載せるのはいいかもしれないけど
その小説を丸々コピペして載せるのはマズイかと思う。
法律とかそういうのをそんなの全然知らない一個人の発言だけど…
ところで
>>49 を見て思ったんだけど、
今のところどれだけの人が職人って言うか書き手としてこのスレで活躍しているかな?
このスレのまとめサイトを拝見させていただいたのだけれど、そこで名前が載っている
人以外にも誰かいたりしたことってあるのかな?変な質問だけど誰か答えてくれ
52 :
50 :2008/07/04(金) 17:09:37 ID:5Xruy/8jO
53 :
51 :2008/07/04(金) 21:21:57 ID:NIW67zoR0
>>52 URLを貼るだけならいいんじゃないかな。
実は
>>50 の発言をヒントにキーワードを組んでググってみて、色んな読み物を読んでみたけど
どれが52が言った物かどうかが分からない。多分これかなってのはあるんだけど…
だから、52の言うその小説が見たいってのもあるからOK、という気持ちも俺自身にあるんだ。
あと、
>>49 をみて思ったんだけど〜から始まる質問ですが、あれは無かった事にしてください。
日本語でおkな文だし、書き手の総数なんてまとめサイト見れば分かるし…
あの質問は無駄な質問だったという事でした。どうもすみませんでした
54 :
2-387 :2008/07/07(月) 04:07:56 ID:9exUVRNU0
久しぶりに書き込んでみたり。 今日は七夕ですな。 これに引っ掛けて話を作れないかなと思っていたけど、思い浮かばないものですね… その前に、一日で書ききれるかが問題という… ちょこちょこ覗いてはいるんですが、書き手が少なくなっちゃいましたねえ。 やはり物語に音ゲーの要素を絡めて書く、というのが難しいんでしょうかね… 昔あったプレー指南ものとかでも増えないかな…と思っていたりするんですが。 そういえば、SSを書いたのってここが初めてだったんですよね… 何となく書きたくなって投下したあの頃が懐かしいですな。
55 :
旅人 :2008/07/08(火) 00:08:31 ID:D/F41bL00
>>54 俺も、たまに一年位前に初めて投稿した頃を思い出して懐かしいなとか思う事ってありますよ。
書き手さんが少なくなった理由で、物語に音ゲーを絡めるのが難しいのは同意です。
初めて投下していた時、本当にこれで音ゲー絡ませて物語を終わらせられるのかと不安でした。
7月7日は七夕ですが、俺は来月の7日が七夕なんです。
つまり、北海道の人間だって事が言いたいんですよ。北海道以外にも8月7日が七夕の所もあるのでしょうが…
前にサスペンスっぽい話を書いた時に、「北見市」という北海道の市を答えにもつ問題を出したと思うのですが、
その時から分かる人には分かっていたと思うのですが、俺は北海道出身の人なんです。
そんな事を言いたいんじゃなくて、いや、それも関係するのですが…
2-387氏に感化されて、俺は8月7日に七夕関係の話を投下したいなと思ったんです。
あとそれと「ど田舎ゲーセンの怪」も、7月中に投下するぞという宣言もしに書かせてもらいました。
最後に、個人として思う事が一つ…
もっと多くの人に沢山の話を書いてもらって、沢山それを読みたいって思うんです。
2-387氏の言うように、プレー指南ものも読みたいな…って思うので、少しでも何か書いてみたいって思ったら
どんなに時間がかかってもいいから、何か書いて欲しいんです。
そろそろ時間も時間なので、おやすみなさい。
56 :
爆音で名前が聞こえません :2008/07/09(水) 12:13:07 ID:XrHb/uh7O
>>55 プレイ指南系は難しいのですよね(^-^;
正しい知識を持っていなければ、読者が勘違いしてしまいますし
「プロゲーマー.0」(プロゲーマ-.レイ) トクトクと高鳴る心臓。 鍵盤に置いた指先が微かに震える。喉が渇く。 緊張しているのが自分でも分かった。 「落ち着いて」 一つだけ大きく深呼吸。 と同時に閉じていた目をゆっくりと開き、画面を注視する。 BURRN!BURRN! 14時ちょうどに打ち上げられた花火が仕合開始のGONGを鳴らした。 そう、“第1回 beatnation world GRANDPRIX AD2010”が始まったのだ。
で?
こんなスレあったんだ。 俺もなんか書いてみていい?
>>59 そんなの、OKに決まってますよ。
あなたの作品、とても楽しみに待たせてもらいますね
ここは特定の人間が投下し続ける、という場所ではないですからね。 アイデアが湧き、書いてみたので投下してみる、が基本の場所ですし。 それに、ここは基本コテ無しが投下するスレッドですからね。 現在いる作者は大体コテ付きですけど、後から第三者に「識別の為」付けられた(2-387氏等)人も多いし。 気軽に参加してくれれば、スレとしては良い事だと思うなあ。
62 :
59 :2008/07/12(土) 21:47:18 ID:mmBAawff0
歓迎ありがとです。 どんなの書こうかな〜
63 :
爆音で名前が聞こえません :2008/07/13(日) 10:27:21 ID:uI9zLl+uO
おや何か盛り上がってる。 このスレ人が少ないイメージがしたから書いてもなぁと躊躇っていたがこの流れなら言える…書いてみるか。
ある程度構想がまとまったので、早速執筆開始させていただきます。
一応識別のためにコテとトリップつけさせてもらいますね。
それじゃよろしく〜。
>>64 お、一緒に頑張りましょー。
電話が鳴った。 「はい、毎度お世話になっております! アミューズメント・シルバーでございます」 「こんにちは。店長の神崎誠一さんですね」 神崎誠一は二つの理由で眉間に皺を寄せた。 一つは、突然電話口から自分のフルネームを呼ばれたこと。 二つは、その声が明らかに人間の自然な肉声ではない、 甲高く機械的な音質だったこと。 ちょうどワイドショーのモザイク人間が喋る声色だ。 「そうですが……どちら様でしょうか?」 「あなたの経営するゲームセンターは素晴らしい。 顧客のニーズを常に取り入れ、最大限のサービスを提供する。 口で言うのは簡単ですが、同業者がそうそう真似できるものではありません」 「……?……えぇ、ありがとうございます。あの、それで、本日はどういった……」 こちらの問いかけを丸で無視し、 男か女かさえ分からない電話の主は棒読み調子で続けた。 「その努力の甲斐があって、貴方のゲームセンターは この盛岡市で最大の集客力を誇っていると言えます。 しかし、貴方はそれが社会に与える影響というものを考えたことがおありですか?」 神崎は相手の意図を読み取れず、ただ無言になるしかなかった。 だが、受話器の向こう側から悪意が伝わって来ることははっきりと感じ取れた。 「ゲームに熱中する余り、社会的生産性を持たない人間が急増しています。 例え改心して勉強や仕事をしようにも、ゲームばかりやっていた皆さんは 脳みそがスポンジ状態になっておりますので、もちろん何もできやしません。 つまり彼らの存在価値は生ゴミと一緒というわけです。 いえ、むしろ無駄に食料や酸素を消費する分だけ生ゴミよりたちが悪いです。 分かりやすく申し上げますと、彼らは喋るうんこ製造マシーンといったところでしょう。 そう思いませんか?」
例えイタズラだとしても、神崎にとって大事なお客様であるゲーマーに対して 口汚い罵倒を吐かれるのは我慢がならなかった。 しかし神崎は怒りを抑え、あくまで冷静に対処しようとした。 「どういったご用件でしょうか?イタズラでしたらこのまま通報させていただきますよ?」 「貴方のゲームセンターは上級ゲーマーが集まる場所ですから、 言い換えれば犯罪者予備軍の溜まり場なのです。 そんな場所へ未来ある若者を誘い込み、 彼らの人生を台無しにした貴方は社会のガン細胞です。 当然自分の犯した罪を償っていただく必要があります」 感情的にならずにいられたのも束の間、 神崎は店のカウンターを力の限り叩きつけながら 「ふざけんじゃねぇぞ!!!」と怒鳴った。 「落ち着いて下さい。 ほら、音楽ゲームをやっているお客さんがびっくりして見てますよ?」 反射的に神崎が顔を上げると、 ギターフリークスをプレイしていた青年が手を止め、目を丸くしてこちらを見ていた。 途中まで繋がっていたであろうコンボが途切れ、JET WORLDの背景音だけがむなしく響く。 神崎と目が合うや否や、青年はそそくさと視線を逸らしてギターの演奏に戻った。 怒りで赤くなった神崎の顔が、徐々に青ざめる。 見張られている。 慌てて店内をぐるりと見渡したが、近くに怪しい人間はいない。 「無駄です。私は貴方から見えない場所にいます。 私から貴方の姿は丸見えですけどね」 「誰だ?何なんだ?どこにいる?」 神崎は息を荒げた。 「貴方には罪を償っていただきます」 「だからどうすりゃいいんだよ!?」 「今から一時間以内に一億円を用意して下さい。 もし用意できなければ、貴方と貴方のご家族にとても不幸な出来事が起きるとお考え下さい」 「いちおく……っ……」
一本の電話が神崎に非日常の始まりを告げた。 ―― しかしこれは、これから起こる凄惨で不可解な殺人事件の序章に過ぎなかった ―― 〜〜〜 ト ッ プ ラ ン カ ー 殺 人 事 件 〜〜〜 presented by とまと to be continued! ⇒
…投下終了したのかな? とりあえず、御疲れ様でした。 ただ、一箇所気になったのですが >分かりやすく申し上げますと、彼らは喋るうんこ製造マシーンといったところでしょう。 ちと表現が別の意味で汚いというか… せめて「汚物」等の表現の方が良かったと思いますね。 何はともあれ、続きを期待しております。
しるばああああ
と、今回はここまで。
まぁこんな感じで本格ミステリ的な雰囲気を持ちつつ
ちょっとずつ連載していきたいと思います。
楽しんでいただければ幸いです。
んでは。
>>69 ご意見ありがとうございます。
確かに、これが「地の文」であればごもっともなのですが、
ここは登場人物のセリフですので、またもう少し違う解釈をしていただければと…
と、これ以上書いてしまうと本編に影響出てしまうので、退散しますw
とまと氏乙 社会のクズかぁ… 悪兎っぽいぞこれ
お久しぶりな臨時まとめWikiの中の人です。 しばらく忙しくて動けませんでしたが、ここまでの投稿作品を保管しました。 ところで、各エピソードのページに感想(コメント)欄を付けようかなと思っています。 今のままだと単なる保管庫なので、感想を書けるようにしても良いかなと思いまして。 もちろん設置後に荒れたりしたら、該当コメントを削除もしくはコメント欄自体を撤収しますが…どうでしょうか。
>>73 更新乙です。
コメント欄の事ですが、俺は良い案だと思います。
考えたくも無いですが、もしも荒れたとして、まとめさんの言うとおり
該当コメントの削除とかコメント欄の撤収をして頂いたらそれで済むと思うので。
俺は、まとめさんのコメント欄設置賛成に一票です。
こんちは。「トップランカー殺人事件」続きです。 今回から名前の横にインデックスをつけて 第何回目なのかわかりやすいようにしてみます。 前回は3レス使ったので、今回は(4)から始めます。
「お前、何か勘違いしてるんじゃないか? こんな地方都市の小さなゲーム屋が一億なんて出せるわけないだろう!?」 「そうですか。それはすなわち、祐介君が可愛くないという意味ですね」 「ゆ……っ…」 祐介。 その名前が出た瞬間、神崎の心拍数は跳ね上がった。 「神崎祐介君。10歳。小学5年生。 父親の仕事の影響か、それとも単に今時の子供なのか、ゲーム大好き。 得意科目は算数。今日の服装は……緑のTシャツにジーンズ」 緑のTシャツにジーンズ。 今朝元気に小学校へ向かった息子の服装にピタリと一致した。 「祐介!お前、祐介に何をしたあぁぁ!!!」 「まだ何もしてませんよ。 ただ貴方が罪を償っていただけないと言うのであれば、 祐介君の命をもって償っていただくだけのお話です」 神崎は三半規管から平衡感覚が失われたかのような目まいを覚えた。 「頼む、何でもするから、頼む!祐介にだけは手を出さないでくれ!!!」 「それでは、一億円をご用意下さい。 一時間後にまた電話します」 そう言い残し、モザイク人間はあっさり電話を切った。 ツー、ツーという発信音と店内の喧騒、そして自らの鼓動による不協和音を聞きながら、 神崎は呆然と立ち尽くす他なかった。 どうしても分からない。 モザイク人間の理不尽な糾弾も納得できないし、 なぜ自分が一億円をゆすられているのかも理解できない。 人から恨みを買うような行動を取れるほどの度胸もなければ、 金目当てで接触されるほどの財産もないはずだった。 本当に一億円が欲しければ、向かいにそびえる立派なビルのオーナーを脅した方がよっぽど成功率が高い。 駄目だ。 あれこれ考えていても始まらないことに気付き、まず神崎は祐介の通う小学校へ電話した。 「もしもし、盛岡第三小学校です」 事務員らしき女性が、腹立たしいほど明るい声で電話の応対をする。 「あの、すみません、あの、5年2組の神埼祐介の父親ですが、 あの、祐介に急ぎで連絡がありまして、すぐに電話に出して下さい」 気が動転して上手くろれつを回せなかったが、 かえって事態の緊急性が相手に伝わったらしく、事務員は素早い対応をしてくれた。 「お待たせしました。 ただ今確認しましたが、祐介君は風邪のため休んでおります。 今朝保護者の方から連絡があったそうですが……?」 事務員の訝しげな語調を聞いた神崎は、 説明するのが面倒になり無言で電話を切った。
一縷の望みであった「イタズラ」の線がこれで完全に消えた。 今、祐介は何者かに誘拐されている。 警察に通報するという選択肢が浮かんだが、すぐに消えた。 モザイク人間は神崎を監視している。 下手な行動を打てば、祐介に危害が及ぶ可能性がある。 ならば、もう残された選択肢は一つしかない。 そこからの神崎の行動は速かった。 業務委託をしている会計士事務所、 融資を受けている銀行、 信頼できる取引先、 信頼できる友人、 両親と、 次から次へと電話をかけていった。 無駄な説明に時間を割くことは一切せず、 「自分は今いくら持っているか」と 「自分は今いくら借りられるか」を愚直に聞いて回った。 神崎個人の資産は一億円に遥か遠く、 一桁少ない金額にさえ届くかどうか怪しい状態であった。 そのため、神崎は自身が経営する法人「アミューズメント・シルバー」の運営資金や 施設を担保とした借入金をも視野に入れ、身代金の資金繰りに奔走した。 神崎の日頃の誠実さと熱心な懇願が実を結び、 想定よりも多くの金額を用意できそうだったが、 それでも一億という数字に及ばせることは不可能であった。 時間は残酷に過ぎていき、やがて一時間が経過した。 神埼にとっては15分程度のひどく短い時間に感じられた。 そして、電話が鳴った。 「もしもし、アミューズメント・シルバーです」 「ご無沙汰しております。一億円下さい」 モザイク人間の忌まわしい声が頭蓋に響く。
「頑張ったんだが無理だ、一時間で一億なんてとても用意できない。 だが、あと一日もらえれば必ず用意する。頼む、あと一日待ってくれ!」 「さすが社会のガン細胞は言うことが違いますね。 どれくらい頭が腐ってると一時間が一日になるんですか。 一時間が一日って言ったら24倍ですよ。 そんなの了承できるはずありません」 「しかし、無いものは無いんだ。どう足掻いても無いんだよぉぉぉ!!!」 「分かりました。祐介君にお別れの言葉をどうぞ」 「祐介には手を出すな、お願いだ、祐介だけは助けてくれぇぇぇ……」 神崎は半泣き状態で嘆願の声を絞り出す。 「一億も出せない、祐介君にも手を出すな、ですか。 貴方、本当に今世紀最大のど腐れ野郎ですね。 そんなわがままを言える立場じゃないでしょう? あんまり調子に乗ると貴方の店の常連客の命も追加でいただきますよ」 「やめてくれ、客は何の関係もないじゃないかぁぁぁ!!!」 「分かりました。それならいっそ貴方が死んで下さい」 「畜生、俺が何をした、何の恨みがあってこんなことをするんだぁぁぁ!!!」 客がいることも忘れ、神崎は力の限り叫んだ。 「ちょっと落ち着いて下さい。 ほら、貴方の大事なお客さんが帰っていきますよ」 見ると、神崎の異様なまでの狼狽に怯えたのか、 何人かいた客が怪訝そうな目つきを向けながらぞろぞろと撤退していくところだった。 平日の昼ということもあり、元々少ない客の数が更に減ったようだ。 だが、今は売り上げのことより 相変わらずモザイク人間に監視されているという事実が不快であり恐怖だった。 「最後のチャンスです。あと一時間で必ず一億円を用意して下さい」 またもモザイク人間はあっさり電話を切った。
神崎は俯いた。 何もできずただ俯いた。 自分の無力を呪った。 これまでも順風満帆な人生とは言えなかったが、 何かの石につまづき転ぶ度に起き上がってきた。 守るべき家族もでき、より強くなったつもりでいた。 しかし今日突然訪れたこの非日常という名の壁は、 長く培ってきたあらゆる経験則を逸脱して神崎の前に立ちはだかった。 ――もう観念して警察に通報するか。 ――いやしかし、ヤツは自分を監視している。もしばれたら祐介の身が危ない。 二つの葛藤に悩まされ、頭がはちきれそうになったその時、天啓が閃いた。 モザイク人間はここを監視している。 言い換えれば必ずこの近くに身を潜めているはずだ、と神崎は考えた。 神崎の姿に加えゲームセンター・シルバーの動向を把握できる場所となれば、 相手が双眼鏡の類のものを使用していたとしてもかなり限定されるはずだ。 一億円を用意できない今の神崎が取れる唯一の手段は、 こちらからモザイク人間の居場所を探し出して仕留めること。 そして自分自身の手で祐介を救出することだった。 「祐介、今行く」 パシン、と両の平手で頬を叩き自分を鼓舞すると、神崎は走り出した。 to be continued! ⇒
次回をお楽しみに。
>>72 すんません、悪兎って何でしょう?w
なんか似てる作品がありましたか。
>73
乙です。
私の拙作まで掲載していただいたようで、感激です。
>>80 来月8日秋田書店から発売されるACTという漫画に似たような展開があったような気がした
勢いよく店を出ようとした神埼だったが、 「デラ部屋」の前でよく知った顔と鉢合わせし、足を止めた。 常連客の一人であると同時に、ビートマニアIIDXのランカーとして活躍しているBOLCEだった。 「BOLCE君、いたのか」 「そりゃいますよ店長さん。 こっちはお金払ってデラ部屋を借りてるんだからさ」 BOLCEは屈託の無い笑顔を神崎に向けた。 小柄な体型と前に下ろした髪型が相まって、少年のあどけなさが残っている。 その可愛らしい外見とは裏腹に、彼の両手から伝説とまで呼ばれるほどの 信じがたい高スコアが次々と生み出されてきた。 そんな全国レベルの彼が自分の店の常連であることを、神崎は誇りに思っていた。 だが、神崎はあのモザイク人間の言葉を思い出して鳥肌が立った。 ――あんまり調子に乗ると貴方の店の常連客の命も追加でいただきますよ―― 「BOLCE君すまん、今日はもう帰ってくれ!」 「もう帰ってって、まだ真っ昼間じゃん。 今日はランキングの課題曲をやり込みたいんだけどなぁ」 「お願いだよ、言うことを聞いてくれ。 詳しい事情は話せないんだが、下手すりゃ命に関わる話なんだよ」 「は?」 「だから、ここにいたら殺されるかも知れないんだよ!!!」 「ちょっとちょっと、何マジになってんの店長」 BOLCEは最初こそ笑いながら話半分に聞いていたが、 神崎が真剣に青筋を立てているのを見て、ただならぬ雰囲気を察したようだった。 それでもなおIIDXをプレイすべくデラ部屋へ入って行こうとするBOLCEを制止し、 神崎は腕を引っ張って店の外に連れ出した。 「いいか、これは店長命令だ。今日一日シルバーへは出入り禁止だ」 「分かった、分かったから離してってば」 BOLCEは神崎を振り切り、諦念の意を込めて手を上げた。 「今日はもう帰るから、約束するから。その代わりデラ部屋のレンタル料は半額返してね」 「OK。金はちゃんと返すから帰れ。約束だぞ?」 「誓いまーす。ねぇ、店長ってば恐怖の大王に出くわしたみたいな顔してるよ。 一体何があったのさ?」 神崎は一瞬目線を泳がせながら逡巡したが、すぐにBOLCEへ向き直って言った。 「今はまだ話せないが、本当に危険なんだ。 いいかよく聞けよ。 君はIIDXのランカーだが、本気を出せばまだまだこんなもんじゃない。 俺には分かる。君はこれからもっともっと凄くなれる男だ。 その才能を無駄にしちゃいけない。 だから今日は帰るんだ」 神崎の気迫に押されたのか、BOLCEはつられて真剣な目つきになり、黙って頷いた。 「よし。それじゃまたな」 そう言い終わるか終わらないかの内に神崎は踵を返し、走り去っていく。 その背中を見つめながら、BOLCEはうっすらと口元を歪め、シルバーの中へ入った。 「フフ、僕が殺されるわけないじゃん」
神崎はある程度の距離を走った後、適当な建物の陰に隠れた。 ここまで走ってくればもうモザイク人間の監視圏外だと踏んだのだ。 息を整えがてら、頭の中で作戦を整理する。 慌てて走り去った神崎を見て、 おそらくモザイク人間は「急いで金を集めに行った」と思ったことだろう。 しかしそれはあくまで演技で、 実際はモザイク人間の監視を逃れつつ、逆に奇襲をかけることが神崎の目的だった。 モザイク人間の居場所は大方予想がついている。 シルバーのカウンター内にいる神崎の姿を視認でき、 なおかつ客の動きをある程度把握できる場所は、付近の建物の物理的構造上一つしかない。 向かいに建つ「土々呂ビル」の二階だ。 神崎の記憶が正しければ、土々呂ビルは一つのフロアに数社のオフィスが収まっており、 廊下までなら誰の出入りも自由だ。 あそこの窓際から双眼鏡を使ってシルバーの中を覗き見れば、 先程の電話のような芸当はいとも簡単に実現できる。 そしてもう一つの重要なポイント、時刻。 モザイク人間は「一時間後にまた電話する」と告げ、 本当に一時間後きっかりに電話をかけてきた。 なかなかの几帳面さだ。 おそらく次の電話もきっかり一時間後にかけるつもりだろう。 これを逆手に取る。 つまりモザイク人間は、「土々呂ビルの二階の廊下の窓際へ一時間後に現れる」。 そこを狙って不意打ちを仕掛ければ、祐介を盾にする暇を与えずに済むかも知れない。 神崎はそこまで思い巡らしてから、宙に対して拳を構えた。 ストレートの素振りが「シュッ」と切れ味のよい音を立てる。 柄の悪い連中がシルバーにはびこっても独力で撃退できるよう、 日夜体を鍛えてきた甲斐があったというものだ。 それから神崎はモザイク人間の目を誤魔化すため、 近くの安いカジュアルショップで上下の服を買い替え、さらにサングラスを購入した。 そのまま時間までショップのトイレに篭り、目を閉じてイメージトレーニングに励んだ。 様々な状況を想定し、脳の中で作り上げたモザイク人間のイメージと対峙する。 もしナイフをちらつかせてきたら。 もし突然後ろから襲われたら。 もし銃口を向けられたら。 どんなパターンにも対応できる自信が神埼にはあった。 だが――もしそこに誰もいなかったら? 一時間が過ぎ、この最もあってはならないパターンは現実のものとなった。
シルバーと反対側の通りから速やかに土々呂ビルへ身を滑り込ませ、 二階窓際付近を一望できる手頃な物陰を見つけたところまでは良かった。 ところが約束の時刻の一分前になっても、それらしい人影が現れる気配は全くなかった。 神崎は腕時計と窓際を交互に見やりながら、喉の奥でカウントダウンを囁いた。 ……3。 ……2。 ……1。 …………0。 モザイク人間はどこにも現れない。 まさかこちらの動きがばれたのだろうか。 胸の奥から沸々と滲む焦燥へ溺れそうになる中、神崎は窓際に身を寄せ、窓の外を見た。 サングラスを外して目を凝らし、シルバーの様子を窺う。 「あ」 その光景を見て、神崎は思わず声を漏らした。 電話が鳴っている。 正確に言えば、電話の着信ランプが点滅しているのが見える。 神崎の誤算だった。 モザイク人間はこの土々呂ビル二階以外から電話をかけていた、ということになる。 だがなぜだ? どう考えてもここの他にシルバーの中を監視できる場所は思いつかなかった。 神崎は混乱する思考のかたわらで意を決し、電話に出た。 「もしもし、神崎だ」
「おや、てっきりお留守かと思いました」 「お前からの電話を放っておいて外出するわけないだろう」 もしモザイク人間が付近にいれば、 受話器から聞こえる声が二重になってどこかから聞こえてくるはずだった。 しかしモザイク人間の癇に障る声がステレオになることは、残念ながらなかった。 「なるほど、子機ですね。意外と小癪な知恵を使うお方だ」 「ご名答。最近の家電製品の性能は大したもんだな」 親機が置いてあるシルバーのカウンターと 子機を持った神崎がいる土々呂ビル二階窓際との間は直線で30メートル程度。 神崎の見立て通り、子機を使用するには十分過ぎるほどの距離だった。 「そうは言っても、所詮はただのコードレスホン。 そこまで遠くに行けるとは思えませんが……貴方どこにいらっしゃるんですか?」 「お前こそどこにいるんだ。こっちは当てが外れてがっかりだよ。はは」 神崎は自嘲気味に笑ってみせた。 「……?……まさか私を捕まえようだなんて考えを起こしてるんじゃないでしょうね。 祐介君の内臓引きずり出しますよ?」 「心配するな。一億円なら今用意してるところさ」 「先程と違って随分と落ち着いてますね。 変な気は起こさない方が身のためだと思いますが」 「心配するなっつってんだろ。金は払う」 神崎はこの日ずっと理性で封じ込めていた「最後の選択肢」と心の中で向き合った。 「なんだ、最初からこうすりゃ良かったじゃないか」 覚悟を決めた途端、急に気が楽になった。 憑き物が落ちたとはこういう気分のことを言うのだろうか。 そんなことを思いながら、神崎はしっかりと前を見て歩き出した。
この日、アミューズメント・シルバーから二つのものが消えた。 それは現金200万円と、一人の男の命。 この二つを奪った犯人「モザイク人間」は、少しの時間を置いて再びシルバーへ姿を現した。 彼の名前は竹之内俊郎。 若干周囲の目を気にしながら、シルバーへ足を踏み入れる。 俊郎はシルバーの常連客の一人であり、 持ち前の社交的な性格も手伝って、シルバーにやって来るほとんどの他の常連と知り合いだった。 この日も俊郎が入店すると、馴染みの顔が何人かいるのを見つけた。 しかし俊郎は彼らと一言二言を交わしただけで早々に会話を切り上げ、デラ部屋へ向かった。 ゆっくりとデラ部屋のドアを開けると、 そこにはかつて親友だった男の変わり果てた姿があった。 ビートマニアIIDXの筐体フレーム上部に括り付けた縄から首吊り状態にされた彼は、 力無くだらりと手足を地面へ垂直に落としていた。 瞼からこぼれ落ちてしまうのではないかと不安になるくらい彼の瞳は見開いており、 あたかも俊郎のことを恨みがましく睨みつけているかのようだった。 「お前が悪いんだぞ、BOLCE……」 俊郎は小声でつぶやいたが、BOLCEからの返事は無かった。 俊郎は後ろを振り返り、わざと周囲の人間が聞こえるように叫んだ。 「BOLCE、BOLCE!!!BOLCEええぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!! おい、BOLCE……ウソだろおい、死んでる、死んでるぞーーーーーーーーーーー!!!!!!!」 〜〜〜 プロローグ 完 〜〜〜
事件事故 一次報告書 2008年7月16日(水) 岩手県警 盛岡警察署 捜査一課 ■1.分類:殺人事件 ■2.被害者:三浦 清(ミウラ キヨシ) ■3.死亡推定時刻:平成20年7月16日(水)12:00〜13:00 ■4.発生現場:アミューズメント・シルバー ■5.死因:窒息死 ■6.第一発見者:竹之内 俊郎(タケノウチ トシロウ) ■7.状況: ビートマニアIIDXなるゲーム機の筐体上部に結わえられた縄から 被害者が首吊り状態で絶命しているのを発見される。(※写真@) 被害者の頸部には紐状のもので圧迫された跡が二重でついており、 加害者は被害者の頸部を締め付けて絶命させた後、 被害者をゲーム機へ吊るしたものと思われる。(※写真A) ■8.その他特記事項: 被害者の三浦はアミューズメント・シルバーの常連客であり、日常的に出入りしていた。 彼はビートマニアIIDXなるゲームにて「BOLCE」のニックネームで 全国的に有名なプレイヤーであり、日本一の腕前を持っていたという。(※参考資料@) また、第一発見者の竹之内も同じくアミューズメント・シルバーの常連客であった他、 彼も同ゲームにて全国的に有名な人物であり、生前の被害者と懇意にしていた。(※参考資料A) 本件の重要参考人として、詳しく事情聴取予定。 (なお、竹之内については「BOLCE」のようなニックネームは持たず、本名で有名だった) また事件当日の午前中、アミューズメント・シルバーで脅迫事件が発生しており、 その関係で店長不在の時間帯に本件が発生したものである。(※詳細は別紙報告書参照) さらに、その後の調べでアミューズメント・シルバーの金庫から 売上金200万円が紛失していることが判明している。 双方とも本件との関連性があるとみて調査中。 ― 以 上 ―
―― そして、物語は始まる。 〜〜〜 第一話 音ゲー刑事登場 〜〜〜 to be continued! ⇒
89 :
爆音で名前が聞こえません :2008/07/21(月) 22:23:56 ID:Je9hh8Wc0
とまと氏乙です。 物を読んでこんなにドキドキしたのは久しぶりです。 次回も楽しみに待ってます。あと下がり気味だからageときますね。
>>89 あまりの反響の少なさにめげそうでしたが、
あなたの書き込みのおかげでまだ頑張れそうです。
続きどぞー
極端な開脚かつ猫背という出で立ちでIIDXをプレイしている空気を見つけ、乙下圭司はため息をついた。 空気は次から次へと降りかかる大量のオブジェを正確に捌く。 コンボの数字が積み上がるほどに彼のテンションも増しているようだった。 オブジェの密度が低い場所ではややオーバーアクション気味にスクラッチを拾い、 オブジェの密度が高い場所ではより一層深く腰を曲げて必死さをアピールする。 やがてFULL COMBOの文字と共に曲が終わり、 AAAのリザルトが表示されると同時に満面の笑みがこちらに振り向く。 言葉はなくとも、何を言いたいのかは目が雄弁に語っていた。 その行動の全てが見苦しい。 とは言え、乙下は彼の実力を認めざるを得なかった。 しかしそれは内心に留め、口をついて出たのはいつもの調子の揶揄だった。 「相変わらずキモいな、空気」 「それほどでもないっす、オトゲ先輩」 「誉めてねーよ」 「実はこの曲でトリコン出したの初めてなんすよ! 一般的には中盤の皿複合が取りづらくて切りどころって言われてるんすけど、 ボク的にはむしろイントロのトリルが……」 聞いてもいないのに、空気はベラベラと喋り始める。 開脚・猫背・見せつけ・振り向き・解説……満貫だ。 どうやらこの男は羞恥心というものをどこかに置き忘れてきてしまったらしい。 「んで、何の用」 「よくぞ聞いてくれました!見て下さいよ。ボクァついにやりましたよ」 興奮した様子で鼻の穴を広げながら、空気はモニタに目を戻す。 どうやらEXTRAステージだったらしく、ゲームはデータ保存のフェーズに移っていた。 よく見るとDJネームやIIDX IDの項目に並び、「十段」の二文字が堂々と鎮座していた。 確か先日までは九段だったはずだ。 「いやー、今日は相当粘着しましたよ。 いつもは後一歩ってとこでガシャーンだったんすけど、 今日はなんか調子良かったんで頑張ってみたら越せちゃいました!」 「珍しく年休取ったかと思えば一日中デラかよ。おめでてーな」 「はい!今日は本当におめでたいっす!」 「バカかお前は、そういう意味じゃねーよ。 何、もしかしてそれ自慢するためだけに呼んだの?」 「まぁ平たく言うとそういうことっす!」 「殺すよ?」 「もう殺されても悔いはないっす!」 有無を言わさず関節固めをプレゼントする。 よっぽど十段取得が嬉しかったのか、 それとも乙下に構ってもらえるのが嬉しいのか、 空気は痛い痛いと大袈裟に叫びつつもその笑顔が剥がれ落ちることはなかった。
「オトゲ先輩はもう仕事上がりっすか?」 「仕事中にゲーセンなんか来れるわけねーだろバカ。 お前が来いっつーから今日はもう残業切り上げた」 と言いつつ、乙下はまんざらでもなさそうに 財布から100円玉とe-AMUSEMENT PASS――通称イーパスを取り出した。 「おし。今日は空気も十段越したし、この流れにあやかって四段合格を目指すか」 「すげー、オトゲ先輩その歳でこの前デラ始めたばっかなのにもう四段挑戦っすか。 音ゲー刑事の名前は伊達じゃないっすね!」 「その歳では余計なんだよキモオタ」 この日、乙下の調子は決して悪くなかった。 1曲目「era(nostalmix)」では、いつもならラストの同時押しでだいぶ削られてしまうところを60%以上持ちこたえる。 どんなに調子良くても絶対にクリア出来なかった2曲目「虹色」もかなり見切れるようになっており、 今では3回に2回は次のステージへ到達できるようになっていた。 しかし、乙下本人も予想していた通り、3曲目「ALFARSHEAR」の間奏に登場する乱打地帯では 何が起きているのかさっぱり把握できず、残りのゲージは急転直下で蒸発してしまった。 やはり四段はまだ早いか……気落ちしながらイーパスを取り出したところに、 空気が変に真面目な面持ちで近づいて来る。 「オトゲ先輩はそろそろ固定運指を覚える時期に来てますね」 「何それ」 「どのボタンをどの指で押すかをあらかじめ決めてしまうんです。 先輩は使いやすい人差し指とか中指だけで色々なボタンを押しに行くでしょ? そういうのは北斗運指って言って、高密度譜面への対応力にいまいち欠けるんすよ」 「んー。そう言われてみると、確かに指の使い方を意識したことはなかったな」 空気は周囲に順番待ちをしている人がいないことを確認し、筐体の前で構えて見せた。 「固定には大きく三パターンあるんす。 これが基本となる対称固定、これが皿に対する柔軟性に富んだ3:5半固定。 そして最後に、ちょっと難しいんすけど将来性抜群と言われるこの形が……」 「あーはいはい。長くなりそうだからまた今度ね」 「ダメですよ先輩。運指の研究無くして上達なんて出来やしないんす。 名だたるトップランカーの皆さんだって、最初はそこから始めたんですから」 空気はいつになく真剣に諭してくる。 その情熱を一部でもいいから仕事に回して欲しいものだ、と乙下は喉の奥でひとりごちた。
「トップランカーねぇ。俺はお前より上手い人がいること自体信じられねーよ」 「十段底辺のボクなんて、彼らのスネ毛にも及ばないっすよ」 「今日取り立てホヤホヤの『十段』を強調してくる辺りがウザくてお前らしいな」 「って言うかこの前オトゲ先輩にもトプラン選手権のDVD見せたじゃないすか。 凄かったでしょ? あれで優勝した人は岩手県民で、この近くに住んでるんですよ」 「あっそう」 「そうだ、これからウォチしに行きましょうか?彼の名前はボル……」 ピピピピ。 無機質な着信音が二人の会話に割って入った。 乙下が無駄のない動作で携帯電話をポケットから取り出す。 「もしもし、乙下です……えぇ……はい……えぇ」 乙下の表情が険しくなっていくのを、空気は見逃さなかった。 やがて会話は終わり、険しい表情のまま乙下は空気に向き直る。 「先輩、もしかして」 「あぁ。事件で呼び出しがかかった。お前も行くぞ」 「行き先は?」 乙下は眼を伏しがちにして頭を掻いた。 「前言撤回。まさか仕事で行くことになるとはな」 「え?」 「アミューズメント・シルバーで殺しだ」 to be continued! ⇒
そこは奇妙な空間だった。 「デラ部屋」と書かれた扉をくぐると、 殺風景な狭い部屋の壁際にIIDXの筐体が据え付けられている。 筐体上部の金属パイプには縄が括り付けられ、 そこから吊るされているのはまごうことなき人間の死体だった。 死体の背後ではIIDXのモニターが粉々に割れており、 ガラスの破片がコントロールパネル一面に散らばっていた。 乙下と空気はトラロープを跨いで部屋の中へと踏み込む。 現場検分をしていた制服警官が乙下に気付き、小走りで近寄った。 「お疲れ様です、乙下刑事」 「ご苦労さん。状況は?」 「被害者は三浦清、24歳。 このゲームセンターの常連でした。 死因は窒息死。 とりあえず基本情報はこの一次報告書にまとめましたのでご覧下さい」 乙下は制服警官からA4用紙一枚からなる報告書を受け取り、死体と見比べた。 「……このホトケさん、どっかで見た気がするな」 「もしかして」 空気が乙下と制服警官との間へ首を突っ込み、報告書を覗き込む。 「やっぱり。この人、BOLCEっすよ」 「ボルチェ?」 「デラのトップランカーっす。ほら、ここに書いてあるでしょ」 空気の指差した部分を、乙下は声に出して読み上げる。 「被害者の三浦はアミューズメント・シルバーの常連客であり、日常的に出入りしていた。 彼はビートマニアIIDXなるゲームにて『BOLCE』のニックネームで 全国的に有名なプレイヤーであり、日本一の腕前を持っていたという……マジかよ」 「信じられない……音ゲー界随一の宝が……むご過ぎっす」 乙下は以前空気に見せてもらった「トップランカー選手権」のDVDを思い出していた。 決勝にて全IIDX中最難曲と言われる「冥」でAAAを叩き出して優勝し、会場を沸きに沸かせていた青年の姿。 それが、今目の前でぶら下がっている死体の形状と嫌でも重なってしまう。 しかし生気の失せた顔からは眼球と舌が勢いよく飛び出しており、 生前のあどけない表情は見る影も無かった。
「ここを見て下さい」 制服警官がBOLCEの首を指し示し、説明を続けようとする。 「頸部の傷が二重になっています」 「だね。えーなになに」 乙下はまたも報告書を読み上げる。 「被害者の頸部には紐状のもので圧迫された跡が二重でついており、 加害者は被害者の頸部を締め付けて絶命させた後、 被害者をゲーム機へ吊るしたものと思われる……よくもまぁ犯人はこんな重労働を」 「ただ殺すだけじゃ飽き足らず、わざわざ吊るし上げるなんて異常ですよ。 被害者に恨みを持つ人間による犯行の線が強いと思われます」 「そんな。2chのランカースレを見る限りじゃ人から恨まれるような要素はなかったはずっすよ?」 「お前は黙ってろ」 空気を後ろへ突き飛ばし、乙下はBOLCEに近付いてまじまじと観察を始めた。 頭部前側に数箇所の外傷があり、僅かに流血が見られる他、ガラスの細かい破片がこびり付いている。 「どうやら被害者の頭部とぶつかった衝撃でモニタが割れたようですね」 「犯人と揉み合っている最中にでも頭から突っ込んだのかなぁ」 乙下は視線を下に落とした。 BOLCEの右手を見つめる。 乙下はこれまでも多くの死体を見てきたが、 今日は一段と生と死の隔たりの大きさを実感せずにはいられなかった。 何せ、かつては七個のボタンとターンテーブルの上を 縦横無尽に這い回っていたこの右手が動くことは、もう二度とないのだ。 そしてこの左手も同じく―― 「あれ?」 左手に注目した乙下は、その違和感から思わず声を出した。
BOLCEの左手が異様な形を保っていた。 親指・人差し指・中指の三本はそれぞれの関節で軽く曲がり、 指先の三点は綺麗な正三角形を描いている。 その一方で、小指はピンと真っ直ぐ張った状態で、 まるで他の指から仲間外れにされているかのように手の平の外側を向いているのだ。 日常生活で手がこんな形になる状況はまず思いつかない。 ということは、この形には何らかの意味があるのだろうか? そこまで思い至ったところで、 「これ、1046式っすね」 突然空気が横から口を出した。 「トシロウシキ?」 「ええ。数字でイチ・ゼロ・ヨン・ロクと書いてトシロウと読みます。 デラでよく使われる固定運指の一つなんすよ。 小指でスクラッチ、親指で1鍵、中指で2鍵、人差し指で3鍵を取ります」 空気は自分の手で、BOLCEの左手と同じ形状を作って見せる。 「でもおかしいな、BOLCEの運指は固定と北斗と織り交ぜた独特で フリーダムな指使いのはずなんすよ。 そもそもBOLCEは2P側のプレイヤーだから、左手がこの形になること自体あり得ないっす」 「つーかそれ以前に、仮にデラをプレイしているところを襲われたとして、 抵抗するのに必死で手の形なんかすぐ崩れると思うんだけど」 「それもそうっすね」 とは言え、意図しないことにはこんな手の形になるはずがない。 乙下は思考をフル回転させたが、その理由が分からず黙り込んでしまう。 その沈黙を空気が破った。 「オトゲ先輩、これダイイングメッセージじゃない?」 「……は?」
「首を絞められたBOLCEは、薄れゆく意識の中で犯人の手がかりを残そうと考えるわけっす。 でも叫ぶこともできなければ字を書くこともできない。 そこで、手の形で犯人の手がかりを残したんすよ」 「これが何の手がかりになんだよ」 「ですから、犯人はデラのプレイヤーの中で1P側1046式固定の使い手ってことです。 そこまでBOLCEが知ってるってことは、身近な人間であることも間違いないっす。 これでだいぶ容疑者を絞れるんじゃないすか?」 「お前それ本気で言ってんの?」 空気は得意気に自分の推理を披露してみせたが、 乙下には胡散臭いとんでも理論にしか聞こえなかった。 「悪いけどお前の名探偵気取りに付き合ってる暇はねぇな」 「そんなぁ、これ絶対イケますよ先輩」 乙下は新たな手がかりを探すべく報告書に視線を落とした。 ――これは――――!? 先程までは読み流していたが、そこに書かれた一人の男の名前を見て乙下は驚きを隠せなかった。 「第一発見者、竹之内『トシロウ』」 二人は顔を見合わせた。 to be continued! ⇒
トシロウ吹いたw
>>99 乙であります。
続きを待ってますよー
それにしても、トップランカーの元ネタが一発でわかるような改変ネームは少しまずいかも。
実際のプレイヤーを「殺人事件」という内容でパロっている訳ですし。
ここは完全に捏造ネームの方が良かったのでは…
自分にアンカーしてどうすんだorz
>>97 の間違いです。
…これが100というのも、ますます悲しい…
>>97 乙
運指がダイニングメッセージとはいい発想だな
続き期待してます〜
>>100 ドンマイw
102 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:30:38 ID:SiosApE90
>>97 亀ですが乙です
音ゲーをネタにここまでサスペンス色に出来るのか…と感動しました。続き期待してます!
今晩は、旅人です。
この投下でど田舎ゲーセンの怪は終わりそうです。
最初の方にウケ狙って書いた、とかそんなような事を書いたような気がしましたが…
正直そんなに笑えねーって感じでした。書いた作者本人がそう思うのだからきっとそうでしょう。
しょっぱなからこんな愚痴まがいな前書きですが、本編をどうぞ。
103 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:33:34 ID:SiosApE90
あらすじ…私立探偵をやっている小暮探偵は、友人の町田から届いた年賀状で緑泉村に旅行に行った。 宿泊先のホテルにはIIDXがあったので、早速彼等はプレー、 しかし、町田が二度目のプレーをした時、彼女は消え落ちてしまった… 小暮探偵らが松木ゆうの車を調べていた時、町田は何をしていたのだろうか。 ここからは小暮たちの行動を敢えて書かず、町田の行動を書いていく。 町田はIIDX筐体から落ちた後、岩肌がごつごつしている所に着地していた。 いや、着地なんてものではなかった。尻を思い切り打ち付けたので、しばらく動けずにいた。 痛みが引くのを待って、それから町田は尻をさすりながら歩き出した。 こんな所にいても仕方が無い。先程小暮の名を呼んでも返答が無かった事から、自分が彼と遠く離れていることは 分かっていた。彼に助けを求められない以上、どうにかして自力でこの洞窟のようなところを抜け出さねばならな いと町田は思ったのである。 町田が歩き出して一時間後。すっかり尻の痛みも無くなり、左手で尻をおさえる事も無く右手で彼女から見て 右側の壁を触りながら歩いていた彼女は、今までの細い通路からかなり開けた場所へ出たのだった。どこかの球場 のように広いそこは、天井に小さな正方形の穴があり、そこから光が差し込んでいるために辺りの地形を確認し易い と町田は思った。 そして、視線を上に向かせる。何故、岩石の洞窟を正方形の形でくりぬく事が出来たのだろう?一体どんな手段で そんな事を成し遂げられたのだろうか… そんな事を町田は考えて、答えは出ないのだろうなと思ったその時。後ろで何かが動いた感じがした。存在感が 自分の後ろからにじみ出ている。誰?と問いかけながら彼女は振り向いた。そこに居たのは二人の子供だった。 二人の子供は共に男で、まだ小学校三年生くらいの年齢であった。そんな事を聞きだした町田は、ここは君達の 秘密基地か何かなのかと問うと、そうであるし、そうでもないと答えられた。 どういうことなんだろうと町田は思ったが、自分には関係の無い事をあえて色々突っ込むのは面倒くさいと思えた のでそこの追求をやめた。しかし、ここから出るための道は知りたい。この二人ならこの洞窟の出入口か何かを知っ ているに違いない。そうでないと私も彼らも困る…そういう動機があって、町田は彼らに聞いた。 「洞窟の出入口って何処にあるの?」 「出入口?そんなの無いよ」 「だって、ここは半分君達の秘密基地のようなところなんでしょ?」 「そうは言ったけど、そうでもないって言ったよ」 「じゃあ何で君達はこんな所にいるの?」 「だって」 そこで二人のうちの代表が口を止めた。町田が「日本人だから」と本当に一部の人にしか分からなさそうな言葉 を言って、代表にその続きを言うように急かせた。町田の真意を汲み取ってはいないだろうが、代表が続けた。 「だって僕ら、捨てられたんだもん」
104 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:35:09 ID:SiosApE90
「捨てられた…?」 そう呟いたのは町田であった。捨てられたとはどういうことか。 1.この二人は親に「いらない子」として捨てられてしまったから。 2.単純な悪戯。 3.町田の気をひきたいから。 どう考えても1の意味だ。誰がどう考えようが、絶対に1の意味でしかこれは捉えられない。町田はそう思って、 二人の子供達に話しかけた。 「捨てられたって、親に?」 「そうだよ」 「何で?君達、なにかいけない事でもやらかしたの?」 ここは田舎だ。なにか古くからの因習が根付いていて、それによって彼らはこんな目に会ってしまったのだろうと も町田は思えた。それで彼女は、どうにかして明日中にはここを脱出したい旨を子供二人に伝えた。 「お姉ちゃん、何でそんなに早く出たがるの?」 「私、ここには旅行で来ているの。だから、帰る時間までには戻らないと…」 「そう。分かった。出口を一緒に探そう!」 代表が言って、もう一人もそうしようそうしようと言った。町田はそれを見てなんだか嬉しくなっていた。 それから何時間かして。昼間の二時三時といった辺り。洞窟の頂点の正方形の穴から声が聞こえた。声といっても 男二人の怒鳴り声であった。 「いくら今回のターゲットが女性とか、ランカー級の腕前を持つ音ゲーマーとか… そういうの関係無しに、社長は色々と首を突っ込みすぎていると思います。それに…」 「言わないでくれ」 「言わせて下さい!」 「黙ってくれ!」 何だ、彼らの会話は…ターゲットが女性?ランカー級の腕前?社長? 音ゲープレー時にしか冴えない町田の脳が、急激に覚醒していく。そしてある一つの結論に至った。 あれは、私がここに落ちる前の事だと思う。私の後ろで小暮君と知らない男が何かの話をしていた。確か知らない 男の方が「社長」だったような気がする。小暮君も一応は「塾長」とか「私立探偵事務所長」のような「長」がつく 仕事をやってはいるが…知らない男は多分「ゆ」が最初につく人だと思う。ゆう、という名前だったろうか………? まぁその人は確か「何でも屋」の社長のはずだ。小暮君が彼に、いや、多分「彼ら」に依頼した可能性は十分ある。
105 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:36:35 ID:SiosApE90
子供達が上を見上げて彼らの話を聞いていた。彼らの大きな話し声が聞こえなくなった後、子供達は町田に近づい た。何、どうしたの?と町田は呼びかけたが、子供たちの目が先程とは違うのに気づいて後ずさった。彼らの目は狂 気に満ちている。町田は上擦った声を子供たちに向けた。 「な、何…?き、きき君達、どうしちゃったのよ?」 それに答えることなく、代表の子供がズボンのポケットから何か布のようなものを取り出した。そして、もう一人の 子供にそれを手渡し、布を受け取った子供が同じくズボンから香水のビンのようなものを取り出し、蓋を開けてそれ を振った。何かの液がそれに散布され、その液に濡れた布が代表の子供の手に返された。 「ど………毒?」 町田が答えが望める訳もないと分かりながらも、子供たちに聞いた。 「死にはしない。」 子供達は町田の予想を裏切って即答し、そして代表の子供が町田の首元に飛びついて布を強引に口元に当てていく。 町田の意識が急に薄らいでいく。気を失っていく感覚ではなかった。急に眠くなるような…あぁ、さっきの香水のビ ンのあの液体は、眠り薬だったのか……と思ったのを最後に、町田は深く眠ってしまっていた。 その頃、松木ゆうは多田と共に「落としババア」という妖怪の手がかりをつかむ為に山を登っていた。途中で口喧 嘩もしたが、それ以外は何も問題なかった。もっとも、その喧嘩も丸く収まっていたのだが。 口喧嘩を終えてから一時間以上が経ったが、落としババア(彼らはオトバと呼称する。以下、落としババアの事を オトバと表記する)に関する手がかりが全く掴めていなかった。オトバは二人が登っている山の洞窟に棲むと言われ ているのだが、伝承は伝承、と言わんばかりに洞窟が全然見つからないのである。 多田がゆうに休憩を提案したが、ゆうはそれを却下した。それでも多田は「靴紐を結ぶ」と言ってしゃがみこんだ。 丁度その時だった。ゆうは「うわあぁぁぁぁ」とエコーのかかった声で叫び、どこかへ消えてしまった。多田は、 「社長!」 と呼びかけながらゆうが立っていた所まで駆け寄り、そこに人一人を落とすことが出来る落とし穴を確認した。 「オトバ…だと?まさか、まさか…!」 多田がゆっくり振り返り、そこに異形を見た。妙に背の高い老婆。だが、人の体とはどこかが違う。骨格だろうか。 白い体毛を持っている。どこか猫背気味だ。………まさに妖怪って感じじゃないか。多田はそう思って駆け出した。 今まで通ってきた道を戻って帰るのは長すぎる。もう山頂付近まで来ているのだから。どうすればホテルに直ぐに 戻れる…? 多田はいまだかつて無いスピードで頭を回転させ、一つの妙案を思いついた。ここからはホテルの外観全てを見回 す事が出来る。つまり、ホテルのある方角が分かるし、山の斜面に逆らわずに走っていけば案外直ぐに山を下りられ るのではないだろうか?…いける。いけるぞ、この作戦!多田はそう思って直ぐに走った。 「社長、直ぐに皆に働きかけてどうにかしますからね!待っていてください!」 「うわあぁぁぁぁ!」とゆうは叫びながら落とし穴に落ちていた。正確に言うと、まるでウォータースライダーか公 園の滑り台で遊んでいるかのようにして滑っていた。穴の作る道に傾斜があったから、そんな風になっている。 ゆうは土の中にある小石などで体中に傷を作りながら滑っていた。「痛たたた」という彼の声もザーッ!という摩 擦音に掻き消されていってしまっていた。
106 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:39:00 ID:SiosApE90
ゆうが穴に落ちてから15秒は経ったかという時に、彼は穴の出口から放り出された。穴の出口は地面と水平に開い ていたのだ。盛大に尻餅をついてから、ズボンの尻についた汚れをポンポンとはたき、それから周りを見渡す。そこ は、地下牢のような場所だった。自分の目の前には鉄格子があり、残りの三方は全て土壁で固められている。 そして、ゆうはもう一つ重要な事を見つけた。この鉄格子と土壁で造られた独房の隅に、一人の女性が倒れていた のだ。ゆうに対して背を向けて横になっていて、肩が僅かに上下している事から彼女が寝ているのだと分かる。 ゆうは女性に近づかず、先に鉄格子の方を調べた。ゆうから見て右端の方に扉となる部分がある。鎖と南京錠さえ 無ければ、簡単に押し引きが出来て脱出できそうだった。 ゆうが閉じられた扉をガチャガチャやったせいか、背を向けて寝ていた女性が目を覚ました。ここは…?と呟きな がら彼女は立ち上がる。そして後ろを振り返ってゆうの姿を確認した。 「あなたは…?」 「僕の名前はゆう。少し前に落とし穴に落ちて、ここへやって来ました」 ゆうはそれだけを言って、さっきまでの経緯を話した。自分が何でも屋とゲーセンの経営者、つまりは社長みたい な存在である事、小暮と言う依頼主からMACHIという女性を探している事……ゆうが続きを言おうとすると、女性は ゆうにこう言った。 「それ、私よ。やっぱり小暮君が私の事を探してくれているんだ。あなたとあなたの仲間達と共に」 「MACHIさん、小暮探偵にたいそう心配されているみたいですね」 「だって、私と小暮君は友達だもん。音楽ゲームで繋がった友達だもん、そんな簡単に諦められちゃ困るわ。それに、 小暮君は立派な探偵よ。ハッキリ言わなかったけど、あの事件…大桟幕橋爆破未遂事件を解決したのよ!」 町田の「小暮は大桟幕橋爆破未遂事件を解決した」という発言を聞いたゆうは、えぇ!?と本気で驚いた。それに はある特別な理由があったからだ。その理由を紹介してみよう。 実はこの事件は全国的に報道された。マスコミの報道した態度はあまりよろしくなかった(音ゲー並びに他のゲー ムを叩いたりとか、それに煽られた一般人が関係の無いゲーマーを叩いたりとか色々)。それでも一部の人々はある 噂を聞き、その中の一部の人はそれを信じた。「小暮と言う探偵が、事件を解決に導いた真の人物」という噂が、ネ ット上で飛び交った。それはゆうも目や耳にした事があったが、彼はそれを半信半疑の態度で認識していた。 だから、二回目に小暮探偵と出会った時には内心、この人は噂の人と同一人物なのだろうか?と疑問を抱いていた のだった。町田の発言で、小暮探偵と噂での小暮探偵が同一人物であると言う事を確信したゆうは、一つの真実に行 き着いた。 「小暮探偵は実は事件を解決していなかった。解決したとしても、事件解決に貢献できた割合としては恐らく半分程 度か…?小暮探偵は、事件を丸まる解決した訳ではないのでは?」 ゆうの仮説は良い所までいっていたが、これを町田本人や小暮本人に確認を取るわけにはいかなかった。だから、 ゆうは第三者で事件の真実に最も近づいたという事になる。………細かい点で相違点が生じるものであるが。 それから、ゆうは町田と色んな話をした。ゆうは町田の名前を聞いたり、町田はゆうの素性を確かめていた。それ から、これからどうしようかという話になり、話の中でゆうがこう言った。 「前に何かのカンフー映画で見たような気がするんですが、濡らした服を鉄格子に巻きつけて、それを棒か何かに結 んで回して鉄格子をこじ開けるんです。映画の中では、服を濡らす方法が少々汚いものでしたが…」 「あ、それ私も見たことがある!あのシーンとっても面白かったなぁ…」 「あの方式で行こうかと思いましたが、流石に汚いし棒の代わりになる物が何処にもありませんからね…」 「あ〜駄目かぁ」と町田が言って、ゆうは「でも、どうにかしてあなたは助けます。約束します」と誓った。
107 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:41:38 ID:SiosApE90
そんな会話が終わってから何時間か経った。ゆうが腕時計を見ると、それは18:20を指していた。もう六時ですか とゆうが呟いて、そろそろ寝ましょうかと町田に言った。どうして?と町田が訊ね、ゆうがそれに答える。 「僕たちが今出来ることは特にありません。万一の為、僕は車のダッシュボードとトランクに『ある物』を積んで います。今は言えませんが、明日になれば僕の部下達、いいえ仲間達が助けに来てくれます。それまで、ここで大富 豪かスピードでもやって夜を過ごしますか?一応僕はトランプ一式、持ってはいるのですが」 「いや、そんな気はさらさら起きないなぁ・・・分かった。起きてても無駄だから、さっさと寝る事にする。それじゃあ ゆうさん、お休みなさい。布団もベッドも無いけどね」 シャワーもありませんからね、熱い湯を浴びたかったとゆうは返して、町田に倣って横になって目を瞑った。ゆうは、 自分が急速に眠気に襲われるのを心地よく思いながら、眠りについた… 夜が更け、日が昇り、緑泉村に鳥のさえずり声が響き渡る。その頃には農家の人が何かしらの作業をしていたりす る。時間は朝の5時である。それからも時間が経ち、ゆうと町田はずっと眠ったままでいた。 ゆうが放り出された穴の下に、彼の上着が置かれてあった。これは彼の作戦の一部であり、これが無いと作戦に支 障をきたすかもしれないと彼は踏んでいた。 町田にはこの作戦の全容どころかほんのさわり程度でも伝えていない。むしろ、少しでも知られて余計な行動をし てもらっては困るからだ。 5:30をゆうの腕時計が指した。それから数秒して穴の方からなにかが滑り落ちる音が聞こえてくる。その音は次第 に大きくなり、そして一番大きくなった時にフッとその音は消えた。同時に、穴から何かが吐き出された。 銀色の拳銃である。古めかしいリボルバー式の拳銃。それと共に宙に舞うのは、拳銃同様に銀色に塗装された紙箱 であった。中身は拳銃の銃弾のようであるが、ただのそれとは呼べそうも無い。 宙を舞っている拳銃と紙箱はバシッと何者かによって掴まった。両腕を伸ばしてそれを取った者は、飛び起きて直 ぐに行動したゆうである。右手にリボルバー、左手に紙箱を掴んで、紙箱をズボンのポケットに押し込んでから立ち 上がり、クルクルとリボルバーでガンプレイをしていた。それからグリップを握り、紙箱から弾を取り出して弾を詰 めてから狙いをつける。鉄格子の右端にある、南京錠と鎖に銃口が向けられる。 バァン!と大きな銃声が独房の中で響いた。何!?と町田は飛び起き、銀色のリボルバーを持ったゆうを見て後ず さった。かなり小さな声で町田はゆうに話しかける。 「ねぇ、何でそんなものを持っているのよ…?」 「さっき、仲間がこの穴に落として渡してくれました。それで、あの南京錠を撃ちました。だから、ここから出る事 は可能です。さぁ町田さん、一緒にここを出ましょう。寝起きなのは分かりますが、ついてきて下さい」 ゆうはそう言うと先に小さな扉を蹴り開けた。くぐるようにしてその扉を抜け、町田もそれに続く。左右に土の床で と壁と天井で出来ている道が延びているが、ゆうは右に進む事に決めた。町田に「どちらの道から運ばれましたか?」 と聞いても良かったのだが、ゆうと初めて出会った状況から、恐らく眠らされていたのだろうと考えるのが筋だった。
108 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:43:06 ID:SiosApE90
ゆうが町田の手を引いて小走りで道を進んでいくと、町田が二人組の子供たちと話をしたあの開けた場所へやって 来た。町田がゆうに、ここで子供たちと出会って彼らに眠らされた旨を伝えると、ゆうはこう返した。 「もしかしたら、彼らは憑依されているのかも」 「え?どういうこと?」 「普通の子供なら、無抵抗の人間に危害を加えるなんて無茶な芸当だと思いませんか?まぁ、怒り狂って我を忘れたり 特殊な訓練を受けて、容赦なく誰かを殺せる冷徹な精神を持った子供だったとしたら…ありえない話ではないですが」 そうだけど…と町田が言って、ゆうの発言の続きを待つ。町田の様子を見て取ってゆうが続ける。 「落としババア…昨日説明しましたよね、あなたを落としたかもしれない妖怪の事ですが」 「うん」 「それが子供たちを操っているのかもしれません。あの独房に骨が無かっただけで、オトバが人肉を食らっているのか もしれません。かなり適当に喋っていますが…あの子供たちはオトバに利用されているだけかと思うんです」 だから…とゆうは続けながら後ろを振り向く。その時にそう、と呟くように言いながらリボルバーを構える。そ してそのままか細い声で続けた。 「出て行ってもらいます」 町田は、ゆうがいつの間にか後ろにいた子供たちに銃口を向けているのを見て叫んだ。 「やめなさいよ!あなたどうかしている!」 「どうかしているのは、この妖怪です…!」 一瞬の躊躇いがあってから、ゆうはリボルバーのトリガーを引いた。横一列に並ぶ子供たちのどちらにも銃弾はか することなく、二人の頭の間の空間を飛んだ。そしてそれは不可視の「何か」に命中する。 この世のものとは思えないほどの絶叫が、その開けた場所で響き渡った。聞いた者を恐怖で震え上がらせる声。 町田は心の底からの恐怖に襲われたが、ゆうは何とか平常を保っていた。町田がゆうの隣で恐怖の絶叫を上げる。 そんな町田に対し、ゆうは彼女のみぞおちに一発拳を入れて気絶させた。これから起きるであろう事に耐えられ そうもなさそうだからである。
109 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:44:16 ID:SiosApE90
「何か」は撃たれてから何秒かインターバルを置いて姿を現した。猫背で背が大きく、体毛は全て白い。痛みを 叫ぶその声はゆうの心の奥にある本能…「恐怖」を呼び起こさせるものであったが、どうにかしてゆうは気を保っ ていた。 「あと一発、あと一発ぶち込んでやる…!」 それだけを思ってゆうは姿を現した「何か」、恐らくは落としババアであろう老女の姿をしたその異形に立ち向か っていた。ガタガタ震える指で、気力だけでトリガーを強引に引く。バァンと大きな銃声を立てて弾丸は異形に飛 んでいった。 その時、ゆうは信じられないものを見た。異形が手で何かをつまむ動作をしたのだ。銀色に光る小さな何かは一 体何なんだ…?とゆうは思考し、一瞬でその答えを導いた。奴はゆうの撃った弾をつまんで、自分へのダメージを ゼロにしたのだ。 「そんな馬鹿な…これはフィクションか何かか?」 その存在自体が架空でありそうな異形に向けて、ゆうはポツリと呟いた。そして、横にさせている町田を抱えて異 形から距離をとった。異形は一歩も動こうとせず、二人の子供の頭に手をかざして何か小さな声でぶつぶつ言って いる。まるで何かの呪文のようだ…とゆうが思っていると、子供達が町田を抱えたゆうに襲いかかってきた。何処 に隠し持っていたのか、包丁を持っている。チッと舌打ちをして、町田を軽く放り投げるようにして子供たちから 離してリボルバーを構える。狙いは、町田と話していた時の代表格の頭であった。彼らだって自分に銃口が向けら れていると知れば、すこしは怯むのではないかと思っていた。 ゆうの予想は全く外れていた。リボルバーを狙いを代表の子供の頭につけても、子供たちは止まらなかった。悪 態をつきながら、ゆうは左足で地面を蹴って包丁の構えが甘い、狙いをつけていなかった方の子供に向かっていっ た。そして右足で顔面に蹴りを入れ、子供の体を吹き飛ばさせる。ゆうが蹴りを入れた子供の手から包丁が飛んで 宙を舞った。それをゆうは絶妙のタイミングで腕を伸ばして掴み取り、もう一人の子供と対峙する。 包丁を持った代表格の子供が、奇声を上げながらゆうに走って襲い掛かる。その突進をゆうは体を一回転させるよ うに動かして避け、回っている間に子供の腹を切りつけた。傷は浅いが、子供相手なら泣き出すくらいのダメージを 与えた…とゆうは思ったが、子供は泣き出しもせず、ただただゆうに向けて殺意の眼差しを向けていた。 再び子供がゆうに攻撃を加えようとした時だった。ゆうの耳に聞き覚えのある音楽が聞こえてくるのだ。音の発信 源はゆうと町田が捕らえられていた独房である。「来たぞ…」とゆうは呟く。音楽が聞こえてきてから、落としババ アに対する恐怖も薄らいでいくような気もしてきた。独房からゆうも町田も聞いた事のある声が大音量で流れる。
110 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:46:00 ID:SiosApE90
「wow,year come on!I'm MIchael a'la'mode.Let's do the moneymaking as me. Are You Ready?」 「IIDX GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLD!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 二つ目の発言は、ゆうとマイケルさんの同時に発せられたシャウトであるが、気持ちゆうの方が大声でシャウトして いる。流石に子供も警戒したようだが、もう遅かった。 「Make it! Make money!」 ゆうはそうノリノリで歌いながら、物凄い速さの右ストレートを子供に向けて繰り出した。これには子供も面食らっ ただろうが、そんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに、ゆうは 「Make it! Make money!」とか 「year!year! I become a milionaire!」 と歌いながら紙箱から銀色に輝く弾丸を取り出して、それをリボルバーに詰めていく。 オトバは「コイツ一体何なんだろう」と言いたげな視線をゆうに送りながら、ゆうに向かって歩き出した。オトバの 手の爪が音も無く段々伸びていく。その爪はどんなものでも切り裂けそうな、そんな鋭さを光らせていた。 オトバがその爪の射程範囲内にゆうを入れて、その爪で彼を切ろうとした時、ゆうは言った。 「Year year year, Make it?」 言い切った直後に「1st style!」と叫びながら一発、オトバの腹に向けてリボルバーの弾丸を撃ち込んだ。完全にが ら空きだった腹を狙われては、弾をつまんで無力化するなど出来ないだろう。続いてゆうは「Sub Stream!」と叫び、 腹を押さえているせいで突き出ているオトバの頭を撃った。撃たれたオトバは、頭を思い切り弾かれたかのように後 ろから倒れこみ、ゆうが「2nd style!」と叫びながら撃つ三発目の銃弾をオトバの喉元に撃ち込んだ。その後もゆう はタイトルコールを続けながら射撃とリロードをして、最後の 「IIDX GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLDDD!!!!!!!!!!」 でリロードしてから三発目の銃弾をオトバの額に撃ち込んだ、その時であった。 独房から流れる曲が変わった。GOLD RUSHはフェードアウトしていき、冥のラストの物悲しいピアノが流れて、独 房からの演奏が終わった。 緑泉村の名物である、高級ホテル。その裏にある山にある洞窟で。その洞窟の中の、かなり開けた場所で。三人の 人間―女が一人、子供が二人―が倒れていた。一人の銀色に光るリボルバーを持った男が、人と似ても似つかぬ、床 に倒れこんでいる老女を見下ろしていた。その老女は、この村に伝わる伝説の妖怪「落としババア」と酷似していた。 落としババアを見下ろしている男がポツリと呟く。 「話には聞いていた…昔、口減らしのために可愛い孫二人を追いかけ、行方不明になった老女が妖怪となって今を生 きているらしいという噂…銀の銃弾でダメージがあるかどうか心配だったが、それは大丈夫だったな…」
111 :
旅人 :2008/08/01(金) 22:47:35 ID:SiosApE90
それから数日が経った。町田は自分が住んでいる町に戻ってきていた。あの旅行は最悪だった…と彼女は回想しな がら外を歩く。あの日の事を思い出していると彼女の顔にも変化が起きたのか、すれ違った男の自分を見る顔が怪訝 そうなものに変わった。 ゆうが最後のタイトルコールを決めて、落としババアを殺した後の話である。ゆうが気絶させた子供二人は骨に変 わり、落としババアもまた、人骨へと変わり果てた。その後、ゆうと町田がいる場所の天井にある正方形の穴から縄 が垂れてきた。これは作戦の内の行動ではなかったが、ゆうはそれで町田を縛り、クイッと縄を引っ張って洞窟の外 で待機しているであろう仲間に合図した。 その出来事が起きた昨日に時間を戻して話を進める。ゆうの車でメモを見つけた小暮とゆうの部下の多田と島谷は 早速行動を起こした。車のトランクにある、やたらと緩衝材を貼り付けられた小さなCDラジカセを取り出し、電池が セットされている事を確認し、中に指定のCDがセットされている事も確認した。そして、銀色のリボルバー拳銃とそ れ専用の銀色に塗装された銃弾が入っていた紙箱があることも確認した。 翌日、小暮たち三人は多田の案内でゆうが落ちてしまった所まで歩き、先にリボルバー拳銃を落とした。しばらく してから一発銃声が響いた。ゆうのメモには「二発目の銃声が聞こえたら、CDを再生させているCDラジカセを投入せ よ」とあったので、そこの穴にCDを再生させているCDラジカセを落とした。 それから山の調査を続けて、何故か山頂に人一人分が落ちてしまいそうな正方形の穴が開いていたのを知り、念の ために持っていたロープを垂らしてゆうからの合図を待った。下の洞窟から、ゆうの叫び声と銃声が響いていた。こ の二つの音を聞いて多田が心配げに言った。 「社長、大丈夫だろうか?」 言いたい事は分からないでもない。恐らく、ゆうは今オトバという戦い方も分からない妖怪と戦っているのだ。ゆう は髪の毛から針を飛ばすことも出来なければ、体から放電する事もできない。靴を飛ばしたって、明日の天気は何だ ろな〜という子供の遊びにしかならない。それに今のゆうには、共に戦う仲間がいない。彼の唯一の武器は、攻撃回 数に制限のあるリボルバー拳銃だけである。 「社長なら大丈夫。あの人、喧嘩がメチャクチャ強いじゃないか」 そう返したのは島谷だ。確かに、旅人と別れてからのゆうは自己流のトレーニングを積んでいた。自分の理想のゲー センを建てる為には、あった方が良いものであろうからだ。実際は、自分を恨んで攻撃的な行動を起こす輩との喧嘩 に大いに役立っているのだが…この喧嘩の腕が無ければ、今頃ゆうは恐れをなしていて、今のゆうは存在し得なかっ ただろう。 CDラジカセを穴に落としてから数分後、小暮が持っていたロープが軽く引っ張られた。小暮の持つロープを先程か らずっと見ていた多田と島谷は、その少し動いたロープを見て喜びの声を上げた。 上からは「社長だ!」「よし、早くロープを引っ張るぞ!」 下からは「僕じゃない!先にMACHIさんをくくりつけた!怪我させないように慎重に引っ張り上げてくれ!」 と声が飛び、多田と島谷は同時に小暮に向かって言った。 「良かったな!あんたの彼女が無事に帰ってくるぜ!」 「いや、彼女じゃないですから。友人ですから」
112 :
旅人 :2008/08/01(金) 23:01:41 ID:SiosApE90
すみません、今日は事情によりここまでとさせていただきます… 三日後くらいには続きを貼れると思うので、それまでお待ちください。 本当に申し訳ない…
114 :
爆音で名前が聞こえません :2008/08/03(日) 01:01:21 ID:3CMKpLdCO
>>99 確かにまずいかな?とは思ったんだが、
もうコレで決めてしまったんでこのまま最後まで突っ走りますw
あとは苦情が来ないことを祈るのみ。
>>旅人さん
乙でした。
なんかケンカに強くなれそうな気がしてきたぜw
旅人さんは色々なジャンルへ果敢に挑戦しててすごいなぁ。
先を越されてしまってますが、お互い頑張りましょう。
では、続きどーぞ。
一通り現場検分が終わると、BOLCEの死体は司法解剖のため 盛岡大学病院へひっそりと搬送されて行った。 乙下はBOLCEのいなくなったデラ部屋の中央に立ち、 IIDXの筐体と向き合いながら資料に目を通し続けた。 竹之内俊郎。24歳。フリーター。 岩手県盛岡市在住。 本日16:00頃シルバーへ来店した際、 ビートマニアIIDXなるゲームの筐体から首を吊っている被害者を発見し警察に通報した。 被害者とは高校時代からのゲームを通じた友人であり、 今日に至るまでその交友関係は続いていた。 被害者と同様に、事件現場となったアミューズメント・シルバーの常連客である。 同じく被害者と同様に、ビートマニアIIDXなるゲームにて全国的に有名なプレイヤーである……。 そこまで黙読したところで、空気が戻ってきた。 どうやら走ってきたらしく、激しい呼吸音を発しながら 一枚の新たな資料を乙下へ差し出した。 「ご苦労。早かったな」 乙下は空気から資料を受け取り、読み始めた。 「DJネーム『1046』。皆伝。 古くから有名なIIDXのトップランカー。 発狂譜面ではBOLCEに若干劣るものの、 簡易系の譜面では鬼神の如き強さを発揮し、BOLCEに次いで数多くの全一スコアを保持。 『1046式固定運指』の発案者であり、 1P側1046式固定のスタイルで撮影した達人ムービーの数々により、多くのプレイヤーへ影響を与えた。 今年春に開催されたコナミ公式の『トップランカー決定戦2008』にて準優勝を果たす。 IIDX IDは4649-5963。好きな曲はBack Into The Light。 未フルコン曲は冥、嘆き、蠍火、MENDESの4曲のみ。 DJ TROOPERSのWEEKLY RANKINGでSP ANOTHERの一位を取った回数は……ってお前、 事件に関係ない余計なことまで書いてんじゃねーよバカ」
「警察の資料は表面的なことしか載ってないから、 ゲーマーとしての1046の詳しい情報を調べろって言ったのは先輩じゃないすか。 この短時間でここまで調べ上げるのは、並のギャラリー界じゃ無理っすよ?」 まだ整い切っていない息で誇らしげに語る空気に対し、乙下は無視を決め込んで話を進める。 「それで、このトップランカー決定戦とやらで優勝したのはBOLCEなんだよな」 「その通りっす。 要は、この事件の被害者と第一発見者が今のIIDX界のツートップってわけっすね」 「『今の』じゃなくて『昨日までの』だろ」 「……」 情報を知れば知るほどに、事件は不可解さを重ねていった。 殺されたのは世界で一番IIDXが上手い男。 第一発見者は世界で二番目にIIDXが上手い男。 二人は同じ市内に住んでおり、ゲームを通じた古くからの親友であり、またライバルでもあった。 そして、殺されたBOLCEの左手には『1046』を示すサインが残されていた……。 「1046は『1046式固定』の本家本元っす。 BOLCEの左手が誰かを示しているとすれば、彼を置いて他に該当する人なんて絶対いないっすよ」 「それじゃ、1046が犯人だってことか?」 「そこまでは断定できないっすけど……この事件に何らかの形で関わってそうな感じがします」 「まぁ、まずは本人から事情聴取を取ってみてだな。それより、と」 乙下は資料をめくり、「アミューズメント・シルバー脅迫事件」と印字された別のページを開いた。 「今はこっちの件が気にかかる」
「何すかコレ」 「お前が1046について調べに行ってる間、一通り資料に目を通したんだが…… 実は今日の日中、ここで脅迫事件が起こってたようだ」 「脅迫事件?」 狐につままれたような顔をした空気のために、乙下は事件の要点を説明し始めた。 「今日の昼、アミューズメント・シルバーに ボイスチェンジャーのようなものを通した声から電話がかかって来た。 シルバーの店長はそいつから息子の身柄を盾に一億円を要求されたんだ」 「一億円って……いくら何でも無茶苦茶っす」 「そう、無茶苦茶だ。 とても一介のゲーセン店長に払える額じゃない。 しかし、店長は迂闊に警察へ連絡することができなかった」 「なんで?」 「どうやら犯人はごく近くで店長やシルバーの中の様子を監視していることを、 会話の中で匂わせていたようだ。 下手な行動を取ってもし犯人にバレたりしたら、息子に危害が及ぶ可能性があったってことだ。 店長はいてもたってもいられなくなり、外に飛び出した」 乙下はデラ部屋を出て、シルバーの外に向かった。 空気はその後を慌てて追う。 外はすっかり日が沈んでいたが、シルバーのあるアーケード街は活気づいていた。 会社帰りと思しきスーツ姿や学校帰りと思しき制服姿が駅の方角からぞろぞろと歩いて来る。 シルバーの内外をうろつく警官の姿に、往来する一般市民達は何事かと興味の眼差しを注いだが、 乙下は気にする素振りを見せずに説明を続けた。 「店長は近くにいるはずの犯人を探し出して捕まえるという賭けに出るが、 結局犯人を見つけ出すことはできなかった。追い詰められた彼は」 乙下が不意に遠くを仰ぎ見るように焦点を変えた。 つられて空気がその視線の方向へ首を曲げると、 シルバーから100メートルほどの距離をおいて岩手銀行の看板があった。 「銀行強盗を敢行したんだ」 空気はどう相槌を打てばよいか分からないのか、黙って銀行の方を見つめている。 「もちろん何の準備もなく銀行強盗なんか成功するはずもない。 店長はあっという間にお縄さ」 「人質の息子はどうなったんすか?」 「無事だよ。 小学校への登校中に薬で眠らされ、 そのまま人の出入りがほとんどない学校の倉庫で寝かされてたらしい。 夕方に目を覚まして普通に帰って来たってよ。 んで、息子の無事を知った店長は安心して事件の顛末を余すことなく喋ってくれたんだ。 今は留置所で取り調べ続行中だが、まぁ事情が事情だけに情状酌量の余地はあるだろうな」 「てことは、BOLCEが殺されたのって……」 「そう。ちょうど店長が脅迫犯を探して走り回ってる最中だ」 「その後犯人からの連絡は?」 「ない」
「乙下刑事、ちょっとよろしいでしょうか?」 制服警官に呼ばれ、乙下と空気はシルバーの中へ戻った。 「ちょっと気になることがあるんですが……これ、どう思います?」 制服警官に案内された先はシルバーの事務室であり、 小さな金庫の扉が開け放たれているのが確認できる。 乙下は報告書を読んだ。 「なになに……その後の調べでアミューズメント・シルバーの金庫から 売上金200万円が紛失していることが判明している……って書いてあるけど、 つまりこの金庫から200万円が消えてたってことだよね」 「はい。しかし、よく中を見て下さい」 乙下は中腰になって金庫の中を覗くと、中には数十万円ほどの札束が置いてあった。 「50万円あります。 金庫には元々シルバーの売上金250万円が入っていました。 しかし犯人は50万円を残して、200万円だけを持ち去ったのです。 なんで犯人はわざわざこんなことをしたんでしょう?」 「皆目見当つかんね」 店長への脅迫事件。 金庫からの窃盗事件。 そして、BOLCEの殺人事件。 2008年7月16日水曜日、アミューズメント・シルバーで三つの奇妙な事件が同時に発生した。 「空気。お前はこの三つの事件をどう思う?」 「まさか偶然のわけあるまいし、全て同一犯じゃないかと……」 「同意見だ。じゃ、犯人の目的は何なんだろうな」 空気からの返答は無かった。 そして、乙下自身その質問に対する解答は持ち合わせていなかった。 夜の闇と共に深まる謎と隣り合わせになった乙下は、 大きなヤマになりそうだとうなだれた。
――次回、1046への事情聴取に赴いた乙下と空気を待ち受ける驚愕の事実とは――? 〜〜〜 第二話 鉄壁のアリバイ 〜〜〜 to be continued! ⇒
乙 もう何が何だかわかんなくなってきた
>>121 うっ。
もしかして俺、読者を置いてけぼりにしちゃった?
ちょっとマズったかなぁー……
事件発生から一晩開けた7月17日の木曜日、朝10:00。 1046は約束の時間ちょうどに約束の喫茶店へ現れた。 細身で長身の彼は、明るい色使いのデザインTシャツの上に 控えめなストライプ柄のシャツを羽織った格好をしていた。 服装に関しては比較的無頓着な乙下にさえ、 一目でオシャレだと思わせずにいられない洗練された雰囲気を纏っている。 軽く染めた長めの髪にはワックスでボリューム感のあるスタイリングが施されており、 モデルのように整った清潔感のあるルックスにマッチしていた。 「なんというイケメン。彼が1046に間違いないっす」 空気が乙下の耳元で囁く。 店内を見回す1046と目が合ったところで、乙下は手を上げた。 「うっす、アンタが1046さんだね?初めまして、乙下です」 場所をわきまえた乙下は敢えて身分を口にせず、名前だけで自己紹介した。 1046は軽く会釈をして二人の席に近付く。 「初めまして、竹之内俊郎です」 「悪かったね、朝早くからこんなところへ呼び出しちゃって」 「いえ、いいんです。 どうせ家にいても今は何も手つかずなんで……」 「まぁとりあえず座りなよ。 すいませーん、追加でコーヒー一杯お願いね」 1046は「失礼します」と一言断り、乙下の向かいの席へ腰掛けた。 よくよく近くで見ると、1046の顔はどこか血色が悪そうだった。 「昨日は大変だったね。アンタのお友達はご愁傷様だった」 「えぇ。正直、今でもこれが現実だと信じられないです。 BOLCE……あ、いや、三浦は人から恨まれるようなヤツじゃなかったのに」 慌てて本名で言い直す1046を、乙下は笑顔で受けた。 「はは、大丈夫だよ1046さん。 アンタらがデラのトップランカーだってことは分かってる。 お互い『BOLCE』のがしっくり来るんなら、その呼び方でいいじゃないか」 「そうっす、実はボクらもデラのプレイヤーなんすよ。 もちろん1046さんには全然敵わないっすけどね」 「デラ」という俗称をさり気なく使う二人に1046は少しだけ戸惑ったようだったが、 すぐに乙下と同じく笑顔を見せた。 「へー、まさか警察の人がデラをやるだなんて思いもしなかったです。 なんだか嬉しいな」 「俺はついこの前始めたばかりで、まだSP三段の初心者だけどね。 デラを楽しむ気持ちは誰にも負けてないつもりだよ。 だからこそ、デラを汚すような真似をしやがったこの事件の犯人を意地でも捕まえたいと思ってる。 アンタも同じ気持ちだろ?」 1046は垣間見せていた白い歯を唇の奥へ仕舞い込み、真顔に戻った。 「犯人を捕まえるためには第一発見者のアンタの協力が不可欠だ。 どんな些細なことでもいいから、昨日のことを順を追って教えてほしい」 すでに空気はメモ帳とボールペンを構えている。 数秒の沈黙を挟み、1046は語り始めた。 自分に言い聞かせるようにゆっくりと、咀嚼しながら。
「昨日、俺は朝から夕方までずっと『ゲームセンター・ABC』でデラをプレイしてました。 俺もBOLCEもバイトは夜からなんで、昼間はデラをやって過ごすのが日課だったんです」 早速空気がカリカリとメモを取り始めた。 チラリと横を見やると、 「DJ1046、朝からのIIDXが日課。(ちょww廃人乙www)」 などと書かれているので、乙下は1046から見えないよう空気の脇腹に一発食らわした。 たまらずにむせ返る空気を尻目に、乙下は質問を浴びせる。 「昨日はBOLCEも朝からシルバーでデラをやってたってことかい?」 「多分そのはずです。 BOLCEのヤツ、昨日は朝から夕方までデラ部屋のレンタルを予約してたはずなんで」 「デラ部屋の……レンタル?」 「えぇ。乙下さん達も昨日実際に現場を見たのであれば分かると思うんですけど、 シルバーのデラ環境はちょっと独特なんです」 乙下はシルバーの一角にある「デラ部屋」と書かれた扉の向こう側に広がる光景を思い出していた。 六畳程度の狭い部屋。 扉から見て右の壁際にIIDXの筐体。 扉から見て左の壁際には三〜四人程度が座れる長さのベンチが一つ。 それ以外と言えば、せいぜいGOLIのイラストが描かれた宣伝用ポスターが 一枚貼られているだけの殺風景な部屋だった。 「確かに、あんな風にデラが個室に置かれているゲーセンは初めて見たよ。 でもあれはてっきり周囲の騒音からプレイヤーを守るための配慮だと思ってたが」 「もちろんそういう意図もあるんでしょうけど、 昔からシルバーではデラのタイムレンタルサービスってのをやってるんです。 一人一時間400円の料金を支払えば、誰にも邪魔されずプレイし放題になるんですよ。 って言っても、サービスが実施されるのは客足が遠のいてくる新作稼動半年後から。 それも平日の開店から16:00までという期間限定サービスです」 乙下は即座に頭の中で計算をしてみた。 通常であればIIDX一回分のプレイ時間は10分程度なので、 一時間400円でやり放題になるのであればプレイヤーにとっては大きなコストメリットがある。 フリーモードでの粘着や順番待ち等の事態を考慮すると、 ますます魅力的な条件になるのではなかろうか。 逆に店側の立場からすると、 平日の日中という稼ぎにくい時間帯において 他店舗との競争力を強化できることは確実だ。 かくしてプレイヤー側と店側の利害が一致することになる。 なるほど、シルバーの店長はなかなかのやり手らしい。 「確か、BOLCEは昨日WEEKLY RANKINGのスコアを詰めるために 朝一から夕方まで時間いっぱい予約をしていたはずです」 「どうしてそれをアンタが知ってるんだい?」 「デラ部屋の予約状況はシルバーのカウンターに置いてあるノートで随時確認できるんです。 昨日はBOLCEが開店時間の10:00から16:00まで予約しているのを知ってたから、 俺はシルバーでなくABCに行ったんですよ」 乙下は空気に「後で確認しとけ」と目で合図を送った。 空気は小刻みに頷く。
「俺はそのまま夕方までABCでデラをやり続けて、 レンタルサービスの終わる16:00に合わせてシルバーへ行ったんです」 「それはどうして?」 「やっぱりシルバーの方がやり慣れてるし環境がいいから、 なるべくならシルバーでプレイしたいんですよ。 特にモニタのタイプがシルバーとABCでは違うんで、 オブジェの見やすさとか判定位置が微妙に変わってくるんですよね」 「へぇ、モニタに種類なんてあるんだ。空気は知ってた?」 メモに徹していた空気は突然自分へ話を振られたことに驚いたようで、勢いよく首を上げた。 「えーと、その通りっす。 タイトル画面の右上に『DISPLAY TYPE』って文字が表示されてるのを見た覚えはないですか? オトゲ先輩やボクが普段通っている署の近くのゲーセンは液晶モニタで、DISPLAY TYPEはBっす。 確かABCの筐体もBだったはずっすね。 対して、シルバーの筐体はブラウン管モニタで、DISPLAY TYPEはAだったと思うっす」 1046は空気に拍手の仕草を送り、感心の意を表した。 「すごく物知りですね。 彼の言った通りシルバーの筐体はブラウン管モニタで、 これはIIDX GOLDまでの標準仕様だったんです。 昔からやってる俺みたいな人種にとってはブラウン管に慣れちゃってるもんで、 本気でスコアを狙うときにはこっちのが落ち着くんですよ(※注1)」 乙下はモニタが割れてガラスの破片が散乱した事件現場の光景を思い浮かべる。 確かに液晶モニタであれば、あそこまで見事に粉々にはならないであろう。 「それで、シルバーに着いたのが16:00を過ぎた頃ですかね。 早速デラ部屋に入ったら……あの通りでした……」 1046は忌まわしい記憶を追い払うかのようにかぶりを振った。 ※注1: より正確に言うと、初代IIDX筐体に採用されていたのは40型リアプロジェクションテレビであるが、 平成20年の今なおこのモニタが残存しているケースは非常に稀である。 ここで1046が「IIDX GOLDまでの標準仕様だった」と表現しているのは 9th Style以降の筐体で採用された36型ワイドブラウン管モニタのことである。
「悪かったな、辛いことを思い出させちまって。 BOLCEの件は終わりにして、シルバーの店長への脅迫事件について話そうか」 「あぁ、新聞で読みましたよ。 まさか俺がABCでデラに熱中している間にあんなことになってるなんて思いもしませんでした。 やっぱりBOLCEを殺したヤツと同一犯なんでしょうかね?」 「俺はその可能性が高いと思ってるが、何せまだ情報が不十分でね。 何か知ってることがあれば教えてほしいんだ。 例えば最近シルバーの周りで何か変わったことはなかったかとか、 店長の様子はおかしくなかったかとかさ」 「うーん……特に思い当たることはありません」 「そっか」 会話が途切れた。 気まずさを紛らわそうとしたのか、緊張して喉が渇いたのか、 1046は話の途中で運ばれて来ていたコーヒーカップに口をつけた。 「しかしまぁ、シルバーの店長も大変なことになっちまったもんだよな。 まだ小さい子供がいるってのに、これからどうすんだろ」 「……俺、彼とは付き合いが長いから分かるんです。 本当は銀行強盗なんてできるほど図太い人じゃないんだ。 よっぽど精神的に追い詰められてたんだと思います。 BOLCEも店長も、どうしてこんな事件に巻き込まれちゃったんだろう……」 1046のカップを持つ手が微かに震えているのが、テーブル越しからも分かった。 乙下はゆっくりと立ち上がった。 「今日は貴重な時間をありがとう。 アンタの証言を役立てて、きっと犯人を捕まえてみせるよ」 「え、もういいんですか?」 「うん、十分だ。その代わりと言っちゃなんだけどさ」 「?」 乙下は人差し指を真っ直ぐ上に立てた。 「アンタのデラプレイ、一回だけでいいから見せてくんない?」 to be continued! ⇒
続きを書いてしまったんでとりあえず投下しちゃいましたが、
>>121 の感想を見て割と真剣に悩んじゃってます。
話の構成が複雑過ぎるのか、
単に俺の表現力が足りてないのか、
それともスレの雰囲気として過去に投下された作品のように
ライトなものを求められてるのか。。。
あんまりワケの分からない作品を書いてスレの雰囲気を捻じってしまうのも気が引けるし、
かと言ってぜひ最後まで書き続けたいって気持ちがあるのも事実です。
気にし過ぎなのかも知れませんが、読んでくれる人があっての小説ですしねー…
>>128 いや、忌憚のない意見を下さってありがたいですよ。
何にせよ、なるべく読者が分かりやすいように
工夫して書いていくしかないですね。
全力で努力しますんで、生温かく見守って下さい。
ところでNGワードって? GOLIかなw
131 :
旅人 :2008/08/07(木) 23:56:06 ID:7EKl75+R0
今晩は、旅人です。
前回は途中で投げ出すようにして打ち切ってしまって、申し訳なかったです。
連投規制(?)を一度受けて、こりゃ無理だなと思ったので、ああいう風に途中で切ったのです。
(他にも理由はありましたが、言い訳を重ねるのも見苦しいので、この話はここで終わらせます)
さて、ど田舎ゲーセンの怪がエピローグに突入しました。数レス分なので規制は受けないでしょうw
あの事件から無事に生還した小暮探偵らのその後を描くこのエピローグ、お楽しみください。
>>とまと氏
乙です。自分の作品は自信を持って投下しちゃっておkだと思いますよ。
あと、NGワードは多分
>>124 の最初の方の単語かと思います。GOLIよりは前の行にある言葉かと…多分GOLIじゃないでしょう。
(ピンポイントで言えたらいいのですが、言っちゃっていいのかな…と迷っているのでこんなぼかした表現に…)
132 :
旅人 :2008/08/07(木) 23:58:30 ID:7EKl75+R0
町田は自分の市の外を歩いていた。行き先はもう決まっている。彼とも約束はしてあるし、彼が誘ったという人も 十分気になる。まぁおおよその推測は立つが、確信は持てない。歩を進めるうち、彼女は「タラッタタラッタタララララー」と口の 中で歌いだした。町田の横を通り過ぎる見知らぬ人々が、通り過ぎた彼女を振り返っていく。 町田の住む市の名物はゲーセン「白壁」である。そこには市の音ゲーマーの大半が集まる。彼らの大半はマナーを 守り、全ての音ゲーマーの規範と呼べる…と町田は思う。 町田と彼の待ち合わせ場所は、白壁の二階にある休憩スペースだ。そこには数多くのテーブルと、それを囲う数多 いイスがある。大半は町田の顔見知りが座っていて、彼女が彼の座っている席を見つけるのに苦労はしたが、それは すぐに終わった。彼が席から立って、その場で「町田さーん」と呼びかけたからだ。 白壁の二階にある休憩スペース。そこにはいろんな意味で凄い三人が一つのテーブルを囲いながら、人の中に紛れ ていた。一人はトップクラスの腕前を持つ音ゲーマー。一人は凶悪な事件を未遂にした探偵。一人は平和なゲーセン を追い求める青年。その青年が口を開いた。 「こんにちは、町田さん」 「こんにちは、…えーと、ゆうさんだよね。苗字は何て言うの?あの時聞けなかったし」 町田と呼ばれた女性が、彼女に挨拶をした青年に問うた。青年は、あっすみませんでしたなどと言いながら、床に置 いてあった自分のバッグから自分の名刺を取り出し、町田に渡した。 「あ、松木ゆうって言うんですね」 「えぇ。あ、その名刺にもあるように、僕は…何でも屋の社長と、ゲーセンの店長をやってます」 「凄い人なんですね。結構忙しいでしょ?」 「いえいえ。僕は自分の好きな事をやれているから、あまり仕事を苦には感じません。それは多分、町田さんが何か 音ゲーのエキスパートコース5連チャンをやっても疲れないというのと同じだと思いますよ」 いいや、疲れますよ〜と返しながら、町田は青年の隣に座る探偵に話しかける。 「小暮君、私思ったんだけどね」 「何を?」 「自分が言うのもなんだけど…私達って、凄いのかな……」 「何がどのように凄いのさ」 えーと…と考えながら町田は小暮と呼ばれた探偵に答える。 「私は、日本全国で十本の指には入らなくても、それなりに凄い音ゲーマーだって思っているんだ。松木さんは二つ のお店のトップをやって、それでいてゲーセンマナーの徹底にも力を入れている。日本全国のゲーセンに飛び回る事 もあるんでしょう?ネットで見たよ」 「ありがとう。でも、松木さんじゃなくてゆうって呼んでいいですよ。っていうか、むしろそう呼んでください」 「分かった。…私は実力のある音ゲーマー、ゆうは兎に角凄い人。そして小暮君は大勢の命を救った…」
133 :
旅人 :2008/08/08(金) 00:00:38 ID:7EKl75+R0
「………何で町田さん、僕があの事件を解決したって知っているの?」 「そんなの分かるわよ!あなたはあの時、私に一言置いて百万円を残していったでしょう!?」 「…その一言って何?」 小暮が本当に覚えていないと言うように、町田に問うた。町田は本当に覚えていないのかと小暮に確認して、小暮が 本当に覚えていない、思い出せないんだと返してから町田は言った。 「…音楽ゲームクロスワードパズル事件」 少し間があいてから、あぁと間の抜けた声が小暮の口から出た。そして、町田があの事件の真相に触れたかなと思っ て微笑した事も思い出した。 それから、三人は数日の出来事をネタに話をした。小暮が語った、勉強を教えている子供のオリジナルのギャグ。 それを小暮が再現して、町田とゆうが笑った。 町田が語った、自分の腕前の小さな衰え。最近正規の灰冥で鳥がでなくなって来たよと少し落ち込み気味になり、 話を聞いたゆうが「えっ、正規譜面の灰冥でAA出る!?…僕じゃ無理だ、全く考えられ無いよ」と言った。その言葉 に町田は少しばかり元気を取り戻したようである。「まぁ少し指を慣らしてやれば、前みたいなプレーが出来るかも」 と彼女は言った。 ゆうが語った、これまでの自分の体験談。自分と同じ名前を持った旅人との出会い。近所に住む人々との交流と 彼らにかけてしまった迷惑。そして色んなところで体験した非常識なプレーヤーの実態。小暮と町田の二人は、彼 の話を聞いていくうちに「まるでフィクションのようだ」と感じていた。それをゆうに言うと、よく言われますと 返した。 話のネタも尽き、下に降りて遊びましょうと小暮が誘った。折角だから三人いるしセッションしません?とゆう が言い出し、小暮も町田も二つ返事で了承した。小暮がドラム、町田とゆうがギターとベースでプレーする事にし て、三人は百円を投入した。後ろでは、白壁では滅多に見られないセッションプレーを、いや町田が二人に合わせ ていつもより難度の低い曲をプレーするのを見るギャラリーが沸いていた。そんな中、一曲目を選曲する小暮がぼ そりと呟いた。 「……なんか緊張しますね」 「大丈夫大丈夫!馴れれば意外と気持ちいいものよ!」 「ギャラリーなんて普通つかないと思うんだけどな…」 三番目の台詞はゆうが呟いたものである。彼が呟き終わった後、小暮が「これで良い?」と聞いてきた。カーソル に合わされている曲は「puzzle」である。優しいギター、少し激しいドラム、癒される樽木さんの歌声。作者がお ススメする一曲である。この曲を知らない人は、是非この曲をプレーする事をおススメする。 演奏が終了すると、小暮が二人に「いい曲でしょ?」と問いかけた。二人は「私の(僕の)好きな曲BEST10入り ですよ?いい曲に決まってるよ」よ返した。 ちなみに、リザルトは、小暮が緑譜面でA、町田が赤譜面でエクセ、ゆうが黄色譜面でSである。
134 :
旅人 :2008/08/08(金) 00:04:11 ID:peJmUJqn0
その後、ゆうがペパーミントは私の敵を選曲、リザルト画面で「良曲良ムービー」と三人が同じタイミングで言 って、それからクスッと笑った。小暮が緑譜面でA、町田が赤譜面でS、ゆうが黄色譜面でSである。三曲設定なので 町田が「エキストラ狙い?それとも特攻?」と聞いた。二人は同時に「特攻!」と答えて、それを聞いた町田が選 んだのは、timepiece phase Uである。私が引っ張って行くよ!何て言いながら町田は赤譜面を躊躇無く選ぶ。小 暮が緊張気味にスティックを握りなおし、黄ベースを担当するゆうが「オルタ…オルタ…」と呟きながらピックを弾いていた。 「ジャーン…ジャーン…ジャーンジャーンジャーン………」 こんな感じの出だしで曲が始まった。「ドラム…案外簡単なんだけど」と小暮が一人ごちたが、直ぐに町田が、 「スネア連打!」と叫んだ。おぉっ!?と小暮は驚き、それでも降り続けるスネアに対応していく。一気に激しくな る曲調に合わせて町田の譜面がヤバくなる。そんな譜面を正確に捌いて演奏する町田の腕前に見惚れてか、ゆうがオ ルタはまりを起こしてしまった。「あっ…ヤバいヤバいヤバい!」ゆうが担当するベース譜面は終始オルタが延々と 続くものなのだが、オルタはまりを起こしてしまったのは悲劇だった。ゲージがギュイーンと下がる。町田がゆうを 「頑張って!」と両手を常人では考えられないような速さで動かしながら励ましたが、ゆうの無念そうな大きな一声 と同時にステージフェイルドとなった。 三人は再び二階に上がり、自動販売機で思い思いの飲み物を買って、それを飲みながら話をし始めた。 「ゆう、いくら私の腕前が〜って言い訳しても、あなたのせいで落ちちゃったんだからね?」 「すみません…まだまだ、僕の腕が足りませんでした」 「いやいや、そんな本気で謝らなくても。元々特攻だったじゃない。ゆうがオルタはまり起こさなくても小暮君が失 敗してたかもしれないし。私が失敗していたかもだし。…でも、ゲームだしね。そんなので一々文句たれてたら駄目 よ。私、私の価値を自分の手で下げたくないもの」 町田はそう言って、そして笑った。ゲームなのだから、誰のせいで落ちた落ちないなんてムキになっていがみ合う事 ではない。それは小暮も、ゆうも、共に分かりきっていた事である。 三人は再び話をし始めた。その途中でゆうがこんな提案をした。 「いつの日か、また3人で…いや、僕と小暮探偵、町田さんが誘いたい人を誘ってパーティでもしません?」 小暮と町田はその提案に同時にこう答えた。 「いいですね、それ!」「いいじゃん、やろうよ!」 「ありがとう!じゃ…今年中にはやりましょう。いつやるかは分からないけど…お互いの携帯電話の番号も交換しまし たしね。相互で連絡は取れるから…日時が決まった日に、電話をかけますよ」 こうして、彼ら三人の再会は約束された。2008年のいつか…彼らはまた出会い、彼らそれぞれの友人を伴って、交流 の輪がどんどん広がっていくのだろう。それは静かで、ゆっくりとした流れながら、確実に広がっていく。
135 :
旅人 :2008/08/08(金) 00:11:51 ID:peJmUJqn0
いかがでしたでしょうか?これにて「ど田舎ゲーセンの怪」は完結しました。
このエピローグは、今年中には今まで出してきた作品の登場人物をほぼ全員出すお話を
書くぞ!という予告です。一部誤字脱字があると思うのですが、それは脳内で修正してください。
以前予告した七夕のお話なのですが、今日の夜くらいに投下できればと思っています。
一日とはいえ、タイミングを逃してしまった事は、正直失敗した…と思っています。
(後、前回の投下分の中のGOLD RUSHネタが意外にも好評だった事が、嬉しくてたまりません。
>>113 氏、
>>114 氏、>>とまと氏、ご感想ありがとうございます。それではもう時間が時間なので寝ます…)
旅人さん乙 みんなで総出演期待してます
137 :
旅人 :2008/08/08(金) 23:54:01 ID:peJmUJqn0
>>136 ありがとうございます。期待を裏切らないものを書けるように頑張ります。
これから前々から
>>55 で予告していた、八月七日の七夕の話を投下いたします。
短編なので規制は受けないでしょうし、すぐに完結する話なので煩わしさも殆どありません。
ただ、話の内容がこれまでのものと似たり寄ったりなので、どこかデジャブな感じがするかもしれません。
そろそろうだうだ言ってないで、本編を投下します。どうぞ。
138 :
旅人 :2008/08/08(金) 23:57:25 ID:peJmUJqn0
「優ちゃーん、今日は狸の泉に行くけど、一緒に行く?」 母が私にそう問いかけた。私の名前は、母がもう言ったから言わなくても分かる と思うが、優という。家の前の表札を見れば、加瀬優という事も分かるだろう。 「狸の泉〜?…………」 オウム返しをして、しばらく黙っていた私に、母が早く決めてくれという旨の言 葉を私に言う。その後直ぐに私はこう答えた。 「行く」 狸の湯、という温泉施設がこの田舎町にはある。あちらこちらに畑があって、 都市とかで見かけるコンクリート製の建物の姿はあまり見つからない。前にこの 町から、転校を理由に去ってしまった私の友人が電話をかけてきた時にこう言っ たのを覚えている。 「私…やっぱり田舎が性にあうみたい。耐えられないよ、都会なんて…」 でも、彼女にとって都会に移り住んだ事で一つ好都合な点があった。それは彼女 の趣味に起因する。あるゲームを彼女は好んでいたのだ。 「でもさ、やっぱり都会って良い所もある。…ゲーセンの数が多いのよ。おかげ で昨日は4クレをIIDXに使っちゃったわ」 あるゲームとは、ビートマニアIIDXという音楽ゲームの事だ。彼女はあのゲーム では、中々の腕前を誇っている。だが、都会のゲーセンのある人間達によって、 彼女がそのゲームをプレーする事はなかった。 彼女がいつものように、引越し先で見つけたホームゲーセンに入店すると、何や ら変な人たちがIIDXをプレーしていた。設置されてあるベンチで順番を待ちながら 彼らの方を見ていると、奇妙な事に気がついた。いや、そのときはまだ、奇妙でも なんでもなかったのだが… IIDXには段位認定というモードがあり、それによってプレイヤーの腕前を判別 する事が出来るのだと彼女は語った。彼女が言うには、シングルプレー、SPと書く が、それで取れるのは最低の七級から最高の皆伝まで、ダブルプレー、DPと書くそ れでは、五級から皆伝までが取れるらしい。 彼らはSPDP問わずして十段以上を取っていた。彼ら、と言っても二人なのだが、 その二人が筐体の前に立っていた。彼らはバトルをしていたらしく、鳥を出しな がらも僅差で勝ったり負けていたりとそのレベルは高かった。彼女いわく、鳥とは 演奏終了後に出るリザルト画面にて表示される「DJ level」と呼ばれるものの最高 ランクの別称との事らしい。
139 :
旅人 :2008/08/08(金) 23:59:20 ID:peJmUJqn0
さて、彼らがプレーを終えたところで彼女がプレーしようとしたところ、彼ら は何故かそこを退かず、続けてプレーしようとコインを投入しようとしていた。 「ちょっ、次は私の番ですよね?」 彼女ははっきりと彼らに言い、筐体の前から退いてくれるようにと続けた。しか し、彼らのうちの一人が彼女に返した言葉は意外なものであった。 「何で?何で下手糞相手に退かなきゃいけないの?」 …彼女は自分の耳を疑った。彼らのうちの一人が続ける。 「僕らの事、知らないんだ…ここらで一番上手いプレーヤーさ。ランカーとまで はいかなくてもね…スコア上げをこれからここでがんばろっかなーって思ってこ こに来たんだけど。下手糞にプレーさせてあげる余裕はないんだよ、ねぇ?」 「そうだねぇ、下手糞が下手なプレーして、時間が潰れるのはいやじゃん。え? 何か違うか?」 彼女はようやく、自分の耳が腐ってない事に気がついた。こいつ等は何かがおか しい。舌打ちをして彼女は店を出て、家に帰っていった。そして、この話を私に 教えてくれたのだった。 そんな話を思い出したのが、狸の湯に行く事を決めた理由でもある。今日この 日なら、あの場所で短冊に願い事を書いて笹に飾り付けをする、七夕と呼ばれる 行事が行われるからである。毎年例外なく、そこでは子供達が色とりどりの短冊 に願いをこめて、それを笹に飾るのだ。 私の友人が語ってくれた話にはもう少し続きがある。それからというもの、そ の変な思想を持ったプレイヤー達が増えたのだという。彼女は彼らがいない時間 帯を狙っての入店を繰り返し、店員らにも彼らをどうにかしてくれと言ったのだ そうだ。が、彼らは既に店員らと結びついていた。彼女はそのゲーセンで孤立し てしまっていた。他のゲーセンに行こうとしたが、それは止めたのだという。彼 女が行っていたゲーセンをホームにした理由が、引越し先で一番条件のいいゲー センであったから…である。他のゲーセンはどこもかしこも糞メンテ、糞プレー ヤーの巣窟と語っていた事もあるから、それは確かなのだろう。音楽ゲームをプ レーするにあたって、彼女の安住のゲーセンはそこではもう存在しないのだ。
140 :
旅人 :2008/08/09(土) 00:01:29 ID:peJmUJqn0
それから何分かが経った。私は母の運転する車の助手席に座って、狸の湯を目 指していた。山道を運転しながら母が私に聞いた。 「優ちゃん、今年は何をお願いしてみるの?」 「秘密。それは、人に言っちゃったら面白くないじゃない」 内心、母が何を聞いてくるかは分かっていた。母が右にハンドルを切りながら、 それもそうねぇと返した。 …短冊に願い事を書いたらそれは叶うのか。それは違うだろう。彦星だか織姫 だか何だかよく覚えていない(その無知を近所の幼稚園児が知った時、思いっきり 馬鹿にされた。七夕なんかどうでもいい…と思っているから、どうって事はない のだけれど)が、それがどうしたというのだ。知らなければ何か不吉なことが起き たりするのか。それはないだろう。 クリスマスにやってくる、自分の注文したプレゼントを運ぶサンタクロースが、 大抵は自分の親であるように…七夕もまた、そんな…良く言い表せないけど、そん なようなものじゃないか。それが私の七夕に対する思いだ。 狸の湯で入浴を終えた後、私は母にソフトクリームを買ってもらった。未だに 母は、私にバニラ味のそれを買い与えておけば機嫌が悪くないと思っているよう である。実際、それを貰って悪い気はしない。 そして私はそれを食べ終えた後、右手に持っている小さな安物のカバンから更 に小さな財布を取り出し、そこから百円を取り出し、ここのゲームコーナーへ向 かった。ここは珍しく音楽ゲームの筐体を置いてあるのだ。ただ、それがポップ ンしかなく、しかも11で止まってあるということを視野に入れると、レアなのだ と思うか、早く新バージョンの16を導入してくれよと思うのかは人それぞれだと は思う。私は後者ではあるが、ポップンは狸の湯に行った時しかやらないからあ まりそれを不便に思わない。 1プレー百円、3曲設定であり、良メンテであるその筐体を置いてあるゲームコ ーナーは優良店であると、先の私の友人が太鼓判を押していた。今思えば彼女が どのようにしてIIDXと出合ったのかが不思議なのだが、多分KONAMIのネット通販 か何かを通して、家庭用のそれを手に入れたのだろうとは推測できる。実際、彼 女はそんな事を匂わせる話をした事があった。 私はポップン11の筐体の前に立って、百円を投入した。そしてNORMALモードを 選択する。既に隠しは解禁されているのだが、私はあまり隠し曲をやらない。一 曲目は何をやろうかなと考えてはいた。「怒れる大きな白い馬」のノーマルだ。 この曲は私も友人も好きで、バトルする時なんかはこの曲は一曲目の選曲時に必 ず選ばれていたものだったな…と私は昔を懐かしんだ。
141 :
旅人 :2008/08/09(土) 00:03:41 ID:50EsEoQx0
二曲目には「僕の飛行機」ハイパーを選曲した。友人がこの曲をプレーする事 を勧めていた事を思い出した。ほら、これは良曲良譜面なんだから。だから絶対 いつかはNとHとEX譜面をクリアーしてね!そう言った彼女の顔が思い出される。 毎回プレーするたび、いい曲だなと思う。サビの盛り上がりとか、最後の〆とか そういうのが私好みである。宮永さんの歌も良い。あれ、曲は誰が作っているん だろう…?と疑問が一つ生まれたが、誰であっても良いような気がした。例が極 端だが、極悪人がこんな曲を書いたとしても良いんじゃないか?そんな風に私は 考える。人の人格と、その人の持つ力は切り離して考えるのが、私の考え方なん だ…とリザルト画面を見ながら私は自分を再確認した。 そんなこんなで三曲目は適当に選んで、そして私はゲームコーナーから出た。 それから私は、毎年恒例のこの日だけの企画に参加する。 その企画とは、8月7日には狸の湯で七夕祭りを開催するというものである。笹 も用意され、短冊も用意され、後は子供たちの幼稚かつ勝手な要望が短冊に書か れ、笹に飾られるだけだ。 私は、私がその時書いた願いが幼稚なものではあるかも知れない、と思った。 そしていかに勝手なのだろうとも。でも、これ位はしなければ、友人のような目 にあう人が増えるかもしれない。彼らが自力で立ち上がれれば良いが、そうでな い人の方が多いだろう。彼らを守ってやるだなんて思っちゃいない。勝手な奴ら を、その実力を超えた上で蹴落としてやりたい。私はそう思っていたし、今も思 っている。 笹が飾られてあるところの近くには、赤青白黄の四色の短冊と小さな油性のサ インペンが置かれてあった長い机があった。そこには幼稚園児(位の年齢と見受 けた)らが並び、流行のヒーローになりたい!とかの荒唐無稽な願い事を書いていた。 笹に「○○マンになりたい!」などの、物凄くありふれた願いが書かれてある 短冊が数十飾られてきた頃、ようやく私の番が回ってきた。私はサインペンのキ ャップを取って白の短冊を選び、キュッキュッと願い事を書いた。 「私が世界で一番音楽ゲームがうまくなりますように。そして、調子に乗って他人 を傷つけるプレイヤーを容赦なく批難できますように。…全ての人が平和でありますように」
142 :
旅人 :2008/08/09(土) 00:09:49 ID:50EsEoQx0
いかがでしたでしょうか?これにて「七夕の誓い」はお終いです。 簡潔にまとめると、友人の復讐のために音げーを上手くなってやるぞと 短冊に書いてそれを誓いとした、優という名前の少女のお話です。 あと、この話で何気に「三人目のゆう」を出すことができました。 前々からこの「三人目のゆう」をこんなポジションで出したい…という願いはあったのですが、 七夕はそれをちゃんと叶えてくれました。織姫と彦星に感謝感激雨霰ってところでしょうか。 「ど田舎」エピローグで予告した「オールスター出演物語(仮)」の前にもう何個か 短編を書けたらなと思います。思うのであって、実際に書いて投下できるとは限りません。 予定は未定ってとこだと思います。それでは、皆様おやすみなさい
Wikiの中の人です。 ちと仕事が忙しく、盆明けまで動けない状態です… この時期に仕事が大量なのは辛いですなorz もし時間が空いたら保管していきますので、更新はもうしばらくお待ちください。
>>142 乙
あの子は下克上狙ってるのかなぁ…(それはないと思うが
馬鹿にはされたくないよねゲームだとしても
下がりすぎなので。
ゲームセンター・ABCはシルバーのあるアーケード街を徒歩で15分ほど南下した場所にあった。 ただしアーケード沿いに顔を出しているシルバーと異なり、 細い路地を曲がって少し進んだ上に、地下への階段を下りなければ入店できないため、 立地条件は明らかにABCの方が劣っていた。 勝手知ったる様子の1046を先頭に乙下と空気が続く形で、三人は階段を下りる。 自動ドアがスライドすると同時に、ゲームセンター特有のけたたましさと 煙草の臭いが乙下の耳鼻に飛び込んできた。 しかし、音の成分のほとんどがゲームの奏でるBGMや効果音であり、人のざわめきが聞こえない。 実際、薄暗く天井の低い店内に、客と思しき人間は全く見当たらなかった。 客足が芳しくないのは平日の午前という時間帯のせいだけだとは、到底思えない。 そんな乙下の考えを読み取ったのか、1046が解説した。 「ここ、見た目はアレなんですけど、 品揃えがマニアックでそっち系の人には人気あるんですよ」 やたら代名詞が多い抽象的な説明だったが、 乙下には1046の言わんとしていることが何となく伝わった。 UFOキャッチャーやメダルゲーム等のライトなゲームは一切置かれておらず、 敷地のほとんどをビデオゲームが占めている。 モニタの中ではドット絵のキャラクタや戦闘機が動き回っており、 どこか前時代的な様相を呈していた。 おそらくは往年の名作と呼ばれるゲーム達なのであろう。 それらを申し分ないほど入荷しているABCは隠れた名店、といったところか。 「ボクも近くを通ったときに寄ることはあるんすけど、 どうも雰囲気が怖くてすぐに出てきちゃうんですよねー」 「キモオタのお前でさえそんな体たらくかよ。 この店、本当に営業成り立ってんのかな」 1046の案内で店の奥に進むと、 入口からは死角になっていて見えなかったが、 この澱んだゲームセンターの最深部にIIDXが設置されていた。 ディープなタイトルが揃い踏みする中、 キャッチーで華やかなビートマニアの存在は異質にも感じるが、 その一方でDJ TROOPERSというアンダーグラウンドなコンセプトは 文字通り地下にあるABCという空間に相応しいようにも感じる。 そんな矛盾した感情を抱えつつ、乙下はIIDX筐体に近付いた。
1046は筐体を囲むように取り付けられたカーテンの中へ入った。 モニタへの照明の映り込みがプレイに支障をきたすことを防ぐため、 このように光を遮るためのカーテンを筐体に取り付けている店は多くある。 しかし自分のプレイを見るためにここへ来た乙下と空気に気を遣ったのか、 彼はすぐさま中からカーテンを開け放った。 続いて財布から白いカードを取り出し、慣れた手つきで左側のカードリーダーへ挿入する。 「へぇ、白いイーパスなんてあるんだ」 「違うっすよオトゲ先輩。 使い込み過ぎて表面が真っ白に削れちゃってるんです」 「……途轍もないな」 聞きなれたエントリー画面の音楽と共に、 DJ 1046のプレイデータが表示された。 やはり「皆伝」の文字が持つカリスマ性には魅力を感じずにいられないものがある。 DJポイントは11,000ほどだが、こちらは凄いのかそうでないのか、乙下には分からなかった。 「何をやりましょうか?」 「何でもいいよ」 「何でもいいが一番困るんですよぉ」 1046は苦笑いをしつつ、STANDARDモードを選んで決定した。 選曲画面に移ったところで、乙下は思わずため息を漏らした。 「おおぉぉ、なんだこりゃ」 目が痛くなるほどにあらゆる曲が光り輝いている。 乙下のゲームデータの中にも同じように輝いている曲はあるが、 確か☆4以下の簡単な曲の中にいくつか点在しているだけだったはずだ。 横で空気も顔を紅潮させている。 「ちょ、すみませんが、フォルダ閉じてみせてくれないっすか!?」 「どうぞ」 1046が軽く黒鍵を押す。 曲名が消えてフォルダ表示になったが、それでもほぼ全てのフォルダが光り輝いている。 特にLEVEL1〜11までが白い点滅で埋め尽くされている光景に、乙下は圧倒された。 昨日空気が持ってきた報告書には「未フルコンは4曲のみ」と書かれていたが、 実物のこの神々しさを紙の上から感じ取ることは決してできないことを乙下は悟った。 「スゲー、スゲェェェー!スゲスゲー、スゲスゲヴォーーー!!!」 馬鹿の一つ覚えのようにスゲーを連呼する空気だったが、 同じ気持ちの乙下に彼を咎める気は起きなかった。 しかし人から感動されることに慣れているのか、1046は平然としたものだった。 「とりあえず俺の好きな曲を選びますね」 1046は滑らかにターンテーブルを回してLEVEL 9フォルダを開き、 その中からBack Into The Lightを選曲した。
空気の報告書にも1046のお気に入りとして書かれていた曲だ。 1046はSTARTボタンを押したかと思うと、 ほんの一瞬の内に流れるような動作でハイスピードとSUD+の設定を適正値に合わせてしまった。 この仕草だけで彼がただ者ではないことを十分に把握できるが、 それ以上に乙下を驚嘆させたのは、画面右のスコアグラフだった。 中心の自己ベストグラフは理論値スレスレのラインまでそびえ立っており、 右側のターゲットグラフも全く同じ高さだった。 それもそのはず、1046は「全国TOP」をターゲットとしており、 全一スコア保持者は他ならぬ1046自身だった。 やがて「READY!」のエフェクトを皮切りに、イントロが始まった。 綺麗目のシンセ音の粒が寸分の狂いも無く背景音に乗る。 少なくとも乙下の耳にはそう聞こえた。 パチパチと小気味よく鳴る打鍵音さえ、音楽の一部であるかのように正確だった。 レーン上では「GREAT」が張り付いたように表示され続けている。 あまりにJUST GREATしか出ないため、 その文字に乙下は段々と酔っ払った時に近い奇妙な感覚を覚え始めた。 一種のゲシュタルト崩壊だ。 1046は背筋を伸ばし、真剣ながらどこか余裕のある力の抜き加減を滲ませていた。 その立ち振る舞いには美しささえ感じる。 乙下はどこぞの開脚猫背プレイヤーに、1046の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだった。 この芸術と言っても過言ではない完成されたプレイスタイルに見とれていた乙下だったが、 本来の目的を思い出し、視線を1046の手元に移した。 1046の左手を注視する。 肘から先にある関節という関節をフルに活用し、 器用に親指を1鍵、中指を2鍵、人差し指を3鍵に割り当ててオブジェを捌いている。 また、小指は手の甲から外側に張った状態でスクラッチにあてがわれている。 まさにBOLCEの左手と同一の形状だった。 「これが1046式固定ってやつか」 「そうっす。ボクの言った通りでしょ」 結局黄グレが出ることもほとんどないまま、FULL COMBOの青いオーロラが湧き上がった。 最終的には自己ベストに若干遅れをとったものの、 理論値マイナス30点という化け物じみたスコアだ。 「スゲー、スゲェェェー!スゲスゲー、スゲスゲヴォーーー!!!」 懲りずに空気が騒ぎ立てるが、やはり乙下の心中も同じだった。 ――これがトップランカーの実力なのか。 続く三曲は空気のたっての希望により、☆12の高難易度曲が選ばれる運びとなった。 曲目はVANESSA・AA・PARANOiA 〜HADES〜の順番であり、そのいずれにおいても 当たり前のようにAAAを叩き出す姿はさすがと言うより他にない。 空気はますます興奮し、彼自身パラノイアを患ってしまったのではないかと 心配になるくらいスゲスゲを叫び続けた。
ゲーム終了しイーパスを財布に戻す1046に向かって、 空気は「君、ビートマニア上手いねぇー」と囃し立てた。 何かの冗談のつもりらしいが、1046は軽く受け流す。 「ありがとうございます。でもまだまだですよ」 「まだまだなもんか。 アンタほどデラが上手い人がこの世にいるなんてなぁ。 俺にはまだ今見たものが現実だと信じられねーよ」 その刹那、1046の目が細まったのを乙下は見た。 憂いを帯びた何かが彼を締めつけているようだった。 「BOLCEは……こんなもんじゃなかった」 数秒の沈黙が訪れた。 その間、乙下は今しがたモニタで繰り広げられていた「レース」を思い出していた。 一曲目のBack Into The Lightにおいては、全国TOPは1046だった。 だがしかし、二曲目以降の「発狂譜面」と呼ばれる曲達においては、 いずれも全国TOPのオーナーはDJ BOLCEであった。 そして、そのグラフの伸び方は1046の自己ベストから軽々と差を広げ続けるという、 完全に一方的な展開しか見せなかったのだ。 BOLCEという絶対的な存在は、1046に何をもたらしたのか。 今の乙下にそれを知る術はない。 だから、自ら進んで真実を掴み取らなければならない。 乙下は勇気を振り絞り、その一歩を踏み出した。 「あまり回りくどいのは好きじゃなくてね。 この際、はっきりと聞くことにさせてもらうよ。 昨日、アンタはBOLCEを発見するまで ここでずっとデラをしていたと言ってたが……それを証明できるか?」 DJ TROOPERSのオープニングムービーに合わせ、 サイレンの音色とパーカッションのリズムがスピーカーから溢れ出す。 それは、乙下の受難の始まりを告げる警鐘だったのかも知れない。 to be continued! ⇒
>>旅人さん その言葉に勇気付けられました。 どうもありがとう。 ってワケで懲りずに続きを書きました。 作品の性質上、どうしてもある程度は複雑な話になってしまうことと思いますが、 そこをなるべく分かりやすく書くように頑張っていきます。 その上で、とにかくクオリティ第一を念頭に置いて製作してますんで、 きちんと読んでいただければ必ずや驚きと興奮を差し上げることができると信じています。 ですので、「ミステリはちょっと……」という人も 騙されたと思って読んでもらえると幸いです。 それでは次回をお楽しみに。
とまと氏乙 また新しい作品として乃木坂の秘密みたいに 憧れの才女が実はUDXre(CS専門)だったという話が見てみたいなぁ 家のTVで5.1chで寺ができる環境とか実際にはいるのだろうか…
1046は乙下と目を合わせずに言った。 「俺を疑ってるってことですか」 先刻までのすました口調がどことなく上擦っている。 「関係者のアリバイは全員分を確認するのが通例なんだ。 別に特別アンタを疑ってるわけじゃないんだよ。 まぁ、疑ってないとは言わないけどね」 「それじゃやっぱり半分は俺を疑ってるってことじゃないですか」 「そう聞こえるかな」 「そう聞こえます」 1046は未だ乙下と合わせようとしないその目線をIIDXのモニタに向けながら、 落ち着かなさそうに首の付け根を掻く。 「俺は昨日の昼間、ずっとここでデラをやってました」 「それは聞いた」 「俺はデラをやる時、必ずイーパスを使います」 イーパス? 予想外の単語を、乙下は口の中でオウム返しにした。 「乙下さんもデラをやるなら分かると思うんですけど、 イーパスを使えば『いつどこで誰がプレイしたか』って情報がコナミのサーバーに記録されるんです。 このデータを照会してもらえさえすれば、 俺が昨日の昼間はずっとABCにいたってことの証明になりませんかね」 乙下が空気に「そうなのか?」と目で訴えかけると、 即座に「そうです」と目で返事をされた。 空気が言うのであれば間違いないのであろうが、乙下はあくまで気丈な態度で臨んだ。 「それだけかい」 「そうだなぁ……あ、あとアレなんかどうです?」 1046が指し示したのは、対角線上の天井に据え付けられている古びた監視カメラだった。 「あの角度だと、トイレに行く度に必ず姿が映り込むと思うんです。 昨日は何回かトイレに行ったんで、 ちゃんと録画されてれば俺の姿も撮影されてるはずですよ」 「なるほどね」 乙下はわざと明るい声色を発しながら、1046の肩を叩いた。 「おし。それじゃ後はこっちでアンタのアリバイを確認しておくよ。 裏が取れ次第、晴れてアンタは無罪放免だ」 「それはどうも」 手の平を返したような打って変わった態度を不愉快に思ったのか、 はたまた後ろめたい事情でも抱えているのか、 1046は最後まで乙下とまともに目を合わせようとはしなかった。
三人はABCを出て階段を上がった。 最後尾の乙下が地上へ顔を出す頃には、 1046はさっさと電柱に繋いだ盗難防止用のチェーンを開錠し、 自前のマウンテンバイクに跨るところだった。 「ご苦労さん。 今日はわざわざスーパープレイまで見せてもらっちゃってどうもね」 「いえ。それじゃさようなら」 ありふれた別れの挨拶だったが、 乙下にはそこへ拒絶の意志が含まれているように聞こえた。 初対面の刑事に突然容疑者扱いされたら無理もないだろう。 1046は勢いよく背中を持ち上げ、立ちこぎの体勢に入ったかと思わせたが、 すぐに急ブレーキをかけて片足を地面につけた。 僅かな角度だけ乙下の方を振り返り、流し目を送ってくる。 そして、 「俺はやってない」 とだけ言い残し、そのまま走り去った。 陰気な地下空間の薄暗さに慣れきってしまった眼には真夏の太陽が眩し過ぎて、 1046がどんな気持ちを込めてその言葉をこぼしたのか、乙下には測りかねた。 1046の背中はみるみる小さくなり、やがて十字路を曲がって消えてしまった。 「さすが1046氏、噂通りファッションセンスもグレートも光ってたっすね」 「誰が上手いこと言えっつったよバカ。 んなことより、アイツも前にどっかで見た気がするんだけど」 「だーかーらー、この前トプラン決定戦のDVD見せたじゃないっすか。 彼は準優勝者っすよ。物凄くたくさん映ってました」 「そういやあんな感じのヤツが出てたような気がしてきた」 とは言ったものの、乙下の内心には釈然としない胸のつかえのようなものが残った。 「んー、けどなぁ。もっと前にもどこかで見たような気がするんだよね。 実はBOLCEの死体を見た時も同じ感想だった」 「盛岡は狭いですからねぇ。 しかも同じ趣味持ってれば、どっかで擦れ違うこともあったんじゃないっすか」 「それもそうかな。とりあえず今度そのDVDもう一回見せてよ」 「いいっすよー」 乙下は霞がかった古い記憶の検索を諦め、 事件の解決へ意識のベクトルを戻した。 「空気、お前もしかしてビンゴかもな」 「え。何の話っすか」 「ほぼ間違いなく、1046はクロだ」
空気は下品なにやけ方をしながら指を鳴らした。 「フヒヒ、やっぱあのダイイングメッセージは1046を示してたってことをご理解いただいたんすね」 「それもあるんだけどさ。アイツ、決定的におかしなことを口走りやがった」 「おかしなこと?」 「1046はな、知ってるはずのないことを知ってたんだ」 「どういうことですか?」 乙下は一度深呼吸をし、噛みしめるようにその事実を言葉にした。 「BOLCEがシルバーで殺されたことも、店長による銀行強盗事件も、確かに新聞に載った。 けど今回は事情を慮って、警察はマスコミに対して情報の全てを開示しなかったんだよ。 つまりな、『銀行強盗事件の犯人はシルバーの店長』だってことは伏せられてたんだ」 「あ……っ!」 「銀行強盗事件が起きたのは昨日の14:00頃だ。 ABCの奥で黙々とデラをやってたはずの1046が、 ここから歩いて15分もかかる銀行の強盗事件の犯人をどうして知ってるんだろうな?」 「だからオトゲ先輩ってば、あんな強気な態度でアリバイ聞いたりしてたんすか」 「まぁな」 「あれ?だけど、アリバイと言えば……」 空気は両手の指をこめかみに当てて目をつぶった。 「彼、自信満々にアリバイを主張してましたよね。 あのアリバイが本当だったとしたら、オトゲ先輩の推理は通らないっすよ」
「そう、それが気になってたんだよ。 アイツ、イーパスを使えば『いつどこで誰がプレイしたか』が 記録されるとか言ってたけどさ、それマジなの?」 「おそらくマジかと。オトゲ先輩、ちょっと携帯でIIDXのサイトを開いてみてもらえますか」 突飛な申し出だったが、IIDXの知識で乙下を圧倒的に上回る空気に、無言で従うことにする。 乙下は携帯電話を取り出し、「DJ TROOPERS」のブックマークを選択した。 空気の強い勧めに折れてe-AMUSEMENTの会員になったのは今年の春の話だった。 最初は月額300円の支払いに抵抗を持っていたが、 「MyBestRanking」の日々の変動や画面のカスタマイズは少なからず楽しいものがあり、 結局解約せずに今日へ至っている。 「『DJ Data』の一番上にある『ステータス』を選んで下さい」 「どれどれ……DJ OTOGE、段位認定SP三段。 うわっ、プレー回数180回?俺こんなにやってたのかよ、キモいな」 「いやいや、どちらかと言えば少ない方なんで心配いらないっす。 ボクなんてその10倍以上っすから」 「俺はお前が心配だよ」 「放っといて下さいよー。ボクが見せたいのはそのもう少し下っす」 空気に促されて下へスクロールさせると、 そこには「最終プレー時間 08/07/16 17時頃」とあった。 ちょうど昨日空気とデラをやっていた時刻だ。 「そこには『17時頃』って感じで大まかな時刻しか出ませんけど、 きっとコナミのサーバーには正確な時刻がデータとして記録されているんだと思うっす」 「なるほどなぁ」
「それから、一つ前のページに戻って『ライバル』を選んで下さい」 「おいおい。俺ライバルなんて一人も登録してないんだけど」 「いいから選ぶっすよ」 乙下はライバルのページを開き、「未設定」がズラリと並んでいる様を空気に突きつけた。 「どこでもいいから『未設定』の一つを選んでみて下さい」 「どれどれ……『登録したいライバルのIIDX IDを入力してください』だとよ」 「その下です」 またも空気の指示でスクロールすると、「検索」の二文字が次々と現れた。 DJ Nameから検索、EXPERTから検索、段位から検索、そして同じ店舗から検索。 「なるほど、読めたぞ」 乙下は「同じ店舗から検索」を選ぶと、 行きつけのゲームセンターで見た記憶のある名前が一覧で表示された。 中には空気のDJ Nameも含まれている。 「誰がどこでプレイしたか、って情報もサーバーにはきちんと記録されてるってことだな」 「そういうことっす。 ですから、昨日の1046のデータを調べれば 本当に一日中ABCでデラをやってたかどうかが明らかになるってことっす」 「ふーん……」 果たして本当にそうなのか、と乙下は猜疑心を浮かべたが、 ひとまず今は深く追求しないことにした。 「よし、今すぐコナミに問い合わせて1046のイーパスの履歴を洗え。 ABCの監視カメラもチェックして、1046が映っているかどうかを徹底的に調べろ。 それからシルバーとABC周辺での目撃情報の聞き込みだ。頼んだぞ」 「了解っす!……オトゲ先輩はどうするんすか?」 「俺は、シルバーの店長に会いに行く」 to be continued! ⇒
沈み気味なので上げとく。
あと、とまと氏は
>>1 を改めて読んだ方が…
いくら過疎ってるとはいえ、何もなしに投下して無言で去るのは如何なものかと…
>>157 上がってねーぞw
それからそこまで言わなくてもいいんじゃ?
という訳でage
失礼しました。 毎回投下終了時には"to be continued"を明記しているので それをもって終了宣言のつもりだったんですが、 何かしらきちんと書き込んだ方がよかったですね。 今後気をつけます。
臨時まとめWikiの中の人です。
お盆も終わって仕事も一段落したので、漸く更新できました。
とりあえず、ここまで投下された作品を全てを保管。
そして、wiki内の全作品ページにコメントフォームを付けました。
過去に投稿された作品にも感想を書き込めますので、是非ご利用下さい。
>>159 投下お疲れ様です。
話も段々深まってきましたねー
これからの展開に期待しております。
>>159 乙。
さて、これからどうやって話が核心に向かっていくのか…?
話の運びが上手いですな、続きにも期待!
>>とまと氏、まとめWikiの中の人 亀ですが、乙です。まとめWikiのコメント設置欄、あれによってまとめがどうなっていくのかが楽しみです。 「トプラン殺人事件」は最初から犯人が分かっているところが「古畑任三郎」みたいだなーって感じで楽しんでます。 (でも、古畑のドラマはスマッ○が出演してたものしか見たことがないです。適当言ってすみません) 8/24、めでたくDJTのSP九段に合格した旅人です。 今までゆとり八段を名乗ってきましたが、堂々とDJT九段を名乗れそうです。 多分、CSHS、DD、GOLDでの頑張りが功を奏したようです。三作ではSP九段ですし(GOLDの九段はキツイと思いましたが) さて、その興奮が冷め止まぬ内にと、24日は帰宅してから簡単な設定を考案して 玄武にNSかけた位の速さで書き上げました。メチャクチャ遅いです。 CSDDでは5速にサドプラをかけていますが、ACでは5速サドプラなしでOKです。全く関係ない話でした。 前に短編書く予定ですって言いましたから。予定は未定でも、未定にはしたくないという思いで書いてみました。 上述の通りSP九段に合格したので、その記念碑みたいな小説を書いてみました。(題材になるゲームは違いますが) そうそう、この間まとめwiki見てみたら、自分が長編短編問わず八作品も書いていることに自分で驚きました。 断わっておきますが、俺はナルシストじゃないですよ。12月生まれの人間だけどナルシストじゃないですよ。 ここまで書いたら、俺が何が言いたいかお分かりになっていただけたと思います。 もう八作品も書いた!頑張ったなぁ俺→DJTのSP九段とってうれしいなぁ俺→ あっ、次に書いた作品が九番目の作品になるじゃん!→あれ?次回作の数字と段位の数字一緒じゃね? →んじゃあ記念碑的な短編書いてみるか!よーし、書くぞー! という事情背景があったのです。これから投下する作品「NO.9」はそういう背景があって書かれました。 あと、タイトル名にもこだわって九の字を入れてみました。それだけです。それでは「NO.9」をどうぞ。
163 :
旅人 :2008/08/31(日) 00:51:30 ID:xf5xpoyv0
(上のレスに名前欄書くの忘れてた…気をつけます) その日は豪雨だった。一日中雨が降り続いていた、天気のよろしくない日だった。 そんな日にある小さな出来事が起きた。それは、「NO.9が現れた」という事だった。 その日、2ch音ゲー板のとあるスレで「NO.9が出没した」との書き込みがなされた。 それから十数分が経過してから同スレで「NO.9がハンティングを終えた」との書き込みが された。それから、そのスレでこんな事が書かれていった。 「今回NO.9がハンティングしたのはPPPPである」 「やっぱりあのプレーヤーは最悪だ。何故なら第三者の自分をも『ハンティング』に 巻き込むのだから」 「いや、NO.9こそ理想のプレーヤー像だろう」 「違うって。あんなプレーヤーは糞みたいなやつだよ」 例の豪雨の日、ある地方都市の寂しいゲームセンターに一人の客がいた。その客は 男性、年は15,6才といったところだ。カジュアルな服装をしていて顔立ちはカッコいい感じだが、 何かその身に纏う雰囲気は、凡人が纏うには重すぎる印象がある。 時間は2時53分。薄暗いそのゲーセンの唯一のドル箱のポップンの辺りだけに照明が 集中するが、虫をも寄せ付けることはできなかった。そこに先ほど来店した客が、筐体 の前に設置されてある古ぼけたベンチに座り、ジーンズのポケットから小さな黒いメモ帳 を取り出してそこに書いてあるだろう内容を読みふけっていた。 そのゲーセン店長―三十路半ばの男性、サングラスを常時かけていて人を寄せ付けない 雰囲気を醸し出している―は、スタッフルームと書かれている部屋から出て、ベンチに座る客 に話しかけた。 「よぉ、またお前か…『ハンティング』か?」 「あぁ。悪く思わないでくれ。アンタのゲーセンの印象が悪くなろうが知ったこっちゃないんでね」 「ま、このゲーセンは元々近々手放そうとしていたところだったからな。構わないさ。 だが、お前がここにハンティング目的で通うようになってから、経営を続行する気にはなってはいるが」 「だから定休日の水曜、俺にこうして貸切でプレーさせてくれるってわけか。金は払わされるけどな」 「俺の立場はこのゲーセンの店長だぞ?客から金巻き上げねぇでどうするってんだよ、あ? 『水曜日の狩人』いや、カードネーム『NO.9』よぉ。そこら辺は分かっていて当たり前だと思うぞ? それによ、お前のハンティング…見ている方も面白いんだぜ。で、今回狩るターゲットは誰だよ。教えてくれよ」 「こいつだ…『PPPP』って名前の。太陽の城で頻繁に狩り行為を行っている。昇格のチャンスになれば 捨てゲーする。……実力は大海原の中ってところだな。ま、簡単に倒せるだろ」 「そいつは結構な事だ。…関係のない第三者にはどうなってもらうんだ?」 「もちろん、二位か三位になってもらう。相手が昇格のチャンスであれどうであれ、 仕方がないと思って割り切ってもらうさ。それしかない」 「…酷い奴だな」 「仕方がない。そう決心したのは俺自身さ。アンタが背中を押してくれたってのもあるがな」
164 :
旅人 :2008/08/31(日) 00:55:08 ID:xf5xpoyv0
二週間前。ある地方都市の普通高校が昼休みを迎えて。 一人の男の一年生が屋上に上がった。その彼の両手には弁当包みの類はなかった。 制服に身を包んだ彼は屋上の柵にもたれかかるようにしてリラックスしていた。そして静 かに目を閉じ、何かをイメージしていく。 そんな彼に同学年の女子学生が話しかけた。彼女の彼を見る目は、期待と驚きが入り混 じっていた。彼があの人だったんだ…と言わんばかりの視線だ。 「山崎君…お願いがあるんだけど」 「相羽か。合言葉。合言葉を言ってくれ」 山崎と呼ばれた男はぶっきらぼうにそう答えた。相羽と呼ばれた女子学生が不安げに呟くように言う。 「えーと…『NO.9。ハンティングを依頼する』で良かったかな…」 山崎はリラックスしていた姿勢から相羽に向き直って、真剣な面持ちで答える。 「誰をハンティングしろって?」 「CNはPPPP。最近、太陽の城で狩り行為をしまくっているの」 「それなら俺も同じだぜ。狩りをしているっていう点でな」 「あなたのはちゃんとした理由のある狩りをしているじゃない。奴は愉快犯よ」 「それなら、俺も愉快犯だ。お前、俺のことをよく知らないみたいだな。ネットで知った気 になった馬鹿か?……ハンティングの時だけが唯一の至福の時なんだ、俺にとってはな」 「それでも。あなたがどんな人であっても、私じゃ奴を懲らしめることはできないから… あなたしか出来ないのよ。お願い、奴を…PPPPをハントして!」 分かった…そう山崎は、いやNO.9は返して相羽の依頼を受領した。それからNO.9の質問攻め が始まっていった。 「そいつに狩られた時間は?」 「ネット上で有名なやつなのか?」 「どんなジョブで参戦していたか?」 「ガチラーか?オジャマラーか?」 「そいつの対戦時のコメントは?」 「何の称号を付けていた?」 相羽は、NO.9がどういう質問をしてくるかは予め分かっていたようで、質問にちゃんと答えられていた。 質問の答えは、上から順に並べるとこうである。 「狩られた時間は午後三時前後」 「有名な狩りプレイヤーである」 「精霊使い。そのため、強力なlv1とlv2のお邪魔を使って速攻をかけるプレースタイルであった」 「上述の通り、オジャマラー」 「おまえらはおれのえさだ」 「連射砲」
165 :
旅人 :2008/08/31(日) 00:57:18 ID:xf5xpoyv0
時は進み、二週間が経過した。その日は水曜日で一日中豪雨に見舞われる予定であった。 それを告げる天気予報を流し終えた山崎家のTVはその電源をリモコンで消された。リモコンを もっていたのは、山崎家の二男の山崎勇であった。時は真昼間。そして水曜日。 彼は二週間前に通っている高校の屋上で同級生の女子学生、相羽仁美から愛の告白ではなく 仕事を依頼された。仕事といっても、その内容はゲームをプレーすることだ。音楽ゲーム、pop'n music。 そのゲームのネット対戦モード(以下熱帯)で、ある人物とマッチングするまでそのモードを選び続けて その人物に勝つのがその仕事である。 山崎がターゲットする人物は、全て狩りプレーヤーと呼ばれる人物である。狩りプレーヤーとは、 自分よりlvの低い対戦部屋を選択、その部屋に適している普通のプレーヤーを圧倒的な力の差で 潰して勝つ存在である。言ってみれば、弱い者いじめとでも言うだろうか。 そんな狩りプレーヤーを、山崎は逆に狩る事を仕事にしている。pop'nで「NO.9」という名前で インターネットランキング(通称IR)の上位層に位置する実力を持つ彼は7枚のイーパスを使い分けている。 どれもCNこそ「NO.9」だが、メインの一枚は熱帯での部屋は「竜神の島」であり、そこは選曲の 上限lvが40までという所である。そこに在住しているなら、かなりの実力者と言っても差し支えない。 と言うよりはかなりの実力者とハッキリ言った方がいいのかもしれない。 しかし、他のカードの熱帯での部屋は「はじまりの村」から「はるかなる大海原」までで登録されている。 これは、狩りプレーヤーを狩るための必要悪である。 何故、これが必要悪であるのかという説明をしよう。 熱帯を初めて選んだ時、部屋を選ばされる。しかし、クリアマークの総数やどのlvの曲をクリアしたかにも左右される らしいが、選べる部屋に制限がかかるのだ。(部屋の変更は5回まで変えることができる。…6回までだったっけ?) だが、ノープレイ状態のイーパスを使えばどの部屋に登録することも可能なのである。 それを利用して、山崎はメインのイーパスも含めて計八枚のイーパスを所持するのである。 山崎が竜神の島在住の腕前を持つことも忘れてはならない。狩りプレーヤーにマッチングする時も そうなのだが、マッチングするまでに適性以下のlvの部屋に入り、対戦を行う事はそれ自体が「狩り行為」なのである。 つまり、見方によっては山崎、いやNO.9は狩りプレーヤーを狩る良いプレーヤーとも言えるかもしれないし、 目的を達成するまで関係のない人まで狩っていく、極悪非道なプレーヤーとも呼べるかもしれない。 TVの電源をリモコンで消した山崎勇は、自分の肩掛けバッグに財布と黒い手帳が入っていることを確認して外に出た。 自宅前に駐車してある自分の自転車のスタンドを蹴り上げて、勢いよく漕ぎ出して町の方へ向かって行った。 彼が狩りプレーヤーを狩る(これを彼はハンティングという)時にお邪魔させてもらう店がある。 店員が店長しかおらず、その店長がまるでや○ざのような風貌をしていることから、あまり人気がない店なのだ。 だから、山崎勇の正体…彼がNO.9である事、即ち狩りプレーヤーである事があまり知れ渡っていないのだ。 そしてそれは、山崎にとって好都合な事である。自分の信念に基づいて行動を起こすのはいいが、それで現実世界で 有名になり、非難されるのはのは御免だからだ。非難される事についてはもう、十分な覚悟はできていたが。
166 :
旅人 :2008/08/31(日) 00:59:43 ID:xf5xpoyv0
そして時は完全に戻る。寂しいゲーセンの店長は山崎、いや今は狩りプレーヤーを狩る プレーヤーとして、つまりはNO.9としてモニターを見ているプレーヤーに語りかける事を止めた。 そして、壁にかけられている時計が3:00を示した時、NO.9はベンチから立ち上がった。 彼は右手で太陽の城専用のイーパスが摘まんでいて、左手に100円硬貨を握り締めながらpop'n筐体に 近づいていく。彼の瞳には、信念を持った狩人が住んでいた。 数十秒後、pop'n筐体のイーパス読み取り口には赤色をしたそれが咥えこまれていて、百円硬貨も 入れられていた。NO.9は熱帯を選んで「出て来いよPPPP…」と凄むような口調で筐体に呟いていて、 もう普通のプレイヤーとは呼べないプレイヤーの雰囲気を醸し出していた。 ジョブをポップンマンにして太陽の城に入った瞬間、画面左下の対戦相手の名前欄が光った。 その後にすぐに名前が出てくる。すでに二人が待機している所にNO.9は入ったようだった。 「らっぷいいね…?変な名前d…」 独り言を途中で切ったNO.9の眼は異常なまでに輝いていた。その眼は狩をの宿す眼であった。 NO.9の眼の中にいる狩人が、NO.9の集中力を引き上げまくる。 「初っ端から当たっちまったなぁ…おいPPPP。お前は徹底的に潰すからな、覚悟しておけ!」 言うなり、スパパパパパと手を動かして選曲、オジャマセッティングをして決定を成した。 画面が張り合いのシーンに移り、各々のコメントが並んだ。 PPPP「おまえらはおれのえさだ」 らっぷいいね「たのしくいきましょー」 NO.9「きょうのひょうてきはPPPPだ」 NO.9は同じ時刻に熱帯をしているPPPPの姿を思って思わず笑ってしまった。 ネット上で物議を醸し出す、竜神の島の住人に自分がやっていることをやり返されてしまうのだ。 もしかすると、それは恐怖に値するかもしれない。 そもそもpop'nでの熱帯で狩りをする…何て事はあまりメリットがない。得るものが一つしかないからだ。 それは「DistorteD superiority complex(歪んだ優越感)」である。 それを得るためだけに狩りをするプレーヤーは数は少なくても存在するのだ。 だからこそ二週間前に山崎が自分の事を「愉快犯」と言ったのもうなずけるだろう。 そして、いま緊張で身を固くさせているであろうPPPPも「愉快犯」であると断言できる。 これが作者の考える「pop'nにおける熱帯の狩り事情」である。 そして、作者は上述の「歪んだ優越感」の事を略して「DDSC」と呼んでいる。……作者しか使わない言葉ではあるが。 まぁ作者が勝手に考えて造った造語であるので、歪んだ優越感という言葉を真面目に英訳するのなら、 違う英文が出来上がったり、それに倣う略語も生まれるのでしょうが……この場ではDDSCでお願いします。
167 :
旅人 :2008/08/31(日) 01:02:21 ID:xf5xpoyv0
補足、というよりは必須な説明をしておきたい。説明は順にCN、装備しているお邪魔(レベル順にソート)、 選曲した曲と譜面難易度、現在のジョブである。 NO.9がHELL、ランダム、バラスピを装備。選曲は「murmur twins(guiter pop ver)」のH譜面。ジョブはポップンマン。 PPPPがなし、なし、DEATHを装備。選曲は「月雪に舞う花のように」のH。ジョブはポップンマン。 らっぷいいねがドキドキポップ君、もっとHELL、オジャミックス。選曲は「僕の飛行機」のEX。ジョブは戦士。 使用キャラはNO.9が16ミミ、PPPPが小次郎、らっぷいいねが16ニャミであった。 一曲目はらっぷいいねが選曲した「僕の飛行機」EXであった。 この曲のEX譜面は、階段と同時押しとが適度に混ざり合った良譜面だと作者は思う。 特に、サビの部分の跳ねるような同時押しの場面が一番好きな所である。 そのサビの部分が同曲同譜面での最大の難所と言えばそうなるかもしれない。 三人がそこまでたどり着いた時、数回ミスをしていたのはらっぷいいねだけであった。 つまり、もう彼はコンボトップ賞を狙うチャンスがないという事になる。狩りプレイヤー同士の戦いが、 いや、「舞い上ーがって」あたりの所でNO.9がバラスピをPPPPに向けて撃った時から、NO.9の狩りが始まったといえる。 いくら頑張ってもPPPPはポップ君を取り逃していく。画面右端に表示されている彼の(又は彼女の)グルーヴゲージは 低下し始めていた。 結果はコンボトップ賞とゲージ、クリアー、そしてフィーバーボーナスの合計とステージスコアトップを 獲得したNO.9が十万点越えのぶっちぎりで一位を取った。続いて二位にPPPP、三位にらっぷいいねである。 一位と二位の差は約一万点であった。これを挽回するのは、作者のこれまでの熱帯経験によれば難しい。 (とはいえ、今作の熱帯は4,5回やった程度である。熱帯をやる時間を持つことができないのが理由である) 二曲目はPPPPが選曲した「月雪に舞う花のように」Hであった。 この曲のこの譜面は同時押しの印象が強い。冷静にポップ君を見切って適切な手の向きで複雑な同時押しを 捌いてゆけばクリアーは難しくはない。だが、この譜面は「ズレて」いる。所謂「ズレ譜面」という奴だ。 他にもズレ譜面が目立つ曲は、ゲームこそ違うが家庭用IIDXのHAPPY SKYからGOLDまで家庭用新曲で参加している 高田雅史さんのCubeシリーズの楽曲の、計三曲のそれらである。 (作者の思い違いでないことを願う。あれ、あんまりズレてないじゃんとか、そういう事がないことを本気で願う) 余談だが、CSGOLDで「PentaCube Gt.(RX-Ver.S.P.L.)」を初めて聞いた時に作者は 「スゲー、スゲエェェー!全一取ったとかじゃないけど言ってみてぇ!この曲スゲエェー!スゲスゲヴォー!」 と思ったし喋ってもいた。傍から見れば奇人変人の類の人間だと思われただろう。……自室に他人がいなくてよかった。 A譜面でlv9というある段階を超えると見向きもしないような難易度の曲だが、 この曲はプレーカウントを20以上記録している。この曲自体が好きというのもあるが、 ズレ譜面への挑戦という勝手な対抗意識(?)を勝手に燃やしていたのも、そんなプレーカウント数を記録させた原因かもしれない。
168 :
旅人 :2008/08/31(日) 01:04:36 ID:xf5xpoyv0
話を元に戻そう。先の脱線話から分かったようにズレ譜面でズレている同時押しでは、 全てピカグレやクールを取る事は難しい。少なくとも作者のレベルでは不可能に近い。 だがNO.9は殆どクールでズレている同時押しを取り、そこでらっぷいいねとPPPPとの差をグッと広げた。 オジャマを撃つ必要はない……NO.9はそう感じたのかどうかは分からないが、二曲目では あまりオジャマを撃つことはなかった。 が。NO.9はオジャマを撃つメリットが全く無い場所でPPPPに向けてバラスピを撃った。効果も薄く、PPPPはどうにかして 乗り切り、NO.9のオジャマゲージも空になった。 結果は一曲目と同じようなものだが、PPPPがラストのサビの部分でらっぷいいねに向けて撃ったDEATHが功を奏して らっぷいいねのグルーヴゲージが底辺を彷徨っていたのが相違点であった。 NO.9の謎のオジャマ発動の謎というものを残して、NO.9が選曲した三曲目「murmur twins(guiter pop ver.)」 のHが三人の対戦者が前にしている筐体から流れた。 「ジャジャッ、ジャジャッ、ジャッジャジャーン、ジャジャッ、ジャジャッ、ジャッジャジャァーン」 と聞いていて気持ちのいいギターによる演奏から曲が始まった。 そしてヴォーカルの常盤ゆうによる歌が流れるが、その時NO.9は苦い顔をしていた。 彼が特別に彼女を嫌っていたわけではない。むしろ彼女の歌は好きであった。 彼の意識が、不意に過去の回想へと持って行かれそうになったが、右足をバンッと床に叩きつけて 画面上で流れ落ちていくポップ君の方へ意識を集中させていた。 一瞬の過去の回想で、NO.9は彼自身が蒸発してしまうのではと自分でも恐れるほどの熱を感じた。 その熱を発するのは、数ヶ月前に起きた事件への彼が持つ途轍もない怒りである。 その事件を起こした奴を今まで狩ってきた、そして今狩っているPPPPというプレーヤーにその怒りを向ける事で NO.9は安らぎを覚えた。……あぁ、俺は今、お前の敵討ちをしているんだぞ。どうだ、見ているか? そんな事をこの明るい曲調と歌を乗せた曲を聴きながら(プレーしながら)思って、NO.9が初めて グッドを出した。 この曲のこの譜面のlvは28である。NO.9が余裕で超チャレスコアで95000点以上狙えるとはいえ、 他の二人だって85000以上、いやもしかしたら90000点以上のスコアを叩き出せるのかもしれない。 そう、油断は禁物なのだ……そうNO.9はサビに入る前の一旦曲調が落ち着いた所のポップ君を叩きつつ、 そして画面右下を見つつ思った。そして、右下に表示されているオジャマゲージがlv2になっているのを確認して、 16ニャミのオジャマポップ君が他のポップ君と降ってきた時、それも一緒に叩いた。 ここで一回NO.9の装備しているオジャマを確認しよう。 NO.9がHELL、ランダム、バラスピを装備している。と前に書いてある。 ランダムの効果は一体何なのか?(主に)CSで対戦を重ねてきた結果とネット上に転がっている情報を見る限りでは その名の通りランダムでオジャマが決まる。ランダムはlv2のオジャマであるが、運が良ければlv3のオジャマが 発動することもある。というオジャマなのだが、作者が一番驚いたのはこれだ。 「このオジャマは全員のグルーヴゲージ又はオジャマゲージが満タンになるかゼロになるかという効果を 発動する事もある」 というのだ。つまり、このオジャマをゲットするジョブ「ギャンブラー」に相応しい内容といえよう。
169 :
旅人 :2008/08/31(日) 01:08:25 ID:xf5xpoyv0
これでNO.9がやりたい事はある程度想像がついただろう。彼は全員のオジャマゲージが 満タンになるのを狙っていたのだ。そして、自分の装備しているlv3のオジャマをターゲットに ぶつけようとしていたのである。 「be ok… be wanna beside…… Are you ready?」 サビに入る前の所で「回復しろー!」と念を込めた叫びを上げてNO.9が16ニャミのオジャマポップ君を叩いた。 蛇足だが、彼が狙っているのは全員のオジャマゲージの全快である。よって誰を狙おうとそれは全く 関係のないことである。 オジャマゲージが全快した。NO.9がそれを確認したのは彼が画面右下を見てからだった。 そして視界のなかに小次郎のオジャマポップ君が入ったのを確認してから、 「喰らええぇぇぇぇ!!!」 と大声で叫びながら渾身の力をこめてオジャマポップ君を叩いた。 明らかにクラッシャー並みの力で叩いたと分かったが、遠目にハンティングを見つめている店長が おいおい…というような感じでNO.9の姿を見ていたが、仕方がねぇかというようにため息をついた。 NO.9の装備するlv3オジャマ「バラバラスピード」。略して「バラスピ」。 このオジャマ、ポップ君がバラバラの速さで落ちてくるというとんでもないオジャマである (大抵のオジャマはとんでもないが)。 どのくらい怖いか一度ACでもCSでもいいから超チャレでそのオジャマをつけて、いつも手慣らしに選んでいる曲をプレーしてみよう。 するとこのバラスピの怖さが嫌でも分かるはずだ。暇があれば「あれっ、あれっ、あれぇ?」と困惑してみよう。 このオジャマが発動するたびにコンボを切ってグルーブゲージを削ってしまうはずだ。 だから、このオジャマに対する耐性(又は対策)がないと(練ってないと)どんな簡単な譜面でもミスをしてしまう。 撃った相手が強くてコンボを切るまではいかなくても、判定の評価を落とさせるくらい訳は無いはずだ。 熱帯では強力なオジャマとして威力を発揮するだろう。 (自分が熱帯時にこれを食らった場面を想像してみよう。ぬわー!と叫んでいる自分がイメージ出来るはずだ) 画面右に表示されている順位に表示されているPPPPのグルーブゲージが削られ、スコアの伸びが悪くなった。 さらにNO.9のバラスピの効果が切れたあたりで、三位のらっぷいいねが何かのオジャマ―彼の(又は彼女の) オジャマの撃ち具合から察するに、lv3のオジャミックスだろう。ドキドキポップ君ともっとHELLが 組み合わさった、凶悪とまではいかないがその二歩手前位のオジャミックス―がPPPPにぶつけた。 PPPPは極端にオジャマ耐性がないのか、これでゲージをボロクソに削った。その状態のままで 三曲目が終了した。 この曲での一位はNO.9。二位はリザルトでのボーナスの関係でらっぷいいね、三位が同じ理由でPPPPであった。
170 :
旅人 :2008/08/31(日) 01:10:47 ID:xf5xpoyv0
プレーが終わり、NO.9が排出されたイーパスを取り出してプレー前に座っていたベンチに 座りなおした。店長がNO.9、いや今は山崎勇として息をしている男に近づき、ともにベンチに座った。 店長はサービスと称して、店内の自動販売機から買ってきた炭酸飲料の缶ジュースを山崎に手渡す。 山崎がそれを手に取り、缶上部のプルトップをプシュッとやったのを見てから店長が話しかける。 「お疲れさん。今回は後味の良いハンティングだったんじゃないか?」 「どうして?」 「第一にだよ。ターゲットは1プレー目で見つかった。第二に、第三者が最後にお前に協力 したように見えたぜ?」 「あぁ…そうだな。あの第三者はいつかハンティングした時居合わせていたと思う。 その時も俺に協力していた。自分も狩られてるって事を分かっていてだよ」 「ま、お前が竜神より下の所に顔を出すのが狩り行為そのものだからな。 ……それはそうと、お前目的は果たせそうなのかよ?」 「目的?」 「そう、目的だ。お前が狩りプレーヤーを狩るようになったきっかけだ。 お前の大切な人が死に、その発端となったあのプレーヤーが狩りプレーヤーであった事を知ったんだろ? お前、昔に言っていたじゃないか。奴が狩りプレーヤーだから、同類を根絶やしにしたいっていう…」 「やめてくれ!」そう店長の言葉を遮った山崎は、缶ジュースをごくりと一口飲んでから言った。 「その話は……あんたの口から聞きたくない、いや、俺が思っているだけでいい。 俺以外の他人がその話を俺に振ろうとするのは、やめてくれ。頼む」 「それほどまでにお前、アイツの事を……」 分かったよ、と店長はベンチから立ち上がりながら言った。 缶ジュースを飲みきった山崎が、缶を手にしながら店長に別れの言葉を告げてこのゲーセンを立ち去った。 もう、今日はここにいる理由がなかった。ハンティングは終わったのだし、あの空気は嫌だったから。 だから、山崎は帰路につく事にしたのだった。 帰り道、山崎は店長の言った「大切な人」を思い出した。 ……故人を想うのは大切。けど故人を追うのは禁忌。そう祖父が自作の文を作って山崎に見せた事も思い出した。 今頃、死後の世界で元気でやっているのか?それとも、死後の世界なんてないのだろうか? 普通の生きている者には絶対に分からない、そんな堂々めぐりの思考を巡らせながら山崎は自宅の玄関のドアを開けた。
171 :
旅人 :2008/08/31(日) 01:13:52 ID:xf5xpoyv0
いかがでしたでしょうか?これで「NO.9」はお終いです。 簡潔にまとめると、何かの恨みを果たす目的で熱帯の狩りプレーヤーを狩る、 山崎勇という少年のお話です。 今までにないキャラを登場させたり、今までにない話を展開することが出来て 感無量といった所です。 (今ざっと読み返してみると誤字が多いですね…毎度申し訳ありませんが、 是非、脳内修正をしておいてください。進歩しなくて本当にごめんなさい) さて「オールスター出演物語(仮)」の内容が大体固まってきました。 多分、今まで出た登場人物たちが全員集まって何かをやる話じゃないかと 予想されている方がいる気がするのですが、それは違います。 登場人物たちが集まる事には集まるのですが、彼らが集まるまでに経験した トンデモなエピソードを彼らが集まって語る、というような感じになりそうです。 つまりはオムニバス形式って言うんですか?世にも奇妙な物語みたいなアレ。 普通の小説のように書いたり一人称で語るように書いて、一人のエピソードが 語られていくみたいな感じになると思います。 何言ってるのかサッパリだと思いますが、全部出来上がった暁には 俺はニンマリとした顔で投下していると思います。そして見てくださる方もニンマリと。 (上述の仕様説明ですが、自分の日本語能力の無さに絶望します…)
旅人氏乙 IR上位の人なのに熱帯の常駐部屋が竜神はちょっと低いんじゃないかと思った Nコースだったらほとんど神クラスがほとんどなわけだし(一部の人は高難易度譜面苦手な場合もあるが) cubeシリーズぺんたやりたいならGOLD買えばよかった
旅人さんお疲れ様です! 内容を見ていると、フォレストスノウHをパフェ出してるようですが、これだと神常駐クラスはあると思うのですが (フォレストスノウHはパフェがかなり難しいです)
174 :
旅人 :2008/09/01(月) 23:05:01 ID:a8aVFO1Z0
>>172-173 ご指摘いただいて本当にありがとうございます。
他の書き手さんの作品を参考に、熱帯の模様を描いてみたのですが
やっぱり力不足でした…
>>172 さん
そうですよね、よくよく考えればそうです、IR上位が熱帯の在住部屋が竜神の島な訳がないですよね…
ポップン世界の常識を考えていなくて本当に申し訳ありません。
>>173 さん
本当に自分の文才があまりにも足りてないのをお詫びします。
自分はあんなのパフェ出来るわけがないという前提で書いていましたが、それは作中に書いていませんでした。ただの不注意でした。
NO.9はグッドを数が少なくても出しているので、パフェってはいません。
(…パフェって「グレートかクール評価だけ出してフルコンする事」でいいんでしたっけ。それなら彼はしていません)
(大海原上がりたての書き手としてもポッパーとしてもペーペーな俺が、
竜神の島がどうとかズレ譜面がどうとかIR上位がどうとかって書ける訳が無かったんです。
かなり無理な背伸びをして書いていたので、ん?これおかしいぞ…?
ってなる展開になったのはどうかご容赦ください。自分から記念碑的な〜とか言っておいて
凄くグダグダで辻褄合わない話書いて本っ当にごめんなさい…)
>>まとめWikiの中の人
保管お疲れ様です。
トプラン殺人事件も分かりやすい編集の仕方をしてもらってるようで、感謝感激です。
コメントも利用させてもらいました。
>>161 感想ありがとうです。
正直、そんなちょっとした言葉がヤル気の原動力になってます。
話の核心までしばらくまだしばらくかかりますが、
楽しみにしていただければ幸いです。
>>旅人氏
古畑任三郎は毎回最初から犯人が分かってる形式なんで、間違ったこと言ってませんよ。
俺自身大好きなドラマでして、乙下と空気の凸凹コンビの描き方には
古畑と今泉の掛け合いの影響が少なからずあるのかも知れません。(?)
今回のNo.9も楽しんで読ませてもらいました。
影のあるキャラクターが印象的で、
オールスター物語へどう絡んでくるか期待してます。
未曾有の大作になりそうですな。
あと、九段昇格おめでとう(笑)
それでは、トップランカー殺人事件の続きをお楽しみ下さい。
乙下は店長が拘留されている留置所へやって来た。 とは言っても、乙下が毎日通勤している盛岡警察署内の一施設である。 天井の模様から窓の外の景色までまるで同じ、新鮮味も何もない。 面会室に入ると、狭い部屋をニ分割する透明のガラス。 そしてその向こう側には、すでに骨太の中年男性が座っていた。 肩幅が広く、全身が頑丈そうな筋肉に覆われているのに、 体をすぼませこうべを垂れている格好のせいでひどく弱々しい。 「はじめまして、乙下と申します。シルバーの店長さんですね?」 店長は顔を上げた。 額や目尻に深く刻み込まれた皺の本数の割に、たるみのない引き締まった頬が 年齢の積み重なりを感じさせない風貌であった。 四角顔の輪郭と図太い首が逞しい反面、 度の強そうな厚いレンズがはまった丸眼鏡の奥の眼光には、消え入りそうなほど力がない。 よく見ると白目が赤く充血し、目元にはクマができている。 ずっと泣いていたのだろうか、 と乙下が不憫な想いをあらわにした矢先、彼は大声で嗚咽を漏らし始めてしまった。 「うっ、うぅぅ……ひっ……俺のせいなんだよ、全部俺のせいなんだよ……うぅっ」 「落ち着いて下さい。俺のせいって、どういうことですか?」 「俺のせいでBOLCE君は死んだんだ、俺がBOLCE君を殺したんだぁぁ」 深い皺を伝って流れ落ちる涙を、店長は手錠をかけられた手で窮屈そうに拭った。 ドンッ。 埒が明かないと思った乙下は、ヒビが入らない程度の力加減でガラスを叩きつけた。 キックがアサインされている鍵盤を叩いた時のように、 腹に響く低音の振動が辺りを伝播する。 店長が肩をすくめた。 同時に嗚咽も止んでいる。 乙下は拳を店長に向けたまま、無理やり笑顔を作った。 「泣けばBOLCEが浮かばれるんですか?」 「……」 店長は横に首を振った。 脳へはびこる混乱を振り落とし、正気を取り戻そうとする仕草にも見えた。 「泣きたい気持ちは分かりますが、 犯人を捕まえて罪を償わせることがBOLCEに対する最大の弔いですよ。 アンタが協力してくれさえすれば、必ず俺の手で犯人を逮捕してみせます。 なので、昨日何があったか話して下さい。いいですね?」 「……あぁ、取り乱して済まなかった」 店長はようやく泣き止んだが、 静かになった分だけ逆に彼の周りで悲壮感が渦巻いた。 聞きたいことは山ほどあったが、店長の精神状態を勘案して 乙下はただじっくりと彼の言葉に耳を傾ける。
「昨日、シルバーを開けて一番最初に会ったのがBOLCE君だった。 彼は朝からデラ部屋の予約をしてたんだ。 10:00の開店と同時にシルバーへやって来て、それからずっとデラ部屋にこもってたよ」 1046の証言と一致する。 「11:00過ぎかな、一回目の電話がかかってきたのは。 おかしな声でよ、ほら、テレビでモザイク人間が喋る時の声あるだろ? あの男だか女だかも分かんない声で喋ってた」 いわゆるボイスチェンジャーを使ったのだろう。 声質による犯人像の推定はできなそうだ。 「わけの分からない屁理屈をぬかしてきやがって、あの野郎、絶対頭が狂ってくるに違いない」 「屁理屈、と言いますと?」 「なんか、ゲームの存在が社会をダメにするみたいな話だったと思う。 いきなり俺や客のことを生ゴミだとか社会のガン細胞だとか、 うんこ製造マシーン呼ばわりしやがって……」 空気がいないので、乙下は自らメモ帳に走り書きをする。 生ゴミ、社会のガン細胞、うんこ製造マシーン――。 真面目にこんな単語を書き連ねている自分が居たたまれない。 「とにかくヤツが言うには、 ゲームの存在を助長している俺は罪人だから、その償いとして一億円払えってことだった」 「言いがかりもいいところですね」 「だろー?仮に金目当てだとしたって、何で俺なんだよ。 こんな小さなゲーム屋がポンと払える額と思うか?」 思いません、が率直な感想だったが、 さすがに失礼に当たるので声には出さない。 だが店長の主張はもっともで、常識の範囲内で言えば 大金の恐喝というのは裕福な人間に対しておこなう行為であるはずだ。 「念のため、俺に一億円を払うだけの財産があるかどうか調べてみた。 けどダメだ、全然足りねーよハッハハハ」 自嘲気味に笑う店長に嫌らしさはない。 むしろその潔さにつられて笑いそうになる自分を、乙下は自制した。 「そうこうしてる内に一時間経って、二回目の電話がかかってきた。 これが12:00過ぎだったはずだが、ヤツは相変わらず一億円を要求してきやがった」 「警察に通報しようとは思わなかったんですか?」 「それはできなかった。 息子を人質に取られていたし、ヤツは近くで俺のことを見張ってたんだ。 下手な行動はとれなかったんだよ」 「なんで近くで見張られていると思ったんですか?」 「実際にヤツが言ったんだ。 ヤツには俺の姿が丸見えだと。 ヤツは俺から見えない場所にいる、とも言ってた。 しかも、ヤツはいちいち店内の様子を喋ってきやがったんだ。 近くでシルバーの中を見てなきゃあんな芸当はできねぇよ」
乙下は店長から詳しい話を聞き、メモ帳にまとめる。 まず、「音楽ゲームをやっているお客さんがビックリして見てますよ」と犯人が口にした時、 実際にギターフリークスをプレイしていた客が手を止めて店長の方を見ていたらしい。 また、「お客さんが帰っていきますよ」と犯人が口にした時も、実際にその通りだったようだ。 普通に考えれば、犯人はどこかに近くに身を潜めて店内の様子を監視していたということになる。 「それによ……うーん、いや、何でもない」 店長が何かを言いかけて止めたので、乙下は食い下がる。 「何です?」 「いや、これは多分俺の気のせいだから」 「言って下さい。どんな些細な情報でも捜査の手がかりになります」 「聞いても笑うなよ?」 「聞いても笑いません」 「……ヤツの存在を感じた」 店長は急に渋い顔つきになった。 神経を研ぎ澄ませて、その時の感覚を思い出そうとしているのかも知れない。 「存在を感じた、ですか」 「ごめんな、こんなあやふやな証言を聞きたいわけじゃないんだろうけど。 何でだろうな。なぜかすぐ近くにヤツがいるような気がしたんだよ」 「……」 捜査でも私生活でもロジカルな行動を心がけている乙下にとって 胡散臭さを感じずにいられない話題ではあったが、店長の異様な真剣さにはどこか説得力がある。 「そんなわけで、どうしても警察に連絡する気にはなれなかったんだ。 でも息子の命が危ないと思うと居ても立ってもいられなくて、 それで、俺は金を集めに行くふりをしてヤツを自力で捕まえることにした。 その時だ、BOLCE君と会ったのは」 「会ったんですか?BOLCEに?」 「会った。俺が店を飛び出そうとした時、デラ部屋の前で会った。 あの時、もっと強引にBOLCE君を追い出していればこんなことには……」 せっかく乾きかけていた店長の瞳が、瞬く間に濡れていく。 「ヤツは、一億円を払わなければ俺の息子だけじゃなく シルバーの常連客の命も追加でいただくとか、そんなことまでほざきやがったんだ。 だから俺はBOLCE君にすぐ帰れって言ったのに。 なんで帰らなかったんだよ、大馬鹿野郎……うぅっ……」 表面張力が重力に負け、大粒の涙がこぼれ落ちる。 悲しみの許容量が限界を超えて体の外へ溢れ出しているようだった。 その向かいで、乙下は冷静に思考を回転させる。 現段階で集まっている情報の限りでは、 犯人を除いて生前のBOLCEに会った最後の人物は店長という話になりそうだ。 別の言い方をするのであれば、少なくとも店長がシルバーを出る直前まではBOLCEは生きていたのだ。
「結局、散々探したけどヤツを見つけることはできなかったよ。 もう息子を助けるためには奪い取ってでも 一億円を払うしかないと思ってさ……気付いたら銀行を襲ってた。 今となっては何であんな無計画なことしたんだろうなって考えちまう。 後悔してもしきれないよ」 店長のどこか遠くをぼんやりと見やるような えも言われぬ目つきに同情し、乙下は形式的なフォローをする。 「このケースでは仕方がないです」 「いや違う。そういう意味じゃなくてさ」 店長は天井を見上げながら、予想外の吐露をする。 「こんなこと言ったら怒られちゃうけど、 『もっと上手く襲えばよかった』って意味で後悔してるの、俺は」 「はぁ!?」 「だってそうだろ。 俺が上手いこと金を用意できてればBOLCE君は死なずに済んだ。 誰も傷つかずに済むんなら俺の人生と岩手銀行の一億円くらい安い」 「……アンタすごいね」 店長が「俺のせいでBOLCEが死んだ」と再三に渡り言い続けた理由を、乙下は理解した。 彼は自分の手を汚してまでも一億円を払う能力がなかったせいで BOLCEを死に追いやったと責任を感じているのだ。 並行して、乙下は店長という人間も少しだけ分かった気がした。 彼はどこまでも真っ直ぐなのだ。 その大きな手で家族や常連客を包み込む慈愛の精神も真っ直ぐだし、 大切な彼らを守るためならどんな不利益も厭わずに邁進する姿勢も真っ直ぐだ。 猪突猛進とでも言おうか、あらためて観察すると外見がイノシシに似てなくもない。 コロコロと喜怒哀楽を切り替える様も、 感情を隠さずストレートに外へ出す性格があってのことなのだろう。
それだけに思い込みが激しく、 一度間違った方向に動いてしまうと止められない危なっかしさや 必要以上のことまで背負い込んでしまう頑なさがある。 その性質自体は一概に悪いことではない。 ただ確実なのは、今の店長は大きく間違った解釈をしている。 乙下は彼の軌道修正を、課せられた責務であるかように開始した。 「店長さん。BOLCEの死亡推定時刻を聞きましたか?」 「いや」 「12:00から13:00の間です。 これがどういう意味だか分かりますか?」 「……俺と別れた後、すぐに殺された」 「そう。BOLCEはアンタと別れてすぐに殺された。 それでは聞きますが、アンタが銀行を襲ったのは何時ですか?」 「……確か14:00くらい……あれ……?」 「そう、アンタが銀行強盗に成功しようと失敗しようと、 そんなことお構いなしにBOLCEは殺されていたんです。 罪を抱え込む必要はまったくない。むしろアンタは被害者と言ってもいいくらいだ」 店長は眼鏡の奥で、しきりに目をしばたたかせている。 「まだ俺も憶測の域を出ないことしか言えないのが申し訳ないんですけどね、 俺の見立てでは、おそらくこの事件は脅迫事件でも誘拐事件でもない。 これは殺人事件です」 「……どういうことだ?」 「犯人は最初からBOLCEの殺害が目的だったんです」 ――悪い言い方をすれば、アンタへの脅迫はダシに過ぎない。 ――アンタは利用されたんです。 そのセリフは心の中にしまっておいた。 to be continued! ⇒
今回はここまで。 次回、物語はいよいよ第二話のタイトルにもなっている「鉄壁のアリバイ」に触れていきます。 どんな不倒のアリバイが登場するのか、そして乙下はどう切り崩していくのか… お楽しみに。
182 :
爆音で名前が聞こえません :2008/09/06(土) 16:13:50 ID:r2ZphlJ6O
乙であります! 展開が楽しみです!
183 :
旅人 :2008/09/07(日) 00:43:08 ID:dyEw1SLW0
>>とまと氏 乙!今回の話も良いですね。やたら臨場感っていうかリアリティっていうのか、文章から伝わるのが凄い。 それが俺も頑張ろうとか、ま、負けねーとか思って自分の作品を書く原動力になるのでそうさせてもらってます。 次回ではどんなアリバイが出てくるんだろうとかもうドキドキものですよ。次回を楽しみにしてます! どーも今晩は、旅人です。 「DDRがゲーセンに無いなら、CSを買えばいいんだ!」という理由でCSDDRSN2と専コンを 買ってプレーしてます。専コンを似非DXコン化する改造作業には手間取りましたが おかげさま良いDDRライフを満喫しております。そんなにやってないけど。 PARANOiA〜HADES〜は良いパラノイアだと思いますが、個人的にはfreeway Shuffleが一番のお気に入りです。どうでもいいね。 で、前々から予告していた「オールスター(以下略)」ですが、やっとタイトルが決まりました。 「みんなのパーティー」です。golfじゃないです。partyです。 プロローグはもう書き終わっているので、それの投下をしに来ました。 その後は第一章、第二章…と続いてゆきますので乞うご期待という所です。 それでは「みんなのパーティープロローグ パーティーの始まり」です。 たったの2レス分だから、規制なんて怖くない!そういう訳でプロローグの始まりです。
184 :
旅人 :2008/09/07(日) 00:45:40 ID:dyEw1SLW0
08年12月19日、ある港町のゲーセン「ピース」にてあるキャンペーンが開催された。 店長の松木ゆうの誕生日であるこの日の記念に「ピースを無料開放します。タダゲーしま くってください」といった旨の告知をピースのHPで前々から告知されていたので、 港町の他にも色んな所から人が集まってきていた。 ガンシューティングゲームに興じる者や、対戦格闘ゲームで対人戦に燃える者などが ピースに集まっていた。つまり、色んな種類のゲームを愛する人が多く集まったという事だ。 だが、その中でも数が多いのは音ゲーと呼ばれるゲームをプレーする音ゲーマーだった。 その理由は、店長松木がネット上で「音ゲー好き」と捉えられる発言をしたからである。 (ピースのHPには、時々新しいものが作られているネットラジオがある。この第六回目のラジオのゲストは ゲーセン「白壁」で有名な音ゲーマー、町田彩だった。彼女を迎えたこの回で松木は 音ゲー好きと捉えられる発言をした事があったという過去がある) その夢のようなキャンペーンがあった会場、つまりはピースなのだが、そこに松木が 現れると告知された事でも多くの人を集めたとされている。 松木ゆうは何でも屋の社長兼仕事人として有名であり、全国各地のゲーセンの治安を 良くするための活動を行っている(自主的にでもやるし、依頼を受けてでもやると公言している)。 そのため、松木の名はネットを介して有名になり、彼の行動は多くの人々に評価されている。 従って彼のファンも少なくなく、その日ピースを訪れた大半の人間は松木の事を知っていたのだった。 その日催されたキャンペーンは夜の八時に終了となった。 松木はピース店員とともに店内の片づけを始めた。ビンゴ大会で使った機械の撤収、 くす玉とそれから降って積った中身の回収、使われたゲーム機の簡単な清掃、 店内外に今日の為に飾り付けしたものの清掃…どれもこれも面倒臭いものであったが 松木を含む店員全員は、誰も文句を言わずにテキパキとピースの清掃を終えたのである。 12月19日、夜九時、ある港町の松木邸と呼ばれる豪邸にてパーティーが催された。 松木邸の前の玄関には四人の人間が立っていた。三人は持ち物の中に招待券を持っていたが、 残る一人の少女だけがそれを持っていなかった。それを知った三人は豪邸からお出迎えに上がった、 ピースの清掃を終えたカジュアルな服装をしていた松木に、招待券がないけど彼女も入れようよと話をして、 松木はそれを承諾した。三人が仲間が増えたねと喜んでいる中、招待券を持っていなかった少女は、 ホッとしたような表情を浮かべて松木に礼をした。それに対して松木は、パーティーは人が多ければ多いほど 面白いと返し、四人を自分の豪邸に迎え入れた。
185 :
旅人 :2008/09/07(日) 00:47:22 ID:dyEw1SLW0
松木邸には談話室という部屋があった。居間のような部屋のスタイルを取っているが 常時お菓子が用意されていたり、オセロや将棋を始めとするテーブルゲームが用意されていて、 さらにプラズマTVとPS2が用意されているのが特徴である。 松木は客の四人をこの談話室に案内し、長方形のテーブルを三方に囲うように設置されている どのソファーにも座っていいと話した。それを聞いた四人の客は好きなように座り始めた。 このメンバーの中では最年長と思しき男が(外見から察するに、二十代前半だろう)TVが右手に 見える位置のソファーに座って、その左隣に最年少の招待状を持っていない少女が座った。 もう一人の知的な印象を持つ青年が少女の向かいのソファーに座り、その右隣、最年長の男の 向かいにもう一人の女性が座った。そして松木がTVの向かい、少女と知的な青年に挟まれる形で ソファーに座った。 五人はテーブルに置かれているお菓子をつまみながら何か談笑をしていた。一人招待状を 持っていなかった少女が輪から外れている印象があったが、松木が彼女に話題を振る内に 彼女もこの輪に打ち解けてきたようだった。 話題が変わって、松木が青年に向けてこんな話題をふっかけた。 「小暮さんは最近、探偵業の方はどうなの?」 小暮と呼ばれた探偵の青年は、その問いを聞いて少し苦い顔をしていた。松木があれ、禁句だった? と冗談めかして言ったが小暮の反応はなかった。ちょっとして小暮が口を開いた。 「三日前、大きな仕事が入ったんだよね」 「正俊さん、それ、どんな仕事だったの?」 小暮の事を正俊と名前で呼んだのは招待状を持っていない少女だ。探偵業というあまり 身近ではなさそうな世界の話に興味を持っている様子だった。 「優ちゃん、あんまりいい話じゃないけど聞いてくれるかい?」 優ちゃんと呼ばれた少女が頷き、松木を始めとする他のメンバーも話してくれと言った。 小暮が少し渋々…といった様子で語り始めた。 「あれは、そう、三日くらい前の話だった……」
186 :
旅人 :2008/09/07(日) 00:50:29 ID:dyEw1SLW0
はい、みんなのパーティーのプロローグは終了です。 これで皆様お分かりになると思いますが、12月19日に松木ゆうの豪邸で開催された パーティーでみんなが駄弁っていくお話です。内容はキツイものが多々ありますが… で、次回予告。 「みんなのパーティー第一章 探偵に降りかかった災難」 12月16日、小暮は何の仕事をしていたのか?そして彼に降りかかった災難とは? 気になります?気になりますよねぇ。気になりません? という訳で、今月中には投下しますよ!それじゃおやすみなさい!
旅人氏乙 nice boat.とかないよね?
>>182 読んでくれてありがとう。頑張ります。
>>旅人さん
そう言っていただけると喜ばしいです。
お互いの存在が刺激になるといいですねー。
いよいよ噂のオールスター物語が開始ですな。
楽しみにしてます。
さて、すっかり週刊連載が板についてきた感のある(?)トプラン殺人事件続きです。
店長は金魚のように口をパクパクさせた。 何から喋るべきか決めかねている彼のために、乙下は先立って口を開く。 「別にこっちも当てずっぽうで言ってるわけじゃないんですよ。 れっきとした理由がある」 「どんな理由だ?」 「いみじくもさっき店長自身が言いましたね。 『仮に金目当てだとして、何で俺なんだよ』って。 失礼を承知で申し上げますが実際その通りで、 子供を誘拐して大金をせしめようって腹なら もっとたくさん金を持っているヤツはいくらでもいる。 貴方から一億円ふんだくろうって考えること自体がまずおかしいんです。 それにね、本気で一億円が欲しいんだったら もっと丁重かつ厳重に人質を監禁するはずですよね? しかし貴方の息子さんは薬で眠らされていただけです。 見張りもつけず、自由を奪うこともせずに、ですよ。 しかも夕方には人質が目を覚まして普通に帰宅しただなんて、 そんないい加減な誘拐事件聞いたことがない。 ではなぜ犯人は人質をぞんざいに扱ったのか? それは、犯人の本当の目的が金じゃないところにあったからとしか思えません」 店長はポカンと口を開け、相槌を打つことさえ忘れて乙下の言葉に聞き入っている。 「付け加えて、犯人はシルバーの金庫から現金200万円を持ち去りました。 金庫には250万円が入っていたのに、50万円を残して200万円だけ盗んだんです。 これって金目当ての人間がすることでしょうか?」 パニック状態に近い店長が理解できるよう、 乙下はゆっくりと言葉を区切って聞かせた。 しかし、それでもなお店長が次の言葉を発するまでには少々の時間を要した。 「……金目当てじゃないってことは何となく分かった。 けど分からん。 ウチの息子を誘拐したり、50万円だけ残しておく意味は何だ?」 「それは残念ながら、まだはっきりと分かりません」 店長は不服そうに首を捻った。 「それじゃどうして『最初からBOLCEの殺害が目的』だなんて言えるんだよ」 「現場の状況から、恨みによる犯行の線が強いと判断したまでです」 凄惨な現場の状況が記憶に新しい乙下は、敢えて漠然と答えた。 絞殺された上、無残にもIIDXの筐体から首を吊るされたBOLCEの痛ましい姿。 あの凶行が恨みによるものでないとすれば、一体どんな理由があると言うのか。 「それはない」 店長は断言した。 声に怒りが混じっている。 泣いたり笑ったり怒ったり、本当に忙しい人だ。 「いいか、BOLCE君は人から恨みを買うようなヤツじゃねぇ!」
まさかリアルタイムで見られるとは 支援
「絶対に?」 「絶対に!」 度が過ぎるほどに店長の目は本気だ。 「こっちは一年や二年の付き合いじゃないんだ。 BOLCE君がどんな男かは、誰よりもよく知ってる」 「そんなに長いんですか?」 「俺がシルバーの店長になってからずっとの付き合いだ。 もう十年近く前から毎日のように顔を合わせてるんだぞ」 約十年間、ほぼ毎日。 下手をすれば家族より長い時間を共に過ごしてきたのかも知れない。 「誰よりもよく知ってる」という宣伝に、きっと誇張表現はないのだろう。 その過程で培われた絆の強さに想いを馳せると、より一層やり切れなさが募る。 「よし、今からBOLCE君がどんなにいいヤツだったかを証明する。 病気のお婆さんを助けた話にするか? 腹をすかせた子猫に弁当を分けてやった話がいいか? 迷子の子供を家まで送った話もあるぞ?」 「……彼の素晴らしさはよく分かりましたので、 そのエピソード集は胸にしまっといて下さい」 話だけを聞くと、まるで聖者のような振る舞いだ。 店長の熱にほだされるつもりはないが、 恨みによる犯行という前提が乙下の中で揺らぎそうになる。 「話題を変えますが、1046についてはご存知ですか?」 「もちろんよく知ってる。彼とも付き合いが長い」 「今回の事件の第一発見者は彼です」 「……さぞショックだったろう。あんなに仲が良かったのに……」 「1046とBOLCEはどんな関係だったんですか?」 店長の鋭い眼光が乙下を突き刺す。 「刑事さんよ、まさか1046ちゃんを疑ってるわけ?」 「……」 乙下の無言を肯定の意味で受け取ったらしく、店長は声を張り上げた。 「それはない。 いいか、1046ちゃんは人殺しをするようなヤツじゃねぇ!」
「絶対に?」 「絶対に!」 またも店長はきっぱりと断言した。 「いいか、こっちはもう十年近く前から毎日のように顔を合わせてるんだぞ」 「なんかさっきも聞いたような」 「うるせぇ、とにかく1046ちゃんは絶対に人殺しなんかするような男じゃない。 ましてや、相手は親友のBOLCE君だ。 1046ちゃんにとってかけがえのない親友だぞ。 毎日毎日飽きもせずスコアを競ってたんだ。 ライバルだ!男の友情だ!熱い魂の分身だ!!! 何があっても絶対に殺すなんて考えるはずがない。絶対にだ」 店長は口角泡を飛ばしながら怒鳴った。 二人を仕切るガラスが無かったら、と乙下はぞっとする。 「ごめんなさい、でも勘違いしないで下さい。 別に1046を疑ってるわけじゃないんですよ。 ただ、色んな可能性を見据えて捜査していくのが刑事の仕事なもんでして。 この話は終わりにしましょう」 「分かればいいんだよ」 不必要に店長を刺激して心を閉ざされてしまってもつまらないので、 乙下は必死になだめたつもりだったが、彼はあっさりと怒りを鞘に納めた。 気難しいのかそうでないのか、掴み所がない。 いや、きっと単純なだけなのだろう。 乙下は気を取り直し、身を乗り出した。 「さぁ、聞きたいことはまだまだ山ほどありますよ。 お疲れのところすみませんが、もうしばらく協力して下さい」 「BOLCE君の敵討ちだと思えば辛くも何ともねーよ。どんどん聞いてくれ」 こうして二人のセッションは長々と続いた。 to be continued! ⇒
…すんません。
次回はいよいよアリバイがどうとか言っておきながら、
事情聴取シーンに思ったよりも文量を割いてしまい
そこまで書ききることができませんでした。
実はこの続きもある程度は書いてあるんですが、
区切りがよくないので次回一気に投下します。
なんか場繋ぎみたいになってしまったなぁ。
(でも今回は話の流れ上どうしても必要なシーンでした)
>>190 支援ありがとうございます。
次回こそはストーリー上の山になりますので、お楽しみに。
wikiのスレッドアドレスを更新しておきました。
急な移転でしたねえ…
それから一つ書いておきますが、wikiは基本的に私(管理人)以外更新できないようにしてあります。
リンクアドレスの書き換えや、保管作品の改竄を防ぐ為なんですけどね。
この事を書いていなかった気がするので、一応記しておきます。
自分もそろそろ何か書きたいなと思いつつ、ネタが浮かびません…
別板の某二次創作SSスレではちょこちょこ書いていたりするんですが。
>>193 投下お疲れ様です。
いよいよ次から深いところへと入っていくんですかね?
期待しております。
To.とまとさん 展開が面白く、一気に読んでしまいました。続きとても楽しみにしています。
>>まとめWikiの中の人 お忙しい中、大変お疲れ様です。 せっかく保管していただいてなんですが、 トプラン殺人事件の40〜44(スレの番号で言うと176〜180)が すっぽり抜け落ちているような気が…… ご面倒でなければ併せて保管いただけると嬉しいです。 まとめ人さんの作品も楽しみにしてますねー。 さて、トップランカー殺人事件の続きです。 今回は本当に神経を擦り減らして書き上げました。 もしかすると、読む方はもっと神経を使うかも知れません。 それでも出来る限りわかりやすく書くよう努めたつもりなので、 よければじっくりとご賞味いただきたく思います。
>>195 ありがとうございます。
そんなちょっとした一言が嬉しくて、こうして書き続けてます。
今回もぜひお楽しみ下さい。
店長への事情聴取を終えた乙下は、自デスクのある捜査一課へ戻った。 窓から鋭角に差し込む夕日の光を眩しく感じ、 ようやく想定していたよりも長い時間をかけていたことに気付いた。 荒山課長へ捜査の進捗を簡単に報告してからデスクへ戻ると、 整然とした机上へ一綴りの資料がこれ見よがしに置かれている。 「トップランカー殺人事件丸秘ファイル」と丁寧にタイトルが印字された表紙を見て、 乙下は「あのバカ」と舌を打ちつつ、一枚目を丸めて空気のデスクに放り投げた。 次のページには「これまでのあらすじ」を文頭に 何やら細かい文字が並んでいるので、無言で二枚目も破り捨てる。 三枚目になり、ようやく乙下の欲しい情報が顔を出した。 「DJ 1046 e-AMUSEMENT PASS使用履歴」と銘打たれた表だ。 表の先頭には「ID = 4649-5963; DATE = 08/07/16 の検索結果」と書かれている。 空気がコナミに問い合わせをし、データベースの検索結果を送ってもらったのだろう。 「4649-5963」は前回の空気の報告書にあった1046のIIDX IDと一致している。 乙下は早速表に目を通し始めた。 CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:27, END = 10:39; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:40, END = 10:52; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:52, END = 11:03; …… どうやら店舗コードとゲームの種類、 そしてプレイの開始時刻・終了時刻を示しているらしい。 CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:04, END = 11:16; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:17, END = 11:29; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:30, END = 11:42; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:43, END = 11:55; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:00, END = 12:02; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:03, END = 12:09; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:09, END = 12:20; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:37, END = 12:48; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:49, END = 13:01; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 13:02, END = 13:13; CLIENT = "ABC", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 13:14, END = 13:25; …… データを素直に読むと、昨日1046は10:27にABCへ来店し、 ほぼ休むことなくIIDXをプレイし続けていたことになる。 ほとんどのプレイ時間が11〜12分間であり、 1分より長く間を空けずに次のプレイを開始している。 その中で、乙下はあることに気付いた。 12:00前後の行動が他と比べて不規則なのである。
1046は11:55にプレイを終了し、5分の間を空けて次のプレイを開始している。 それまでは間を空けずにプレイしていたにも関わらず、 なぜここで5分間のインターバルがあるのだろうか。 次のプレイはもっと奇妙だ。 12:00にプレイ開始し、12:02に終了している。 モード選択画面や選曲画面の時間を考慮すると、ほとんどプレイしていない計算になる。 1曲目の序盤にHARD落ちしたか、あるいは捨てゲーをしたとしか考えられない。 しかし、1046ほどの実力者が1曲目で落ちるなどという失態を犯すだろうか。 次のプレイは12:03に開始し、12:09に終了。 FREEモードを選んだのであれば決して不自然なプレイ時間ではないが、やや気にかかる。 続いて12:09に開始し、12:20に終了。 ここで17分間のインターバルが発生し、12:37にプレイ再開している。 その後は16:00近くまで延々と休みなくプレイを続けており、 特に引っ掛かる点は見当たらない。 BOLCEの死亡推定時刻は12:00〜13:00なので、 1046が不審な行動を取ったまさにその時刻とぴったり一致しており、 そのこと自体がますます不審さを醸し出している。 この不自然極まりないタイムテーブルが何を意味しているのかは見当もつかないが、 乙下の中で1046に対する嫌疑はより深まった。 考えることは後回しにし、乙下は丸秘ファイルのページをめくった。 「ABC監視カメラ調査結果」とタイトルが記されたそのページには、 大きく二枚の写真が貼り付けられていた。 写真@にははっきりと1046の全身が俯瞰視点で撮影されており、 右下に「7/16(Wed) 12:35」と白抜きのデジタル文字が表示されている。 写真Aには1046らしき男の後ろ姿が撮影されている。 時刻は「7/16(Wed) 12:37」。 後ろ姿とは言え写真@と完全に同じ服装と体型であり、 1046本人であることは疑うべくもない。 ページの下には親切にも「時刻ズレ無し」とメモされている。 1046の発言を思い出す。 「あの角度だと、トイレに行く度に必ず姿が映り込むと思うんです」。 「ちゃんと録画されてれば俺の姿も撮影されてるはずですよ」。 その通りだった。 1046はトイレに行き、そして出てきたところを撮影されていた。 イーパスの使用履歴と監視カメラの映像。 この2つのデータが真実であると仮定すれば、 BOLCEの死亡推定時刻と1046のアリバイが無い時刻が重なるのは 12:20〜12:35の15分間だけである。 「……たった15分でやれるか……?」
乙下は頭の中でシミュレーションを描いてみた。 15分という短い間にABCからシルバーへ移動し、 誰にも見つからずにBOLCEを殺害し、その死体をIIDXの筐体へ吊り、 さらに金庫から200万円を奪い、シルバーからABCへ戻る。 本当にそんな離れ業が可能なのだろうか。 何せ、シルバーとABCは徒歩で約15分の距離を隔てている。 徒歩で移動した場合、それだけで時間を使い切ってしまうのだ。 では自転車等の小回りが利き、かつそれなりにスピードを出せる 移動手段を用いた場合はどうだろう。 そう言えば1046はマウンテンバイクを愛用していたではないか。 おそらく移動時間は5分程度まで短縮できるであろう。 ABCとシルバーの間を往復するのに10分かかるとして、 残りの5分で殺害・死体吊り・窃盗の全てを人知れずこなす必要がある。 ハードスケジュールこの上ないが、 確実に不可能、とまでは言い切れない。 かと言って、相当厳しいラインであることに変わりはない。 アリバイとしては微妙なところだ。 考えてもきりがないので、乙下は観点を切り替えることにした。 1046にとって犯行が可能だった時間は15分だけだが、 それはあくまでイーパス使用履歴の情報を素直に読み取った場合の話だ。 あの使用履歴に記された時刻自体の信憑性を疑った場合、 15分の壁は脆くも崩れ去るのではないか。 すなわち、第三者にイーパスを預けて午前の間ABCで休まずにプレイさせれば、 1046は別の場所にいながら、ABCに居続けたという記録を捏造することができる。 しかし、乙下はすぐさまその推理を却下した。 どんな犯罪においても「共犯者」がいれば、出来ることの幅は飛躍的に広がる。 ただしそれは諸刃の剣であり、 自分以外の口から秘密が漏れるリスクを一生抱えなければならない。 よほど利害が一致しない限り、軽はずみに共犯者など持つべきではないのだ。 ましてやこれは殺人事件のアリバイに絡む話だ。 人間の心理などという曖昧なものの上に成立するアリバイ工作など、 薄氷の上を裸足で歩くかのような危うさがある。 いずれにせよ、共犯者がいる線は薄い。 乙下はそう判断した。 であれば、やはり1046はたったの15分という時間を 限界まで有効に使い、BOLCEを殺害したというのだろうか。 乙下は次のページをめくった。 「目撃情報」とタイトルが付けられているが、ごく短い文面であり余白が目立つ。 情報@ ABCの店員 ・7/16の昼間は誰かがずっとIIDXをプレイしてた ・カーテンを閉めてプレイしてたので、どんな人かは分からない ・ただ、鍵盤を叩く音がやけに綺麗だったので、かなりの上級者だと思う 情報A シルバーの常連ゲーマー(BOLCEや1046と面識有り) ・1046が16:00過ぎにシルバーへやって来たので少し会話をした ・その後、1046がデラ部屋へ入って行ったと思った矢先、大声で叫び始めた ・何事かと思って部屋を覗くと、BOLCEが首を吊って死んでいた 書かれているのは以上だった。
目ぼしい情報ではなかったが、この短時間で乙下の指示通り 1046のイーパス履歴・ABCの監視カメラ・周囲の目撃情報を調べ上げ、 きちんと報告書にまとめている空気の仕事ぶりは評価に値する。 だがゴミ箱の中で丸まっている「これまでのあらすじ」が目に入り、 やはり空気の評価は据え置きだな、と肩を落とした。 「そういや、空気のヤツどこに行ったんだろ」 その時、すっかり聞き馴染んだメロディが署内のスピーカーからゆるやかに流れてきた。 あのベートーベンの中で最も有名な曲の一つ、交響曲第9番ニ短調OP.125。 通称「第九」だ。 IIDXに収録されている「END OF THE CENTURY」よりもずっと遅いテンポで アレンジされており、夕焼けに染まる署内へ退勤時刻を優しげに伝えている。 だが現実には午後五時の退勤時刻などあって無いようなもので、 多忙が日常化している捜査一課の面々が 第九のメロディをバックに帰路へ向かえた試しはあまりない。 乙下は退勤時刻になっても姿を見せない空気を気にかけ、電話をかけた。 数回のコールの後、無駄にハイテンションな空気の声が鼓膜を突いた。 「もしもし!何すかオトゲ先輩」 「……」 「あれ?オトゲ先輩?もしもーし!」 空気の声に重なり、微かに第九のメロディが携帯電話から聞こえる。 捜査一課のスピーカーから流れているメロディに比べて 数秒ほど遅延しており、どうにも気持ちの悪い輪唱を奏でていた。 「……お前さ、もしかして署内にいる?」 「そうっすよ。たった今帰ってきました」 「ふーん……そうなんだ、近くにいるんだ」 「近くどころか、今まさに捜査一課へ」 「帰還するところっす!」 「帰還するところっす!」 左の耳はドアの前に現れた空気の肉声を、右の耳は携帯電話からの声をそれぞれ拾った。 「お前の声だと余計気持ち悪い輪唱になるな」 「ちょ、いきなり気持ち悪いとかひどいっす」 空気は携帯を切りながら乙下へ近寄ってくる。 その得意気な目は、IIDXをプレイし終わった際に後ろを振り向く時と同じものだった。 「どうでした?ボク渾身の丸秘ファイルは」 「短い時間によくここまでまとめてくれた」 調子に乗せるのも癪だったが、ひとまずは素直に褒めてやる。 「フヒヒ、BPM400で頑張りましたから」 「一生ソフランしてろ、このバカ」 「ボクの人生糞譜面ですから。望むところっす」 もはや日本語ではない。 他人には聞かれたくない会話だ。 「で、何の電話だったんすか?」 「こんな時間になっても帰って来ないから、どこ行ったかと思って」 「ちょっとNTT東日本の岩手支店に行ってました」
「NTT?」 「ほら、今回の事件で犯人はシルバーへ脅迫電話をかけたじゃないっすか。 発信元の番号と正確な時刻が分かれば手掛かりになるっしょ」 なかなかに気が利く。 「まず、発信元の番号はプリペイド式の携帯電話だったみたいっすね」 プリペイド式携帯電話。 その存在に乙下は常々悩まされており、思わず顔をしかめた。 通常の後払い方式の携帯電話とは異なり、 プリペイドカードと呼ばれるカードを購入して そこに記載された暗証番号を端末へ入力することにより、 金額分の通話が可能となる先払い方式の携帯電話だ。 その手軽さゆえ匿名性を保ったまま所持することが 比較的容易に実現できるため、犯罪の温床となっている。 「要するに番号から犯人の身元は割り出せなかったってことね」 「さすがオトゲ先輩、話が早いっす」 「まぁ相手もそこまでバカじゃないだろうからな。 電話の時刻については?」 「正確な通話履歴が残ってましたよ。 一回目の電話が11:10〜11:15、 二回目の電話が12:15〜12:18、 三回目の電話が13:18〜13:21っす」 「12:18……」 店長は12:18に犯人との二回目の電話を終え、 その直後にBOLCEと鉢合わせし、最後の会話を交わした。 少なくとも12:18には、BOLCEの心臓は力強いリズムを刻んでいたのだ。 残された鼓動の回数がほんの僅かであることなど、知る由もなく。 だが、これでBOLCEの死亡推定時刻は12:18〜13:00にぐっと縮まった。 「あれ、でも、ちょっと待てよ……?」 乙下は今一度丸秘ファイルを開いて、丹念に熟読した。 「空気、このイーパス使用履歴ってマジ情報なんだよな」 「マジ情報っす。コナミのIIDX部門に問い合わせて照会したものですから」 「だとしたら、1046のアリバイの無い時刻は12:20〜12:35だけなんだぞ。 それ以外はずっとABCでデラをやってたはずなんだ」 「……そう、そこなんすよ」 乙下と空気は、数秒間無言で目を合わせた。 ――1046はどうやってシルバーに電話をかけたんだ――?
「……ただ電話をかけるだけなら、 デラをプレイしながらでも何とか出来るかも分からない。 けど犯人は、シルバーの中の様子を監視してたんだぞ?」 ABCでデラをプレイしながら、シルバーの様子を監視し、 なおかつ店長へ電話をかけて会話を成立させる。 そんなこと、いくらトップランカーと言えども不可能に他ならない。 「オトゲ先輩。実はそれだけじゃないんす」 「何だよ、もう勘弁してくれよ」 「丸秘ファイル、最後まで読んでくれたっすか?」 「もしかしてまだ続きがあったのか」 乙下が「目撃情報」のページをめくると、新たな一枚が出現した。 それは「DJ BOLCE e-AMUSEMENT PASS使用履歴」とタイトルが付いている表だった。 1046の場合と同じく、表の先頭には 「ID = 1192-2960; DATE = 08/07/16 の検索結果」と書かれている。 おそらくこれがBOLCEのIIDX IDなのだろう。 「なるほど、BOLCEのイーパス使用履歴か」 「ついでなんでコナミに送ってもらったんすけど……正直参ったっす」 CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:10, END = 10:20; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:21, END = 10:32; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:33, END = 10:44; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 10:44, END = 10:56; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:57, END = 11:08; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:09, END = 11:20; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:21, END = 11:31; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:32, END = 11:43; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:43, END = 11:54; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 11:55, END = 12:06; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:19, END = 12:30; CLIENT = "SILVER", MACHINE = "IIDX15 DJTROOPERS", START = 12:30, END = 12:40; 乙下は食い入るように表を見つめた。 BOLCEが午前の間シルバーでIIDXを執拗にプレイしている様子が目に浮かぶ。 正午を過ぎ、店長がBOLCEと最後の会話を交わしたのが12:18だったはずだが、 BOLCEはその後、12:19〜12:30と12:30〜12:40の二回に渡りIIDXをプレイしている。 表はそう告げていた。 「BOLCEのカードが使われた最終時刻は12:40っす。 12:35にABCのカメラへ映っていた1046には、どう足掻いても犯行は無理としか……」 「そうなのか?本当にそうなのか?」 空気が事もなげに言うので、 乙下は意地になってあらゆる可能性を模索しようとする。 ところが、空気は引導を渡すかのように一枚の写真を乙下へ差し出した。
シンプルな柄のトートバッグを筆頭に、 財布・現金・カード類・タオル・携帯電話・ペットボトル。 そんなものが並べられている様子を、写真は写し出していた。 「BOLCEの遺留品っす」 「……これは……信じられねぇ……」 乙下の背中に、ぞくりと鳥肌が立った。 すでに空気の言いたいことがほとんど把握できていた。 乙下は自分を奮い立たせ、その恐ろしい事実を言葉にし、喉から絞り出す。 「……この写真に写っている白いカードは、イーパスだな」 「そうっす」 「……イーパスは、BOLCEの財布に入っていたんだな」 「そうっす」 「……このイーパスは、いつ、誰が財布に入れたんだ……?」 仮定1、BOLCEが自分で財布に入れた。 とすれば、BOLCEは12:40までIIDXをプレイし、 イーパスを財布に入れた後で殺されたことになる。 つまり、BOLCEは12:40以降に殺された。 仮定2、犯人の手によって財布に入れられた。 とすれば、例えBOLCEを12:40以前に殺していたとしても、 犯人はイーパスが排出される12:40まで筐体のそばで待機し、 その上でイーパスをBOLCEの財布へ入れて現場を立ち去らなければならない。 どちらにせよ犯人が12:40の時点でシルバーの中にいなければ、 この犯罪は成立し得ないのだ。 ところが、乙下が容疑者として確信的な疑いを向けていた1046は、 12:35の時点ですでに遠く離れたABCの監視カメラに映り込んでいたのだ。 「1046のアリバイは完璧っす。 彼がBOLCEを殺害するのは、100%ムリモーグっす……」 乙下は下唇を出したまま黙り込んでしまう。 1046は幾重にも重なった鉄壁のアリバイに囲まれていた。 彼は一体どんな手を使ってこの完全犯罪を仕上げたというのか。 それとも、彼は最初から潔白だったのだろうか。 潔白。鉄壁。 ふいに乙下はInnocent Wallsを連想した。 そうだ。 HYPERとANOTHERで大きく異なるアレンジを持つあの曲のように、 この事件も違う角度から覗けば、全く別の見え方がしてくるのかも知れない。 だが、どちらのアレンジにおいても譜面は極めて難易度が高く、 プレイヤーを怒涛の勢いで押し潰しにかかる「壁」は健在だ。 かくいう乙下もこの時ばかりは、 姿無き大いなる圧力によって押し潰されそうになっていた。
――次回、完璧を誇る1046のアリバイを前に成すすべのない乙下。 だがひょんなことをきっかけに、閉塞した状況は打ち破られ―― 〜〜〜 第三話 ☆12のトリック 〜〜〜 to be continued! ⇒
というワケで物語は第三話に続いていきます。 この事件の真相、もしよければ皆さんも考えてみて下さい。 ちょっと考えただけで解けてしまうほど簡単な真相ではありませんので、心してどうぞ。 ただし、ここまででもヒントとなる伏線はかなりの数を張り巡らせてあります。 今後はその伏線を少しずつ回収しながら話を収束させていきますので、 ぜひご期待下さい。(と言ってもまだまだ続きますが…) それでは。
>>196 指摘ありがとうございました。
という訳で、早速抜け落ちた部分を保管しておきました。
もしよろしければ、ご確認下さい。
ちなみに、機種依存文字等細かい部分は修正してありますので。
208 :
爆音で名前が聞こえません :2008/09/22(月) 12:04:26 ID:8vafbXL/O
保守
209 :
旅人 :2008/09/24(水) 17:18:24 ID:NToRggBX0
>>とまと氏 亀ですが乙です! 事件の真相について考えてみましたが、全然わかりませんでした。 これはもう一級品の推理小説じゃないかと思いました。これからも頑張ってください! >>まとめwikiの中の人 まとめwikiで「NO.9」が無いっぽかったので、もしよろしければ次回の更新のときに 保管していただけますでしょうか?あと、まとめさんの作品も楽しみにしています! 今晩は、旅人です。 さて「みんなのパーティー 第一章 探偵に降りかかった災難」を投下させて頂きます。 小暮探偵が12月16日に行った仕事とは?そして彼に降りかかった災難とは? って事で、それでは本編をどうぞ。
210 :
旅人 :2008/09/24(水) 17:20:15 ID:NToRggBX0
08/12/16(火) 「お、これは…決定的な証拠!撮らせていただきますよ…!」 小暮はそう呟きながら小型のデジタルカメラのシャッターボタンを押した。SDカードに、 中年の男性と若い女が喫茶店で仲良くお茶をしている写真が記録される。 その後、二人は喫茶店を後にした後に繁華街に行き、そこにあった小さく古ぼけて誰 も利用しなさそうなラブホテルに入店した。それを小暮は週刊誌のカメラマンよろしく 撮影していく。 「あなたが帰ってきたら、奥様は大いに怒られるでしょうがね…悪く思わないでくださ い、これは僕の仕事なんです。汚いと罵られても、私立探偵の仕事なんてこんな浮気調 査だとかが大半を占める。漫画のように殺人事件を華麗に解決なんてしないんですよ…」 三日前、小暮私立探偵事務所なるものを、その何ヶ月前に再び立ち上げた小暮正俊は一 つの依頼を受けた。セレブの奥田夫人が依頼人である。服装から装飾品まで、全てがゴー ジャスであった。華々しいを超えて眩しい…まではいかなかった。太陽拳じゃあるまいし。 が、いかにもセレブな雰囲気を醸し出している三十路半ばの美人であった。 依頼内容は夫の浮気調査である。最近、夫である奥田氏の態度が何やらよそよ そしいというのだ。奥田夫人の女の勘が、夫は浮気しているのではないか…と知 らせたのだといい、地方紙でこの事務所の宣伝を見て直接依頼をしに来たのだと いう。 これだよこれ。そうお金を手にするチャンスを得た小暮は不謹慎ながらも笑顔で依頼を 受領し、そして遂行している。 数枚の写真を保存しているSDカードを咥えているデジタルカメラを大事そうに持ちなが ら、小暮はある場所へ向かっていた。依頼人の奥田夫人の住んでいる家である。確固たる 証拠をつかんだらすぐに私の自宅へ来て頂戴と奥田夫人は小暮に言っていたので、小暮は その通りに行動しているのである。 小暮は奥田夫人の、というよりは奥田氏の豪邸の素晴らしさに圧倒された。初めて豪邸 を見るわけではなかったが、奥田邸は何かが違う。中から発せられる何かが。そう、何かが… 瞬間、小暮の視界の端で何かがシュッと動いたような気がした。人か…?と思ったが、 きっと猫か何かだったのだろうかと思った。が、何やら嫌な予感がしてならない。 手汗が止まらなくなると、近々嫌なことが起きるというのは最近になって小暮自身が気づいた事だが、 その現象が起きた。奥田邸で、いったい何が起きたのだろうか? 小暮は、奥田邸の門から玄関まで続く長い庭に用意されている石畳の道を歩いていた。 50メートルはあるだろうな…と小暮は思いながら玄関に着き、チャイムを鳴らす。しばらく してからメイドさんが現れ、小暮が奥田夫人に呼ばれている旨を述べると、彼女は奥田夫人の 部屋を案内すると言った。三階建ての奥田邸の二階の小暮が圧倒されていた時に立っていた道 の側の一番大きな一番端の部屋が夫人の部屋だという。そこまで案内して、メイドさんは去って行った。
211 :
旅人 :2008/09/24(水) 17:22:36 ID:NToRggBX0
「へぇ、それでどうなったのさ」 松木が、小暮がそこまで話したのを聞いてからそう言った。 小暮は松木の目を見ながら、真剣な面持ちで再び語り始めた。 「メイドさんがそこを立ち去ってから、僕は奥田夫人の部屋の戸を開けたんです。そしたら…」 小暮は奥田夫人の部屋に入った。夫人?と小暮は部屋の明かりをつけながら言った。 何かが決定的におかしい。奥田夫人が部屋にいるのなら、部屋の明かりがついていないのは変だ。 奥田夫人が暗闇が好きだとか言うのなら話は別だが…まぁ部屋の構造がホテルの一室っぽい 所か?妙に違和感を感じるところと言えば? しかし、それを否定しても小暮の嗅覚が不吉な予感を提示してしまった。鉄の匂いがしたのだ。 それも、鼻血を出した時に鼻の奥で嗅げるあの匂いの種類の鉄の匂い。 部屋と呼ぶには少々広めなそこは、ホテルの一室のような作りになっていて、寝室とトイレが 部屋の中にある。寝室にはシングルベッドが一つ。薄型のTVが一台。そしてゆりかごのように動 く椅子が一つ。寝室をくまなく探しても夫人はいなかった。ならば。 小暮は寝室から取って返し、ドアの近くにあるトイレの戸をノックした。返事がないことを確認した 小暮はその戸を開けた。案の定戸は開いて、そして不吉な予感が当たってしまった。 ホテルの一室によくある、洋式トイレとユニットバスがセットになっているその場所で、 奥田夫人が前に会った時と同じようなゴージャスな服を血で汚しながら、洋式トイレに座っていた。 奥田夫人の胸元には、彼女の血で塗られたナイフが深々と突き立っていた。 戸を開けた瞬間から強烈に漂った血の匂いが、小暮の右手が彼の鼻を押さえさせた。そしてその匂いは 瞬く間に部屋全体に漂っただろう。もしかしたら外の廊下までにもそれは達したかもしれない。 見るも無残な凄惨な死体。小暮は初めて見る生の死体を見て吐き気を催したが、それをグッとこらえて 死体の観察をし始めた。 「どう見ても即死って感じでしたよ。どう?こんな場で話すような話じゃなかったでしょ?」 松木邸の談話室で語っていた小暮がそう言って、一度語るのを止めた。談話室の空気が急速に 重くなっていくのを感じながら、松木が小暮に言う。 「続きは?その話には続きは無いの?」 「あるよ。でも、あまり面白い話じゃないかも。ここまで空気が重くなっちゃったからね」 それでもいい、と優の隣に座る最年長の男が言って続ける。 「話ってのは中途半端で終わらせちゃあいけないものだよ。さぁ、語ってくれ」
212 :
旅人 :2008/09/24(水) 17:24:06 ID:NToRggBX0
トイレ室の四面の壁と天井と床についていた白いタイルが、洋式トイレに座って死んでいる 奥田夫人の血飛沫で染まっていた。その部屋に小暮は立ち入ってしまった。探偵としての 使命感か何かを感じていたのかもしれない。 本来ならここで悲鳴を上げて、それを聞いた第三者が駆けつけて、彼(又は彼女)が冷静な 対応(警察を呼んだり、救急車を呼んだりとか色々)を取るのが普通の流れだが、小暮は悲鳴を 上げなかったし、それで第三者も駆けつけず、そして小暮は警察にも連絡を取らず自分で 調査を行おうとしていた。その行動が、彼の悲劇の始まりを告げていたのかもしれない。 小暮が死体を観察して、死んだのは十分ほど前と見当をつけた。その時、奥田邸に入る時に 見かけた黒い人影を思い出した。まさか、奴が夫人を?そうとしか思えない。 それから上着から白い手袋を取り出してそれを履いてナイフを握った、その時だった。 奥田夫人の部屋のドアがカチャリと音をたてて、その中に「奥様?奥田様からお電話が…」と 小暮を奥田夫人の部屋まで案内したメイドの声が混じっていた。が、死体調査に全神経を傾けていた 小暮にその声は全く届かない。 メイドは「お電話がきています」と言おうとしたのだが、奥田夫人の部屋に充満する血の匂いを 嗅いで、異常な事態が起きたのだと悟った。それから、匂いの発信源をトイレ室だと予測を立てた 彼女は駆け足でそこに飛び込む勢いで駆けつけ、 「キャアアアアァァァーッ!!!!」 と悲鳴を上げた。その声でようやく小暮は、死体の奥田夫人と自分以外に人がいる事に気づいて、 しまった…と思った。指紋を残さないようにと配慮して装着した白い手袋には、もう赤黒い血が べっとりとついてしまっている。もう、このメイドは僕が奥田夫人を殺したのだと思っているに違いない! 「違うんだ、落ち着いてってて、僕じゃない、ぼっぼぼ僕じゃない! 奥田ふっ夫人を殺したのはぼっぼっ僕じゃないんだ!頼むからおち、落ち着いて!」 落ち着け!と言っている自分こそ落ち着かんかい!と小暮はセルフツッコミを心中でしたが、 どこからも笑い声は聞こえなかった。代わりに聞こえるのは、 「人殺しーっ!!(自分の服のポケットから携帯電話を取り出して)警察?警察ですか!? 殺人です!事件です!!早く来てください!!!場所?奥田邸ですよ!!!場所は分かるでしょ!? 早く、早く来てーっ!お願いよーっ!」 という、冷静さを失っても警察に連絡をしているメイドの壊れっぷりが凄まじい通報の声だけだった……
213 :
旅人 :2008/09/24(水) 17:26:05 ID:NToRggBX0
08/12/17(水) 昨日、音安市警察署に一本の電話が入った。その電話の内容は、同市に住む者なら誰もが 知っている「奥田康弘」という金持ちの豪邸で殺人事件が起きたという通報だった。 一人の男が奥田の妻を殺害したというのだ。その男は容疑を否認しており、 彼は警察に通報された時にパニックになったメイドから電話を取り上げ、そしてこう言ったという。 「えー、死体があるっていうのは本当です。でも、僕が殺したんじゃないんですよ。 さっき通報した女性がパニックになっているだけで、えぇ。 ……名前?小暮正俊です。はい、私立探偵の。……いえいえ、あの時はお仕事を持ち かけたいただいてありがとうございまs…え?だから、僕はやっていませんって。 ……だから、違いますって。本当に頭が固いな…………だったら、現場検証の時に 田中刑事を呼んでください。えぇ、大桟橋爆破未遂事件の時に僕の所によこした、あの刑事さん。 僕はとりあえず奥田邸で黙っていますから、必ず田中刑事をここに現場検証させに来てください!」 殺人事件が起きた奥田邸の前に二人の刑事と一台の車があった。 「Shall we〜promise everyday〜go to working the park〜」 田中五郎刑事の右隣で、同僚の中井和刑事がそんな歌を歌っていた。田中はこの歌に聞き覚えがあったが 曲名を思い出す事が出来なかった。何だった、犬の品種の名前だったような気が…チワワだったか?違うな。 いや、それは置いといて……コイツ、本当に音痴だよな…そう田中は思いながら、歌っている中井に声をかけた。 「ここが奥田邸だったか?」 「poodle…え?ああ、そうそう。ここだな」 「お前さ、これから殺しのあった現場に行くってのに、そんな音痴な声で歌ってんじゃねぇよ」 「俺は音痴じゃねぇよ!」 「壊滅的な音痴だよ」 中井はムッとした顔になってから、グッと田中の耳元に自分の口を近づけて大声を上げた。 うるせぇ馬鹿と田中は中井を軽く突き飛ばしてから、奥田邸の玄関の戸を開けた。 玄関にはメイド一人と、そして小暮正俊が立っていて、二人の刑事を出迎えていた。 小暮は両手を後ろに回され、そしてそれをロープで縛られているようだった。そのロープは 飼い主と飼い犬のような関係で、小暮の隣に立っているメイドの左手に握られていた。 「小暮探偵、お前犬になったか」 「違いますよ。それよりも早く中に入ってください。現場にはもう何人か人がいますから。 絶対に僕はやっていませんから。田中刑事、あなたなら信用してくれるでしょ?」 「仕事に私情は挟めねぇ。ちゃんとした証拠を見つけられたら、お前は解放されるんだが。 それまで、お前の身柄はこの中井に預かってもらう。何、心配ねぇよ。こいつの欠点ったら 壊滅的な音痴って事くらいだからな」
214 :
旅人 :2008/09/24(水) 17:29:13 ID:NToRggBX0
「お前しつこいんだよ、人の事を音痴音痴って…なんでお前と組まなきゃいけねぇんだよ」 「んじゃあお前帰っていいよ。とりあえず小暮を連れて白壁にでも行ってろ」 は?と小暮は思わず言ってしまった。……警察ってこんなに軽いものだったか? 容疑者に対してそんな扱い方でいいのか?顔で田中にそう問いかけた小暮はこんな答えをもらった。 「いや、先の橋爆破の未遂事件。あれでお前の名前は署に広まってだなぁ… 今じゃネットでも広まっているったか。でも、そんな事を言いたいんじゃねぇ。 署の誰もが、お前は奥田夫人を殺してねぇって思ってる。満場一致のシロだよ、お前は」 「じゃ、どうしてここで家に帰らさせてくれないんですか。おかしいじゃないですか。 僕は全く疑われていないんでしょ?」 お前は肝心な事を忘れてる。そう田中は言ってから続ける。 「取り調べだ。署の取調室で取り調べるよりは、お前がリラックスできる所で 取り調べようってことだ。これは俺のアイディアだぞ。あそこは結構暗い場所でな…… まぁ取り調べられる側は結構精神的にくるし、取り調べする奴が怖いんだよな。それよりもな…… ………出るって話なんだ。まぁ、大半の人間には関係のないことなんだけどな」 「それで、僕を白壁に連れて行ってから事情聴取ですか。最近の警察って凄く軽い姿勢で 事件解決を目指すのだと思っていたけど…僕に対しての配慮って事ですね」 「そういう事だ。…中井も音ゲーマーだ。アイツは今SP五段だったか六段のレベルだってよ。 ……お前八段だって言っていたか?」 「えぇ」 「だったら、アイツにアドバイスの一つでもしてくれ。Vが出来ねぇとか仕事中に言うんだよ。 俺にも出来ねぇものを俺に『アドバイスない?』とか言ってうるさいんだよな。 取り調べが終わり次第、お前は解放だから。はい、そういう事で…中井!」 「分かった。ほら探偵さん、こっちだ。ほら、どうだい俺のプリウ○。 ハイブリットだぜハイブリット。地球環境にとってもいいだろ?」 中井って人のキャラが全然つかめない…そんな場違いな事を小暮は思っていたのだった。 そして、中井の車の助手席に乗り込んで、取り調べのために白壁へと小暮と中井は向かって行った…… 話が途切れたところで、松木が小暮に言う。 「へぇ、それでその後は?」 「僕が車で『奥田邸に入る前に謎の人影を見た』とかそういう事を中井刑事に喋って、 後は中井刑事にVのコツを教えてました。そうそう、あの日と言えば…町田さん?」 話を終えた小暮が隣に座る女性にそう声をかけた。町田と呼ばれた女性は小暮の顔を見て話し出した。 「二日前は…そうそう、これも面白い話じゃないんだけどね。白壁が襲撃されたの」
215 :
旅人 :2008/09/24(水) 17:31:30 ID:NToRggBX0
いかがでしたでしょうか?これにて第一章は終了です。 最後の町田の発言、とても気になりませんか? そう、第二章では白壁が襲撃されてしまいます! 初っ端から人が死にましたが、現段階(今は第二章の半分位を書いてます) では人死にはあまり出さない方向で頑張って筆を執っています。 (この場合、筆を執るとは言わないのでしょうが。そして、 流血とかない方向性で物語を書くのが普通なのかもしれませんが) 第二章の副題は「占拠された白壁」です。そのまんまですね。捻りも何もねぇ。 登場する人物の数も増えます。主役キャラが増えるのは良い事ですよねぇ。 そう言う訳なんで、今日はここまでです。それでは次回をお楽しみに!
旅人氏乙 なんだかビックスケールになってきてこの後の展開が気になる!
>>206 乙!まだ最初から途中までしか読んでないけど面白いよ
冒頭は犯人の口調やら人名やらヒヤヒヤしたけどなw
続きも楽しみにしてるぜ
218 :
2-387 :2008/09/27(土) 02:58:20 ID:89xuMU+o0
ここにSSを投下するのは、実に十ヶ月ぶりになりますね… 久しぶりに話が浮かんだので、投下させて頂きます。 相変わらず登場キャラクターは2chキャラを使わせてもらっています。 何故か気分的に、オリジナルキャラを出しにくいんですよね。 今回も短めの話ですが、宜しくお願い致します。
('A`)「はー、美味い! やっぱり美味いものを食べている時って、一番の幸せを感じるよなー」 (´・ω・`)「食いしん坊のドクオらしいねー 確かに食事中、いつも良い表情してるもんなあ」 九月に入り、夏の暑さも落ち着いてきたとある日。 ドクオとショボンの二人は、とあるレストランで食事を取っていた。 ハイペースで食べていくドクオに対して、のんびりと食べ続けるショボン。 両者の性格と胃袋の違いがよく出ていると言える…のだろうか。 ('A`)「そういうショボンも、甘いもの食っている時は凄い良い顔してるぜ? 食い物で良い顔するという点では、俺もお前も同じだろうに」 (;´・ω・`)「あれ、いつも僕そんな表情になってる? 自分じゃわかんないもんだなあ…」 いつも通りな日常を送り、いつも通りな会話を続ける二人。 しかし、そんな柔らかな雰囲気はドクオの『とある一言』によって変化する事となる。 ('A`)「やっぱり仕事とかのストレス解消には、食うのが一番だなー」 (´・ω・`)「はは、まあ人にもよるだろうけどね。 でもこうやって幸せを感じることができるのは、そのままリフレッシュにも繋がるからねえ」 ('A`)「そうだな、歌うとか物を作るとか、人によって幸せを感じる瞬間って全く違うからなー」 気軽な言葉のキャッチボールが続いていく。 そんな中で何気なく発された一言。 それが、今回のちょっとした騒動の元となる…
('A`)「…なあ、今何となく思ったんだけどさ…」 (´・ω・`)「何、いきなり?」 ('A`)「…『人にとっての共通の幸せ』って何だと思う?」 いきなりの言葉に、ショボンは面食らった。 それもその筈、普段のドクオはこんな話題を出すような人間ではないからだ。 いつも話題に出す事といえば、遊びの事や食べ物の事、たまに仕事の愚痴を吐き出す位だった。 このような話題をドクオが出すという事は、極めて珍しい。 一瞬の間、ショボンは言葉を返すことができなかった。 (´・ω・`)「…何を言い出すかと思えば、これまた妙に重い話題を… どうしてそんな事を聞くんだい?」 ('A`)「いや…何となくな。 ちょっと思っただけだから、忘れてくれや」 言ってから気恥ずかしくなったのか、ドクオはショボンから顔を背ける。 だが、ショボンはドクオの問いに対して『考えて』いた。 普段の気軽な話もいいが、一度はこういう話をしっかりと腰を据えてしてみたい… ショボンは、以前からそう思っていたのだった。 二人の間に沈黙が流れること数十秒。 しばらく顔を伏せ気味にしていたショボンが顔を上げ、答えを返した。 (´・ω・`)「そうだねえ…これはあくまで僕の意見だけど… 共通の幸せというのは、『終わることが出来る』ことかな…」 予想外の言葉に驚くドクオ。 まさか先程の問いに答えが返ってくるとは思わなかったのだろう。 そして、返された問いへの答えもドクオにとっても衝撃的なものだった。 ショボンの返した回答が、自分自身の予想を大きく超えたものでもあったからだ。 ('A`)「…終わること? どういう意味だよそれ」 (´・ω・`)「そのままの意味だよ。 物事を終わらせることや、体の動作などを終わること。 究極的に言ってしまえば、『自分自身の命を終えられること』なんかも入るね」 この言葉に、ドクオは大きく反応した。 常日頃から彼は、命が『人としての所有物』で一番大切なものだと思っている。 人はいずれ命が尽きることになるが、それは仕方が無い事。 しかし、それは同時に人としての一番の悲しみであると思っている。 それを否定するようなショボンの言葉に、ドクオは大きく反発した。
('A`)「は!? 何言ってんだよ、自分の命を終えられることが幸せだあ!? そんなのは人生の中で最も不幸な事じゃねえかよ!」 (´・ω・`)「…本当にそう思う?」 ('A`)「当たり前だろうが! 命を終える事に幸せを感じる奴なんて絶対にいねーよ!」 いつにない剣幕でショボンに迫るドクオ。 これまで見た事の無い様子を見せた彼に、ショボンは驚いていた。 …だが反面、その様子を嬉しくも思っていた。 いつかドクオと真正面から、こういう話題で意見を交わしてみたかった。 そんな機会が、今まさに目の前にある。 ショボンはドクオの目をしっかりと見据え、ゆっくりと話し始めた。 (´・ω・`)「…まあ確かに、『命を終えること』自体に幸せを感じるなんて人は少ないだろうね。 でも僕が言いたいのはそういう事じゃないんだよ」 ('A`)「だから、そこを説明しろよ…」 (´・ω・`)「そうだね…例えば君が永遠に死なない体になったとしたら、どう思う?」 ('A`)「それはそれで結構面白そうじゃないか? 数百年後の世界をこの目で見られると考えると、何だかわくわくするしな」 思わず体勢を崩しそうになったショボン。 まさか、そこまでテンプレート通りな回答が返ってくるとは思わなかった。 感情的になっていたのもあるのだろうが、せめて頭の中で噛み砕いてから返してほしかった… そんな思いが、ショボンの頭の中を巡った。 (;´・ω・`)「もう少し深く考えなよ… 君ってそんな単純思考だったっけ?」 (#'A`)「誰が単純思考じゃ! まあ、実は永遠に死なない体になったら…と言われても現実味が無いからな。 正直、ちょっと想像し辛いんだよ」
確かに、ショボンの例えが少し非現実すぎたのも確かだった。 ならば現実的にわかりやすい例で説明をするしかない。 ドクオに馴染みがあり、かつわかりやすい内容で説明するにはどうすればいいのか… その直後、ショボンに一つの閃きが浮かんだ。 (´・ω・`)「んじゃ、もっとわかりやすい事で説明するね。 確かドクオ、ゲーム好きだったよね?」 ('A`)「ああ、最近はビーマニばっか遊んでるけど…何だよ、こんな唐突に?」 (´・ω・`)「ビーマニかあ…うん、丁度いいからそれで説明するよ。 今から一時間半後に隣町のゲーセンに来てくれないかな。 僕が何故『終わることが出来る』事が幸せであるという意見を持ったのか、 多分少しだけど説明できると思うから」 ('A`)「あ、ああ…わかった」 (´・ω・`)「それじゃ、準備してくるよ。また後でねー」 ショボンは自分の食べた分の料金をテーブルに置き、そのまま店を飛び出していった。 残されたドクオは、ショボンのいきなりの行動に唖然としていた。 まさか、自分の何気ない一言からこんな事になるとは… そして、普段大人しいショボンの隠れた行動力にも驚いていた。 …ひとまずドクオは清算を済まし、ショボンの指定した時間まで街をぶらつくことにした。 ◆ 隣町のゲーセンと指定されたものの、その店へは先程のレストランから徒歩数分。 時間を潰す為に、ドクオは近所にあった古本屋でのんびりしていた。 色々な本を立ち読みしていたドクオだったが、いまいち内容が頭に入ってこない。 …先程のショボンの不可解な言葉が気になっていたのだ。 ('A`)(まさか、あの一言でこんな事になるなんてなー …それにしても、ビーマニで説明? あんな事の意味をゲームでどうやって説明するっていうんだろうか…) 不思議に思いながらも、色々考えても結論には至らない。 普通は、あのような物事の説明にゲームを使うということは無い。 ある意味ショボンの行動は型破りなものなので、元々考えることが苦手なドクオにとって 益々不可解なものとなっていたのも原因であろう。 一体ショボンはビーマニを使って、どういう形で説明をするのだろうか。 そもそも、あの言葉の意味とビーマニと何の関係があるのだろうか? …そんな自問を繰り返しているうちに、あっという間に時間は過ぎていった。 気が付けば約束の十分前。 ドクオはショボンと約束した通り、隣町のゲームセンターへと足を運んだ。
◆ ('A`)「ようショボン、来たぜー」 (´・ω・`)「おっ、タイミングばっちりだったね。 丁度こっちもセッティングが終わったばかりだよ」 ('A`)「一体何をやってたんだよ。 大体、あの内容を説明するのに何でゲームを使うんだ?」 (´・ω・`)「まあまあ、とりあえず…」 ショボンはドクオの手を引っ張り、とあるゲームの筐体前に連れて行った。 引っ張られたドクオの目に入ったのは、普段から見慣れたbeatmaniaIIDXの筐体。 …しかし普段と違い、画面はタイトル画面のまま動いていない。 よく画面を見ると、右下のクレジット表示に9の文字が出ていた。 (´・ω・`)「このbeatmaniaIIDXは、見ての通りクレジットがある程度入っている状態なんだけど… ドクオ、君はこれから筐体の残りクレジットを全て使い切ってほしい」 ('A`)「…は? そんだけでいいのか?」 (´・ω・`)「ああ、それだけだよ。 ちなみにこれ、オンラインだからe-AMUパスも使えるからね」 ('A`)「え、マジか? 普通フリープレイ系ってオフライン状態なのが多いのに…」 (´・ω・`)「ああ、マジだよ。 という訳で、『クレジット表示が0になるまで』遊んでね」 ('A`)「よっしゃ、それ位お安い御用! それじゃ遠慮なくプレーさせてもらうぜー」 料金を払う必要も無く、9プレイ連続で遊ぶ事ができる。 しかもカードも使えるとなれば、プレイヤーとしてはこれ以上無い嬉しい環境だろう。 早速ドクオはカードを挿入し、プレーを開始した。 ◆ プレイを始めて数十分後、フリーモード粘着をしていたドクオは雄叫びを上げた。 ('A`)「よっしゃ、穴ディープようやく難クリできたぜ!」 (´・ω・`)「おめでとー」 ('A`)「へへ、やっぱりフリープレイってありがたいなあ。 …っと、正確には回数制のフリープレイだったっけ。 クレが無くなる前に越せて良かった……ん?」 プレイが一区切りついたドクオは、画面に違和感を感じた。 今回、ドクオはスタンダードとフリーを織り交ぜながらプレーしていた。 時間を考えれば、もうクレジットが尽きていてもおかしくない筈なのだが… 画面右下のクレジット表示は、残り4と表示されていた。 (;'A`)「…おっかしいな、もう結構な回数プレーした筈なのに… まだ残りクレジットが4? 表示がバグってんじゃないだろな…」 (´・ω・`)「バグは何も無いよ、至って正常さ。 それよりクレジットが0になるまで遊んでくれ、という約束だったろ。 後4クレだからすぐじゃない」 ('A`)「気のせいか。 よっしゃ、後4クレならDoit辺りを粘着するかな…」 画面に残りクレジットがしっかり表示されている以上、間違いは無い筈。 自分がどう感じようと、これ以上の確たる証拠は無い。 プレーが長く感じたのは、自分の気のせいだろう… ドクオはそう思って、残りのクレジット分のプレーを続行した。 …そして、更に二十分後…
('A`)「よっしゃ、ようやくクリアできたぜ! どうもこういう規則系高速譜面苦手なんだよなあ…って…あれ?」 (´・ω・`)「ん、どうしたんだい?」 ('A`)「俺さ…クリアするまで何クレやったっけ?」 流石におかしいと感じ始めたのか、ドクオはショボンに状況確認をした。 …が、ショボンは知らぬ存ぜぬを通した。 それにはもちろん理由があったのだが… (´・ω・`)「さあ、数えていなかったからさっぱり… それに僕、このゲームに興味無いからあまり見てなかったしね」 (;'A`)「…それはそれで何だか酷くないかい…?」 (´・ω・`)「気にしちゃ負けだよ。 ほら、まだクレジットが残っているからプレーして」 ('A`)「あ、ああ……うん!?」 その直後、ドクオは決定的な違和感に気が付いた。 先程残り4クレジットと確認した筈だったのだが、画面には残り7クレジットと表示されていたのだ。 明らかに先程より増えている…もちろん、この原因は… (;'A`)「ちょ、ちょっと待ってくれよ、何だこれ!? さっきは残り4クレだった筈だろ? 何でさっきよりクレ数増えてんだよ!」 (´・ω・`)「気のせいじゃないの? それより、クレジットを0にするまでプレイする約束でしょ。 後もう少しだし、『頑張ろう』よ」 (;'A`)「そう…だな、『頑張る』か…」 ショボンの言葉にそのまま押し切られ、納得いかないままプレーを再開したドクオ。 残り7クレジット…後7回プレーすれば終わる。 ドクオの頭は、もうそれだけで一杯になっていた。 ところが…
('A`)「ん…?」 残り1クレジットになり、最後のスタートボタンを押したドクオ。 それと同時に、残クレジット数が不可思議な動きをした。 ドクオがスタートボタンを押した瞬間、クレジット数が3へと跳ね上がったのだ。 (;'A`)「おい、何なんだよこれ! 今残クレ1だったのに、スタートしたらクレ数3に上がったじゃねーか! これじゃいつまで経っても終われないじゃねーかよ!」 (´・ω・`)「あれ、忘れてもらっちゃ困るなあ。 このゲームを『クレジット数を0にするまで』プレイするって約束だったろ? まだクレジット数は3なんだから、止めちゃ駄目だよ?」 ('A`)「な…な…っ!?」 0にならないクレジット表示。 それでもドクオは意地になってプレーを続けていった。 無限にクレジットが追加される筈は無い… ショボンがそこまでの意地悪をするはずがない、という思いだけを支えにプレーするドクオ。 しかしそんな思いを打ち砕くかのように、クレジットがじわじわと増えていく。 (;'A`)「…何なんだよ…やればやる程クレジットが増えていくじゃないか… 減ったと思ったら、知らない間にまた増えていってるし…」 一度1まで下がった後、1プレー毎にゆっくりとクレジット表示が増えていく。 一旦9クレジットまで上がった後は、残り1に下がるまで増えることは無い。 残り1まで下がった後は、再び1プレー毎にクレジット数が上がっていく。 その繰り返しは、ドクオの精神を次第に追い詰めていった。 (;'A`)「も…もう嫌だ…もう疲れた…止めたい…終わりたい…!」 (´・ω・`)「ほら、まだクレジット残ってるよ? 約束だろ、ちゃんとクレジットが無くなるまでプレーしてくれよ」 (:'A`)「あ……ぁ…ぐ……」 自分が好きなはずだったゲームが、今は苦痛を与えるものでしかない。 もはやドクオは、意地と精神力だけでプレーを続けていた。 しかし、そんな状態でのプレーは長くは続かない。 異変に気が付いてから一時間後、遂にドクオに限界が来た。
(#'A`)「…や…やってられるかあぁぁぁぁぁっっ!!!!」 曲の途中であるにも関わらず、ドクオはそのプレーを捨てて筐体を離れた。 そのままショボンに詰め寄るやいなや、怒気を込めた声で問いただした。 (#'A`)「こんないつまで経っても終わらないものなんか、やってられっか! お前がやってた準備って、この細工の事だったのかよ!?」 クレジットが無くなるまでプレーしろと要って置きながら、実際にクレジットが尽きる事は無い。 そんな環境へ半ば強制的に放り込まれたドクオとしては、怒りたくなるのも当然だろう。 (#'A`)「何でこんな仕様に改造した上で、あんな条件を提示したんだ? こんな『絶対に終われない』状況にしやがって!」 (´・ω・`)「…ほら、わかったろ? 物事を『絶対に終わることが出来ない』というのが、どれだけ恐ろしいのかを…」 ('A`)「…え?」 予想外の言葉に、ドクオは怒りを止めた。 ドクオの予想通り、これはショボンが自分の意見を説明する為に仕組んだもの。 だがここで話の核に突っ込んでくるとは、ドクオにとっても予想外だった。 (´・ω・`)「ちなみに今の状況は、ドクオが『プレーする事を放棄する』という形で『終われた』よね。 これがもし、今みたいに放棄する事さえもできないとしたら…? (;'A`)「う…」 ドクオは言葉を返せなかった。 確かに、もしあのまま逃げることさえ許されなかったら、自分の精神状態はどうなっていたのか。 プレーしている最中で、それ自体に苦痛を感じるまでになっていた。 改めてショボンの言葉の意味を考えたドクオは、『その事』への恐ろしさを感じていた。 (´・ω・`)「どんな楽しい事や面白い事でも、永遠に続けばそれは苦痛にしかならない。 どの出来事や物事も、全て『終わり』があるからこそ面白かったり楽しく感じられるものでしょ。 さっきドクオ、プレー中に『頑張って終わらす』って言ってたじゃない? あの時点で、ドクオはゲームを『楽しむもの』として見ていなかったって事だね」 ドクオはその場に立ったまま、静かに言葉へ耳を傾けていた。 ショボンは更に言葉を続ける。 (´・ω・`)「同じように、辛いことや嫌なことも必ず終わりが来る。 それがどういう形での終わり方であろうとも、ね。 もしこの世に『終わり』という概念が無かったらと思うと、ぞっとするだろ?」 ('A`)「…あ、ああ…」 ショボンは筐体へと歩き、ブーイングが鳴り続けているリザルト画面をキャンセルした。 強烈なSEと共に、画面にGAME OVERの文字が出る。 ゲームが終わり、タイトル画面に戻ったIIDXを見つめながら、更にショボンは話し続けた。
(´・ω・`)「最初にドクオに、永遠に生きる事ができたらどう思うって聞いたよね。 人にとって生きるという事は、多分一番の喜びだと思うんだよ。 でも、その喜びが永遠に続くという事はまず無い筈だ。」 言葉を確かめるように、ショボンはゆっくりと話し続ける。 いつもとは違う、『真剣』で話しているショボンがそこにはいた。 (´・ω・`)「人が生きていて嬉しいと思える期間なんてのは、その人の元々の寿命程度だと思う。 今は医療技術の発達もあって、百年近く生きることも可能だけれども… それを遥かに越えて、五百年以上生きることができたらどうなる? …多分、さっきのドクオみたいな状態と同じような事になると思うよ」 ('A`)「………」 その真剣を、ドクオはしっかりと受け止めた。 『友人間』で今までに交わしたことの無い言葉、そして受け止めたことが無い意見。 いつものような気軽な空気ではなく、しっかりとした『言葉』をドクオは確かに受け取っていた。 (´・ω・`)「…だから、僕は人にとっての『共通の幸せ』は… 『物事を終えること、終わらせる事ができること』だと思っているんだ」 ショボンは喋りながら、比較的音が少ない休憩所へと歩いていく。 ドクオも後を追って、休憩所に置いてある椅子に腰掛けた。 気持ち上を仰ぎ見た後、一呼吸置いて更に言葉を続けるショボン。 (´・ω・`)「何かを始めることができれば、終わることもできる。 自然の摂理ではあるけれど、そんな当たり前の事って重要なものが多いと思うんだ」 ('A`)「…そうかもな…」 同じように、ドクオも上を仰ぎ見た。 目に入ってくるのはゲームセンターの天井だが、今の彼にとってそれはどうでも良い事だった。 ショボンの自分へと向けられた言葉、それに答える為の言葉を考えていたのだった。 ('A`)「確かに人にとっての幸せ観なんてのは、個人個人でまちまちだろうし。 しかし『共通の幸せ』という観点だと…そんな『当たり前のこと』に行き着くのかもしれないな」 だが、その答えの言葉はドクオ自身にも信じられないほどあっさりと出た。 相手に真剣に向き合うと、『答えるための言葉』は自然と出てくるものなのかもしれない。 仕事でのコミュニケーションや、意見を述べたりする時とはまた違う感覚。 それは、ドクオにとって懐かしいような感覚だった。
◆ (´・ω・`)「どう、これで納得してくれたかな」 ('A`)「ああ、お前の意見はよくわかったよ。 …どうやら俺、結構考えが浅かったのかもしれないな。 最初の自分の意見を振り返ると、何だか笑えてきちまったよ」 自嘲気味に笑いながら話すドクオ。 それを見て、ショボンがフォローするように言葉を返す。 (´・ω・`)「いやいや、これはあくまで僕の意見だからね。 もしかしたら間違っているかもしれない訳だし…」 ('A`)「こういうのって、結論は出せないもんだしなあ。 まあ、こんな機会でもないと考えない事だったし、参考にさせてもらうよ」 (´・ω・`)「ははは…」 最後には、二人の顔に笑顔が浮かんでいた。 ドクオは多少きつい目に遭ったものの、最終的にはショボンの意図をしっかりと受け止めた。 それぞれの意見を分かりあえた事により、その友情もより深まった事もあるのだろう。 椅子から立ち上がり、笑いあいながらゲームセンターの外へと足を運ぶ二人。 その時の二人の会話は、いつもの雑談ムードへと変化していった。 ('A`)「それにしてもゲーセンの筐体を改造させて貰うなんて、よくそんな思い切った事したよな。 お店の人から何で断られなかったんだよ?」 (´・ω・`)「あ、実はここ…うちの親戚が経営してるんだ。 それに改造と言ったってプログラムの方じゃなく、クレジット感知の部分に少し手を加えただけだからね。 後でその部分だけを元に戻せば、また問題なく使えるし」 (;'A`)「親戚って…お前、さり気なく意外な繋がりを持ってるんだな…」 ショボンが何故こんな大掛かりな仕掛けをすることが出来たのか、ドクオは疑問に思っていた。 その疑問は今のやり取りで氷解したが、ショボンの意外な繋がりと手先の器用さに驚きを隠せなかった。 不器用であり、特に特別な繋がりも無い自分としては、ちょっぴりショボンが羨ましい… そんな事をドクオは思っていた。
('A`)「ところでショボン…」 (´・ω・`)「ん、何だい?」 ('A`)「いくら自分の意見を説明する為とはいえ、よくもあんなキッツイ目に遭わせたよなあ…?」 (;´・ω・`)「え? ちょ、ちょっと…?」 含み笑いをしながら、ショボンに近付くドクオ。 その不気味な雰囲気に、思わずショボンは後ろへ一歩引いた。 …どうやらドクオは、説明の為とはいえエンドレス状態でゲームをプレーさせられた事にまだ怒りを持っていたらしい。 ('∀`)「つー訳で、次はお前の番な。 さーて、ショボンはあまりゲームをしないから…何をエンドレスでやらせようかなあ…」 (;´・ω・`)「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ!? あれはドクオに説明する為に…」 ('A`)「言い訳無用じゃ! 少なくとも、俺がプレーしていた時間分はやってもらうからな!」 (;;´・ω・`)「そんな、ちょっと待って…ちょっとおおおぉぉぉっ!!!!」 ショボンを引きずる形で、半ば無理矢理にどこかへと連れて行くドクオ。 連れて行く先は、ショボンの趣味に関係しているバッティングセンターかプールか… どちらにしろ、これから数時間はドクオの監視の下『何か』をエンドレスでやらされる事になるだろう。 しかしこのような事が出来るのも、また二人の絆の深さを示しているのかもしれない。 夜が段々と涼しくなり、いよいよ秋も本番。 もう少しすれば、やがて身を切るような寒さを持つ冬がやってくる。 しかし二人の絆はいつまでも固く、冬にも負けない夏以上の『熱さ』を持ち続けていく事だろう。 本当の信頼関係というものは、それぞれの『本当の言葉』をぶつけあって築かれていくものなのだから。
230 :
2-387 :2008/09/27(土) 03:47:42 ID:m+cvxF/3O
以上です。 しかし、本当に久しぶりにこの形のSSを書きましたねー 前回のSSを書いてから、しばらく某板のSSスレで色々書いていたのですが… この形のSSを書くと、何だか懐かしい気分にもなります。 今回の話は、少し異色な感じになりましたね。 今までプレーを話の中心に据えたものって、一つしか書いていないような… まあ、今回もゆるりと読んで頂ければ幸いです。 …ちなみに、これを投稿するタイミングで規制くらいました。 IDが変化しているのは、その為です。 また何か話が浮かんだら投下したいと思いますね。 他の作者さん達の作品も楽しみにしておりますー
乙久しぶりのブーン小説だったぜ! ブーンは出てないがなw しかし重い話だな ここまでうまい説明は出来ないよGJ!
やっぱりこの形が一番だよなぁ ドクオのDMとかbeatmakerの人・・・でいいのかな? だったらドクオ毎回散々だなぁ・・・ 面白かったです。次回あるかわかりませんが、次も楽しみにしてます。
乙 来週からクラナドアフターだけど… 終わりと始まりを知るのは本当の幸せなのかなぁ
234 :
爆音で名前が聞こえません :2008/10/02(木) 12:03:19 ID:C3klqvPlO
保守あげ
急に過疎ったね。 皆忙しいのかな…?
>>638 完全無視でワロタ
かといって実際に聞いたことある奴も少ないだろうからなぁ・・・
俺もだけど
以下Love Is Eternalについて語るスレ
ごめ誤爆
こんにちは。
どういう構成でラストまで話を持って行くかとか、
そんなことを練っていたらちょっと間が空いてしまいましたね。
また今週からどんどん続きをアップしていきますんでよろしくお付き合い下さい。
>>217 感想ありがとうございます。
無難な作品よりヒヤヒヤされるくらいの方が面白いはず、と思ってやってます。
今後も頑張りますんで、また感想もらえると嬉しいです。
>>Wikiまとめ人さん
保管ありがとうございました。
やっぱうんこはダメですかw
>>旅人さん
わざわざ真相を考えてくれてありがとうございます。
そちらの作品も今回はミステリ的なテイストになりそうですね。
同じ系統を志す書き手として、楽しみにしてます。
>>2-387 さん
投下お疲れ様でした。
こんな哲学的な題材を音ゲーに絡めて表現する発想に脱帽です。
色々考えさせられて面白かったですよ。
次の作品も楽しみにしてます。
事件発生から二晩開けた7月18日の金曜日、朝10:00。 約束をしていたわけではないのだが、 1046は時間ちょうどに思った通りの場所へ現れた。 昨日に引き続く快晴。 空はムラのない青を一面に湛えており ただそれだけで心も晴れやかな気持ちに染まるようである、 はずなのだろうが、それは屋外にいた場合の話だ。 一筋の光さえ差し込まない暗黒空間、ゲームセンターABC。 乙下はまたもこの息が詰まりそうな地中へ身を置いていた。 それでなくとも捜査は行き詰まりかけており、乙下の心はどんより曇り模様だ。 そうした中で唯一光り輝くものがあるとすれば、 IIDXのモニタに浮かび上がるGREATの五文字だろう。 "Back Into The Light"の明るい曲調に合わせ、 跳ね踊るようにパチパチと鳴り響く鍵盤の音が小気味よい。 モニタはカーテンの向こう側へ隠れて見えなかったが、 打鍵音のリズミカルさゆえにJUST GREATの嵐であろうことは容易に想像できる。 プレイヤーもまたカーテンの向こう側へ隠れているため 膝より下しか見えなかったが、 同じ理屈で彼が1046その人であろうことに疑いを挟む余地は無い。 これじゃまるで昨日の再現だ、と乙下は周囲を見回した。 ABCの中に客らしき人物は自分達以外におらず、 客を擁しているゲームはIIDXのみであることも昨日と同じ。 プレイしている人物も、そのプレイを後ろで見て感心している自分も昨日と同じ。 おまけに曲目までもが昨日と同じとなれば、 昨日の出来事が今日へコピー&ペーストされたように錯覚しても無理はない。 違う点があるとすれば、空気がいないことと 快活そうな短髪の男性店員が屈んで床掃除をしていることくらいだ。 「ちょっとすみませんねー」 店員は抑揚のある声を発して乙下をどかし、モップで床を磨いていく。 ほんの少しだけ息が上がっており、 丹誠を込めて清掃をしていることがよく伝わる。 見たところ三十代前半。 自分と同じくらいの年齢だろうかと 彼を観察していると、ふいに乙下と目が合った。 「もしかして警察の人?」
出し抜けに話しかけられ、思わずたじろいでしまう。 「昨日、面白い喋り方をする若い刑事さんと一緒にいましたよね」 そこまで言われて乙下はようやく気が付いた。 「あ、もしかして聞き込み捜査に協力してくれた店員さん?」 「えぇ。熱心な部下をお持ちで羨ましいですよ。 私なんていつもここで孤独なバイト生活ですから」 「良かったら引き取ってくれていいよ。 アイツはどこに出しても恥ずかしい立派な音ゲーマーなんで、 きっとここで稼いだお金を丸々ここで使うはずだ。 実質的にただで雇える、オススメの人材だね」 乙下が軽口を叩くそばから、店員はケラケラと笑い転げる。 人懐っこそうな柔らかい笑顔だ。 「繰り返しになっちゃって申し訳ないんだけどさ、 俺からもあらためて質問させてもらっていいかな?」 店員は笑顔を崩さず、軽く頷きながらモップを傍らに置いた。 乙下は空気の報告書に書かれていた目撃証言を思い返しながら喋り始める。 「7月16日、つまり一昨日の日中なんだけど、 確かにここで誰かがずっとIIDXをプレイしてたんだよね」 「そうですね、それは間違いないです。 ほら、見ての通りウチって平日の昼間はお客さんほとんどいないじゃないですか。 だからその分、誰かがゲームやってると目立つんですよ。 特にIIDXは曲の音とボタンの音が凄いから分かりやすいんです。 一昨日はもう朝から夕方までパチパチパチパチ鳴りっぱなしでしたから」 「どんな人がプレイしてたかまでは見てない?」 「うーん、ちょくちょく横を通ることはあったんですけど、 プレイヤーはカーテンに隠れちゃってるんで、顔や体型までは分かりませんでした。 ただ、物凄く上手い人だったってことは確実に言えますね。 このゲームって、ボタンを叩く音の揃い方とか、曲の完成度とか、 そういうのでプレイヤーの腕前が『聞こえる』んですよ」 まさに空気の報告書に書いてあった通りの話だ。 むしろ、こうして毅然とした態度で証言しているのを聞くと 報告書による伝聞よりも信憑性を高めに感じてしまう。 「じゃぁさ、今プレイしてるあの人は上手いの?」 乙下はIIDXの筐体を指差した。 いつの間にかBack Into The Lightの演奏は終わっており、 続いて"alla turca con passione"、通称トルコ行進曲の 底抜けに明るいメロディが辺りを包んでいる。 打鍵音の密度がそれほどまで高くないので、おそらくはHYPER譜面だろう。 「上手いです。しかも並の上手さじゃないですね。 演奏に全然ブレがないし、ボタンを叩く音も綺麗だ」 「一昨日の人と比べてどっちが上手い?」 「同じレベルだと思います。 ただ、ここまで上手い人はそう滅多にいませんよ。それくらい上手だ」 「へぇー、そこまで分かっちゃうなんてすげぇや」
乙下は動揺を悟られないよう平静を装ったが、 内心は彼の審美眼にたいへん驚いていた。 いや、音で判断しているので審美耳とでも言えばよいのか。 BGMがトルコ行進曲であることも手伝い、 若い頃に見た「アマデウス」という映画の記憶が、乙下の中で呼び覚まされた。 世紀を超えて天才と賞賛される偉大な音楽家、モーツァルト。 そしてモーツァルトの恐ろしいまでの才能を 誰よりも深く理解し嫉妬に狂う音楽家、サリエリ。 この二人を巡る因果を描いた名作で、1984年のアカデミー作品賞を受賞している。 至極単純に言ってしまえば、モーツァルトも天才だったが 彼を天才であると見抜いたサリエリもまたある意味で天才だった、という話だ。 今トルコ行進曲を完璧に演奏している1046と、 その演奏を完璧に評価しているABCの店員。 時には都心から遠く離れた田舎のゲームセンターで、 アマデウスと同じ構図が出来上がってしまう。 こんなことも起こり得るのだな、と乙下は二人をしみじみ見比べた。 「他に何か聞きたいことはあります?」 「それじゃ、あの監視カメラなんだけどさ。 レコーダーの時刻を細工して、アリバイ工作とかできないかな。 例えば時刻設定を10分くらい遅らせておいて、 本当は12:45なのに、あたかも12:35の時点でここにいたフリをするとか」 「なんか随分と具体的ですね。 一昨日の12:35に映ってた人って、何かの事件の容疑者なんですか」 いずれ分かることだ、乙下は動じない。 「でも、そういう細工は無理だと思いますよ」 「なんで?」 「あそこ」 店員は壁に掛かった丸い時計を指し示した。 ごく普通のシンプルな壁掛け時計かと思いきや、 よく見るとデジタル表示器の枠があり、 その中にパラボラアンテナのドット絵が描かれている。 「あれは、電波時計?」 「そうです、電波時計。 何かあった時のために、監視カメラの画角は 電波時計が映り込むように調整してあるんです。 まぁ実際に役に立ったのは今回が初めてですけどね。 電波時計の時刻は狂いようがないんで、 レコーダーに細工をしたところで映像には本当の時刻が映っちゃうわけ。 だから、そもそも意味がないんですよ」 「……確かにそうだね」 「ほら、今だってあそこに表示されてる時刻は一秒たりとも……っておい、 やべぇもうこんな時間?急いで伝票の整理しなきゃ」 店員はにこやかな表情のまま軽快に手を上げ、狭そうな事務室の方へ走り去った。 どうやらその仕草だけで会話を打ち切ったつもりらしい。
乙下は店員の背中をぼんやりと眺めながら、彼の証言を噛み締めて唸った。 どうやら1046が一昨日の12:35にABCへいたことは、揺るがしようのない事実らしい。 そして日中の間、絶え間なく鳴り続けた正確無比な打鍵音。 それらが意味するところはただ一つ。 「やはり1046はシロなのか……?」 唇を固く結び、IIDXの筐体を睨み付ける。 とその時、カーテンが開いて1046がステージから下りてきた。 よほど気難しそうな表情をしてしまっていたのだろう、 乙下の顔を見るなり1046は露骨に嫌悪感を示した。 気を取り直し、乙下は精一杯明るい挨拶を試みる。 「おはよう、1046さん。 アンタよっぽどBack Into The Lightが好きなんだねぇ」 「悪いですか」 「いや全然。今日も光りまくってたね」 「見えてないのに適当なこと言わないで下さいよ。 何ですか、また何か用ですか」 1046の服装は相変わらず洒落ていた。 黒の綿パンに無地のカットソーという絵的には極めてシンプルなものだが、 かえって素材の良さが映えているように見える。 首から下げた木製らしきアクセサリがまた 嫌みにならない程度に1046のファッションを引き立てている。 いい男は不機嫌な表情をしてもいい男なのだな、と、 乙下は何となく遠い世界の人物を本の外から見据えるような感覚で思った。 「用っていうか、昨日のことで謝りたくてさ。 あれから色々と調査した結果、無事にアンタの潔白が証明されたわけよ。 なんで、その説明を兼ねて謝罪を、と思ってね」 「……」 1046は警戒心を緩める様子を見せない。 to be continued! ⇒
さて、乙下刑事はこの不可解な殺人事件を解決する糸口を見出せるのでしょーか。 次回もお楽しみに。 感想お待ちしてます。
244 :
爆音で名前が聞こえません :2008/10/11(土) 12:46:54 ID:NpXe0JSdO
乙です! どうとくのか楽しみです
245 :
旅人 :2008/10/12(日) 11:16:29 ID:qCWLEzbY0
>>とまと氏 乙です!犯人がどうやって殺しをしたか、そのトリックが気になります。 乙下刑事には頑張ってトリックを暴いて欲しいです!続きが気になって仕方がねぇって感じです。 今日は、旅人です。 白壁が襲撃される話が「みんなのパーティー 第二章 占拠された白壁」なのですが、 これは結構書いているうちに長くなっていったので、分割して投下します。 現段階(第二章の後半あたりを書いています)では第一章と比較すると三倍以上の量になりそうです。 という訳で、本編をどうぞ。
246 :
旅人 :2008/10/12(日) 11:20:04 ID:qCWLEzbY0
08/12/17(水) その日、音安市で二つ目の事件が起きた。一つ目は深夜に奥田文代(音安市で一番の大金持ちの妻だ) が殺害された事件の次に、同市にあるゲームセンターが謎の武装集団によって占拠されたのだ。 その事件が起きた時間は、小暮が中井に事情聴取の為に白壁に行くためにプリウ○の エンジンを始動させた時間とほぼ同時であった。 談話室にいた五人はその大体の事情背景を知っていた。12月17日、9:45に音ゲーの市として知られる 音安市で一番大きなゲーセン「白壁」(音安市の住人の小暮と町田曰く、外壁が白いから 白壁という通り名が付いているだけとの事。町田が続けるには、ゲームセンターパレスというのが 本当の名前なのだが、IIDXの過去作の公式サイトのIRを閲覧すると、白壁からランキングを送った者の 店舗名が「白壁」になっていたという過去もあったそうだ。ちなみに、この白壁というゲーセンと IIDXの10th style初出の楽曲「Innocent Walls」とは一切関係ない。が、白壁のIIDXでは 「Innocent Walls」が一番多く選曲されていると町田は続けて語った。 正直な事を言うと、どうでもいいよそんな事と町田以外の四人が思ったのは秘密だ)が襲撃された。 武装集団はその後、警察の手によって全員が捕らえられたのだと聞いたが、実はこれには裏があるらしい。 そんな雰囲気を醸し出しながら話す町田に、松木がこう問いかけた。 「……ただの事件じゃなかったってことですか?」 「そう!実は私、あの事件に関わりがあったの」 「関わりったって、それは常連であったって意味での関わりですよね?」 松木が町田にそう言うと、町田は違う、という意思表示で首を横に振った。 それに対して、え…?と言うような顔を松木はして、町田の方を見た。町田が松木の視線を感じながら言った。 「実はその時、私は白壁に居たのよ」 音安市中心部を、複数台の車に混じって一台のプリウ○が走っていた。 その車を運転するのは、中井和と小暮正俊という二人の男である。 中井は刑事、小暮は探偵を職としているのだが、その時の小暮は容疑者として 中井の運転する車の助手席に座っていた。 行き先は白壁というゲーセンだった。ゲーセンを事情聴取の場に使うという警察の神経が分からないが、 小暮はVIP待遇を受けているようなものだと納得した。出来ればブラックルームであの踊りを見たいと思った。 何でCSであのムービーを消した…といつの間にか小暮の顔は少し険しいものになっていた。 車を白壁へと向かう最短距離を突っ走らせながら、中井が小暮に言った。 「探偵さん、俺「V」が全ッ然出来ないんだよ。なんかいいアドバイスない?」 「あ〜、Vですか。中井さんっていつもどっちサイドでプレーしてます?あと、どこが苦手ですか?」 「1P側でやってるよ。苦手なのは…中盤と終盤に出てくるあの対称譜面が押せないんだよな…」 「あれ、いい方法がありますよ。色んな固定の仕方ってありますけど、僕が考えだした 『V専用固定(ハイパー限定)』って言うのがあるんです。運転に集中しながら聞いてください。 1鍵を左薬指、2鍵を左中指、3鍵を左人指し指、5鍵を右人指し指、6鍵を右中指、7鍵を右薬指で押すんです。 左手を高速で動かせば、皿が来てもどうにかなります。これ、事情聴取が終わったら試してみませんか?」
247 :
旅人 :2008/10/12(日) 11:23:01 ID:qCWLEzbY0
「はー、『V専用固定』ねぇ。もしかすると上手くいくかもしれないな…よし、白壁で事情聴取が 終わったら、探偵さんにそれを実演してもらおうか」 「いいですよ。でも、中井さん、まだ仕事中でしょ?大丈夫なんですか、無駄に白壁に居て…」 いいんだ、暇だからと一台の車を抜き去りながら中井は答えた。それに対して小暮がつぶやいた。 「前言撤回。やっぱ最近の警察は軽いなぁ…」 「何か言った?」 「いいえ、何も」 小暮が中井にそう返した時、中井の携帯電話の呼び出し音が鳴った。中井は車を運転しながら 通話が出来る機械(小暮は前にそんな機械を見た覚えがあった。どんな形状だったかは忘れたが 中井が耳にヘッドフォンをしているのはその為だったのだと分かった)で誰かと通話をしていた。 中井の顔は、小暮が彼と初めて会った時の気楽そうな(あの場所では場違いの感があったが)顔から 田中がいつも見せているような刑事の顔になっていた。小暮はその顔を見て、ただ事ではない何かが どこかで起きているのだろうと分かった。 通話を終了した中井は、白壁から500メートル程離れた場所にあるコンビニの駐車場に車を止めた。 小暮は中井に、そうではないと分かっていながらもこう尋ねてみた。 「トイレですか?」 「いや、違う。探偵さんに緊急の依頼をしたい」 そう言われた小暮は目を点にして中井を見る。依頼?何の?と小暮が尋ねると、中井はすぐに答えた。 「白壁が十人程度で構成されている武装勢力の手によって襲撃され、制圧された。白壁の客が人質に されている。奴らの要求は『○×銀行の秘密金庫から奥田の一億円を寄越せ』というものらしい。 これは先の奥田夫人が殺害されたのと 関連づけて調べたいんだ。絶対にこの二つの事件は繋がっている。 まぁ、刑事としての勘だがな……なぁ探偵さんよ、あの時のように力を貸してくれないか?この通りだ」 中井が神仏でも拝むかのように手を合せ、小暮に頼み込んだ。そんな中井の姿を見た小暮は 断るという選択肢を捨てた。それに、ここで警察に協力することで奥田夫人の殺人事件での容疑を 晴らしたり、晴らすまでいかなくとも軽くすることが出来るかもしれない。そう考えた小暮は言った。 「分かりました。それじゃあ中井刑事、コーラと肉まんでも買ってきて作戦を練りましょう」 「は?コーラと肉まん?」 「はい。できれば奢ってくれません?財布がないし、V専用固定を教えたお礼代わりに」 「………分かったよ。今から買いに行くからそこで待ってな」
248 :
旅人 :2008/10/12(日) 11:25:05 ID:qCWLEzbY0
数分前。町田彩は白壁内のトイレにいた。用を足しに行くのではなく、制汗スプレーを 使うために彼女はここにいたのだ。そう、今日の彼女がやろうとしている音ゲーはDDRであった。 「一曲目はmurmur twins、二曲目はどうしよっかな〜、B4Uやろう。あれいい曲だよね〜、 三曲目はどうしよう、プリンやろうかな…」 今日の為に動きやすい服装をしていた彼女は、服の中からスプレーを噴射させながら そうひとりごちていた。傍から見れば相当な不審人物に見える事は間違いなかっただろう。 さてDDRをやりますかと町田がトイレから出ようとした時。その時から彼女の不運は始まった。 何かの爆発音。トイレの出入り口から見える白壁の様子は、その爆発は上の方から起きたらしかった。 Yeah drop the bomb! Just drop the bomb!って?確かに。爆弾のような何かは上から落ちてきていた。 数個の手榴弾が、最初の爆発によって開けられた天井の穴から、運よく誰もいない所に落ちて爆発した。 床にぼっこりと凹みが出来て、近くにあった順番待ち用のベンチが跡形もなく吹っ飛んでいた。 そして爆発によって開けられた天井の穴から、ワイヤーで吊られた何人かの武装している人間が落ちてきた。 順番待ちの人々は、悲鳴を上げて白壁から逃げ出したり、わけが分からずにボーッっと立っている人もいた。 何が起きているのよ…と思っていた町田だったが、今すべきことは二つある、と彼女の理性が 混乱状態に陥りかけた彼女をシャキッとさせた。手提げカバンから、自分の携帯電話を取り出して 警察へ電話をかける。これが最優先の行動でしょ? 「もしもし?警察ですか?いま、白k…いえ、ゲームセンターパレスが襲われているんです。 何人かの武装した人々が今そこに侵入しています。早く助けにきてください」 自分がトイレにいる事を気取られてはならない。その思いが町田の声を抑えさえた要因だったのだろう。 次に町田は彼らに見つからないようにする必要があると思った。まず、彼らが店内を押さえていくはずだ。 もしかすると客や店員を射殺するのかもしれないが、もしそうだとしても私は彼らを止める事は出来ない。 だから、何としても見つかるわけにはいかない。そう思った町田は女性用トイレの出入り口の近くの 壁に張り付きながら覗き込みをし、店内にどれくらいの武装した人間がいるのかを確認した。 見える限りでは、敵は四人であった。それに、白壁のどこからでも悲鳴は上がっていたが 銃声は聞こえなかった。彼らは発砲する気はないようだった。少なくとも今のところは。 その頃、白壁から最も近い位置にあるコンビニの駐車場に駐車してあったプリウ○の車内で 小暮が缶コーラを飲みつつ肉まんを食べながら、中井と作戦を練っていた。中井は「肉まんうまいなぁ」 なんて言いながら案を出している小暮を見て、なんだか変な人というか呆れたというかよく分からない感情 を持ち始めた。そんな奇人な探偵、小暮正俊の出した案というのがこれだった。 「小暮が白壁に潜入、武装勢力の解体を目指す。中井が○×銀行に行って 支店長から秘密金庫の番号を聞き出し、犯人の要求に応えられるようにする」
249 :
旅人 :2008/10/12(日) 11:27:53 ID:qCWLEzbY0
そんな案を聞いた中井は、小暮にこう反論した。 「ちょっと待て、それはマズイぞ。犯人の要求を飲むわけにはいかない。 俺ら警察の立場としての話だが」 「今、午前十時頃ですよね?だったら白壁には結構な数のお客さんがいますよ。 だから、もしかしたら『ある一定のインターバルを置いて人質を殺す』何て事も奴らは出来ます」 「それはそうだが、奥田氏の了承は……」 「いいんです。彼が浮気していなければ、夫人は殺されなかったのかもしれないから」 「え?今何て言った?」 しまった、と小暮は思った。もうこの世を去ったとはいえ、奥田夫人の依頼の内容は守秘義務と 言うものがある。探偵として、やってはいけない事をやっちまった。独り言です。そう答えるしか 小暮には出来なかった。もはや、中井刑事の良心を信じるより他はなかった。 白壁の構造について説明しておきたい。高さは10メートル、幅や奥行きで計算できる 敷地の面積は、国立競技場のトラックの半分程度というのが常連の共通する考えである。 中は二階建て。一階にはエントランスルームという、入口兼イベント開催の告知を目的とした 掲示板が置かれている所と、エントランスルームから入って左手には二階へ上る階段があり、 まっすぐ進めばゲーム機が置いてある場所(ランドと呼ばれている。ランドの東側で エントランスルーム側の所には二階、屋上へ続く階段がある)へ行く事が出来る。 トイレはそこを真っ直ぐに進んで行けば見つける事が出来る。 エントランスルームから上に伸びる階段を上ると、前に小暮や町田が利用したことのある 休憩スペースが待ち受けている。そこから、ランドの内壁をなぞるかのように存在する床がある。 体育館の二階のギャラリーのようなものだと捉えてもらえれば幸いである。 そこで、人々は上級者のプレーを高みの見物をすることが出来るのだ。 今は武装勢力が巡回ルートとして使っていたのだが。 町田は、まず自分が安全と思える場所に逃げ込まなくてはと考えた。トイレの中は安全ではないだろう。 (女性用トイレとはいえ、今は場合が場合だ。女用も男用も関係ない。全部調べられてしまう) そう考えた町田はある作戦を思いついた。トイレから逃げて、そこから逃走してしまえばよいのだ。 トイレから逃げると言っても、白壁店内の方に逃げるのではない。ランドとトイレを繋ぐ通路から 脱出したら巡回しているであろう敵に見つかり、捕らえられてしまう。最悪の場合射殺という事も考えられるが、 まだ人質が一人も殺された様子がないことから、その最悪な場合は無いと思われた。あくまで予測であったが。 だから、白壁店外の方に取り付けられてある窓から脱出する。それから白壁から出来る限り距離を置いて、 それから警察の働きに期待すればよいのだ。 だが、町田にはこれが出来なかった。身長や身体能力などの物理的要素ではなく、彼女の良心が この行動を取る事を拒否していた。自分だけが助かればそれでよいのか?今人質になっている人の中には 自分の友人だっているだろう。ゲームを教えてくれた人だっているかもしれない。この時間帯なら考えられる。 ……彼らを助けなければ。町田はそう思って、作戦の内容を一部変更した。外へ出るまでは同じだが、 そこから裏口を通ってスタッフルームへ向かう。そこで監視カメラの映像を見る事が出来るだろうが、 そこで監視カメラの映像を見るために何人かの敵がいるのかもしれない。だが、やるしかない。 自分だけが助かりたいんじゃない。皆が助かりたいんだ。 だから、私は皆を助ける。町田はトイレの窓を開けながら決心した。必ず人質を全員救ってみせる。
250 :
旅人 :2008/10/12(日) 11:33:59 ID:qCWLEzbY0
いかがでしたでしょうか?これにて第二章の一回目の投下は終了です。 さてさて、町田が人質の救出を決意した所で話は一旦終わりました。 次回予告な感じで書かせていただくと、これから小暮が活躍しますって感じです。 彼の探偵秘密道具(仮)が火を噴く!その時そこにいた人々は!?ってな感じです。乞うご期待。 あ、まとめさんに一つ注文なのですが、よろしければ今回は前編中編…とパート分けを しないで欲しいんです。これが普通の一つの長編ならそうして下さいというところなのですが、 この「みんパテ」(あ、略しちゃった)だけは章の中でパート分けをやらないでくださいという 勝手なお願いですが、よろしければどうかお願いします。 (一つ。今作品は一風変わったアクション風なものを…と考えています。 ミステリーな要素は殆ど入っていません。というか、その類を書くのはどうも苦手で…頭悪いからですかね) (もう一つ。作中の白壁の構造の解説ですが、分かりにくいところがあったと思います。 作者の力不足を心よりお詫び申し上げます。もしかしたら、紙切れか何かに文の通り 地図を描いてもらえれば、もしかしたら、分かりやすい物になるかもしれません…)
旅人さん乙です。 夫人殺害とどう絡んでくるのか、楽しみにしてます。 こちらも続き持ってきました。
「よくここにいるって分かりましたね」 1046は別段感心した風でも無しに言う。 「アンタ昨日自分で話してくれたじゃない。 昼間はデラをやって過ごすのが日課なんでしょ。 で、今ホームのシルバーは店長不在で営業停止中だ。 だったら向かう先はABCしかない」 「さすがは刑事さんですね。 その推理力でさっさとBOLCEを殺した犯人でも捕まえればいいじゃないですか」 「はは、それを言われると耳が痛い」 1046は気を揉んでいるのか、 会話の傍らでそわそわとイーパスをもてあそんでいる。 右手に持ったイーパスの表面を、左手の中指と薬指で交互に叩く格好だ。 きっと無意識にトリルの練習をしてしまうのだろう。 非利き手の、しかも使いづらい指を動かす訓練を 自然としてしまう辺りに、トップランカーとしての貫禄を感じてしまう。 「アンタのイーパス使用履歴、コナミに調べてもらったよ。 言ってた通り、一昨日はずっとここでデラをやってたみたいだね」 「でしょう」 「ただし、12:20〜12:35の間はプレイした記録が無かった。 その間は何してたのか教えてくれる?」 「昼メシです」 「どこで何食ったの?」 「コンビニ行って、おにぎり買って、食って、また戻ってきただけですけど。 俺何か変なこと言ってますか。 逆にその時間に昼メシ食わない方がよほど不自然じゃないですか」 「やだなぁ、誰も不自然だなんて言ってないじゃん。 だいたい、たった15分ばかしアリバイが無いからって アンタに疑いを向けるほど俺の心は狭くないさ。 ここからシルバーまではチャリで移動するだけでも往復で10分ほどかかる。 15分くらいじゃ何も出来ないことは承知の上だよ」 「だったらどうして何してただなんて聞くんですか」 「一応ね、参考までに聞いておこうかとね」 少し白々し過ぎたかも知れない。 苛立ちが募っているようで、1046の奏でるトリルのBPMが微かに早まった。 だがさして気に留めないで、乙下は間髪を入れず次の攻撃を仕掛ける。 「もう一つだけ聞かせて欲しいんだけど、 アンタ、一昨日の10:27にここへ来てからずっと休みなくデラをプレイしてる。 なのに、11:55〜12:00だけ五分の隙間が空いてるんだよね」 「あっそうですか」 「なんでまたこの時に限ってインターバルがあるの?」 「なんでまたって、乙下さんこそなんでまたそんな些細なこと気にするかな。 疲れたから休憩しただけなんですけど」 「ふーん、トップランカーでも疲れるんだ」 「ランカーだろうが何だろうが、疲れる時は疲れますよ」 そんなことを忌々しそうに言い放つ1046の顔つきこそが ひどく疲弊しているようだった。 なるほど、ランカーだろうが何だろうが疲れる時は疲れる、ということらしい。
「もう一つだけ聞かせて欲しいんだけど、 アンタ、その後12:00ちょうどにプレイ開始したのに、12:02に終了してる。 一曲目の序盤で落ちなきゃこんなすぐには終わらないよね。 捨てゲーでもしたの?」 「落ちました」 「まさか」 「普通に落ちただけですけど?何かおかしいですか?」 「いやだって、アンタランカーでしょ。 ランカーは一曲目で落ちないでしょ」 「それは過大評価です。 俺が落ちたのはDUE TOMORROWって曲なんだけど、乙下さん知ってます?」 「すっげぇ速い曲だよね。NORMALならクリアした」 「そう、すっげぇ速い曲。 あの曲はANOTHERだと☆12で、とんでもない糞譜面なんですよ。 とにかく初っ端から密度が高くて、 少しでもズレたらあっという間にBADハマりして終了です。 そりゃ俺だって真剣にやればそう簡単には落ちないですけど、 休憩した後で少し気が抜けてたのかな」 「ふーん、トップランカーでも落ちるんだ」 「ランカーだろうが何だろうが、落ちる時は落ちますよ」 それは乙下にとってにわかには信じがたい事実であったが、 今は空気が不在のため真偽を確認することも出来ない。 「もう一つだけ聞かせて欲しいんだけど」 「さっきから何回『もう一つだけ』聞いてるんですか」 「悪い悪い、これで本当に最後。 アンタ、その後12:03にプレイを始めて、12:09には終えてるね。 他のプレイ時間はどれも11〜12分くらいなのに、 さっきの一曲目落ちの時ほどじゃないにしろ、やけに短くない?」 「それはFREEモードを選んだからです。 二曲しか遊べないんで、普段の半分のプレイ時間になって当たり前」 「だとしたら、どうしてこの時だけFREEモードを選んだ?」 「さっき『ランカーだろうが落ちる時は落ちる』って話しましたけど、 やっぱ一曲目で死んだのは久しぶりなんで、ちょっとショックだったんですよ。 だから、気合い入れてDUE TOMORROWにリベンジしたんです。 念には念を押して、FREEモードで」 「はー、そういうこと。リベンジは成功した?」 「さすがに」 乙下は報告書の余白にペンで殴り書いた。 ・来店〜11:55 → 通常プレイ ・11:55〜12:00 → 疲れたので休憩 ・12:00〜12:02 → 休憩後で気が抜けたのか、DUE TOMORROWで一曲目HARD落ち ・12:03〜12:09 → FREEモードでDUE TOMORROWリベンジ ・12:09〜12:20 → 通常プレイ ・12:20〜12:35 → 昼メシ ・12:35〜12:37 → トイレ(監視カメラに映る) ・12:37〜退店 → 通常プレイ 「つまりはこういうことだよね」 「つまりはそういうことですね」
「なるほど。 データで見ただけだと脈絡無くて不自然なように見えたけど、 こうしてみると一連の流れがあるんだなぁ。 なるほどなるほど」 「……あの、俺に謝りに来たんじゃなかったんですか。 これじゃ丸っきり昨日の取り調べの続きですよ」 「あーいやいや、気を悪くしないでよ。 さっきも言ったように、ちょっと気になってたもんだから参考までに聞いただけ。 だってしょうがないじゃん、 アンタのイーパス履歴の不自然な時刻とBOLCEの死亡推定時刻が 見事に重なってるんだもん。 アンタが何か良からぬ企てでもしてたんじゃないかなぁ、とか そんなこと思っちゃう人が出て来てもおかしくないでしょ?」 「それ、自分のことでしょう」 1046は怒りを通り越したのか、半ば呆れ顔になっている。 「昨日までならともかく、アンタを疑う気持ちは もうこれっぽっちもないんで、どうか安心して欲しい」 「本当ですか?」 「本当だよ。だってアンタの潔白は俺自身が証明したことなんだから。 これから説明してやる」 乙下はポケットから一枚の写真を取り出し、1046にちらつかせた。 1046は写真を見るなり「BOLCEのバッグだ」と呟く。 「さすが親友だね。 アンタの言う通り、これはBOLCEのバッグとその中に入っていた物の写真だ。 いわゆる遺留品ってやつだな。 この写真がアンタの潔白を証明している」 「……何故ですか」 「ここにイーパスが写ってるだろ。 BOLCEのイーパスはバッグの中の財布の中のカード入れの中に入っていたんだ」 「それが?」 「BOLCEは殺される間際までデラをプレイしてた。 最後のイーパスの使用履歴が12:30〜12:40。 そのイーパスがBOLCEの財布の中に入ってたってことは、 犯人は12:40の時点でシルバーにいる必要がある」 「ん、それはどういう理屈?」 「よーく考えてみてくれ。 もし財布にイーパスを入れたのがBOLCE自身だとしたら、 BOLCEは12:40の時点で生きていたことになる。OK?」 「OK」 「逆に言えば、BOLCEが殺されたのは12:40以降ってことだ。 よって、犯人は12:40より前にシルバーを立ち去ることは出来ない。 これもOK?」 「……あぁ、それもOK」 「じゃ次に、財布にイーパスを入れたのが犯人だとしたら?」 「えーと、ちょっと待てよ……あぁそうか、分かりました。 犯人がBOLCEの財布にイーパスを入れるためには、12:40まで待たなければならない。 12:40まで待って、ようやくイーパスがカードリーダーから出て来るわけですから」 「そういうこと。 よって、やはり犯人は12:40より前にシルバーを立ち去ることは出来ない。 以上より、犯人は12:40の時点でシルバーにいなければならない」 「……」 1046は左手のトリルを続けたままの状態で、 少しの間目を細ませ熟考しているようだったが、 やがて「そうですね、そうなります」と納得したようだった。 もしくは、最初から全てを理解した上で考え込むふりをしていたか、だ。
「ところがアンタは12:35にはここの監視カメラに姿が映ってた」 「そうです。 昼メシを終えて戻って来て、すぐにここのトイレを使わせてもらったんです」 「みたいだね。 そして12:37以降はここで絶え間なくデラをプレイしていた履歴が残っている。 これが、アンタがBOLCEを殺した犯人ではあり得ないことの証明」 1046が乙下を見た。 乙下の真意を確かめようと、目の色を窺っている目の色だ。 見つめ返してもすぐに視線を逸らさないのは、 警戒心の薄まりからだろうか。 乙下は1046と見つめ合いながら、と言えばよいのか、 睨み合いながら、と言えばよいのか、とにかく先を続けた。 「まだある。 11:10〜11:15、12:15〜12:18、13:18〜13:21。 これ何の時刻だか分かる?」 「さぁ」 「犯人が店長に電話をかけた時刻。 NTTの記録から追ったデータだから間違いない」 「へぇ。それが?」 「脅迫犯はシルバーの中の様子を監視しながら電話をかけたらしいんだ。 店長との電話の中で、店内の様子を見張っていることを 逐一アピールしてたんだって。 おかげで店長は行動を束縛されたんだ」 「やり方がいけ好かないですね。虫酸が走る」 1046は吐き捨てるように言った。 これまで乙下に対して見せてきた嫌悪感とは、どこか種類が異なる。 深さが異なる、と表現した方が正確かも知れない。 全霊をかけた強烈な忌避。 乙下は、理屈抜きにそう感じた。 「アンタはこのいずれの時刻もここでデラをプレイしていた。 ここでデラをプレイしながら遠く離れたシルバーの中を監視して、 その上で店長へ脅迫電話をかけるなんて出来るかな」 「出来ませんね」 「これが、アンタが店長を脅した犯人ではないことの証明。 おめでとう、BOLCE殺しにしても店長脅迫にしても、アンタは無実だ」 「だから言ったじゃないですか。 俺はやってないって、最初から言ってたじゃないですか……っ」 1046は語尾を荒げた。
濡れ衣を着せようとした乙下に対する怒りなら、受け止める覚悟はあった。 だが1046の掴み所のない激情は乙下の頭上を飛び越えて、 そのまま禍々しい何かへと放たれているようだった。 「1046さん、随分機嫌がよろしくないね」 「……犯人が許せないだけです。 この犯人だけは、許せない」 店長の言葉が、乙下の心へ染み入るように蘇る。 いいか、1046ちゃんは人殺しをするようなヤツじゃねぇ。 ましてや相手は親友のBOLCE君だ。 ライバルだ。 男の友情だ。 熱い魂の分身だ……。 「本当に」 「え?」 「本当に、仲が良かったんだな」 「……俺と、BOLCEの話ですか」 乙下はだまって頷いた。 1046もだまって頷いた。 「あれは、いつのことだったかな……」 1046の左手の動きが徐々に緩やかになり、やがてトリルは収まった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 あれはいつのことだったろう。 1046とBOLCEは夕焼けに染まる小高い丘の上にいた。 盛岡市街を一望できるこの場所で、二人はしばしば語り合った。 「1046は、このまま中途半端で終わっていいの?」 「……分からない」 「僕はまだ上を目指すよ」 「上って何だよ」 「トップだよ。トップランカーを目指す。 僕が世界で一番IIDXの上手い男になる」 「BOLCE、お前本気かよ」 「本気だ」 「無理だ」 「無理じゃない」 「無理だ」 「無理じゃない」 「どうして言い切れる」 「1046がいるからだ」 「俺が……?」 「君と僕、二人ならやれる。必ず」 「二人で?」 「そうだ。切磋琢磨して、二人でトップランカーにのし上がる。 僕らは永遠のライバルだ」 そう言ったBOLCEの瞳は、1046が見る限り、伊達でも酔狂でもなかった。 本気だった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「最初から上手かったわけじゃないんだ。 俺もそうだし、BOLCEもそうだ。 少しずつ、ほんの少しずつ階段を上がって行ったんです。 時にはスランプに陥ったりもしたけど、 その度に励まし合ったり、互いのスコアでモチベーションを高めたり。 だから、何て言うのかな。 周りは俺達のことを親友とかそんな風に呼んだけど、 実際はもっとサバサバしてました。 敢えて言うなら戦友って方がしっくりきます」 そういうのを親友って呼ぶんだよ、と指摘したい気持ちもあったが、 二人の関係に水を差してしまうのも躊躇われて、乙下は口をつぐんだ。 ましてや二人の関係性はBOLCEの死により固形化してしまい、 もう二度と変容を遂げることはないのだから。 「ちくしょう。 まだ一度もアイツに勝ってないのに。 ずるいよ、勝ち逃げなんてずるい……」 1046は唇を震わせながら、右手で両方の目を覆う。 その仕草にあざとさや胡散臭さは見つけられない。 1046の言葉は額面通りの意味で、するりと乙下の胸に吸い込まれる。 そして、淡い切なさがこみ上げる。 目を覆った1046の右手がもどかしそうだ。 大量に降りかかるオブジェを余さずに受け止めることは出来るのに、 どうして止めどなく流れ落ちる涙を抑えることは出来ないのだ、と。 もう一度、店長の言葉が聞こえた。 「1046ちゃんは絶対に人殺しなんかするような男じゃない」。 乙下には分からなかった。 1046が犯人でないのなら、誰が犯人なのか。 あるいは、自分にこの不可解な事件を解くことが本当に出来るのか。 主に後者の意味で、乙下には分からなかった。 to be continued! ⇒
今回はここまでです。 ご覧の通り、今回は少しだけ人間ドラマっぽい部分が登場しました。 この物語はパズル的な側面もありますが、 やはりこれは人間が起こした事件を人間が解く物語。 すなわち、人間ドラマの上に成立している物語ということです。 それぞれの登場人物が何を思い、その結果どんな行動をとったか。 それらが明らかになった時、この物語の全容が見えてきます。 そこまで辿り着くのはもう少し先になると思いますが、 そんなことを考えながら読んでいただけるとより楽しめるかもしれません。 それではまた。
旅人氏もとまと氏も乙 ゲーセン占拠はアメリカのアクション映画並もシーンとかあったら 笑えたりするんですけどね
( ^ω^)「最近はドラムマニアの人気が落ちて来ているらしいお」 「そんなことないよー」 ( ^ω^)「誰だよてめぇ」 「天の声だよー」 ( ^ω^)「おk把握」
(中略) ( ^ω^)「今ドラムマニアを始めれば女の子にモテモテだお!?」 ( ^ω^)「なんと!!ブーンはdm3時代にあのDAYDREAM(EXT)をクリアしているんだお!」 DAYDREAMクリア→女子高生「キャー!カッコイイ!」→セクロス ( ^ω^)「やっべwwwwwwよだれでてきたwwwwww」
( ^ω^)「てなわけでゲーセンに来ましたお」 ( ^ω^)「店内うるさすぎワロスwwwwwwwwwwww」 ( ^ω^)「………」 ( ^ω^)「ドラムマニアハケーンwwwwwwwww」 ( ^ω^)「おっ……プレイしている人がいるお……」 ( ・∀・)「〜♪」 ドコドコドコドコ シャンシャンシャーン ステェーィジ クリィアァ ( ^ω^)(………) ( ・∀・)「SP1500からなかなか動かないなぁ」 ( ・∀・)「あっ、お次どうぞ」 (;^ω^)「!? …ありがとうございますお」
( ^ω^)「さっきの人上手かったお……」 ( ^ω^)「まぁDAYDREAMをクリア出来るブーンの足元にも及ばないがな!!」 ( ^ω^)「さて……DAYDREAMはどこだお」 ( ・∀・)(コイツ独り言が酷いなぁ) ( ^ω^)「曲大杉wwwwwwDAYDREAM見つかんねぇwwwww」 ( ・∀・)(初心者……?でも初心者が泥鳥なんか出来るのかな)
( ^ω^)「下にスクロールしてったら見つけたwwwwww」 ( ・∀・)「緑で62もあるし……オトバ厨か?」 ( ^ω^)「EXTにしてっ……と」 (;・∀・)「!?」 バシューン ギュイーン デーーデデデーデーデーデデデー ( ^ω^)「最初は簡単なんだおー」
デレレレデレレレレデレレッ デデッ デデッ デデッ デデッ デレレッ ( ^ω^) ツチチチチチチチチチチ ハッ ツチチチチ ガシャーン ( ^ω^) (;・∀・) ( ^ω^ ) ( ・∀・)「こっち見んな」 おわり
たまには地の文無しがあってもいいじゃない!的な感じで作った 最初の方はDDRやる夫っぽいよね あの後、モナーがブーンに話し掛けてうんたらかんたらで ( ^ω^)「100secできたお!」 ( ・∀・)「どうみてもスペシャルクッキングです」 ( ^ω^)「本当にありがとうございました!!」 ってのはまた別の話し おしまい
なんじゃこりゃと思ってみたけどたまにはこういうのもありなんじゃないかと思った
スレタイが変わる前は、こういうのがよく投下されていたな。 何だか少し懐かしさを感じたような。
ageておく。
270 :
旅人 :2008/10/19(日) 23:48:33 ID:K/mUS8tg0
>>260-266 さん
久々にこういうのもいいなって思いました。っていうか元のスレの流れははこういうのが主流だったんですよね。
読んでてとても面白かったですし、なんじゃこれと思わせる展開でも面白いんだなぁと思いました。
今晩は、IIDXのmurmur twins(H)のフルコンを達成した旅人です。
好きな曲をフルコンする達成感って凄く良いものだって久々に再確認しました。
みんパテ第二章の第二回目の投稿です。
>>259 さんのように本格的アクションを期待して下さっているには申し訳ないのですが、
現段階では(第三章の真ん中あたりを書いています。章は変わりましたが、話はまだ白壁占拠のままです。
白壁占拠事件がどのように解決されたかがいよいよ本格的に描かれる予定です)
それはないかなと考えています。舞台が日本ではなく銃社会な外国(例えばアメリカとか)なら
オラオラー!って銃乱射とか、ナイフを首筋に当てて脅すだとか
大迫力の格闘シーンが繰り広げられるとか色んな事が普通に書けそうですが…
小暮と町田が、白壁を占拠した連中と真正面からガチで銃撃戦とか考えてもいたのですが…
でも、彼ら主人公たちには人を殺してほしくないって願いがあるんです。だから、その案は没になりました。
そのかわり、緊迫するシーンを入れてみたりしました。また、力不足で表現しきれないかもしれませんが。
とまぁ言い訳はこのくらいにして、本編を投下しようと思います。どうぞ。
271 :
旅人 :2008/10/19(日) 23:50:50 ID:K/mUS8tg0
白壁の屋上は特に何もない、さみしい所である。学校の屋上のようなもので、 デパートとかにありがちな屋上遊園地のようなものは存在しない。 ただ、今は三人の武装した男が、彼らが占拠した白壁のそこで見張りをしていた。 よって、普通に侵入することは絶対に不可能であった。屋上の見張りに見つかり、武装勢力内で 連絡が届き、エントランスルームに戦力を集めて侵入者を捕らえるだろう。 そこで、小暮が提案したのは下水道を使う事だった。マンホールのふたを開ければ そこから先は迷路のように道が存在する。地下水路を通って白壁の近く、それも屋上の見張りの 死角になるような所で地上に上がれば、白壁店内に潜入することは不可能ではないはずだった。 その事を小暮は、缶コーラの最後の一口を飲んでから中井に言った。 「だからね、地図。地図を寄越してください。警察の力ならどうにかなりますよね? 下水道の地図なんて簡単に取り寄せられるんじゃないですか?」 「そうだな、じゃあこれから署の方に連絡してみる。受け取り場所はここでいいな?」 「はい。そうそう、一つ気をつけてほしい事があるんです」 「何だ?言ってくれ」 中井の言葉を受けて、小暮は一度目を閉じて深呼吸をしてから言った。 それは、自分の感情を落ち着かせようとするものであったのだろうと中井は考えた。 「この曜日のこの時間なら、必ず町田さんがいます。僕の友人です。僕が携帯電話で彼女に連絡を取るのも 一つの手なのでしょうが、それは危険すぎます。町田さんが武装勢力に発見される率が高い。 彼女がもし武装勢力に見つかって人質にされていない限り、たぶん電源は切っているでしょうが…」 「それがどうしたんだ?」 「もし、警察が突入した時とか白壁に動きがあった時に、警察側は人質に絶対死者を出させないって 約束してください。それが出来ないとしても、傷をつけるような真似はしないように気をつけてください」 「何言ってんだ。当り前じゃないか、そんなの。…署に地図を届けさせるように今から電話するから、 トイレに行くなら今のうちだぞ。行くなら行って来いよ、探偵さんよ」 そこまでの話を聞いた優、最年長の男が目を見張って聞いていた。町田と、それに付随する形で 語る小暮の話にぐんぐん引き込まれていた。松木はふと、この二人は落語家にでもなれるんじゃないかと 場違いな発想を浮かばせ、それを消し去りながら二人に聞いた。この事件のオチは分かっていても その中身は知らない。事件の結末も重要だが、そこに至る経緯の方が松木にとって興味があったし、 彼だけでなく優や最年長にもそれに興味を持たせているのだろう。だからこそ、二人の眼は輝いているはずだ。 「で、それから?9:50頃に町田さんはトイレから脱出して、どうしていたの?」 「トイレの窓から逃げ出して…それから、白壁の外壁に沿いながら動いていた。 建物には、スタッフ専用玄関みたいなものがあるじゃない?そこは白壁の東側にあるって 知っていたから、そこを目指していたよ」
272 :
旅人 :2008/10/19(日) 23:53:08 ID:K/mUS8tg0
窓から外に顔だけを出して、辺りに敵がいないことを確認してから町田は窓から外に出た。 町田の眼前には白壁の裏手の駐車場があり、そこには数台の車が止まっているが、この駐車場は スタッフ専用のものである。車の陰に隠れながら町田は駐車場の様子を見渡したが、敵はいなかった。 トイレの位置が北の方角にあるのだから、スタッフルームは確か東にあったはず。 そう考えた町田は用心のためにあまり足音をたてないように東へと歩いていった。 何十メートルか先に白壁の外壁が右に90度曲がっている。曲がり角で壁を背にして張り付き、 首を右に向けて様子をうかがう。 スタッフルームの扉の前に一人の拳銃を構えた敵がいた。扉の上にある雨よけの役目を果たしている 延長した天井のせいで彼の姿が暗く見えた。町田が彼を見つけた時、彼は町田のいる方向とは 逆を向いていたため、町田は発覚される事はなかった。 しかし、どのようにしてこの状況を打破する…?町田は考えた。自分が背にしている壁のすぐ左に 屋上へ上がるための梯子がある。それで屋上に侵入して、それから内部に侵入する? しかし、それは無謀だと町田は思った。屋上に上がる前に二階の、下のランドを見渡せる あの床が構成する二階とこの壁は、そこだけガラスで仕切られているのだ。 つまり、白壁は二階部分だけが透明なガラス張りなのだ。八方から丸見えなのだ。 それに屋上へ出られたとしても、もうエントランスルームから数十メートル離れた所で説得を試みている 警察への警戒の為に屋上に敵が何人かいる可能性が高かったからだ。 やはり、あのスタッフルームの扉の前の敵をどうにかするしかないのだ、と町田は思った。 しかし、手段が思いつかない。曲がり角の近くにいる敵に気付かれないように腰をおろして、ため息をついた。 10:00頃。白壁の西側、白壁から約5メートル離れた所にあるマンホールから一人の男が出てきた。 彼の姿は古き良き時代の探偵な感じなのだが、その右手には拳銃が握られていて、左手には色んな物を 多く入れているのだろうか、ごつごつに張っている袋を持っていた。 彼はマンホールのふたを閉めて駐車場に出て、白壁に向き直ってそれを見上げた。 彼は目を閉じて一つ息を吐き、それから目を開けて白壁の外壁へとダッシュした。それからコンクリートの 地面に尻からスライディングして、反転しながら背中を白壁の外壁にくっつけて停止した。それから素早く 立ち上がって北側へと走り出す。その理由は、反転した時に白壁から突き出るように位置する休憩スペース の壁となる透明なガラス越しに多くのロープで縛りあげられた人質と数人の見回りの敵が見えたからである。 右手に続く白壁の外壁の終わりで、彼は右に90度ターンした。右手に握る拳銃を進行方向に向けながら休む間もなく 走り、それほど遠くない所に一人の女性が座り込んでいるのを見た。彼は彼女の姿に見覚えがある、と思って 走るペースを落として彼女に近づいた。間違いなかった。彼女は自分の友達の町田彩であった。
273 :
旅人 :2008/10/19(日) 23:56:25 ID:K/mUS8tg0
「小暮君、静かに!」 その意図を表わすポーズとして、町田は人差し指を空に向けて口に近付けた。 彼―小暮正俊―は音を立てないように立ち止まり、ゆっくり歩きながら町田の方へ歩いていく。 町田が少し小暮の方に体を近づけてひそひそ声で話した。 「この曲がり角の向こう、スタッフルームの入口なんだけど、そこに見張りがいてそこへは行けないよ」 「屋上に上るための梯子もあるけど、二階のガラス壁の所で見つかる…」 小暮はそう返して、左手に持っていた袋の中身をごそごそとやりだした。 町田はそんな小暮の姿を見て、彼の右手に注目した。 正確にいえば、彼が右手に握っているもの。黒光りする拳銃にである。 町田は何かを言いかけようとしたが、小暮の言葉で遮られた。 「町田さん、何があっても絶対に声を上げないでください。折角逃げだせたそうなのに、 声を出して見つかっちゃぁアレでしょ?口にガムテープ、張りましょうか?」 「いや、大丈夫。でも、小暮君はどうするつもり?警察がここに来て君もここに来ているって事は 警察の依頼を受けてここにいるって事なの?」 「はい。ここの人質の解放と武装勢力の戦闘能力を出来るだけ減らす事が、警察からの依頼内容です。 守秘義務ってものもあるけど、この際信用できる人になら言ってもかまわないと思うから機密、漏らしてます」 小暮は言って、袋の中身を確認し終えてから梯子を登り始めた。 町田が気をつけてと小さく声をかけ、小暮が小さくこう返した。 「あそこにいる奴が倒れたら、スタッフルームの中に入ってください。 中には僕しかいないはずですから。それじゃ、何があっても声を出さないで」 そして、小暮は梯子を速いペースで登り始めた。 下を振り返ることなく、一定の小気味良いリズムで小暮の手足が動き、問題の二階のガラス壁の場所がやってきた。 小暮から見て右の方から一人の敵が、小暮が梯子を上っている事に気がついた。 肩に吊っている突撃銃を構えたが、小暮が右手に持っている拳銃を構えて向けるのが早かった。 敵が驚きの表情を見せたが、小暮は躊躇いもなく引き金を引き、その銃口から火を吹かせた。 ターンと一つの銃声。恐らく小暮君が撃ったものなのだろうと町田は上を見た。 そして、小暮が自分に「何があっても声を出さないでください」と言った意味を知った。 小暮が、あまりにも場違いな物を撃っていたからだった。
274 :
旅人 :2008/10/19(日) 23:59:07 ID:K/mUS8tg0
そこまで町田と小暮は見事な連係プレーで語り続け、一旦休憩を取る事にした。 聞き手にまわっていた三人が早く続きを、と言いたげに二人を見ている。 その視線を感じた二人は、小暮が右手に持っていた物は何でしょうか?と問いを投げかけた。 クイズを出してくるとは…と松木は思った。本当に話が上手い。 そして松木は、小暮は一体何を撃ったのだろうと推測を立てていく。 ……子供が使うような玩具の電子銃か?あの、音と光をだだ漏れさせるあれをか? そんな推測を立てていると、最年長が「もしかしたら」と言った。松木はそれに答える。 「ゆうさん、何だと思いますか?小暮探偵が撃った物って?」 「電子銃みたいな物じゃないかな。でも、ただの玩具じゃない。 強烈な光と音を発する、閃光手榴弾のようなそんな感じの武器。 それを拳銃に偽装させていたんじゃないかな…なんて思ったんだけど」 松木にゆうと呼ばれた、姓を坂井という最年長の男がそう言った。 小暮が少し間を開けてから、 「あ〜、それ、正解です」 と返し、坂井はえっ、当てちゃったよといった感じの表情を見せた。 小暮の拳銃からターンと銃声が響いて、銃口からは炎が噴き出された。 そして窓ガラス越しの一人の敵に向けられた銃口からは鉛玉は吐き出されなかった。当然、ガラスも割れない。 代わりに、その場にかなり不釣り合いなものを放出したのである。色とりどりの紐と、いくつかの紙片。 「ク、クラッカー?」 下から小暮の動きを見ていた町田はそう呟き、スタッフルーム前のドアに立っているの敵の足音を聞いた。 すぐさま駐車場へと走り、適当に選んだ車の陰に隠れた。 銃声を聞いて駆け付けた、スタッフルーム前からやってきた敵も、怪訝そうに小暮と彼の持っている拳銃に 見入っていた。一体、これは何なのだと町田は敵の背中が語るような気がしてきていた。 小暮は自分が数ヶ月前に作っていた、探偵七つ道具だか何とかという物にあやかっていろんな道具を 自作していたのを思い出していた。確か、袋の中には他にも自作した道具を沢山入れているはずだ。 この「閃光拳銃」はクラッカーの中身を放出したのち、三秒後に閃光とともにある音を爆音で流す道具だ。 一発撃てばバラバラになって分解され、それはもう使えなくなる。小暮はそれを袋の中にまだ5,6個 が入っていたはずだと脳内で再確認して、クラッカーの中身を吐き出し、煙を上げている閃光拳銃を 遥か高く上へと放り投げ、目と耳をふさいだ。足だけで梯子に寄り掛かる形となったが、転落の恐れはない。 そして小暮がカウントダウンして三秒後に屋上の当たりまで飛んだ閃光拳銃が眩い光を放ち… 「ポ ォ ウ!」 とSence 2007のあの声ネタの爆音が白壁の内外を問わず包み込んだ。 小暮は耳をふさいでも入ってくるその声が終わったと同時に、猛スピードで梯子を登っていった………
275 :
旅人 :2008/10/20(月) 00:01:32 ID:G8ZYvgtB0
いかがでしたでしょうか?これにて今回は一旦のピリオドを打たせて頂きます。 ピリオドといえばMAXシリーズだと思うのですが、家庭用EXTREMEって本当に何処を捜しても 見つからないんですね…ACのDDRならプレーできるのに何でゲーセンにないんだ… 以上、関係のない話でした。 少し次回予告させて頂きます。 ようやく白壁内部へ潜入することが出来た小暮探偵。 小暮の白壁内での隠密任務がこれから始まる。 一方、中井刑事は○×銀行へ足を踏み入れる。 調べを進めていくうちにそこで見たものとは?そこから浮かび上がる真実は? やや誇張が入っていますが、概ねこんな感じの話になります。 という訳で、これで終わりになります。続きがいつ投下できるか分かりませんが、 そうそう、このみんパテは必ず完結します。ってかこんな無茶な企画よく立てれたなと自分でも思います。 白壁占拠の話が終わっても、三人のゆうの話が残っているから、あぁ…まだあったかって感じです。苦痛には感じていませんけどね。 もう、これらのゆうの話はこういう話にしようというのは決まっています。後は書くだけなんです。 その前に、第三章を書き終わらせないと。11月中に白壁占拠の話は終わらせますよ。それでは。 (恥ずかしながら質問です… ブーン小説をまとめているサイトは数多くあると思うのですが、 その中でお勧めのサイトはありますでしょうか? また、ブーンたちが主人公の話も書いてみたいなとは思っているので。 タイムトラベルのようなガッカリ作にしたくないので、色んなブーン小説を読んで 勉強しようかなと思うので。よろしければ、ぜひお教えください。お願いします)
旅人氏乙 どうやって解決するか期待 MAX.って家庭用EXTじゃなかったっけ? 持ってないからわからないけど
beatmakerいつ見てもこのスレ最高傑作だなぁ
外は猛暑だった。 ABCの店内は隅々まで冷房が効いていたので、 冷えつつあった体に放射する太陽光線の熱気が心地良い。 しかしそれもごくごく短時間のことで、 暑さを思い出した乙下の皮膚はすぐさま発汗という名の悲鳴をあげ始めた。 1046の皮膚もしっとりと水気を帯びていたが、 それは泣き腫らした顔をトイレで洗ったためだ。 胸にこびりついたやり切れなさも一緒に洗い流せたのか、 1046の表情は幾分かすっきりとしており、 彼の周辺にだけ凛とした涼しさが漂っていた。 そのやり切れなさが喪失感から生まれたものなのか、 罪悪感から生まれたものかなのか、乙下には結論を出せなかったのだが。 「本当にもう帰っちゃうの? まだ一回しかプレイしてないじゃん。 俺が目障りなら心配しないでよ、こっちこそもう帰るとこなんだからさ」 「いいんです。どうせこんな不安定な精神状態じゃ ろくな記録出せないから帰ることにしただけですし」 それはまるで楽しむためではなく記録を出すためにゲームをやっていると 白状しているようなものではないだろうか。 乙下にはそのことがストイックな、しかしながら病的なことに思えたが、 もしかするとトップランカーたるものそうした気概が必要なのかも知れない。 「乙下さん、まだ俺のこと疑ってるでしょう」 「え。うん、どうだろ」 唐突過ぎる問いかけに、乙下の口をついて出たのは 表面的な取り繕いでしかなかった。 「誤魔化さなくてもいいんです、それくらい分かりますよ」 「……」 正確には「1046が犯人である可能性を捨て切れない」なのだが、 訂正するわけにもいかない。 押し黙った乙下の意など介さないと言わんばかりに、1046は先を続ける。 「乙下さんの推理には穴がある」 心臓が大きな音を立てた。 乙下は「穴?」とほとんど疑問文に聞こえないほど 単調なイントネーションで聞き返したが、 それは狼狽をひた隠しにしようとする内心の裏返しだった。 「一見すると俺に犯行は無理だ。 理由はさっきご丁寧に説明してくれた通りです。 俺にはBOLCEを殺すことも店長を脅迫することも出来ない」 「あぁ、その通りだ」 「……だけど、共犯者がいたら?」 だけど、共犯者がいたら? 乙下の心の声と1046の肉声が重なった。 「もし共犯者がいたとすれば、俺のアリバイは大きく崩れる。 乙下さんも最初から気付いてたんでしょう?」 「確かに、たった一人の共犯者がいるだけで雲泥の差だ」 そうなのだ。 もし1046に共犯者がいたとすれば、鉄壁に見えたアリバイは瞬間的に砂上の楼閣と化す。
共犯者がいたと仮定した場合の7月16日のシナリオはこうだ。 1046はあらかじめ、自分のイーパスを共犯者に預ける。 午前中の間、共犯者はABCで1046のイーパスを使い IIDXを一心不乱にプレイし続ける。 特に難しくはない。 IIDXには本人認証の仕組みとして暗証番号しか用意されていないのだ。 指紋による認証システム等が採用されているのならまだしも、 今回は1046が共犯者へ暗証番号を教えてしまうだけで済む話だ。 また、ABCにおける平日午前の客入りは皆無に等しい。 その上でカーテンを閉めてしまえば、誰かに顔を見られる危険性はほぼ無くなる。 一方で自由に行動できる1046は、 シルバー付近で店内を監視できるどこかへ身を潜める。 11:10、店長へ一回目の脅迫電話をかける。 12:15、店長へ二回目の脅迫電話をかける。 12:18、電話を終えた店長がBOLCEと最後の会話を交わし、 外に飛び出したのを見計らって、1046はBOLCEのいるデラ部屋へと足を踏み入れる。 この時のBOLCEのイーパス使用履歴を見ると、 12:19〜12:30と12:30〜12:40の二回に渡りプレイした記録が残っている。 12:19にIIDXを始めたのは、他でもないBOLCEの意志によるものだ。 BOLCEがIIDXをプレイする様子を、1046はしばらく後ろのベンチに座って見学する。 さて、12:20にプレイを終えた共犯者は、ABCを後にして一路シルバーへと急ぐ。 所要時間は五分程度。 12:25頃、1046と共犯者はデラ部屋で合流した。 そして、1046はBLOCEの殺害に及んだ。
この時の共犯者の役割は、BOLCEに代わってIIDXをプレイすることだ。 IIDXを放置してしまうとすぐにゲームオーバーとなり プレイ時刻の履歴が不自然になるため、重要な役割だ。 12:30、共犯者が次のプレイを開始すると同時に 1046はシルバーからABCへ移動を始める。 この時点ですでにBOLCEは絶命している。 たった五分でこの犯罪の全てをこなすのは非常に厳しいが、 BOLCEを殺害するというただ一点に絞れば困難とは言えない。 すなわち、BOLCEの死体を筐体に吊ったり シルバーの金庫から200万円を奪うといった付随的な作業は、 12:40以降に共犯者が慌てず実行すれば良いのだ。 12:35、ABCに到着した1046は速やかに入店し、監視カメラに映り込んだ。 その後しばらくはIIDXをプレイし、アリバイの確保に徹する。 12:40、プレイを終えた共犯者はイーパスを回収し、BOLCEの財布へ仕舞う。 共犯者はBOLCEのイーパスを使うに当たり 暗証番号が必要だったはずだが、どうクリアしたのか。 これもさして難しくない。 ATMの暗証番号ならまだしも、たかがゲームの暗証番号だ。 必死になって隠すほどのものでもあるまい。 1046があらかじめBOLCEから聞き出しても良いし、 その気になればテンキーの操作をさり気なく覗き込むことだって出来る。 もしかしたら長い付き合いの中、何かの拍子で元々知っていた情報かも分からない。 いずれにせよ、共犯者にとってBOLCEのイーパスの使用を阻まれる要素は何一つない。 BOLCEの死体を吊り、さらに金庫から200万円を奪った共犯者はABCへと舞い戻る。 おそらく13:00頃だ。 ここで共犯者は1046と交代し、1046のアリバイを成立させるべく 再び脇目も振らずにIIDXをプレイし始める。 1046は共犯者と交代し、事件を仕上げるべく再びシルバー方面へ向かう。 13:18、1046は店長へ三回目の脅迫電話をかける。 この揺さ振りにより選択肢を失った店長は、岩手銀行を襲うことになる。 1046はその一部始終を近くで見ていた。 だからこそ、1046は報道されていない事実を知っていたのだ。 16:00、1046はBOLCEの死体の第一発見者となり、警察へ通報する。 その裏で、BOLCEの死体を世界で一番最初に見た人間、という意味合いにおいても 変わらず1046が第一発見者だったというわけだ。 ……推測の域を出ないが、これが乙下の考える 「事件の犯人は1046」かつ「1046には共犯者がいた」 という前提に基づいた場合の事件の顛末だ。
乙下はこの推理へ安易に寄りかかりたくはなかった。 そもそも乙下は、いくつかの理由から この事件は1046単独による犯行であると見ていた。 しかし、1046は鉄壁とまで言えるほどの周到なアリバイを備えていた。 1046が鉄壁の間を縫って犯行を起こすことが可能だとしたら、 共犯者の存在に活路を見出す他に手が無かった。 だが、その共犯者という方向性は事件解決への切り札と言えるような代物ではなく、 縋りつきたくなる衝動にさえ駆られない一本の細い藁でしかなかった。 それほどまでに、乙下は単独犯であるという前提を 堅持するだけの理由を持ち合わせていた。 だが、現在分かっている事実だけを慎重に組み合わせていくと、 否が応でも「共犯者」の結論にならざるを得ないのだ。 だが、やはり乙下にはこの事件に共犯者がいるとは考えにくかった。 だが、やはり共犯者の存在無しに犯行は不可能だ。 さすれば、1046が犯人であるという前提自体がやはり誤りなのか。 そんな無限ループに陥った乙下の思考へ手を差し伸べたのは、 まさかの1046本人だった。 「乙下さん、俺にはもう一個アリバイがあるんです。 しかも、そのアリバイによって 俺には『共犯者がいない』ことを100%証明出来るんです」
「……へぇー。聞こうじゃない」 乙下は気のないふりをしたが、心の奥底では 不安と期待が過度に入り交じってよろめきそうになっていた。 堅牢極まりない鉄壁のアリバイが、さらに分厚く変貌を遂げようとしている。 その一方で、新たな捜査の材料が増える。 何よりも、「共犯者がいるかいないか」の堂々巡りに 容疑者自ら一つの解答を提示しようと言うのだ。 乙下は一度両手で汗ばんだ顔を覆い、 そのまま手を上へ動かして前髪を掻き上げた。 そうして再度視界に出現した1046は、ゆっくりと開口した。 「コナミのサーバーには『いつ誰がどこでプレイしたか』の情報が記録されます。 それはもうご存じですよね」 「おかげ様で」 「でも記録されるのはそれだけじゃないんです。 一体他に何が記録されるか、知ってます?」 「さぁ」 「……AKIRA YAMAOKA」 1046は一呼吸だけ置いて、少し思わせぶりな口調で言った。 アキラ ヤマオカ、と言ったのだ。 乙下はその名前をよく知っていた。 IIDXを代表するコンポーザーの一人で、 珍妙な歌詞を持つ楽曲を数多く制作している。 逆にIIDXを嗜む人でその名前を知らない人間は稀だろう。 とは言え、このタイミングで藪から棒に彼の名前が登場すること自体 はなはだ珍妙であり、乙下の頭の中は疑問符でいっぱいに埋まった。 1046はそんな乙下の反応を楽しんでいるようだった。 悪戯っぽく微笑んだ後、 ナゾナゾの答えを明かすかのごとくもったいぶって口を開く。 to be continued! ⇒
ではまた来週。
乙! 次が楽しみですね!
まとめWikiの人です。 投下された皆様、お疲れ様です。 ここまでの投下作品を全て保管致しました。 >旅人氏 一つのページに纏めてほしいとの事でしたが、原則的にはその形で保管しています。 ですが@wikiの仕様上、作品の文章量が多い場合『ページ容量オーバー』となる事があります。 一つの章として書かれていても前後編で保管する場合があるのは、これが原因です。 とまと氏の作品の第二話等がその例ですね。 二章はまだ続くようですが、もし最後まで保管した時点で容量オーバーをしてしまった場合は 前後編で分けて保管するという事をご了承ください。 久しぶりに2-387氏が来ていてびっくりしましたね。 相変わらず氏は暗喩やメッセージ性が強い内容を書きますなあ。
288 :
旅人 :2008/10/22(水) 22:34:07 ID:e3JTrxlU0
>>とまと氏 この事件と山岡さんがどう関係してくるのか、気になります。 それと、犯人の正体と殺しのトリックもです。あとその動機もです。 次をとても楽しみに待っています。 >>まとめWikiの中の人 こんな素人に分かりやすい説明をありがとうございます。 Wikiの仕様などは了解しました。ありがとうございます。 今晩は、旅人です。謝罪したいことがあります。 前回の前書きでとんでもなく失礼で愚かな事を書いた事を、深くお詫び申し上げます。 一つは、MAX.がAC版DDRに入っていない事を知らずにACがホームにあれば、と書いた事。 そしてそれは「DDRが終わってしまえばいいのに」と言ったも同然です。 MAX.のAC移植なんて誰も望んでやいないのに。自分が無知であったが故に愚かな事を 書いてしまい、本当に申し訳ありませんでした。 お詫びの仕様もない程、愚かな事を書いて申し訳ありませんでした。 もう主張する事もありません。お詫びの欠片にもならないでしょうが、本編をどうぞ。
289 :
旅人 :2008/10/22(水) 22:36:02 ID:e3JTrxlU0
一気に屋上まで上り詰めた小暮は、まだ白くかすんでいる視界の中に屋上の出入り口を見つけた。 屋上に足をつけ、そこに大きな穴を見た。武装勢力は奥中から侵入したのか?と小暮は見当をつける。 そして、近くに数人の気絶している武装した人間の姿を認め、その内の一人に近づいた。 横たわる体の横にしゃがみ、腰のあたりに携帯している大型拳銃ではなく、手榴弾に小暮は目をつけた。 これなら、上手く使用することが出来れば相手を殺すことなく危機を乗り切れそうだからである。 それに銃で撃ち合いをパンパンやっていれば、人数の差で自分が明らかに不利だという事は 火を見るより明らかであった。小暮の射撃の腕が相手を殺すことなく腕を狙って武器を落とさせたり、 足を撃って移動不能にさせたりすることが出来るほどの腕なら、彼は拳銃も持って行くのだが… とにかく小暮は手榴弾3個を奪って、それから弾倉をそのままにした拳銃も奪って、そして袋の中に 仕舞ってあったロープで屋上の見張りを全員縛りあげて自由を奪ってから、屋上の出入り口から白壁の潜入を果たした。 潜入に成功した小暮は、白壁内部に詳しい人物にアドバイスを聞きたいと最初に思った。 店内にスタッフルーム等があるのだろうが、その場所を知らない。 それに、白壁の地図がないと思うように動けない…と考えたのである。 さらに、状況が状況である。自分がうろうろしているところを見つかれば、直ぐに捕まってしまう。 運が悪ければ射殺だ。いや、一度武装集団にはちょっかいを出しているから、射殺だろう。 小暮は屋上へ続く階段を音をたてないようにして降りながら、自分があの伝説の傭兵なら… と思っていた。そして、小暮の塾で学んでいるある子供が自分にある絵を描いて見せたのを思い出した。 小学生が描いたとは思えないほどの素晴らしさを放つ、伝説の傭兵がA4ノートに描かれていた。 そんな記憶を再生して、小暮はため息をついて独りごちた。 「僕が彼なら、こんな事件は簡単に解決できるんだろうけどなぁ… ってかあの子、あの歳であのゲームやってたのかよっ!?……別にいいんだけど」 その頃。中井刑事は○×銀行にいた。 受付嬢の一人に警察手帳を見せ、仕事場へ入る事を許可してもらった。 それから支店長の机に案内してもらい、彼はどこにいるのかを聞いた。その答えが、 「さぁ?今日は支店長、まだ来ていないですから。 でも、いいんですか?TV中継でもやっていますよ。あの『白壁襲撃立てこもり事件』が。 どの局でもひっきりなしにこれの中継ですよ…さっき、謎の閃光とポォウ!って大音声が 響いたってやってましたが、あなたはここに居ていいんですか?」 というものであり、オプションとしてそんなお節介がついてきた。 オプションはな、ハイスピだけでいいんだよ。サドプラなんて意味わかんねぇからつける意味なんかねぇ… そんな意味不明の愚痴を心の中で呟きながら中井が、 「ここには仕事で来ているんで。あと、余計な詮索をしないで頂けますかねぇ。 ちょっと机を調べたら、お望みどおり白壁の前でつっ立っててやりますよ」 と返し、嫌な顔をした受付嬢が作り笑いを張り付けて応対に戻っていった。 中井は支店長の机の上のものをざっと見ていた。銀行の事はよく知らないが、秘密金庫の番号を知るのは 依頼主と支店長くらいのものではないか?と見当をつけていたのだ。さっきの受付嬢に 「奥田氏の秘密金庫の番号って?」と聞いても良かったかもしれないが、マスコミに対する情報統制 とやらを警察は取っているため、表向きはまだ、犯罪グループが何のために白壁を襲撃したのかは分からないし、 先刻の閃光と謎の爆音は誰がやらかしたかなんて知らない。それでいいんだ…と中井は独りごちた。
290 :
旅人 :2008/10/22(水) 22:38:19 ID:e3JTrxlU0
どこの事務所にも置いてあるような机。唯一変わっている所は自分の写真を写真立てに 入れている所だろうか。眼鏡をかけたインテリ風な男。ビジネスマンってルックスだ。支店長だろうか。 そんな支店長の机を中井は念入りに調べていた。 秘密金庫の番号、若しくはヒントなり何なりが隠されているはずだったからである。 机の上で山になっている書類。ボールペンなどを立てているペン立て。 しかし、それにはインクの切れた全く使えないボールペンが一本立ててあるだけだった。 机の上の物全てを念入りに調べ、何もなかったなと中井は思って机の引き出しを開けた。 中井は思わず口を開けていた。仕事場の机の引き出しの中身が、これってアリか? 何の変哲のないA4コピー紙が、引き出しの中で一枚寂しそうに丁寧に置かれていた。 そして、おまけですと言わんばかりHBの新品の鉛筆が一本、これもまた丁寧に置かれていた。 「これで何か?絵でも描けってか?」 そう呟いた中井は、紙と鉛筆を机の開いているスペースに置き、紙に鉛筆で乱暴に絵を描いた。 あのBPM400という気が狂ったといわんばかりの高速曲、DUE TOMORROWに出てくる棒人間である。 自転車を漕いで発電している棒人間にフキダシをつけて「締切明日!」と書いたその時だった。 その時、その瞬間、中井の手から伝わる感覚が僅かな違和感を脳に送りこんだ。 何か凸凹したような感覚が…?この感覚、どこかで……何時の頃だ?こんな事をやっていたのは……… 「そうか!支店長、前日のうちにこれを仕込んでおいたんだな!」 その頃、田中刑事は奥田邸から白壁前へと移動していた。 意味のない威圧の為に、そしていつ来るか分からない犯人逮捕の瞬間の為にである。 携帯電話から「探偵さんを白壁に寄越した。俺は銀行に行って秘密金庫の番号を聞いてくる」 といつの間にか入っていた中井からの留守番電話の記録を聞き、白壁の中にいるであろう小暮の心配も している彼の携帯電話が着信音を鳴らした。近くの警官にすまんと断りを入れてから携帯電話を見る。 小暮からの電話であった。あんな所で電話を鳴らす余裕なんてないはずなんだが…とりあえず出る。 「もしもし、小暮か?」 「はい。いま屋上から潜入して、スタッフルームを目指しています」 「さっきの閃光とsense2007の声ネタの爆音は、お前が?」 「えぇ。取り寄せたんですよ事務所から。小暮式探偵秘密道具をね」 「探偵が使うとは思えない代物だったな。で、どうした」 「二階の警備がきついんです。もしよろしければ、階段の方から引き離させてくれませんか」 「階段?あぁ、白壁にはエレベーターが無いんだってな。いつだったか忘れたが、聞いたことがある」 「奴ら、僕がどこから侵入したか見当をつけて、二階の階段の踊り場に集中しているんです。 少しでも人数を割かせる事が出来れば、一階に到達する事は出来ます」 つまり俺達警察に囮になってくれ、という事か…と心中で呟いた。 そんな田中に小暮が続ける。 「つまり、囮になって欲しいんですよ。あと、僕が銃や手榴弾を使ったとして、これって罪になります?」 「なるだろう。…勝手で悪いんだがな、絶対にお前が警察の差し金でやってきたと悟らせるな。 もしそれが発覚したら警察は大変な目を見るだろう。何で一般人を巻き込んだのかってな」
291 :
旅人 :2008/10/22(水) 23:00:02 ID:e3JTrxlU0
警察としての立場を述べた田中はさらに続けた。 「いや、お前の命なんてどうでもいいとかそういう事じゃない。 白壁内の武装勢力の武装解除。そして人質の解放。これが依頼… いや、正義感の強い探偵がこんな行動を起こしたって事にする。いったん逮捕して、 それから罪をかなり軽くしてすぐに釈放されるようにする」 「つまり僕は、人を殺さないように武器を使ってもいいって事なんですね?」 「まぁそうなるな。…殺さぬよう、殺されぬよう頑張ってくれ。勝手で悪いが、許してくれ」 全然オッケーですよ。そう小暮は返して電話を切った。 田中も電話を切って、白壁の方に向き直る。 白壁を見つめる田中の両眼に、少し涙が浮かんだような気がしたが、田中は白壁を占拠する 連中に聞こえないように指示を出した。 小暮が屋上に上がってからしばらくすると、町田はエントランスルームが、 つまりは南方が騒がしくなったのに気がついた。 町田が車の陰に隠れるまでにいた場所に駆け付けた敵は、無線機で何か連絡を取り合ったあとに 元の位置に戻っていったようだったが、その後の彼の行動の変化を知らない。迂闊に動けないのである。 車の下に潜り込んでいた町田は、小暮の事を心配した。…今、彼はどうしているのだろうか? 町田が小暮の事を心配していた頃、心配されていた小暮は二個目の閃光拳銃をカバンから取り出していた。 その後耳栓とサングラスを取り出して装着し、警察が動いてくれたおかげで、踊り場にいる敵の数が 3から2になったのを確認して閃光拳銃を使った。 クラッカーの音を聞いて、踊り場の二人の敵がバッと小暮の方を向いた。 その視線を感じた小暮はポイッと閃光拳銃を放り投げた。カシャッと閃光拳銃が床に落ちた音と共に 「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLD!!!!!!!!!!!!!!!!!」 とマイケルさんの声が白壁の内外を問わず響いた。その音の響きは白壁二階を晒す窓ガラスを 震わせる程である。爆音を超えた超爆音というべき爆音が踊り場の敵を気絶させ、 そしてあたりを真っ白にさせた閃光拳銃の効果が発動した一秒後に、小暮はダダッと階段を駆け降りた。 「カッコいいじゃないですか、小暮さん。もうまるっきりソ○ッド・ス○ークですよ」 一旦話が切れた所で松木は小暮にそう言った。いやぁ、僕はあんな活躍はできませんよと小暮。 そんなやり取りをしている中、優が言った。 「町田さん、さっきから良い所無いんじゃないんですか?いつから活躍するんですか?」
292 :
旅人 :2008/10/22(水) 23:02:39 ID:e3JTrxlU0
一瞬、険悪な空気の流れが生じた。が、それは町田の言葉でかき消えた。 「あ〜大丈夫。小暮君がスタッフルームに入ってからは私結構活躍したよ」 そう町田が言って、そして続けた。 「マイケルさんの『GOOOOOOOLD!!!!』が聞こえてから30秒位かなぁ… スタッフルーム前の見張りがドタッて倒れて、小暮君が出てきたの。 そのあと手招きされてスタッフルームに行って、倒れてる見張りを ロッカーに押し込んで外から鍵をかけて中から出られないようにしたのよ。 それから私が監視カメラをチェックして、小暮君のサポートに徹していたのよ」 町田が説明したその場面の出来事が繰り広げられていた頃、田中はまた電話を受けていた。 中井からの電話だった。携帯電話を耳に当て、会話が始まった。 「大変だ。○×銀行の支店長がこの事件のリーダーだった!」 「あ?寝ぼけたこと言ってんじゃねーぞ。それは本当なのか?」 「マジも大マジ、真実のみを喋っているぜ。奴の事務机を調べていたら A4の白い紙と鉛筆を一本見つけてな、それで俺は気がついたんだ。 …この白紙にはメッセージが残されているってな」 「で、それは何なんだよ。早く言え」 「インクのないボールペンを使えば、白紙に溝を作る事が出来るだろ? そしてそれを鉛筆で黒く塗りつぶせば、溝で書いたものが浮かび上がる遊び、覚えているか?」 「あぁ、その原理こそは知っているが、まさか」 「結構単純な隠し方だったな。まぁ手紙形式になっていてな。それを要約するとこんなところだ。 『自分がリーダーであり、奥田夫人の死は自分たちがやったのではなく第三者がやったのだろうと 考えていて、そして白壁襲撃を止めさせるべく自らが白壁に潜入している襲撃チームに説得するため 今日、白壁に入店する』だそうだぜ。つまりあの休憩スペースには支店長も紛れてるってことさ」 「なるほど、ねぇ…で、それは犯行グループは分かっているのか?」 「いや、分かってねぇと思うぞ。分かっているのなら支店長も一緒に縛るはずがないんだ。 仮にだ、犯行グループは屋上から侵入したんだから屋上で待機していたとしよう。 当然どこから侵入するかなんて支店長は分かっていたはずだから、待機場所に直行するはずだ。 だが、特別扱いされた人質がいないから、人質の中に支店長はいないと思うんだがねぇ……」 「俺達の目から隠しているのかも知れねぇな。とにかく、今のところは小暮探偵に任せる事しか 出来ねぇってわけだ。…一般人を巻き込んで、それで警察かって、笑えねぇノリツッコミでもしながら待とうや」 「田中、それ、ノリツッコミって言わねぇと思うんだけど」 「だがなぁ中井」 「どうした。ノリツッコミの件か」 「違ぇよ。その手紙…俺にはどうも、嘘半分織り交ぜたどこかの政治家の宣伝にしか聞こえなかった」 「同感だ。黙読してた俺もそんな場違いな事を思っていたよ」
293 :
旅人 :2008/10/22(水) 23:05:10 ID:e3JTrxlU0
中井が田中にそう言った頃、小暮と町田はスタッフルーム前の見張りを気絶させてから縛りあげ、 ロッカーに押し込んでから一息ついた。 スタッフルームには、店員の白で統一された制服が壁に掛けられていたり店員のロッカーがあったり、 白壁中に設置されてある監視カメラが映し出す映像を投影しているモニターや他にいろいろな物があった。 少々雑な場所だなと小暮は思ったがそこはぼやかないことにした。自分の事務所はもっと汚いからだ。 二人は店員のロッカーから武器になりそうな物を探した。結果、小暮は秘密探偵道具(とてもそうとは呼べないが) のままで、町田は彼女と親しくしていた女性店員の護身具であるスタンガンを手にした。 小暮は自分と町田の装備を確認した後、町田に閃光拳銃を二挺与えてから監視カメラのモニターを眺めた。 白壁に設置されている監視カメラの数は異常なほどある。総計50はあるとモニターを観察した小暮は考えた。 これを全部使えれば…と小暮は期待したが、武装勢力も馬鹿ではなかった。監視カメラの大半が使えないようになっていた。 壊されたか、ガムテープでも張られたのかは分からないが、とにかく使用不可の状態であった。 だが、それでも使えるカメラはあった。見つかりにくい場所にあったのか、手を出される事がなかったのだ。 それも運のいい事に、使える計7つのカメラは武装勢力の一人一人の動きを完全に捉える事が出来た。 これで奴らの巡回ルートが割り出せる、と考えた小暮は部屋の真ん中にある事務机を調べた。 引き出しを調べると、白壁の地図を見つけ出した。非常口がどこにあるとかが非常にわかりやすいように デザインされているものである。それに小暮は赤いボールペンで色々と書き込んでいく。途中、別の色のペンも使った。 そしてそれをカラーコピー機にかけ、複製した分を町田に手渡して小暮が言った。 「町田さん、一番難しいって思うIIDXの譜面は?」 「え?穴冥だと思うけど、それが?」 「ごめんなさい、言い忘れましたがDPの話です」 「ポンデステーン?あれは誰もクリアできないよねぇ」 「町田さんでも?」 「私でも。ってか私、DPは八段よ。無理よ。そう言えばアレ、クリア者出たの?」 「知りません。でもDP八段を持ってるなら監視カメラの映像を複数見るのなんて簡単でしょう」 「そうかな、次元が違うと思うんだけど…」 「僕は人質の解放と奴らの戦闘能力を奪うためにここに来ました。あ、誰にも口外しないでくださいね」 「別にいいよ。言っても得しないもの」 「この依頼では誰一人殺してはいけないんです。例えが何ですが、M○Sの非殺傷プレーをやるようなものです。 だから、奴らには見つかってはいけないんです。でも僕は、サバイバル経験もなけりゃ老衰したら寝たきりに なってしまうだろうし、禿になってもカツラを被る気はない人間です。サポートがなけりゃ見つかって……」 「見つかって?」 町田が小暮にそう聞いた。町田の問いに小暮は、少し間を開けて答えた。 「逃げ切れるか分からないし、最悪の場合殺されるかもしれません」
294 :
旅人 :2008/10/22(水) 23:10:00 ID:e3JTrxlU0
これで、投下終了宣言を出させて頂きます。 次回は長く間を置いて投下させて頂きます。それでは。 (今回、とまと氏に指摘された音ゲー要素の絡みの少なさを改善すべく 元々完成していたものを手直ししてみました。別ゲーの要素も入ってしまっていますが そこは見逃してください。兎に角、音ゲー要素は元のよりは増やしてみたつもりです。 ご感想やご意見、お待ちしております)
旅人氏乙 あの棒人間がセリフを言っていたなんて!
>>285 引き込まれますなあ。
真実が見えてくるような、こないような…
実は結構楽しみにしているんですよ。
続きにも期待。
>>294 そこまで謝る事でもないでしょう。
気にせず作成を続けてください。
ところで、旅人氏はどうも補足説明の入れ方が妙ですね。
括弧で括る部分が妙に長い上に、文章中に突然突っ込むからテンポが悪いです。
この辺りをもう少し工夫してみてはどうでしょうか。
私見を長く書いてしまいまして申し訳ありません。
続きも期待しております。
名前欄には書いていませんが、旅人です。
>>295 さん
あの場面、実はムービー中のニュートンの法則を発見しているニュートン棒人間を中井に書かせて
俺すげぇ事思いついた!とか喋らせても何でも良かったのですが、DUE TOMORROWって曲名なので
別のムービーのシーンから締切明日と言わせるのに自然なシーンを探して書きました。
だから何なんだってお思いになるでしょうが、そういう裏話があったんだって事です。それだけです。
>>296 さん
ご指摘ありがとうございます。自分でも何か変だなーと思っていたものが見つかりました。
次からの投下でそれを反映できるように頑張ります。
あと、前回の前書きの件ですが…自分が昔からのDDRファンであったなら
滅茶苦茶怒ると思うんですよ。恐怖の大王みたいな顔をして。
だから、深くお詫びしないと自分の気が済まなかったんです。
一つの存在が終わってしまえって書き込みをしたなら、それ相応の謝罪をしなきゃいけない。
謝罪にもならないのでしょうが、自分が出来る事は「物語を書いて、投下する」事しか出来ない。
だから、それをもってして謝罪しなければならない。独りよがりながらもそう思っています。
ダラダラとした長文を書いて、申し訳ないです。では、11月中にまた。
こんばんは〜
>>旅人さん
お疲れ様です。
俺の意見を取り入れてもらえたようでありがとうございます。
>>296 の指摘も真摯に受け止めているようですし、
やはり創作に携わる者としてそういう姿勢は肝心だと思います。
って偉そうに言ってるけど、俺も色々反省せんといかんのですけどね。
お互い頑張りましょう。
>>296 感想ありがとうございます。
楽しみにしていただけて光栄極まりないです。
今後ますます面白い展開をお届けできるよう頑張りますね。
では、トップランカー殺人事件の続きです。
「乙下さん、俺はね、一昨日の午前中はずっと AKIRA YAMAOKAコースのスコアアタックをしてたんです」 「AKIRA YAMAOKAコース……?」 乙下は1046の意図を手探りで拾おうとした。 「コース」と言えばEXPERTモードのことだろう。 何らかのコンセプトに沿って定められた五曲を連続でプレイし、スコアを競うモード。 コンポーザーの氏名を冠したコースとなれば、 当該人物の制作した楽曲が集められた ファン御用達のコースであろうことは想像に難くない。 そこまでは普段STANDARDモードを中心にプレイしている乙下にも察しがついたが、 はてどう1046のアリバイに関与するのか、その辺の意図を汲むことが出来ない。 乙下は考えても分からないことが早々に分かり 1046へ質問を浴びせる構えとなったのだが、 それよりも早く1046は外に停めてあったマウンテンバイクで帰路につく準備を始めている。 「それじゃ俺は帰ります」 「おいおいそりゃねーだろ。 AKIRA YAMAOKAコースがどうしたってんだよ、ちゃんと説明してくれよ」 「説明するまでもないです。 昨日一緒にいた物知りさんにでも聞いてみればいいんじゃないですか? あの人ならきっとすぐに気付くと思いますよ」 手押しされたマウンテンバイクのチェーンがカラカラと乾いた音を立てた。 その音は、空回りばかりが続く二人の空間へ一際大きく響くようだった。 「……1046さん」 「……何ですか」 マウンテンバイクに跨り、今まさに漕ぎだそうとしていた1046は、背中で返事をした。 「これまで俺に解けなかった事件は無い。ただの一つもだ」 「それは凄いですね」 「だから、今回の事件も必ず真相を暴く。犯人も逮捕してみせる」 1046は乙下の方を振り返り、唇の端を持ち上げた。 そして、 「期待してます」 とだけ言い残し、そのまま走り去った。 ABCの地上、真夏の太陽。 振り返った1046、疾走する自転車。 昨日の別れ際と同じシチュエーションだ。 ただ一つの違いは、1046が笑ったことだった。
反面、乙下の心情は笑いから遠くかけ離れたところにあった。 ナゾナゾの答えを明かすと思いきや、ヒントだけを残して去って行った1046。 それは事件の答えを求めてここへやって来たはずなのに、 答えどころかいくつかの手掛かりしか得られなかった 乙下の嘆かわしい現状を象徴しているようだった。 第一、ヒントや手掛かりとは名ばかりで、 実際には新たな混乱の種にしかなっていないところが始末に終えない。 「もう何が何だか分かんねぇな」 そんなことを吐き捨てながら、小さくなっていく1046の後ろ姿を見送っていると、 入れ違いに見覚えのある人物の姿が自転車に乗って近付いてきた。 颯爽と背筋を伸ばしマウンテンバイクで走る1046とは対照的に、 顔中汗だくの彼は曲がった背中でママチャリのペダルをひたむきに踏みしめている。 苦悶を浮かべた顔の輪郭がはっきりと見えてくるにつれて、 激しい息づかいも耳に入った。 動悸の音までもが聞こえてきそうな勢いだ。 キキキーッ、と不快なブレーキ音を軋ませて、 自転車は乙下の立つ地点の50cmほど手前で停止した。 同時に彼は、か細い手首に巻き付けた腕時計を覗き込む。 「ハァッ、5分、ハァッ、24秒、ハァッ」 「お疲れ空気。何往復した?」 「ハァッ、これで、ハァッ、四往復っす、ハァッ」 「何だよ、意外と少ねーな。 正確な実験に大切なのは母数の多さなんだぞ」 「ハァッ、オトゲ先輩、ハァッ、あんた鬼っす」 鬼のような形相で、空気はそう息巻くのだった。
乙下は空気をABC店内のベンチで休ませた。 自動販売機の缶ジュースを買い与えた途端、 空気は無我夢中になって喉へ流し込む。 500mlのコーラを選んだのはちょっとした悪戯心のつもりだったのだが、 そんなことに気を回す余裕さえも無いように 強い炭酸でただただ水分補給をする勇姿はある意味でさすがだ。 「で、結果は?」 「オトゲ先輩の予想通り、どうしても5分はかかるっすね」 「やっぱそうか……」 乙下は空気に、ABCからシルバーまで自転車で移動した場合の所要時間を 自分の体を使って調べてくるように頼んでおいたのだ。 「全速力で走ったんで間違いないっす。 一番信号の少ないルートを通ったし、隙があれば信号無視もしたし」 「声がでけーわ。頑張ってくれたのは分かったから もうちょっとこう、警察官らしい倫理観で喋ってくれよ……」 「ボクは警官である前に、オトゲ先輩の忠実な部下っすから!」 空気は鉄の匂いが混じっていそうなほど苦しげな呼吸で 肩が揺らしながらも、乙下に笑顔を向け続けながら言うのだった。 素直な忠誠心、しかも真夏の炎天下で全力疾走をすることさえ 厭わないほど素直で強い忠誠心だ。 感謝の気持ちが湧き上がる一方で、そのストレートな言い方はどこかむず痒く、 「うるせぇバカ」と思わず空気の頭を小突いてしまう。 あまり拳に力は入れなかった。 「オトゲ先輩、ゲンコツにいつものパワーが無いっすよ。 ちょっとお疲れなんじゃないですか?」 「そうだな、昨日から根詰めて考えずくしだからな」 「何か進展はあったんすか?」 「いや全然。 さっき1046と会って話したんだけど、余計に何が何だか分からなくなった」 ――だから、お前だけが頼りなんだ。
言いかけて乙下はやめた。 空気を調子に乗せたくなかったから、だけではない。 これまでずっと独力で叩き上げてきた乙下にとって、 仲間を頼る気持ちが自分の中で芽生えていることは新鮮であり、 同時に戸惑いを覚えさせるものだったからだ。 だが乙下はすぐに自分の気持ちに対して正直になった。 この事件はきっと一人では解けない。 俺の推理力とお前の知識が組み合わさって、初めて解ける……そう確信したのだ。 なんで今日はそんな風に考えてしまうのだろう、と 乙下は自分の思考ルーチンを顧みようとして、すぐに思い当たった。 つい先刻、1046から聞き出したBOLCEとの思い出話に端を発しているのだ。 君と僕、二人ならやれる。必ず。 BOLCEはそのように言った。 彼は一人じゃ出来ないことを知っていた。 彼は二人でなら出来ることを知っていた。 そして、二人はその言葉通りトップランカーになった。 もしそれが真実なら。 「だったら、きっと解ける」 「急にどうしたんすか」 「この事件、きっと解けるよな」 「当たり前じゃないですか! ボクとオトゲ先輩が力を合わせれば、解決出来るに決まってるっすよ」 「一緒にすんなバーカ」 照れ臭くて敢えて省略した部分を、空気はあっさり補ってしまった。 意外と気恥ずかしくはない。 兎にも角にも、分かるところから一つ一つ明らかにしていこう。 乙下は決意を新たに持った。 持つことが出来た。 まだ肩で息をしながらベンチでうなだれている空気の足下に ぽたぽたとしずくが垂れた。 空気の額から汗が垂れたのか、 冷えたコーラの缶から結露による水滴が垂れたのか、 はたまたその両方なのか。 乙下は空気の呼吸が整うのを待つ間、 彼の捨て身の実験結果に対する考察を重ねることにした。
やはりABCとシルバーの間を移動するには、自転車で5分かかることが判明した。 当然マウンテンバイクとママチャリ、 そして運動神経が良さそうな1046と運動音痴の空気という 歴然たる条件の差異があるにはある。 しかし大して問題にはならないと乙下は考えていた。 もしだだっ広い運動場でヨーイドンを合図に 1046と空気が競争すれば、100%空気が負けるだろう。 けれどここは仮にも県庁所在都市である盛岡の市街地、それなりに交通量はある。 1046と空気の条件の違いは、交通量の多い市街地というフィールドに限り 誤差の範囲内に留まると推測される。 A地点からB地点までの所要時間は、個体の身軽さよりも 信号の数や経路の狭さ、周囲の混雑具合に依存するからである。 いわゆる流体力学の原理だ。 つまり、捜査に前進は無しだ。 1046がABCからシルバーに行くのには5分かかる。 シルバーからABCに戻るのにも5分かかる。 乙下はこの仮定が覆ることを期待していたのに、 空気の実験によってむしろ盤石な事実として認識するはめになってしまったらしい。 乙下は頭を抱えたくなった。 今日はもう金曜日、 捜査に進展が無いままでは気持ち良く週末を迎えることが出来ないではないか。 せめて明日土曜日の内には何らかの手応えを掴みたかった。 締切りは明日。 "DUE TOMORROW"だ。 そんな思考過程を経て、乙下は気になっていたことを思い出した。 「おい空気、DUE TOMORROWのANOTHERってそんなに難しいのか?」
やにわに降ってきた質問の風向きが予想外だったのか、 空気は呆気に取られたような表情をした。 「そりゃ難しいっすけど……一応☆12ですし」 「お前クリア出来んの?」 「運ゲーっすね。 餡蜜使いまくってうまくハマればクリア出来ます」 「じゃ、1046が序盤でHARD落ちするってあり得るかな」 「考えにくいっすよ。 トップクラスの人が落ちるって言ったら、 せいぜい冥・嘆きクラスの超発狂譜面だけでしょう」 「本当に?絶対? 地球が逆回転しないのと同じレベルで間違いなくあり得ないと言い切れる?」 「いやそこまで言われるとちょっと自信ないっすけど。 譜面が譜面なんで、運悪くBADハマリとかしたら 死ぬこともないとは言い切れませんよ。 けど、うーん……考えにくいなぁ」 ちょっとだけ大人気ない言い回しをしてしまったようで変に後味が悪いが、 1046クラスがDUE TOMORROWでHARD落ちする可能性はほとんど無い、 というニュアンスは何となく伝わった。 「とすると、やはり1046は嘘をついているのかな」 「1046本人が言ったんすか? DUE TOMORROWで落ちたって?」 乙下は空気に7月16日12:00前後の1046の行動を説明した。 なるべく主観は交えず、ニュースのようなつもりで1046の供述を伝える。 空気の理解を助けるため、報告書へ殴り書いたメモを指し示しながら。 ・来店〜11:55 → 通常プレイ ・11:55〜12:00 → 疲れたので休憩 ・12:00〜12:02 → 休憩後で気が抜けたのか、DUE TOMORROWで一曲目HARD落ち ・12:03〜12:09 → FREEモードでDUE TOMORROWリベンジ ・12:09〜12:20 → 通常プレイ ・12:20〜12:35 → 昼メシ ・12:35〜12:37 → トイレ(監視カメラに映る) ・12:37〜退店 → 通常プレイ 乙下はこのタイムテーブルを再見し、あらためて隠し切れない不自然さを嗅ぎ取る。 それは空気も同感らしかった。 「これ変っすよ。 1046クラスがDUE TOMORROW程度で死ぬってのも変だし、 仮にリベンジするにしてもFREEを選ぶ理由が分からない」
「あれ、俺はてっきり一曲目から☆12を選ぶために FREEにしたもんだと思ったんだけど」 「いえ、オトゲ先輩は知らないかもですけど、 ボクみたいに十段以上で千回以上遊んだ人は 一曲目から☆12を選べるようになるんす」 「『ボクみたいに』は余計なんだよ、十段底辺のくせして」 「うわひでぇ、三段の初心者には言われたくないっすよ!」 確かに、一曲目に☆8までしか選ぶことができない乙下には 口を挟むことがおこがましかったようにも感じた。 そもそも、乙下は怖じ気づいて一曲目に☆7を選ぶことすら 事実上ままならないレベルなのだからなおさらだ。 「でもさ、1046が千回以上プレイしてるとは限らなくない?」 「限りますって。 デラが日課のトップランカーっすよ? もうTROOPERSが稼働して半年ちょい経つんですから、 一日五回ずつやってるだけで千回超えます」 「あ、それもそうだよな」 少なくとも、1046は7月16日の日中だけで20回以上プレイしている。 この日だけを取ってみても、千回を大きく上回るハイペースだ。 その記録を目の当たりにしていた乙下は、空気の反論をすんなりと受け入れた。 思い返せば昨日1046によるIIDXプレイを見学させてもらった時、 イーパスのエントリー画面で「皆伝」の段位や 11,000程度のDJポイントを目にした記憶はあったが、プレイ回数を見た覚えはなかった。 きっとプレイ回数は非表示設定にしていたのだろう。 例えトップランカーという立場にあっても、 さすがに四桁のプレイ回数を晒すのには抵抗があるのかも知れない。 「……もしくはリベンジに失敗してまた一曲目で落ちるのが怖かったから FREEを選んだ、って意味合いもあるにはあるっすけどね」 空気に示唆され、乙下は気が付いた。 言われてみれば、1046本人が『念には念を押してFREEモードで』と発言していたではないか。 だがその直前、1046は『そりゃ俺だって真剣にやれば簡単には落ちない』とも言っていた。 この二つの発言は矛盾ではないだろうか。 何にせよ、やはり1046がこのタイミングでFREEモードを選ぶ理由は希薄に思えた。 1046がDUE TOMORROWで落ちる可能性の稀少さ。 続いてFREEモードをわざわざ選択する不自然さ。 1046の供述を一見した乙下は、当初筋が通っている内容に感じたが、 こうして空気と重箱の隅をつつくように 一つ一つの項目を洗い直してみると、いかにもいかがわしい。 そういった観点で見直した時、 乙下はこの供述が「嘘っぽい」ことを導く新しい理由に行き着いた。
「空気お前、一昨日何してた?」 「なんすかいきなり」 空気は何を驚いているのか、乙下の質問に面食らっている。 「お前も一昨日はデラをやってただろ。 最初の一曲目に何を選んだ?二曲目は?三曲目は? 次のプレイは?昼メシは何食った?」 「ちょ、そんなのすぐに思い出せるわけないじゃないっすか。 曲リスト見ながらじっくり記憶を辿らないと……」 「だろ。人間の記憶なんてそんな大層なもんじゃない。 ましてや一昨日の記憶の掘り起こしなんて、濃霧の森を彷徨うが如し、だよ。 その点1046は凄いぞ。 矢継ぎ早に繰り出した俺の質問全部にスラスラと答えてくれた。 記憶力もランカークラスなのか、それとも……」 空気は唾を飲み込んだのか、喉仏を微かに上下させてから言った。 「……1046の発言ははなからでっち上げだった、ってことっすか!?」 「あくまで可能性の一つだ」 慎まし気に言っておきながら、乙下はこの着眼に光明を見出していた。 やはり1046は嘘をついている。 「出来過ぎなんだよ。 DUE TOMORROWだか何だか知らないけど、 そんな細かいことをいちいち覚えてることも出来過ぎだし、 元を正せば12:35にタイミング良く 監視カメラへ映り込んでいること自体も出来過ぎだ」 「そうなんすよ。 1046がアリバイを証明するにはこれ以上は無いっていう 最高のタイミングで映ってますよね。 しかも映っているのはその一回こっきりだし」 「だろ。まるで『僕は犯人じゃありません、僕はちゃんとここにいました』って これ見よがしに大声で叫んでるのと一緒だよ。 こんなアリバイ、いかに鉄壁だからって気味悪くて信頼できねぇ。 1046は何かを隠してる。嘘をついてる」 「……」 何を? 何を隠している? どんな? どんな嘘をついている? 空気がブツブツと反芻している。 新米なりに、懸命に推理を試みているようだ。 その様子を乙下は草葉の陰からのつもりで、横目で見守っていた。 やがて空気は何かに思い至ったのか、乙下を一瞥してから話しかけて来た。
「仮に1046が犯人だとして、ですよ。 単純に言えば1046は、『ABCでデラをプレイしていた』というアリバイを保持しつつ 『シルバーで犯行を起こした』ことになるっす。 そこでどんなトリックを使ってあの鉄壁のアリバイを築いたのかは分かりません。 ただ……」 「ただ?」 「なんかおかしいですよね。 オトゲ先輩も気にしてたように、1046の12:00前後のイーパス履歴は不自然過ぎます。 もしこれが無ければDUE TOMORROWだとかFREEモードでリベンジだとか、 そんな嘘をつく必要は無いっすよね」 「だな」 乙下は今一度空気の報告書にある1046のイーパス使用履歴のページを開き、 議論の焦点になっている部分だけ赤ペンで囲んだ。 すなわち、 START = 11:43, END = 11:55; START = 12:00, END = 12:02; START = 12:03, END = 12:09; START = 12:09, END = 12:20; START = 12:37, END = 12:48; の部分だ。 「例えば、もしこれが『11:56〜12:08』『12:09〜12:20』とかだったら 不自然な点は随分減るっすよね。 1046からすれば、オトゲ先輩にツッコまれて面倒な思いをすることも無かったはずです。 アリバイをきちんと作り上げるつもりなら、 もっと自然なタイムテーブルにすべきだったんじゃないすか?」 乙下は顎に手を当てて空気の思索を噛み砕いた。 そこからリードされた推理を、慎重に口にする。 「……もしくは……『そうせざるを得なかった』」 「……どういうことっすか?」 「1046が犯行を起こすのに何らかのアリバイトリックを使ったとして。 この奇妙なタイムテーブルは、トリックを成立させるために必要不可欠だった……?」 そう。 1046が犯人だと仮定して、BOLCEの死亡推定時刻前後という 大切な時間の行動に不自然さを残す代償を支払うだけの理由があるとすれば、 それはアリバイ確保のためという理由に他ならないのではないか。 「じゃぁ、逆にこのタイムテーブルの意味を解き明かすことが出来れば、 1046のアリバイを崩すきっかけになるってことっすよね!」 宇宙の真理に気付いたとでもいうような張り切り方で声高に叫んだ空気は、 過度に報告書へ顔を近付けて 乙下が赤ペンで囲んだ部分を食い入るように見つめ始めた。 顔を近付けたところで、文字の焦点はぼやけるばかりで かえって何も見えなくなることは言うまでもないことだ。 だが乙下は、そんな空気を差し止めるのは野暮な気がした。 推理に推理を重ねた挙げ句、 袋小路に迷い込みかけている自分を否定することに繋がるからだろうか。 這いずり回りながらも、ようやく一歩前進出来たかも知れない この感触を肯定することに繋がるからだろうか。
空気は手にしたコーラの缶を口に当て、ほぼ逆さまにひっくり返した。 最後の一口だったのだろう。 いつの間にかコーラの結露も空気の汗も、すっかり引いていた。 「もう大丈夫そうだな」 「はい?」 「この暑い中、頑張ってチャリを走らせたご褒美だ。 勤務中だが、特別に一回だけデラをプレイすることを許可する」 「マ、マジっすか? ホントにいいんすか?」 空気は大っぴらに目を輝かせた。 お前そこは遠慮するとこだろ、と腹を立てたくもなったが、乙下は堪える。 「ただし選曲は俺が決める。 AKIRA YAMAOKAコースだ。 AKIRA YAMAOKAコースをやれ」 「なにゆえ」 「いいからやるんだよ。 これは業務命令だ。一切の手抜きを禁じる。 分かったんならさっさと始めろバカ」 脳天気に喜び勇んでイーパスと100円玉の準備を始める空気の後ろで、 乙下は1046の解せない主張を思い返していた。 「俺には共犯者がいないことを100%証明出来る」。 そんなことが本当に可能なのだろうか。 寄せては返す波のごとく、次々に乙下の頭脳を翻弄する疑問符達。 彼らを払い落としてしましたい衝動を説き伏せ、 乙下は空気のプレイに集中すべく腕を組んだ。 AKIRA YAMAOKAコースの全容をまずはこの目で確かめるのだ、と。 筐体へコインが投入されたことを示す人工的な効果音が、ABCの片隅で鳴った。 to be continued! ⇒
今週はここまで。 余談ですが、世の中には「バカミス」というジャンルがあります。 つまりは「バカなミステリ」の意味なんですが、 このトプラン殺人事件は紛れもなくバカミスに分類されるでしょう。 現実の刑事がゲームを使ったアリバイだとかトリックだとかに対して 真剣に推理するなんてこと絶対にあり得ませんからw もちろん、バカミスであることは作品のいい加減さをほのめかす言葉ではありません。 作者の俺も乙下刑事も真剣そのものです。 ただ、そんなバカなことになぜここまで真剣になっているんだという 現実とのギャップを一歩引いた視点から楽しんでいただければ光栄です。 では、また来週。
310 :
爆音で名前が聞こえません :2008/10/31(金) 12:04:36 ID:8WWthVlnO
乙です! バカミスって初めてしったなw 頑張ってください
毎週こっそり推理してある程度筋を通してみたけど全く自信も確証も持てない… どうなるんだこれ
バカミスではあるけれども、話の流れと骨組みがしっかりしてるからねえ。 これは結末が楽しみ。
こんばんは。
>>310 応援ありがとうございます。
当初はバカミスのつもりでは無かったんですが、
気付いたら完全にバカな内容になってしまってました。これはひどい。
>>311 そんなに丹念に推理してくれてた人がいるだなんて、感激です。
その推理をすごく聞いてみたいけど、
もし当たってたら他の皆さんにバレてしまうなぁw
>>312 ありがとうございます。
流れと骨組みはとても大切にしている部分なので、
そこを認めてもらえるのは大変光栄です。
一応期待して損のない結末を用意したいと思ってますんで、
今後もご愛読いただければと思います。
それでは、続きです。
空気がEXPERTモードを選択すると、見慣れないグラフィックがモニタへ広がった。 画面中央には大きく「INTERNET RANKING」と表示されており、 画面右側には一回り小さいサイズで 「INTERNET RANKING beat#1」 「INTERNET RANKING beat#2」 「INTERNET RANKING beat#3」と上から段になって並んでいる。 その下には、丸みを帯びたフォントで「BATTALION」「MILITARY SPLASH」と続く。 どうやらこれはコースの選択画面であり、フォルダの構造になっているらしい。 基本的なインターフェースはSTANDARDモードと酷似しているのだな、と 当たり前と言えば当たり前のことに乙下は感心し、納得をする。 空気は迷い無くbeat#2のフォルダを開き、 その中から「DISCHARGE」と名付けられたコースに合わせてターンテーブルを回した。 続いてVEFXボタンを二回押してANOTHER譜面に変えると、 STARTボタンを押しながらオプションの調整を始めている。 その姿を見た乙下は、うっかり口出ししてしまった。 「それ、AKIRA YAMAOKAコースじゃなくね?」 「これで合ってるんすよ。 AKIRA YAMAOKAコースはDISCHAGEの裏コースですから」 「裏コース?」 空気は意味深にニヤリと口元を歪めたかと思うと、 わざとらしい緩慢な動作でエフェクトボタンを押してみせた。 エフェクタがONになり、筐体から発せられるBGMの音量に厚みが増す。 ところが、モニタではそれよりも顕著な変化が起こっていた。 空気がボタンを押すと同時に、 画面中央の黄緑色をした「DISCHARGE」のコース名が 赤色をした「ANOTHER」の七文字へと姿を変えたのだ。 空気がエフェクトボタンから指を離すと、DISCHARGEに戻る。 再びエフェクトボタンを押すと、ANOTHERに変わる。 空気はその動作を当てつけがましく何度か繰り返した。 「これが裏コースっす。 一つ一つのコースには裏コースが用意されてるんすよ」 言い終わらない内に、空気はもう片方の手で白鍵盤を押してコースを決定した。 画面が切り替わり、乙下のよく見慣れた オブジェレーンやグルーブゲージが映し出される。 中央には「テクノチョップ」なる明らかに造語と分かるジャンル名に続き、 「昭和企業戦士荒山課長」のタイトルと「AKIRA YAMAOKA」の名義が登場した。 乙下はその名前を見て、空気が間違っていなかったことを知る。 空気は大袈裟に肩を回したり手首をブラブラさせて 気合いの入りようを乙下にアピールしていたが、 「READY!」のレイヤーが消える寸前で いつもの開脚猫背フォームを構え、臨戦態勢を整えた。 「さぁオトゲ先輩、ボクの本気を見てて下さいよ!」 乙下は心の中で「断る」と返事をし、 なるべく空気の醜態が目に入らないよう気をつけながら画面を注視した。
一曲目の「昭和企業戦士荒山課長」に続き、 二曲目「ライオン好き」、三曲目「システムロマンス」、 四曲目「マチ子の唄」の順番でコースは淡々と消化されていく。 いつもと違うのは曲の合間に選曲画面が挟まれないことと、 モニタ下部の16セグメントLEDに曲名だけでなくコース名が表示されること。 他はと言えば、時折空気がコンボを切っては 「あぁ」だとか「うぅ」だとか呻いたり、 リザルト画面で「ぉおっしぃー、鳥マイナス4!」などと どうでもいい独り言を垂れ流している、くらいか。 つまり、とりわけ乙下が気付くことは何も無かった。 これ以上見ていても手掛かりは得られないだろう、と直感した乙下は 最終ステージ「ヨシダさん」のテロップが表示されたところで、 IIDX筐体に取り付けられたカーテンを勢いよく閉めた。 図らずもSUD+のカーテンを調整していた空気は 「ちょ、見ててくれるんじゃなかったんすかーっ」 と取り乱した。 顔も姿勢も見えなくなった分だけ、 声に乗せられた空気の感情が剥き出しになって聞こえるように感じる。 それがあからさまに残念そうな声だったので、 どれだけ自分のプレイを見せつけたいのだ、と乙下は空気の痛々しさを憂う。 「心配すんな、『聞いてて』やるから」 ヨシーダサーン。 乙下の声は「ヨシダさん」のひずんだ歌声と 空気の叩く乾いた打鍵音に掻き消された。 乙下は180度体の向きを変え、ABCの事務室へ真っ直ぐ向かった。 「失礼」 ドアの無い狭い事務室の前に立ち、 首を傾けて遠慮がちに部屋の中を覗く。 先ほどの快活な店員は椅子に座って帳簿と睨めっこしていたが、 すぐに乙下に気付いて顔をほころばせた。 「どうしたんですか? まだ聞きたいことありました?」 半分冗談のつもりなのだろう、彼は乙下と同じくらい首を傾けておどけた。 「ん、仕事中に邪魔しちゃってすまないね。 一つ教えてほしいんだけど」 「いいですよ」 乙下は手招きをして店員をIIDX筐体の見える場所まで連れ出した。 「ヨシダさん」と空気の打鍵音が十分に聞こえる地点まで やって来たところで、質問を投げかける。 「今IIDXをプレイしてる人。 さっきの人と比べてどう?上手い?下手?」
店員は一呼吸だけ目を閉じて考える素振りをし、それから返事した。 「決して下手ではないです。 いやむしろ、一般的に見ればそこそこ上手い方ですね。 でも、さっきの人と比べるとなると…… 申し訳ないですけど、お話にならないです」 「そうなの?」 「曲のリズムに対する鍵盤のタイミングを聞いてると、 さっきの人よりも揺らぎが大き過ぎる。 きっとスコアじゃ全然勝てないでしょうね。 あと、和音になればなるほど打鍵の力加減にムラが生じます。 これは自在な指使いが出来てない証拠なんです。 あ、でもさっきの人がやたら上手過ぎただけですんで、 私がこんなこと言ったからって自信を無くすことはないですよ」 本人を前にしているわけでもないのに、 店員は辛口の批評に対するフォローをしてみせた。 その謙虚な姿勢とは裏腹に、彼の神懸かり的な耳はやはり本物だった。 彼は1046と空気の実力差を、 音だけを頼りにしていとも簡単に看破してしまったのだ。 「忌憚の無い意見をどうもありがとう。 アンタ、やっぱりサリエリだね」 乙下が店員へ一言礼を告げて彼を解放すると同時に、 AKIRA YAMAOKAコースは幕を閉じたようだった。 カーテンを開けた空気は、乙下を見つけるなり頬を膨らませる。 「ひどいっすよ、自分で山岡コースやれって命令したくせに見ないなんて」 「悪い悪い。でもちゃんと聞いてたよ。 良かったな、お前一般的に見ればそこそこ上手いらしいよ」 「そ、そうすか?」 「でも1046と比べるとお話にならないらしいよ」 「そんなこと分かり切ってること わざわざ言わなくたっていいじゃないっすか」 ムッとした様子の空気の向こう側で、 IIDXのモニタが「今回のスコアを登録しますか?」と質問している。 空気は無造作に複数の鍵盤をガチャガチャと叩き、「はい」を選択した。 すると画面が切り替わり、バンダナ男のイラストをバックに 「あなたの順位:150位 コース登録者数:593人」 といった内容のプレイ結果が表示された。 天才1046の順位はいくつだったのだろう。 乙下は、何とはなしにそう思った。
ABCを後にした二人は、 盛岡駅前を南北に貫くアーケード街を北へ向かって歩いていた。 「そっか、だからオトゲ先輩はボクに山岡コースをやれだなんて言ったんすね」 煩わしそうに自転車を手押しする空気の額には、再び汗が滲み始めている。 その様子は氷解した疑問が頭の外へ流れ出るようでもあった。 「あぁ。お前にばっか頼るのも情けない気がして まずは自分で考えてみたんだけど…… どうしてAKIRA YAMAOKAコースをプレイしたことがアリバイになるのか、 俺にはちっとも分かんねぇわ」 「オトゲ先輩らしいなぁ。 最初からボクに聞いてくれれば良かったのに」 「じゃぁお前には分かるのかよ」 ここ数日の間、部下に知恵を借り続けている乙下は 自尊心の保守のことなどすぐに忘れて期待に身を寄せた。 それだけ事件解決を為し遂げるのに必死だった。 「分かるような分かんないような……」 空気ははっきりしない。 乙下は気が急いてしまう。 「お前まで勿体ぶる気かよバカ。 1046みたいでウザったいからやめろ」 「すんません、そういうつもりじゃないんすよ」 「じゃぁどういうつもり」 「ちょっと考える時間下さい。確かめたいことがあるんす」 そう言ったきり、空気は上の空になって何事かを考え込み始めてしまった。 仕方がない、空気には空気の道筋があるのだろう。 乙下はどうにか気持ちを静めて、 別の方向から事件へアプローチすることにした。 問題は、共犯者がいるかいないか。 そこが一つの焦点だった。
鉄壁のアリバイに唯一穴を開ける手段は、共犯者の存在を考慮に入れることなのだ。 しかし、1046の主張を持ち出すまでもなく 最初から乙下は共犯者の存在に対して懐疑的であった。 それはABCの店員との出会いにより、より確かな感触となった。 何故乙下は共犯者がいないと考えているのか。 とっかかりは、「共犯者を持つことのリスク」が大きいからだった。 もし共犯者が口を割ったら? もし共犯者がヘマをしたら? 自分の人生がかかった一大事に、そんな不確定要素を持ち込みたくはないだろう。 だが、それだけではない。 捜査を進める内に乙下は、共犯者が存在する線を否定する他の理由も得ていた。 決められた時間に決められた場所でIIDXをプレイする、 共犯者の役割がただそれだけであれば、話は簡単だ。 金で適当な人材を雇えば実現する。 しかし、現実はより複雑だ。 共犯者は1046の身代わりとしてIIDXをプレイするだけでなく、 ABCとシルバーの間をあくせくと往復したり BOLCEの死体を吊る手助けまでをもしなければならない。 つまり、殺人事件の片棒を担がせることはどうしたって隠せないのだ。 高額の金で雇われたとしても、二つ返事で承諾できるような仕事ではない。 となると、1046と共犯者を繋ぐ利害は金ではない。 考えられるケースは二つある。 一つは、共犯者もBOLCEを殺したがっているケース。 もう一つは、共犯者が1046へ弱みを握られているケース。 だがそんな人物が都合良くいるのだろうか。 考えにくい。
理由はまだある。 大前提として、「共犯者はIIDXの上級者」という縛りが 必要となることに気付いたのがポイントだった。 共犯者は1046の身代わりとしてIIDXをプレイする必要があるが、 カーテンに隠れてプレイするとは言え 下手な演奏をすれば音で「1046ではない」ことがバレてしまう。 最低限、曲が自然に聞こえるようプレイ出来るだけの腕前が 共犯者には要求されるのだ。 IIDXの上級者は全人口の何%だろう。 そんなこと乙下には知る由もないが、その線で捜査すれば 飛躍的に共犯者の足がつきやすくなることだけは確かだった。 ここで、ABC店員の証言が活きてくる。 彼は少なくとも空気と1046の実力差を完璧に区別出来るだけの耳を持っていた。 その耳が断言するのだ。 「7月16日にABCでプレイしていた人物は、1046クラスの実力者である」と。 となれば、共犯者はIIDXの上級者などという甘い話ではなくなる。 共犯者はランカークラスの超上級者だ。 ますます共犯者たる資格を持つ人間は絞り込まれてしまうだろう。 以上から導かれる推理はただ一つ。 共犯者など最初から存在していない。 これは1046単独による犯行、乙下はそう結論づけたかった。 すると、話が元に戻ってしまうのがもどかしい。 共犯者がいないのであれば、 1046はどんなトリックを使ってあの鉄壁のアリバイを築いたのか。 それが乙下にはどうしても解けないでいた。 ともすれば、そもそも……。 乙下の中で疑念に対する疑念がむくむくと顔をもたげた。 焦燥にかられた乙下の脇の下を、ひどく冷たい汗が伝い落ちる。 乙下は枯れそうな喉をやっとのことで震わせて、 にわかには認めがたいその可能性を言葉にした。 「……やはり1046は、シロだというのか……?」 to be continued! ⇒
今週はここまでです。 慎重に読んで下さっている人なら気付いたかも知れませんが、 今回はかなり核心的なヒントを出しました。 漠然とでも「あ、もしかして○○ってこと?」という 見当がつけられた人が出て来ることと思います。 それを承知の上で、敢えて 「この事件の真相を暴くのは一筋縄ではいかない」と自負させてもらいます。 もし良ければ、ぜひ楽しんでこのとまとからの挑戦状と渡り合ってみて下さい。 それではまた来週。
>>311 ですがその挑戦受けましょう
そしておそらく大筋トリックは解けました
…と言ってもここで口外する事は出来ないので本当に解けたかどうかは信じなくても結構ですがもしこの推理が合ってるなら第2話が大きなヒントでした
>>321 挑戦者キタ!!!
しかしそこまで言われると、どんな推理なのかえらい気になりますね…。
メアドを晒すので、暇な時にでも分かったことを教えてくれませんか?
もし正解であればささやかな賞品を用意しますよw
>>322 次回の投稿までには間に合う様に推敲してメールします
あまり期待せずに待っていて下さい
>>320 乙!
段々と真相への道が見えてきましたな。
これは続きに期待せざるを得ない。
スレを一通り読んだけど、結構作者によって作品の違いがはっきり出ているのが面白いな。
旅人氏はちと文章に稚拙さが残るものの、様々なジャンルを書いているし。
最近はアドベンチャー的展開なものが中心みたいだけど。
2-387氏はブーン中心だけど題材が深かったり、考えさせられる内容が多いね。
上のほうでbeatmakerがどうとかあったけど、確かにあの展開は良い意味で卑怯だw
とまと氏はしっかりとした作りの推理小説で、普通に面白い。
音ゲーを絡めるという前提条件での、ある種の軽っぽさを感じさせないからなあ。
ここの作者のうち、数名は他所でも文章を書いていると見た。
それっぽいダラダラとした感想スマン。
しかし、ここは本当に作者の数が少ないのが悔やまれるなあ…
DDRとかのやる夫系を書いている作者も、何か別の形でここに来てくれれば活性化しそうなんだが。
325 :
旅人 :2008/11/08(土) 00:16:08 ID:oLt5FyAE0
>>とまと氏
この話、一体どうなるんでしょうか?
「これか?こんなトリックなのか?」と謎解きを頑張ってみましたが、無理でした…
これはもう、最後の種明かしに縋るしかねぇと思いました。乙下刑事と空気さん、頑張って謎を解いてくれ!
>>324 さん
ありがとうございます。僕にとって、そういう感想を頂けるのはありがたい事です。
文章の稚拙さは、学校の国語の成績を振り返ってみると、仕方が無いのかなと思う部分がありました。後悔しています。
自分でもある程度の勉強は出来ると思いますので、これから少しずつ頑張っていこうと思います。
そうそう、作者の数が少ないのも寂しいんですよね…誰かが気楽に書いてくれるだけで、活性化しそうなんですけどね。
今晩は、旅人です。数日前、個人的に嬉しい事が起こりました。
あの品薄で有名なCS版DDR EXTREMEを買う事が出来ました。イェー。
有名な歴代のボス曲や有名なあの曲が収録されていて、総曲数110曲以上ですって奥様。スゲスゲヴォー。
VやAとかstoicで踊れるのもスゲスゲヴォーな感じです。
今回のこの久々にふざけた前書きは、終わりです。
この前書き、書いてて楽しかったです。見て面白いかは別としてですが…それでは本編をどうぞ。
(今更ながら
>>276 さん、ありがとうございました。暇のある時に見て、勉強させてもらっています)
326 :
旅人 :2008/11/08(土) 00:18:46 ID:oLt5FyAE0
町田の表情が変わった。まるで、自分が殺されてしまったかのように顔を青白くさせている。 徐々にこみあげてくる恐怖からか、体が震え始めた。少しして町田の震える唇が開いた。 「で、私は何をすればいいの?」 「簡単です。監視カメラのモニターのチェックをお願いします。 というかさっき言ったじゃないですか。しっかりして下さい」 お願いはされた記憶がないんだけど…という言葉を飲み込んで、 小暮から渡されたカラーコピー印刷の白壁の地図を手に取りながら質問する。 「もう小暮君が巡回ルートを割り出して、この地図に書き入れちゃっているじゃない。 だから、私がやる事はないんじゃない?」 「そんな事はないですよ。奴らが巡回ルートからズレた行動を見せたら… あぁ、お互い携帯電話を通話状態にしておきましょう。それで連絡をください。 あと、分かっているとは思いますが……音量は最低レベルで。話すときはひそひそ声で」 白壁前で待機していた田中は、再び小暮からの連絡を受けた。 田中の携帯電話が知らせたのは、電話ではなくメールだったという事だった。田中はそれを閲覧した。 「これから、人質が監禁されている 休憩スペースまで行こうと思いま す。 お仲間の方々には僕の姿を見たと しても何一つ反応しないで下さい とお願いします。敵を見張る人が 何らかの反応を示したら、僕が見 つかってしまいます。 絶対に隠密行動を取らなければな ら無いので、そのように伝えてく ださい。すでに侵入者(僕の事で す)の存在は発覚していますが…」 誰からだよ、といつの間にか隣にいた中井が田中に声をかけた。 お前か、と返してから探偵からだよと田中が答える。 そうかと中井は返し、それから白壁を見上げる。 ……またしても、彼の手を借りなければならなくなったのか。 二人の刑事の顔に申し訳ない気持ちが現れ、そして、それは刑事の顔に戻っていった。
327 :
旅人 :2008/11/08(土) 00:21:02 ID:oLt5FyAE0
カチャ、と音をたてないようにドアを開け、小暮はスタッフルームを出た。 彼の後姿に、町田が小声で「頑張って」と声援を送った。 小暮が振り向かずに町田に親指を立てて、それから素早く音をたてないようにドアを閉めた。 取るべきルートとして考えられるのは、小暮の中で二通りあった。 一つ目が、現在地のランドからエントランスルームに行き、そこから 休憩スペースに侵入する方法。 二つ目がランド東側にある階段(屋上から侵入した時に使った階段。一階、二階、屋上を繋いでいる) を登って二階に行き、そこから休憩スペースに侵入する。 先に武装勢力の無力化を図るか、それとも人質の解放を優先させるかを小暮は考えた。 休憩スペースには数人の敵がいるのは侵入前に視認したので、そこの敵を無力化するために 行こうと考え、小暮は休憩スペースに侵入するためのルートを考えていたのだ。 結局、小暮は二つ目のルートを取る事にした。そして、こんな状況だというのに 音を立てるゲーム機の成す一種のジャングルに足を踏み入れ始めた。 侵入者(小暮の事だ)がいるのは知られているから、警戒の為に巡回する敵二人が もう一段階キツいレベルの警戒態勢を敷いていた。小暮が最後にどこに行ったかは 発覚されていないので、白壁全体に散らばるようにして敵が配置されている。 それが、小暮に町田が危険な目にあう心配を与えなかった。 (余談だが、ロッカーに閉じ込めておいた敵には、後で睡眠薬をたっぷり浸透させたハンカチを 鼻に押し当てておいたので、目が覚めるのは夕方あたりだろうと小暮は考えていた) 普通、ゲーセンというのはうるさい所である。まず、自分の足音は聞こえないだろう。 人と話すのも大声でないと伝わらない。まぁ夜中に暴走族とかがパラリラやっているよりはマシだが。 だから、小暮は事前に熟読した巡回ルート予測地図で見当をつけたランドの警戒をしている 二人の敵の目を欺くのは簡単だと考えた。足音は聞こえないはずだし、ゲーム機で音を立てて 敵の注意を引く事が出来れば階段までたどり着くのは容易である。 小暮はトイレ側に一番近いゲーム機がある所まで移動した。 そのゲームとはIIDXであった。百円を投入し、ズキューンとコイン投入音をたてさせた。 それからイーパスを1P側のスロットに差し込み、適当にテンキーを押す。 突然、周囲の音に変化が現れた事に気づいた一人の敵が、何だ?と独り言を言ってからIIDXの筐体へ近づいた。 小暮は気配を感じ取って敵との距離を測り、2P側に移動してランドの階段の方へしゃがみながら走った。 小暮が走っていると、大きめなコインゲームの近くを巡回している敵の姿が小暮の視界に入った。 小暮から見て、敵は左を向いていた。長方形コインゲーム筐体…ルーレットゲームを囲むように 設置されている椅子を一つ、わざとガタンと倒して小暮はルーレットゲームの筐体の周りをしゃがみ走りした。 敵が驚いた様子で後ろを振り返り、音の正体を探るために音の発信源に近づいた。 その後ろから小暮が睡眠ハンカチを敵の顔に押し当て、素顔を隠すマスク越しに睡眠薬を吸引させた。 ハンカチを顔に押し当てられた敵は、体から力を失ってドサッと倒れこんだ。 それを確認した小暮は、素早く袋からロープを取り出し、手首と足首を固定して周りから見えなさそうな 場所に引きずり、IIDX筐体の警戒を解いた敵にも、小暮は同じような手段を用いて自由を封じた。 こうして、ランド内の敵の排除は完了した。(とはいっても睡眠的な意味で眠らせただけだが) 突撃銃や手榴弾、拳銃を奪ってそれらを見つからないような場所に隠して、小暮は周囲を警戒しながらランド東側の階段へと歩を進めた。
328 :
旅人 :2008/11/08(土) 00:22:53 ID:oLt5FyAE0
小暮は階段で二階へあがり、踊り場の壁に張り付いて二階の敵の様子をうかがった。 ランドの上のギャラリースペースに(町田はそう呼んでいる。以下、そのように記載する) 休憩スペースとギャラリースペースを巡回する敵が一人いる事に気がついた。 小暮の携帯電話から少し漏れてきた町田の声が、小暮に緊張をもたらす。 「ヤバいよ。二階の休憩スペースとギャラリースペースを巡回している敵が ランドの巡回の姿が見えないのに気がついたよ。階段の方に向かってきている…」 カツ、カツと足音が聞こえるのはそれか。今まさにピンチと言った状況じゃないか。 小暮は頭を回転させ、突破口を考えていく。一つ目のプランを考え、切り捨てる。 二つ目も切り捨てる。三つ目のプランを考えついて、これしかないと小暮は考えた。 袋の中から直径三センチくらいの円盤を取り出し、それのスイッチをオンにして 小暮は壁に張り付きながら地面にスライドさせるようにして投げた。 敵がそれに注目すると、直後にうめき声が聞こえた。 またしても小暮はここで問いを投げかけてきた。 この円盤は一体何でしょうか?と。さっぱり分からん。 そう松木は思った。そんな小さい円盤に何を細工するって言うんだ? エロ本でもおいて注意を引くというのならば分かるが、小さい円盤…? そう松木が悩んでいると、優が口を開いた。 「あの…」 「優ちゃん、分かったかい?」 「もしかしたらそれ、煙玉の類のものですか?」 小暮は近いなぁ、本当に近いよと答えた。 その時、松木は閃いた。身を乗り出して答えを言う。 「発光したんだ!」 「発光したんだろ!」 坂井も同じ事を考えたらしく、松木と坂井は思わぬところでハモった。 小暮はニヤニヤしながら言う。 「正解。流石、名前が同じなだけはありますね」 そして、小暮は話を続けていった。
329 :
旅人 :2008/11/08(土) 00:25:46 ID:oLt5FyAE0
ピカッと光が走った。敵はその光をまともに両眼に受けて呻いた。 その一瞬の隙を小暮はついて、ダッと駆け寄って押し倒し、例のハンカチを 顔に押し付け、敵を眠らせた。 小暮の探偵道具「閃光円盤」は本来暗い所を照らすために作ったものだった。 そう、閃光円盤は懐中電灯のように使うものであったのだが、懐中電灯より強い光を放つために 小暮はこれを武器として使ったのだった。 敵が眠ったのを確認した後、小暮はすぐに円盤のスイッチを切り、敵を引きずって階段の隅に置いた。 巡回ルートを予測した地図によれば、そこは誰も見に来る事がない場所だった。 そして敵を縛り、小暮はずっと町田の携帯電話と通話状態にしておいた自分の携帯電話を取り出して町田と通話を始めた。 「町田さん?」 「何、どうしたの?やられたの?大丈夫?」 「大丈夫です、無事です。さっきの奴はハンカチで眠らせました。 ちょっと気になる事を思いだしたので、刑事さんに連絡を取りたいのですが…」 「分かった。じゃあ私が切るね。じゃ、次は小暮君が私に電話してね。それじゃ、頑張って」 町田はそう言って通話を切った。小暮は通話が切れたことを確認してから、田中に電話をかけた。 すぐに田中は電話に出て、小暮と話をし始めた。 自分の携帯電話が着メロを流している事に気がついた田中は 小暮から電話がかかってきている事を知った。一体何だ?と思いながら電話に出る。 「刑事さん、犯行グループから何か追加の要求はありましたか?」 小暮はそんな事を聞いてきた。田中はその問いに直ぐに答えた。 「いや…ないが?」 「何かおかしいんですよ…最初は犯行グループ、奥田氏の秘密金庫から金を持ちだすように要求していたんですよね? それで、僕の作戦で中井刑事には○×銀行に行ってもらって、支店長に会って番号を聞き出してほしいって 頼んだんですよ。でも、スタッフルームに居た時に彼から送られたメールには、支店長は彼らとグルで、 でも彼らを止めに行くために白壁に行って、恐らくは人質にされているらしいんです。でも、そうだとしたらですよ。 支店長が番号を知っているんだから、『警察に金を持ってこさせて自分たちに渡すように要求』すればいいんです。 でも、奴らはそうはしていない。 何が言いたいか分かりますか?」 「つまり、『支店長は白壁にいるが、犯行グループに見つかっていない』って事か?」 「そうです。話が変わるかもですが『早く金庫を開けて金を寄越さないと、人質を一定時間の間隔をあけて殺す』 と奴らが宣言するのを考えていましたが、それは無いようですね…奴らは人を殺す気はないのかも。撃っても威嚇程度かな」 「…………」 「これらから言える事が一つあります」 「何だ」 「僕が成すべき事です。今人質を解放しようと行動を起こしていますが、それを続行します」
330 :
旅人 :2008/11/08(土) 00:28:54 ID:oLt5FyAE0
「何だって?支店長はどうする」 「彼は白壁のどこか、見つからない場所にでも隠れているんでしょう。 放っておいても心配はいらないはずです。このまま、人質救出作戦を続行s… いや、待って下さい。奴ら、どうやってここから脱出するんでしょうか」 「お前がやったように、マンホールじゃないか?」 「それは無理があると思いますよ。刑事さん、自分達警察を過小評価してませんか? あれだけ包囲されていれば、外へ出てどこかへ行けば即、お縄ですよ。 屋上に上がった時に見ましたけど、凄かったですよ、警察の包囲網は」 「そうか。それが理想であり、当然の事だからな…で?」 「だからどこか、包囲の外から犯行グループは『迎えが来る』みたいな感じで 脱出を図るんじゃないんでしょうか。あり得ないですが、空飛ぶ絨毯と契約みたいなのをして、 この時間に白壁の屋上に来てくれ、みたいな」 「まぁ、それはあり得ないにしても『迎え』か。それで、どうしろって言うんだ? 辺りを捜索して、何が迎えに来るのかを見つけてそれを封じるのか?」 「そうです。犯行グループは全員が白壁に集結しているわけじゃない。 必ず一味の誰かが外に居て、 仲間を回収する時を待っているはずです。 迎えの手段を持っているはずです。迎えの時が何時かは分かりませんが…とにかく急いで探して下さい」 そう小暮は言って、電話を切った。 田中は小暮の言葉を要約して反芻して、中井を呼んで小暮から電話があった事を話し、その内容をしっかりと正確に伝えた。 中井は直ぐに余り気味な警官に指示し、彼らに「迎えの人」を捜索させ、そして自分も探しに走った。 自分の愛車、プリウ○で。「ハイブリット!レッツゴォー!」中井はそう叫びながら車を発進させた。 小暮はそこまでを語って、そこで休憩を入れた。 優が、いつの間にか五人に淹れられているコーヒーに驚きながら小暮に質問した。 「で、その『迎えの人』って、結局誰だったんですか?」 「あ、その人が誰か、分かる要素も入れながら喋ったんだけどな…分からない?」 「少なくとも私には。松木さん、坂井さん、誰だか分かりますか?」 「薄々、な…あの人かもしれないなってのは分かるんだけど。ゆうは?」 「僕も薄々…って感じです。もしかしたら、ゆうさんが考えている人と同じ人かもしれないですね」 松木がそう言った後で、小暮が笑いだした。町田も、何かのネタムービーを見た後のような顔をしている。 笑った後で小暮が言う。 「松木さん。坂井さん。もしかしたらあなた達、正解しているかもしれませんよ」 言って、小暮が自分に淹れられているコーヒーを一口飲み、「熱っ!」と小さくリアクションを取った。
331 :
旅人 :2008/11/08(土) 00:33:20 ID:oLt5FyAE0
これでこの投下は終わりで、そして第二章は終了です。 白壁占拠事件の話は第三章に延長されて描かれます…って前にも書きましたね、コレ。書いたか?アレ? 音ゲー要素が少なくなってきた感がありますが、この事件のクライマックスあたりで 音ゲー要素が色濃く反映されると思います。 今その辺りを書いているのですが、多分音ゲー要素は多くなると思います。 それでは夜も遅いのでこれにて。夜分遅く失礼しました。 (そういえば、以前から気になることがあるのですが… この話、プロットをころころ変えて作っているので、 話に矛盾点があったり整合性がないとか、 そういうのがあるかもしれないという事を危惧しています。 もしそういうのがあれば、遠慮なく言ってください。普通の感想なども歓迎します)
332 :
爆音で名前が聞こえません :2008/11/08(土) 20:19:21 ID:luPoQujDO
「おまえが欲しい」 体育祭の前日、学校の先輩に体育館裏に呼ばれた私は、こう告白された。 本当にただの偶然だった。 体育祭の実行委員に指名され、委員会が行われたその日、真横に座っていたのが先輩だった。 スポーツ振興が盛んな私の学校で、特に力を入れているのが陸上部。 先輩はその陸上部のキャプテンを任されているほどの全国レベルの選手だ。 肩から腕にかけての上腕二頭筋の発達は、スポーツマン独特のシルエットを形作る。 その腕に抱かれたい、という友達も大勢いた。いわば、アイドルと呼ばれる類の人種なのだ。 そんな人がどうして私なんかに… 。 思考はストップし、冷静な自分が影を潜める。 気持ちは嬉しい。でも… 「どうして私なんですか?」 ええいままよ、と思いきって聞いてみた。 先輩は少し困った顔をする。 その顔もやはり凛々しく眩しい。 「おまえと一緒に連れションしたことあっただろ?」 あった。 休憩時間に委員会の打ち合わせをしていた私達は、授業が始まる前に済ませようということで、連れ立ったときのこと。 「小便してたときにチラっと横目で見たんだ」 先輩は急に真面目な顔に。 「な、何を見たの?」 答えはわかっていた。 わかっていたけど私には聞くことしかできなかった。 「顔に似合わず大きいなって」 そう言った先輩の顔が夕日に照らされて真っ赤になった。 そして、私が何も言えないでいるのをいいことにベルトを緩めたのだ。 私にはもう逆らう力も意思も残されていなかった。 完
音ゲー全く関係ないけど何これ?
>>324 いえいえ、感想の書き込みは大歓迎ですよ。
ありがとうございます。
人が少ないのはスレの存在自体が目立たないってのもあるのかも知れませんね。
どこかで紹介されて話題になったりしたらヤル気も人も増えるんでしょうけど……
>>旅人さん
第二章完結、乙です。
文章力に関しても俺も修行中の身なんであんま偉そうなことは言えないんですけど、
やはり出来る限り多くの量を「意識して」読み書きすることが大事かと思ってます。
ただ漫然と音ゲーをプレイするより、
スコアやコンボを意識した方が上達速いじゃないですかw
>>332 思春期の生々しい性への目覚めが上手に描けていますな
では、トプラン殺人事件の続きをどうぞ。
空気が顔を強張らせた。 「今何て言ったんすか?」 「だから、そもそも1046が犯人だってのは 俺達の勝手な思い込みだったりしたらどうすっかな……なんて」 「今更そりゃないっすよー」 空気は首を上方向へ直角に曲げて、仰々しい呆れ方をした。 「俺自身、あれだけクロだクロだと騒ぎ立てておきながら 今更そりゃないと思うけどさ。 しょうがないじゃん、アリバイは完璧だし、それに……」 「それに?」 「……」 乙下の口が止まった。 喉のごく手前まで出かけていた言葉を飲み込む。 1046はシロであるという仮定が 動かしがたい事実として具現化してしまうようで怖かったのかも知れない。 それでも、乙下は踏ん切りをつけた。 「1046泣いてた」 乙下は至極短いそのメッセージを口にすることで、 1046の細い体から今にも溢れ出しそうだった 万感の思いの正体を手繰り寄せようとする。 「1046、悲しそうに泣いてた。 最初は単なるフリか、それともBOLCEを殺っちまった罪悪感が そうさせているのかとも思ったんだけど…… それにしちゃ本気で悲しそうに泣いてた。 あれが嘘泣きだとしたら演技派俳優としてもランカーになれるよ」 「イケメンですからね。 もし俳優になったら、きっと抱かれたい男性部門でもランカーっす」 空気は乙下に倣って、口では軽々しくうそぶきつつも 少しばかり俯きがちになって表情を曇らせている。 感化されやすい空気の性格を鑑みて、 乙下は今自分もこんな表情をしているのだろうか、と初めて自覚する。 「『1046ちゃんは絶対に人殺しなんかするような男じゃない』」 「1046ちゃん?」 「店長が言ってた。随分むきになって弁護してたよ、1046のこと」 「ふーん」 「『BOLCE君は人から恨みを買うようなヤツじゃねぇ』とも言ってた」 「みんなやたらと信頼が厚いっすね」 「な。そんな話聞いちゃうと自信無くすだろ」 「……」 空気は首を下方向へ直角に曲げて、またも仰々しく思索に耽るふりをした。 かと思えばすぐに乙下へ向き直って言い放つのだった。 「だとしたら、これまでの推理はどうなっちゃうんすか」 「だから困ってるんだってば」 1046がクロであることを示す理由と、1046がシロであることを示す理由。 二チームの綱引きは互角の戦いを展開していた。 乙下はアナウンスを務めるような気分で戦況の分析に臨む。 「空気。これまでに見つけた1046がクロっぽい根拠は何だった?」
「そりゃもう、まずはボクの見つけた1046式固定運指のダイイングメッセージ」 「うん。他は?」 「えっと、『銀行強盗=店長』は 報道されてない情報のはずなのに1046が知ってたこと」 「うん。他は?」 「あとは、アリバイが余りにも出来過ぎていること」 「うん。他は?」 「……以上、かな。 あれ、何だか思ってたより割と少ないっすね。 オトゲ先輩が自信満々に1046を容疑者扱いするもんだから、 すっかりボクもそんな気になってたけど……」 戸惑う空気に向かって先輩風を吹かすつもりも無いのだが、 乙下は教訓めいて告げる。 「いいか、刑事は嘘を見抜く商売だ」 空気はくすりと薄笑いした。 「またまた。オトゲ先輩ってばカッコつけちゃって」 「うるせーなバカ、そういうんじゃなくてさ」 別に笑うところでもないだろうと抗議したくなったが、 乙下は部下の無礼を我慢して話を戻すことにする。 「そもそも俺が1046に疑いを向けたきっかけは、 アイツの様子が目に見えておかしかったからなんだ。 昨日の朝、俺達の前に現れた1046の緊張は半端じゃないと思わなかったか?」 「んー……言われてみれば、そうかも」 「あれは間違いなく嘘つきの顔だよ。 俺の勝手で不確かな主観に聞こえちゃうかも知れないけど、 これでも一応は根拠ってもんがあるんだぞ」 乙下は漠然と記憶した1046の表情と行動を、瞼の裏で断片的に再生してみる。 例えば、合わせようとしない目線。 例えば、上擦った口調。 例えば、落ち着かない指先。 いずれも嘘をついている、 もしくは何かを隠している人間が発する典型的なシグナルだ。
もし突然親友が殺されるという異常事態にさらされたのならば、 混乱・悲哀・疑問・憤怒といった感情に襲われるのが普通のはずだ。 ところが、昨日の1046にはそういった感情よりも 後ろめたさや恐怖、焦りの類……すなわち「嘘つき」の心情が 全面に押し出されていた。 それらしく言えば「犯罪心理学に基づいた読心術」などと 偉そうに吹聴したくなる部類の技能なのであろうが、 乙下は単に刑事としての経験と持ち前の観察眼からこれを体得していた。 「もちろん超能力とは違うんで大まかな心情しか見抜けないんだけど、 経験上読みが外れたことは少ない……つもり」 「へぇ、やっぱオトゲ先輩は凄いっすねー。 尊敬しちゃいますよ!」 空気に持て囃されて、自慢話っぽくなってしまったことを 自覚した乙下は軽く反省した。 もしやこの空気による誇張気味の喝采は 彼の白けた気持ちを暗示したものなのではなかろうか、とさえ邪推してしまう。 そうは言っても、これまで乙下が このアバウトな読心術とロジカルな推理とを組み合わせるスタイルで いくつもの難事件を解決してきたことは、紛れも無い事実であった。 料理をする際にまず目分量で調味料を入れ、 次に味見をしながら少しずつ目標の味へ近付けていくやり方に似ている。 「しかし、だ」 しかし、その過程で積み上げられた自信があるからこそ、 1046の様子は乙下にとって腑に落ちない点が多々あるのだった。 「どうもおかしい。妙だ」 「何がっすか?」 「今日の1046は『一貫していない』」
空気は眉根に皺を寄せて、どういう意味なのだ、と目で訴える。 「なんつーか、昨日の1046は終始緊張して『嘘つき』の顔をしていた。 特に、俺が1046へ疑いの目を向けていることをほのめかした途端、 アイツの緊張はますます顕著になったんだ」 俺を疑ってるんですか、と呟いた1046。 執拗なまでに乙下と目を合わせまいとする彼は、 とうとう乙下と別れるその時まで同じ態度を保っていた。 「ところが、今日の1046は掴み所が無かった。 途中までは昨日と同じように極力俺と目を合わせまいとしてたんだが、 俺がもう疑ってはいないことをほのめかした途端、1046の様子が変わった」 BOLCEを殺した犯人に対し怒り、 犯人に殺されたBOLCEに対し涙を流し、 必ず事件を解決すると宣言した乙下に対し微笑んだ。 そこには純粋に事件を憎み、親友の死を悼み、警察へ無念を託す青年の姿があった。 とても演技には見えない。 その旨を説明すると、空気は肩をすくめて反論するのだった。 「それって一貫しないどころか、ある意味普通の反応じゃないっすか? だって、疑われたら緊張するでしょ。 逆に疑いを解かれたら、緊張も解けるでしょ。 だから、そこから先は伸び伸びと演技出来たんじゃないっすかね」 「いや、それは無いよ。 1046が見せた喜怒哀楽はとても演技に見えなかった。 逆に、俺の目をごまかせるほど高い演技力を持っているというのであれば、 そもそも緊張の有無なんかで演技が左右されること自体起こり得ないだろ」 空気は自転車を手押ししたままの格好で、器用にもますます肩をすくめてみせた。 「てことは……1046はクロなのかシロなのか、 支離滅裂過ぎてもう何が何だか分かんないじゃないっすか」 「だからそう言ってんじゃん」 「……でしたね」 空気はがっくりと肩を落としてしまう。 そんな部下を慰めてあげたいといったような 殊勝な心がけがあったわけではなく、 単純に自分を元気づけたい一心で乙下は口走った。 「……たった一つだけ、筋の通る推理がある」
空気が顔を上げて希望に満ちた目を向けてくるのを先回りするように、 乙下はほとんど息継ぎをしないまま 「期待はするな。かなり抽象的な推理だ」 と付け加える。 だが空気はそんな乙下の思惑などどこ吹く風かと言わんばかりに、 早速希望に満ちた目を輝かせていた。 こうなると乙下もお構いなしに話を切り出す他ない。 「つまりはこういうことだ。 やはりBOLCEを殺した犯人は1046である。 ただし……『1046がBOLCEを殺したのは、やむを得ない理由からだった』。 そう考えると少しは辻褄が合うと思わないか?」 「やむを得ない理由?」 「そう。本当は1046も親友を殺すなんて酷い真似はしたくなかった。 1046に悪意は無かった。 だが、やむを得ない理由でBOLCEを殺さざるを得なかった」 「それ、どんな理由っすか」 「知るかよ」 空気は泡を食ったように早口で捲し立てる。 「知るかよって、そりゃないじゃないすか。 大体、何がどう辻褄が合うんすか」 「まぁ落ち着け。 昨日の朝1046が俺達と会って緊張していたのは、1046がBOLCEを殺した犯人だから。 これは合点がいくな?」 「いきます」 「次に、1046が見せた怒りの表情。 これは事件の犯人に対する憎悪ではなく、望んでもいないのに BOLCEを殺すはめになってしまった『何らかの事情』に対する憎悪だった」 「自分で殺しておきながら?」 「うん、自分で殺しておきながら。 次に、1046が見せた涙。 これもまぁ今のと同じだ。 理不尽な事情で殺されてしまったBOLCEに対する悲しみ。 そして、理不尽な事情で手を汚すはめになってしまった 自分自身の運命に対する悲しみ」 「自分で殺しておきながら?」 「しつこいな、そうだよ」 空気は耳の裏を掻きながら、しかめっ面になっている。 「さっき俺は『必ず事件を解決する』と宣言し、 それに対して1046は『期待してます』と微笑んだ。 この笑顔も、こう考えれば一本に繋がる。 つまり、1046は『本当は自分は悪くないことも含めて』 俺が事件の真相を解き明かすことを期待した」 「うーん……」 空気はしかめっ面のまま、不満げに唸った。 「理屈は分かったんすけど、そのやむを得ない事情ってのが はっきりしないことには何とも言えないんじゃないっすか?」 「まぁそれはね、その通りだ」 「もしその推理が的を射てるとすれば、 どうして1046はBOLCEを殺したのか……そこっすよね」 「動機、か」
ここまで乙下は首尾一貫して 「誰がBOLCEを殺したか」と「どうBOLCEが殺されたか」を考えてきた。 しかし「なぜBOLCEが殺されたか」、ここにはまだ踏み込んでいない。 「二人は親友だったんすよね。 しかも高校の頃からほぼ毎日のように 顔を合わせてきたらしいじゃないですか。 それくらいの仲だったら、ボク達じゃ知りようの無い 深い内情みたいなものがあったのかも知れないっすね」 そこでまた店長の言葉が頭の中で再生される。 1046がBOLCEを殺すなど、天地が引っ繰り返ってもあり得ないと。 「あれだけ親密にしていた店長が知らなかったほどの事情だ。 俺達が考えて分かるわけない。 店長以外で、いや、店長よりも深く 二人と付き合いがあった人物を探して事情聴取をする必要がある」 「そんな人、いるといいっすけど……」 「シルバーの常連を当たるしかないな」 アーケードが一旦途切れ、分厚い国道との交差点に差し掛かった。 横断歩道の向こう側ではアーケードの続きが 盛岡駅の方向へ真っ直ぐに伸びている。 もうしばらく歩けば道沿いにシルバーが見えてくるはずだった。 だが今は赤信号が点灯しており、進むことが出来ない。 多くの通行人の歩みが堰き止められており、 彼らは目の前を大小色とりどりの自動車が横切っていく様をぼんやりと見届けている。 その人だかりから一歩引いた後方で、二人は立ち止まった。 「そうっすね、後はひたすら聞き込み捜査っすね。 もうこれ以上ボク達だけで考えたところでどうにもならないっぽいし」 期待が大きかった分、空気の落胆は激しいようだった。 絞り尽くした雑巾から染み出した最後の一滴が、 立ち所に蒸発してしまうイメージを乙下は抱いた。 「だから期待すんなって言っただろ、バカ」 乙下自身、この推理が何も生み出さないことは承知していた。 どちらかと言えば、1046が犯人である最後の可能性を残したいという ただそれだけの目的のために、途切れそうな糸をぎりぎりで紡いだような感覚だった。 不毛だ。 乙下は「1046が犯人である」という仮説に固執し過ぎて、 ほとんど呪縛のような状態になっている。 それをはっきりと意識した瞬間、 乙下は限りなく意固地な自分の有り様が、急激に不毛なものへと思えてきた。 歩道の信号が青になり、人々は一斉に歩き始める。 乙下もまた、新しい一歩を踏み出す。 「空気。1046が犯人じゃないとしたら、どんなヤツが犯人だと思う?」
相変わらず億劫そうに自転車を押しつつも すでに前を歩き始めている空気は、振り返らずに喋る。 「オトゲ先輩、ついに1046はシロだって結論に行き着いたんすか?」 「違うよ。 たださ、今までの俺達は頭っから1046が犯人だと決めてかかって物事を見ていた。 そういうやり方だと大事なことを見逃しちまいそうだし、 捜査に進展が無いのもその変が原因のような気がしたんだ。 1046が犯人だろうとそうでなかろうと、 一度まっさらな視点で考え直してみないか?」 「うん、それもそうっすね。 でもこれまで1046が犯人だとばかり思って考えて来ましたからね。 そうじゃなければどんなヤツが犯人かなんて、今更想像しづらいっす」 空気は乙下の提案に概ね賛同したようだったが、 推理のきっかけを掴めないのか、回答に窮している。 それを情けないと切り捨てる感情は、今の乙下には無い。 乙下も全く同様だったからだ。 何か手掛かりはないものか。 乙下は少し斜め前を行く空気の足取りを眺めながら、 おもちゃ箱を引っ繰り返すかのように 昨日から今日にかけて手にした情報の記憶を辿った。 1046はクロか。 1046はシロか。 記憶から芋づる式に掘り出されるのは、そんな二者択一ばかりだ。 思い返せば本当にそれだけを考え巡らせていた。 視野狭窄にもほどがあるな、と乙下は自分の単純さが情けなくなる。 クロか。 シロか。 シロ。 シロ。 シロ、シロ、シロ……。 どうやら空気は横断歩道の白い部分だけを歩いている。 「お前何やってんだよ」 「え、何がっすか」 「ったく、ガキじゃないんだからさぁ。 まぁ確かに俺も小さい頃はよくやったけどね」 「何が?何が?」 空気は何を指摘されているのか理解出来ず、ただ翻弄されている。 それでも白いペイントから足を踏み外さない徹底ぶりは天晴れだ。 「……待てよ」 横断歩道を渡り終えると同時に、乙下は何か引っ掛かりを感じた。
素早くポケットからメモ帳を取り出し、パラパラとめくる。 すぐに目的のページは見つかった。 そこに並んだ単語を、穴が開くほどじっと見つめる。 乙下の中で、急速に新たな推理が構築されていく。 それは「1046が犯人である」という仮定から遠く掛け離れた筋書きだった。 両立することはあり得ない。 だから自分の組み立てた推理を簡単には信用出来ない。 ただ、むざむざ却下してしまうには惜しい……そう思わせるだけの感触を持つ内容だった。 「オトゲ先輩?」 空気に呼ばれて乙下は我に返った。 「どうしたんすか、急に黙りこくっちゃって」 「悪い、ちょっと考えことをしてた。それよりさ」 乙下は今しがた自分の中で構築された新しい推理を、 自らの手で正当性を評価するかのように用心深くアウトプットしようとした。 「お前、プロファイリングって知ってるよな」 「プロファイリング」 空気は初めて聞いた言葉のように、いい加減な発音で繰り返す。 「知らないとは言わせんぞ。 警察学校で習っただろ、これくらいの知識」 「忘れちゃいました、サーセン」 「本当にどうしようもねぇなお前は。 よく覚えておけ、プロファイリングってのは 犯行状況の分析をもとに犯人の特徴を推理することだ」 「そうそう。そうでした」 空気は白々しい照れ笑いで誤魔化しながら 「で、オトゲ先輩はどんなプロファイリングをしたんすか?」 と先を促してくる。 さっさと話を次に進めたいのが見え見えだ。 「これまでの推理を覆すような話だから、ちょっと言いにくくもあるんだが……」 乙下はそこで一度言葉を切ったが、 まっさらな視点で考え直そうと提案した責任もあったので、すぐに覚悟を決めた。 「……この事件の犯人は中学生、あるいは高校生。 もしかしたらそのくらいの年齢かも知れない」 「ちゅっ……中高生!?」 空気は目を丸くした。 to be continued! ⇒
今週はここまでです。
さて、嬉しいことに
>>323 氏から推理メールが届きました。
しかも簡単な箇条書き程度の推理ではなく、
時系列ごとに誰がどんな行動をしたかを事細かに分析し、
その上で犯人の動機に至るまで考察をしていただきました。
まさかこれほどのものが送られてくるとは思わなかったので、はっきり言って脱帽です。
と同時に、ここまで一生懸命考えていただけたことがとても光栄でした。
(もちろん、正解か不正解かはまだ明かすことが出来ないので
本編の内容をもってして正誤を確認していただくことになるのですが……)
もうこの際だから金田一連載当時のマガジンみたいに
「真相当てクイズ」みたい企画をやったら面白いかもですが、
応募数の少なさからまず間違いなく企画倒れになるであろうw
でも、もし
>>323 氏以外でも何か気付いたことがあれば
気軽にメールを下さって構いません。
もちろん、普通の感想もお待ちしてますよ。
それでは、来週をお楽しみに。
346 :
旅人 :2008/11/15(土) 23:24:48 ID:UaM+b6q20
>>とまと氏 これは話が大きく変わっていきそう…なのでしょうか? いままで1046がクロ?1046がシロ?…って話だったのに、いきなりどこかの中高生くらいの歳の人物が 殺しをしたかもしれないって、先が気になるってもんじゃないですね。続きを楽しみにしています。 今晩は、旅人です。 いよいよ、「白壁占拠事件」がどのような結末を迎えたかが分かる! 第三章、「The Last Wall」が始まります。The〜はサブタイです。副題です。 この章につけたタイトルの意味は、直訳すると「最後の壁」という意味になります。 これは舞台となる白壁という通称をつけられたゲーセン、 そして壁を壊すように謎に近づいていく話の展開にかけたものです。 正直、後者の意味では全然かけていません。適当な事書きました。すみません。 実はホントの話、知っている人は知っている「Innocent Walls」のTaQさんのたった一行の曲コメにかけているんです。 どんなコメントを残しているかは、自分で見に行ってくださいとしか。えぇ、すみません。 事件の最後の謎を隠す最後の壁が壊された時、真相は不完全ながらも分かると思います。 それでは、本編をどうぞ。 (唐突に物語が始ます。 前後関係を確認するために、第二章後半部分を読み直すことをお勧めします。ホント、ごめんなさい…)
347 :
旅人 :2008/11/15(土) 23:28:48 ID:UaM+b6q20
二階から休憩スペースに向かうには一つのルートしかない。 ギャラリースペースと休憩スペースを繋ぐものが、一つのドアしかないからだ。 そのドアはガラス製で、特に何の細工(曇りガラスとか)もされていなかった。 よって、小暮は休憩スペースの中をある範囲でだが見る事が出来た。 先程眠らせた敵から小さな拳銃とその弾、そして二つの手榴弾を奪っていた 小暮の装備は装弾数12の大型拳銃が一丁(だが、予備弾倉はない)、装弾数15の小型拳銃が一丁(これも予備弾倉はない)、 そして計5つの手榴弾であった。どれもこれも人を殺せるものばかりだが、 決して殺しだけはしたくないというのが小暮の心からの願いだった。 先の敵をを引きずった場所から、袋の中から双眼鏡を使って休憩スペースの中の様子を 窺っていた小暮は、腕に包帯を巻きつけていた男がいる事に気がついた。 筋肉質の男だった。確かドラマニとDDRをメインにやっている人だったはずだ。 彼にまきついていた、その包帯には血が染みていた。小暮はその男を見て、何とも言えない気持ちになった。 あなた、撃たれちゃったんですか。大人しく捕まっておけば……あれ? ここで小暮はある事に気がついた。銃声なんてしただろうか? 袋の中に入れておいた二挺の拳銃を見て、おかしいと小暮は思った。 普通、銃は撃てばその銃口から火が噴いて銃弾が飛び出し、標的にダメージを与える。 そして引き金を引くと、当然のように物凄い爆音を立てるのだ。それが銃声と呼ばれるものである。 小暮の道具、閃光拳銃は銃声がクラッカー音なので、銃声とは呼べない。 その後は思い思いの声ネタを収録した爆音装置と、閃光円盤より強い光を放つ装置のスイッチが作動して、 辺り一帯に爆音と閃光をまき散らす。それ以外に銃声のような音を聞いた覚えが小暮には全く無かったのだ。 過大評価かもしれないが、銃声と言う物は相当響くものだと小暮は思っていた。 白壁が占拠されたのが、コンビニで中井刑事に事件解決を依頼されて、コーラと肉まんを頼んだ時なのだから あの男が撃たれたのは早くてもその時あたりとなる。外に出ていた中井はそれを聞いたという話もしなかった。 それからずっと白壁の近く、そして白壁内にいた小暮が銃声を聞かないというのは変な話なのだ。 そうだ、町田さんは?彼女は銃声を聞いたなんて言っただろうか? 小暮は記憶を辿って、町田が銃声を聞いたと言っていなかったと思い出した。 ならば、奴らはサプレッサーとかいう物を銃につけているのだろうか? そうなのだろうと小暮は考えた。いや、それしか考えられない。 今まで拘束した奴らの装備は決まって銃と手榴弾だった。刀とか針とか糸とかでは決してなかった。 その事から、奴らは銃声を消音又は小さくしている事が考えられた。 だが、小暮はここで決定的におかしな事に気がついた。 何が変なのか、小暮はそれを確かめるためにもう一度、双眼鏡で休憩スペースの中を覗いた… 小暮との通話を終えた田中は、それから一分も経たないうちに携帯電話を手にした。 小暮からの写真が添付されているメールを受信したことを確認した田中はそれを閲覧する。 二挺の拳銃の画像だった。様々なアングルで写真が撮られていて、田中の頭の中でどういう拳銃の形を しているのかが三次元で再現し易かった。本文は「何か変なところはありませんか?」というものだった。 田中は「中井〜!」と呼んだのだが、彼が「迎えの人」を捜索している事を思い出した。 それで、近くの警官と相談することにした。田中は何かを決めたり調べる時、決して自分一人ではやらない 人間だったのだ。それが、これまでの彼の活躍に結びついている。 数十秒後、田中の携帯電話を借りていた警官が「これ、今まで見たことのない銃ですよ」と言った。
348 :
旅人 :2008/11/15(土) 23:33:18 ID:UaM+b6q20
「今までに見た事がない?どういう事だ」 「実は私、ガンマニアでして。結構銃器には詳しいと自負しています。 今まで色んなメーカーの拳銃を見ましたが、これは初めて見るものですよ」 「何か、変なものはないか?小暮探偵がそう聞いてきているんだよ」 「……中に何か細工していますね。いや、パッと見ですよ。 威力を上げるための加工をしているのか、 サプレッサーのような物を内蔵しているんでしょうと思うのですが…いや、パッと見です。 現物があれば、分かると思うんですけどね。写真だけじゃこのくらいのコメントしか あ、待って下さい。消音がサプレッサーとかがなくても、 初めから消音機能が出来る『消音拳銃』という種類の拳銃はありますが… この写真の拳銃、これはそのうちのどれでもないんです。全く、初めて見る拳銃ですよ ……あまり役に立てなくて、スミマセン」 「いや、いい。ありがとう。少ない情報でも探偵にとっては大きな助けになるはずだ」 ありがとうな、と田中はもう一度自称ガンマニアの警官に言って、田中は小暮にメールを送った。 「小暮探偵、自称ガンマニアの警官 によればその拳銃、中に何か細工 をしているらしいそうだ。それに その警官曰く、全く初めて見る消 音機能付き拳銃かもしれないらし い。 これでオーケイか?それじゃあ無 事を祈っている。 」 小暮は田中からのメールを受信し、その本文を見た。 そして、双眼鏡で休憩スペースの巡回をしている敵の手に握られている拳銃を凝視した。 ……そう言う事だったのか。 全く初めて見る消音機能付き拳銃。 小暮にとってそれはあまり関心のない、どうでもいい事であったのだが…(どうでも良くはないが) それで、銃声がなかった事と何かがおかしいという事の正体に気がついた。 サプレッサーやサイレンサーは、銃身に取り付けるタイプのものであると小暮は考えていた。 世界のそれらには、その小暮の常識は通用しないのかもしれないが、 ガラス越しに見た休憩スペースの見張りの敵達は、明らかにそれだと分かる物を銃身につけていなかったのである。 それが、小暮が感じた違和感の正体だった。 そして小暮は、彼らの正体が何となく分かったような気がしたのだ。 彼らは、裏の世界の住人という事だ。恐らくは殺し屋か何か。 だとすると、奥田夫人が死んでしまったのも何となく合点がいきそうな気がする。小暮はそう考えた。 だが、何故彼らは奥田夫人を殺害したのか? 中井からのメールでは、支店長が書き残した手紙によると「犯行グループは夫人を殺害していない」 という事らしいが、そんな事信用できるか?支店長の言葉を鵜呑みにしてはいけないんじゃないのか…? …………そうか。そういう事か! 小暮は思わず大声を出すところだった。何て事だ。もしかしたら、この推理が当たったとしたら。 そうだ、そう言う事かもしれない。あの人は………もしかしたら……… 突然思いついた推理を、小暮は中井に電話して伝えようとして電話をかけた。 そして、中井は一旦車を道の脇にでも停めたのだろう、ちょっと待ってろと残して 少しの間が空き、で、どうしたよと小暮に訊いた。
349 :
旅人 :2008/11/15(土) 23:38:52 ID:UaM+b6q20
「中井刑事、今どこにいるんですか?」 「今?緑公園ってっとこだ」 「そこから奥田邸は近いですか?」 「う〜ん、遠くはないな。二キロ位の距離だと思う」 「じゃ、奥田邸に行ってください。もしかしたら、 そこに『迎えの人』がいるかもしれないんです」 「分かった。これ、田中には伝えたのか?」 「いいえ。中井刑事から伝えておいてください。 これから僕が、奴らを痛めつけます。その時に奴らは迎えの人に救出されます。 でも、中井刑事がそれを封じているため、奴らは逃げ出せないという事です あ、そうそう。中井刑事が迎えの手段を封じた事を確認してから僕は行動します。 携帯電話か何かで知らせてください」 オーケイ、と中井は返し、そして言った。 「で、探偵さんの推理、聞かせてくれないか?」 「はい。まだ数分は時間はありますから。お話ししましょう。 …昨日僕は奥田邸に行って、奥田夫人の死体を目撃しました。 その死体の観察をしていた所をメイドさんに見つかり、捕まって 今に至る…というのが今の状況ですよね。 話は飛びますが、率直に言うと、僕は支店長が書き残した見えない手紙の内容を信じていません。 犯行グループの一味であった以上、疑いがかかるのは仕方がないんです。 だから、犯行グループのうちの誰かが奥田夫人を殺したと思います。 そして、支店長は白壁に行っているはずがないんです」 「どうしてそう言い切れる?」 「支店長がステルス迷彩のような物を持っていれば話は別ですよ。 ……犯行グループは白壁の全ての場所を調べ尽くした。 その証拠に監視カメラの大半が使えなくなっているんです。 中には見つからなかったのか、使えるものもありましたが」 「つまり探偵が言いたいのはこういう事か。 『殆どの監視カメラを壊しまわっているくらいなのだから 支店長が見つからない訳がない。 それに、ゲーセンという閉鎖的空間な訳だから、 見つからないのであればそこに居ないと考えるのが妥当だ』という事か?」 「はい。そして、支店長こそが『迎えの人』ではないかと思っています。 そして、迎えの道具は奥田邸に忍ばせているはずです。 奥田夫人が殺されたの理由は…支店長、もしくは犯行グループの誰かが奥田邸に侵入して、 その道具を隠している時に奥田夫人に見つかり、口封じの為に殺されてしまったと僕は推理します 道具の隠し場所に奥田邸を選んだのは、あそこが広いからだと思います。 TVの企画ものとかでも、豪邸で宝探し、かくれんぼとかあるじゃないですか。それですよ」 「そうか。まぁ俺達もハナっから支店長の手紙を信じていたわけじゃねぇけど。 探偵さん程の考えまではいかなかった。ありがとな。今から奥田邸に行ってくる」 「気をつけてください。支店長も馬鹿ではないはずです。 自衛の手段をいくらでも取ってくるかもしれません」 「分かった分かった。簡単に殺されるほど俺はヤワじゃねぇ。それじゃあな」
350 :
旅人 :2008/11/15(土) 23:43:43 ID:UaM+b6q20
数分後。中井刑事は奥田邸の前に立っていた。 現場検証を担当する者たちの内の一人の若い男が中井に「どうしたのですか」 と聞いてきた。それは「何で白壁に居ないんですか」という意味も孕んでいた。 忘れものをしてな、取りに来たんだ。そう中井は返して奥田邸の中へ進んでいった。 玄関からシャンデリアか…そう中井は思いながら二階へと上がっていく。 階段が軋まない。畜生、羨ましい。俺の家は階段がギィギィ軋むんだ。リフォームするったら高いしよ…はぁ…… 何だって富豪の家って奴は…広いんだ?かくれんぼには最適だが、これは最悪だ。 そんな事を思いながら中井は「迎えの人」の疑いが最も強い○×銀行支店長の姿がないか、慎重に調べていった。 だが、どの部屋を開けて中を見ても、どこを開けて見ても支店長はいなかった。 ……どこに居るんだ?悩みだした中井の頭に、何か諺のようなものが浮かび上がった。 「 犯 人 は 現 場 に 二 度 現 れ る」 確かそんなような言葉だった。人間心理学がどうとかという奴らに言わせると、 放火や殺人を犯して逃走した犯人は、それが成功したかを確かめに来るために 野次馬に紛れて自分が成した事を確認するのだという。そのまま逃げれば捕まらないだろうに……… …だが、それだ。奥田夫人を殺した奴が誰かは分からない。支店長が殺したとは限らない。 だが、奥田夫人の部屋にヒントのような物があるんじゃないのだろうか? そこまで考えた中井は、一瞬、視界のなかに瑞光を見た。奥田夫人の部屋から、それは放たれていた……ように見えた。 小暮は休憩スペースを巡回している敵にも人質にも見つからないように ギャラリースペースと休憩スペースを繋ぐドアの前に到達、すぐさま右に九十度曲がってからしゃがみ込んだ。 白壁は二階の壁全体がガラス張りだが、休憩スペースと面している所だけは白い壁になっている。 小暮は自分が白壁に潜入する前、マンホールの蓋を開けて白壁に到達した時に見た休憩スペースの様子を思い出していた。 休憩スペースは、壁が白壁と面している所以外は透明なガラス張りだった。 そこから人質の配置も分かったし敵がどんな武装をしているかも分かった。 ただ一つ分からなかったのは巡回ルートのみであった。休憩スペースの監視カメラは全て破壊されていたからだった。 小暮はギャラリースペースの壁がガラスの壁になる二歩手前まで歩いて、それからそこで座り込んだ。 袋の中に両手を突っ込み、右手に取りだしたものは屋上の敵から奪った大型拳銃。 田中からの情報によると、それは消音拳銃らしいのだが、そのような銃は初めて確認されたという怪しげな代物だ。 左手に取りだしたのは二個の手榴弾だった。それからもう一度袋の中に手を突っ込んで、 今度は両面テープを取り出した。小暮は少しの間目を閉じ、目を開けてから作業に取り掛かった。
351 :
旅人 :2008/11/15(土) 23:49:51 ID:UaM+b6q20
その頃、中井は奥田夫人の部屋にいた。そこに居た現場検証をしている人達に 何か変なものがあるか、誰か不審な人物がいなかったか等を聞き込んだが 何も手掛かりとなる情報は得られなかった。 中井が畜生と悪態をつきながらある物を見た。白壁占拠事件を生中継している TV番組が、この部屋の薄型TVで流れていた。中継ヘリから送られる画面は あまり白壁にズームしていなかったので中の様子が鮮明ではなかった。 屋上に数人の人が倒れていて、起きているようだったが、体を縛られていて まるで採れたてのエビのような動きを見せていた。 ヘリに乗っているレポーターが何かを言っていたが、中井にはそれが聞こえなかった。 白壁上空を周回するように動くヘリから送られる映像を見て、ある物を見つけたので。 ……そして、それが、そのある物こそが……… 「これが……迎えの道具………」だったので。 そう呟いて、中井は静かに奥田夫人の部屋を出た。 彼はもう、行き先を決めていた。目指すは…… 同時刻。奥田邸の屋上。 そこに一人の男がいた。服装はスーツの上にコートという、この寒い時期に合わせての物だった。 彼の右手にはリモコンらしき端末が握られていて、男はそのボタンを押した。 ウィイイイィィィィィと機械の駆動音がして、屋上の床に変化が表れ始めた。 上から響く機械の駆動音はいつしか止んでいた。 早くしなければ。早くしなければならない。この足を止めてはならない。 階段を駆ける中井は、息をゼェゼェとしながら奥田邸の屋上へ続く階段を駆け上がっていた。 中井刑事は奥田邸の屋上へ階段を使って上がっていた。 彼の視界には、前々から怪しいと思っていた人物がいた。 …銀行でその人物の写真を見た。やはり、アンタだったんだな…… そして、中井の視界の左よりの所に黒い大きな金属製の物体があった。 どこかで見たかと思えば、これ、ヘリコプターかよ。 ところでこりゃあ、力づくで決めるのか?見たところ機関銃もミサイルも取り付けてねぇみたいだけどな…
352 :
旅人 :2008/11/15(土) 23:58:09 ID:UaM+b6q20
とりあえず、ここで投下終了宣言を出させてもらいます。 あんまり音ゲーネタは出せませんでしたが、ご勘弁を。 今投下でそれらしきネタは、ギタドラから「ヘリコプター」だけですね。ホントすみません。 この調子だと、あまりネタを盛り込んでいけそうもないかもですが、頑張ってみます。最近そんなのばっかだな…… 次回の投下は11月中に。もう、奥田邸の屋上にいる「迎えの人」はバレバレですね… 文章構成力とか、もっと磨けばよかったですねぇ…という訳で、今日はこれまで!11月中に、また! (>>とまと氏 氏から頂いたアドバイス、それを実践してみています。 効果が出ているかはどうかは自分でも分からないのですが 今後の投下する文章に表れていればいいなと思います。アドバイス、ありがとうございました)
旅人氏乙 クライマックス楽しみにしてます
沈んできたので浮上
355 :
旅人 :2008/11/24(月) 01:08:10 ID:YoHxel6O0
>>353 さん
ありがとうございます。少し前に第三章が書き終わったのですが、
かなりカオスな展開になったと思います。
何がなんだかさっぱり分からない、という展開にはしたくなかったのですが
ギリギリ一歩手前のところで踏みとどまれたと思います。
意味分からん、つまらん、なんじゃごりゃあ!と思わせられる事が出来れば、
僕の負けでもあり、勝ちだとも思っています。いや、どう見ても負けだな…
今晩は、まだEMPをやってない旅人です。
新作は糞糞言われているけどどうなんでしょうね?
削除曲の中に、削除されると聞いて思わず泣いてしまった曲もあるのですが…関係ないですね。
長らくお待たせしました。今回は少ないながらも、投下させて頂きます。
語る事もないので、本編をどうぞ。
356 :
旅人 :2008/11/24(月) 01:10:44 ID:YoHxel6O0
中井が物音をたてたからか、屋上にヘリと立つ人物が中井の方を向いた。 彼の着こんでいるコートが、吹き込む風で少し靡いていた。 眼鏡をかけたインテリ風な男。ビジネスマンってルックスだな。中井はそう思った。 その男は、自ら自己紹介した。自分の置かれている立場を理解していない様子で。 「あぁ、見つかっちゃいましたね。私、○×銀行の支店長を務めております、加藤です」 「知ってる。大人しく捕まってくれ」 「そうはいかないんですよ。私はこれから彼らを迎えに行かなきゃいけない」 このヘリでね、と続けて加藤支店長が言った。 そして加藤がヘリに向けて右足を一歩踏み出したその時、ジャキッと音が屋上に響いた。 「動くな。次に左足を動かしたら死なない程度に数発鉛玉をぶち込むぞ」 中井が脅しをかけるように銃を構えた。この時、彼の脳内で再生されていたのは「poodle」だった。 緊張が彼の頭をおかしくしたのだろうか。全く場の雰囲気にマッチしていない選曲だ。 加藤は頭のおかしくなった中井の質問に答える。その顔に怯えはなかった。 「じゃ、右足で擦って動けば撃たれないんですか?」 「それでも撃つ。とにかく動くな。両手を上げてそれから床に伏せろ」 「……そうするとどうなりますか?」 「俺がお前に近づいて手錠をかける。それから脱出手段を封じたと連絡して、お前らは終わりだ」 「……大桟幕橋爆破未遂事件の、あの彼に協力を頼んだのですか。 全く、警察というのは無能なものですね。撃つ気もないのに物騒なものをただぶら下げていて…」 「その、無能な奴らの一味にお前は命の危険を晒している。デカイ口叩いてないで言われた通りにしろ」 撃てるんですか?と、加藤が中井に言った。日本の警察というのは一発銃を撃っただけでも 色々と面倒になる。犯人を自己防衛のためと言って殺してしまったとしても、後ろ指を指される。 中井も加藤も、そんな事は分かり切っていた。だから加藤は、中井が自分を撃てるわけがない、 もし威嚇射撃で外して撃ったとしても、そうする事が後の多大な面倒を生じさせる事が分かっているのだから 絶対に自分を撃てるわけがない。余裕だ。命の心配をすることなんて全然ない。 そんな事を0.5秒程度で考えた加藤だったが、次の瞬間、前方15,6メートル程先に居る銃を構えた男が 両手に握る古めかしい銃の銃口が火を噴いたのを見て目を疑った。 中井はトリガーを引き絞ったのだ。IIDXの筐体が響かせる爆音なんて目じゃねぇと銃が語った、と中井は思った。 そう、その瞬間に走馬灯やthe trigger of innocenceの銃声の音量を遥かに上回る銃声が屋上に盛大に響き渡ったのだ。 「俺は本気だ。何ならお前の脳味噌をそこにぶちまけちまっても構わねぇんだ。掃除するのは俺じゃないからな」
357 :
旅人 :2008/11/24(月) 01:13:46 ID:YoHxel6O0
銃声に驚いたのか、それとも中井の持つ銃の威力を感じさせる銃声に驚いたのか、 はたまた中井が発砲したという事実に自分のアテが外れた事にショックを受けたのか、 加藤の表情が言葉で言い表せないものになっていた。 言うならば、負の感情が加藤の表情に宿り始めていた…と表現できる。 いや、それでも表わしきれない。そんな加瀬の口が素早く動く。 「ここで貴様のような奴に捕まる訳にはいかないんだ! 私は多額の借金を抱えている、奴の誘いに乗るしかなかった!」 「それが理由になるとでも?」 「うああぁぁああ!捕まえようってんなら殺してやるぞ!人一人殺したくらいで何になる!」 加藤が腰のあたりに右手をあてた。 彼はそこから何かを取り出そうとしているらしいと中井が勘づいた時、 加藤が右手にバタフライナイフを持っていた。昔、何かのニュースで見たような気がすると中井はそれを見て思った。 「ちっ、武器を持ってやがったか」 中井が吐き捨てるように言って、加藤が器用にナイフを回転させてブレード部分を出して構えたのも同時だった。 加藤は普通に持ったナイフできいぇえあぁぁー!と声を荒げながら中井に突っ込んできた。 中井は右に転がり、加藤の突進を避けた。それから加藤が突っ込んだ方へ拳銃を構えた。 ―撃つ。出来れば手足を撃つ。もっと出来ればあのナイフを撃ち飛ばす― バキュゥウン!と一つの銃声。中井は一発加藤に向けて撃った。 すぐにキーン!と金属音が気持良く響き渡り、間を開けてナイフが床に落ちる音が屋上に響いた。 加藤は呆然と自分の右手を見つめていた。先程まで自分の持っていたナイフが銃弾で吹き飛ばされ、 床にカシャッと落ちたのを確認しようとしているらしかった。 その隙を中井は逃さなかった。手錠を取り出しながら加藤を床に押さえつけ、 そして両手首に手錠をかけた。それから、早く誰か来い!と叫びながら携帯電話を取りだした。 …加藤の嘆きと絶望に満ちた叫び声が、奥田邸屋上に響き渡っていた。 小暮は両面テープと手榴弾を使った作業を終えていた。 二階のギャラリースペースと休憩スペースを隔てる白い壁に、一個の手榴弾が張り付けられていた。 その壁の向こう側の近くに人質はいないはずだ…と小暮は踏んでいた。後は中井刑事からの連絡を待つのみ。 町田との通話は、彼女にこの作戦の事を伝えてから切っておいてある。 マナーモードにしてある携帯電話が震え出したら、小暮がその電話に出て、彼の作戦が開始される合図となっていた。
358 :
旅人 :2008/11/24(月) 01:15:28 ID:YoHxel6O0
携帯電話が震えた。直ぐに小暮はその電話に出る。 携帯電話の表示が小暮の思っていた人物であることを表していた。 「中井刑事?」 「ああ。いま、迎えの手段を封じた。 奥田邸の屋上にヘリが隠されていた。それを、支店長が動かそうとしていた」 「分かりました。それでは、こちらも動くとします」 言って、小暮は通話を切ってから休憩スペースへと繋がる扉の前まで移動した。 それから、右手に消音拳銃を持って片手で構えた。 …狙いは、手榴弾を張り付けてある壁だった。 「じゃあ、ここで一旦休憩にしましょうか。あと少しでこの話は終わりますけどね」 小暮はそこまで話して休憩を提案した。談話室にいるメンバー全員がそれに同意して 緊張感からの解放からかふーっと息をついた。 松木が屋敷の使用人に頼んで、人数分のお茶を内線電話で持ってこさせるように指示し、それから続けて言う。 「皆さん、ちょっといいですか?」 どうした、と坂野が聞いて、松木は談話室のTVの方へ歩き出した。 それからテレビを乗せている台の傍らでしゃがみ込み、 テレビ台の中に仕舞ってあるDVDプレーヤーに一枚のDVDを再生させ、そしてTVの電源を入れる。 松木がTVのリモコンで色々操作をしていくと、DVDプレーヤーが出力する映像がTVモニターに流れた。 それは12月17日水曜日に起きた、先程まで町田と小暮が喋っていた白壁襲撃事件を特集している ワイドショーか何かの番組の生中継を録画した映像だった。事件の初期の方から映像は流れていた。 (小暮が屋上から白壁に侵入し終わった頃から生中継されていたようで、 屋上には二人の武装した人間が寝ていながら暴れているのが見えた) 外に響く声ネタの数々、警察の動き等は二人の話の通りに進んでいっていた。 そうそう、さっき話した場面はここなんですよと小暮が解説を入れていた時、談話室の扉が開いた。 白い髭を生やした黒スーツを着た執事風の老人が、湯気の立っている紅茶を乗せた手押しワゴンを室内に入れる。 松木は「石坂さん、ありがとう」と言って、石坂と呼ばれた老人は一礼してから談話室を去った。 それから一分もしない内にドオオオォォンとTVから爆発音が響き、数分経つと白壁の屋上に二人の人影が追加された。 拳銃を構える白壁の制服を着た男と、黒コートを羽織った一種の異様な雰囲気を放つ男である。 松木は、小暮の表情の変化をそこで読み取った。 あまりいい表情ではない。辛い思い出が、あの時白壁の屋上で小暮に深く刻まれたのだと松木は悟った。
359 :
旅人 :2008/11/24(月) 01:18:20 ID:YoHxel6O0
不意に、暗い表情をした小暮が松木に向けて言った。 「何だ、この番組見ていたんじゃないんですか。だったら、事件のオチも分かってますよね?」 「いいえ。僕はこの事件の映像を見るのは初めてです。 その時は仕事でした。ちょっと遠方に依頼があったので……ですが………」 松木が答えてから数秒後、耳をつんざく爆発音が聞こえて映像は暗闇にノイズを流すのみとなった。 五人は耳をふさぎ、驚きの表情でモニターを見つめる。 映像はスタジオを映し、キャスターの女性が中継のアナウンサーに向けて「中野さん?中野さん!?」 と大声を張り上げるのが流れていた。 松木がDVDプレーヤーのリモコンを手に取って停止ボタンを押し、それから小暮に言う。 「ここまでは僕はリアルタイムで見ていませんでしたけど、夜のニュースで繰り返しこの映像が流れていたのを 覚えています。多分、ゆうさんも加瀬さんも。でも、これたぶん小暮さんと…この事件の実行犯 ですよね?これからどうなったかが殆どの人が知らない。2chを見ても、中継が途絶えた後の事は何も分からない。 現場に居た野次馬を名乗る人々の書き込みを見ても、いきなり白壁が消えて、数分後にまた現れたとあるだけです。 もっと言うと…そこに居たすべての人が、白壁が黒い壁のような何かに覆われて見えなくなった。 口裏を合わせたかのように同じような書き込みが複数確認されています。コピペでもしたかのように。 …これって一体、どーゆー事なんでしょうかね?小暮さん?」 町田の名は、映像の中で確認できなかったために口に出さなかった松木は、小暮に話の続きを急かす。 嫌な記憶を掘り起こそうとした小暮は、町田の一言でそれを躊躇った。 「いや、黙秘権っていうのは無いの?だって、あれは結構酷い話だとおも…」 「はい。ないと思って下さい。言ってみれば… 修学旅行とかで宿泊先の部屋で『誰と誰がつきあっている』とかそういう話題って 黙秘権なんかないですよね?強引に喋らされていますよね? 勝手で悪いとは思っていますが、知的好奇心の悪戯です。すみませんが、教えてくれると嬉しいです」 この回答に町田は絶句した表情を見せた。松木に対するイメージがぶっ壊れたのだろうか。 その隣で、小暮は観念したかのように一言、ボソッと呟いた。 「…カー」 松木は、え?と返してもう一度その言葉を、その続きの言葉を待った。数秒間後、小暮が語り出す。 「…ジョーカー。奴が、NO.9って奴を殺したんです。 あの場に居た全てのテレビ局のへりを壊したのも、奴でした。 奴らは秘密犯罪組織のようなものだったと思います。トランプの数字、それがメンバーにつけられていました。 階級は『大富豪』で普通に強い数字の順番が…つまり3が一番下っ端でジョーカーが頂点に立つらしいです。 NO.9って奴がそう言っていました。ハッキリとは言っていませんが。…上手く僕の口からでは説明できないけど……」 そう言ってから、小暮は話の時間軸をずらしてから話を再開させた。 小暮の口調が少し変わった、と松木は感じた。あの日、そこで刻まれた記憶はそれほどまでに凄まじかったのだろう。 事件の核心の少し前について語り始める前に小暮はこう言った。 「最後の壁はあまりにも無邪気に、僕を押し潰しました………」
360 :
旅人 :2008/11/24(月) 01:21:08 ID:YoHxel6O0
いかがでしたでしょうか?これで、今回の投下は終了です。 事件の最後の謎を隠す最後の壁は、小暮探偵をどうするのでしょうか? そして、あの名前を持つ人はいったい何者なのでしょうか? 本当に「あの名前の人」なのでしょうか?…真相は、この章でだけは語られません。 パーティーの終わりまでに、それは分かると思います。 それではこれにて。おやすみなさい。
361 :
M :2008/11/24(月) 15:06:21 ID:oUAHNBHO0
1000円札を100円玉10枚に両替して男はタバコを1本取り出し火をつけた 吐き出した煙は現状の自分の様にふわふわと上に浮いていき消えていく 男のいる場所とは、水曜日深夜0時のゲームセンター 実はこの男、2ヶ月ほど前に3年間働いていた会社を突然クビになってしまった そして実家の親に泣きついて今はお小遣いをもらいながらグウタラと生きる、ニートになってしまっている そんな今の自分を「やり切れない」と思いつつも、ゲームセンターというこの場所で現実逃避をしていた いつもの様にスロット、エヴァンゲリオンの台を回していた男はやり切れない顔で2本目のタバコに火をつけた 丁度その時、大きな声が男の体を震わせた 一体何が起こったんだ?と思い男はスロットのクレジットを早々と消費し騒ぎが起きている場所へと向った そこはゲーセン内でも一層薄暗い場所になっていて、大きな音が耳をキンとさせた ここには音ゲーと呼ばれているゲームの類がここに集中して置かれている そして多くの人だかりの中心に座っている女性に目を向けた
362 :
M :2008/11/24(月) 15:07:03 ID:oUAHNBHO0
男性は画面の上から落ちてくる光の様な雨を持っているスティックで目にも止まらぬ速さで叩いていた まるで流れるような動きに男は目を奪われ心を躍らされた そして自分と同じ様に、そこに集まっていた人達もジックリと男性の動きに見惚れていた そして音楽が終わると、その女性は観客達と多少会話をして、また新しく曲を選び人々を魅了していった 男は「凄い」という気持ちと「羨ましい」という気持ちが二律相反していた 自分と女性を比較してしまい、自分という存在がとても劣悪でしょうもない物に思えた 男「(俺もこのゲームが出来たら、皆の中心の中で笑えるのかな。あの人みたいになれるのかな?)」 女性「あの、すいません。並ばれてますか?」 男「──へ?」
363 :
M :2008/11/24(月) 15:07:37 ID:oUAHNBHO0
考え事をしていた男は、演奏を終えた女性が自分に近づいてきているという事に全く気づいていなかった そして突然声を掛けられて焦っていたという事もあって男はつい「あ、はい」と言ってしまった 女性「どうぞ〜」 男の頭の中は真っ白でロボットの様な動きで男性がさっきまで座っていた椅子に座った もちろんさっきの男性を見ていたギャラリー達は今、自分という存在を注視している いくらなんでも突然すぎた、やった事もないゲームをこれだけの人に見られているのだ しかし男は「(どうにでもなれ!!)」と思い100円を入れる場所を探し当てスルリと穴の中に押し入れた お金を入れても全く画面が変わらない事に男は内心ドキドキしていた そしてしばらく経った時 女性「あの〜このゲームをやるのは初めてですか?」 男「は、はい。そうなんですよ……」 女性「まずはここを押すんですよ」 男は教えられた場所をスティックで弱弱しく叩いた、そしたら画面が変わり軽快な男の声が流暢に流れた その後も女性に最初はビギナーモードがいいと教えられ、その通りに進み曲を選ぶ画面らしきものが出た 女性「好きな曲をここで選ぶんです」 男が疑問に思ったり分からない事があったら、女性は親切に教えてくれた 男はおぼつか無い手で「天体観測」を選んだ
364 :
M :2008/11/24(月) 15:08:15 ID:oUAHNBHO0
そして落ちてくる音目掛けて、スティックを振った まるで男の中で何かがぶっ壊れた気分だった、情けない自分の事も会社をクビにされた事も天体観測が流れてる間はなくなっていた 夢の様な時間は終わり、100円分を楽しんだ所で椅子から立ち上がり女性にお礼を言うと、心臓の高まりを抑え切れないままにその場から離れた ──俺は出会ってしまった、ドラムマニアに 次の日も同じ水曜日の時間帯にゲームセンターに赴きドラムマニアで遊んだ その次の水曜日も、次の水曜日も次の水曜日も次の水曜日も…… しかしいくらその時間帯のドラムマニアでプレイしていても、あの女性と出会う事はなかった 自分でも上達した、という事は目に見えて分かっていた。そしてそんな自分を女性に見てもらいたいと思った いつの日か女性と自分が肩を並べてドラムマニアをやれる日がくるだろうと男は信じていた
365 :
M :2008/11/24(月) 15:08:49 ID:oUAHNBHO0
それから3年という月日が経ち男は新しい職場にもまれながらも充実した人生を過ごしていた 上司「よう、今日は呑みに付き合えよ」 男「いや、今日はすいません。用事があるんですよ」 上司「なんだよ、付き合い悪いじゃねーか」 男「あはは、また明日呑みに行きましょうよ」 上司「ったく、分かった分かった。また明日な。お疲れさん」 男「お疲れ様です」 頭を下げた男はいつもの場所に向った 水曜日の深夜2時ドラムマニアの前に 男「よう、皆頑張ってるな」 男性A「お、やっぱり来たな」 男性B「しっかしお前は水曜日のこの時間にはいっつも来るんだな」 男「まぁな、さてやるか」 カバンの中から2本のスティックを取り出し100円を機械に押し入れる 男性A「しっかしお前も上達したよな、昔は俺と同じ位だったってのに」 男性B「今じゃお前より上手い奴を見つけるのも苦労するよ」 男「そんな事ねーよ、俺だって一生かけても越えられない存在ってのがいるんだ。 ずっとその人の事待ってるんだけどな」 そして男は選曲をして決定する 男性A「またその曲か?上達しても1曲目にそれやるのは変わらないんだな」 男「ほっとけ」 そして水曜日深夜0時のこの場所で俺は彼女を待ちながら天体観測を開始する
366 :
M :2008/11/24(月) 15:10:23 ID:oUAHNBHO0
投下終了です 見てくれる人いたら嬉しいです
>>366 乙と言いたいところだが、まずsageで書き込んでほしかったですな。
内容は良い感じだと思います。
ですが鍵括弧の中に括弧を入れたり、台詞の前に名前を書くのは余計かと。
文章の流れからどれが誰の台詞なのかは十分にわかりますしね。
携帯小説等は台詞の前に名前を書いたりしますが、あれは文章としては特殊な部類ですからね…
話の作りは良いと思うので、次の作品を期待しております。
旅人氏もM氏も乙でした。 >旅人氏 ここから謎の男No.9が絡んでくるのかな。 話がすごい方向へ膨らんでいきそうですね。 ただ、やはり少し自分の世界に入り込み過ぎてしまっている感があるかな? もっと客観的に作品と向き合って製作するとより良くなると思います。 同じ立場にも関わらず、偉そうにすみません。次回も頑張って下さい。 >M氏 面白かったです。 天体観測の歌詞と内容がリンクしてるのが良いですね。 「はじめようか天体観測、二分後に君が来なくとも」……ってことなのか、切ない。 さて俺も、あとで続きを投稿します。
369 :
M :2008/11/24(月) 23:15:10 ID:oUAHNBHO0
>>367 すいません、sageておくべきでした
鍵括弧の中に括弧を入れたり台詞の前に名前を書くのはいらないんですね、勉強になります
読んでくれてありがとう
>>368 ちゃんと天体観測の歌詞に糸づけて読んでもらえて本当に感謝です
この曲は自分としては思い出の曲なんですよ
この話はほとんどフィクションですけど、本当の所もあるんです
俺はその女性を今でもドラマニをやり続けて待ってるのかもしれませんね
作品と言われて嬉しかったです
こういう物語を書くのは初めてだったけど、とまとさんの物語を見て自分も書きたいなと思ってやりました
これからのとまとさんの書く作品を俺も楽しみにしてます、頑張ってください
>>M氏 うぁぁ、そんな風に思ってもらえるとは大変恐縮です。 ありがとうございます。 今後もご期待に沿えられるように頑張りますんで、 そちらの次回作にも期待してます。 ではあらためまして…お久しぶりです、とまとです。 先週はいわゆる作者急病(笑)により休んでしまいました。 皆さんも風邪には気をつけて下さいね。 それでは、「トップランカー殺人事件」続きです。 よろしくお願いします。
「中高生って、オトゲ先輩そりゃちょっと」 突拍子もなさ過ぎです、と空気が否定的な決まり文句を放つより先に、 乙下は開いたままのメモ帳を彼が運ぶ自転車のカゴへ放り投げた。 乙下の角張った筆跡が並ぶそのページを、 空気は上から覆い被さるようにして読み上げる。 「生ゴミ、社会のガン細胞、うんこ製造マシーン……これって確か」 「うん、店長からの事情聴取で聞いたキーワード。 犯人は脅迫電話の中で、店長や客のゲーマーをそんな風に罵ったらしい。 どう思う?」 「どうもこうも、ふざけてるとしか言えないっすよ」 乙下は空気の喉元を目掛けて、一直線に人差し指を伸ばした。 「そう、それ。『ふざけてる』。 犯人は子供を誘拐してその身柄を盾に一億円を要求するという 言い逃れようのない立派な犯罪を犯している。 その割には発言の随所で、まるでこれが一種の悪ふざけであるかのような 幼稚さやナンセンスさを感じさせるんだよね」 「だからって、一概に犯人が中高生だとは限らないんじゃないっすか?」 「でも大の大人がうんこ製造マシーンはねぇだろ」 「まぁ大の大人がうんこ製造マシーンはないですね」 乙下はたった今組み上がったばかりの推理を空気へ披露しながら、 同時に自分自身へも言い聞かせる。 それにより、頭の中で考えを自然と整理させていく。 犯人の発言は幼稚でナンセンスだ。 単語の幼稚さは言うまでもないし、 加えて理屈のナンセンスさも際立っている。 ゲームの存在が社会をダメにする、 だから店長は罪人である、 よって店長は償いとして一億円を支払わなければならない。 ソクラテスも驚きの異次元論法だ。 風が吹けば桶屋が儲かることの方がまだすんなりと納得出来る。 まるで横断歩道の白い部分だけを渡り歩くかのようなナンセンスさ。 なぜ犯人は店長に対し、このナンセンスな理屈を片手に糾弾して迫ったのか。 乙下は逆に考えた。 「空気さ、お前さっき横断歩道の白い部分だけ選んで歩いてたけど、 あの行動に何の意味があるわけ?」 「えぇ、そんなことしてたっすか?」 空気は顔を赤らめている。 「何となく……っすね。 別に意味は無いけど、つい面白くてやっちゃうんすよ」 「この犯人も同じことだ」 「え?」 答えは簡単だ。 「面白いから」、それに尽きる。
「ヤツは『わざと低脳な口ぶりで犯罪をしでかすこと』、 それ自体を面白がっている節があるように思えてならない」 「……どういうことっすか?」 「俺も最初から言ってたように、どうもこの犯人からは 本気で店長から金をかすめ取ってやろうという魂胆が微塵も感じられなかった。 だから犯人の目的は金以外の場所にある、そう思っていた。 今ようやく、金じゃないのなら何なのかが分かったよ。 犯人は無意味で幼稚な言葉を振りかざして、 社会的な規範や道徳を踏み潰すことに快楽を感じていたんだ」 「つまり、この脅迫事件は愉快犯ってことっすか?」 「有り体に言えばそうなる。 犯人は本気で一億円が手に入ることなど期待していなかった。 むしろ、安直で現実感の伴わない『一億円』という金額を 澄ました顔で提示することそのものを楽しんでたんじゃないかな」 「楽しんでた……」 空気はメモ帳を覗き込んだままの姿勢で、棒読みをするように言った。 乙下の推理が想像を超えたものだったのか、 空気の目はまるで地面を通して 地球の反対側を眺めているかのように虚ろだ。 「ただし、全てが愉快犯的な動機なのかと言えばそうでもない。 この犯人、確かに一億円を奪い取るつもりはなかったかも知れない。 ところが別のモノはしっかりと奪って行った」 「200万円!」 「そういうこと。 犯人の狙いは絵に描いた餅の一億円なんかじゃない。 最初から、シルバーの金庫の中で 現実に存在している200万円が彼らのもう一つの目的だったんだ」 ところどころで頷きながら乙下の推理を聞いていた空気は、 そこで首の動きを前に倒すのではなく、横に傾げる方向に変えた。 「……彼『ら』?」 「まぁ、これはあくまで俺の想像でしかないんで 参考程度に聞いて欲しいんだけどさ」 乙下は長い説明に備えて唾を飲み込もうとしたが、 乾いた喉にあっては口の奥の筋肉が上下に蠕動しただけであった。 声が出しにくいのを辛抱し、 乙下は一つ咳払いをしてから語り始める。
「まずはどうして俺が犯人を中高生だと推定したのか、って話からな。 さっき言った通り、犯人はわざと稚拙な言葉を使って 挑発的に一億円の要求を迫った。 この時点でヤツの精神年齢の低さが自ずと見えてくる。 だが、犯人の口調にはもう一つ見逃せない特長があるんだよ。 分かるか?」 さっぱり分かんないっす、と、空気はいつものように 敬意の欠片も感じられない若者流の敬語表現を使う。 「それを言うなら『分からないです』だろうが。 何度言ったらお前はまともな敬語を使うようになるんだよ、このバカ」 「申し訳ないっす……じゃなかった、申し訳ありませんでした」 「こりゃ一生直んねぇな。 お前、少しこの犯人を見習った方がいいんじゃないの」 空気は口に手を当て、そのまま一拍だけ置いてから言った。 「もしかして、犯人の特長ってそれのことっすか?」 「よく気付いた。 ヤツの口調は終始『過剰なまでに丁寧な敬語』、これを忘れちゃならない」 これも店長との長い事情聴取の中で得た情報だった。 例外の無いですます調。 尊敬語と謙譲語の正しい使い分け。 客商売を長く続けてきた店長が耳にした限り、 ほぼ完璧な敬語表現を使いこなしていたというのだ。 つまり、「生ゴミ」や「うんこ」等の 実に汚らしい表現を好む一方で、妙に紳士的な文末。 この異様なギャップをどう捉えるかだ。 「なんかさ、この犯人って反抗期のガキが 思い切りバカになりきるのを楽しみながらも 懸命に背伸びして大人ぶってるような、 そんなちぐはぐな印象を受けない?」 「……あ、それって」 空気は指をパチッと鳴らした。 「それ、いわゆる『中二病』っすよ」
「中二病?」 「ネットでは今オトゲ先輩が言ったような雰囲気の人に 『中二病』ってレッテルを貼って貶める風潮があるんすよ」 「へぇー」 乙下は中二病なるスラングを初めて知ったが、 説明されずともその言葉が纏うニュアンスは そこはかとなく窺い知ることが出来た。 何せ乙下自身が「中高生らしい」と判断した性質に、 ご丁寧にも「中二病」という名前が付いていたのだ。 概念に名前があることを知ったというただそれだけで 世の中が味方をしてくれているような、 そんな錯覚に身を預けてしまいそうになるのを堪え、 乙下は推理の続きに戻る。 「とにかく、こいつすごく中高生っぽいんだよね。 幼稚で汚らしい表現とは言え、小学生のように単純ではない。 『社会のガン細胞』にしろ『うんこ製造マシーン』にしろ、 きちんと俗世への皮肉で一捻りしてあるっていうのかな。 ある意味では、なかなかウィットに富んだブラックジョークともとれる。 そこへ丁寧な敬語表現をミックスすることで、 より馬鹿馬鹿しい犯人像をキャラクタ的に仕立て上げている。 この辺も小学生の犯行にしてはかなり高度だ。 かと言って、逆に18歳以上の大学生や社会人の犯行って線で考え出すと 今ひとつしっくりこない。 やはり全体的に隠しきれない背伸び感みたいなのが滲み出てるし、 何より大人の考えたことにしてはイタズラっぽ過ぎるよ」 「イタズラ、っすか……」 そう、これはイタズラなのだ。 思春期の自意識過剰な少年達が寄り集まって ふざけ合いながらイタズラをしでかしている、 そういった光景が乙下の脳裏に描かれた。 「だからさ、どっかの捻くれたガキが一人で黙々と犯行に挑んだってよりは、 複数のアホなガキ共が揃って万引きするようなイメージっつーか。 赤信号みんなで渡れば、みたいなそんなノリじゃない?これ」 「うんうん、段々そんな気がしてきたっす」 「そう考えれば金庫の200万円が狙いっていうスケールの小ささも、 中高生の犯行ゆえってことで筋が通る」 今にして思えば、金庫の中身を全額奪わずに50万円だけ残したのは、 子供達が持っていた最後の良心だったのかも知れない。 乙下がそう思い至ったところで、隣の空気が大きく息を吸い込んだ。 「さーっすがオトゲ先輩! そこまで真相が分かっちゃうなんて、マジで神過ぎっす!」 空気は1046の神業プレイを目の当たりにした時と同じ恍惚の表情で、 惜しみのない賞賛を送ってきた。 乙下は少し居心地が悪い。 「いや、あのさ。 これはあくまでプロファイリングだから。 要するに全部俺の想像なわけよ。 プロファイリングなんて聞こえはいいけど、 これがまた当てにならないんだって」
「んー、それもそうっすね。 やっぱり中高生が犯人だなんて無理がありますもん」 空気はあっさりと態度を翻した。 こうなるとまた別の居心地の悪さがある。 そんな微妙な心境の乙下を気遣う様子もなく、空気は空気なりの意見を述べた。 「今の話、アイデアとしては面白いんですけど、 BOLCEが殺されたことについては全く触れられてないじゃないっすか」 「……だよね」 非常に痛いところだ。 乙下の新しい推理は、肝心要であるはずの 「BOLCE殺害」という要素がすっぽりと抜け落ちていた。 「オトゲ先輩の言うように 脅迫事件と窃盗事件が中高生のイタズラの延長だったとして、 さすがに殺人事件は洒落じゃ済まないっすよね?」 「うーん、例えばだけど、彼らも最初はBOLCEを殺すつもりじゃ無かった。 けど、不慮のいきさつでBOLCEに犯行現場を目撃されてしまい、 勢い余って殺してしまった……とか?」 自信の無さから、乙下は語尾の音量を段々と小さくしていった。 それもこれも、思わず口をついて出たのが 当初の乙下の推理と矛盾するものだったのだから無理もない。 犯人の目的はBOLCEの殺害。 どんな理由があるのかは分からないが、 店長への脅迫や200万円の窃盗は、BOLCEの殺害に付随する二次的な犯行。 当初乙下はそう確信しており、 これは店長に対して自信を持って話した内容でもあった。 ところが、たった今プロファイリングにより編み出された乙下の新しい推理では、 犯人の目的はまず店長への脅迫と200万円の窃盗がありきで、 BOLCEの殺害はこれに付随する二次的な犯行というシナリオだった。 譜面にミラーオプションをかけるがごとく、内容が完全に反転してしまっている。 自分の一貫性の無さに目が眩みそうになる乙下へ、 空気は追い打ちをかける。 「それじゃ、1046についてはどうなんすか? 1046は24歳っすよ。 別段精神年齢が低いようには見えませんし、 犯人が中高生であるって推理と1046犯人説は絶対に両立しないっす。 1046はやっぱりこの事件とは無関係だったってことっすか?」 「……」 乙下は言い返せない。 これまでの捜査結果を振り返るに、 1046がクロである可能性を一切排除したとしても、 彼が事件と無関係の人物だとはどうしても考えられなかった。 すると、犯人は中高生であり なおかつ1046も何らかの形で事件に関与している、という話になるのだろうか?
――キリがない。 乙下は足を止めた。 目を閉じて、そのままハンカチで額の汗を拭う。 胸のざわつきが収まらない。 巨大な樹形図の迷路を当てもなく走り彷徨う。 「無限の可能性」というフレーズは 未来ある若者にとって希望そのものに違いないのだろうが、 困難な事件に相対する刑事にとっては絶望そのものだ。 それこそシラミ潰しをするように真実を追いかけても、 その影を踏むことさえ叶わない場合もある。 やがて巨大な樹形図はその枝葉を伸ばし、 乙下の手足を雁字搦めにする。 動けない。 乙下は少し疲れていた。 いつの間にか、思考回路は推測と事実の狭間で 辻褄合わせをする作業だけに没頭していた。 まるでそれ以外の機能を忘れてしまったかのように。 そんな自分に疲れていたし、そうならざるを得ない現状に疲れていた。 乙下は目を瞑ったままぼやく。 「あーぁ。やっぱ駄目かな、中高生犯人説」 「いや、駄目とは言わないっすけど……。 推理自体が的外れでも、 意外とこれをきっかけに捜査が進んだりするかも知れませんよ」 「だといいけどさ。 まぁ、どっちにしろこの推理はお蔵入りにする」 乙下は捜査の妨げにならないよう、 推測で推測を塗り固めただけの疑わしいプロファイリング結果である 「中高生犯人説」を潔く破棄することに決めた。 でも本当にこれでいいのだろうか。 この推理が何か重要な真実を含んでいるような、 そんな予感が乙下にまとわりつく。 しかし、乙下は勇気を出してその最後の引っ掛かりを断ち切るのだった。 そうしてからゆっくり目を開けると、 立ち止まった乙下の前で、空気が優しげに目を細めていた。
「でも先輩。 結果的にはオトゲ先輩の狙い通りになったんだから、 これはこれで良かったじゃないですか」 「何がよ」 「ほら、元はと言えばオトゲ先輩が 『まっさらな視点で考え直そう』って言ったんじゃないっすか。 ある意味、その部分については成功ですよね」 「……そう言えばそうだな」 「この調子で新しい視点から推理していけば、 その内真相にぶつかるような気がしません? ボクはそんな気がしますよ」 何気無い部下の一言は、呆気ないほど簡単に乙下の胸のざわめきを晴らした。 今まで何を思い悩んでいたのか不思議になるくらいに、 空気の根拠無き自信が乙下の心へ溶け込んでいく。 「そう簡単にいくかよ、バーカ」 「ひっでぇ、ボクちょっと良いこと言った気がするんですけど! そこは素直に感謝するとこだと思うんですけど!」 乙下は再び歩みを進め、立ち止まっている空気の横を抜き去った。 その瞬間、乙下は誰にも聞こえないよう注意して「サンキュ」とだけ呟いたのだが、 わざわざ小声にするまでもなく 乙下の囁きは空気の素っ頓狂な大声に掻き消された。 「オトゲ先輩!もし仮に。仮にですよ」 何事かと振り返ると、空気が怪訝そうな目つきで前方を真っ直ぐに見据えていた。 「もしオトゲ先輩の言うように、この事件の犯人が中高生だとしたら……」 「おいおい、その推理は封印したばかりだろ」 「いや、仮にですって。もし仮に犯人がそれくらいの年齢だとしたら」 空気はその表情を崩すことなく、顎を僅かに前へ突き出した。 「例えばあんな感じっすか?」 空気の顎で示された方向を見やると、そこは紛れもなく 事件現場となったアミューズメント・シルバーその場所であった。 入り口に「営業停止中」の張り紙が貼られたその建物は、 周囲の空間から取り残されてしまったかのように暗く佇んでいる。 そして、シルバーの前で屹然と立っている一人の少女。 暗い店内をじっと見つめたまま、ただただそこに立ち尽くしている。 その表情は、今のシルバーに勝らずとも劣らないほど暗く沈んだものに見えた。 「……あの娘、さっきからずっといるんです。 ボク、先輩に言われてABCとシルバーの間をチャリで何往復もしましたけど、 その間もずっとあそこにいたんです」 to be continued! ⇒
今週はここまでです。 レス数もようやく100を超えて、 自分でもよくこんなに書いてるなぁと感慨ひとしおです。 さて、構成の関係でだいぶ遅れましたが このトップランカー殺人事件においてもようやくヒロインが登場します。 この女の子がどう物語を動かすか、次回もお楽しみ下さい。 それでは。
379 :
M :2008/11/25(火) 22:00:42 ID:TlRk2C9d0
>>378 新しい登場人物が現われましたね
立ち尽くしている少女ですか、儚げなイメージで興味が沸かされます
この少女が事件の真相にどんな影響を与えていくかって点が気になる所ですね
380 :
旅人 :2008/11/26(水) 00:37:22 ID:sMmNApaD0
>>M氏 良い話をありがとうございます。 蛇足ですが、僕は今まで天体観測が大っ嫌いだったのですが、 このお話のおかげでその態度を改められそうです。その意味でもありがとうございました。 もし次回作があれば、それを期待してます。 >>とまと氏 ここにきて新キャラ登場ですね。 事件のカギを握るキーパーソンなのでしょうか? 次回も楽しみに待ってます。 客観的に自分の作品に向き合って制作に取り組む… これ、今後の僕の目標になりそうです。結構これ、難しいような気がしますね。 でも、皆様に良いものを読んでいただけるように頑張ります。今後ともよろしくお願いします あと、お体を大事にしてくださいね。 僕は今、軽い風邪をひいちゃっているので…北海道寒すぎですよ、あぁ寒い。 今晩は、旅人です…が今日は投下できそうにありません。投下は来週あたりになりそうです。 完成した第三章ラストの手直しとか個人的な事情とか色々です。そんだけです。それでは。
381 :
M :2008/11/26(水) 23:04:57 ID:8qF2EDM80
夕方になり学校が終わった生徒達が集結するゲームセンターは活気づいていた 格闘ゲームをするもの、スロットをするもの、クレーンゲームで景品を奪取しようと躍起になるもの いろいろな人たちが自分の目的の為に有り余った情熱を惜しげもなくフル活用している そしてその中にいつもの見慣れた少年二人がドラムマニアの前に立っていた
382 :
M :2008/11/26(水) 23:05:51 ID:8qF2EDM80
「お前先にやっていいよ、俺はタバコ吸うで」 「……分かった」 友達は100円を入れた 1曲目に『創聖のアクエリオン』のアドバンスを選んでゲーム開始 いつもの様に何て事はない場所でMISSやPOORを連発させてギリギリでクリアする友達を見て俺は満足な顔をした 俺のドラマニ歴は3年、友達は2年って所。友達にドラムマニアを教えたのは俺だった そして自分より数段下手な友達のプレイを見て俺は自分は上手いとモチベーションを上げるのはいつもの日課だった 「あちゃ〜ギリギリでクリアした〜」 ぜぇぜぇ肩で息を吐いている友達を内心、お前はずっとそのままでいいんだよ、と思いつつ悔しそうな顔を作った 「おいおい〜前は楽にクリアしてたじゃん?そんなんじゃいつまで経っても俺に追いつけないジャン」 「いや、お前に追いつくなんて無理だろ……」 とことんコイツは俺を喜ばせる言葉を言ってくれる 「そんな事ないよ、たった1年の差なんて才能でどうとでも越える事ができるんだからさ」 「俺には才能なんてないんだよ、お前みたいにな」 友達は2曲目に「カルマ」の黄色を選択、まぁ友達の腕前に合ったいいヘボ譜面だろうと思った 案の定友達は四苦八苦と見苦しい醜態を晒し、いつもの様に100円を消化させた
383 :
M :2008/11/26(水) 23:06:38 ID:8qF2EDM80
「交代だぞ〜」 「おう」 俺はまるで自分が神様かの様に思えてきた。腕、手首、足、体、全てが軽くなった よし、できる……そう思って1曲目「恋は臆病」の赤を選択 「すげ〜〜」 プレイ最中の友達の声に満足しつつ俺はこの曲をクリアした ランクSの81%、やった!!自己ベストだ!! 「流石だな」 「どうも(笑)」 今日は幸先がいい、俺は更なる高みへと登っていくぞ
384 :
M :2008/11/26(水) 23:07:21 ID:8qF2EDM80
そして人がいない事を確認しつつも二人は交互にドラムマニアをプレイしていった そして俺が携帯の時計を見てみると、スデに時間が夜の8時を超えている事に気づいた 「あれ、もうこんな時間だ。そろそろ帰ろうぜ」 「あぁうん、そうだな」 「しっかしお前なぁ、カルマのアドバンスで死ぬなんて情けないにも程があるぜ?」 「……すまん」 「いや、謝る事はねーけどさ。もっと俺みたいに手を早く動かせないものかね〜」 俺はマイスティックをバックの中から取り出し空中で高速に振った 「こうだよ?まぁお前には難しいかもしれないけど俺にとったら当たり前の事だからな(笑)」 ますます俺は調子に乗っていた、そして後ろにいる少女の存在に気づいていなかった
385 :
M :2008/11/26(水) 23:08:08 ID:8qF2EDM80
「ねぇそこどいてくれない?」 慌てて後ろを向くと、年は14歳位だろうか……背の小さい少女が俺をキッと睨んでいた 俺は一瞬ゾッとした気持ちになったが、よくよく考えれば相手は女、それも子供だ 「あぁごめんね、お嬢ちゃん。ちょっと友達にドラマニのやり方を教えてたら熱くなっちゃってさ(笑)」 ササァとオドケタ顔を作って俺は後ろへと軽やかに退いた もう話は終わりだ、友達を連れてさっさと帰ろう そう思って出口へと向おうと思った、その時 「何が教えるよ?貴方がその人にドラムマニアを教える腕を持ってるのかしら?」 俺は驚いて少女の方を見た、何を言っているんだこの子は。 「その人ってこいつの事?」 俺は隣でオドオドしている友達を指差すと少女はコクッと頷いた 「いや……こいつに教えれる位の腕はあるつもりなんだけど、お嬢ちゃんには分からないかな、難しくて」 「貴方も頭が悪いわね、貴方よりもその人の方が数段ドラムマニアが上手いって言ってるのよ」 何なんだこの急展開は、どうして俺はこんな小さい少女に突然こんな事を言われているんだ? 段々今の状況にイライラしてきた俺は口調を優しくする事を忘れてこう言った 「ドラムマニアもやった事ないガキが何を生意気な事を言ってるんだよ?何も知らないくせによ」
386 :
M :2008/11/26(水) 23:08:37 ID:8qF2EDM80
少女はクスッと笑うと100円を押し入れた まさか、できるのか…… 少女は自分のカードを入れる事なく、そしてマイスティックの準備もせずに曲選択画面まで進んでしまった なんだやっぱりガキのコケオドシか、オトバでもいいから10台位クリアして楽しませてもらいたいものだ 俺は少女が下手糞な腕前を披露した後に自分のプレイを見せつけてやる光景を頭の中に思い浮かべた やばい、最高、いいよ、面白い、悔しがるだろうか、驚くだろうか、尊敬するだろうか、泣いちゃうだろうか 俺は友人以上の餌を見つけたつもりだった この少女は俺の餌だ
387 :
M :2008/11/26(水) 23:13:34 ID:8qF2EDM80
>>旅人 天体観測がちょっとでも好きになってくれたならとても嬉しいです それと風邪をひいているっていうのは厄介ですね、お大事に 旅人さんの作品もとても楽しみにしているので頑張ってください 今日はこの辺で終わっておきます 今回も1回で終わらせるつもりだったんですけど書いてる途中で段々と物語が浮かんできちゃいました そしてもうちょっと引き伸ばす事にしました 自分の中では投げ出さずに最後まで作り上げよう、と思っています ではまた今度
なんとなく保守
保守代わりの感想を。 M氏の今回のこの作品、とても次回が気になりますね。 何か変な考え方をしている主人公とその友人、 そして謎の少女がどんな物語を展開させていくのかがとても気になります。 ボキャブラリーが貧弱なもので、ロクな感想は書けなかったけど、次回を楽しみに待ってます そうそう、この話の題名って何ですか? 前の話のも題名がなかったので少し気になって…よろしければ教えてください。
>>389 まとめwikiにタイトル無しの作品が保管される場合、管理人が(仮の)タイトルを付けるみたいだから、
wiki管理人に任せてしまうという手もあるにはあるね。
391 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:21:43 ID:J7jv/Up20
>>M氏
おぉ、これはとても先が気になる…
主人公のひねくれ具合が半端じゃないですね。続きを待ってます!
今晩は、旅人です。
スレ違いの話ですが、先刻、僕がとても楽しみにしている、
やる夫がDDRの最高難易度「10」に挑むようですが完結しました。
この話はとても凄いと思いました。僕は絶対、あんな素晴らしいものは作れないと思います。
今回でやっと第二章から続く白壁占拠事件が解決します。
ラストに凄惨なシーンがあります。軽くnice boat.かも知れませんね。
>>187 さん、すみません。
こういうシーンは、書き手としては一番神経を使う所で、話の辻褄合わせとかより辛いです。
フィクションとはいえ人を殺してしまう訳ですから。クロスワードの時も辛かったですね。
ここでそのシーンの解説をしても興ざめですので、さっさと本編を投下します。
392 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:25:49 ID:J7jv/Up20
小暮は壁に貼り付けた手榴弾に狙いを定めている消音拳銃のトリガーを引いた。 狙いは正確だった。壁が直後に爆発したことがそれを証明する。 直ぐに小暮は袋から閃光拳銃を取り出し、素早くトリガーを引いてから ガラス張りの休憩スペースの扉に思い切りぶつけるように投げ込んだ。 ガシャーン!と盛大にガラスの割れる音がした後、 手榴弾が開けた穴と穴の開いたガラス張りの扉からギャラリースペース側に強烈な光が漏れ、同時に 「キキャアアアアァァアァ―――!!!!」 と形容するに相応しいIIDXRED初出の楽曲、「GENOCIDE」のスクラッチにアサインされた印象的な音が小暮の耳を劈く。 出だしは作戦通りだと内心ニヤリとしながら、 耳をふさぎつつ小暮は手榴弾で開けた壁の穴から休憩スペースに侵入した。 休憩スペースは、人質達のパニックに陥った声で満たされているだろうと小暮は思っていたのだが、 爆音のせいか人質達はあまり声を上げていなかった。 小暮は侵入した後、消音拳銃をアメリカのアクション映画の数々のシーンを思い出しながら そんな感じで消音拳銃を構えて、手近な脚の細い半径一メートル弱の円形のテーブルに飛び乗って叫ぶ。 「お前ら!両手を上げろ!さっさと降参して人質を解放しろ!さもなくば撃つぞ!」 光が起こしたモヤが霞んできた頃には、二人の人間が両手を上げているのが視認出来た。 一人は武装集団の格好をしていた。ちゃんと腰にホルスターと拳銃を装備しているが、 もう一人の黒コートの男は武装している雰囲気がなかった。 恐らく、コートに投げナイフか何かを仕舞っているに違いないと小暮は警戒した。 それが原因か、小暮は無意識に拳銃を握る手に更に力を込めていた。 どうでもいい事だったが、一人だけ突撃銃を腹で下敷きにしていた。爆音で気絶してしまったのだろう。 武器を捨てろ!と小暮は怒鳴った。黒コートは何も取り出さない。本当に丸腰かどうかは分からないが、 自分ののとる行動次第で危険度は変わるだろうと小暮は考えた。 今のところ、危険度は低い。いや、こういう事には小暮は素人だから本当はどうか分からないが… もう一人の男は、腰につけている手榴弾をそっと床に置こうとしたが、 「違う、外に捨てろ!」 小暮の指示で、ピンが抜かれていない手榴弾が、手を上げている武装兵の手によってギャラリースペースに転がった。 次に男は拳銃の入ったホルスターを取り出し、それも小暮の指示でギャラリースペースに投げられた。 それを見てから小暮は銃を構えながら携帯電話で町田と通話、彼女に休憩スペースに来るよう指示した。 それから、町田が来るまでの時間はかなり長く感じた。1秒が1分、1分が10分…10分が30分……… しかし、30秒も経たない内に町田はガラス張りの扉から休憩スペースに入ってきた。 少し息を弾ませながらも町田が小暮に聞いた。 「で、どうするの?その人達が犯人?小暮君、銃持っているけど、撃つの?」 「すみません、あの犯人達をこの袋に入っている手錠とかロープで動きを封じてください」 分かった、と町田は返して袋から手錠二つとロープ数メートルを取り出した。 小暮は目で「彼女に何かしようものなら撃つぞ」と二人に睨みつけた。 そう、小暮はそんな意思を込めながら二人を睨みつけていたのだが…… 「分かってる。もう俺達は終わりだってね。だから、そんな心配をするなよ」
393 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:29:43 ID:J7jv/Up20
黒コートの男が小暮に語りかけてきたのだ。 何ぃ?と態度の悪いイントネーションで小暮は返答する。しかし、その言葉には 「何でそこの…その黒コートのアナタ、何で僕の思っている事が分かった? もしかしてエスパーとかって奴?又は超能力者?一体何者?えぇ、何これ何これ何これ……」 と混乱に満ちた疑問が込められていた。黒コートの回答は、フッという笑みだった。 最後の武装兵も例の睡眠ハンカチで眠らされてから縛られた。町田の作業は、黒コートの男を残すのみとなった。 「さ、悪党!ちゃっちゃと眠っちゃいなさい!」 と、町田は黒コート男の後ろから鼻にハンカチを押し当てた。 しかし次の瞬間、町田の鼻にハンカチがあてられていた。町田は自分で自分を眠らせようとしていた。 自分の行為に対する驚きの顔を見せながら、町田はがくりと頭を垂れ、両膝を床につき、そして何の抵抗もなく 自ら前のめりに床に倒れこんだ。町田の顔は苦痛に歪まず、寝息と共に安らかな寝顔をたたえていた。 そんな顔と正反対に、小暮の顔は驚きと焦りで埋め尽くされていた。 先程まで銃口を向けていた黒コートの男が消えたからだった。そして、後ろに何者かの気配を感じ取ったためである。 バッ!と擬音がつきそうな位に振り向きながら、小暮は町田が倒れている方に跳んだ。 ……まさか、奴は後ろに? 小暮の予想通り、小暮がいた所の背後も背後、そんな所に黒コート男は立っていた。 テーブルを挟んで小暮と黒コートが対峙した。 休憩スペースに緊張が走るのを感じてか、人質達はもう何も喋らなくなっていた。悲鳴の一つも上げなかった。 少しの恐れと大きな緊張が小暮の表情から読み取れるが、黒コート男の表情からは諦観の感情のみが浮き上がっていた。 小暮が距離を取るために右足をスッと床をするように引いた時、黒コート男の唇が動いた。 「そう怖がるなよ。どーせ、俺はジョーカーに消されるんだからさ。 下っ端の俺には、あの人に対抗なんて出来ないしね。だから、銃を下せよ」 「断る。どーせ、瞬間移動が出来るような奴相手に銃が当たるとは思えないけどな」 「ま、当たらないだろうね。それよりさ、普通の人間がジョーカーを見れる機会ってまず無いんだよ。 だって俺ら、表立って存在する訳にはいかないからさ。 あ、アンタは知らないんだったな、俺らの事。いけねぇ、すっかり忘れてた。 まぁ、適当に聞き逃しといてよ。そんな大した事じゃないし、アンタが知ればパニックになると思うし」 それは大した事なんじゃないのか?と口に出さないでツッコミをかました小暮は、それを説明するように言った。 だが、黒コート男はそれを拒否した。どうやら、それは大した事らしい。男は続ける。 「まぁ…さ。俺はとりあえず屋上に行くわ。迎えが来る時間だから、急がないと」 黒コート男はそう言って、右手を小暮に向けて上げながら休憩スペースを去った。 小暮は直ぐに彼を追おうとしたのだが、それは出来ない事を悟った。 今は恐らく、白壁上空をどこかのTV局のヘリコプターが飛びまわっているはずだ。 小暮は自分の携帯電話でTV番組を視聴し、(ワンセグとかって言うんだっけ?ホント、こういうのは苦手だ…) 案の定、某TV局が緊急特番を組んで白壁を中継しているのを知った。 当然のように屋上も映されており、そこで一番初めに眠らせた敵二人がまだ横になっているのも見えた。 携帯電話の小さな画面から、それらの情報を確認した小暮はポツリと呟いた。 「あ、このまんまじゃ外に出られない…仕方がない、スタッフルームで店員さんの服を借りよう」
394 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:33:31 ID:J7jv/Up20
白壁前にいる田中の目にも、奥田邸屋上で加藤を逮捕した中井の目にも、 白壁の上に誰かが、黒いコートを着込んだ誰かがいる事は分かっていた。 当然、某TV局の中継カメラにもその姿は映りこんでいた。 それにより、その人物の姿はお茶の間でリアルタイムで見ていた人々の目にも映った。 次にお茶の間の人々が、カメラが、中井が、田中が目にしたのは、白壁の店員の制服を着た誰かだった。 あれは…小暮探偵か?と呟く田中の携帯電話に、中井からの電話が入った。 田中はすぐに携帯電話を開き、応対する。 「あの探偵、白壁の制服に着替えて出てきたけど、どういうつもりなんだ?」 「……探偵の名前って、ネット上で結構知られているだろう? 全国ネットで放送されている場に、どんな状況でもそこに自分が居たって事を知られたくないからだ。 …前にな、ネットで調べ物をしていたら『小暮探偵はこんな服装をして出没する!』って記事を見た。 それには、ホラ、昔の探偵っぽいカッコした小暮探偵が…… ありゃあ多分、隠し撮りだろうな。兎に角、あのカッコした小暮探偵の画像がアップされていたんだ。 その気になれば誰だって、小暮探偵を探す事が出来るだろうな。 ………探偵、あのサイトの事を知っているんだろうか………… それはそうとしてな、警察と探偵の間に成立したこの依頼は、極秘のものとされているんだ。知ってるだろ? だから探偵が変装しようってのは、当然だと思うんだがな。中井、お前の頭大丈夫か?」 うるせぇ、と中井は返してから、あの黒コートの野郎は一体誰なんだろうと呟くように言った。 田中は近くのパトカーから取り出した双眼鏡で、屋上の様子を見ながら答える。 「可能性は二つある。人質か、襲撃グループの一味か。 …お前、迎えの手段は封じたんだよな?」 「あぁ。○×銀行の支店長…加藤支店長が迎えの人だった。 奥田邸の屋上に隠していたヘリで、大体この時間に迎えに来る予定だったようだ」 「時間が決まっていた?じゃあ、当初の要求だった金はどうなるんだよ」 「知らねぇよ、そんな事。まだ調べていねぇんだからよ。だが、それは成し遂げれそうにもないだろ。 でもよぉ……あの襲撃グループ、何がしたかったんだか良く分からなかったな。 …で、そろそろじゃないか?」 「何が」 「総突入だよ…田中、しっかりしてくれよ」 「あぁ、総突入か…じゃあ、今から総突入をかける。中井、お前は遅れて白壁に来てくれ」 分かった、と中井は返してから電話を切り、田中は控えてさせていた機動隊を呼び集め、 「総員、突入だァー!」 と声を荒げて突入の合図を出した。防弾盾を突き出しながら白壁に突入する機動隊が、 まるで、人気パチスロ店の新イベントが始まる日にわらわらと人が集まるようだ……田中は場違いながらそう思った。
395 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:39:02 ID:J7jv/Up20
白壁の屋上に黒いコートを着たNO.9がいる。 彼の瞳を見ると、どうやら作戦は成功して失敗したというところかな。 9、悪いが…死んでもらう。依頼主の依頼は果たせたがな… ここまで騒ぎが広がった以上、責任は死んで取らないとな。分かっているだろう? 小暮は一度スタッフルームに戻り、男性店員の制服を拝借していた。 刑事たちの読み通り、あまり目立ちたくないというのが理由である。 スタッフルームに置かれてあるテレビを見ると、白壁占拠事件の様子が生中継されていた。 ここで自分の古めかしい探偵をイメージさせる服を着て屋上へ行き、そしてカメラに映れば…… 後が面倒臭くなる事は分かっていた。それに、この仕事はトップシークレットとされている。 姿を現わさなければならないとしても、変装くらいはしなければならなかった。 小暮はスタッフルームで一度装備の整理をした。要らない装備をそこで外し、 袋の中には閃光拳銃が一丁、閃光円盤が二枚入っていた。 そして、小暮の右手に握られているのは一発も発砲されていない消音拳銃だった。 小暮は屋上を目指して侵入経路を逆に走った。早くしないと、あの男が死んでしまう。 そうなる前にあの男から聞いておきたい事があった。「お前は一体何者なんだ?」と。 小暮が屋上の扉を蹴破ると、一番最初に拘束していた二人の敵が暴れていた。 小暮は二人の意識を睡眠ハンカチで飛ばし、それから屋上の隅で立っている黒コートの男を見た。 「お、服変えたの?中々似合っているじゃん。ここのバイト?」 「うるさい違う。質問に答えろ。……お前は、いや、お前らは一体何者なんだ?」 小暮の問いに、黒コートの男はどうしよっかなーととぼけた言葉を返した。 それに対し小暮は、銃を構え、答えなければ撃つという意思表示を示した。 それを見た男は、仕方がないという風に語り始めた。 「俺はなぁ、人じゃないんだ。人なんだけどな、ある特殊な能力を持っている」 何なんだよそれ、ファンタジーな展開になりそうだなオイと小暮は思いながら短く問う。 「何だ?言え」 黒コートの男はそこでしばし沈黙した。 焦らしているつもりなのかどうなのかは知らないが、その十数秒にわたる沈黙が黒コートの男によって破られる。 「……人に錯覚を起こさせる事が出来るんだ」
396 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:44:02 ID:J7jv/Up20
「……何だって?」 一瞬、自分の耳を小暮は疑った。 人に錯覚を起こす事が出来る。それが本当なら、一体あの瞬間移動はどうやって説明をつける? あの出来事があったからこそ、奴が人ではないという事は言われて納得できるが、 錯覚を起こすと言うと何かが違うような気がした。そんな小暮に黒コートの男が言う。 「だから、人に錯覚を起こさせる事が出来るんだってば。 あ、あの瞬間移動のアレも錯覚で起こさせる事が出来るよ?本当なんだって」 ホラ、と男が言った時には、小暮の消音拳銃の射線上に彼はいなかった。そして、 こっち。と小暮の後ろで声が聞こえて「うわあぁ!」と小暮は前に転がるようにして男から遠ざかった。 「最初にね、俺がいる所に『そこに俺の姿はない』って錯覚させる。 すると、錯覚を受けた人間は俺の姿が見えなくなるのさ。 でも、ちゃんと俺が立っている場所には俺はいるし、錯覚効果が切れない限りは俺の姿は見えない」 「つまり…瞬間移動をしているのではなく、錯覚によって自分の姿を消して それから錯覚を解いてやることによって瞬間移動させているようする、と?」 正解だ、と男は言って、中々物分かりがいいじゃんかと続けた。 褒めているのか?と小暮は思ったが、それは今は関係がない。言ってやることがある。 「馬鹿な。人に錯覚を起こす…人の脳に干渉することなんて出来る訳g」 出来るんだよ。男は小暮の言葉を遮った。そして、重力の成すままにしていた両腕を上に振り上げた。 すると屋上の床の一部がボコッと窪む。なっ…と小暮は口から漏らしていたが、男が続ける。 「だけど実際、あの床は窪んでいない。 カメラか何かでそこを撮ってみろよ。何の変哲のない床だ」 小暮は携帯電話を取り出し、窪んだ床を撮影した。画面を見ると、確かに床は窪んでいない。 平らだった。他の床と同様、平らだった。小暮はそれを見て震えた。そして、その震える唇で男に言う。 「どうやって人の脳に干渉する?一体、お前は何をしたって言うんだ!」 「それは俺にもよく分からねぇ。悪いな。でも、出来るんだ。そういう事が」 「…そんな事が出来る奴が、この世には少数ながらも存在すると?そしてそんな奴らは何かを組織している?」 「勘がいいね。そういうのを見習いたいな、俺は。 確かに俺と同じような能力を持った奴らはいるし、そんな奴らと俺は仲良くしている。 そして、そこのリーダーに今から殺されますってこった」 小暮は無言で返した。先にジョーカーがどうこうとか言っていたから、そいつなのだろうか。 そう小暮が考えていると、 「うん。そういう事だ。言っていなかったが、人に干渉するって事は人の考えも読み取れるってことさ。ある程度な」
397 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:49:24 ID:J7jv/Up20
「さて、お喋りはそこまでだ」 小暮の耳にそんな冷徹な声が聞こえたのは、黒コートの男が語り終えた直後だった。 振り返った黒コートの男がジョーカーと小さく呟いた。これが、これがジョーカーなのか。 小暮はその声の主である異様な服装をした男を見て思った。 全身を緋色のコートで包み、マ○リックスの登場人物たちがつけるようなサングラスをかけている。 外見だけを見ればただの変人だ。不審者だ。小学校の前なんてうろついていたら即お縄だろう。 小暮がジョーカーにそんな評価を下していると、黒コートの男が口を開いた。 「殺せよ。俺を」 「ああ、そうさせてもらうよNO.9…」 ジョーカーはそう言って両腕をクロスさせた。 すると、屋上から見えていた景色が闇一面に染まった。 直後、何かがボンッ!と爆発するような音も聞こえた。 一体何が起きているのか、小暮はそれが気がかりで仕方がなかった。 そんな小暮に目もくれずにジョーカーは黒コートの男…NO.9に向けて言う。 「これで、お前の始末が出来る…いいな?」 「あぁ。さっさと殺せって言ってるだろ。ほら、さっさと殺せよ」 その言葉を受けたジョーカーは、NO.9を睨みつけた。 すると、NO.9の体が宙に浮き上がった。小暮はそれを見て驚愕し、そしてジョーカーに叫んだ。 「止めろ!何をしてる、止めろ!」 「人間か…黙れ!」 そう言うとジョーカーは、クロスしていた両腕をほどいて小暮を突き飛ばすような動作をした。 だが、伸ばした両腕、両手には一切小暮は触れられていない。だが、伸ばした腕の直線上に小暮はいた。 小暮がそれに気がついた次の瞬間、小暮の体が後ろに吹っ飛んだ。 わけの分からない不意打ちを食らった小暮は床に思い切り背を打ちつけた。あまりの痛さに立ち上がることすらできない。 「俺のような数字と、ロイヤルは錯覚を起こすことが出来る… エースからの奴は、錯覚よりも一段階上の変容を使う…奴には手出しできない」 仰向けになった小暮の視界の中で、NO.9がそう言った。 NO.9は30メートル程度の高さまで浮かされていた。しかし、その声は全く震えていなかった。 そこから落とされたりでもしたら、彼の命の保証は全く出来ない。それなのに、である。 不意に、ジョーカーがだらりと全身の力を抜いた。 それに呼応して、NO.9の体が落下していった。それも、頭から。 NO.9に近づく死の瞬間、最後に彼は小暮に言った。 「最後の壁は……」 その言葉を聞いた小暮の朱に染まる視界には、NO.9という人物を形作っていた肉塊と、 それがまだ生きているかのような錯覚を与える黒コートが映っていた。
398 :
旅人 :2008/11/30(日) 01:54:46 ID:J7jv/Up20
そして、白壁占拠事件はそれだけでは終わらなかった。 いきなり白壁屋上のドアが荒々しく叩き開かれるとそこには鬼の様な形相をしていた一人の黒コートの男が立っていた。 「おいアンタ!さっさと起きろ!」 物凄い怒鳴り声が響く。 それは今までの彼を知っている人間からは想像も出来ない位怒気に満ちた表情をしていた。今までのなんて知らないが。 やがてゆっくりと立ち上がった小暮に掴みかからんばかりの勢いで捲し立てる。 「アンタ、早く床を見ろ!」 小暮はNO.9に言われるまま、視線を下にやった。すると、そこには地獄が広がっていた。 「見ろ!」 「何だこれは!?」 「いいから見ろ!」 「何を言ってる!?…どういう事だ!?皆、死んでる…」 地獄。小暮がイメージするのとは全く違う世界だった。 眼下に広がる地獄という世界は、白で統一された何もない空間だった。 そこに、無数の人間が横たわり、山を形成している。 しかし、全員が口から血を流して死んでいた。 異様な光景を見続ける小暮は、ある一つの山に見覚えのある女性を見た。町田だ。 町田の顔も、口から血を流して死んで、眼は異様なまでに見開いている。 「町田さん……」 「12/19、全部が終わる!音ゲーをやった奴らは全員死ぬ!」 「おい誰かこいつの言っている事まとめてくれ!意味が分からない!何なんだよここは!!何なんだよこれは!!!」 「いいから聞け!回避方法は、お前がこれまで見聞きしたものを包み隠さず話す事だ!!!」 そう言ってNO.9はスーッと地獄に堕ちていった。 そして、彼は口から血を流しながら一つの山に突っ込んで埋まり、姿を消した…… 小暮は絶叫しながら目覚めた。恐怖の叫びと形容できる、と小暮は思いながら辺りを見回す。 白壁の屋上から意味の分からない、皆死んでいた世界に飛ばされ、そして今はプリウ○の車内で眠っていたらしい。 運転する中井がミラーで小暮の目覚めに気がついたのか、小暮に声をかけた。 「よっ!お疲れさん。さっきからうなされていたが、大丈夫か…?」
399 :
旅人 :2008/11/30(日) 02:01:09 ID:J7jv/Up20
「………町田さんは?」 「大丈夫だ。今警察が保護している。他の人質も全員救出された」 「良かった。…聞きたい曲があるのですが、REDサントラありますか?」 「あ〜、確かダッシュボードに…赤信号に引っ掛かったらかけてやるよ」 「ありがとうございます。二曲だけでいいです、あ、いや、三曲。GENOCIDEと蠍火、そしてearth scapeを…」 「おう、分かった。けど、どうしてその三曲なんだ?」 「……この事件で、僕は大変な思いをしました。 任務遂行が大変だったとかそういうのじゃなくて、いや、大変でしたけど。 ……屋上で起きた現実離れした出来事が、今でも目に焼き付いていて…… ………そうだ、あそこで死体があったでしょう?あれは一体何処に?」 「はぁ!?死体ぃ!?探偵さんよ、 そんな寝言を言うのはやめてくれよ。 どこにも死体なんて無かったぞ?そういや、屋上で一体何があったんだよ。 白壁を包み込むように黒い壁がそびえ立ったし、TV局の中継ヘリのカメラは壊れたみたいだし…」 「じゃあ、血痕は?無いんですか?」 「おいおい、一体どうしちまったんだよ探偵さん…っていうか俺の話スルーかよ? …白壁のどこにも、死体及び死体があった痕跡は一切無かった」 「………ジョーカーか……」 「あ?ジョーカー?今度ババ抜きでもしませんかって?んな暇はねーよ、警察は忙しいんだ」 「んなこと言っていません。…すみません、まだ、夢を引きずっているみたいで…」 でも実際、そんな事はなかったと小暮は思う。アレは現実に起こった事だ。 いつの間にかプリウ○の車内にはGENOCIDEが流れ始めていた。 目をつむる小暮の視界に、高所から頭を打ちつけて死んだNO.9と地獄で見た死体の山、 そしてそれに紛れた町田の死体が映し出されていく。 ―12/19、全てが終わる― ―回避方法は、お前がこれまで見聞きしたものを包み隠さず話す事だ― 小暮は地獄で聞いたNO.9の遺言を思い返していた。 もしそれがそうだとしたら。今ここで二曲目の蠍火をバックに中井にこの事を話すか。 それともあの不可思議で非現実的なあの体験を話さないか。 小暮は即決で話さないという選択肢を取った。信じてもらえる訳がない、と小暮は強く感じたのである。 だが、もしかしたら彼なら。いや、彼らなら信じてもらえるかもしれない。分からない。 本当にXデーが12/19だとすると、その日に行われる「松木ゆうの秘密の誕生日パーティー」で話そう。 そっちの方が面白そうだし、信じてもらえそうだし、何よりそうした方が良さそうだと自分が確信している。 自分が平和を取り戻せるカギとなるなら。それならば中井に言うべきだっただろう。 だが、これは松木に告白したい事件の真相だ。そして彼の周りにいる人たちにも。彼が友人と呼べる人たちにも。 これは、この真実は言いたくない事だが、19日に死人が出るという事を伏せて話せばいい。 真実の一部を包み隠してしまっているが、良い嘘と悪い嘘という二種類の嘘がある。これは良い嘘だろう。 そう、この世は空言で満ちている。中には何かの真実に繋がるものもあるのだろうが… とりあえず、この事を話そう。NO.9の遺言を果たすために。全てを終わらせないために。 earth scapeが流れている車内で、流れる外の景色を見ながら小暮は決心した。 ………タイムリミットは刻々と迫ってきている。全てが終わる警鐘が鳴り響いてゆく………
400 :
旅人 :2008/11/30(日) 02:07:16 ID:J7jv/Up20
08/12/19 21:33 小暮はNO.9の言っていた、今日で音ゲーマーが死ぬという事を隠しつつも事件の真実を語った。 小暮が語り終えてからかなり重苦しい雰囲気が談話室に漂う。 それもそうだ。人が一人死んだのだから。悪党側の人間とはいえ、それでも人だ。 そして、ジョーカーという謎の人物を始めとする超能力のような能力を持つ人間がいる事も、 この話で明らかにされたのだ。…殺人超能力。これを法で裁く事は出来ない。 21:35。この重苦しい雰囲気を打ち破るためにある人物が口を開いた。 それは、先のシリアスな話とうって変わって何の特徴のない話だったが この雰囲気が崩壊する役目を果たす事は言わずもがな、である。
401 :
旅人 :2008/11/30(日) 02:15:39 ID:J7jv/Up20
いかがでしたでしょうか?これにて、みんパテ第三章 The Last Wallは完結です。
次は第四章 An Usual dayが投下されます。ズーンと沈んだ気分を和ませる、
そんな話が出来あがるといいねと思いながら暇を見つけては書いています。
ゴメン。これハードル高すぎます。和むような話なんて書けるのでしょうか…?
次の話では実験的な意味合いも兼ねているので、今まで以上の駄文、読みにくさの色が
濃くなっていくと思いますが、そうならないように頑張っております。
努力が至らず、そう思わさせてしまったら、今のうちに謝ります。ごめんなさい。
もしかしたら、その実験的要素が云々ってのもやらないかもしれません。
それでは次回、第四章 An Usual Dayをお楽しみに!
っていうほど面白くないと思いますが、これで失礼します。
(ここで裏話をしたいと思います。いわゆる制作秘話って奴ですね。
実はこの話、当初の予定では白壁が舞台ではなく銀行が舞台になっていました。
パーティー前日、松木の家に持っていくのにお菓子を買いに行こうとした町田が
お金を下ろすのに銀行に行くと、銀行強盗の現場に遭遇しまうという話です。
町田はトイレに逃げ込み、通風口で身を隠しながら小暮と連絡を取り、事件解決を
目指すのですが、第三の協力者が、第三章で登場する腕を撃たれていたたドラマニ&DDRerです。
こういう設定が、第二章、第三章に幾らか継承されたのだと思うと、
作者である自分は一種の感動を味わいます。自分で言うのもなんですが、とんでもないナルシストですね!
それではここで失礼します。次回も宜しく!)
そうそう、次スレってどうしましょうか?
一つのスレにつき500kbの容量までがどうとかで、
この数値を超えるとdat落ち…でしたっけ?
とりあえず、僕が
>>1 さんのテンプレを使って次スレを立ててみようかと思います。
スレタイは「創作小説with音ゲ 4th tracks」でいいんですよね?
とりあえず明日中には立てようと思います。それでは皆さん、夜分遅く失礼しました。
>>402 名前欄には入れてないけど、旅人です。IDで分かると思いますが…
次スレを立てて頂いて、本当にありがとうございます。
にしても本当に、このスレって密度が濃いですよね。
それが醍醐味ってやつなのでしょうか。いや、これ多分意味を履き違えてますね…
なんと、500KBでDAT落ちだなんて知りませんでした。 今まで書いたものが消えてしまうのは少しだけ喪失感を感じてしまいます。 あらためてまとめサイトの中の人に感謝です。 (新スレ立ててくれたのもまとめサイトの人ですよね?) ここまでに投下されたものの感想は、一応こちらに書いておこうと思います。 >>M氏 これは面白い。 特に主人公歪み過ぎなところがw でも、こういう負の感情は競争の場の中にいる以上 誰でも持ちうるものだと思います。(俺もです) そんな人間の生々しい感情に触れるこの作品の続きを、とても楽しみにしてます。 >>旅人氏 面白かったです。 すごい緊迫感ですね。 まさかこういう方向に話が転がるとは予想していませんでした。 ところで、No.9は過去のポップンの狩りプレイヤーを狩る話の彼とは別人なのかな?(キャラが違うし) そこら辺の絡みも含めて今後何が起こるのか…次回も楽しみにしてます。 それと、前回は偉そうにすみませんでした。 素直に受け取ってもらえてありがとうございます。 もし行き詰まったように感じる時は力になりますので、気軽に相談下さい。
最後に旅人氏乙 いきなり非現実出てきたけど これから謎の勢力が主人公サイドに襲い掛かってくるのか 結末がどうなるか想像がつかないぞ
よくSSスレとかだと、埋めネタが投下される事が多いが… ここはそのまま落とす方針なのかな?
407 :
旅人 :2008/12/10(水) 22:06:29 ID:qAap6DMs0
今晩は、初めて埋めネタという言葉を知った旅人です。 方針云々は分かりませんが、埋めネタを投下しようと思います。 ちょっと前にCSDDでコンチェ穴をクリアーする事が出来て、 かなり気分が高揚している時に「みんパテプロローグ」でネットラジオが云々と書いたのを思い出して、 じゃあその内容を埋めネタにしてみようかと思い立って書き上げました。サブストーリーな感じです。 高揚した気分も落ち着いた所で投下を開始しようと思いましたが、先に謝らせて下さい。 僕以外に埋めネタを投下しようとした作者さん、というのがいればごめんなさい。 それじゃあ投下します。どうぞ。
408 :
旅人 :2008/12/10(水) 22:09:14 ID:qAap6DMs0
「えー、皆さん今晩は『平和のラヂヲ』のお時間でございます。 司会進行は毎度僕です、松木ゆうでございます。 本日は音楽ゲームについて焦点を当てて放送したいと思います。 それにちなんで、そっちの世界ではビッグなゲストを呼ぶことが出来ました。 その人の名前は〜!?ハイ、『音ゲー会の女王』こと町田彩さんです、どうぞ〜」 「今晩は、町田です。…あの、松木さん?」 「はい」 「私、そんな名前で呼ばれたことないですよ。女王がどうとかこうとかって」 「え、そうなんですか?すみません、勢いだけで出まかせ言いました。 あと、僕の事は『ゆう』って呼んでください。 そっちの方が僕も、たぶん町田さんも気楽に臨めるでしょうから」 「オーケイで〜す」 「さて、今から皆様に質問を募集します。 今から…十分以内ですね。それまでに寄せられたご質問を 別のコーナーで紹介、ゲストに答えてもらおうと思います」 「質問ですか〜。なんかちょっと緊張しますね」 「全然そういう風には見えないんですけどね。 えー、リスナーの皆さんは初めて知るのでしょうけど、 僕と町田さん、音ゲー友達ですからね。前に一度GFDMでセッションさせて頂いたりして」 「そうそう。ゆうがタイピのベース黄色をミスって、落ちちゃったんだよね」 「あっ、墓穴を掘っちゃったかな…えぇ、そうなんですよ。 町田さん、本当に凄くてね。僕のようなまだまだな人が隣でやれたのってのは、中々無いかと思いますよ」 < 中 略 > 「はい、ただいまより質問の方は打ち切らさせて頂きます。 えー、どれどれ……じゃあ一つ目の質問から。 ラジオネーム『ラジコンヘリって面白いよ』さんからこんな質問です。 『いつもどこのゲーセンで遊んでいるのですか?』町田さん、どうぞ」
409 :
旅人 :2008/12/10(水) 22:11:37 ID:qAap6DMs0
「えーと、音安市の…えぇ、音ゲーで有名な。市長さんが結構推進してて有名なんですけどね。 そこにある多分一番大きなゲーセンです。 『パレス』とかいう名前だったと思いますけど、常連さんたちは『白壁』って呼んでます」 「そうなんですよね。先のセッション話、あれも白壁でやっていましたよね。 では、次の質問に参ろうかと思います。…どれにしようかな〜 ハイ、ラジオネーム『ブラックコーヒーはそのままで飲みます』さんから。 『町田さんのお友達は、やはりランカー級の腕前を持つ人ばかりなんですか?』町田さん、どうぞ」 「いや、全員がそうではないと思いますよ。 でも、皆さん上手い人ばかりで、私が教えられることもありますね。 あ、でも、白壁には色んなゲームの上級者さんがいますが、初心者の方も歓迎していますよ。 以上、白壁常連を代表しての宣伝でしたー!」 「宣伝ですかwでも、良い環境ですよね。 上手い人もそうでない人も、白壁には沢山入るわけですからね」 「そうですねー、そう言われると嬉しいです」 < 中 略 > 「そろそろお時間の方が来てしまいました。 町田さん、本日の収録はいかがでしたか?」 「初めてなんですよね、ラジオの収録。 緊張もしたけど今日は楽しかっ――ゲフンゴフン!!!!」 「あっ!大丈夫ですか!?」 「うん。大丈夫大じょう―ゴフン!うん。 ごめんなさい、最近風邪っぽくて…でも、DDRやってりゃ治りますよ」 「治りませんよ、そういったケースは少ないらしいですし… とりあえずお体を大事にお願いします。 それでは、今回の『平和のラヂオ』は司会進行の松木ゆうとゲストの町田彩さんでお送りしましたー!」 「今日は楽しかったよー!…ゲフン!」
410 :
旅人 :2008/12/10(水) 22:15:02 ID:qAap6DMs0
いかがでしたでしょうか?これにて架空のネットラジオ番組、 「平和のラヂオ」の第六回目の放送内容でした。所々中略されていますが。 さて、ここで冷静になった所で物語の核に迫る伏線を一つ張っときました。 読者さんの中には「物語の核」みたいな物が感じられる人がいるかもしれません。 謎の犯罪者集団。そのリーダーの超能力者。それを殺した超能力者。 そんな非現実的要素をぶち込んだのにも理由があります。 しかし、今の段階ではそれは明かされないと思います。プロットを変えない限りは。 ラストは誰も予想できないような物にしようと思いますし、そのラストに行きつくまでの 物語の核についての解説は「ある人物」の最後のお話としてしていこうと思います。 予想出来なさ過ぎて、あまり良い感情を持って頂けないようなラストになるかもしれません。 日本語でおkな後書きになりましたが、そういう事です。 つまり第四章をよろしくね!って事です。全然そうは結び付かないんですけどね。それではこれで。
>>410 おおお、まさか埋めネタが本当に来るとは。
投下乙でした。
ラジオネタとは、また新しいですなあ。
実は自分も埋めネタを投下しようとした者の一人でして。
しかし10kb以内に収まる適当なネタが出なかったんですよね。
本編の作成も頑張ってください。