>>232 堺はバスのバンドルを握りながら、海老名サービスエリアの建物に入ってきた最後のゾンビを思い出していた。
あれは警官ゾンビとの戦いで取り逃がした最後の1体。
ゾンビは着替えたりしないから、返り血がドス黒く変色した白衣のままで、再度の襲撃に現れたのだ。
白衣を着ていることから、生前は医療関係や研究者である可能性が高い。
そして、それが群れを操っていたとなると、生前の知能がリーダーの役目を決定付ける要素なのだろうか。
より知能の高い固体が指揮した方が、群れでの狩が成功する確率は高まる。
これが猿であれば、最も戦闘力の高い固体がリーダーになるところだが、
元が人間であるゾンビの場合は、群れ行動に効率が重視されても不自然ではない。
何故なら動物と違ってゾンビに痛覚は無く、しかも既に死亡しているのだから恐怖というものが存在しないだろう。
戦いから逃げたとしてもそれは恐怖からではなく、生存していた頃の記憶と共に自己保存の本能が働いたにすぎない。
そもそも、恐怖を感じることのできる思考能力があるなら、武器を持っている相手に素手のままで挑んだりするとは思えない。
だから、肉体的な強さや戦闘力が意味を持たなくなってしまう。
有り得るかは分からないが、ゾンビ同士が戦えば、一方が相手を圧倒する展開にはならないだろう。
感情が無く、痛覚も無い物体が争い合うならば、双方が動けなくなるまで互いを破壊し続けるに違いない。
しかし、現実には今まで1度たりとてゾンビ同士の争いに出くわしたことはなく、それがゾンビ間の暗黙の了解であれば、
争いによる決着以外の要素でリーダーが決められるというのも、逆に合理的すぎて人間臭くすらある。
あの白衣ゾンビが群れを率い、道路パトロールカーをも引っ繰り返させたと見るべきだ。
怪力で不死の存在が連帯行動するなど、考えたくも無い事態だが・・・。