■「在特会」が跋扈する日本で考える 差別禁止法の制定を 木戸衛一(大阪大学大学院)
(前略)日本が1995年に加入した人種差別撤廃条約は、
「人種差別」を「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先」
と定義している。これに照らせば、「在特会」は、明白な人種差別団体である。◇
旧ユーゴスラヴィアに生まれ、父親をナチに殺された
ジョセフ・ラピド(Joseph Lapid)元イスラエル法相の発言は、説得力がある。
彼は2007年1月、「私たちを殺害し始める前にディアスポラに追い込んだのは、
火葬場やポグロムではなく、迫害、いやがらせ、投石、生計への打撃、脅迫、つば吐き、侮蔑だった」と回顧し、
「小さな反ユダヤ主義者が途中で待ち伏せし、私たちを殴りつけることがよくあったので、学校に行くのが怖かった。
ヘブロンのパレスチナの子どもと、どう違うのか」と、自国の現状を厳しく批判したのである。
ナチスが自負した「支配民族」にせよ、「在特会」らが奉じる「神国・日本」にせよ、
究極の集団的ナルシシズムとでも呼ぶべき選民思想は、容易に他者を辱め、その人間性を剥奪しようとする。
まさに、「愛国心は悪党の最後の拠り所」(サミュエル・ジョンソン)なのである。
日本に限らずヨーロッパでも、新自由主義の政治によって、労働と生存が不安定化し、
格差・分断が深刻化する現実への不満をナショナリズムで回収しようとする動きがある。
ちなみに、ドイツでは2006年8月、就労における、
人種・民族的出自・性・宗教・世界観・障害・年齢・性的アイデンティティを理由とした不利益を阻止・排除するための
「反差別法」(正式には「一般平等処遇法」)が施行された。
歴史を歪曲し、差別と排外主義を公然と標榜する「悪党」を、このまま野放しにしているのでは、
日本の国家意思が疑われることになる。
「在日」を初め、被差別部落・アイヌ民族・沖縄の人びとや、
外国人・移住労働者の「異なる他者」の尊厳をあからさまに踏みにじる行為を禁じることは、
「集会、結社、表現の自由等を不当に制約すること」にも「正当な言論を不当に萎縮させること」にもなるはずがなかろう。