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代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX :
【第五十一話】 成 ◆0ute.wyqdY 様 『上の階の住人』
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友人は築十何年という古い木造アパートの一階に住んでいた
そんな彼女が引越しを決めた顛末のお話
ある日のこと
彼女はふとのどが渇き冷蔵庫を覗いた
あいにく飲み物の類は切らしており、仕方なくコンビニにでも行こうかと外へ出る
少し歩いてから、何気なくアパートを見上げた彼女は、ぞっとした
彼女の住む真上の階、真っ暗な部屋の中から、こちらを見る人影があったのだ
その影は彼女が見ているのに気付いたように、すっと姿を消した
それからもたびたび彼女はその影を見た
決まって夜外出するとき、見上げた窓の向こうに
だらしなく伸びた長髪と痩せた身体
男なのか女なのか、伸びすぎた髪に隠れて顔立ちまではわからなかった
いい加減不気味に思えてきた頃、たまたま彼女は外で大家さんとばったり会った
ちょうどいいからと、彼女は真上の部屋について聞いてみることにした
「私の上の部屋の人って、どんな人なんですか?……電気がついているところ、あまり見かけないんですけど」
尋ねると、大家さんは不思議そうに首を傾げる
「あなたが住み始める前からずっと、その部屋は空き家のはずだけど……?」
ぞわぞわとした悪寒が背を上ってきた
彼女は不審げな大家さんを無理やりに引っ張って、その部屋に入ってみることにした
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代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX :2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:hqzLBEKk0
(2/2)
大家さんがかちゃり、と鍵をひねる
中からどたどた、と足音がして、顔を見合わせた
慌てて扉を開けると、締め切っていたはずの部屋からふわりと風が吹いた
家具もない、がらんとした部屋
ベランダのガラス戸が開いている
その手前の畳の上、不釣合いな機械が並んでいた
音響機器のように見えるもの
小さな何台ものモニター
それを見て、彼女は息が止まるような気がした
モニターに写っていたのは、どれも見覚えのある景色
彼女の部屋の様子だったからだ
モニターの前に落ちたヘッドホンに、長い髪が絡みついていた
ヘッドホンが繋がった音響機器らしきものから伸びるコードは畳の下に続いていて、
床下に向けた大きなマイクと繋がっていた
耳を寄せると、知らない声が言った
「ずっと、見てたよ」
真ん中のモニターに、こちらを見る影
にやりとわらった、長髪でやせぎすの男の姿があった
【了】