死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?314

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571ももか
『水煙』 


咲蘭(さら)は自分の部屋に戻ると、後ろ手に音高く扉を閉じ、そこにもたれるようにして深い溜息をついた。
ついさっき見たものを思い出し咲蘭の身体が震えた。

あれは何だったのだろうか……?

足が自分を支えることができない。
力なく首を垂れ、ずるずるとその場に座りこんでしまった。

年かさの女だった。灰色のコート着て禍々しいほど昏い笑み浮かべていた……。

――それは仕事の帰り道。
T駅の西側にある公園の中を咲蘭は雨に打たれながら走っていた。
薄暗がりにアスファルトを打つ雨音が響く。
ずっしりと濡れた薄闇、遠くて入り混じるくぐもった雷鳴と、鋭利な雨音。
公園の中は雨に降りこめられた木々のせいで暗い。
光源は小さな外灯だけ。
その小さい明かりを、立ちはだかった女の影が大きく切りとっていた。
雨足が強さを増し木々の間を縫い吹き込んだ雨が叩き、真っ白な飛沫が黒々とした輪郭を霞ませている。

ふいに自分の六感が脳裏から微かに感じ鋭敏に引き延ばされると、奇妙な感覚にぞくと背筋が冷えた。
自然の摂理に反したものが急に人の形をとった、そんなふうに考えてしまったからだ。