>>65 刃を下に向けた掘り具を左手に、男は建物内への一歩を踏み出した。
http://www.c-nexco.co.jp/sapa/search/detail/1010aa018.html まだ昼間だから明かりに頼らずとも屋内を見ることができる。
さっきまで外からガラス越しに見ていたフードコートへと向かう。
ラーメン屋、そば屋、ドーナツショップ、コンビニ、洋食屋、海鮮和食店、パスタ専門店、牛丼屋。
以前にはいつでも食べることができた牛丼。
社会が崩壊した今となっては余計に恋しく思え、無性に食べたくなって飛び込む。
血糊は至る所に有るが、動くものは皆無。
獲り放題だ。 俺が独り占めできる!
冷蔵庫の電源は切れていたが、保管してあった食料はまだ傷んでいないかった。
持ち帰りパックの牛丼を2人前作って掻き込みながら、発見したオレンジジュースをガブ飲みする。
旨い! この先2度と食べられないかも知れない、大手チェーン店の牛丼を堪能しながら思う。
何たる至福であろうか。 でも、この味とも時機にお別れだな・・・。
満腹になって気が落ち着き、他の店も探ってみることにした。
その時、離れた店の奥で調理器具のようなものが落ちる音が、静かな屋内に響き渡る。
男は音に驚いたが素早く武器を手に取り、音の方に構えながら奥へと進み厨房に行き着く。
厨房は一見すると無人に見えるが、業務用冷蔵庫に反射して人影が映り込んでいではないか。
ゾンビが隠れている。
男はそばに有った調理器具を握ると、業務用冷蔵庫の手前に落ちるように放り投げた。
「キャァッ」 女の声が小さく聞こえ、ガサゴソと人が動く物音がする。
「誰だ! 出て来い!!」
・・・。
「大声を出してごめん。 何もしないから、出て来てくれないか。 人間なんだろう?」
しゃがんで隠れていた頭が、ユラリと動いて立ち上がる。
顔の血色と眼光から判断する限りでは、少なくともゾンビではない。