今日は静香様の練習日。
営業の終わったリンクでおれは静香様の滑りを見守る。
おれたち以外に人がいないせいか妙に寒い。
氷の上に立っているわけではないのに冷気が足元から這い上がってくる。
静香様が練習を終えて戻って来たので、おれはタオルを差し出した。
「お疲れ様でした」
「疲れたわ……」
静香様はベンチに腰を下ろした。
「靴を脱がせてちょうだい」
「かしこまりました」
おれが静香様の靴の紐に手をかけると、静香様がそっとおれの手を取った。
「まあ、手がかじかんでいるじゃない。これでは紐がほどきづらいわね」
「いえ、これくらい大丈夫です」
静香様は悪戯っぽい微笑を浮かべると、脚を水平に伸ばした。
「口を使って脱がせなさい。犬みたいに這うのよ」
「は……はい、静香様」
おれは濡れた床に手と膝を突き、静香様の靴に顔を近付けた。
靴紐の結び目を唇で挟むと、靴に付着した氷の粒がちくちくと頬を刺激する。
反対の頬には、なめらかな肌触りのタイツ越しに静香様の肌のぬくもりが伝わってくる。
紐の端を咥えて、ゆっくりと結び目を解く。
冷たいブレードが首筋に当たっている。
エッジで頚動脈を切られないよう、慎重に頭を動かして、ホックにかかった紐を外していく。
後頭部に静香様の蔑みの視線が突き刺さるのを感じる。
ベロを噛み、引き下ろすと、白い革の中から静香様の蒸れた足が滑り出た。
「時間がかかり過ぎよ。体が冷えてしまったわ」
静香様は足の裏をおれの顔に当て、そのままおれの頭を床に押し付けた。
静香様の足はうっすら湿り気を帯び、こもった汗の匂いがした。
「役立たない子ね」
おれの顔を強く踏みつけたまま、静香様はもう片方の靴を自分で脱いだ。
「申し訳ございません、静香様」
「反省しているの?」
「はい、静香様」
「そう。じゃあご褒美をあげましょう」
静香様は両足を使っておれの顔中をこね回し、押し潰した。
堅く冷えた床に横たわるおれの体から急激に体温が奪われていく。
全ての感覚が鈍っていく。
気が遠くなる。
静香様の足の裏だけが熱く、柔らかだった。