ガチでゾンビが溢れたら皆どうするよ 29日目

このエントリーをはてなブックマークに追加
232 ◆JwKmRx0RHU
>>231
サービスエリアへの進入路から出ることができ、バスはいよいよ前進を始める。
「見て! みんな見て!」 右窓側に座っていた女子が声を上げ、何事かと他の生徒たちも右窓の景色を覗き、
「あぁ! 先生だッ」
「ダルマ!」「先生ッ」と声を張り上げる。
原から平泉教師の人としての最も尊い行いを聞かされ、堺も彼のことを知っている。
「あの、ちょっとだけお別れの時間をくれますか」 バスを進めようとする堺を原が制す。
この車体なら、多少のゾンビが立ちふさがっても押し倒して突破できるだろう。 了承しよう。
「えぇ」
生徒たちはバスの窓を開けて、平泉のゾンビに手を振る。
3分ほど経ってから原に目で問うと、原も頷きで返事を返したので、ゆっくりとバスを進めることにした。
「先生、さようならーーーっ」
「先生、ありがとうーーー!」
「先生ーーーっ」
平泉のゾンビは生徒たちに襲い掛かってなど来なかった。
ただ、無表情にバスの方を見ながら立っているだけだ。
女生徒たちが先生との別れに、共に連れて帰れない悔しさにすすり泣く声が聞こえて来る。
「(平泉さん。 俺は貴方のように捨て身にはなれそうにありません。 でも、できる限りのことはしてみるつもりです)」
そう心で呟きながらバックミラーに映る平泉を見た時、彼が堺に笑いかけたように見え、
いや、そんな筈はないのに、でも、もしかしたらと境は思いたかった。

バスは海老名サービスエリアを後にし、昇り始めた陽の光に照らされた高速道路を南西へと下っていく。