死ぬ程洒落にならない話を集めてみない? PART5!

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その家は、廃墟でした。
玄関の扉も窓ガラスも破れ放題で、小さな庭は雑草で埋め尽くされています。
物干し竿をかける鉄の柱もボロボロに錆び、壊れて開け放たれた玄関から
中を覗くと、朽ちた畳には厚く埃がかぶっています。あきらかに、もう何年も
人が住んだ形跡がないのです。

そんなはずは無い。確かに彼女の家はここだし、つい数日前にも遊びに来た
はず。幼い僕は、事態を飲み込めずただぼんやりと、その廃墟の周りをうろ
つき回っていました。

僕は、破れた玄関から中に入ってみる事にしました。「おじゃまします」と小声
でつぶやいて、そっと上がりこみました。
小さな家なので、ふすまで仕切られた部屋が二つと、小さな台所があるだけ
です。ぼろぼろに朽ちた家は、それでも、あの子と遊んだ記憶通りの作りを
していました。家具の類は一切消えていましたが、柱の位置などはそのまま。

柱の1つに、油性マジックの書き込みがありました。背丈を計ったらしい短い
横線、その横に、ひらがなで彼女の名前が記してありました。