初冬の冷たい風が、頬を撫でてゆく。
そこかしらの森から一面に落ちた。落葉松とも、椚ともわからぬ落ち葉の香が空気に溶けていた。
その枯れた風に頬を撫でられながら、ひとりくぼ地を見る。
男は見た。
その白骨死体を、である。
なんと言う。
なんと言う骨の散らばり具合で有るか。
ぞわり。
男の体内で、熱が高まるのを感じる。
まさか。
まさかこんなところで。
「見つかる、とは」
知らぬ内に、男はそう呟いていた。
いや、はや、まさか。
女性の遺留品。首吊り自殺とは―――
その様な生き方を俺は知らぬ。
にぃ、男は口端を吊り上げる。
「警察かねぇ」
男は掠れた声で小さく、そう呟いた。
たまらぬリアル通報であった。
「自殺かよ」
「そのようだな」
「たまらんなあ」
「ああ」
「ならば富士吉田警察に通報するとするか?」
「おう」
「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。
「それじゃあ、あとで案内させてもらえるかい?」
温厚な笑みを含んだ、錆びた口調で男が言った。
最初に到着したのは、パトカーで来た地域課の警察官。
寒いため、軽装の参加者はパトカー内で待機させてもらう。
かもすと地元の人だけ簡単な事情聴取を受ける。
地元の人と、地域話で打ち解けている間に、覆面パトカーが到着した。
若い刑事たちに、地域課の警官が指示を与える。
おそらく後着の若い刑事より上役にあたる男であった。
現場への案内は賑やかである。
あまりに静寂であるが為、車や鳥、飛行機の音が食い入るように
耳に入るのだ。
その静寂の中で、かもすと地元の人はたまに警官と雑談をかわしつつ、道なき道を進んでいた。
刑事は赤いテープを持ち、途中木に結びつけながら樹海を進んだ。
ざっ
ざっ
現場までの距離は県道71号から約200メートル。
ぞわり。
確かに、そこにはあった。
「この下着は、若い女の人だねぇ」
警官の届かぬ慟哭であった。
遺留品や骨の位置などを、手早く伝える。
それを受け、刑事はデジカメで、手早く現場を撮影する。
「じゃあこの後、バンで納体袋持って回収しにきますので」
刑事が撮影を終え、テープをたどり、元来た道へと戻る。
「今回は捜査にご協力していただきありがとうございました」
「ところで今日はこの後、予定通り富士風穴の方に行くんですか?」
「また中に入って、万が一遭難でもされると……」
雰囲気を察して答える。
「いや、こんなの見つけてしまったので、今日は終わりです」
――事実雨が降り始めていた。
警官も刑事もパトカーで立ち去り、
鳴沢氷穴に戻っていたろくとなるとが、車で戻ってきた。
「じゃあうどんでも食いに行こうか」
誰ともなくそう言って、俺たちも現場を立ち去った。
ひとまずこれが今回のオフレポである。
このレポートで少しでも雰囲気を味わってもらえれば、俺としては感無量である。
平成18年11月 東京にて
参考:夢枕獏の文体のガイドライン 3っ
http://ex13.2ch.net/test/read.cgi/gline/1140962074/