FF11創作総合(小説メイン)PART5

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1既にその名前は使われています
FF11の世界観を使って小説を書くスレッドです。 
長いものは、まとめて書いてからコピペするのがいいでしょう。 
短編の方が、感想はもらいやすいみたいです。 
またイラストなどの創作も良いようです。 
エロは荒れるので禁止の方向で。 

前スレ 
FF11創作総合(小説メイン)PART4 
http://live19.2ch.net/test/read.cgi/ogame/1103166769/ 

まとめサイト 
http://www.geocities.jp/nanashi1112000/matome/index.html
22ゲッター・ポコ ◆gDPOKOsp1E :05/02/06 15:25:18 ID:QsNUTvHi
2ならぽこたんインしたお
33ゲッター・おいら:05/02/06 15:28:18 ID:RVSXmul7
4 ◆74jK/SWJ7g :05/02/06 15:44:30 ID:ZoKwFipK
前スレを容量オーバーさせたものです。
流れを止めてしまいすみませんでした。
新しいスレをたてて頂きましたのでよろしくです。
なにか至らないところ、ありましたら指摘等お願いします。

ではでは、みなさまの作品、たのしみにしております。(_ _)
5既にその名前は使われています:05/02/06 16:06:33 ID:2oCwIvvH
>>4
乙。
6名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/06 16:19:16 ID:QlugFxLB
容量オーバーだったのかぁ。
次スレいったんで4スレ目のほうの作品まとめるyp
7既にその名前は使われています:05/02/06 17:48:45 ID:OrNxF6c0
>>6
ありがとうございます。( ^-^)_且~~~
8天の塔奇譚 ◆74jK/SWJ7g :05/02/06 17:50:51 ID:OrNxF6c0
前スレ最後で、途切れたものをアップさせていただきます。
9既にその名前は使われています:05/02/06 17:51:04 ID:E+Xg3+NH
10天の塔奇譚・中編(1/8):05/02/06 17:51:44 ID:OrNxF6c0
「あ〜っ、もうっ! なのです」
 天の塔書記官の間に設(もう)けられた受付で、書記官のクピピが、
猛烈な早さで羽根ペンを走らせていました。
「どうして? 星の神子さまは、終業すんぜんに、こんな、たくさん、
勅書を、書くよう、命ぜられたの、かな?」
 バン、バン、バン、バン、バン! はんこの乱れ打ちです。
「しかもこの内容っ!」
 ピラリと書類を一枚つまんで取り上げてみせました。
「星の神子の名をもって命ずる。なんじ、バレンモレンは、シャントットに
最新式のエレガントな帽子をあつらえること」
 書類を読みあげたクピピは、踏み台にしていたストゥールのうえにペタンと
座りこんでしまいました。そうして、肩をすくめて、手のひらをうえにして
頭の左右にさしあげて、
「ふえぇ〜っ? あほか? 神子さまは、あほなのなのか。あほに成って
しまわれたのか? なのぉ。……ふぁあ、疲れたの」
 部屋のなかには、残業中の彼女ひとりだけしかいませんでしたから、
誰にはばかることもないというわけで、言いたい放題です。
投げだされた書類が、あちらに飛んで、こちらにひるがえって床に吸いつく
ようにして落ちました。
11天の塔奇譚・中編(2/8):05/02/06 17:52:28 ID:OrNxF6c0
 そのようすを横目で見守っていたクピピは、目の前の机の上にある書類の
束に視線をうつすと、ため息をついて、まぶたをおろしました。
目を閉じたまま、手をもぞもぞ動かしてうわぎのポッケから飴玉をだして、
お口へパクリ。右の頬へころがし、左の頬へころがし、両手をほっぺにあてて、
えへへへへ。(ロランベリー風味のキャンディーなの♪)

「さあて、もう一息。クピピファイトなのです」
 うんと伸びをすると、すっくとたちあがりました。
 そして、羽根ペンをとって書類づくりを再開しようとしたとき、先ほど
投げだした一枚のことを「あっ」と思いだして、振りかえりました。
振りかえったクピピは、ギクリと身体をこわばらせて、
「ゴクリ……」
 まだまだ舐めごたえのあった飴玉を飲みこんでしまいました。
「はわわ、飲んじゃった。っと、それより、そ、そこに居るのは誰なの
ですか!?」
 ズビシ、と手にした羽根ペンで指差した先には、さっきの書類が宙に
うかんでいました。
12天の塔奇譚・中編(3/8):05/02/06 17:53:07 ID:OrNxF6c0
「姿を消していても、ばればれなのですよ!」
「……」
 しかし、姿を隠して書類を読んでいると思われる相手からは、なんの反応も
ありません。「むー」とクピピは、唇を突き出して、羽根ペンを置くと、
もう一度ズビシ。それでも反応がなかったので、今度は、はんこをつかんで
投げつけてみようとしたのですが、そのとき、
「見つかってしまいましたか……」
 クピピの見詰める空間に書類を携えたタルタルが姿をあらわしました。

「うあ! シャントット博士」
「ごきげんよう」
 博士のおじぎは、エレガントでした。
「こんな時間になぜここに? いつのまに? ドアは開かないのに、
どうして? 一体、全体、なにごとなのですか?」
「クピピ落ち着いて。まず、わたくしの質問に答えなさい」
「う、はい」
 威圧感にクピピは、“気をつけ”をして固まってしまいました。
13天の塔奇譚・中編(4/8):05/02/06 17:53:33 ID:OrNxF6c0
「もう少し楽になさってよろしくってよ……。さて、この勅書は、星の神子
さまが、お命じになられたものなのでしょうね?」
 シャントットは、手にした書類を差し示して言いました。
「はい、なのです。あ、あのですね……」
 話をつづけようとするクピピの言葉を押さえるようにシャントットの
手にある書類が音をあげて燃えはじめ、たちまちに燃え尽きてしまいました。
「ひっ!」
 それにひるんだクピピは、足を一歩ひき、そのまま崩れるようにへたりと
座りこみます。
「あわわ、なんてことを……」

(まったく、しょうのないひと)と、シャントットは、ため息混じりに
ちいさくつぶやいて、
「そちらの書類も、今日、命ぜられたものなのですね?」
 机の上の書類の束を指さしました。
14天の塔奇譚・中編(5/8):05/02/06 17:54:12 ID:OrNxF6c0
「そ、そうなのですよぅ、これは、大切な大切な星の神子さまの勅書なの。
だから……」
 シャントットはうなづくと、手首を返して、さした指をくいっと上に曲げ
ました。書類の束が一枚ずつばらばらと音をたてて宙にまいあがり、列を
なして弧を描き、シャントットのもう一方の手に吸い寄せられて行きます。
そうして、それらは手に触れた瞬間、ぱっと燃えあがって、あっという間に
全てが灰になってしまいました。
 あぜんとするクピピ。シャントットは、物憂げになにか考え込んでいます。

「あ、う……」
 すこしの間をおいて、クピピが、なにか言いかけたとき、侍女の間へと
つづく扉がひらいて侍女長のズババが姿をあらわしました。ズババは、
あたりを見回してシャントットの姿を認めると喜色を顔にのぼらせました。
「これは、これは、もうおいでになってござったか、み……」ちらりとクピピ
のほうをみやって、「シャントット博士」
「ええ、しかし、こちらでは、なにか手違いがおこったようですね」
15天の塔奇譚・中編(6/8):05/02/06 17:54:50 ID:OrNxF6c0
「さよう……そのお話は、あちらで」
 うなづいて、シャントットは、扉にむかいます。その途中、立ち止まって
ちょっと振りかえって、やさしく言いました。
「クピピ」
「はい?」
「遅くまで、ごくろうさまでした。今日はもう、お仕事はありませんから
帰りなさいね」
「え、でも……」
 なにか言いかけるクヒピをみて、シャントットは、ちょっぴり考えてから、
「ごちゃごちゃ、ぬかすと、ぶちきれますわよ?」
「あう。わっかりました〜なの! ズババ様っ」
「なんじゃな?」
「書類を燃やしたのは、博士なの。クピピは、ぜんっぜん悪くないのなの!
それじゃあ失礼しますの〜」
 帰り支度もそこそこにクピピは、部屋をとびだしてゆきました。
 それを見送ったふたりは、扉をくぐり侍女の間へとつづく階段へと踏み
こんで行きます。
16天の塔奇譚・中編(7/8):05/02/06 17:55:18 ID:OrNxF6c0
「ふふふ」
 階段を上りながらシャントットが、おもいだし笑いのように微笑んだのは、
さっきのクピピのようすを思いうかべたからでしょう。
「あの子、あんなに慌てて。すこし意地悪すぎたかしら?」
「さよう。いささかお戯れに過ぎますかな」
 とがめながらもにんまりとしているズババは立ち止まって、シャントット
にも止まるようにうながして、
「しかし、よくご無事でお帰りになった」
 姿勢をしゃんと正してから、深々と頭をさげました。
「おかえりなさいませ、神子さま」
17天の塔奇譚・中編(8/8):05/02/06 17:55:54 ID:OrNxF6c0
「ええ、あなたには、ご苦労をかけましたね」
「なんの、あなたさまこそ……」
 シャントットの姿をした星の神子の髪にふれ、いたわるように、抱きこむ
ようにして背中をぽんぽんと打って、
「難儀なされたでしょうに」
「けれど、ほんとうに大変なのは、これから。違いますか?」
 ズババは、瞳をまっすぐに見詰めてくる神子に、ゆっくりとうなづきました。
「ですな。いまいましきは、シャントット。神子さまの姿であるのを
いいことに好き勝手ふるまいおって……」
 二人は、ゆるやかなカーブでのぼってゆく階段の行く手を見上げました。
18天の塔奇譚 ◆74jK/SWJ7g :05/02/06 17:56:59 ID:OrNxF6c0
ちょっと量が多くなってしまいますが、
最後まで投稿させて頂きます。m(_ _)m
19天の塔奇譚・後編(1/11):05/02/06 17:57:32 ID:OrNxF6c0
「かのものも夕刻までは、大人しゅうしておったのですが……」
 目線の高さが同じになるのに気がとがめたらしいズババは、一歩階段を
下ると、語りだしました。
「たそがれ時に、神子さまのかけられた呪縛の魔法が、とけてしまいましてな。
いや、シャントットめが、強引に呪縛をうちやぶったと申すべきか。
 幸い……と申してよいのか、わかりませぬが、姿変えの魔法は、解呪でき
なかったようす」
「容姿交換の秘術は、入れ替わったふたりが肌を触れ合っていないと解除
できないのです」
「さようでしたか」
 星の神子はうなづいて、話のさきをうながしました。
「さすがに神子さまのお姿のまま天の塔を出るわけにゆかず、きゃつは、
しぶしぶ、部屋に留まっておったのですが、それもつかの間のこと……」
 ズババは、うなだれて大きく息をつきました。
20天の塔奇譚・後編(2/11):05/02/06 17:58:03 ID:OrNxF6c0
「愚かしい内容の勅命を乱発したのでしょう?」
「はい。しかしながら、あの者は、それだけで飽き足らず、やりたい放題、
わがまま放題、暴れ放題、食い放題……」
「まあ」
「間の悪いことにセミ・ラフィーナは、今朝マウラの視察に行きおったまま
帰らぬ。せめて、セミ・ラフィーナにだけでも、今回のこと、うちあけて
おれば、未然にあれほどの暴挙は防げたであろうに」
「けれど、セミは、私がひとりで出歩くこの計画を知れば、許しはしなかっ
たのではないかしら?」
「……あの者は、ババにもまさる石頭でしたな」
 そのままふたりは、顔を見交わして、少しの間黙っていましたが、
ズババが口を切りました。
「さて、そろそろ参りましょうか」
「ええ」
21天の塔奇譚・後編(3/11):05/02/06 17:58:37 ID:OrNxF6c0
「神子さまは、お姿と、念のために足音もお消しになられて、ババめの後に
ついてきてくだされ」
「わかりました」

 言うと、シャントットの姿をかりた星の神子は、目を閉じて、両手を
握って胸のまえでそろえるウィンダス式の敬礼のような姿勢をとりました。
足下から光の輪が立ち上りはじめます。束の間のあと、神子は、まず握った
片手を開きながら頭上にさしあげて、つづけてもう一方の手もおなじように
してあげました。

 一瞬、全身がきらめいて、すぐに、神子の姿が消えて見えなくなりました。
おそらく彼女の身体は、もう音を立てなくなっていることでしょう。
 ズババの手にそっとぬくもりが伝ってきました。神子が、ズババの手を
取ったのです。ズババは、そこにいるはずの神子にうなづいて、階段を
のぼりはじめました。
22天の塔奇譚・後編(4/11):05/02/06 17:59:17 ID:OrNxF6c0
 侍女の間へとたどり着いたズババは、変なものを見て目をまん丸に見開き
ました。
 変なものというのは、部屋の中央で蒼く燃えている炎、『存在の揺らめき』
の周りを取り囲むようにして並ぶ、タルタル侍女とミスラの守護戦士たちの
ことです。彼女等は、おかしな踊りを懸命におどっていました。

「オーッホホホホ!」
 高笑いが部屋に響きわたりました。円形をした部屋の外壁に沿(そ)うように
して造られた階段の中ほどに、颯爽と偽星の神子が立って大口をあけて笑って
います。もちろん、その正体は、シャントット博士ですね。

「あれは……なに?」
 姿を消したままの神子が、驚きを隠せない声音でささやきました。
「珍妙な振りで踊っておりますな」
「ち、違う。あの私の髪……」
「あっ、アレはそのう……きゃつめが、イメージチェンジだとかぬかして」
「イメージ、チェンジ?」
「はぁ、星の神子の名にふさわしい髪型にと……」
23天の塔奇譚・後編(5/11):05/02/06 18:00:45 ID:OrNxF6c0
 炎をかすめて見える、偽星の神子は、後頭部に巨大なヒトデをはりつけた
ような髪型をしていました。
「はぁぁ……」
 ドサリと音をたてて、星の神子は床に倒れ伏しました。インビジもとけて
姿があらわになってしまっています。すかさずズババが、その姿を自分の
身体で隠しましたし、偽神子が大音声で呼ばわったため誰もその様子には
気がつきませんでした。

「おらおら、そんな体力では、イザと言うとき、あたくしを守れないんじゃあ
ござんせんか? 違う!! ヘッポコくんダンスは、そうじゃなくってよ、
もっとこう腰を振って……そう、そう。オホホ、オーッホホホホ! ゆかい
ですわ!」

「あの人、楽しそうね……」
 ズババにすがりつくようにして立ちあがりながら神子はうめくように言いました。
24天の塔奇譚・後編(6/11):05/02/06 18:01:37 ID:OrNxF6c0
「神子さま? お気をたしかに」
「どうして、あの人は、仮にも私の……いいえ、星の神子の立場に、
ありながら、あんなに楽しそうにしていられるのですか?」
「……?」
「普段、私がどんな気持ちで星の神子を勤めてるか、わかってるの!?」
 心中で、なにかが弾けたように神子の口から言葉がほとばしりました。
「みこ、さま……」
 うろたえて、どうしてよいのかわからないようすのズババは、神子に手を
差し出しかけて出しきれません。

 その手を振り払うようにしてゆっくりと歩きだした星の神子が、胸のまえで
ボールを持つようなしぐさをしたかと思うと、左腕だけをぐっと身体の中心に
よせてからさっと真横に伸ばしました。ボゥという発火音とともに、一瞬、
神子の身体を幻想的な光がつつんで、消えます。左手は、すぐにボールを持つ
仕草にもどりました。
 タンッ、と軽やかな音を響かせてシャントットの姿をした神子が跳躍しま
した。
25天の塔奇譚・後編(7/11):05/02/06 18:02:02 ID:OrNxF6c0
 驚くべき跳躍で軽々と『存在の揺らめき』を飛び越しざま、神子の右腕が
横に開かれました。すると手前にいた守護戦士を含む侍女達が、パタパタと
倒れてゆくではありませんか。そうです彼女達は、眠りの魔法にかけられた
のです。
「シャントット博士!」
「どうしてここに?」
「よいしょ、ヘッポコ踊り、クイッ、クイッ、クイッ、ってあれっ?」
 残った侍女達が、神子を見上げて、さわぎだしましたが、つづく左腕の
一振りで漏らさず眠ってしまいました。神子の両手は、胸の前にもどって
います。

「おや、まあ! 禁呪とはおそれいりや。柄にもなく派手なご登場じゃあ
ござんせんか」
 蒼い炎の上空で滞空している神子を見上げて、偽神子のシャントットが唇の
端を曲げてみせました。そうして、ヒトデ型の髪にむんずと手をさしいれて、
「神子さまにおかれましては、なかなかえげつないエンチャントウェポンを
お持ちですわね」
 スポンと、髪のなかから出てきたのは、メタリックプルーのちいさな
片手棍でした。
26天の塔奇譚・後編(8/11):05/02/06 18:02:41 ID:OrNxF6c0
「ちょいと拝借いたしましたわよ、オホホホ」

「あ、あれは……!」
 遠目だけど老眼なので、偽神子の手にした杖の正体を見極めたズババは、
劇画タッチになりながら言いました。
「いかん、あの杖には、星の大樹の一本くらい軽く消し去る威力の炎が……!!」

 階段上では、神子姿のシャントットが高笑いをしながらふんぞりかえって
います。
「こんな姿にされたうえに拉致監禁、わたくしぶちぎれモード全開ですのよ。
土下座をするのなら今のうちかと。今宵のあたくしに遠慮という言葉は、
なくってよ?」
「……」
 神子は、こたえずに頭から偽神子に向かって飛びだしました。
「お・ば・か・さん」
 偽神子のシャントットは、迷わずに杖を発動させ……ようとしたのですが、
発動しません。
27天の塔奇譚・後編(9/11):05/02/06 18:03:16 ID:OrNxF6c0
「あら? この杖、いかれポンチですわ……なぬ、このわたくしが、
レベル不足? あ、しまっ!」
 飛来したシャントット姿の神子が偽神子のシャントットに組みついて、
ふわりと数段ぶん階段をのぼった瞬間、ふたりの身体からまばゆい光が、
ほとばしり出て侍女の間を埋めつくしました。真っ白な空間に『どうっ』、
と二人が着地する鈍い音が響きました。

 光が退くと正しい姿をとりもどした神子が、シャントットのうえに馬のりに
なっているのが見てとれました。神子は、うるませた瞳でまっすぐシャントット
の瞳をのぞきこみながら言うのです。
「あなたは……どんなときも自由でいられて。いつも、こころから笑っている
……私、私だって、そんなふうに……」
 神子の目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちて、シャントットの頬を
ぬらしました。
「不公平だわ……」
「おばかさん」
 どんっと、神子を突きのけてシャントットが立ちあがりました。突かれた
ひょうしに神子の身体が、ふわりと宙に浮いてゆっくりと降下してきます。
28天の塔奇譚・後編(10/11):05/02/06 18:03:56 ID:OrNxF6c0
「ご自由になさればいいでしょう。笑えばいいでしょうに」
 服を汚しているほこりをはたき落としながらシャントットは、つづけました。
「ふるいしきたりが、神子の仕事が邪魔で、やりたいことができないと嘆く
くらいなら、ぶちこわせばいいでしょう。どこまでいっても良い子ちゃんで
通そうとして、窒息しそうになっているあなたのそのお姿、ちゃんちゃら
おかしいですわ」
 語り終わったシャントットが魔法をとなえると、その姿が濃い紫の暗い
光の渦に飲み込まれるようにして消えていきました。瞬間移動の魔法デション
で彼女は、自宅へと帰ったのでしょう。

(伝統を壊すなんて、無理……だって私、ひとりぽっちなのよ?)
 にじみ揺らめく蒼い炎の先端をじっと見詰めたまま神子は、立ちつくす
のでした。
29天の塔奇譚・後編(11/11):05/02/06 18:04:26 ID:OrNxF6c0
 数日後。シャントット邸。
 あの夜のことは、『無かったこと』になっていましたから、シャントット
博士は、平穏に日々をおくっていました。
 そんな博士のもとに、ぼさぼさ頭のタルタルガードが訪ねてきました。
「おはようございます。シャントット博士!」
 ぼさタルは、頬を赤くそめて目をそらしながら封書をさしだしました。
「博士宛の星文章です。あと、これは、ぼくから……」
 そう言って、一輪のレインリリーを手渡しました。そのとき、はずみで手と
手がふれあったのに、「ひやあ!」ぼさタルは、真っ赤になって慌てて家から
飛びだしてゆきました。
「おやおや、これは、新しい下僕の登場かしら? オホホ。それにしても……」
 花を机の上に置いて、
「星文章とは、嫌な予感がしますわね」
 その予感は、的中しました。このあとシャントット博士は、星の神子の
身代わり役として、なんども天の塔に登ることとなるのです。

「ひとりで壊すのは、無理ですから協力していただきますよ。ふふふ」
(おわり)
30名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/06 20:33:16 ID:QlugFxLB
>>29
乙!
ヘッポコくんダンスワラタ

色々追加中>まとめサイツ
どこを見ても竜の錬金術師の1話が見つからない(´・ω・`)
31既にその名前は使われています:05/02/07 12:19:06 ID:FStFlATC
あげとくね
32名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/07 19:18:37 ID:dtsr4Q7b
まとめサイツの左メニュー色々変えたけどどうよage
33既にその名前は使われています:05/02/07 23:15:43 ID:HMhar456
>>32
おおおお、管理人さん乙っす。
なかなか良い感じっす。
できたら、作者→作品名って統一してほしいところだけど、
うーん、どっちかが無かったり、どっちもなかったりするからなぁ……
34名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/08 01:08:04 ID:ZzTvJw6/
>>33
なんかごちゃごちゃしてるよねorz
どうにかならないかなぁ・・・
35既にその名前は使われています:05/02/08 18:06:43 ID:Tc5AjIFP
作品名とか作者名とか無いなら
「名無しさんA」作、「長編@」って勝手に付けちゃえばいいと思うけどねage
36名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/08 18:26:20 ID:ZzTvJw6/
あーなるほど。
長編カテゴリのほうはそっちの方向で行ってみよう(・∀・)

短編カテゴリのほうは題名を選んでクリックすればすぐ見れる!
ってほうがいいと思ったんだけど作者名がなぁ・・・
うーん(´・ω・`)
37名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/08 18:29:00 ID:ZzTvJw6/
短編の下に作者のツリーを作ってみるか(閉じた状態で
38既にその名前は使われています:05/02/09 09:39:08 ID:oeDVqtPO
age
39既にその名前は使われています:05/02/09 19:39:45 ID:w1BttKkS
ウィン好きとしては天の塔奇譚なかなかおもしろかった
クピピたんと劇画調になるズババ様が特に

で、シャントット様って星の神子にもタメ口なのは公式?
40既にその名前は使われています:05/02/09 20:55:58 ID:gGUhSKuS
>>30
前振りや予告みたいなものなんで、第1話載せてなかったっス
幻の第1話ドゾー


〜竜の錬金術師 第1話 Mikan練成〜

度重なるLv上げが続き、Mikanを死なせてしまった竜騎士
印可程度の練成でMikanの蘇生を試みるが失敗
そこには竜にも見えぬ無気味な生物が生まれてしまうのであった
心を痛めつつもMikanを焼却処分し、バストゥークへ
Mikanを完全蘇生する為にヴァナディールbPの錬金術師アズィマに弟子入りを志願するが…?
41既にその名前は使われています:05/02/10 12:34:16 ID:wMmhJ4hU
>>40
こういう始まりだったのか。
age
42名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/10 14:45:08 ID:Tvdi/TFP
作者のツリーはかなりごちゃごちゃするので挫折orz

>>40
おぉ(・∀・)ありがとうございます
43既にその名前は使われています:05/02/10 20:21:02 ID:2ows+e3M
ほしゅ
44 ◆74jK/SWJ7g :05/02/10 20:21:06 ID:cLtoVu7E
感想もらえて、うれしい〜。しかし遅レスですみません。

>>29名無しさん
まとめサイトのいいアイディア、思いうかばないので、せめて応援を。
がんばってー。

>>39さん
そういえばそうですよね、国の主に対してタメ口聞いてる。(>_<)
その辺り全然きづかずに書いてました。
あと、ゲームの中で、タメ口かどうかは正直わからないです。
45既にその名前は使われています:05/02/10 23:27:09 ID:rzci9e/P
管理人さん、おつっす。

> が、よくよく考えたら一人の作者さんが2つ長編つくったらドウシヨウヽ(;´д`)ノ

これは、誰それさんの作品1,作品2 とか。

あと、作品タイトルに困ったときは、何スレ目の何番〜何番とか。

それと、ツリー処理が面白くてイイ。
でも、管理しにくくなった場合は、シンプルなベタな作りでもいいかも。
意外と見やすくなる場合もあったりして。

外野が適当なこと言ってスマネ。
46名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/11 16:13:47 ID:Zw+zrADP
>>44
頑張ります(`・ω・´)

>>45
どもです(・∀・)
そうか、そうすりゃいいのかぁ。
ツリーのほうはお気に入りみたいに一個開いた状態で他のを開くと開いてたのが閉じる!
ってのにしたいけど難しくてよくワカンネ(;^ω^)
意見どうもです。

さすがに195は落ちすぎなのでageときますね
47既にその名前は使われています:05/02/12 01:04:32 ID:xSvdDCY0
age
48続・獣使いの息子  ◆6NLrYYfI2g :05/02/12 12:44:36 ID:99YKxk6D
続・獣使いの息子

すみません。結局、他のアイデアが浮かばず、続きを作ってしまいますた。


(前作の荒筋)

 名声ある獣使いトルテの息子ポルテは、家出同然でウィンダスから飛び出し、
 ジュノへの旅へと向かった。
 そこに現れた白魔導師リタと赤魔導師タウスの助力を得て、
 さまざまな危険やポルテの実の叔父にして黒魔導師ベクトトの妨害もすり抜け、
 やがてジュノへと到着する。
 それを実現させたのは、リタとタウスの助力だけではなく、
 彼自身の「獣使い」としての優れた才能が功を奏したのだ。
 そして彼の目的は、ジュノへの単純な憧れではなく、父トルテの「処刑」の真相を
 確かめるためであった……
 
 ポルテが旅を終えて数年後より、この話は始まります……
49続・獣使いの息子 第一章(1/6):05/02/12 12:45:30 ID:99YKxk6D
 あれから数年後……

「みんな疲れたか?次で終わりにしよう。」
 タウスは振り返ってそういうと、瞑想を続けている魔導師達は薄く頷いた。
 狩人は矢の残り本数を数えている。盗賊を生業とする者は疲れた様子も見せずに俊敏な
 様子で「釣り」へと走る。
 タウス……かつてのエルヴァーンの赤魔導師タウスは新しい修行の道へと進んでいた。
 魔導師とはいえ、剣を振るい戦うことが性に合うと豪語する彼は、あらゆる分野へと手
 を伸ばした。
 今、まさに戦おうとしている彼は、東方の装備と武具を身につけ、指で独特の印を結び、
 その手には忍具「紙兵」が握られている。
 そう、彼は難解なる「忍者」の道をも制覇しようとしていたのだ。
 数人の魔導師達や狩人などと語らい、供に修行の場所として選んだのは、アルテパ砂漠
 にある恐るべき「クフタルの洞門」

 クフタルの洞門……
 ここで無数に生まれ出る蟹どもは翼有る竜ですら恐れるという。
 その蟹達は愛らしくも見える小さな姿で、人が近づけば襲わずにはいれらない血に飢えた
 猛獣である。
50続・獣使いの息子 第一章(2/6):05/02/12 12:47:01 ID:99YKxk6D
 うっかり無防備で洞窟を走り抜けようとすれば、蟹共は磁石に吸い寄せられる鉄くずの
 ように群がり、鋭い爪で裁断されるまで、幾らも時間は掛からない。
 この洞門こそ、かつてはポルテの父、獣使いトルテが悲劇の事件を巻き起こしてしまった
 恐るべき場所。
 だが、その恐怖を克服するためにこそ、修行に集まる武芸者も後を絶たない。

 タウスが仲間達と供に、「釣り役」が獲物の蟹を連れてくるのを待っていた。
 一匹づつを仲間と総掛かりで掛かれば、それほど恐ろしい訳でもない。各々が得意とする
 技を持って仲間をカバーしつつ、己の技を磨いていく。彼らの一般的な鍛錬法である。
 が……当然、ミスをすれば命の危険を伴う戦いである。
「うわァッ!!」
 釣り役の盗賊が悲鳴を上げた。メンバーは騒然となって様子を見ようと前に出る。
「どうしたッ!今、そっちに行くぞ!」
「来るな!いきなり群れで襲って来やがった!みんな外へ逃げろ!」
 タウスがその様子を見ると、既に盗賊は10匹以上もの蟹共に囲まれていた。
 いかにすべきか、下手に動き回れば他の修行者達にまで被害が広がる。
 ……正に、獣使いトルテの事件を再現してしまうことになるのだ。
 と、タウスは近づき、いきなり盗賊を蹴り飛ばしてその場から引きはがした。
「俺が相手だ!みんなまとめて掛かってこい!」
 その一喝と供に、群がる蟹共との大乱闘を開始した!
51続・獣使いの息子 第一章(3/6):05/02/12 12:47:42 ID:99YKxk6D
 むろん、忍法による幻術は使用しているものの、これほどの敵の数では術の効果など
 無きに等しい。早くも術が破られ、タウスからおびただしいほどの返り血が辺りに
 飛び散った。
 盗賊は慌てて助太刀に立とうとするが、他のメンバー達に羽交い締めで引き戻される。
 犠牲者は少ない方がよい。白魔導師が居れば蘇生は可能だ。
 残酷なようでも、過酷なようでも、戦いに於ける彼らの知恵であるのだ。
 ましてや犠牲者が忍者ならば正に「適役」である。
 逃げようとする仲間を見送り、タウスは新たな構えをとった。
 もはやタウスには「覚悟」が出来ていた。
『微塵隠れ』……己の命を賭して敵を爆殺する、忍者達の秘技を使う覚悟を。
(なに、腕の良い白魔導師が蘇生してくれるのを、のんびり待つだけのことだ……)
 いよいよ印に力を込めようとした丁度その時、遂に『彼』が現れた!

 羊を模した装備で身をまとい、手には独特の盾と斧が握られ、
 その顔は、愛らしいタルタル族には有り得ないほどの怒気を発していた。
 そう、今まさに父トルテの事件が脳裏に蘇っているのだ。
 持ち手が折れんばかりに斧を握りしめ、猛然とタウスの元へと駆け寄る。
 雪辱を晴らす、と決意した鋭い眼光は、正にルビーの深紅の光と化していた!

 数年間の修行を経て、「獣使い」ポルテが戦いの場に、今、降り立つ!!
52続・獣使いの息子 第一章(4/6):05/02/12 12:48:22 ID:99YKxk6D
「はぁーい!みんな、せいれーつ!!にれつじゅーたぁーい!!」
 タウスを襲っていた蟹達は、ポルテの号令を聞いてぴくっと動きを止めた。
 そして、
           ざざざざざっ

 と、ポルテの足下に整列した。驚くほど綺麗な二列縦隊。
「はい、ばんごう!」 (ピピーッ)
 首からかけていた笛を鳴らす。当たり前だが蟹は数字を数えれる訳がない。
 だが、変わりにチャキンッチャキンッチャキンッ……と、爪を順に鳴らしていく。
 ポルテはこれで良し、と思ったらしい。
「気をつけぇー!はい、やすめぇー!……これでよしっと。ふぅ冷や汗かいちゃったな。
 タウスさん、お久しぶりです!ポルテです!」

 こんな、ありえない光景を見て、挨拶など出来る剛の者は居るはずもない。
「…………」
 全員、目を丸くして見ている。血まみれのタウスの姿も、もはや滑稽だ。
 さらに、ぴゅーっと新たな血がタウスの体から吹き出たが、
 しかし、治療するよりも開いた口をふさぐ方が先決だろう。
「白さん……ケアルしなきゃ。」
 ポルテはそう言いながらも、残酷であるが愉快なタウスの様子にクスクス笑った。
53続・獣使いの息子 第一章(5/6):05/02/12 12:49:09 ID:99YKxk6D
 そんな顛末の後である。みんな戦う気力を失ってしまったようだ。
 ようやく白魔導師の治療を受けたタウスは、仲間に解散を言い渡し、ポルテと供に
 アルテパ砂漠にあるオアシスの集落「ラバオ」へと歩いていった。
    (ザッザッザッザッザッザッザッザッ……)
 ようやく正気を取り戻したタウスが声をかけた。
「久しぶりだな、何年ぶりかな?」
「うーん、4年。5年かな?それよりどうです、この衣装!似合うでしょ?
 これでやっと獣使いになれた気がする。」
    (ザッザッザッザッザッザッザッザッ……)
 タウスはポルテの無邪気な様子を見て考えた。
 早すぎる。子供だったポルテが、たった5年の修行で取得できる衣装では無い。
 体も大人(のタルタル族)と大して変わらぬ大きさとなりつつあるが、表情からして
 こうして笑顔を見ている限りは、あまりにも幼い。
    (ザッザッザッザッザッザッザッザッ……)
「それでは、魔導の修行などそっちのけで、獣使いの技ばかり磨いてたんじゃないか?」
 苦笑いのタウスが問いかけると、ポルテも困った笑顔で頭を掻いた。
「い、いやいや。ケアルとかポイゾナぐらいなら、なんとか……できるかな?あはは……」
    (ザッザッザッザッザッザッザッザッ……)
「ポルテ、ところで……」
「なに?タウスさん?」
54続・獣使いの息子 第一章(6/6):05/02/12 12:49:51 ID:99YKxk6D
    (ザッザッザッザッザッザッザッザッ……)
「いい加減、後ろの蟹たちを帰したらどうだ?」
「あ、ごめんなさーい。」
 先程からの(ザッザッ……)は彼らの足音であったのだ。もう(ピタリ)と停止している。
 慌ててポルテは二列縦隊のまま着いてきている蟹の方に向き直り、指示を与え始めた。
「それじゃ、ここまででいいから、みんな気をつけて帰るんだよ。
 いいかい?家に帰るまでは気を引き締めて、絶対に人を襲ったりしないで……」
 そんな複雑な指示が蟹に理解できるのだろうか?
 いや、結局は大丈夫なんだろう。
 心配するだけ馬鹿らしい、とタウスは首を振った。
 本当に悩まなければならないのは、そんなことではない。

『複数の動物たちを操れる獣使いなど聞いたこともないし、ありえない。』
 この恐ろしいポルテの成長ぶりに彼は悩んだ。
 いや、苦しんでいた。突飛ではあるが、ふと思い浮かんだ恐ろしい推論のために。

 そんな苦悩する彼に対して手を振っている魔導師が一人。
 ラバオの入口で二人の出迎えをしているのはミスラ族の白魔導師リタであった。
55 ◆6NLrYYfI2g :05/02/12 12:50:46 ID:99YKxk6D
続けて行きます。
56続・獣使いの息子 第二章(1/8):05/02/12 12:51:40 ID:99YKxk6D
 それより少し前の話……
 ウィンダス港区「口の院」で一仕事を終えた白魔導師リタは、ようやく手を休めて
 待たせていた客人に向き直った。客人、それはポルテの叔父ベクトトだった。
「お待たせしましたね、ベクトト卿。」
 そうして挨拶をしたリタは数年の歳を重ねてたせいか、あるいは堅物の魔導師や研究家
 の間でもまれたせいもあるのだろう。
 その顔には母猫の貫禄にも似た、凛とした表情が伺える。
「おざなりの挨拶と季節柄の慣用句、そんなものは抜きにして、さっそく相談させて頂く。
 ポルテのことだ。」
 黒魔導師独特の漆黒のローブを着たベクトトは、そう言いながらフードを外して、
 しかめっ面を見せながらそう言った。ずいぶん性急な物言いである。
 本来、知性を自負する魔導師ならば回りくどい挨拶を好むはずだが、ベクトトの性格
 には合わないらしい。
 リタもミスラ族の気性か、彼のそういう所に関しては気が合うらしかった。
「やはり彼はじっとしていられない性分の様ですね。しばらく前にウィンダスを出てから、
 私は姿を見ていません。獣使いとしての修行に夢中なのでしょう……彼が何か?」
「今更ながら、とは思うのだがな。常々思っていたが、あいつの獣使いとしての能力は
 常識外れだ。専門ではない私の意見だけではなく、他の獣使いの連中も、あいつの力
 に首をひねっている。」
57続・獣使いの息子 第二章(2/8):05/02/12 12:52:18 ID:99YKxk6D
「そうですね。でも、それは気に病む必要は無いと思うのですが。
 いずれは彼の父の名を超える希代の獣使いとして名をはせることになるでしょう。」
 少しリタは目を輝かせた。親しい相手の成長に夢を抱いているようだ。
「弟は……あいつの父親は、どちらかというと『冒険者』としての総合能力が秀でて
 いたと思うのだが。」
 ここでベクトトは少し言葉を切ったが、余談はこれまで、とばかりに向き直る。
「ま、それはいいとして、ポルテが初めてジュノへ赴いたときのことを覚えているか?
 そしてトルテが言っていたという言葉。『俺の息子は俺を超える』」
「たしか、トルテさんの同僚の獣使いの方がおっしゃっていたことですね。」
「私は単なる親バカだと思って聞いていた。だがポルテの異様な能力を不審に思った私は
 そのトルテの言葉をもう一度聞いてみたのだ。」
 リタは眉をしかめた。
「異様な能力?ポルテが異様だとおっしゃるのですか?」
 ポルテ贔屓のリタの物言いを無視して、ベクトトは話を進めた。
「いいか?そのトルテの言った言葉を全て思い出してもらったのだ。彼は忘れっぽい性格
 だったらしく、聞き出すのになかなか時間が掛かってしまった。それはこうだ……
 『ポルテは生まれついての天才だ。俺が教え込んだわけでもなく、大した訓練もせず、
  どんな獣たちとも語りあい、どんな獣たちでも操ることができる。
  あいつは……俺の息子は俺を超える。
  あいつこそ、獣使いに新しい世界をもたらすかもしれない。』」
58続・獣使いの息子 第二章(3/8):05/02/12 12:53:16 ID:99YKxk6D
「……」
 リタは沈黙した。それをどのように考えて良いのか判らなかった。
 それが何か?と、思わず口に出しそうになった。
「ま、単なる親バカの褒め言葉と最初は聞いていたのだがな。
 しかし、父親のトルテは生活の大半は旅に継ぐ旅。たまにポルテの顔を見に帰ってくる
 ぐらいだ。少しだけあいつと遊んでまた旅に出る。その僅かな時間でポルテの獣使いと
 しての技を見たのだろう。」
 ここでベクトトは話を切り、差し出された茶を一口飲んだ。
「だが、さっきの言葉の中で、あいつはなんと言った?
 『俺が教え込んだわけでもなく』だ。つまり、獣使いの技など教えたりしていない。
 ポルテを育てた私も見た限りでは、誰からも獣使いの教育を受けてはいないのだ。
 いや、断言しても良い。ポルテは『獣使い』ではない、と。」
 ここでリタが反論した。
「獣使いのことはよく知らないのですが……それほどに『教育』と言うほど訓練が必要
 なものなのですか?見よう見まねで出来るものかも知れないし。」
「父親の見まねかも知れない。子供は物覚えが良いからな。だがな?獣使いはそれなりに
 戦士としての素養が無ければ危険だ。失敗すると術者に襲いかかるからだ。
 しかし、どんな獣使いでも起こす失敗など、ポルテに聞けば経験したことが無いと言う。
 さらに、熟練者でなければ、操ることは不可能な強大な獣でも、失敗の経験が無いと言う。
 これはジュノまで一緒に旅したあなた方も、多少は目にしているのではないかな?」
59続・獣使いの息子 第二章(4/8):05/02/12 12:54:09 ID:99YKxk6D
「……」
「それでも、危険だと思った私は、彼に獣使いの技をもてあそぶことを禁じた。
 また、将来に彼が獣使いになることを恐れ、その道から外れるよう忠告したのだ。
 それは何故か?独自の方法で誰よりも獣使いの技に優れている、などということは、
 よほどの特殊な『力』が備わってるとしか思えない。
 そういう『力』には大抵は危険がつきまとう。」

 リタも魔導師だ。そうした話は多少は理解できるが、リタはそれを弁解しきれなかった。
「子供特有の……大人になれば消えてしまうような霊感のような……」
 たどたどしいリタの想像を、ベクトトは無視して話し続ける。
「次だ。ジュノから帰ってきてから、あいつは凄まじい勢いで成長を続けた。
 一つに、猛獣のたぐいからは、何もしなくても襲われることが無くなった。
 二つめに、複数の獣をも操ることが出来ることに『気が付いた』らしい。
 私は見たのだ。十匹を超えるマンドラゴラを操るポルテの姿を。」
 リタは少しギクリと驚いた。そのことは多少は知っていたようだ。
「三つ目。これはあいつ自身気付いてないかも知れない。
 ポルテの様子を見ていてわかったのだが、あいつは言葉など使わず、合図も技も使わず
 獣が操れる。それこそ、考えずとも動く手足や心臓のように。」
「……」
「最後の四つ目、大きく力を発揮するときの、赤く光ったポルテの目……」
60続・獣使いの息子 第二章(5/8):05/02/12 12:55:03 ID:99YKxk6D
「そんな馬鹿な。何かの反射を見たのではないですか?」
 リタは失笑しながら、そう言ったが、
「ああ、そうとも。何かの反射ならそれにこしたことはないな。
 見間違いなら、ちょっと優れた獣使いのタルタル族として、幸せな一生が送れると
 いうものだ。だが、そうでなければ、これから先ポルテはどうなることか……」
「まるで、ポルテを妖怪変化の類に成長しているかのような仰りようですね。」
「私も心配性でな。だが、赤く光る目が他にはない『力』の存在を示す兆しで無ければよい、
 そう考えるのだが……
 もし可能ならば、あなたに調べて頂きたいのだ。あなたはあの子と親しい。
 幼くして亡くした母親の代わりのように、あいつはあなたを見ているようだ。
 私も、あいつを学者連中の中に放り込むという、残酷な真似をしたくない。
 何より『五番目』の成長でどんな結果となるのか……
 危険を除くことに早すぎることなど有り得ない。そうは思わないかね?」
 リタは勿論、この申し出に断る理由など無かった。

【そういう訳なの……どう思う?この話。】
 ここまでの話をリタはタウスに『話』で説明していた。ポルテに聞かれないように、
 念による会話を使っていた。
 今、彼らは再会を喜び合った後、オアシスの側でゆったりとした時を過ごしていた。
 タウスとリタは話を続け、ポルテは釣り竿を手に魚釣りに夢中だ。
61続・獣使いの息子 第二章(6/8):05/02/12 12:55:32 ID:99YKxk6D
 その様子をリタがからかう。
「ここで釣れなきゃ目も当てられないわよ?あーあ、美味しい焼き魚が食べたいなァ。」
 こうしてポルテをからかうリタの顔には、普段の魔導師である時の鋭い表情はなく、
 以前の愛らしい笑顔が浮かんでいた。そしてポルテは困り顔で言い返す。
「うう、ちょっと待ってよ……あ、また餌とられちゃった。」
 タウスは、この様子を見て笑った。
 優れた獣使いとはいえ、釣りの技とは関係ないらしい。
 でも、もしかしたら……ポルテの意図が魚に伝わってしまっているのではないか?
 そんなことまで悩みとなって、タウスの思惑に落ちてくる。

「えーい、もうやめた!ちょっと砂漠へ散歩してくる!」
 ポルテはそういうと、チョコボ屋に駆け寄って小銭を渡した。
 ところがポルテはチョコボの手綱を取らずに、そのまま砂漠へと出て行こうとする。
 チョコボの飼育員は慌てて声をかけたが、チョコボは親鳥の後を追うようにポルテを
 追っかけていった。
 その様子を目を丸くしてみている飼育員……
62続・獣使いの息子 第二章(7/8):05/02/12 12:56:33 ID:99YKxk6D
 そのポルテの様子を見て、リタはタウスに『話』かけた。
【ああいうことなのね?意識せずとも獣を操れるというのは。こんなにすぐに目の当たり
 に出来るとは思ってなかった。】
【ああ、子供の頃でも凄いと思ったが……まさか、これほどに成長したとはな……】
【でも、彼に悪意は見えないし、本当に単なる優れた獣使いというだけの話だと思うの
 だけどねぇ……確かに度が外れているかもしれないけど。】
 ここで、タウスは本当に悩んでいることを打ち明けた。
【俺は……ある『可能性』を考えているのだ。
 ベクトト卿のいう『5番目』の成長が来るとしたら】
【可能……性……?】

 ポルテは砂吹雪の荒れ吹く砂漠の中央まで出てきた。
 巨大なダルメルが遠くで歩いていて、空は早くも星が輝き始めている。
 幸い砂嵐もなく、誰も居ない夕暮れの砂漠だった。
 そして、チョコボから降りて「あるもの」に向き直った。
 クゾッツ諸島に帝国を築いた獣人「アンティカ族」
 すぐさまポルテを見つけ、手にした長剣を大きく振り上げた。
63続・獣使いの息子 第二章(8/8):05/02/12 12:57:19 ID:99YKxk6D
 タウスはゆっくりとリタに話しかける。
【その可能性がもし図に当たれば、単に獣使いとしての力だけで収まる問題ではない。
 例え悪意を持って使用することがなくとも、その恐るべき能力に人々は恐怖するだろう。
 その力……それは、ヴァナディール全土をも揺るがす膨大な力にもなりうるからだ。】
【……えぇ!?】

 ポルテは、襲いかかろうとするアンティカを強く睨み付ける。すると、
       ヴィィィィ……ィィィン
 ポルテの二つの目から、ルビーのように赤い眼光が放たれた!
 そして、アンティカの動きがピタリと止まった。

【もしも……もしもポルテが……獣人をも操れるとしたら……】

 アンティカは振り上げた剣を下ろし、胸に手を当ててポルテの足下にひざまずいた。
 そいつだけではない、
 点々と砂漠を散っていたアンティカ族が皆、ポルテの方に向かってひざまずいたのだ。
 更に遠くのゴブリンまでも、彼に向かってべったりと平伏した。

【獣人をも操れるとしたら……人々がその様を見れば……】
64続・獣使いの息子 第二章(9/8):05/02/12 12:57:58 ID:99YKxk6D
 幸い、このポルテと獣人の様子を誰も見ていなかった。
 もし見られていたら、たちまち大騒ぎとなるだろう。
 まさにそれは……新しい闇の支配者が誕生したかのような光景だった。

【人は彼をこう呼ぶだろう……『魔王』と。】
65 ◆6NLrYYfI2g :05/02/12 12:58:46 ID:99YKxk6D
(;´Д`)すいません。最後、レス数からはみ出ました。
一休みしたら、さらに連投します。
66続・獣使いの息子 第三章(1/9):05/02/12 13:03:28 ID:99YKxk6D
 リタは、タウスの言いぐさに声を上げて笑った。
【アハハッ魔王ってねぇ……ずいぶんと子供じみたあだ名を付けるものね?
 そういえば、あの子に魔女なんて呼ばれたこともあったな。懐かしい。】
 そう、茶化しておいて、タウスに向かって澄まし顔で言う。
【あのね?それじゃ私も一つ教えて上げる。以前の彼のままだったらの話だけどね。
 あの子は操った獣達を死なせるのは、それはそれは嫌がるの。
 襲ってくる敵と戦うことも嫌がるし、斧の使い方もなってないわ。
 そんな平和な子が悪魔のように思われる訳がないってば。】
 タウスはあっさりと反論した。
【人々は力の存在自体を恐怖する。例え、それが悪影響を及ぼすことがなかったとしても。
 あいつの叔父さんも、似たようなことを言ってなかったか?】
【……】
【ポルテが加害者となることなど、俺も有り得ないと思う。そう思いたい。
 俺たちが恐れなければならないこと、それはポルテがむしろ被害者となることだ。
 人々の奇異と畏怖の目に、ポルテが傷つけられることを恐れているのだ。違うか?】

 リタは考えた。
(ポルテの叔父さんも言ってたわね……ポルテの力に獣使いの仲間が首をひねっていると。
 すでに、ポルテの桁違いの能力は評判になっているわけだ。)
67続・獣使いの息子 第三章(2/9):05/02/12 13:04:22 ID:99YKxk6D
(もう少し……私も気をつけてあげればよかったか。
 自分の訓練や研究に没頭してしまい、旅に出たり塔に籠もりきりで合う暇も奪われて
 しまった。といって、あの子もジッとしている性分ではない。
 まぁ、それは今更の話ね。これから、どうすべきか……)

 問題は非常に難しい。
 もし獣人を操る力が有ったとして、ポルテはその力をどの様に使うつもりだろうか。
 単に便利な力となるか、あるいは危険な力となるか。
 人に隠すべきかどうか、ポルテはどうような意識で、その力と向き合うべきか……
 リタは更に考え込む。

 しかし、リタはタウスやベクトトとは違い、楽観的な明るい性格だった。
(何に置いても、その力がどれ程の物か見定めが必要ね。
 そして、ポルテがどんな子なのか、改めて、みなおさ無ければならない。
 そうしている間に、なにか良い方向性が見いだせるだろう。焦ってもしょうがない。
 そうだ、あの子を連れて旅に出よう。
 獣使いの技を生かしてもらうと言って辺境の国を旅すれば人目も付かないし、考える
 時間もたっぷり作れる。)
68続・獣使いの息子 第三章(3/9):05/02/12 13:04:50 ID:99YKxk6D
 ここまで考えたリタは少し心が躍った。ようするにポルテと一緒にいたかったのだ。
 リタはポルテに対して異性に対する恋心とは違うが、気の合う親友や愛すべき子供に
 対する慕わしい感情を強くもっていた。
【ま、私に任せておきなさい。魔王だったとしても、このリタ様が顎でこきつかってやる。
 所詮、ポルテはポルテに違いないんだから。】
 そう言って、タウスの背中をバシッと大きく叩く。
 いきなりの強打にタウスは思わずむせかえった。

 そこにポルテが帰ってきた。
 もはや、とっくに日は暮れている。
 オアシスの湖には星空と三日月がキラキラと映し出されていた。連れて行ったチョコボ
 はとっくの昔に帰ってきていた。そしてポルテはトボトボと歩いて帰ってきたのだが、
 なんとなく晴れない顔つきをしていた。そこへリタは大声で呼んだ。
「あら魔王様ぁー!お帰りなさぁーい!」
 いきなり、その話に触れるつもりなのか、とタウスはギクリと驚いた。
 ポルテはギョッとなって聞き返す。
「ま、まおう?」
「アハハッ。実はタウスと噂してたのよ。ポルテは獣人をも操り出すんじゃないかってね。
 それが出来るなら、ポルテ?あんたは獣人国家の頂点に立つ魔王様にだってなれるわ。」
69続・獣使いの息子 第三章(4/9):05/02/12 13:05:45 ID:99YKxk6D
 リタの直球攻撃にタウスは、そしてポルテは面食らった。
 リタは素早く「耳打ち」する。
【こういうことは、大急ぎで確信を付くべきなの。互いの悩み事はさっさと曝き出すこと。
 解決にかかるのはそれからなんだから、モタモタしていてはダメ。】

 ポルテは砂漠で試みたとおり……実は彼自身もタウスと同じ事を考えていたのだ。
 そして悩んでいた。その力が何をもたらすのか?
 いくらタルタル族の誇る巨大な頭脳でも、未だ幼い彼には、その課題は重すぎた。
 そして、恐ろしいことになるかも知れない……ということだけは、彼は感じていた。

 時を移さず、リタはポルテに誘いかけた。
「旅?」
 ポルテは、リタの唐突の申し出に驚いた。
「そうよ、のんびり素材でも狩りながら旅してまわるの。裁縫とか皮製品とか、作りたい
 ものがいろいろあるし、あるいは、そのまんま売り歩いてもいいし。」
 タウスは笑って茶々を入れる。
「まるでゴブリンの行商人だな。」
「まぁねぇ……といっても、それは表向き。というより、旅が退屈しないためのネタかな?」
「え?」
 どういう意味だろう?とポルテは驚いて聞き返した。
70続・獣使いの息子 第三章(5/9):05/02/12 13:06:39 ID:99YKxk6D
「なんていうかな、ポルテの獣使いの実力を見せて欲しいのよ。いろいろ評判は聞いてるし、
 ウィンを出てからどれほど成長したのか、たっぷり見せて貰うわよ!」
 ギロッとポルテを睨み付けるリタ。
「ひ、ひぇっ」
 ポルテは思わずタウスの背中に隠れる。タウスは又も笑う。
「どうやら素材狩りの方が目当てのようだな。まぁせいぜい扱き使われてこい。」

 そして……ポルテとリタ、二人は砂漠の旅人となった。
 小銭でも勿体ない、と言って一匹のチョコボに二人乗りしていたが、ポルテと距離を
 置きたくない、というのがリタの本音だ。
 軽いスキンシップが親近感を生む。
 そうしたところから一歩ずつ始めなければ、というのがリタの計画の第一歩だ。
 とはいえ……ポルテの今の姿、モコモコとした獣使いの衣装は女性の心をくすぐるには
 十分に可愛らしい。思わず、リタはポルテをキュッと抱きしめたくなった。
 というか、既に抱き上げていた。
「ちょ、ちょっとリタ!なにするのさ?」
「いいじゃない?昔は風呂も一緒に入って、添い寝までした仲なんだから。」
「あのさぁ……そんな、子供の頃のことなんか。」
「あ、やなの?それとも可愛いタルッ娘(こ)の彼女に見られちゃまずいとか?」
「そ、そ、そんな相手……い、いないけどさ……」
71続・獣使いの息子 第三章(6/9):05/02/12 13:07:35 ID:99YKxk6D
 そんな風にリタのからかいをうけながら……向かったのは流砂洞。
 かつてはガルカ族の都だったという遺跡群である。
 今ではアンティカ族が巣くい、徘徊するのは彼らと巨大な蜘蛛や甲虫の類ばかり……
 だが、その危険な蜘蛛が目当てである。彼らから取れる蜘蛛糸は実に高価な素材だった。

「あ、あのねぇ……」
 呆れ顔でポルテに問いかけるリタ。
 いざ戦わん、とばかりに抜かれた棍棒は、だらりと右手にぶら下がったままだ。
 そのリタが目にした光景とは……
 蜘蛛がシュルシュルと吐き続ける糸を、甲虫が器用にくるくると角で巻き取っていく。
 そのペアが何組も作られ、流砂洞の一室は、いわゆる製糸工場と化していた。
「そうそう、その調子その調子。あ、キミキミ。その糸じゃダメなんだ。
 敵を絡めるベタベタの糸じゃなくて、えーと、巣の足がかりにする粘りの無い方の……
 あ、そうそう、それそれ。お礼は後で上げるからね。
 って足りるかなぁ?リタぁ!エサつくるの手伝ってくんない?」
 甲虫の好きな樹液をつくる木材やら、得体の知れない肉片など、ごそごそと袋から取り
 出してポルテは言う。
「そ、そんなの自分でなんとかしなさいよッ!」
「えー、しょうがないなぁ……あ、お疲れ様。これはお礼だよ。」
72続・獣使いの息子 第三章(7/9):05/02/12 13:08:49 ID:99YKxk6D
 そんな風にポルテの「製糸工場」が「運営」されていく様を、呆れながらもリタは観察
 していた。
 
 判ったことが幾つかある。
 まず、複数の獣はおろか、複数種類の獣まで同時に操る。
 そして、ポルテの言うことを聞かないものがいることに驚いた。
 ポルテが操りきれていないわけではない。
 ポルテの話を聞いた上で、つまらないと思ったのか何もせずに去っていったのだ。
 操るとは少し違う、対話と同意の上で獣は言うことを聞いたり、逆らったりするようだ。
(いや、イザとなったら強制的に言うことを聞かせることもあるのかも……)
 だが、気を抜いて見物している場合ではない。
 ここは、アンティカ族の住居でもある。いざ、大群が押し寄せてきたら、ポルテを連れて
 ひとっ飛びする準備だけはしなくてはならない。
 だが、しかし。

(ここに来るな。来てはいけない。)
 リタに悟られぬよう気をつけながら、チカリ、チカリ、と赤く瞬くポルテの目。
 すると、部屋を覗こうとしたアンティカ達は、「王」の仕事の邪魔にならぬように、
 「王の居室」を避けて通りすぎていった。
73続・獣使いの息子 第三章(8/9):05/02/12 13:10:10 ID:99YKxk6D
 やがて、ポルテとリタは転送呪文『テレポメア』で向かったのは、ウィンダスまで目と
 鼻の先の「タロンギ大峡谷」だった。今はもう真夜中だった。
 そして彼らの足下には、ポルテの3倍も大きな「ずだ袋」を3つも置かれていた。
 中身は高級素材となる「蜘蛛の糸」の山だ。市場価格のままで売れば一財産になる。
 リタはちょっと頭がクラクラしたが、それもつかの間のこと。
 誰かに手を振るポルテの様子を見て、思わず叫んだ。
「こらこらッ!ダルメル呼んでどうするつもり?チョコボを数頭借りて運ぶから。」
「えー、でもさぁ……」
「でもじゃない!そんなの連れて行ったらサルタバルタは大騒ぎになってしまうわ。」
 実は、ポルテは翼有る獅子マンティコアで運ぶつもりだったのだが、ダルメルすら
 禁じられたのが不満らしい。なにかブツブツ独り言を言っていた。

 こうして得た収入を元手に、ポルテの演じた「製糸工場」からヒントを得て、リタは
 一大企業を立ち上げた。
 多数の職人を雇い入れ、規定通りの作業をさせて見返りの賃金を払う。
 整理された手順で規則正しく作業をさせていくことが効率的である、ということを、
 ポルテが蜘蛛や甲虫と供に証明したのだ。
 こうしてポルテの一族とリタは事業を拡大し、ウィンダスの産業革命の開祖と呼ばれる
 ようになり、時代はやがて「技の時代」から「産業の時代」へと移り変わり……
74続・獣使いの息子 第三章(9/9):05/02/12 13:10:43 ID:99YKxk6D
 ……なぁんて脳天気な話になろうはずもない。
 明るい性格のリタなら、そんな事業発足を夢想したかも知れないが……
 ポルテの力は、話を暗く険しい方向へと誘うものでしかなかったのだ。

 三頭のチョコボに荷物を積み込み、あと一頭に二人は乗り込む。
 ひとまず、故郷へ帰って荷物の整理をするつもりらしい。
 リタは陽気にポルテに話しかけた。
「これだけの糸、捌くのは大変ね。一度に売り払おうとすれば、価格が暴落してしまうし。
 あ、そーだ。私があんたの洋服縫ったげる。」
「えぇ?いいよぉ、この装備が僕は一番……」
「ダメダメ。可愛い彼女の気を引きたいなら、おしゃれ着の一つぐらい持ってなきゃ。」
「そ、そんなの居ないってば。」
「それとも魔導師のローブがいい?私が鍛え直して上げるから。」
 リタはニヤリと笑って言った。
 ポルテは、リタのからかいに翻弄され「悩み」に落ちる暇など無かった。
 本当は……彼自身が「獣人を操れる」ことに人一倍、悩んでいたのだが。

 そして、彼の問題が解決されないまま事件が起こるのは、もう間もなくのことであった。
75既にその名前は使われています:05/02/12 13:11:32 ID:SRSkU1R2
まってましたあああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああ
76 ◆6NLrYYfI2g :05/02/12 13:12:46 ID:99YKxk6D
とりあえず、ここまで貼らして頂きました。
続きが出来たら、また貼らせて頂きます。
77既にその名前は使われています:05/02/12 13:17:09 ID:SRSkU1R2
おおおういいええええええええええ
つづきかむおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん
78既にその名前は使われています:05/02/12 14:54:57 ID:mGeXyaH3
>>48
あのペースで作品作り続けられたことのほうが不思議ですよw
凄いですね。

ヴァナ・ディールでの長さと重さの単位があまりわかりません。
確か重さがポンズで長さがヤルム?マルムってのもあるのかな。
このヤルムとかがリアルでいう何に当たるのかもよくわかりません。
公式設定資料集は持ってるのですが書いてあるのかどうか…
リヴァイアサンが何十ヤルムもあるということで、ヤルム=メートルかと思っているのですが。
79 ◆6NLrYYfI2g :05/02/12 15:09:00 ID:99YKxk6D
>>75 >>77 >>78
つДT)ありがとです。
ちょっとリアルが忙しくなりそうなので、今日明日中に仕上げようかとたくらんでます。
頑張って、無理矢理に話を引き延ばしたようにならないよう、気をつけたいと思いますが……

あと、単位のことは私もわかんないっす。
80既にその名前は使われています:05/02/12 21:08:28 ID:SRSkU1R2
80とりつつほしゅ
81既にその名前は使われています:05/02/13 01:52:56 ID:2yFP1ouB
あげ
 荷物用も合わせて四頭のチョコボを率いて、リタとポルテは夜中のタロンギ大峡谷を
 進んでいた。
 闇夜ではない。月明かりが皎々と彼らを照らしている。それなりに美しい夜だった。
 夜中ゆえ、骸骨達の歩く姿も見えるが、今の彼らに恐れるほどの敵ではない。
(あんな幽鬼の類もポルテは操れるのかしら……)
 リタはそんなことを考えながら、大峡谷の谷道へと入ろうとしていた。
 ちょうどその時だった。

(ドドドドドドドド……)

 妙な地響きが聞こえてくる。
「あれ?なんの音かしら?」
 リタは驚いて振り返る。
 ダルメル達がポルテをしたって追っかけてきたのかしら?などと考えていたが、そこへ、
「おーい、お前達!速く逃げろぉー!」
 三頭ほどのチョコボにのったタルタルが数名現れた。ウィンダス軍の兵士達だ。
「あんたら、警報を聞いてないのか?どこでもいいから速く逃げろ。」
「い、いやまて、あなたは白魔導師のリタさんですね。よろしければ我が軍に加わって……」
「こら、無茶を言うな。えーと、むしろ本国に帰ってその上で……」
 そんな風に、口々に言われてリタは少々混乱した。
83続・獣使いの息子 第四章(2/9):05/02/13 02:31:00 ID:h1qoABBQ
「あの待って下さい。事情がさっぱりわかりません。」
「と、とりあえずこっちへ。早く!」
 そううながされて、一緒にチョコボで向かった先には、ウィンダス軍の兵士達が谷道を
 利用した防壁が既に貼られていた。タルタル族にミスラ族の混成軍、そして傭兵らしい、
 数名のガルカやヒュムも混じっている。まるで戦の構えだ。
 リタは尋ねた。
「い、いったい何が起こってるのですか?」
「ヤグード共だよ。オズトロヤ城から軍勢が湧き出て、押し寄せて来やがったんだ。
 あーもう!こんな急ごしらえの防衛戦なんて、対して時間稼ぎにもならんぞ。クソッ!」
 いらついている隊長らしいタルタル族の者から目を離して、リタは周りを見渡した。
 この防衛戦から少し離れた場所から、じっとこの様子をうかがっている者がいる。
 ヒュムの男性らしいが、真っ白いローブを着てフードで顔がよく見えない。何者だろう?
 
 そこへ、斥候に出ていたもう一騎の兵士が戻ってきて怒鳴り散らした。
「ヤグード軍はすでにタロンギ大峡谷の中腹を越えた。もう間もなくここに来る!
 数は……判らんッ!もう地平線が見えないぐらいッ!」
「ちくしょおッ!いったい何処にそんな軍勢隠してやがったんだッ!」
 リタは慌てて尋ねる。
「そんな馬鹿なことが……ウィンダスとヤグードには同盟が」
84続・獣使いの息子 第四章(3/9):05/02/13 02:31:40 ID:h1qoABBQ
 それを隊長は怒鳴り返した。
「うるさいッ!同盟なんざ破るためにしかないんだよッ!
 ……おい、あんたら。この様子が判ったんなら、とっとと報告に帰りやがれ!」
 今度は、例の白いローブの二名に向かって叫んだ。
「見て判るだろう?俺の、いち隊長の判断でしかないが、各国の援軍を要請したい。
 今すぐだ!でなけりゃ、ウィンダスは大変なことに、いや全滅も有りうる!
 さぁ、さっさと行きやがれ!」
「……了解した。いち隊長の判断、確かに承った。」
 白いローブの男は暗い声で答えたが、もう少し戦況を見るつもりらしい。
 さらに防衛戦から距離を置いただけに止めた。
 タルタルの兵士は、隊長に囁く。
「いったい、あいつらは何者なんスか?」
「ああ、『あれ』をみるの初めてか?『上』が『上』がって皆よく言ってるだろ?
 あいつらのことだよ。
 あいつらが自体を察知して、ウィンダス政府に警報を出したんだが……
 おいッ来たぞッ!」

 やがて、地面を走るカラスのような姿が現れた。ヤグード共だ。
 恐ろしい勢いでこちらの方に向かってくる。
 狭い谷道があっと言う間に黒い姿で埋め尽くされてしまった。
85続・獣使いの息子 第四章(4/9):05/02/13 02:32:25 ID:h1qoABBQ
「ま、まずい!皆もういい!陣を捨てて逃げろ!でないと……
 うわーーーーーッ!!」
 
     ゴォーーーーーーーーーーーーーッ!!

 隊長を含む数名が一気に燃え上がった!
 先頭を走っていたヤグードの魔導師らしい者が、曲がりくねった杖を手に、
 精霊範囲攻撃呪文『ファイガ』を詠唱したのだ。
 こちらはなんの抵抗も出来ずに、いっきに陣が燃え上がる。
 まさに、魔法を得意とするウィンダスのお株を奪うやり方だ。
 次々と倒れていくウィンダスの兵士達。混じっていた魔導師達が手を打とうとするが、
 今度は武器を片手のヤグードがそれに襲いかかる。
 リタも回復呪文で支援しようとするが、もう手遅れだ。
 死んでしまっては、蘇生呪文『レイズ』をゆっくり詠唱していく他はないのだから。
 この上は逃げの一手と考え、ポルテを見返し……そして、ポルテの異変に気が付いた!
86続・獣使いの息子 第四章(5/9):05/02/13 02:33:21 ID:h1qoABBQ
(みんな殺されていく。そして祖国も襲われる。いまから大戦争が始まるのだ。)
 ポルテは苦悶していた。自分の力を発揮することに恐れていたのだ。
(もしかしたら……自分の力なら止められるかも知れない。)
(しかし、本当にどうなるのだろう。みんなの前でこの力を見せたら、なんと思うだろう。)
(だが……僕は許さない。僕の国が蹂躙され、みんなが殺されることを絶対に許さない!)
 そう決意したポルテは、閉じていた目を開き、ヤグード共に向かって深紅の閃光を解き放った!
 その時、
       パァァ…………ァァァン

 それは、リタの仕業だった。
 ポルテの背後で、リタがチョコボの背中で仁王立ちになり、輝かしい光を放ったのだ。
 魔法ではなかった。白魔導師の最後の力『女神の祝福』でもなかった。
 単なる目くらましの光だったのだ。

 やがて……ヤグード達は進軍をピタリと止めた。そして後ろを向いて、スゴスゴと来た道
 を引き返していく。後続の者も、前にいる連中を追い立てることもないようだ。
 ヤグード全軍は、あっさりと引き返していこうとしている。あまりにもあっけない顛末だ。
 むろん、それはポルテの力が及ぼした結果であるが……
 周囲の生き残った連中は、そうは思わなかった。
 リタは、ポルテのしたことを自分の仕業と思わせるのに成功したのだ。
87続・獣使いの息子 第四章(6/9):05/02/13 02:34:13 ID:h1qoABBQ
「なんだ……どういうことだ?」
「おい、みんな引き返していくぞ!どうした、今の光のせいなのか?」
「あ、この人だよ、今の光は。すげぇ!魔法の一発で全軍を引き替えさせるなんて!」
「白魔導師の魔法に、そんなのあったか?敵の進軍を止めてしまうような。」
「さぁな?新魔法じゃねぇのか?」
        ザワザワ……ザワザワ……
 そんな風に、リタ(とポルテ)を遠巻きにして、兵士達はなにやら口々に論議していた。
 と、そこへ。
「あなたのお名前は。その装備からして白魔導師のようですが。」
 近づいて来たのは白いローブを着た男。いわゆる『上』の連中だ。
 リタはチョコボから飛び降りて、毅然と聞き返す。
「リタです。あなたこそ、どちらさま?」
「おお、これは失敬。私は『評議会』の者です。と、言えば名乗る必要は無いと思いますが。」
 『評議会』……リタは一応、その名前は聞いていた。
 名前を名乗らないのは、その役職の代表という立場で話をしようとしているからだ。
 失礼と思わない、しかしリタはギロリとにらみ返す。気にくわない、と言わんばかりに。
 そんなリタの様子も構わず、『評議会の者』は話しかける。
「ジュノまで来て頂きましょう。今の行われたことの説明を。
 そして、あなたの力を知らねばならない。」
88続・獣使いの息子 第四章(7/9):05/02/13 02:34:49 ID:h1qoABBQ
 単刀直入にして簡単明瞭な物言い。しかし、リタも負けてはいない。
「理不尽な。あなたにそんな権限はない。私の居場所を決めることが出来るのは私だけ。」
「ならば実力行使します。今、あなたが行ったことは悪事ではなく、恐れる必要はありません。
 三国及びジュノ公国からも、表彰されるべき功績です。
 そして、そのお力が発展すれば、我々は壮大なる平和な世界を築くことが出来る。
 ま、それは私のいち判断にすぎませんが、とにかく、お越し頂きますぞ。
 死傷者も出たこの事態、関係者としてご協力頂けねば困る。」
 まさに、それは『命令』であった。
 逃げる手とすれば転送魔法『テレポ』を使うしか無いが、それも無駄と判っていた。

 いや、彼女が抗議するような素振りは、実は計算された演技だったのだ。
 あっさりと自分が相手の申し出に乗れば「ポルテの力を隠したこと」を疑われてしまう。
「では、まいりましょう。」
 『評議会の者』が両側からリタの肩に手を置き、なにか呪文を詠唱する。
 聞いたこともない、白魔導とも黒魔導とも付かぬ呪文。
 その間に、リタは素早くポルテに『話』を飛ばした。

【タウスの所へ行きなさい。彼なら事情はよく理解できる。彼なら、あなたの力を……】
 『話』が途中でとぎれた。『話』の届かない場所へと閉じこめられてしまったのだ。
89続・獣使いの息子 第四章(8/9):05/02/13 02:36:06 ID:h1qoABBQ
 兵士達は、またしても議論を交わした。
 倒れた仲間を治療したり、状況をなにやら書き取ったりしながら。
 それをポルテは聞いていた。

「おい……リタさん……だっけ?どうなっちまうんだ?」
「えーと、ジュノだったっけな?『上』が居るところって。」
「なんか、逮捕されたみたいな……」
「大丈夫だろう。お手柄だぞ?きっと表彰されて豪華な料理を食べたりとか。」
「アホか、お前ら。あんな力を個人が持ってるなんて、許されると思うか。」
「ええ?なんでさ?」
「あのな?こういう場合はいろいろ考えなきゃいけない。
 獣人の大群を追い返せるということは、逆に連れてくることも操ることも……」
「嘘だろう?そんな事が出来るわけが……ああ、それもそうかも知れない……」
「な?だから、一人が『力』を持ちすぎるとロクなことは無いんだよ。
 まぁ聞けよ。一本のナイフがあるとする。リンゴの皮を剥いたり、料理を作ったり。
 それだけじゃない、敵と戦ったり、人を殺すことだって……」
「それじゃ……」
「ああ……最悪は『消される』結果に……」
90続・獣使いの息子 第四章(9/9):05/02/13 02:37:10 ID:h1qoABBQ
 もう十分だった。
 一人、取り残されたポルテの「理性」を取り払うには、もう十分すぎた。
 自分の身代わりに捕らえられたリタ。
 もしかしたら、父親と同じ運命をたどるかもしれないのだ。

(ジュノ……ジュノに……リタが捕らえられている……)

 こうしてポルテは『壊れた』
 「捕らえられた」リタは、『評議会』と供に会議……とは名ばかりの尋問を受けていた。
 『評議会議員』が口々にリタに尋ねた。
「それでは、あれは魔法の類ではないという訳ですか?」
 リタは淡々と答える。
「はい、その通りです。適当に目くらましの光を放っただけです。
 ただし、『ヤグードよ、引き返せ!』って念じはしましたけれど。」
「誰かに、その方法を教わったのですか?」
「いいえ、適当にやってみたことが功を奏したようです。お役に立てて嬉しく思っています。」
「もう一度、同じ事をしろ、といえば出来ますか?」
「そうですね、この方法が上手くいけば嬉しいですね。手近な獣人で試してみましょうか?」
 むろん、試して上手くいくはずはない。もし、試したとして、あの時と状況は違うから、
 なんだかその気になれない、などと適当に笑って誤魔化すつもりだ。
 
 逆らわず、流されず、リタの「のらりくらり」とした話術が展開されていた。
 この調子なら何時間でも何年でも引き延ばせる。ポルテから目を逸らし続ける。
 そう考えていたリタであったが……それは大間違いであった。
 
 ポルテの元を離れ『上』の連中に捕らわれる。それは、決してあってはならないことだったのだ。

 ある時、誰かが会議室に飛び込んできて『評議員』に耳打ちした。何かが起きていた。
 ポルテが子供の頃、ジュノから帰ったその直後。
 いかにジュノで父親トルテの仲間から熱い歓迎を受けても、そう易々と傷が癒えた訳
 ではなかったのだ。
 しばらく夜は泣いてすごしていた。
 日中はフラフラとした調子で辺りをうろつき、夕日を見ては、また泣いた。
 悲しかった。寂しかった。
 余り帰ってこない父親だが、もう二度と帰らないことを聞いて、恐ろしいほどの孤独に
 襲われた。忙しい叔父ベクトトや周囲の仲間では彼を慰めることは出来なかった。
 そして……悔しかった。憎たらしかった。父を奪ったジュノと冒険者たちを怨んだのだ。
 彼の涙は恨みの涙へと変わろうとしていたとき……そこへ、リタが現れた。

 リタは親身にポルテと接した。
 食事や風呂まで供にし添い寝までしてポルテの涙を拭ってやり、ポルテはようやく
 明るい性格を取り戻したのだった。
 一年か二年の間であったが、ポルテの大人になりかかる不安定な時期を、そして恨みに
 とらわれようとしていたポルテの心を、リタの力が支えたのだ。
 
 そんなリタが、二人目の母親というべきリタが、またしてもジュノに『奪われた』のだ。
 もはや……ポルテは自分の気持ちを抑えることは出来なかった。
 ジュノ下層、あるいは上層。そこでは、冒険者達が騒ぎ始めた。
「おい、みんな大変だぞ!」
「なんだよ、騒々しい。」
「これから警報が流れるはずだ。ヤグードの大群がこちらに向かっていると。」
「……あぁ?そりゃ、ウィンダスで発令された警報だろ?」
「違うって。こんどはこっちに向かっているんだとよ。」
「やべーな……せっかくウィンから逃げてきたばっかなのに。」
「だらしねぇなぁ……お前は一太刀あびせようとは思わんのか。」
「いや待て、今度こそ逃げた方が良い。何故かというとな……」
「なんだよ?一体」
「ヤグードの本拠地オズトロヤ城、そこがもぬけの殻だって話なんだ。」
「それが……どうした?大群出したんだから、空っぽで当然。」
「アホか。よーく、考えてみろ?潜入した奴から話を聞いたんだ。
 本当に空っぽの空っぽだってんだよ。誰も彼もがこっちに向かってるんだ。
 わかるか?誰も彼も、下っ端から親玉まで、だよ!」

 ヤグードの軍勢は、ウィンダスへ向かっていたときより遙かに強大な軍勢と化していた。
 確かに本当にジュノに向かっていた。
 しかし、まずは彼らの目的は実は「本隊と合流すること」だった。
 シトシトと……降り止むことが無いほどに雨が降り続けるパシュハウ沼。
 そこには入口がある。獣人クゥダフ族の本拠地ベドーへの入口が。

 その入口に、一頭の巨大な雄羊が立っていた。その背には誰かが乗っている。
 ポルテだ。かつて乗っていた雄羊の背中、それが彼の玉座となっていた。
 その顔の表情は青白い怒りの炎に燃えている。そして目を一端閉じ……
 そしてバッと開く。ギィィィ……ンと、ルビーのような赤い閃光が放たれた。
 すると……
          ズチャッ…… ズチャッ…… ズチャッ……

 ぬかるみを踏みしめて現れたのは、亀の甲羅と風貌を持つクゥダフ族。
 手に手に恐ろしい武器をもち、自らの王につかえし兵士達。
 現れたのは一人や二人ではない。
 『王』ポルテの招集を受けて、続々と大勢のクゥダフが入口へと向かっていく。
 その軍勢を迎えるポルテの背後には……
 既にダボイのオーク全軍が、『王』の命をじっと待っていた。
 ヤグード、オークに次いで、クゥダフは最後の招集であったのだ。
 無論、ジュノ公国はこの状況を静観しているつもりはない。
 各国の連合軍を率い、ロランベリー耕地に入る手前で押しとどめようと、防衛戦を貼って
 いた。その他、一騎当千の冒険者や武者達、魔導師達も招集された。
 彼らなら獣人数十匹に一人で囲まれても問題は無いだろう。
 勝算は……無いわけではない。
 が、数の違いが絶望的だ。

「来たぞォー!」
「よーし、柵も既に組み上がっている。ここで押しとどめて魔法で一気に蹴散らすんだ。
 みんな、慌てるな!」
 ジュノの親衛隊が総指揮を取り、段取りよく防衛戦を進めようとするが……
 ……しかし、そんなものは、あっさりと崩された。
「右から、ああ!左からも何か来ます!あれは……モルボル共です!」
「そんな程度のものは、さっさと焼き払って……」
「く……グゥーブーの奴も来るぞ!ええい、こんな奴らに構っている暇は無いというのに」
「いかん!今度は、ロランベリーのグゥーブーやモルボル共が背後から!」

 木の根がウネウネと動き出したようなモルボル、そしてノッソリとした巨人グゥーブーが
 大群となって前から、後ろから、左右から防衛戦に押し寄せ、兵士達に襲いかかり……
 いや、襲おうとはしなかった。彼らは防衛柵を剥がすことだけが目的だった。
 兵士達を倒すのに手間取るなら、対策のしようもある。
 だが彼らは、斬られても焼かれても、まっしぐらに柵に押し寄せ、引きはがそうとする。
 倒れても、倒れても、後ろの奴が死体を乗り越えて作業に取りかかる。
 ポルテの大軍が通れるほどの道が開けるまで、それほど時間は掛からなかった。
 そして、人員整理をする警備員よろしく、兵士達を押しとどめて進路を確保する。
 やはり、斬っても突いても、なに一つ抵抗しようともせず。
「こ、こいつらッ!」
 隊長は戸惑った。普段の猛獣や獣人の動きと違う。
 どんな挑発も攻撃にも、この連中は応じようとはしないのだ。
 自分の任務に集中し、身の犠牲も顧みない連中を、もはやどうすることも出来なかった。
 倒せば倒すほど死体が積み重なり、かえってポルテ軍の進路を確保する防壁となってし
 まったのだ。そこへ、

    ドドドドドドドドドドドド……

 あっさりと、ポルテ軍は防衛戦を通り過ぎてしまった。
 もう、あっけに取られてジュノの親衛隊達は、どうしたものか戸惑っていた。
 犠牲者はゼロ、そして防衛戦は突破されました、そんな報告など出来た者ではない、と。

 しかし、ポルテを阻もうとする男が一人、軍勢の前に現れた。
 タウスだった。
 ロランベリー耕地に入った所で獣人軍ならぬ「ポルテ」を待っていたのだ。
 既に、この軍勢を指揮していたのはポルテだということが判っていた。
 そして……
 彼の企みは当然ながら、ポルテ一人の息の根を止めて軍の統率を崩すことだったのだ。

 今の彼の姿。東方の忍者の装備ではない。またしても赤魔導師の姿となっていた。
 赤魔導師の装備……にしては以前と違う。
 「レリック装備」と呼ばれる装備を身にまとっていた。
 それは、闇の世界をくぐり抜け征服した者が手に出来る究極の装備だった。
 両手には二本の長剣を握りしめ、忍術を通して学び得た二刀流を用いようとしていた。
 まさに、その風貌が物語るように、幾多の戦いと冒険を乗り越え、彼はまさに究極の
 赤魔導師として噂される存在となっていたのだ。

 そして、彼は次々と魔法を詠唱していく。
 基本的な防御魔法『プロテス』そして対魔法防壁『シェル』
 大地の守り『ストンスキン』風の幻影『ブリンク』
 氷の攻勢防壁『アイススパイク』
 そして、攻撃強化魔法『エンファイア』により二本の長剣が一気に燃え上がった。
 はたして、タウスは一気に大軍の中を突っ切るつもりなのだろうか。
 そうではなかった。彼は、そこまで無茶をするような性格ではない。
 次に詠唱したのは……
 姿を消す『インビジ』、足音を消す『スニーク』、消臭する『デオード』
 ここまで詠唱し終えた彼は、軍勢の前に躍り出て、オークの頭上へと跳躍した。

 頭を足がかりに使われた獣人達は、ギョッとなって頭上を見上げるが、もう其処には
 彼は居ない。
 獣人共の頭を、肩を、背中を足がかりに一気に軍の中心、ポルテの乗る「王座」の
 雄羊へと駆け抜けていく。
 一度でもバランスを崩せば終わりである。
 だが、彼は恐れもせず、すさまじいスピードでポルテの元へと駆け抜けていった。

(ポルテの息の根を止めたその後は……俺は八つ裂きにされるだろう。
 如何に俺の腕が優れていたとしても、この数ではどうにもなるまい。
 それこそ、蘇生不可能なぐらいに粉々に……)
 だが、そう考えながら、タウスはニヤリと笑った。
(いいとも、ポルテ。お前と供に逝くのも悪くない。
 俺は嬉しいぞ。これほどの強大な敵となったお前と戦い、
 これほどの大舞台で、戦いの中で、俺は死ねるのだから!)
 正に、戦う者としての狂気が彼の中に芽生えていた。
 強大な敵と戦いたい。死ぬならば戦場で。
 そんな劇的で壮絶な展開に、彼は狂喜乱舞していた。
 そして、ついにポルテの雄羊の背中へと辿り着いた!
 その時、
            パキーーーーン!

 彼の魔法が剥がされ、隠していた姿があらわとなった。
「ま、まさか、こいつら?」
 そして、ポルテの脇に控えていたオークとクゥダフが立ち上がる。
 その普通ではない威圧感と装備を見れば、一兵卒の獣人ではないことは確かだ。
(くそっ!王の側近でしか出来ない芸当だ!こいつらまで引っ張ってくるとは……)
 いかにタウスとはいえ、単身でどれほど戦えるものか。
「く……南無三ッ!覚悟だ!ポルテ!」
 側近を無視して、秘技『連続魔』からの精霊攻撃魔法の連射、その技で一気にしとめよう
 とした。
 しかし、ポルテの背後から恐るべき姿が現れた!
(あれは……ヅェー・シシュ……)
 ヅェー・シシュ・ザ・マニフェスト。
 タウスはかろうじて、その者の呼び名を知っていた。
 それは、ヤグード族の頂点に立つ現人神その人に紛れもなかった。
 そしてタウスは、
             バシィッ……

 そうして、ようやく何者かを認識した相手に、強烈な一撃を食らい、そして倒れた。

 どさり……と、タウスは雄羊の背後に打ち捨てられた。
 この一騒動にも、ポルテ軍は一度も歩みを止めることはなく、しずしずとジュノへと
 向かっていた。
 パシュハウ沼と同様、ロランベリー耕地にはシトシトと雨が降り続けている。
 タウスは、獣人達に踏みつけられることもなく、ただ、雨に打たれて倒れていた。

 ポルテは、タウスとの遭遇にあっても、決して進軍を止めようとはしなかった。

 もう、彼は後戻りができないのだ。
101 ◆6NLrYYfI2g :05/02/13 09:29:48 ID:h1qoABBQ
連投スマソです。
えと、次で最終話ですが……大量です。
仕上がったら、貼らせて頂きます。
102既にその名前は使われています:05/02/13 10:08:20 ID:2yFP1ouB
うぷうp!!
 もう、ポルテ軍を阻む者などいなかった。
 ジュノでは大急ぎで防衛戦に備えていたが、招集の声も空しく、ある者は転移魔法
 により、あるいは飛行艇やチョコボで、大半の冒険者達は逃げていった。
 各国に檄が飛ばされ援軍の要請を行ったが、三国で議論することと言えば、もはや
 「ジュノ奪還計画」ばかりであった。

 どうやって防衛戦を突破したかは話を省くとして、ヤグード族の一軍はソムログ原野
 からの橋を渡り、ポルテ軍と合流した。
 特に隊列を組むわけでもなく、オーク、クゥダフ、ヤグード達は適当に入り交じり、
 雲散の状態でロランベリー耕地のジュノ正面に集まった。
 
 そして、その中央には、ポルテを乗せた雄羊の姿があった。
 もう、ジュノからでも判る距離。しかし、矢も魔法も届かない距離で。
(あれは……タルタル族?なんで獣人のなかに混じってるんだ?)
(だれだろう、獣使いのように見えるが)
(まさか、あいつがこの軍勢を?)
 そんな風に、ジュノの住人達は指さしては口々に噂しあった。
 が、この一件について、核心に迫れる者は誰も居なかった。

 そして、その遙か後方にて……
「おーい!いたぞー!タウスがいたー!」
 タルタル族の黒魔導師らしいものが叫んだ。
 ずっとジュノの方に進撃した獣人軍からは、有る程度の距離を置いている。
 既に辺りには、芋虫やグゥーブー達すら居ない。
 そこで雨に打たれて倒れているタウスを黒魔導師が発見した。
 そこへ、今度は白魔導師のタルタル族が慌てて駆け寄ってくる。
「おい、やっぱり死んじゃったか?よくまあ、原型が残っているなぁ。」
「……ん?切り傷一つ無いぞ?ま、いいや、『レイズ』を一発頼む。」
「よしきた……て、あれ?死んでないみたい。」
 ようやく、タウスは起きあがった。
「グホッ……ゴホッ……」
 むせ返りながら起きあがって、タウスは呟いた。
「ポルテ……なぜ、俺を殺さない。」
「よく生きてたなぁ……ま、いいや、まだ軍勢はジュノを囲んでるし、どうする?
 こんどこそ死んでくるかい?」
 回復呪文を詠唱しながら、タルタルの白魔導師はきついジョークを飛ばす。
「いや、それより、俺に『デジョン』を頼む。ジュノに戻る。」
 黒魔導師の方が驚いて言う。
「ジュノって……やっぱり死にに行く気かよ。それより、どっかの国に飛ぼうぜ。
 お前にジュノ奪還計画の司令官とか隊長に立って貰わないと……」
 タウスはそれを聞いて声を上げて笑った。
「ワハハハッ。何を言ってる。ジュノは占領なんぞされんよ。まだされてないだろ?
 まったく俺も馬鹿だな。やはりポルテはポルテでしかない。さ、早く頼む。」
 二人の魔導師は、打ち所が悪かったのか、などと考え顔を見合わせながら、
 しょうがなく、黒魔導師は帰還魔法『デジョン』を詠唱した。
 詠唱が終わるまでの間に、タウスは二人に言った。
「大丈夫、もう事態は収まる。あいつが納めてくれるさ。」
 そう言いながら、タウスは消えていった。

 そして……獣人軍とジュノ防衛軍は、長い長い睨み合いを続けていた。
 いつ動き出すのだろう。今すぐか、それとも夜明けか。
 もはや、ジュノに残った防衛軍は緊張続きで気が狂わんばかりの状態となっていた。
(くそ……来るなら早く来やがれ。頭が変になりそうだ。)
(おい、こちらから打って出れないのか?)
(馬鹿を言うな、この数じゃ太刀打ちできない。要塞の有利性を活かすべきだ。)
(てことは……三国からの援軍待ちか?)
 そんなものが本当に来てくれるはずもない、などと思いもしたのだが、兵士達は
 それを口に出さないよう気をつけながら、自分達の持ち場を守っていた。

 その時のことだった。例の『評議員』達がやって来た。
「門を開けて下さい。この人を獣人の前に出します。」
 この人とは、もちろんリタである。白いフードの『評議員』に囲まれてやってきた。
「し、しかし」
「構いません。これが『評議長』の礼状です。」
 それだけで兵士達は諦めたらしい。ギギーっと数人掛かりで扉を開ける。すると、
「あ……お、おい!」
 兵士達の制止も聞かずに、リタは獣人軍の方へ猛然と駆け出した。

 地上を埋めつくさんばかりの獣人軍、その中心に向かってまっすぐリタは走る。
 恐れては居なかった。恐れるはずもない。この獣人達はポルテが操っているのだ。
 やがて、リタが獣人達の前にやってくると……

 獣人達はゆっくりと道を空けた。ポルテの前までの道が次々と開けていく。
 リタは勢いを止めずに、雄羊の方へと駆け寄った。
 すると、雄羊から小さな姿が飛び降りてこちらに駆け寄って来る。
 ポルテだ。もはや、彼は普段の彼に戻りつつあった。
 ポルテは、まっすぐリタの元へかけより、大きく広げられた腕の中に飛び込んでいった。
 もう、離すものかとポルテを抱きしめるリタ。しばらくの間、じっとそうしていた。
 獣人達に囲まれた危険な状態にも関わらず。

 その様子を見て獣人の首領達は顔を見合わせる。
 はたして、無意識にポルテに操られていただけなのか。
 それとも、説得を受けて行軍にはせ参じたのか。
 もし、会話されていたとしたらこんな内容だろうか。

(これで終わりか?)
(ああ、その様だな。これで終わりだ。)
(なんだ、面白くない。いっそのこと、あそこを襲うか。)
(襲ってもいいがな。『あれ』があんな様子だ。)
(ああ、そうだな。『あれ』が、あんな状態では俺たちはまとまらぬ。)
(襲っても、また我々は散る。そして、ここに人間共は、また集う。)
(ならば、帰るか)
(そうだな、このまま帰るか)

 はたして、本当にそうなのか。ポルテの効力が解けたからなのか。
 それとも、またポルテの力が効いていて、そこまで命じられていたのか。
 ともかく獣人軍は、それぞれの陣地へ向けて帰って行った。
 やがて……
 獣人軍は去った後、ポルテを抱いたリタは「彼ら」に招かれていった。
「彼ら」、勿論『上』と呼ばれている『評議会』の連中だ。

 今度は……リタが議論を交わしていた部屋とは違っていた。
 がらんとした部屋の中央に椅子が二つ置かれている。
 その正面に、長細いテーブルが置かれ、『評議員』が四人並んで座った。
 急ごしらえの資料をガサガサと手渡しながら、ポルテ達に椅子に座るようにうながす。
 ここは……まるで裁判所のようだ。
 リタは、ポルテをしっかりと膝の上に抱いたまま椅子の一つに座った。
 もし、ポルテを離したら何処にこぼれ落ちるか判らぬ、というように。

 ポルテは、それを逆らう様子はなかったが、ただ振り向いてリタの顔を見た。
 リタはポルテに囁いた。
「もう大丈夫。二人が一緒なら、もう何も怖くはない。」
 そうして、ニッコリと笑った。

「えー、それでは詮議を開始します。第一回目となりますので、今回は状況の整理のみ、
 取り行うことになります。簡単明瞭に……」
 そこへ、一人の男が部屋に入ってきた。
 初老で頭は白髪交じりのヒュムの男性。マート?いや、もっと若い。
 黒一色の飾り気のない上下の服を着ていて、その少々皺のある顔は、どうやら
 知性を重んじるタイプのようだ。ちょっと散歩に出てきただけのような気軽さで、
 重苦しい部屋へと入ってきた彼に対して、『評議員』は一斉に立ち上がって敬礼する。
 そして男は座るように手を振り、リタとポルテの方を向いて挨拶をした。
「私は『ヴァナディール評議会』の議長、ハロルドというものだ。よろしく頼む。」

 そういうと、座っている評議員達に言った。
「この件は事態が複雑、かつ対処を決定する上で非常に困難と時間を要する。
 そればかりではなく、時間が掛かれば、あらゆる危険性が高まる問題だ。
 よって、評議会規則23条を適応させ、議長の独断を発動する緊急事態と決定する。
 諸君は直ちに退席したまえ。詳細は後日提出、決定内容は『処分』だ。」

 すると、議員たちは速やかに書類を片手に一礼して退出した。
 そうして去った後、評議長ハロルドは空いた席に腰を下ろした。
 これから、お茶でも飲もうかというように、気楽に足を組んでいた。
 ハロルドは話し始める。
「さて、と。それでは状況説明は私からしようか?
 リタ君とポルテ君は、タロンギ大峡谷にてヤグードの軍勢の強襲に合い、
 倒されていくウィンダス軍を救うために『力』を発揮してヤグード軍を追い返した。
 その『力』を発揮したのは、目くらましをしたリタ君ではなく、ポルテ君で間違いないね?
 そしてリタ君の仕業と勘違いした評議員は君を招待、まぁ拘束と言おうか。
 拘束されたがために、ポルテ君は逆上した。
 そして、ヤグード、オーク、クゥダフの軍勢を引き連れ、ジュノへとやって来た。
 無論、ジュノを墜とすためではない。『あれは自分がやったんだ』と言いに来るためにね。
 操った獣人達、及び猛獣達は、君の『絶対に人を襲ってはならない』という厳命を守り、
 防衛戦突破に置いても、ジュノ親衛隊並びに連合軍を一人も犠牲者を出すことは無かった。」

 一気に……間違いようもなく「真相」らしきことを、彼はまくし立てた。
 なんだろう?この男は、とリタが考えていたが、
「状況を整理したらこうなる、って話だよ。どこか、間違っていることは無いかね?
 ああ、犠牲者と言えば、ポルテ君はタウス君をぶん殴ったんだったか?
 それとも獣人がやったか?ま、それは罪に入らないだろう。
 そんなことを、あの歴戦の勇士は訴えたりしない。」
 ハロルドはゆっくりと頭に腕を回し、軽く天井を見上げた。
 まるで、自分の居間でくつろいでいるかのようだ。
「さて、と。ここまでで何か聞きたいことは?」
 リタは少し考えていたが、ようやく口を開いた。
「あの……『処分』というのは?」
「ヴァナディールから消えて貰う。」
 あっさりと、残酷なことをハロルドは言ってのけた。
「そんな……ポルテはどれ程の罪を犯したというのですか!」
「居てはならない存在だと思うからだよ。だからヴァナディールから消えて貰う。」
 再度、何度でも言ってやるとばかりに繰り返した。リタは更に抗議する。
「議院規則23条ですって?あなた方は法律も立てず、あなた方内部の取り決めだけで、
 処分を下そうというのですか?」
 自分の知性の全てをかけて、リタは徹底的に戦うつもりだ。
 だが、議長ハロルドは澄まして言う。
「そうだ。我々は『あなた方を裁く』ための力を持っている。それも独断でね。
 我々は不適当と判断した者、いや、気に入らない奴、と言っても良いがね。
 我々にとって、不都合のある者が現れれば消えて貰う。」

 あまりに……簡単明瞭ではっきりとした物言いだ。善悪の概念すらない。
 だが、例え、つけいる隙が無くとも負けるわけにはいかなかった。
 リタは尚も何か言おうとしたが、ここでポルテは口を開いた。

「あの……もしや、あなたが僕の父さんを……」
「その通りだ。私が彼を『抹消』することを決定した。」
「な、何故?」
 ポルテは聞き返した。今更だとは思っていたが。
「彼もこの場でもって、今回と同じように議長権限でもって消えて貰うことにした。
 確かに、彼の起こした事故の犠牲者達の訴えは大量に上がったがね。
 しかし、そんなことで採決を曲げたりしない。」
「……」
「しかしね。彼、トルテ君は言ったのだよ。確かに殺意はあったと。」
「え?」
 ポルテは驚いて聞き返した。
「彼は確かにあれは事故で有ったという。私もそう思うし、殺人であるか無いか、
 ああいう事件の判定というのは実に難しい。
 しかしね、逃げ回っている間に、他の冒険者達を見つけたとき、彼は思ったようだ。
 あんな奴ら、巻き込んでしまっても構わない、とね。」
「そ、そんな……父さんがそんなことを考える訳が……」
 議長ハロルドは、さとすようにポルテに語る。
「ポルテ君。その君の絶対の信頼は、信頼する者への大きな負担となる。
 もし、その人が罪を犯せば、君は絶対に許さないというのかね?」
「……」
「で、話を戻そう。
 もし、このまま罪が許されて、あるいは罪を償うことが出来たとしよう。
 彼は生きて世間に出ればどうなる?やはり、恨みの目が彼に向けられる。
 獣使いと他の冒険者との争いも、これまで以上のものとなるのだろう。ちがうかね?」
「……」
「彼の罪を軽くしろ、という訴えも多数上がった。そうであればあるほど問題だ。
 これから起こる大きな対立を象徴しているかのようだった。
 だからこそ、彼自身がヴァナディールから消え去ることを決めたのだよ。
 そして、彼の意思を私はくみ取り、そして消えて貰った。」

 リタはわなわなと怒りに震えた。もう、どうしていいか判らないくらいに。
「意思をくみ取ったとかいって、あんたのしたことは自殺教唆じゃない!」
 あらん限りの大声を出した。
「自殺など……弱者の逃げ道だわ……なんの権限があってそんな……」
 議長ハロルドはそれに構わず、穏やかな口調で話し続けた。
「そうして『刑』が執行されたことを世間に知らしめた。
 彼の伝言、『冒険者は心せよ』という言葉を合わせてね。効果は絶大だったよ。
 まさか巻き込みの事故で『刑』が下されるとは、誰も本気で思ってなかったらしい。
 獣使いも、そうでないものも、慎重に事を進めるようになったよ。
 冒険や戦いにおいて、そして、事故が発生した場合の対処もね。」
「……」
「まだ、彼らの間には『しこり』が残っているが、実は事故以前よりも軽減している。
 ま、そういうことだ。君の父親の話はこれでいいかな?」

 議長ハロルドは、更にポルテに語りかけた。
「そして君の場合だ。私は思うのだが、君には何一つ悪意を持って行動したことはない。
 今のところはね。
 だが、君の父親のことを考えてみたまえ。人というのは、自らの悪意を押さえられない
 ことが起こりうるものなのだ。そういう時に、君は果たしてどうなってしまうのかな?
 今回は、獣人達を連れてきて、また元に戻しただけで済んだ。さて、この次は?」
 ポルテは……ポルテは、あの時の自分を思い返していた。
 もしあの時、リタが出てこなかったら、自分はどうするつもりだっただろう。
 間違いなく……全軍に総攻撃を指示していたのではないだろうかと。

 そんなポルテを察したのかどうなのか、議長ハロルドは話を続ける。
「君の父親の裁定は少々微妙だったよ。だが、君の場合はハッキリしている。
 普通の犯罪なら、容易に捕らえて、処罰して、許すことが出来る。
 いち個人の力は限られているからだ。みんなで押さえ込むことが可能だから。
 だが、君の場合は違う。君が大きな力を発揮すれば、誰の手にも負えない。
 君を、君の罪から、誰も救うことが出来ないということだ。」
「……」
「判るかね?君は、この世界に存在できる者ではない。
 この世界にある悪意ある事柄に、これ以上影響されてはいけないのだよ。」

 その言葉に、がっくりと首をうなだれてしまったポルテ……
 だが、リタは諦めてはいなかった。諦めたくはなかった。
「ポルテ、だめよ!諦めてはダメ!」
 うなだれるポルテにリタは素早く囁く。
「私が居ます。先程もポルテを封じました。私がついていれば、どんな悪事もさせません。」
 リタは毅然として議長ハロルドに向かった。
「それに私にも力はあります。それこそ、一瞬で数十名の命を奪う魔法の力が。
 危険な力など周りには幾らでもあるのです。いくら巨大だからと言って……」

 だが突然、ポルテはリタの膝から飛び降りて彼女に向かって言った。
「お願い、もう止めて。僕ももう……この世界に居ることは……」
「馬鹿なこと言わないで!お願い、この男の口車に乗ってはダメ!」

 そして……リタは遂に言ってはならないことを言ってしまった。
「なんなら、この男を操ってでも……」
 リタはハッとなって口を閉じた。
 ポルテはギクリと驚いた。はたして、ポルテはそこまで考えていたのだろうか?

 議長ハロルドは……特に言葉尻を捕まえた様子では無かったが、
「そうだね。一番恐ろしいこと、それは獣人が操れるなら、人間も、という可能性だ。」
「……あ、あの」
「私は、そのことに気付く前に、ことを済ませておきたかったのだが……
 リタ君、時間をあげようか?少し頭を冷やして考えてみないか?
 そんな力を持ってしまった者に襲いかかる苦悶と結末、それを想像できるかね?」
 (苦悶と結末……)
 そうだ、叔父ベクトトもタウスも、ポルテの行く末を案じていた。
 しかし、本当の問題を今にして気が付いたのだ。そして、ようやく悟り得てきた。
 
 『巨大な力を持った者が自らの欲望によって引き起こしてしまう悲劇と結末』
 心の健やかな者こそが、この苦悶に強く悩まされることを、ようやく実感したのだ。

 平和な性格のポルテ、しかし、誰しも小さな火種が心の奥底にある。
 そして逆上して事を起こしてしまった後、自らに襲いかかる苦悩と罪悪感。
 それだけではない、必ず彼自身に襲いかかる報復。
 獣人だけでなく、人間さえも操ってしまったら、どんな事が起こるのだろう?
 事を起こしてしまったポルテに、今どれほどの苦しみが襲っているのだろう?

 ポルテはリタの手を取り、淡いほほえみを浮かべて言う。
「ね?もうやめよう。もう、何を言っても無駄だと思うよ?
 この人は、もう『消す』ことに決めちゃったんでしょ?
 もう……僕は、やってしまったんだから。」
 一番苦しんでいるはずのポルテがリタを慰めようとしているのだ。
 もう、リタはポロポロと涙を流し始めた。しかし、尚も言い続けようとした。
「そんな……そんなこと……あってたまるもんですか……ポルテは誰も殺していない……」
 もう、言っても空しかった。
 今はまだ罪は軽い、しかしこれから起こるであろう事。
 人々の畏怖と恐怖の目にさらされたり、あるいは獣人達が彼を本当に『王』に祭り上げ
 てしまうかもしれない。あるいは……誰も彼もを人形のように操りつくして……
 だがしかし、しかし、誰かを失うなど、有ってはならない。しかし……

 もはやリタには出来ることは限られていた。すでに『刑』は決定しているのだから。
 改めてポルテを抱き上げて、彼女は新たな涙を流した。
「ごめんね……ごめんね……私が上手くやるつもりだったのに……
 あなたを、どこまでも守っていくつもりだったのに……」

 議長ハロルドは、口を開いた。
「さて……どうするかね?」
 『刑』は既に決定しているはず。一体何を尋ねているのだろう?
 ポルテはそう思ったが、リタは待っていたかのように答えた。
「はい、私も一緒にお願いします。」
「だ、ダメだよ、リタ!」
 ポルテは、またしてもリタから飛び降りようとしたが、今度はしっかり捕まえられた。
「だめ、もう離さない。もう、私から離れることは許さない。絶対に。」
 その様子を見て、ハロルドはニヤリと笑った。
「よかろう。となると……適当にリタ君の罪状を決めねばなるまい……
 ま、それは何とかなるな。例の目くらましの件もあるし。」
 だんだん、ハロルドの声が明るさを増していく。
「実は私もそれが良いと思っていたのだ。ポルテ君と供に君も行って貰うのが理想的だ。
 いいかね?後悔はしないね?」

 リタはゆっくりと頷く……が、
 何だろう?このハロルドの言うことが微妙におかしい。
 そういえば、『処分』すると決まっているのなら、さっさとしてしまえばよいものを、
 何故、こうして説明したり説得したりするのだろう。
 おかしい。何かがおかしい。

「さて、何か言い残すことはないか?秘密は徹底厳守なんで、査閲はさせていただくがね。
 やれやれ、やっと望むべき方向に話が進んだというものだ。
 いや最初から私はそれが一番と思ってたが、こんなことは簡単には勧められないからね。」

 何故か、議長ハロルドは表情が明るい。
 何なんだこの男は?と、リタは今の境遇を忘れて首をかしげた。
 やがて、『刑』の執行が世間に通達された。

 ポルテの叔父ベクトトはその顛末を聞いた後、書類がうずたかく積み上げられた居間で、
 何かをジッと考えていた。
 が、急に転送魔法『テレポメア』を詠唱して、何処かへすっ飛んでしまった。
 魔法の影響で書類は部屋中を飛び散ったが、そんなことはどうでも良かった。

 広いタロンギ大峡谷の荒野に一人で立っていた。そしてポルテのことを考えた。

「誰もが、強大な力を、万能の技を求めて、日々活動を続けているというのに……」

「私の魔導の技も、戦士達が持つ剣も、ただ力を求めているだけだというのに……」

「力が大きすぎれば消される……だと?」

 そして彼は絶叫した。言葉にならぬことを絶叫し、そして呪文の詠唱を繰り返した。
 彼の周囲は一気に燃え上がる。俺の力を見ろ。見てみろと言わんばかりに。
 だが、天空の星達からは、見えることすら疑わしい小さな小さな炎であった。

「それでは、我々のやっていることは何だというのだ!」
 そして一方、タウスの方は……
 あの獣人軍来襲の時、リタをポルテの元に差し向けよ、と進言したのは彼だった。
 そして、その件が功績として認められ、彼は謝礼を受け取ったのだ。
 タウスは受け取る気など全くなかったが、有る伝言を聞いて、受け取るつもりになった。

 彼は酒場で飲んでいた。
 その腰に吊されているのは、数百万ギルとも噂される高価な長剣が双振り。
 それこそ、謝礼の品だったのだ。周囲の目は……なんとなく、微妙なものだった。
 リタ、そしてポルテという親しい友人達が処刑されたにもかかわらず、
 堂々と、『上』の連中の謝礼を受け取ったのだから。

 だが、彼が受け取らなければならない理由があったのだ。
 彼の伝言と供に渡された双振りの剣。そこにポルテとリタ、両名の名前が刻まれていたのだ。
 なんとなく誕生日のプレゼントを受け取った父親の気分だ。
 なぜなら、明らかに彼ら自身が刻んだと判る、たどたどしい掘り方で刻まれていたのだから。
 そして二人からの伝言。『 私たちは大丈夫 ポルテ&リタ 』
 タウスは……今、二人が笑っているように感じ、また一杯、酒を飲み干した。

 タウスは気付いていたのだろうか?その剣は、実は『上』からの賜り物ではなく、
 ポルテとリタが全財産を投じて買ったのだ、ということに。
 では、結末。

 『何処か判らない』大陸で、『なんだか判らない』生き物たちが生息する、
 『初めて見る』木々の森の中で、『見たことも無い』果物を摘んでいる女性が一人。
 彼女は両手に一杯の果物を抱え、森を抜けて『名前の付いていない』池の方へと向かった。
 
「おーい、ポルテぇ!釣れたぁー?」
 胸と腰を隠しただけの、あられもない衣装で現れたのは、かつての白魔導師リタであった。
 とはいえ、それはミスラ族本来の衣装であったのだが。
 そして、置かれていた壺を覗き込み、驚きの声を上げた。
「ち、ちょっと!あんだけ時間かけて一匹も釣れて無いって、どういうつもり!」
 そして……やっぱり、『なんだか判らない』『訳の判らない』動物たちに囲まれて、
 リタの方に向き直ったのは、もちろんポルテであった。
「いやぁ……こんな初めての所で、どうやって釣ったらいいのか。」
「言い訳なんて聞きたくない!私は夕飯に魚が出ないなんてこと、絶っっ対、許さないから!」
「そんなこといってもさぁ……」
「あーもう貸しなさい!あたしの腕前見せたげる!」
「ってさぁ……ウィン港以外で釣ったこと無いくせに……」
「あんだって?なんか言った?」
「ひ、ひえ、なんでもありませんっ」
 そして、ポルテに果物の山を渡して、即席の釣り竿を取り上げた。
「さ、早くそれを家に持って帰って。もう、増築は済んだってさ。」
「本当?大変だ、荷物片づけてこなくちゃ。」
 そう言って、森の中へと走っていった。慌てて動物たちも一緒に着いていく。

 大して荷物なんか有るわけ無いのに、と思い、リタはその様子をみてクスクス笑った。
 だが、その笑顔はみるみる歪んで、みるみる涙が溢れてきた。
 ここにきて、泣くのはしょっちゅうだった。悲しいのではない。
 あの時、想像も出来なかった幸せな生活が、あまりにも嬉しくて泣いているのだ。
 ポルテには……今度はリタが泣き虫になったと、散々からかわれているのだが。
(まったく……何よ!あの評議長は!『処分』するとか怖がらせておいて……
 なんなの?この脳天気な馬鹿馬鹿しい顛末は!)

 そう、ヴァナディールから『抹消』する、というのは、確かに消してしまうことには
 間違いないのだが、どこからも居なくなってしまうと言うわけではなく、まったくの
 異世界へと移してしまうことだったのだ。

 リタは信じられなかった。嘘だろう?と首をひねった。
 ここはあの世ではないのか?そんなふうにしか考えられなかった。
 そこに、『ヴァナディール評議長』ハロルドの言葉が蘇ってくる。
(『抹消』というのは名目だけ。世間には処罰を行ったと告知するが、少し処罰とは違う。
 本当の極悪人なら閉じこめて苦しめる必要はあるが、トルテ君とポルテ君は違う。
 自らの問題や罪を十分理解しているのだからね。)

 ポルテは、ますます勢いよく森の中を駆け抜けていく。彼もまた幸福の頂点に達していた。
 あんなに絶望的だったのに、本当に、本当にこんなことがあっていいものだろうか?

(しかし、もうヴァナディールには居られない。
 これは、そんな問題を抱えた人達のための処分なのだよ。
 あの絶望的な状態からポルテ君を救う方法は、新たな世界で生きる道を開くしかないのだ。
 これ以上、『こちら』の悪に影響されてしまう訳にはいかないのだから。
 原始生活もまた楽しいだろう。ましてやポルテ君なら、上手くやっていける。)

 ポルテの目に、新しい住居が見えてきた。
 彼は、その側で一休みしている一人の男に大きく手を振り、そして彼を呼んだ。

(ま、本当に消すだけなら簡単だが、ハッピーエンドで有ることに越したことはない。
 そうは思わないかね?)

「おーーーい!父さーーーーーーーん!!」 (完)
125 ◆6NLrYYfI2g :05/02/13 11:39:42 ID:h1qoABBQ
えー、長文連続投入、失礼しました。
一応、見直したつもりですが、理屈に合わない、常識的におかしい、
話の展開的に許されないところがあったら御免なさい。

それから『上』『ヴァナディール評議会』は、勝手に作った架空の団体です。
ゲーム中でもないし、アカバン(抹消)する■eやGMでもありませんってことで……
126既にその名前は使われています:05/02/13 11:53:47 ID:2yFP1ouB
超よかった!!
いいおはなしをありがとう!!
127既にその名前は使われています:05/02/13 16:17:18 ID:aSY5zI8a
おもしろかったです。
バッドエンドじゃなくてよかった(;´∀`)後味悪いのは個人的に苦手なので。
128既にその名前は使われています:05/02/13 17:27:14 ID:ZWgNM+F6
おもしろかったです。GJ!!!!
129既にその名前は使われています:05/02/13 17:44:12 ID:eJUr1h0f
GJ!
130 ◆6NLrYYfI2g :05/02/13 23:46:27 ID:h1qoABBQ
>>126-129
つДT)皆さん、ありがとです。

正直、バッドエンドというか、しんみりとした終わり方も、
考えなかったわけでもないのですが、
ま、主人公の性質上、明るく楽しく終わりたかったのです……が、
ちと、強引だったかもw
131三沢さん ◆NOAH//Vb/2 :05/02/14 00:13:07 ID:UR+6w3ZN
    ∩
    ( ⌒)     ∩_ _
   /,. ノ      i .,,E)
  ./ /"      / /"
  ./ / _、_   / ノ'
 / / ,_ノ` )/ /
(       /  good job!
 ヽ     |
  \    \

132既にその名前は使われています:05/02/14 12:41:15 ID:nGYuxHWv
機体age続編期待age
133 ◆6NLrYYfI2g :05/02/14 19:53:52 ID:GrzlrcxE
>>131-132
ありがとです。また、なんか思いついたら貼らせて頂きます。
134既にその名前は使われています:05/02/15 14:20:48 ID:v8jZFGgf
あげ
135既にその名前は使われています:05/02/15 19:33:27 ID:KMaDxfes
136119 ◆N4hISqu3ag :05/02/15 20:41:14 ID:ROYmHl+r
 こんばんは。

 ◆V00/Phqsn.様のまとめサイトが素晴らしいので
あらすじナシで張っちゃいます。
137119 ◆N4hISqu3ag :05/02/15 20:44:07 ID:ROYmHl+r
 私たちはクエストを受けた。そして港のそばにある居酒屋に
寄った。すこしのお金をだせばお腹いっぱい食べれる、
大羊のお肉でつくったソーセージが美味しいお店なのだ。
「どう思うの?このクエスト」
と私は言った。ぶどうで作った甘ったるい酒を飲んでいたBoboが口を開く。
「経典を盗みにいくんだろうねぇ。彼らは否定も肯定もしなかった
けれど、手に入れたい経典の中身はやっぱりレイズIIのスクロール
だろうね。最近存在が確認された魔法なんだよ。サンドリアや
ウィンダスよりも先に欲しいんだろうねぇ」
「レイズIIってなに?よくわかんないんだけど」
 私は水を飲む。蒸留しきれてないらしくかすかに泥のにおいがする。
「『奇蹟』を演出する魔法さ。瀕死の肉体に魂を呼び戻す法」
 Boboは店員に酒のおかわりとパンを注文する。
138既にその名前は使われています:05/02/15 20:45:16 ID:KMaDxfes
超ひしさぶり!
待ってました1
139119 ◆N4hISqu3ag :05/02/15 20:45:33 ID:ROYmHl+r
「ヤグードってのは興味深い生活をしていてね、わたしは昔にちょっと
調べたりしたのさ。現人神を崇める一神教の宗教国家なんだ。この現人神は
一介の神官だったんだよ。彼がトップになる前に使われていた経典は悪くは
ないんだが、教義的なレベルっていうのかな。あまり高くはなかったんだ。
で、彼はその経典を再編纂していた時にその文の底に隠れていた真理を知った、
と言うのさ。前の経典では数々の苦行をへて、来世での至福が約束されると
いうものだったんだけれど、彼は、ヤグード族である私たちは前世ですでに
幾千万の修行をした高僧であると主張したんだ。つまり、全てのヤグードの
今世での解脱を約束したんだなぁ。そして自分こそ前世ですさまじいほどの徳を
積んだヤグードであると同時に神で在る、つまり現人神で在ると言ったのさ。
彼は優秀な数学者であり、稀有な為政者であり、有能な言語学者でもあった。
彼との法論に勝つヤグードは誰もいなかった。で、彼は本当に神になりつつある。
自ら創った法で不死に近づいていってる」
140119 ◆N4hISqu3ag :05/02/15 20:46:08 ID:ROYmHl+r
 Boboは店員が持ってきた酒を飲み、パンを半分に千切り私に
渡した。私はパンを貰い食べてみた。鉄のように硬いパンだ。
「完成度の高い教えはすなわち法になり、在るべき法則に干渉し、
浸食する。その動きをわたしたちは魔法と呼び、彼らは『奇蹟』とする。
わたしたちは気の力を使って魔法を発動させる。彼らは信仰心で
もって『奇蹟』を現すんだ。でも、わたしからするとどちらも同じことを
やっているんだな。銃を持って引き金を引くのと同じことさね」
141119 ◆N4hISqu3ag :05/02/15 20:52:43 ID:ROYmHl+r
 私信ですが。

 ヴァナの世界観をまとめてるサイトとか教えていただきたいのです。
僕自身の最高レベルが40ちょいで、クエストとかミッション進めてないんですよ。
脳内妄想バリバリでも個人的に楽しいのですが、実際の世界観にちょっとでも
すり合わせできればなぁ、と最近思っているのです。
142既にその名前は使われています:05/02/16 10:25:15 ID:lRXU3a8g
続き楽しみにしてますよ。

ttp://tamtamtam.hp.infoseek.co.jp/
こことかどうだろう。今さらっと探しただけなんで自分で中身確かめてないんだけど。
トップ見た限りログがあるだけなのかな。
143119 ◆N4hISqu3ag :05/02/16 13:11:58 ID:4QOA2Bsb
>>142
ありがとうございます。参考にしてみます
144既にその名前は使われています:05/02/17 00:10:11 ID:/c89yKrt
age
145ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/17 02:11:17 ID:rOne/Tn9
漏れも小説今書いてる
今回はちゃんとした小説形式のお話だ
こうご期待!!!!!!!!!!!!!
146ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/17 05:07:16 ID:rOne/Tn9
書いてたらけっこう長くなっちまった
もう遅いのでまた明日!
全部出来上がったらまとめて出したほうがいいよな?
147既にその名前は使われています:05/02/17 07:40:15 ID:kEvbt0AF
はげほしゅ
148既にその名前は使われています:05/02/17 07:44:39 ID:6tVML1BO
>>146
ですねぇ。まとめて読めるほうがいいような。
あと、一晩寝かせて推敲したりするから、私は書き上がっても時間をおいたりします……
149既にその名前は使われています:05/02/18 18:41:45 ID:QHfiwCX6
あげ玉
150既にその名前は使われています:05/02/18 18:55:30 ID:B269rcw7
ボンバー!!
151既にその名前は使われています:05/02/19 06:27:18 ID:ccSjjewO
あげ
152既にその名前は使われています:05/02/20 11:10:41 ID:K6KHRwz9
定期じゃない上げ
153 ◆yANtvXYFvY :05/02/20 16:42:31 ID:qwa632I3
こんにちは。
続き早く書くとか言っておきながら、前回から随分時間が経っている件について。orz

簡単なあらすじ。
ハルはコンシュタット高地で危地に陥っていたのを、ヒュームの少女アシュレイに助けられる。
気を失ったハルは、運び込まれた病院で目を覚ます。
アシュレイと少し会話をしていた所に突然ガルカが乱入してくる。彼は誰なのだろうか。
154それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/20 16:43:23 ID:qwa632I3
ハルとガルカは目が合った。互いに瞬きもせずに相手の様子をうかがっている。
ふ、と。
ガルカがにやりと笑った。ハルも不敵な笑みを浮かべている。
「災難だったな。」
「元気そうで何よりだよ、グラン。」
「それはこっちの台詞だ。」
笑っている。病室に漂っていた緊張感は消え去っていた。
二人が知り合いだという事がわかると、アシュレイはほっとして、固まった体がほぐれ
ていくのを感じた。
「そっちはどうだったんだ?」
グランはどこからか椅子を引っ張り出してくると、どっかと座ってから答えた。
「終わったよ。バドの奴が最後までぐずったが、そこはまあ、な。」
「おいおい。」
最後の部分を曖昧に濁したグランに、ハルは苦笑いを浮かべた。
「一体何やったんだか。」
「気にするな。ところで、このお嬢ちゃんは誰なんだ?お前、彼女でもできたか。」
そう言いながら、グランはゆっくりとアシュレイの方を向いた。
一瞬、その眼には鋭いものが宿っている様に見えた。アシュレイは自分の全てが見透か
された様な気持ちになった。が、グランが優しい笑みを浮かべると、さっきの感じはど
こかに消え、背中を伝っていた嫌な汗も引いていった。
155それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/20 16:44:20 ID:qwa632I3
「彼女が俺を助けてくれたんだよ。」
「アシュレイって言います。」
なるべく丁寧におじぎをしたつもりだった。
ガルカは長命だ。だからなのか、哲学的な考え方を持っている人も多い。グランから
もそういったガルカと同じ『匂い』がした。だから、なんとなく普段よりも礼儀正しく応対
しなければならない気がした。
グランは彼女のおじぎを見て、立ち上がり恭しく礼を返した。顔には微笑みを浮かべ
たままだった。あんまり丁寧に礼をするので、アシュレイは少し慌ててしまった。
「俺はグランという。ありがとう。君のおかげでこいつは命を永らえた。改めて礼を
言おう。」
「いえ、そんな。危なかったら助けるのが普通ですよ。」
また礼をしようとしたグランを制止しながらアシュレイは言った。
───そんなに何度もおじぎされると困っちゃうな。
「君は優しいな。……だがそういう人ばかりじゃないんだよ。世の中は……。」
彼女に向き直ったグランは少し寂しそうにそう言った。彼女は彼が後半に言った言葉
がよく聞き取れなかったが、グランは既にハルの方を向いていて、聞き返すタイミン
グを失ってしまった。
「しかし、随分酷くやられたみたいだな。丸二日寝たきりだったらしいじゃないか。」
「二日?俺は二日も寝てたのか。」
ハルはアシュレイに問い掛けるような目を向けた。
156それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/20 16:45:25 ID:qwa632I3
「そうです。今日はもうすぐ日が暮れますよ。このまま起きないんじゃないかってみ
んな心配してたんですよ。」
「やれやれ。手伝いを買って出ておきながら、これか。情けないな。」
ハルは首を振り、顔を手で覆った。
「何があったんだ?」
グランが問う。
事件の真相について語られそうだ。そう思ったアシュレイはハルが話し出す前に切り
出した。
「あのっ。」
「それは───ん?」
ハルとグランは一斉に彼女の方へ目を向けた。
「あの、私、お邪魔でしょうから帰りますね。」
それを聞いた二人は顔を見合わせた。
「ハル。お前、彼女が邪魔か?」
「いや全然。」
「君が帰りたいのかな?用事があるとか。」
グランは彼女の方を向いて問い掛けた。
「いえ、そういう訳じゃ……。」
「話に興味がないかな?」
「……気になり、ます。」
157それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/20 16:46:14 ID:qwa632I3
嘘をついてもすぐにばれるような気がしたので、正直に言った。
「じゃあ決まりだ。ここに君を疎ましく思う人はいないし、君も話に興味がある。何よ
り、こいつを助けたのは君だ。君には聞く権利がある。……まあ、多少居心地の悪
い思いをしているのかもしれんがな。それはすまないと思ってる。」
苦笑交じりでそう言うのを聞いた彼女は、顔から火が出そうになった。やはり、こち
らの事はお見通しなのだ。
グランとハルがアシュレイにはわからない話をしたのを聞いたとき、なんとも言えない
疎外感を彼女は感じていた。
ハルの態度もそれに拍車をかけていた。彼はおそらく気付いていないのだろうが、ア
シュレイに対する態度と、グランに対するそれはかなり違うものだった。それは、信
頼関係の深さからくるものであることもわかっていた。昨日今日会ったばかりのアシ
ュレイと、長い付き合いであろう(雰囲気でよくわかる)グランとの間に差があるの
は当たり前なのだが、それが、なぜか悔しかった。
───私って、こんなに心が狭かったんだ。自分がいやになっちゃいそう。でも……
なんでだろう。
アシュレイは自分の矮小さを自嘲したが、ハルが話し始めたのでそちらに意識を向け
た。
「そうだな。まずは──────」
158 ◆yANtvXYFvY :05/02/20 16:52:46 ID:qwa632I3
今回はちょっと量が多いのでとりあえずキリのいいところまで。

今回の変更点。
・一行の改行する場所を統一。
・登場人物の心の声(『───』で始まる部分)の前後の改行を削除。
これは場面変更の時の改行があまり目立たない気がしたため。
・一人称と三人称があまり混ざらないように。

アップするたびに文体が変わってるかもしれませんが、作者も現在思考錯誤中なのでご容赦を。
159それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:12:10 ID:fGo04jxm

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「ちょいと、そこのお兄ちゃん。」
「ん───」
ジュノ上層を歩いていると、声をかけられた。
声の主はミスラだった。赤い種族装備に身を包んでいる。露出が高いので、目のやり
場に困るのが難点だ。
「暇そうだね。」
「……まあね。」
間違ってはいない。ハルはグランが戻るまで、特にする事はなかった。今も冒険者の
ための掲示板に目を通し、めぼしいものがなかったのでモグハウスに引き返す所だっ
た。だが───
───もうちょっと言い様があるだろ。
だが、ここまではっきり言われると逆に清々しい。あまり嫌な気もしなかった。
「手が足りないかもしれないんだ。手伝ってくれるかい?」
「何をだ?内容がわからないと返事のしようがない。」
グランも二日後には戻る。あまり時間のかかる事は避けたかった。
「ちょいとコンシュタットまで行って、ささっとブツを回収するだけだよ。テレポが
あるから半日もあれば終わるからさ。どうだい?」
160それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:13:54 ID:fGo04jxm
腰に差したワンドを手に取り、器用にくるくると回している。
「君が白魔道士か?」
「そうだけど。どうかしたかい?」
「いや。そうは見えなかったもので……!いや、違う、今のは言葉のアヤって奴で
───」
「いいんだよ。別に。全っ然気にしてないから。」
顔には笑みを浮かべている。
───怒ってる。絶対怒ってる。
「それじゃ、決まりだね。他の仲間は揃ってるから、あんたの準備次第でいつでも行
けるよ。」
「何かいるものはあるのか?」
「ん〜装備さえあれば、あとはどーでも。」
「それなら俺も準備はいいな。」
「じゃあみんなホームポイント前にいるからさ。そこで登録してから飛ぼうか。」
ハルとミスラはホームポイントに向かって一緒に歩き出した。
「あんた、名前は?」
「ハルだ。」
「ウチはシャミってんだ。よろしくな。」
「見たところ君も結構経験を積んでそうだけど。」
「そうだねぇ、もう3,4年にはなるか。」
161それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:14:47 ID:fGo04jxm
「それなのに、コンシュタットでそんなに人手がいる事があるのか?」
「ウチにもよくわからないんだよ。ただ───あ、ほら。あれが仲間だよ。」
十数ヤルム先のホームポイントの前に数人、人が居た。ハルたちの方を向いて手を振
っているのがそうだろう。
彼は歩を早めた。先に挨拶をしておこうと思った。だから、シャミが話し始めていたの
に気付かなかった。
「ただ依頼主のおっちゃんが『危険だから人数揃えて行け』って言った……って、お
ーい。聞いてないのかよ。……ま、いっか。どうせコケオドシだろうし、人数は揃え
たんだから問題ないだろ。」
彼女はハルたちの元へ歩いていくと早々にテレポの詠唱を始めた。

「大きな岩が目印だから───あったあった。たぶんこの先だよ。」
ハルたちはコンシュタットのずいぶん西の方まで来ていた。歩いて行けば数時間、下
手をすれば半日はかかったかもしれないが、テレポで着いてからチョコボを飛ばして
きたので1時間程度で着いた。
「もうちょっとだね。行こうか───あれ?」
パーティの赤魔道士のタルタルの女が異変に気付いた。
「あれれ、チョコボが先に進もうとしないよ?」
「おいこらっ。どうしたってん───わ、わ、わ。」
162それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:15:39 ID:fGo04jxm
シャミが無理矢理チョコボを進ませようとすると、チョコボは大きく飛び跳ねたり、
反り返ったり、バランスを崩したシャミは遂にお尻から落ちてしまった。
「痛ーーーーー!! ───っ、いったいなんだってんだよ!もう!!……こらそこ
!笑ってんじゃないよ!!」
「あはは。いや、悪い悪い。まあ落ち着けよ。チョコボが嫌がってるんだから、仕方
ないさ。どうせもうすぐ着くんだ。歩いて行こう。……さ、もう行っていいよ。」
ハルはチョコボから降りると、チョコボの背を叩き合図をした。するとチョコボは元
いた厩舎へ向けて走っていった。
「なんだか必死に逃げてるみたいに見えるねぇ。」
「逃げてるんだよ、あれは。元々チョコボは臆病な性格だからね。道を覚えていると
は言っても、慣れない場所は居心地が悪いんだろーよ。」
打った尻をさすりながら、シャミは意地悪っぽく言った。
「青くなってないかい?」
彼女はハルに背を向け、尻をアピールするようなジェスチャーをした。
「……君はバカか。見てほしいなら、彼女たちに見てもらえよ。」
ハルは目のやり場に困り、顔をそらした。からかわれてるのはわかる。にやにやした
シャミの顔が見えた。
「でもさ、変だよね。ここは、確かにずいぶん通りから外れてるとは言っても、コン
シュタットなわけじゃない?『チョコボ進入禁止地域』じゃないのに、どうして?」
銀の鎖で編まれた、青い鎖鎧を身につけたヒュームの少女が言った。
163それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:16:25 ID:fGo04jxm
そう。チョコボには進入禁止地域がある。その場所は主に、危険過ぎてチョコボの帰
りの安全が確保できないとか、そういった理由で定められるのだが、そこに近付くと
チョコボは先に進まなくなり、乗り手は降りてから進まなければならない。ちなみに
、チョコボは一度降りると勝手に帰ってしまう。そういう風にしつけられているのだ
。チョコボの数にも限りがある。そうしないと、数が足りなくなってしまうようだ。
「ん〜。……ダメだ。考えたってわかんないよ。係りの人に聞けばわかるだろうさ。
それより、さっさと終わらせようよ。お腹が空いてきたよ。早く帰って、酒場で一杯
やりたいねぇ。その時はあんたも来るかい?……ちょっと。そこの短髪で黒髪のおに
ーちゃん。あんただよ。聞いてんのかい?」
「う、あ?」
ハルはどこか遠くを見つめていた。急に呼ばれて、我に返ったようだ。
「何ぼーっとしてんのさ。」
「……いや、その。」
「大丈夫?」
コートに身を包んだエルヴァーンの女性が心配そうに尋ねてきた。
「なんでもないよ。心配させてごめん。」
そういうと、彼女はやわらかい笑顔を見せた。
─── 一瞬だけだが、殺気を感じた気がしたんだけど。気のせいなのか?

予感は外れてはいなかった。
164それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:17:47 ID:fGo04jxm
目的地に着く間、何度も後ろに殺気を感じた。
だが振り向くとすぐに消えてしまう。
───おそらく獣人か何か、か。襲って来ないってことはこっちが強いのはわかって
るんだろう。だけど……
「うっとうしいな。」
「ん?何か言った?」
聞こえないように言ったつもりだが、耳ざとくシャミが聞いてきた。
「いや、なにも。」
「そっか。」
───このやかましいのに、よく聞こえるな。
ずいぶんとにぎやかなパーティだった。なにしろ、ハル以外はみんな女性なのだ。や
かましくないほうがおかしいのかもしれない。もっとも、もう一人の、鋼鉄鎧に身を包
んだエルヴァーンの暗黒騎士はほとんど話はしなかったが。
「ああ、ここだ。たぶんこの辺りに埋まってる。」
シャミが依頼人からもらったらしいマップを閉じた。
「へえ……。少し小さいけど、ここにも風車があったんだ?」
ヒュームの少女が、感慨深げに言った。
彼女の言うとおり、目的地にあったものは、他のものより一回り小さい風車だった。
そのサイズのせいだろうか。普通の風車よりも、少し可愛らしいように見える。だが
ハルは、最初見た時から、何か『嫌なもの』を感じていた。
165それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:18:46 ID:fGo04jxm
「えーと。どこらへんに───ん?もしかして、あれかな?」
風車の袂の地面が一部、淡く光っていた。
「わかりやすいわね。」
エルヴァーンの女性が少し不思議そうな顔をしている。
「親切なんだよ。にしても、埋まってるのにあれだけ光ってるなんて、もしかして?」
シャミが悪そうな笑みを浮かべた。
「もしかすると?」
すかさずタルタルの女が合いの手をいれる。
「「お・た・か・ら・!?」」
声が合った。互いに顔を突き合わせ、にんまりと笑っている。
「一応言っとくけど、盗っちゃだめだよ?」
ヒュームの少女が釘を刺すように言った。
「そんなことわかってるよ〜。信用ないんだなぁわたし。傷つくわぁ。」
タルタルの女が心外だとでもいうように、大袈裟に言った。
「ああ、可哀想に!……ま、いいや。こんな三文芝居やってないで、さっさと掘り出そ
う。何がうまってるのかねぇ。」
シャミは輝いている土に手を突っ込んだ。
その、瞬間。
166それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:19:32 ID:fGo04jxm
「う───が、は……!?」
強烈な殺気が、ハルの後ろから風に乗って流れてきた。あまりの酷さに、息ができな
くなる。
立っていられない。
ハルは膝をついてしまった。剣を支えにしながら辛うじて体勢を維持しているという
感じだ。
───やめろ。
「あれ、けっこう深いな。」
シャミは掘り続けている。
───やめるんだ。
「んん?まだ見えないな。」
───やめ、ろ……。なぜ、誰も気付かない……!?
シャミも、タルタルの女も、コートのエルヴァーンも、あの暗黒騎士も、誰もハルの
異変に気付かなかった。まるで彼にインビジがかけられたかのようだ。
みんな何が埋まっているのかに夢中で周りが見えていない。
───動け。
「お、見えてきたかな?」
───動け。動いてくれ。
「ん……。これは、鈴?ぴったり6個あるけど……これだけかよ。なんだよー。むー、
とりあえず配るよ。……はい。……はい。ほら、これはあんたの分。ハル。」
167それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:31:21 ID:fGo04jxm
シャミは掘り出した鈴をハルのほうへ放った。ハルは左手でそれを受け取った。
───な、に?
『ハル』はそれを人事のように見ていた。
───身体が勝手に───
「どうした?人の顔じろじろみちゃってさ。」
そういってシャミはハルへ近づいた。
───違う。違うんだ。それは、『俺』じゃない。離れろ。……くそっ、くそっ、くそっ!こ
れじゃ、また。また俺は……
「ぐ……ぅ、あ───」
「おいちょっと。大丈夫───」
───また失ってしまうのか。
ハルは吼えていた。呪縛を解き放つためだろうか。心の奥から湧き上がったものか。
近くに来ていたシャミが驚いて後ろに飛びのいた。
身体を縛っていた何かは消え去った。殺気もどこかへいったようだ。
───動く。
「逃げろ!」
ハルはすかさず仲間に向かって叫んだ。
「う、え?なんでさ。何かあったのかい?」
「感じないのか?殺気だ。……私としたことが、これに今まで気付かなかったという
のか?」
168それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:32:15 ID:fGo04jxm
今まで口を開かなかった暗黒騎士がそう言った。
「そして───形勢は不利。急がないとまずいことになる。」
背中に背負った鎌を構えながら、続けて言った。
ハルは弾かれたように辺りを見回した。
なだらかな起伏があるだけだった丘は、何時の間にか、空との境界の部分が黒くなり
、齧りかけのチーズのような凹凸のある風景になっている。
「これは───!!」
ハルは絶句した。
ここの地形を変えて見せたのは、ゴブリンの群れだった。
10、20───まだまだ、100はいるだろう。下手をするともっとかもしれない。
「おいおい!なんなんだよ、これは!?」
「下がれ!シャミ!」
ハルはわめいている彼女を下がらせた。黒魔道士のエルヴァーンも、何も言わずに下
がる。
シャミは下がる前に<プロテア>と<シェルラ>を唱えていった。ぶつぶつ文句を言
っているが、やらねばならないことはわかっているようだ。
「シャミ、テレポだ。どこでもいい。詠唱が完了するまで、前衛で持ちこたえるぞ。他の
魔道士はサポートをしてくれ。」
ハルが指示を出すと、我を忘れていたらしい、ヒュームの少女も抜刀した。緊張して
いるのか、怖いのか、手が震えている。
169それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:33:05 ID:fGo04jxm
「落ち着け。数は多いが、一匹ずつの強さは大したことはない。」
気を静めようと、ハルは声をかけた。少しは安心したのか、震えは止まったようだ。
───そう。強さで言えば、普段ここにいるゴブリンたちと変わりはなさそうだ。だがこ
の数は……!
彼らは何時の間にか、大きな一枚岩を背に、周りを取り囲まれていた。上から見れば
岩を頂点に扇が広がっているような形に見えるだろう。これ以上下がる事はできない
。後衛を下げ、前衛がやや前に出る陣形を取った。
「多すぎるな。」
横についた暗黒騎士が呟いた。
「ああ。早く離脱したほうがいい。シャミ。」
「あいよ。」
彼女が詠唱を始めると、今までじりじりと寄ってくるだけだったゴブリンの群れに動きが
あった。
まず左翼の連中が一斉にサイレスの詠唱を始めた。
彼らの唱えたサイレスのひとつがシャミの身に降り注ぐ。
だがそれは彼女の身体に侵入しようとしたが、弾かれて宙に消えていった。
レジストだ。魔法は、自分より遥かに強い相手には効きづらくなる。
───ばぁか。このシャミ様にあんたらみたいな雑魚の弱体魔法が効くかっての!
詠唱中に話す事はできないので、心の中でそう思った。が。
170それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:33:49 ID:fGo04jxm
次のサイレスが、また彼女を襲った。そこからは間髪いれずに、次々とサイレスが飛
んでくる。それらは全てシャミへ向けられていた。
いくら効きづらくなると言っても完全に効かなくなるわけじゃない。数で攻めれば、いつ
かは。そして───
「っ──────!!」
「シャミ!!」
ついにシャミの身体にサイレスが染み込んだ。詠唱が中断される。
───くっ、やまびこ薬を……
彼女はカバンから薬品を取り出そうとした。だが、ゴブリンの攻撃は終わってなかった。
彼女が薬を飲もうとした時。今度は右翼の連中からアスピルが飛んできた。
───なっ……
襲いかかるアスピルの嵐。レジストもあって吸収される量は少ないといっても、数が
数だ。
───おいこら。やめろっ。やめてよっ!!
既に発動した魔法を防ぐ方法はない。ハルたちは為す術がないまま、それを見ていた。
───ぅ、ぁ……魔力が……全部っ……
シャミは膝をついた。魔力が全て奪われてしまったのだ。彼女は、はあはあと苦しそうに
肩で息をしていた。
「くそっ!!」
ハルは吐き捨てるように言った。
171それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:34:54 ID:fGo04jxm
───なんだ、こいつらの連携の良さは!?
考えている暇はなかった。両翼の魔法攻撃が終わったからか、中央に陣取っていた連
中が、突撃をかけていた。
「くっ。シャミ、お前は魔力を回復しろ。エルヴィさん、サポートを!連中の魔道士を潰す
んだ!」
「まかせて。」
「くるぞ!用意はいいな!?」
黒魔道士はウォタガIIの詠唱を右翼へ向けて詠唱し始めた。アスピルのほうが脅威だ
と思ったのだろう。
魔力の回復には時間がかかる。冒険者として熟練してくれば単位時間における回復量
も多くなるが、同様に魔力のキャパシティも大きくなっているため、全快には数時間かか
る場合もある。
ハルもそれはわかっている。シャミに「回復しろ」と言ったが、戦闘中にもう一度テレポを
詠唱するのは無理だと思っていた。
───こいつらを全滅させないと、道はない!
ゴブリンの前衛部隊が、大河のごとく攻め寄せてきた。
「後衛に近づけさせるな!!」
彼らの戦争が始まった。
172それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:35:40 ID:fGo04jxm
まず暗黒騎士が前に出た。その大きな鎌を横に一振りすると、ゴブリンの先発隊は弾
き飛ばされた。地に落ちたがまだ立ち上がろうとする奴を、赤魔道士と戦士の少女が
止めを刺す。良い攻撃だ。だが───
「そっち!起きるぞ!」
「ちょっと待っ……!だめ!多すぎるよ!!」
「だが、やるしかないだろう!!」
そう言いながら鎌を振るう。だが、数が多い上に次々に近くに寄られて、全力で振る事
ができない。
「くそっ!」
「あ、あれ!?ナイトさんは!?」
異変に気付いた赤魔道士が声をあげた。
「あそこ!囲まれてる!!」
ハルはゴブリンにすっかり周りを囲まれていた。
「おい!大丈夫……か───」
それはまるで舞のようだった。
周りから次々に襲いくる刃を、躱し、盾で受け、剣で受け流しながら、反撃をする。
的確に急所を貫く一撃は、必ずゴブリンの息の根を止める。ハルの周りには次々に死
体が積みあがっていった。
「すごい……」
3人は見惚れて動きが止まってしまった。
173それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:36:17 ID:fGo04jxm
「おい!」
そんな彼女達を見咎めたハルは叫んだ。
「何をやってる。遊んでる暇はないぞ!」
はっとした彼女達は目の前の敵に集中した。
「ハル!右の魔道士は片付けたわ!」
エルヴィが声を張り上げた。
「魔力は!?」
「左を片付ける分くらいは!」
「頼む!!───ぐっ!」
少し気を取られた隙に、鎧の上から手斧で殴られた。ハルは少しよろけたが、反転し、
敵を視界に捕らえるとすぐさま反撃を返し、一刀の下に両断した。
「てめえらが簡単に抜けるような、ヤワな鎧じゃないんだよ!」
174 ◆yANtvXYFvY :05/02/21 12:40:03 ID:fGo04jxm
出来てる分は張り終えました。
距離の単位はヤルム=メートルの判断で書いてます。
間違いがあれば指摘していただけると嬉しいです。
時間はヴァナ時間です。
実際に歩いてみてどれくらい時間が(ヴァナで)経っているか検証しようと思いましたが
時間がなく断念orz
ご意見、ご感想など、あれば遠慮なく。次を書く気力が湧きますので。
175既にその名前は使われています:05/02/21 17:49:04 ID:3XsLYG+f
【これを君に上げましょう】
Good job
176既にその名前は使われています:05/02/21 20:13:43 ID:lLfcySXR
>>174
うーむ、どうなのだろう。
細かいことを言うようですけど、単位を用いた数値による表現ですが、
「何ヤルム」「何メートル」より、「少し離れたところ」という、
具体性のない、勝手に想像しろ的な表現の方が、
読みやすいような気がします。

あと、FFの専門用語を使用することについて、なんですが、
一般的な単語や表現で代替した方がいいのかもしれない、
なんてことを思ったりします。
理由は「アスピルって何だっけ……」

ああ、そうですよ('A`)
とっさに意味が頭に浮かばない私はヘタレプレイヤーなんですってば orz
だけど、下手に専門用語を避けると、説明ばかりになる恐れも有りますが。

ま、以上は私の価値観で、その点を意識して書こうと思ってるので、
他の方の意見を聞きたいです。

今のストーリーが何を意味するのか、今後の展開に期待します。
177ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 08:31:44 ID:CAlolv2o
できたー!!!!!!!!!!
題名は・・・「マハトマウプランド」
こうご期待!!!!!!!!!!!!!!
178ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 08:34:34 ID:CAlolv2o
誰でも楽しめるように読みやすく書いたつもりだ
みんな最後まで読んでくれくれ
まだ全部の推敲終わってないんで、そうだな・・・夜にでもうpするyp!!!!!
179 ◆yANtvXYFvY :05/02/22 09:45:06 ID:F/5C8d+j
>>175
ありがとうございます。読んでくれている人がいるだけで励みになります。
ま、中途半端で終わらせるのだけは嫌なので、誰も読んでくれなくても最後まで書きますけどw

>>176
なるほど。確かに、そのほうが読み手によって解釈が変わるからいいかもしれませんね。
でも具体的に書いた方がより印象的になる場合もあるでしょうから、その辺は作者の腕って事ですかねw
専門用語については〜、うーん。
XIやったことのない人でも読めるようにすると、全てに説明解説をつけなければならなくなるので
あんまり多いとあなたの言う通り長ったらしくなっちゃうんですよね。
コンシュタットという地形を説明するにも2,3レスくらい消費しましたし。
私が自分のHPでやってるのなら別に長くてもいいんですけど、ここは一応公衆の場ですし、
一人で続けて数百もレスを消費したりしたらシャレになりませんし。
難しいですねぇ。
でも読んでてわからないってのは無視できませんからね。
名前から効果が想像できないようなものはなるべく説明を入れる、というのがいいのかなぁ。
あとがきで補助説明をいれる、っていう苦肉の策もあるか…
色々考えてみますね。
180既にその名前は使われています:05/02/22 11:57:03 ID:LwslU1cD
>>178
ほんまか〜、
ほな、また夜に来るわ〜。

>>179
シャミいいですね。
181 ◆yANtvXYFvY :05/02/22 18:23:39 ID:F/5C8d+j
>>180
ありがとうございます。キャラがいいと言ってもらえるのは嬉しいですね(´∀`)
182ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:33:23 ID:CAlolv2o
「マハトマウプランド」

前置き:言っておくがなげーぞ、気をつけろwwwwwww
183ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:34:35 ID:CAlolv2o
「あの、裁縫職人の方ですか?・・・一つ依頼を引き受けてほしいのですが」
この家業長くやっていると、競売で正規の取引を行わずこうした直にTELLしてくるものもいる。
そのTELLの「Yuna」という名前から察するに依頼人はどうやら女のようだ。
中の人間はネカマかもしれんが・・・ってんなことどうでもいい
俺に依頼が来ることは極めて稀なことだった。

競合している他の職人が売り物の相場を下げ続け、無理に売りぬけようとしたらムキになり半額に落としたり・・・
ある時は雪崩のように相場が落ちてゆくエラントスロップスを見せしめのため1ギル出品で埋め尽くしたこともある。
逆に高値のHQができたときは倍の値段にした価格操作の履歴で埋め尽くすこともある。
それを見て自嘲気味に笑う。
鯖板の晒しスレではテンプレの一番上に「史上最悪キチガイ職人、買わない触れない話さない。生暖かく見守りましょう」
とご丁寧に注意書きまで添えられ晒されている。
LV上げのPTですら敬遠されるため、俺は一人でできる合成をせっせと作り続ける毎日。
だが、四六時中粘着が張り付き、俺が作るものをあざとく観察して逐一鯖板へ報告するため、
バザーどころか競売ですら誰も俺の商品をなかなか買ってくれない。
金はない、誇りもない、信頼もない・・・
俺はそんなつまはじきものの孤独でしがないアホで有名な職人だった。
184ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:35:53 ID:CAlolv2o
「別にいいけど・・・タダじゃないぞ?それと、割れても保証しないから」
そんなもんだからたまに来る依頼もロクなのが来ない。
無料で作れだの、割れたら弁償しろだの・・・
この前注文してきた内藤なんか「グラットンソード作ってくんない?wwwwww」と言ってきやがった。
・・・作れねーよ。
そういった経験から(まぁ、今の例えは特殊だが)注文するさいの常識は依頼主にあらかじめしつこいくらい説明しておく。

だが、今回の依頼は今までとは大きく違っていた。
「あとな作ったもん転売すんならそれなりの手数料取るけどwwwwwwwwwww」
「あ、すみません違うんです。作ってもらうほうじゃなくて」
俺の言葉をさえぎるように彼女がいった。
「ちょっと変な注文かもしれませんが・・・あるアイテムを分解してもらいたいんです」
185ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:36:56 ID:CAlolv2o
「・・・へ?」
俺は呆れた。
本当、変な注文だ。
「あのな、一応言っておくが分解なんていいことなんもないぞ。すげー割れやすいし、儲からないし」
「別にかまいません」
モノ好きもいたもんだ。
てか、どうせLV上げ中に拾ったギガースソックス辺りを毛糸に変えたほうがそのまま売るよりおいしいから・・・
そんなくだらないことだろう。
「メンドくせーな・・・」
んなもん引き受けたとこで手数料なんてもらえるかどうかも怪しいもんだ。
俺はすでに、この依頼をどう断るかどうかということを考えていた。
「んで、何を分解したいんだよ?」
まぁ、一応聞くだけ聞いておく。
「はい、マハトマウプランドです」
「・・・はぁ?」
リアルでも同じ言葉がつい漏れた。
特殊どころか、あまりに無駄でもったいない行為だ。
186ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:38:02 ID:CAlolv2o
「エラントウプランドのHQだよな?作るんじゃなくて分解するの?」
「はい」
「何でだよ・・・分解するくらいなら競売なりで売ればいいじゃんwwwww」
マハトマ胴なら性能も高く、高値で取引されているため、投売りでもウン百万は軽く手に入る。
「あの・・・ダメでしょうか?」
「いや、ダメってことはないけどさぁ・・・」
俺は頭を抱えた。
なんだよこの注文は・・・。
本当俺にはロクでもない合成依頼しか来ないな。
いや、待てよ。
そこでふとある提案をひらめく。
「なぁ、Yunaさんよーいらないならそのマハトマ俺にくれよ。分解素材あんたに渡すからさwwwwwwwww」
これなら充分おいしい。
187ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:39:00 ID:CAlolv2o
「いえ、あくまで私が持っているマハトマウプランドを分解していただきたいのです」
・・・即却下された。
「どうしても?」
「はい」
「ふむ・・・分かったよ。ただせめて理由だけでも聞かせてくれないか」
俺だってこれでも一応職人のはしくれだ。
これほどのものを分解して一体どうなるのか。
正直言って興味はあったが、ウン百万もする商品を無駄に分解するのは気がひける。
「えっと・・・」
「それはですね・・・」
彼女は少しためらいながらも、ゆっくりと理由を話しはじめた。
188ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:39:51 ID:CAlolv2o
彼女には始めたころから仲良くなった一人のフレがいた。
名は「Row」と。
二人は何をするときもいつも一緒で、お互い助け合っていた。
・・・いや、助けていたのは主に片方だけといったほうが正しいようだ。
Rowという男はかなり頼りなく、いつもYunaに助けられてばかりだった。
そしてこの時も、だらしなく地べたで死体となっているRowに、彼女がレイズをかけていた。
「決めた!今日から僕は君を守るナイトになるよ!」
「あはは」
「ひどい;;」
「ごめんなさい、あまりに唐突で、あなたに似合ってないのでつい笑ってしまいました」
「う・・・たまにはカッコつけさせてくれよ、いつも頼りないんだから」
「自覚はしてるんですね」
「ま、まあねw」
189ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:40:52 ID:CAlolv2o
「でもいきなりどうしたんですか?」
「いや、だっていつも君の足引っ張ってばかりじゃないか・・・LVだって僕のほうが低いし」
「もう慣れましたよw」
「もっと強くなりたいよ。LVも装備も・・・君を胸をはって守れるようになりたいんだ」
「私は今のままでもいいのに」
「もっと君に楽をさせてやりたいんだ・・・迷惑かな?」
「そんなことはないですよ、ありがとう^^」
「/sh うおおおおおっ!!決めた!!僕はこの世界でYunaを守り通すっ!!」
「/sh うぜぇ、キモイシャウトすんな晒すぞ」
どこからか野次が飛んできた。
「/sh ひぃ!すいませんっ!」
190ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:41:49 ID:CAlolv2o
「それとね、えっとさ・・・ずっと言いにくくて、いつ言おうか迷ってたんだけど・・・」
「何ですか?」
「くそ、恥ずかしいな・・・」
「?」
「これ!この前のチョコのお礼!」
トレードすると、そこにはタブレットがあった。
「ごめん!とっくに身につけるようなLVの装備じゃないけど、これしか作れなくて」
「手作りなんですか?」
「本当はもっといいもの作りたかったんだけど、情けないことにスキル低くて!」
「ううん、すごく嬉しいです。ずっと大事にします^^」
「/sh うおおおおおっ!!決めた!!僕はこの宇宙でYunaを守りつくす!!」
「/sh だからそのキモイシャウトうぜぇっつてんだろうが、お前晒し決定」
「/sh うそです!いやうそでじゃないです!!すいませんっ!!」
「あはは」
「あ、あはは・・・;」

ちょっと照れくさそうだけど、そのとき彼女は本当に嬉しそうに話していた。
気持ちだけでも充分、そう言ってくれることが嬉しかったと。
191ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:42:41 ID:CAlolv2o
Rowは彼女を守るため、本当に強くなろうと頑張っていた。
それはもう痛々しいくらいに。
今まで一週間に2,3度のログイン数で2時間程度遊んでいたのが、
今はYunaが入ると常に彼はいた。
LVも入るたびに物凄い勢いで上がっている。
「Rowさん?ゲームもいいけどリアルも大事にしましょうね」
彼女は恐くなっていた。
彼のリアルはどうなっているのだろうか。
自分のせいでおかしくなってきているのではないだろうかと。
「大丈夫!これでもけっこう貯金はしっかりしてあるからw」
「そういう問題ではないです」
「ごめん!今ちょっとLV上げで忙しいからまたあとで!www」
192ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:43:26 ID:CAlolv2o
彼はとっくにYunaのLVを追い越し、YunaのメインのLV上げをサポで一緒にするという形になっていた。
「Yuna、せっかく久々に一緒にLV上げしてるのにもう落ちちゃうのかい?」
「もう、ってすでに3時間もLV上げしてますよ。そろそろ終わりにしましょう」
「そうか・・・残念だけど仕方ない。じゃあNM狩りでもしない?w」
「ごめんなさい、少し疲れてしまいました・・・」
「じゃあさ、僕がYunaのほしいもの取っておくよ!何がいい?」
「あなたの体」
「え、spsそれはどうういgすgすgっくぇうyt」
「あなたの健康で健全な体です。少し休めたらどうですか?最近、FFやりすぎですよ」
「いや、それは君のためにだなぁ」
そんなことされても嬉しくないです。
そう言いたかったけど、自分のためにがんばっている彼に、そこまで彼女は言えなかった。
「そうですか、気持ちは嬉しいけれど、あなた自身のことも大事にしてくださいね」
「ああ、僕のほうは全然平気w大丈夫!w」

そして歯車はさらに狂いだす。
193ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:44:13 ID:CAlolv2o
気がつくとRowは鯖で屈指の廃人HNMLSのリーダーになっていた。
「こんばんはRowさん」
「ああ、Yunaか、久しぶりじゃないかw」
「あの良かったら一緒にタブナジアの新エリアを回っていただけませんか?まだほとんどのエリアを知らないので」
「ごめん、今ベヒの張り込み中w」
「そうですか・・・」
「Yunaも来ないか?LV低いから外部ケアル要員になっちゃうけどw」
「でも出たアイテムでほしいのあればあげるよw僕リーダーだからそこらへん融通きくしw」
「いいえ、特にほしいものとかないです」
「そう?もったいないw普通の人は狩ることすらできないんだよw」
「ところでお仕事の調子はどうですか?」
「ああ、やめたwてか、遅刻や無断欠勤続けてたらクビになったよwもうリアルのほうは捨てたw」
194ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:45:01 ID:CAlolv2o
Yunaは絶句した。
「どうして」
「ん〜、だってこっちのほうがリアルより楽しいじゃんwLSのメンバーが僕のこと頼りにしてるしw」
すでに理由の中にYunaの名前すらなかった。
「そうですか・・・何度も言ってますが、どうか本当の人生は大事にしてください」
「あ、そうだ。あとでYunaに渡したいものがあるんだ。これ終わったらジュノで会おうよw」
もうYunaの声は彼に届いてなかった。
「もう・・・落ちようと思っているのですが」
彼女の目から涙が溢れていた。
あの時必死で止めておけばよかった。
どうしてこんなことに・・・と。
「そう言わずに少しだけ!すぐ終わるからさw」
「・・・分かりました」
「きっとYuna喜ぶよw」
195ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:45:45 ID:CAlolv2o
「はい、マハトマウプランドw僕の銘入りw」
彼は駆け出しだった合成もすでに上限まで上げきっていた。
しかも倉庫も合わせると彫金以外は全て師範だという。
「ごめんなさい。せっかくですけど、遠慮します」
「どうして?前にこの白いローブいつか着てみたいって言ってたじゃないか。」
「こんな高価なものいただけません。それに装備できるLVもまだまだ先ですし」
「じゃあPLで手伝うよwまだLV56だろ?Yunaも早くLV上げないとなw」
「別に急いでないです」
「ともかく!もらってくれよ、君のために作ったんだ」
「・・・」
しばらくの沈黙の後。
196ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:46:30 ID:CAlolv2o
「分かりました、でも私がこれをどうするか知りませんよ?」
「いいよ売るなり好きにしてもwてか、金に困ってるならいつでも言ってくれ。腐るほどあって困ってるんだw」
そして彼女は受け取った。
トレードのさいに、彼からあの日もらったタブレットを渡して。
「ん?なんだこりゃwゴミ渡されても困るよw捨てるねw」
このタブレットを見て、昔のことを少しでも思い出してくれたら、という淡い期待も脆くも崩れ去る。
つまりは、全てが終わったことを意味していた。
「んじゃ!これからファフの張り込みがあるんでw」
「さようなら・・・」
「ういういwまたねw」
197ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:47:09 ID:CAlolv2o
「というわけでこのマハトマを分解してほしいってわけか・・・」
「はい」
俺はしばし考え込んでいた。
「なあ、あんたこれ分解したあと、どうすんだ?」
「キャラを削除しようかと思ってます」
間を空けることなく彼女はそう言った。
「どうせキャラ消すなら捨てるなりすればいいじゃないか」
「いえ、せっかくのプレゼントですから捨てるのは・・・でも分解するんだからあまり変わりませんね」
彼女はしばし考え込んだような間の後、
「ごめんなさい、うまく説明できません」
申し訳なさそうにそう言った。
要するに彼女は全てを清算しようと思いつつも捨てきれないのだ。
もう戻らないRowとの思い出を。
そしていつか元に戻るかもしれないという信じる心を。
せめて最後の切れ端だけは繋ぎ止めていたいと。
それはとても悲しくつらいことだと思った。
だから・・・
198ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:48:59 ID:CAlolv2o
「依頼は受けれねーな」
「どうしてですか」
「このままじゃ誰も救われない」
「え・・・?」
「あんたはこれを分解したら満足するのか?違うだろ」
「・・・」
「どうせ全て消し去るなら、最後にあがいてみようぜ。」
「あがくって?」
「Rowを元に戻すんだ」
「でも・・・あの人は今が楽しそうです。それを邪魔する権利も余地も私にはありません」
「そんなわけあるかよ!本当の自分がグチャグチャで、偽りの世界に逃げ込んでるだけだろ。」
「ただ逃避してるだけだ。現実が恐くて夢から覚められないだけだ。あんただって分かってるはずだろうに」
「でも・・・」
「夢はいつか覚める。そのときあいつ、もう取り返しがつかない状態になってるだろうな」
「でも、どうしたらっ」
「俺も手伝うよ。このまま知らんぷりじゃ後味悪すぎるからな」
そして俺達は動き始めた。
199ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:49:43 ID:CAlolv2o
「こんにちわwwwwwwwwwwwwwww」
LS会話。
「・・・・・・」
俺のLS会話。
一同の気まずい空気がひしひしと伝わってくる。
「こんにちは、そしてお初の方は、初めまして」
その後、彼女の発言がログに出ると、Rowが途端に色めき立つ。
「やあ!ついに僕のLSに戻ってきてくれたんだね、歓迎するよYuna!」
そして戸惑ったようにこう続ける。
「ところで、彼は一体・・・^^;」
当然、俺の悪行はこいつらもよく知っているだろう。
突然入ったきた目の上のたんこぶに、うろたえないはずがない。
「えっと、私が誘いました」
「ああ、そういえば君に渡したパールはサック化してたね。でも彼は・・・」
こいつが何か言う前に、俺が遮る。
「俺さー、こいつのヴァナ彼なんだよ、だから同じLSでいいだろ?wwwww」
「え・・・?」
200ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:50:39 ID:CAlolv2o
Rowが絶句するのが文字だけで読み取れた。
「毎日チャHwwwズコバコヤリまくりwwwwよろしくwwwwwwww」
「君は黙っててくれ!Yunaウソだろ?w冗談だよな・・・?」
「本当です。あ、いえその・・・ズコバコとかいうのはウソですけど・・・」
(あの!ちょっと飛躍しすぎです!)
YunaにTellでたしなめられた。
「つーわけでさ、俺も今日からお前らと同じ仲間ってわけだ。麒麟胴くれよwwwwww」
「こんなロクでもない奴と付き合ってるのか君は!?」
Rowにロクでもない奴呼ばわりされて少しカチンときたが、今は気にしてる場合ではない。
「お前がHNMの尻追っかけて、くだらねーことしてる間になwwwwwwww」
「あのさ、付き合うのは勝手だけど、リーダー前にしてその言い方はないんじゃない?」
「こいつ鯖板でも晒されてる最低な奴だよ、Yunaさんやめときな」
今まで黙ってたLSの廃人メンバー共が口々に俺を非難する。
「一体何があったんだ?今までの僕の行動は全て君のためだったんだよ?何故それを・・・」
201ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:51:20 ID:CAlolv2o
「・・・今は私ではなく、LSのためでしょう」
「いや、それはさ、このゲーム一人だけじゃ何もできないだろ?仲間がたくさん必要になるんだ」
「リアルがおかしくなってもですか?」
「いや、それは・・・」
「お願いします、昔のRowさんに戻ってください、今からでもまだやり直せます」
「もう無理だよ・・・何もかも手遅れなんだ」
「Rowさん!」
「は・・・というか、君に言われる筋合いはないね。こんな奴と付き合って・・・僕もそうだが、君も落ちぶれたもんだよ」
「・・・」
Yunaには酷だったろうか。
Rowの発言に怒りを覚えると共に、こんな状況になってしまい少し後悔する。
「この二人キックしちゃおうよ」
「つーか、鯖板にあることないこと書いて晒す?w」
「ここでは俺達最強のHNMLSがルールなんだよ、あんまり調子乗ると潰すよ?w」
周りの取り巻きが囃し立てる。
202ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:52:30 ID:CAlolv2o
「いや、そこまでは・・・みんな落ち着いてくれ。でも、二人とも悪いけどみんなのためにもこのLSはもうつけてほしくない」
「!!」
こいつら・・・!
だめだ、こらえろ。
俺が非難されるのは元々そのつもりだったからいい。
悪者は俺だけのはずだろ。
何故彼女まで非難されなければならない。
あまりにYunaが不憫だ。
「君はただ単にLSに嫉妬してただけなんだよwこの世界では何不自由ないものを与えてきただろう?君はほとんど断ってきたけど・・・」
彼女があれだけ健気にやってきたことを考えると、もう無理だった。
「はあ?なんだそりゃ?せこい逃げ口上してんじゃねーよ!!!!wwwwwだせー男だな!!!wwwwww」
「黙れ・・・」
「てめーがただ楽しみたいだけ、快楽のためにYunaとリアルを捨てたって正直に言えよ、人生終わってるキモ郎さんよーwwwww」
「お前は黙れって言ってるだろ!!」
Rowが激昂する。
203既にその名前は使われています:05/02/22 19:54:38 ID:ajwldPLu
近づくと彼女の様子がおかしいのに俺は気がついた

俺「どうしたんだ?」
Yuna「・・・」
俺「?」

反応のないYunaを尻目に教室に入ろうとしたその時
俺の目に映ったのは、

首のない彼女だった

俺が慌てて振り返ろうとすると頭部に強い衝撃を受けた。
薄れ行く意識の中で俺は全てを理解した。

(ああ、あんただったのか)

GAME OVER
204ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:54:52 ID:CAlolv2o
だが俺は止まらない。
いや、止められない。
「Yunaはお前みたいなバカなんかを本気で心配してたんだぞ!それを無視し続けてるお前がよくYunaに文句言えるな、おい!」
「このっ・・・!!」
「きもいよマジでwwwwwwwwwwwwリアルもキモくなってるだろwwwwwwwwwww」
【あなたは発言する権利を失いました】
「うはwwwwwwwwwおkkkwwwwwwwキックされたwwwwwwwww」
【あなたは発言する権利を失いました】
・・・。
これで俺の役割は終わり。
つい熱くなりすぎて言い過ぎた。
はー、何やってんだ俺は。
要するに、荒療治というわけだ。
俺を仮想彼氏にして、あいつの心を気付かせると。
真人間に戻すにはこれしかないとその時は本気で思ってた。
だが、当初の予定とは違いめちゃくちゃになってしまった。
・・・だめかもしんない。
205ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:56:02 ID:CAlolv2o
「ダメでした」
「やっぱり・・・」
「え?」
「いや!何でもない、それでどうなった?」
俺は慌てて取り繕う。
「あのあとRowさんも少し冷静になったみたいで話し合ったんですが、結局ダメで・・・自分からパール割りました」
「すまん、少し浅はかだった。途中で俺、つい熱くなっちまったし・・・」
我ながらアホだと思う。
もっといい方法、考えればいくらでもあっただろうに。
「でもなんかスッキリしました。言いたくても言えなかったことはっきり言えて」
「そうか・・・」
「それと、私気づいたんです」
「何を?」
「結局、やっぱり私は、ただLSに嫉妬してたんだって。彼を自分のそばに置いておきたかっただけだって」
言葉を選ぶように彼女はゆっくりとそう話した。
206ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:57:45 ID:CAlolv2o
「あいつの言ったことを鵜呑みにするな。あんたみたいな健気な人、そうはいないと思うぞ」
「そうでしょうか・・・」
「あんたがいなければ、間違いなくもっとダメになってたよあれは」
吐き捨てるようにそう言った。
「・・・・・・」
長い沈黙。
「ところであんたはこれからどうするんだ?」
「あ、はい、最初の予定通り分解してもらってから、キャラを削除して引退しようと思ってます」
「そうか、結局俺は何の役にも立てなかったな」
「いえ、あなたがいなければ、私は何も言えずに逃げてキャラを消して、ここから去ってましたよ」
「ありがとう、感謝してます」
それだけで少し救われた気がする。
「よし!せめて最後の分解くらい成功させてやるぜ!思い切り気合い入った合成してやる!!」
俺はメガネとエプロンを装着し、ギルドの上級サポートをしてもらい気合いを入れる。
「はい、お願いします!」
207既にその名前は使われています:05/02/22 19:58:10 ID:BymmCAtM
いいいいいいいいいいいいいい話でふ

ちなみにこれは本当にあった話ったりして・・・?
208ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 19:59:05 ID:CAlolv2o
しばしの黙想。
そして、静かに合成に取り掛かった。
シュワァ〜シュアワァ〜シュアワァ〜シュワァ〜。
・・・。
パリーンッ。
マハトマウプランドを失った…。
ログが無情にも流れる。
「すまん・・・」
「いいえ、あなたのせいではないです。仕方ないですよ」
くそっ、最後だってのに、こんな小さな願いすらかなわないのか。
コントローラーをつかむ手につい力が入る。
申し訳なさと自分の無力さで俺はうなだれた。
「残るだけが思い出とは限りません。これも一つの良き思い出として持っていきます」
「本当にすまなかった」
「いいえ、むしろお礼を言いたいくらいです。」
209ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:00:00 ID:CAlolv2o
「手数料少ないですが、払わせてください」
「もう、もらってるよ」
「え?」
「思い出が手数料だ。これだけくれれば釣りがくるくらいだよ」
「でも・・・」
「手数料って必ずしもギルだけじゃないだろ、察してくれ」
「・・・分かりました、あなたに依頼して本当に良かったです。」
「それでは」
彼女はゆっくりとしゃがみこんだ。
恐らく、最後のログアウトだろう。
・・・・・・。
10秒・・・15秒・・・。
無情にも時はゆっくり刻んでゆく。
ああ、これで終わってしまうのか。
「あんたいい奴だよな、Rowはバカだぜ」
後でRowのバカに思い切り暴言浴びせてやろう。
垢banになってもいい。
それすら本望だ。
210ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:01:02 ID:CAlolv2o
「バカは認めるが、君にだけは言われたくないな」
「あ、お前・・・」
「Rowさん!」
「お前今さら何しにきたんだよ!」
のうのうと顔を出したこいつに怒りが沸々とわいてくる。
「僕も一つ依頼しようと思って」
「はあ?お前だって裁縫上げてるだろうが」
「ついでだし、頼むよ」
「ちっ、わけわかんねー。いいけどその代わり手数料ふんだくるからな」
「ああ、そうしてくれ」
そして俺に向かってトレードをしてきた。
俺もトレードし、窓を開けると・・・。
ロイヤルクロークやノーブルチュニック、エラントケープなど裁縫の高級装備が次々と並べられる。
「なんだよこれ」
「いいから頼む」
俺は無言でそれらを受け取った。
211ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:01:54 ID:CAlolv2o
「Rowさん・・・」
「あれからLSは割った。LSメンにはずいぶんお叱りを受けたけどねw」
「え・・・?」
「分かっていたんだ、君の言っていたことが痛いほど分かっていた」
「だからこそ、つい思ってもいないことが出てしまった。今の僕はどこまで情けなくなっているだろうな、はは・・・」
そう自嘲気味に笑っていた。
「それとこれ、受け取ってほしい」
二人で何かやり取りが交わされている。
「これ、チュニック・・・」
「うん、今度は銘が入ってる」
「でも、私・・・」
「ごめん!!許してくれなんて言わない!でもせめて謝らせてほしい!」
「君の優しさに甘えてばかりで、一番大事なことに気付かなくて、逃げてばかりで・・・!!」
「そしてこんなバカだけど、こんなバカだけどっ・・・さらに恥を塗るなら、これからは償う機会を与えてほしい」
「そして本当の意味で君を守っていきたい!」
212ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:02:50 ID:CAlolv2o
「どうしよう、すごく困りました・・・」
「あ・・・そうだよな、やっぱり今さら都合良すぎるよな、はは・・・」
「当たり前だろバカ、あんなこと言って今さら何考えてんだ」
俺が追い討ちをかけると、落胆する様子が画面越しからでもよく伝わってくる。
少しかわいそうになってきた。
唯一の寄りどころだったLSまで抜けてしまい、こいつはこれからどうなってしまうのだろうか。
「いえ、今、涙出ちゃって画面がよく見えなくて・・・」
「・・・」
「あの・・・私なんかでよければ」
「えっ、いいのかよ!?こいつがさっき何言ってたか・・・」
「分かってます!でも、今まではっきり言えなかった私にも非はあるんです。それに彼のいいところもいっぱい知ってますから・・・」
「私は全部許したい_・・・。それってダメでしょうか・・・?」
「ちっ、あんたがいいって言ってんだからいいに決まってるだろっ!」
半ばヤケ気味に俺はそう言った。
213ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:03:48 ID:CAlolv2o
「Yuna!!」
「はいっ・・・!」
「ありがとう・・・」
「これからゆっくりやり直していきましょう、あの日のように・・・」
「愛してる・・・心の底から好きだ!」
「私もRowさんのこと好きですよ^^」
「/sh うおおおおおっ!!決めた!!僕はこの世界、いやリアルでも胸を張ってYunaを守り通せるような男になる!!」
「/sh てめー!前にキモイシャウト流してた奴じゃねーか!何度もやりやがって!もう晒すどころか粘着してやんよ!!」
「/sh ひぃ!すいません!でも俺はYunaが世界で一番大好きだああぁぁぁぁぁっ!!!」
「あはは、またやってる」
「あ、あはは・・・ごめん」
・・・・・・。
その横で、俺は黙々とロイクロなどを分解していた。
あーくそ、目の前でイチャイチャしやがって。
なんだよ俺、背景の一部になってるじゃねーか。
もうヤケだ、片っ端から分解してやる。
あ、金糸取れた。
でも・・・良かったなYuna。
214ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:04:35 ID:CAlolv2o
「君にも礼を言わせてくれ」
Rowが俺に向き直ってそう言った。
「あん?なんのことだよ?」
「芝居だったんだろ?」
「気付いてたか」
「あの時は熱くなって周りが見えなかったけど、冷静になったら君みたいな人をYunaが好きになるはずないよ」
「・・・そりゃどーも」
「あ、いやスマン、失言だった。僕が言えた義理じゃないな」
「その通りだ」
「それに、鯖で言われてるほど酷い人間じゃなさそうだしな」
「そうでもねーよ」
215ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:05:11 ID:CAlolv2o
・・・・・・。
「・・・ガツンと殴られたみたいに目が覚めた。」
「元々Yunaに言われてた通り、危機感はずっとあった。でもふんぎりがつかなくてズルズル引きずっていたんだ。いいキッカケになったよ、ありがとう」
Rowは噛み締めるようにそう続けた。
「そりゃよかったな、もうYunaを悲しませるなよ」
「ああ、心からそう誓う」
「Yuna、次こいつがふざけたことしたら、今度こそ見限っちまえwwwwwんで俺んとこ来いwwwww」
「それもいいですね」
「Yunaぁぁぁ〜」
「あはは」
外はちょうど朝日が昇り、降り注ぐ陽光が照らしていた。
この二人を祝福するかのように・・・。
216ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:05:48 ID:CAlolv2o
〜その後〜

俺はいつものようにせっせと合成をしていた。
シュワァ〜シュアワァ〜シュアワァ〜シュワァ〜。
シュゴオォォォンッ!!
マハトマウプランドができた!
・・・・・・。
「ドラえもん・・・のび太のマハトマウプランド」
俺がバカなことをつぶやいていると、
「こんにちは、職人さん」
「やあ」
先日の二人がやってきた。
あれから二人は順調にやっているようだ。
「お、YunaにRowじゃんか、どうしたヴァナ婚でもしたか?」
「はい」
「だよな〜、こいつにそんな甲斐性ねーよな〜wwwwwwって、マジかよっ!」
217ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:06:31 ID:CAlolv2o
「あ、いえ正確にはあさってするんです。夜21時。それでもしよろしければ来ていただきたくて・・・」
「気は進まないが仕方ない。誘ってやろう」
「Rowさん!」
「う・・・すまん、彼を見るとどうしてもつい・・・」
「私たち、リアルでも同棲はじめたんです」
「うおーまじか・・・」
「はい」
「Yunaは美人だったぞ。どうだ、うらやましいだろう」
「んで、こいつリアルでどうだった?キモイブザメンだっただろ?wwwwwwww」
俺はこいつを無視し、Yunaに話しかけた。
「いえ、紳士的で格好良い人でした」
「ま、まぁ、恋は盲目するっていうしな・・・」
「それでですね、場所はこのギルド前でしようと思っています。中だと職人さんに迷惑かかるので」
「重くても迷惑だから、頃合を見て速やかに移動するけどね」
Rowがそう付け加えた。
218ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:07:52 ID:CAlolv2o
「そうか、おめでとう。でも、俺なんか誘ってあんたたちに迷惑かからないか?」
「迷惑だなんて・・・」
「君のおかげで今の僕たちがいるんだ、ぜひ来てほしい」
「まぁ、俺なんかでよければ・・・」
なんだかそう面と向かって言われると照れくさい。
「ありがとうございます!それでは、あさっての21時。そのときにまたお会いしましょう」
そう言うと二人は去っていった。
わざわざ直接来ないでTELLすればいいのに。
本当、律儀な奴らだ。
でも今の二人はどこからみても良いカップルだった。
昔の悲壮な面影は微塵もない。
なんだか心がポカポカして暖かくなる。
そして俺はその気持ちをかみしめながら、今日も合成を続けるのであった。
シュワァ〜シュアワァ〜シュアワァ〜シュワァ〜。
シュゴオォォォンッ!!
マハトマウプランドができた!
・・・・・・。
「ハマリク、マハリタ・・・マハトマウプランド 」
219既にその名前は使われています:05/02/22 20:08:17 ID:qJbpmY0D
ちん○ぽこ臭いスレッドですね
220ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/22 20:08:31 ID:CAlolv2o
〜Fin〜
221既にその名前は使われています:05/02/22 20:14:39 ID:qVWovwCj
ブリ、けっこうよかったぞ!
222既にその名前は使われています:05/02/22 20:31:59 ID:O2b+hVe0
泣いた
223既にその名前は使われています:05/02/22 20:32:27 ID:11AwQqcU
>>181
呪文の前置きに、詠唱文言を入れるというのはどでしょ

例:アスピル
「暗黒の力にて、汝が魔力よ我のもとへ…アスピル!」
あんまり格好良くない例でスマソ。

うまくやらないと世界観が壊れる上に、
好みも分かれると思うけどね。

がんばってるみたいなので参考になれば
224既にその名前は使われています:05/02/22 20:51:02 ID:gw0BdDmg
うわあしまった
ブリたん見直した。
おもしろかったです
225白き探求者:05/02/22 21:11:20 ID:7b4T3Hve
ブリたん面白かった!オチで笑いましたぜ!

>ヴァナの距離とか
ヴァナの世界の単位についてですが、結構聞きなれない単語が
ゲーム内や公式サイト上で出ていましたのぅ。
その辺をまとめて見ると長さでは

○イルム=インチ
 1イルム=2.54cm
○ヤルム=ヤード
 1ヤルム=0.91m
○マルム=マイル
 1マルム=1.6km  でしょうか。

重さで確定してるのはポンズですが、
○ポンズ=ポンド
 1ポンズ=435.6g  って感じですかねえ。

ちなみに白魔法ホーリーが届くギリギリの範囲が20mくらいらしいですぞ。
 時は『冒険者の時代』……
 剣や魔法、あらゆる力と技に磨きをかけ世界中を闊歩する『冒険者』こそ、今の時代の
 主役達だ。
 恐ろしい獣人達や猛獣のはびこるヴァナ・ディールの世界で、いまだ人間達は身の危険
 から守ることを余儀なくされている。町を一歩出れば死の危険が待っているのだ。
 だが、その世界で生きていくためには、身を固めて戦い抜かなければ道は開けない。
 そして『冒険者』こそ、そんなサバイバルな世界で生き抜くプロフェッショナルだ。
 まさに、そんな時代だから、そんな世界だから生み出された必然性といって良い。
 サンドリア王国、バストゥーク共和国、ウィンダス連邦、そしてジュノ公国。
 各国の往来を賑わせ、街が活気づいかせているのは、もちろん彼ら『冒険者』……

 実は、そうではなかった。
 激しく行き交う人々をよく見ていれば判る。
 大した装備も付けず武器も持たず、いや、ほとんど裸同然で走り回る者もいる。
 競売所や、各地に荷物を運ぶ宅配所など、冒険者のための施設を利用しているのは、
 むしろ冒険者よりも彼らの方が圧倒的に多かった。

 冒険者の荷物や装備・武具の保管を主な仕事として、様々な面で冒険者達をサポート
 している彼らは、一般に『倉庫』と称されていた。軽蔑してそう呼ばれているのでは
 ない。彼らが居なければ冒険者達は満足に働くことが出来ないのだ。
227倉庫達の冒険@ (2/10):05/02/22 21:37:37 ID:Lm7G6NSG
 ピットはそんな『倉庫』の一人だ。
 彼はウィンダスで生まれた男性のタルタル族で、冒険者同士の両親の間で生まれた
 一人っ子であった。しかし、彼の幼いときに両親とも旅の空の下でこの世を去って
 しまったが、ピット自身も又、両親のように冒険者となることを夢見て、剣や魔法
 を学んですごした。
 しかし、誰もが国元から飛び出す年齢になったにもかかわらず、彼はウィンダスから
 一歩も出ることはなかった。それは何故か。

 ピットが耳に付けているイヤリングが小さく震えた。
 それは雇い主から連絡を受けるためのリンクパールだった(※1)
《ちょっといいかな?》
 雇い主の冒険家、狩人のモールの声がする。
 早朝でまだ寝ていたピットは、ベッドから転がるようにして飛び起きた。
《は、はい。おはようございます……》
《ああ、まだ寝てたかな?ごめんね。》
《いえ、大丈夫です。》
《えとね、まず荷物を受け取ってくれるかな。絹糸を3本ほど届いてるはずなんだけど。》
 ピットは、ポストに届いていた包みを開き、巻き取られた糸の束を取り出した。

 ※1 実際のプレイ中、リンクパールで倉庫と会話する人は、まず居ません。
228倉庫達の冒険@ (3/10):05/02/22 21:38:33 ID:Lm7G6NSG
 追って雇い主モールは確認する。
《今、保管している分と合わせて、どれくらいになったかな?》
《えーと、2ダースと少しです……あれ?このお金は?》
 ピットは一緒に入っていた現金の袋を取り出した。
 宅配所で使用されている袋で、保証書代わりの印鑑が押されている。
《あ、それで茶葉と水を買ってきて欲しいんだ。それぞれ3ダースほど。》
《了解です。》
《ついでに2ダースの絹糸を競売所に出品してね。売れ次第、貰った代金をこちらに
 送ってほしい。》
《はい。では行ってきます。》
 パタパタと部屋から飛び出して、まずはウィンダス茶葉を買うために行商人が居る
 ウィンダス水の区へと走り出した……

 ……が、突然にピットは胸元の激痛に襲われ、思わずその場にうずくまった。
「う……」
 それを知らない雇い主モールは追い打ちをかける。
《ごめんね。水と茶葉は急いで欲しいんだ。》
《は……はい》
 ピットはかろうじて返事をした。
 そして、自分の心臓を脅かさないように、ゆっくりと立ち上がって歩いていった。
229倉庫達の冒険@ (4/10):05/02/22 21:39:45 ID:Lm7G6NSG
 ピットは病弱だった。心臓が生まれつき弱かったのだ。
 小さい頃はそうでもなかった。
 しかし修行を重ねるなかで剣を振れば胸が痛み、呪文を唱えれば息切れをする。
 そんなふうに、自分が虚弱であることを自らの体が訴え始めた。
 そんな体では修行などまともに出来るわけがない。
 仲間との実力差がどんどん開いていった。
 楽しそうに汗を流し修行に励む仲間を横目に、彼は静かに本を開くことしか出来なかった。
 そして医者から最後の宣告を受けてしまったのだ。激しい運動は避けよ、と。
 冒険者になることなど夢物語となってしまった。
 一緒に修行した仲間は、既に冒険や修行の旅へと飛び出している。
 そして、初心者向けの修行の場として有名なバルクルム砂丘からの便りを最後に、
 仲間達からの連絡は途絶えてしまった。

 生きていくためには手に職を付けて、日々の糧を得なくてはならない。
 冒険者の道を選び、剣と魔法のことばかり考えていた彼は、他にはなんのとりえもない。
 どのように生きていくべきか一時期は途方に暮れてしまった。
 そこで、『倉庫』という生業を選んだのだ。
 冒険者の支援をすることで、冒険の世界に少しでも触れていられることが出来るからだ。
 しかし、彼は弱い体のことを雇い主モールには言わなかった。
 変な気遣いをして貰いたくなかったからだ。
230倉庫達の冒険@ (5/10):05/02/22 21:40:55 ID:Lm7G6NSG
 雇い主のモールは狩人で、ピットと同じ男性のタルタル族だ。
 世界中を飛び回って冒険の旅を繰り返す彼は、ウィンダスでも名高い冒険家だ。
 『倉庫』にとって雇い主の死は失業を意味する。
 だからこそ著名で頑強な冒険家に雇われるかどうかが『倉庫』の運命を左右するのだ。
 ピットは幸運に恵まれていた。

 ようやく、買い物を終えて競売所の方に向かう。
 公共の宅配所は、そこのすぐ脇に常駐している。
 ピットはそこで手続きをしていると、またしても雇い主モールの指示が飛んでくる。
《絹糸はもう出品しちゃった?》
《いえ、まだです。今、茶葉と水を宅配に出しました。お釣りも一緒です。》
《おお、ありがと。えーとね、もしかしたらサンドリアの方が高く売れるかも知れないんだ。
 ティナと相談して、高い方で売ってくれないかな?》
《判りました……え、え〜と、ティナさんおられますか?早朝からすみません。》
 
 冒険家としての経験が長いと、一人や二人の『倉庫』だけでは済まなくなる。
 山のような荷物を分けて保管したり、各国に『倉庫』を配置して、国々に応じた用事を
 命じたりすることもあるのだ。
 ティナはサンドリア在中の『倉庫』だった。
231倉庫達の冒険@ (6/10):05/02/22 21:42:12 ID:Lm7G6NSG
 リンクパールを通して、低温のクールな声が聞こえてくる。
 ティナは女性のエルヴァーン族だった。
《おはよう。》
 ピットは少し緊張しながら話し始める。
《あ、あの聞こえていたと思いますが、今の絹糸の相場は……》
《今、競売所の前。最後の履歴は一万八千ギルで在庫は8ダース。回転も早い。》
《はい、えーと……えーと……》
 あたふたしながら、競売所の窓口で絹糸の最終売買履歴を問い合わせた。
《一万六千ギルで、在庫は30を超えています。ティナさんの方で出品お願いできますか?》
《了解……あのね?》
《え、は、はい!》
《そんなに丁寧に言わなくてもいい。事務的に簡単明瞭に。回りくどい言い回しは無駄。》
《は、はい、ごめんなさい!》
 慌てて謝るピットにティナは少し優しい口調で言う。
《ほら、またそういう言い方をする。私たちは仲間よ?タメ口で結構。》
《はい、すみません……》
 そんなやり取りが延々と続きそうな雰囲気に、雇い主モールが口を挟んだ。
《ま、ティナもお手柔らかにね。それじゃ後は宜しく。》
232倉庫達の冒険@ (7/10):05/02/22 21:43:40 ID:Lm7G6NSG
 タルタル族とミスラ族の住まうウィンダス連邦にも、他種族の旅人が訪れる。
 ピットは、すらりとした長身で美形揃いのエルヴァーン族に少々憧れていた。
 特にエルヴァーンの女性にうっかり見とれてしまい、偶然に目があって恥ずかしい思い
 をするのはしょっちゅうだった。
 性欲や欲情、という露骨な気持ちとは異なる。体系の違いすぎるタルタル族ならなおさらだ。
 しかし、美しい人と接したい、愛でたい、と思う気持ちは誰にでも有りうることだ。

 そこへ、ピットをからかう声が割り込んできた。
《おはようさん。おい坊や、朝っぱらから楽しそうだな。》
《……ああ、ディバンさんですか。どうも。》
《アヒャヒャ、俺には冷てぇな、おい。まぁ、そうだろうな。野郎に挨拶されたって
 嬉しくも何ともねぇよな。》
 ディバン……彼はジュノに在中の《倉庫》仲間でヒュムの男性である。
 こんなふうに、いつもピットをからかうのだ。
《ああ、そうそう。ピット?お前さんの方は金庫の空きに少し余裕があるよな?
 今から、クリスタルを何ダースか預かっとくれよ。もう収拾がつかねぇんだ。》

 クリスタルとは……細かい説明は省くが、様々なエネルギーを秘めた「力」の結晶で
 物を加工するための燃料に使われる。一般に、それを「クリスタル合成法」と称している。
 その合成法の「職人」と呼ばれている者は、クリスタルを大量に蓄積する必要がある。
233倉庫達の冒険@ (8/10):05/02/22 21:44:39 ID:Lm7G6NSG
 ディバンは、いわば『クリスタル倉庫』というべき重責に付いていた。
 口は悪いが雇い主モールからは信頼されているらしい。
 が、ピットはこの男が余り好きではなかった。
《了解です。》
 軽く返事をしたピットを、ディバンは更にからかう。
《愛想のねぇ野郎だなぁ。事務的に簡単明瞭って奴かい?
 ティナお姉様のお言いつけに従いますって訳か、感心感心。》
 それを聞いていたティナは、うんざりした口調で言う。
《そんなに人をからかうもんじゃないわよ。》
《へぃへぃ、おい坊や。届いたクリスタルはちゃんと磨いとけよ。
 被っていた埃のせいで合成に失敗した、なんて言われちゃたまらんからな。》
 ピットは反論する。
《モールさんは、そんなこと言いませんよ。》
《あいつはそうかもしれんが、中にはいるんだよ。そういうくだらんことを言う雇い主がな。
 倉庫として生きていくにゃ、物品の扱いに粗相が有っちゃならねぇ。》

 そんな話をしている所へ、野太い声が割り込んできた。
《ちょっといいか?》
《なんでぇ?ゲート。》
234倉庫達の冒険@ (9/10):05/02/22 21:45:40 ID:Lm7G6NSG
《そういう話なら、『炎』を3ダースほど俺に回してくれ。
 鍛冶の用を依頼されることがある。だから、俺が持っていた方がいいだろう。》
《了解っと……鍛冶っつったって、お前さん、腰にひびくんじゃないのかよ?》
《問題ない。クリスタル合成なら、なおさらだ。》
 ゲートはガルカ族でバストゥーク在中の倉庫だ。
 どうやら、腰骨を痛めて冒険者のレールから降りてしまったらしい。
 名の知れた格闘家で有ったが、昔取った杵柄か、鍛冶の腕前もあるようだ。
 荷物の保管や買い物だけでなく、合成の仕事も雇い主に代わって引き受けることもある。

《よし……今、送ったからな。ああ、坊やにも送る分はあるから心配するんじゃねぇぞ。》
 そんなディバンの返事に、いちいち坊やと呼ぶな、と言いたいところだが、
《……了解です。》
 関わりたくない、とばかりに、さっきと同じ軽い返事をした。
 そこへティナの声が聞こえてきた。
《絹糸を出品したら、少し休みたいから今から発言は控えてくれない?》
 それへピットは慌てた返事をする。
《あ、はい、お休みなさい……え、えーと、すぐに絹糸、送ります。》
《アヒャヒャ、いちいちどもってんじゃねぇよ。姉さん、お疲れェ〜。》
 ディバンは何か言わないと気が済まないらしい。が、あいかわらず簡単なティナの返事。
《お休み。》
235倉庫達の冒険@ (10/10):05/02/22 21:46:45 ID:Lm7G6NSG
 休む、といっても、耳に付けたリンクパールを外す訳にはいかない。
 例え真夜中であっても、雇い主の要請に答えなくてはならないからだ。
 だがその要請は多くて1日に数回あるかないかぐらいなので、むしろ退屈と言っても
 よい仕事なのだが。

《フヮァ〜……俺も寝るかな?クリスタル磨きやら整理で大変なんだよ、こっちは。》
 大仰なアクビをしながらディバンは言った。
《お疲れさん。》
 それに対してゲートは返答をした。彼も簡単明瞭だ。
 ティナに絹糸を送る手続きをしながら、ピットも真似て簡単な返事をする。
《お疲れ様です……》

 こうして、日夜『倉庫』達の盛り上がるようで盛り上がらない会話(※2)が、展開
 されていた。



 ※2 実際のプレイ中で、倉庫キャラ同士で会話をさせる人はまず居ません。
236 ◆6NLrYYfI2g :05/02/22 21:50:14 ID:Lm7G6NSG
貼らせて頂きました。
ちょっと解説っぽい文が多くて、まどろっこしくて御免なさい。
一応、もう一つ解説を。


《ぬるぽ》 ←この括弧は、LS会話です。
「ガッ」   ←この括弧は、通常会話です。

くれぐれも、申し上げておきますが、倉庫にリンクパールを持たせて、
会話する人は居ないと思います。
 各国のコンクェスト政策……それは冒険者を支援するための政策である。
 その一環として冒険者達に無料で止まれる宿舎が提供されている。俗称「モグハウス」だ。
 なぜ、「モグハウス」と呼ばれるのか。
 その宿舎内を獣人モーグリ(通称:モグ)によって管理し、冒険者の世話を焼いている
 からだ。宅配で届けられた郵送物の受け取り、家具の模様替えを手伝い、栽培している
 植物の世話など、至れり尽くせり……

 と言うのは立て前。
 本当にそれしかしてくれない。基本的に冒険者に対しては不干渉で、モーグリと会話する
 ことなど宿舎に初めて入った時だけ、という人が少なくない。植物の世話をしてくれると
 いっても、自分自身がこまめにチェックしなければどんどん枯らしてしまう。
 正直なところは居ないも同然で、「世話を焼くのって大好きだし……」などという彼らの
 台詞は、少々信憑性にかける。

 だが、いいところは一点ある。
 冒険者の定義はあいまいで、「俺は冒険者だ」といえば誰でも宿舎が利用できるのだ。
 例え街から一歩も出なくても、「準備中だ」と言えば済む話。
 だからこそ、『倉庫』達は名目上は冒険者として「モグハウス」に住み着いていた。
238倉庫達の冒険A (2/5):05/02/22 22:07:25 ID:Lm7G6NSG
 ピットも勿論「モグハウス」を利用している。
 『倉庫』の収入はそれほど高くないため、部屋の中は家具など置いておらず、ガランとした
 状態だ。眠るための毛布や、食器に鍋など、生活用品や私物をボロ箱に入れて保管してある。
 備え付けの金庫があるのだが、雇い主モールからの預かり品以外入れるわけにはいかない。

「ん……うう……」
 毛布にくるまって寝ていたピットは、昼前になってようやく目を覚ました。
 昨晩は突然に雇い主モールに急用を頼まれて、真夜中にようやく床についたのである。
 部屋に設置されている水場で顔を洗い、朝食と昼食を兼ねてパンを一切れ、口に押し込んだ。
 病弱な体のせいか、あまり食欲がわかないらしい。
 そんな粗末な食事を終え、さて、とばかりに毛布をたたもうとする……が……
 ぽふっと、そのまま毛布に倒れ込んで一言。
「だるい……このまま夜まで寝ちゃおうかな……」
 しかし、
                ダメだ……ダメだ!ダメだ!
           そんなことでは、この体はどんどん衰えてしまう。
             堕ちるところまで堕ちてしまうぞ、ピット!
 
 かろうじて、あやういところで、ギリギリの所で、自堕落な生活に落ちてしまいそうな
 自分に歯止めをかけようとして、自分自身を叱りつけた。
239倉庫達の冒険A (3/5):05/02/22 22:08:16 ID:Lm7G6NSG
 いつでもシャキッとして居なくては『倉庫』なんて勤まらない。
 二、三日、寝ずに雇い主の指示を待ち、雇い主とともに戦う気構えでいなくてはならない。
 ……などと言えばオーバーな表現だが、昼夜問わずに雇い主のニーズに応えなければ
 ならない仕事であることは確かだ。

 ピットはさっそく外に出て、買い物がてらの散歩のために歩き出す。
 水の区へ出て向かう先は調理ギルド。
「ようピット、今日も来たな。えーとな、もってっていいクズ野菜なら沢山あるぞ……」
 ピットは一応、ギルド員として登録している。
 だが、調理に使われる「炎」のクリスタルや材料費など、なかなかお金を掛けれないのが
 現状だ。だから材料売り場ではなく、調理しているギルド員達の調理場を覗き込み、
 余り物で食べ物にありついたりしていた。
 ピットは野菜の切れっ端を袋に入れて貰いながら、ギルド員に言った。
「ありがとう。それと、子兎の肉を少し。あまり脂身のないところを。」
「済まんが、肉は売り物だから買って貰うが……しかしなぁ、もっと喰えよピット。
 お前さん、体が弱いんだろ。持たないぞ?」
「い、いえ大丈夫ですよ。これ以上食べたら戻してしまいます。」
「本当か?パンはどうだ。お前が最後にパンを買ったのは一週間も前だぞ。
 まさか、まだ残っているとか言うんじゃないだろうな?」
「い、いえ、そんな訳ないですよ。知り合いに分けて貰ったりして……」
240倉庫達の冒険A (4/5):05/02/22 22:10:09 ID:Lm7G6NSG
 むろん嘘である。まだ、半分ぐらい残っている。
「そうか?ま、せっかく来たんだ。フライパンの振り方でも練習して行けよ。」
「うん、ありがと。」
 そうしてエプロンを借りてカマドの前に向かった。しかし、長時間そうしていることは
 できない。あまり体が持たないのは自分でよく知っている。
 適当に切り上げて、ゆっくりと森の区まで歩き出す。
(もっと体が強ければ……調理人として、やっていけるのに。)
 自分の料理のセンスには自信があった。両親が在命中でも一人で料理をすることが多かったから。

 やがて、自宅に帰って料理の用意をする。
 野菜を刻んで、子兎の肉を鍋で煮込み、スープのような物を作っていた。
 そして、コトコトと鍋が煮えるのを眺めながら、小さなナイフと骨のかけらを取り出して
 カリカリと何やら細工物を作り始める。
 彼は、森の区の骨細工ギルドへも足を運び、細工職人の技にも手を付けていた。
 しかし、ピットは考えていた。
(こんなことをして何になるのだろう。主流のクリスタル合成が出来なきゃ、稼ぎにも
 なりはしない。)
 しかし、何か手に職が欲しいのだ。正直、鍛冶の腕前のあるバストゥークの『倉庫』
 ゲートがうらやましかった。多芸であるほど、雇い主は『倉庫』を手放そうなどと
 しなくなるからだ。このままでは本当に単なる『倉庫』だ。
241倉庫達の冒険A (5/5):05/02/22 22:11:03 ID:Lm7G6NSG
 やがて、スープが煮えてきた。
 自分の胃袋を優しくなだめながら、一口ずつ口に流し込む。
 味には自信があった。正直、一人で食べるのが勿体ないぐらいだ。
 しかし、子兎の肉をスプーンに乗せたとき、
「う……」
 気持ちから、肉類はなかなか受け付けなかった。
 そうして、鍋に蓋をしてしまって、
「明日にしよう……」
 食べなきゃいけない、自分では良く判っているのだが。

 しかし、この習慣だけは忘れてはならない。
 医者から貰った薬を無理矢理に飲み込んで、水で流し込む。
 もしこれを忘れたら……また、薬の量が増えてしまう。

 そして早々に毛布にくるまって寝てしまった。
 こんなふうに、ピットのいつもの一日が過ぎていくのだった
 ……何事も起きなければ、の話だが。

《あ……(ガシャン)……》
(え?)
242 ◆6NLrYYfI2g :05/02/22 22:13:35 ID:Lm7G6NSG
えと、とりあえずここまでです。
忙しくなりそうなので、続きがいつになるか判りませんが、
読んで頂けたら幸いです。

といって、正直、面白くなりそうかどうか、自信がありませんが……
243ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/23 02:21:58 ID:vYpC34/z
>>242
倉庫の話っていう着眼点がいいね
ただ、話にもっと波というか、大きな出来事や印象的なものを書くともっといいんじゃまいかとオモタyp
派手な戦闘とかそういったストーリー展開とかそういうのだけでなく、
読み手を惹きつけるような感情の起伏とかそういったもんも含めてね

・・・漏れなんかが他人の批評なんぞおこがましいと、本気で思っている俺ガイル
それでももっと良くなってほしいからあえて書いてみた
244 ◆6NLrYYfI2g :05/02/23 07:40:07 ID:DafZ6W2m
すみません携帯動作確認です
245 ◆6NLrYYfI2g :05/02/23 07:52:09 ID:DafZ6W2m
>>243
(つдT)ありがとです
先の展開頑張ります

とはいえ、人を惹き付けるってのは本当に難しいです
自分では夢中で作っても、他の人に受け入れられるか分からない
ここに張り付けてしまえば、組んだ文章、アイデア、誤字脱字まで作り直しが効かないし……

とにかく、続きは少し先になりますが頑張ります
246ダンテ ◆C64fFvK9Ac :05/02/23 08:15:50 ID:Ub1DBDlI
>243
ブリッジト…
まじ、良い話しだな…
247 ◆yANtvXYFvY :05/02/23 08:56:51 ID:+qCfIWXX
>>223
ありがとうございます。参考にしますね。とは言っても、私はそういうセンスがあまりなかったりしますがorz
巧い人のは本当に格好良いんですけどね。
>>225
おお!ありがとうございます。なんかもやもやしてスッキリしなかったので助かりましたw
248既にその名前は使われています:05/02/23 09:45:38 ID:AdVvnmzJ
ヤヴェーーー!
ブリジットすげぇよ!!!カコイイ!(*´д⊂)
249既にその名前は使われています:05/02/23 13:47:02 ID:5LI07YPx
FF11オンリーに参加する人はおりますかの?
250119 ◆N4hISqu3ag :05/02/23 15:49:35 ID:wDRBnvAe
251119 ◆N4hISqu3ag :05/02/23 15:51:11 ID:wDRBnvAe
 Boboは店員にマトンのローストを注文した。まだ食べたりないようだ。
「レイズIIって本当に死んだ人を生き返らせることができるのかな」
「できない、といいきれないから経典を取ってこいと言っているんだろうねぇ。
最近になって彼らは高位の魔法をいくつか編み出している。魔法学者、
特にバストゥークの学者は、そのひらめきのおこぼれを頂いている状態なんだなぁ」
「なんでそんなに強力な魔法を作れるのかな。邪教なのにさ」
 Boboは大仰に驚いてみせ、そしてにやりとしながら言った。
「邪教。邪教ねぇ。きみはなぜ邪教と思うのかい?」
「なぜって、ヤグードって闇の住人でしょう。邪悪なヤツらでしょ」
「邪教ではないと思うなぁ。事実彼らは彼らなりの信仰心と正義によって
生活しているんだ。ただわたしたちには理解しにくい正義なんだよ」
252119 ◆N4hISqu3ag :05/02/23 15:52:10 ID:wDRBnvAe
「ヤツらは人の頭蓋骨で杖を作り、人の髪で楽器の弦を張り、人の血で喉を
潤してるんだよ」
「わたしたちは彼らの信仰の象徴である数珠で布を編み、彼らの風切羽で
作った矢でもって彼らを射るんだよ」
 私は首を横にふった。
「よくわかんないよ」
 騒がしくなってきた。近くのテーブルでグループ同士の喧嘩が始まったらしい。
怒号が店内に響きわたる。
「この世に善も悪もないんだよ。そういうのは一面的なものなんだ」
「アルタナの女神は?母なる存在。善そのものじゃない」
「この世に女神はいない」
 隣に座っていた気弱そうな巨人二人が席を立った。いざこざにまきこまれ
たくないらしい。一方のグループが刃物を出した。それを見た店員の一人が
慌てて店を出る。銃士隊を呼びにいったようだ。
「女神はいない」
253119 ◆N4hISqu3ag :05/02/23 15:53:51 ID:wDRBnvAe
 Boboはいまにも泣き出しそうな顔をして私をじっと見つめながら言った。
「サンドリアの教会に一緒に言ったでしょう。女神像の前であんたが言った
言葉は嘘だったのかな」
「『すべての人よ、女神の愛をたたえまつれ』。たしかに言ったよ。しかし
わたしと女神像の間に神父がいただろう。わたしは女神像にではなく彼に
言ったんだよ。」
「サンドリアの教会も否定するの?」
 店の中へ大声をあげながら銃士隊が入ってくる。銃士隊は刃物を
ちらつかせていた男を何人か連行し、マスターに話を聞いている。
店員は笑顔で注文を受けはじめ、他の客たちはグラスに酒を注いで
何事もなかったように乾杯している。Boboはテーブルに置かれた
マトンのローストを食べている。
254119 ◆N4hISqu3ag :05/02/23 15:54:50 ID:wDRBnvAe
「サンドリアの教会に」
 Boboは眼をつむる。
「サンドリアに女神はいないだろうねぇ。宗教はあるよ、でも形だけだよ。
政教一致によって政治を動かしている。これ自体は悪いことじゃないんだよ」
 私はBoboをじっと見つめた。Boboは首を横にふった。
「サンドリアの教義はとても禁欲的なものなんだ。多くの欲望を捨て、その身を神に
捧げる。そしてすべては予定されている、と説いている。女神は楽園の扉を開く人を
すでに選んでいるんだ。だれが楽園の扉を開くことができるかは女神のみぞ知る。
しかも人がその選択を変えることは絶対に不可能なんだ。これによって人々は
楽園の扉への道をいっさい絶たれることになる。ありがたい教えも助けえない、
教会も助けえない、女神さえも助けえない。『人のために女神があるのではなく、
女神のために人が存在する』んだよ。悲壮だねぇ」
255119 ◆N4hISqu3ag :05/02/23 15:56:32 ID:wDRBnvAe
 Boboは話を続ける。
「こんな教えなのになんで広まったんだろう。人びとを絶対的な孤独と不安へ
陥らせるのに。実際サンドリアは栄えている。それはね、これもこの教えを守って
いたからなんだよ。サンドリアンの最大の問題はこの自分が女神に選ばれているか
否か、というものなんだ。サンドリアンに残された道は一つ。『誰しもが自分は
選ばれているのだと考える』。確信をもつことなんだ。その確信を持つために、
禁欲的に日常の生活をコントロールしたんだ。これはかつては教会内でしか
やっていなかったんだけど、世俗内でも行われるようになった。楽園の扉を
めざしてね。禁欲的な、つまり正直な商売人達は利益の少ない質のよい商品を
売ろうとする。結果売れる。そして『結果的に』儲かる。その富は禁欲的な生活の
結果なのだから神の恩恵として認められた。でも当の商人達はその富を嫌悪する。
結果教会に捧げることになる。サンドリアンたちは儲けたい、という考え方から
たっていないんだ。そしてなによりとても重要なのは、サンドリア国王から
市井の人々まで富より名誉を重んじることなんだ。サンドリアンは人より神に
気に入られたいんだよ。教義的には名誉欲も罪の一つなんだけれど、
女神への信仰心というオブラートで包まれれば問題ないんだ。サンドリアンに
とってはね」
256119 ◆N4hISqu3ag :05/02/23 15:57:46 ID:wDRBnvAe
「楽園の扉も存在しないと言いたいの?」
 Boboは深く息を吐き答えた。
「あるかもしれないし、ないかもしれない。わたしにはよくわからない」
「私にはわかる。女神は存在する。私は感じることができる」
 嘘だ。私は嘘を言った。そんなものなど感じたこともない。そしてBoboは
知っている。だから悲しいまなざしを私にむけるのだ。悲しい巨人は席を立ち、
カウンターに腰掛け、グラスを拭いているマスターに話しかけた。
マスターはうなずき、酒をグラスに注ぎ巨人の前に置いた。Boboは
懐からハープを取り出し、弾きはじめた。空気が変わる。何も聞こえなくなる。
さきほどの喧騒が嘘のようだ。
 Boboは歌いはじめた。
 深い悲しみを込めたエレジーを。
 そして私は目をつむった。
257既にその名前は使われています:05/02/23 21:17:50 ID:diLsDwHV
                  ∩
                  ( ⌒)      ∩_ _ グッジョブ!!
                 /,. ノ      i .,,E)
             / /"      / /"
  _n  グッジョブ!!   / / _、_   ,/ ノ'
 ( l     _、 _   / / ,_ノ` )/ / _、_    グッジョブ!!
  \ \ ( <_,` )(       / ( ,_ノ` )     n
   ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ      |  ̄     \    ( E)
     /    /   \    ヽ フ    / ヽ ヽ_//

ブリおもろかったぞ。
258既にその名前は使われています:05/02/24 09:00:29 ID:V1ahwOki
>>ブリたん
おもしろかったw

>>119
上手く言えないけど、綺麗な文章ですね。
それに、深い。
続き楽しみにしてますよ。
259119 ◆N4hISqu3ag :05/02/25 00:35:38 ID:KIn9Csie
>>258
ありがとうございます。励みになります
260名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/25 19:47:32 ID:VVCBqaLf
おー色々きてるー(・∀・)イイヨイイヨー
まとめサイツ色々追加age

*◆6NLrYYfI2g氏さん、短編4のとこ始まりと終わりあんな感じでいいのかな?
  ちょっとわかりにくかったもので。
261既にその名前は使われています:05/02/25 20:39:45 ID:N7Hb6leQ
あげage
262 ◆6NLrYYfI2g :05/02/26 10:28:49 ID:M7LE45qT
すんません携帯からです
というわけで、まだ拝見できてないです(-д-;)
しばらく待っておくんなさい
263既にその名前は使われています:05/02/26 11:07:40 ID:ykV8VeIQ
>>260
更新お疲れ様です。頑張ってくだされ。
264既にその名前は使われています:05/02/26 11:10:54 ID:ykV8VeIQ
>>260
見にいったらキリ番888ゲッツwwww
うはwwwおkwwww
265名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/26 20:29:33 ID:XMYJqzzg
>>262
了解('◇')ゞ

>>263
どもです(・∀・)人(・∀・)

>>264
1000は絶対にゲットするぜー
266 ◆6NLrYYfI2g :05/02/26 22:02:21 ID:hJXpNejp
>>265
改めて、管理人さん乙です。

つДT)大量に貼っちゃった私の作品をキッチリまとめてくれて、すんごく嬉しいです。
「短編4」は非常に判りにくい作品になっちゃってて済みません。
今の状態でOKです。
267ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/26 22:54:01 ID:mZDgXthz
漏れのがまとめサイトに追加されない不具合
漏れも真面目に一生懸命書いたんだけどなー
268既にその名前は使われています:05/02/27 03:00:23 ID:I+8+/CVb
>>267
まあまあ。管理人さんも一生懸命更新してるんだよ。
つか、一生懸命書いたとか言うな。

読んでわかったよ
269既にその名前は使われています:05/02/27 09:28:23 ID:YqjUzuz2
>>267
現在、前スレを徐々に整理してますって状況みたいですよって、
ブリジット兄さん、ちょいと待ったりんしゃいage
270名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/27 09:48:47 ID:3mTn/21m
>>266
お、よかった。読解力が足りなくて申し訳ない

>>267
まだ4スレ目の作品がいっぱい残ってて(・ω・`)ゴメンヨ

でも現行スレの作品ってまとめちゃったらスレの意味がなくないかなぁなんて言ってみる
271名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/27 12:02:42 ID:3mTn/21m
更新。4スレ目のは大体追加完了ですyp
272既にその名前は使われています:05/02/27 12:57:07 ID:YqjUzuz2
>>271
ヽ(´ー`)ノ管理人さん乙です。

ただ、短編についても作者別にした方がいいかもしれないね。
誰それの作品なら、これも読んでみるかって気になるし、
なにより書いてる人のプライドを守れるし。
273ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/27 13:04:59 ID:WJwBRhFe
なるほど
正直すまんかった
274名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/02/27 17:53:10 ID:3mTn/21m
>>271
うーん。短編は作者不明のが多いからごちゃごちゃしそうなんだよなぁ。
作品名をクリックしてパッと読める!ってほうがいいかと思って。
なんか考えなきゃなぁ

>>273
いえん(・∀・)
275ブリジット ◆6acWblMBhM :05/02/28 01:38:30 ID:Jcvnacyw
お詫びにもう一作、駄作を書こうかと思う
先は長いが・・・
276既にその名前は使われています:05/02/28 20:05:53 ID:UQV8Hul0
age
277既にその名前は使われています:05/02/28 21:03:48 ID:UQV8Hul0
こっちとしたらば、どっちの小説スレが人口多い?
どうせ晒すなら、より多いほうがいいんだが
278話ずき:05/02/28 21:28:44 ID:hEEjL49B
こっちの方が多と思います。作品楽しみにしてます
279名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/01 10:42:55 ID:fu8ANQBO
>>275
楽しみにしてます(*´д`*)

>>277
どうだろうなぁ・・・どっちも同じくらいかもしれない(´д`)
280既にその名前は使われています:05/03/01 12:32:15 ID:7wFC/Rfr
ここって未公開の作品じゃないとうpしちゃ駄目なのかな?(・ω・)
BLOGに書いてるショートショートとか

フォーマットとかあったら教えて欲しいよママン
281119 ◆N4hISqu3ag :05/03/01 17:14:27 ID:6RpVDTTp
282119 ◆N4hISqu3ag :05/03/01 17:15:12 ID:6RpVDTTp
私は目をつむった。

 私は

 Suiroは

 Suiroは目をひらいた。
 空を見上げる。雲ひとつない青空。やさしい風が頬をなでる。
 ラテーヌ高原。
283119 ◆N4hISqu3ag :05/03/01 17:16:36 ID:6RpVDTTp
 Suiroは周りを見渡した。緩やかな勾配になっている。膝下くらいまでの青々と
した草が茂っていて、それはまるで青い絨毯のようだった。Suiroは空気を
胸いっぱいに吸い、吐いた。背負っていた木製の無骨な、飾り気のない長弓を
左手に持ち、カバンからクァールの髭で編んだ弦をとりだした。弓の受板に
弦をあて、左手を弓の握りのあたりに向けて張り、右手で弓の下先を上に引き上げ、
そのあたりを腿の上部にかけ、右手で弦を取りにかける。びいんびいん、と
何回か鳴らせ、弓と弦を馴染ませる。弓を左手にもち、右手で腰につけている
矢筒から木の矢をとりだす。そしてSuiroは西の方向へ歩き出した。
 足を止める。Suiroは草を食むうさぎを見た。Suiroは別段集中することもなく、
弓をしならせ、矢を放った。ひゅうと鳴いた矢はうさぎの胸に突き刺さった。
悲鳴をあげたうさぎはしかし、逃げずにSuiroに向かっていく。Suiroは懐から
ダガーを取り出し、大きく飛び上がりSuiroの左腕を噛み千切ろうと口をあけて
襲いかかってきたうさぎの首を、上体を横にずらしながら切った。
284119 ◆N4hISqu3ag :05/03/01 17:18:09 ID:6RpVDTTp
うさぎは絶命し首先から血をどくどく吐きながら痙攣する。Suiroは血を浴びない
ように気をつけながらうさぎの足を持ち頚動脈を切って、そして頭を下にして
血が全部流れ落ちるまでじっと待った。血を一滴も落とさなくなったうさぎを
麻の袋にいれ、ダガーに付いた血を拭い懐におさめ、弦を張ったままの弓を
肩から斜にかける。
 ふと気づく。もう少し西に何かの気配がする。東に向いていた身体を
西の方向へむけ、Suiroは歩き出した。そして白いチュニックを着て、
青い絨毯の上に目を閉じて寝そべっている長身の男を認めた。
285119 ◆N4hISqu3ag :05/03/01 17:18:35 ID:6RpVDTTp
「Rosel」
とSuiroは男の名を呼んだ。
「ごきげんよう、麗しい侍様。血のにおいを漂わせてどこにいくんだい?」
とRoselは目を閉じたまま言った。
「夕食に使う食材を獲ってきたの。ていうかあんたを探していたんだよ。
早く起きなさい。みんな待ってるんだから」
とSuiroは言った。
「キャンプ地は決まったの?」
「ここから少し西にいくと小さな湖があるの。そこのほとり」
「しかしまだ陽が高いよ。夕食にはまだ早いんじゃないかな」
 Suiroはこのマイペースなサンドリアンを見て深く息を吐いた。
「ミーティング」
286既にその名前は使われています:05/03/02 09:47:03 ID:Vbo/iIyD
続き期待してまっせ。

でも思ったんだが、語り口が独特だから、人を選ぶ作品なのかもなぁ。
287既にその名前は使われています:05/03/02 09:47:46 ID:Vbo/iIyD
sageてた。
288指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:45:42 ID:W0ag7kkr
1.

「フェリシテア、お前の命は誰のものだ?」

その日、幾百の星々は、血のように赤く濁った月光の鈍い光輝に恐れをなし、舞台の袖へと逃れていた。
良くないことが起こる。
彼女──フェリシテアはすでに、そのように覚悟を決めていたため、彼女の主に深夜呼び出され、
このような問いかけをされようとも、これといって不思議には思わなかった。
ただ己の直感に明確な回答が得られたことに対しての安堵が、彼女の小さな身体をささやかな達成感と共に満たしていた。
思えば、この先彼女の主が口にする言葉の重きを恐れ、つかの間、現実逃避をしていたとも言えなくも無い。

「フェル。」

主が彼女を愛称で再び呼ぶ。
白磁のように滑らかな肌は赤光を吸い、あの月と同じ、いや、それ以上の輝きを放っているように思われた。
色素の抜けた銀色の髪が夜風になびき、金色の双眸には寝室の豪奢な調度品とフェリシテアが映りこんでいる。
絶世の、と形容しても差し支えない美貌。
美丈夫の多いエルヴァーンの中であっても、これほど美しい青年はいまい。
主は彼女にとって、アルテナ神が行なった唯一意味のある奇跡だった。
289指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:47:03 ID:W0ag7kkr

「あたしの命は・・・いえ、命に限らず。全て貴方さまのものです、ヴァレリー・ユベール子爵・・・」

ため息にも似た声。いずれにしろ届かぬ身分の差。
「そうだ、おまえの命は、私の・・・そして我がユベール家のもの。」
臆面も無く彼は言う。そして彼女はそれを何の違和感も無く受け入れる。
絶対的な主従関係。
クリスタル戦役時、凋落激しいとはいえ、いまだ頑なに封建社会を崩さぬサンドリアにとって、当時これはさほど珍しいことではなかった。
ユベールはそんな当たり前のことを確認すると、懐から黒い筒のようなものを取り出し、フェルに手渡す。

そのとき直感した。

これは忠誠心を試される非常に難しい試練の始まり。
死をすら覚悟せねば、やり遂げられぬ任務なのだと。
290指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:50:46 ID:W0ag7kkr
2.

「クリスタル戦役・・・この大戦争は今、大きな岐路を迎えている・・・。」

耳に心地よいユベールの声が、フェルの心の奥底に芽生えた恐怖を駆逐してゆく。
「知っています。三国はジュノ大公国のもと同盟を組み、過去無いほどの戦果を獣人軍相手に上げていると聞きます。」
頑強な獣人の軍隊は、人のそれを遥かに上回る。
三国──いわゆる、サンドリア王国、バストゥーク共和国、ウィンダス連邦──は、当初それを各国独自の裁量で迎撃していた。
才能ある魔術師は数多くいるが、前線に出て戦える前衛職の少ないウィンダス、
騎兵を主力とするものの、古き因習と格式に捕らわれ柔軟さに欠けるサンドリア、
火薬兵器など近代戦術に長けてはいるが、領土に有用な穀倉地帯を持たぬバストゥーク。
三国は獣人との交戦を繰り返すたび、自国の脆弱な部分、そしてそれが獣人に付け入る隙を与えていることに、否応無く気付かされた。
地理的に三カ国のほぼ中心に位置する、ジュノ大公国の呼びかけで同盟を結んだのも、その困難な状況を打破するためだ。
同盟を締結してからは各国が連携して、獣人たちと抗戦を続けているはずである。
先日などは、ウィンダスの魔道兵団をサンドリアの騎士団が援護し、みごと獣人軍を遁走に追いやった話題で、町は持ちきりであった。
全てうまくいっている。その筈である。
291指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:51:42 ID:W0ag7kkr
「ふふふ・・・」
だが、ユベールは薄く笑う「それはプロパガンダだ。」

士気を高めるため、戦果を大げさに吹聴して回っているというのである。
特に自尊心の塊のようなエルヴァーンを主要構成民族とする、ここサンドリアで飛び交う風聞など、チョコボも羞じて口にせぬ誇張のしようだろう。
「たしかに今は同盟はうまく機能している。だが、獣人たちを完全に排斥するには至らない」
せいぜいが拮抗状態を保ったまま、前線が進退を繰り返すだけであろう。
だが、そうなることは、物量において劣る人間側にとって不利な状況である。
やがては押し切られ、全土を蹂躙し尽くされる結果となる。
「すでにそのことに各国首脳も気付いている。とくに算段高い、あのジュノの連中・・・」
「ですから、その状況を打開するために、タブナジアで極秘裏に三国首脳会談が執り行われるのでありましょう?」
これも町の噂だ。
獣人たちの盟主の住む極寒の北の地。
そこに程近い位置にあるタブナジア候国で、各国の首脳が今後の戦略を協議し大号令を発するのだという。
実際、各国の軍部はすでにタブナジアへと終結しつつあり、来るべき決戦に備えているらしいのだ。

「───問題は、そこだ。」
292指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:53:23 ID:W0ag7kkr
ユベールの宝石のような輝きを放つ瞳が、すっと細められる。奥で怜悧な炎がチロチロと揺れているようにも見えた。
「お前のような、端た女ですら知っている極秘会談だと?」
笑わせる。
ユベールは吐き捨てるように言うと、やや大げさに顔を歪め呆れて見せる。
続けざまに小さく嘲笑。
ユベール子爵は珍しく感情的になっているようである。
あまり褒められるような情動とは言い難いが、それでも少女の胸を高鳴らせるには十分であった。

「ひょっとして・・・どこからか情報が漏れているのですか?」
はたと悟り、フェルは呟く。
「もしくは何者かが他意あって、わざと情報を流している・・・。」
ユベールが、フェルの呟きを補足する。彼の表情に曇りは無い。
何らかの確信に満ちた双眸。
そしてそればかりでなく、その確信した真実に対しての明らかな苛立ち。
293指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:54:58 ID:W0ag7kkr
「ともかく、今は細かく説明している暇が無い。お前を急ぎ呼び寄せたのは、他でもない。その──」
ユベールは先程フェリシテアに渡した黒い筒を指差し言った。「その手紙をタブナジア候アルテドール侯爵にお渡しする、その重大な任務を与えるためだ。」
言われて、フェリシテアは手足の先端が痺れるような思いにかられた。
折りしもダボイ村が獣人最大勢力のオークの手に落ち、ロンフォール地方はもとより、ザルクヘイム地方も獣人軍でひしめき合っていると聞く。
剛力無双の剣の達人であるならまだしも、フェリシテアはちょっと身軽で素養程度に魔術を学んだ、ただの使用人に他ならない。
いや、ただの使用人であるなら、まだいい。
フェリシテアは、この時代、このサンドリアにあって───。
294指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:56:19 ID:W0ag7kkr
「フェル。お前の働きに期待している。」

嘘だ。
この手の密書は、たいてい複数人の使者によって運ばれる。
戦乱の世にあっては、あらゆる事故を想定しなくてはならない。
その上で、相手に確実に文書を届けたいのならば、使者が一人で事足りるわけが無い。
それにこの筒。
本来親書であるなら、ユベール子爵家の家紋を蜜蝋に焼き入れ、封をするのだが、これは無名で質素そのもの。
途中奪われても、依頼主の身元が分らないように施された配慮。
おそらく筒自体にも、正しい手順で開封しなければ、中の手紙が処分されるような魔術がかかっているだろう。
これは、失敗することを前提としてお膳立てされた保険策。
本命はフェリシテア以外の誰かが、すでに運んでいるとみて間違いない。
295指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:57:06 ID:W0ag7kkr

フェリシテアに・・・彼女一人に、このような大任が与えられるはずが無いのだ。

なぜなら───

彼女はミスラだから。

この時代、サンドリアでは珍しいミスラの少女。
同じ使用人であろうとも、エルヴァーンとは決して同列に扱われることの無い、差別階級の出なのだから。
296指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 14:59:45 ID:W0ag7kkr
3.

さばさばとした赤毛を後ろに束ねているため、あらわになった細いうなじが、フェリシテアという少女の存在の儚さを謳う。
しなやかに伸びた手足に無駄な肉は一切ついていない。
発育はやや遅れてはいるものの、均整の取れた肢体は女性特有の丸みを帯び、
褐色の肌とそれほど高くはない身長とが、僅かではあるものの健康的な色香を纏わせる一助になっていた。
大きくクリクリとした瞳は暗い緑の虹彩に彩られ、見る者の心を奪う不思議な魅力がある。
体毛に覆われた耳と臀部から生えた尻尾が、彼女がミスラであるという事実を確かに物語っていた。
297指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:00:29 ID:W0ag7kkr

彼女の記憶の中に、両親との思い出などというものは欠片ほども見出せない。
ウサギ狩りにやってきていたサンドリアの貴族ユベール子爵家に、面白半分で拾われるまで、彼女は獣同様の生活をしていた。
拾われて、フェリシテアというサンドリア調の名前をつけてもらうまで、彼女には名前すら無かった。
行きずりのミスラの冒険者が、旅の途中で産み、育てるに困り野に捨てたとも、
サンドリアの大貴族の御曹司が戯れに孕ました私生児とも、彼女の出生については根も葉もない噂ばかりが付きまとった。
周囲の好奇の目をよそに、使用人として必要最低限の教育を受けさせてもらい、
物珍しさも手伝ってか、彼女はユベール子爵家の人々の十分な庇護のもと成長した。
出生が不明のため、自分の正確な年齢もわからぬが、およそ17、8年という短い人生の、ほとんど全てといっていい時を過ごしたこの屋敷。
その主たるユベール子爵は、彼女にとって絶対的な、それこそ神にも等しい存在であった。
その勅命に叛くような返答を彼女は持ち合わせていない。
298指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:01:57 ID:W0ag7kkr

例えそれが死と隣り合わせの危険なものであったとしても。

(あたしが死んだら・・・ヴァレリーさまは涙の一つも、お流しになってくださるのだろうか?)
ユベール家の当主ヴァレリー・ユベールの勅命を受け、死への覚悟を決めると共に、ぼんやりとそんな事を思う。
フェリシテアがユベール家に来たときには、まだ彼も少年といってよい年頃であり、遊び相手や話し相手を勤めさせられた。
無論、対等というわけにはいかなかったが、それでも二人の間に確かな信頼を築くには十分なものであった。
少なくとも、フェリシテアはそう思っている。
299指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:03:13 ID:W0ag7kkr
4.

「猶予はない。夜明けを待たず出ろ。」
そう低い声で言うと、ユベールは自らが小指にしていた指輪をはずし、フェルの親指に嵌めた。
「これは、必ずお前の助けになる。ウルガランの千年水晶から切り出した指輪に、6人の魔道士が6年の歳月をかけ魔力を蓄えたものだ。
 三回だけ、お前の魔力を増幅してくれる・・・基本的な魔法は使えるな?呪文を紡ぐ前に、この指輪に接吻するだけでいい。」
「あ、ありがとう御座います・・・」
フェルはユベールに直接指輪を手渡され、あらぬ妄想を掻きたて一人赤面した。
しかし、そんな少女の妄想も主人であるエルヴァーンの次の言葉で打ち崩される。

「これは、タブナジア候国の存亡がかかっている。急ぐのだぞ。」
300指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:04:23 ID:W0ag7kkr
先ほどからユベール子爵が苛立っている理由がようやく分った。
この聡明なる主人が感情を顕わにするときには、決まって一人の女性が係わっているのだ。

「ローテ王妃を悲しませないためにも・・・ですか?」

「臣民として当然だろう。」
それはきっと、嘘ではない。
しかし、彼がそれ以上の感情を王妃に対して抱いていることを少女は知っていた。
現サンドリア国王デスティン・ドラギーユは、同盟国であるタブナジア候国の元首アルテドール侯の娘ローテを数年前に娶った。
ユベールの美貌が凛とした宝石のような美しさだとすると、ローテ王妃のそれは、さしずめ春の花のようなたおやかさであった。
フェリシテアは遠目でしか王妃の尊顔を拝謁したことがなかったが、美しさだけでなく知性にも優れ、
エルヴァーンであるにも係わらず出身の貴賤を問わず、万民に分け隔てなく接する優しさも兼ね備えた女性であるという。
ユベール子爵に限らず、世の男性が憧れを抱かぬはずは無いのだ。
301指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:05:06 ID:W0ag7kkr
「ローテ」という名がヴァレリー・ユベールの口吻を踊るたび、少女の心は暗い闇に染まる。
嫉妬ではない。
初めからミスラの使用人と、サンドリア王室の、それも王妃とでは勝負にすらならない。
己のかなわぬ思いに歯噛みし嗚咽する。
ただ、それだけである。

「きっと、やり遂げてみせます。」

穏やかでない心中の闇を振り払うかのように毅然として言う。
例え、死ぬことを想定され送られる使者の役目であろうと。

「ローテ王妃を悲しませないために・・・」

しいては貴方が傷つかぬよう。

それが彼女にとっての精一杯。
302指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:10:56 ID:W0ag7kkr

5.

フェリシテアは自室に戻ると、すぐに旅支度を始めた。
支度といっても、それほど大仰なものではない。

護身用の短剣を腰に挿し、夜の闇に紛れる深い色の外套を羽織る。
親書の入った黒い筒は落とさぬよう胸元に忍ばせた。
与えられた路銀を三つに分け、紛失や盗難に備え別々にしまう。
必要なものがあれば持って行っても良いと主人に言われていたので、彼女は武器庫から造りの堅牢な弓を一つ持ち出した。
弦の張り確かめると20本ほどの矢の入った矢筒と共に荷に加える。
ユベール家の狩りに幾度か随行した際に、彼女はヴァレリーから弓術の手ほどきを受けたことがあった。
習ったのは基本だけであったが、ミスラの血の成せる技なのか驚くほどの上達をみせ、
今では教えた当人であるはずのヴァレリー・ユベールが教えを乞うほどの腕前である。
おそらく、初歩的なものしか知らぬ魔法などよりは、よほど実戦で役に立つだろう。
加えて、僅かばかりの食料と水。
303指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:11:59 ID:W0ag7kkr

準備が終わるのに30分を要さなかった。

チョコボ厩舎に忍び訪れ、健康で足の早そうなチョコボを三匹見繕う。
早駆けなので、三匹のチョコボを潰しながら強行軍するつもりだった。
深夜の突然の訪問者にチョコボたちは色めき立ち、奇声を上げるものもあったが、どうにかそれをなだめ少女はチョコボに鞍を乗せる。
ひょいと身軽に飛び乗ると、チョコボの頬を撫でた。
ふさふさとした羽毛が心地よかった。


少女がユベール邸を出てほどなく、屋敷の周囲がにわかに騒がしくなる。
「来たか・・・思ったよりも早いな・・・」
ヴァレリー・ユベールはサンドリア様式の窓から、騒動の起こっている庭を見下ろしていた。
304指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:16:20 ID:W0ag7kkr
6.

ユベールが正面ホールの中二階に下りてきたときには、すでに騒動の中心は邸内に移っていた。
見れば、黒い甲冑を着込んだ十数人の騎士たちが、使用人相手に押し問答を繰り広げているところだった。

「ジェローム、こんな深夜に何用だ。ここがユベール子爵家の邸宅と知っての狼藉か?」
「無論!」ユベールに名を呼ばれた騎士は、使用人と他の騎士にもみくちゃにされながらも力強く応える。
この混乱を治めるためユベールは、使用人たちを下げさせた。
「お気をつけください、あの騎士たちは・・・」
「分っている、覚悟はできているさ。」
退きぎわ、ユベールにのみ聞こえるほどの小声で囁かれた執事の忠告に、事も無げに答える。

ゆっくりと階段を降り、先程名を呼んだ騎士の元まで歩み寄った。
背の高く、がっちりした体格の男だ。眉間に皺をよせ、常に険しい表情をしている。
「久しぶりに来たんだ、お茶でも用意させよう。」
言うと、ユベールは侍女に合図を送ろうとするが、騎士ジェロームは丁重にそれを断った。
「ヴァレリー・ユベール卿、お前に国家反逆罪の嫌疑がかかっている。身柄を拘束させてもらおう。」
騎士の宣言に、使用人たちの間に動揺がはしる。
悲鳴のような声や怒号も混じった。
305指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:16:57 ID:W0ag7kkr

再び混乱の様相を呈してきたユーベル邸を鎮めたのは、今度は主ヴァレリーの制止の声ではなかった。
騎士ジェロームの後ろにいた黒衣の外套を纏った騎士が、身の丈もあろうかという大剣を床に叩きつけた、その轟音。
それで武器を一切持たぬ──モップやフライパンは武器とは言わない──使用人たちは、喉の奥に怒りの言葉を押し戻さねばならなくなった。
貴族の邸内でよもやその大剣を振るうとはおもわれなったが、その黒外套の男の異様な雰囲気、そして殺気に使用人たちは完全に飲まれてしまっていた。
「身柄拘束・・・それはそれは。」
「とぼけるな、ヴァレリー。俺だって学友であったお前に刃を向けるようなことはしたくない。」
この闖入者はヴァレリー・ユベールの学生時代の親友であった。
もとは下級貴族の出であったのだが、いまやその家柄は御取潰しの憂き目にあい、ジェロームは一介の騎士に過ぎぬ。
学生の頃から生真面目、法の遵守に対しても厳格な男で、そのころから剣の腕前もかなりのものだった。
下級であろうとも貴族という肩書きが失われていなければ、もっと出世していても不思議ではない傑物である。
「さて、私も君といさかう真似などしたくは無いのだが、論拠もままならぬ暴挙におとなしく従うわけにもゆかぬ。」
「論拠?我らが論拠も無く動いていると思うのか?」
言うと、ジェロームは何かの書類を取り出す
306指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:17:32 ID:W0ag7kkr
「これより申請書類とこの屋敷で働く使用人の照合を行なう。・・・心配するな。在宅の者やユベール家とかかわりの深い場所にも同様の手入れが行なわれる。」
「・・・」
「これは、我々がこれから追跡するべき人物の人数と容姿を把握するためだ。ご協力願おうか?」

「さしずめ叔父上の差し金か・・・」

冷淡に状況を分析し、ヴァレリーはそう舌打ちをする。
彼がタブナジアに起こる悲劇を知ってから、それを未然に防ぐため行なうであろう行動を逐次神殿騎士団に通報したものが居る。
でなければ、ジェロームがこのような行動を取るとは考えられぬ。
とすれば内通者の心当たりは、ならず者の叔父しか思い当たらなかった。
他人には厳しく、自分には甘い叔父は、事業に失敗しその穴埋めにユベール家の財産を勝手に持ち出そうとした。
温情により罰しはしなかったものの、それから何かとヴァレリーを目の敵にしているのである。
警戒はし、叔父にこちらの行動が悟られないようにしていたつもりではあったのだが、ユベール家の使用人を主人の親族として恫喝すれば、
情報を得ることは、それほど難しいことではないだろう。

「情報源は明かせん。」とジェローム。
しかし、生真面目な彼の表情が、ユベールの推測を肯定していた。
307指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:18:49 ID:W0ag7kkr
7.

「どうするつもりだ、ヴァレリー。」これは友人として、と宣告しながらもジェロームの表情は険しい。
「お前が腹に据えかねるのも分る。だが、犠牲が無ければ大事が成せぬ事もあるのだ、ここのように立派な屋敷に住んでいては分らぬだろうが・・・。」
「君が神殿騎士となって学んだのは、そんな退屈な現実か?
 犠牲だと?治安を守る神殿騎士は他国が・・・タブナジア侯国が盛大な囮として使われることに何の疑問も持たないのか?
 各国首脳とその主戦力がタブナジアに集まるなどという偽の情報を流し、獣人勢力のタブナジアへの集中を促す。
 そのスキに北に住む闇の盟主を暗殺しようなどと・・・。」
激情するユベールに対し、騎士ジェロームは冷静だった。
今の話が周囲に漏れてないか、あたりを確認する。
幸い、黒外套を羽織った5人の側近以外の騎士は、使用人の照合のため出払っていた。
「声が高いぞ、ユベール卿。」
ジェロームの表情は暗い。
308指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:19:47 ID:W0ag7kkr
「獣人は、人間同様もともと互いに争う存在だった。それが北の地に住む盟主に寄って束ねられている。奴は相当優秀な指揮官だ。
 先日のバタリア会戦でのオークとクゥダフの連携した戦術を見れば分る。討たねば・・・我々がやられるのだぞ?」
「だからと言って・・・他に方法が・・・あるはずなのに・・・」
「無いな。甘いのだよ、お前は。当事者ではないから、ああすれば良いこうすれば良いと自説を説くのにふけるが、
 我々、前線に出ねばならない兵士はチェスの駒のようには行かないものだ。お前が柔らかい安楽椅子に座りながら考えることなど、
 我々はとうに検討し尽くしている。その結果、もっとも有用と思われる作戦が選択されたのだ。」
「莫迦な、みなジュノの大公に踊らされているだけの道化ではないか!!」
「ジュノは関係ないだろう!」

互いに感情的になりかけたとき、ジェロームの背後に居た5人のうち一人が動いた。
先程大剣を床に叩きつけ、使用人たちを沈黙させたあの騎士だ。
その巨躯に似合わぬ俊敏な動きで、大剣を抜き放つとヴァレリー・ユベールめがけ一閃を放つ。
ヴァレリーは、動けない。
武芸を尊ぶエルヴァーンではあるが、皆が剣に秀でているわけではない。
ヴァレリーはどちらかというと、こういった野蛮なことが苦手なほうだ。
それに加えて、この男の技の冴え。まったく無駄の無い、強烈な一撃。
本来なら、痛みすら感じる間もなく、ヴァレリーは真っ二つになっていたことであろう。
309指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:20:20 ID:W0ag7kkr

しかし、その切っ先は、横から割り込んできた別の刃に防がれていた。

「下がれ、ベルナール。お前の出る幕ではない。」

ベルナールと呼ばれた騎士の必殺の斬撃を、みごと防いだジェロームは一喝する。
ベルナールの技量もさることながら、背後にいた騎士の動きにあわせ、それをいなしたジェロームの剣の腕前も驚嘆に値するものだ。
「さすがは、副長。でも、おれは話を少しでも進展させようと思いましてね。」
くくく、とくぐもった声で笑い、黒外套の騎士は大剣を収める。
そこへ、一人の騎士がやってくる。
使用人と書類を照合していた騎士の一人だ。

「副長。書類と照合した結果ですが・・・」
310指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:20:59 ID:W0ag7kkr
8.

「ユベール家の申請書類と使用人になんら差異は見受けられませんでした。また、他の場所へ調査に行った者からも特別な報告は上がっていません。」
ユベール家の関係者は全員いる。
結果はそういうことであった。
「・・・ふむ。冒険者でも雇ったか・・・」
ユベールの顔色を伺うように、ジェロームは呟く。
「いや・・・信頼できる者でなければ使いにはしまい。とくにお前の性格ならば・・・。だが・・・誰もいなくなっていないとすると・・・」
そこでジェロームはある記憶にたどり着き、あっと小さく声を上げた。
「ミスラ・・・確かこの屋敷には一人だけミスラの使用人が居たはずだな。」
ミスラの使用人など、ほかのどの貴族の屋敷にも居ない。
学生時代、数回しか訪れたことのないこの屋敷の、奇妙な侍女のことを彼は鮮明に記憶していた。
言うが早いか、ジェロームは担当騎士の手に握られていた申請書類を奪い取り、食い入るように見る。
「いない。名前が無い・・・これにも。これにも!」
全ての書類を確認し終わった後、ジェロームはユベールに詰め寄った。
「なるほど。エルヴァーンやヒュームの使用人なら申請する必要があるが、確かにミスラの使用人の申請義務は無い。」
なによりミスラは『使用人』などという束縛される身分を嫌う。
よほどの恩義が無ければ、ミスラがそのような地位に甘んじることは無い。
311指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:21:31 ID:W0ag7kkr

「あのミスラだな。あのミスラにアルテドール侯への密書を持たせた・・・そうだな?」
ユベールは答えない。
「答えなくともかまわぬ。ミスラを捕え口を割らせれば良い。」
貴族に拷問は行なえないが、使用人、それもミスラというなら話は容易である。
死ぬより辛い拷問をいくらも用意できる。
「無駄だよ。あの子はもう何十時間も前に出立した。」何十時間も、というのは誇張であったが、
「今更追いつけはしない。」これは誇張ではない。
ミスラである彼女は、ロンフォールの森の地形に誰よりも精通していたし、チョコボの扱いにも長けていた。

「我々にそれができないとでも?お前ほど誉れある血に生まれれば、聞いたこともあるだろう、我らの事を・・・」

「・・・黒獅子隊・・・か。」

ジェローム以下に控える黒外套を羽織った騎士の、その外套をよく見れば、高価な金糸で獅子の姿が彫られていることに気付かされる。
黒獅子隊。
正式名称、サンドリア神殿騎士団マクシミリアン分隊。
312指輪は四度(よたび)光る。:05/03/02 15:22:00 ID:W0ag7kkr
あまり表舞台に出ることは無い。大抵は騎士団の規律を乱した脱走兵や、重犯罪者の国外逃亡を防ぐ任務についている。
サンドリアはそのお国柄、犯罪者の烙印を押されたものの中にも、驚嘆すべき剣の使い手が混じっていることが少なくない。
そういった者を捕獲し、秘密裏に処罰するサンドリア騎士団の闇を司る隊。
その構成員一人一人が一騎当千の恐るべき使い手と聞く。
また、人知を超えた鍛錬により、怪物のような体技を獲得している者いるという話だ。
そのあまりの強さ、騎士を狩る行為、黒い外套に金の獅子の刺繍、あらゆる要素がない混ぜになり、
畏怖を込め、その名を囁かれるのである。

───黒獅子隊と。

「オーギュスト、ラファエル、ルドヴィコ、ベルナール、ジルベルト。」
5人の黒騎士は名を呼ばれる。
目深にかぶったフードの奥で、血と闘争を求める瞳がゆらゆらと輝いていた。
「ミスラだ。ミスラを探せ。生かして連れて来い。けっしてタブナジアに渡らせるな!!」
ジェロームの号令により、控えていた5人は踵を返し、ユベール邸を後にした。
外につないでいた漆黒の体毛を持つチョコボにまたがると、すぐにロンフォールの深い森へと走らせる。

(フェル・・・すまない・・・)

獣人より遥かに恐ろしい予想外の追っ手がかかり、ユベールはその端正な顔を苦渋に歪ませることしかできなかった。
313既にその名前は使われています:05/03/02 15:22:58 ID:W0ag7kkr
おわり
314既にその名前は使われています:05/03/02 16:13:06 ID:Vbo/iIyD
続きが気になるのに、終わりかよ!?
文章が凄い巧いな〜。
315既にその名前は使われています:05/03/02 16:56:41 ID:EGqlqyVP
そーいや
タルタル戦士は夢を見る
とか
白き探求者とかまとめてるサイト、閉鎖した?
316既にその名前は使われています:05/03/02 18:46:03 ID:4qM/yCNk
終わりかよ!
317既にその名前は使われています:05/03/03 08:50:27 ID:rK+LgQsn
>>315
ttp://kooh.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/fswiki/wiki.cgi?page=FrontPage
雪の彼方も名作だぞ。
目からフラッド間違いなしだ。
318既にその名前は使われています:05/03/03 12:40:45 ID:l8qGtG6s
指輪は四度(よたび)光る。

まあタブナージャはほろんだんだしこの使いはつかまったんだろう!!
319既にその名前は使われています:05/03/03 19:03:21 ID:GRcziwtI
テジナーニャ!
320既にその名前は使われています:05/03/03 19:05:46 ID:l8qGtG6s
つかまってあんなことやこんなことをされたに違いない!
321既にその名前は使われています:05/03/03 20:42:11 ID:kdAW3CBQ
sega
322119 ◆N4hISqu3ag :05/03/04 06:40:01 ID:1Kkr8k6F
「よく見つけたね。狩人なみの嗅覚だね」
 眠そうに上半身を持ち上げ、右手を上にかざしながらRoselは言った。
「早く起きなさい」
 Suiroはその右手を掴み、勢いよく引っ張り上げる。Roselは小さく声をあげた。
「痛いな」
Suiroは既に歩き出している。Roselはいそいでその後を追う。

「きたねぇ」
 旅人の帽子を右手でおさえながら巨人は言った。横にいる小人が眉間にしわを
よせている。その白い鱗状の鎧を着ている小人が口を開く。
「おそいよRosel。何をしていたんだ」
「おまたせKohlo」
 Roselは小人の、Kohloの、頭を右手でなでながら悪びれる様子もなく言った。
Kohloはその右手を振り払った。
「Bobo、あとの2人は?」
 Boboと呼ばれた巨人は答える。
「Balasielは見張り。Lihzehは料理」
323119 ◆N4hISqu3ag :05/03/04 06:41:14 ID:1Kkr8k6F
 猫がたき火の前で膝をかかえ燃えさかる炎をじっと見ていた。ふと猫は耳を
動かし、横を向いてこちらへ歩いてくる侍の姿を見た。侍は麻の袋をとりだし、
猫に渡そうとする。
「Lihzeh、うさぎの肉を獲ってきたよ。あと短剣貸してくれてありがとう」
とSuiroは言った。Lihzehは起き上がり、その袋とSuiroが懐から出したダガーを
受け取る。
「ありがとう。これで夕食がちょっと豪華になるわね」
とLihzehは言った。そばにある湖の水を鍋ですくい、その鍋をたき火の上に置く。
沸騰した鍋にきっかり10秒、うさぎの体をくぐらせる。皮を剥ぎ、足の爪を折って、
Suiroから返してもらったダガーで頸を落とす。胸肉をとり、内臓をとりだした。
「もうちょっとでBalasielが帰ってくるからそのあとミーティング。私いらない
みたいだからもういくね」
と、そばで腕組みをしてじっと見ていたSuiroは言った。Lihzehはうさぎの血に
まみれた手をふって答えた。
324119 ◆N4hISqu3ag :05/03/04 06:42:20 ID:1Kkr8k6F
 キャンプの場所には4人いた。ウールローブを着て中央に立っている巨人、
(彼の)身の丈ほどもある斧を手入れしている小人、チュニックを着て、
湖を見つめているサンドリアン、そして銀色の甲冑を着た銀髪の騎士。
「Lihzehは?」
とBoboは言った。
「もうちょっとでくるよ」
とSuiroは言った。一時後Lihzehが走ってきた。Boboは両手を叩き言った。
「さて、今回のクエストのミーティングをしようじゃないか」

「オークの宿営地、ダボイからセルビナへ斥候が送られた、との情報が入った。
オークたちは近々セルビナへ侵攻するらしいんだな。セルビナミルクでも
飲みたいんだろうねぇ。で、わたしたちの仕事は斥候を行方不明にすること
みたいなんだ。敵方の情報はわからない。ここを通る時間だけだなぁわかって
いるのは。明日12:00〜明後日未明」
325119 ◆N4hISqu3ag :05/03/04 06:43:30 ID:1Kkr8k6F
「いつも通りアバウトだな」
とKohloは言った。Boboは話を続ける。
「人数はたぶん3〜5人だろう。それ以上の人数だと斥候以上の役割を持っている
だろうから、二手に別れてセルビナとサンドリアに知らせにいく。まぁ4人前後と
考えていいだろうねぇ。で、どこで待つか、だけれども」
 Boboは地図をとりだし指差した。
「ここの辺りは切りたった谷みたいになっている。この崖路だなぁやれそうな所は。
道なりには通らないとして、迂回してセルビナを目指すならここを通らざるをえない。
見通し悪し。見張りはSuiroにおねがいしようかなぁ。Rosel一緒にいってねぇ」
 Roselはうなずいてみせた。Boboの話は続く。
「わたしたちはもう少し南下した広場で待機している。2人で斥候をここまで
引っ張ってきて欲しい。あとはいつも通り料理すりゃいい。以上」
 旅の仲間は野兎のグリルと豆のスープを食べて眠った。
326119 ◆N4hISqu3ag :05/03/04 06:44:45 ID:1Kkr8k6F
 翌日。

 SuiroはRoselと草むらに寝そべり崖下の細い道をじっと見つめている。
「こないね」
 と、Roselは目を閉じて背伸びをしながら言った。Suiroは答えない。
 半刻。
「きた」
とSuiroは短く言い、注意深くそのオークを見つめた。Suiroの腰回りより太い腕を
ぶらぶらさせて、別段まわりに注意を払うこともなく歩いている。背中に弓を背負い、
腰に片手剣を差している。Roselはまだ寝そべったままだ。Roselの仕事はSuiroと
共に仲間がいるキャンプへ無事に帰ることだけだ。目的のオークを見つけるのは
Suiroの仕事だ。彼女はとても目がよくて、注意深くて、いつまでもじっとしていられる。
「1人だけのようね。Boboの推理、外れちゃったね」
 Roselは首をかしげながら起きた。
「おかしい。あのガルカの予想がはずれるなんて。どこにいるの?そのオーク」
 Roselが崖下の道を歩いているオークに目をとめる。オークが立ち止まり、
緩慢な動作で弓をひき、そして矢を放つ。
「Rosel!」
327119 ◆N4hISqu3ag :05/03/04 06:56:40 ID:1Kkr8k6F
Suiroの声に反応し、Roselはとっさに左腕の盾で顔を覆う。オークの放った矢は盾を
突きぬけ、左腕を貫通する。苦悶の表情を浮かべながらその矢を引き抜こうとする。
Suiroはオークの方向に2発矢を射り、すぐさま抜刀した。その瞬間まわりの空気が
変わる、色が変わる。足が鉛のように重くなる。詠唱をしおわったオークが走ってくる。
Roselは矢を引き抜くのを諦め、腰に差していた杖をとりだした。オークが力まかせに
Suiroの胴を薙ぐ。オークのその剣は鈍器のようにSuiroの骨を折る。Suiroは真横に
吹っ飛び人形のようにごろんごろんと転がる。オークは一瞬呆けたような表情で
Suiroを見つめなにごとか呟き、そして横をむきRoselにうなずいてみせた。
Roselは目を閉じて女神への祈りを捧げはじめた・・・

 Suiroは

 私は

 目をさました。
328119 ◆N4hISqu3ag :05/03/04 07:00:10 ID:1Kkr8k6F
>>286
語り口は独特というか舌足らずというか。
ちょっとそこらへん悩んでます。どうしたらいいんでしょうかね。
329既にその名前は使われています:05/03/04 14:42:44 ID:gFvE6cUS
ん〜、変えたいと思ってるなら、他の作家の作品(別にここだけじゃなくて、有名作家でもなんでも)
を見て、この書き方いいな、と思うやつを真似してみるとかかなぁ。
でもこれはその作家の書き方に似てしまう(真似てるんだから当然だけど)デメリットがあるからな…
私も自分で書いてるのを読み直して「なんかクセがあるな…」とは思うけど、直そうと思っても
なかなかうまくいかないもんなんだよねぇ。
他の人はそういうことないのか気になりますな。
330既にその名前は使われています:05/03/04 15:51:14 ID:rfub01H9
読んでみて、参考になるかわからないようなコメントを。あくまで個人的な意見です。

ちょっと説明が冗長になってる感がありますね。と○○は言った、という表現が多いとか。
せっかく三人称で書かれてるんですから、もう少し視点を変えながら書いてみるといいんじゃないでしょうか。
周囲の情景の描写を少し入れてみるとか。音や臭いとかも。あと、削れる部分もまだ多いと思います。
ウサギの肉を焼くシーンとか、説明に終始するのではなく、たとえとかを使うとアクセントが出て
また違った印象になるのではないのでしょうか。

すぐに変えれそうな事といえば、キャラクターの喋り方に個性を出してみる事から
やってみてはいかがでしょう?そうすれば、台詞だけで誰が言ってるのかわかりますし、
前述の表現とかも減ってくるのでは。
331指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:38:02 ID:GNtGEK/P
9.

やや白みはじめたロンフォールの森を漆黒の5騎が駆ける。
彼らの通ったあとだけは、夜が取りこぼしたかのように闇が広がっていた。

「チョコボが三騎・・・一時の方向だ。」
五騎の先頭を走る黒騎士が呟くように言う。オーギュストと呼ばれていた騎士だ。
五人の中で最も位が高く、リーダー的存在でもある。
滑舌は決して悪くないのだが、ビョウビョウというノイズが不思議と混じるため、彼の言葉は大変聞きづらい。
他の四人は程度の差こそあれ、オーギュストと共に数多の修羅場を潜り抜けて来たため、その呟くようなノイズを理解できたが、
もしこの場に他隊のものが居たとしても、同様にはいかなかっただろう。
「ジルベルト!」
オーギュストは五騎の真ん中ほどを走る、やや小柄な騎士に声をかける。
ジルベルトと呼ばれた騎士は返答を返す代わりに、取り回ししやすいよう柄を半分ほど切り落とした長槍を担ぎ出した。
柄を切り落としているとはいえ、小柄なジルベルトには不似合いなほど大げさな得物である。
「ミスラか?」
「分からんな。しかし、あの体格。少なくともエルヴァーンではあるまい。」
自国民でなければ手荒なことをしても構わぬ、とでも言いたげにオーギュストはベルナールに返した。

そして、そのやりとりが終わるのを待たず、ジルベルトが長槍を放つ。
332指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:38:50 ID:GNtGEK/P

驚くべきはその膂力。
いったいあの小さな身体のどこに、これだけの力が隠されていたのだろうか?
常識を超える速度を出して飛ぶ槍は、破裂音と衝撃波を残し猛然と標的に襲い掛かかる。
放った直後にはすでに長槍は、遥か前方を行くチョコボを捉え、絶命させていた。
指の先ほどの大きさの鉄の玉を飛ばすバストゥークの銃ですらあの威力なのだから、同じような速度で放たれた槍の質量を考えれば、
その威力がどれほどのものか想像が及ぶであろう。
賞賛の口笛を小さく吹くベルナール。
当たれば、騎士の盾すら紙のように貫くジルベルトの一撃である。
味方としてみれば、これほど心強いものは無い。

ほどなくして五騎はチョコボに、そしてそれに乗っていた人物に追いついた。

「ビンゴ!ミスラだ!!」
ベルナールがいやらしい笑い声と共に言う。
333指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:39:35 ID:GNtGEK/P
10.

チョコボから叩き落されたミスラは身体をしたたか打ち付けたようで、地に伏し身もだえしていた。
軽装の革鎧に身を包んだ冒険者風のミスラだ。
腰からは粗野な作りの斧を下げている。革鎧の下半身の部分からのぞく白い脚が煽情的に、ゆらゆらとうねっていた。
「汝に問う。」オーギュストが例のノイズ混じりの声で言う。
「汝はユベール家所縁の者か?所縁のものならば、おとなしく預かり物を出し、身柄をゆだねよ。」
「逃げれば足を、抗えば腕をもぐ。心しろ。」
背負った大剣をいつの間にやら抜き放ち、ベルナールが補足する。
一方のミスラは、いまだ落下のショックから立ち直れず、あうあうと呻くのみであった。
ひょっとしたら重大な負傷を、さきほどの事故で負ったのかもしれない。

「どうした、タミ!・・・おまえらは、誰だ?」

そこへやって来た不幸者は二人のヒューム。
「ああ、そういえば三騎という話でしたな。」
ベルナールは最初理解しがたいという表情であったが、すぐに納得の様子になる。
おそらく、途中で旅仲間がついて来ていないことに気付き、踵を返し戻ってきたのだろう。
戻って来てみれば、仲間のミスラが見たこともない五人の黒騎士に囲まれていたのである。
いぶかしみ警戒する。当然だ。
334指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:40:34 ID:GNtGEK/P
「失せろ。」
言葉短かに言ったのはラファエルと呼ばれていた騎士だ。二人のヒュームには一瞥もくれてやることはない。
ミスラを捕えろといわれれば、ミスラにしか興味を示さぬ。
そういう男だ、ラファエルは。
「失せろといわれ、仲間を放っておめおめ立ち去ると思うのか!?」
激昂したヒュームはスラリと片手剣を抜く。
もう一人のヒュームは杖を握り、精神集中に入った。恐らく魔道士なのだろう。
「大人しく逃げれば、落とす命も無かったろうに。」
憐れだねぇ。
そう言いながらも、目深にかぶったフードの奥からののぞくベルナールの双眸は、血と闘争への渇望にギラギラとした光を放ちはじめる。

二人のヒュームは、さも意外といった表情をみせた。
二人が一番恐れたのは五対二という圧倒的に不利な状況となることであった。
相手にとってもそのほうが有利であるわけだし、そうなるであろうと思っていた。
だが、実際にはどうだ?
身の丈ほどもある大剣を持つ男以外の、他の四人の黒騎士たちは、まったくこちらへの興味を失っていた。
まるで、もうすでに二人が目の前から居なくなったかのように。
335指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:41:02 ID:GNtGEK/P

これは二人にとって好機といえる。
二対一でも良いというのなら、それに越したことはない。
片手剣のヒュームは、今こそ冒険者としてその日暮らしに身をやつしてはいるが、元々はバストゥークの市民兵で百人隊長にまでなった男である。
腕には少なからず覚えもあったし、冒険者になってから自分の剣の腕に力不足を感じたことも無かった。
加えて、バックアップしてくれる仲間も居る。
勝てないはずはない。
男は自信に満ちた、必殺の一撃を放った。
336指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:42:12 ID:GNtGEK/P
11.

横に凪いだ刀身は、寸分の狂いも無く対峙した黒騎士の首へと吸い込まれる。
鮮血と断末魔。
そして勝利───。

「──相手が悪かったな。」

短い白昼夢は、黒騎士のくぐもった笑い声で、いやおうなく醒まされる。
刀身は間違いなく男の首筋を捕えていた。黒い外套のフードも、首の部分が裂けている。
にもかかわらず、鮮血どころか血の一滴も、ベルナールの首からは出ていなかった。
理解できない、理解を超えている。
男の経験してきた全ての戦歴の常識を、ゆうに超越した存在がそこにはあった。
残念ながら男の抱いた疑問が、全て氷解することはないだろう。永遠に。

剣を握る右腕は、次の瞬間には黒騎士の怪剣により寸断されていた。
337指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:42:38 ID:GNtGEK/P
「・・・・っ!!」
悲鳴は出ない。
返す刃がヒュームの男の首をさらっていたからだ。
身の丈ほどもある大剣であったにもかかわらず、どのように自分が切り刻まれたのかすら男は理解できなかっただろう。
痛みを感じる間もなく、首と生き別れた胴体は、膝をつき崩れ落ちる。
『ファイア!!』
魔道師風のヒュームのかかげられた両手に、巨大な火球が生じた。
一口にファイアといっても、習熟度により様々な威力のものがある。
彼の作り出したファイアの魔法は、決して威力の弱いものではない。
それは魔道士としての強さがうかがい知れる威力を秘めている。
だが、その魔法を眼前にしても、黒騎士は恐れをなすどころか、口元を嘲笑でゆがめてさえいた。
まるで撃って来いと言わんばかりの表情。
先ほどのヒュームの一撃もワザと避けなかったことを見ても、このベルナールという男、
相手の初撃は避けないという、妙な信念や儀式を持ち合わせているらしかった。
どのみち、そのような行為は、自己の防御力に絶対の自信があろうとも自殺行為に他ならない。
生身である限り。
338指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:43:09 ID:GNtGEK/P

「あなどるな・・・焼け死ぬがいい!!」

火球は怒号と共に放たれる。
これも狙いたがわず、ベルナールの頭部に直撃した。
一瞬、ベルナールが体勢を泳がせたため、魔道師風の男も勝利の白昼夢を見たのだが、結果が揺らぐことは無かった。
もうもうと上がる黒煙の向こうから、相も変らぬ殺気を放つ瞳が、魔道師風の男を射殺さんばかりの勢いで睨みつけていた。
「なるほど」とベルナール。
「たった二人で、多勢に刃を向けるだけの腕はあるな。」
焼け落ちたフード。
晴れようとする黒煙。
徐々に姿を現すベルナールの顔に、魔道士のヒュームは息を呑んだ。
初めは自分の放った魔法のせいで負った火傷かと錯覚する。

だがすぐに自分の目の前にいるのが、ただのエルヴァーンでないことにまで考え至った。
339指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:43:53 ID:GNtGEK/P
12.

「あ・・・悪魔っ・・・」

そのように形容されても不思議ではない異物がそこにはあった。
とがった耳や長い首など、確かにエルヴァーン然とした特徴は残ってはいる。
しかし、その真っ黒な肌──最初は火傷かと思われた──は、よく見るとボコボコと何かで覆われている。

ウロコ。

そう鱗だ。ドラゴンの身体を覆うような強固な鱗が、ベルナールの肉体を包んでいるのだ。
この人間離れした表皮が、剣も魔法も防ぎきった。
真っ黒い変質した皮膚に毒々しいオレンジ色の模様が入り、口からは乱ぐいに生えた牙と長く不気味な舌がチロチロとのぞいている。
地上に降り立った悪魔は、相手が恐怖する様子をまじまじと見ると、さも嬉しそうに顔を歪めた。
「竜鱗のベルナールだ。お見知りおきを」
サンドリア式の紳士的な礼を行なうものの、魔道士のヒュームはそれどころではない。
チョコボから落ち、抜けた腰で無様に地を這って逃げようとしていた。
自分も仲間と同じように殺される。死への恐怖ばかりが彼の思考を麻痺させていた。
340指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:44:29 ID:GNtGEK/P
「悪趣味。」
嫌悪感たっぷりにジルベルトが呟く。
そんなことは気にも留めず、ベルナールは逃げるヒュームを切り刻んだ。
最初の一撃ですでに絶命していたが、弄ぶように何度も何度も大剣を振り下ろす。

「違うな。こいつではない。」

悶絶していたミスラの荷物を一通り調べたラファエルが、言葉少なに言う。
「じゃあ、オレにくれよ、そのミスラ。」
返り血を払いながらベルナールが言った。黒いうろこに覆われた顔が愉悦の表情を見せる。
「処理は任せるが、我らは先を急ぐぞ。五分で済ませろ。」
オーギュストは言い残すと、すぐにチョコボを先へと進ませる。
荷を検めるだけで良いのに、無駄に時を過ごした。
標的はさらに進んでいることだろう。
ラテーヌ高原まで逃げられれば、そこは起伏に富んだ地形である。追跡は容易ではなくなる。
ミスラの嬌声とも悲鳴ともつかぬ叫び声を背に、四騎は再び駆け出した。

「ベルナールは邪念が多い。奴がいない方が早く追いつく。」

珍しく皮肉を言ったラファエロに、ジルベルトはいささか驚いた。
341指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:45:12 ID:GNtGEK/P
13.

四騎となった黒い風が標的らしきミスラの少女を発見したのは、それから間もなくのことであった。
先ほどのことを教訓に、ジルベルトの槍を使うことは無かった。
それなりの速度で走っているチョコボを射れば、最悪騎乗者の命にもかかわる。
ジェロームの命令は生きて連れ戻せとのことであったので、それでは困るのだ。
一方のフェリシテアのほうも、自分を追跡する異様な黒騎士たちがいることにすぐに気付いた。
(追われてる・・・サンドリアの騎士に・・・なぜ?)
主が国家反逆罪の汚名を負ったことを知らぬ少女は不思議に思う。
ひょっとして止まった方が良いのではないだろうかとも考えたが、すぐに頭を振る。
(これは、タブナジア候国の存亡がかかっている。急ぐのだぞ。)
ヴァレリー・ユベールの美しい声が、彼女を思いとどまらせた。

「疾いな。」
ノイズ混じりにオーギュストが言う。
少女とあなどっていたが、チョコボを扱うことにかけては騎士と並べてみても遜色なかった。
342指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:45:54 ID:GNtGEK/P
「ルドヴィコ。」
オーギュストが名を呼ぶと寡黙な黒騎士は呪文を唱え始める。
チョコボを全速力で走らせつつ、魔法のため精神集中を行なうことの難しさ。
それをやってのけるルドヴィコという男。
この5人はいずれも曲者ぞろいであることを、改めて認識させられる。

ほどなくして、少女のチョコボはその足を止めた。
ルドヴィコの魔法『バインド』がチョコボの脚の筋肉組織を麻痺させたためだ。
フェルは舌打ちすると、荷物を持ちチョコボから降りる。
代替用の二羽のチョコボに向って脇目もふらず走った。
二羽はもう一羽の身に降りかかった異常をようやく察知し、かなり遠方のほうでその足を止めている。
絶望的。
黒いチョコボの疾走とミスラの少女の全速力。比較にもならない。
あっという間に少女は、四騎に取り囲まれる。
343指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:46:36 ID:GNtGEK/P

「汝に問う。汝はユベール家所縁のものか?所縁のものならば、預かり物を渡し、身柄をゆだねよ。」
ビョウビョウという雑音のため、行く手を阻んだ黒騎士が何を言ったのか、少女は理解することができなかった。
再びオーギュストは、フェリシテアに同様の問いを投げかける。
少女は答えない。
彼ら黒騎士から僅かに香る臭い。
血臭。
少女を警戒させるには十分な要因である。

「・・・こいつに間違いないだろう。連れ帰ってから・・・問いただせば良い。」
「こいつでなかった場合のことも考えねばならん。・・・・女、荷を検めさせてもらうぞ。」
伸びたオーギュストの手を少女が払った。
「・・・抗えば腕をもぐ。」
焦れたラファエルが、低く恫喝する。だが、それにすら少女は意志の強い瞳で真っ直ぐ睨み返すのみである。
痛い目を見ないと分らないか?ラファエルがゆっくりと剣を引き抜いた。
344指輪は四度(よたび)光る。:05/03/05 19:48:08 ID:GNtGEK/P

しかし、これは四騎の黒騎士たちの傲慢であった。
このとき彼らは、少女の術中にすでに嵌っていたのである。
彼らほどの技量を持った者たちが、それを警戒しなかったのは傲慢としかいえぬ失態であった。
所詮はミスラ、所詮はただの使用人と、エルヴァーン特有の驕りが判断を鈍らせたのだ。


「あたしに命令できるのは──」ミスラの少女は穢れを知らぬその唇で指輪にくちづけをした。
「ヴァレリー・ユベール子爵ただ一人のみ!」

親指にはめられたユベールとの絆が輝いたのは、それに蓄えられた魔力のせいか、
あるいはロンフォールの森を照らし出す朝日せいだったのかもしれない。
345既にその名前は使われています:05/03/05 19:49:51 ID:GNtGEK/P
おしまい。
今度こそ。
346既にその名前は使われています:05/03/05 19:56:36 ID:h9hebm3z
つづかねーのかよ!!
347既にその名前は使われています:05/03/05 20:21:57 ID:h9hebm3z
間違いで襲われたミスラがどうなったかきになるじゃねーか!!
348名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/05 22:50:50 ID:0W/OlsUv
遅レスですが

>>280
そんなことはないと思いますよ(・ω・)たぶん
へたれな小説とかの中の人かな?

>>119
自分はこのままでも全然いい気が('з')


指輪(ryおもすれー  って終わりかyp!
349childhood 1:05/03/06 01:41:57 ID:T0TupKw3
部屋のモグが、仲間が楽しい遊びを思い出したから是非言ってみてクポクポとやたら煩い。
だから二人はその言葉に従う事にした。

「まってったら」

エルヴァーンの歩幅にタルタルではなかなか追いつけない。
それなのに彼女の恋人はすたすたと先を行く。

「も〜〜〜!!!バカ!」

あまりの気付かなさっぷりになきたくなる。
腹が立ってきて帰ろうかしらと彼女が立ち止まったとき、
ひょいっと後ろから誰かに抱きかかえられた。
350childhood 2:05/03/06 01:42:35 ID:T0TupKw3
「うぁう!」
「いつも思うけどびっくりすると変な声出すよね」
「…動物なんだよこいつ」

いつのまにか戻ってきた男に腕の中で固まる娘を奪われ、
二人の友人であるヒュームの青年はぷー、と唇を尖らせる。

「ほったらかしの癖に嫉妬だけはしっかりするんだからズルイよな」


…全く持って君は正しい。


「んな事ねーよ。嫉妬なんかしてるわけないだろ。じゃあ返す。」
「わーい」


…そして人を手荷物みたいに扱うのはやめて欲しい。二人とも。
351childhood 3:05/03/06 01:44:04 ID:T0TupKw3
森の区のモーグリ前では丁度仲間達や顔見知りが集まっていて
聞いてみたところみんな一緒に話しかけると菱餅が貰えるという按配だった。

「…タルタル菱餅、だって。何これ?」
「すげえよ、あのね、これね、ガキの姿になれるんだって」

仲間の一人が興奮した口調で説明してくれる。
道理で子供が多いわけだと納得する。


ー…私、これ以上小さくなってもな…


彼女は唯でさえ小さいのがコンプレックスなので少しがっかりした。
折角なんだから背が伸びる、とかならいいのに。
352childhood 4:05/03/06 01:46:06 ID:T0TupKw3
それでも皆が食べてはしゃいでいる物に一人ケチをつけるのも大人気ないし
場を白けさせるのも嫌だから
とりあえず一口は食べようと腹をくくる。

「あ、まてよ」
「ん?」

口を付けようとした所を恋人に止められる。

「ちょっと待ってろ。な?」
「う、うん、いいけど」

絶対待ってろよ!と言いながら彼はだーっと走っていってしまった。
353childhood 5:05/03/06 01:46:48 ID:T0TupKw3
一体何なのかしらと首をかしげて待つこと数分。

とんとん、と肩を叩かれる。

振り返るとそこには自分より少しだけ背の高い男の子。
年のころは10歳かそこらといったところか。勝気そうな顔の、可愛らしい子だ。
大きな瞳はダークブルー。
さらさらとした髪は銀色。

「お待たせ!」
「…あ…」

その色を彼女はとてもよく知っている。
354childhood 6:05/03/06 01:47:39 ID:T0TupKw3
「なあ、早く行こうぜ」

少年の姿の彼が、彼女の小さな手を掴み、走り出す。

「これなら大丈夫だろ?」

一緒の目線、一緒の歩幅。
無愛想無神経すぐ怒るすぐ威張る彼がそれでも大好きなのは

こういうちょっとした事で心をぎゅっと鷲掴みにされてしまうからなのだ。


「なに変な顔してんだよ。な、どこ行こうか?」



おわり


脳内クエで〜ネタ作るッ!ハイッハイッ ハイッハイッハイッ☆
355既にその名前は使われています:05/03/06 13:24:16 ID:WyLPIZNC
なんか(*´д`*)こんな気分。
356既にその名前は使われています:05/03/06 18:05:38 ID:JnhV0qPW
俺もなんか(*´д`*)こんな気分。
でもこのエルむかつくwなんかムカツクw
357名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/06 21:20:59 ID:XjvFWM/P
ほのぼのやね(*´д`*)

まとめサイツ短編の方も作者>作品にしてみたけどいかがなもんかね
358既にその名前は使われています:05/03/07 12:35:31 ID:eDDK+f4S
(*´д`*)
359名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/08 12:25:56 ID:nHjJk6Pm
落ちかねないのでage
360既にその名前は使われています:05/03/08 14:07:07 ID:e/6RaF56
ミスラが活躍するおはなしがよみたいです
361既にその名前は使われています:05/03/08 14:07:34 ID:e/6RaF56
安芸!!
362名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/08 22:20:18 ID:nHjJk6Pm
しばらくこれないのでage
363三沢さん ◆NOAH//Vb/2 :05/03/09 02:41:39 ID:ne1z0U73
||||            ||||
||||=щ=========щ=||||
|||| | |         .| | ||||
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  \ \( ゚Д゚)/ /
   \ ||  ||/ /
     |ノ \ノ |/
     | .AGE.|
    /   /
   ∫|__.∧_|
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    //  | |
    //   | |
    U   U
364既にその名前は使われています:05/03/09 19:30:19 ID:MGt4Jnia
hosyu
365既にその名前は使われています:05/03/09 19:45:51 ID:P+iDhgW2
>>357
管理人さん乙っす。とっても見やすくなりますた。
366既にその名前は使われています:05/03/10 12:33:22 ID:WgD2Zxww
ho
367既にその名前は使われています:05/03/11 06:50:22 ID:HjsFc7W7
ほしゅう
368既にその名前は使われています:05/03/11 07:08:33 ID:X/0AObyl
保守ばっかじゃなくて感想も書けって。

といいつつ保守
369既にその名前は使われています:05/03/11 20:54:30 ID:HjsFc7W7
感想書こうにもお話がないよあげ
370既にその名前は使われています:05/03/12 20:01:18 ID:X9W9njXo
唐age
371既にその名前は使われています:05/03/13 03:43:24 ID:eNI60rDY
ageものばかりたべるのはいくない
372既にその名前は使われています:05/03/13 03:44:17 ID:eNI60rDY
あがらないお
373それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:41:39 ID:UZCZRL7U
まず左翼の連中が一斉にサイレスの詠唱を始めた。
彼らの唱えたサイレスのひとつがシャミの身に降り注ぐ。
魔道士は声を発する事が出来なければ魔法の詠唱ができない。沈黙させ、無力化しよ
うという狙いか。
だがそれは彼女の身体に侵入しようとしたが、弾かれて宙に消えていった。
レジストだ。魔法は、自分より遥かに強い相手には効きづらくなる。
───ばぁか。このシャミ様にあんたらみたいな雑魚の弱体魔法が効くかっての!
詠唱中に話す事はできないので、心の中でそう思った。が。
次のサイレスが、また彼女を襲った。そこからは間髪いれずに、次々とサイレスが飛
んでくる。それらは全てシャミへ向けられていた。
いくら効きづらくなると言っても完全に効かなくなるわけじゃない。数で攻めれば、いつ
かは。そして───
「っ──────!!」
「シャミ!!」
ついにシャミの身体にサイレスが染み込んだ。声を発する事ができず、詠唱が中断さ
れる。
───くっ、やまびこ薬を……
彼女はカバンから薬品を取り出そうとした。だが、ゴブリンの攻撃は終わってなかった。
彼女が薬を飲もうとした時。今度は右翼の連中からアスピルが飛んできた。
───なっ……
374それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:44:43 ID:UZCZRL7U
思わず、手に持ったやまびこ薬のビンを落としてしまった。それは地面にぶつかると、も
ろくも砕け、中の液体は大地に染み込んでいった。
シャミはアスピルの魔法が自分の身体から魔力が吸い出していくのを感じた。
更に襲いかかるアスピルの嵐。レジストもあって吸収される量は少ないといっても、数が
数だ。
───おいこら。やめろっ。やめてよっ!!
既に発動した魔法を防ぐ方法はない。ハルたちは為す術がないまま、それを見ていた。
───ぅ、ぁ……魔力が……全部っ……
シャミは膝をついた。魔力が全て奪われてしまったのだ。彼女は、はあはあと苦しそうに
肩で息をしていた。
「くそっ!!」
ハルは吐き捨てるように言った。
───なんだ、こいつらの連携の良さは!?
冒険者の敵となる相手は、基本的に同族意識が強い。
ゴブリンもその例に漏れず、仲間が戦っているのを見つけるとすかさず自分も加わって
いく。
だが、サイレスで相手の手を封じ込め、アスピルで魔力を吸い尽くし、相手を完全に無
力化する。
こんな攻撃をしてくるゴブリン(ゴブリンに限らず、どんな獣人でも、だ)は、ハルは聞い
た事がなかった。
375 ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:49:29 ID:UZCZRL7U
以前読みにくいといわれた部分の加筆修正。
>>169の14行目〜>>171の2行目の間に当てはめて読んでみてください。
次から本編の続き。
前回は>>154-173
376それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:51:18 ID:UZCZRL7U
先遣部隊はあらかた片付けたようだが、既に第二波が猛然と迫っていた。
勢いの乗った攻撃は威力を何倍にも上げる。
敵の勢いを削ぐため、ハルが自分から敵の群れの中に突っ込もうとした、その時。
「あぐうっ!!」
「! シャミ!?」
後ろで叫び声が上がった。振り返ると、シャミの身体がゆっくりと倒れていくのが見え
た。
「くっ……ここは頼む。」
「まかせろ。」
暗黒騎士が頷くと、彼は急いでシャミの元へ走った。
「シャミ。しっかりしろ。」
「っつ……痛……」
倒れた彼女の背中には数本の矢が刺さっていた。チュニックはみるみる血に染まって
いく。
ハルが辺りを見回すと、エルヴィが倒した魔道士群のいた場所に今度はゴブリンの石
弓隊がいるのを見つけた。
「あいつら……」
ハルの眼に憤怒の炎が宿る。
「ごめん、もう少し持ち堪えてくれないか。俺はあの石弓隊を片付ける。」
彼は前で必死に戦っている3人に声をかけた。
377それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:52:06 ID:UZCZRL7U
「うん。シャミの仇をビシっと取ってきてよ。」
「……ありがとう。」
ヒュームの少女の、少しおどけてはいるが苦しさのこもった語調に、ハルは彼女たち
の余裕の無さを感じ取った。
「1分でケリをつける。」
ハルは地を蹴った。
そこからはあっという間だった。
石弓の射程距離ギリギリから撃ってきていて、更に高低差もあったゴブリンたちとの間
合いを一瞬で詰めると、まず一番近くにいて、ハルの急な接近に呆気にとられていた
奴を斬った。
我に返ったゴブリンたちも応戦はしたが、結果は一方的だ。至近距離で撃たれた石弓
も悉く躱され、次々に数を減らすゴブリンたち。彼らを殲滅するのに、本当に1分程度
で終わらせてしまった。
他に隠れていないか辺りを確認した後、彼女たちの方へ目を向けた。
ここは丘になっているので、戦況がわかりやすい。エルヴィは左の魔道士団も片付け
たようだが、魔力はもうほとんどないだろう。
そして前衛も少しずつ後退している。やはり、数が多すぎるのだ。岩を背に三方を取り
囲まれ、包囲陣はどんどん狭まっている。
ゴブリンに阻まれ、合流する事ができなくなってしまったため、ハルは後ろから切り崩
していくしかなかった。
378それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:52:56 ID:UZCZRL7U
「邪魔だ!!どけっ、くそっ───」
ハルは必死に急いだが、やはり数が多い。
ゴブリンは背が低いので、彼女たちの様子はよく見えた。皆傷だらけだ。それでも、退
く事もできず、懸命に戦っている。
だが、このままでは結果は目に見えていた。
───俺は───
ハルは自分の持つ長剣に“気”を集中させ始めた。
人も、獣人も、獣も、皆『オーラ』と呼ばれるものを持っている。この『オーラ』は、『生命
エネルギー』とも呼ばれ、個々の生命に宿り、固有の性質を持っている。この世に自分
と全く同じ『オーラ』を持つ者は存在しないのだ。
そして『オーラ』は、違う性質の『オーラ』とぶつかるとエネルギーを生み出す。これが
“気”だ。
───もう、あんな思いは───
勿論、便宜上これらの名前や存在を定義しただけで、『オーラ』も“気”も目に見えるわ
けじゃなく、そもそも本当にこういう原理になっているのかどうかもわからない。
だが、相手と対峙し、互いにぶつかり合う中で、何らかの『力』が身体を満たしていくの
は、冒険者のような人たちであれば必ず経験しているはずだ。
───だから、俺は───
冒険者はその“気”を利用する事ができる。大抵は誰に教わったわけでもなく、実戦の
中で自然と身に付くものだ。
379それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:54:15 ID:UZCZRL7U
身体を満たしていく“気”を自分の得物に集める。すると、武器は大気中に存在するクリ
スタルのエネルギーを吸収し始める。この吸収量はこめる“気”の量に比例する。多くの
“気”をこめればこめるほど、より多くのクリスタルエネルギーを吸収し、より強大な力が
完成する。
“気”と“クリスタル”。二つのエネルギーを混ぜ合わせ、極限まで溜めた力を爆発させ、
一気に解放した時。
───どんなことがあっても『               』を護ると、決めたんだ。
放たれた技は、必殺の奥義と化す。
「吹き飛べ!!」
ハルは剣を横薙ぎに払った。剣先からエネルギーが迸り、それはハルを中心に円形に
広がっていく。
<サークルブレード>。多くの敵を一度に叩く、片手剣を持つ者のみが使える技だ。
広がる力の波はゴブリンの群れを薙ぎ払い、彼らの間に一瞬だけ道を作る。ハルはそ
の時を見逃さなかった。
「遅いぞ。」
今まで表情を崩さなかった暗黒騎士が初めてほっとしたような微笑みを見せた。エルヴ
ァーンらしい、美しい笑みだった。ハルも笑って、すまない、とだけ言った。
「絶対生き延びるぞ。もちろん、みんなでだ。必ず生き延びて、そして───」
「そして?」
タルタルの赤魔道士が合いの手をいれた。
380それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:55:00 ID:UZCZRL7U
「───そしてみんなで美味い飯でも食おう。」
ハルは笑って言った。皆の表情が和らぐのがわかった。
「いくぞ!!」

それからの彼女らの動きは、ついさっきまでとは全く違った。
ハルの言葉によるのだろうか、皆は今まで以上に生き残る意志を持った。
戦士も、赤魔道士も、暗黒騎士も、傷ついた身体で目の前の敵と懸命に戦った。
魔力の尽きた黒魔道士や、傷ついた白魔道士も、何もできなくとも、想いは彼女たちと
同じだった。
強い意志を持って戦う人は強い。それが集まれば尚更だ。
ゴブリンも彼女らの気概に飲まれ、遂にはその数も最初の五分の一程度にまで減らして
いた。
「もう少しだ!頑張れ!」
ハルは仲間を鼓舞した。皆は傷だらけになりながらも、ハルの声掛けに気合いを入れた。
「───、ちょっと待って。なんだかゴブリンの様子がおかしいよ?」
赤魔道士が異変に気付いた。
いつのまにか、近くにいるゴブリンは数匹だけになっていて、残りは少し離れた所から近
付いてこようとしなくなっていた。
「どういうつもりだ───」
ふと。とても恐ろしい考えを思い浮かべてしまった。
381それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:56:23 ID:UZCZRL7U
「俺の後ろで一箇所に固まるんだ。」
「え?」
ハルの突然の言葉に虚を衝かれたのか、ヒュームの少女は聞き返してきた。
「早く。」
「う、うん……」
言葉の意図が掴めず、腑に落ちないながらも、彼女たちは言われた通りにした。
───まさかこいつら……
悪い事に、その考えは当たってしまった。
ゴブリンたちは一斉にカバンを漁り出すと、中から黒くて丸い物体を取り出した。
ハルたちはそれを見て、完全に血の気が引いた。
冒険者はゴブリンと戦う事も多い。(もちろん、こんな数の敵と戦う事は滅多にないが。)
その時に奴らがよく使う技がある。
どこで手に入れてきたのかわからない火薬を鉄片や釘と一緒に鉄の塊に詰め、紐を引
くと爆発するように細工したものを投げ付けてくるのだ。
ただ、火薬が極めて不安定な代物で、投げる前に爆発したり、また、ゴブリンが落とした
拍子に爆発する事も多かった。
そんな使用者自身も危険な物でもゴブリンたちは平気で使う。
だから───こんな大勢で、一斉に起爆させれば自分たちもただではすまないことなど、
彼らにとってはどうでもいい事なのかもしれない。
「伏せるんだ!!!」
382それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :05/03/13 12:57:05 ID:UZCZRL7U
それとも───最初から<自爆>するつもりだったのか。
ゴブリンたちは手に持っていた物を同時に足元へ落とした。
爆音がコンシュタットの乾いた大地を響かせた。
383 ◆yANtvXYFvY :05/03/13 13:04:55 ID:UZCZRL7U
以上です。
384既にその名前は使われています:05/03/13 14:15:28 ID:034Dnu1j
まってました〜!!
Very good です
ageageageage
385既にその名前は使われています:05/03/14 17:57:27 ID:lD8o4ZIy
あげるぞ
386既にその名前は使われています:05/03/14 18:54:01 ID:B/TIuyP3
僕は詩人、今日もジュノ下層の競売前で歌のネタはないかと
大勢の人混みを遠巻きに見回していた。

全身を青い装甲で身を固めたエルヴァーンの槍持ち騎士は、
なぜか胴だけは青い浴衣であった。

青い騎士の前にいたネコシーフが悪寒を感じたのか
しっぽを3倍にふくらませてガタガタ震えているのが
目に入ったが、周りの連中はこの混雑で気が付いて
いないようだった。

青い騎士は競売所で
「スシ。。。いや、やっぱ山串」と叫んで
数本の食料を購入してそこから去っていった。
残されたネコシーフはその場にぺたんと座り込み
後ろをしきりに気にしていた。

彼にはまた会える。僕はそんな気がしていた。
387既にその名前は使われています:05/03/14 19:05:18 ID:B/TIuyP3
ボクはウィンダスの連邦魔戦士をやっている黒魔道士のタルタルです。

彼を最後に見たのはクロウラーの巣でした。サンドリアの
青い騎士なんて初めてだったので、どきどきしていたの
ですが、彼が中を舞うと敵が恐ろしい勢いでボクに迫って
来るんです。

本当に怖かったです。ボクは白い騎士とすごく相性が良かったんですが
彼の動きには少しとまどいました。

しばらくして、釣り役のシーフさんが3匹つれてきて
しまったのでボクはエスケプを唱えました。
そうしたら青い騎士さんが飛竜といっしょに飛び上がったんです。

パーティが巣の入り口に脱出したとき、彼はそこにいませんでした。
彼がどこに飛んでいってしまったのか、ボクにはわかりません。
いまでもクロウラーの巣で彼は飛竜と共に戦っているのでしょうか。
388既にその名前は使われています:05/03/14 19:19:12 ID:B/TIuyP3
リーダーが狩り場を間違えたのニャ。

敵はとてばっかりで、おいしいとは言えなかったけど
ウチのサイドの命中はとびきり良かったので満足だったニャ。
ウチは息の合った幼なじみのネコシと開幕連携をばんばん
したんだけど、あの青い騎士にはおどろいたのニャ。

連携で残った敵にばかでかい槍をものすごい勢いで
5発もぶちかまして飛竜のブレスで削りきるのニャ。

おまけにウチがミスると、すかさずネコシに連携トスを
かましてくれるのニャ。あのTP速度はどうなってるのニャ?

おかげで、すごいテンポ早くてかなり稼げたのニャ。
お供の飛竜はすこしナマイキで好きになれないけど
あの青い騎士にはすこし驚いたのニャ。

みんなはリュウさんと呼んでいたけど、名前は覚えてないのニャ。
389既にその名前は使われています:05/03/14 19:31:48 ID:B/TIuyP3
ああ、見たよ。ほんとびっくりしたよ。

アレは要塞の地下で骨がリンクした時だったよ。
とにかくみんな死にたくないから、それぞれ
奥義の必殺技を使ったんだよね。

マイティストライク!ブラッドウェポン!
連続魔!魔力の泉!女神の祝福!

残念ながら、その時白さんが倒れてね。
でもなんとか乗り切ったんだ。みんなが白さんの
亡骸の前でお別れをしたんだけど、その時
振り向いたら、青い騎士さんがさ、血の涙を
流してるんだ。

青い鎧が真っ赤に染まるほど。。。誰も声を
かけられなかった。

彼を見たのはアレが最初で最後だったよ。
390既にその名前は使われています:05/03/14 19:51:31 ID:B/TIuyP3
これはラーアル様にも口止めされている話さ

召喚士の墓場って知ってるか?トライマライの
どこかにあるっていう墓場のことさ。
疲れた召喚士が青白い召喚獣と共に死にに来るっていう
んでオレは一目見ようとトライマライで張り込んだんだ。

来たんだよ。
でもよく見るとそいつらは青い鎧を着て、飛竜をつれていた。

亡霊のようにその青い騎士たちは、第7の院と呼ばれる
幻の扉の中に入っていったんだ。何人も何人も。

オレは恐ろしくなってその場をトンズラしたんだが。。。
竜騎士をヴァナで見なくなったのはそれからだよ。
391既にその名前は使われています:05/03/14 20:28:53 ID:KYyRHuZc
ガリネタ上ヶ
392既にその名前は使われています:05/03/14 21:06:28 ID:/ww9/Q7I
竜騎士最強wwwwかなり気に入りましたw
アゲと感想でした
393追われる者は:05/03/15 11:50:11 ID:IzrTh0Lg
0.序章

 後頭部に感じる、冷たい鉄の感触。
 頬をゆっくりと滑り落ちていく汗。
 それは、理不尽な死の感触。

 トリガーにかかる指に、奴が少しでも力を込めれば、それで全ては終わるだろう。
 それをしないのは、愉悦か。
 それが躊躇で無いことだけは確かだ。

 情けないことに、体は動かない。
 風が耳の奥でびょうびょうと啼いている。
 息を呑んでも、渇きは満たされない。

 思考をめぐらせる。
 逆転の一手を。
 手繰り寄せることができなければ、死ぬ。

 そう。
 まだ、終わるわけにはいかないのだから。
394追われる者は:05/03/15 11:51:12 ID:IzrTh0Lg
1.石の街に響く声
 両手で抱える麻袋の重さに、思わず笑みがこぼれそうになる。
 まぁ、自分の身長程はある戦利品を持っているのだから、街行く人に表情がばれる事な
ど無いのだが。
 元々、バストゥークにはタルタルが少ないのだから、誰かと視線が合うなんてことも無
いのだし。

 今回の鉱山巡りは、大収穫だったといっていいだろう。
 つるはし片手に鉱脈を回り、貴重な鉱石を掘り当てる。仲間内からは冒険者らしくない
鉱山夫だとか言われているけど、まだ多くの鉱脈の残る鉱山にはモンスターが徘徊してい
るため、一般の人は立ち入る事すらできない。
 つまり、これも立派な冒険者の仕事なのだと、僕はそう思っている。

 鉄鉱石などの安価な鉱石をギルドに売り払うと、幾分か身軽になった。残るは黒鉄鉱と
かの貴重な鉱石だ。ギルドだと足元を見られて安く買い叩かれてしまうため、競売所へ持
ち込むことにする。

 噴水を中心とした広間の先に、商業区の競売所はある。
 木製のカウンターの先にいるお姉さんに簡単な鑑定をしてもらい、希望落札金額とかを
書類に書き込む。あとは、誰かが落札してくれるのを待つだけだ。
395追われる者は:05/03/15 11:51:38 ID:IzrTh0Lg
 競売所は、冒険者の流通の中心だ。世界中を飛び回る僕らは、旅先で貴重なアイテムを
入手することも少なくないが、僕を含め、商才に関してはてんで駄目な人が多い。そこで
四国の政府が導入したのが、この競売所というシステムだった。

 このシステムは結構単純で、出品者があらかじめ希望落札金額を提出しておく。落札希
望者がその金額を上回る額を提示すれば、すぐにその品物を手に入れることができる。商
人達が一般的に行っている競売と最も違う点は、競合するのが落札者ではなく、出品者側
だという点だ。
 何故なら、同じ品物を出品していても、希望落札額が低い商品から売れる事になるのだ
から。物価の高沸を防ぐのが目的だというが、鉱石の目利きにはちょっと自信があるし、
一緒くたにされるのはちょっと納得がいかないなと、常々思っている。

 と、そんな事をいつものように競売のお姉さんに愚痴っていると、早速売れた商品があ
るそうだ。
 落札者の名前を見ると、この辺じゃ有名な職人さんの一人だった。
 この調子で出品している鉱石が全部売れれば、念願だった古代の魔法書を買う事もでき
るだろう。
 思わず口元が緩むのを我慢して、代金を受け取りに冒険者用の宿舎――モグハウスへと
向かう。すぐに輸送業者の人が、落札額を届けてくれるはずだ。
396追われる者は:05/03/15 11:51:56 ID:IzrTh0Lg
 露天商よりも元気な声を張り上げ、バザーを開く冒険者達の間を抜ける。二大陸の中心
に位置するジュノほどではないが、商業区はいつも人で溢れている。
 モグハウスへと向かう通りも、その例外ではない。視界を埋めるのは、ヒュームや巨躯
を誇るガルカの群集。足元に頓着しない彼らは、小柄な種族の僕らタルタルに気がつかず
に、蹴っ飛ばされる事も少なくない。
 その背中の群れに、僕はため息をつくと、裏道を行くことにした。少し遠回りだけど、
石の道を転がるには、まだちょっと寒すぎる。

 バストゥークの街並みは、成長著しい近代国家といううたい文句通り、ごつごつとした
風景に満ちている。家も道も石で固められているし、ちょっと表通りを外れると、鉱石の
黒い山が無造作に積んであったりもする。
 自然を愛し、共に生きる僕の故郷、ウィンダスとは大きな違いだ。モグハウスもどこか
無機質な感じがするし、この国に来た当事はなかなか寝付けなかった事を思い出す。
 だから、ここは傲慢に満ちた国だ。それはエルヴァーンの特権だと思っていたけれど、
僕らタルタルに言わせれば、ヒュームの無知さが作り出したこんな街並みのほうが、よっ
ぽど。
 だけど、お金を稼ぐにはいい街なんだよなあ。
397追われる者は:05/03/15 11:52:13 ID:IzrTh0Lg
 ぶつぶつと、そんな事を呟きながら、タイル上の道を歩いている時だった。目の前を進
む自分の影が、何か別の大きな影によって、覆われた。
 自分の何倍もあるシルエットの頭には、特徴的な耳がついている。それは、故郷ではよ
く見かけたもの。
 おそるおそる振り返ったそこには、東方風の衣装に身を包んだミスラ族の少女が、じっ
とこちらを見下ろしていた。

「アンタ・・・・・・クレオ、だね?」
 感情を押し殺したような、冷たい瞳と抑揚の無い声。いくらバストゥークの風に当てら
れたからといって、あの陽気なミスラ族が、こんな態度を取るとは、考えにくい。
 つまりこれは、敵意。
 自分の名前を呼ばれたからといって、思わず頷いてしまった事に後悔しながら。
「えっと・・・・・・どなた様?」
 とりあえず、そんな間抜けな声が、口から漏れていた。

「・・・・・・」
 答える気が無いのか、それとも、そんな事はどうでもいいのか、こちらの質問は黙殺さ
れた。二本の刃を引き抜きながら、彼女は口元に薄笑みを浮かべていた。
「え、えーっと・・・・・・」
 状況が飲み込めない。けれど、そんなことはお構いなしに、視界に二つの銀光が走る。
398追われる者は:05/03/15 11:56:36 ID:IzrTh0Lg
「う、うわわっ!」
 慌てて横へ身を投げ出すと、着地する音と同時に、石畳を叩く金属音が響いた。全身に
緊張感が走る。すばやく体勢を整えると、彼女が舌打ちする姿が見えた。
「ちょっと、避けるな!」
「そんな無茶な!?」
 理不尽だ。
 こんな理由も分からずに、真っ二つにされる趣味なんて無い。
 とりあえず抗議してみよう。
「ま、待って! 意味が分からない!」
「とりあえずアンタは斬られとけばいいの!」
 やっぱり理不尽だ。
 それじゃ、もう逃げるしかないじゃないか。

 じりじりと、彼女は距離を縮めてくる。
 僕の方はというと、気づかれないように、小声で詠唱を始めていた。
 体内を流れる魔力を編みこみ、イメージする。万物を司る八大要素の一つ、風を。
399追われる者は:05/03/15 11:57:00 ID:IzrTh0Lg
「覚悟ォ!」
 掛け声と、跳躍。迫ってくる彼女の姿。すんでの所で完成した呪文を、その名と共に、
解き放つ。
「エ、エアロガ――!」
 一瞬、全身から力が抜けていくような浮遊感と共に、突き出した両の手の平から爆風が
生じる。眼前にまで迫った刃が、中空へと押し戻される。
「あ"ー!?」
 なんだかよくわからない悲鳴を背に。
 僕はその場を駆け出していた。

続く
400既にその名前は使われています:05/03/15 12:28:25 ID:4eFg8pBF
hosyu
401名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/15 15:51:14 ID:9CvGY4dO
帰ってきたよage
402ブリジット ◆6acWblMBhM :05/03/16 00:06:22 ID:iSbZknNT
今また新しいの書いている最中
すごく頑張っているが、すごく長くて大変だ
なので息抜きに一つ気楽なの書きたい
今から書きまwwwwwwwwwwwwwww
403ブリジット ◆6acWblMBhM :05/03/16 00:13:52 ID:iSbZknNT
と、思ったが、やっぱり長編のほう進めることにする
早く仕上げたいしな
今日は何故か文字がノらないが・・・
昨日はいい感じだったんだが
404既にその名前は使われています:05/03/16 00:47:43 ID:iSbZknNT
質問なんだが、みんな、すげー長くなっても読む気する?
この調子だとすげーーーーーーーーー長くなりそうなんだが…
はぁ、疲れた…
405既にその名前は使われています:05/03/16 00:51:07 ID:bY3gFKY3
>403-404
期待してます!!!
406既にその名前は使われています:05/03/16 09:30:12 ID:Y+gctBEu
頑張って下さい。
407既にその名前は使われています:05/03/16 11:17:30 ID:Ssf+8Fdf
読むage
408既にその名前は使われています:05/03/16 12:44:00 ID:lPYkuRr7
ぜんぜん矢が当たんないわけよ。回避高すぎ。

まあ、当たんないよな。当たってもダメしょぼいし。

サイドよこせっての。■eまじムカツク。

まあ、その分HP多めだしいいんじゃない?

なんで弓WS撃たせないわけ?TP貯まってるのにさ。

まあ、ほら、お客様に楽しんでもらうためとか、そういうのだろ。

あ、来やがったよ、打ち合わせ通り途中でリンクよろしく。

OK弓ゴブ

弓ゴブ言うな!

あー今日もユタンガあっちいなあ。
409既にその名前は使われています:05/03/16 13:06:33 ID:lPYkuRr7
いとこがランペで古代魔法撃ってるらしいよってなにそれ?

アイスパ、追加ダメージ付くん。

へえ、いいねえ。

せっかくのパピルスしわしわになっちゃったよ。

パピならまだイイよ、おいらなんかアブゾなんとかだよ。

まあ最近はパピルスも捨てられたりしてるけどね。

階段のとこはあんま人こないし、暇だなあ、、ってまたアイスパ?

このヒヨヒヨヒーって音でも、あるとなごむ。

誰かこないかな。

ヒヨヒヨヒー
410既にその名前は使われています:05/03/16 13:15:04 ID:lPYkuRr7
ういっすー

あれ?ひとり?

うん、3人の方が心強いンだけど今日は1人。

今日はPTもいないし静かだよね。狩人ソロもいないし。

動けないからって、君狙われまくりだもんね、気の毒だ。

いやいやいや、ストンガ2とかけっこう反撃もすごいよ。

範囲外に逃げるヤツとかいるじゃん。アレむかつくな。

いいこと教えようか、実は俺たち全部地下でつながってるんだ。

え!マジ?

にょろにょろw
411既にその名前は使われています:05/03/16 13:27:16 ID:lPYkuRr7
先輩先輩、あいつなんスか?あいつ。

ん?ああ、あいつはタルタルってやつだよ。

なにしてるんスかね

俺たちのリーチキング先輩の沸き待ちだな

えー、アーガスんとこじゃないんスか?

バッカ、おまえあんなん目じゃねえよ、バッカ

あ、先輩、仲間殴られましたよ?行きます?

行くぞ、オラ、行くぞってうえっ、あおっ、ぶぎゅる

やっぱガ系強いッスね。

精霊ズリいよな
412既にその名前は使われています:05/03/16 13:50:26 ID:lPYkuRr7
え?何?ずっと出ていられんの?

うん、ご主人の装備で消費MPが相殺されてるんだ

えー、じゃあ2Hアビのおいらの立場無いなあ。

いやあ、死んでも休憩ないし、けっこうきついよ。

でもかなり活躍してるみたいじゃん、イイ噂聞くよ。

ほかの連中はね、おいらは、ほら、マスコットみたいなもんだし

でもボクらMBがあるじゃんw獣には無いMBがw

MBいいよねwえへへMBw

あ、白さんトイレから戻ったみたい。

じゃ、いきますか。
413既にその名前は使われています:05/03/16 14:15:14 ID:lPYkuRr7
夜待ち?

んー、昼のうちに衣を血で染めとこうとおもって

お、次で出すんだ

まー衣目的のヤツも少なくなったけどね

おれも次で髪飾り出すかな

また外人が売りますシャウトしそうだなw

アレむかつくな。

お、だいぶ沸き待ち増えてきたな

よーし、じゃ、行ってくるわ

いてらー、ってあいつ髪飾り忘れてるよ
414既にその名前は使われています:05/03/16 16:24:40 ID:wQURsCfx
あげ
415既にその名前は使われています:05/03/16 19:26:39 ID:Ssf+8Fdf
>403−413
今までと違う視点で新鮮でなかなかGood
416既にその名前は使われています:05/03/16 20:28:06 ID:lPYkuRr7
うはwカーくんw

かわええ〜w

あ、バカ、行くなって!

あー行っちゃった、一人で行くとやられるっつーの。

行くならみんなで行こうぜ

またキタwカーくんw

かわええ〜w

連れて帰りたいな〜

あー、また一人で行っちゃったよ

だから、行くならみんなで行こうぜ!
417ブリジット ◆6acWblMBhM :05/03/16 20:36:32 ID:iSbZknNT
うむ
いいセンス
漏れも頑張らねば
すげー良いイラストも書いてくれたしな・・・
418名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/16 20:44:28 ID:8kugFSEA
>>403-404
期待してますyp!

>>408-
やべぇこういうの好き(*´д`*)
419既にその名前は使われています:05/03/16 20:48:56 ID:flg/cjni
  ∩∩ ぼ く ら の 旅 は こ れ か ら だ !  V∩
  (7ヌ)                              (/ /
 / /                 ∧_∧            ||
/ /  ∧_∧     ∧_∧  _(´∀` )   ∧_∧   ||
\ \( ´∀`)―--( ´∀` ) ̄      ⌒ヽ(´∀` ) //
  \       /⌒   ⌒ ̄ヽ、童貞 /~⌒    ⌒ /
   |      |ー、      / ̄|    //`i ヒキ  /
    |フリーター | |ニート / (ミ   ミ)  |    |  
   |    | |     | /      \ |    |
   |    |  )    /   /\   \|       ヽ
   /   ノ | /  ヽ ヽ、_/)  (\    ) ゝ  |
   |  |  | /   /|   / レ   \`ー ' |  |  /

     FINAL FANTASY XI 〜プロマシアの呪縛〜
                       SQUARE ENIX.
420既にその名前は使われています:05/03/16 21:13:20 ID:lPYkuRr7
ウビ?(なに、どうしたん?)

ウビビビ(よけられたよ一撃)

ウビビw(まあ、よくあることじゃんw)

ウビビビ(いや、スーパージャンプだよ)

ウビビw(竜騎士かw)

ウビビビ(しかも、スーパークライム)

ウビ!(小竜にもか!)
421既にその名前は使われています:05/03/17 12:39:58 ID:kKg359O3
hosyu
422既にその名前は使われています:05/03/17 18:45:44 ID:kKg359O3
あげ
423名無しさん ◆V00/Phqsn. :05/03/18 18:09:10 ID:R5wshXy8
いい加減あげとくか
424119 ◆N4hISqu3ag :05/03/19 03:30:23 ID:xHwcuh66
425119 ◆N4hISqu3ag :05/03/19 03:31:07 ID:xHwcuh66
 Boboはまだ歌っている。客たちは静かにささやきあい、この巨人の歌に
聴き入っていた。やがて巨人は歌い終わり、頭を下げた。店内からまばらに
拍手がおこる。巨人は旅人の帽子をさかさにして、テーブルをまわる。
ほとんどのテーブルで小銭をもらい、私のもとへ戻ってきた。
「おはよう。よく眠れたかい」
とBoboは言った。
「ええ」
と私は答えた。私とBoboは店を出た。Boboが店員に旅人の帽子に
入っていた小銭をわたして。
 1人も人とすれ違わない深夜の道を2人は歩いていく。
「女神がいるとかいないとかどうでもいいと思う」
「そうかねぇ」
426119 ◆N4hISqu3ag :05/03/19 03:31:46 ID:xHwcuh66
「強くなりたい。私は強くなりたいの」
「どうして?」
「守りたい」
「誰を?」
「好きな人達を」
「きみはじゅうぶん強いと思うなぁ」
「弱いよ私は」
 Boboは芝居がかかった物言いで私をからかう。
「いきすぎた欲望は身の破滅を導くのだよSuiro君」
「もう一軒いこう」
と私は言った。Boboはうなずいてみせた。
「Roselに女神はいないなんて言ったらどう言い返すのかな」
と私はグラスに注がれたシェリー酒を見つめながら言った。
「怒らずにほほえむだけだったろうねぇ。彼の信仰心はとても強かったから」
 狭い店だ。カウンターのみで6席しかない。Boboは窮屈そうに身をかがめ
ながら席についている。その様はまるで酒樽が椅子の上に乗っかっている
ようだった。
 酒樽は話を続ける。
427119 ◆N4hISqu3ag :05/03/19 03:32:16 ID:xHwcuh66
「しかし誤解を恐れずに言うと、女神は確かに在るんだな」
「それってどういうこと?阿呆な私にもちゃんとしっかりと説明して欲しいな。
単純にからかっているんじゃなければね」
「からかってはいないなぁ」
「じゃあ、どういう事なのかな。女神は心の中にいる、ってこと?」
「そのような考え方もあるけれど。Roselもそうだけれど、サンドリアンは身の外に、
女神を確かに見出している」
 Boboは葡萄酒を口に含んで目を閉じた。よく飲む巨人だ。本当に酒樽のようだ。
428119 ◆N4hISqu3ag :05/03/19 03:33:30 ID:xHwcuh66
「『奇蹟は身近な生活の場に宿っている』。普通奇蹟という言葉で思い描くのは、
死者を蘇らせたり、海を割ったりすることだろう。これは正しくはない。
社会で生きる中で多くの奇蹟を実感しているんだな。今酒が飲めることも、
隣に美しい侍がいることも、今日の商談がうまくいったことも、そして夜空が
綺麗なことも、すべて女神の御心なんだよ。つまり、女神は奇蹟を起こせる
から女神なのではなく、人々が自発的に奇蹟を感じるからこそ女神なのだよ。
この奇蹟の<秘密>に、信仰する人は気がつかない」
「ようは心の中にいる、ってことでしょ?」
「それとは微妙に話が違うんだなぁ。女神を、というよりも、真理を、と言ったほうが
正しいのかなぁ。真理を、その身の内か外かどちらで見出すのかで教義的に全く
別物になってしまうんだ。サンドリアンで女神を内に見出す試みをしていた宗派が
あったのだけれど、うまくいかなかったんだよ」
「とにかくRoselに聞いてみたいよね」
「まぁ」
 Boboはにやりとしながら言う。
「聞くことはかなわないねぇ。なぜなら彼は楽園の扉を開けてしまったのだから」
「そういう不謹慎な言葉は嫌いだな」
と私は言った。
429119 ◆N4hISqu3ag :05/03/19 03:41:11 ID:xHwcuh66
>>329
変えたいというよりも、文体をもっと淡白な感じにしたいんです。
こう・・・なんと言えばわからないのですけれど。

>>329
ありがとうございます。とても参考になります。

◆V00/Phqsn.氏
そうですかねぇ。このままでもいいんですかねぇ
430既にその名前は使われています:05/03/19 18:28:55 ID:xwmb+Lwi
119さんの話はなかなか難しいですねぇ
って俺だけかわからないのは!
431既にその名前は使われています:05/03/19 18:34:19 ID:JLGi4/UG
119さんのはなしは
主役の雑誌編集者がウィンダスから出るあたりまでよんでたお!
最近のは読んでないけど続きがんばってほしいお
432既にその名前は使われています:05/03/19 19:14:39 ID:qyjCB6Dq
>>429
淡白かどうかで言えば、今のままでも十分淡白な感じになってますよ。
極限まで淡白にしたいのなら会話以外の文に余計な言葉を入れないとか。つまり比喩とか例えとか。
でも淡白ってどういう事だろう…読者が感情移入しづらければ淡白?
会話以外がほとんど、誰が何を言ったとか、何をしたとか、そういう説明だけだとしたら、淡白かな?

>>430
私はなんとなくわかるけど、ちゃんとわかるわけじゃない、って感じですかね。
「あー、なんか雰囲気はわかるけど、上手く言えない」みたいなw
433既にその名前は使われています:05/03/20 14:12:25 ID:22hyskzs
気合のage
434既にその名前は使われています:2005/03/21(月) 19:44:52 ID:+CrXWIGu
ほしゅれ
435既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 10:27:12 ID:1oVzXaUK
<私の騎士さま:脱力系読み切り>

「おけがはありませんか」
ひあー、かっこいいです。この白い鎧は王国の騎士様でしょうか。

「た、助けてくださってありがとうございました」
た、大変です、私ったら腰が抜けて立つことが出来ません。

「さ、ボクの手に捕まって」
私を軽々と持ち上げる騎士様。オークも恐れるハズです。

「この荷物は?」
「の、野兎のグリルです。砂丘に行商に行こうと」
「砂丘へ君一人でかい?半日はかかる距離だよ」
なんてことでしょう、知りませんでしたー。

「それにラテーヌは道沿いにオークが出て危ないよ」
ああー、私ったらなんてバカなんでしょうー。
436既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 10:27:29 ID:1oVzXaUK
「ひっく、わ、わたし、得意の料理で商売しようと、」
私ったら料理が得意だなんて騎士様にウソを付いてしまいました。
そうしたら急に涙があふれてきて、止まらなくなってしまいました。

「でも、サンドリアだと赤字になっちゃうので、、ひっく」
騎士様はやれやれって顔をしています。私ったらもう、恥ずかしい。

「ふふ、さ、涙を拭いて」
「ボクが砂丘まで送って差し上げますよ」
ええーっ、なんて事でしょう。まるで夢のようです。

「よ、よろしいのですか?」
「王都の民を守るのが、私の使命です、この大剣にかけて!」
わ、私ったら玉の輿ですかー、いえ、考えすぎです。

「あ、あの、お礼にこの野兎のグリルを。。」
「心づかいありがとう、でも、騎士は山串しか口にしないのです」
私ったらまた恥ずかしい。そんなことも知らずに。
437既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 10:27:48 ID:1oVzXaUK
「さ、日が暮れる前にラテーヌを抜けましょう。」
「はいー」
私はカバンいっぱいの野兎のグリルを背負って、シーフのような
スピードで走る騎士様を夢中で追いかけたのでした。

おしまい
438既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 11:21:29 ID:1oVzXaUK
<私の騎士さま2:脱力系読み切り>

「!?」
地面が揺れています。何事でしょう?

「暴走羊だ!さあ、ボクの後ろへ!」
あわあわ、あんな大きな羊が迫ってきます。
というかタルちゃんが踏まれて戦闘不能になっていますー。
騎士様一人で立ち向かって大丈夫なのでしょうか。

「あたしの獲物ニャ」
「狩人は黙っていろ!これは騎士の仕事だ!」
騎士様一人で攻撃を受けて、、凛々しいですわ。
でも騎士様かなりのダメージを。。
私に回復魔法が使えたら良かったのに。

「聖なる刃:ホーリー!」
騎士様の魔法が羊に当たりました。すごいです騎士様。
「HP黄色なんだから自己ケアルしろニャ」
439既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 11:22:17 ID:1oVzXaUK
「咆えろ大剣:パワースラッシュ!」
あんな大きな剣を軽々と!騎士さまっファイトです!
「片手でウィズイン使えニャ」

「くう、MPが。。しかし負けん!」
騎士様!チャチャチャ!騎士様ちゃちゃちゃ!
「ホーリーなんか撃ってるからニャ」

「うおおっ!不意打ち!だまし討ち!」
様々な技を繰り出す騎士様、こんなすごい戦闘始めて見ました。
「意味無いニャー!」

やりました!私の騎士様が勝利しました!
あ、「私の」だなんて、、。でも、騎士様は私を守るために。
女冥利に尽きますわ。
440既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 11:22:53 ID:1oVzXaUK
「タルをレイズしてあげろニャ」
「わかっている、アルタナの蘇生魔法をつかうさ」
聞いたことがあります。アルタナ様に見初められた
聖なる者しか使えないという蘇生の秘術。

騎士様は膝をついて天を仰ぐと、ヒーリングのために
精神を集中し始めました。いまは、話しかけちゃいけませんね。

小一時間たったでしょうか、騎士様の祈りはまだ
続いています。私ったらほんと役立たずではずかしい。
「タル帰ったニャ」
「蘇生してもここは危険が多い、それが正解かもしれんな」
「ヒーリング長すぎニャ」
441既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 11:23:09 ID:1oVzXaUK
「さあ、行きましょう!ボクはいつでもあなたの盾になります」
「あ、待ってください騎士様!」
私は夕暮れのラテーヌで、シーフのようなスピードで走る騎士様を
追いかけて夢中で走ったのです。

「脱力ニャ〜」

おしまい
442既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 11:53:44 ID:1oVzXaUK
<私の騎士さまその後:脱力系読み切り>

ロンフォールでオークにおそわれていた少女を
無事セルビナへ送り届けた私は、途中出会った
様々なモンスターの魔の手から彼女を守り抜く
ことが出来て満足していた。

王都へ向かうつもりが、ちょっとした気まぐれで
セルビナに来てしまったので、釣りでもしようと
私はマウラ行きの蒸気船に乗り込んだ。

いつものように甲板から糸を垂らすと、いきなり
ものすごいアタリが来た。右へ左へと竿を引っ張り
私は面食らった。戦闘サウンドまで鳴っている。
443既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 11:54:01 ID:1oVzXaUK
私は苦闘の末ついに勝利した。つり上げた相手は
「海苔」だった。この黒い海草が海中で暴れていたか
と思うと、なにやら感慨深いものがある。

マウラに着くと私はその海苔とみそでスープを
作った。鮮やかなグリーンになった海苔は大変美味
であった。
海底を支配する格闘家、「パムタム海苔」たちに乾杯!

天晶967年 アザミノ・タマプラーザ
444既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 15:12:45 ID:1oVzXaUK
<私の騎士さまストライクスバック>

「あ、あんたあのナイトと一緒にいた行商の人?」
「すみませんー、助かりました」
私ったら、サンドリアに戻る途中また砂丘でゴブリンに
絡まれてしまったのです。

「自爆するから離れれてろニャ」
狩人さんに助けて頂かなかったら、今頃私はどうなって
いたでしょうか。感謝ですー。感謝ですー。

「私目が悪くて夜は苦手で」
「じゃあ、ロンフォまで送ってやるからついてくるニャ」
あー、何というありがたいお言葉。セルビナで売った
野兎のグリルの代金をこんなところで失いたくはありません。
445既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 15:18:33 ID:1oVzXaUK
「あたしは夜目も利くし、広域サーチもあるからニャ」
ああ、私にもそんな能力の一つでもあれば、セルビナまで
一人で行商に行くことが出来るのに。

「絡まれたら@で合図ニャ」
「@」「@@」「@@@」
「あんた絡まれすぎニャー!」
「ごごごごめんなさいーーー」
6匹のオークに追いかけられた私ですが、狩人さんは
弓矢でばたばたと倒していきます。なんて強い方なんでしょう。

すると

「まてーーーーい!ボクが相手だ!」
「騎士さま!来てくださったんですか」
「そういうなら挑発でもしてみろニャ」
446既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 15:18:52 ID:1oVzXaUK
「さあ!ボクのうしろに!」
騎士様、私を見守ってくださっていたのですね。
「かばうならPT入れニャ」

「魂の叫び:ホーリー!」
ああ、オークたちを次々と倒して、なんて心強いんでしょう。
「また初っぱなホーリーニャー!」

「あっはは、オーク共など練習以下さ」
騎士様、なんとお礼を申し上げて良いか
「AFがラテーヌで本気だすなニャ」

「さ、お嬢さん、ボクが王都まで護衛しますよ」
「まあ、騎士様。ありがとうございます」
騎士様がいれば、安心ですわ。でもどうして騎士様はここに?
ひょっとして私を気に掛けてくださっているのでしょうか?
むふふw
「ポカーンなのニャ」
447既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 15:19:29 ID:1oVzXaUK
「さあ、行きましょう!ロンフォールはすぐそこですよ。」
「はい、騎士様」
月明かりのロンフォールを、まるでシーフのようなスピードで
走る騎士様を追いかけて、私もサンドリアを目指すのでした。

「仲間がいるのにとんずらすニャよ!」

おしまい
448既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 17:48:50 ID:pCHBu2Q/
内藤様ワロスwww
つぼにはまりましたw
449既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 18:40:14 ID:NI45Ly79
450既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 19:33:28 ID:1oVzXaUK
<私の騎士さまクロ巣編>

「本当に助かりました」
「いえいえ、無事で本当に良かった」
「あ、あなたは!」
この白い鎧、サンドリアの騎士様!

「この辺はクウダフが出て危ないのですよ」
「のどかな風景に見とれて私ったら。。。」
ロランベリーでクゥダフにおそわれているところを
また、あの騎士様に助けて頂きました。

「今日はどちらへ?」
「ロイヤルゼリーを取りに行けないかと。。」
そうです、私は料理の修業中。特性のお鍋を手に
入れるためにロイヤルゼリーを求めてここまで来たのです。
451既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 19:33:46 ID:1oVzXaUK
「あの蜂の攻撃は騎士でなければ持ちこたえられませんよ」
「私がお手伝いしましょう」
「まあ、本当に!感謝の言葉もありませんわ」
思いも寄らない騎士様のお言葉に、感謝感激です。

「おやクロ巣の入り口が騒がしいですね」
「どうしたのでしょうか」
クロウラーの巣と呼ばれる洞窟の入り口は
負傷した冒険者であふれかえっていました。

「S芋がリンクして大トレインさ」
「入ったら即死、芋もなかなか戻らないし」
「あんたらも気をつけた方がいいよ」

まあ、なんて恐ろしいところなのでしょう。
こんなところに一人で来ようなんて私ったら。
452既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 19:34:02 ID:1oVzXaUK
「蜂は入り口付近です、問題はないでしょう」
「さ、ボクの後に付いてきて」
「わ、わかりました」
私は騎士様の後をおそるおそるついていきます。

中では負傷した冒険者をケアルする人や、蘇生する
ひとでいっぱいでした。あの大きな虫がこんなに
凶暴だなんて。。

「いました、いました。あの蜂ですよ」
「まあ、あれがロイヤルゼリーを落とすという」
「練習です、まとめて行きましょう」
「かかってこい!バニシュガ!」
453既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 19:34:25 ID:1oVzXaUK
大ババ様から聞いた「大海嘯」を見た気がしました。

私は後ろからぜまりくるものすごい数の蜂と芋に
追われ泣きながら騎士様の後を走っていました。
前方にはまだ、回復している冒険者たちがたくさんいます。
シャウトで知らせたかったけど、今走る以外の事をしたら
芋の大群に飲まれてしまいます。
「あひ、あひ、腰が。。足が。。うえ〜ん騎士様あ」

「加速装置!」
騎士様がどんどん見えなくなります。私は負傷した
人たちの間を号泣しながら駆け抜けました。
後ろで悲鳴が聞こえますが、振り返ることもできません。
背中に芋の気配がしたしたとき、私は巣から出ることが
できました。
454既にその名前は使われています:2005/03/22(火) 19:35:15 ID:1oVzXaUK
そして、巣から誰も出てくることはありませんでした。

「無事でしたか」
「騎士様!」
「いまは危険だ入らない方がいい」
「は。。はひ、ぐすん」

「ここのトレインはよくあるんだ、気をつけた方がいいね」
「えぐえぐ、、えぐ」
「ボクはこれからバイトの夜勤なんで、これで」
そういって騎士さまは、デジョンという移動魔法で帰って
行きました。

私は、半べそでトボトボと夕暮れのロランベリーをジュノに
向かって歩いたのです。

おしまい
455既にその名前は使われています:2005/03/23(水) 07:56:30 ID:jWki5azl
hosui
456既にその名前は使われています:2005/03/23(水) 18:18:43 ID:jWki5azl
保守しますよ
457既にその名前は使われています:2005/03/23(水) 18:19:41 ID:YIWHlRhr
海苔が暴れて感慨深いワロスwwwww
458既にその名前は使われています:2005/03/24(木) 08:47:35 ID:6XUJGnnJ
保守
459既にその名前は使われています:2005/03/24(木) 12:39:49 ID:09qbWPDK
ほしゅそしてほしゅ
460既にその名前は使われています:2005/03/25(金) 04:51:35 ID:TNaDpUh+
保守
461既にその名前は使われています:2005/03/25(金) 16:36:31 ID:owRkborH
ほしゅ
462既にその名前は使われています:2005/03/26(土) 07:54:03 ID:GcT6cnrd
保守まんとがわお料理学校キャッシー塚本先生age
463 ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:01:51 ID:EhkSb1qM
前回>>376-382
今回はいつもと違うPCでアップしてるのでトリップがちゃんとなってるか心配ですが…
いきます。
464それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:03:51 ID:EhkSb1qM

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

日は既に暮れ、街には街灯の光が灯っている。
営みの光。
人が生きている証。
静かになった病室で、ハルは壁に背を預けながらベッドの上に座っていた。
「これからどうするか、だな……」
モンブロー医師には、あと一日は入院していろと言われた。特に反対する理由もないの
で大人しく従う事にした。グランが帰ってくるまでする事はなかったが、帰ってきたからす
る事が出来たわけでもない。
ハルは手に持った鈴を眺めていた。
「なんなんだろうな、これは。」
独り言は壁に吸収されていき、すぐにまた静寂な空間に戻る。外も、この近くには競売と
教会しかなく、さすがにこの時間は客や礼拝に向かう人も少ない。自分の鼓動の音すら
はっきりと聞こえるような静けさ。まるでこの辺りの音が全て何かに喰われてしまったか
のようだった。
ハルの鞄はグランが持ってきてくれた。医師が預かっていたそうだ。
その鞄から取り出した黄銅の鈴。『自分じゃない自分』が受け取って鞄にいれたもの。
普通の鈴にしか見えないが、なんらかの秘密があるのは確かだ。
465それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:04:36 ID:EhkSb1qM
───あの殺気。……あれはゴブリンのものとは違う。もっと、心の奥まで抉るようなド
ス黒い何か。あれは一体……?
思考は静寂を破るノック音に中断され、ハルははっと我に返った。
「どうぞ。」
医師が来たのかと思ったが、扉の先にいたのはシャミだった。前と同じように種族装備
を身に纏っている。包帯も巻いていない所をみると、傷はもうすっかり治ったようだ。
「元気そうだな。よかったよ。……どうした?こんな時間に。」
扉を閉めてから、彼女はそこに突っ立ったまま動かないでいる。
「えーっと、その、ちょっと顔を見に、ね。」
「そっか。まあ、とりあえず座りなよ。」
「うん……」
彼女は椅子をベッドの横につけると、そこに座った。
「………」
「………」
人が一人増えたというのに、部屋はまた静かになってしまった。シャミはなんとなくモジモ
ジしてて、何か言おうとしているのはわかるのだが。わざわざこんな時間にくるほどの用
だ。重要なようなのだろう。話しにくいのかもしれない。しかし───
───らしくないな。言いたい事があったらはっきり言う娘だと思ってたけど。
それからも少しの間沈黙が続いた。が、このままじゃ埒があかないと思ったのか彼女は
意を決したように顔を上げると、口を開いた。
466それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:05:30 ID:EhkSb1qM
「あ、ありがとう。」
「え?」
思わず聞き返してしまった。
「……あんたが爆風の盾になってくれたから、ウチらは軽傷で済んだんだ。でも、それで
あんたは大怪我を負っちまった……。ごめんっ。」
ハルは少し呆気にとられていた。彼女はそれ以上何も言わず、彼の様子を窺っている。
───て事は、これが用事か?
「別にいいよ。謝る必要は無い。俺は君らを護りたかっただけだから。」
「でも───」
まだ何か言おうとする彼女を、ハルは手で制した。
「やめろって。まだ言うなら、もう護ってやんないぞ?」
ハルは意地悪い顔をしながら彼女にそう言った。それでも、彼女がまだ気にしている様
子を見て取ると彼は言葉を加えた。
「そんなに気になるなら、今度は君が俺を助けてくれればいい。別に俺じゃなくても、困
っている人を助けてあげてくれれば、それでいい。……そういうもんだろ?冒険者って
のは、さ。」
彼の笑顔に、彼女も毒気を抜かれてしまったようだ。きょとんとした顔を見せたかと思
うと、次第にその顔は和らぎ、遂には笑い出した。
「くくっ、あはははは!なんだ、気にしてたのはウチ一人だけか。馬鹿だねぇ……」
はあ、と一息つくと、彼女の顔はまた悲しみを湛えたものに戻ってしまった。
467それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:06:15 ID:EhkSb1qM
「……実を言うとさ。」
彼女の態度に神妙なものを感じたハルは、口を噤み黙って話に耳を傾けた。
「……あんたが怒ってると思ったんだよ。」
「どうしてそんな……」
「だって!」
彼女は声を張り上げた。
「だって、いきなり声かけて、これだろ!?運が悪ければ死んでた!普通怒るだろうさ!!
……なのにあんたは、助かってよかったと笑うだけだ。……なんで?もし怒ってる事を隠し
てるなら、隠さなくていい。もっと罵ってくれていいのに……」
シャミの声は少し震えていた。そこには、ハルが思っているような気の強いミスラの女はい
なかった。
彼女は自分自身に腹を立てている。パーティに危機を招いた自分の不甲斐無さを悔やん
でいる。無力さを嘆いている。だから、ハルに自分を叱咤して欲しい気持ちがある。
だが同時に、それと相反する気持ちも存在している。自分が嫌われていないか不安でた
まらない、普通の女の子の気持ち。人として当然の想い。
自分を罰したい。嫌われたくない。片方が存在する限り、もう一方は成立しない。矛盾す
る二つの感情の中で、彼女は苦しんでいた。
膝の上で握り締めた拳に一滴の雫が落ちる。
「……さっきも言ったけどさ。」
ハルは微笑みかけ、俯いたままの彼女の頭を撫でながら優しく言った。
468それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:12:04 ID:EhkSb1qM
「俺は君たちが生きてただけで嬉しいんだよ。あれは俺がやりたくてやっただけだ。怪我し
たのも、自分の行動の結果だ。悔いは無い。怪我したくなかったら、君らを置いてとっくに
逃げてたよ。そうしなかったのは、君らを護りたかったからだ。そして実際に護る事が出来
た。まあ、傷を負った人もいるけどさ……でも、俺は自分がやりたい事をやって、成し遂げ
た。なんで怒る必要があるのさ。」
彼女がゆっくりと顔を上げたので、ハルは微笑みながら言った。
「だから、気にしなくていい。それよりも、みんな無事だった事を喜ぼう。な?」
ハルがそう言うと、シャミは少し躊躇いながらも、やや紅潮した顔をハルに向けてにっこり
笑った。
ハルも笑みを返す。すると突然、彼女が抱きついてきた。
「うおっ。お、おい!?」
露出の高い種族装備だ。ハルも今着ているのは肌着とズボンのみで、肌と肌の触れ合う
感触がアシュレイの時の比じゃなかった。豊満な胸が、柔肌が、ハルの神経を刺激した。
「あんたが生きてて……よかった……」
引き剥がそうとしたが、彼女が呟いたのを聞いて動きを止めた。
「よかったぁ……」
子供のように泣きじゃくりながら、彼女はハルを更に強く抱きしめた。強く、彼をもう離さな
いかのように。
「……ゴメンな。だからもう……泣くなって。」
ハルもまた彼女を優しく抱きしめ返した。優しく、親が子をなだめる様に。
469それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:12:45 ID:EhkSb1qM
皮膚から伝わる彼女の体温が、人の温もりが、温かかった。
何時しか彼女も泣き止み、部屋には静寂が広がっていた。

時は少し遡る───
「それじゃ、失礼しますね。」
「ああ、わざわざ来てくれてありがとう。」
「いえ、そんな。」
話を終えた頃にはもう日も暗くなっていた。
アシュレイは帰る事にし、グランは少しだけハルと話があると言って残った。
「いい子だな。」
彼女が部屋を出て行くと、グランは静かに話し始めた。
「そうだな。」
「お前には勿体無いくらいだな。」
にやりと笑ってハルの方を見る。彼は時々こういう顔をする。この顔をする時はきまって意
地悪い事を考えている時だ。
「別に、俺とは関係無いだろう。」
「そうかな。彼女はお前を気にしていたぞ?」
「それは単に───あ。」
ハルは何かを思い出したように、声をあげた。
「そうだ。彼女に話を聞くの忘れてた。……まあいいか。話しにくそうだったし。」
470それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:13:53 ID:EhkSb1qM
「なんのことだ?」
グランは窓の外に向けていた視線を移し、ハルの方を見た。
「彼女が俺を誰かと間違えた。それだけだよ。俺を気にしてたのもそのせいだろ。」
「ほう?」
「いきなり『ハル』って呼ばれてさ。面食らったよ。顔に覚えはないし、なにより自分を助けて
くれた人が急に、だからな。でも次に出てきた単語は『ハロルド』だった。」
間違い無く正確に思い出そうとしているように、ハルはこめかみに手を当て、考え込む仕草
をした。
「『ハロルド』の愛称は『ハル』だな。」
グランが補足するように言った。
「しかし、偶然ってのもあるもんだな。彼女も、同じ名前だとは思わなかったろう。」
そうだな、と、ハルは気の無い返事を返す。
「どういう関係だろうな。」
「知らないよ。……でもまあ、愛称で呼び合う仲って事は確かだろ。」
彼は少し嘘をついた。
彼はあの時の彼女の雰囲気から、『ハロルド』が、彼女にとって普通の存在ではない事─
──少なくともただの友達以上のものである事が想像できた。
しかしその事は言わなかった。
そして彼女の言葉も。
『無事だったのね』
471それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:14:27 ID:EhkSb1qM
「まあ、間違えただけでもなんでもいいがな。……逃がすなよ?」
にやにやしているグランに、ハルは首を振って答えた。
「だから、俺のものじゃないって言ってるだろうが。それより、話ってなんなんだよ?早くし
てくれ。少し疲れたからそろそろ寝たい。」
わざとらしく、大袈裟に伸びをした。
「もういい。」
「───はあ?」
欠伸を途中で噛み殺したため、少し間の抜けた声になってしまった。
「今、なんて言った?」
「俺の話は済んだ。……じゃあな。」
それだけ言うと、彼は早々に部屋を去って行った。
「あ、おい!……なんなんだ、あいつ。」

「アシュレイ?」
「え?……あ、グランさん。」
ハルの部屋を出た後、モンブロー医師と少々雑談をしてから医院を出たグランの目に映っ
たのは、競売を眺めていたアシュレイだった。
「まだいたのか。」
「───あ。もうこんな時間……?」
472それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:15:10 ID:EhkSb1qM
あはは、と言いながら照れ臭そうにしているアシュレイを見ると、グランも思わず笑ってし
まった。
「まあ、また会ったのも何かの縁だ。時間はあるか?もしよかったら一緒に食事でもしな
いか。まだ食べてないんだろう?少し話したい事もある。」
「えと……そうですね。行きましょうか。どこにしますか?」
「モグハウスの食堂は安いけど、味はイマイチだからな……。下層の酒場にでも行くか。」
モグハウスというのは、コンクェスト政策の一環で冒険者に無料で支給される専用の宿舎
だ。自分専用のものは自国のみに置かれ、他国では手続きをしてレンタルハウスを利用
する事になる。
無料である代わりに制限も多い。例えば、他人を泊める事は勿論、部屋に入れる事すら
できない。他にも制約はたくさんある。
居住区には、部屋以外にも食堂や、公衆浴場などもあった。まあ、こちらは無料ではなく、
料金を取られるのだが。
その国のモグハウスを利用している冒険者が皆使うのだ。食堂も浴場も、とにかく広い。
また、料金を取られると言っても、これがかなり安い。生活費で圧迫されて冒険ができな
いという事がないようにするための配慮だそうだ。ただ安い分、浴場はともかく、食堂の
飯の味は、他の飯屋や酒場に比べるとかなり落ちる。だが聞く所によるとこれはわざと
そうしている部分もあるようだ。確かに、安くて美味い食堂があれば、誰もわざわざ他の
場所で食べようとは思わないだろう。
473それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:21:14 ID:EhkSb1qM
ここ、ジュノ大公国は他の三国から冒険者が集まる。食堂や浴場の広さも他国とは段違
いだった。その分、飯の不味さも他の国より優っているのだが。それでも、金のない冒険
者にはありがたく、今日も食堂は冒険者で溢れかえっているだろう。グランもハルも、一
人の時はよく利用していた。
下層の『吟遊詩人の酒場』はなかなかの人気だった。その名の通り、吟遊詩人が多く集
まるのだが、それ以外の客もよく訪れていた。他の店と違い、タダで詩人の歌が聞ける
事が多いのが人気の理由だ。
店の中は詩人の歌声が響き渡り、人々の談笑の声と混ざり丁度良く賑やかだった。
二人は空いているテーブルに適当に掛けると、注文をした。
「とりあえずビールと、マトンのローストをもらおうか。あとアイアンパンと、卵のスープを。」
「私は、ミルクと、ボスディン菜のソテーを下さい。」
注文を取りに来たウェイトレスはさっさと厨房に戻ると、また別のテーブルの注文を取りに
行った。
「酒は飲めないのか?」
早々に運ばれてきたビールを飲みながらグランは訪ねた。
「飲めない事はない、と思います。けど、飲んだ事なくて。」
アシュレイはグラスを両手で持って、ミルクを口に入れた。ほうっと息をつく。
彼女は周りを見回してみた。やはり、酒場だけあって男性客が多い。他にも食事処はある
のだが、それはここよりも居住区から離れている。上層の医院から下層のここまで来るの
にもそれなりに時間がかかる。これ以上遠いのは避けたかった。
474それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:22:21 ID:EhkSb1qM
ふと、彼女の他にも女性客がいるのが目に入った。6人掛けのテーブルに、女性が4人。
男性ばかりの酒場で、なかなか晴れやかだ。その中の一人と目が合いそうだったので慌
てて目を逸らしてしまった。
そうこうしているうちに、料理が出てくる。
グランの頼んだマトンのローストから、香ばしいガーリックとマージョラムの匂いが漂ってく
る。肉の臭みを消し、食欲を誘う。
だが彼女は夜はあまり食べないようにしていた。これから活動する訳ではないのだ。無駄
なカロリーは抑えた方がいい。冒険者とはいえ、彼女も女だ。スタイルも気になる。
「少し聞いてもいいか。」
料理に少し口をつけると、グランはおもむろにそう言った。
「なんですか?」
「君があいつを助けた時、君はなんでコンシュタットにいたんだ?……ああ、答えられなけ
れば別に構わない。」
平気ですよ、とは言ったが、アシュレイは、また彼の眼に全てを見通すような光を見た気
がした。嘘をつくつもりはない。だが、なぜだろう。その眼が───怖かった。
───何を失礼な事考えてるの、私は。
「……えーと、バストゥークの天晶堂、わかりますよね。あそこの人に、『雄羊の角を取っ
て来い』って言われたんです。でも普通のじゃダメで。彼が欲しいのは<悪名高き怪物>
のものだったんですよね。」
「ノートリアスモンスターか。」
475それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:23:08 ID:EhkSb1qM
「そうです。」
モンスターの中には時折、そこに生息する種よりも一回り身体の大きい奴が出てくる事
がある。そういった連中は大抵気性が荒く、人間に大きな被害を与えるため、<悪名高
き怪物>、ノートリアスモンスターと呼ばれている。他にも、獣人諸族の英雄をノートリア
スモンスターに分類している場合もある。どちらにしろ、“人間にとって厄介な敵”という事
に変わりは無い。だがその代わり、彼らは珍しい物品を持っている事も多い。そのため、
ノートリアスモンスターのみを狙う集団もあるくらいだ。
「じゃあそいつを倒すために?」
「はい。」
「そうか。」
彼はジョッキのビールを一息で飲んだ。
「───君はあいつが気になるか。」
「え?」
急に話が変わったので、グランが何の話をしているのかよくわからなかった。
「ハルだよ。あいつは君の知り合いに似てたんだろう?」
そう言われてはっとした。それが表情に表れていないか気になった。
「聞いたんですか?」
「ああ、少しな。顔も似てる。名前も同じ───まあ、君の方はただの愛称だが───
気になるのも当然だ。」
「違うんです。」
476それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:26:10 ID:EhkSb1qM
アシュレイは思わず否定していた。言ってしまってから、自分でも何が違うのかわかって
いない事に気がついた。
「あ、いや、気にならないとかそういう意味じゃないです。ただ、彼が似ているというのが
……」
「似てないのか?」
意外だ、とでもいうように、グランは眉を顰めた。
「……自分でも、よくわからないんです。彼の顔を見た途端、『この人』って。気付いたら
声に出してて、それで……」
ふむ、と言いながらグランは太い指で顎鬚を触っている。側を通ったウェイトレスにビー
ルのおかわりを頼んだ。
「あいつはな、俺が海賊から引き取ったんだ。」
運ばれてきたビールを一口飲むと、彼は唐突に話しだした。
「今、なんて言いました?」
参考になるかわからないがな、と言って彼は続けた。
「10年前かな。俺はセルビナーマウラ間の汽船を度々襲っていた海賊の討伐隊に参
加した。」
彼は遠くを───ここではないどこかを見ながら語っていた。
「海賊は全滅。奴らの船を調べている時に、船倉の奥で見つけたのがあいつだ。」
「じゃあ彼は───ハルさんは海賊だったんですか?」
「わからん。」
477それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:26:52 ID:EhkSb1qM
グランはパンをちぎって口に放り込んだ。
「わからんって……」
「やっぱり海賊なのかもしれないし、偶々攫われたのかもしれない。あいつはその事─
──何故あそこに居たのかという事───について話そうとはしなかったし、俺も無理
に聞こうとはしなかった。……もしかしたら、あいつの親を俺が殺したのかもしれなかっ
たからな。そう思うと、聞けなかった。」
「……彼はあなたを怨んでましたか?」
言ってしまってから、彼女は自分の質問があまりに不躾な事に気が付いた。
「す、すいませんっ。今のは忘れて下さい。」
「いや、気にしなくていい。……そうだな、あいつは俺が『一緒に来るか』と声をかけると
すぐに頷いた。だけど、俺も最初はあいつが俺を怨んでいるのかと思ったよ。あいつ、
しばらくは話そうともしなかったし、表情も変えなかったからな。その時は、何故こいつ
はついてくる気になったのか、俺に復讐でもするつもりか、とか色々考えたよ。でもそ
れらは全部杞憂で終わった。」
グランは天を仰ぎ見た。彼には当時の様子が、文字通り『見えている』のかもしれない。
少なくとも、アシュレイにはそう感じられた。
「ある日突然笑ったんだよ。俺が階段を踏み外して尻餅をつくと、弾けたように笑い出
した。人通りも多いのに、あいつは笑い転げてた。ガルカが階段で座り込んでる側で、
ヒュームの少年が笑い続けているんだ。なかなかおかしな画だろう?周りの連中も、こ
っちを見て笑うんだ。あれは恥ずかしかったな。」
478それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:32:51 ID:EhkSb1qM
彼は照れ臭そうに頭を掻いた。
「恥ずかしかったけど、でも、嬉しかったなあ。」
グランは笑っていた。彼の嬉しそうな顔を見ていると、アシュレイもつい嬉しくなって微
笑んだ。
───本当に嬉しかったんだろうなぁ。
「それからはあいつも普通の少年になった。泣いて、怒って、笑うようになった。俺に
武術を教えてくれとも言ってきてな。モンクになるつもりか、と聞いたら『ナイトになる』
だとさ。他にもな……」
それからしばらく、彼はハルの話を続けた。
鍛錬中の出来事、初めての実戦で死にかけた事、他にも様々な話を、楽しそうに語
っていた。アシュレイも、時には頷き、相槌を打ち、笑いながら話に聞き入っていた。
「あははっ。……本当に、色々あったんですねぇ。」
彼の話が一段落着いた時、彼女は感慨深げにそう言った。
「でも聞いてる限りじゃ、彼の親をあなたが、その、殺した、って事はなさそうですね。」
「そうかな。」
「そうですよ。」
「だといいんだがね。」
彼は3杯目のビールを飲み干した。料理もほとんど片付けてしまっている。アシュレ
イの方はニ三、口をつけただけだった。
「何故君はそう思うんだ?」
479それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:33:41 ID:EhkSb1qM
「だって、ハルさんはあなたを慕っているじゃないですか。私だったら……私の大切
なものを奪った人を許すなんて、できません。」
「……優しいな、君は。」
グランの言葉は、アシュレイには少し的外れに聞こえた。
「俺の感想が変に聞こえるか?」
「……はい。」
正直に言った。彼の前で嘘はつけなかった。彼の雰囲気は鋭くなっていて、先程まで
感じていた彼に対する親近感は消え失せてしまっていた。
「自分の大切なものを奪った奴でも許す事の出来る寛大さを持つ人間が『優しい』と
思うかな?だが偽りだよ、それは。大切なものというのは、魂の拠り所だ。もしそれを
失っても冷静でいられる奴は、それは奪われたものが本当に大切なものじゃなかった
だけか、自分を無くしているかのどちらかだ。奪われるのも恐ろしい話だが、見失うの
も同じ事だよ。魂の在処がわからないのに平気でいられるんだ。痛いのに、それがわ
からない。いつのまにか魂が傷つき、衰え、気付いた時には手遅れになっている。い
や、気付く事すらないまま消えていくかもしれない。これは恐ろしい事だよ。そう思わ
ないか?」
アシュレイは狼狽えていた。何を言えばいいのかわからない。答えが見付からない。
グランが何を想い、言葉を吐き続けるのか、その意図が掴めない。彼はアシュレイ
に何らかの意見を求めているのだろうか。だが何かを言おうとしても思考は働きを停
止し、声は喉元で掠れて消える。
480それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:35:09 ID:EhkSb1qM
彼と目を合わせるのが怖くて、視線が彷徨ってしまう。彼女はさながら、蛇に睨まれた
蛙のようだった。
「自分の大切なものがわからないという事は、自分を無くすという事と同じだ。自分が
わからないから、大切なものもわからなくなる。大切なものがわからないから、自分自
身もわからなくなる。先にわからなくなったのは大切なものか、それとも自分か。それ
すらもわからず、いつしか生きる意味を、全てを見失う。それは不死族と同じ存在に
堕ちるという事だよ。生ける屍さ。彼らの行動に価値はなくなり、『ただそこにあるだけ
の存在』に成り下がる。肉がついているかどうか。差はそれだけだ。そして本当に大
切なものを奪われた時も、何も感じなくなってしまうんだ。」
「もう、やめてください……」
掠れる声で、彼女は懇願した。肩が震えている。腕を抱いて、子供が嫌々をするよう
に首を振った。これ以上は、聞きたくなかった。
「……哀れな存在だよ。」
「やめて!!」
彼女は大声を出した。酒場の音は止み、視線が彼女たちのテーブルに集中する。グ
ランが周りのテーブルに目を遣ると、客は目を逸らし、酒場にはまた徐々に音が戻っ
てきた。
彼女は今にも泣いてしまいそうだった。下を向いたまま縮こまり、震えが止まらない。
怖くて、怖くて、今にも恐怖に押し潰されそうだった。何故こんなに恐ろしいのか、彼女
自身もわからなかった。
481それぞれの想い ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:35:49 ID:EhkSb1qM
「お願いですから、もう、やめて、ください……」
声を詰まらせながら、もう一度だけそう言った。それが精一杯だった。
「……少し飲み過ぎたようだ。おかしな話をしてしまったな。すまない。」
彼は勘定を多めにテーブルに置くと立ち上がった。
「君は大切なものというのがなんなのか、よくわかっている。奪われれば怒る事ができ
る。それは人として大事な事だよ。悲しいが、それが出来ない人間の方が多いんだ。」
すまなかった、と、最後にそれだけ言って、グランは酒場を出て行った。
しばらくの間、彼女はただ震える事しかできなかった。
482 ◆yANtvXYFvY :2005/03/26(土) 10:38:51 ID:EhkSb1qM
以上です。読んでいただければ幸いです。
483既にその名前は使われています:2005/03/26(土) 13:39:46 ID:GcT6cnrd
かなりー前回の話と間が空いてたからちょっとわからんかったぜ
けどなんとなく思い出した乙
484既にその名前は使われています:2005/03/26(土) 13:40:14 ID:GcT6cnrd
感想は物語が終わったあとでいいでスカイ?
485 ◆yANtvXYFvY :2005/03/27(日) 00:31:56 ID:8Gup3ScW
>>483-4
時間がかかるのは問題だと思ってはいるのですが、早く書けない…orz
後から見直すとおかしい部分がぼろぼろ出てくるのですよ。
精進せねば。
でも、申し訳無い。
新生活のためもうすぐ実家を離れるので次が何時になるか予想がつきません。
生活が落ち着けば創作を再開できると思うので、頑張りたいと思います。

感想はいつでも、ご自分のお好きな時で結構です。
もらえるだけで嬉しいので。お世辞じゃなくて本当に。
486既にその名前は使われています:2005/03/27(日) 23:22:52 ID:i9QYz8zr
新生活を理由に辞めるとか許さん。
続きを楽しみに待っておる('◇')ゞ
487 ◆yANtvXYFvY :2005/03/28(月) 11:23:00 ID:t3AiavN7
ありがとうございます。凄い嬉しいです。
頑張りますね。
488〜竜の錬金術師 第9話 閃光のスナイパー〜:2005/03/28(月) 20:15:43 ID:rDZ+bgrD
閃光のスナイパーと呼ばれ、狙った獲物は必ず仕留めるという噂の狩人がいた。
その男が今まさに、竜騎士とピケルの前で倒れたまま息絶えようとしていた。
竜騎士達は素材狩りでイフリートの釜の頂上を訪れたのだが、その時に偶然発見したのだ。
「有名人、有名人」
ピケルが杖で突付くと男は目を覚ました。
話を聞くと、最近になって矢が全く命中しなくなり矢代も尽き、仲間にも見捨てられて途方に暮れて空腹で倒れたらしい。
竜騎士は来る途中で取ったトカゲの卵を狩人に渡し、彼は何とか元気を取り戻した。
その直後、火口から溶岩が吹き上げ尋常ではない巨大なボムが姿を現した。
驚いた狩人は残り少ない木の矢を撃つが、的の大きいボムでさえ全く当たらない。
「ひいぃぃ…やっぱりダメだ、逃げて暗黒騎士さん!!」
「・・・・・・。」
しばし沈黙の後、竜騎士は道具袋からグラスファイバーを取り出すと人口レンズを練成し、即席の眼鏡作って狩人に渡した。
疑問に思いながらも狩人は眼鏡を装着すると、一撃で矢はボムを貫き退治に成功した。

お礼を言う狩人と別れた竜騎士とピケルは、本土に帰る為にカザムの飛空艇に乗ろうとしていた。
その刹那、飛空挺の入り口に矢文が突き刺さる。
矢文には手紙と皇帝の髪飾りが入っていた。
「先ほどはありがとう、髪飾りはお礼です。 私はしばらくこの火口で修行をしてから下山します。 後、その飛空挺の釘が出てて危ないですよ」
竜騎士は飛び出ている釘を見つけると、遥かにそびえるイフリートの釜を見つめた。
彼が再びヴァナディールで名を馳せるのも、そう遠い未来では無さそうだ。
489既にその名前は使われています:2005/03/29(火) 20:04:15 ID:8EzfYGRw
かなり久しぶりの竜の錬金術師ですね〜。だいぶ前のはなし忘れてしまってます・・
今回はちょっと笑えるはなしですねぇ〜。前回からどれくらい後の話かを前につけてくれたら、わかりやすかったですね〜
その途中の話がアゲられることを祈りつつこれからも応援したいと思います
490既にその名前は使われています:2005/03/30(水) 15:51:43 ID:tHh1uY1F
うはwwwイフ釜から何キロ離れてるんだwww
竜錬も随分久しぶりですなー
他の作品と大きく違って短い文にたくさん詰め込んでて、それでいて深いのが特徴になってきましたね
一話完結式なのもいいと思います、頑張って下さい


それと、そろそろ各小説に挿絵書いてくれる絵師光臨きぼんw
フラッシュ職人様でも可!
491既にその名前は使われています:2005/03/31(木) 13:30:25 ID:53kY04Pl
こんな過疎小説スレに職人様が来てくれるわけが・・・(ノд`)
492既にその名前は使われています:2005/03/31(木) 22:10:30 ID:CvDD+Oi5
ttp://www.jtw.zaq.ne.jp/ffxi/vip/
ここで頼んでみたらどうか?
493既にその名前は使われています:天晶暦968/04/01(金) 03:52:35 ID:tEO3XzbE
うはwwwおkwww
494既にその名前は使われています:天晶暦968/04/01(金) 04:22:44 ID:WR5R+ay+
「いや、お前変だって」
「そうかなぁ」
「絶対変だって」
「いや、メガネは必須だと思うよ」
「だからそれ以前にシャポーかぶれよ」
「蒸れるんだよね・・・ガルカのシャポーって耳も隠れるんよ。知ってた?
それに帽子かぶるとメガネかけれないしさぁ」
「いやだからさ・・・なぁ(笑)いまの状況わかってる?これから誰と戦う?」
「嘉村」
「そう、だよな?オレだよな?ちょっとキツめだよな?ネタ装備で勝てると思うか?」
「うーん。ちょっとキビしいよね」
「だろ?な?で、なんでフル種族装備なんだよ。で、なんでサポ戦なの?
挑発する気?赤がなぁ。アホか?おまえアホか?あとおまえの武器何なの?
そのちっこい武器」
「あ、これ?ビースティンガー。スキル上がるの早いよぉ」
「ダボが。なんで短剣なんだよ。杖持てよ杖」
「ちょっと訂正させてほしいんだけど、脚装備はワーロックタイツだよ」
「いいよいいよなんでも。で、何したいわけ?何したいわけ?」
495既にその名前は使われています:天晶暦968/04/01(金) 04:23:22 ID:WR5R+ay+
「春も近づいてきたしさぁ。ローブ系だとモッサリするじゃない。こう、春を越えて
初夏らしく青系でコーディネートしてみましたっ」
「違うって!だから、そんなネタ装備で何がしたいわけ?ソロできてるしさぁ・・・
もうなんだよみてらんないって」
「LSメーンとログイン時間帯が微妙にちがくてねー。この時間はいつも独りなの」
「そうなんか・・・っておい違うだろ!お前オレ倒しにきたんだろうが!はやくこっち
こいって!」
「ていうか嘉村さん最近どうよー」
「最近?最近アレだ、なんかオレ雑魚化してるっp・・・っておい違うって!
はやくこいよ!」
「ぷぷぷっこっちからいかないと攻撃できないんだ」
「おいてめえsitなんかしてんなよブチ殺すよマジで」
「嘉村さん的にRMTってどう思う?ちょっと必死すぎるよねー」
「こいやカス」
「あ、ゴメンねー落ちなきゃだ。またくるねぇ」

 赤は呪符デジョンを使用した。

「おーい・・・」
496既にその名前は使われています:天晶暦968/04/01(金) 06:00:38 ID:aiHcT1LU
超ウケルwwwwwwww
497既にその名前は使われています:天晶暦968/04/01(金) 22:15:02 ID:YnD8t1xy
過疎すれage
498既にその名前は使われています:天晶暦968/04/02(土) 02:26:18 ID:NOXbnK4b
スレ違いすまん。
★4月4日人権擁護法案反対集会参加の呼びかけ★

人権擁護法案が成立すればあなたの何気ない一言、文章、絵が
誰かに差別的だとみなされた場合、礼状なしで家宅捜査、資料押収、出頭要求。
協力を拒否したら処罰されます。個人名も公表される場合があります。

「人権擁護法案を考える緊急集会」
平成17年4月4日(月) 日比谷公会堂
18:30開会(18時開場、21時終了) 入場無料
主催 人権擁護法案を考える市民の会
登壇者
《基調講演》 長谷川 三千子 氏(埼玉大学教養学部教授)
       西村 幸祐 氏(ジャーナリスト)
与野党の国会議員多数
拉致問題関係者、法曹界ほか一般市民から登壇予定
http://blog.goo.ne.jp/jinken110
http://www2.tok2.com/home/rashinban/4.wmv
499既にその名前は使われています:天晶暦968年,2005/04/02(土) 17:03:53 ID:+iiycE9j
>>119
俺は今のままでも好きだよ
なんか自分がその場にいるように錯覚するもん
500倉庫達の冒険B (1/10)  ◆6NLrYYfI2g :天晶暦968年,2005/04/02(土) 17:56:12 ID:jEku9mIK
 確かに……今の音は間違いなく、何かが割れる音だ。
 ピットの聞き間違えではなかった。
 そして、その音はリンクパールを通して確かに聞こえたのだ。
(誰だろう……でも)
 ピットは、正直なところ何があったのか知りたかったが、お互いの私生活に土足で踏み
 居る訳にはいかない。
 好奇心を抑えつつ毛布に潜り込もうとしたが、その時。

《……ん?今の声は姉さんだな?
 ティナ姉さん、どうかしたかい?ジュースの小瓶でも割っちまったかい?》

 ディバンの声だ。
 余計なことを……と、ピットは考えた。
 『倉庫』達はリンクパールを付けっぱなしなのである。
 互いの生活音が聞こえてくるのはしょっちゅうなので、干渉していたらキリがない。
 というより、いらぬ節介であり、大きなお世話だ。
501倉庫達の冒険B (2/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 17:56:51 ID:jEku9mIK
 ピットは、ついつい文句を付けたくなってしまった。
《ディバンさん、いちいち人の生活に口を挟むもんじゃないでしょ?》
《……ったく、冷てェこと言うなよ坊や。
 同僚なんだから、ちっちゃい事で笑い合うぐらいの愛想があったっていいじゃねぇか。》
《でも、そういうことが嫌いな人だって……》

 また、ティナの声がする。
《どうしよう、一体どうしたら……》
 ティナにしては珍しく狼狽している。一体何があったのだろう?

 ディバンは尋ね治す。今度は茶化すような口調じゃない。
《どうした?何があったんだ?》
《……》
 しばらくの沈黙の後。
《モールさんのアイテムを壊してしまったの……プロエーテルの瓶を……》

 一同は沈黙した。これは大変な事件だ。
 『倉庫』が絶対にやってはならないこと。雇い主の持ち物を破損したり失ったりすることだ。
 プロエーテル。それは魔導師が使う『力』を回復するための非常に高価な薬品だった。
502倉庫達の冒険B (3/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 17:57:25 ID:jEku9mIK
 やがて重い空気の中で口を開いたのは、ここまで何も言わなかったゲートだった。
 流石に頑強な格闘家にして、どっしりとしたガルカ族らしい貫禄でティナに言った。
《壊してしまったならしょうがない。やることは決まっている。
 まずは、怪我をしないように割った瓶を片づける。そして雇い主に報告だ。》
 また、しばらく間が空いたが、ティナの返事が返ってきた。
《そうね……それしかないわね。というより当たり前よね。》

 が、やはりディバンは余計なことを、しかし、もっともらしいことを言い始める。
《やべぇな……プロエーテルを買おうとしたら5万ギルはかかる。もっとか?
 いや、それ以前にスズ石一個でも無くそうもんなら即クビだ。信用問題だからな。
 もちろん壊したものを買って返すため、莫大な借金を背負うことも……》
 ピットは驚いて尋ねた。
《そ、そんな。モールさんがそんなことを》
《坊や、人様の物を預かる仕事なんだぞ。それが当たり前だと思うんだがなァ。
 しかし、なんでまたプロエーテルなんか持ってるんだろう。本業は狩人だろう?》
 ゲートも、その話に加わる。
《さあな……
 自分で使うためじゃないかも知れないが、まあ俺たちの知るところではないだろう。
 しかし、それでは俺たちの僅かな給金では買い直すなど無理というものだが……》
503倉庫達の冒険B (4/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 17:58:04 ID:jEku9mIK
《しょうがないわ。やってしまったのは仕方がない。どんな重い罪になろうともね。》
 だいぶ、ティナは冷静さを取り戻した声で言った。
《で、でもティナさん。》
 ピットは驚いて声を上げたが、
《でも、どうしようというの?
 ま、数百万もする装備品を傷つけたわけじゃなし。数万程度ならなんとかなるわ。》
 本当になんとかなるものだろうか?『倉庫』達の雀の涙のような賃金だけで。
《モールさんは……今はリンクパールを付けてないみたいね。》
《ああ、今行ってるのはエルシモのヨアトル大森林だっけか?》
《そうすると、当分戻らんな。しかし急に指示が入るかも知れない。
 その時に話すか……あるいは、モール殿が落ち着いてからの方が良いかもしれない。》

 ピットは何かを考えていた。何か思い当たる節があるようだ。
(プロエーテル……プロエーテル……プロエーテル!?)
 がばっと立ち上がり、自分の私物のボロ箱を探り始めた。
(そうだ、まちがいない。母の遺品、魔導師だった母が残した物の中に……)
 そして、緑色の液体の入った独特の丸い瓶を取り出し叫んだ。
《プロエーテルならあります!僕が持ってます!》
504倉庫達の冒険B (5/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 17:58:40 ID:jEku9mIK
 ディバンは驚いて、
《おいおい、坊やがなんでそんな物もってんだよ。》
《魔導師だった母が残した物です。とりあえず、これを変わりにしちゃいましょう。》
 ティナは慌てて言う。
《……だめよ、馬鹿なことを言わないで。そんな大事な品は受け取れないわ。》
《いえ、形見の品なら別にあります。僕には無用の消耗品です。
 こうして役に立つなら母も本望でしょう。今から宅配で送ります。》
《持っておけば必ず役に立つわ。困ったときに売ってお金にすれば良い。》
《でも……》
 そんなやり取りをディバンが遮った。
《待ちなよ、姉さん。俺たちにゃ善悪や道理より大切なことがある。
 絶対に雇い主に迷惑をかけちゃならねぇってことだ。違うか?
 今は受け取っておいて、後で坊やにゆるゆる返せばいい。それでケリがつく。》
《……》
《それにな……》
《え?》
《この坊やは姉さんに恩を売りたいのさ。坊や、姉さんに惚れてんだろう?
 俺も姉さんが居なくなっちまうと辛いなぁ。野郎だけなんて面白くも何ともねぇや。》
《……なに、バカいってんのよ。》
《ああ、男ってなぁそういうもんさ。たまには男心を組んでやれよ。》
505倉庫達の冒険B (6/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 17:59:52 ID:jEku9mIK
《あ、あの、あの、僕は、そういうんじゃなくて》
 ディバンにそう言われてピットはうろたえてたが、
《坊や、さっさと姉さんに送りつけちまいな。それにな、こういうことは言ってナンボだ。
 男が女に惚れるなんざ当たり前なんだし。》
《いや、あの……と、とにかく送ります。》
 だが、
《ダメよ。やっぱりダメ。今、ポストが一杯なの。指示があったら、即座に返却するよう
 に言われているの。》
 ポストに入っている物を取り出さずに『モグハウス』管理人モーグリに「返却」を申し
 出れば即座に送り手に返却する事が出来る。宅配の手間を省く冒険者と『倉庫』の知恵だ。
《うーむ、それじゃ坊やが預かってたことにして……》
 ゲートが否定する。
《いや、クリスタルと訳が違う。ティナに持たせていることに意味があるかもしれんぞ。
 ピット、お前は確か雑貨担当だな?》
《ま、まぁ、そんときゃ適当に言い訳……できるか?坊や。》
《……》
《おい、坊や?》
《それじゃ、僕がそっちに行きます!この手でプロエーテル届けます!》
506倉庫達の冒険B (7/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:01:08 ID:jEku9mIK
《はぁ??》
 それを聞いたティナは呆れ声で言う。
《……もう、バカもいい加減にしてよ。あなたじゃ、あっと言う間に獣人の餌食になるわ。
 ウィンダスからサンドリアまで、どれほどの距離があって、どれほど危険か知ってるの?》
《で、でも》
《あなたが持ってたことにすればいい、て訳でしょ?それでいいじゃない。
 私が適当に言い抜けるから、あなたから指示があったらモールさんに送ってね。
 この話はもうお終い。》
《……》
 ピットは、あっさり自分の考えを蹴られてしまい、言葉を失ってしまったのだが……
 意外にも助け船はゲートから下ろされた。
《ピット、呪符デジョンは持っているか?》
《……え?》
《無ければウィンダスから出ることは勧められないが、持っているなら多少の危険から
 逃げられる。》
《え、えーと》
 慌てて探し出して……そして見つけた。
 修行をしていた時に非常用に持たされていたのだ。
《あ、あります。》
507倉庫達の冒険B (8/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:02:18 ID:jEku9mIK
《次はプロエーテルを包装しろ。地面に叩きつけても割れないように。》
《はいッ!》
 どうすればいいだろう。
 ピットは考えていたが、思いついて、薬瓶を毛布でくるみ紐で縛り始めたが、
 そこへティナの声が割り込んだ。
《ゲート、あなた本気なの?ピットを煽って本気で旅に出すつもり?
 その子は、どんな小さな敵とも戦った経験は無いはずよ。死にに行くような……》
 ティナの話をゲートは強引に遮る。
《ピット。お前はかつて冒険者を夢見ていたのだろう?何の事情か知らないが、
 道を外れて『倉庫』として生きていかなければならなくなったのだろう?
 違うか?
 そんな気持ちが普段のお前からにじみ出ている。俺には判る。
 モール殿はしばらく帰ってこない。今こそ機会だ。
 これを機に、広い世界を目にして自分の気持ちに答える時だ。
 責任なら俺が取る。なんとでもモール殿に言い訳してやる。
 お前は正しい。人のために行動したいと思う自分の気持ちを絶対に殺すな。》
《はいッ!》
 ピットは勇んで返事をしたが、ティナは尚も止めようとする。
《ちょ、ちょっと二人ともいい加減に……》
508倉庫達の冒険B (9/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:03:20 ID:jEku9mIK
《いや、ティナ。ピットは冒険者としての本当の生活を知らない。広い世界がどんなもの
 か全く知らない。それでは荷物を出し入れするだけの本当の『倉庫』になってしまう。
 俺は常々、良い体験をさせてやらねばならないと考えて居たのだ。》
《だからといって、死の危険を味合わせようと言うの?
 ピット、もしウィンダスから一歩でも出てごらんなさい。私は即座にパールを割るわ。
 自分のミスで誰かを危険な目に合わせる私の気持ち、判らないとでも言うつもり?》
 だが、ディバンはそれを茶化す。
《おいおいおいおい、姉さんさぁ……
 パールを割るって世間じゃよく言うけど、実際に割れるもんじゃないんだぜ。
 坊や、構わず行きなよ。俺もケツ拭いてやっから、姉さんもあんまり心配すんなって。》
《は、はい……えーと、梱包終わりました。》
 ゲートが確認する。
《出来たか?試しに床に落としてみろ。できるか?》
 ぼこんっと丸めた毛布を叩きつけた。
《大丈夫です。崖から落としたって割れません。》
《おっしゃ、荷造りが出来たなら出発だ。装備は何も要らんぞ。
 一発殴られただけで昇天だから、どんなにカチカチに装備したって何の意味もない。
 今から、獣人共のかわし方を言うから良く聞いて……》
 解説を始めようとするディバンを、今度はティナが遮った。
509倉庫達の冒険B (10/10):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:04:48 ID:jEku9mIK
《……噴水前で人を募りなさい。》
《え?》
 もう反対しても無駄だと判ったらしい。しかし叱りつけるような声だった。
《大声で通行人に頼みなさい!マウラ港まで護衛して貰うのよ!
 約束しなさい。絶対に一人で行動しないって!》
《は、はい!行ってきます!じゃない、すぐそっちに行きます!》

 そうしてピットは荷物を背負い、『モグハウス』を出て噴水前に向かった。
《坊や、恥ずかしがるんじゃないぞ。用件を手短に、何度でも叫び続けろ。
 丸一日、そうしているつもりで頑張れ。》
《はい!》
 そんなディバンのアドバイスを受けて胸一杯に息を吸い込み、

「ご通行中の皆さーん!!」

 あらんかぎりの声で叫んだ。周囲の人々は大して驚いた様子もなかったが。
510 ◆6NLrYYfI2g :天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:05:57 ID:jEku9mIK
>>241からの続きです。
511倉庫達の冒険C (1/8)  ◆6NLrYYfI2g :天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:41:59 ID:jEku9mIK
「それじゃ、この辺までで良いかな」
 護衛してくれていたヒュムの冒険者は、ピットに向かって言った。
「はい、有り難うございました。」
 ピットはペコリとお辞儀して礼を言った。
 彼らが到着した場所は、タロンギ大峡谷からブブリム半島へと向かう谷道だった。
 本当はマウラまでの護衛をお願いしたかったのだが、この場所までの護衛を見つける
 だけでも数時間かかってしまったのだ。彼らは別の方向にある「シャクラミの地下迷宮」
 へと戦いの修行へと赴くという。

 冒険者連中のうちのミスラが付け加えた。
「行き過ぎるとゴブリンに見つかるし、戻りすぎると今度はヤグード達に見つかってしまう。
 気をつけてね。」
「はい、皆さんもがんばってください。」
 そういって、何度もお辞儀をして逆方向に戻る彼らに手を振った。
《ちょっと...》
 リンクパールから声が聞こえた。ティナだ。
《そんな中途半端な場所でどうするつもり?その場所を知ってるわ。微妙に安全な場所
 ではあるけれど、ほかの冒険者を追いかけて獣人が通りかからないとも……》
《ん?おお、ブブリムに入る手前まで来たんだな?上等上等。》
 ディバンが陽気な口調で割り込んできた。
512倉庫達の冒険C (2/8):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:43:23 ID:jEku9mIK
《上等って……あなたもあの辺りがどの程度危険であるかどうか知ってるんでしょ?
 悪いことを言わないから今すぐ呪符で帰りなさい。もう遠足は十分よ。》
《ったく……姉さん。俺もケツ拭いてやるって言ったろ?そんなに心配すんなって。》
《……え?》
《こっからは俺様の出番だ……そらよ!》「そらよ!」
「うわぁッ!」
 ピットは思わず大声を上げた。リンクパールから聞こえていたまったく同じ声が、真後
 から聞こえてきたのだ。そして、ピットは後ろから何者かに高く担ぎ上げられたのである。
「俺だよ。ディバンだよ。声で判るだろ?」
 彼は聞いていた通りヒュムの男性で、その格好は「真っ裸」に等しい紺色の肌着を
 着ただけ。つるっ禿の頭に入れ墨をしたイカツイ風貌だった。
 ピットはその彼に恐る恐る訪ねる。
「え……確かジュノに居るはずじゃ」
「これよ、これ。」
 彼が左手を挙げて、頭上のピットに付けている指輪を見せた。
「テレポリングっつってな?白魔導師の使う転送呪文『テレポ』と同じ効果を使えるって
 訳だ。俺も白魔導師としての修行をしておけばよかったんだが、ねっからの盗賊だから
 な。で、そこのテレポドームにひとっ飛びしたって訳よ。」
513倉庫達の冒険C (3/8):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:45:24 ID:jEku9mIK
 得意げに説明してから、ディバンは改めてリンクパールに向き直って言った。
《姉さん、聞こえてたかい?そういうこったからよ。このまんま坊やを担いで俺がサンド
 まで送り届けてやるから。俺ならブブリムや砂丘なんぞ寝てても襲われやせんさ。》
《そ、そう……でも、あんまり持ち場のジュノから離れては》
《当分は雇い主も戻らんし、俺だってたまにはこういう気晴らししたって罰は当たらんよ。
 姉さんもお茶でも飲んでゆっくりしていな。じきに坊やごと届けてやっからさ。》
《……》

「あ、あの……」
 ようやく、二人のやりとりが途切れた隙を捉えて、ピットは口を開いた。
「あ、ありがとうございます。わざわざ……」
「いいってことよ。同僚だろ?」
 そういって、ジャッジャッと地面に靴をこすりつけてた。
 今から走りだす準備をしているのだ。
「さあ、しっかり掴まってな。一気にマウラまで駆け抜けるからな。」
「え?あ、はい。」
「せぇの……
       うぉりゃぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!               」
 
 ピットを担いだディバンは猛烈な勢いで駆けだした!
514倉庫達の冒険C (4/8):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:46:53 ID:jEku9mIK
「う、わ、わ、わ」
 あまりの勢いと向かい風の風圧のため、ピットは必死でディバンの頭にしがみつかなけ
 ればならなかった。
 ちらほらと点在しているゴブリンの脇、ダルメルの股下をくぐり抜け、猛烈な速度で
 一気に駆け抜けていく。
「どうだ!これぞ盗賊の伝統芸『とんずら』よ!どうだ恐れ入ったか!
 ほれ、もう見えてきたぞ。あれが港町のマウラだ。」
 ディバンはそういったが、風圧のためピットの耳にはよく聞こえてこない。ていうか、
 落ちないようにしがみつくだけで精一杯なのだ。
 そのまま、一気に町に入ろうとして……ディバンは何を思ったのか急に足を止めた。
「おおっと、うっかりしてた。」
 ズザザッ……と、土煙をたてて急ブレーキをかけ、ピットはその衝撃であやうく落っこち
 そうになったが、ディバンはしっかりとピットの足を掴んで肩に乗せなおした。
「船代がねぇんだ。工面しなきゃならんから、えーと手頃な奴は……」
 なにやらきょろきょろ見渡し、そして見つけた。大きなリュックサックを背負ったまま、
 ぺったりと腰を下ろして休んでいるゴブリンが一匹。
(よし、あいつだ。見てなよ、俺様の腕前を。)
 そう、ピットに囁きながら、ゆっくりとゴブリンの後ろから近づいていく。
515倉庫達の冒険C (5/8):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:48:06 ID:jEku9mIK
(ちょ、ちょっと!いったい何を)
 ピットは慌てて囁き返したが、
(抜き足差し足忍び足……っつっても、あいつら耳はよくないがな。)
 ピットにかまわず、とうとうゴブリンの真後ろまで近づき、
(よっ!)ヂャリンッ
「グボッ!?」
 どうやら、ゴブリンから何かをすりとったらしい。だが、ゴブリンはすぐに気が付いて
 振り向いて驚きの声を上げ、
「グバァッ!」
 よく判らない声を上げながら、ディバンに斧を振り上げて掴みかかろうとした!
 が、
「へへっ確かにもらったぜ!逃げるが勝ちだ!鬼さんこちらっ」
 こちらの言葉が通じるかどうかも判らない相手に捨て台詞を吐きながら、またしても
 凄い勢いで町中へと駆け込んでいった。

 ディバンはピットを肩からおろし、笑いながら語りかける。
 あれだけ走ったのに、呼吸の乱れもなく、汗一つかいていなかった。
「いや、船代を工面しなくちゃならねぇからな。心配いらんよ。連中は町の中までは入って
 来ない。小さい港町とはいえ、警備はちゃんとされているからな。」
「……ほんとに……びっくりさせないでくださいよ。」
516倉庫達の冒険C (6/8):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:50:05 ID:jEku9mIK
「あれぐらいで驚いてちゃ、冒険の旅なんぞできやせんぞ。それより、どうだ?
 初めて来たマウラの感想は?」
「うわぁ……船を見たのは初めて。」
「ウィン港に来ている飛行艇の方がもっと珍しいと思うんだが……て、おい。
 船が来てるのかよ。やべぇ、ピット走れ!」
「え?」
「乗り遅れたら何時間も待たなきゃならんぞ!急げったら!」
「は、はい」
 そういって、ディバンは港の受付へを向かった。

「お一人100ギルになります。」
 そう、ニコリともせず受付係が案内したが、
「すまん、こいつで頼む。二人だ。」
 ディバンがカウンターに置いたのは、獣人達の間で使われている数枚の銀貨であった。
「ちょっと!こんなの受け取れるわけないでしょ!ちゃんとギルで払ってよ。」
「すまんが、持ち合わせがねぇんだ。頼むよ、早くしないと船が出ちまう。」
 受付係がさらに何か言おうとしたが、隣で門番をしている巨体のガルカが口を挟んだ。
「いいだろう。それは俺が買ってやる。きっちり200ギルでいいならな。」
「さすが兄さん、話がわかるじゃねぇか!それじゃ、行かせてもらうぜ。」
517倉庫達の冒険C (7/8):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:51:15 ID:jEku9mIK
「……で、もう一人は?」
 受付係が、けげんそうな顔をして辺りを見渡した。
「へ?……おおいっ!ピット、そんなところでへたり込んで何やってんだ!」
 あれだけドタバタした挙げ句に全力疾走させられたのである。やはりピットの弱い身体に
 堪えてしまったのだ。
「ああもう、しょうがねぇなぁ!すまん、船を止めといてくれ!」
 そういってピットの所まで戻っていき、小さな身体を小脇に抱えて船の方へと走り出した。
 しかし、ガルカの門番は笑って言う。
「すまんが、操舵手に合図を送る方法などない。ほれ、急げ。」
「……くっ」
 大急ぎで走り出すが、もう船は船着き場から離れようとしている。
「うぉっ!一か八か!」
 そう言いながら、艀から大ジャンプしてギリギリのところで船に飛び乗ったのであった。

 今度ばかりは慌てていたせいもあって、さすがのディバンも肩で息をしていた。
「あ、ああ、ま、間に合ったぁ」
「す、すみません。」
 ようやく、身体が落ち着いてたらしいピットが謝る。
 そのピットに対して、耳のリンクパールを外しながらディバンは囁いた。
518倉庫達の冒険C (8/8):天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:52:44 ID:jEku9mIK
(おい、お前もパール外しな。姉さんに聞かれたくない。)
(え、あ、はい。)
 慌てて言われたとおりにした。少し首をかしげながら。
 そして、ディバンはまじめな口調で問いかけた。
「お前……もしかして、身体が弱いのか?」
「え?」
「そうだろう?いや、冒険者を目指していたお前が何で倉庫やってるのかと思っていたが。
 お前の原因はそれか。」
「……」

 エンジン音の響く貨物庫兼客室で、二人はしばらく沈黙していた。
519 ◆6NLrYYfI2g :天晶暦968年,2005/04/02(土) 18:57:25 ID:jEku9mIK
ええと、ようやく暇が出来たので続き作ってみました。
とはいえ、これに関しては作り始めたものの、先行きの展開(頭の中では出来ているのですが)
に、時間を空けすぎたためか自信が無くなりつつあります。
でも、始めてしまった以上、最後まで作りたいと思います。
520ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/03(日) 05:22:02 ID:Krq7JYfi
長くなったが、もうすぐ完成しそう
いい絵師も見つかって、一枚書いてもらった
ただ、かなり膨大な量になりそうなんだが、どうしたものか・・・
ここにうpしちまってもいい?
521既にその名前は使われています:2005/04/03(日) 08:45:24 ID:ESP+8mMZ
UPすればいいじゃないいいじゃない
522ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/03(日) 08:51:48 ID:Krq7JYfi
前半は退屈な展開しか思いつかなくて、自分でも書いててノラなくて、
どうなることかと思ったけど、なんとか面白くなるように仕上げられそうだ
かなり長いけど、今回すげー一生懸命頑張って楽しめるように書いたので、
ヒマ人は全部読んでちょ
最悪でもヒマ潰し程度にはなるはず
まだ全部終わってないし、推敲もちゃんとしたいので、早ければ今日の夜にうpするyp!!!!!!!
523既にその名前は使われています:2005/04/03(日) 12:30:19 ID:Ep1D140E
ブリジットさん待ってました!!
すっごい楽しみです(*´Д`*)
524名無しさん ◆V00/Phqsn. :2005/04/04(月) 13:23:22 ID:sqcWDJkT
色々きてる(*´д`*)職人さんGJ

203&まとめサイツ色々追加age
525ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/06(水) 01:32:46 ID:eXjnU6cz
スマソ・・・
全部書き上げてからうpしようと思ってたけど、
話がどんどん膨らんできて、もうちょいかかりそうだ・・・
あんまり待たせるのも悪いので、途中までうpするyp
それでもかなり長いので、気をつけれ
ああ・・・一生懸命書いてるけど、受けるのか正直自信ない・・・
ほいではうpするぞー
526ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/06(水) 01:34:29 ID:eXjnU6cz
あ、やべ
タイトル考えるの忘れてた
今考えるwwwwwwwwwwwwwww
527「Habranthus」1:2005/04/06(水) 01:38:55 ID:eXjnU6cz
そう…あなたは優しすぎるから。
辛かったら南方への先遣隊には加わらなくていいのよ。
そうだ、これを持っていきなさい。
たくさんの花の種。
それと…レインリリーの花の球根。
南の暖かい気候なら、きっと綺麗な花が咲くでしょう。
このレインリリーの花の球根は特別な花。
大事にするのですよ。
この花は…。

これが母さんの最後の言葉だった。
母さんはオークの国の花を管轄する花の管理者だった。
その中でもとびきり大切な花の球根を託してくれた。
ボクの宝物だ。
528「Habranthus」2:2005/04/06(水) 01:40:54 ID:eXjnU6cz
さんさんと降り注ぐ太陽。
木材などの資材をせわしく運ぶオーク達。
みんな忙しそう。

どうやら眠っていたようだ。
ボクも何か役割を与えられていた気がするけど、寝ぼけていてよく思い出せない。
だからこのまま日向ぼっこ。

日光が体に染みて、気持ちいい。
向こうから上官の怒鳴り声が飛ぶ。
「おいっ、フレドリーーークッ!休んでないでさっさと仕事に取り掛からんか!」
フレドリックって誰だろう。
ポカッ。
頭を叩かれる。
ボクだった。
529「Habranthus」3:2005/04/06(水) 01:42:37 ID:eXjnU6cz
「お前も南方へと先遣隊に来て2年になるじゃないか。同期の奴らは皆手柄を上げて出世しているんだぞ!」
「はぁ」
「それなのにお前ときたら…ニンゲンの首の一つや二つくらい持ってきたらどうだ?」
「ベグザイルさん…」
少し怒りっぽいけど、みんなのことをよく考えてくれる、思いやりのある上官。
それとともに、ベグザイルさんはボクが昔故郷で兄貴のようにお世話になっていた人だった。
お母さんが死んだときも面倒を見てくれた。
「ここではサージェント(小隊長)と呼べ」
「サージェント…」
「なんだ?」
「…」
「一体なんだよ、故郷が恋しくなったか?」
「…お腹、空きました」
ポカッ!
また殴られた。
「いたた…」
「あのなぁ、お前は上層部からも期待されてるんだからな。いつもそんなんでどうする。自覚しろ」
「何にですか?」
「と、とにかく!このやぐらを組み終わるまでは食事は抜きだ!分かったな!?」
怒号を発しながらベグザイルさんは持ち場へと戻っていく。
530「Habranthus」4:2005/04/06(水) 01:45:04 ID:eXjnU6cz
(お前は期待されてるんだからな)

期待されるようなことも何もしてないじゃないか。
何故ボクはここへ連れてこられたのだろう。
先遣隊といえばエリート中のエリート、強く頑強な者や強力な力を持ったものしか選ばれない。
毎日繰り広げられる武闘会では、常にカモにされていた臆病で力の弱いボクにとっては、
まるで理解できなかった。

選ばれたときはそりゃ嬉しかったさ。
帰ってくれば英雄なのだから。
でも…もうウンザリだ。
ベグザイルさんの言う通り、故郷へ帰りたい。
毎日ニンゲンとの血で血を洗う争い。
仲間をたくさん殺され、こっちもニンゲンの仲間をたくさん殺した。
ボクらは安住の地を求めているだけなのに、彼らはひっきりなしにボクらの居場所を奪おうとする。
531「Habranthus」5:2005/04/06(水) 01:46:40 ID:eXjnU6cz
ニンゲンたちは木を無駄に切り倒し、野蛮で獰猛で生き物を殺すことを至上の喜びとするらしい。
無益な殺生が大好きなのだ。
必要な食料を最小限だけ採って暮らしている僕らにとって、その行動は理解しがたいものだった。

けれど、本当にそうだろうか?

言葉の壁のせいで、お互いのことをよく知らず、敵視してるだけではないだろうか。
そう思って捕虜のニンゲンからひたすら彼らの言語を学んだ。
この争いを早く終結させる理由がほしかったのかもしれない。
何故かボクはニンゲンの言葉を理解するのが早かった。

まるで昔から知っていたかのように。
とにかく彼らを理解したい。
そう願った。
532「Habranthus」6:2005/04/06(水) 01:48:47 ID:eXjnU6cz
翌日。
エルヴァーンと呼ばれるニンゲンの種族の少女が捕虜として捕まった。

こんな子供まで…。
彼女は目を瞑り、全てを諦めたように引き連れられている。
あれ、彼女はどこかで…。

唐突に、激しい頭痛と目眩に襲われた。
彼女に視界が吸い込まれる。
目を離すことができない。

そして世界は中心へ向かい…爆ぜた。
立っていられない。

(オモイダセ…)
533「Habranthus」7:2005/04/06(水) 01:50:50 ID:eXjnU6cz
頭がグルグルしてズキズキと痛む。

(それじゃあ行こうか…ボクらの幸せのために)

聞き慣れたようで初めて聞く声が頭の内側から聞こえる。
「あ…ぐっ…!」

……。

気がつくと肩で息をし、うずくまっていた。

……。
なんだ、今の…。
534「Habranthus」8:2005/04/06(水) 01:52:52 ID:eXjnU6cz
ボクはいつものお気に入りの場所にいた。
一生懸命育てた、お花たち。
おかあさんの形見の花たち。
花壇を作り、毎日水をやり育てている。
種は育ち、立派な花を咲かせていた。

ここにいると、嫌なことも全て忘れられる。
唯一気が休まる、憩いの場だった。

「フレドリぃぃぃック、役立たずのフレドリぃぃぃック!」
ガンゴーがボクを呼ぶ。
気性が荒く、獰猛な最もボクが苦手とするオーク。

「なんですか?」
「ほおおぉぉら仕事だぞおぉぉぉ。ニンゲンのガキを見張っておけぇぇぇぇ!」
鍵を叩きつけられる。
535「Habranthus」9:2005/04/06(水) 01:54:57 ID:eXjnU6cz
「あの…あんな子供まで見張らないといけないんですか?」
「当たり前だろうぅぅぅ!お前の持ち場はなんだぁぁぁ!?」
「…捕虜の見張りです」
「そうだぁぁぁ、喜べぇぇぇ。能無しのお前にも仕事があるんだからなぁぁぁぁ!」
「……」

「なんだこの花たちはぁぁぁ!?」
「あ、ボクが育てたお花たちです。どうです?綺麗でしょう」
ちょっと自慢げにそう話した。
だが…。

「うぜぇぇぇ!俺様は弱い生き物が嫌いなんだよぉぉぉ!死ねぇぇぇ!死ねぇぇぇっ!!」
そう叫びながら、花壇をめちゃくちゃにしていた。
「やめてくださいっ!くそっ、なんだアンタ、やめろって言ってんだろっ!!」
ボクはガンゴーを羽交い絞めにする。
「うるせぇぇぇ!お前も弱いぃぃぃ!一緒に死ねぇぇぇ!!」
花壇に投げ飛ばされ、一緒に蹴りつけられた。
536「Habranthus」10:2005/04/06(水) 01:56:14 ID:eXjnU6cz
「があぁっ!」
必死に抵抗し、踏みつけようとするガンゴーの足に噛み付く。
だが、ガンゴーは武闘会でチャンピオンになるような男だ。
ボクがいくら抵抗しても、敵うはずがない。


残ったのは花であった残骸たちと、ボロボロのボク。
「いいかぁぁぁ!?捕虜をちゃんと見張れよぉぉぉ!!逃がしたりしたら承知しないぞぉぉぉっ!?」
ボクの胸ぐらをつかみ、怒鳴り散らしたあと、満足気にガンゴーは去っていった。

グシャグシャになった花壇だったものを見て、ボクは呆然とする。
全部…だめになってしまった。
残骸を拾い集める。
537「Habranthus」11:2005/04/06(水) 01:57:24 ID:eXjnU6cz
ごめん…ごめんよ。
君たちは何も悪くないのに…。
情けなさとくやしさで、涙が溢れてきた。

ああ、ボクはこれから何を生きがいにして生きていけばいいのだろう。
この過酷な環境の中で君たち無しでどうすれば…。

雫が一つ、ポタリと落ちる。
その先に…。

一つの球根があった。
538「Habranthus」12:2005/04/06(水) 01:59:13 ID:eXjnU6cz
ポチャン…ポチャンッ…。

天井の土から染み出す水が水滴となって下に落ちる。
昼間だというのにここは夜なお暗い。
申し訳ない程度に光が差し込む程度だった。
ひんやりとして、何かが腐ったような匂いと土の匂いが不快に鼻をついた。
ガンゴーに蹴られた顔をよろめきながら押さえ、ボクは下へと階段を降りていく。
捕虜を閉じ込めるために急遽作られた、地面を深く削ったような地下の土牢。

そこにボクはたどり着いた。
牢屋の向こうにいるのは、捕虜になった少女。

彼女を見つめる。
一瞬、何かが煌いた気がした。

煌きは幻想か、幻覚か。
そこだけが、ものすごく不安定で曖昧に見えた。
539「Habranthus」13:2005/04/06(水) 02:01:31 ID:eXjnU6cz
すぐに光は失われる。
気のせいだろうか。
来たときと同じように目を閉じ、少女はうつむいたまま座って動かずにいた。
ボクは彼女を見張らなければならない。

なんのために?
戦争を早く終わらせるためだ。
どうして。

王は言った。
「北は過酷すぎる。そのため、我らが安住の地を見つけるために南へと下ることとあいなった!」
「先遣隊には、勇猛で力ある君達が選ばれた。期待している!」
「幸運と正義は我らにありっ!オーク族に栄光あれ!」
「オーク族に栄光あれっ!」
540「Habranthus」14:2005/04/06(水) 02:03:31 ID:eXjnU6cz
気がつくと、ボクらはダボイへ居を構え、先住民のニンゲン達と争っていた。
彼らとは言葉が通じない上に、姿形があまりに違う。
最初はお互いを理解しようと言葉を互いに学び話し合おうとした。
そして言葉が通じ合った最初の協和会議で、エルヴァーンの長老はこう言った。

「獰猛で醜悪な獣人よ。我らの奴隷となり、全てを捧げるならこの地に留まることを許そう」
それが会戦の幕開けだった。

ニンゲンたちの間では、ボクらが一方的に攻め入ったことになってるようだけど。
いつまでこの不毛な争いは続くのだろう。
541「Habranthus」15:2005/04/06(水) 02:04:53 ID:eXjnU6cz
さっぱり理解できない。

(何がしたいのかさっぱり理解できないよ)
ぐっ…!
まただ…。
また激しい頭痛と目眩に襲われる。

(オモイダセ…)


(喜びたまえ、力が湧いてくるだろう?儀式の贄よ)
(儀式の贄…?)
(そうだ、君の素晴らしい力を我らの糧とするのだ。
ククク…光栄だろう?)
「うぐぉぁあぁっ…!」
頭が割れる!
ボクは頭をかかえてのたうちまわっていた。
542「Habranthus」16:2005/04/06(水) 02:07:03 ID:eXjnU6cz
………。
どれくらいたったのか。
どうやらあれから気絶していたようだ。

少女のほうを向く。
さきほどと全く変わらず、壁に背をもたれてうつむいたまま地べたに座っていた。
ずっと動かないのを見て、ボクは不安になる。
もしかして死んでしまったのだろうかと。

「ご…ごんにじわ」
「…えっ!」
彼女が驚いた様子で顔を上げる。
「おなが…おながすいでないが?」
「あの…人の言語が話せるんですか?」
「あい、むがじ、ニンゲンにならっだ」
「そうなんですか…こんにちわ。言葉、とても上手ですね」
ふふ、と少女が微笑む。
まるでこの場に似つかわしくない、穏やかな笑顔だ。
「ま、まっでろ、いまたべものもってぐる」
なんだか気恥ずかしくなり、ボクは食べ物を取りに上へと昇った。
543「Habranthus」17:2005/04/06(水) 02:09:22 ID:eXjnU6cz
彼女の名前はリリーといった。
メインリリーの花からとった名前。
ボクの母の形見と同じ名前。
すごくいい名前だと思った。

「リリー、花がすきなのが?」
「うん、大好き。家がお花屋さんだから」
「すごい!おでもだいすき」
嬉しそうにリリーが微笑む。

ニンゲンにも花が好きな人がいたんだ…。
胸が暖かい気持ちでいっぱいになる。
544「Habranthus」18:2005/04/06(水) 02:11:15 ID:eXjnU6cz
「ごんなとこに閉じ込めて、ずまない」
本当に申し訳ないと思った。
「はやぐ、リリーがここでられるようにしたい」

「…やっぱりオークはニンゲンが憎いの?」
「おでは人間がみんな悪い奴、思えない…それに花を愛する気持ち、同じ」
「フレドリック…私もオークが悪い人ばかりでないって思いますよ」
そういってリリーは微笑む。
彼女の微笑みは不思議とすごく可愛らしくて、ボクはあせってしまう。
「い、家にはお花、いっぱいなのが?」
「ううん、もうお花はほとんどないの」
「どうじて?」
「戦争でお家壊れちゃったから…」
「あ…」
壊したのはボクらだ。
545「Habranthus」19:2005/04/06(水) 02:12:44 ID:eXjnU6cz
「ごめんなざい…」
自分が酷く惨めで野蛮な生き物に思えてくる。
それとともに、何故かボクがすごく悪いような気がした。
「ううん、あなたが悪いわけじゃない。戦争はこういうものだって理解しているから」
微笑みを絶やさない彼女に、ボクの心はさらに痛んだ。

どうせなら、なじってほしかった、
あなたたちのせいで私は家を壊され、全て失いこんなところに閉じ込められてるのよ、と。
結局、ボクもやることは違えどその中の一人なのだから。

……。
なんて声をかけたらいいのか。
重い沈黙が流れる。
ふと、違和感に気付いた。
546「Habranthus」20:2005/04/06(水) 02:13:56 ID:eXjnU6cz
「リリー、どうしてずっと目を閉じてる?おでこわぐない」
「あ…それはね、目が見えないんです」
「どうじて」
「ここへきてから突然目が見えなくなっちゃって…」
「どうしてなのかは分からないけど、心理的なものかな?」

シンリテキ?
分からない。

「たぶん、一時的なものだと思うから、すぐ治ると思う」
でも彼女の目が見えなくて大変そうだということは分かった。
だから、ボクはリリーを励ましたいと思った。

「なにが、しでほしいごとあるが?」
リリーは少し考えると…
「お花があると嬉しいな」
547「Habranthus」21:2005/04/06(水) 02:15:34 ID:eXjnU6cz
「こで…レインリリーの球根。リリーにあげる」

花壇にあった球根。
母さんに大事にしろと託された大事な形見。
この球根だけは何故かずっと花を咲かさなかった。
彼女なら大事にしてくれそうだったのであげることにした。
それはせめてもの償いかもしれない。

「本当にいいの?」
「うん、リリーならいい。」

「ありがとう…ではここにお花を植えましょう。これは二人の友達の証」

リリーはそう言った。
「トモダチ…」
548「Habranthus」22:2005/04/06(水) 02:16:56 ID:eXjnU6cz
「うん、友達っ」
「おで、友達いない。うれじい…」

兄弟と呼べるような人はいる。
ベグザイルさんだ。
でも、ボクには友達と呼べる人はいなかった。
だからどんな気分なのか知らなかった。
こんな嬉しくでポカポカした気持ちになれるって知ってたら、もっと早く作れば良かった…。

「でも…このキュウコンなぜが花咲がさない」
「それはきっと…願いがいっぱい必要なんだと思う」
「ねがい…?」
「おで、よく分がらない」
「あは…私も自分で言っててよく分からないや」
リリーは不思議な子だった。
549「Habranthus」23:2005/04/06(水) 02:18:07 ID:eXjnU6cz
ここは地下深く。
光はほとんど差し込んでこないけど、かろうじて光の差す場所を見つけた。
そして土を掘り、種を入れる。
土を戻し、パンパンと叩き固めた。

彼女は目が見えないけど、匂いなら嗅げる。
お花の感触は確かめられる。

わぁ、とリリーは感嘆の声をあげた。
「本当にありがとう」
満面の笑みをこちらへ向けてくれた。
それだけでやってよかったと思える。
「よろこんでくれで、うれじい」
ボクも満面の笑顔を返す。
きっと見えないだろうけど、それでもいい。
この気持ちは届くと思うから。

「こうやって、人と獣人が仲良く手を取り合っていけたらいいな…」
リリーの言葉に、本当その通りだと思った。
550「Habranthus」24:2005/04/06(水) 02:19:30 ID:eXjnU6cz
そのとき、響き渡る怒号。

「ニンゲンが攻めてきたぞおおぉぉぉっ!!」
「くそっ、ブッ殺してやるっ!!」
「全員武器を持てえぇぇぇっ!」

せっかく穏やかな時間を手に入れたというのに。
どうしてこんなにも争いは、ボクの邪魔をするのだろう。
リリーも尋常でない空気を察したのか、
「何があったの?」と尋ねてくる。
「だいじょうぶ、すぐ静かになる。リリーここでまっでて!」
「何が起こっているのか分からないけど、気をつけて!」

リリーはオーク語も分からないし、目が見えない。
不幸中の幸いだった。
これからの惨劇をつきつけるには、少女にはあまりに過酷だからだ。

ニンゲンを殺すということに。
551「Habranthus」25:2005/04/06(水) 02:21:37 ID:eXjnU6cz
ベグザイルさんが叫ぶ。
「第1隊は東のやぐらだ!グリオンの指示に従え!」
「ベグザイルさん!」
「フレドリック!遅いぞ、うちの隊は北だ!来いっ!」
届いてくる血と硝煙と鉄の匂いが、これからの事態の深刻さを予想させて緊張し、全身がこわばった。

「3番隊特攻隊長、ガンゴー様だあぁぁぁっ!知ってるかあぁぁっ!知らんだろうぅぅぅっ!覚えろおぉぉっ!」
「死んで覚えろおぉぉっ!!死ぬ気で覚えるんだぁぁぁっ!がんばれぇぇぇっ!!お前らがんばって覚えて死ねぇぇぇっ!!」
半狂乱で叫びながら、ガンゴーが鉄球を振り回し、ボウケンシャと呼ばれるニンゲンたちをなぎ倒す。

普段は乱暴で手のつけられない荒くれ物だけど、戦闘になるととても心強い。
ボクだって、今の居場所を失いたくない。
トモダチもできた。
だから守るために戦う。
それが果たしていいことなのか分からないけど、今は深く考えないことにする。

彼らはボクらを殺しにきたのだ。
死にたくないという生理的欲求に従って行動することにした。
552「Habranthus」26:2005/04/06(水) 02:23:12 ID:eXjnU6cz
「ガンゴー!陣形を崩すなっ!全員!迎撃するぞっ!!」
ベグザイルさんが声の限りを尽くして叫ぶ。
ボクもおかあさんが作ってくれた、手製の槍をかまえた。

「風よ、風の精霊よ、我は貴方を呼ぶ…呼応せよ、呼応せよ、呼応せよ…」
声のしたほうを向くと、タルタル族と呼ばれる小さなニンゲンが、魔法の詠唱をしている。
その手の中には巨大な質量が集まりだしていた。
これはやばい!
ボクは考える間もなく、そのタルタルへ突進していった。
ただ詠唱を止めるだけ。

そのはずだった。
勢いあまって、体ごと小さな体にのしかかる。

ドシイィィィンッ!!
ボクはタルタルを押し潰すような形で転倒していた。
思い切り力の限り突進してしまった。
553「Habranthus」27:2005/04/06(水) 02:24:30 ID:eXjnU6cz
「だ、だいじょうぶが?」
土煙がたちこめる中、ニンゲンの言葉で問いかける。
返事はなく…。

ニンゲンは頭を潰され、絶命していた。

「!!」
世界が収縮して膨張を繰り返す。
目の前にあるものが遠く感じた。
手にこびりついた、血の匂い。
すごく臭くて、脳の芯までクラクラしてきた。
殺すという行為は、こんなにも重いものだったのか。

殺してしまった。
殺してしまった。
殺してしまった。

いつまでもその言葉が反芻される。
554「Habranthus」28:2005/04/06(水) 02:25:59 ID:eXjnU6cz
「貴様あぁっ!よくもポルコラルコをおぉっ!!」
エルヴァーンの若者が、ボクに向かってそう叫び、突進してくる。
ボクは動かない。
いや、動けないのだ。

(オモイダセ…)

例の声が聞こえる。
今は感覚が麻痺していて、痛みはない。

(その手に力があることを)

力…?

(その手に破滅があることを)

ボクは…。
555「Habranthus」29:2005/04/06(水) 02:27:24 ID:eXjnU6cz
その時、二人の間に素早く立つオーク。
ベグザイルさんだ。
歴戦のつわものは、ボウケンシャの一撃を軽くいなし、剣を腕ごとふっ飛ばした。
迸る血と、飛び散る肉塊。
なぜだか、ゆっくり時は流れていくように感じた。
ニンゲンの顔が悲しみと苦痛に歪む。
そして情けをかけず、一気に感情のない剣は、心の臓を貫く。

「フレドリックッ!ボーッとするな!ここでは命はロウソクの炎のようにすぐ消し飛ぶぞっ!!」
「は、はいっ!」
その言葉でハッと我に返る。
あの声はもおう聞こえない。
「感覚を麻痺させろ!生きるためだ!作業的に人を殺せっ!」
ボクはその言葉通り、思考を停止させようとした。
死ぬわけにはいかないんだ。
今は何も考えるな。
目の前のモノを貫く。
それだけを考えよう。
破裂しそうなほど勢いづいた心臓の鼓動も、少しづつ落ち着きを取り戻す。
だが…。
556「Habranthus」30:2005/04/06(水) 02:29:18 ID:eXjnU6cz
――リリーを返せ!!

ニンゲンの一人がさりげなく叫んだ一言。
その場に立ち尽くす。

そうか…。
そうだったんだ。

構えていた手を、だらりと下げる。
彼らはただ、さらわれたリリーを取り返しに来ただけ。
ただ、救いたかっただけなのだ。
そう考えると、もう…だめだった。
557「Habranthus」31:2005/04/06(水) 02:30:43 ID:eXjnU6cz
はは、ボクは何をやっているんだろう。
脱力し、しばらく放心状態で目の前の出来事を見つめていた。

怒号が響き、血と肉がぶつかり合い、切り裂かれ砕ける音。
耳がキーンとしてあまりよく聞こえない。
しばらくすると喧騒が止む。

それは一瞬の間で――。

すぐに聞き慣れた声たちが、歓声をあげ、勝ち鬨を高らかに上げる。
オーク達の勝利だった。
でも、それは今のボクにとってどうでもいい出来事だった。
558「Habranthus」32:2005/04/06(水) 02:33:05 ID:eXjnU6cz
バキィィッ!!
殴られ、吹っ飛ぶ。
口の中が熱くて苦い。
見上げると、ガンゴーが仁王立ちで立っていた。

ここは宿舎。
先ほどの体たらくを、ボクは責められていた。
「フレドリイィィックッ!!なんで戦闘中ボォォーッとしてたんだぁぁぁ!答えろぉぉっ!」
勢いよく胸ぐらを掴まれる。

「………」
ボクは何も答えられなかった。
「この臆病者めぇぇぇ!」

バキィッ!
また殴られる。
鼻が熱を持ち、気がつくと鼻血を垂らしていた。
559「Habranthus」33:2005/04/06(水) 02:34:06 ID:eXjnU6cz
「ちんこついてるのかぁぁぁ!オレはついているぅぅぅ!!」
「やめろガンゴー!!」
ベグザイルさんが振り上げる拳を止める。
「サージェントぅぅぅ!弱くて臆病者はいらねぇぇぇ!そうだろうぅぅ!?」
「いいから下がれ!後は俺に任せろ」
「ちっ…俺のはでかいいぃぃぃ!!」

なにやら叫びながらガンゴーは部屋から出て行った。
560「Habranthus」34:2005/04/06(水) 02:35:29 ID:eXjnU6cz
………。
重い沈黙。

ベグザイルさんは、おもむろにタバコを取り出し、火をつけた。
「ふぅ〜〜っ…」
それを深く吸い込み、燻らせる。
「どうだ?お前もやるか?落ち着くぞ」
「いえ、ボクは…」

ふぅ〜っとまた深く吸い込む。
「殺しは初めてか?」
「…はい、多分」
少し考えた後、そう答えた。
「戦争は大変だよな。不条理だらけだ」
ボクはうつむいたまま、ベグザイルさんの声に耳をかたむける。
「意外に思うかもしれんが、戦闘が終わった後は、いつも除隊しようかと考えるよ」
「……」
「知ってるか?ニンゲン共、俺らのことみんな獰猛で残忍で殺しを楽しむような種族と思ってるんだぜ。はは、笑っちゃうよな」
自嘲気味な笑い。
561「Habranthus」35:2005/04/06(水) 02:36:54 ID:eXjnU6cz
「痛みを知り、感情を持つ生き物がそんな風になれるわけないだろって言いたいよ」
見上げてベグザイルさんのほうを見ると、泣き笑いのような顔をしていた。
「ま、一部ガンゴーのような奴もいるけどな」
そういって豪快に笑った。
「でもニンゲンのほうが遥かに獰猛だ。こちらは何もしなくても、ボウケンシャというハイエナ共が、ひっきりなしに攻めてきやがる」
「大方、今回も金品や宝を奪いにきたんだろうな」
苦々しい顔で口走る。

「いえ…その…」
ボクは口ごもる
「ん?どうした」

「どうやら…この前捕虜にした、少女を救いにきたみたいです…」
ボクは弱々しい口調でそう言った。
562「Habranthus」36:2005/04/06(水) 02:38:11 ID:eXjnU6cz
「む…そうか、お前はニンゲンの言葉が理解できたんだったな。そうか、それで…」

(こうやって、人と獣人が仲良く手を取り合っていけたらいいな…)

リリーの言葉が反芻される。
捕虜になってまでそんな言葉が浮かぶなんて。
人と獣人が殺し合いしてるのをさきほどまで目の当たりにしてたボクには、ひどく滑稽に感じた。
そんなの夢物語だ。

でも…。
でもボクは、そんな彼女を助けたい。
ただ花の話をするだけであんなにも嬉しそうな彼女を助けたい。
彼女に何の罪がある。
罪を負うべきはボクらだ。
563「Habranthus」37:2005/04/06(水) 02:39:38 ID:eXjnU6cz
「あのっ…!彼女を解放できませんか!?リリーはっ、彼女は何の罪もない、ただの被害者です!」
ボクがこんな強い口調で話すのが珍しいのだろう。
ベグザイルさんが驚いた顔でボクを見る。
「どうしたいきなり」
もしかしたら同情心からこんなことを言っているのかもしれない。
鎖に繋がれた犬を憐れむように。
でも、理由なんてどうでもよかった。

「彼女は、ボクらとニンゲンが仲良く手を取り合う、そんなことを望んでるような人です!」
「本当に心の優しい子なんだ!お願いです!捕虜は彼女でなくてもいいでしょう!?」
ボクは力の限り、訴えかけた。
「……」
少し考えた後。

「無理だ」
ベグザイルさんは一言、そう言った。
564「Habranthus」38:2005/04/06(水) 02:41:36 ID:eXjnU6cz
「どうして!?」
「気持ちは分かる。あんな子どもを捕虜にするなんて、俺だって気分悪いさ」
そう言って、両手をすくめる。
「…だが、上からの決定ではよっぽどの理由がない限り、解放されることはない」
「そうすると独断で逃がすことになるわけだが…捕虜を逃がすことは重罪だ」

「俺達の首が飛ぶ」
「じゃあボク一人でもっ!」
「もしそんなことしようとしたら、俺は意地でも止めるぞ」
「大事な仲間であり、弟のような存在だからなお前は」
優しげな口調で、だがハッキリとベグザイルさんは言った。
565「Habranthus」39:2005/04/06(水) 02:43:26 ID:eXjnU6cz
「くっ…!」
「今はいない、お前の母親にも息子を頼むと任された。それと…」
少しためらいながら、続ける。

「あまり言いたくないが…捕虜は自分が助かるためなら、同情を煽ったり、良心に訴えかけることなんてみんなするぞ」
「彼女は違う!」
「お前がそう思うなら、その通りかもしれん…だが、解放することは無理だ」
「そんな…」
「耐えろ。俺達の仕事は様々な理不尽に耐える、そういう仕事だ」
そう言って、ベグザイルさんは部屋から出ていった。

「くっ、そぉっ!」
ボクは行き場のない怒りを、思い切り壁に向けて殴りつけていた。
566「Habranthus」40:2005/04/06(水) 02:44:55 ID:eXjnU6cz
ポチャン…ポチャンッ…。
天井の土から染み出す水が水滴となって下に落ちる。
昼間だというのにここは夜なお暗い。
申し訳ない程度に光が差し込む程度だった。
ひんやりとして、何かが腐ったような匂いと土の匂いが不快に鼻をついた。
ここは捕虜を閉じ込める牢獄。
そしてリリーとの憩いの場所…。
死にたくなるほどの疲労感が全身を包んでいるのに、ここへ来ると何故か少しホッとする。

「だだいま」
できるだけ疲れた素振りを見せない口調でボクは言った。
「おかえりなさい、お怪我はない?」
心配そうな声が出迎える。
「えっ?」
「争いがあったのでしょう?」
「どうじで」

「血の匂いがあなたからするから…」
ビクッと体が震えるのが分かった。
567「Habranthus」41:2005/04/06(水) 02:46:14 ID:eXjnU6cz
そんなにも血の匂いはこびりついているのだろうか。
「おではどこもケガない…」
「そう、良かった…」

ボクは迷っていた。
彼女に全てを話すべきだろうか。
襲ってきたニンゲンたちは、リリーを助けにきただけで…。
そんな彼らをボクはその手にかけてしまったということを。
話してしまったら、ボクはリリーに嫌われてしまうだろう。
もうずっとお話してもらえないかもしれない。

「リリー…」
でも、ボクは…償いをしなければならない。
痛みを知るべきだ。
568「Habranthus」41:2005/04/06(水) 02:47:16 ID:eXjnU6cz
「うん?」
ボクは…。

「…水をどってぐる。レインリリーは雨に咲く花だがら、水多いほうが、いい」
「うん、ありがとう」
「他にほしいものあったらいっでぐれ。リリー、お腹すいてないが?」
「あ、じゃあ私もお水もらっていいかな?」
「うん、おいしくてぎれいな水、もってぐる」

(この臆病者めぇぇぇ!)

ガンゴーに殴られた右頬が痛かった。
569「Habranthus」42:2005/04/06(水) 02:49:15 ID:eXjnU6cz
それから何日か経った後、会議が行われた。
お偉いさんも何人か来ている。
これからのニンゲンに対する対処。
どうやって殺すとか。

ボクにとってはすごくどうでもいいことだった。
早くリリーに会いたい。
レインリリーの花も、昨日ようやく芽を出した。
綺麗な花を咲かせるときが待ち遠しい。
それだけで頭がいっぱいだった。

「――と、いうわけで第24回ダボイ会議は終了とする!」
ようやく終わったようだ。
「なお、フレドリックインペイラー(槍兵)はここに残るように」

え…?
急ぎ足でここから立ち去ろうとした足が止まる。
570「Habranthus」43:2005/04/06(水) 02:50:32 ID:eXjnU6cz
「ケケケ…jこの間の超失態でついにクビかもな」
皮肉屋のアビロンがそういってボクに耳打ちした。

彼はことあるごとに、ボクにいつも言いがかりをつけ、からんでくる。
でも、弓の腕前は超一流なので下手に逆らえない。
ガンゴーと同じく悩みの種の一つだった。
「ケケケ…今までもずいぶんヘタレていたし、大人しく荷物まとめて故郷へ帰れよ、超能無し」
今までだったら、帰ることに全く問題はなかった。
むしろ喜んで帰ったくらいだ。

でも、今はリリーがいる。
一緒にレインリリーの成長を見守っていきたい。

それに、ボクがいなくなったら彼女は…。
571「Habranthus」44:2005/04/06(水) 02:52:17 ID:eXjnU6cz
「ふむ…この男がフレドリックか…まだ少年じゃないか」
そう言ってボクのことをまじまじと見つめる大柄なオーク。

誰もいなくなった広い会議室には、今はグルーバーウォーチーフ(戦闘指揮官)と、ボク。
それとベグザイルさんが残された。

グルーバーさんは北方本体でも重要な任務を指揮している、とてもエライ人。
戦闘の激化のため、南方へと派遣されてきたのだ。
南方先遣隊への出立儀式の時に一度だけ遠くから面識があっただけで、直接話したのは今日が初めてだ。

「南方へのご足労、改めてお疲れ様です!」
ベグザイルさんがオーク式敬礼で力強く礼をする。
「うむ…で、覚醒はまだなのか?」
「は…現時点では変わってはいないようです」
572「Habranthus」45:2005/04/06(水) 02:53:48 ID:eXjnU6cz
何の話をしているのだろう。
部隊をクビになって除隊されるのではなかったのか。
「ふむ…まぁ、条件が曖昧だからな」
ボクが顔に?マークをつけていると…。

「フレドリックインペイラーよ、最近何か体に変調をきたすことはないか?」
グルーバー指揮官がそう言って、ボクの顔を覗き込む。
「え…特に何も」

「そうか…君にはよりいっそうの活躍を期待しているよ」
「はぁ…」
またそれだ。
期待しているって、ボクに期待するところなんてあるのだろうか。
「話は以上だ。下がりたまえ」
ボクから視線を離す。
573「Habranthus」46:2005/04/06(水) 02:54:59 ID:eXjnU6cz
「あ…最近何か頭の内側から声が聞こえることがあります」
ポツリと言った言葉に、グルーバー指揮官は物凄い勢いでボクに顔を近づける。
「その声は何と言っている!?」
「えっと…「オモイダセ」、と」
ボクは慌てふためきながらそう言った。

「…どっちだ?」
「は?」
「…いや、何でもない。他には何かないか?」
「はい、他には特に何も…」
「そうか、なら話は以上だ。下がりたまえ」
「えっ…あ、はい」
自分のことだし、今の話をもう少しくわしく聞きたかったけど、リリーに早く会いたい。
ボクはダッシュで地下牢へ向かっていた。
574「Habranthus」47:2005/04/06(水) 02:56:37 ID:eXjnU6cz
揺らぐ世界。

彼女が倒れていた。

初めは寝ているのかと思った。
でも、明らかに不自然な倒れ方。
傍らには彼女が出したと思われる嘔吐物。
視界がボヤけて、目の前が揺らぐ。
一直線にボクは牢の鍵を開け、彼女の元へ駆けつけていた。

「どうじた!?」
息遣いが荒い。
「…大丈夫、ちょっと目眩がしただけ」
575「Habranthus」48:2005/04/06(水) 02:58:26 ID:eXjnU6cz
ここは環境も悪いし、衛生的にも良くない。
長い捕虜生活で体を壊してしまったのだろうか。

「ずまないっ…!」
ボクのせいだ。
ボクが不甲斐ないばかりに。

「…あなたが謝ることはないのよ」
汗をしたたらせながら、リリーがボクの頬をそっとなでる。
「まっでろ、水とってぐる。それと、もっといい場所に、いどうじてもらうように、だのんでみる」
レインリリーもここじゃ綺麗な花を咲かせることは難しいだろう。
彼女をもっと快適な場所に移し、花ももっと陽光浴びる場所に移し変える。
これくらいの要望なら必死に頼み込めば通るだろう。
576「Habranthus」49:2005/04/06(水) 03:00:21 ID:eXjnU6cz
「ダメだ」

開口一番、ベグザイルさんがそう言った。
隊長は酒場にいた。
ガンゴーとアビロンも一緒にいたが、今は時と場所を選んでいるヒマはない。

「どうして!?」
「彼女に開ける部屋がない。今はお偉いさんたちが滞在してるから、それでなくてもすし詰め状態なんだ」
「でも彼女がっ…!」
「彼女にとってもあそこが一番安全なんだ」
「じゃあボクの部屋を空けます!」

「ケケケ…よぉよぉ、さっきから聞いてりゃ超無能君がずいぶん超図々しいんじゃねーの?」
「たいちょう、こいつブッ飛ばしていいかあぁぁぁぁぁ!?」
ガンゴーとアビロンが食ってかかってくるが、相手にせず続ける。
「彼女はボクが責任を持って見張ります!どうかお願いしますっ!」
必死に頭を下げる。
577「Habranthus」50:2005/04/06(水) 03:01:36 ID:eXjnU6cz
「フレドリック…私をこれ以上困らせないでくれ」
ベグザイルさんが困った顔をする。
「捕虜の移動はない。話は以上だ」

「そんな…お願いします!責任は全てボクが持ちます!どうかお願いしますっ!」
それでも引き下がらない。
「…お前があの娘にそこまでこだわる理由はなんだ?いいか?彼女はニンゲンなんだぞ?」

理由?
花を愛する少女。
オークとニンゲンの平和を愛する心優しい少女。
だからなんだ?
ボクがここまで必死になるほどなのか?
分からない。
でも本能が突き動かすがごとく、彼女を守りたい。

ただ、そう思った。
578「Habranthus」51:2005/04/06(水) 03:03:51 ID:eXjnU6cz
「何かを守る気持ちに理由が必要なんですかっ!?」
「ケケケ…大方、こいつオークにモテないからってニンゲンに熱上げ始めたんですよ、超変態が」
「やめろアビロン」
ベグザイルさんがたしなめる。

「…分かった、捕虜の移動の件は俺が何とかする。お前がそこまで必死になるからにはよっぽどのことなんだろう」
一つ息を吐いた後、そう言ってくれた。

「すみません…」
「なあに、可愛い弟のためだ。任せとけ」
「ありがとうございますっ!」
頭を地面にこすりつけそうなほど強く礼をして、ボクはそこから立ち去った。
579「Habranthus」52:2005/04/06(水) 03:05:48 ID:eXjnU6cz
暖かい日差しを浴びて、ボクが佇んでいる。
周りには見渡すばかりのお花畑。
大好きなレインリリーの花もあった。
ボクは花たちに水をかけている。
その横にはニンゲンの少女。

リリーだった。

「ねぇ、今度の光曜日にどこへ行くの?」
「ピクニックだよ」
ボクの意思とは無関係に自分の口からそうこぼれる。
「わぁ、嬉しいな…ゴホゴホッ」
慌ててリリーの背中をさする。

「どこへ行くのかな?」
ボクは背中をさすりながら、答える。
「リリーの命を助けるピクニックだ」
580「Habranthus」53:2005/04/06(水) 03:07:38 ID:eXjnU6cz
「それピクニックじゃないよ」
無邪気に笑いながら答える彼女の笑顔が、眩しい。

「…長く、険しい旅になるかもしれない」
「へいき…パパと一緒なら」
彼女の背中をさする手が、見慣れない手であることに気付く。
これは…ニンゲンの手だ。
ボクは、今、ニンゲン…なのか?
そこで違和感に気付く。

ああ…これは、夢だ。
小鳥がさえずり、花に囲まれ、香りに包まれる。
空はどこまでも透き通る青。
日差しは暖かくてとても気持ちがいい。

どうか…。
どうか、この夢を、いつまでも見れますように…。
581「Habranthus」54:2005/04/06(水) 03:08:55 ID:eXjnU6cz
新芽は成長し、茎が伸びてきた。
それは経過する月日を思わせる。

あれから一ヶ月。
レインリリーはこんな悪環境でも、しっかりと力強く成長している。
それなのに。
それなのに彼女は…。

「リリー、食べ物もってぎた」
苦労したが、なんとかニンゲンが食べるモノを持ってきた。
オークの食事じゃ彼女の食事に合わないと思って。
「ごめんなさい…食事は食べても吐き出してしまうから…」

あれから彼女は衰弱していく一方だった。
582「Habranthus」55:2005/04/06(水) 03:10:53 ID:eXjnU6cz
今は起き上がることすらままならない状況だ。
食事もほとんど受け付けない。
弱々しく閉じた目でボクの方向を見つめる。

「ありがとう、フレドリック」
「えっ…?」
「あなたが見張り役で本当に良かった。

「……」
何度も隊長に懇願した。
部屋を移動してくれと。
だが、フレドリックさんは許可が降りない、の一点張り。
もう、我慢の限界だった。
583「Habranthus」56:2005/04/06(水) 03:12:32 ID:eXjnU6cz
「サージェント…なら彼女はボクの部屋へ無許可で連れていきます」
強い口調でボクは話しかける。

「いいですね!?」
「…そんなことしたらどうなるか分かっているのか?」
「ボクのことはどうなろうとかまいません」
「フレドリック…よく聞け。その件は俺に任せろと何度も言っている」
「あれから一ヶ月たっているではないですか!?」
「今は事を荒立たせるなと言っているんだっ!」
「彼女はどんどん衰弱しているっ!命が危ないと何度も言ってるでしょう!?このままじゃ死んでしまうっ!」
「いいから我慢しろっ!」
「結局あんたは何もしてないんだろうっ!」

胸がチクリと痛んだが、そう吐き捨てて、立ち去ろうとした。
そこに立ちはだかるガンゴーとアビロン。
「隊長うぅぅぅぅ!!ブッ飛ばしていいよな?」
拳を鳴らしてガンゴーがボクにせまる。
584「Habranthus」57:2005/04/06(水) 03:14:07 ID:eXjnU6cz
「…いいだろう、この甘ったれに軍の規律の厳しさを少し思い出させてやれ」
結局、ベグザイルさんもボクの味方ではなかった。
可愛い弟だと言っておきながら、軍のほうが大事なのだ。
ふつふつと沸き上がる、やるせない怒り。

要するに、ボクは子どもで彼は大人。
つまりはそういうことだ。
どっちが悪いとかどうでも良かった。

「ケケケ…隊長の超お許しがでたゼ」
アビロンが弓をこちらへ向けて構える。
「ただし、手加減はしろよ」
「ケケケ…分かってるって、これは練習用の尖ってない弓さ。ただし当たったら骨の一本くらい超折れるかもしれけどな」
ボクは黙って愛用の槍を構える。
「うおぉぉぉっ!!こいつやる気だぞおぉぉぉっ!でもへっぴり腰いぃぃぃっ!!ざんねんんんっ!!」

「ちくしょぉーーーーっ!!」
ガムシャラに二人に向かって、ボクは突進していた。
585「Habranthus」58:2005/04/06(水) 03:15:33 ID:eXjnU6cz
「…どうしたの、すごく体中、傷だらけ」
「ちょっど、ころんだ」
リリーはボクのほうをじっとみつめた。

開いた瞳。
透き通る空のような美しい青い瞳。
でも、その目はボクの目を見ていない。
声だけでこちらを見ているのだろう。

「…うそ」
そう言って、手探りで水桶を探し、水につけてあった布でボクの顔を優しくふいてくれる。
顔にひたされる水が、冷たくて、心地よかった。
布を持つ手が震えている。
起き上がるのも苦しいだろうに。
586「Habranthus」59:2005/04/06(水) 03:16:39 ID:eXjnU6cz
「リリー、無理しないで」
「私にも何かさせてほしい…いつも世話になってばかりだから」
「がぅ…」
そう言われると困ってしまい、言われるまま傷口を冷やしてもらった。

「………」

「………」

静かに、静かに、時間が流れる。
水の音だけが時を刻んでいた。
心がぽかぽかする。
そんな暖かくて穏やかな時間に身を任せてしまうと、もうダメだった。

意識がふっと消えて、景色が暗転する。
緊張が途切れ、ボクは気を失ってしまっていた。
587「Habranthus」60:2005/04/06(水) 03:18:01 ID:eXjnU6cz
「ニンゲンよ再び問う。その娘を助けたいという願いだけでここまできたのか?」
オークの王が言った。
「そうだ」
ボクが答える。
両手にリリーをかかえて。

また例の夢だ。
ボクはオークに囲まれていた。
「オークの部族には、生命力を劇的に飛躍させる秘薬があるはずだ。それを分けてほしい」
「ただそれだけのために、遠路はるばるここまで来たというのか、このニンゲンは…!」
「このオークの群れをかいくぐってか…!?なんというやつだ」
王を守るように立ちはだかる取り巻きが驚きの声を上げる。

周りはすでに取り囲まれ、逃げ場もない。
ここまでたどり着くのに、体はボロボロだった。
だがラストアビリティ、魔力の泉を使う余力は残してある。
いざとなれば刺し違えてでも…。
覚悟は決めていた。
588「Habranthus」61:2005/04/06(水) 03:19:21 ID:eXjnU6cz
ボクはやっぱり夢の中ではニンゲンで、その人の感情が強く流れこんでくる。

………。
しばしの沈黙。
「…ハッハッハッ!」
王が静寂を破り、笑い声を上げる。

「気に入ったぞニンゲンよ!面白い奴じゃ」
「いいだろう[生命の秘薬]を分けてやる!」
「王よ!その秘薬はニンゲンなんぞに分けるような軽いものでは…!」
ざわめきたつ声を静止し、静かに言った。

「じゃが、タダではやれん…報酬には代償を」
「リリーが助かるなら、ボクはどうなろうとかまわない」
「転生と移植の儀式を受けよ。さすればその娘の命、助けてやろうぞ」
「彼女が助かるなら何でもやる。ただし、彼女の命は保障すると約束しろ」
こちらが無力ではないことを示すため、魔力を手に集める。

………。
「男神プロマシアの名に誓って…娘は処置を施したのち、ニンゲンの人里まで送り届けると約束しよう」
589「Habranthus」62:2005/04/06(水) 03:21:09 ID:eXjnU6cz
額が冷やっこい。
ぼやける視界をかきわけるように意識を繋げる。
そうだ…ボクは気を失っていて…。

………。

目がハッキリしてくる。
ボクは、リリーのヒザに頭を乗せて寝ていた。

「リ、リリー!おで、重い!」
慌てて頭をリリーのヒザからどける。
額につけられていた水布が落ちた。
「フレドリック、おはよう」
「あ、あっ、まさが、ずっとごのままっ!?」
寝ぼけて慌てたので上手く言葉が浮かばない。
「大丈夫、重くないよ」
微笑むリリー。
590「Habranthus」63:2005/04/06(水) 03:23:02 ID:eXjnU6cz
「それよりほら、見て。レインリリーにつぼみ」
「おお…」

見ると、日差しが足りない分少し小さかったが、レインリリーにしっかりとつぼみができていた。
「今日か明日には咲くかも」
嬉しそうにそう言った。

「…あれ、リリー目がなおっだのか?」
彼女の瞳は焦点が定まり、しっかりとレインリリーを見据えている。
「うん、まだぼやけてるけど、少しづつ見えるようになってきたみたい」
「どうじてだろう」
「うーん…花のおかげ、かなっ」
そういって無邪気に笑う。

体調は回復している。
状況も良くなってきている。
…そう、信じたかった。
591「Habranthus」64:2005/04/06(水) 03:25:55 ID:eXjnU6cz
外は雨が降っていた。
しとしとと、降り注ぐ雨は、体を動かし熱を持った体を優しく包む、癒しの雨だった。
櫓の組み立てが終わり、今日の仕事も終わりに差し掛かろうとした頃。

「フレドリック、後で特別会議室に来い。グルーバーウォーチーフから大事な話があるそうだ」
ベグザイルさんにそう呼び止められた。
何だろう、昨日のことで怒鳴られるのだろうか…。
それとも…リリーの移転許可が降りたのだろうか。
色々な考えが頭をよぎる中、ボクは会議室に向かった。


「しつれ…」
「どういうことですかっ!?」
ボクが会議室に入ろうとした時、中から怒鳴り声が上がり一瞬動きが止まる。

「フレドリックを何故北に戻す必要があるのです!?」
机をドンッと強く叩く音。
心臓が跳ね上がった。
ボクは開けようとしたドアから手を離し、耳をかたむける。
592「Habranthus」65:2005/04/06(水) 03:27:30 ID:eXjnU6cz
「ベグザイルサージェント、少し落ち着きたまえ」
「…失礼しました。ですが、その決定には恐縮ですが納得がいきません」
「上層部の決定だ」
「ですが…彼はよくやっています。それに…彼にはここで大事な目的ができたようです」

「ニンゲンの娘、リリーのことか…」
「彼女の移転要請もいつになったら降りるのですか!散々要請してきたではないですか!?」

ベグザイルさん…。
彼はずっとこうして頼んでいたのだ。
それをボクは何もやってないなんて言って…。
何か問題を起こしたら全て無駄になってしまう。
だからこそベグザイルさんはボクを意地でも静止したのだ。
自分の浅はかさを恥じた。

「問題はそのニンゲンの娘のことだよ」
「それは一体…?」
593「Habranthus」66:2005/04/06(水) 03:29:34 ID:eXjnU6cz
「あの娘は……ぎし…の………贄……男の…」
どうやら声をひそめて話をしているようで、よく聞き取れない。

「なっ!?」
「いいか、事態は非常にまずい。どうやら戻っているのは全ての記憶だ」
胸の鼓動が早くなる。
とても重要で大切なことがそこに隠されているような気がして。

ボクは…ボクは一体、何者なんだ?

ウォーチーフの低い声が続ける。
「記憶を封じたままで覚醒を成功させねばならん。そのためには…」
カタンッ。
「誰だ!?」
しまった!
よく声を聞き取ろうと身を乗り出したため、木箱に足をぶつけてしまった。
594「Habranthus」67:2005/04/06(水) 03:30:43 ID:eXjnU6cz
「失礼します!フレドリックインペイラー出頭しました!」
ドアを開け、敬礼して部屋に入る。
「…いつからそこにいた?」
「ハッ、今来たところであります!」
悟られないため、努めて冷静に言った。
心臓がすごい勢いで動いているのがよく分かる。
「ふむ…まぁいい。呼んだのは他でもない。お前の……」


明日付けで除隊が言い渡された。
今日中に荷物をまとめなければいけない。
いくらなんでも急な話だった。
ボクは無言で荷物をまとめる。
そして、荷物をかかえたまま部屋を出て、あそこへ向かう。
途中でアビロンの冷やかす声が聞こえたが気にしない。

ボクはある決意を胸に秘めていた。

――ここからリリーを連れて脱走するということを。
595「Habranthus」68:2005/04/06(水) 03:33:47 ID:eXjnU6cz
「だだいま」
「おかえりなさい…」
リリーは胸を押さえて苦しそうだった。
でもその顔には満面の笑顔。
その傍へすぐに駆けつける。

「見て…花が!」
輝く光の花。
そこに導かれるように、ボクはふらふらと近づく。

なんて…なんて綺麗なレインリリーを咲かせたんだろう。
「良かった…私、毎日お祈りしてたの…綺麗な花が咲きますように、って…」
「リリー、ちがぐへおいで。いっじょにみよう」

ボクが牢の鍵を開ける。
「えっ…、開けちゃっていいの…?」
「もうごんなもの、ひづようない…っ」
施錠を取り、放り投げた。
596「Habranthus」69:2005/04/06(水) 03:35:20 ID:eXjnU6cz
リリーの手を取り、立ち上がらせようとする。
「あ…、ごめんなさい。でももう自分では立ち上がること出来なくなってて…」
…その言葉に自分の無力さを強く呪う。
急がねば。
心を何かが急かす。
ボクは彼女を抱きかかえ、花の目の前まで運んだ。


「わぁ、すごく綺麗でいい香り」
こころなしか、彼女の顔色が少し良くなったように感じた。
ボクもレインリリーに近づく。
二人の笑顔に包まれたレインリリー。
いや、包まれているのはボクたちかもしれない。
淡い光をたずさえ、輝く。
体中の疲れが取れていった。
「こでは一体…」

その時、急速に吸い込まれる意識。
閉じていた記憶が蘇る。
光の螺旋に導かれるように…。
597「Habranthus」70:2005/04/06(水) 03:38:13 ID:eXjnU6cz
そう…あなたは優しすぎるから。
辛かったら南方への先遣隊には加わらなくていいのよ。
そうだ、これを持っていきなさい。
たくさんの花の種。
それと…レインリリーの花の球根。
南の暖かい気候なら、きっと綺麗な花が咲くでしょう。
このレインリリーの花の球根は特別な花。
大事にするのですよ。
この花は…。

この花は、別名[命のレインリリー]。
生命の秘薬の元。
煎じて飲めば、どんな病気でも怪我でも、たちどころに治るでしょう。
匂いを嗅げば、呪いまやかしも打ち消すでしょう。

咲く条件は、純粋な強い願い。
命を賭すほどの強く願う心が、花を咲かせます。
あなたや、あなたの大切な人が命の危険に晒された時、この花を使いなさい…。
598「Habranthus」71:2005/04/06(水) 03:39:57 ID:eXjnU6cz
(じゃあ今、母さんに使う)
ふふ…私は今まで球根に命を吹き込み続けてきましたから…。
もう、寿命なの…。
そして、それが管理者としてのなれの果て。
報酬には代償を。

フレドリック…あなただけは…。
どうか…幸せに…。

母さんはあなたが…。

あなたが元はニンゲンでいたとしても…愛していました…よ。
599「Habranthus」72:2005/04/06(水) 03:41:48 ID:eXjnU6cz
光は収束し、意識が戻る。

そうだ…こんな大事なこと忘れていたなんて。
ボクは昔、人間だった。
でも母さんはそれでも大事に優しく育ててくれた。
体は母さんの子でも、中身は違うのに。
心から感謝していた。

でも…もう一つ大事なことを忘れているような気がする。
とてもとても大事なこと。
それは…。

「フレドリィィィィィーーーークっ!!」

パリーーーーンッ!
その声ではっと現実に呼び戻される。
ガンゴーとアビロンが出口で立ちはだかっていた。
600「Habranthus」73:2005/04/06(水) 03:43:38 ID:eXjnU6cz
「貴様あぁぁぁぁっ!!捕虜を檻から出して何をしているうぅぅぅぅっ!!なぁにぃをぉしていらうあsjsぎあそs!!!!!!!!いでっ、舌かんだ」
「ケケケ…明日付けで除隊と聞いたから、最後にお別れパーティを超やってやろうと思ったんだが、これは思わぬ場面に出くわしたな」
二人とも武装してきている。
ロクなお別れパーティじゃなかっただろう。

「なんだこの荷物はあぁぁぁぁっ!!これじゃ逃げる気マンマンじゃねぇかあぁぁぁぁっ!!」
「こんなに荷物いっぱいかかえてどこまで逃げる気だあぁぁぁっ!!!!ヴァナ・ディール一周ブラリ旅する勢いかあぁぁぁぁっ!!!!」
「ケケケ…捕虜の脱走補助は超重罪。死刑だ、問答無用で超死刑!!」
ジリジリと二匹の獰猛なオークがボクらにせまる。

「フレドリイィィィーーック!!オレ様はお前が前から気にくわなかったんだよおおぉぉぉっ!!」
「ケケケ…超能無しのクセに上に可愛がられまくりやがって…」
「そのニンゲンのガキもろともこの場でブッ殺して、ブッ殺して、ブッ殺しまくってやるううぅぅぅぅぅっ!!」

ボクはリリーを守るように前に立ち、ゆっくりと構えた。
愛用のヤリは必要なかった。
物凄い量の呪文の羅列が、頭に叩き込まれ、浸透していくのを感じていたからだ。
601「Habranthus」74:2005/04/06(水) 03:44:57 ID:eXjnU6cz
手に魔力が集う。
暖かく、力強い。
ブイィィィィィィンッという音が耳に強く残った。
気を抜けば、外に飛び出て爆ぜそうになる。。
まだ上手く慣れていないのだ。

「おおおおおいいいいいっ!!!!何手光らせてんだあぁぁぁぁっ!!」
叫びながらガンゴーが身を低くし、ボクに向かって突っ込んでくる。
早い。

「ガンゴー気をつけろっ!こいつ何か様子が超ヤバイぜ!」
アビロンはそう言いながら弓を素早く構える。
ガンゴーが近接で相手と対峙し戦い、アビロンがそのスキに急所へ矢を叩き込む。
今まで幾度と見てきた死の連携。
これから逃れた者は、いない。
602「Habranthus」75:2005/04/06(水) 03:46:09 ID:eXjnU6cz
「フレドリックっ!」
後ろからリリーの声。
彼女も守らなければならない。

「ふぅっ!」
ボクはとっさに無詠唱呪文をガンゴーに向けて唱える。
「あがっ!?」
ガンゴーの動きが止まる。
そのスキに彼女を抱きかかえ後ろへ飛ぶ。
右頬から鋭い衝撃が通り抜けていった。
「ちぃっ!何超止まってんだよガンゴー!おかげではずしちまっただろうが!」

彼らは本当に強い。
いつも身近で見てきたからこそ身を持って理解できる。
今までのボクなら、手も足もでず殺されていただろう。

そう、今までなら。
「リリー、ボクの後ろへ」
早口でそれだけ伝える。
603「Habranthus」76:2005/04/06(水) 03:48:10 ID:eXjnU6cz
「土の精霊よ、我に仇なす者にからみつき捕縛せよ…」
「うごおぉぉぉっ!動けたあぁぁぁっ!!死ねえぇぇぇっ!!」
ガンゴーがスタンから解放され、ボクに飛びかかる。

が、今度は土が盛り上がり、ガンゴーの足をからめとる。
「うがあぁぁぁぁぁっ!!また動けなくなったあぁぁぁぁっ!!」
間合いを詰めさせない。
それが今のボクが勝つ方法だと体が覚えていた。

「大気よ、振動し幻惑せよ…幻惑せよ…幻惑せよ…」
ボクの体が震える。
いや、正確にはボクの周囲の大気が振動している。

「ケケケ…なんでお前精霊魔法ちゃっかり超使ってんだよっ!しかも詠唱超はえぇーっ!」
アビロンが驚きの声を上げた。
時間が一秒でも惜しい。
「炎の精霊よ、狂い、暴れ、爆ぜよ…爆ぜよ…爆ぜよ…爆ぜよ…」
両手を重ね合わせるようにして力を込める。
604「Habranthus」77:2005/04/06(水) 03:54:38 ID:eXjnU6cz
その手のひらの間に物凄い質量の力が現れてゆく。
チリチリと熱い。
気を抜くと体ごと焼けつきそうだ。

「うおっ!古代術式じゃねーかっ!やべー!超やべーーーっ!食らったらぜってー死ぬ!だがぁっ!」
アビロンの構えた矢から光が集う。
その力は凄まじく、ここからでもカミソリのような圧力がボクたちを襲う。

「ケケケ…オレ様をなめんなっ!これで終わりだ!超々必殺奥義、イーグルアイぃーーっ!!」
光を帯び、大きく先端がふくらんだ矢がボクめがけて発射された。

刹那。
ガガガガガッ!!
気がつくと、すぐ脇の後ろの壁をどこまでも深くえぐっている。
軌道すら認識できないほどの神速の矢。
もしまともに当たっていたら即死だったろう。
605「Habranthus」78:2005/04/06(水) 03:56:18 ID:eXjnU6cz
「ケケケ…そこらへんぼやけていて狙いが定まらねーっ!」
「爆ぜよ…爆ぜよ…爆ぜよ…爆ぜよ…」
ボクは詠唱を構わず続ける。

「ケケケ…やべぇ、マジ超やべぇ…おいガンゴー!オレ死ぬっ!なんとかしろっ!」
「あああああああぁぁぁぁぁっ!!動けねえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
手から溢れんばかりの質量が集まり、じょじょに形を成していく。
両手で支えているのがやっとだ。

「ケケケ…ちくしょーーーっ!!」
アビロンは抜き身のナイフを取り出し、ボクに突っ込もうとする。
でも、もう遅い。
「フレアァーーーッッ!!」
アビロンがいる空間が圧縮され収縮し…。

圧倒的な火力と質量。
それが…。

――爆ぜた。
606「Habranthus」79:2005/04/06(水) 03:58:19 ID:eXjnU6cz
「ぐぅぅっ!」
「きゃぁーっ」
「ウゴオォォォォォォッ!」
ボクたちは牢屋の中まで転がりながら吹き飛ぶ。
立ち込める砂埃。

「アビロンンンンンっ!!どこだあぁぁぁぁぁっ!!」
砂埃の向こうからガンゴーの声。

「はぁ…はぁっ…」
少し、力を使いすぎたか。
肩で息をする。
眩暈がすごい。
加減がまだ上手くできないんだ。

「フレドリック…大丈夫…?」
リリーの言葉に、ボクは笑顔で答えた。
まだ油断はできない。
607「Habranthus」80:2005/04/06(水) 03:59:53 ID:eXjnU6cz
少しづつ視界が開ける。
すると、ガンゴーがうずくまっていた。
「ちくしょおぉぉぉっ!!お前、影だけしか残ってねぇじゃねーかよおぉぉぉぉっ!!」

ボクは力を振り絞り、両手を構えた。
「フレドリイィィィィッックゥゥゥゥーーーッッ!!」
ガンゴーがゆっくりと立ち上がる。

「お前を舐めてたあぁぁぁっ!!本気でやってやるうぅぅぅぅぅぅっ!!」
ガンゴーが体中に力を込める。
「グガアアアガアアアアアァァァァァァッ!!」
肩や胸がボコッと膨らみ、筋が浮かぶ。

「ごほっ、ごほっ…」
そのとき、後ろから咳き込む声。
リリーが吐血し、うずくまっていた。
「リリーっ!」
くそっ、さっきの爆風で…。
戦場の真っ只中に彼女を置くのは負担が大きすぎるのだ。
慌てて彼女に駆け寄ろうとする。
608「Habranthus」81:2005/04/06(水) 04:02:12 ID:eXjnU6cz
「ひゃくぅれぇつぅけぇんんんんっ!!」
バクゥンッ
肥大した筋肉に耐え切れず、ガンゴーの服がはじけとんだ。
まずい!

リリーに気を取られていたせいで、一瞬詠唱が遅れる。
「土の精霊よ、我に仇な…ぐぅっ!」
「おせっ!」
恐ろしい速さでボクの懐に潜り…「何か」で腹を抉られる。
多分拳だと思うけど、早すぎて見えなかった。
そのまま衝撃で吹き飛ばされる。
壁に激突する…!
ボクは、衝撃に備え身構えた。
だが何故か衝撃が下から。
ドゥグゥンッ!
「ぐおぁっ…!」
真上に飛ばされる。
背中からミシミシと嫌な音がした。
609「Habranthus」82:2005/04/06(水) 04:03:27 ID:eXjnU6cz
振り向くとガンゴーが下にいる。
そんなばかな…ボクが飛ばされるより早く先に追いついて殴ったのか。
両手で顔面をガードする。
だが、それも無駄なことだった。
まるで降り注ぐ雨のように拳が襲いかかってくる。

「ぐっ!がっ!ごっ!」
ボキィッ!
肋骨が大きな音を立てて折れた。
「ごふぅっ!!」
口から飛び散る鮮血。

「すらだんっ!」
そして、ガンゴーは上空に飛び上がり、上からボクを叩きつける。
「――ッ!!」
あまりの痛みと衝撃で、声が出せない。
ボキボキボキィッ!
全身の骨が折れたのを感じた。
610「Habranthus」83:2005/04/06(水) 04:04:41 ID:eXjnU6cz
ああ…ボクはこんなところで死んでしまうのか…。
その威力は死を予感させるほどだった。

「おまっもっおわっしっししししっ!」
言葉も早口になって、何を言ってるのかよく分からないガンゴーが、ボクを指差して高速で笑う。

「フレドリックっ!」
リリーがボクをかばうように抱きつく。
「リ、リリー…逃げ…て…」
声を絞り出してそう言った。
「こっおまっかさぶっ殺やっ!」
早歩きでボクらに近づくガンゴー。
シャカシャカ素早く動いていて不気味だった。

くそっ、彼女だけでも守らないと!
「ふぅっ!」
「がっ!」
無詠唱呪文で動きを止める。
611「Habranthus」84:2005/04/06(水) 04:05:49 ID:eXjnU6cz
どうする?
一瞬で行動を決めなければいけない。
この魔法はすぐに解ける。
ボクはもう動けない。
呪文を詠唱しようにも口の中がボロボロで唱えられそうもない。
彼女だけでも…いや、だめだ。
逃げても追いつかれる。

どうする?どうすれば…。

その時、口に何か異物が押し込まれる。
レインリリーの花だった。

「お願いっ、死なないでっ…」
リリーがボクの口に押し込んでいた。
それだけで体が暖かくなり、痛みと苦しみと疲れから解放される。
不思議な活力が満ち溢れていた。
612「Habranthus」85:2005/04/06(水) 04:07:14 ID:eXjnU6cz
「てめっなっしやっだっうぜっころ…すぞぉぉぉっ、このやろううぅぅぅぅっ…!!…あれ?」
「土の精霊よ…」
「やべえぇぇぇぇっ!!百烈拳切れたあぁぁぁぁっ!!」
「我に仇なす者にからみつき捕縛せよっ!」

土が盛り上がり、ガンゴーをからめとる。
「うごおぉぉぉっ!!また動けねえぇぇぇぇぇっ!!」

「…終わりだ、ガンゴー」
ボクは魔法の詠唱を開始する。

「ちぃぃぃぃくぅぅぅぅしょおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーっっ!!」

バンッ!!

爆ぜた。
613ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/06(水) 04:09:53 ID:eXjnU6cz
とりあえずここまで
続きもちゃんと書くでよ

って・・・超なげええぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!!!!
うpするだけでも、疲れた・・・
超疲れたあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!
はぁ
614ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/06(水) 04:59:38 ID:eXjnU6cz
>>519
面白かったよ
それに読みやすい。
ただ、>>509で最後にティナがピットに対して一言、
[ありがとう]みたいな感じて言ったほうがもっとキャラに惹き込まれるし、
ピットの目的向上にも繋がったんじゃないかな
例えば、
《は、はい!行ってきます!じゃない、すぐそっちに行きます!》
《それと》
ティナは消え入りそうな声でポツリと呟いた。
《ありがとう》
《は、はいっ!》みたいな感じで
でも前よりすごく良くなったと思う
一気に読めたyp
と、感想をつぶやいてみる
615ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/06(水) 05:06:27 ID:eXjnU6cz
自分も作り手だし、未熟なのに意見するのはかなり気が引けたが、
やっぱり交流はしたいので言ってみた
こういうのも別にアリだよな・・・?
さて、続きに取り掛かるか・・・
ああ・・・今回はダルい部分が多くて、最後まで読んでもらえているかどうか・・・
616既にその名前は使われています:2005/04/06(水) 05:44:35 ID:TjC7vgPP
ブリ様元気だなwっうぇwっうぇ
なかなかダルそーだが結構オモスレー
617 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/06(水) 07:47:41 ID:I+JGRcM0
つДT)うおお、ブリジッド兄さん!感想有り難うございます!
いや、確かに仰るとおり、ティナの態度は冷たすぎたかもしれないです。
でも……ティナを「崩す」のは、もう少し後にしたいという事情があるのです。
しかし、確かに「礼を言わせる」ことは重要なポイント。
慎重に、いつ言わせるかを考えたいと思います。

>>「Habranthus」
すごく面白いです。
こうして、主人公の謎や真実が解けていくパターンは結構好きです。
この後、どういう結末に行き着くのか。
願わくば主人公フレドリックに幸あらんことを、と言いたいところだけど、
どうなるかは、作り手様のみぞ知るところ……楽しみにしています。

では、続きが出来ている部分を貼りたいと思います。
重いです。すごく重いです。
受け入れられるかどうか、私の方こそ不安てんこもり……
618倉庫達の冒険D (1/13)  ◆6NLrYYfI2g :2005/04/06(水) 07:48:46 ID:I+JGRcM0
「甲板に出ようぜ。こんな船底に籠もっててもつまらん。」
 そう言って、ディバンはピットを伴い、船室の扉を開けた。
 船室を出てすぐの所に、申し訳程度の売店と釣り具を売るギルドショップが開店されて
 おり、退屈そうな顔をした売り子が立っている。
 この機船はクォン大陸とミンダルシア大陸を結ぶ、いわゆる貨物船である。本来は客船
 という訳ではないのだが、ついでに乗客も乗せるという訳なのだ。おかげでウィンダス
 連邦に住む者にとって世界へ出るための一つの玄関として重宝されている。
 乗客が多いときもあるが、ほぼ空っぽの状態で荷物だけを運ぶ時もある。あるいは、
 大半が海釣りを楽しむ客ばかりというときもざらにある。

 そうして、ピットは甲板に上がり……初めて見る広大な世界に目を丸くした。
「うわぁ……なんて広い……」
 海ならばウィン港から見たことはあるはずだが、船から見るのとでは違ったものがある。
 あらためて潮風を浴び、ピットは広い海に、そして広い世界に出てきたことをようやく
 実感し始めた。護衛されてマウラまでたどり着くまでの間は緊張続きで周囲を鑑賞する
 余裕などまるでなかったのだ。
「ああ、広いな……この広い海、どこまで続くものか旅をして見極めた奴など誰もいない。」
 見慣れているであろうディバンもまた、感慨深く言った。
 冒険者であれば、広い世界を目にしたときの感動は誰にでも経験することなのだ。
 この程度のことで、などと茶化すこともなくピットの思いに共感していた。
619倉庫達の冒険D (2/13):2005/04/06(水) 07:49:36 ID:I+JGRcM0
 ピットが落ち着いてきた頃合いを見計らい、ディバンは語り始めた。
「俺はな、ピット。これまで……」
「え?」
 ピットは少し驚いた。
 今まで、ディバンからは名前ではなく、坊やとしか呼んでくれなかったからだ。
「これまで盗賊っていう生業でやってきたんだ。盗賊というと盗みを働く犯罪者、下衆な
 泥棒のように聞こえるが、冒険者としての戦いではそうじゃない。敵の背後から忍びより
 強烈な不意打ちを食らわせたり、敵を攪乱したり……正面切って戦うのとは少し違った
 戦い方をしたり、あるいは敵の要塞や古い迷宮から宝物を探りだしたり……
 ま、結局は盗みを働くんだが、そうした盗人としての技をもって仲間を支援する。
 やることはセコイが小汚い犯罪者とは訳が違う。」
「はぁ……」
 ディバンが何を意図した話をしているのか判らなかったが、これまでにない真面目な口調
 のためか、ピットはじっと耳を傾けて聞いていた。
「そんな盗人が、どういう経緯で冒険者の一人として位置づけられたのか。
 そんな歴史的背景は俺は知らんよ。ま、人を相手にすりゃ犯罪だが敵相手なら功績になる。
 重罪となる殺人も戦争でやれば英雄になれる、それと同じ理屈かな。」
「……」
「だがな、俺はついやってしまったんだよ。自分の技に天狗になっちまったかな。
 道往く人の懐から、ちょいと、な?」
620倉庫達の冒険D (3/13):2005/04/06(水) 07:50:22 ID:I+JGRcM0
 ディバンは苦笑いしながら話を続けた。
「最初はばれなかったよ。俺も自分の技にはそれなりに自負があった。実際、意外と金を
 もってる奴も多くて良い稼ぎになったし、つい調子に乗ってしまったんだ。
 が、そんなことは長くは続かない。結局は御用となってお縄を頂戴したわけだ。」
「……そうだったんですか。」
 ピットは相づちを打ちながらも、やっぱりろくな奴じゃないな、と考えていたが。
「しばらく禁固の刑を喰らった後、生活する上で制約を受けている。そして現在に至る、
 ってこった。どこに行って何をするにも自由だが……」
「……?」
「現金を持っちゃいけない、だとよ。どういう理屈だか、道に落ちている小銭すら拾うこと
 も出来なくなっちまった。なんか魔法の類なんだろうな。」
「そ、それじゃどうやって生活してるんですか?」
「配給制だよ。雇い主のモールが金を振り込む。すると切符がもらえる。それをジュノの
 酒場や店に渡せば飯にありつけるって寸法だ。
 だから、だ。俺が現金をやりとりする必要のないクリスタル倉庫をやってる理由だよ。」
「……ああ、なるほど。」
「こうして職をあてがって貰ったのは良いが、金を触れないってのがどうもなぁ……
 働いても働いても一銭にもならんようで、やりがいというものが……
 あれ?ピット、どこいった?」
 そういって、ディバンは辺りをキョロキョロと見渡すと……
621倉庫達の冒険D (4/13):2005/04/06(水) 07:51:33 ID:I+JGRcM0
「うわァ!た、たすけ……」
「こ、こいつ、出やがったな!」
 なんと、巨大な蛸の足、というか吸盤だらけの触手が、ピットの小さな身体に絡みつき、
 高々と持ち上げられてしまったではないか。
 そこに現れたのは、「海の格闘家」と称されている蛸の足とエイの身体を持つ怪物だ。
 ときどき甲板に現れて船客に襲いかかる、いわば機船の名物といっても言い存在である。
 ……などと、悠長に解説している場合ではない。
「まかせろッ!今、助けてやるからな!……っていっても、武器がこんなんじゃなぁ。
 くそう、短剣の一本でもありゃ……」
 ディバンが腰に差しているのは、お飾りといってもいい短めの棍棒だけであった。
 だが、それでも無いよりマシと、それを手にして殴りかかろうとしたその瞬間、

「フンッ!」
             バキッ!!!
「グギャァァァァッ!!」
 背後から強烈な一撃を受けて、独特の悲鳴を上げてながら怪物は崩れ落ちた。
「す、すげぇ!一撃かよ。」
 ディバンは驚きながらも、慌てて駆け寄って触手の吸盤からピットを引きはがそうとした。
 それに対して、怪物を下した張本人らしい一人の男が話しかける。
「話に夢中になるのは良いが不用心だぞ、ディバン。」
622倉庫達の冒険D (5/13):2005/04/06(水) 07:53:49 ID:I+JGRcM0
 怪物を挟んで、ちょうど反対側に立っていたのは、チュニックを着た巨躯のガルカだった。
「心配するな、と言っていたのは何処の誰だ?
 捕まえられただけだったからよかったが、ピットでは一撃喰らえば一巻の終わりだ。」
 ディバンは少し考えた後に、ようやく相手が誰か気づいた。
「……あんた、ゲートか!何やってんだ、こんなところで。」
 その巨躯のガルカ……ゲートは笑って答えた。
「ここまで出てきたお前に言われたくないな。いや、こんなこともあろうかと船に乗り、
 迎えに来てやろうと思ったのだ。」
「おいおい、俺たちが乗り遅れていたらどうするんだよ。機船は2隻あるんだぞ。」
「その時は、リンクパールを通して連絡を入れたさ。
 いや、この船はよく乗りに来るんだ。雇い主から用を頼まれれば魔法ですぐ戻れるしな。
 退屈なときは、あちこちで釣りに出ている。よい暇つぶしになるしな。」
「なるほどねぇ。でも、腰は大丈夫なのかよ……って、おいおい。」
 言われて気が付いたのか、ゲートは腰を手で押さえながら、うずくまってしまった。
「む……やっぱり、腰に来たらしい。久しぶりに拳を使ったのが……」
「大丈夫ですか?」
 ピットはそう言って心配そうにゲートの顔をのぞき込んだが、ディバンはケタケタと笑
 っている。
「そんな身体で無茶するんじゃないって。」
「ちょっと……お陰で助かったんだから、何も笑うことはないでしょう。」
623倉庫達の冒険D (6/13):2005/04/06(水) 07:55:05 ID:I+JGRcM0
 ピットはそんなふうに抗議したが、ゲートは気分を害した様子もなく、
「むむ、すまん。腰のこの辺りをぶん殴ってくれないか。」
「はぁ?いいのかよ、そんなことして。」
 ゲートは驚いて聞き返したが、
「ああ、やってくれ。思いっきり。」
「……そうか?んじゃ、いくぜ?……そらっ」(ドシッ)
 ディバンは渾身の一撃をお見舞いしたつもりだが、
「いってぇッ!なんて堅いんだよ。ガルカってなぁ何で出来てるんだ、一体。」
 殴りつけた方が痛がるようでは世話はない。
「……うむ、少しマシになったぞ。すまなかった。」
「やれやれ、それで冒険にゃ出れない身体だってんだからなぁ……
 この坊やじゃ家を3歩も歩けばぶっ倒れそうな身体なんだが、それに比べりゃ、全然マシ
 だな。」
「ん?やはり、なにか病気を持って居るんだな?」
 ゲートはピットに向き直ってそう言い、さらにディバンが改めてピットに問いかける。
「ああ、さっきはパールを外して話していたからな。一体どこが悪いんだっけ?」
 ピットはしどろもどろになりながら答えた。
「えーと、そのう……心臓です。激しい運動を避けりゃ支障は無いんですが……」
624倉庫達の冒険D (7/13):2005/04/06(水) 07:56:10 ID:I+JGRcM0
「冒険や戦いなんぞ無理難題な訳か。それじゃどうしようもねぇな。」
 ディバンは考え深げにそう言った。そしてピットは少し沈んだ表情で話を続ける。
「なんだか、地面を這いずり回っている鳥になったような気持ちです。
 皆さんのように世界中を飛び回り、いろんな所でいろんな物を見たい。」
「……」
「そして、誰かを守れる力が欲しい。獣人の驚異からや、いろいろな危険から。」
「……成る程ね。」
 そう、ディバンは軽く返事をした。そして、なにやら考え込んでいるようだ。
「どうした、ディバン。」
 ゲートが、その様子に気が付いて声をかける。
「いや……ピット、お前さんは世間をあまり知らねぇようだな、って思ってさ。」
「……え?」
 ピットは驚いてディバンに向き直る。
「親は、いわゆる『冒険者』だったんだな?なんか話は聞いてないのか?」
「両親とも、僕が小さい時に死んじゃって……
 だからこそ、冒険者たるもの死と隣り合わせということぐらい、覚悟して……」
 そのピットの言葉に、ディバンは軽い溜息をつきながら、
「ほらほら、そこだよ。あのな?お前は生か死か、なんて両極端しか考えてないだろ?
 戦いの中で、ばっさりと綺麗に殺して貰えるもんじゃねぇんだ。実際はな。」
625倉庫達の冒険D (8/13):2005/04/06(水) 07:57:37 ID:I+JGRcM0
「……そ、そういうもんなんですか?」
「ゲートを見れば判るだろ。白魔法の回復呪文は、それほど完全な物じゃない。
 中途半端な状態までしか直せないこともしょっちゅうある。
 手のない奴、足のない奴……ま、ほかの部分が動くだけましなもんさ。
 背骨をやられちゃ大変だぞ。身体半分は動かなくなって寝たきりになって、自分では
 トイレにもいけず、人にオシメを変えて貰わなきゃならなくなった奴のこととか、
 お前さん想像できるか?」
「……」
「生きていられるだけマシだ、と思うか?なら、そういう連中に会ってみるか?
 そいつらの口から、もう死にたい殺してくれ、なんて言われてみろ、俺は……」
 ここで、ゲートが口を挟んだ。
「ディバン……ピット相手に熱くなるな。」
 そう、さとされてディバンは我に返ったかのように二人を見返した。
「あ、ああ……」
 しばらくディバンは口をつぐんでいたが、再び落ち着いた口調で語り始める。
「現在、『冒険者』などと呼ばれる連中は2万人を超えるという。
 だが、それは例の『モグハウス』の利用者数だ。冒険者プラス倉庫の人数って訳だな。
 で、その『倉庫』と呼ばれる……ま、俺たちのことなんだが、どれくらい居ると思う?
 大抵は各国に一人ずつ雇うとして、サンド、バス、ウィン、そしてジュノ。
 計算してみな?冒険者に対して4人の倉庫、つまり冒険者全体の五分の四が倉庫だ。」
626倉庫達の冒険D (9/13):2005/04/06(水) 07:59:44 ID:I+JGRcM0
「ああ……」
 ピットは、納得したようで、それでいて気のない返事をした。
「つまり、1万6000人だ。五体満足で世間を飛び回っている連中は4000人に
 すぎない。倉庫は一人に対して四人といったが、もっと大勢を雇っている奴もいる。」
「……」
「そんだけの人数が倉庫として働いている。普通の職業、肉体労働やお役所仕事なんかの、
 いわゆる生業につかず、みみっちい賃金で雇われている連中がそんだけ居るんだ。」
「はぁ……」
「で……お前さんが競売や宅配に通うとき、他の倉庫連中がどんな奴らか見たことないか?
 よーく見ていてみな。松葉杖をついている奴とか、中には車椅子に乗っている奴とか、
 見たことあるだろ。」
「……ああ、僕は危険な冒険や旅で負傷した冒険者だと思ってましたが。」
「半分は正解。『冒険者だった』連中さ。勇んで外に出たのは良いものの、怪我をして
 白魔導師にろくな治療をしてもらえず、時間をかけて直す他はなくなった連中だよ。
 で、そんな身体じゃろくな仕事に就けず、冒険者の世界に離れがたくなった連中さ。」
「……」
「考えて見りゃ、そんな連中が溢れて当然だろう。もともと『冒険者』ってなんだよ?
 戦士にモンク……格闘家だな、侍に忍者、ナイトに暗黒騎士、どいつもこいつも武器を
 もって戦うことが前提。魔導師ですらそうさ。地図を片手に眼鏡かけた学者殿なんぞ、
 見かけたことなんかないぞ。」
627倉庫達の冒険D (10/13):2005/04/06(水) 08:05:03 ID:I+JGRcM0
「……」
 ピットは少し考え込んだ。いや、危険な世の中で外を歩くには最低限の戦う術を知らな
 くてはどうしようもない、と思うのだが……
 しかし、黙ってディバンの話を聞いていた。
「ようするに、軍隊の予備軍なんだよ。冒険者ってのはさ。
 コンクェスト政策なんていうのは、一匹でも多くの敵を殺してこいってことだろ?
 本当に冒険ってのに出りゃ判る。敵を殺して殺して殺して殺して殺して……
 で、何のために殺すのか。もっともっと腕を上げて強くなって、そしてもっと沢山の敵を
 戦って殺すためさ。」
「はい……」
「で、敵はおとなしく殺されるのを待ってる訳はないよなぁ……
 相手も殺されたくないから、武器を持ったり、牙で噛みついたりして抵抗するのさ。
 で、死人が出て怪我人が出て当然って訳だ。」
「いや、そんなことは判っていますよ。だからこそ、僕たちのような無力な人達が安全に
 暮らせると言う訳で……」
「だったら、それなりの見返りをしてくれても良さそうなもんだ。
 正規の軍隊じゃない、冒険に出たのはお前の勝手。戦えなくなっても、なんにも保証して
 貰えず、そして今更、生業につくことも出来ず『倉庫』やって細々と生きていくしか
 しょうがない……なぁ、俺は冒険者なんぞ憧れてなるようなものじゃないと思うんだがな。
 現実には酷い世界だぞ。所詮は殺し合いの戦いの世界だからな。」
628倉庫達の冒険D (11/13):2005/04/06(水) 08:08:01 ID:I+JGRcM0
 少しの間、3人の間に沈黙が流れた。
 少し離れた場所でバシャッという音が聞こえてくる。別の釣り客が魚を釣り上げている
 ようだ。
 少し話が落ち着いたかに見えたが、しかしディバンはまだまだ喋り足りないらしい。
「生活する上で障害となる問題は大きく分けて三つだ。
 肉体的、社会的……ま、順にゲートと俺様って訳だな。さらに精神的って問題もある。
 戦いに次ぐ戦いでおかしくなっちまった奴だって沢山居るんだ。考えてみろ。
 いくら白魔導師が魔法で直してくれたところで、戦いで受ける傷の痛みは、まず味あわ
 なくちゃならん。敵に刺されて切られてぶん殴られ、死ぬほどの苦しみを味わいながら、
 それでも後ろの魔導師達は死ぬことを許しちゃくれないんだ。
 お前さんならまともな神経でいられると思うか?毎日、拷問のような苦しみを味わい続
 けて、おかしくなった奴だって少なくない。」
「……はぁ」
 ピットにとって、実に興味深く為になる話であったが、すこしうんざりし始めていた。
 確かに、新しく見識を広げられたとはいえ、こうも憂鬱な話を聞かされたのではたまらない。
 だが、そんなピットの心情も気付いた様子もない。
「一度、ジュノに来てみれば判るさ。競売や宅配前でうろうろしている連中、道ばたで
 ちいさな露店を開いている連中といえば、まだまだ冒険者の世界から抜け出しきれない
 夢遊病者や冒険者のなれの果ての負傷者ばかりさ。」
629倉庫達の冒険D (12/13):2005/04/06(水) 08:11:05 ID:I+JGRcM0
 ここで、ディバンは別の方角に目をそらした。
 その目線の先にあるもの、それは各国で張り出されているポスターだった。

 『さあ、冒険の旅に出かけよう!』というキャッチコピーと5種族の横顔。
 ttp://www.playonline.com/ff11/welcome/imgs/index/welcom_indexttl.jpg
 
 ディバンは手を伸ばして、ベリッと引きはがしてクシャクシャに丸め、ぽいっと海に
 捨ててしまった。
「フンッ」という、荒い鼻息とともに。

 それを見たゲートは、落ち着いた様子で言った。
「……成る程。ディバン、お前さんが正道から外れてしまったのも、そうしたことからの
 鬱憤と言う訳か?」
「へっ……そんなに簡単に言われちゃたまらんさ。純粋に金が欲しかったってこともある。
 知ってるか?こんなちっこい魔法の指輪でも何万ギルって値段が付く。
 さらに、その同じ指輪でも、ほんの少し出来が良かったりしたら桁が一つ変わるんだ。
 それを『冒険者』連中は平気で金を出す。なぜか?
 それは、1時間中に9匹の敵を倒していたのが、10匹倒せるようになるから、だとよ。
 しかもだ。そういう心構えで装備に金をかけなきゃ、爪弾きにされちまう。
 な?こんなふうにイカレタ世界なんだよ。このヴァナディールってとこはな。」
630倉庫達の冒険D (13/13):2005/04/06(水) 08:13:20 ID:I+JGRcM0
 もう、ピットはヘトヘトに疲れ切ってしまった。
 なんというか、自分自身のことを全否定されたような心境だ。
 今まで憧れていた世界が一気に薄汚れた代物に見えてきたのだから。

 そんなピットの心情をくみ取ったのか、ゲートが深い調子で語りかけた。
「ディバン……どうにも、お前は世間の暗い部分ばかりを見ているようだな。
 それでは、自分自身にも酷というものではないのか?
 そんな戦いの中でも、一度や二度ぐらい喜ばしいことぐらいあったと思うのだが。」
 ディバンはそれを聞いて、肩を軽くすくめただけで何も言わなかった。
「ま、今のディバンの話は、ピットにとっても為になることだとは思う。
 少々、憂鬱なものではあったがな。
 しかし、自分の気持ち次第で深い感動と喜びを得ることも出来るものなのだ。」

 ここで、ゲートは初めて自分の耳からリンクパールを外した。
「俺は……実は、ティナとは最前から知り合いだったのだ。」
 そして、改めてピットに向き直って言った。
「もしかしたら、お前がティナを救ってやれるのではないか、と思ってな。
 だからこそ、お前に無理にでもサンドリアに赴いて欲しかったのだ。」

 もうまもなく、船はセルビナへと到着しようとしていた。
631 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/06(水) 08:19:08 ID:I+JGRcM0
とりあえず、以上です。
続きが出来たら、また貼らせて頂きます。
632既にその名前は使われています:2005/04/06(水) 14:15:37 ID:E9cFcKh5
age
633既にその名前は使われています:2005/04/06(水) 15:28:26 ID:Pc6Kwiny
うおぉん!待ってましたブリジット兄さん!。・゚(ノд`)゚・。
あああ!続き気になるっす!!
願わくはハッピーエンドですが、それは神(兄さん)のみぞ知る…。
続き楽しみにしてるっす!
倉庫達〜のポスターネタも笑っちゃいけないけど、
笑ってしもうたW
続きめちゃ楽しみっす(*´д`*)
634既にその名前は使われています:2005/04/06(水) 20:11:28 ID:89zMFZ54
ブリジットただの糞コテかとおもってたけど面白いですよ
つづきはやくきぼん
635ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/07(木) 01:42:53 ID:Dos79Vkv
ほめられると照れるな
でも頑張ったかいがあったよ
ラストまで突き進むぜ!!!!!!!!wwwwwwwwwww
636ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/07(木) 02:23:06 ID:Dos79Vkv
「Habranthus」には、最高の絵師が一枚イラストを書いてくれているが、
このスレでは小説ばかりでイラストが全然ないので、
漏れもイラストを一枚描いてみた
みんなもこの勢いでイラストばんばん書いていこうぜwwwwwwwwww

「フレドリック危うし!かつての仲間との闘い」
ttp://tune.ache-bang.com/~vg/outitem/up/img/4017.jpg
(注)お年寄りや心臓の弱い方は見ないで下さい。
637既にその名前は使われています:2005/04/07(木) 17:09:51 ID:VBLDajyJ
(*´д(〇=(゚∀゚)=〇)д`*)ツヅキマダー!!?
638倉庫達の冒険E (1/7)  ◆6NLrYYfI2g :2005/04/07(木) 17:47:59 ID:Dqw3SNDy
 セルビナからの旅の護衛はゲートが引き継ぐことになった。
「特に深い意味はないが、久しぶりにティナに会いたくなってな。護衛に二人はいらんと
 思うが、よかったら一緒に行くか。」
 ディバンは思わせぶりに首を傾げたが、
「いや、そんなら俺は戻らせて貰うよ。まだまだクリスタル磨きが残ってるんでな。」
 そう言いながら、腰に差していた棍棒を引き抜いた。
「それじゃ、お二人さん。気をつけていけよ。
 ……ゲート、誰かが怪物に襲われていても助けたりするなよ。もう腰が持たんぞ。」
 そして手にした棍棒を一降りすると、ディバンの身体はみるみる黒い影に包まれた。
 それは、デジョンカジェルといって、黒魔導師が得意とする帰還魔法の効果を発揮する
 魔法の棍棒だったのだ。
 そうして消えていくディバンを、ピットは手を振って見送った。

 しかし、セルビナの到着は真夜中になってしまった。夜になると幽鬼共が湧き出て来るので
 旅をするのは危険、ということらしい。ゲートほどの者ならば襲われることすら無いのだが、
 いらぬ危険は避けるべきだ。
 しかし、民宿に泊まるなど金が勿体ない、というわけで、セルビナの片隅で露店を
 広げている漁師のガルカに頼み込み、軒先で一時の宿を取らせて貰った。
639倉庫達の冒険E (2/7):2005/04/07(木) 17:48:46 ID:Dqw3SNDy
 ゲートが釣り上げた魚を夕飯代わりに頬張った後、ピットはクタクタに疲れ切っていたので、
 すぐに深い眠りについてしまった。ゲートは来ていたチュニックでピットの身体をくるんで
 やって後、これまでの倉庫用とは違う、別の色をしたリンクパールを取り付けて話し始めた。
《ティナ?起きているか?》
 しばらくして、ぼんやりとした眠そうな声が聞こえてきた。
《え、あ、ああ……少しまどろんでいただけ。今どこなの?》
《セルビナだ。明日の朝は砂漠を越えてそちらに向かう。ディバンは帰ったが、ここから先は
 俺が護衛を務めるつもりだ。何も心配はいらん。》
《……ピットは?その子、身体が良くないんでしょう?》
《大丈夫、と思う。今はよく寝ている。昼間の疲れが出たのだろう……
 なぁ、ティナ。俺のパールを通して、話は聞いていただろう?
 ピットや、それからディバンもまた、いろいろな事情を抱えていると言うわけだ。》
《……何が言いたいの?》
《そろそろ心構えをしておけ、と言っている。そんなに固くなになる必要はない。
 お前がピットや誰かに会いたくないという気持ちは判る。しかしな……》
《判っているわよ。でもね……》
《お前の頼みを聞いて俺は迎えに出たのは良いがな。しかし、お前の言う通りに荷物運び
 まで引き継ぐつもりはない。ちゃんと出迎えて、お前の手で受け取れ。》
《……判ったわ。お願い、判ったからもう言わないで……お願い。》
 ゲートはしばらく黙っていたが、
640倉庫達の冒険E (3/7):2005/04/07(木) 17:49:47 ID:Dqw3SNDy
《判った。ピットの気持ち、くれぐれも無駄にするなよ。》
 そう言い終えると、また『倉庫』専用のリンクパールに付け替え、ピットの小さな身体の
 隣で自分もまた目を閉じて眠りに入った。

 明朝。
 今度は、ゲートがピットを肩車して、ゆったりと砂漠のど真ん中を走っていった。
 その日はひどい熱波に襲われていたため、着ていたチュニックでピットごと頭を包み込み、
 太陽から顔を守っていた。それは少々異様な光景で、通りかかる冒険者達は目を丸くして
 見ていたが、砂漠に散在しているゴブリン達は素知らぬ表情ですれ違っていく。
 ゲートからは、襲いかかってはいけないと思わせる威圧感を感じているのだろうか、しかし
 ピットは獣人や怪物たちの姿を見るたびにビクビクしていた。

 やがて、緑溢れる高原……ラテーヌ高原へと入っていく。
 砂漠の熱気をくぐり抜けたと思えば、今度は雨である。
 お陰でピットは、ゲートの肩の上でチュニックにくるまれっぱなしになってしまった。
 なんとなく会話する話題も見つからない。黙々と走り続けるゲートに声をかけるのも、
 なんというか、邪魔になるような気がしていた。

 そんなふうに、サンドリアまでの旅は淡々と続けられたが……
641倉庫達の冒険E (4/7):2005/04/07(木) 17:50:50 ID:Dqw3SNDy
 ある時、ピタリと雨がやんだ。
 それに気づいたゲートは、足を止めて被っていたチュニックを頭から引きはがし、
 しばらく周りを見渡した後、指を指してピットに示した。
「あっちだ。見てみろ。」
「え……ああ……」

 ゲートが指を指した方角、白い「テレポドーム」の上空には巨大な虹が浮かび上がっていた。
「凄い……なんて綺麗……」
 珍しい事象や現象などは、魔法で見慣れているはずのウィンダス生まれでも、天地自然の
 織りなす巨大な幻想を目の当たりにして、深い感動を覚える他はなかった。
 鮮やかな色合いに染められた光の帯が巨大なアーチ作っている。それが神秘的ともいえる
 白い建物「テレポドーム」を囲んでいる光景は、実に見事なものであった。
 そして、ゲートは解説した。
「ここではよく見られる光景だ。虹を見たのは初めてか?
 時として、激しい雨と強い日差しが有れば、一度に二つの虹が現れるという。」
「へぇ……」
「過剰虹というのだそうだ。一度だけ目にしたことがある。
 虹の他に、ジュノの地下から向かうことの出来るクフィム島という所では、
 広大な光のカーテン『オーロラ』が架かることがある。
 こうした世界の美しさというのは、一度きりの人生では見尽くせるものではない。」
642倉庫達の冒険E (5/7):2005/04/07(木) 17:51:48 ID:Dqw3SNDy
 しばらく、二人はそうして虹を眺めていたが、
「……俺には判らん。」
 その突然のゲートの言葉に、ピットは驚いて聞き返そうとした。
「え?」
「いや……何が正しいのか、間違っているのか。何が美しくて、何か醜いのか。
 正義が何か、悪とは何か、とな。」
「……」
「ならば、幾千もの怪物や獣人達の命を俺は、まさしく獣人に等しい悪鬼といえるだろう。
 この血塗られた拳こそが、その何よりの証明だ。」
「あ、あの……」
 ピットは何かを言いたかったが、うまく言葉が出なかった。ゲートが、船の上での
 ディバンの話に影響されていることは、ピットにも判っていたことだが。
「虹はともかく、雨や太陽の光は人間にとって自然の恵み。だが、時として大量の雨や、
 地面を焼く光が人の命をも奪う……太陽や雨は、いったいどちらを望んでいるのか。
 我々の死か生か。しかし、ただ雨は降り、太陽は照らすだけだ。しかし……」
「……はい」
「しかし、お前をここに連れてこれた事が、全ての答えだったのだ。俺はそう思いたい。
 俺が戦いの道を歩み、そして傷ついたことも、お前を導くためだったのだと。
 俺は……それだけで十分だ。」
「……」
643倉庫達の冒険E (6/7):2005/04/07(木) 17:54:55 ID:Dqw3SNDy
 再び二人は高原を進み、ある森に差し掛かった。
 そこで、ゲートが口を開く。
「ここが……」
「はい。」
「ロンフォールの森だ。この森を抜けると、サンドリアの城壁が見えてくる。
 ティナはそこにいる。」
 そう言いながら、ゲートは腰を手で押さえている。どうやら、ここまでの長旅が、
 いよいよ堪えてきたのではないか?
 そう気づいたピットは、心配そうな顔をした。
「あの、大丈夫ですか?」
「うむ……そうだな……」
 そういって、辺りを見渡していたが、
「おーい、こっちだ。すまないが来てくれないか。」
 ある方向に向かって、ゲートは大きく手を振りながら叫んだ。
 するとその方角から、チョコボに乗ったサンドリア騎士らしきエルヴァーン族の男性が
 近づいてきた。
「何用か?旅の方。」
 騎士は親切そうではあるが、すこし気取った口調で尋ね返した。
「すまぬ。こいつをサンドリア場内まで送ってくれないか。
 俺はこの場で戻らなくてはならないが、この辺りは、まだまだこいつにとって危険だ。」
644倉庫達の冒険E (7/7):2005/04/07(木) 17:55:59 ID:Dqw3SNDy
「了解した。お安いご用だ。」
 騎士はそう言って、長い腕を伸ばしてピットの身体を軽々と引っ張り上げた。
「では頼む。」
 ゲートは重ねていった。
「おお。では行くぞ。」
 そう言って、そうそうに騎士はサンドリアに向けて駆け出そうとする。
 ピットは慌てて首を可能な限り後ろに曲げて、大声で叫んだ。
「ゲートさーん、ありがとーーー」
 それを聞いたゲートは、しばらくの間は手を振って答えていたが、ピットが見えなくなると
 なにやら呪文を唱え始めた。ディバンが使った棍棒による効果と同じ魔法らしい。
 やがて、ゲートの巨大な身体が闇の光に包まれて、バストゥークに向けて消えていった。
645 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/07(木) 17:58:22 ID:Dqw3SNDy
とりあえず、ここまでです。

以前からですが、この板の設定が変わったみたいですね。
連投がしずらくなってしまいました。
なんか、5レス超えた時点で警告が出てしまう。
今回はゆっくり貼ってみたので、スムーズに進みましたが...
646既にその名前は使われています:2005/04/07(木) 22:00:19 ID:H6VlXx0M
面白いよ、続き早くみたい^Д^
647既にその名前は使われています:2005/04/07(木) 23:22:30 ID:RU4OBE6A
続き投下待ちの間に、ここでもどうぞ。
ttp://www.infosnow.ne.jp/~sugata/FF/top.htm

知ってる人多いかもしれんが、獣人メインの小説。
648 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/08(金) 00:14:04 ID:nzCw42EC
つДT)みなさん、感想ありがと。

まだ、続きを作っている最中なんですが、
今回貼ったやつのなかに、文章になってないところが有ったので、
訂正させてください。
うう、こういうことが無いように気をつけてはいたんですが...

>>642 倉庫達の冒険E 5/7 

「ならば、幾千もの怪物や獣人達の命を俺は、まさしく獣人に等しい悪鬼といえるだろう。
 この血塗られた拳こそが、その何よりの証明だ。」



「ならば、幾千もの怪物や獣人達の命を奪った俺は、まさしく獣人に等しい悪鬼といえる
 だろう。この血塗られた拳こそが、その何よりの証明だ。」
649倉庫達の冒険E (5/7) 差し替え版:2005/04/08(金) 00:16:36 ID:nzCw42EC
 しばらく、二人はそうして虹を眺めていたが、
「……俺には判らん。」
 その突然のゲートの言葉に、ピットは驚いて聞き返そうとした。
「え?」
「いや……何が正しいのか、間違っているのか。何が美しくて、何か醜いのか。
 正義が何か、悪とは何か、とな。」
「……」
「ならば、幾千もの怪物や獣人達の命を奪った俺は、まさしく獣人に等しい悪鬼といえる
 だろう。この血塗られた拳こそが、その何よりの証明だ。」
「あ、あの……」
 ピットは何かを言いたかったが、うまく言葉が出なかった。ゲートが、船の上での
 ディバンの話に影響されていることは、ピットにも判っていたことだが。
「虹はともかく、雨や太陽の光は人間にとって自然の恵み。だが、時として大量の雨や、
 地面を焼く光が人の命をも奪う……太陽や雨は、いったいどちらを望んでいるのか。
 我々の死か生か。しかし、ただ雨は降り、太陽は照らすだけだ。しかし……」
「……はい」
「しかし、お前をここに連れてこれた事が、全ての答えだったのだ。俺はそう思いたい。
 俺が戦いの道を歩み、そして傷ついたことも、お前を導くためだったのだと。
 俺は……それだけで十分だ。」
「……」
650ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/08(金) 02:04:40 ID:r1csMYGO
>>648
ふむ、この前漏れが指摘したのは、一つの伏線だったみたいだね
余計なこといっちまってスマソ
続き期待してるよ

漏れも早く書き上げねば
ラストまで頭の中では出来上がってるんだけど、
演出とかどう書こうかとかで悩んでて中々筆が進まない・・・
あと内容が重い話だから書くのに気力がいるなこりゃ
不思議で感動する話に前々から挑戦したいと思ったから頑張って書き上げるけどね
読んでくれる人もいるしな
うpする前は受け入れられるかすげードキドキしてたけど、
書いて本当に良かったよ

ちなみに次回は思い切りギャグ入れまくろう
登場キャラも増やして、ドタバタコメディっぽくしてやるぞwwwwwwwww
651ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/08(金) 02:26:27 ID:r1csMYGO
リリー「ねぇ、フレドリック」
フレドリック「どうじだ、リリー」
リリー「オーク語って難しい?」
フレドリック「ぞうでもない、リリーならずぐおぼえでる」
リリー「じゃあね、〔やったー〕ってオーク語でなんて言うのかな?」
フレドリック「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!」
リリー「………」
フレドリック「………」
リリー「きたーっ」
フレドリック「ぢがう、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!だ」
リリー「きたーーーーっ!」
フレドリック「だからちがうっつーの、もっとなんつーかな、テンション高めで勢い重視系で言うって感じっぽくさー」
リリー「………」
フレドリック「あっやべっ、ついキャラ作るの忘れてた」
リリー「…フレドリック、もしかしてヒューマン語ペラペラ?」
フレドリック「おで、なんのごどがよぐ、わがらない、てへっ」
リリー「むー」
652「Habranthus」外伝1:2005/04/08(金) 05:14:34 ID:r1csMYGO
とある日のダボイ。
今日もオークたちは活力に溢れ、元気に過ごしていた。

ガンゴー「おううううぅぅいぃぃアビロオォォォォォンッ!!相談があるんだがあぁぁぁぁぁッ!」
アビロン「ケケケ…なんだよ?つーか、毎回超大声で叫ぶな。いつも隣にいるから鼓膜がおかしくなるだろうが」
ガンゴー「実はなぁぁっ!オレ女にモテたいんだあぁぁぁー!!」
アビロン「…へ?」
ガンゴー「お前女にけっこうモテるだろおぉぉ!?どうすればモテるのか教えてくれぇぇぇーっ!」
アビロン「ケケケ…女は待つもんじゃない、自分から超つかみとるもんだ」
ガンゴー「じゃあどうすればいいんだよおぉぉぉー!!」
アビロン「ナンパだ。親切な俺様が、今からレクチャーしてやる」
ガンゴー「うおおぉぉぉーっ!それでこそ友だあぁぁぁーー!」
そこへ、小柄で可愛らしい女オークが通りかかった。
アビロン「ケケケ…よし、あの女を超ゲットするぞ」
ガンゴー「おぉー!まずどうすればいいんだあぁぁぁーっ!?」
653「Habranthus」外伝2:2005/04/08(金) 05:15:52 ID:r1csMYGO
アビロン「まずは、おもむろにパンツを脱げ」
ガンゴー「…ちょっと待てぇぇぇーっ!それじゃ変態だろうがあぁぁぁーー!!」
アビロン「ケケケ…まあ落ち着け。パンツを脱ぐのは男らしさを強調するためだ。そのワイルドさに女は釘付けになる。つかみはOKというわけだ」
ガンゴー「なるほど」
アビロン「そして女がお前の男らしさでメロメロになってる間に、殺し文句を言うんだ」
ガンゴー「何て言えばいいんだあぁぁぁーーっ!」
アビロン「お嬢さん、ボクと一緒にモンゴル相撲取りませんか?と言え」
ガンゴー「おいぃぃぃーー!!なんじゃそりゃあぁぁぁ!!つーかモンゴルってどこだあぁぁぁーっ!」
アビロン「ケケケ…大丈夫だ。これで超完璧」
ガンゴー「本当かよおぉぉぉーっ!」
アビロン「ほら、早くしないと女が行っちまうぞ!俺様jはそこの物陰に隠れて見守っているから頑張れよ!」
654「Habranthus」外伝3:2005/04/08(金) 05:17:09 ID:r1csMYGO
ガンゴー「そこの女あぁぁぁーっ!ちょっと待ってくれえぇぇぇーっ!」
女オークA「はい?」
ガンゴーは出会い頭、いきなりパンツをずり降ろした。
ガンゴー「お嬢さん、ボクと…ごふっ!」
バシンッ!
女オークA「キャーッ!変態ーー!」
ガンゴーは最後まで言葉を言うこともなく平手打ちされ、女は逃げ出した。
ガンゴー「………」
アビロン「………」
ガンゴー「ダメじゃねぇかよおぉぉぉーー!」
アビロン「ケケケ…まぁ、あの女は少しシャイだったようだ。次だ次」
ガンゴー「本当に大丈夫かよおぉぉーーっ!!」
アビロン「ナンパなんてものは、一度や二度じゃ成功しない。根気よく回数を重ねることが超重要なんだ」
ガンゴー「分かったあぁぁぁーー!頑張るぜえぇぇぇーーー!!」
ケケケ…単純な奴だ。
アビロンはほくそ笑んだ。
655「Habranthus」外伝4:2005/04/08(金) 05:18:56 ID:r1csMYGO
そこへスラリとしたスタイルの良い女オークが通りかかる。
アビロン「ケケケ…ほら、今度はあの女を口説くぞ」
ガンゴー「今度こそ大丈夫だろうなあぁぁぁーー!?」
アビロン「ケケケ…次はやり方を変えてみる。超とっておきを使うぞ」
ガンゴー「うおぉーー!それだあぁぁぁーー!!それを先に言ええぇぇぇーーっ!」
アビロン「まずは、おもむろにパンツを脱げ」
ガンゴー「…って、さっきと同じじゃねえぇぇかあぁぁーーっ!!」
アビロン「話は最後まで聞け。そこから有無を言わさず、相手のおっぱいをつかむ。」
ガンゴー「…ちょっと待てぇぇぇーっ!それじゃ犯罪者だろうがあぁぁぁーー!!」
アビロン「バカ、女はいつだって強引にされるのを望んでるんだよ!パンツを脱いでおっぱいを掴み、「まるで便所のスッポンで引っ張ったように形のいいおっぱいだ」と言え。これで女はメロメロだ」
ガンゴー「いや、オレはそんなのでメロメロになる女、嫌だぞ…」
アビロン「ごちゃごちゃ言うな。ほら、早くしないと女が行っちまうぞ!俺様jはそこの物陰に隠れて見守っているから頑張れよ!」」
ガンゴー「わ、分かったよおぉぉぉーーー!!」
656「Habranthus」外伝5:2005/04/08(金) 05:20:10 ID:r1csMYGO
ガンゴー「そこの女あぁぁぁーっ!ちょっと待ってくれえぇぇぇーっ!」
女オークB「何よ?」
ガンゴーは出会い頭、いきなりパンツをずり降ろした。
女は絶句したが、今回は逃げずにいた。
女オークB「はあ…?アンタ何やってんのよ」
すかさず、ガンゴーは女のおっぱいをつかむ。
ガンゴー「まるで便所のスッポン…ごばぁっ!」
ガンゴーは思い切りグーで殴られていた。
女オークB「何考えてんのよ!?次やったらぶっ殺すよ!?」
怒鳴りながら女は去っていった。
ガンゴー「………」
アビロン「………」
ガンゴー「ダメじゃねぇかよおぉぉぉーー!」
アビロン「ケケケ…まぁ、あの女は少し気が強すぎたようだ。次だ次」
ガンゴー「本当に大丈夫かよおぉぉーーっ!!」
657既にその名前は使われています:2005/04/08(金) 05:22:20 ID:Wy8tRu5o
/huh
658既にその名前は使われています:2005/04/08(金) 05:27:22 ID:pjUcRYvI
面白いw
659「Habranthus」外伝6:2005/04/08(金) 05:34:52 ID:r1csMYGO
アビロン「ケケケ…よし、次はあの女だ。次こそはゲットするぞ」
ガタイがよく、筋肉質でマッチョな女オークがトレーニングをしていた。
ガンゴー「…さて、女はどこかな、と」
アビロン「おい目の前にいるだろ。あの女だ」
ガタイのいい女オークは、軽々と大きな斧を片手でフンフンと振り回してる。
ガンゴー「いくらなんでもあれはダメだろおぉぉぉーー!しかも次ぶっ飛ばされたら、オレ殺されそうな勢いだぞおぉーーっ!!」
アビロン「ばかやろう!女によって態度を変える奴が超一番モテないんだぞ!」
ガンゴー「わ、分かったよ…どうすればいいんだあぁぁーー!?」
アビロン「まずは…」
ガンゴー「ちょっと待て。パンツをずり降ろすっていうのはもうやめてくれ」
アビロンの言葉をさえぎって、ガンゴーが必死に言った。
アビロン「分かってるよ。あれは俺様も、もう使えないと思っていたところだ。超ウルトラとっておきを使う」
ガンゴー「うおぉーー!それだあぁぁぁーー!!それを先に言ええぇぇぇーーっ!」
660「Habranthus」外伝7:2005/04/08(金) 05:36:15 ID:r1csMYGO
アビロン「まずは体中に力を込め、膨張した筋肉で服をはじけ飛ばす。野生の男らしさを見せ付けるんだ」
ガンゴー「おおーー!なんかバカっぽいが、さっきよりは全然良さそうじゃねぇかーーっ!
アビロン「そして…反復横飛びは知ってるな?」
ガンゴー「あ、ああ…素早く横に飛んでそれを何度も往復するやつだよな?」
アビロン「うむ、その反復横飛びをしながら、「カバディ!カバディ!」と言え。」
ガンゴー「いや、もうすでにわけ分かんないから」
アビロン「バカヤロウ!反復横飛びはな、科学的にも実証された、れっきとした女を口説くのに最も適した動きなんだよ!」
ガンゴー「そ、そうかぁ…?」
アビロン「ほら鳥とかがよくそんな感じのやってるだろ?求愛のダンスとかなんとかで」
ガンゴー「なるほど…」
アビロン「ケケケ…これをすれば、オークどころか…ほら、あれだ。ベンジョコウロギやフンコロガシだってイチコロさ」
ガンゴー「昆虫に好かれても嬉しくないんだが…」
アビロン「ほら!テンション下がってるぞ!いつもの元気はどうした!?」
アビロンはガンゴーの背中をバシッと叩いて気合いを入れる。
ガンゴー「う、うおおぉぉーーっ!オレ、頑張るぜえぇぇぇーーっ!」
661「Habranthus」外伝8:2005/04/08(金) 05:37:36 ID:r1csMYGO
ガンゴー「カ、カバディ!カバディッ!」
ガンゴーは必死に素早く反復横飛びをしていた。
女オークC「…何やってんだよアンタ」
ガンゴー「ナ、ナンパだあぁぁぁーーっ!」
マッチョな女オークはため息をつきながら…。
女オークC「はぁ…アタイ、バカは嫌いなんだよね」
そこで、ガンゴーが半ベソかきながらアビロンの元へ戻ってくる。
アビロン「どうした」
ガンゴー「あんなゴリラみたいな女にバカ言われたあぁぁぁーーっ!」
アビロン「落ち着け、俺達オークは元々ゴリラみたいな姿だ」
ガンゴー「どうすればいいんだあぁぁぁーーー!!」
アビロン「ケケケ…頭がいいってところを見せてやればいい。何か問題を出させて、それに見事答えてやれ」
ガンゴー「でもオレ、難しい問題自信ないぞおぉぉーー!」
アビロン「ケケケ…安心しろ、俺様が超フォローしてやる。問題出されたら一度こっちへ戻ってこい」
ガンゴー「分かったあぁぁぁーーっ!」
662「Habranthus」外伝9:2005/04/08(金) 05:38:58 ID:r1csMYGO
ガンゴー「女あぁぁぁぁーーーっ!」
女オークC「またアンタかい?今度は何よ?」
ガンゴー「オレに何か問題を出せえぇぇぇーー!オレがバカじゃないってことを証明してやるうううう!!」
女オークC「そういう態度がバカだって言ってんだけどね…まあいいや。28×97−238+6296×647−3012÷306は?」
ガンゴー「ちょっと待ってろおぉぉぉーー!!」
ガンゴーは一目散にアビロンの元へと駆けていく。
ガンゴー「アビロオォォーーンっ!28×きゅうじゅう…えーとなんだっけ?」
アビロン「4だ!よんって言え!」
ガンゴー「分かったあぁぁぁーー!最後まで問題言ってないのに答え分かるなんて、アビロンはさすがだぜえぇぇぇーー!!」
アビロン「超任せろ」
ガンゴー「それじゃ行ってくるうぅぅぅーーー!!」
ダッシュで女オークの元へ戻っていく。
ガンゴー「よん?…ぶごろぉっ!!」
ガンゴーは斧の柄で、女オークに思い切り殴られていた。
女オークC「ばーか」
663「Habranthus」外伝10:2005/04/08(金) 05:46:47 ID:r1csMYGO
ガンゴー「全然ダメだったじゃねえぇぇかあぁぁぁーーっ!!」
アビロン「ケケケ…そういう日もあるさ」
女オークB「あっ、こいつよこいつ!」
そのとき、さきほどのガンゴーに胸をつかまえた女オークがこちらに指を指しながら叫んでる。
…ベグザイル隊長を連れながら。
ベグザイル「おい、ガンゴー…っ!貴様、オレの女に痴漢を働いたそうだな…!?」
ベグザイルは鬼の形相でそう言った。
ガンゴー「た…たたたた隊長っ!?」
ベグザイル「ただじゃ済まさんぞ…!!」
ガンゴー「た、隊長!それはこのアビロンの指示で…!」
ガンゴーがとなりにいたアビロンを指差そうとした。
が、すでにそこには誰もおらず、遥か彼方にアビロンが走り去っていた。
アビロン「バイバイキーン」
ガンゴー「てめえぇぇぇーー!アビロオォォーーーンンッッ!!」
ベグザイル「来い!ガンゴー!たっぷりしごいてやるからなっ!!」
ガンゴー「そんなあぁぁぁぁーーーっ!!」

夕暮れがせまる中、アビロンの声が一人空しくこだまする。
今日のダボイも平和であった。
664ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/08(金) 05:50:16 ID:r1csMYGO
ちょっと煮詰まってたから気分転換と、
本編じゃギャグ書けないので鬱憤晴らしにギャグ書いてみた
それにしても5回目くらいから、
連続書き込み規制が確かにやたら厳しくなってるな・・・
これ本編うpするとき大変だぞ・・・
おかげで朝になっちまった・・・
665既にその名前は使われています:2005/04/08(金) 13:48:23 ID:pjUcRYvI
age
666既にその名前は使われています:2005/04/09(土) 00:50:25 ID:6V9s1NGE
ブリジットさん頑張ってくださ〜い
667ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/09(土) 02:13:25 ID:B7D57oz+
>>666
ありがとう


う〜む・・・どうすればみんなここの小説読んでくれるだろうか
みんないいモン書いてるんだがな
どうも過疎化してる
668既にその名前は使われています:2005/04/09(土) 22:16:57 ID:rhMGCXyI
〜あるガルカの手記〜

懐かしい光景だった。光景だけでなく五感に感じるもの全てが懐かしかった。
照りつける太陽光、乾いた風、踏みしめる砂の感触、一面の砂、砂、砂。何ヶ月ぶりだろうか、このバルクルム砂丘にくるのは。
私は最近まで白魔導士だった。先日、転移の魔法を三つ習得した。転移の魔法は全部で六つあるらしいが、全て習得するにはまだ大分時間がかかるだろう。私は白魔導士の修業を一時休止し、兼ねてから興味のあった吟遊詩人に転職したのだ。
なかなか、詩人も楽しいものだ、久々に手にした片手剣も戦士時代の名残かなんなく扱うことができた。
荒涼としたグスタベルグの地で、ワーム族や若木族を狩っているうちに、剣闘士のマドリガンという唄を習得するまでに到った。そろそろパーティーを組む時期だが、私はパーティーを組むのは気が進まなかった。砂丘では外国人も多く、スムーズに狩りができた経験はあまりない。
しかし、丁度同じリンクシェルに同レベルの白魔導士のヒュームの娘がおり、彼女の勧めもあって2人で砂丘に向かうこととなった。
669既にその名前は使われています:2005/04/09(土) 22:19:28 ID:rhMGCXyI
マドリガンって…早速誤字…orz
正しくはもちろんマドリガルです。
670倉庫達の冒険F (1/22)  ◆6NLrYYfI2g :2005/04/10(日) 00:51:35 ID:GAsaq03k
 南サンドリア地区。無事に入国を果たしたピットであったが……
 巨大な凱旋門、そして石造りの家々が並ぶ王国の荘厳な街並みにピットは圧倒されながら、
 あてどなく眺め歩いていた。
 逆に、サンドリアの者が初めてウィンダスに訪れたならば、その緑溢れる街並みや家々、
 そして巨大な木の中に築かれた天の塔を見れば、深く感動したのだろうが……
 ようするに、ピットはお登りさん状態なのである。

《……着いたの?》
 リンクパールから声がした。ティナだ。
《あ、は、はい。》
 慌ててピットは返事をした。
 改めて身体に緊張がみなぎってくる。これまで言葉だけで会話をしていたとはいうものの、
 実際に対面するのとでは訳が違う。
 無論、片思いと言っても良い相手に出会うのだから、平静でいられるはずはない。
 弱いはずのピットの心臓は、じっとしていると脈が聞こえてくるほどに激しく脈打っていた。

《あ、あの、どちらに行けばいいですか。》
 そう、ピットが尋ねた。
《競売所の場所は判る?ウィンダスのそれと、似たような窓口だから……》
671倉庫達の冒険F (2/22):2005/04/10(日) 00:52:31 ID:GAsaq03k
《あ……》
 ピットは、そのすぐ近くに居たことに気が付いた。
 丁度、今は混み合う時間らしい。道理で人だかりが出来ているはずだ。
 などと考えながら、その人々を目で追う。この中に居るのだろうか?
 しかし、流石はエルヴァーン族の国。どちらを向いてもエルヴァーンだらけなのは当然だ。
 中にはタルタル族やガルカ、ミスラ族なども混じっているのだが、大半は背が高く特徴的
 な耳をしたエルヴァーンばかり。
 無論、この中から言い当てようなどと、ピットは考えてる訳ではないのだが。
《今、競売所の前に居ます。》
《そう、それじゃ北の方を向いて歩いてきてくれない?凱旋門の方に。》
《はい……》

 で、歩いていく途中に、妙に気になる異様な人物が立っていた。
 服……などと、到底呼べる代物ではない。マントと呼ぶには言い過ぎの毛布のような代物
 を身体に巻き付け、わずかな隙間から出している手には、粗末な杖が握られていた。
 男女の見分けもつかない、家も持たない浮浪者のような格好だ。
 また、ぼさぼさの前髪が伸び放題で、顔のほとんどが見えない状態である。
 それでは……そんな状態では……

 ピットは立ち止まった。そして、彼の勘は誤っていなかった。
672倉庫達の冒険F (3/22):2005/04/10(日) 00:53:50 ID:GAsaq03k
《今……》
 リンクパールと二重に重なって同じ声が聞こえてくる。
「今……杖を左右に振っているのが……私」
 まさしく、先ほどの人物である。杖を軽く振っているその人物から、まさしくティナの声
 が聞こえてきた。
「ごめんなさい……目が……私は目が見えないの……」
 船の上で聞いたディバンの話が、一気にピットの頭の中を埋め尽くしてしまった。

 ピットはティナとともにモグハウスへと向かうことになった。
 ここで手渡しても手元が狂って割ってしまっては大変、という理由からだ。
 しかし、目の見えないティナに預けておくこと自体、問題があるというものだが。
「目は……どうしたのですか……」
「ああ……戦いの中でちょっとね……」
「あ、ああ……」
 なんとなく、途切れ途切れの会話を交わしながら、ピットはティナの手を引いて、
 見知らぬ街並みを歩いていった。
 もう観光気分が消し飛んでしまっている。細心の注意を払いながら、言われるがままに
 ティナを誘導していった。
「そう、凱旋門を抜けたら右へ……杖で歩くのも、だいぶ慣れて来たんだけど……」
 そう言い終わるか終わらないかのうちに、
673倉庫達の冒険F (4/22):2005/04/10(日) 00:55:09 ID:GAsaq03k
「ああッ」
「うわぁ」
 二人はバタバタと小さな段差につまずいて転んでしまった。
 無理もない、ティナは足下が不安で、いつも摺り足で歩いているから、タルタル族にも
 意識する必要のない小さな段差でも、命取りとなることがある。
 ティナの正面で手を引いていたピットは、見事に下敷きになってしまった。

「うう……」
 ピットは思わずうめき声を上げ、ティナは慌てて身体を起こす。
「ご、ごめんなさい。大丈夫?」
「え、ああ、いや、平気ですよ!全然!アハハ……」
 そんなふうに笑うピットであったが、強く打った膝の強烈な痛みに襲われて、思わず
 悲鳴を上げそうになるのを必死で堪えなければならなかった。
「最近は、日に二、三回転ぶ程度で済むようになったんだけど……」
 そんなやりとりをしていた丁度その時である。

《ティナ、今いいかな?》
 リンクパールから聞こえてきたのは、とんと御無沙汰であった雇い主のモールの声であった。
 その声のバックから、ざわざわとした話し声が聞こえてくる。
 どうやら、彼の仲間が近くで議論を交わしているようだ。
674倉庫達の冒険F (5/22):2005/04/10(日) 00:56:16 ID:GAsaq03k
《はい、何でしょうか。》
 惨事の後にもかかわらず、ティナは落ち着いた様子で返答しながら、くちびるに指を当てて
「静かに」というサインをピットに送る。
 ピットは大仰に両手で口をふさいだ。
《今、ノーグに居るんだ。いやあ、苦戦中でね……いったん体制を立て直すことになったんだ
 けど。》
《はい。》
《矢が足りなくなってね。至急、アローウッド材を1ダース送って欲しい。》
《原木ではなくて、加工済みの方で良いんですね?》
《そうそう、原木から削ってる暇はないんだ。それじゃ頼んだよ。》
 そう言い終わるが早いか、ぷつっとバックに聞こえていたざわめきが聞こえなくなった。
 またリンクパールを外してしまったのだろう。

「急がなくちゃ。モグハウスから反対方向に大工ギルドがあるの。
 えーと、要するに凱旋門を出てから左へ道なりに……」
「は、はい。」
 もう自分が手を引いている以上は、ティナを転ばせる訳にはいかない。
 そんな思いとともに、先ほど以上に注意しながら、ピットはティナの手を引いていたが、

 突然、ティナはピットに、こんなことを尋ねた。
675倉庫達の冒険F (6/22):2005/04/10(日) 00:58:01 ID:GAsaq03k
「ねぇ、ピット……幻滅した?」
「え?」
 突然、ティナにそう言われて、ピットは驚いて立ち止まる。
「今……私はどんな格好をしているのか、自分では判らないけど……
 さぞ、醜い浮浪者のように見えて居るんじゃ……」
「……」
 お世辞にも、そんなことは無い、綺麗ですよ、などと言うわけにもいかない。
 下手なお世辞は、かえって相手に失礼になってしまう。
 しかし、ピットはなんと答えればいいのか、すっかり困ってしまった。
「と、とにかく行きましょう。」
 そう言ってしまったものの、それではティナの言うことを同意したも同然ではないか。
 なんとなくピットは、塩の固まりに噛みついてしまったような……
 そんな苦い思いを味わっていた。

 ピットは、出来るだけ平坦な道を選びながら、慎重に手を引いていたが……
 行く先の光景をみて、ピットは思わず目眩を覚えてしまった。
「う、うう……」
 二人が行き着いたのは、大工ギルドへは目と鼻の先の所。
 そう、ピットの目に見えたのは、ご存じの通りの階段、階段、また階段の……
 思わず、ピットがうめき声を上げたのは当然である。
676倉庫達の冒険F (7/22):2005/04/10(日) 00:59:05 ID:GAsaq03k
「さ、行くわよ。」
 戸惑っているピットを、ティナはそう言って促したが、
「ぼ、僕が一人で行ってきますから、ティナさんはここで待ってて!」
「え、でも……」
「お願いします!この通りだから!」
 そう言って、無理矢理にティナから財布を預かり、パタパタと走っていった。

 こうして、雇い主の用事を済ませた後、二人はやっとモグハウスへと到着した。
 外国人であるピットは、モグハウスを利用するための手続きを済ませて鍵を受け取った
 のだが、しかし冒険者として登録してモグハウスを利用する場合は、決められた部屋
 以外は入室することは許されてはないのだ。
 手を引いて歩行を補佐するためと、持ってきた荷物を届けるために、ティナの部屋
 へと向かおうとしたのだが、当然ながらチェックが入ってしまった。
 何者かが、というか羽根の生えた小動物が現れ、二人の前を遮ったのである。
「クポポッ!部屋に他の人を入れちゃだめだクポ〜!」
 そう、例の管理人モーグリである。しかし、ティナはケロリとした口調で、
「あらそう?今度から気をつけるわ。さ、入って。」
 そんなふうに言い捨てて、そのままピットを連れて部屋に入ってしまった。
 なんとも強引なティナの言い回しに、思わずクスクスと笑ってしまったピットであったが、
 一歩、部屋の中に入り、その中の様子をみて驚いた。
677倉庫達の冒険F (8/22):2005/04/10(日) 00:59:58 ID:GAsaq03k
「あ……」
 散らかっていたわけではない。それなりに整頓されている。
 どこに何が置いてあるのか、目が見えない以上は場所を決めて配置しないことには、
 判らなくなってしまうからだ。
 驚いたのは、預かり物の装備品などは、金庫に押し込めたりしないで、床に一つずつ
 升目を引かれたように綺麗に並べられているのだ。
 目の見えない身体で、『倉庫』の仕事を如何にしているのか。その苦労がひしひしと
 伝わってきた。

 ピットは、持ってきた包みを開いてティナに瓶を握らせた。
「これです。プロエーテル……判りますか?」
「あ、ああ……」
「また割れないように、包んで置いておきますね。」
「そ、そう……じゃ、空いている場所に……」
 そんな、やり取りを済ませ旅の目的を果たしたピットであったが……
 なんとなく立ち去りがたい気持ちがあり、またティナの方も追い返す訳にもいかない。
「適当に座って。」
 とは言ったものの、大したもてなしも出来ないのは当然の話。
 会話するにも糸口が見つからない。これまでの旅の話や、お互いの身体のことなど、
 いくらでも話せることはあるというものだが……
678倉庫達の冒険F (9/22):2005/04/10(日) 01:01:07 ID:GAsaq03k
 そんな沈黙を破ったのはピットの方だった。
「あ……」
 部屋の片隅に置いてある包みをみると、中に干し肉などの乾物やパンなどが入っていた。
 目の見えない状態では、なかなか料理など出来るはずもない。当然、外食など贅沢を出来る
 はずもなく、ティナはそうした調理のいらないもので、食事を済ましていたのだ。

「そうだ、僕が何か美味しい物を作ってあげますね!」
「え、ええ?!」
 ティナは驚きの声を上げる。
「ちょっとまって、そんなことまでして貰う訳には……」
「いいから、いいから。」
 そう言って、扉を開けて外に飛び出していき……
 慣れない街での買い物である。どれぐらい時間がかかったのだろうか。
 やがて包み紙を二、三個抱えてピットが戻ってきた。
「えーと、調理器具は、と。包丁にお鍋に……」
「あ、あのね、ピット」
「いいから、いいから。」
 またしても強引にティナを押さえて、また外に飛び出していく。
 しばらくして、扉の向こうで声が聞こえてきた。
(ねぇあんた、モグハウスなら共同の調理場があるはずだよね……え?なに?)
679倉庫達の冒険F (10/22):2005/04/10(日) 01:02:58 ID:GAsaq03k
(ああ?自分の部屋に帰れだって?うるさいなぁ!あんた達が、そんなふうに冷たいから!
 ティナさんが苦労してるんじゃないかぁ!!)
 どうやら、例の管理人に文句を付けられたらしく、今までのピットからは想像もつかない
 剣幕で怒鳴り散らしていたのだ。
 よほど、ディバンから引き継いだ鬱憤が強烈な物であったのかもしれないが。

 やがて、ピットは両手で鍋を抱えて帰ってきた。
「後は♪暖炉で煮込むだけ♪」
 一転して楽しそうな様子で、暖炉に鍋をセットして薪に火を付けていた。
 ティナは心配そうに問いかける。
「あの、旅で疲れてるんじゃなくて?それに、身体は……」
「大丈夫、大丈夫。いいから、いいから。」
「あの、お金とか……管理人から何か言われた?」
 ティナはそう尋ねたが、しかしピットは笑って答える。
「大丈夫、大丈夫。いいから、いいから。」
 そう言いながら、ゆっくりと鍋をかき回している。
 やがて……ティナの方にまで料理の香りが漂い、思わず声を上げた。
「……ああ」
 調理された料理の匂いを嗅ぐことなど、ティナには久しくなかったのだ。
680倉庫達の冒険F (11/22):2005/04/10(日) 01:06:32 ID:GAsaq03k
「ウィンダス風に作っちゃったけど……口に合わなかったらゴメンナサイ。」
 そういって、出来上がったシチューを器に盛りつけ、新しく買ったパンを一切れ添えて、
 慎重にティナに手渡した。
「熱いから気をつけて。」
 そう言われて、スプーンを手に取り口に運ぶ。
「あ、あつ……」
 うっかり器をひっくり返しそうになるが、側に着いているピットが慌てて手を添えた。
 そうして、ゆっくりと一口ずつ、シチューをすすった。
「ああ……あ、ああ……」
 ほんの数口で、もう堪えきれなくなったティナの目からは、ボロボロと涙があふれ出した。
 見えなくなった目でも、涙腺の機能は健在であったようだ。
「あ、あの」
 覆い被さった前髪の僅かな隙間から、涙するティナの様子が見えたらしい。
 ピットはビックリして声をかけようとしたが、
「う……あ……あう……」
 そんな言葉にならぬ声を上げ、しかも泣きながらも、夢中でシチューを貪り食べていた。
 もはや、かろうじて残っていたプライドも完全にかなぐり捨て、大人の女性と思えない
 仕草で、口元や手も汚し夢中でシチューをすすり込んでいた。

 しかし、それこそ料理の作り手にとっては言葉以上の最高の賛辞だったのだ。
681倉庫達の冒険F (12/22):2005/04/10(日) 01:07:53 ID:GAsaq03k
 おざなりの作り置きの食糧を片手に長い旅に出る冒険者にとって、熱々の料理を食べる
 ことなどありえないことだ。ましてやクリスタル合成品とはまた違う、時間をかけて
 調理され、人の勘だけで味付けられた、まさしく家庭料理の真骨頂である。
 ティナに限らず、どの現役冒険者が食べても、涙せずにはいられない最高級の贅沢品だったのだ。

 手渡された手拭いで顔や手を拭きながら、ようやく冷静さを取り戻してきたティナは、
 すこし恥ずかしそうであった。
「その……ごめんなさい。あまりにも美味しかったから。」
「よ、よかったです。口に合わなかったらどうしようかと……」
 そう言いながら、今度はお茶を手渡そうとして近づこうとした、その時。

「あ……」
 そのピットの腕を、ティナはぐっと握った。何だろう?
 ちょっとピットはドキドキした。が、ティナは今度はピットの額に手を当てる。
「……」
 どうやら、熱を測っているらしい。ティナはしばらくそうしていたが、
「……あなた。食事は?」
 そう尋ねた。先程とは一転して鋭い口調だ。
「あ、ああ、味見をいっぱいしたから……」
 そう、うろたえながら返事をしたが、
682倉庫達の冒険F (13/22):2005/04/10(日) 01:09:09 ID:GAsaq03k
「……シチューをもう一杯。あとパンも一切れ。」
「は、はい。」
 ピットは、慌てて器によそい、ティナに手渡そうとしたが、
「それはあなたが食べなさい。」
「え?」
「食べるの。残したら承知しないわよ。食事はちゃんと取らなきゃ駄目。」
「え、いや、だから味見を……」
「そんなんじゃ駄目。あなた、熱が出てんるじゃなくて?
 無理矢理でもお腹に詰め込みなさい。なんなら……私が食べさせてあげましょうか?」
 もうすっかり普段のティナに戻っていた。その鋭い口調に、もはやピットは従う他はない。
「ええ?!いや、食べます。食べますったら。」

 そうして、ティナはピットが食べている様子を覗いながら……といっても、食事の音に
 聞き耳を立てる他は無かったのだが……ゆっくりと会話を交わした。
「さぼてん?……ってあのサボテンが歩くんですか?」
「フフ、そうよ。中には物凄く強いサボテンが居て、砂漠のど真ん中を信じられないような
 勢いで失踪する奴がいてね……」
「へえ……」
「私は顔全体を隠していたんだけど……目まで塞ぐ訳にはいかないでしょ?
 そこへ、雨のように無数の針を吹きかけられて……」
683倉庫達の冒険F (14/22):2005/04/10(日) 01:10:57 ID:GAsaq03k
 昼間の会話のやり直しである。
 なんとなく楽しそうに……なんとなく親しげに……
 ティナはピットのすぐ隣に座って、自分の冒険談や、これまでの経緯などを語っていた。

 そして内心では、もっと少なめに注いでおけば良かったと後悔しながらも、ピットは
 なんとかシチューをたいらげた。
「全部食べた?」
「は、はい……うぷ」
 やはりピットは小食らしく、本当に無理矢理に詰め込んだ状態のようだったが。

「よし……それじゃ、もう寝ましょ。」
「え、いやあの、その前に洗い物を……」
 そう言って表に出ようとしたが……やはり、熱が出ているのは本当だった。
 ふらついて、ぽてん、と床に倒れ込んでしまった。
「ほらほら、だから熱が出てるって言ったでしょ?そんなの明日でいいから。」
「え、あ!」
 ティナは目が見えないにもかかわらず、そうとは思えない仕草でピットを手早く捕らえて、
 部屋の片隅にある毛布の中にピットを寝かしつけてしまったのだ。
「あ、あの……」
「さ、食べて寝ればすぐに治るわ。」
684倉庫達の冒険F (15/22):2005/04/10(日) 01:12:36 ID:GAsaq03k
 そう言いながら、ピットの隣……いや、ほとんどピットを抱き寄せるようにして、自分も
 また毛布の中に潜り込み、
「お休みなさい。」
 そう言って、仰向けの状態で横たわった。
「……」
 ピットはもう何も言えず、黙って眠りにつく他はなかった。

 熱が出ているせいか目眩を感じるような状態で、うつらうつらと微睡んでいたピットで
 あったが……
 横になってから、どのくらい時間が経っただろうか。ふとした時点で、ガバッと起きあがった。
 火の元は大丈夫かな?などという心配からであったが、暖炉の方を見て、自分が鍋を
 火から下ろしていたことを、ようやく思い出す。
 まだ、暖炉の火は消えずに小さな炎を上げている。
 その炎の淡い光が、薄暗い部屋をほんのりと照らしていた。
 
 ふと、ピットは隣のティナを見た。もう眠ったのだろうか。

 ずっと顔を隠していた前髪は左右に分けられていて、ピットは初めてティナの顔を見る
 ことが出来た。
 
685倉庫達の冒険F (16/22):2005/04/10(日) 01:14:26 ID:GAsaq03k
 暖炉の小さな明かりで薄赤くティナの顔を照らし出している。
 そのティナの顔は、エルヴァーン族らしく見事に均整のとれた顔立ちで、スッと通った
 サボテンの針で目をやられた、ということだったが、顔の表面は傷一つ付いていない。
 鼻筋や切れ長の目、口元……まさに彫刻家が創作したような、見事な美しさであった。
 だが。
(……)
 ピットは思わず、そのティナの頬に、そっと触れてみた。
 少し頬が痩けていて、やはりこれまでの食生活が影響していたのだろう。
 そして、これまで、よほどの苦労があったのだろう。
 なんとなく、なんとも言えない気持ちで、ティナの顔を撫でていた。
 無心の憧れでもなく、もちろん性欲からくる興味でもなく……ただ、愛おしいという思い……
 その時。

 スッと、ティナの手が伸びてピットの手に添えられた。
「あ……」
 拒絶ではなかった。ピットの手を受け入れ、答えるためだった。
「ピット……」
「は、はい……ご、ごめんなさい……」
「ううん……いいの……」
「あ……あの……」
686倉庫達の冒険F (17/22):2005/04/10(日) 01:16:09 ID:GAsaq03k
 そして優しくピットの手を握り、
「ありがとう……本当に……来てくれて……ありがとう……ピット……」
 ティナは小さな声で、そう繰り返し呟いた。

 明朝。

 二人は、きのう食べた後の片づけ物を済ませるために、共同の炊事場へと向かった。
 ピットは食事と一晩の睡眠で、体調の方はある程度とりもどしたらしかった。
「あぁあ、やっぱり少し焦げ付いちゃってるなぁ……ぐ、落ちない……」
「貸してご覧なさい……どの辺?」
「ええと、そうそう、その辺り……ひゃっ冷たいっ」
「ウフフ、ごめんなさい。」
 そんなふうに、水しぶきを上げつつ笑いながら洗い物をしていた。
 早朝だったので、他の利用者は誰もいない。
 なんとなく、不機嫌そうな例のモーグリがジロリとこちらの方を睨むのだったが。

 しかし、それが終われば、もうピットは帰らなければならない。
 とても名残惜しかったのだが、これ以上はウィンダスから離れているのも限界だろう。
 やがて、身支度……といっても、荷物はティナに渡した物だけだったのだが……身支度を
 してモグハウスの外への出た。
687倉庫達の冒険F (18/22):2005/04/10(日) 01:17:51 ID:GAsaq03k
 無論、帰る手段は持ってきていた呪符による帰還魔法である。
 モグハウス内では、そうした魔法の類を行うことは禁じられている。
 流石に、そこまで規律を無視することは出来なかった。

「ピット……それじゃね……」
 ティナはモグハウスの門の所まで見送りに出てきた。
「はい。」
 ピットは、ティナの手を引いてここまで来たのだが、今一度その手を握り返した。
 
 別れ、といってもリンクパールで何時でも話すことは出来るのだが、もはや、ティナは
 完全にピットに心を許してしまっている。
 既に慣れてしまったピットの手に、もう少し自分の身を委ねていたかったのだが。

「また、来てね。」
「……はい」
「あ、儀礼じゃなくて、本当に来て欲しいの……いや、今度は私がウィンに行くわ。
 誰か、白魔導師にでも頼めば大丈夫だから……」
「……はい」
「そして、昨日のシチューが、また食べたい……」
「……はい!必ず!」
688倉庫達の冒険F (19/22):2005/04/10(日) 01:19:25 ID:GAsaq03k
 そう、元気よく返事をしたピットであった……が。

《おいこら、ピット!》

「わぁっ!」
 突然のリンクパールからの一喝に、心臓を鷲づかみにされたように飛び上がって驚いた。
 その声は、雇い主のモールであった。
《え、えーと、お、おはようございます。モールさん》
《おはようじゃないっ
 お前、断りもなくウィンから出てサンドまで来て泊まり込むなんて……何、考えてんだよ!》
《うわ、えーと、あのう……》
《ゲートから話は聞いたよ……まったく、どいつもこいつも……》
 すると、リンクパールの奥で、クックックという笑い声が聞こえる。
 どうやら、ディバンらしかった。ゲートの方からは何も聞こえて来なかったが。
《プロエーテルを割ったんだってな。ああ、いいよ、そんなの。
 目が見えないはずのティナにうっかり預けたのが悪かったんだ。
 ピット、お前のヘソクリに大事に締まっとけ。》
《は、はい!》
 そしてティナも慌てて謝罪する。
《ごめんなさい……かならず少しずつでもお返しします。》
689倉庫達の冒険F (20/22):2005/04/10(日) 01:21:20 ID:GAsaq03k
《だから、いいって言ってるでしょ?それから……ピット。》
《はい、すみません。すぐウィンに戻ります。》
《いや、もうウィンに帰るな。》
《え……ええ?!》
《今回の罰だ。悪いが故郷を捨てて貰うぞ。
 危険を冒してまで来たがっていたぐらいなんだから、不満はないだろうな?》
 故郷を捨てろ……とは、これまたずいぶん酷な言い方である。ピットはうろたえながら、
《あ、あの……しかし、ウィンの方は》
《いや、そろそろ『倉庫』をもう一人増やしたかったんだ。サンドでもう一人雇うつもり
 だったが……街の作りからして、サンドの方が効率的だからな。
 だが、慣れている人間の方が良い。ウィンには新しい者を雇うことにする。》
《は、はい。》
《それとな。これからはお前がティナの荷物を運べ。
 ティナ……強情なお前さんだが、やっぱり物理的に無理があることは、今回のことで判った
 だろう?普段は、これまで通りに頼むが、急ぐときはピットに行かせろ。》
 ティナは、少し考える様子を見せたが、素直な返事をした。
《はい……判りました。》
《よし、それじゃピット。これから言うことを、よーく聞け。
 まず金を送ったから、それでサンドリア国民になるための、移籍の手続きをしてもらう。》
690倉庫達の冒険F (21/22):2005/04/10(日) 01:23:02 ID:GAsaq03k
《え、あ、はい。》
《外国人のままじゃ、都合の悪いこともあるから、やむ終えん。
 もう、届いているはずだから、モグハウスに取りに戻ってくれ。》
《は、はい!》
 そう言って、ピットは慌てて部屋……ティナの部屋に泊まったので、まったく利用して
 なかったのだが……部屋に戻ろうとして向きを変えた、その時。

「ピット」
 ティナが呼んだ。
「は、はい」
「……これから、よろしくね。」
 にっこり微笑んでティナが言った。
「はい!」
 ピットは嬉々としてそう言ったものの、感傷に浸っている場合ではない。急がなくては。

 部屋の鍵を開けてポストを覗くと、ピットが手にしたこともないような大金が放り込ま
 れていた。
 ピットは驚きながら、それを取り出して、
《え、ええと、お金、頂きました。》
 そう、モールに告げた。
691倉庫達の冒険F (22/22):2005/04/10(日) 01:24:44 ID:GAsaq03k
 だが、もう一つ入っているものがある。
 それを手にとって、軽い包装を解いてみた……これは、どうするんだろう。
《お、ちゃんと届いていたか?それじゃ、手続きする場所を言うからな。》
《あの……これは》
《ああ、忘れてたな。今から言う。
 えーとな、北地区の方にミスラッ子が居るはずだから、その子に手渡してみろ。
 それが、実は外国人が生活するためのコツなんだよ。渡せば判る。
 それからな……》
《は、はぁ……》
《ティナに監督させるように言っておくが、医者を紹介してやるから、ちゃんと通えよ。
 急がせるときもあるけど、無理に走ったりせず、自分で身体は自分でいたわれ。》
《はい……》
《それじゃ、行ってきてくれ。ええと……今度はゲートだ。おーい……》
 そうして、モールは次々に『倉庫』達に指示を出していく。
 冒険者にとっても、倉庫達にとっても忙しい朝の始まりだった。

 そして、ピットは送られてきた物を改めて手にとって眺めていた。

 それは、一輪のマーガレットの花であった。
692 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/10(日) 01:26:20 ID:GAsaq03k
大量連貼りごめんなさい。次回が最終回になります。

そろそろ……スレの容量がやばいかなぁ……
693倉庫達の冒険F 差し替え (16/22):2005/04/10(日) 01:45:58 ID:GAsaq03k
 暖炉の小さな明かりで薄赤くティナの顔を照らし出している。
 そのティナの顔は、エルヴァーン族らしく見事に均整のとれた顔立ちで、サボテンの
 針で目をやられた、ということだったが、顔の表面は傷一つ付いていない。スッと通った
 鼻筋や切れ長の目、口元……まさに彫刻家が創作したような、見事な美しさであった。
 だが。
(……)
 ピットは思わず、そのティナの頬に、そっと触れてみた。
 少し頬が痩けていて、やはりこれまでの食生活が影響していたのだろう。
 そして、これまで、よほどの苦労があったのだろう。
 なんとなく、なんとも言えない気持ちで、ティナの顔を撫でていた。
 無心の憧れでもなく、もちろん性欲からくる興味でもなく……ただ、愛おしいという思い……
 その時。

 スッと、ティナの手が伸びてピットの手に添えられた。
「あ……」
 拒絶ではなかった。ピットの手を受け入れ、答えるためだった。
「ピット……」
「は、はい……ご、ごめんなさい……」
「ううん……いいの……」
「あ……あの……」
694 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/10(日) 01:47:31 ID:GAsaq03k
つДT)ご、ごめんなさーい。上のレスを差し替えて読んで下さい。
3,4行目がおかしくなってました。
あーあ、大事な部分なのに……
695既にその名前は使われています:2005/04/10(日) 02:31:08 ID:71QiiD59
最後か〜楽しみ〜♪
作品制作おつで〜す
696既にその名前は使われています:2005/04/10(日) 17:20:53 ID:1l/Ex7oj
製作者さんおつですー
感動的な話でしたねぇ〜これからもヨロシク!
「もう知っていると思うが、俺とティナは、かつては冒険者仲間だったのだ。」
 あれから数年の後に、ピットの元に訪れたゲートは、そんなふうに語り始めた。
「彼女が潰された目は、白魔導師の魔法では復元出来ず、通常の治療法もあるはずもなく……
 失明したまま、今後の生活を余儀なくされてしまったわけだ。
 当然ながら、目の見えない冒険者など、世間で受け入れて貰えるはずもない。
 身体の機能を損なった者は、例え指一本欠けているだけだとしても、あまり良く見られる
 ものではないからな。」
「はい……」
「目の見えない身体で、どうやって生きていくのか。
 その頃は、すでに俺は身体を壊していて、モール殿の『倉庫』という生活を送っていた。
 俺に出来ることはティナを紹介してやることだけだったのだ。
 世話をしてやるから俺の所に来い、『倉庫』は暇な仕事だから、と言ったのだが。」
「……」
「しかし、あいつは一人でやっていくと言って受け入れることはなかった。他の仲間達も、
 あれこれと世話しようと気遣ったが、しかし、あいつはその手を全て振り払った。
 人の手は借りぬ、目が見えない状態でも生きていけるようにならなければと……
 あいつは自尊心、自立心が強く、もともと人の手を借りることを好まない性格だった。
 仲間内でも孤高の存在と言っても良かったからな。しかしなぁ……ピットよ。」
「……はい?」
698倉庫達の冒険(終) (2/13):2005/04/10(日) 19:38:35 ID:GAsaq03k
「確かに、目が見えない状態で一人で生きていこうとするその姿勢は、実に天晴れだとは
 思うぞ。いざ、人の手を借りて生活をすると、それに甘えがちになってしまうのだが……
 例えば、服を着替えたり、どこかに行こうとしたりする場合、例え一人で出来たとしても
 目が見えないとなれば普通の人の何倍もの時間が掛かってしまう。
 そんな状態では、自分の仕事や楽しみをする時間が大いに損なわれてしまう。
 それでは、人として良い生活を送っているとは言えぬ。」
「はい……」
「目が見えないのならば、あるいは身体が動かないのならば……
 その為に出来ないことだけを、周囲の人間が手伝ってやればよい。
 そうすれば、普通の人と変わらぬ生活を送ることが出来る、という訳だ。
 そう、お前が今、ティナにしてやっていることが、実はそうなのだ。」
「……」
「以前、お前と虹を見ながら、お前を導くことが答えだったとお前に言ったな?
 俺が戦いで傷つき、そして倉庫となってお前と出会ったことも、そのためだったと。
 もちろん、お前に虹を見せることじゃなく、お前をティナに会わせることが本当の目的
 だったのだ。そして、俺がひそかに願っていた通りの成り行きとなった。
 ……ああ、ピット。俺は正直、お前がうらやましく思うぞ。
 ただ、敵を殴りつけて殺すことしかできない俺にとって、人の支えとなり生きていくこと
 が出来るお前がうらやましい。
 ……なにも、ティナの世話を押しつけるために、おだてているわけではないぞ?」
699倉庫達の冒険(終) (3/13):2005/04/10(日) 19:39:20 ID:GAsaq03k
「い、いや、そんな」
「ああ、判っている。お前も嫌な仕事と思ってやっている訳ではないだろうし、出来るなら
 俺が手助けをしたかったのだ。かつての……かつての仲間だったからな。
 そうしたいと思う奴は大勢居た。あいつは、結構もてていたからな。」
 ピットと並んで座っていたゲートは、笑いながらそう言って立ち上がった。
「では、ティナを頼むぞ。俺はやはり、この拳で道を開くことしかできないが、しかし俺の
 出来ることを見つけていこう。達者でな、ピット。」
「はい……ゲートさんも、お達者で。」
 そして、ゲートは後ろを向いたまま手を振り、ピットの元から去っていった。
 今のゲートは、威風堂々たる胴着を着て、腰には恐るべき手甲が下げられている。
 そして、例の『倉庫』用のリンクパールを付けては居なかった。
 そう、既に腰の負傷はすっかり完治して、彼は『倉庫』から『卒業』して、再び冒険者と
 しての道を歩み始めたのだ。

 ジュノ下層……
「竜の討伐に行くぞ!誰か助太刀に来てないか!」
「白魔導師は居ないか!俺をコンシュタット高地まで運んでくれ。金は払うぞ!」
「忍者か……あるいは騎士でも良いぞ。盾になれる奴はいないか?」
 
 独特の掛け声が飛び交うその場所は、今日もまた夜も昼もお構いなしに賑わっている。
700倉庫達の冒険(終) (4/13):2005/04/10(日) 19:40:48 ID:GAsaq03k
 道は行く手が見えなくなるほど混雑し、その傍らでは足の踏み場もないほどの露店が並ぶ。
 人が集まれば、それを目当てにまた人が集まるのは当然の論理だ。
 まさに、この場所こそ冒険者達の本拠地である。

 その端の方、壁にもたれながら、じっと人々の様子を伺っている男が居た。
 ディバンだ。
 彼はただ腕を組み、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、人の動く様を楽しんでいた。
 が、ふとした瞬間に、雑踏の中に紛れ込んでいった。
 
 そして……
 いきなり、ある男の腕を掴み、ぐいっと引っ張ったのだ。
「な?!てめぇ何しやがんだ!」
 その掴まれた男は、驚いてディバンに抗議したが、ディバンはニヤリと笑って答える。
「その程度の腕で、人様の懐を探ろうなんざ十年早えぇや……
 金が欲しけりゃ羊の皮でもなめしてこい、若造。」
「チッ」
 そう舌打ちしながら、その男は強引に腕を振り払って人混みの中に消えていった。
 惜しいことをした。すり取るまで待って、しょっ引けば謝礼ぐらいは貰えたものを。
 そんなことをディバンは考えた。犯罪を防ごう、治安を守ろうなどと、思ってやった訳
 ではなく、単に人の揚げ足を取りたかったようだったが。
701倉庫達の冒険(終) (5/13):2005/04/10(日) 19:41:57 ID:GAsaq03k
 まだ、ディバンの「刑期」は解けてないようだ。未だ、その耳には『倉庫』としての
 リンクパールが取り付けられている。
 はたして……その後は冒険者へと復帰するつもりだろうか。
 それは、その時になって見なければ判らないことだ。

 ふと、ディバンは誰かを見つけて軽く手を振った。
 どうやら知り合いらしい。相手も手を上げて応じた。
 それは、巨躯のガルカと……そして一人、小さなタルタル族を伴って、酒場に入ろうと
 しているところだった。

 その二人が酒場に入っていくと、悲鳴にも似た歓声が巻きあがった。
「おお!ゲートじゃないか!」
「この死に損ないめ、とうとう戻って来やがったなッ!」
「貴様ァ・・・その腰を、今度は俺がへし折ってやるから、こっちに来い!早く!」
 そんなロクでもない歓迎を受けながら、ゲートは連れを伴って仲間の輪に入っていく。
 そして、連れのタルタル族……おかっぱ頭で初心者らしい胴着を着た娘に声をかけた。
「見ての通り、柄の悪い連中ばかりだが気の良い奴らだ。」
「お、押忍!」
 そのタルタル族の娘は健気に返事をした。
702倉庫達の冒険(終) (6/13):2005/04/10(日) 19:43:07 ID:GAsaq03k
「タルタル族の格闘家といっても臆することはないぞ。堂々と胸を張れ。」
「押忍!」

 そして、ゲートの歓迎は尚も続いた。
「あいっかわらず、でっかい図体しやがって。ほらほら、そこに立つな。邪魔!」
「まず床に座れよ。人を見下すんじゃねぇっての。」
「まったく……てめェが来るとな、酒場が狭くってしょうがねぇんだよ。」
 そんなやり取りを聞いて、バーテンがニヤリと笑って言う。
「馬鹿野郎、一杯や二杯で潰れてしまうあんたらだけじゃ、店の稼ぎにならんだろうが。」
 接客とは言えない物言いだったが、それを聞いた冒険者連中はゲラゲラ笑った。
 そこで、一人がゲートの連れに気が付いた。
「お?その可愛い子ちゃんは何だよ。」
「ああ、新入りって奴だ。みんな、よろしく頼むぞ……ほれ、挨拶しろ。」
「お、押忍!みなさん、よろしくおねがいしまっす!」
 そういって、構えのポーズを取る。
「よろしくぅ!」
「よーし、それじゃ早速、歓迎会といこうや。なぁみんな。」
「おお、いいね!何処に行く?」
「そうだなぁ……どっか獣人砦に殴り込みでも掛けるか……」
「北はどうだ?バルドニアの雪景色なんざ見たことないだろ?」
703倉庫達の冒険(終) (7/13):2005/04/10(日) 19:44:08 ID:GAsaq03k
「そんなら、ズヴァール城へと乗り込むか。そこに住む魔神どのも角となりゃ、ちょっと
 した小遣い稼ぎになるぜぇ。」
 やはり、ろくでなしばかりのようだ。殺戮が歓迎会だというから恐れ入る。
「よし、決まりだ!そうと決まりゃ行こうぜ、野郎共。」
「……て、その子じゃまだズヴァール城はきついか。」
「あら、大丈夫よ。私が何度でも生き返らせてあげるから。」
 仲間の間にいた、清楚に見える姿の白魔導師もまた言うことがキツイ。
「あいかわらずだな、お前ら。」
 そう言うゲートもまた、かつての太々しい、凄みのある笑みを浮かべていた。

 そうしているとき、ある一人がスッとゲートに近づいて耳打ちする。
「よう……ティナは今、どうしてるんだ?」
「あ、ああ……」
 そうして、ふっと溜息を漏らしながらゲートは答えた。
「あいつには新しい男が出来たんでな。どうやら楽しくやっているようだ。」


 で、その「男」である。
704倉庫達の冒険(終) (8/13):2005/04/10(日) 19:45:11 ID:GAsaq03k
《だから、口の院があるでしょ?ノルバレン地方の特産品は、そのすぐ近くに居る人が
 売っているから、そこで……》
《うにゃぁ……遠いよぅ、ねぇピットぉ、そっちで買ってきてよ。大工ギルドなら、
 そっちにあるんじゃ……》
《だからね。同じ買うなら安い方がいいでしょ?それ以前に、モールさんは君に指示を
 出したんだから。》
《うー……》
《さぁ、おとなしく走った走った。》
《は、はぁ〜い》

 ピットの話し相手はウィンダスの新しい『倉庫』らしかった。
 ミスラ族の大人になりきれていない年齢で、甘たるいミスラの子供言葉が抜けきらない。
 どうやら、先輩であるピットの手を焼いているらしい。

「ウフフ……先輩は大変ね。」
 そう言いながらピットの後ろから現れたのは、ティナだった。
「なんなら、ウィンに帰って手取り足取り教えてあげたら?」
「えー、あんな甘えん坊の相手なんかしたくないってば。」
「こらこら、聞こえるわよ?」
 そういって、クスクスとティナは笑った。
705倉庫達の冒険(終) (9/13):2005/04/10(日) 19:46:06 ID:GAsaq03k
 そのティナの格好は……
 黒を基本とした落ち着いた服で、短めの上着に踝までの長いスカートを履いていて、
 ウェストをキュッと絞られたデザインで、清楚に見えて魅力的な姿だった。
 それは、ピットが苦心してコーディネイトしたものだったらしい。
 髪の毛もまた綺麗にカットされて、その髪もまたピットがとかしているのだろうか、
 その長い銀髪は綺麗に整えられ、光り輝いていた。
 そして、サングラスを掛けていて、手には新しい杖が握られている。
 その姿をピットは眩しそうに見とれていた。

「どう?きまってる?」
 ティナは腰に手を当ててポーズをとった。
「そりゃそうでしょ、なんせ僕が選んだんだから。」
「なーに言ってんの、元が良いのよ、元が。」
 以前の冒険者仲間が見たならば、そのティナの明るい変貌ぶりに驚いたことだろう。

 今日は、ティナの新しい仕事の初日だった。
 それは、街の学校で子供たちを相手する講師の仕事だったのだ。『倉庫』の仕事をする
 傍ら、ピットはティナの念願を果たすため、大きな本を抱えて繰り返し朗読して猛勉強
 に励んだのだ。どこかに書いておくということは一切出来ないので、ひたすら読み聞い
 て頭に叩き込むしかない。それこそ、分厚い本を一文字残らず覚える覚悟が必要だった。
706倉庫達の冒険(終) (10/13):2005/04/10(日) 19:47:33 ID:GAsaq03k
 幸い、『倉庫』としての仕事は、わりあい暇な時間が多い。
 それにティナは物覚えが良いし、頭の回転も良かったので果たせたことかもしれない。
 当時として、目の見えない者に学校の教鞭を取る前例はなかったのだが、学校側も子供
 達の教育になる、ということで大英断を果たしたのだ。
 ティナは数年間の勉強の末に、ついに試験を突破して講師への道へと進んだのである。
 子供達の担任ではなく、授業の一部を受け持つという形式であったのだが。
 むろん……すでに『倉庫』としての仕事は返上していた。

「それじゃ、行ってくる。」
「はい……気をつけてね。」
 もう杖で一人で歩くことには、だいぶ慣れては来たのだけれど、見ている側のピットは、
 やはり不安で一杯だ。
「うっかりスカート踏んづけて転ばないようにね。それから……」
「はいはい、そんなに心配しないでっていってるでしょ?」

 これまでの、ティナとの数年間の生活に於いて……
 ピットは、ひたすらにティナの世話を焼き続けたのだから、心配性になるのも無理はない。
 先ほどの勉強や、読み書きが必要になることはもちろん、料理を作ったり……
 しまいには着替えの手伝いまでしたのだが、これには流石のピットも閉口した。
 他種族とはいえ、異性の着替えに付きそうのには非常に抵抗があったのだが、しかし、
707倉庫達の冒険(終) (11/13):2005/04/10(日) 19:48:36 ID:GAsaq03k
「裸を見せ合うのに照れてちゃ、なんにも出来ないわよ。ほら、早く。」
 そういって、さっさと服を脱いでしまうティナに、あたふたと着替えを手渡すピット。
 むしろ、ティナよりもピットの方が恥ずかしがる始末であった。
 だが、ティナはまだまだ自尊心が強い。出来るところは自分でやり、いちいちピットを
 呼びつけたりはしない。一人で出て行こうとするティナを慌てて追いかけることも、
 よくあることであった。そして、今日は一人で学校に行こうとしているのだ。
 ピットも『倉庫』の仕事があるのだから、というティナの考えだった。
 そして、ティナはモグハウスを出て、学校へと向って歩き始めた。
「それじゃね、晩ご飯よろしく。」
「うん……」
 やっぱり、自分が付いて歩いた方がいいんじゃないのか、などと考えていたのだが……

 だが、いくらかティナが歩いていった所で、すっと若い騎士らしい男がティナの側に
 近づいた。どうやら道案内を買って出ようとしているらしい。ティナが笑顔で礼を述べ、
 その男の肘を借りる様子が見える。見栄えが良くなれば、そうして手を差し伸べたがる
 者も出てくる。現金なものだ、と言いたいところだ。

 なんとなく、その様子をピットは苦笑いで見ていた。
(やっぱりなぁ……背の低い僕が手を引くよりも……)
 そんな事を考えなたりしながら。
708倉庫達の冒険(終) (12/13):2005/04/10(日) 19:49:50 ID:GAsaq03k
 まあこれで一安心、とばかりに振り返ってモグハウスの中へと入ろうとした。
 そして、ピットは更に考える。
(いずれは、こうして世間に出れば、ティナにも相応しい相手が現れるだろう。
 かつての冒険者仲間か、あるいは街の人々の誰かだろうか。)
 なんといってもピットは他種族である。他種族間での結婚などという常識は、残念ながら
 存在しなかったのだ。ましてや自分がティナの伴侶づら出来ようなどとは思っても見ない。
(そうしたら、僕は大いに祝福しよう。誰よりもティナと、その相手を大いに祝福しよう。
 しかし、困ったなぁ……食事とかはともかく、着替えまで手伝ってるなんて知れたら……)

 ぽこんっ

「い、痛てっ」
 あれこれと考え事をしていたピットの頭を何者かが叩いたらしい。
「忘れ物しちゃった。」
 ティナである。学校へと向かったはずだったが、またピットの元へと戻ってきていた。
「ちょっとぉ……本ッ当に見えてないの?って……うわ」
 ティナはピットの身体を軽々と持ち上げて、片腕で抱き上げてしまった。
「あの、忘れ物ってなに……え?」
 空いている方の指で、自分の頬をツンツンと突いた。
「え、ええ?……わ、わかったよ。」
709倉庫達の冒険(終) (13/13):2005/04/10(日) 19:51:02 ID:GAsaq03k
 ピットは軽くティナの頬に口吻をした。
「よし……これで勇気百倍。」
 ピットを地面に下ろし、ガッツポーズで気合いを入れた。
「待ってろよジャリ共。思いっきり、ぶちかましてやるからな。」
「ち、ちょっとぐらいは手加減してあげてね……」
 そう言いながらも、少し呆れ顔で見ているピット。
 そんな二人の様子を、先ほどの騎士は面白そうに見守っていた。

「それじゃ、今度こそ行ってくるから……それから。」
「え?」
「心配しないで。浮気なんかしないから。」
「あ、あはは……」

 どこまで、真に受けて良いものなのか。
 そう思いながらも、しかしピットは淡くなんともいえない気持ちに包まれていたのだが、
《え、あ、はい。モールさん、何でしょう?》
 またしても、突然に『倉庫』としての指示が舞い降りたらしく、ピットは競売所の方へと
 駆けだしていった。本人は気づいているのかどうか、ピットの体調も良好なようだ。
 はたして、ピットはこのまま『倉庫』を続けるつもりだろうか。
 いずれにしろ、将来を十分に期待できるほどに、ピットは明るい表情を浮かべていた。(了)
710 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/10(日) 19:55:45 ID:GAsaq03k
一応、後書きしてみます。
他のスレでも見かけたのですが、自分の倉庫キャラにいろいろな経歴を妄想したりする人は結構多いのではないかと?
私もその一人で、実は今回の話の登場人物は、だいたいは私の倉庫キャラの構成と同じ。
やっぱり禿ヒュムをクリスタル倉庫に使ってますw
まぁ、そういう妄想をする場合、大抵は元冒険者で負傷が原因で……というケースになりがちかと。
で、あれこれ考えてみたという次第です。
実際にウィンの樽倉庫をサンドまでLv1単独突破させながら考えをまとめつつ……
なにか、公式の方にも倉庫の件に触れているようで、スレもたっているようですね。

http://www.playonline.com/ff11/vt2/05/re21.html
■eも公認の倉庫
http://live19.2ch.net/test/read.cgi/ogame/1112722939/l50

私の後半のダラダラした与太話は置いておくとしてw
Dのディバンの話あたりが、倉庫というものについて私の考えるところであります。
戦いの世界ヴァナディールで、そんな広告の体験談みたいな話があるはずもない、と。
まぁ……こんなところで。
あと、管理人さん乙です。私の作品をまとめて下さってアリガト
すんませんが、今回の分を乗せて頂く場合には、2箇所ほど差し替えがあるので、宜しくお願いします。
711名無しさん ◆V00/Phqsn. :2005/04/10(日) 20:37:15 ID:adv3gasa
おつかれさんです(*´д`*)いい話やー

>>667
したらばとかにある小説スレも過疎っぽかったなぁ
こういうスレはそういう傾向があるのかもしれない(´д`)
続き期待してますyp!

まとめサイツ春っぽくしてみた。そんだけage
712既にその名前は使われています:2005/04/11(月) 03:06:45 ID:bsv3wdLc
荒れないだけイイじゃまいか
713既にその名前は使われています:2005/04/11(月) 16:57:04 ID:Z67P4Af4
AGE
714既にその名前は使われています:2005/04/11(月) 20:31:19 ID:2i8ROEDf
MAGE
715ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/11(月) 20:37:15 ID:aFVtfYT/
6NLrYYfI2gタソ、仕事はえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!
漏れも早く仕上げたいwwwwwwwwwww
716既にその名前は使われています:2005/04/11(月) 20:47:05 ID:2i8ROEDf
はやく
しなさい
ぶりじっとさん
おれは
まっているのです
717ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/11(月) 20:51:34 ID:aFVtfYT/
>>716
マジすまん
今どうしても金が必要で、それで時間がなかなか取れんのだ
漏れの駄作を待ってくれてるってだけですげーありがたいから早く仕上げたいのだけど
718ブリジット ◆6acWblMBhM :2005/04/11(月) 21:47:29 ID:aFVtfYT/
719名無しさん ◆V00/Phqsn. :2005/04/11(月) 21:56:17 ID:RIvX051L
>>712
それもそうだ(´Д`;)
そういやここ3日間アクセス数が跳ね上がってるんだけど
外部板あたりでURLでも貼られたのかな

>>717
楽しみに待ってるyp(・∀・)
720 ◆6NLrYYfI2g :2005/04/11(月) 23:57:55 ID:qg2EBBQi
>>715
どもw
とはいえ、差し替えを2回をしてしまったこともあり、
もっと落ち着いて推敲すべきだったかと(汗

あ、あと遅レスなんですが、
>>633の人に笑って頂いたポスターの件(>>629
いや、狙い通り笑って頂いて嬉しいですw
なんていうか、ちょっと奇策だったんですが、
あの画像、■eはそんなつもりじゃないだろうけど、
この板の住人が見れば苦笑せざる終えない。
ディバンの気持ちに共感して頂けるのではないかと……なんちて。
721既にその名前は使われています:2005/04/12(火) 17:46:36 ID:UWH1tJC0
保守すると見せかけて保守しない
722既にその名前は使われています:2005/04/13(水) 00:10:53 ID:tBdXcpWq
しろよw
723既にその名前は使われています:2005/04/13(水) 00:11:22 ID:tBdXcpWq
で自分は保守
724既にその名前は使われています:2005/04/13(水) 07:34:21 ID:P6wDnvKr
でもやっぱりほしゅしない
725既にその名前は使われています:2005/04/13(水) 08:43:14 ID:tBdXcpWq
わけないw
726既にその名前は使われています
あるあるw